k A cre ative cit y 京都:クリエイティブ都市 y o t o Leveraging creativity inclusive urban transformation 都市の競争力と 包摂的な都市変容のための 創造性の活用 © 2021 International Bank for Reconstruction and Development / The World Bank 本部所在地 : 1818 H Street NW  Washington, DC 20433  電話 :(1)202-473-1000  ウェブサイト: www.worldbank.org  本書の無断複写 ・転載を禁じます。      本書 (原文英語 :”Kyoto: A Creative City”)は、外部の協力をいただき世界銀行の職員が作成したも のです。本書で表明される調査結果、解釈、結論は、必ずしも世界銀行、理事会、又は加盟国政府 の見解を反映するものではありません。    世界銀行は、本書に示すデータの正確性に関して一切責任を負いません。本書中の地図に示されてい る国境、色、名称などは、いかなる地域の法的地位に対する世界銀行の意見や、こ うした国境線への 支持あるいは承認を示すものではありません。 権利と許諾  本書に含まれる資料は著作権の対象となっています。世界銀行は知識の普及を奨励しているため、非 営利目的の場合に限り、本書の全部又は一部について複製することが出来ます。複製を行う場合は、 出所を明記して ください。  副次権を含め、権利およびライセンスに関するお問い合わせは下記にお送り ください。  World Bank Publications, The World Bank Group, 1818 H Street NW, Washington, DC 20433, USA; fax: 202-522-2625; e-mail: pubrights@worldbank.org.  東京開発ラーニングセンター(TDLC) について  東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、2004 年に日本政府とのパートナーシッ プにより設立され た信託基金プログラムで、世界銀行 都市・防災・強靭性・土地グローバルプラクティ ス(GPURL) の下 で運営されています。TDLC は東京を拠点とし、日本と世界の都市開発分野の知見、見識、専門知 識の収集・発信の拠点 として、世界銀行が途上国で取り組む都市開発事業の成果の向 (ナレッジハブ) 上に貢献しています。TDLC は、都市開発実務者向け対話型研修(TDD) 、融資事業向け技術協力、 都市の知見創出と発信、都市連携プログラム(CPP)の四つのコア事業を中心に活動を展開していま す。詳細は、ウェブサイト(https://www.worldbank.org/ja/programs/tokyo-development- をご覧ください。 learning-center) クレジット (33 頁) 図 3.1 のアイコン :PhÐm Thanh LÐc(The Noun Project) 写真: Ricardo Garrido (96 頁(FabCafe) および 120 頁(Box&Needle):Christopher Jue を除く) 装丁・デザイン・インフォグラフィック:Voilà (chezvoila.com) 翻訳版デザイン :木村幸央 都市の競争力と 包摂的な都市変容のための 創造性の活用 KYOTO a creative city 京都:クリエイティブ都市 ビクター ・ムラス 三木 はる香 ビブ・ジェイン 俵 渉子 葛野 美千子 ジャミール ・ワイン 目次 略語 VII 背景と免責事項 IX エグゼクティブ・サマリー X 第1章 都市開発におけるクリエイティブ都市の役割 14 クリエイティブ都市が与える影響 20 第2章 京都:クリエイティブ都市 22 京都においてクリエイティブ産業がもたらす影響 27 第3章 京都のクリエイティブ・コミュニティとネイバーフッド 30 クリエイティブ・ネイバーフッドの誕生:京都駅周辺エリア 35 クリエイティブ・ネイバーフッドとしての京都駅東部エリアの成長と発展 42 京都駅西部エリアのクリエイティブ・ネイバーフッドへの発展の可能性 50 第4章 京都駅周辺地域の変容にクリエイティブ・スペースが果たした役割 58 クリエイティブ・スペースが京都駅東部・西部エリアにおける 62 クリエイティブ・コミュニティの進化に対して及ぼした影響 クリエイティブ・ネイバーフッドの創造にクリエイティブ・スペースが及ぼす影響 66 第5章 実務者に向けた示唆 76 クリエイティブ・コミュニティやネイバーフッドの変容に寄与する要素 80 京都の事例から学ぶクリエイティブ都市の発展における主な知見 84 付録 語彙集 178 インタビューとプレゼンテーション 180 関連書目 182 参考文献 185 巻末脚注 187 カタログ 京都駅東部エリア 94 158 京都駅西部エリア FabCafe Kyoto 96 160 Kyoto Makers Garage あじき路地 102 166 河岸ホテル サウナの梅湯 108 172 バーベキューコート 339 & Madogiwa cafe 339 UNKNOWN Kyoto 114 Box & Needle 120 Crafthouse Kyoto 124 ギャラリーメイン & Lumen Gallery 128 五條製作所 132 Kaikado Café ・開化堂本店 136 京都ビアラボ 142 Le Wagon コーディングブートキャンプ 146 Walden Woods Kyoto 152 図 1.1 都市、文化、創造性のための枠組み 2.1 数字で見る京都 3.1 都の歴史的地域とクリエイティブ・ネイバーフッド 3.2 京都駅周辺のクリエイティブ・スペースと関連する公共エリア 3.3 京都駅周辺の戦略的地区と京都市の政策 3.4 クリエイティブ・スペースの年表 3.5 京都駅東部エリア、京都市内中心部商業地、京都市平均の 不動産価格推移 3.6 京都駅西部エリア、京都市内中心部商業地、京都市平均の 不動産価格推移 4.1 京都駅東部エリアのコミュニティ創出にクリエイティブ・スペー スが及ぼした影響 4.2 西部エリアにおけるクリエイティブ・スペースのコミュニティ創 造と交流 ボックス 3.1 ニューヨーク市のダンボ地区:クリエイティブ人材や起業家に よる都市変容事例 3.2 サンタ・カタリーナ市場再開発:バルセロナの地域変容のカ タライザー 5.1 京都の変容における京都市の役割 京都:クリエイティブ都市 VI VII 表 3.1 クリエイティブ・スペースの役割 3.2 クリエイティブ・ネイバーフッドおよび クリエイティブ・コミュニティの支援に関する京都市の政策 3.3 京都駅東部エリアのクリエイティブ・ネイバーフッドへの 変容において影響を与えた領域 4.1 クリエイティブ・スペースのインパクト区分 4.2 京都のクリエイティブ・コミュニティの主なプレーヤー 5.1 京都におけるクリエイティブ・コミュニティの発展や 都市変容をもたらした要素 5.2 都市再生、クリエイティブ・コミュニティ、クリエイティブ・ スペースの誕生に関する主な政策、出来事の年表 略語 ASTEM 公益財団法人京都高度技術研究所 3D 3次元 BBQ 339 バーベキューコート 339 CCNJ 創造都市ネットワーク日本 DUMBO Down Under the Manhattan Bridge Overpass: ニューヨーク市ダンボ地区 GDP 国内総生産 km 2 平方キロメートル KMG Kyoto Makers Garage KRP 京都リサーチパーク TDD Technical Deep Dive (都市開発実務者向け対話型研修) TDLC 東京開発ラーニングセンター UNESCO ユネスコ(国際連合教育科学文化機関) 本書の執筆者と謝辞 この事例研究は、 ビクター・ムラス (上級都市専門官)、三木はる香(業務担当官)、 ビブ・ジェイン(都市コンサルタント)、俵渉子(知識管理官)、葛野美千子(都市 コンサルタント)と、ジャミール・ワイン が共同で執 (民間セクターコンサルタント) 筆しました。 本書は京都市とステークホルダーの他、都市開発実務者向け対話型研修(TDD) に参加した10都市の代表団の貢献により、充実したものとなりました。京都市 の鈴木章一郎副市長、京都市観光政策監 糟谷範子氏、京都市観光産業局 観光 MICE 推進室課長薮田哲司氏と杉林真吾氏、ならびに TDD にご参加いただ き、本書執筆にご協力いただきました京都市役所総務課、文化庁移転推進室、 プロジェク ト推進室、産業企画室、地域企業イ ノベーション推進室、観光 MICE 推進室、まち再生 ・創造推進室の皆さまにお礼申し上げます。 アート フロントギャラリー代表でアートディレクターの北川フラム氏と同志社大学 の佐々木雅幸教授にも、考察を進める上での先進的なご示唆をいただいたことに 感謝します。世界銀行の宮崎成人 (駐日特別代表) 、マイトレイ ・ダス (プラクティ ス・マネージャー) 、アーメド・エイワイ ダ(文化遺産と持続可能な観光 グローバ ル・コーディネーター) 、平井智子 (上級対外関係担当官) 、大森功一 (上級対外 関係担当官) 、アヤ・マフジュー ブ(上級都市開発専門官) 、ディミ トリ・シヴァエフ (上級民間セクター専門官) 、トニ・エリアス(上級民間セクター専門官) ら、世 界銀行グルー プ関係者からの査読とインプットにも感謝します。さらに、国際連 合教育科学文化機関 (UNESCO)のドリーン・デュボア氏(文化局事務部チー フ)、 吉田礼子氏 (プログラム・スペシャリスト) からの査読とご協力にも深く感謝申し上 げます。和訳は通訳・翻訳家の佐藤木綿子氏が行いました。 (部署・肩書きはすべ て 2020 年 1 月時点のものです。 ) 京都にある以下のクリエイティ ブな組織・施設に知識共有やご支援・ご協力を頂 きましたことに感謝申し上げます。あじき路地、Box & Needle、Crafthouse Kyoto、FabCafe Kyoto、ギャラリーメイン &Lumen Gallery、五條製作所、 株 式 会 社めい、 株 式 会 社ビアラボ、Kyoto Makers Garage、Le Wagon コーディングブートキャンプ、株式会社三三九、サウナの梅湯、UNKNOWN Kyoto、Walden Woods Kyoto。 京都:クリエイティブ都市 日本国政府の寛大なご支援を賜り、この事例研究を完成させることができました ことを感謝いたします。 VIII IX 背景と免責事項 本書は、2020 年1月に世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)が UNESCOと京都市とのパートナーシッ プのもと開催した「クリエイティブ都市 京 都の事例に関する都市開発実務者向け対話型研修 (TDD)」の成果をまとめたも のである。TDD では、クリエイティブ都市の形成に関する枠組みや、クリエイティ ブ産業が都市の空間、経済、社会の発展に及ぼす影響について焦点をあてた。 TDD では京都の事例を検証しながら、クリエイティ ブ地域を構成する様々な要素 とそれらを構築する方法について紹介した。 本書では京都の事例を用いて、都市計画者や地域の民間企業がどのようにして共 にクリエイティブ・コミュニティを構築できるかを示している。またこれは、クリエ イティブ都市をいかに活用して包摂的な経済発展をもたらし、都市空間を活性化 させ経済・都市・社会の開発をもたらすことができるかという重要な議論をもとに 展開している。本書で提示している知見は文献や実務者に対するインタビューを 通じて導き出しており、特にクリエイティブ・クラスターや空間変容に着目したもの である。さらに、本書では社会的包摂もテーマの一つとして議論しているが、 デー タの制約上、さほど深堀りはしていない。また、対象となる地域の社会・経済的 歴史や背景についての詳しい分析はこの事例研究の対象範囲ではない。 本書は、近刊予定の世界銀行・UNESCO クリエイティ ブ都市についての方針書 「都市、文化と創造性:持続可能な都市開発と包摂的な成長のための文化と創 造性の活用」にも貢献している。さらに、本書は TDD で得られた重要な知見を広 め、クリエイティブ都市に焦点をあてた世界銀行の今後の取り組みの形成に寄与 するだろう。 エグゼクティブ・サマリー 本書は、クリエイティブ都市の概念を効果的に実現すること に関心のある政策立案者や都市実務家のために、実践的な 学習と重要な示唆を提供するものである。京都の事例を通 じて、クリエイティブ・コミュニティと政策的な行動が、特 定のエリアだけでなく、より広域にわたる都市全体の都市変 容に向けて、どのように活用できるかを分析した。 クリエイティブ都市 2030 年までに世界の人口の約 60%が都市部に住むと予想されている。急速な 都市化によっ て、新たな成長と繁栄の機会がもたらされる一方、開発の課題がさ らに増えると見られる。クリエイティ ブ産業やクリエイティブ資産で都市空間を形 成することは、イ ノベーション、効率性、居住性や包摂性を促進し維持するため に必要な社会の構築や都市計画の新たなアプローチを取る上で役立つだろう。ク リエイティ ブ都市を効果的に活用することで 3 つの中核的な領域に貢献できる。 ●地域経済の活性化 : 今日、クリエイティブ経済は 4.3 兆米ドル相当の規模を誇り、世界経済の 6.1% を占める。クリエイティブな活動がさらにデジタル化 ・技術集約化され、無形経 済の成長と雇用創出に寄与する中、クリエイティ ブ経済が世界経済に占める比 率はさらに高まるだろう。 ●都市変容: クリエイティブ・コミュニティは、低・未利用となっている都市空間を変容させる 働きかけをすることができる。空きビルや遊休不動産を解体して新しく建物を 建てるのではなく、再利用することで、都市の社会構造を再生し、公共空間を 活性化しつつ、都市のイ メージや居住性、生産性を改善することができる。 ●社会的包摂: クリエイティブな表現は、文化の共有意識や文化的権利の尊重、表現の自由 京都:クリエイティブ都市 の意識を育むことで、若者・高齢者等を含む幅広い層の市民の社会的、市民 的なエンパワーメントを支援することができる。加えて、クリエイティブ産業は、 地域住民の経済的機会や学びの新たな機会を提供することもできる。 X XI なぜ、京都なのか 京都は、クリエイティ ブ都市の原型ともいえる複数の要素を持ち合わせている。 京都には UNESCO 世界遺産が数多く存在しており、京都の社会や経済は、文 化的伝統やクリエイティ ブ・コミュニティを育みつつ、グローバルな技術的トレ ンド も融合している。「京都市産業戦略ビジョン」 では、宗教、文化、大学などの地域 の創造的資産を活用し、これらの資産や制度が連携したクリエイティ ブな人口の 集積を図ることで、新たな価値を創造する必要性を強調している。2000 年代初 頭、デジタル経済の到来に伴っ て、京都市内のクリエイティブ産業やクリエイティ ブ人材にも多様性が出始めた。そして、世界的に都市型のテク ノロジー・エコシ ステムが沸き上がる中、2010 年には京都市でもデジタルビジネスが出現し始め た。京都のオフィ ス街や商業地に新しい著名なテク ノロジー系のスタート アップ企 業がオフィスを構え、コンパク トなスタートアップ・エコシステムが形成された。こ のデジタルなクリエイティ ブ人材の第一波の到来が、京都市内のテク ノロジー・セ クター以外のクリエイティ ブ・コミュニティ成長の礎を築いた。2015 年には、テク ノロジーや無形経済がセクター横断的に世界的に普及し、FAB ムーブメントが 出現する中、京都では、伝統的なクリエイティ ブ産業や京都市の活動と結びつい たクリエイティブ産業の起業やイ ノベーションの新たな波が起き始めていた。 クリエイティブ・コミュニティ形成の新たな波は、特に京都駅の東部エリアと西部 エリアという、京都駅周辺の地域に集中して見られる。京都駅東部エリアにはク リエイティブ人材とクリエイティ ブ産業の大きなコミュニティが確立され、都市再 生に目に見える形で影響を与えている。一方、京都駅西部エリアはまだ発展途上 で、東部エリアの成功の恩恵を享受しているほか、クリエイティ ブやテク ノロジー 系のスタート アップ・コミュニティが新しい産業にも広がっている恩恵を受けてい る。京都市は、条件整備やクリエイティ ブ資産の保全・保護にはじまり、戦略的 で的を絞った介入を通じて積極的に都市再生を促すなど、非常に重要な役割を 果たしてきた。京都市は当初、これらの地域をクリエイティ ブ・ネイバーフッ (創 ド 造的な地域コミュニティ) に変貌させるといった戦略や大規模な計画を立てていた わけではないが、市の全体的なビジョンに基づいて、各部局が有機的なコミュニ ティと内外で連携し、政策的な介入を通して都市再生やクリエイティ ブ・コミュニ ティを支援してきた結果、この連携が大きな目に見える成果につながった。また、 クリエイティブ・コミュニティの発展に伴い、京都市は京都駅周辺エリアのビジョ ンや計画にもクリエイティ ブ・コミュニティを取り入れるに至った。 京都駅エリアのクリエイティブ・ネイバーフッドへの変容 京都市中心部の商業地でスタート アップのエコシステムが成熟すると、今度はクリ エイティブで起業家精神に富んだ人々が京都駅東部エリアに流入し始めた。この エリアには、伝統的な京町家が軒を連ねるなど、歴史的で伝統的な街並みが広 がる。家賃も手ごろで京都駅を中心とする交通の要所にも近く、クリエイティ ブ 人材にとっては好条件だった。2000 年代初頭にはこのエリアにクリエイティ ブ・ スペース(創造的な空間や場所)がオー プンし始め、特に 2014 年以降はその存在 感を増していった。これらのクリエイティ ブ・スペースは、クリエイティ ブ・コミュニ ティの構築・成長・拡大に中核的な役割を果たしたと同時に、新しく、オー プンで 参加型の活動を通じて古い建物を再生し、地域を活性化した。京都駅東部エリ アにおける都市変容の分析をすることで、これらクリエイティブ・スペースが果たし た役割と影響について重要な知見を得ることができる。これらのプレイヤーは、カ タライザー(クリエイティブな人々や企業に影響を与え、地域のクリエイティ ブ経 済の触媒的な働きをする組織)、アンプリファイア(伝統的な芸術や文化を活用し て新しい無形のクリエイティブ資本を創り出す組織)、または、 (ク コントリビュータ リエイティブ資産に何かを付加し、経済、社会、文化的な価値を地域にもたらす 組織)としての役割を果たすことができる。これらの役割の組み合わせがクリエイ ティブ都市の都市変容に相乗効果をもたらす。 京都駅東部エリアにおけるクリエイティブ・コミュニティの影響は、既に具体的な 形で表れている。例えば、多くの歴史的建造物や民家を再利用することで、この エリアが有機的に改善された。また、伝統的な建築物や雰囲気と、新しく創造 的なスタイルが融合し、このエリアの街並みも多様化した。この影響は、京都市 内の他の地区との不動産価格の差としても表れている(第 3 章参照)。不動産価 格に影響を与える要因は多々あるが、市内中心部の商業地や京都駅東部エリア の不動産価格の推移から、これらの地域の経済活動が活発化したことで、より高 い経済価値を持つ活動や住人をこれらの地域に惹きつけたことがうかがえる。 西部エリアの現在の段階は、東部エリアにクリエイティ ブ人材が流入し始めた直 前の頃の状況と似ている。当時の東部エリアの家賃は、市内中心部の商業地の 家賃には手が出せなかった若手の起業家らにとって魅力だった。現在、若手のク リエイティブ人材が、西部エリアの手ごろな家賃や公共交通機関のアクセスの良 さ、そして東部エリアへの近さに惹かれて西部エリアに流入している。新しく、拡 大している技術への産業的なつながりや、クリエイティ ブな起業家活動(テク ノロ ジー製造やフードテック)、幅広い製造業やイ ノベーションのエコシステムへの接 京都:クリエイティブ都市 点をもつ、この地域で活発なカタライザー、Kyoto Makers Garage の存在や、 革新的で創造的な芸術家コミュニティを構築する、河岸ホテルの存在が、このエ リアの変容の土壌を整えた。さらに、京都市は産業施設の再生プロジェク トを展 開しており、より住みやすい地域づく りやサービス活動の環境を整備している。京 都市は、京都駅東部エリアでの成果を踏まえて、これらの再生プロジェクトの枠 を越えてクリエイティブ・コミュニティを積極的に支援している。例えば京都市は、 伝統的な製造業の企業を新しい技術 (デジタルファブリケーション) やクリエイティ XII XIII ブ・コミュニティとつなげる取り組みを行っている Kyoto Makers Garage を支援 している。現段階では、西部エリアがどのような進化や変容を遂げていくかは未 知数である。東部エリアの事例と同様に様々な要因に左右されることになるだろ う。 都市実務者のための示唆 京都は、有機的プロセスと規範的な政策の両方を通じてクリエイティ ブ・コミュニ ティやクリエイティブ・ネイバーフッドを作り出してきた。この経験から、都市開発 戦略策定に役立つ教訓を得ることができる。 ●地域経済の活性化 : 豊かな文化遺産を有する都市にとって重要な教訓となるのが、創造的で文化 的な遺産を保存 ・育成することである。京都市ではクリエイティ ブ都市の構築に あたり、トップダウンとボトムアッ プの両方のアプローチが見られた。行政が環 境を整備し、クリエイティ ブ・スペースがクリエイティブ・コミュニティの発展を加 速させた。これらのアプローチから、 クリエイティブ都市の形成にあたって、様々 な要素が重要な役割を果たすことが分かる。 ●都市変容: 京都の行政は、市内の地域の繁栄やクリエイティブ人材誘致のために、様々な 役割を担っている。また、保護的役割からイネーブラー(目的達成を可能にす る人や組織)に役割が変わった。自治体には、景観保護や文化財保護、地域 の住みやすさの向上、大規模な都市再生プロジェクトの適切な実施、変革プ ロセスへの住民取り込み、カタライザーへの戦略的支援など様々な役割が求め られている。 ●社会的包摂 : トップダウン型の変容プロセスに住民を積極的に関与させることで、京都市は 住民のニーズに応え、付加価値を提供している。京都市はさらに、 クリエイティ ブ・エリアと関連する教育機関との間の相乗効果を作り出しており、その影響 は、特に都市変容やクリエイティブ人材の創出において、学術の分野を越えて 実感されている。また、クリエイティブ・コミュニティの成長においては、クリエ イティブ都市内の様々な業界や業種のステークホルダーが交流できる業種横断 的なパートナーシップが鍵になるといえる。 1 都市開発における クリエイティブ都市の 役割 16 京都:クリエイティブ都市 CHAPTER 第1章 17 都市開発における クリエイティブ都市の役割 2030 年までに世界人口の約 60 %が都市部に住むと予想されている(国連  2018 年)。急速な都市化によっ て、成長と繁栄のための新たな機会がもたらされ る一方、開発上の課題がさらに増えると見られる。とりわけ、都市部の人口増加 に伴い、貧困、不平等、環境悪化、社会的・空間的な分断等の問題がさらに深 刻化する恐れがある。そのため、新たなアプローチのもと、イ ノベーション、効 率性、居住性、包摂性を刺激、また維持し、社会の構築や都市計画を進めてい く必要がある。クリエイティ ブ産業、またクリエイティ ブ資産によって都市空間を 形成することは、これらを達成するために主体的な役割を果たす(Giovinazzo, 。 クリエイティブ産業に携わる組織や個人の集 Mercedes, Williams 2019) 合体であるクリエイティ ブ・コミュニティを活性化、かつ活用し、経済成長と都 市の競争力向上を促進するために、都市行政は、起業家、芸術家、その他ク リエイティ ブ職の人々 と共に都市におけるクリエイティ ブ拠点の設計・構築を支援 し、都市開発の新たなアプローチを開拓し、体系化している(Garcia, Klinger, Stathoulopoulos 2018)。 適切な環境が整っていれば、この新たなアプローチによって、将来的に地域経済 や社会の成長エンジンになり得るクリエイティ ブな拠点を都市の中に構築するこ とができる。それが無形経済へのアクセスの機会をつく り、都市空間の変化とも 連動することで、都市の競争力の新たな源泉となるだろう(van der Pol 2007; Haskel, Westlake 2018)。クリエイティブ都市のアプローチは、クリエイティブ・ コミュニティやクリエイティ ブ産業を活用して、都市部に経済の競争やダイナミズ ムを生み出す。そうすることで、都市の行政官は現存する公有地や市場、図書 館等の公共施設、公園などのオー プンスペース等の都市資産を有効活用すること ができる (Florida 2012) 。そしてこれらの開発がさらに民間主導の再生の契機と なり、近隣レベルの空間の変容へとつながる。2005 年に採択され、世界の殆 どの国が批准した UNESCO の文化多様性条約は、芸術家や文化・芸術関係者 らが作り出す無形で近代的な文化的表現が、文化と経済両面において重要性と 関連性があると認めている。実際、一人当たりGDP が2万米ドル以上の都市は、 より価値の高いクリエイティ ブサービスに移行すべく、協調して行動を取っ てきた。 この影響を最大化するために、政府関係者、行政官、民間や公共のステークホ ルダーは、クリエイティ ブ都市の戦略を導いていくにあたり、必要なツールや枠組 みを活用していく必要がある。 都市、文化、創造性に関する枠組みは、近刊予定の世界銀行 ・UNESCOクリエ イティブ都市についての方針書「都市、文化と創造性:持続可能な都市開発と包 摂的な成長のための文化と創造性の活用」 にまとめられている。また、そこにクリ エイティブ都市を構成する各プレーヤーや特徴も簡潔に示されている(図 1.1)。 大まかに述べると、クリエイティブ資産、イネーブラー(目的達成を可能にする 人や組織)と特定のインパクトの結果がクリエイティブ都市を構成する。この枠組 みを参照することで、政策立案者やその他のステークホルダーは、クリエイティ ブ都市を成長させるために必要な様々な構成要素を概念化することができるだろ う。 本書では最初にこの枠組みの第二の領域、すなわちイネーブラーとして、京都の クリエイティブ・コミュニティを形成する様々なプレイヤーに着目する。当京都の 研究では、クリエイティブ・コミュニティに貢献している無数の個人や組織につき、 その全体像について概観しているとともに、個人や組織がどのように互いに関連 し合い相乗効果を発揮しているかを検証している。また、京都のクリエイティブ 産業が様々な成果をもたらしていることは間違いない一方、本書の主眼である京 都駅周辺地域の事例についてはまだ日が浅く、測定可能な確定的な成果を示す のは難しい。したがって、このプロセスに関与している様々なステークホルダーを 検証していくことこそが現段階までの進捗や将来的なポテンシャルを最も示唆す るものとなると考える。 京都:クリエイティブ都市 18 第1章 19 結果 1 空間的な 便益 イネーブラー 1 都市インフラと 居住性 イネーブラー 2 イネーブラー 6 スキルと デジタル環境 イノベーション 資産と資源 芸術家、 クリエイティブ資本、 無形文化遺産 イネーブラー 3 イネーブラー 5 社会ネットワークと 独自性 サポートインフラ 結果 3 結果 2 イネーブラー 4 社会的な 経済的な 包摂的機関、 便益 規制、 便益 パートナーシップ 註: イネーブラー (Enabler) とは、成功要因・目的達成を可能にする人や組織のことを指す。 図 1.1 都市、文化、創造性のための枠組み 出典:世界銀行と UNESCO クリエイティブ都市が 創造性は効果的に活用されれば、経済的・社会的発展のためのツールや戦略に なり得る。実際、オレ ンジ経済に関する文献は増え続けており、オレ ンジ経済は 与える影響 「文化、芸術または伝統に起源をもつモノ 、サービス、コンテンツ活動の生産、 複製、促進、流通、商業化」であると定義されている。また、クリエイティ ブ産 業や文化産業がどのような影響を具体的に及ぼし得るか詳述している(世界銀行 2020)。特に、クリエイティブ都市は 3 つのインパクト分野に貢献できる。 1. 地域経済の活性化: 今日、クリエイティブ経済は 4.3 兆米ドルの規模(Lorente 2016; UNESCO、 世界経済フォーラム 2018)を誇り、世界経済の 6.1%を占める。クリエイティ ブな 活動がさらにデジタル化し、技術集約化され、無形経済の拡大に吸収される中、 クリエイティブ経済が世界経済に占める比率はさらに高まると予想されている。デ ジタル産業とクリエイティ ブ産業を区別することは重要ではあるが、両者の間に は相乗効果がある。より多く の事業やプロセスがデジタル化されれば、規模の拡 大や効率化の可能性が高まり、クリエイティ ブ産業にも必然的に影響を及ぼすこ とになる。同様に、クリエイティ ブ産業と文化産業はおよそ 3000 万人の雇用を 創出している(Ernst & Young 2015) 。クリエイティ [1] ブ経済は、若者の雇用に も重要である。ガーナ、パキスタン、パラグアイ、ペルー、ウガンダ等の国々で は、クリエイティ ブ産業と文化的産業で雇用されている人のうち少なく とも20% が若者である。クリエイティ ブ産業は観光産業と結びついていることも多く、両 者で熟練と非熟練職の雇用機会を創出している。観光産業は世界で 10 人に一人 の雇用を創出し、世界の GDP の約 10%を占める。また、文化遺産は観光産業 の成長や雇用創出にも寄与している(Giovinazzo, Williams 2019; WTTC と Oxford Economics 2020)。文化的活動やクリエイティ ブ活動は、社会の周 縁部に追いやられた人々が収入を得る機会も提供している。例えば、自営業の 女性の 34%は文化産業で働いており、働いている若者の 20%が文化・クリエイ ティブ産業に従事している (UNESCO 2017)。一方、クリエイティ ブ産業は、特 に観光業と結びついている場合、経済危機や最近のパンデミックに見られるよう な危機が起きた際に大きな影響を受ける可能性がある。どの程度の影響を受ける かは、クリエイティ ブ産業の中でも差が出る。例えばビデオゲーム業界のように、 クリエイティ ブ産業の中でも無形経済に統合されているものは影響を受けにく く、 成長すらしている。しかし、クリエイティ ブ産業は危機が起きた後に早く回復して きた。例えば、2008-09 年の金融危機後にはクリエイティ ブ産業は素早く回復 し、2002 年から 2015 年の成長率は約 7%だった。 (Manchin, Stumpo 2014; UNCTAD 2018) 。クリエイティ ブ産業がデジタルや無形経済のビジネスモデル に移行する中、回復効果が拡大する可能性もある。 京都:クリエイティブ都市 20 第1章 21 2. 都市変容: クリエイティ ブ ・コミュニティは、放置されたり劣化している都市空間を変容させる 一助となることができる (Ernst & Young 2015)。例えば、空きビルや活用され ていない土地を放棄するのではなく、 再利用することで、 都市のイ メージや居住性、 生産性を改善することができる(OECD 2015) 。さらに、クリエイティ ブな活動 は地域の社会構造や公共エリアの活性化、地域コミュニティの一体感を醸成し、 活気ある地域づく りにつながる。従って、都市再生策やその取り組みは都心部の 衰退している地区や空き地を対象とすることが多い (Ernst & Young 2015)。そ うすることで、修復された建物やほかの不動産が新たな経済活動を生み、さらに クリエイティ ブな活動を刺激することができる(UNESCO 2012) 。このように不 動産を活性化させるという手法を用いることで、ジェントリフ ィケーション (下層住 宅地の高級化) などの現象による社会的包摂の阻害を防止することもできる。 3. 社会的包摂: クリエイティ ブ・コミュニティは、自らが活動する地域の社会構造の再建や、教育 水準の低い人々の再教育に寄与している。特に、UNESCO がオレンジセクター の実績を中低所得国 35 ヵ国で検証したところ、女性の方が男性よりも多く文化・ クリエイティ ブ産業に従事していることが明らかになった。また、その他の周縁化 されたグルー プも多く従事していることが分かった(Hadisi, Snowball 2019)。  加えて、クリエイティ ブな表現は、文化の共有意識や文化的権利の尊重、表現 の自由の意識を育むことで、周縁化されたグルー プの社会的、市民的、政治的 なエンパワーメントを支援することができる (UNESCO 2018)。クリエイティ ブ都 市は、帰属意識や社会的一体性を奨励する有形・無形の文化的習慣に根ざした 明確なアイデンティティを持っ ている(欧州評議会 1997)。例えば、クリエイティ ブ産業は社会的弱者や周縁化されたグルー プに活力を与えることで、様々な市民 を引きこみ、そのプロセスで包摂性を育むことができる (UNESCO 2018) 。同様 に、同じテーマを持つ企業がクラスターに集積し、共通のアイデンティティや目的 を起業家の間で共有することで、この包摂性の感覚を企業レベルにまで拡大する ことができる。 2 京都: クリエイティブ都市 京都:クリエイティブ都市 24 CHAPTER 第2章 25 京都:クリエイティブ都市 京都は、典型的なクリエイティ ブ都市の要素を数多く持ち合わせている。京都に は UNESCO 世界遺産が多数存在しており、文化的伝統、クリエイティ ブ ・コミュ ニティ とグローバルな技術的動向を融合した社会と経済が、今日の民間セクター と労働市場を形成している。日本政府自体も創造性を国の政策に組み込んでいる (吉本 2003) 。例えば、経済産業省は、 「クールジャパン」 政策の下、日本文化 をグローバルに発信することを通じて、クリエイティ ブ産業の振興を図っ ている (日 本、経済産業省) 。加えて、文化庁は国内外のクリエイティブ都市同士が協力 し、交流するためのプラッ トフォームとして、2013 年に創造都市ネットワーク日本 (CCNJ)を立上げた。京都は CCNJ の活発なメンバーであるほか、2020 年か ら 2021 年にかけては京都市役所の職員が CCNJ の事務局を務めている。京都 は日本の創造文化の中心地であり、日本の文化の首都でもある (Lewis 2016)。 京都の産業政策もクリエイティ ブ都市のビジョンに沿ったものである。京都市の 産業開発政策である 「京都市産業戦略ビジョン (2016 年 -2020 年)」の中で、宗 教、伝統文化や景観、大学の知的学術資産等、京都のクリエイティ ブ資産を活 用し、これらの資産や機関を連携、集積させ、新たな価値を創造する必要性を 強調している (京都経済同友会 2018) 。  同様に、 「第3期京都市伝統産業活 性化推進計画 (2017 年〜 2026 年)」は伝統産業を守りつつも、同時に新たな技 術や革新的なプロセスを取り入れることで伝統産業を更新することに重点をおい ている。さらに、今後予定されている二つの事柄が京都のクリエイティ ブ産業とコ ミュニティをさらに強固なものにすると考えられる。一点目は、2021 年に予定さ れている文化庁の京都への全面移転である。そして二点目は 2020 年に予定され ていた東京オリンピック ・パラリンピック (新型コロナ感染症拡大の影響で 2021 年 に延期)を通じて、日本文化に対する海外からのアクセスがさらに深まり、その際 に京都が大きな役割を果たすことが期待されている点である。 図 1.1 数字で見る京都 人口と経済 面積: 人口: 828 km 2 約 150 万人 GDP: 労働人口: 6 兆 3000 億円 (2015 年) 746,742 人(2016 年) 観光客数: 観光客支出: 5,270 万人 / 年(2018 年) 1 兆 3080 億円 (2018 年) 主な産業: 製造業(電子機器、輸送機器、精密機械、繊維、化学、伝統産業)、不動産、 小売、卸売 創造性の歴史 794 年から1868 年まで日本の首都であり、天皇の居住地であった。 京都は数多くの戦禍や火災に見舞われてきたが、数多くの寺社仏閣や 歴史的建造物が現存している。 世界的に有名な 伝統芸術を擁し、それらが数多くの先進的な 技術や世界的に有名な企業の台頭を支える原動力となっている。 クリエイティブ産業 強固な製造技術・多数のニッチな企業が存在する。 京都のクリエイティブ産業は全民間企業の約 16%から18%を占める。 京都市で働く人のうち、 10%から12%がクリエイティブ産業で 雇用されている。クリエイティブ産業の企業は元々は伝統芸術、エンターテイ メント、文化的産業の企業で、地域経済のイノベーションや伝統と人を融合し ている。 京都:クリエイティブ都市 人気の観光地で、2018 年には観光収入は約 1 兆 3 千億円と、過去最高を 更新した。 京都はテクノロジー系の企業を誘致し、新たなベンチャー企業を 育成することで、大きな テクノロジー・クラスターに なることを目指している。 26 第2章 27 地域経済の活性化 : 京都において 京都の全民間企業のうち、約 16%から 18%をクリエイティブ産業が占めている。 また京都市で働く人のうち、10%から 12%がクリエイティブ産業で雇用されてい クリエイティブ産業が る 。 [2] これらの比率の全国平均は、民間企業に占めるクリエイティブ産業が 4.4%、 もたらす影響 雇用貢献で 3.2%であることを考えると、京都におけるクリエイティ ブ産業の比率 と雇用される人の数は共に全国的に見てもどの産業の貢献度よりも高い[3] 。京 都のクリエイティ ブ産業の企業は、元々は伝統芸術、エンターテイ メント、文化 的産業の企業で、地域経済のイ ノベーションや伝統と人を融合している。京都 にある企業の多くが伝統産業から世界的企業に成長していった(例えば、任天 堂、京セラ、オムロン等) 。京都市のクリエイティブ・コミュニティが大きくなるに つれ、多様なスキルを持った人々を惹きつけるようになり、その際に重要な役割 を果たしたのが学術機関だ。京都には、京都大学、立命館大学、同志社大学 のほか、複数の芸術系の大学等、日本屈指の大学がいく つもある。京都市の人 口のおよそ一割は学生で、その多くは海外からの留学生である[4] 。京都にある大 学の多くは京都市内のスタート アップ・コミュニティと強い結びつきがあり、これら は、日本で二番目の大きさを誇るスタート アップ拠点の関西[5] のエコシステムに組 み込まれている。京都市のスタート アップ企業は特に技術的イ ノベーションと歴史 的文化的な慣習を結び付けることで、京都の伝統工芸の歴史を守り、伝統産業 を近代的なクリエイティ ブ都市の柱へと進化させるという重要な役割を果たしてき (Lewis 2016) た 。 加えて、京都は有名な観光都市である。近年、京都を訪れる観光客数は増加の 一途を辿っており、2018 年には、京都の観光収入は約 1 兆 3 千億円 (123 億米ド ル)に達し過去最高を更新した (京都市役所産業観光局 2018) 。また、京都を 訪れる観光客数は 1995 年の 3,534 万人から 2018 年には 5,275 万人と、1500 万人以上増加した(京都市役所産業観光局 2018) 。 また、自治体が製造業分野とライフサイエンス分野のスタートアップ企業に対して 資金支援、営業支援、インキュベーションの支援を行っている。さらに、芸術家 やその他のクリエイティブ職の人々に対し、研修機会や展示会、作業スペース、 金融支援プログラムを提供している。 都市の変容 : 京都市も日本の他の多くの都市と同様、人口減少、人口の高齢化、空き家の 増加といった課題に直面している。また、京都の歴史と文化の象徴でもある京 町家[6]が減少していることが、伝統を守る上での主要課題の一つとなっている (Twaronite 2016)「京都市都市計画マスター 。 プラン」では「歴史や文化を継 承し創造的に活用する都市」というビジョンを掲げている(Eiweida, Okazawa 2018)。このマスター プランには、建物の高さやデザインなどに制限を設けて歴 史的な町並みや景観を保存、再生する取り組みが示されているほか、京町屋等 の歴史的文化的資産を創造的プロジェク トに活用するといった施策が盛り込まれ ている。京都の都市計画で顕著なのは、地域の自然環境と共生する都市の形成 と保存を行ない、それを通じて地域住民や観光客、企業を惹きつけ、地域の活 動を活性化させるということである (京都市 2012)。京都市のマスタープランには 3 つの重点分野がある。伝統的な寺社仏閣がある歴史的中心部の再生、盆地を 取り巻く山の緑の保全、そして都市部市街地の再生である(京都市 2012) 。京 都市は、都市計画システム、政策・法的枠組み、金融スキームの中で一連の都 市開発ツールを用いてこの 3 つの重点分野のそれぞれに最も相応しい政策介入を 行っている。さらに、近年では公共施設の再利用や新たな観光スポットづく りに 積極的に取り組んできた。例えば、世界的に有名な Ace Hotel が旧京都中央電 話局の建物を再利用して開業したほか、小学校の跡地が国際マンガミュージアム や高齢者や脆弱な人々のための福祉施設として活用されている。 京都:クリエイティブ都市 28 第2章 29 社会的包摂 : 東山アーティ スツ・プレースメント・サービス は (HAPS)「京都文化芸術都市創生 計画」 において、 (2007 年) 「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づく り」を実施 する組織として 2011 年に設立された非営利団体である。HAPS は京都在住の芸 術家たちの制作や発表の場、格安な住まいを提供しているほか、芸術機関等と のネッ トワーク形成の機会も提供している。2017 年に策定された 「第2期 京都文 化芸術都市創生計画」 の目的の一つに、文化や芸術に対する市民の理解を育む、 とある。そのため、京都市は市民のために芸術文化プロジェクトを立ち上げ、プ ロジェク トの過程で社会的包摂も推進した。さらに、 「まちづくり・お宝バンク」 とい う、市民と行政が協働して社会の課題を解決する市民参加型の取り組みがある。 2014 年からプロジェクトの提案を募り、2017 年までに集まった提案は 280 件に 上った。プロジェク トの多くは、カフェで高齢者が働けるようにする、芸術のイベ ントやワークショッ プを通じて地域を活性化する、空き家となっ ている建物を福祉 施設として活用する等、社会的包摂を文化や芸術と融合させるものだった。 創造性が開発や再生、包摂のためのツールとして活用されてきた例は京都の歴史 や近年の取り組みを見ても枚挙に暇がない。京都駅周辺の事例は、京都市のク リエイティブ・コミュニティが現在どのように有機的に形づく られているかを示す良 い例になっているほか、これらのコミュニティを成長させるために自治体と民間が いかに意図的にこの経験を模倣し、さらに広げていこ うとしているかを示している。 例えば、過去 20 年の様々な金融危機を経て、京都駅東部エリアにはクリエイティ ブ系の人材が流入し、クリエイティ ブ・コミュニティが有機的に発展した。京都市 はこの経験を京都駅西部エリアでも再現しようとしている。京都駅周辺における 事例は、クリエイティ ブ・コミュニティ構築における有機的・意図的アプローチ両 方について示唆を与えている。 3 京都の クリエイティブ・ コミュニティと ネイバーフッド 32 京都:クリエイティブ都市 CHAPTER 第3章 33 京都のクリエイティブ・ コミュニティとネイバーフッド 京都の伝統産業は、いまの京都市のクリエイティ ブ・コミュニティの礎となってい る。これらの産業は、 国内外からの観光客で賑わう寺社仏閣がある地域を中心に、 市内の至る所に点在している(図 3.1 参照)。1990 年代と 2000 年代初頭、デジ タル経済の到来と共に、京都市のクリエイティ ブ産業とクリエイティ ブ人材が多 様化し始めた 。京都市でもデジタル [7] ・ビジネスが登場し、2010 年には世界的に 都市型テクノロジー ・エコシステムが急発展していたことを受けて、京都のオフ ィス 街に複数の有力なテック系スタート アップ企業がオフィ スを構えた。この初期テッ ク系スタートアッ プ・エコシステムは、コワーキングモデル (例えば Impact Hub)[8] に基づいて、第一次世代のコミュニティ ・ (Mulas, Nedayvoda, Zaatari スペース 2017)を作り出した。これらはニューヨーク、ベルリンやロンドン等の主要な都市 における流れと同様である。 図 3.1 京都の歴史的地域と クリエイティブ・ネイバーフッド 京都御所 嵐山 エリア 東山 歴史的エリア と 中心商業地 祇園 歴史的エリア 西部 東部 エリア エリア 京都駅 南部エリア ボックス 3.1 (DUMBO) ニューヨーク市のダンボ 地区 クリエイティブ人材や起業家による都市変容事例 京都駅の都市変容は、2008 年から 2010 年の大不況 起業家らが交流してネッ トワークを広げるイベントが催 の後に世界的に見られた、テク ノロジー系の起業家や されている。また、多数のインキュベータ、 アクセラレー クリエイティブ人材の台頭で引き起こされた変容プロセ タやミートアップスペースがあり、常にイベントが開催 スと類似している。これらの都市変容で特筆すべき例と されている。このようなアメニティ とイベントの組み合わ して、ニューヨークの事例が挙げられる。ニューヨーク せで、他では真似できないような都会的な雰囲気を作 には元々テク ノロジー系のスタートアッ プがわずかしか り出し、クリエイティブ人材や起業家を惹きつけている。 なかったが、10 年足らずで全米 2 位のスタートアッ プ 「今日のイノベーターはコラボレーションができ、イン 拠点になった。 スピレーションが湧く ような環境でこそ成功できる。企 業は、人々が惹きつけられ、従業員がずっと働いて くれ 京都駅周辺地域はニューヨークのダンボ地区(マンハッ るような場所にオフィ スを構えたいと考えている。」 タン橋高架道路下)と似た特徴を持つ。ダンボ地区は 衰退していた地域にあり、伝統的な建築様式の建物が ダンボ地区は、都市景観と歴史的な個性や建造物を 並ぶ。また、交通の要所へのアクセスが良い。ダンボ 残しつつ変容することができた。この地区の多く の建物 地区は芸術家やテック系のスタートアッ プ企業が新た が、その歴史的な個性を残しながら新しい建築手法を に流入してきたことで都市変容を成し遂げた典型例で 用い、歴史的建造物の用途変更などをするアダプティ ある。京都駅周辺とダンボ地区では多く の面で相違点 ブ・ (適応型再利用) リユース で活用されている。ニュー はある(例えばダンボ地区は世界的な大都市にある) も ヨーク市は、2007 年にダンボ地区を歴史地区に指定 のの、ダンボ地区の事例は、クリエイティブ・コミュニティ した。 とテクノロジー系のコミュニティが、衰退した地域にど のように都市変容をもたらすかを示すのに役立つ。 ニューヨーク市にはクリエイティブ文化で知られる複 数の地区や産業があるが、ダンボ地区は複数の産業 19 世紀初頭、今日のダンボ地区があるエリアは製造業 や様々な職種の人々の集まる場所になり、それが周辺 が盛んな交通の拠点で、蒸気船がイースト ・リバーを盛 の地区の経済発展をもたらしたという点で特異である。 んに行き来していた。20 世紀中盤になると製造業が衰 このように、ダンボ地区の事例はクリエイティブ・コミュ 退し、多く の企業や労働者がこの地域から姿を消した。 ニティが特定の地域に集中して影響をもたらし、それ しかし、1970 年代初頭には、マンハッタンの不動産に がひいては都市レベルの発展に寄与するということを示 は高く て手が出せなかった芸術家らが川沿いの倉庫や している。言い換えるなら、クリエイティブ都市がもた 天井の高いロフトに魅了されてこの地区に集まり始め らす価値を理解することが、近隣地区レベルのみなら た。 1990 年代終盤には多くのクリエイティブ人材やテッ ず、より広範な都市圏レベルの発展にも寄与する。 ク系の起業家らがこの地区に流入したものの、今日の ダンボ地区の姿にまで大きく変容するほどクリエイティ 出典:Mulas, Gastelu-Iturri 2016 ブ人材や起業家の存在感が増したのは 2010 年代に 入ってからだ。ダンボ地区は、ニューヨークのテク ノロ ジー・エコシステムの中核であり、世界有数のテク ノロ ジーとクリエイティ ブの拠点である。 京都:クリエイティブ都市 今日、ダンボ地区はアートやテック系の起業家で活気 ニュー に満ちている。多数のアートギャラリーに加えて、 ヨークメディアセンターやニューヨーク芸術財団も拠 点を構える。さらに、ミシュラン星付きレストランが 10 軒以上あるほか、非常に多くのカフェやコワーキングス ペースが軒を連ねる。ダンボ地区では、スタート アップ 施設やイベント組織等の主催で、クリエイティブ人材や 34 第3章 35 クリエイティ ブ人材の礎の上に、FAB ムー ブメントの出現を含む、テク ノロジーや 無形経済の世界的広がりを受けて、京都では 2015 年には伝統的クリエイティ ブ 産業や都市の活動と結びついたクリエイティ ブ産業の新たな波が起き始めていた。 これらの新しいクリエイティ ブ産業は伝統的クリエイティ ブ産業、新技術、無形 経済のビジネスモデルが混在したものだった。 結果として、 テクノロジー系のスター トアップのエコシステムと同様のエコシステムと都市活性化のエネルギーを生み出 した (Mulas, Minges, Applebaum 2015) (図 3.1 参照) 。京都市はこの現象を 都市再生に活用し、特定の地域の活性化計画や、保全が必要な地域に関する行 動計画などを作成した。次章では、新たな流れとして京都駅北の特に東部エリア と西部エリアで集中的に形成されているクリエイティ ブ・コミュニティがどのような 影響を及ぼしたかを分析する。 京都駅周辺の二つのエリアにクリエイティ ブ・コミュニティの新たな波が押し寄せ クリエイティブ・ ている。京都駅東部エリアと京都駅西部エリアである (図 3.1 参照)。京都駅東部 エリアはクリエイティブ・コミュニティの活動がより活発であり、クリエイティ ブ人 ネイバーフッドの誕生: 材やクリエイティブ産業が都市再生に目に見える形で変化をもたらしている。一 京都駅周辺エリア 方、西部エリアはまだ発展途上である。これら二つのエリアの発展は異なる段階 にあることから、クリエイティ ブ・コミュニティがどのように発生して成長するか、 そして都市再生や社会的包摂にどのような波及効果があるかについて具体的な事 例を示してくれている。もともと市内中心部の商業地には、 テク ノロジー系のスター トアップ・コミュニティが形成されていたが、好条件で手ごろな家賃で入居できる 物件を探していたクリエイティ ブ人材がまず東部エリアに流入しはじめた。また、 西部エリアは東部エリアの成功の恩恵を受けているだけでなく、西部エリアの適 性を活かした新しい産業 (デジタル製造、フードテック等) や、クリエイティ ブ系や テクノロジー系のスタート アップ・コミュニティが拡張してきている恩恵も享受して いる。 世界の他の都市の例でも見られるように、それぞれのエリアではクリエイティ ブ・ コミュニティが有機的に拡大し成長してきた(ボックス 3.1 参照) 。これらのコミュ ニティの主な成長要因の一つとして、 クラスター(集積)、コネクター(つながり)、 フィーダー(供給) を担っているクリエイティブ・スペースの存在がある。これらの スペースはコミュニティの発展の各段階でそれぞれ非常に重要な役割を果たして いる。特に 3 つの主な役割は、カタライザー、アンプリファイア 、コントリビュー タである(表 3.1)。 表 3.1 クリエイティブ・スペースの 役割 役割 内容 例 カタライザー クリエイティブ・コミュニティのカタライザーとは、クリエイ FabCafe CATALYZER ティブ人材、ビジネスとその周辺に影響を及ぼす組織で (東部エリア/カタログ参照) (触媒的な働きをする ある。カタライザーは触媒的な働きをする流行の発信者 Kyoto Makers Garage 促進者) であり、より包摂的でつながりがあり、協働的なクリエイ (西部エリア/カタログ参照) ティブ・コミュニティを構築し、地域のクリエイティ ブ経済 を牽引する。これらの組織は、クリエイティ ブ社会やほか の業界にイ ノベーションや知識移転を促進する傾向があ る。カタライザーはクリエイティ ブ経済を経済全体に融合 させる上で重要な役割を果たす。 アンプリファイア アンプリファイアは、伝統芸術や文化を活用して無形のク あじき路地 AMPLIFIER リエイティブ資本をつく アンプリファイアはイ る。 ノベーショ (東部エリア/カタログ参照) (増幅者) ンや産業変革を先導することはないかもしれないが、伝 河岸ホテル 統的な建物や芸術形態の近代化や再利用に非常に意欲 (西部エリア/カタログ参照) 的である。また、クリエイティブ・コミュニティを構築し、 芸術や文化関係者をつなげ、地域の伝統や文化を促進 する要となる。例えるなら、カタライザーが火で、アンプ リファイアはそのための燃料だ。 コントリビュータ コントリビュータは、経済、社会、文化的な価値と共に Box & Needle 京都:クリエイティブ都市 CONTRIBUTER 地域にあるクリエイティブ資産の在庫を増大させる。単独 (東部エリア/カタログ参照) (貢献者) では影響は大きくないかもしれないが、集合的に大きな バーベキューコート 339 & 影響を及ぼすことができる。京都におけるこれらは伝統 Madogiwa cafe 339 工芸品を売っている店やカフェ、コーディング ・ブートキャ (西部エリア/カタログ参照) ンプ、アートギャラリーなどである。コントリビュータの存 在が地域の創造的特徴を増大させる。コントリビュータ が使っている建物の多くは改修して再利用されたものだ。 註: クリエイティブ・スペースの役割の具体例は第 4 章で詳しく述べる。また、クリエイティブ・スペースの一覧はカタログにまとめた。 36 第3章 37 これらのエリアの役割と影響を理解することは、地域でクリエイティ ブ・コミュニ ティを発展させていく上で不可欠である。図 3.2 に京都駅東部エリアと西部エリ アのそれぞれでクリエイティ ブ・コミュニティがどのようにクラスターを形成している か示した。両エリアでクリエイティ ブ・コミュニティが都市再生を牽引しながら、そ れぞれのエリアにインパクトをもたらし、 クリエイティブ産業の拠り所となっている。 (これらのエリアが都市変容に果たした役割の詳細については第4章を参照。 ) 図 3.2 京都駅周辺のクリエイティブ・  クリエイティブ · スペース スペースと関連する公共エリア 出典:世界銀行データ  公共/コミュニティ · スペース 西部エリア 東部エリア 五条エリア あじき路地 ギャラリーメイン & Lumen Gallery Box & Needle FabCafe Kyoto • 京都リサーチパーク Le Wagon 五條製作所 コーディングブートキャンプ UNKNOWN Kyoto 開化堂本店 Walden Woods Kyoto サウナの梅湯 • 京都美術工芸大学 バーベキューコート339 & Madogiwa cafe 339 Kyoto Makers Garage 京都ビアラボ 京都市中央卸売市場 • Kaikado Café かぶやまProject (仮称) 河岸ホテル Crafthouse Kyoto • JR梅小路京都西駅 • 京都水族館 • るてん商店街 • 京都鉄道博物館 崇神新町屋台村 • • 梅小路公園 • 京都市立芸術大学移転予定地 京都駅 京都市はこれらの開発に際し、受け身でいたわけではない。むしろその逆で、京 都市は条件設定や京都市のクリエイティ ブ資本を保存・保護することから(第 2 章 参照)、戦略的でピンポイントな介入を通じて積極的に都市変容を促したりコミュ ニティの触媒になることに至るまで、極めて重要な役割を担ってきた。京都市は 当初から、マスター プランに沿ってこれらの地域をクリエイティブ・ネイバーフッド に変貌させるといった戦略や大規模な計画を立てていたわけではない。それでも 市の全体的なビジョンに基づいて、各部局が有機的なコミュニティと内外で連携 し、政策的な介入を通して都市再生やクリエイティ ブ・コミュニティを支援してき た結果、この連携が大きな目に見える成果につながった。また、クリエイティ ブ・ コミュニティの発展に伴い、京都市は京都駅周辺エリアのビジョンや計画にもク リエイティブ・コミュニティを取り入れるに至った。 京都市が取ったアプローチは主に3つである。まず、京都市は政策や成長戦略を 通じてクリエイティ ブ産業が活動しやすい環境を作り、京都の景観や伝統文化を 守りつつ、市民が暮らしやすい環境を整えた。第二に、京都市は京都市立芸術 大学の移転や JR 梅小路京都西駅開業、梅小路公園再整備など旗艦プロジェク トや戦略的介入を通じて、京都駅の東部・西部両エリアの活性化を支援した。こ れらの取り組みの結果、重要なカタライザーやクリエイティ ブ ・コミュニティを惹き つけることができた。さらに、京都市は業種やコミュニティ横断的にターゲッ トを 絞った支援を進めている。その一例が Kyoto Makers Garage(KMG)等に対 する支援である。 京都市は、これら全ての政策アプローチを一貫して展開してきたわけではない (本 書第 5 章ににこれらの政策を時系列で示した)。都市再性を促進するための初期 の支援が先行して主流な取り組みとなっているが、カタライザーを支援する取り 組みはまだ新しく、またこの取り組みは、スタートアッ プエコシステム支援を行っ ている京都市産業観光局 新産業振興室の主管であり、都市再生を管轄している 部署ではないため、京都市全域に適用されてはいないかもしれない。 京都:クリエイティブ都市 38 第3章 39 表 3.2 クリエイティブ・ネイバーフッドおよび クリエイティブ・コミュニティの支援に関する 京都市の政策 アプローチ 政策例 影響 基礎的支援 ・ 京都市産業戦略ビジョン (2016 年 – 2020 年) クリエイティブ・文化資本を保存し、ク ・ 第2期京都文化芸術都市創生計画 (2017 年) リエイティブ人材やクリエイティブ・コ ・ 第 3 期京都市伝統産業活性化推進計画(2017 年 – ミュニティの育成や発展を可能にし、 2026 年) 調整のためのガイ ダンスを提供する 都市再生の促進 ・ 京都市立芸術大学移転整備基本構想(2015 年) アクセスの容易さ、居住性、新しい ・ 梅小路公園の再整備に関する京都市の考え方につ 主要なアメニティを通じてクリエイティ (2019 年) いて ブ・コミュニティを誘致し、都市再生 を促進する カタライザー支援 ・ まちづくり・お宝バンク (Kyoto Makers Garage へ 主なカタライザーを支援することで、 の資金供与)(29 頁参照) クリエイティブ・コミュニティの構築や 成長を加速する 図 3.3 京都駅周辺の戦略的地区と 京都市の政策 将来構想 : 多彩な地域資源をつなげ、京都の 将来構想 : 新しい賑わいを創出するまち 「文化芸術都市 ・京都」の新たなシン 地域資産 : ボルゾーンの創生  史跡、京都リサーチパーク、梅小 地域資産 : 路公園、中央卸売市場、鉄道博物 史跡、二本の河川沿いの自然、芸 館、水族館、京の食文化ミュージ 術 大 学、 芸 術 家、クリエイター、 アム、ショッピング街 伝統職人の集積 市内中心部商業地 川 高瀬 (四条、烏山) 鴨川 西 部 エリア 東 部 エリア 京都リサーチパーク 東山(観光エリア) 京都美術工芸大学 中央卸売市場 JR 梅小路京都西駅 京都市立芸術大学移転予定地 京都駅 東 南 部エリア 京都:クリエイティブ都市 主なプロジェクト 将来構想: 「文化芸術」 「若者」 や を中心としたエリア活性化 地域資産: 二本の河川沿いの自然、遊休地 註: 実際のそれぞれの政策の対象区域は、この地図上で示されている本分 析の対象エリアより広域に及ぶ。 40 第3章 41 東部エリアがクリエイティ ブ・ネイバー フッドとして発展し、クリエイティブ・コミュニ ティが京都駅西部と南部に流入したことを受けて、京都市はより積極的に計画策 定に取組み始めた。京都市はこれら 3 つのエリアの計画に創造性、芸術、文化 を盛り込み、京都駅周辺のより広範囲の地域の集合的な将来ビジョンを描いた。 このビジョンのもと、①産業と芸術 ・文化活動の融合、②雇用創出、③国内外か らの人の流入増加、④都市と芸術 ・文化の共生、を可能にすることで、京都市に 新たな文化拠点を創出することを目的としている(京都市/ 2019) 。この複合的 なビジョンが完全に実現すれば、京都市で伝統的クリエイティ ブ産業と文化と伝 統が結びついた無形経済活動の新たな大規模なクラスターが形成されることにな る(図 3.3 参照)。 京都駅東部エリア クリエイティブ・ 2008 年の金融危機と2011 年の東日本大震災に端を発する景気後退の後、京 都市では、当時世界各地で生まれていた都市型のスタート アップ・エコシステムと ネイバーフッドとしての 同様にテク ノロジー系のスタートアッ プが成長した。この結果、市内中心部の商 京都駅東部エリアの 業地に拠点を構えるスタートアッ プが増えた。このエコシステムの成熟と経済回 成長と発展 復に伴って、商業地の賃料が上昇し、一部の起業家やクリエイティブ職の人々が 京都市内の別の地域に移って行った[9] 。京都駅東部エリアはこのような人々を惹 きつける特徴を有していた。第一に、成熟したスタートアップやクリエイティブ・コ ミュニティの主なクラスターのある商業地から遠くなく、第二に、地価や家賃が より手ごろだった。そして第三に、伝統的な建造物や文化遺産、風情ある街並 みが特にクリエイティブ人材を惹きつけた。東部エリアには、かつていくつものお 茶屋や置屋が軒を連ね、その一部が現存する。第二次世界大戦後には、独特 の建築様式の「カフェー建築」の建物が建てられ、強いアイデンティティや歴史を 感じさせる昔ながらの街並みを残している。 クリエイティブ ・ コミュニティがこの地域に流入すると、芸術家やクリエイ ターが歴 史的な建造物をカフェや芸術家の住まい、地ビール醸造所、ゲストハウス等様々 な用途に再利用しはじめ、徐々にクリエイティブ・ ネイバー フッドを形成していった (図 3.2 参照)。それらのクリエイティブ・スペースは2000 年代初頭にオープン し始め、特に2014 年以降にはその存在感を増していった (図 3.4 参照)。2017 年には、テク ノロジー系やクリエイティブ系のエコシステムと強いつながりを持 ち、世界各地で展開するコミュニティ ・スペース FabCafeが市内中心の商業地か ら五条エリアに移転し、それを受けて、複数のアート系のカフェがオープンした。 2019 年には、UNKNOWN Kyotoがオープンし、東部エリアは複数のスペース やネッ トワークのクラスターが互いに補強し合うコミュニティとなった。FabCafe が主なカタライザーとのしての機能を果たし、3つの強いアンプリファイアと数多 くのコントリビュータがそのサポート役を果たした。そして、東部エリアはクリエ イティブ業界やテク ノロジー業界のクリエイティブ職の人々や起業家に人気の場 所となった。 クリエイティブ・コミュニティの発展を支援したのは京都市である。京都市は、発 展に向けた計画の一環で触媒作用のあるプロジェク トとして、京都市立芸術大学 を京都駅東部エリアの南側に移転させることを決めたほか、2017 年には京都美 術工芸大学東山キャンパスを開設した。これらのプロジェクトを通じ、新たに流 入してくるクリエイティブ・コミュニティのためのネイバー フッドが拡大して京都駅 に連結し、また芸術の才能と知識の集中的拠点となる教育施設が導入されること となる。 京都:クリエイティブ都市 京都市立芸術大学の起源は1880 年に遡る。日本最古の芸術大学で、美術学部 と音楽学部を擁する。それぞれの学部はもともとは別々の地にあったが、1980 年に京都市郊外の一つのキャンパスに移転した。近年になって京都市は、京都 市立芸術大学の市内中心部への移転に向けた構想の検討を進め、大学の移転 整備先として、老朽化した団地があった京都駅東部エリアに38,000㎡の広々と した敷地を用意した。移転予定地は京都駅に隣接し、伝統的な東山一帯にもほ ど近い (京都市 2015) (図 3.3 参照) 。新しいキャンパスはオープンプランで、開 放的なワークスペース、ギャラリーや、道路に面した図書館を有し、大学が近隣 44 第3章 45 地域と一体となる設計になっている。この移転発表と京都美術工芸大学東山キャ ンパス開設によって、この地域はさらに創造性豊かなエリアとして知られるように 図 3.4 なり(図 3.4 参照)、クリエイティブ人材の育成や、新たなクリエイティブ空間の 創出を促進するだろう。 クリエイティブ・スペースの年表 カタライザー アンプリファイア かぶやまProject (仮称) 2021 コントリビュータ (任天堂旧社屋をホテルとして改修) 2020 京都ビアラボ UNKNOWN Kyoto 2019 Crafthouse Kyoto Le Wagon コーディングブートキャンプ 2018 Walden Woods Kyoto 2017 FabCafe 2016 Kaikado Café サウナの梅湯 2015 ギャラリーメイン & Lumen Gallery 五條製作所 2014 2013 2012 2011 2010 2009 Box & Needle 2008 2007 2006 2005 2004 あじき路地 註: 第 4 章とカタログでこれらのクリエイティブ・スペースがクリエイティブ・コミュニティやクリエイティブ・ネイバーフッドの発展に果たした役割や影響 について詳述している。 これらのプロジェクトは、大学と近隣地域との空間的、社会的な融合を念頭に設 計されている。これは大学にとって有益なだけでなく、地域住民や地域コミュニティ に具体的に価値を提供することにもなる。自治体は、地域住民はプロジェクトの 協議に参加を促すだけでなく、大学移転計画と並行して、移転予定地に現存す る市営住宅から近接の新たな市営住宅の建設 ・移転計画も行っている。 加えて、京都市は建設工事期間中に地域コミュニティを支援すべく、仮設のアメ ニティを作り、地域コミュニティをクリエイティ ブな変容の中に取り込んだ。例え ば、地域住民のための期間限定の屋台村や市場、ファーマーズマーケッ トを作っ た。またこの地域のクリエイティ ブ・スペースとして、あじき路地や UNKNOWN Kyoto があり、新進の芸術家やクリエイ ターのためにスペースや施設を低額で提 供し、創造性と包摂性を育んでいる (第 4 章でクリエイティブ・ネイバーフッドの誕 生におけるクリエイティ ブ・スペースの影響を論じている) 。京都市のイニシアチブ とクリエイティ ブ・スペースの活動が互いを補強し合い、自然な形で住民を変容プ ロセスに取り込んでいった。 大学の移転プロジェクトに加え、京都市の遺産保存活動や有形・無形文化財の 推進活動が、京都市の積極的な介入を支えるクリエイティ ブ都市再生に不可欠 な役割を果たしている。京都市は文化財保護や伝統的な建造物のアダプティ ブ・ リユース(適応型再利用)に関する政策的枠組みを有している (第 2 章参照)。この 政策枠組みのもと、特に五条エリアで京町屋やカフェー建築等、古くからある建 物がアダプティブ・リユースによって様々なクリエイティ ブ・スペースに生まれ変わっ ていった。このような形で京都の伝統とクリエイティ ブ・スペースが融合することで、 コミュニティへの帰属意識を高めると共に、現代的な流れに合わせて地域を近代 化している。このような有機的な都市再生は京都独特のもので、ネイバー フッドが より有機的に変容し、歴史的な街並みや魅力を残しつつ、新旧をつなげている。 ネイバーフッドレベル 京都駅東部エリアの都市変容は今も続いており、クリエイティ ブ・コミュニティは 急速に成長しながら京都駅西部エリアや南部エリアにも拡大している。しかし、 での影響 クリエイティブ・コミュニティの効果はすでに目に見える形で具体的に表れている。 これらの地区では、多く の歴史的建造物や家屋が再利用され有機的に改善され ている。また、新しいカフェやコワーキングスペース、ビアガーデン等、複数のク リエイティブ・スペースや関連する新事業ができ、地域に活気をもたらした。地域 の街並みも多様化し、伝統的な建造物や個性が新しいクリエイティ ブなスタイル 京都:クリエイティブ都市 と一体化している。昔ながらの商店も新しい無形の経済活動を取り入れ新しいタ イプのビジネスを展開している(オープンコミュニティ・スペースやカフェ、コワーキ ングスペースにも支えられている)。 46 第3章 47 データが不十分なため、京都駅東部エリアにおける現行の都市変容がもたらした 経済的効果を測定することは難しいが、この地域と市内の他の地域の不動産価 格の推移を分析すれば、京都駅東部エリアのパフォーマンスについてうかがい知 ることができる。家賃が最低水準だった 2010 年以降、不動産価格は 115%上昇 した。 市内中心部の商業地と比べ、 京都駅東部エリアの平均家賃はおよそ半額と、 家賃面でより魅力がある。中心部の商業地の家賃上昇率は東部エリアよりも高い ものの(商業地は 130%、東部エリアは 115%) 、上昇率はこの二つの地域で近似 している。両方のエリアにおいて、2012 年以降年間平均成長率は約 12%と、成 長している[10] 。京都市内の平均不動産価格の増加率と比較した場合、2012 年 から 2019 年にかけて中心部の商業地の価格増加率の増分は市内平均の 1.8 倍、 東部エリアでは同 1.5 倍となっており、京都市全体の平均的な不動産価格の上昇 と比べると、東部エリアと中心部の商業地で共に 2012 年から 2019 年にかけて不 動産価格が大幅に上昇している (日本、国土交通省 2020) (図 3.5 参照) 図 3.4 京都駅東部エリア、 京都市内中心部商業地、 京都市平均の不動産価格の推移 出典:国土交通省の土地総合情報システムに基づいた 世界銀行データ 東部エリアの クリエイティブ・ スペース (¥/㎡) UNKNOWN Kyoto, 3,000,000 Crafthouse Kyoto 京都ビアラボ Le Wagon コーディングブートキャンプ 商業地 2,500,000 FabCafe Kyoto, サウナの梅湯 Walden Woods Kyoto ギャラリーメイン & Lumen Gallery 公共プロジェクト・ 政策等 2,000,000 Kaikado 京都駅東部エリア Café 活性化将来構想  五條製作所 あじき路地(2001) 京都市立芸術大学 1,500,000 Box & Needle(2009) 建築着工 京都美術工芸大学 東山キャンパス開設 1,000,000 京都駅東部エリア 京都市立芸術大学 移転整備基本計画 5000,000 京都市平均 0 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 様々な要因が不動産価格に影響するが、市内中心部商業地と京都駅東部エリア の経済活動(およびこれらの地域での雇用創出)が増し、より経済価値の高い活 動を引き寄せたと言えるだろう。 市内中心部商業地には、テク ノロジー系のスタートアップ企業やその関連の無 形経済の企業が多く流入している。また、成熟したエコシステムの中でLINE、 Sansan、サイバーエージェントなどの日本のユニコーンのような高バリュエーショ ンの企業(バリュエーションが 10 億米ドル以上のスタートアップ)や、Plug and Playなどのグローバルなテク ノロジー系のアクセラレーターがオフィスを構えてい る(ジャパン・プロパティ・セントラル株式会社 2019)。これらの企業は無形経 済での競争力が高く、ネッ トワークの規模の経済を利用してグローバル市場にア クセスすることで、従来型のビジネスモデルよりも素早く高い収益性を実現してい る。ニューヨークやロンドン、ベルリン等で見られているような都市のスタートアッ プ・エコシステムのダイナミクスと同様に、無形のビジネスモデルを有する新しい テクノロジー系のスタートアップ企業の流入により、エコシステムがより集中して いる地域レベルで不動産価格が上昇する。 京都駅東部エリアの不動産価格も同じように推移している。このことから、クリエ イティブ・コミュニティやそれとつながっているテクノロジー系のスタートアップの エコシステムや無形のビジネスモデル、あるいはその組み合わせが生み出す新た な経済活動が、高価値の事業や市場アクセスをもたらしていることが分かる。こ れは、フリーランスの人や起業家を含むクリエイティブ・コミュニティや無形の職 業の性質のほか、コミュニティ・スペース(カフェ、コワーキングスペース)の集積 とも一致している。 京都駅東部エリアの変容をもたらした要因を表 3.3に要約した。 京都:クリエイティブ都市 48 第3章 49 表 3.3 京都駅東部エリアの クリエイティブ・ネイバーフッドへの 変容において影響を与えた領域 影響を与えた領域 内容 地域経済の活性化 地域レベル、都市レベルにおけるテクノロジー産業や関連するクリエ イティブ活動による無形経済事業や雇用の増加 都市変容 歴史的・文化的遺産である建築物や景観を保存しつつ、地域の社会 構造や経済活動を活性化し、活気ある地域コミュニティをつくること による界隈の再生 社会的結束と包摂 地域コミュニティの変容への既存地域住民の取り込み:既存のコミュ ニティと新しいコミュニティが使える空間やアメニティを共同で創出す るとともに、双方のコミュニティが有機的に相互作用し、融合するた めの接点を提供 京都駅西部エリア 京都駅西部エリアの 京都駅東部エリアとは対照的に、京都駅西部エリアはまだクリエイティ ブ・ネイバー フッドには発展していない。クリエイティ ブ活動の初期の兆候 (例:展示会、イ ベ クリエイティブ・ ント、ワークショッ は見られ、初期段階のクリエイティ プ) ブ・コミュニティはある。 ネイバーフッドへの 非常にアクティブなカタライザーである Kyoto Makers Garage(KMG)や著名 発展の可能性 なアンプリファイアの河岸ホテルなどが西部エリアには存在するが、エリア自体は まだ開発があまり進んでおらず、市場関連の活動や運搬車やフォークリフトの交 通量が多い地域である。 西部エリアは、クリエイティブ・エリアに発展し得る条件や潜在性が整っているエ リアの好例だ。ただ、西部エリアでクリエイティブ・コミュニティが形成されるか はまだ不透明かつ不確定である。将来的な発展と変容は、多く の要因に依存し、 かつ、その一部は適切な政策に左右される可能性がある。 現在の西部エリアの状態は、遊休不動産が多く、若手起業家やクリエイティ ブ人 材にとって市内中心部商業地よりも家賃面で魅力的だった頃の東部エリアに似て いる。今日、東部エリアが成熟する中、若手クリエイティ ブ人材が東部エリアか ら家賃面や創造性やコミュニティの面でより魅力を感じるエリアへと流出し始めて いる。西部エリアの手ごろな家賃や公共交通機関でのアクセスの良さ、東部エリ アへの近さは、クリエイティブ・コミュニティを惹きつける初期条件を備えている。 京都:クリエイティブ都市 52 第3章 53 東部エリアと同様に (京都市 2019a) 、京都駅西部エリアについても 「京都駅西 部エリア活性化将来構想」が打ち出され、その中で住民参加型により多様なス テークホルダーを一体化させていく枠組みが提示されている (京都市 2015b)。さ らに、京都市は西部エリアの中にある産業施設を重点活性化プロジェクトに取り 組み、より住みやすく、かつサービス活動により適した地域にすることを目指して いる。1989 年には、ガス工場の跡地があった西部エリア北の広大な土地を再開 発し、オフィ ス賃貸や研究スペース提供などを通じて中小企業を支援する京都リ サーチパーク (KRP)が誕生した[11] 。1995 年には、西部エリア南東部寄りにあっ た JR の貨物駅跡地を梅小路公園に再整備し、地域に広大な緑地を提供してい る。この公園は数回にわたって整備され、2012 年には公園の一角に官民出資の 水族館、そして 2016 年には京都鉄道博物館が開館した(図 3.2 参照) (京都市  2019b)。 西部エリアには京都市中央卸売市場もあり、運搬車やフォークリフトが絶え間な く通行している。時の経過と共に市場の活動も多様化し、2012 年には、すし市 場、2013 年には「京の食文化ミュージア ム あじわい館」、そして 2014 年にはイ ベントスペース 「KYOCA(京果会館)がオー 」 プンし、中央市場は食の流通にとど まらない活動を展開し、京都の食文化に文化やイ ベントという色を添えた。 2019 年には梅小路公園の横に JR 梅小路京都西駅が開業し、公共交通機関で のアクセスが便利になったほか、クリエイティ ブ人材や起業家を惹きつけるカタラ イザーの役割を果たした。 この2年前には、京都市内や海外のテク ノロジー・コミュ ニティやクリエイティ ブ・コミュニティをつなげる活発なカタライザーである Kyoto Makers Garage がオープンしていた。また、バーベキューが楽しめるビアガーデ ンでもあるバーベキューコート339(BBQ339)が 2017 年にオー プンし、2019 年には、 コワーキングスペースである Madogiwa cafe 339 や著名なアンプリファ イアである河岸ホテルがオー プンした。これらがこの地域で最初の新興のクリエイ ティ ブ・ コミュニティのクラスターとなった。 このような有機的な発展を受けて、京都市は地域のカタライザーである Kyoto Makers Garage を支援して、伝統的なものづく り企業と新しいテク ノロジー(デ ジタルファ ブリケーション等) とクリエイティブ・コミュニティをつなげる活動を促進 している。この戦略的な支援が成功すれば、この地域のクリエイティ ブ・コミュニ ティ拡大に寄与するだろう。京都リサーチパークは独自の運営をしており、地域 の経済活動の一部となっ ているわけではないが、Kyoto Makers Garageとつな がりを持っており、今後より一体的な協働活動につながる可能性もある。2020 年に京都リサーチパークはオー プン・イノベーション・クラブを立上げ、京都の企業 とのオー プン ・イ ノベーションの育成に乗り出し、地域のスタート アッ プ・エコシステ ムとのつながりを構築している。 地域でクリエイティ ブ・コミュニティが進化する中、 このプログラムが京都リサーチパークの活動とクリエイティ ブ・コミュニティをさら に結びつける役割を果たすかもしれない。 この地区に関する京都市の計画には中央卸売市場の施設整備計画が含まれてお り、これが京都駅東部エリアへの京都市立芸術大学移転と同様の触媒的プロジェ クトになる可能性もある (京都市 2015b)。中央市場はこの地域の中心にあるだけ に、食とテク ノロジー(フードテック等) 、食とクリエイティブ産業(グルメ食品、 食文化等) 、食と観光との相互作用に関する新たなクリエイティ ブ活動を促進で きるかもしれない。 これらのビジネスモデルや活動の変革と活性化は、 バルセロナ、 ロンドン、ニューヨークなど世界中で大規模な都市変容プロジェク トをもたらして いる(ボックス 3.2 参照)。 京都:クリエイティブ都市 54 第3章 55 ボックス 3.2 サンタ・カタリーナ市場再開発: バルセロナの地域変容のカタライザー 1840 年代後半にバルセロナ市に開設されたサンタカタリーナ市場は、活気あふれる市場だった。 しかし 1990 年代にはスーパーマーケットに客を奪われ、食品を扱う店舗数が減少の一途を辿った。 バルセロナ市は、市の建築的、社会的、文化的アイデンティティにおける市場の重要性や、市場 が市全体の開発に果たし得る役割を理解し、バルセロナ市内の市場の管理、規制、促進、将来 的な開発を一つの組織で管轄するため、1993 年にバルセロナ市の市場協会を立ち上げた。以後、 バルセロナ市内の市場の再開発を可能にする環境が整い、それがバルセロナの都市再生のカタラ イザーとなっていった。経済的、社会的リターンを奨励するため、サンタカタリーナ市場の修復・ 改修作業や周辺の公共スペース開発等の投資が行われた。2005 年にサンタカタリーナ市場は 59 の生鮮食料品店やレストラン、スーパーマーケット、イベントスペース、新しい公共広場、そして Wi-Fi も完備した市場としてリニューアルオープンし、近隣地区にポジティブな都市変容の影響を もたらした。 2018 年のデータによると、サンタカタリーナ市場には毎年 264 万人が訪れる。リニューアルオー プン以降、市場内で閉店した生鮮食料品店はなく、市場周辺エリアでは、以前は空き店舗となっ ていたところに新たに小売店が入居し、 周辺の道路も活気に満ち、 街灯が灯って安全性も向上した。 バルセロナの市場再開発がもたらした累積的な経済効果は極めて大きい。バルセロナの市場は、 11 億米ドルから 12 億 5000 万米ドルを売上げ、約 7500 人を雇用する。バルセロナで売られてい る生鮮食品の 30-35%が市場で売られ、バルセロナ市の商業活動全体の 10%を占める。さらに、 高齢者向けの低家賃住宅が 59 戸新たに提供されたほか、公共スペースがつく られ、ごみ処理の システムが改善されるなど、地域のコミュニティは直接的に恩恵を受けることとなった。 ネイバーフッドレベル 京都駅西部エリアにおけるクリエイティブ・コミュニティの影響は限定的である。こ のエリアの開発はまだ初期段階にあり、クリエイティ ブ・スペースは西部エリアの での影響 特定の場所にのみ密集している。発展の初期段階ではあるが、 コミュニティ ・スペー スがクリエイティブ人材をコワーキングスペースやメーカースペースやイベントに引 き寄せている。芸術家の居住スペースも提供している河岸ホテルを除いて、他の 二種類のスペースはまだ定住のクリエイティ ブ人材を惹きつけてはいない。ただ、 今後コミュニティが進化し、特に京都リサーチパークや京都市中央卸売市場など の戦略的資産がクリエイティブ・コミュニティや起業家コミュニティ とつながること によって一体的に発展すれば、現在の状況から変化していくだろう (第 4 章参照) 。 西部エリアは工業地帯で、建物の多くが必要な機能を果たす目的で建てられたも のである。従って、西部エリアには保存すべき歴史的建造物が少ない。それでも 興味深いのは、西部エリアにあるコミュニティ・スペースも東部エリアと同様に既 存の建物の特徴を活かしながら再利用していることだ。河岸ホテルはかつては社 員寮だったほか、バーベキューコート339 は、かつて倉庫だった建物のオー プン スペースの特徴を活かしている。また、Kyoto Makers Garage は、機能的でオー プンなレイアウトと建物の耐久性を利用してデジタルファ ブリケーションの機器や ラボ施設を配置している。 西部エリアの不動産価格を分析すると、この地区がまだ発展初期のエリアである ということが確認できる。2012 年から 2019 年にかけて京都中心部商業地や京 都駅東部エリアで不動産価格が約 80%上昇した一方、西部エリアでは上昇率は 約 33%と、京都市全体平均の上昇率 (46%) をも下回った。この差異は西部エリ アの既存の経済活動や不動産価格の継続性を示し、この地域が外部のステーク ホルダーにとっ てまだ魅力に欠ける理由を説明している。 京都:クリエイティブ都市 56 第3章 57 (¥/ ㎡) 3,000,00 西部エリアの バーベキューコート 339 & クリエイティブ・ Madogiwa cafe 339 スペース 河岸ホテル 2,500,00 Kyoto Makers Garage 商業地 2,000,00 京の食文化ミュージアム 1,500,00 JR梅小路京都西駅 京都駅西部エリア 公共プロジェクト・ 活性化将来構想 政策等 梅小路公園:アイススケート 1,000,00 リンク 水族館すし市場 KYOCA  京都鉄道博物館 イベントスペース 梅小路公園内の 京都市平均 500,00 新しい広場 京都駅西部エリア 0 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 図 3.6 京都駅西部エリア、 京都市内中心部商業地、 京都市平均の不動産価格推移 出典:国土交通省の土地総合情報システムに基づいた 世界銀行データ 4 京都駅周辺地域の変容に クリエイティブ・スペースが 果たした役割 京都:クリエイティブ都市 60 CHAPTER 第4章 61 京都駅周辺地域の変容に クリエイティブ・スペースが 果たした役割 クリエイティブ・ネイバーフッドの形成と持続可能性において、クリエイティ ブ・ス ペースは重要な役割を果たす。また、クリエイティ ブ・ネイバー フッドの形成を政 府や市の政策が奨励し支援することも可能だ。しかし、既存のコミュニティの有 機的な発展なく して地域経済の発展、都市変容や社会的包摂の効果は持続しな い。クリエイティブ・スペースはこのような有機的コミュニティの形成や成長のため のエンジンの役割を果たす(Mulas, Nedayvoda, Zaatari 2017)。これらのス ペースがどう機能し、その成長と繁栄の条件として何が必要か、また都市空間や 地域住民の社会構造とどのように関連し合うか理解することは、都市におけるク リエイティブ・ネイバーフッドの支援に関心を持つ政策立案者や都市実務者にとっ て極めて重要である。 本章では、京都駅周辺エリアの変容に寄与したクリエイティ ブ・スペースの概要を 探っていく。京都駅東部・西部の両エリアで変容プロセスはまだ進行中だが、こ れらのスペースのパターンやダイナミクスから、それらがどのように機能し、変容 プロセスに作用していくかを学ぶことができる。 本書では、15 のクリエイティブ・スペースの効果を検証し、うち、13 のスペースに ついて詳しく分析する。これらクリエイティ ブ・スペースは、クリエイティ ブ・コミュ ニティのメンバーからの推薦に基づいて厳選した。これらのクリエイティ ブ・スペー スは地域コミュニティの中でも知名度が高く、地域コミュニティの形成と強化に重 要な役割を果たしている。さらに、異なる様々な職業や考え方、知識、スキルを 持つ人々が集まってコミュニティのつながりを育んでいる。これらが十分に確立さ れた組織か、立ち上げ直後の組織かに係わらず、これらのクリエイティ ブ・スペー スはコラボレーションとネットワーキングを推進している。それぞれのスペースの 詳細なプロフィールと説明はカタログに掲載した。 前章で説明したように、クリエイティ ブ・スペースには 3 つの役割がある①カタライ ザー、②アンプリファイア 、 (それぞれの詳細については、 ③コントリビュータである。 前章 表 3.2 参照のこと。それぞれの役割の例については次章で述べる。 )程度の 差こそあれ、それぞれがクリエイティ ブ・コミュニティの形成、成長、拡大を支援 するもので、とりわけ、カタライザーが最も大きな効果を発揮する。しかし、これ らのスペースが相互作用し、相乗効果が生まれてこそ、その影響が最大になる。 京都駅東部・西部両エリアにおけるクリエイティ ブ・コミュニティの進化をみると、 これらのスペースがどのように相互作用し、またこれらのコミュニティの成長に弾 みをつけるためにカタライザーが果たした特別な役割を理解することができる。 クリエイティブ・ 前述のように、京都におけるクリエイティ ブ・コミュニティの新たな波は京都駅東 部エリアから始まった。クリエイティ ブ・スペースがこの地域で最初に出現したのは スペースが 「あじき路地」 (カタログ参照)が単体として路地裏にある若手芸術家の住居兼工 京都駅東部・ 房としてオー 「Box & Needle」 プンした 2004 年に遡る。 (カタログ参照)は 2009 西部エリアにおける 年に、あじき路地と同様、周辺に他のクリエイティ ブ・スペースがない場所にオー プンした。2011 年以降、若手起業家やクリエイティ ブ職の人々がこの地域に現れ クリエイティブ・ 始め、2014 年には、この地域でクリエイティ ブ・コミュニティが形成され始めた。 コミュニティの 2014 年から 2016 年にかけて、東部エリアでは、五條製作所、アートギャラリー、 進化に対して 開化堂カフェ、の 3 つのコラボレーター・スペースができていった。これに加えて、 サウナの梅湯というアンプリファイアがイベント開催や地域外からのクリエイティ 及ぼした影響 ブ人材を呼び込むことで、地域のクリエイティ ブ・コミュニティを形成していった。 この時期コミュニティはまだ未成熟で限定的ではあったが、東部エリアは特定の クリエイティ 「行く ブ関連活動において になりつつあった。 べき場所」 このような背景の中で FabCafeと Walden Woods Kyoto が 2017 年にオープ ンした。FabCafe は(カタログ参照) はカタライザーとして機能し、未成熟だった コミュニティを 2 年足らずで成熟期へと押し上げた。FabCafe は他のスペースの 拠点やコーディネーターとして機能し、この地域をクリエイティ ブ・ネイバー フッド に変容させる上で相乗効果を発揮した。 モダンなデザインと独特のオー プンスペー (カタログ参照) スが特徴的な Walden Woods Kyoto もこの地域にクリエイティ ブなアメニティを提供し、東部エリアがクリエイティ ブ・エリアとしてさらに知名度 を上げるのに一役買った。2019 年には新たに UNKNOWN Kyotoというアンプ リファイア兼カタライザーが加わった。また、コラボレータの Le Wagonという、 世界的に知られるコーディングブートキャ ンプも加わった。UNKNOWN Kyoto と Le Wagon は、東部エリアをテク ノロジー系のスタート アッ プ・エコシステムや 海外の起業家コミュニティ とも結びつける役割を果たした。その後、Crafthouse Kyoto や京都ビアラボもこのエリアにオー プンし、コラボレーターがさらに多様に なった。この時点では、クリエイティ ブ・コミュニティは既に成熟期にあり、不動 産価格が手ごろな京都駅西部や南部エリアへ人材が移り始めていた。 京都:クリエイティブ都市 62 第4章 63 コミュニティの成長 FabCafe Kyoto UNKNOWN Kyoto それぞれのスペースとつながりを持った、 Walden Woods Crafthouse Kyoto もしくはスペースによって生み出されたコミュニティ パブリック パブリック 都市、グローバルなテク ノロジー系および 都市エコシステム クリエイティブ人材とエコシステム 地元のクリエイティブ カタライザー Kaikado Café アンプリファイア パブリック Le Wagon コントリビューター コーディングブートキャンプ サウナの梅湯 テクノロジー系エコシステム、 ギャラリー グローバル人材 芸術家コミュニティ 地元のクリエイティブ エリアを超えた魅力 Box & Needles あじき路地 パブリック 五條製作所 芸術家(単独) 2004 2009 2014 2015 2016 2017 2018 2019 註:「パブリ ック」は、独自のクラスター・コミュニティをつくることなく、地域外のクリエイティブな公共の場を引き寄せる スペースを意味する。コミュニティの進化の傾向は、あくまでも説明のため表示であり、データに基づいたものではない。 図 4.1 京都駅東部エリアの コミュニティ創出に クリエイティブ・スペースが 及ぼした影響 出典:世界銀行データ 京都駅西部エリアのクリエイティ ブ・スペースは Kyoto Makers Garage(KMG) がオー プンした 2017 年に出現した。東部エリアとは対照的に、西部エリアでの 最初のクリエイティ ブ・スペースはカタライザーで、これがこのエリアにおけるク リエイティ ブ・コミュニティの発展の加速を後押しした。その結果、河岸ホテル、 Madogiwa cafe339 など新しいクリエイティ ブ・スペースが誕生した (カタログ参 照)ほか、地元、国内、海外のテク ノロジー関係や起業家のコミュニティ とのつ ながりもできた。Kyoto Makers Garage がオー プンしたことで、京都市と京都 リサーチパークとの連携も強化された。Kyoto Makers Garage は、西部エリア の変容に向けた公共政策の調整や、京都リサーチパークの地域への一体化に寄 与した。 西部エリアは工業地帯であるため、Kyoto Makers Garage を利用する先端的 なメーカーやテク ノロジー関連の起業家ら、ものづく りのコミュニティに対する訴 求力がある。西部エリアはものづく りに重点を置いており、それが東部エリアとの 差別化をもたらしている。Kyoto Makers Garage は、製造業の企業やスタート アップとのネッ トワークを通じて、オー プンイノベーション活動で京都リサーチパー クと連携し、地域の起業家活動を融合させることができる。同様に、グローバ ルのテク ノロジー系企業やスタート アッ プ・コミュニティとの連携を通じ、Kyoto Makers Garage は、フードテック・コミュニティ誘致や中央卸売市場の活性化 やそのイ ノベーションへの取り組みにも寄与している。Madogiwa cafe 339 も 若手起業家やクリエイティ Kyoto Makers Garageと連携し、 ブ職の人々のコミュ ニティが集まる場を提供している。 河岸ホテルは、国内外の芸術家がこのホテルに滞在しながら創作活動を行うアー ティスト・イン・レジデンス・プログラムを運営しているほか、イ ベントや展覧会を 開催し地域コミュニティに貢献している。河岸ホテルの運営は、東部エリアにあ るあじき路地の開業初期の頃の運営と似ているが、カタライザーである Kyoto Makers Garage の方が、東部エリアにおけるあじき路地よりも速いペースで地 域に溶け込んでいくだろう。 京都:クリエイティブ都市 64 第4章 65 コミュニティ それぞれのスペースとつながりを持った、 もしくはスペースによって生み出されたコミュニティ カタライザー アンプリファイア コントリビューター 京都リサーチパーク バーベキューコート 339 & Madogiwa cafe 339 グローバルなアートと クリエイティブ Kyoto Makers 地域のアートと 中央卸売市場 Garage クリエイティブ 企業 京都市 河岸ホテル テクノロジー系・ クリエイティブ系 グローバルなアートと エコシステム クリエイティブ グローバル 地域のアートと クリエイティブ 企業 元々存在していた 2017 2018 2019 ステークホルダー 註: カタライザーとして、Kyoto Makers Garage はエリア内の全てのスペースとの関係性を持っている。また Kyoto Makers Garage が属している広域の京都市、またグローバルなエコシステムとコミュニティ とのつながりをつく る。 図 4.2 京都駅西部エリアの コミュニティ創出に クリエイティブ・スペースが 及ぼした影響 出典:世界銀行データ クリエイティブ・ クリエイティブ・スペースは、地域コミュニティにおけるクリエイティ ブ・コミュニティ の成長、拡大、持続性を促すだけではなく、都市部の変容にも寄与する。都市、 ネイバーフッドの 文化、創造性 (第 1 章参照)の枠組みに則って、この影響は 3 分野のインパク トに 創造に 区分することができる。①地域経済の活性化、②都市変容、③社会的包摂、で クリエイティブ・ ある。これらは総合的に、都市変容プロセスにおいて起こりうる、持続可能な変 容と地域コミュニティの構造の統合を示している。 スペースが 及ぼす影響 表 4.1 にそれぞれのインパクト区分をまとめた 表 4.1 クリエイティブ・スペースの インパクト区分 領域 インパクト区分 インパクトの詳細 地域経済の イノベーションや クリエイティブ・スペースはイノベーションと産業の変革という二重の影響 活性化 産業変革の支援 を及ぼすことができる。①新しいベンチャー、製品、芸術プロセスの開 発、②製品やプロセスを刷新して、変化する市場のニーズを満たす。アイ ディアを試したり革新的な製品を開発するための 3D プリンターやレーザー カッター等の道具を提供しているセンターに加え、従来のやり方に新たな ものづくり方式を導入している京都の伝統産業もこのインパクト区分に含 まれる。 スキル開発 これらのクリエイティブ・スペースは、クリエイティブ・コミュニティやクリエ イティブ産業のスキルや知識向上に寄与している。 ブートキャ トレーニング、 ンプ、メンターシップはいずれもクリエイティブ産業の生産性向上を助ける。 これらのインパクトは、デザイン、コーディング、芸術、創造といったスキ ルが地域経済に寄与する無形経済の強化とも密接に関っ ている。 グローバルな グローバルなコネクションは、クリエイティブ・コミュニティに国際化という アクセスと 要素をもたらし得る。国際化しているクリエイティ ブ・スペースは、新たな コネクション アイディアや機会へのアクセスを容易にすることができる。さらに、海外か らの才能や物の考え方を取り入れ、京都に合うように適応させることも可 能である。グローバルなネットワークの度合いがクリエイティ ブ・スペース 京都:クリエイティブ都市 がもたらし得るインパクトの規模を示すほか、起業家や企業、芸術家やも のの作り手のグローバル市場へのアクセスを提供する。 無形の これらのクリエイティブ・スペースやクリエイティブ活動は域内の芸術家や クリエイティブ 作り手、その他の個人の文化や創造的な意識の形成に役立つ。パフォー 資本や意識の向上 マンス・アーツやお祭、伝統的な環境知識、工芸品等 a、文化的な習慣 や表現、知識、技能、ノウハウに依拠するこれらクリエイティブ・スペースは、 地域コミュニティや都市において文化や創造性の感覚を強化し、拡大する のに貢献する。 66 第4章 67 領域 インパクト区分 インパクトの詳細 都市変容 空間変容 これらのクリエイティブ・スペースは他のスペースやクリエイティブ活動を惹 きつけることで、エリアや地域コミュニティの都市再生や活性化のきっかけ となる。このようなスペースは地域のイ メージによい影響を与え、居住性 を促進する。これらの場は地域の物理的変容のみならず、より安全で包 摂的な環境づく りにも寄与する。 アダプティブ・ この区分には、建物の外観や建築の変容またはクリエイティブ・スペースに リユース もたらす構造的変化も含む。これらのスペースは、現代的な文脈に適応さ せるために建物の一部を近代化しつつも、建物の元々の特徴や文化的意 味合いを残している。 社会的包摂 社会構造の創造 クリエイティブ・スペースのプロセスと活動は幅広い層の地域住民にチャ ン スをもたらす。これらの活動には、スキル開発のためのワークショッ プやト レーニング、異なるグループが集うカフェや共同エリア、職業上のコネクショ ンを築くコワーキングスペース、芸術家を支援する居住空間が含まれる。 地域住民のための 地域住民のニーズ(例:ファーマーズマーケットや高齢者のためのワーク 価値創造と ショップなど)に対応する活動やイベントを開発し、これらのスペースにお 地域住民との ける起業や創造活動、芸術活動と地域住民をつなげる。 つながり 表 4.3に東部エリアと西部エリアのクリエイティブ・スペースが寄与した、または 今後寄与し得るインパク ト区分をまとめた。 インパクト区分 地域経済の活性化 クリエイティブ・ クリエイティブ・ コミュニティの イノベーション / クリエイティブ・ コミュニティでの 構築 産業改革 エリア スペース 機能 役割 東部 FabCafe Kyoto ファブラボ カタライザー あじき路地 住居兼工房 アンプリファイア サウナの梅湯 公衆浴場 アンプリファイア UNKNOWN コワーキングスペー アンプリファイア Kyoto ス Box & Needle 伝統工芸 コントリビュータ Crafthouse Kyoto パブ / レストラン コントリビュータ ギャラリーメイン & ギャラリー コントリビュータ Lumen Gallery 五條製作所 クリエイティブ店舗 コントリビュータ Kaikado Café・ カフェ・茶筒司 コントリビュータ 開化堂本店 京都ビアラボ クラフトビール醸造 コントリビュータ 所 Le Wagon コーディング コントリビュータ コーディング ブートキャンプ Walden Woods カフェ コントリビュータ Kyoto 京都:クリエイティブ都市 西部 Kyoto Makers ファブラボ カタライザー Garage 河岸ホテル ホテル アンプリファイア バーベキューコート コワーキングスペー コントリビュータ 339 & Madogiwa ス、レストラン café 339 68 第4章 69 表 4.2 京都のクリエイティブ・コミュニティの 主なプレーヤー インパクト区分 地域経済の活性化 都市変容 社会的包摂 グローバル・ 社会的に 無形クリエイティブ アダプティブ・ スキル開発 アクセスと 空間変容 アクセス可能で 資本と意識 リユース コネクション 包摂的 カタライザー クリエイティブ・コミュニティのカタライザーは、クリエイティブ職、企業、そ の周辺のコミュニティに影響を及ぼす組織である。これらのクリエイティブ・ス ペースは流行を仕掛け、地域のクリエイティブ経済の原動力となり、より包摂 的でつながりがあり、協働的なクリエイティブ・コミュニティを構築することが できる。 これらはクリエイティブ社会やそれ以外の業界にもイ さらに、 ノベーショ ンや知識移転を促進する傾向がある。カタライザーは、クリエイティブ経済を 経済全体に広げていく上で重要な役割を担う。 事例研究: 設立の背景 : FabCafe は、「グローバルなデザインをローカルに作る」 という理念のもと、クリエ FabCafe Kyoto イターや作り手の集いの場を提供し、新しいデザインやものづく りの場を提供して いる。2019 年時点で7ヵ国に計 11 店舗あり、Fab Cafe Kyoto もその一つであ 設立年 : る 。 [12] Fab Cafe のグローバル・ネットワークとそれを支えるコミュニティを通じて、 2017 年 Fab Cafe Kyoto は地域のクリエイティ ブ・コミュニティを育成し、インパク トの あるクリエイティ ブな変化をもたらすことを目指している。Fab Cafe はイ ベントや 住所 : 展示のためのスペースであるとともに、ショールームやカフェの機能も持つ。 「デジ 〒 600-8119 タルものづく り」 をコンセプトに、古いものや手法から新しいものを作ることを推奨 京都市下京区本塩竈町 554 し、 そのデザインやものづく りに必要なデジタル機器や工具を提供し、 イノベーショ ンの拠点として人気の場所となっ ている。 FabCafe Kyoto は、 世 界 11 ヶ所 に 広がる Fab Cafe ネットワークの一部 京都のクリエイティブ ・コミュニティにおける役割: で、Fab Lab(ファ ブリケーション ・ ラ Fab Cafe は、その規模や国際的なブランド力とネッ トワークによっ て、どのロケー ボ)の考え方に共感して作られた。ク ションにあろうともカタライザーになる。そして、都市再生と地域のつながりを生 リエイターや作り手のためのカフェで み出すだけでなく、その国際的なネットワークを活用して、グローバルな学習、 あり、メンバーは 3D プリンターやレー 働きかけ、市場アクセスを可能にしている。ものづく りコミュニティは Fab Cafe ザーカッター等の最新のデジタル機器 にある様々なデジタル機器や工具を使っ て創造性を発揮し、イ ノベーションをもた や工具を使って試作品を作ることがで らすことができる。また、Fab Cafe ではツールの使い方が学べる講習会も開催 きる。 しており、参加者のスキル向上やクリエイティ ブ・コミュニティの成長もサポートし ている。さらに、 講演会やセミナー、交流会や知識向上のイ ベントも開催しており、 fabcafe.com/kyoto/ 学びのみならず、専門家やクリエイティ ブ・コミュニティ内におけるネッ トワーク構 京都:クリエイティブ都市 築にも役立っ ている。 京都のクリエイティブ ・コミュニティへの影響: Fab Cafe はこの地域のクリエイティブ・コミュニティにおける重要なクリエイティ ブ・スペースであり、製作者や芸術家が共同で作業したり、アイディ アを引き出し あったり、会話を楽しんだりする場を提供している。 70 第4章 71 インパクト区分 どのようにしてインパクトが起きるか クリエイティブ・コミュニティの Fab Cafe は、製作者やイノベーターら地域のクリエイティ ブ・コミュニティが自 構築 らのスタート アップ事業の宣伝やその他のコラボレーション機会を求めて様々な 業界とつながることのできる拠点で、年間 1 万人が訪れる。またコワーキングス ペースも提供している。 Fab Cafe ではものづくりや技術をテーマに、毎年 100 件以上のイベントを開 催している。 地域経済の活性化 イノベーションや産業改革の支援 ・ 「デジタルものづく り」の導入において重要な役割を果たす。様々なデジタル 機器や工具を使っ て「古いものを新しい手法で」 作ることを促進している。 ・ ものづく りの初心者もベテランも、最新の工具や機器を格安のサービス料で 利用できる場である。 ・ Fab Cafe から毎年平均 500 件のクリエイティブなアイディアが創出される。 スキル開発 ・ 利用者は Fab Cafe が開催する講習会に参加してスキル向上を図ることがで きる。 ・ 学生や社会人が新たなスキルを身に着けアイディ アを形にする環境や専門知 識のあるスタッ フ、工具を提供している。 グローバルなアクセスと ・ ローカルとグローバルなネッ トワークを活用して、製作者コミュニティが商品 コネクション をデザインし、開発することを支援。 ・ 企業の国際的な発表イ ベントの支援。 ・ 講習会等とも絡めた店頭販売戦略立案や、テスト販売やコミュニティ構築を 含むローカル市場の調査を行う。 都市変容 空間変容 ・ 新旧、伝統と改革、デジタルとアナログが交わるエリアを作ることを目指して いる。開業当初からこのクリエイティ ブ・スペースは、近隣エリアの活性化に プラスの影響を与えてきた。 ・ 京都市の五条界隈は最近になっ て京都のクリエイティ ブ・スポッ トとして栄え、 そのプロセスに FabCafe が大きく寄与した。 ・ FabCafe が 2017 年に開業してから 2 年のうちに、Le Wagon コーディン グ・ブートキャ ンプや UNKNOWN Kyoto も開業した。 アダプティブ・リユース ・ 建物は、築 120 年の木造建築を改装しており、立地する五条界隈の特徴を 残している。 社会的包摂 社会構造の創造 ・ Fab Cafe はカフェを併設し、観光客や地元の住民に飲食を提供しているほ 地域住民のための価値と か製作者の作業を見たり交流したりすることもできる。 つながりの創造 ・ アーティ ストやクリエイ ターの人もそうでない人も分け隔てなく歓迎し、地元 住民への影響を拡大している。 ・ アイディ アやプロジェクトを共有するトークイベントやクリエイティブ仲間をつ くる交流イベント、ものづく りの本質を体験する講習会や、クリエイターの卵 による展示企画など、様々なイ ベントが毎週開催されている。 アンプリファイア アンプリファイアは、伝統的な芸術や文化を活用し、 ブ資本を創り出す。アンプリファイアがイ さらに無形のクリエイティ ノベーションや産業変革を先導するこ とはないかもしれないが、伝統的な建物や芸術形態の近代化や再利用に非常 に意欲的である。また、クリエイティブ・コミュニティを構築し、芸術や文化関 係者をつなげ、地域の伝統や文化を促進する要となる。カタライザーを火に 例えるなら、アンプリファイアは燃料だ。 事例研究: 設立の背景 : 河岸ホテル 2019 年に開業した河岸ホテルは、短期滞在(ホテル)、長期滞在(若手芸術家が 居住する個室) 、制作用のアトリエ兼スタジオがある滞在型複合施設である。河 岸ホテルは京都駅から電車で 2 分という好立地にある。施設は国内の若手芸術 設立年 : 家や海外からの芸術家をターゲッ トにしている。 2019 年 京都のクリエイティブ ・ コミュニティにおける役割 : 住所 : 河岸ホテルは、京都中央卸売市場があることで知られるエリアに位置し、最 〒 600-8846 新のクリエイティ ブ・アメニティとしてエリアに華を添えている。Kyoto Makers 京都市下京区朱雀宝蔵町 99 Garage やバーベキューコート339、Madogiwa cafe 339 等のプレイヤーが構 築したクリエイティ ブ・コミュニティの成長にも寄与している。京都ではアートホテ 河岸ホテルは、コミュニティに根差し ルが躍進を遂げてきているが、河岸ホテルはこのエリアでは初めてのアートホテル たアート施設でホテル、(若手芸術家 であり、エリアに活気をもたらしているほか、多様なクリエイ ターがこのエリアに 用の)長期滞在施設、シェア型のアト 集まっ ている。 リエ・制作スペース、ギャラリーとして 使われている滞在型複合施設である。 京都のクリエイティブ・ コミュニティへの影響 : 河岸ホテルはこの界隈で初めてのアートホテルであり、アートホテルの開業の流 kaganhotel.com/ 行の先駆けとなった。 クリエイティブ・コミュニティはこの場の特性をうまく活用し、 コミュニティをさらに拡大し、多様化させている。 京都:クリエイティブ都市 72 第4章 73 インパクト区分 どのようにしてインパクトが起きるか クリエイティブ・コミュニティの ・ 河岸ホテルは、若手芸術家とそのファンや収集家を結びつけるアート・スポッ 構築 トである。 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や ・ 長期滞在と短期滞在の宿泊施設を提供しており、京都で芸術活動を行いた 意識の向上 い若手芸術家の玄関口となっている。 都市変容 アダプティブ・リユース ・ 河岸ホテルの建物は築 45 年で、かつては卸売市場で働く人々の寮兼倉庫 だった建物をリフォームしている。活用されていない古い建物を再利用して 建物をより有効に使うことをコンセプトに作られた。 ・ シンプルなデザインが特徴的なホテルの内装と比べ、周辺地域は狭い路地に 卸売市場で働く人々のための飲食店が軒を連ね、賑わっ ている。 社会的包摂 社会構造の創造 ・ 河岸ホテルは、京都駅西部エリアで初めて開業したアートホテルの一つで、 地元住民のための価値と 国内外から芸術家を惹きつけている。価格も手ごろで立地も良く、若手芸術 コネクションの創造 家や外国人に人気がある。 ・ 若手芸術家や観光客らは格安でこのホテルに滞在でき、社会的包摂をさら に促進している。河岸ホテルは京都市民限定の宿泊プランを設け、地元コミュ ニティへの働きかけも行っている。また、ギャラリーや展示物も芸術家だけ ではなく、全ての人に開放して社会的包摂を促進している。 コントリビュータ コントリビュータは、経済、社会、文化的な価値と共に地域にあるクリエイティ ブ資産の在庫を増大させる。それ単独では影響はさほど大きくないかもしれな いが、他のコントリビュータと連動することで集合的に大きな影響を及ぼすこ とができる。京都ではこれらのクリエイティブ・スペースは伝統工芸品を売って いる店や、カフェ、コーディングのブートキャンプ、アートギャラリーなどである。 事例研究: 設立の背景 : Box & Needle は、京都の伝統的な手作りの紙や紙製品の製造、販売、普及 Box & Needle を行っている。また、Box & Needle では、日本の伝統的な技術を活用した紙 製品づく りや貼箱づく りのワークショップも開催しているほか、17 ヵ国以上から買 設立年 : いつけた紙を販売している。 2009 年 京都のクリエイティブ ・コミュニティにおける役割: 住所 : Box & Needle 代表、大西景子氏の実家の「マルシゲ紙器」は老舗の紙器メー 〒 600-8119 カーである。大西氏は日本各地や世界中から紙を買いつけるとともに、事業運営 京都市下京区五条通 高倉角堺町 21 の方法を変えて、商品を販売するだけではなく、つく る魅力を伝えるためのワーク 番地 Jimukinoueda bldg.3F-303 ショッ プを毎月開催し、クリエイティ ブ・コミュニティを惹きつけている。昔ながら の紙製品を刷新することを目指しており、Box & Needle は京都で紙や紙製品を 創業 100 年を超え、山科に工房を構 扱う代表的な店である。 える老舗紙器メーカー 「マルシゲ紙器」 による手作りの紙や紙製品を販売して 京都のクリエイティブ ・コミュニティへの影響: いる。マルシゲ紙器は、1919 年の創 Box & Needle は、ワークショップを通じて、製作体験の場を提供することで、 業以来、貼箱を製造しており、 「捨てな 京都の伝統的な紙製品づく りに新しい風を吹き込んでいる。 い箱」というコンセプトをもとに 2009 年に貼箱の専門店としてオープンし た。 boxandneedle.com/kyoto.html 京都:クリエイティブ都市 74 第4章 75 インパクト区分 どのようにしてインパクトが起きるか 地域経済の活性化 スキル開発 ・ Box & Needle はワークショップを通じて、貼箱製品を作る体験を提供し、 人々のスキル開発を手助けしている。 グローバルなアクセスと ・ クリエイティブ · コミュニティは紙製品を通じて日本や海外の異なる文化、ス コネクション タイル、紙の種類に触れることができる。 無形のクリエイティブ資本や ・ Box & Needle は手づくりの紙や紙製品を支持し、衰退している京都の伝 意識の向上 統的な紙漉きを支援し、京都の文化遺産を広めている。 5 実務者に向けた示唆 78 京都:クリエイティブ都市 CHAPTER 第5章 79 実務者に向けた示唆 クリエイティブ・コミュニティとクリエイティブ・ネイバーフッ ド(地域)の発展は世界 的な現象であり、その原動力となっているのが、無形経済の拡大やビジネスモデ ルの変革である。クリエイティ ブで起業家精神にあふれる人々が、グローバルな 無形経済からの新たな機会へのアクセスを求めてコミュニティに引き寄せられる。 無形経済の拡大に伴っ て、クリエイティブ・コミュニティやクリエイティ ブ人材も増 え続け、世界中で都市の競争力増大や都市変容につながる。京都市の事例が示 しているように、豊かな土壌と適切な条件さえあれば、クリエイティ ブ・コミュニ ティは地域を越えて成長し、拡大する。京都駅東部エリアは京都市中心部の商 業地におけるテク ノロジー系のスタート アップ・エコシステム成熟の恩恵を受けた。 京都駅西部エリアは、東部エリアにおけるクリエイティ ブ・コミュニティや起業家コ ミュニティが成熟している恩恵を受けている。また、南部エリアも、新たに流入 するエリアを探していたクリエイティ ブ・コミュニティからのプラスの効果を感じ始 めている。 有機的なプロセスと政策を通じてクリエイティ ブ・コミュニティ と地域コミュニティ を築いてきた京都市の経験は、都市開発戦略の形成に役立つ一連の重要な示唆 に富むものである。京都市の事例は独自のものであり、 ひとつの都市のストーリー を示しているだけだが、都市行政の実務者にいく つか知見を与えることができるだ ろう。クリエイティブ・コミュニティとクリエイティブ・ネイバーフッドは継続的なプ ロセスを経て発展していくものであり、京都市の行政や民間企業、市民社会がク リエイティブ・コミュニティやクリエイティブ資本を構築すべく、一貫して努力した ことを示している。マスタープランはないが、観察して見習うべきプロセスがある。 本章は二部構成になっている。まず、京都のクリエイティブ・コミュニティとネイバー フッドを形成する要素について述べる。第二に、京都市の事例を通じて、クリエ イティブ都市モデルを支援し促進することに関心のある都市行政の実務者や政治 家に対し、知見を提供する。 クリエイティブ・ 京都ではクリエイティブ・コミュニティ形成に寄与した要素が5つある。①創造性 を可能にする環境と市の統一されたビジョン、②クリエイティブ資本、③クリエイ コミュニティや ティブ人材とグローバルなつながりのあるカタライザー、④有機的なコミュニティ ネイバーフッドの の発展、⑤地域住民の取り込み、である。 変容に寄与する要素 創造性を可能にする 京都市は、クリエイティ ブ産業やクリエイティブ人材のための国の枠組みと京都 の歴史、伝統、文化遺産の両方を活用してクリエイティ ブな環境を醸成してきた。 環境と市の統一された 京都市は 1978 年には「世界文化自由都市宣言」で、世界と自由な文化交流を行 ビジョン う都市であると表明し、クリエイティ ブ都市計画の策定に着手した。さらに重要 なのは、京都市は、市のビジョンや地域変容・再生計画、戦略的な政策介入や プロジェクトの中で、地域の景観や建物の保護を優先したことである。各地域に 関する明確な計画があったわけではないが、この包括的なビジョンを通じて各種 の政策に準じた行動が共通の目標に沿ったものとなった。この黙示的な協調が、 コミュニティの成長に伴っ 「京都駅東部エリア活性化将 て明示的なものに変わり、 来構想」を通じて京都駅東部エリアを変革したほか、京都駅西部・南部エリアも 含むエリア全体でも、それぞれ地域の将来構想を通じて変容していった。 京都市のビジョンは各種政策における行動の整合性を担保するだけではなく、京 都市の無形のクリエイティブ資本 を保存 (以下参照) ・育成し、創造性、芸術、文 化、遺産保存について市民やステークホルダーに共通の理解と認識を持たせる 役割を果たしている。 クリエイティブ資本 都市のクリエイティブ資本は、自然や文化遺産、または伝統という形態で現れる。 京都市の場合は、寺社仏閣や美術館、博物館、公園、河川、職人、市場、そ れに歴史、伝統、職人技、さらに市民の創造的、文化的意識全てがクリエイティ ブ資本の具体例として挙げられる。 京都市は、有形・無形のクリエイティブ資産の改修、再生、促進という、的を絞っ た戦略的な行動を通じてこれらの資産を支援し、またそれらをコミュニティの出会 いの場として活用してきた。京都市は、歴史的建造物や伝統的な建築様式でつく られる街並みを保存するという政策を掲げており、これがクリエイティブ資本の活 用を支えている。京都駅は、東本願寺、西本願寺、三十三間堂、京都国立博 物館等の名所にも近い。また、このエリアには京都の伝統的な町家が軒を連ね、 京都:クリエイティブ都市 芸術家らの拠点にもなっている。また、クリエイティブ・スペースが歴史的建造物 や京町家を積極的に有効活用することによって、京都の文化的伝統とつながりな がら、同時に伝統的な創造作業や事業に新たなテクノロジーを持ち込むこととなっ た。 80 第5章 81 京都には、伝統や伝統的産業、そしてスタート アップ・エコシステムから生まれた クリエイティブ人材と クリエイティブ人材が多く存在する。また、京都には著名な大学が複数あり、国 内外からクリエイティブな人材になり得る人々を惹きつけている。京都には、日本 グローバルな 有数の大学の一つである京都大学を始め、 多くの大学が本拠地を構える。さらに、 つながりのある 京都市立芸術大学や京都美術工芸大学など、芸術系の名門大学もある。 カタライザー 京都では、伝統的・文化的産業を包括したクリエイティ ブ人材と、新しい若手起 業家や海外の人材の混合によりクリエイティ ブ・コミュニティの強い基盤がを形成 され、無形経済が発展した。さらに重要なのが、このような若手とベテランのク リエイティ ブ人材の懐の深さをもとに京都にクリエイティ ブ・スペースが形成され、 それがクリエイティ ブ・ コミュニティをさらに成長、拡大させたという点である。特 定のクリエイティ ブビジネスやクリエイティ ブ職の人々が、プロジェク トを通じてさ らにクリエイティ ブ・ コミュニティやクリエイティ ブ資本の影響力を拡大させてきた。 Fab Cafe Kyoto や Kyoto Makers Garage(KMG)は共に、カタライザーが どのようにクリエイティ ブ人材やクリエイティ ブ・スペースを地域に惹きつけたのか、 という好事例を示して くれている。さらに、何人かの鍵となる個人が工芸品や技 術にイ ノベーションを導入している。例えば、伝統的な織物企業である「株式会 社細尾」 の細尾真孝氏は、近代的な技術を使っ て事業に変革をもたらした。それ を通じて、京都の伝統工芸の事業に変革をもたらし、伝統工芸を新しい技術や クリエイティ ブな起業家エコシステムとつなげるカタリストとしての役割を果たし た 。 [13] これらのカタライザーや個人はグローバルにつながっており、国内外の知識や人 材との強いつながりを可能にする。これら、複数のエコシステムとのつながりは、 Fab Cafe 開業後の京都駅東部エリアでの急速な拡大を可能にし、また Kyoto Makers Garage を通じた京都駅西部エリアの活性化に貢献している。 有機的な 上述の 3 つの要因が複合的に作用しクリエイティブ・コミュニティの有機的な発展 を促進してきたといえる。京都市はマスター プランを掲げてトッ プダウン的なアプ コミュニティの発展 ローチを取って地域の変革を進めてきたわけではない。その代わりに、市は創造 性を可能にする環境づく りやビジョンを提示し、同時にクリエイティ ブ資本やクリ エイティ ブ人材を守り育ててきた。京都駅東部エリアは、京都市立芸術大学移 転等の戦略的プロジェクトもあって変容を遂げたが、本質的には草の根のコミュ ニティ主導の発展だった。この自然なプロセスによって、地元住民らの強い支持 を得ることができ、創造的な地域としての地域変容も持続可能なものとなった。 さらに、新しい無形のビジネスモデルが地域の産業に導入 ・吸収されていった。 京都駅東部エリアには、市内中心部商業地やその他のエリアから来たクリエイティ ブ人材が集まっ て地域コミュニティを形成し、同じ場所で住み働く仲間でクリエイ ティブ職の人々がクラスターを形成し始めた。このクラスターが、密接に結びつい たコミュニティを育み、それが近隣地域の都市再生にも目に見える形で効果を発 揮した。このようにして誕生したコミュニティは有機的に発展し、クリエイティ ブ な活動に地域住民や来訪者を取り込み、これがより多く の人々の創造性を育むこ とにつながった。さらに、より参加型で活気のある創造的な地域づく りの形成に も寄与した。Fab Cafe や Kyoto Makers Garage のようなグローバルなつなが りのあるクリエイティ ブ・スペースが、伝統工芸と新しいアート、製造業とテク ノロ ジー業界、グローバルネッ トワークと人材と知識等のように、地域のネッ トワーク をより広範な都市エコシステムとつなげ、地域コミュニティを拡大していった。 地域住民の取り込み クリエイティ ブ人材やクリエイティ ブ・スペースは、地域住民と協力し、地域住民 のための活動の提供や地域のニーズへの対応を活動の一環として行っている。例 えば、Fab Cafe の活動は地域住民にも開かれており、地域住民のためのイ ベン トも開催されている。クリエイティ ブ・コミュニティが京都駅東部エリアを開発し、 変容させていく中で、建物の保存やアダプティ ブ・リユースを実践したからこそ、こ の統合プロセスが有機的に行われた。一方、西部エリアはかつて工業地帯だっ たことから、多様なステークホルダー、京都リサーチパーク、中央卸売市場、地 元の工場や食料品倉庫、企業等とのつながりが生まれた。 京都市は、介入する際にも参加型のプロセスを採用している。京都駅西部エリア と東部エリアにおける戦略的行動においてもそのプロセスを踏襲しており、地域 住民の参加を得ている(例:京都市立芸術大学移転や、梅小路公園再整備)。さ らに、京都市は変容の過程において特定のプロジェクトを立ち上げ、地域住民の 京都:クリエイティブ都市 ニーズに応えた。例えば、東部エリアにおける京都市立芸術大学の移転プロセス では、地域住民との対話を経て、屋台村や地域住民らのための市場を作った。 さらに、京都市はこの参加型のプロセスに加えて、大学建設予定地から移転する 住民に対し、市営住宅を用意した。そうすることで、近隣住民の社会的な構造 を維持し、この地域の住民が家賃の値上がりによる悪影響を受けないようにして いる。 82 第5章 83 創造性を 京都市の政策 :  可能にする環境と ・ 京都市の世界文化自由都市宣言 (1978) 市の統一された ・ 「京都文化芸術都市創生条例」 ビジョン ・ 地域将来構想 – 京都駅周辺エリア – 東部、西部、東南部 京都駅東部エリア活性化将来構想 : 京都駅西部エリア活性化将来構想 : 「文化芸術都市・京都」の新たなシンボル 多彩な地域資源をつなげ、京都の新し ゾーンの創生 い賑わいを創出するまち クリエイティブ資本 史跡、2 本の河川沿いの自然、2 つの芸 史跡、京都リサーチパーク、梅小路公園、 術大学、芸術家、クリエイター、伝統 中央卸売市場、鉄道博物館、水族館、 職人の集積 京の食文化ミュージアム、商店街等 クリエイティブ人材と クリエイティブ人材 : グローバルなつながりの 伝統産業、 スタート アップ · エコシステムの人材のほか、 京都大学、 京都市立芸術大学、 あるカタライザー 京都美術工芸大学など京都市内の様々な大学からの潜在的なクリエイティ ブ人材 クリエイティブ · コミュニティにおける、グローバルなつながりのあるカタライザー (FabCafe, Kyoto Makers Garage 等): クリエイティ ブ人材やその他のクリエイティ ブ · スペースをエリアに惹きつける 有機的なコミュニティの 公的なプロジェクト 公的なプロジェクト 発展 ・ 京都市立芸術大学移転 ・ 梅小路公園再整備計画 ・ 京都美術工芸大学東山キャンパス開 ・ 中央卸売市場設備整備 設 ・ JR 梅小路京都西駅開業 東部エリア 西部エリア クリエイティブ · ネイバーフッド クリエイティブ · ネイバーフッド クリエイティブ職の人たちが緊密に結び (発展途上 ) ついたクラスターを形成 (五条エリア ) 地域住民の取り込み 地域住民参画のための 地域住民参画のための 自治体と地域住民の対話 自治体と地域住民の対話 ・ 期間限定の屋台村 ・ 梅小路公園再整備 ・ 住民用の市場 ・ 中央卸売市場施設整備 ・ 市営住宅建設計画 地元住民に開放 京都リサーチパーク、市場、食品倉庫と ・ 活動を提供 のつながり ・ 地元コミュニティのための施設等 図 5.1 京都におけるクリエイティブ・コミュニティの 発展や都市変容をもたらした要素 京都の事例から学ぶ 以下に、クリエイティブ都市の支援や形成に関心のある都市行政の実務者や政 策立案者にとって重要な知見をいくつか示した。先述したインパクト区分に基づ クリエイティブ都市の き、地域経済の活性化、都市変容、社会的包摂を中心に構成されている。 発展における主な知見 地域経済の活性化 ・ 創造的・文化的遺産の資本を守り、育成する。 京都には、創造的な建築物や構造物、パフォーマンス・アートやお祭り、環境 に関する昔からの知恵、手工芸など、有形・無形のクリエイティ ブ資本が豊富 に存在する。京都市は積極的にこれらの資産を保護・保全しており、それがク リエイティブ・スペースやクリエイティブ・コミュニティの発展や拡大に貢献してき た。京都市はさらに、創造性に関する共通認識を、行政関係者、民間企業、 クリエイティブ・コミュニティや起業家コミュニティ、地元住民といったステーク ホルダーの間で生み出してきた。 ・ カタライザーを知り、交流する。 カタライザーはクリエイティ ブ・コミュニティにおいて、空間や建物の開発を誘 発し加速化させることで、クリエイティ ブな人々や企業、その周辺全般に影響 を及ぼす。一人または複数のカタライザーが同時にこの役割を果たすことがで きる。京都の事例では、クリエイティ ブな企業や大学、個人、そして都市プロ ジェクトがこれまでのところカタライザーとして機能している。したがって、クリ エイティブ・コミュニティは、ただ単に個々のクリエイティ ブ・スペースの集合体 ではなく、変化の原動力となるカタライザーが、意識やビジネス手法の変化を もたらした結果として現れるものである。また、カタライザーと市が連携するこ とで、戦略的な都市プロジェクトとコミュニティの優先事項をすり合わせること ができ、変容プロセスを加速することができる。その例が、京都駅西部エリア での、中央卸売市場の拡張計画、京都リサーチパークのオー プン・イノベーショ ン・プログラム、Kyoto Makers Garage でのものづくりとフードテックのコミュ ニティ開発における連携である。 ・ イネーブラーになる。 クリエイティブ・コミュニティが成長するためには、創造的・文化的遺産の資本 だけでは不十分であり、成長を可能にする環境が必要である。京都では、行 政と民間企業が政策、 投資、 不動産開発分野でその役割を果たした。京都市は、 地域コミュニティ と連携して、いくつかの産業の競争力を高めるための戦略を市 レベルで何年にもわたって実施してきた。さらに、京都市は「京都駅東部エリ ア活性化将来構想」を掲げ、これがクリエイティ ブ都市の計画にトップダウンの 指針を与えた。京都駅東部エリアでクリエイティ ブ・コミュニティが拡大し、都 京都:クリエイティブ都市 市変容が起きる中で、京都市は京都駅周辺エリア全体の将来構想を見据えて、 クリエイティブ・ネイバーフッドの範囲を拡大していった。 84 第5章 85 ・ 全てに当てはまる解決策はなく、様々なアプローチが必要。 京都の事例では、クリエイティ ブ都市の形成にあたって、ボトムアッ プとトップ ダウン混合のアプローチがとられた。この両アプローチは、互いに関連し合い 相乗効果を出すことが多い­つまり、京都は古くから文化芸術の拠点であった ことから、クリエイティブ・コミュニティを魅了し、かつ、クリエイティ ブ・コミュ ニティを支えてきたが、その間市は一貫して追い風を送り続けてきた。京都は、 芸術家や起業家、職人やその他クリエイティ ブ・コミュニティのメンバーが有機 的な動きで徐々にクリエイティ ブ基盤を形成していった一例である。 クリエイティ ブ・コミュニティは、適切な環境にあったからこそ、地域に根を下ろすことがで きた。そこから、京都のクリエイティ ブ資本である文化遺産や伝統を基礎とし て築き上げていった。また、その際カタライザーが積極的にクリエイティ ブ産 業をつくるという先駆的な役割を果たし、最終的には、これらの努力の結果、 様々な個人や組織によっ て構成されるクリエイティブ・コミュニティの形成につな がったのである。 ・ 都市変容における自治体の役割は、保護的役割からイネーブラーへ発展。  都市変容 京都の事例のように、自治体の役割も時間の流れと共に変わり、時にはクリエ イティブ・コミュニティやクリエイティブ・ネイバーフッドの発展にともなって、そ れを補完し、追い風となる方針を打ち出す ような積極的な役割を担う必要があ る。 ・ 住民参加と住民のための価値の創造。 社会的包摂 トップダウンのプロセスに住民を積極的に参加させることで、自治体は住民の ニーズに応え、住民のために付加価値を提供することができる。京都駅東部エ リアでは、住民参加のプロセスがあったからこそ、地域住民のニーズにあった 新たなサービスやアメニティが提供された。また、京都の共有文化を活用する ことで、クリエイティブ・スペースが住民のための新たなサービスを生み、ボト ムアップで有機的に新しいコミュニティに融合することができた。 ・ クリエイティブな地域と学術機関との相乗効果を高める。 クリエイティブ都市において、大学やその他の高等教育機関は多面的な役割を 果たし、かつその影響は、学術の分野を越えて広がっている。大学は地域に 人材を輩出する存在であり、その地域の企業は在校生や卒業生が労働市場に 参入する際に直接その恩恵を受けることができる。同時に、大学は、クリエイ ティブ都市の影響力を拡大するという波及効果をもたらす。京都市の事例では、 京都市立芸術大学と京都美術工芸大学のキャ ンパスの移転・開設が、学術界 を越えて触媒効果をもたらすことが端的に示された。大学の教職員や学生は新 しくなった施設の恩恵を享受できるほか、周辺コミュニティにも大学の新たな 公共空間にアクセスできるというメリットがある。大学はこれらの空間を活用し て地域の芸術家やミュージシャ ンに発表の場を提供し、その影響を拡大する計 画だ。また、自治体は、高齢の住民らが文化芸術や地域の活動に参画できる 「住宅地区改良事業」 ように、 という補助金制度を通じて、自治体が住宅を改良 し、手ごろな家賃で住民に提供する。 ・ 複数のセクターとのパートナーシップがクリエイティブ ・コミュニティの成長に 不可欠である。 クリエイティブ産業のプレーヤーによる草の根レベルでの活動の場合も、自治 体による都市戦略構築の場合も、クリエイティ ブ都市内の様々な業種のステー クホルダーが業界横断的に関与している。京都では駅周辺地域に様々な組織 が拠点をもち、それらがこの地域をよりダイナミックで、包摂性、居住性の高 いエリアにしている。これはクリエイティブ・コミュニティの形成にあたって、多 種多様なパートナーシップが必要不可欠であることを示している。 行動 1 地域の環境を保護する。 自治体はしばしば、文化遺産を保護・保全する役割を果たす。京都市では、地域 の景観や建造物の高さを調整するための条例や、文化遺産保護のための様々な 政令を制定している。 行動 2 クリエイティブ・エリアにふさわしい地域を見つける。 自治体は、クリエイティブ・エリアになりそうな地域を特定する。その役割は年月 をかけて徐々に変化し、その地域の居住性を高めるイネー ブラーになり、その過 程でクリエイティブ階級の確立を手助けする (Florida 2013)。 行動 3 地域の居住性を高める。  自治体は、特定の場所の持続可能性と居住性を向上させるために少額の投資を (例:ウォーター 行う フロントの再生プロジェクト、緑地・公園整備、橋や地域の 美観改善、学校の改修やクリエイターが利用する場所の再利用など)。京都では、 貨物駅跡地に大きな公園や博物館が作られ、小規模な公共アメニティ改善、利 用可能な公共資産の再利用などの取り組みが行われた。 ボックス 5.1 京都の変容における 京都市の役割 京都:クリエイティブ都市 86 第5章 87 行動4 適切な時期に、より大規模な都市再生プロジェクトを実施する。 自治体は、より規模の大きな都市再生プロジェクトを主導できる立場にある。ク リエイティブ・ネイバーフッドはこの行動がなくても繁栄できる。使用されなくなっ た土地や公共空間の再生等を含む、小規模でボトムアッ プ型の都市再生も地域 における都市変容を引き起こすことができる。京都駅東部エリアでは、京都市立 芸術大学移転計画が行政主導の大規模なイニシアチブとして挙げられる。西部エ リアでは、京都市は大規模な介入だけでなく、様々な小規模な介入も行っ ている。 行動5 変革プロセスへの地域住民の参加を促す。 地域住民が地域再生ビジョン・計画や触媒的な都市再生プロジェク トに参加する ことで、プロセスへの賛同や持続可能性を担保することができるほか、新しいコ ミュニティを既存のコミュニティに統合することができる。京都市は、地域の計画 やプロジェクトを市民参加型で実行することにより、京都駅東部エリアにおける 建設的な変容が実現したほか、東部エリアに移転する京都市立芸術大学の施設 も地域のコミュニティや文化と融合することが可能となった。 行動6 カタライザーに対する戦略的支援を提供する。 カタライザーに対する支援は、特にコミュニティ開発の初期段階においてはクリエ イティブ人材や起業家を惹きつけ、コミュニティ開発を後押しすることとなる。京 都駅西部エリアでは、京都市と Kyoto Makers Garage が連携し、両者の積極 的な支援と連携によっ て、トップダウン(触媒的な作用をする都市再生プロジェク ト等)とボトムアップ(クリエイティブ・コミュニティの有機的発展) の両アプローチ の相乗効果が引き出せた。 表 5.1 都市再生、クリエイティブ・コミュニティ、クリエイティブ・スペースの誕生に関する 主な政策、出来事の年表 西部エリア 行政主導の 都市再生 有機的に出現した 地域コミュニティ イニシアチブ 関係の動き クリエイティブ・ 京都市の計画 (民間とのパートナーシップ スペース プログラムを含む) 京都市 京都リサーチパーク 2001 スーパーテクノシティ 構想 2002 2003 2004 京都市伝統産業 2005 活性化推進条例 京都文化芸術 2006 都市創生条例 京都文化芸術 2007 都市創生計画 2008 2009 2010 京都市 2011 新価値創造ビジョン 京都:クリエイティブ都市 出典:京都市およびクリエイティブ・スペースの情報をもとにした世界銀行データ 88 第5章 89 東部エリア 行政主導の 有機的に出現した 都市再生 エリア計画 クリエイティブ・ 地域コミュニティ (京都駅周辺エリア) 関係の動き イニシアチブ スペース (民間とのパートナーシップ プログラムを含む) 2001 2002 2003 2004 あじき路地 2005 2006 2007 2008 崇仁地区将来ビジョン 2009 Box & Needle 検討委員会開催 2010 2011 地元コミュニティの 京都市立芸術大学 参画 移転(次のページへ) 表 5.1 都市再生、クリエイティブ・コミュニティ、クリエイティブ・スペースの誕生に関する 主な政策、出来事の年表 西部エリア 行政主導の 都市再生 有機的に出現した 地域コミュニティ イニシアチブ 関係の動き クリエイティブ・ 京都市の計画 (民間とのパートナーシップ スペース プログラムを含む) 梅小路公園: 水族館開業 2012 中央卸売市場 : すし市場開業 中央卸売市場 : 京の食文化ミュージアム 2013 中央卸売市場 : イベント スペース KYOCA 開業 2014 梅小路公園 : 2つの新広場オー プン 地元コミュニティの 梅小路活性化委員会 2015 参画 クリエイティブ・ 京都文化力プロジェク ト 梅小路公園: 間接的な影響: ネイバーフッドの 2016 2016-20 / 文化庁の京 京都鉄道博物館開業 人の流れ、 形成 都への移転 地域のイメージ、 第 2 期京都文化芸術都 行政の構想 市創生計画  Kyoto Makers Garage 2017 第 3 期京都市伝統産業 活性化推進計画 2018 直接的・ 梅小路公園 : 間接的影響: アイススケートリンク開業 人の流れ、 河岸ホテル 地域のイメージ、 2019 JR 梅小路京都西駅 バーベキューコート 339 行政の構想 開業 & Madogiwa cafe 339 京都:クリエイティブ都市 2020 2021 2022 2023 90 第5章 91 東部エリア 行政主導の 有機的に出現した 都市再生 エリア計画 クリエイティブ・ 地域コミュニティ (京都駅周辺エリア) 関係の動き イニシアチブ スペース (民間とのパートナーシップ プログラムを含む) (前のページへ) 2012 京都市立芸術大学の崇 クリエイティブ・ 地元コミュニティの 仁地区への移転・整備 2013 ネイバーフッド 参画 に関する要望書を大学か の形成 ら市へ提出 京都市立芸術大学の 京都駅西部エリア 崇仁地区への 2014 五條製作所 活性化将来構想 移転計画につき、 京都市が発表 サウナの梅湯、 京都市立芸術大学 2015 ギャラリーメイン & 移転整備基本構想 Lumen Gallery Kaikado Café 間接的な影響: 2016 人の流れ、地域のイメージ、行政の構想 FabCafe Kyoto, Walden Woods 京都美術工芸大学 2017 Kyoto 東山キャンパス開設 Le Wagon コーディング 2018 崇神新町屋台村 ブートキャ ンプ コミュニティを つなぐ UNKNOWN Kyoto 京都るてん商店街 京都駅東部エリア Crafthouse Kyoto 2019 活性化将来構想 京都市立芸術大学 2020 建築着工 2021 かぶやま Project(仮称) 2022 京都市立芸術大学 2023 移転整備完了 出典:京都市およびクリエイティブ・スペースの情報をもとにした世界銀行データ 西部エリア 京都駅周辺の クリエイティブ・コミュニティを支えている クリエイティブ・スペースのカタログ 東部エリア 京都駅 東部エリア あじき路地 102 ギャラリーメイン & Lumen Gallery 128 Box & Needle 120 FabCafe Kyoto 五條製作所 132 Le Wagon 96 UNKNOWN Kyoto コーディングブートキャンプ 114 146 開化堂本店 136 Walden Woods Kyoto サウナの梅湯 152 108 京都ビアラボ 142 Kaikado Café 136 Crafthouse Kyoto 124 Fabcafe kyoto FabCafe Kyoto 設立 役割 2017 年 カタライザー 〒600-8119 京都市下京区本塩竈町 554 fabcafe.com/kyoto インパクト 京都:クリエイティブ都市 • クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 都市変容 ・ 地域経済の活性化 空間変容 イノベーションや産業改革を支援 ダプティブ・リユース スキル開発 ・ 社会的包摂 グローバルなアクセスやコネクション 98 カタログ 東部エリア 99 Fabcafe kyoto FabCafe Kyoto は、 世 界 11 ヶ 所 にある FabCafe ネットワ ー クの 一 部 で、 説明 FabLab(ファ ブリケーション・ラボ)に共感して作られた。クリエイ ターや作り 手が集うカフェで、このカフェの会員は、3D プリンターやレーザーカッターなど 最新のデジタル機器や工具を利用して試作品の製作などができる。FabCafe Japan 創設メンバーの岩岡孝太郎氏は、クリエイティ ブ・コミュニティの運営をし ていたロフトワークに FabCafe の計画を提案し、FabCafe Kyoto を共同で設 立した。その立ち上げ当初から、FabCafe は創造やイ ノベーションのための玄関 口の役割を果たし、 毎日大勢の製作者やクリエイ ターに利用されているほか、 人々 の交流の場を提供している。 FabCafe は「グローバルにデザインし、ローカルに作る」 という理念を掲げ、クリ エイ ターや製作者が新しいデザインやものづく りをするために集まる場を提供して いる。FabCafe のグローバルなネッ トワークを後ろ盾に、FabCafe Kyoto は地 域のクリエイティ ブ・コミュニティを育成することで、インパックトのあるクリエイティ ブな変化をもたらそうとしている。また、Fab Cafe はイベントや展示ができる空 間を提供し、ショールームやカフェとしての機能も果たす。古いものや手法から新 しいものを生み出す 「デジタルものづく のコンセプトに沿ったイ り」 ノベーション拠点 として人気を集めている。 FabCafe は、その規模や国際的なブランド力とネッ トワークによっ て、どのロケー 役割: ションにあろうとも自然とカタライザーになる。FabCafe は都市再生を支え、地 域のつながりを生み出すだけでなく、 その国際的なネッ トワークを活用して、 グロー カタライザー バルな学習、 働きかけ、 市場アクセスを可能にしている。また、 FabCafe ではツー ルの使い方が学べる講習会も開催しており、参加者のスキル向上やクリエイティ ブ・コミュニティの成長をサポートしている。さらに、講演会やセミナー、交流会 やトークイベント、知識向上のためのイベントも開催しており、学びのみならず、 専門家やクリエイティ ブ・コミュニティ内におけるネッ トワーク構築にも役立っ てい る。カフェとして、 FabCafe はアーティスト、学生やクリエイティ ブな人々が集まり、 自由に交流し、共に何かを作り、コラボレーションする場を提供している。 インパクト FabCafe はクリエイティブ・コミュニティにとって地域で重要な場であり、製作者 やアーティ ストがコラボレーションをしたり、アイディアを出し合ったり、交流する 場を提供している。 クリエイティブ・ Fab Cafe には年間約 1 万人が訪れ、クリエイティブ・コミュニティの拡大に貢献し ている。さらに、Fab Cafe は事業のプロモーションやアクセラレーションのため コミュニティの構築 に活用されており、産業界の専門家が人材やアイディ アを発掘したり、アーティス トや製作者、イ ノベーターがアイディ アやプロジェクトを売り込むために産業界と つながることができる。Fab Cafe はクリエイティ ブなコワーキングスペースを提 供し、利用者はインターネッ トや電源を無料で使うことができる。 Fab Cafe は毎年 100 件以上のイベントを開催し、交流会やイベントまたは Fab Cafe のカフェスペースでアーティストや研究者、職人やクリエイターが交流し、 協力し、共同で作業したり、クリエイティ ブなアイディアを引き出し合ったりしてい る。 地域経済の活性化 Fab Cafe は「デジタルものづく り」の導入において重要な役割を果たし、様々な 機器や工具を使っ て 「古いものを新しい手法で作る」 ことを促進している。 ものづ イノベーションや くりの初心者もベテランも、最新の工具や機器を格安料金で利用できる。 毎年、 産業改革を支援 Fab Cafe Kyoto から平均 500 件のクリエイティブなアイディアが生まれる。創 造性やイ ノベーションを支援するだけでなく、製作者と共同で何かを創り出すこと もある。 スキル開発 Fab Cafe は講習会を開催し、製作者のスキルや才能磨きを手助けしており、地 域のアーティ ストやクリエイティブ人材に経済的機会を提供している。Fab Cafe の環境、専門知識を有したスタッ フ、工具によって学生や社会人ら利用者が新し いスキルを身につけ、アイディ アを形にすることが可能となっている。 京都:クリエイティブ都市 100 カタログ 東部エリア 101 Fabcafe kyoto Fab Cafe はクリエイティブ・コミュニティでカタライザーの役割を果たし、クリエ グローバルなアクセスと イティ ブ・スペース間の発展やコネクションを促進している。京都駅東部エリアに コネクション 位置する Fab Cafe は、東部エリアにあるクリエイティブ・スペースをつなぐ役割 を担っている。また、広いネッ トワークを有しているため、その影響は東部エリア に留まらず、西部エリアやその周辺にもクリエイティ ブ・コミュニティの発展を引き 起こした。 Fab Cafe は、ローカルとグローバルなネットワークを活用して、ものづく りコミュ ニティが商品をデザインし、開発することを支援している。海外市場に進出した くても短期間に大きな投資をするのが難しい企業は、このスペースと現地の Fab Cafe コミュニティを活用できる。現地の Fab Cafe のチームが、クリエイティブ 職とのインタビューを行ったり展示会をする等、国際的なキックオフイベントを支 援することができる。Fab Cafe は店舗での講習会等と絡めた販売戦略の立案の ほか、テスト販売やコミュニティ構築を含むローカル市場の調査を行う。 Fab Cafe は、ローカルにもグローバルにも、伝統文化遺産と新しい技術の重要 なつながりを促進している。このつながりは、クリエイティ ブ資本や文化遺産促進 にプラスの影響を及ぼす。 Fab Cafe はカタライザーとして機能し、未成熟だったコミュニティをわずか2年 都市変容 足らずで成熟期へと押し上げた。FabCafe は他のスペースの拠点やコーディネー ターとして機能し、この地域をクリエイティ ブ・ネイバーフッドに変容させる上で相 空間変容と 乗効果を発揮した。FabCafe は築 120 年の木造建築を改修して使っており、建 アダプティブ・リユース 物は周辺の五条界隈の特徴を今に残す。FabCafe はその存在を活用して新旧 や伝統と改革、アナログとデジタルが交わるエリアをつく ることを目指している。 FabCafe は、開業当初から近隣エリアの活性化にプラスの影響を与えてきた。 五条エリアは最近、京都のクリエイティ ブ・スポットとして栄え、FabCafe はその プロセスに大きく貢献した。FabCafe が 2017 年に開業してから2年のうちに、 Le Wagon コーディング・ブートキャンプや UNKNOWN Kyoto などほかのクリ エイティ ブ施設も開業した。 その名が示す通り、FabCafe にはカフェがあり、観光客や地元の人々が飲食で 社会的包摂 きるほか、製作者や芸術家の作業を見たり、交流することができる。FabCafe は芸術家やクリエイ ターの人もそうでない人も分け隔てなく歓迎し、地元住民が クリエイティブ・コミュニティと交流し、融合するよう働きかけている。 あじき路地 あじき路地 設立 役割 2004 年 アンプリファイア 〒600-8119 京都市下京区本塩竈町 554 fabcafe.com/kyoto インパクト 京都:クリエイティブ都市 ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 ・ 都市変容 ダプティブ・リユース ・ 社会的包摂 104 カタログ 東部エリア 105 AJIKI ROJI あじき路地は、長屋路地の 14 軒の町屋を改修した、アーティストの住居兼工房 説明 である 。 [14] 2004 年に大家の安食弘子 (あじきひろこ)氏が先祖代々所有してきた14軒の町 屋を改修して、日本各地から集まって くる若手芸術家に貸し出すことにしたことか ら、「あじき路地」 が生まれた。あじき路地は、町屋を住居兼工房や店舗として使 う若手芸術家のニッチなコミュニティ となっている。 安食氏は、京都市東山区で伝統的な紙漉き職人の家庭に生まれた。若い頃は芸 術家を目指したものの、結婚を機にその夢をあきらめ、家庭を優先させた。しか し、あきらめた自らの夢を若手芸術家に託すべく、 「あじき路地」を作り、若手作 家の支援を始めた。安食氏はあじき路地の住人に 「お母さん」 の愛称で親しまれて いる。安食氏は若手芸術家にとっては大家であるとともに、食事を届けたり、茶 道教室を開くなど、芸術家の日常生活での困りごとを助けて くれる存在だからだ。 安食氏は 「お母さん」 そして、 大家、 芸術の熱心な提唱者として、 京都のクリエイティ ブ・コミュニティの象徴的な存在である。 あじき路地に住みたい若手芸術家は日本各地から応募して くる。その応募書類を 安食氏自身が厳しく審査する。あじき路地に住む芸術家はほとんどが 20 代から 30 代と若く、工芸、デザイン、料理など様々な分野で活躍している。改修され た町家は住居兼工房として手ごろな家賃で貸し出されている。他所で住居や工房 を借りる余力がない若手芸術家は、 「巣立つことができる」 ほど成功するまであじき 路地に住み続けることができる。 あじき路地は、長屋路地に 14 軒の町屋と規模は小さいものの、クリエイティブ・ 役割: コミュニティの象徴的存在である。若手芸術家が京都のクリエイティ ブ・コミュニ ティに参画する足がかりを得られる場所となっているという点でアンプリファイア アンプリファイア である。あじき路地はニッチなコミュニティではあるが、京都の歴史的な文脈に 組み込まれている。あじき路地の物語は、京都では伝統と新しい創造性の調和 がクリエイティブ・コミュニティを構築する原動力になることを示している。あじき 路地は、「新参者」 とみられるのではなく、京都の遺産と文化を継承する 「よそ者」 コミュニティに芸術家らが参加するための玄関口であると見られている。 インパクト 若手芸術家は、この長屋路地に住むことで、共通のアイデンティティ とニッチなコ ミュニティを形成する。これは、京都出身ではない芸術家には特に価値がある。 クリエイティブ・ あじき路地を「卒業」した若手芸術家は、卒業後もあじき路地のアイデンティティ を持ち続ける。あじき路地の 「卒業生」は、まだ人数としては少ないが、より大き コミュニティの構築 なクリエイティブ・コミュニティで活動し、そこに融合していくことから、極めて重 要な資産となる。 地域経済の活性化 若手芸術家の住居の大家としてだけではなく、「お母さん」として若手芸術家に助 言をしたり、芸術家の作品をメディアや潜在的な客に紹介している安食氏の目標 無形のクリエイティブ資本や は、若手芸術家があじき路地を卒業できるよう、実力をつけさせることだ。また、 意識の向上 安食氏は日本的な礼儀作法を学ぶことが大切だと考えており、あじき路地の住人 向けに、毎月一回茶道の稽古をつけている。ニッチなコミュニティではあるものの、 新しいテナントを安食氏自身が厳しく審査した上で決めているため、あじき路地は クリエイティブ・コミュニティにおいて良質な貢献をし続ける。 都市変容 あじき路地の改修された町家は、空き家や利用されていない建物の文化的な魅力 を保ちつつ、より生産的な使われ方をするように再利用するという京都のトレンド アダプティブ・リユース の一例である。あじき路地の町家は、120 年以上前から安食氏の先祖が代々所 有してきたものだが、あじき路地が誕生するまでは長年空き家となっていた。そ の長屋の空き家を大規模に改修して、京都のひっそりとした住宅街に佇む、アー トな路地裏が誕生した。この改修で、無形経済の新たなビジネスが生まれ、京 都の豊かな歴史や伝統を保っている。 社会的包摂 あじき路地における社会的包摂は模範的なもので、社会的包摂を促進する上でク リエイティブ産業が果たす役割を証明している。安食氏は、特に若手の芸術家や クリエイターを始め、あらゆる人々を歓迎している。そして、若手芸術家が独り立 ちできるまで、格安で住居や工房を提供している。京都の文化や慣習、生活様 式を若手芸術家に教えることで、あじき路地は無形の創造的で文化的な能力を 若手芸術家に教え、彼らが地域の文化に融合できるようにしている。こ うするこ とで、様々な背景を持った若手芸術家が地域に馴染んでいく。 京都:クリエイティブ都市 106 カタログ 東部エリア 107 AJIKI ROJI サウナの梅湯 サウナの梅湯 設立 役割 2015 年 アンプリファイア 〒600-8119 京都市下京区本塩竈町 554 fabcafe.com/kyoto インパクト 京都:クリエイティブ都市 ・ 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 ・ 都市変容 空間変容 ・ 社会的包摂 110 カタログ 東部エリア 111 SAUNA NO UMEYU 五条エリアにあるサウナの梅湯は、創業 80 年の銭湯である。経営者の湊三次郎 説明 氏は、学生の頃、大の銭湯好きで、学生の頃にアルバイトとして働いていたサウ ナが廃業すると知ると、それを引継いで銭湯として生まれ変わらせることを決意し た。湊氏のリーダーシップの下、サウナの梅湯は繁盛し、国内外から大勢の観光 客やインスタグラマーを引き寄せている。 この銭湯は、伝統文化や芸術を新しいアイディアやビジネスモデルと融合させた 完璧な事例である。コンサートの開催など、新たな要素も数多く加えつつ、古く からの建物の外観や銭湯文化の根底にある伝統を残している。 サウナの梅湯は、クリエイティ ブな人材をこの地域に惹きつける磁石のような役割 を果たしている。コンサートやミュージカル ・ショー、カラオケを含む様々なイベン トが開催され、伝統的な銭湯に活気をもたらし、クリエイティ ブな人々や流行に 敏感な人々が集まって くる。しかし同時に、多く の地元の住民も入浴目的でこの 銭湯を利用しに来る。公衆浴場での入浴は日本の伝統的なコミュニティ活動であ る。日本の温泉や銭湯文化は今も根強い人気を誇り、地元の人々も定期的にサ ウナの梅湯を利用している。この銭湯のクリエイティ ブな側面と活動が、地元の 住民とクリエイティブな人々との交流を生んでいる。 サウナの梅湯は京都にある典型的な銭湯や公衆浴場と比べて異質な存在だ。こ 役割: こでは、公衆浴場の伝統文化的な概念を継承しつつ、音楽フェスティバルやカラ オケやその他のイベントなどエンターテーメントを提供し、より多くの人々を惹き アンプリファイア つけている。また、その独特の風情で周辺の開発にも影響を及ぼしており、地域 の変容にアンプリファイアとしてインパクトをもたらしている。 インパクト 伝統的にサウナなどの公衆浴場は、地域の人々のためのリラクゼーション、コミュ ニケーションや交流の場を提供してきた。サウナの梅湯は、この概念からさらに 地域経済の活性化 一歩踏み込んで音楽等のイベントを開催し、それらを通じてクリエイティブ・コミュ ニティや流行に敏感な人達を取り込もうとしている。 無形のクリエイティブ資本や 意識の向上 都市変容 サウナの梅湯は遊休地の多いエリアにあるが、公衆浴場の文化を維持し、現代 的な方法で観光客や地元の人々を取り込み、それによってエリアの動態も変えた。 空間変容 そして今では、このエリアにクリエイティブ・コミュニティを対象とした発展を引き 寄せたといえる。また、地元住民やクリエイティ ブな人材のための活動を提供し、 地域の社会的構造を強化している。この公衆浴場は、この周辺地域だけではなく 京都市内の注目スポットであり、都市計画のプランナーやデベロッパーも都市活 性化を促進するために着目している。 社会的包摂 サウナの梅湯の利用者は国内外からやって くるが、特に近隣の市営住宅の住人ら が多く利用している。外国人観光客も地元客も分け隔てなく歓迎し、多様な人 種のるつぼのような場所だ。地元住民は伝統的な公衆浴場として、クリエイティ ブ人材や流行好きな人々は日本の伝統や文化を楽しみつつ、コンサートやミュー ジカルといったイベントにも魅了されてこの公衆浴場を利用している。 京都:クリエイティブ都市 112 カタログ 東部エリア 113 SAUNA NO UMEYU UNKNOWN KYOTO UNKNOWN KYOTO 設立 役割 2019 年 アンプリファイア 〒600-8118 京都市下京区平居町 55 番地 1 unknown.kyoto/ インパクト 京都:クリエイティブ都市 ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 ・ 都市変容 アダプティブ・リユース ・ 社会的包摂 116 カタログ 東部エリア 117 UNKNOWN KYOTO UNKNOWN Kyoto は伝統的な街並みが残る五條エリアの路地裏にある。伝統 説明 的な京町屋2軒分を改修し、コワーキングスペース (働く)、レストラン(食べる)、 ホステル (泊まる)の 3 つの機能を備えた複合施設にした。近年、インバウンド観 光客の急速な増加に伴って、京都の街並みの変容が勢いを増してきている中で、 多く の京町屋がホステルに改装されている。しかし、このような独立型の施設は、 施設を純粋に宿泊施設として利用する短期滞在客が多く、そのような滞在客は 昼間は観光に出かけ、五条界隈ではほとんど時間を過ごさない。UNKNOWN Kyoto はこのようなトレ ンドを変え、観光客も住民も五条エリアにより深く関わる ことができるプラッ トフォームを提供している。 UNKNOWN Kyoto は 3 社 が 共 同 で 立 ち 上 げ た 事 業 で、 そ れ ぞ れ が UNKNOWN Kyoto の理念に貢献している。株式会社八清は京都にある不動 産会社で、京町屋等の伝統的家屋の改修を行って資産価値を高めるとともに、 空き家や遊休不動産を改修して地域の資産を創出している。株式会社 OND は 京都にある不動産会社で、 「不動産物件をエンターテーメントとして嗜む」という 概念を提唱し、オンラインプラット フォームを活用して京都の不動産を紹介して いる。株式会社エンジョイワークスは鎌倉を拠点とし、ボトムアッ プ型の都市 開発を強調している。2018 年には日本初の小規模な不動産共同事業「ハロー! を立上げ、空き地や遊休地の活用に特化した活動を行っ Renovation」 ている。 UNKNOWN Kyoto は他の京都のクリエイティ ブ・スペースと共通のテーマを共 有している­つまり、京都の伝統の中に深く根ざしながらも新しい概念を持ち込む ことで緩やかに有機的なかたちで地域に変化をもたらしている。 役割: UNKNOWN Kyoto はこの地域におけるクリエイティブ・コミュニティの初期か らの担い手ではないものの、有機的でコミュニティ主導の成長を五条エリアにも アンプリファイア たらしたという意味で重要な役割を果たした。 UNKNOWN Kyoto の3つの運 用の柱<食べる、働く、泊まる>は多様なコミュニティを惹きつけ、近隣地域と より深い関わりをつく りだしたほか、エリアにボトムアッ プの発展を引き起こした。 UNKNOWN Kyoto の中心にある「共創」という概念のもと、3 社は共にこのコ ミュニティに根ざした施設を作った。改修費用の一部は、8 ヶ月にわたるクラウ ドファンディングで集まった資金で賄われ、そのクラウドファンディングの支援者 がコミュニティや地域の発展におけるステークホルダーになった。UNKNOWN Kyoto はこのエリアにおける中心的なコワーキングスペースであり、スタート アッ プ企業やクリエイ ターが事業を拡大し、このエリアで新たに事業を立ち上げること を可能にする場を提供している。また、コワーキングスペースは多様な人々に利 「自分たちの街の 用されて新たな人材を惹きつけ、相乗効果を生み出すとともに、 将来について」のグループ議論も促している。 インパクト UNKNOWN Kyoto は、様々なステークホルダーが集まってディスカッション・イ ベントを開催したり交流を行い、近隣地域のイ メージ刷新を図るためのコミュニ クリエイティブ・ ティ空間である。UNKNOWN Kyoto の多目的性が、スタートアップ企業やクリ エイター、観光客、地元住民や地元企業のオーナーなど多様な人達をエリアに コミュニティの構築 呼び寄せている。常に先を見据えたクリエイティ ブ・スペースで、五条エリアの文 化の移ろいと共に成長していくだろう。 地域経済の活性化 サウナの梅湯は遊休地の多いエリアにあるが、公衆浴場の文化を維持し、現代 的な方法で観光客や地元の人々を取り込み、それによっ てエリアの動態も変えた。 無形のクリエイティブ資本や そして今では、このエリアにクリエイティブ・コミュニティを対象とした発展を引き 意識の向上 寄せたといえる。また、地元住民やクリエイティ ブな人材のための活動を提供し、 地域の社会的構造を強化している。この公衆浴場は、この周辺地域だけではなく 京都市内の注目スポットであり、都市計画のプランナーやデベロッパーも都市活 性化を促進するために着目している。 京都:クリエイティブ都市 118 カタログ 東部エリア 119 UNKNOWN KYOTO UNKNOWN Kyoto は、地域に新たなクリエイティブ活動や商業活動をもたらす 都市変容 ことで、近隣地域を変容させている。五条エリアには最盛期には 150 軒以上のお 茶屋や置屋があった。京町屋は縦格子の概観が特徴だが、五条にある町家には アダプティブ・リユース タイルやガラスの装飾が施され、独特の味わいを醸し出していた。UNKNOWN Kyoto のプロデューサーは、日本の 「スクラップ&ビルド」ではなく、「変更を最小 限にとどめつつ改修する」というモッ トーのもと、改修を手掛けた。そして、概観 には京町屋らしい縦格子を使い、エリアの住みやすさや京都らしさ、懐かしさを 演出した。 あじき路地と同様、UNKNOWN Kyoto も若手芸術家に場所やアメニティを提 社会的包摂 供し、彼らが京都のクリエイティ ブ・コミュニティに溶け込めるようにすることで社 会的包摂をもたらしている。京都のクリエイティ ブ・エリアにおいて格安な宿泊施 設を提供している UNKNOWN Kyoto は、新人アーティストのクリエイティブ・コ ミュニティへの包摂の一助となり、そのサービスを通じて、新参者が京都のクリ エイティブ・コミュニティに溶け込むのを手助けしている。UNKNOWN Kyoto は 地域のお祭りに参加したり、 毎月ボランティ アらで行う高瀬川の清掃(自治会主催) にも参加し、地域コミュニティの活動に積極的に参加している。 BOX & NEEDLE Box & Needle 設立 役割 2009 年 コントリビュータ 〒600-8191 京都市下京区五条通 高倉角堺町 21 番地 boxandneedle.com/kyoto.html Jimukinoueda bldg.3F-303 京都:クリエイティブ都市 インパクト ・ 地域経済の活性化 スキル開発 グローバルなアクセスとコネクション 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 ・ 社会的包摂 122 カタログ 東部エリア 123 BOX & NEEDLE Box & Needle は、創業 100 年を超える京都の貼箱のメーカーがオー プンした専 説明 門店で、 京都の伝統的な手漉きの紙や貼箱の製作、 販売、促進を行っ ている。また、 17 ヵ国以上から買い付けた紙や紙製品を地元の住民や観光客に販売しているほ か、日本の伝統的な技術を活用した紙製品づく りや貼箱づく りのワークショッ プも 開催している。 Box & Needle は、「捨てない箱」 というコンセプトのもと 2009 年に大西景子氏 が立ち上げた店で、山科に工房を構え 1919 年の創業以来、貼箱を製造してきた マルシゲ紙器が運営している。大西氏は、人々が長く見て使って楽しむことがで きる箱を作るワークショッ プも一般の人々向けに開催している。 大西氏の実家は老舗の紙器メーカーであるが、大西氏は日本各地や世界中から 役割: 紙を買い付けるとともに、商品を販売するだけではなく、つく る魅力を伝えるため に毎月ワークショップを開催し、クリエイティブ・コミュニティを惹きつけている。 コントリビュータ 昔ながらの紙製品を刷新することを目指しており、Box & Needle は京都で紙や 紙製品を扱う代表的な店である。 インパクト 地域経済の活性化 Box & Needle は、ワークショップを通じて、一般の人向けに貼箱の製作体験の 場を提供している。 スキル開発 Box & Needle は紙製品を通じて世界の様々な種類の紙の材料を提供している。 グローバルな そうすることで、日本や海外の異なる文化、スタイル、紙の種類に触れることが アクセスとコネクション 可能である。 Box & Needle は紙漉きや紙製品に賛同し、京都の伝統的な紙漉きの技術の復 無形のクリエイティブ資本や 活を支援することで、京都の文化遺産を広めている。この店は、伝統的な商品と 意識の向上 新たなビジネスのやり方を結び付けている。また、紙漉きの技と無形経済の成長 をつなげることで、このエリアのクリエイティ ブ活動にさらに活気を与えている。 Box & Needle にはカフェ・スペースもあり、製作者や芸術家、クリエイターのコ 社会的包摂 ワーキングスペースとして活用されている。誰でも利用できるため、このスペース は社会的包摂を促進し、学生や社会人、クリエイティ ブ職の人もそうでない人も、 若者や高齢者等も、あらゆる人が利用できる。 Crafthouse Kyoto Crafthouse Kyoto 設立 役割 2019 年 コントリビュータ 〒600-8138 京都市下京区大宮町 211 crafthousekyoto.com インパクト 京都:クリエイティブ都市 ・ 都市変容 ダプティブ・リユース ・ 社会的包摂 126 カタログ 東部エリア 127 crafthouse kyoto Crafthouse Kyoto は 「クラフトビール、コーヒー、音楽」をテーマにしたレストラ 説明 ン兼パブである。築 100 年近くになる町屋を改装して京都の精神とユニークな空 間を融合し、ここを訪れた人の記憶にいつまでも残る経験を届けるという理念を 掲げる。日本各地から厳選した 50 社以上のビール醸造所から仕入れたクラフト ビールを提供し、 良質なコーヒーや、 最高の旬の素材を使った料理が自慢だ。オー ナーの白石拓海氏は京都出身で、世界各地で暮らした後、 「世界とつながるコミュ ニティを作りたい」 (八清パーク事務局、2020 年)という思いで地元に戻ってきた。 Crafthouse Kyoto は地元の住民や出張客、こだわりのある観光客らが集っ てい る。 Crafthouse Kyoto は、町家を改装した店で、クリエイターや観光客、地域住 役割: 民らが集い、つながりを築けるユニークな場所である。 コントリビュータ Crafthouse Kyoto のオーナーは、築 100 年近い町家を改装し、2階建てのレ インパクト ストランに建て替えた。町家の中にある大黒柱を見て、オーナーの白石氏らはこ こをクリエイティ ブ・ スペースに変身させられると直感した。 町家の中でクラフトビー 都市変容 ルを提供するというのは、京都の精神ー伝統、品質、匠の技ーを表現するビジ ネス、またブランドとして自然な選択だった。町家を利用したこのレストランは、 アダプティブ・リユース 京都の伝統的な街並みに馴染んでいると同時に、活気あふれるスタイリッシュな 空間となり、地域を変容させた。 Crafthouse Kyoto のオーナーが思い描いたように、Crafthouse Kyoto を訪 社会的包摂 れるクリエイ ターや地域住民、外国人観光客や音楽愛好家が 「つながれる」 場所 となっ ている。 ギャラリーメイン & Lumen Gallery ギャラリーメイン & Lumen Gallery 設立 役割 2015 年 コントリビュータ 〒600-8119 京都市下京区麩屋町通五条上る下鱗形 gallerymain.com 町 543-2F lumen-gallery.com/ 京都:クリエイティブ都市 インパクト ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 ・ 都市変容 ダプティブ・リユース 130 カタログ 東部エリア 131 gallery main & lumen gallery ギ ャラリーメイン& Lumen Gallery は、かつて倉庫だった建物を改装し 説明 たギャラリーである。両ギャラリーともクリエイティ ブ・ムーブメントの先 駆者で、より手頃な家賃と広さを求めてこの地域に拠点を移した。ギャ ラリーは目立たず、街並みや近隣の活動を妨げることもないため、控えめに都市 変容を促進している。ギャラリーメインは写真を中心に取り扱うギャラリーである。 「対話」をモットーにしており、人々がつながり、新たな相乗効果を生み出す空 間を創造している。Lumen Gallery は、映像専門ギャラリーで、アニメーション ドキュメンタリー作品などを上映している。主に個人や少人数のアーティ やドラマ、 スト・グループやビデオグラファーらの作品を紹介し、地元のクリエイティ ブ人材 に新たな機会を提供し、この地域を前衛的なクリエイティ ブ拠点にしている。 ギャラリーメイン& Lumen Gallery は住宅街にあり、エリアのクリエイティブ資 役割: 産の一部を構成している。Lumen Gallery は、大手の制作会社ではなく若手の 個人のアーティストの作品を取り上げることで、地元の若手アーティ ストの作品を コントリビュータ 助長し、アートを通じた社会参画を促すパイプ役を担っ ている。 インパクト クリエイティブ・ ギャラリーメイン& Lumen Gallery は、大衆向けのアートではなく、来場者がアー コミュニティの構築と ト作品だけではなく、互いにつながり、親密な会話ができるような空間を提供し 地域経済の活性化 ている。二つのギャラリーは同じ建物の中にあり、来場者は写真と映像という二 つの形態のアートを同時に楽しむことができる。ギャラリーは、地元アーティスト 無形のクリエイティブ資本や の作品を紹介するとともに、地域にクリエイティブ人材を惹きつけている。 意識の向上 ギャラリーメイン& Lumen Gallery は、ギャラリーで開催するイベントを通じて新 都市変容 たな人の流れを生み出す事業活動を行い、近隣地域を変容させる重要なクリエ イティブ資産である。ギャラリーメイン& Lumen Gallery が入る建物は築 80 年 アダプティブ・リユース で、かつては倉庫だった。建物はギャラリーと展示スペースとして改装されたが、 建物自体は木製の階段や廊下など当時の面影を色濃く残している。 五條製作所 五條製作所 設立 役割 2014 年 コントリビュータ 〒600-8118 京都市下京区平居町 19 facebook.com/ GojoSeisakusyo 京都:クリエイティブ都市 インパクト ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 都市変容 ダプティブ・リユース 134 カタログ 東部エリア 135 gojo seisakusho 五條製作所には、ショッ プやバー等がテナントとして入居している。ステンドグラ 説明 スの窓がはめられ、独特の色合いのレトロでシックな建物は、このあたりでひと際 目を引く。現在、この建物の各部屋には、グラフィ ックデザイン、ジュエリー、ポ ン酢、キャット フード、レコード、バーなどのクリエイティブな事業が展開されて いる。モダンな内装で、1 階に入居するバーでは地元のクラフトビールを提供して いる。2 階のレコード店ではレコードを購入することもできるが、1 階のバーで飲 んでいる間に聴きたいレコードを選んで、流してもらうこともできる。店の多くが、 大量生産された商品ではなく、カスタマイズした一点物のユニークな商品を売っ ている。 五條製作所は、クリエイティブ・コミュニティを意識してオープンしたわけではない 役割: が、複数のクリエイティブ系スタートアップ企業が入居しており、他のクリエイター やクリエイティブ系のスタートアップ企業をこの地域に惹きつける上で重要な役割 コントリビュータ を果たしている。開化堂が果たしている役割と同様に、他のスタート アップ企業や ビジネスオーナーに、この地域でクリエイティ ブな活動を行うインスピレーション を与えている。 五條製作所は、互いに面識のあったクリエイ ター数人によって 2014 年に設立さ インパクト れ、小規模なコミュニティを形成した。新しいテナントを選ぶのは建物の管理会 社ではなく、既に入居しているテナントだ。五條製作所は、芸術家や買い物客、 クリエイティブ・ クリエイターら、ここを訪問する人同士の交流やコミュニケーションを促進し、ク コミュニティの構築 リエイティブ事業にとってはワンストップで全て揃うような場所だ。一つの屋根の 下に多様なクリエイティブ事業が集まっ ており、クリエイティブな相乗効果を生む。 クリエイティブ・コミュニティの普及に寄与し、エリアをクリエイティ ブ拠点として 発信している。 町家の保存と同様に、五條製作所のレトロでシックな建物は、人目をひくステ 都市変容 ンドグラスの丸窓等、往年の姿をほぼそのまま残す。建物に入ると玄関でスリッ パに履き替える決まりは、まるで知人宅を訪れるかのようだ。しかし、 「Hachi アダプティブ・リユース Record Shop and Bar」の中に足を踏み入れると、建物の外観から感じる古風 でビンテージな雰囲気とは異なる世界に誘われる。五條製作所は、クリエイティ ブ人材やアートを愛する人達を地域に呼び寄せる新たな商業活動を生み出すこと で、都市変容に貢献している。 Kaikado Café & 開化堂本店 開化堂本店 Kaikado Café 設立 役割 コントリビュータ (本店) (Kaikado Café) 2010 年 2016 年 www.kaikado.jp 〒600-8127 〒600-8143 京都市下京区河原町六条 京都市下京区河原町通七 www.kaikado-cafe.jp 東入梅湊町 84-1 条上ル住吉町 352 京都:クリエイティブ都市 インパクト ・ 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 ・ 都市変容 ダプティブ・リユース 138 カタログ 東部エリア 139 kaikado cafÉ and flagshiP store 開化堂は 1875 年から茶筒を製作し、創業時から同じ場所で商いを続けている。 説明 開化堂本店は、地域有数の老舗としてよく知られた存在だ。開化堂で作る茶筒 は一貫して手作りで、創業時から 140 年以上たった今も創業時からの手法を守り 続けている。開化堂の茶筒は高品質で機密性が高く、茶葉を湿気から守る。茶 筒は使い込むほどに色が変わり、経年変化を楽しむことができるなど、機能性と 美しさを兼ね備えている。 開化堂は、6代目社長の八木隆裕氏のリーダーシップのもとで事業を変革させた。 八木氏はかつて父親から、茶筒の需要が減る中で家業を継ぐのは難しいかもしれ ないと言われたという。そこで八木氏は、茶筒をより汎用性の高い家庭用品に変 え、モダンな台所で使用しても見劣りしないような、シックでモダンな外見の茶 筒に変えた。八木氏の柔軟な発想は開化堂ブランドを海外に広め、かつ、国内 でも販路を拡大する鍵となった。 2016 年には、かつて市電の車庫だった築 90 年の建物を、デンマークのデザイン 会社とのコラボレーションで改装し、Kaikado Café をオープンした。カフェは開 化堂の工房と本店から徒歩数分圏内にあり、来店客はモダンなカフェの雰囲気 の中で開化堂の伝統的な商品を楽しみながら、お茶や地元のベーカリーの焼き 菓子を味わうことができる。 八木氏は、京都で伝統工芸を受け継ぐ 6 名によるプロジェクト「GO ON」のメン 「GO ON」では、京都の伝統工芸を軸としながら近代的な技を織 バーでもある。 り交ぜ、伝統工芸を普及するという共同プロジェク トや取り組みを行っ ている。 役割: 開化堂は地域で有数の老舗として、伝統的な産業でもグローバルに事業を拡大 し、競争力を回復できるという模範となり、クリエイティ ブ・コミュニティの中で コントリビュータ 重要な役割を担っ ている。開化堂は「京都らしい」 成功モデルの見本である­つま り、新しい技術やパートナーシップを活用して新たなビジネスモデルを創造しなが らも、価値観や技術は伝統に根ざしている。この地域で起きていたクリエイティ ブ な動きの流れを老舗の開化堂が捉えて 2016 年に Kaikado Café をオープンした ことは、クリエイティブ地域への変容の強いシグナルとなった。カフェと本店を同 じエリアに構えることで、開化堂はこのエリアの新たなクリエイティ ブ資産になる と共に、クリエイティブ人材を惹きつけ、クリエイティ ブ拠点としてのこのエリアの 存在感を高めた。また、モダンな内装の Kaikado Café は、新たにクリエイティ ブ人材を惹きつけるだけではなく、京都の伝統と遺産の中におけるモダンな空間 に関心のある人々をも魅了している。開化堂は他の老舗に対し、 変化を受け入れ、 伝統や価値観を損なうことなく競争力をつけられることを示している。 京都:クリエイティブ都市 140 カタログ 東部エリア 141 kaikado cafÉ and flagshiP store 開化堂は 140 年以上前の創業時から、何世代にもわたっ て同じ工法で手づくりの インパクト 茶筒を作ってきた。このような伝統産業の技術は、京都の無形クリエイティ ブ資 本の根幹をなすもので、知識、技術、ノウハウが文化遺産として継承されてきた。 地域経済の活性化 この無形のクリエイティ ブ資本がイノベーションの源泉となり、伝統産業を近代的 なクリエイティ ブ社会の柱として成長させ、進化させてきた。八木氏のリーダーシッ 無形のクリエイティブ資本や プのもと、開化堂は茶筒をお茶以外にも使える容器として用途を拡大することで、 意識の向上 広く海外の人々にも使ってもらえるよう工夫を行なった。先端技術と伝統芸術と の新たな接点を探るべく、パナソニック等と共同で、茶筒の中に納まる携帯ワイ ヤレス・スピーカー「響筒」 を開発し、手のひらで感じる音の振動を楽しめるよう にしたのである。このような取り組みは、伝統技術と先端技術を組み合わせ、ク リエイティブ産業とほかの産業との連携を強化し、新たな産業の創出や京都の競 争力を向上させる一例となっ ている。 開化堂本店は、かつての工房を改装して、モダンでシックな店舗として 2010 年 都市変容 にオー プンした。2016 年には、かつて市電の車庫だった建物をデンマークのデ ザイナーと共同で改装し、Kaikado Café を開化堂本店近くにオープンした。 アダプティブ・リユース Kaikado Café の利用者はカジュアルでモダンなカフェの雰囲気を楽しみつつ、 開化堂の商品を見たり使ったりすることができる。カフェは京都の中でもいわゆる 観光地ではない場所にあるが、カフェに人々が集い、エリアに新たな息吹を吹き 込んでいる。伝統産業が無形のクリエイティ ブ資本を活用して、伝統工芸や製品 と人々がつながり合う方法を拡大させた好例だ。カフェは大通りに面した戦略的 な位置にあり、 通行人の目を引き、 このエリアで成長しているクリエイティブ・コミュ ニティの重要な象徴的存在である。開化堂本店と Kaikado Café がお互い近所 同士に位置していることから、人々は開化堂の伝統的な側面とモダンな側面の両 方に浸ることができる。 京都ビアラボ 京都ビアラボ 設立 役割 2018 年 コントリビュータ 〒600-8137 京都市下京区十禅師町 201-3 kyotobeerlab.jp 京都:クリエイティブ都市 インパクト ・ 地域経済の活性化 イノベーションや産業変革を支援 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 ・ 社会的包摂 144 カタログ 東部エリア 145 KYOTO BEER LAB 京都ビアラボは、高瀬川沿いにある居心地の良い小さなビール醸造所兼パブで、 説明 新鮮でクリエイティブな世界のクラフトビールを提供している。 京都ビアラボの名物は、 というお茶のクラフトビールである。その茶葉 「茶ビール」 は、日本最古のお茶の町、 京都府相楽郡和束町で栽培され、「お茶のエスプレッソ」 という別名で知られる最高品質のものである。 「茶ビール」は、京都ビアラボのオー ナーで、この 8 年間、和束町の活性化に尽力してきた村岸氏の情熱から生み出さ れたビールである。地元の茶農家の伝統的なお茶の生産の継続と成長を支援し ようと、村岸氏は茶農家の人々の助けも借りながらお茶を原料とするビールを開 発し、伝統的なお茶の文化と近代的なビール醸造を組み合わせた。 京都ビアラボには共同経営者が 3 人おり、そのうちの一人でオースト ラリア出身の トム・アインズワース氏は、滋賀県に住んでいた当時、音楽イ ベントで村岸氏と出 会い、お互いミュージシャ ン同士ということで意気投合した。だからこそ、京都ビ アラボのアイデンティティの要として音楽があるのも納得だ。ここでは毎月一回、 終日 DJ イベントを開催している(ジャパンタイムズ、2020 年)。しかし、京都ビ アラボの最大の魅力は、ビールや食事、音楽のほかに近隣地域にしっく り溶け込 んでいることである。 京都ビアラボは、地元のクリエイター、外国人客、地元ミュージシャン、その他 役割: の地元住民をクリエイティブな思考で惹きつけて結び付けるという重要な役割を 果たしている。また、客の創造性を刺激するとともに、京都の伝統的なお茶の文 コントリビュータ 化を革新的かつ現代的にアレンジして紹介している。 インパクト 地域経済の活性化 京都ビアラボは世界で初めてお茶から作った「茶ビール」 を開発した。従っ 「茶 て、 ビール」はクラフトビール業界とお茶の業界におけるイノベーションであり、それが イノベーションと 地域経済に影響を与えている。 産業変革の支援 京都ビアラボの目標の一つは、和束町を活性化し伝統的なお茶の生産を支援す 無形のクリエイティブ資本や ることであり、そのため、ビアラボは、伝統的なお茶文化に対する人々の意識を 意識の向上 高める場所としての役割も果たしている。また、店のロゴには、 「鳥獣人物戯画」 のキャラクターを採用し、イ メージの強化や京都の文化遺産とのつながりを図っ ている。 「鳥獣人物戯画」は、漫画の源流とも言われ、動物が擬人化されて描か れていることで有名で、 日本最古の茶畑を持つことで知られる高山寺の所有である (Sharing Kyoto、2020 年)。 京都ビアラボは、地元コミュニティに溶け込んでおり、地元のクリエイターや外国 社会的包摂 人観光客を惹きつけるほか、音楽の演奏で近隣地域にクリエイティ ブな雰囲気を 演出している。 Le Wagon コーディング ブートキャンプ Le Wagon コーディングブートキャンプ 設立 役割 2018 年 コントリビュータ 〒600-8188 京都市下京区和泉町 529 lewagon.com/kyoto インパクト 京都:クリエイティブ都市 ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 スキル開発 グローバルなアクセスとコネクション ・ 社会的包摂 148 カタログ 東部エリア 149 LE WAGON CODING BOOT CAMP Le Wagon コーディングブートキャンプは、コーディングを教えており、京都に 説明 あるこのブートキャ ンプは世界 38 ヶ所にある Le Wagon のキャンパスの一つであ る。京都の製作者、学生、スタート アップ、起業家にコーディングに関するグロー バルな知識を教え、国際的なコネクションの機会も提供している。日本にある Le Wagon の共同設立者はシルヴァン ・ピエール氏で、ピエール氏は地域のコーディ ング・コミュニティのカタライザーであり、プログラミングや製品開発の基礎を初 心者に教えるコミュニティの提唱者でもある。 Le Wagon コーディングブートキャ ンプでは、製作者、技術者、芸術家、学生、 起業家にコーディングを教えている。受講者はコーディングを習得することで、デ ジタルに強くなり、クリエイ ターとしてのキャリアアッ プにつながる。グローバルな コネクションもあり、このコーディングブートキャ ンプは、京都のクリエイティ ブ・ コミュニティにおける国際的な知識やネットワークの構築も支援している。また Le Wagon は FabCafe や Kyoto Makers Garage(KMG)など近隣のクリエイ ティ ブな組織とも積極的に連携し、スキル開発やネッ トワーク・イベントなどを通じ てクリエイティ ブ・コミュニティの交流を促進し、ネッ トワーク効果を増幅させてい る。Le Wagon は「コミュニティラボ N5.5」 というクリエイティ ブ施設に入居して いる。「コミュニティラボ N5.5」 は、 「ものづく りをする人のコミュニティラボ」 で、コ ワーキングスペースやギャラリーもある。建物は古い京町屋で、元は尼僧の寮と して使われていた。建物の改修は未完成で、 「コミュニティラボ N5.5」のメンバー がコミュニティ スペースとして自ら改修を手掛けている。 Le Wagon は、コーディングやデジタル技術の分野でクリエイティブ・コミュニティ 役割: に大きく貢献している。クリエイティビティの技術的側面に関するトレーニングや プロモーションを行うことで、大きな役割を果たしている。クリエイティ ブな事業 コントリビュータ を加速させることはないにしても、Le Wagon は技術的スキルやトレーニング、 知識の提供を通じてクリエイティ ブ事業を支援している。 インパクト Le Wagon では FabCafe や Kyoto Makers Garage など他のクリエイティブ・ スペースと連携してキャ ンパスでイベントを開催し、クリエイティ ブ・コミュニティ クリエイティブ・ の交流を促進し、ネットワークの機会を提供している。例えば Le Wagon は、 FabCafeと連携し、Le Wagon のコーディングやデザインの知識と FabCafe の コミュニティの構築 スペースやネッ トワークを活用したスキル開発ワークショッ プ「デモデー」 を開催し ている。このようなコラボレーションを通じて、Le Wagon はダイナミックなクリ エイティ ブ ・コミュニティの構築に寄与し、ネッ トワーク効果を増幅させている。 地域経済の活性化 Le Wagon が京都のクリエイティブ・コミュニティの成長に与えている影響として 極めて重要な点が、スキル開発やトレーニングを通じたデジタルリテラシーの向上 スキル開発 だ。コーディングを教えることで、学生は自らの商品やアイディ アを近代化しマー ケティングするのを助け、これがクリエイティ ブ・コミュニティの支援につながっ て いる。一言で言うと、Le Wagon はクリエイティ ブな人達に技術的スキルを提供 し、無形経済の中でのチャ ンスを捉えられるようにしている。Le Wagon のコー ディングブートキャ ンプは、クリエイティブな人々を地域のテク ノロジーエコシステ ムとつなげ、それがひいてはクリエイティ ブ・コミュニティ全体の構築や成長につな がっ ている。 グローバルなアクセスと Le Wagon 京都の授業の大半は英語で行われるため、多く の外国人学生や製作 コネクション 者(学生の 75% 〜 80% が外国人)が集まり、知識の活発な交流を可能とするグ ローバルなクリエイティ ブ・コミュニティを構築している。世界 38 ヶ所のキャンパ スとつながり(教員や業界の専門家、事業を含む) 、コラボレーションやビジネス ネットワーク構築の機会提供などを通じて、製作者やスタートアッ プ企業を間接 的に支援している。 社会的包摂 コーディングブートキャンプでは、コーディングを学び、クリエイティ ブな活動が したい人を対象に知識とスキルの習得機会を提供している。来る者は拒まず、ク リエイティブ・コミュニティの一員として学びたい人にプラッ トフォームを提供してい る、。 「コミュニティラボ N5.5」の小さなギャラリスペースは、新しいグループの人々 を惹きつけることで、クリエイティ ブ・コミュニティの構築や社会的包摂を促進する。 ギャラリーは、アーティ ストが作品を展示する場を提供し、活気あるクリエティ ブ 地域を構築することに貢献している。 京都:クリエイティブ都市 150 カタログ 東部エリア 151 LE WAGON CODING BOOT CAMP Walden Woods Kyoto Walden Woods Kyoto 設立 役割 2017 年 コントリビュータ 〒600-8194 京都市下京区栄町 508-1 walden-woods.com インパクト 京都:クリエイティブ都市 ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 グローバルなアクセスとコネクション ・ 都市変容 アダプティブ・リユース ・ 社会的包摂 154 カタログ 東部エリア 155 WALDEN WOODS KYOTO Walden Woods Kyoto は、2017 年 12 月 14 日に東本願寺近くにオープンした。 説明 Walden Woods は 1912 年に建てられた洋館を改修してカフェにしたもので、建 物は南向きで、 碁盤の目のような街並みの京都ならではである。 カフェの創業者は、 レストラン業界での経験が長い西村雄次氏で、 店の設計はパリを拠点にファッショ ンデザイナーとして活躍する嶋村正一郎氏が手がけた。 Walden Woods は、京都で最も人気のインスタグラムの写真スポットの一つ で、静かな路地裏に「森の中の秘宝」を意識してデザインされた。静かで芸術的 な空間を求めている新し物好きな人、思想家、イ ノベーター、学生、アーティ ス トらがここをよく訪れる。内装は、 「Walden の白い森」をテーマにつくられ、この 空間自体が芸術作品のようだ。カフェの中には家具がなく、空間が広がるだけ でありこれが自由で開放的な雰囲気を創り出し、客同士の行き来を可能にする。 Walden Woods Kyoto はソーシャルメディ アでもよく話題になる。 カフェでは、自社ブランドのオーガニックのコーヒーやチャイを提供している。コー ヒーの焙煎機は創業 150 年の Probat 社製で、ヨーロッパで購入したヴィンテー ジ物だ。その機械を使っ て焙煎したコーヒーで、1870 年代のコーヒーを体験でき るほか、ランプやテーブルウェア 、トレイなどは自然をテーマに選んでおり、フラン スのアンティークのミリタリーアイテムも飾られ、ウォルデンの森にいる「雰囲気」 を演出している。 Walden Woods Kyoto のクリエイティブなビジネスモデルは、バリアフリーのク リエイティ ブ空間とも相まって、国内外の新世代のクリエイティ ブ人材によく使わ れている。特に京都にいる外国人のクリエイティ ブ系の人々に人気だ。Walden Woods は京都の他のクリエイティ ブ・スペースと共に、この地域を他とは違う特 徴のある場所にし、特定の層の人々を魅了している。 役割: Walden Woods Kyoto は普通のカフェとは異なる。自家製のお茶やコーヒー を出し、人々の会話のきっかけとなる場を提供している。バリアフリーの設計で、 コントリビュータ 交流もしやすい。カフェ自体が意図的にクリエイティ ブ・コミュニティを促進してい るわけではないが、間接的にクリエイティ ブ・コミュニティの構築に寄与している。 インパクト Walden Woods Kyoto はこのエリアのハイライトスポットで、地元客や観光 客がグルメだけではなく、芸術的な体験を求めにやってく る。この空間の影響 クリエイティブ・ は FabCafe など、近隣のクリエイティ ブ・スペースのイノベーションやアイディ ア、 ハードウェアや商品からも見て取れる。クリエイティ ブ・コミュニティの構築への影 コミュニティの構築 響もネットワーキングの促進への関与もあくまでも間接的ではあるが、それでも Walden Woods Kyoto の影響は非常に大きい。Walden Woods Kyoto は バリアフリーの空間でクリエイティ ブな人々が集い、アイディ アを出し合い、自由 に交流する場となっ ている。 興味深いことに Walden Woods Kyoto は、外国人コミュニティを含む、京都 の新しいクリエイティ ブ人材たちの波を惹きつけている。このコミュニティ(大学 やクリエイティブ職の人など)に属するクリエイティ ブな人々は、日本の文化遺産 や伝統など様々な学習体験を求めて京都にやっ てくる。 京都:クリエイティブ都市 156 カタログ 東部エリア 157 WALDEN WOODS KYOTO Walden Woods Kyoto は洋風なスタイルと日本的なデザインを取り入れ、こだ 地域経済の活性化 わりのコーヒーやお茶を体験することで、外国人と地元客を結び付けている。日 本のクリエイティ ブ系の人々に、グローバルなコネクションやネットワークを提供 グローバルなアクセスや している。 コネクション Walden Woods Kyoto は 1912 年に建てられた洋館を改修してカフェにした。 都市変容 建物のデザインは洋風と和風両方の建築の要素を併せ持つ。例えば、窓は 4 つ あり、洋館のイ メージを再現している。建物は南向きで、碁盤の目の街並みが広 アダプティブ・リユース がる京都ならではだ。明るい日差しが建物の白壁を照らす。カフェのデザインは 作家ヘンリー ・デイヴィ ッド ・ソローの から発想を得ている。 「ウォルデンの白い森」 Walden Woods Kyoto は、バリアフリーのカフェで、様々な人達が交流する 社会的包摂 のを可能にする。異なるコミュニティや職業、性別の人々の他、クリエイティ ブ系 の人もそうでない人も、このカフェに集い自由に交流できる。さらに、ソーシャル メディ アで有名な場所であるため、観光客もよく訪れる。 バーベキューコート 339 & Kyoto Makers Garage Madogiwa cafe 339 162 172 河岸ホテル 166 京都駅 西部エリア Kyoto Makers Garage 説明 Kyoto Makers Garage (KMG) は、創造やイノベーションのための空間で、製作者、学生、スタートアッ プ企業に対し、知識共有や新しいアイディ アの開発という形で支援している。KMG は、最新の機械や 工具を提供し、それらを扱うスキル向上のための講習を通じて、イ ノベーションを促進している。 株式会社 Monozukuri Ventures (旧 Makers Boot Camp)は、ハードウェア企業を対象としたベ ンチャーキャピタルを運営し、アイディ アと製品の溝を埋め、国内外のスタート アップを支援する目的で ベンチャーキャピタル投資として KMG を設立した。京都市と地域の開発カタリストである京都リサーチ パーク、公益財団法人京都高度技術研究所 (ASTEM) のコラボレーションで実現した。 KMG の創業者で Monozukuri Ventures 代表取締役の牧野成将氏は、京都におけるクリエイティ ブ・コミュニティの成長のビジョンを描いた立役者である。牧野氏は、2005 年に Future Venture Capital に入社後、プライベートエクイティの経験を積んだ。京都の ASTEM でインキュベーション・マ ネージャーを務めたのち、株式会社サンブリッジでグローバルベンチャーハビタット大阪を運営し、ス タートアッ プ企業への投資を行った。牧野氏は、べンチャーキャピタル投資や革新的で創造的な事業 への投資経験をもとに、ハードウェアのスタートアッ プ企業に投資するアクセラレーター プログラムの Monozukuri Ventures を 2015 年に設立した。また、2017 年にはスタートアップの試作支援と投資 を行う「MBC Shisaku 1 号ファンド」 を立上げた。これらのプログラムを通じて牧野氏のクリエイティ ブ・ ベンチャーの一つである KMG が誕生した。 京都駅西部エリアにクリエイティ ブ・スペースが登場したのは KMG がオープンした 2017 年である。東部 エリアとは対照的に、西部エリアでの最初のクリエイティ ブ・スペースはカタライザーで、これが近隣の クリエイティブ・コミュニティの発展を加速させた。その結果、 「河岸ホテル」 や「Madogiwa cafe 339」 など新しいクリエイティブ・スペースが誕生し、このエリアと地元や国内外のテク ノロジー系のコミュニ ティや起業家コミュニティとのつながりが形成された。KMG は京都市や京都リサーチパークとの連携を 強化し、地域の変革や京都リサーチパークの周辺地域への統合に向けて、公共政策を調整する役割を 果たした。 KMG は京都市中央卸売市場近く の産業地帯に位置している。KMG には、3 DプリンターやCNCフラ イス盤、レーザーカッター等の機械があり、利用者に実験、創作、協働を促すユニークでリラックスし た雰囲気を提供している。この空間では、日本語で生産、または新しいものをつく るという意味の「も のづく り」という概念が育まれている。KMG は、技術力、ノウハウ、日本のものづく りの精神に、新し い革新的なアイデアや古い伝統的な芸術様式を融合させ、新しい意味を持たせている。ビジネスモデ ルとしては、京都にある製造業の中小企業と国際的なビジネススタート アップ企業をつなげることが基 本である。例えば、Monozukuri Ventures はKMGで毎月「モノづくりハブ」というミートアップ・イベ ントを開催している。このイベント開催の趣旨は、あらゆる業界の製作者、専門家、起業家、投資家 がハードウェアスタート アップにおける最新のトレンドに関する経験や知識を共有し、スタート アップ企 業と伝統的な製造業の企業の間でオー プンイ ノベーションを育成することにある。KMG は国内外のス 京都:クリエイティブ都市 テークホルダーをつなぐ関西有数の英語のスタート アップピッチイベントである「モノづく りハードウェア カップ」の共同スポンサーも務める。 KMG は最新の機械や工具を製作者や学生ら利用者に提供することで、イノベーションや新しいアイディ アを支援し、新製品のテストを可能にし、既存の伝統的な製品やアイディ アの近代化を支援している。 162 カタログ 西部エリア 163 Kyoto Makers Garage Kyoto Makers Garage 設立 役割 2017 年 カタライザー 〒600-8119 京都市下京区本塩竈町 554 fabcafe.com/kyoto インパクト ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 イノベーションや産業変革の支援 スキル開発 ・ 都市変容 アダプティブ・リユース 空間変容 役割: KMG はクリエイティブ拠点やイノベーションを支援するセンターとして機能してい る。KMG の機械や工具を使っ てアイディアや製品が製造され、検証される。また、 カタライザー KMG は京都の伝統産業と新しい技術を融合させ、意識を変えるとともに変化の プラット フォームとしての役割を果たしている。また、中小企業のものづく りのサ プライチェーンと連携し、新しい 3D 印刷技術やスタートアッ プのビジネスモデル を導入することで、KMG はイノベーションや産業変革をもたらしている。さらに、 KMG のようなベンチャーキャピタル投資で地元のスタートアッ プ企業に投資する ことで、イ ノベーションをさらに強化する。KMG は京都のスタートアップ エコシステムの中で、製作者と起業家の多様で包摂的なコミュニティを育成すべく 努力している。 京都:クリエイティブ都市 164 カタログ 西部エリア 165 Kyoto Makers Garage KMG がもたらした主なインパク トに、 「ものづく り」 ネットワークの構築がある。定 インパクト 期的に開催されている 「モノづく りハブ」ミートアップでは国内外の起業家とコミュ ニティメンバーが集まる。KMG はスタートアッ プ企業が業界の専門家やブランド クリエイティブ・ とつながり、コラボレーションや事業開発を行うことを支援している。これらの取 コミュニティの構築 り組みにより、クリエイティ ブ・コミュニティで新たな事業のあり方や働き方が生ま れている。 KMG はクリエイティブ拠点やイノベーションを支援するセンターとして機能してい 地域経済の活性化 る。KMG の機械や工具を使っ てアイディアや製品が製造され、検証される。また、 KMG は京都の伝統産業と新しい技術を融合させ、意識を変えるとともに変化の イノベーションや プラット フォームとしての役割を果たしている。また、中小企業のものづく りのサ 産業変革の支援 プライチェーンと連携し、新しい 3D 印刷技術やスタートアッ プのビジネスモデル を導入することで、KMG はイノベーションや産業変革をもたらしている。さらに、 KMG のようなベンチャーキャピタル投資で地元のスタートアッ プ企業に投資する ことで、イ ノベーションをさらに強化する。KMG は京都のスタートアップ エコシステムの中で、製作者と起業家の多様で包摂的なコミュニティを育成すべく 努力している。 KMG はトレーニングやイベントを通じて、製作者や学生、スタートアップ企業が スキル開発 新しいスキルを習得し、国内外から知識を得るための支援をしている。 「ものづく り」の概念を育成することで、KMG のビジネスモデルは京都の伝統的な グローバルなアクセスと 製造業の中小企業を国際的な事業やスタート アップ企業をつなげる。牧野氏は、 コネクション KMG をはじめ多くのベンチャー企業や革新的なビジネスモデルを支持し、それら を活用してグローバルなつながりやネッ トワークを構築している。 京都のクリエイティ ブ産業における大きなコントリビュータとカタライザーとして、 都市変容 KMG は地域の活性化に大きな影響を与えた。KMG は京都市中央卸売市場があ るこのエリアにおける最初のクリエイティ ブ・スペースで、その登場を受けて周辺に 空間変容 クリエイティ ブ・スペースが誕生し、京都駅西部エリアの人口構成や空間の使い方 が変わった。KMG は当初から、同じような企業に影響を及ぼし、誘致し、クリ エイティ ブ・コミュニティを構築して新しい人々をこの地域に呼び込むことで、都市 変容に重要な役割を果たすことを意図していた。 河岸ホテル 説明 2019 年に創業した河岸ホテルは、スタジオや展示ギャラリーなどを併設し、芸 術家に共同生活の場を提供するホテル兼レジデンスである。河岸ホテルは京都駅 から電車で数分の場所に位置し、外国人のクリエイティ ブな人々を地域に呼び込 んでいる。 河岸ホテルは、京都を拠点に、不動産金融や遊休不動産を再生してクリエイティ ブ・コミュニティを作ることを目的とした事業を行っている株式会社めいによって設 立された。株式会社めいを共同設立したのは、扇沢友樹氏と日下部淑世氏で、 大学を卒業後まもなく起業した。不動産企画 ・活用業務のほか、空き家を再生し てコミュニティ空間に変容させるためのウェブサイト制作や、イベント企画、出版 物の制作などを行っ ている。 役割: 西部エリアは中央卸売市場があることでよく知られているが、河岸ホテルはこ のエリアで最新のクリエイティ ブ・アメニティとして、エリアの魅力を高めており、 アンプリファイア Kyoto Makers Garage やバーベキューコート339、Madogiwa cafe 339 な どのプレイヤーが構築しているクリエイティ ブ・コミュニティの成長に拍車をかけて いる。京都ではアートホテルが人気を博しているが、河岸ホテルは、このエリア では初のアートホテルで、話題性があるほか、多様なクリエイ ターをこのエリアに 集めている。 京都:クリエイティブ都市 168 カタログ 西部エリア 169 KAGANHOTEL 河岸ホテル 設立 役割 2019 年 アンプリファイア 〒600-8846 京都市下京区朱雀宝蔵町 99 kaganhotel.com/ インパクト ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 スキル開発 ・ 都市変容 アダプティブ・リユース ・ 社会的包摂 インパクト 河岸ホテルは、このエリアに新しい概念を導入した。アーティ アー ストだけではなく、 ト愛好家やアート・コレクターを結び付ける場である。宿泊施設は長期 ・短期滞在 クリエイティブ・ どちらも可能であり、京都での芸術活動を目指すアーティ ストの玄関口の役割も 果たす。また、長期・短期滞在問わず、国内外から多様な人々を惹きつけることで、 コミュニティの構築 交流を促進することができる。 地域経済の活性化 河岸ホテルは、京都駅東部エリアにおけるあじき路地と似た役割を果たしてい る。京都の街に浸りながら京都の無形文化遺産やクリエイティブ資産について 無形のクリエイティブ資本や 学ぶ若手芸術家のニッチなコミュニティを河岸ホテルがサポートしているのであ 意識の向上 る。また、共同生活をすることで若手芸術家の間に強い絆が生まれるが、こ の地域独特の「ご近所づきあい」を強要するものではない。さらに、河岸ホテル は Kyoto Makers Garage を1週間利用できる会員権とバーベキューコート 339(BBQ339) での食事券付きの滞在プランを提供するなど、地域の他のクリエ ティ ブ・スペースとのコラボレーションを通じて、近隣地域のクリエイティ ブ・コミュ ニティの強化に貢献している。 京都:クリエイティブ都市 170 カタログ 西部エリア 171 KAGANHOTEL 河岸ホテルの建物は築 45 年で、元々は卸売市場で働く人々の社員寮 兼倉庫と 都市変容 [15] して使われていた。ホテルとして改修するにあたって、外観は元々の姿を残して街 並みを壊さないようにする一方、内装はモダンでシンプルなデザインにした。ホテ アダプティブ・リユース ルの周辺は、市場の従業員らが利用する食堂等が狭い路地に立ち並び、活気に 溢れている。河岸ホテルは、このエリアに新たな人の流れを作ることで都市変容 に寄与している。ホテルの建物は、市場で働く人々の社員寮兼倉庫だった頃は、 市場関係者以外が立ち入ることはなかったが、河岸ホテルとなった今は、若手芸 術家らが共同生活をし、展示スペースではイベントも開催され、新たな人の流れ や活気をこのエリアにもたらしている。 河岸ホテルは、京都にできた最初のアートホテルの一つで、国内外から若手芸術 社会的包摂 家が訪れる。便利な立地と手ごろな価格で若手芸術家や外国人に人気だ。京都 には多くの大学があり、強い伝統や文化があるため、外国人コミュニティを魅了 している。世界中の芸術家が京都を訪れ、日本の伝統や創造性について学んで いる。河岸ホテルはそのような外国人芸術家やクリエイ ターが京都のクリエイティ ブ・コミュニティに浸かるための入口となる。河岸ホテルは長期滞在用のお得な宿 泊プランも用意するなど、若手芸術家がより気軽に利用できるようにし、社会的 包摂をさらに促進している。 バーベキュー コート 339 & Madogiwa cafe 339 説明 バーベキューコート339 と Madogiwa cafe 339 は、京都中央卸売市場の隣 にあるバーベキューレストランとシェアオフ ィ スである。共に、 「京の台所から世界 へ直送」 を掲げる株式会社三三九 (さざんがきゅう) が運営している。Madogiwa cafe 339 は小さなシェアオフィスで、Kyoto Makers Garage やシェアサイクル サービスの PiPPAと共同で始めた事業である。 京都中央卸売市場は日本で一番最初でにできた中央卸売市場で、1925 年に設 立された。この中央市場の隣にあるのがバーベキューコート339と Madogiwa cafe 339 で、共に「京の台所から世界へ直送」を掲げる株式会社三三九(さざん がきゅう) が運営している。卸売市場の隣という立地を活かし、バーベキューコー ト339 では、市場から直接仕入れた食材を使用している。また、三三九では、 周辺地域のツアーを開催しており、地域の市場について関係者ならではの興味深 い情報を参加者に伝えている。 役割: 2015 年の創業以来、株式会社三三九はトレンドの仕掛け人として、食に関わる ニッチなクリエイティ ブ人材を集めてきた。また、同社は卸売市場のあるエリアに コントリビュータ 人との関わりの要素やコミュニティ形成をもたらした。は市場に買い物に来るだけ ではなく、美食体験をすることで、従来の売り手と買い手の関係以外で市場に関 わることができる。さらに、シェアオフィスやレストラン、フードツアーを通じて、 市場や地域とのより深いつながりを生み出している。 京都:クリエイティブ都市 174 カタログ 西部エリア 175 Bbq Court 339 & madogiwa Café 339 バーベキューコート 339 & Madogiwa cafe 339 設立 役割 コントリビュータ バーベキューコート339 Madogiwa café 339 2017 年 2019 年 bbq.339.co.jp 〒600-8119 京都市下京区本塩竈町 554 インパクト ・ クリエイティブ・コミュニティの構築 ・ 地域経済の活性化 無形のクリエイティブ資本や意識の向上 スキル開発 ・ 都市変容 アダプティブ・リユース ・ 社会的包摂 インパクト 市場は 339 を通じて地域コミュニティや世界とつながっている。339 は Kyoto Makers Garage やシェアサイクルサービスの PiPPAと連携して、カフェスタイル クリエイティブ・ のシェアオフィス Madogiwa cafe 339 をオープンした。店内にはアンティーク の家具が置かれ、Kyoto Makers Garage を利用するものづく りのコミュニティ コミュニティの構築 など、多くの人々をこのエリアに惹きつけようとしている。また、店の軒先には 地域経済の活性化 PiPPA の自転車を返すことができる専用ボードを設置しており、人々がカフェに 来やすいようにした。このようにして、卸売市場関係者以外の人の流れが生まれ、 無形のクリエイティブ資本や エリアの多様性につながっ ている。 意識の向上 このエリアでは、梅小路公園の再整備事業や新駅の開業、鉄道博物館の開館等、 トップダウンで開発が行われてきたが、339 の運営は、それとはまた別の角度から、 よりボトムアップのアプローチで市場周辺の再編成に貢献した。 都市変容 バーベキューコート 339 や Madogiwa cafe 339 がある建物は、氷商の倉庫跡 を改修したもので、人々の交流を促進し、 コミュニティに活気をもたらす空間になっ アダプティブ・リユース ている。倉庫を解体して基礎から新しく建物を建てる代わりに、339 は倉庫の構 造を残し、それによっ て建物が市場や周囲と溶け込むようにした。このデザインに よって、ここは「単なる市場以上の場所」 としての意味を持ち、人々が滞在し、交 流し、新しいものを創り出せる空間であることを感じさせる。その結果、都市変 容が起き、新たな人の流れを創り出すとともに、Kyoto Makers Garage や河 岸ホテルなどの近隣の施設に人々が集まることで、クリエイティ ブな人材が確保さ れている。 社会的包摂 339 は Kyoto Makers Garage やその関連施設の近くにあるため、コワーキン グスペースを求めている芸術家らのほか、純粋に飲食目的の人も集まってく る。 コワーキングスペースやその他のサービスを提供することで、Kyoto Makers Garageとは異なり、339 はものづく りをするか否かに関わらず、全ての人に開か れた空間となっ ている。 京都:クリエイティブ都市 176 カタログ 西部エリア 177 Bbq Court 339 & madogiwa Café 339 語彙集 (* 一部、原文の語彙集にないものも補足している) アクセラレータ: オレンジ経済: レイターステージのスタートアップ企業を対象にメンターや オレンジ経済は芸術、 工芸、映画、文化遺産、ビデオゲーム、 広いネットワークへのアクセスを提供し、数週間から数か月 ファッション、音楽など広範な文化領域を対象とする。文化 ・ という限られた期間でそれらスタートアッ プのアイディアを 芸術遺産に由来するコンテンツの商品、サービス、活動の 集中的に発展させる事業者。(注:レイターステージとはベン 生産、複製、宣伝、流通、商業化のこと。 チャー企業の成長段階の最終段階のこと) カタライザー : アダプティブ・ : リユース * 触媒的な働きをする促進者。クリエイティ ブ・コミュニティに 歴史的な個性を残しながら新しい建築手法を用い、歴史的 おけるカタライザーは、クリエイティ ブな人や事業、周囲に 建造物の用途変更などをする適応型再利用の方式。 影響を与える個人や組織で、地域のクリエイティ ブ経済を 活性化させ、より包摂的でつながりのある協働的なクリエイ アンプリファイア: ティブ・コミュニティを構築しようとする。 増幅者。伝統的な芸術・文化を活用して無形のクリエイティ ブ資本を生み出す個人や組織。 空間変容 : さまざまな規模の空間における人や活動の分布の変化のプ : イネーブラー * ロセス。 目的達成を可能にする人や組織。成功要因。本書では主に、 目的達成のために環境を整え積極的な支援や介入をする役 クリエイティブ・コミュニティ: 割を担った行政を指して使われている。 特定の地域のクリエイティ ブ産業を支えている専門職や組 織、都市空間。 イノベーション: 実用的で有用な新しいアイディアを開発し、実社会で検証 クリエイティブ資本 : され、機能すると分かっているもの。長期的に経済・社会に 組織、建物、空間、伝統等、すでに備わっている資産でク 影響を及ぼし得るイノベーションもある。創造性とイノベー リエイティブ・コミュニティやクリエイティブ都市を創り出すこ ションは相互に関連し合っている。 とを助けるもの。 インキュベータ: クリエイティブ都市: アーリーステージのスタートアップ支援をする事業者で、共 都市計画や都市問題の解決策に創造性の文化を取り入れ 有スペースやメンターへのアクセスの他、様々なサービス ている都市。 (例:ビジネスリテラシーを高めるプログラム、市場調査、 マーケティング支援、ビジネス・コーチング)が利用できる。 クリエイティブ・ : ネイバーフッド * (注:アーリーステージとはベンチャーを立ち上げた企業が 共有する価値観を持つ人々が都市生活を送る、または集う 軌道にのるまでの初期段階のこと) 界隈。 ここではクリエイティブ・ スペースやクリエイティブ・ コミュニティが多く存在し、創造力を誘発する特定の界隈 : エコシステム * のことを指す。 元々は生態系の用語で、ある領域の生き物や植物がお互い に依存しながら生態を維持する関係の様子になぞらえた表 コミュニティ・スペース: 京都:クリエイティブ都市 現。近年のビジネスの世界においての、様々な製品、企業、 コミュニティの全ての人々を包摂するための場であり、多く 人などの連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシス の場合、学習活動やレクリエーション、アイディアの交換の テムを形成するさま。 場を提供する。 178 付録 179 : コラボレーター * ファブラボ : 協力・協働する人や組織のこと デジタルファ ブリケーション(コンピュータ制御の工作機械を つかった成形技術)を専門にする工房で、3D をはじめ様々 コワーキングスペース: な制作技術を使うことができる。 会員制のワークスペースで、クリエイティブ職の人やリモー トワークをする個人ら多様な人々が同じ空間で仕事をする ブートキャンプ: 場。 最新の技術動向や起業家精神、コーディングやデザイン、 職能開発等が学べる集中型の技術トレーニング・プログラ コントリビュータ: ム。 貢献者。地域のクリエイティ ブ資産を増やし、経済・社会・ 文化的価値を高める。コントリビュータの存在は、特定の : フードテック * エリアやクリエイティブ・コミュニティにおけるクリエイティブ 食(フード)とテクノロジーの組み合わせで、最先端の IT 分 な特徴を増大させる。 野を活用して、食の持つ可能性を広げていくこと。今後の 成長産業として期待されている業界の 1 つ。 創造性: 新しいアイディアの形成やそのアイディアを応用して独創的 : ボトムアップ * な芸術作品や文化的なもの、機能的創造物、科学的発明 下からの意見を吸い上げて全体をまとめていく手法。都市 や技術を生み出すこと。 においては草の根活動など住民・コミュニティレベルから発 生した動きによる都市計画プロセスのこと。 創造的な場所づくり: 文化や創造性の力に焦点をあてて、創造的な方法で地域コ 無形経済: ミュニティの生活を変え、住み、働き、生活を楽しむため ブランドや商標、特許、著作権等、物理的に形がない資産 魅力ある地域にするアプローチ。 で構成される経済システム。  都市変容: 無形文化遺産 : 歴史的・文化的遺産や景観を保存しながら、都市再生以上 パフォーマンス・アーツや祭、 伝統的な環境知識、工芸品等、 に社会構造や経済活動を活性化させるまたは変容させる再 コミュニティの中で世代を超えて受け継がれ、 「文化遺産の 生プロセス。 (UNESCO 2003) 一部」 として認識されている伝統的な [16] 知識、技能、ノウハウのこと。 : トップダウン * 全体のなかで高いところにあるものから下方に向かって手続 メーカースペース: きなどが進んでいく手法。都市においては行政主導で物事 芸術、科学、エンジニアリングの分野で創造的な制作がで が決められる都市計画プロセスのこと。 きる空間で、あらゆる年齢や職業の人々がデジタルと物理 的な技術を組み合わせて技術的なスキルを身につけ、新し ハブ: い製品を創り出す場所。 特定のセクターの活動が生まれ、人々が集まる場。空間や 地域、ネットワークなどを指す。 インタビューとプレゼンテーション 本書は、京都市の政策立案者、市職員やステークホルダーへの対面インタビューや、2020 年 1 月開催のクリエイティ ブ都 市に関する都市開発実務者向け対話型研修 (TDD)において実施・作成されたプレゼンテーションや調査結果を基に作成さ れた。これには、TDD に参加した政策立案者、専門家、実務者らが行ったプレゼンテーションや議論から得られた考察も 含む。さらに、机上調査も行っ ており、関係書目と参考文献は以下の通りである。 (当ページに表記の名前については、敬称 略・および部署・肩書きは 2020 年 1 月時点のものであり、また英語表記時のアルファベッ ト順である。) 本書執筆に当たり、以下の日本政府関係者や京都市の政策立案者、ステークホルダーにインタビューした。 ・ 後藤幸宏:文化庁 地域文化創生本部事務局総括・政策 ・ 北川フラム:アート フロントギャラリー代表、アートディレ 研究グルー プ  クター ・ 星野有希枝:文化庁 地域文化創生本部事務局総括・政 「アートが地域の可能性を開く」 策研究グルー プ   (2020 年 1 月 30 日に行われたプレゼンテーション) ・ 細尾真孝 :株式会社細尾 取締役  ・ 牧野成将: 株式会社 Monozukuri Ventures(Kyoto ・ 糟谷範子 :京都市 観光政策監  Makers Garage)代表取締役 / 共同創設者 「クリエイティブ都市都市の形成と都市の競争力向上に 「共にハードウェア ・スタートアップを作る」 向けた京都市のビジョンと取り組み」 (2020 年 1 月 30 日に行われたプレゼンテーション) (2020 年 1 月 28 日に行われたプレゼンテーション) ・ 佐々木雅幸 : ・ 川口高司 :京都市産業観光局 新産業振興室  同志社大学 教授  ・ 木下浩佑 :FabCafe Kyoto Fab ディレクター ・ 薮田哲司 : 「FabCafe Kyoto」 京都市観光産業局 観光 MICE 推進室 観光おもてなし課長 (2020 年 1 月 29 日に行われたプレゼンテーション) ・ 北林功:COS KYOTO 株式会社 代表取締役 / コーディ ネーター  「デザイン・ウィーク京都:多様な交流で京都の創造性を 強化」 (2020 年 1 月 30 日に行われたプレゼンテーション) 本書で取り上げたクリエイティブ・スペースについてさらに情報を得るために、以下の方々に対面または電話でインタビューし た。 ・ 安食弘子 :あじき路地「お母さん」 ・ 水口貴之 :京都 R 不動産  ・ 浅井俊子 :一般社団法人 Impact Hub Kyoto 代表理事  ・ 中澤有基 :ギャラリーメイン 主宰  ・ 二上範之: 株式会社 Monozukuri Ventures (Kyoto ・ 扇沢友樹 :株式会社めい ファウンダー  Makers Garage) VP 「河岸ホテル : 都市の余白部での可能性」 ・ 伊藤大貴 :UNKNOWN Kyoto 飲食管理責任者  (2020 年 1 月 30 日に行われたプレゼンテーション) ・ 掛札英敬:五條製作所 ムーンライトグラフィックス グラ ・ 上松大介 :Ygion オペレーションマネージャー  京都:クリエイティブ都市 フィックデザイナー  ・ 梅田考也 :Walden Woods Kyoto マネージャー  ・ 菊池怜子 :UNKNOWN Kyoto 女将  ・ 臼井香織 :Box & Needle  ・ 近藤淳也:株式会社 OND (UNKNOWN Kyoto) 代表 ・ 八木 隆裕 : 株式会社開化堂 代表取締役社長 取締役社長  ・ 馬渕理恵 :株式会社開化堂  180 付録 181 上記の専門家らに加えて、TDD に参加した以下の方々が行ったプレゼンテーションや議論から得られた考察も活用した。 ・ 秋元雄史 :東京藝術大学大学美術館館長/教授  ・ 永田宏和:デザイン・クリエイティブセンター神戸 副セン 「21 世紀における近代芸術美術館 金沢の文化行政」 ター長  (2020 年 1月28日に行われたプレゼンテーション)   「KIITO(デザイン・クリエイティブセンター 神戸) の活 ・ 朝川和彦 :伝統工芸青山スクエア 店長  動概要」 ・ ハリエット ・ ディーコン :コベントリー大学 客員教授  (2020 年 1月28日に行われたプレゼンテーション)   「クリエイティブ都市 都市開発や包摂的成長のために ・ 大岸將志 :京都市産業観光局 産業政策課長 創造性と文化を活用」 「京都の概要と経済発展にむけた取り組み」 (2020 年 1月28日に行われたプレゼンテーション)   (2020 年 1月30日に行われたプレゼンテーション)   ・ 長谷川寬晃:経済産業省 貿易経済協力局貿易管理部安 ・ ドンフン・シン:ソウルアーバンソリューションエージェン 全保障貿易管理課課長補佐  シー プロジェク ト アドバイザー 「クールジャパン政策」 「韓国ソウルのデジタル ・メディアシティ」 (2020 年 1 月 27 日に行われたプレゼンテーション)   (2020 年 1 月 28 日に行われたプレゼンテーション)   ・ 市田香 :京都市行財政局 芸術大学担当課長  ・ 杉浦久弘 :文化庁審議官 ・ 金井塚裕平 :京都市総合企画局 プロジェク ト推進第二課 「日本のクリエイティブ都市のための取り組み」 長 (2020 年 1月27日に行われたプレゼンテーション) ・ サングブム ・ キム : ソウル大学 教授 / シニアリサーチャー  ・ 鈴木章一郎 :京都市副市長 ・ 倉石麻紀子 :株式会社電通 クリエーティ ブ・ディレクター  ・ シャーロット ・ ウェルデ :コベントリー大学 教授 「engawa KYOTO へようこそ」 「クリエイティブ都市 都市開発と包摂的成長のための (2020 年 1 月 29 日に行われたプレゼンテーション)   創造性と文化の活用」 ・ 松浦太郎:京都市産業観光局 地域企業イ ノベーション推 (2020 年 1 月 27 日に行われたプレゼンテーション)  進室担当課長  ・ 山田毅 :只本屋 代表 「京都のスタートアッ プ支援」 (2020 年 1 月 29 日に行われたプレゼンテーション)   ・ 宮本愛子 :伝統工芸青山スクエア 主任  「日本の伝統工芸」 (2020 年 1 月 27 日に行われたプレゼンテーション)   関連書目 Akimoto, Yuji. 2018. 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The Convention on the Protection and Promotion of the Diversity of Cultural Expressions. https://en.unesco.org/creativity/sites/ creativity/files/passeport-convention2005-web2.pdf. 京都:クリエイティブ都市 186 付録 187 巻末脚注 1 文化 · クリエイティブ産業における各地域の雇用に関 10 この分析で 2012 年から 2019 年を対象とした理由は、 する見通しは、国の統計や市場調査、世界知的所 2011 年の東日本大震災後の復興を受けて、クリエイ 有権機関 (WIPO)等の既存の統計や産業レポートの ティ ブ人材や起業家の流入が東部エリアに影響を及 他、約 150 人のステークホルダーに行った聞き取りか ぼし始めたのが 2012 年だからである。この傾向を確 ら導き出した。この中には企業や組織の従業員 · 職員 認すべく、より長い期間である 2008 年から 2019 年 の人や、自営業の人も含まれる。推計値は 2013 年 の分析をした。2008 年は大不況が起き、その後都 の統計を基にしている。本書では、11 のセクター(広 市部のスタート アップ · エコシステムが誕生した。同様 告、建築、視覚芸術、パフォーミングアーツ、テレビ、 の傾向もこの長い期間で確認されている。2008 年 ラジオ、音楽、書籍、ゲーム、映画、新聞、雑誌) 以降の家賃の年平均成長率は約 5.5%で、中心部商 に焦点をあてた。 業地と東部エリアの全体の増加率は約 80%だった。 一方、同期間の京都市の平均家賃の年平均成長率 2, 3, 4 2009 年、2014 年、2019 年の総務省統計局経済セ は 2.6%で、全体の上昇率は 46%だった。中心部商 ンサスに基づいて筆者が計算したもの 業地と東部エリアの家賃は 2008 年から 2019 年にか 5 関西は、本州の中南部に位置し、三重県、奈良県、 けて 0.7 倍増加した。 和歌山県、京都府、大阪府等を含む 11 詳しくは、京都リサーチパークのウェブサイトを参照 6 町家とは、日本の伝統的な低層の職住一体の住居 https://www.krp.co.jp/english/basic_facts/ のことである。典型的な京都の町家 (京町屋) は木造 12 詳細は、ウェブサイト参照 https://fabcafe.com の長屋で間口が狭く、路地の奥まで伸び、小さな中 庭があることが多い。京都市は「京町屋再生プラン」 13 別の例として 「Go On プロジェク ト」 が挙げられる。京 (2000 年)、「京都市京町屋の保全及び継承に関す 都で伝統工芸を受け継ぐ6 名の活動である 「GO ON」 る条例」 (2017 年)「京都市京町屋保全 · 継承推進計 、 のメンバーでもある。 「GO ON」では、京都の伝統工 (2019 年) 画」 等を通じて積極的に京町家の再生や再 芸を軸としながら近代的な技を織り交ぜ、伝統工芸 利用を支援している。 を普及するという共同プロジェクトや取り組みを行っ ている。 (https://www.go-on-project.com/) 7 http://www.oecd.org/officialdocuments/ publicdisplaydocumentpdf/?cote=ECO/ 14 町家とは、日本の伝統的な低層の職住一体の住居 WKP(2019)16&docLanguage=En; https:// のことである。典型的な京都の町家 (京町屋) は木造 link.springer.com/content/pdf/10.1057/ の長屋で間口が狭く、路地の奥まで伸び、小さな中 elmr.2011.8.pdf. を参照。 庭があることが多い。京都市は「京町屋再生プラン」 (2000 年)、「京都市京町屋の保全及び継承に関す 8 Impact Hub は世界 5 大陸、50 ヵ国以上の 100 ヶ る条例」 (2017 年)「京都市京町屋保全 · 継承推進計 、 所以上に展開し、クリエイターや変化を起こしたい 画」(2019 年)等を通じて積極的に京町家の再生や再 人々のグローバルなネットワークを構築している。 利用を支援している。 Impact Hub Kyoto は、クリエイティ ブ · コミュニティ の招集者として独自の役割を果たしている。また、イ 15 社員寮とは、企業が所有する住宅で、企業が補助金 ベントやネットワーキングの機会を通じて、様々な地 を出して社員に貸し出す。日本では第二次世界大戦 域レベルのクリエイティ ブ · コミュニティを都市全体の 後に社員寮が普及したが、1990 年代のバブル崩壊 エコシステムと結びつけ、京都のクリエイティ ブ · エコ 後は社員寮の数は減少した。社員寮は手ごろな家賃 システムの接着剤のような役割を果たす。(https:// や同僚との交流を好む独身の若手社員に利用される kyoto.impacthub.net/en/). ことが多い。 9 京都商工会議所の 2013 年時点の京都クリエイティ 16 UNESCO の 条 約 や 本 書 に お け る「 保 護(safe- ブ産業企業一覧の住所と本書で触れているクリエイ guarding)」の定義は、 世界銀行の業務における 「セー ティ ブ · スペース一覧やインタビューと照合して確認。 フガード (safeguards)」の定義とは異なる。本書に (http://www.kyoto-creative.jp/en/ ). おいては、文化遺産の保存や利用可能にすることを 指す。