A World Bank Group Flagship Report World Development Report 2023 世界開発報告 Migrants, Refugees, and Societies 移民・難民・社会 This work was originally published by the World Bank in English as World Development Report 2023: Migrants, Refugees, and Societies in 2023. This Japanese translation was arranged by Ittosha Incorporated. Ittosha Incorporated is responsible for the accuracy of the translation. In case of any discrepancies, the original language will govern. 本報告書は 2023 年に世界銀行 から World Development Report 2023: Migrants, Refugees, and Societies (The World Bank) として出版された. 本書の翻訳は株式会社 一灯舎に よりまとめられた も のであ り, 翻訳の正確性については株式会社 一灯舎が責任を 負う.翻訳と原文の間になん らかの矛盾がある場合は原文に従う . この報告書の英語版のオリジナルは国際復興開発銀行 / 世界銀行のスタッフによって作成された.この報告書において示 されている発見,解釈,および結論は,必ずしも世界銀行の理事会あるいは理事会が代表する国の見解を反映するもので はない. 世界銀行は,本書に含まれているデータの正確性,完全性,あるいは最新性を保証してはいない.また,情報における誤 り,欠落,ないし矛盾,あるいは記載されている情報,方法,プロセス,ないし結論の使用または不使用に関連する責任 を負わない.本書中の地図に示されている境界線,色,表示,およびその他の情報は,世界銀行によるいかなる領域の法 的地位の判断,またはその境界線の承認または受諾を意味するものではない. Rights and Permissions The material in this work is subject to copyright. Because The World Bank encourages dissemination of its knowledge, this work may be reproduced, in whole or in part, for noncommercial purposes as long as full attribution to this work is given. All queries on rights and licenses should be addressed to World Bank Publications, The World Bank Group, 1818 H Street NW, Washington, DC 20433, USA; e-mail: pubrights@worldbank.org. 著作権と許可:本報告書に掲載されている素材は著作権の対象と なっている. 世界銀行はその知識の普及を奨励しているため, この 報告書に対する完全な帰属が与え られている限 り,この作品の全部ま たは一部を非営利目的で複製する ことがで きる. 補助的権利を含 む権利お よ びラ イ センスに関する質問は, 世界銀行グループの出版局 (1818 H Street NW, Washington, DC 20433, USA; fax: 202- 522-2625; e-mail: pubrights@worldbank.org)宛に送ってください. [日本語版の引用お よび転載については, 世界銀行東京事務所あ るいは株式会社 一灯舎へお問い合わせ く ださい (本書奥付参照) ] . World Development Report 2023: Migrants, Refugees, and Societies Copyright © 2023 by The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank 1818 H Street, N.W., Washington, D.C. 20433, U.S.A. 世界開発報告 2023 移民・難民・社会 Copyright © 2024 株式会社 一灯舎 by The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank 1818 H Street, N.W., Washington, D.C. 20433, U.S.A. カバーおよび本文デザイン:Puntoaparte Editores, Bogotá, Colombia, with input from the Design team in the Global Corporate Solutions unit of the World Bank. カバー写真クレジッ ト:一行目,左から右:KAMPUS/Shutterstock.com; BAZA Production/Shutterstock.com; Prostock-studio/Shutterstock.com; airdone/Shutterstock.com; Comaniciu Dan/Shutterstock.com; CREATISTA/ Shutterstock.com; Aila Images/Shutterstock.com; A.D.S.Portrait/Shutterstock.com; Prostock-studio/ Shutterstock.com; LSrockStudio/Shutterstock.com; AJR_photo/Shutterstock.com; SB Arts Media/Shutterstock. com; Jacob Lund/Shutterstock.com. 掲載されている全ての写真は, 撮影を行った写真家とShutterstock.com の許可を 得て使われています. 再利用に際しては, 新たに許可を得る必要があ り ます. 二行目,左から右:Krakenimages.com/Shutterstock.com; Hing Chung Chic/Shutterstock.com; binoyphoto folio/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; BAZA Production/Shutterstock.com; LightField Studios/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; Beauty Stock/Shutterstock.com; Cast Of Thousands/Shutterstock.com; AJP/Shutterstock.com; Cast Of Thousands/Shutterstock.com; PakistanZindabad/ Shutterstock.com; 15Studio/Shutterstock.com; Daxiao Productions/Shutterstock.com. 掲載されている全ての写真 は, 撮影を行った写真家とShutterstock.com の許可を得て使われています. 再利用に際しては, 新たに許可を得る必要が あ り ます. 三行目,左から右:Prostock-studio/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; Cookie Studio /Shutterstock.com; Kamira/Shutterstock.com; EJ Nickerson/Shutterstock.com; Daxiao Productions/ Shutterstock.com; Always Say YESS/Shutterstock.com; AJR_photo/Shutterstock.com; SB Arts Media/ Shutterstock.com; Ground Picture/Shutterstock.com; Heru Anggara/Shutterstock.com; BublikHaus/ Shutterstock.com; Jenson/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; poltu shyamal/Shutterstock. com. 掲載されている全ての写真は, 撮影を行った写真家とShutterstock.com の許可を得て使われています. 再利用に際 しては, 新たに許可を得る必要があ ります.  パールシー(パーシ人)の指導者である司祭たちが,地元の支配者ジャダブ・ラー ナーの前に連れてこられた.ジャダブ・ラーナーは,周辺の地域ではこれ以上の 人が住むことはできないということを示すために,ミルクで満たされた容器を差 し出した.パールシーの主任司祭はミルクにいくらかの砂糖を混ぜることによっ て,これに応じた.それは,よそ者が地元の人を追い出すことなく,地元の社会 を豊かにする方法を示すためであった.よそ者は,砂糖がミルクに溶けるように 地元の生活に溶け込み,混乱をもたらすことなくその社会を豊かにするだろう. 地元の支配者は,説得力のあるイメージに応えた.そして,地元の習慣を尊重し, 現地の言葉であるジャラート語を習得することを条件に,追放されてきた者たち に土地を与え,妨げを受けることなく独自の宗教を実践することを許可した. ――パーシの伝説  グローバルなコミュニティとして,われわれは選択を迫られている.移住が繁 栄と国際的な連帯の源泉になることを望むのか,あるいは非人間性と社会的摩擦 の代名詞になることを望むのか? ――アントニオ・グテーレス国連事総長,2018 年 v 序文 『世界開発報告』  世界銀行によって毎年公開される (WDR)は,鍵となる開発問題についての知識とデー タに関する国際的なコミュニティの宝庫を活用して作成される主要な出版物である.本年版では世界で最 も重要かつ切迫した課題の 1 つである移住(migration)を検討している.世界全体では 1 億 8,400 万人 の移民が存在する.その中の 43%は低・中所得国に居住している.各国間および各国内において――実 質賃金,労働市場機会,人口動態のパターン,そして気候変動に関連するコストなどの点で――深刻な相 違があることから,移民問題はより広範囲にわたる差し迫ったものになりつつある.  移住は経済開発と貧困削減に本質的な貢献をするが,同時に問題やリスクを伴っている.移民はしばし ば行き先国の経済を強化するスキル,活力,それに資源をもたらす.多くの場合,移住は移民の出身国も 強化する.特に混乱期においては,移民の家族のためのライフラインとして,資金の送金によってコミュ 『世界開発報告 2023』 ニティに極めて重要な支援機構を提供する.この は,移民の行き先国,通過国,お よび出身国のそれぞれにおいて,移住をよりうまく管理するための政策を提言している.このような政策 は移民が経済機会を活用すると同時に,移民が直面している困難やリスクを軽減するのを支援することが できる.  WDR では「適合と動機の枠組み」 「適合」 を用いて移住に関連するトレードオフを検討する. の側面は労 働経済学に基づいており,移民のスキルや関連する属性が行き先国のニーズにどの程度適合しているかに 焦点を合わせている.これが,移民自身,出身国,そして行き先国が移住から得られる利益の程度を決定 「動機」 する――適合が強固であるほど,利益は大きくなる. は,機会を求めて,あるいは迫害,武力抗争, ないしは暴力という恐怖の故に,人が移住する状況を指している.後者の場合,行き先国にとっては国際 法上の義務が生じるかもしれない.具体的には,自国において害を受ける「十分な理由のある恐怖(well- founded fear)」 「適合」 を理由として移住する人は,国際的な保護を受ける権利がある. と「動機」を組み 合わせることによって,この枠組みは,出身国,通過国,および行き先国にとっての,さらに国際的なコ ミュニティにとっての,政策の優先順位を特定する.また,どのようにすれば二国間,複数国間,あるい は多数国間のイニシアティブや手段を通じて政策対応が改善されうるかについても検討されている.政策 が設計され,そして実施されるその方法は,移民がより良い機会や改善された適合に向けて前進するのを 支援することができ,そのことによって,万人にとって移住の利益が増加する.  移民の出身国は,例えば,送金の実行や受領のコストを引き下げることで,送金の流入を円滑化する方 法を提供することによって,自国社会に対する労働移住の開発に関わる効果を最大化することができる. 出身国は,言語のスキルを含め,しばしば行き先国と協働して教育機会を改善することも可能である.さ らに出身国は,海外に散在する移民に投資を奨励することや,帰国移民が労働市場に再参入するのを支援 することもできる.  移民の行き先国[受け入れ国]は,特に高齢化の進展あるいは特定のスキル不足が引き金となっている労 働力不足に対応するという,長期的な労働市場のニーズを満たすために移住の潜在力を活用することがで きる.行き先国は,移民を人道的に処遇し,自国民への移民の社会的および経済的なインパクトに対処す ることに向けた努力を改善することができる.通過国は出身国と調整して,苦難の中での移住[困窮移住] に対処する必要がある.難民の受け入れにかかわるコストの分担に関しては,国際的な協力が決定的に重 要である.  移住に関する挑戦課題と複雑性を認識しながら,今回の WDR は,トレードオフについてのデータ主 vi 世界開発報告 2023 導型かつ証拠に基づく実例と評価を提示している.そして,移住が開発のためにどのように役割を果たす かを示している.この報告書は移住に関する理解を深めることに貢献するだろう.そして,政策策定者や その他の利害関係者が地域社会や個々人にとってのより良い成果に寄与するような知識に基づく選択を行 い,有効な戦略を策定するに際し,政策策定者やその他の利害関係者にとって有用な参照先を提供するは ずである. デイビッド・R・マルパス 世界銀行グループ総裁 vii 謝辞  『世界開発報告(WDR)2023』は Xavier Devictor, Quy-Toan Do, および Çağlar Özden が率いる世 界銀行チームによって作成された.Joyce Antone Ibrahim がタスク・チーム・リーダーを務めた.全体 的なガイダンスを提供したのは Carmen Reinhart (2022 年 6 月まで )――前 Senior Vice President and Chief Economist――,Indermit Gill (2022 年 9 月 時 点 )――Senior Vice President and Chief Economist――, お よ び Aart Kraay――Director of Development Policy, Development Economics, and Deputy Chief Economics―― で あ る. 本 報 告 書 は Development Economics Vice Presidency の後援を受けた.  コアな執筆者チームは,調査アナリストである Laura Caron, Narcisse Cha’ngom, Jessica Dodo Buchler, Sameeksha Khare, Matthew Martin, Elham Shabahat, Samikshya Siwakoti, お よ び Adesola Sunmoni に加えて,次の人たちによって構成された:Paige Casaly, Viviane Clement, Vikram Raghavan, Kanta Rigaud, Sandra Rozo Villarraga, Zara Sarzin, Kirsten Schuettler, Ganesh Seshan, Maheshwor Shrestha, Mauro Testaverde, Solomon Walelign, Christina Wieser, お よ び Soonhwa Yi.Selome Missael Paulos が Aidara Janulaityte の 補 佐 を 得 な が ら チームに対して事務的な支援を提供した.Barthelemy Bonadio, April Frake, Janis Kreuder, および Tony Zurui Su がさまざまな段階で,章の執筆者たちを支援した.Bruce Ross-Larson が報告書の起草 段階で方向性に関して指針を提示した.  拡大チームのメンバーとして参加したのは,Caroline Sergeant と Thamesha Tennakoon であ る.Erhan Artuc は本報告書における二国間の移住マトリックスを構築するために用いられた方法論を 開発した.Gero Carletto はスポットライト 2 においてデータに関して貢献し,Lucia Hanmer, Laura Montes, および Laura Rawlings はジェンダーに関してスポットライト 4 に貢献した.また,Anne Koch, Nadine Biehler, Nadine Knapp, および David Kipp は,ドイツから得た教訓に関するボッ ク ス 6.3 を 執 筆 し た.Irene Bloemraad, Victoria Esses, Connie Eysenck, William Kymlicka, Rachel McColgan, および Yang-Yang Zhou は,第 6 章の行き先国に関するセクションに貢献した. Paulo Bastos, Irina Galimova, Rebeca Gravatá, Alreem Kamal, お よ び He Wang が 翻 訳 の レ ビュー作業を支援した.   コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と エ ン ゲ ー ジ メ ン ト に 関 す る 戦 略 は,Chisako Fukuda, Karolina Ordon, Anugraha Palan, Elizabeth Price, Joe Rebello, Shane Romig, および Mariana Teixeira によっ て構成されるチームが主導した.Paul Blake がビデオ制作を主導し,そして調整を行った.Kristen Milhollin, Mikael Reventar, および Roula Yazigi がウェブやオンラインのサービス,およびそれらに 関連のあるガイダンスを提供した.  特別な謝意を,本報告書の正式な制作作業を調整および監督した Stephen D. Pazdan と,Cindy Fisher と Patricia Katayama を含む世界銀行の Formal Publishing Program に対して申しあげる. Mary C. Fisk は,「概観」と「主要なメッセージ」の Translations and Interpretation チームによる多 数の言語への翻訳を促進し,この作業は,Bouchra Belfqih によって調整が行われた.Deb Barker と Yaneisy Martinez が,本レポートの印刷と電子版への変換,および多数の関連する制作物の管理を行った. コンセプト・ノートは Anne Koch によって編集された.報告書全体の編集は Sabra Ledent と Nancy Morrison が行い,校正は Gwenda Larsen と Catherine Farley が担当した.Robert Zimmermann は本報告書の広範囲にわたる引用を検証した.Critical Stages(ウェブ批評誌)の Bill Pragluski に加 えて,Reyes Work が,本報告書の図やインフォグラフィックスの一部をデザインした.Puntoaparte viii 世界開発報告 2023 Editores が主任グラフィック・デザイナーであり,BMWW と Datapage が組版サービスを提供した.  Van Thi Hong Do, Dayana Leguizamon, Monique Pelloux Patron, お よ び Ghulam Ahmad Yahyaie が,WDR チームに資源管理の支援を供与した.Rolf Parta がチーム全体としての研修やその他 の会議を円滑化した.WDR チームは,チームメンバーの使節団の後方支援業務と利害関係者の関与を支援 してくれた世界銀行のさまざまな国の事務所の同僚にも感謝を申し上げる.特に,調整とハイレベルのエン ゲージメント戦略に支援をしてくださったことに関して,Maria Alyanak, Gabriela Calderon Motta, Maria del Camino Hurtado, Grace Soko, および Sebastian Stolorz にお礼を申し上げる.  WDR チームは以下の方々をメンバーとする内部諮問委員会から頂いた指針や意見に準拠して執筆を行っ た:Dina Abu-Ghaida, Loli Arribas-Banos, Caroline Bahnson, Michel Botzung, Gero Carletto, Ximena del Carpio, Stephane Hallegatte, David McKenzie, Pia Peeters, お よ び Dilip Ratha. また,当チームは世界銀行グループ内の他の同僚,特に以下の方々からいただいた指針,意見,および 情 報 に も 感 謝 し て い る:IMF の Multilateral Investment Guarantee Agency and the Balance of Payments Division に 加 え て,Development Economics Vice Presidency; Economics and Private Sector Development Vice Presidency (International Finance Corporation); Legal Vice Presidency; Environment, Natural Resources, and Blue Economy Global Practice; Finance, Competitiveness, and Innovation Global Practice; Poverty and Equity Global Practice; Social Protection and Jobs Global Practice; Social Sustainability and Inclusion Global Practice; Climate Change Group; Fragility, Conflict, and Violence Group.さらに,当チームは正式な銀行 全体によるレビュー行程の期間に文書でコメントを提供してくださった多数の世界銀行の同僚にもお礼を申 し上げたい.そのコメントは報告書の作成における重要な段階で貴重な指針となった.  また,WDR チームは次の方々をメンバーとするハイレベル諮問パネルから受け取った提案や指針に深く 感謝している:Nasser Alkahtani, Executive Director, Arab Gulf Programme for Development, Saudi Arabia; Davinia Esther Anyakun, Minister of State for Relief, Disaster Preparedness and Refugees, Uganda; Alejandra Botero Barco, former Director-General, National Planning Department, Colombia; Karl Chua, former Secretary of Socioeconomic Planning, National Economic and Development Authority, the Philippines; Reha Denemeç, former Deputy Minister of National Education, Turkey; Tiébilé Dramé, former Minister of Foreign Affairs and former Member of Parliament, Mali; Filippo Grandi, High Commissioner, United Nations High Commissioner for Refugees (UNHCR); Carlos Gutierrez, former Secretary of Commerce, United States; Gilbert F. Houngbo, Director-General, International Labour Organization (ILO) (as of October 2022); Mary Kawar, former Minister of Planning and International Cooperation, Jordan; Yuba Raj Khatiwada, former Minister of Finance, former Minister of Planning, and former Central Bank Governor, Nepal; Janez Lenar čič, Commissioner for Crisis Management, European Commission; David Miliband, President and CEO, International Rescue Committee; Guy Ryder, former Director-General, ILO (through September 2022); Asif Saleh, Executive Director, BRAC Bangladesh; お よ び António Vitorino, Director-General, International Organization for Migration.Volker Türk も 2022 年 9 月まで,自身の能力の範囲で, そのパネルのメンバーの 1 人として貢献した.  WDR チームは以下の方々をメンバーとする学術諮問委員会からも提案や意見を受け取った:Ran Abramitzky (Stanford University), Emmanuelle Auriol (Toulouse School of Econ-omics), Alexander Betts (University of Oxford), Michael Clemens (Center for Global Development), Alexander de Sherbinin (Columbia University Climate School), Frédéric Docquier (Catholic University of Louvain/ Luxembourg Institute of Socio-Economic Research), Esther Duflo (Massachusetts Institute of 謝辞 ix Technology), Filiz Garip (Princeton University), Guy Goodwin-Gill (University of Oxford), Jennifer Hunt (Rutgers University), Ana María Ibáñez (Inter-American Development Bank/Universidad de los Andes), Susan Martin (Georgetown University), Anna Maria Mayda (Georgetown University), Edward Miguel (University of California, Berkeley), Mushfiq Mobarak (Yale University), Giovanni Peri (University of California, Davis), Lant Pritchett (University of Oxford), Jaya Ramji- Nogales (Beasley School of Law, Temple University), Hillel Rapoport (University of Paris 1 Pantheon-Sorbonne/Paris School of Economics), および Jackie Wahba (University of Southampton).  また,WDR チームは以下を含む政府や開発パートナーと,一連の二者協議や諸国の訪問を行った:アル メニア,アゼルバイジャン,バングラデシュ,カメルーン,中央アフリカ共和国,コロンビア,コートジボ ワール,デンマーク,エストニア,エチオピア,フィンランド,フランス,ジョージア,ドイツ,グアテマ ラ,インドネシア,イタリア,日本,ヨルダン,クウェート,ラトビア,リトアニア,メキシコ,モロッコ, オランダ,ペルー,フィリピン,ポルトガル,サウジアラビア,スウェーデン,スイス,チュニジア,イギ リス,アメリカに加えて,ヨーロッパ委員会の気候行動,国際パートナーシップ,移民・内務,近隣・拡大 交渉を担当する各総局;ヨーロッパ対外行動局;統合・移民専門家会議(ドイツ);バチカン市国.  本チームは以下の国際機関や地域機関とも協議を行った:アジア開発銀行 (ADB),カリブ共同体 (CARICOM),国際労働機関(ILO),米州開発銀行 ,政府間開発機構 (IDB:移民ユニット) ,赤十 (IAD) 字国際委員会(ICRC), (IOM) 国際移住機関 ,経済協力開発機構(OECD),国際連合経済社会局(UNDESA, 人口部),国際連合アフリカ経済委員会(ECA),国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR),国連事務総長 の国内避難民に関する高級レベル・パネル.  当チームとしては,学者や非政府組織の参加を得て行われた一連の円卓会議やセミナーを企画および主催 した以下の団体に感謝している:コロンビア大学,コーネル大学,インターアクション(NGO の国際組織), International Council of Voluntary Aggencies, 日本国際協力機構(JICA),海外開発研究所(ODI), ピーターソン国際経済研究所(PIIE),難民インターナショナル.  以下を含むシンクタンクや調査機関から提供された情報は有益であった:世界開発センター(CGD),王 立国際問題研究所(Chatham House(RIIA)),フリーダム・ハウス,ドイツ国際安全保障研究所(SWP), 国際欧州問題研究所(IIEA),日本貿易振興機構・アジア経済研究所 ,JICA 緒方研究所 (JRTRO-IDE) (JICA-RI) (MPI) ,移住政策研究所 ,イタリア学術会議(CNR).   加 え て, チ ー ム に と っ て, 以 下 を 含 む 多 く の 市 民 社 会 組 織 か ら 得 ら れ た 諸 情 報 も 有 益 で あ っ た: ActionAid Bangladesh; Adventist Development and Relief Agency; Agency for Migration and Adaptation; Ain O Salish Kendra; Aligarh Muslim University; All for Integral Development; Alliance for Peacebuilding; American University of Beirut; AMIGA z.s.; Angels Refugee Support Foundation; Arab Renaissance for Democracy and Development; Asia Displacement Solutions Platform; Association of Rehabilitation Nurses; Bangladesh Nari Sramik Kendra; Bangladeshi Ovhibashi Mohila Sramik Association; Basmeh and Zeitooneh; Bill & Melinda Gates Foundation; Bond; Bordeaux-Montaigne University; BRAC; British International Investments; Business Fights Poverty; CARE International; CARE International Jordan; CARE International UK; Catholic Agency for Overseas Development; Catholic Relief Services; Center for Disaster Philanthropy; Center for Global Development; Center for Intercultural Dialogue; Center for Peace and Advocacy; Centre for Policy Development; Centre for Policy Dialogue; Church World Service; CLEAR Global; Columbia Global Centers; Congolese Banyamulenge community; Cordaid International; Cultuur in Harmonie; Danish Refugee Council; Delegation of the European Union to Bangladesh; Dilla University; Durrat AlManal for Development and Training; Economic, Social and Environmental Council; Embassy of Denmark; Encuentros SJM; x 世界開発報告 2023 European External Action Service; Films 4 Peace Foundation; Fondazione Compagnia di San Paolo; Food for the Hungry; Foreign, Commonwealth and Development Office, UK; German Centre for Integration and Migration Research; Global Campaign for Equal Nationality Rights; Global Recordings Network USA; Global Research Forum on Diaspora and Transnationalism; Good Neighbors; GRACE; Grassroot Leadership Organizations; Grupo Equilibrium; Guilford College; HasNa; Hebrew Immigrant Aid Society; Helvetas International; Hope of Children and Women Victims of Violence; Hungarian Migrant Women’s Association (she4she); IHH Humanitarian Relief Foundation; ILO; Independent Living Institute; Institute for Government; Institute of International and European Affairs; InterAction; Internal Displacement Monitoring Centre; International Centre for Migration Policy Development; International Committee of the Red Cross; International Council of Voluntary Agencies; International Independent Hockey League; International Institute for Strategic Studies; INTERSOS; IOM; Islamic Relief USA; Islamic Relief Worldwide; ITASTRA; Jeronimo Martins; Jesuit Refugee Service; Jordanian Hashemite Fund for Human Development; Justus Liebig University Giessen; Kakuma Vocational Center; Kids in Need of Defense; Kivu Kwetu Développement; Living Water Community; Lutheran World Federation; Manusher Jonno Foundation; McGill University; Medecins du Monde Japon; MedGlobal; Me For You Organization; Mercy Corps; Mercy Corps Jordan; Middle East and North Africa Civil Society Network for Displacement; MiGreat; MISEREOR; Moltivolti; National Agency for the Promotion of Employment and Competencies; National Human Rights Council of Morocco; Netherlands Refugee Foundation; Newcomers with Disabilities in Sweden; New School for Social Research; New Sorbonne University; New York University; Norwegian Refugee Council; Norwegian Refugee Council Jordan; Norwegian Refugee Council USA; Norwegian University of Science and Technology; Ocasiven; OECD; Osun Rise Regenerative Experiences; Overseas Development Institute; Ovibashi Karmi Unnayan Program; Oxfam IBIS; Oxfam International; Oxfam Jordan; Oxfam Novib; Oxfam UK; Pan American Development Foundation; Pasos Firmes; Permanent Mission of the Republic of Kenya to the United Nations; Permanent Representation of the Kingdom of the Netherlands to the European Union; Plan International; Plan International Jordan; Policy Center for the New South; RA Studio; Refugee and Migratory Movements Research Unit; Refugee Company; Refugee Consortium of Kenya; Refugee Council; Refugee Integration via Internet-Based Revitalization of Rural Europe; Refugee Investment Fund; Refugee Investment Network; Refugee Self-Reliance Initiative; Refugees International; Regional Durable Solutions Secretariat; Relief International; RW Welfare Society; Samuel Hall; Save the Children; Sawiyan; SEEK Feminist Research Network; SEP Jordan; 17 Ventures; Soccer Without Borders Uganda; Society for Human Rights and Prisoners’Aid-Pakistan; Solidarity Center; Souq Fann; Stand for the Refugee Africa SRA; Swiss Agency for Development and Cooperation; Syria Justice and Accountability Centre; Tamkeen; Tent Partnership for Refugees; UMI; UNHCR; UNHCR Global Youth Advisory Council; UNHCR Representation in the Netherlands; United Nations Office on Drugs and Crime; United Nations Resident Coordinator Office; United Nations Women; United States Refugee Advisory Board; University of Oxford; University of Virginia; WARBE Development Foundation; War Child Canada; Wilton Park; Winrock International; Women’s Refugee Commission; World Bank Group Geneva; World Refugee and Migration Council; World Vision; World Vision 謝辞 xi International; Youth Cooperation for Ideas; および Youth Up Foundation.  当チームは協議をさせていただいた多くの移民や難民が主導する団体に対して特に感謝している.この ことによってチームは移民や難民の声を聞くことが可能となった.それに含まれるのは以下の団体である: Afghan Refugees Solidarity Association, Africa Refugee-Led Network RELON, ARCI Porco Rosso, Asylum Access, ChangeMakers Resettlement Forum, Darfur Refugees Association in Uganda, European Coalition of Migrants and Refugees, Global Refugee-Led Network, Hope for Refugees in Action, International Rescue Committee, Irish Refugee Advisory Board, Mediterranean Hope, Migrants’Rights Network, Mosaico, New Women Connectors, Organization for Children’s Harmony, People for Peace and Defense of Rights, PLACE Network, Plethora Social Initiative, PPDR Uganda, Refugee Advisory Group, Refugee Advisory Network of Canada, Refugee-Led Organization Network (RELON) Uganda, SITTI Soap, Umoja Refugee, および Youth Social Advocacy Team.  加えて,本チームは以下の学者とも協議を行った:Tendayi Achiume (University of California, Los Angeles), T. Alexander Aleinikoff (The New School), Mustapha Azaitraoui (University of Sultan Moulay Slimane, Beni Mellal, Faculty of Khouribga), Massimo Livi Bacci (University of Florence), Kaushik Basu (Cornell University), Bernd Beber (WZB), Irene Bloemraad (University of California, Berkeley), Chad Bown (Peterson Institute for International Economics), Nancy Chau (Cornell University), Huiyi Chen (Cornell University), Vincent Chetail (Geneva Graduate Institute), Cathryn Costello (Hertie School), Jishnu Das (Georgetown University), Glen Denning (Columbia University), Shanta Devarajan (Georgetown University), Jasmin Diab (Lebanese American University), Mamadou Diouf (Columbia University), Ángel A. Escamilla García (Cornell University), Victoria Esses (University of Western Ontario), Ama R. Francis (Columbia University), Feline Freier (Universidad del Pacífico, Peru), Filiz Garip (Princeton University), Shannon Gleeson (Cornell University), Guy Grossman (University of Pennsylvania), Yuki Higuchi (Sophia University), Walter Kälin (member, Expert Advisory Group for the United Nations Secretary-General’s High-Level Panel on Internal Displacement and University of Bern), Ravi Kanbur (Cornell University), Neeraj Kaushal (Columbia University), Will Kymlicka (Queen’s University), Jane McAdam (University of New South Wales, Sydney), Gustavo Meireles (Kanda University of International Studies), Pierluigi Montalbano (La Sapienza University), Yuko Nakano (University of Tsukuba), Daniel Naujoks (Columbia University), Izumi Ohno (National Graduate Institute for Policy Studies), Obiora Chinedu Okafor (Johns Hopkins University School of Advanced International Studies), Brian Park (Cornell University), Eleanor Paynter (Cornell University), Paolo Pinotti (Bocconi University), Adam Posen (Peterson Institute for International Economics), Furio Rosati (University of Tor Vergata), Yasuyuki Sawada (University of Tokyo), Alexandra Scacco (WZB), Mai Seki (Ritsumeikan University), Akira Shibanuma (University of Tokyo), Dana Smith (Cornell University), Aya Suzuki (University of Tokyo), Jan Svejnar (Columbia University), Saburo Takizawa (Touyo Eiwa University), Joel Trachtman (Tufts University, Fletcher School of Law and Diplomacy), Carlos Vargas-Silva (University of Oxford), Nicolas Veron (Peterson Institute for International Economics), Tatsufumi Yamagata (Ritsumeikan Asia Pacific University), Keiichi Yamazaki (Yokohama National University), および Yang-Yang Zhou (University of British Columbia).  背景論文は,利害関係者の参画や広報活動とともに,「強制避難にかかわるマルチ・ドナー信託基金」から xii 世界開発報告 2023 寛大な支援を受けた.  最後に,当チームとしては,当方の不注意によって以上の謝辞に含められなかったすべての人や組織に対 してお詫びを申し上げる.ここに名前が出ていない方々を含め,本報告書の作成に貢献して下さったすべて の方々からの支援に謝意を表する.WDR チームのメンバーは,本レポートの出版に向けた準備期間を通じ て提供された関係者の家族による支援に対して,謝意を表する. xiii 本報告書で示される重要な事項  本報告書は,国際移住,およびそれがすべての諸国における成長と繁栄の共有に向けた原動力になる可能 性に関する包括的な分析を提示している.  この報告書は,居住している国で市民権を持っていない人々に焦点を合わせている:その数は世界全体 で 1 億 8,400 万人に達し,それには 3,700 万人の難民が含まれている.そのような人の約 43%は低・ 「外国生まれ」 中所得国に居住している.移住者は時には として定義されている.しかし,本報告書では 違った見方をしている.というのは,帰化した人は他のすべての市民と同じ権利を享受できるからであ る.  人口構成の急速な変化は,あらゆる所得レベルの諸国にとって,移住をますます必要にしつつある.高 所得国では速い速度で高齢化が進んでいる.中所得国も同じであり,これらの国は豊かになる前に高齢 化が進展している.低所得国の人口は膨張しつつあるが,若者はグローバルな労働市場で必要とされる スキルを持たずに労働市場に参入している.このようなトレンドは,労働者を求めるグローバルな競争 を引き起こすだろう.  本報告書は政策策定の指針となる強固な枠組みを提示している.その枠組みは移住者のスキルや関連す る属性が行き先国のニーズにどの程度うまく適合しているか,および移民の移動の動機に基づいている. 適合度は,移住者,移住者の出身国,および移住先国のそれぞれが移住から得る利益の程度を決める. 動機は,行き先国に対して国際法上の義務を生み出すかもしれない.すなわち,本国における危害ない し迫害の「十分に理由のある恐怖」が要因で移住する人たち――定義により難民である――は国際的な保 護を受ける権利がある.  適合と動機の枠組みは,政策当局が適切に対応することを可能にする.そして,本報告書は必要とされ る政策を特定している. ● 移住者の適合度が高い場合,移住者本人にとって,そして出身国(本国)と移住先国にとって,利益 はより多くなる.これは大多数の移民に当てはまり,当人のスキルが高いか,あるいは低いか,ま た正規か,あるいは非正規かとは無関係である.政策の目的は,万人にとって利益が最大になるこ とであるべきだ. ● 難民にとっては,適合度が低い場合,コストは多国間で分担――および削減――される必要がある. 難民の状態は数年間にわたって継続しうる.政策の目的は,受け入れコストを低下させると同時に, 国際的保護について適切な基準を維持することであるべきだ. ● 適合の程度が低く,かつ移住する人が難民ではない場合,難しい問題が発生する.移住者が非正規 で困難を抱えている場合は特にそうである.このような移住者の入国の規制は行き先国[受け入れ 国]の特権である.しかし,国外追放や入国拒否は非人道的な処遇につながる可能性がある.行き 先国における制限的な政策の採用は,一部の通過国にコストを課する可能性もある.政策目標は, 苦難の中での移住の必要性を減らすことであるべきだ.この点において開発は極めて重要な役割を 果たすことができる. xiv 世界開発報告 2023  移民の出身国は開発のために移住を積極的に管理すべきである.移民の出身国は労働移住を自国の開発 戦略の明示的な一部にすべきである.そのような諸国は,送金コストを引き下げ,散在する自国の海外 「頭脳流出」 在住者からの知識移転を促進し,世界的に需要が多いスキルを構築し, の悪影響を緩和し, 海外の自国民を保護し,彼らの帰国を支援すべきである.  移民の行き先国[受け入れ国]は移住をより戦略的に管理することもできる.移住先国は自国の労働ニー 「適合度の高い」 ズを満たすために 移住を活用し,移住者の包摂を促進すると同時に,自国民の間で懸念 を生じさせる社会的な影響に対処すべきである.移住先国は,難民を(国内で)移動させ,就職させ,そ して利用可能な場合にはいつでも公共サービスにアクセスさせるべきである.また,移住先国は,苦難 の中での高いリスクを伴う移動を人道的な仕方で削減すべきである.  国際的な協力が,移住を開発のための力強い原動力に転換するためには不可欠である.二国間協は,行 き先の国ニーズに対する移住者の適合度を強化することができる.難民を受け入れる際のコストを分担 し,困難を抱える移住に取り組むためには,多国間での取り組みが必要とされている.各国が非市民を 予測可能な仕方で世話するのを支援するために,新たな資金提供手段を開発すべきである.途上国,民 間部門やその他利害関係者,そして移民や難民自身を含め,移住に関する論議において軽視されている 声に耳を傾けなければならない. xv 用語集  以下の用語の一覧は,この報告書でよく使われている用語の,厳格な法律上の定義ではなく,一般的な説 明を提供している.しかし,以下の説明文には,このような用語が実際にどのように理解され適用されてい るかということと直接的な関連を有する法的および政策的な要素も含まれている. 亡命(asylum)あるいは難民(refugee)の地位(status) ある一国が自国の領域内の難民に対して付与する 司法上ないし行政上の手続きから生じる法的な地位.この地位は難民の本国送還を阻止し(ノン・ルフール マンの原則(the hprinciple of non-refoulement)に沿って),自国領域内での滞在を合法化し,滞在中 に一定の権利を供与することによって,国際的な難民保護を難民に対して与える. 亡命希望者(asylum-seeker) 本国外に存在しており,亡命を希望している人.統計上の目的では,亡命 の申請をしているもののまだ最終決定を受領していない人. 補完的(国際的)な保護(complementary (international) protection) 難民ではないものの,国際的な保 護を必要としている可能性のある人々に対して,国ないし地域によって提供される国際的な保護の形態.各 (ノン・ルフールマ 国はそのような人々の入国ないし滞在を合法化する,あるいは本国への送還を阻止する ンの原則に沿って)ために,多種多様な法的および政策的な仕組みを活用している. 同国人(co-national) 他人と同じ市民権を有する人. [移住先,受け入れ] 行き先 (destination country/society) 国 / 社会  移民が移動する際の行き先の国ないし [本文では distination という言葉を文脈に応じて, 社会. 「受け入れ」 「行き先」 などと訳している. 「移住先」 ] ディアスポラ (diaspora) [民族離散]  本国[出身国]の地理的な場所から離れた諸国や諸地域にわたって離 [最も一般的には単に海外在住の自国民. 散している,ある一国の人々. ] 困窮移民(distressed migrant) 苦難を伴う状況の中で他国へ移動するが,難民の地位に適用される基準を 満たしていない人.そのような人たちの移動は多くの場合に非正規で危険である. 経済的移住者 (economic migrant) [経済的移民]  迫害や深刻な危害ないし死亡の可能性によるのではな く,働きによって,あるいは海外在住の家族と再会することによって生活条件を改善するなどの他の理由を 動機として国境を越えて移動する移住者 .この用語は, (移民) 主に他国で働くために移住する労働移住者(移 民)ないし移住労働者を含む. 出国移民(emigrant) (出  他国に居住するために,自らの常居所の国を離れる人.この用語は当該人の本国 身国)の視点から使われる. 受け入れ国 / 社会(host country/society) 一時的ないし永続的のいずれかで移動する移民の行き先の国な いし社会. xvi 世界開発報告 2023 入国移民(immigrant) 常居所を構えるためにある国へ移動する人.この用語は当該人の行き先(移住先) 国の視点から使われる. 国内避難民(IDP: internally displaced persons) 武力抗争,暴力が一般化している状況,人権の侵害,あ るいは自然ないし人的な災害を通じるものを含め,迫害,重大な危害,ないし死亡を回避するために国境の 内側で退去させられている人々. 国際的保護(international protection) 各国によって,当該国の領域に滞在する難民ないしその他の退去 者に与えられる法的保護.保護の対象になるのは,本国では身の危険があることや,本国が当人を保護する ことができない,あるいは進んで保護しようとしないことが理由で,本国に帰国できない人たちである.国 際的な保護は,法的な地位という形態をとり,最低限として,本国への送還を阻止し(ノン・ルフールマン ,領域内の滞在を合法化する. の原則に沿って) 非正規移民(irregular migrant) ある一国への入国,あるいはある一国での滞在が法的には承認されてい ない移民(書類のない移民(undocumented migrant)とも呼ばれる)[このような人たちは . 「犯罪」を犯し 「不法」 た人たちではないことから,このような人たちを と呼ぶのは不正確である.] 移民 (migrant) (移住者)  この報告書では,常居所の国を変更し,かつ[新]居所の国の市民ではない人々の ことを指す.国のそのような変更には,レクリエーション,仕事,治療,あるいは宗教的巡礼などを目的と する短期的な移住は含まれていない. 帰化市民(naturalized citizen) 行き先国で市民権を取得した移住者. 非自国民(nonnational) 当人が居住する国の市民権を持っていない人. (non-refoulement) ノン・ルフールマン  迫害,拷問,あるいはその他の深刻な危害を受けるリスクのあ る場所に人々を送還することを各国に禁じている法的な原則. 出身国 (origin country/society) [本国]/ 出身社会  移民ないし難民が移動する元の国 (出 (出身国)/ 社会 身社会)[本文では origin という言葉を文脈に応じて, . (国) 「本」 や「出身」などと訳している.原文では home country という言葉も使われている.] 難民(refugee) 出身国における迫害の恐れ,武力抗争,暴力,あるいは深刻な治安の乱れの故に,難民保 護国によって国際的保護が与えられている人々.各国によって難民に対して与えられるこの国際的な保護 は,法的地位という形態をとり(「亡命」あるいは「難民の地位」を参照),難民の送還を阻止し(ノン・ルフー ルマンの原則に沿って), 国領域内での滞在を合法化し,滞在中に一定の権利を与える.これは, [受け入れ] 1951 年難民の地位に関する条約,および 1967 年難民の地位に関する議定書,あるいは国際的,地域的, ないし各国の法律文書の下で行われる. 正規移住者(regular migrant) ある一国への入国ないしある一国での滞在が法的に許可されている移住者. 無国籍者(stateless person) あらゆる国の市民でない人. 通過国(transit country) 移住者が行き先国に到着する過程で通過する国. xvii 略号 APTC オーストラリア太平洋地域技術カレッジ ASEAN 東南アジア諸国連合 BAMF (ドイツ) 連邦移民難民局 BLA 二国間労働協約 BoP 国際収支 CARICOM カリブ共同体 COVID-19 新型コロナウイルス感染症 CSME CARICOM 単一市場・経済 DAC (OECD) 開発援助委員会 ECOWAS 西アフリカ諸国経済共同体 EGRISS 難民・国内避難民・無国籍者統計に関する専門家グループ (旧 EGRIS: 難民・国内避難民・無国籍者統計に関する専門家グループ) ETPV ベネズエラ避難民のための一時的保護地位 EU ヨーロッパ連合 FDI 外国直接投資 GBV ジェンダーに基づく暴力 GCC 湾岸協力会議 GCR 難民グローバル・コンパクト GDP 国内総生産 GSP グローバル・スキル・パートナーシップ G20 20 カ国・地域グループ IASC 機関間常設委員会 IDA 国際開発協会 IDMC 国内避難民監視センター IDP 国内避難民 IGAD 政府間開発機構 ILO 国際労働機関 IMF 国際通貨基金 JDC 強制退去に関する共同データセンター KNOMAD 移民と開発に関するグローバル・ナレッジ・パートナーシップ LGBTQ+ レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア / クエスチョニング・プ (その他) ラス MTO 国際送金事業者 NGO 非政府組織 ODA 政府開発援助 OECD 経済協力開発機構 PPP 購買力平価 xviii 世界開発報告 2023 RPRF 難民政策評価枠組み RPW 世界送金価格 SAR 特別行政区 SDG 持続可能な開発目標 STEM 科学・技術・工学・数学 TMF (コロンビア) 国境通過カード UN (国連) 国際連合 UN DESA 国際連合経済社会局 UNHCR 国際連合難民高等弁務官事務所 UNRWA 国際連合パレスチナ難民救済事業機関 WAEMU 西アフリカ経済通貨同盟 WDI 世界開発指標 WDR 『世界開発報告』 WHR 難民・受入コミュニティ向けウィンドウ 凡例: 訳者による注および補足説明は大括弧( )で記載した. [ ] 「アメリカ」は,特記のない限り「アメリカ合衆国」 を意味する.「途上国」は,特記のないかぎり開発途上国および新興(emerging)国を含む.すべてのドル金額 は特記なき限り米ドルによる金額である. 翻訳の際に生じる語順の入れ替わりのために,注番号の順番が入れ替わっている箇所がある. xix 目 次 序文  v 謝辞  vii 本報告書で示される重要な事項  xiii 用語集  xv 略号  xvii 概観 1 移住はすべての国にとって必要である  2 政策担当者にとっての実践的な枠組み:「適合と動機のマトリックス」  4 適合度が高い場合には,大きな利益が得られる  7 適合度が低い場合,コストは複数国間で分担――かつ削減――される必要がある  10 移住をうまく機能させることは,物事のやり方を変えることを要請する  12 希望のメッセージ  14 注  16 参考文献  17 Chapter 1 適合度と動機のマトリックス 21 重要なメッセージ  21 人間を中心に据えたアプローチ  22 外国籍の人に注目する  22 2 つの視点:労働経済学と国際法  23 適合度と動機のマトリックス  27 政策の優先順位  30 注  32 参考文献  32 スポットライト 1 歴史 33 Part 1 あらゆる所得水準の諸国にとって移住は より一層必要になりつつある 39 Chapter 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 41 重要なメッセージ  41 現在のトレンド  42 動機とパターン  47 注  55 参考文献  56 スポットライト 2 データ 58 Chapter 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 67 重要なメッセージ  67 人口構成:今後に生じる労働者を求める競争  68 気候変動:苦難の中での移動の新たなリスク  75 注  80 参考文献  82 スポットライト 3 方法論の考察 86 xx 世界開発報告 2023 Part 2 適合度が高い場合には得られる利益は多くなる 91 Chapter 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 93 重要なメッセージ  93 より高い賃金を得ている  94 改善されたサービスへのアクセス  99 社会的コストへの対処  102 帰国  103 時には,失敗する  105 注  106 参考文献  109 スポットライト 4 ジェンダー 116 Chapter 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 123 重要なメッセージ  123 送金がもたらす開発面の利益の全てを獲得する  124 知識移転の活用  130 労働市場に対する影響の管理  131 戦略的アプローチを採用  137 注  138 参考文献  140 スポットライト 5 送金の測定 147 Chapter 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 153 重要なメッセージ  153 移民の労働から得られる利益  154 経済的利益を最大化する  161 社会的包摂を促進する  166 注  176 参考文献  179 スポットライト 6 人種主義,外国人嫌悪,および差別 190 Part 3 適合度が低い場合,コストは多国間で分担 ――そして削減――される必要がある 197 Chapter 7 難民:中期的な視点から管理 199 重要なメッセージ  199 開発に関わる挑戦課題を認識する  200 地域的な連帯を通じて責任の共有を強化  205 緊急対応という枠を超えて  209 法的地位と機会へのアクセスを組み合わせることによって恒久的解決策に向けて進展を図る  216 注  222 参考文献  224 スポットライト 7 国内避難と無国籍 230 Chapter 8 困窮移民:尊厳の維持 239 重要なメッセージ  239 政策のトレードオフを認識する  240 国際的な保護を拡大する  245 合法的経路を通じて移民が移動する動機を変える  250 開発を通じて,移民のスキルや属性の適合度を高める  252 注  254 参考文献  256 「根本原因」と開発 スポットライト 8  262 目 次 xxi Part 4 移住をより良く機能させるにはやり方を変える必要がある 269 Chapter 9 勧告:移住をより良く機能させる 271 重要なメッセージ  271 はじめに  273 強固に適合:全ての人を対象に利益を最大化する  273 適合の程度が低く,恐怖が移動の動機である場合:責任の共有を通じることを含め, 難民受け入れの持続可能性を確保する  283 適合度は低いが恐怖が動機ではない場合:尊厳を尊重し困窮移動の必要性を削減する  288 改革に向けて欠くことのできない事項  295 注  302 参考文献  305 索引 310 ボックス O.1 どれくらいの数の移民が存在するのか, 7.1 ウクライナ難民の危機… …………………………… 202 ………………………… 1 またどこに住んでいるのか?… 7.2 難民のなかにはより高い水準の保護を 1.1 外国人か,それとも外国生まれか?… ……………… 23 必要としている人もいる… ………………………… 205 2.1 本報告書における移住のデータ… …………………… 43 7.3 開発金融の実例:IDA の 難民・ 3.1 技術は各国の間での労働市場の 受入コミュニティ向けウィン …………………… 208 ドウ… ミスマッチを解決できるか?…………………………… 74 7.4 難民状況が予測可能ないしは慢性的な場合は 3.2 サハラ以南アフリカにおける移住の複合的な動因… … 77 準備がきわめて重要である… ……………………… 211 4.1 より包摂的なジェンダー規範を求めて移住する: 7.5 帰国:帰郷か,あるいは新たな移動か?… ……… 217 高度な教育を受けた女性の事例…………………… 100 7.6 統合を通じてより良い成果を生む: 5.1 移民は当人の出身国に制度的および コロンビアからの教訓… …………………………… 221 社会的な規範を移転できる… ……………………… 131 S7.1 IDP と難民を比較する……………………………… 231 5.2 フィリピン:移民の出身国が移住から S7.2 国内避難と援助の対象の絞り込み… ……………… 233 利益を得ることができる方法についての 8.1 ………………………………… 242 移住政策の外面化… 事例研究……………………………………………… 136 8.2 ………………………………… 247 難民の定義の変遷… S5.1 国レベルで流出入のギャップを検証する…………… 148 8.3 小島嶼開発途上国における気候関連の移動… …… 249 6.1 移住の長期的な経済効果…………………………… 155 8.4 密入国業者と人身売買業者………………………… 251 6.2 深刻な文化的変化が生じている… ………………… 171 9.1 今後の研究にとっての優先事項… ………………… 296 6.3 ドイツから得られた教訓:亡命希望者や 難民を成功裡に統合………………………………… 174 図 O.1 イタリア,メキシコ,およびナイジェリアでは 1.1 移民グループの種類が異なれば, 人口構成に関わる大幅に異なる要因が 必要とされる政策対応は異なる… …………………… 21 作用している… ………………………………………… 3 B1.1.1 OECD に加盟している高所得国の多くでは, O.2 国境を越える移住に関する 2 つの視点… …………… 5 外国生まれの人の半数以上が帰化している… ……… 24 O.3 「適合度」が移民受け入れの純利益を決定し, 1.2 移民の適合度が高い場合,その貢献度は 「動機」がその国際的保護の必要性を決定する… … 6 融合のコストを上回る… ……………………………… 26 O.4 適合度が高い場合,移住先国および移民の 1.3 本国[出身国]に帰国すると危害を受ける 出身国の両方の政策は移住の利益を 「十分に理由のある恐怖」がある場合, 最大化することができる… …………………………… 8 移住先国はそのような人を受け入れる義務がある…… 27 O.5 適合度が低い場合,政策策定には, 1.4 「適合度と動機のマトリックス」は労働経済学と 経済的利益と移民の尊厳の間で生じる 国際法の各視点を組み合わせて 4 種類の 移住先国にとってのトレードオフが含まれる………… 10 移動を区別……………………………………………… 28 O.6 移民の本国と移住先国の双方における政策措置は 1.5 移民が「適合度と動機のマトリックス」の 困窮移住を削減するこ …………………… 13 とができる… どこに当てはまるかは,移住先国の政策が O.7 移住の種類に応じて,必要とされる国際的協力の 部分的に決定する……………………………………… 29 形態は明確に異なる…………………………………… 14 xxii 世界開発報告 2023 1.6 「適合度と動機のマトリックス」は明確に 4.4 低スキル移民にとっては,所得は移住先で 区別される移民の各グループに対する政策の 著しく増加する… ……………………………………… 95 優先順位を特定するこ とに役立つ… ………………… 30 4.5 GCC 諸国に移住する南アジア人労働者は 1.7 各国にとっての挑戦課題は,移民の適合度を 移住にかかわる最も高いコス トの1つに直面する… … 96 改善し苦難の中での移動を削減することである……… 31 4.6 アメリカでは,移民の賃金はアメリカ国籍を 2.1 移動のパターンは明確に区別される適合と 有する人に近い――移民が書類を持っている場合… 98 動機を反映している… ………………………………… 41 4.7 UAE では,移民労働者が雇用者を変更することを 2.2 移民および難民の大きな割合が低・中所得国に 可能にする改革の後には,契約更新の際に 居住している… ………………………………………… 42 受け取る利益が増加するようになった………………… 99 2.3 1960 年以降,低所得国の人口に占める B4.1.1 高いスキルを有する女性の出国移住率は 出国移民の割合はほぼ倍増した… …………………… 44 ジェンダーに基づく差別が中程度の諸国で 2.4 1960 年以降,高所得国の人口に占める入国移民 最も高い……………………………………………… 100 および帰化市民の割合は 3 倍に増加した… ………… 44 4.8 留学生の行き先になっている国は世界のさまざまな 2.5 越境移動は地域ごとに大きく異なる…………………… 48 地域から外国人留学生を引き付けている… ……… 101 2.6 移民がどこへ行くかは,大まかには移民の 4.9 アメリカに移住した人のごく少数のみが 出身国によって左右される… ………………………… 50 出身国に戻り,それは主に他の 高所得 OECD 諸国出身者である… ……………… 104 2.7 ほとんどの移民は限られた数の国から移住している ――そしてその傾向は強まりつつある………………… 52 4.10 西ヨーロッパに移住した人の多くは出身国に戻るが, 東ヨーロッパ諸国から移住した女性合は 2.8 難民の流れは危機の発生直後に急増し, そうではない… ……………………………………… 104 時とともに鈍化する… ………………………………… 54 S4.1 高等教育を修了した女性が移住する割合は, 2.9 中所得国出身の難民が徐々に増えてきている… …… 54 高等教育を修了した男性やスキルの低い S2.1 多くの国勢調査は移住に関して基本的な 女性よりも速く増加している………………………… 118 …………………… 59 一貫したデータを収集していない… 5.1 移民の出身国の政策は貧困削減に対する 3.1 人口構成と気候の変化が移住の傾向を 移住のインパクトを最大化できる…………………… 123 転換させつつある… …………………………………… 67 5.2 低・中所得国への外部からの融資金の 3.2 イタリア,メキシコ,およびナイジェリアでは フローのなかで送金は大きな割合を 人口構成に関わる大幅に異なる要因が …………… 124 占めていると同時に,増加しつつある… 作用している… ………………………………………… 69 5.3 送金が国民所得の 5 分の 1 以上を 3.3 人口は所得が低い国では急増している一方で, 占めている国もある… ……………………………… 125 所得が高い国では間もなく減少し始めるだろう……… 70 5.4 –  ネパールでは 2001  11 年の間に, 3.4 所得が高い国は急速に高齢化している一方で, 出国移住率が多い村で貧困水準が低下した……… 126 所得が低い国は若さを維持している… ……………… 70 5.5 –  1980  2015 年において,送金の変動性は 3.5 高所得国では高齢者の数は増加している一方で, 他の資本流入よりも低かった… …………………… 128 生産年齢の人の数は減少している… ………………… 71 5.6 –  2007  20 年において,ロシアからの外部への 3.6 2050 年までに高所得の OECD 加盟国では 送金の流れはサウジアラビアと比べて 高齢者 1 人を支える生産年齢の人の数は 石油価格との相関関係が強かった… ……………… 129 2 人未満になるだろう… ……………………………… 71 5.7 移動体通信事業者経由の送金は 3.7 中所得国において,女性 1 人が産む子供の数は 他の経路を通じるよりも安価… …………………… 130 急減しつつある… ……………………………………… 72 5.8 バングラデシュでは,帰国した移民は 3.8 多くの上位中所得国で,高齢者の割合は 非移民と比べて自営業者ないし企業家になる ……… 72 高所得国で通常みられる水準に達しつつある… ことが多い…………………………………………… 132 3.9 2050 年までに,サハラ以南アフリカは 5.9 平均的には,移民は出身国の労働力よりも 人口が増加している唯一の地域になるであろう……… 73 …………………………………… 134 教育程度が高い… B3.1.1 アメリカの雇用増加は若く て教育程度の高くない 5.10 ラテンアメリカ・カリブやサハラ以南アフリカから 労働者が従事している職業について多く なると アメリカに移住した多くの高スキル移民は 予想されている… ……………………………………… 74 アメリカで高等教育を受けている…………………… 135 3.10 気候変動は所得と居住適性を通じて S5.1 2020 年時点における,送金の流入額と流出額の 移住に影響を及ぼす…………………………………… 76 グローバルな推定値の間のギャ ップは B3.2.1 移動の動因の絡み合い………………………………… 77 40%に達した………………………………………… 147 4.1 移民のスキルや属性が移住先社会のニーズに SB5.1.1 送金の推定額におけるギャ ップは多くの諸国で 適合している場合,利益は大きい… ………………… 93 相当な大きさとなっている…………………………… 148 4.2 バングラデシュ,ガーナ,およびインドでは, S5.2 グローバル・レベルでは流出送金の報告は, 国際移住による所得の増加は国内移住の場合の 流入送金の報告よりも,経済ファンダメンタルズに 数倍に相当する………………………………………… 94 ………………………………………………… 149 近い… 4.3 高所得国に移住した移住者と同じ経済的利益を S5.3 国レベルでは,送金の流出入に関する報告は 移住していない人が本国において達成するには, 経済ファンダメンタルズと矛盾し ……………… 150 うる… 数十年間にわたる経済成長が必要…………………… 94 目 次 xxiii 6.1 移民のスキルや属性が移住先国のニーズに高度に 8.1 政策の挑戦課題は困窮移動を削減すると同時に, 適合している場合,移民の行き先国 [受け入れ国]は 移動者を人道的に処遇するこ …………… 239 とである… 利益を享受し,さらに政策措置を通じて自国の 8.2 毎年数千人の移民が移動中に死亡している… …… 243 利益を増加させることができる……………………… 153 8.3 移民の出身国と行き先国における協調的な 6.2 アメリカと西ヨーロッパでは,移民と帰化市民は 政策措置は,困窮下での移住を削減するこ とが 教育水準の範囲の両端に集中……………………… 156 できる………………………………………………… 245 6.3 入国移住が賃金に与えるイ ンパクトは 8.4 国際的な保護の下にあるニーズは連続的である… 246 国によって異なる… ………………………………… 159 B8.2. アフガン人の亡命申請者の承認率は 6.4 平均すると,OECD 諸国においては EU 加盟国相互間で大幅に異なっている 移民や帰化市民の財政面での正味の貢献は (2021 年)………………………………………… 247 受け入れ国生まれの市民による貢献を 8.5 補足的保護は錯綜している… ……………………… 249 上回っている… ……………………………………… 160 8.6 経済開発は移住の流れの構成を変化させる : 6.5 移民の財政面での貢献は,移民が生産年齢である 国の開発の進展に伴って出国移民の教育水準は 場合にはより大きい… ……………………………… 161 向上する……………………………………………… 253 6.6 多くの移住先国では高等教育を修了した移民・ S8.1 出国移住をする傾向は中所得国で最も高い… …… 263 帰化市民の割合は労働力の平均を上回っている… 163 S8.2 移住のハンプ[こぶ]は小規模国では顕著であり, 6.7 カナダでは今では短期的な移住が永続的な移住を 大規模国では抑えられている… …………………… 264 上回っている… ……………………………………… 164 S8.3 中所得国が発展すると,その国の出国移住は 6.8 スペインでは生徒対教師比率は移民生徒の割合が 増加し,主に高所得の行き先国に向かう… ……… 265 大きいほど高い……………………………………… 169 S8.4 低所得国が発展するのに伴って,移住,特に 6.9 …………………………… 173 社会的統合の決定要因… 低所得の行き先国に向かう移住の傾向は低下… … 266 S6.1 南アフリカでは移民に対しては,肯定的な 9.1 戦略的に管理すれば,移住はコス トを軽減しつつ 態度よりも否定的な態度のほうが多い… ………… 192 利益を最大化するこ …………………… 271 とができる… 7.1 難民状態は各国間でコストを分担しながら, 9.2 移民の出身国は貧困削減に向けて出国移住を 中期的な視点によって最も適切に管理される……… 199 管理できる…………………………………………… 274 7.2 難民の数は過去 10 年間で 2 倍以上に 9.3 移民を受け入れる国は自国の利益のために移住を なっている… ………………………………………… 200 管理することができる… …………………………… 277 7.3 状態が長期化している難民数は過去 10 年間で 9.4 二国間協力は移民のスキルや属性と受け入れ国の 2 倍以上に増加している… ………………………… 204 ニーズとの一致度を改善できる… ………………… 282 7.4 世界全体の難民の半分以上は中所得国に 9.5 難民受け入れ国は危機の発生時点から 受け入れられている… ……………………………… 206 中期的な視点を採択するべきである… …………… 284 7.5 3 つのドナーが難民向けの二国間 ODA の 9.6 難民の受け入れに向けた努力の持続可能性に ほぼ 3 分の 2 を拠出… …………………………… 207 とっては多国間での協力が鍵となる……………… 287 7.6 4 カ国で,第三国定住をした難民の 4 分の 3 を 9.7 開発の進展は苦難の中での国境を越える移動の 受け入れている……………………………………… 207 必要性を減らす……………………………………… 289 7.7 難民の流入への対応において,受け入れ国は 9.8 人間の尊厳が移住政策の基準であり続ける 中期的な持続可能性――財政と社会の両面で―― べきである…………………………………………… 291 を目指すべきである… ……………………………… 210 9.9 行き先国と「最後の国境と接する通過国」の間での 7.8 難民は受け入れ国の国民よりも給付への依存度が 協力が必要とされている… ………………………… 294 ……… 214 高く,より不安定な条件の下で働いている… 9.10 新しい金融手段と開発資源利用の拡充が 7.9 過去 15 年間において,恒久的な解決策を 移住の管理を改善するために必要とされている…… 298 達成した難民の割合は非常に低い… ……………… 217 9.11 移住に関する論議を転換するためには 7.10 難民になる人(認定者) の数が難民でなくなる 新たな意見が必要とされている… ………………… 301 人の数を上回っているこ とから,難民数は 増加し続けている… ………………………………… 217 7.11 法的地位と経済機会の間にある緊張関係が, 難民状態を解決することにおける困難さの 根源にある…………………………………………… 219 xxiv 世界開発報告 2023 地図 2.1 ほとんどの国において,他国に移住した人が 5.1 メキシコから出国する移民の割合は 人口に占める割合はごく小さい… …………………… 45 地域ごとに不均等… ………………………………… 132 2.2 入国移民は,あらゆる所得水準の国で, 6.1 アメリカでは,入国移民世帯は大体が 世界全体にわたって存在している… ………………… 45 南部国境に沿った地域と主要な大都市圏に 2.3 移住を引き起こしているグローバルな 集中している… ……………………………………… 168 不均衡の一部は人間開発指数に 6.2 ニューヨーク都市圏では,移民は特定の 反映されている… ……………………………………… 50 近隣地区に集中している… ………………………… 168 2.4 ………… 53 ほとんどの難民は近隣諸国に避難している… B7.1.1 ウクライナ難民は EU 全体および近隣諸国で 2.5 10 カ国で難民全体の半数以上を受け入れている… … 53 受け入れられている… ……………………………… 202 B3.2.1 サハラ以南アフリカは複合的な脆弱性に 7.1 難民にトルコ国内の自由移動を許可する さらされている… ……………………………………… 78 ことによって,政府は,難民が最初に到着した シリア国境に沿う地域のコミュニティが受ける 3.1 人々が屋外で働ける地域は縮小しつつある… ……… 79 影響を削減した……………………………………… 212 S4.1 出国移住者の数について,女性の方が多い S7.1 国内避難は世界全体で起こっている… …………… 230 国もあれば,男性の方が多い国もある… ………… 117 8.1 移動の主要な通過ルート… ………………………… 244 S4.2 入国移住者の数について,女性の方が多い 国もあれば,男性の方が多い国もある… ………… 117 表 O.1 主要な政策提言………………………………………… 15 9.1 主要な政策提言……………………………………… 272 1 概観  移住は文明の最も初期から人間が経験することの 1 つになってきている.ホモ・サピエンスは約 20 万年 前にアフリカのオモ渓谷を離れた.それ以降,人類は移動を決して止めることはなく,はっきりと相異なる 文化,言語,そして民族性を生み出してきている 1.移住は開発にとって強力な推進力であることが判明し ており,世界全体にわたって何億という移住者とその家族,およびそれらが暮らしている社会を改善してき ている.しかし,移住者 本人,本国 (移民) ,移住先国 (出身国) (行き先国)にとって挑戦課題もある.  本報告書は当人の国籍国の外で生活している人々を移民として定義し(ボックス O.1),より良い経済機 会を追求して移住したのか,ないしは紛争や迫害によって退去を余儀なくされたのか(難民)は問わない.居 住国に帰化している人については,そのような人を移民とはみなさない.移住者と政策当局に対して明確な 挑戦課題を提起するのは市民権――およびそれと関連する市民的,政治的,および経済的な権利――の欠如 であり,人々が人生のある時点で移動したという事実ではない.  本報告書は移住の経済的,社会的,および人道的な影響を最適に管理するための枠組みを提案する.労働 経済学と国際法から得られる洞察を組み合わせることによって,移民のスキルと属性が移住先国で需要され る度合い(適合度)と,移民は移住先国で機会を求めているのか,それとも本国(出身国)で身の危険を感じて いるのか(動機)に注目している.そうすることによって,4 種類の移動を区別し,あらゆる状況において開 発がもたらす利益を完全に実現するための優先的な政策と介入策を特定する.変化を起こすためには国際協 力が決定的に重要である――そして,現行の論議の特質や傾向を変えることができる新たな意見をエンパワ メントすることも同じく大切である. ボックス O.1 どれくらいの数の移民が存在するのか,またどこに住んでいるのか?  国境を越える現代の移動は,その多様性が特徴である.典型的な移住者は存在せず,移住者の典型的な 本国[出身国]あるは行き先国もない.移住者は,移動する理由,修得しているスキルや人口構成上の特性, 法的な地位,当人の状況や展望などによってさまざまである.あらゆる所得水準で移民の出身国と移動先 国の双方があり,実際に,メキシコや,ナイジェリア,イギリスなど,多くの諸国が移民の出身国である と同時に受け入れ[移民の行き先]国でもある. (世界人口の約 2.3%)  本報告書の定義によれば,世界全体では約 1 億 8,400 万人 の移民が存在し,そのう ちの 3,700 万人が難民である:  約 40%(6,400 万人の経済移民と 1,000 万人の難民)が OECD に加盟している高所得国に住んでいる a. これは書類のない移民や国際的な保護を求めている人々だけでなく,高スキルおよび低スキルの労働者 とその家族,定住する意図を持った人々,一時的な移民,学生などである.この数字には,広範な居住 権を持ち,他の EU 諸国に住んでいる 1,100 万人の EU 市民が含まれている.  約 17% は湾岸協力会議 (3,100 万人の経済移民) 諸国に居住している.ほぼ全員が更新可能な就労 (GCC) 臨時労働者である. ビザを持つ, GCC 諸国全体の人口の約半分に相当する. そのような移民は平均すると, (ボックス:次ページへ続く) 2 世界開発報告 2023 ボックス O.1 どれくらいの数の移民が存在するのか,またどこに住んでいるのか?(続き)  約 43% は低・中所得国に居住している b.このような人たち (5,200 万人の経済移民と 2,700 万人の難民) は主に仕事あるいは家族との再会のために,ないしは国際的な保護を求めて移動した.  世界人口に占める移住者の割合は 1960 年以降,比較的安定した状態が維持されている.しかし,この明 白な安定は誤解に導く.というのは,人口の増加は世界全体では不均等であるからだ.世界全体での移民人 高所得国における人口増加の 3 倍の速さで増えている. 口は, 低所得国における人口増加の速さとの比較では, 世界全体の移民の増加の速さはその半分である. 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. a. この推定値には,約 6,100 万人の外国生まれで帰化した市民は含まれていない. b. この推定値には,約 3,100 万人の外国生まれで帰化した市民は含まれていない. 移住はすべての国にとって必要である  移住は,ショックや,各国間における所得や幸福度にかかわる大規模な格差などの世界的な不均衡への対 応である.経済的移住はより高い賃金や改善されたサービスへのアクセスにかかわる期待によって引き起こ される 2.2020 年の時点で,移住者の約 84%はかつての本国よりも豊かな国に住んでいる.そうではあ るものの,移住にはほとんどの貧困者が負担できない費用がかかる.  人口構成上の変化は,労働者や人材の世界的な競争の激化を引き起こしている.次の 3 カ国を考えてみ よう.イタリアの人口は 5,900 万人であり,2100 年までにはほぼ半減して 3,200 万人となり,人口に占 める 65 歳以上の割合は 24%から 38%に上昇すると予測されている.メキシコは伝統的には移民が出国 する国であったが,今や出生率は低下し,かろうじて人口置換の水準となっている.対照的に,ナイジェリ アでは世紀末までには,2 億 1,300 万人の人口は 7 億 9,100 万人に増加し,インドに次いで世界第 2 位 (図 O.1) の人口大国になると予想されている .  このようなトレンドはすでに深遠なインパクトを与えつつあり,労働者が必要とされている場所と労働者 を発見できる場所を変化させている 3.政治情勢に関係なく,富裕国は,自国経済を維持し,そして高齢市 民に対する社会的な公約を守るために,外国人労働者を必要とするであろう.多くの中所得国は,伝統的に は移民の主要な供給源であり,外国人労働者を求めて競争する必要がまもなく生じることになるだろう.そ して中所得国の多くはまだその準備ができていない.低所得国は大勢の失業していて,不完全雇用の状態に ある若者を抱えているが,その多くはグローバルな労働市場で需要されているスキルをまだ身に付けていな い 4.  気候変動が移住の経済的な動因を強めている 5.世界人口の約 40%――35 億人――は,水不足,旱魃, 熱ストレス,海面上昇,そして洪水や熱帯性サイクロンなどの極端な気象現象といった,気候変動の影響 に高度にさらされている場所に居住している 6.被害を受けた地域では経済的機会が減少し,このことは脆 弱性を高めると同時に,移住への圧力を高める 7.気候のインパクトはサヘル(アフリカの半乾燥地帯),バ ングラデシュの低地,メコン・デルタなど多様な地域全体で,居住可能性を脅かしつつある 8.一部の小島 嶼開発途上国(SIDS)では,このようなインパクトによって,指導者は計画的な移転を熟考せざるをえなく なっている 9.気候変動に起因する移動のほとんどは,これまでのところ短距離で主に国境内にとどまって いる 10.しかし,これは変わるかもしれない.今後数十年間で,気候変動が国際的な移動を増やすのか否か, また,どの程度増やすのかは,現在において採用され,そして実施されている緩和と適応に向けたグローバ ル,および各国の政策に依存している. 概観 3 図 O.1 イタリア,メキシコ,およびナイジェリアでは人口構成に関わる大幅に異なる要因が作用している a. イタリアの人口は高齢化しており,人口構成は逆ピラミッド型になりつつある 1950 2022 2050 100+ 90‒94 80‒84 70‒74 60‒64 年齢 50‒54 (年) 40‒44 30‒34 20‒24 10‒14 0 ‒4 3 2 1 0 1 2 3 3 2 1 0 1 2 3 3 2 1 0 1 2 3 人口(100 万人) 人口(100 万人) 人口(100 万人) b. メキシコでは人口構成の転換がかなり進行しており,加速すると予想されている 1950 2022 2050 100+ 90‒94 80‒84 70‒74 60‒64 年齢 50‒54 (年) 40‒44 30‒34 20‒24 10‒14 0 ‒4 6 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 6 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 6 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 人口(100 万人) 人口(100 万人) 人口(100 万人) c. ナイジェリアは今世紀半ばを通じて,住人の年齢は若い状態が維持されるだろう 1950 2022 2050 100+ 90 ‒94 80‒84 70‒74 60‒64 年齢 50‒54 (年) 40‒44 30‒34 20‒24 10‒14 0 ‒4 20 15 10 5 0 5 10 15 20 20 15 10 5 0 5 10 15 20 20 15 10 5 0 5 10 15 20 人口(100 万人) 人口(100 万人) 人口(100 万人) 男性 女性 出 所:2022 年 の デ ー タ (中間シナリオ) :World Population Prospects (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/. 4 世界開発報告 2023  他方で,紛争や,暴力,迫害が大勢の人々を当人の本国から外部への移動を引き起こし続けている.難民 の数は過去 10 年間で 2 倍以上増加した 11.強制避難と経済的移住のパターンははっきりと異なる.難民の 移動は多くの場合に突然かつ急速である 12.難民は最も近い安全な行き先を目指すことから,少数の近隣の 受け入れ国に集中する.難民には大勢の脆弱な人々も含まれている――子供が全体の 41%を占めている 13.  このような情勢に直面するなかで,移住は開発がもたらす利益が十分に実現されうるように管理される必 要がある.現行のアプローチは移民と自国民の両者をしばしば失望させている.移民の移住先国と出身国の 両方で大きな非効率性と機会の喪失を生み出している 14.時には人間の苦しみにつながっている.所得水 準にかかわらず,すべての諸国において,社会の幅広い層が,グローバル化に反対する広範な論議の一環と して移住に異議を唱えつつある 15. 政策担当者にとっての実践的な枠組み:「適合と動機のマトリックス」  移住には利益とコストの両方が伴っている――移民,移民の出身国,そして移住先国にとって.すべてに とって,好ましい結果というのは,移民の個人的な特性,移住にかかわる状況,移民が経験する政策によっ て左右される.そうではあるものの,各国は,そのような政策策定においてそれぞれ相異なる役割を担って いる.ほとんどの移民出身国は移動を規制することにおいてはわずかな影響力しか持っていない.対照的に, 移住先国 は,誰が当該国の国境を越えるのか,どの人が滞在を法的に許されるのか,どのよう [受け入れ国] な権利を持つか,などを定義および規制している.奨励する移動もあれば,奨励しない移動もある.移住先 国の政策が国境を越える移動のインパクトを大体において方向付ける 16.  労働経済学と国際法が,移住のパターンを理解し,適切な移住政策を設計するための主要な2枚のレンズ を提供する.これらの 2 つの視点は個別の知的,および学術的な伝統から生じており,国境をまたぐ移動 の異なる側面に焦点を合わせている.その結果,それぞれは重要な洞察を提示している.しかしながら,今 日に至るまでそれらを首尾一貫した全体に統合する簡明な枠組み存在していない.  労働経済学は,移民のスキルおよびその関連する属性と,移住先国のニーズとの「適合度」に焦点を合わせ ている(図 O.2 のパネル a).多くの移住先国における移住政策の出発点は,次の 1 つの単純な疑問である: 移住はコストを上回る利益を生み出すか? 移民はスキルをもたらし,それに対するさまざまな需要の水準 が存在する.移民のスキルが移住先国労働市場のニーズに適合しているほど,移住先国の経済と移民自身に とっての利益は大きくなる――さらには,多くの場合に,移民の本国にとっても大きな利益になる(送金や 17.これはスキルの水準や法的地位に関係なく当てはまる.しかし,移民も公共サー 知識の移転を通じて) ビスを利用し,馴染みのない可能性のある社会に融合されなければならない.その両方に,少なくとも短期 的には費用がかかる.したがって,差し引きでの利益はプラスとマイナスのいずれにもなりうる.  国際法の下では,移住者の動機が移住先国の責務を決定付ける.各国は,国家主権として,どの移民をど のような地位で入国させるかを決定する .そうであっても,人々が迫害,紛争,ある (図 O.2 のパネル b) 「十分に理由のある恐怖」 いは暴力にかかわる のために本国から避難した場合――そして危害を受けるリスク を伴わずに帰国することはできない場合――,そのような人々は 1951 年難民条約に基づいて国際的な保 護を受ける権利があり,移住先国による費用便益計算はもはや適用されない.国際法の下では,そういった 人々は,難民であり,そのような人を受け入れるコストにかかわりなく,当人の本国に送還されることはな い 18.他に,一部の女性や子供(特に少女),LGBTQ+ の人たち,それに人種主義・外国人嫌悪・その他の 形の差別の被害者などの非常に困難な問題に直面していることから特別な支援を必要としている移民もい る.実際に,一部の人々は諸理由の組み合わせを理由として移住することから,難民と経済移民の間の厳密 な区別は曖昧になっている.国際的保護の必要性が第 2 のレンズを提供し,移住政策は,設計される際に, そのレンズを通して考案されるべきである.  本報告書では,――動機に加えて適合度という――両方の側面を合体させた 1 つの分析枠組みを提示する. その枠組は 4 種類の移住を区別し,そして個々の状況について政策の優先課題を特定している(図 O.3)19: 概観 5 図 O.2 国境を越える移住に関する 2 つの視点 a. 労働経済学:移民のスキルや移民の属性 b. 国際法:もし移民が当人の本国における が高度に適合する場合には労働の貢献度は 危害を恐れているなら,移住先国はそのよう 融合のコストを上回る な移住者を受け入れる義務がある 労働の貢献度 移民: 難民: が融合のコス トを 国際的保護の 国際的保護の 上回る 必要性は低い 必要性は高い 高い 利益がコストを 上回る 移住先国: 移住先国: 移民を受け入れ 難民を受け入れ るか否かを選択 ることを義務化 適合度 されている コストが利益を 上回る 低い 移住先国に 本国における 動機 おける機会 恐怖 労働の 貢献度が融合の コストを下回る 出所:WDR 2023 チーム. 注:パネル a:適合度は,移民のスキルおよび移民の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.利益に含まれ るのは,経済産出の増加,税基盤の拡大,一部の財・サービスにかかわる入手可能性と金銭的な負担可能性の増大などであ る.コストには経済的および社会的な融合のコストに加えて,公共サービスに対する需要の増加,競合する労働者に対する 影響などが含まれる.パネル b:動機は当人が移住するに至った状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは当人 の本国における迫害・武力抗争・暴力にかかわる「十分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.1951 年の難民条約の下では, そのような恐怖を経験している人々は難民の地位を与えられる権利があり,国際的な保護が与えられなければならない.そ のような人たちを当人の本国,あるいは非人道的または屈辱的な処遇,あるいはその他の取返し不能な危害に当人が直面す る国に送還することはできない (ノン・ルフールマン原則). (上方左象限)  適合度の高い経済移民 .ほとんどの移民はより良い機会を求めて移住し,適合度が高いと 思われる移住先国を選択する 20.そのような移民の移動は,法的な地位にかかわらず,移民の本国(出身 国)に加えて,移民自身と移住先国に相当な開発利益をもたらす.コストも発生するが,典型的には相対 的に少ない.このような移住については,関係当事者全員の利害は総じて一致している.政策目標は利益 をより一層増加させ,コストを一層減らすことであるべきだ. (上方右象限)  適合度の高い難民 .一部の難民は,たとえ機会を求めてではなく恐怖から逃れるために移 移住先国のニーズに適合するスキルと属性を持っている.そのような人の移動は, 動している場合でさえ, 移住先社会に,自発的な移民と同様の開発利益をもたらす.政策目標は,正味の利益をより一層増やすこ とであるべきだ.  適合度の低い難民(下方右象限).多くの難民は,移住先社会のニーズとの適合度が低いスキルや属性を持 ち込む.このような人たちは労働市場の考慮ではなく,安全性にかかわる当座のニーズに基づいて移住先 国を選んでいる.しかしながら,国際法の下では,それらの人たちは,コストにかかわらず収容されなけ 6 世界開発報告 2023 図 O.3 「適合度」 「動機」 が移民受け入れの純利益を決定し, がその国際的保護の必要性を決定する 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い トルコに滞在している シリア人企業家の 行先国で需要のある 難民 大勢の 経済移民 スキルを有する 利益がコストを上回る 難民 適合度 エチオピアに 滞在している同伴者の いない未成年 コストが利益を上回る 難民 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 バングラデシュで 低い 働くことが許されていない ロヒンギャ(強制的に 故国を追われた アメリカの南部 ミャンマー人) 国境に滞在している 移住先国 本国における 動機 一部の低スキルの における機会 恐怖 移民 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. ればならない.受け入れ 国にとっての政策目標は,コストを削減すると同時に,それを国 (移民の移住先) 際的に分担することであるべきだ.  困窮[苦難の中で移動する]移民(下方左象限).難民としての資格がなく,かつ移住先国との適合度が低 いその他の移民.そのような移民の総数は多くはないが,そのような人の移動は多くの場合に非正規かつ 安全ではなく,受け入れ国にとって重大な挑戦課題を提起する.本レポートでは,そのような人たちは困 窮移民(distress migrant)という言葉で呼ばれている.この言葉は,そのような人たちが移動する状況 を認識したものであり,標準的なカテゴリーではない.このような困窮移民の一部は,難民ではないもの の,人道的な見地,あるいはその他に基づく保護を依然として必要としているかもしれない.当人の本国 に戻される人もいるかもしれない――しかし人道的に処遇されなければならない.  移住者が「適合度と動機のマトリックス 」 (行列)のどこに位置するかは,部分的には移住先国[受け入れ国] の政策によって決まる.例えば,移民のスキルおよび属性と移住先国のニーズとの適合は,移民が当人の資 格のレベルで働く権利を有しているか否かに依存する.適合度は,移住先国における労働に対するニーズ, 経済規制,社会規範の変化に基づいて,時間の経過とともに変化しうる.同様に,誰が国際的な保護を受け るべきかに関する決定も,国際法の幅広い要素の中で国ごとに大幅に異なる.  究極的には,各国政府の政策は,移住の――移民,移民の出身国社会,および移住先国社会にとっての― ―開発利益を最大化すると同時に,難民に十分な国際的保護を提供することを目指すべきである.長期的に 概観 7 は,利益のより一層の増加が可能となるように,全ての移民のスキルと属性の,受け入れ国社会のニーズと の適合度を高めることを目的とするべきである.同時に,しばしば相当な苦難を伴っている困難な状況での 移動の必要性を下げることも目指すべきである. 適合度が高い場合には,大きな利益が得られる  移民が移住先国で需要があるスキルや属性を持ち込む場合には,典型的には動機,スキル水準,あるいは 法的地位などにかかわらず,利益がコストを上回る.このような移民は,移住先国の労働市場の間隙を埋め ることになり,これには移住者自身と当人の出身国に加えて,移住先国にとっての利益も伴っている.社会 面および経済面の両方にかかわるコストも生じるが,それは典型的には利益よりもずっと小さい.移住先国 と移民の出身国の両者が利益をさらに増加させ,かつその欠点に取り組むような政策を設計および実施する ことができる(図 O.4). 移民の行き先国は社会的および文化的な論議が移住の経済的利益に暗雲を投げかけることがな いようにするべきである  移民は,特に長期的には,移住先国経済の効率性と成長に多くの貢献をすることができる.低スキルの 移民は,移住先国の国民が従事することに消極的な仕事,あるいは消費者が進んで支払う水準を超過する 賃金を移住先国の国民が要求する多くの仕事を行っている 21.高いスキルを有する移民――看護師や,エ ンジニア,科学者など――は,一国の経済の多くの部門にわたって生産性を改善する.そうではあるもの の,4 カ国――オーストラリア,カナダ,イギリス,およびアメリカ――のみで,高等教育を受けた全移民 の半数以上を受け入れている 22.医療従事者について,アメリカでは約 17%,イギリスでは 12%,湾岸 協力会議(GCC)諸国では 79%が,外国生まれである 23.消費者は,生産コストの低下や,一部の財・サー ビスの価格の低下から利益を得る 24.移住の長期的な利益に含まれるのは,企業家的な活動や革新の増大, 国際的な貿易や投資との結び付きの強まり,そして教育や医療などのサービスの提供の改善などである 25. 移民の貢献度は,当人の資格や経験のレベルで働くことが公式に許容され,そして働くことができる場合に より大きくなる.  しかし,多くの国では,論議は経済に関してではなく,移住の社会的および文化的な影響に関して行われ ている.移民が期間を延長して――ないしは永続的に――滞在する場合,その統合という問題が中心となる. 社会文化的なインパクトは,移民に対する市民の受け止め方――および時には人種的な偏見――に加えて, 移民集団の規模,その起源,およびその社会経済的な地位などによって変化する 26.社会文化的なインパ クトは,各国のアイデンティティに関わる感覚や社会契約によっても左右される 27.カナダなどのような 一部の諸国は,自らを移民とその子孫で形成されている社会として定義している 28.一方で,日本などの ような他の諸国は,自国民の古い起源を強調している 29.  このような論議は社会や文化は同質的でも静態的でもないという文脈で展開している.戻るべき「移住以 前」の調和は存在しない.すべての社会において,緊張や,競争,協力は,多種多様な集団にわたって常に 存在しており,そのような集団は,部分的に重なり,そして常に変化している.このような緊張の一部は社 会経済的な分断を反映している:分断は移住にかかわるものではなく,貧困や経済的機会にかかわるもので ある――そして,大勢の移民がたまたま貧しい状況に置かれているのである.移住者ないしその子孫の多く は帰化していることから,移住に起因する文化的な問題の一部は実際には,国内少数派の包摂にかかわるも のである.移住は,数あるトレンドの中で特に近代化,世俗化,技術進歩,ジェンダーの役割や家族構成 の変化,新たな規範や価値観の出現などと並んで,変化が急速な時代において,社会を転換する原動力の 1 つにすぎない.統合は最終的には実現し,それは経済的な包摂と差別を排除する政策によって促進される.  移住先国は移住の実際のマイナス面に積極的に取り組むべきである.移民のスキルや属性が移住先国の労 働市場のニーズにより密接に適合しているほど,移住先国の国民の賃金に対する影響は小さくなる.しかし 8 世界開発報告 2023 図 O.4 適合度が高い場合,移住先国および移民の出身国の両方の政策は移住の利益を最大化することができる 移民の出身国: 移民の行先国: 送金と知識移転の円滑化, 移民に権利と労働市場へのアクセスを スキルの構築と頭脳流失の緩和, 提供,包摂の促進,需要のある 海外に在住する スキルを誘致,影響を受ける 自国民の保護 自国民の支援 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を最大化 最大化する する 適合度 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コストを 人間的に帰国 分担 低い 行き先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. ながら,たとえ平均的な影響は限定的であっても,受け入れ国の一部の労働者――スキルが移民と類似して いる労働者――は,賃金あるいは仕事さえ失うかもしれず,支援される必要がある 30.移民の行き先国が 大勢の外国人児童を収容しなければならない場合,特にそのような児童が移住先国の言語を流暢に扱えない 場合には,教育の質を維持するために追加的な資源が必要となる 31.貧困や差別を削減するために,移民 が居住している地域における公共投資を増やすべきである.それが行われない場合には,貧困や差別は,フ ランスやスウェーデンが経験したような,居住の分離や広範な社会悪につながる可能性がある 32.ほとん どの諸国では,移住は納税する労働力を拡大することによって歳入を増やしており,必要とされる支出のた めの余裕を生み出している 33. ほとんどの移民は多くの利益を得ている――移住先国でさまざまな権利を持っている場合には なおさらそうである  ほとんどの経済的移民は――低いスキルを持つ移民と高いスキルを持つ移民の双方について――,仮に本 国に留まっていた場合と比べて,移住先国においてずっと良い暮らしをしている.移民は移動による利益を 最大化することを目指していることから,自分のスキルに需要がある移住先国を意図的に選択している.移 住者は,本国では持つことが出来なかったであろう機会を見付けて,高い賃金を稼得し,しばしばより良い サービスを利用している.このような利益は,特に行き先国の経済が成長しており,そして労働市場がうま く機能している場合には,時間の経過とともに相当に増加する.出身国に戻る移民――OECD 加盟の高所 得国における全移民の 20%  – 50%――は,出国以前よりも暮らし向きは良くなっている 34. 概観 9  移民は難題にも直面する.移住のコストは状況によっては非常に高くなることもあり,移民はそれを返済 するために長期にわたって働かなければならない 35.数千万人もの移民が家族と離れており,その多くが 不慣れな環境の中で社会的に孤立するリスクがある 36.親が不在であることは家庭に,長期にわたって影 響を及ぼす可能性のある難題――子供の教育など――を引き起こす 37.  移住の利益は,移民が国際労働基準に沿って,法的地位と正式な雇用の権利を有している場合にはより大 きくなる.その例は,ディーセント・ワーク,公正な採用 38,そして新たな機会が生じた際に雇用者を変 更できる権利である 39.そのような権利をひとたび手に入れれば,書類のない(undocumented)場合と比 べて,移民の賃金や仕事の質は移住先国の国民の水準に大幅に早く収斂する.また,自らのスキルが正当化 する仕事よりも低いスキルかつ低い賃金の仕事に就くことへの移民が受ける圧力は低下する 40.そのよう な[権利を有する]移民は,遠方あるいは外国への移動を容易に行うことができ,その結果として,本国に残っ ている家族との絆をうまく維持することができる.また,不当な扱いや差別に対する脆弱性も低下する.そ れとは対照的に,法的保護が不十分,あるいは情報や言葉の壁が理由で法的な保護へのアクセスが不可能な 移住先国においては,移民が搾取されるリスクは高まる 41. 移民の出身国(本国)は開発利益のために移住を積極的に管理すべきである  移民の出身国では,海外移住は――特にうまく管理される場合には――貧困削減や開発を支援することが できる 42. (被仕向)送金は移民の家族にとっての安定した所得源であり,子供の教育,医療,住居,企業家 的な活動などへの投資を支援する.このような利益は送金コストを低下させることによって増幅させること ができるだろう 43.多くの場合,移民や,帰国者,海外離散者のコミュニティはアイデア,知識,そして 技術などを移転し,このことは移民の本国における雇用創出や近代化に拍車をかける.それはアメリカのシ リコン・バレーに在住していた移民が,インドの情報技術産業の育成を支援したのと同じである 44.この ようなプロセスは移民の出身国に良好なビジネス環境,効率的な労働市場政策,強固な制度,そして起業家 が利用することができるビジネス・エコシステムなどを育む健全な経済政策がある場合には,より容易にな るであろう.  高いスキルを持つ人の低所得国からの出国移住――いわゆる頭脳流出――は,損失をもたらし,開発に関 連する課題を生み出す.サハラ以南アフリカ,カリブ,および太平洋地域では,高等教育を修了した人が海 外に移住する確率は,それより教育程度の低い人よりも 30 倍高い 45.このような海外移住は,移民の本国 において,医療などのエッセンシャルなサービスを提供する高スキル労働者の不足を悪化させうる.政府と しては人々の出国を阻止することはできないことから,そのようなスキルのための訓練を行う能力を拡大す る必要がある.そのような取り組みは,高等教育や訓練プログラムへの資金提供を含め,移住先国との協調 を通じて支援されうるだろう 46.医療などのエッセンシャル部門では,移住先国との二国間労働協約を通 じて施行される必要最低限のサービス提供の要請のような,追加的な措置が必要とされるかもしれない 47. 高いスキルを有する労働者が自国において魅力的な展望を持ち,全能力を発揮できる仕事に就けることを確 保するためには,経済と社会の並行的な改革が必要である.  移民の出身国は,労働移住を貧困削減戦略の明示的な一環にしている場合に,労働移住から最も多くの利 益を得る.政府は,移住先国との労働協約,労働市場情報システムの改善,公正な採用プロセス,海外在住 者に対する領事支援などの措置を通じて秩序立った移住を促進することができる.政府は,送金や移住のコ ストの引き下げや,戻ってきた移民の労働市場や社会への再参入を支援することに向けて機能することもで きる.また政府は,グローバルに需要がある低水準のスキルや高水準のスキルを修得するために,教育制度 を調整することもできる.そうすることで海外に移住した際に,自国民(移住者)はより良い職に就くことが でき,それ故に送金や知識移転を介して出身国により一層貢献することになる.そのような構想は,依然と して行うべき多くのことが残っているものの,バングラデシュやフィリピンなどの数カ国において,実り多 いことが証明されている 48. 10 世界開発報告 2023 図 O.5 適合度が低い場合,政策策定には,経済的利益と移民の尊厳の間で生じる移住先国にとってのトレードオフが含 まれる 多くの経済移民 移住先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 適合度 移住先国: 大部分が非正規 多くの難民 国内移動を円滑化, である困窮 難民の労働を許可, 移民 国が提供する制度に 移動の必要性を削減, 持続可能性を 難民を包摂 移民の出身国: 移民を受け入れ,あるいは 確保,コスト 苦難の中での移住の 低い 人道的に帰国 を分担 必要性を開発に よって削減 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 移民の行先国: 移民を尊厳をもって 処遇,補完的な方式の 保護を提供 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 適合度が低い場合,コストは複数国間で分担――かつ削減――される必要がある  移民が移住先国で需要されているスキルや属性を持ち込まない場合,移住先国にとってのコストは利益を 上回る.仮に移民自身と移民の本国にとっては利益がある場合でも,そのような利益は,移住先国が自国の コストを削減および管理するための措置を取らない限り,持続可能ではない(図 O.5).政策の挑戦課題は, 国際法に基づいて移住先国によって受け入れられる必要のある難民と,苦難の中で移動するその他の移民と では異なっている. 難民という状態は,単なる人道上の非常事態としてだけではなく,中期的な開発の挑戦課題と して管理されるべきである  連続する緊急対応を通じて難民受け入れ国を支援することはコスト高であり,かつ有効性を欠く.平均す ると,受け入れ国政府が負担する支出に加えて,国際社会は低・中所得国に受け入れられている難民 1 人 について年当たり 585 ドルを支出している 49.国際的な支援が提供される際の方法は,多くの場合に,短 期的なアプローチを採用する動機を生み出す 50.しかし,現行の難民は平均で 13 年間にわたって追放され ており 51,その中の数百万人は,数十年間にわたって不確実な状態にある 52.例えば,1979 年にソ連が 侵攻した後に出国した多くのアフガニスタン人は今日でも依然として追放されており,その人たちの子供や 孫も同じ状態にある.当座のニーズを満たすことに向けた人道支援が極めて重要である.しかし,政策立案 としては,危機発生の当初から,財政面と社会面の両面で長期的に維持可能な対応を目指すべきである.  中期的なアプローチを採用することは,受け入れコストを削減すると同時に,難民が自分の生活を再建で きるようにすることができる.1951 年の難民条約は各国に対して,難民に安全性に加えて,仕事とエッセ 概観 11 ンシャル・サービスへのアクセスも提供することを義務付けている.紛争や迫害を逃れてきた人々は,多く の場合,資産の喪失やトラウマ的な経験を含め,深刻な脆弱性を抱えており,脆弱性は不確実な地位によっ て一層悪化しうる 53.しかし,子ども,あるいは障がいないしは背後にトラウマを抱えた人など,多くの人 機会が与えられれば, は働くことができない.そうではあるものの, 他の種類の移民が行っ ほとんどの難民は, ているのとほとんど同じ仕方で,生活を改善するための方法を探し,受け入れ国の経済に貢献する 54.この ような努力は,海外からの十分な支援を得て,難民に働く権利を提供し,難民が仕事にアクセスするのを支 援し,そして受け入れ国が提供する教育や医療制度に難民を取り込むことによって,最良の支援を受けるこ とができる.このアプローチは,なかでもコロンビア 55 や,ニジェール 56,ポーランド 57,トルコ 58,ウ ガンダ 59 などの多様な諸国によって採用されてきている.  内部移動性――難民を移住先国内で職やサービスのある場所に移動させること――は,難民という境遇へ の対応をさらに転換することができる.多くの難民は開発の遅れた国境地帯で受け入れられており,そのよ うな地域は雇用機会が少なく,難民が人口の大きな割合を占めている.そのような難民の存在は受け入れて いる地域社会に重大な負担を強いることになりうる.しかし,例えば,退去させられたベネズエラ人やウク 他のアプローチも可能である. ライナ人に対して一部の諸国が提供した支援によって例証されているように, そのような状況においては,難民は受け入れ国内の全域にわたって,さらには地域的なブロックの内部で移 動が許容され,そして奨励さえされる.このような自由度は,より多くの機会に難民がアクセスできるよう にし,それ故,受け入れ国社会のニーズとの難民の適合を強化することができる.また,難民が住民の全体 にわたってより均等に分散することから,受け入れるコミュニティの負担も軽減する.そういったアプロー チは,予測可能な中期的な資金提供手法の採用,政策支援の策定,そして国際的保護を提供するための国家 機関の強化などに向かうよう援助の供与方法が変更されることを要請する 60.  難民を受け入れることはグローバルな公益に貢献する.したがって,すべての諸国が,受け入れのコスト を吸収するのを支援するべきである.しかし,多くの国はそうしていない.難民の大多数は,わずか十数 カ国に居住しており,それは典型的には,移住者の出身国に隣接している低・中所得国である 61.例えば, ヨルダンやレバノンでは,難民が総人口の大きな割合を占めている.グローバルにみると,3 カ国のドナー が,難民の援助のための二国間資金のほぼ 3 分の 2 を提供している 62.そして,4 カ国が移住先での定住 の全体のほぼ 4 分の 3 を引き受けている 63.このような狭い支援基盤は,開発機関や,地方公共団体(local authority),民間部門,市民社会組織などを含む新たな後援者を関与させることによって拡張されるべき である.責任の共有も,ヨルダン・コンパクトに基づく貿易アクセス 64 やエチオピアのジョブ・コンパク トに基づく投資 65 などのような,広範な二国間交渉の一部になりうるであろう.それは,所得が低いとい う状況を含め,地域的なイニシアティブによって補完されることもできるだろう. 「アフリカの角」 例えば, (半 島) (IGAD) 地域では,政府間開発機構 は,難民状態の管理を漸進的に改善するための地域的なピア・ツー・ ピア・プロセスの開発を支援してきている 66. 困窮[苦難の中での]移住は人々の尊厳を尊重しながら削減する必要がある  政策面での最も困難な難題は,移民が難民でなく,かつ移住先の社会のニーズとの適合度が低い場合に生 じる.このような移民の多くは非正規な経路,そして拡大している密入国産業やそのような産業が受け入れ 国で養っている搾取的な労働市場に向かっている 67.このような移住には多くの場合に苦難が伴っている. 2014 年以降,移住を試みている状況下で 5 万人近くが死に至った 68.多くの人が地中海の横断を試みて いる際に死亡し,他のルートでの死者数も増加しつつある.人のこのような移動は国境を越える移動の管理 に関して喪失感も生み出しており,正規の移民や難民の対処にかかわる壊れやすいコンセンサスの土台を崩 している.そのような移住を防ぐために,一部の政府は厳しい政策を実施してきている.2018 年のアメリ カ南部国境における家族の分離や,人権問題の実績が疑わしい第三国に対する国境管理の外面化などがその 実例である 69.このような対応のすべてに,移民や移住志望者の尊厳と人権の著しい犠牲が伴っている.  一部の困窮移民は,難民ではないものの,保護を必要としている.そのような人たちは,命を脅かす危険 12 世界開発報告 2023 を冒している.これは,そのような移民は当人の本国では他の実行可能な代替手段がない,あるいは移動中 に人身売買の犠牲者になることを示唆している.例えば,書類のない移民はアメリカ南部の国境に向かう途 中で,犯罪集団による誘拐や,恐喝,性的暴力やその他の形態の暴力に直面している 70.一連の人的および 政治的な危機となっている事態に直面して,数カ国は,難民として認められておらず,しかし当人の本国に 安全に帰国させることができない人に対して保護の一形態を提供するために,特別な法的手段を制定した 71. このアプローチは補完的ないし補助的な保護と呼ばれることがある.そのような制度は首尾一貫した仕方で 拡充されるべきであり,保護にアクセスするために安全かつ合法的なルートが確立されるべきである.  移住先 国は他の種類の困窮移民を当人の出身国に帰すことを選択するかもしれない.その場合 [受け入れ] でも,人間の尊厳が移住政策の基準として維持されなければならない.本国への送還は当事者個人にとって は悲劇である.そうではあるものの,それでも移住制度の持続可能性を確保するためには,本国への送還は 必要かもしれない.というのは,それは自国民と移住志望者の双方に向けて,ルールは履行されるというこ とを例証するからだ.不本意な帰国は,人権条約を順守し,かつ人道的な仕方で実施されるべきである.そ のような対処には,並行して行われる,密入国者と,移住先国で非正規移民を雇用する人の両方を取り締る 取り組みが伴うべきである.  移住先国が制限的な政策を採用する場合には,その近隣諸国,特に移民が通過する諸国も影響を受ける可 能性がある.障壁によって移民が先に進めなくなった場合,通過国が代わりの行き先目標国になる.困窮移 民は数カ月間,時には数年間にわたり,最終地になることを望んでいなかった,そして多くの場合に脆弱な 立場に置かれる諸国に滞在する.このような状況はメキシコやモロッコなどの通過国に対して,単独では対 処できない難しい政策問題を提起する.行き先国と通過国の両方が,困窮移民を受け入れる,あるいは人道 的に本国に帰すために協働するべきである(ただし,本国への送還は,1951 年の難民条約が適用される難 民には適用されるべきではない).このような協調に含まれるのは,誰がどちらの国――移住先国ないし通 過国――に受け入れられるべきか,そして誰が送還されるべきかを決定する体系の設計,さらに,このよう なことを効果的に行うための対応するプロセスと財政取り決めに関する合意である.そのような取り決めは, 移民が単に通過するだけの諸国におけるサービスや安全性を拡充する努力によって補完されることもある.  全体としては,主要な取り組むべき課題は,そのような移住の必要性を削減することである(図 O.6).そ のような側面において,開発は,誰がどのような状況で移住するかを変えることによって,決定的に重要な 役割を果たす 72.各国が発展するのに伴って,人々が受ける教育は向上し,教育を受けた人のスキルは国 内および世界の労働市場におけるニーズにより高度に適合するようになる.また,そのような人たちはショッ クに対してより強靭になり,ディーセント・ワークや国内移住という代替手段が利用可能になることは,苦 難の中での国境を越える移住の必要性を低下させる.しかし,開発には時間がかかり,より短期的な対応策 も必要である.受け入れ国は,低スキルの労働者を含め,スキルや属性が移住先国のニーズに適合している 人々による移住を可能にする,ないし奨励さえするために,移民の本国と協力し,そして合法的な入国経路 を拡充することができる.そのプロセスにおいて,受け入れ国は移住志望者と,そのような人を特定のスキ ルの修得などのために支援するコミュニティに関わる奨励策を創設する. 移住をうまく機能させることは,物事のやり方を変えることを要請する  移住の改革にとって,今は難しい時期である.政治論議は,所得レベルの全てにおいて,多くの諸国で分 極化している.2022 年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて,国際社会のなかにおける緊張が高まった. 世界的な経済の見通しは不確実な状況が続いている.そうではあるものの,改革が緊急に行われる必要があ る.難しい論議がこの先に待ち受けているが,移住からの利益を実現するためには,回避すること,ないし 遅らせることはできない. 概観 13 図 O.6 移民の本国と移住先国の双方における政策措置は困窮移住を削減することができる 高い 行先国で 多くの 移民の本国: 需要のあるスキルを 経済移民 有する難民 開発を通じて,スキルや ショックに対する 強靭性を強化 適合度 行先国: 需要のあるスキルを 持つ人たちのために 合法的経路を通じて 大部分が非正規 多くの難民 インセンティブを である困窮移民 変える 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 移民の行先国: 保護の補完的な 形態を拡大する 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.下方左象限の垂直点線は困窮移民のうち国際的な保護を必要としている人とそ うでない人の区別を強調している. 国際協力の一層の強化が不可欠である:二国間による移民の適合度の向上,および多国間による 恐怖によって引き起こされる移動への対応  移民の本国[出身国]と移住先国の双方が移住を戦略的に管理する必要がある.本国にとっては,挑戦課題 は,労働移住の自国の社会に対する開発面の影響を最大化することである.受け入れ国にとっての挑戦課題 は,全ての移民を人道的に処遇し,自国民の間に懸念を引き起こす社会的な影響に取り組みながら,移民が 自国の長期的な労働のニーズを満たす可能性を認識し,それを活用することである. 移民の本国と受け入れ国の両国は協働する必要がある  移住から派生する利益を増やすためには, (図 O.7). 太平洋諸島諸国とオーストラリアの間でみられたように 74,協力は,スキルの適合の改善を促進し,そし て移住者に法的な地位を与える二国間労働協定を通じて正式なものにすることができる 73.二国間協力は, グローバル・スキルズ・パートナーシップを通じることなどによって,移民の出身国においてグローバルに 移転可能なスキルを構築するのを支援することができる 75.二国間協力は不本意な帰国を人道的に処理す るためにも極めて重要である 76.また,そのような協力は,地域的なイニシアティブによっても補完する ことができる. 移民の本国と移住先国の両方で構成される地域的グループ全体での労働のニー それは例えば, ズに関する議論や,カリブ共同体(CARICOM) (CSME) による単一市場・経済 の構想のような,資格を認 定するための地域的な制度の創設などである.  恐怖に動機付けられている移住に取り組むために,また,グローバルな規範を強化すると同時に,難民を 受け入れるコストを分担するために,多角的な取り組みも必要とされている.移住と強制避難のための―― さらに国際的な保護を受けるべき人を定義するための――国際的な法律の構成が,移住の傾向における変化 を反映させるために過去数十年間にわたって発展してきている.今後も継続する可能性が高く,そのような 14 世界開発報告 2023 図 O.7 移住の種類に応じて,必要とされる国際的協力の形態は明確に異なる 多くの経済移民 移住先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 二国間協力: 対象に利益を 対象に利益を ◦ 二国間労働協約 最大化する 最大化する ◦ グローバル・スキルズ・ パートナーシップ 多角的協力: 適合度 ◦ 難民に対する責任の 共有 大部分が非正規 多くの難民 ◦ 規範設定 である困窮 移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 移民を受け入れる, 確保,コスト あるいは人道的に を分担 低い 帰国させる 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った状況を指 す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十分に理由のある恐怖」 の故に移動するのか. 法的構成は確固とした開発の視点を含むべきであろう.しかし,国際社会において緊張が再び生じている時 期にあっては,進展は緩慢なものにとどまるかもしれない.ラテンアメリカ諸国がベネズエラ人がこの地域 全体にわたって移動できるようにすることによって行ったように,グローバルな行動は,特に難民や他の強 制的に退去させられた人たちの受け入れに対する責任の共有については,地域的な努力によって補完される べきである. 変化を引き起こすためには十分に代表されていない声に耳を傾けなければならない  移住の改革は政治的なプロセスである.改革が成功するためにはデータと証拠が不可欠ではあるが,それ 新しい利害関係者グループが自分たちの意見を聞いてもらうことを必要としている. だけでは十分ではない. これは,議論が高度に分極化し,そして複数の競合する優先課題――なかでも,気候変動,食料安全保障, そして継続中の世界的な経済の減速など――が存在する場合には特に重要である.  移民の出身国と受け入れ国の両方において,論議にはエリート団体を超えて,社会の幅広い階層が関与す るべきである.このような努力は,治安当局の枠を越えて政府一体のアプローチをとることによって,中期 的な労働のニーズとそれを満たす方法を評価するために民間部門や労働組合を招くことによって,そして, 多くの場合に対応と統合という挑戦課題の最前線に位置している地方自治体を関与させることによって追求 することができる.移民や難民の声も聞くべきであり,このことは,代表性と説明責任を確保するような仕 方で彼らの声を伝えるシステムを開発することを必要とする.低・中所得国――経済移民の出身国と難民を 受け入れる国が含まれる――も自国の意見がより聞かれるようにし,そして自分たちの利益を守るために, 建設的な連合を結成することができる. 希望のメッセージ  本報告書は希望のメッセージを伝えている.移住の善悪に関するイデオロギー的な主張によって議論が支 概観 15 表 O.1 主要な政策提言 (強固な適合) 移民や難民のスキルに需要がある 移民の本国[出身国] 移民の行き先国 二国間協約 貧困の削減に向けて移住を管理する 利益を最大化し,コストを削減する 適合を強化する 戦略:移住を開発戦略の一部にする. 戦略:労働のニーズを認知する.移住の役割 二国間労働協約:両者が利益を得る移住を構 送金: 貧困削減に向けて送金を活用し,さら についてコンセンサスを確立する.政策の首 築し,促進する.送金のコストを削減する. に送金のコストを引き下げる. 尾一貫性を確保する. スキル開発:自国のおよびグローバルな労働 知識:知識移転を促進し,グローバル経済へ 入国と地位:より強固な一致を伴う入国移住を 市場の両方で需要のあるスキルの開発に資金 の統合を強化するために各国に散在する移民 奨励する.移民が正式な地位と権利を持つこと 提供をするためにペアを組む. や帰国民と協働する. を保証する. スキル開発と頭脳流出の緩和:自国内およびグ 経済的包摂:労働市場における包摂を促進す ローバルな労働市場において需要のあるスキ る.移民が有する資格の承認を強化する.搾 ルの教育と訓練を拡大する. 取を取り締まり,ディーセント・ワークを促進 する. 保護: 市民全体に保護を提供する.取り残さ れている脆弱な家族員を支援する. 社会的包摂:分断化を防ぎ,サービスの利用 を促進する.差別と戦う. 自国民に対する支援: 雇用の成果および公共 サービスという点でマイナスの影響を受ける市 民を,社会的保護と公共投資を通じて支援す る. 難民のスキルに対して需要がない場合(適合度が低い,恐怖を動機とする移動) 受け入れ国 国際的なコミュニティ 中期的な視点で管理を行い,適合を強化する 受け入れ国とコストを分担する 制度と手段:関連省庁を通じて難民支援を主流化する.持続可能な資 責任の共有:難民が避難をする要因となった状況を防ぐ,あるいは解 金提供枠組みを策定する. 決する.十分な額の中期的な融資を提供する.定住の選択肢を増やす. 国内移動:機会に向けて難民が移動するのを促進および奨励する. 現行の主要な拠出者の枠を超えて,支援の基盤を拡大する.地域的な アプローチを策定する. 自己依存[自立]:公式な労働市場において難民が仕事にアクセスでき るようにする. 解決策: (自発的な帰国, 「恒久的な解決策」 現地での統合あるいは定住) に向けてより一層努める.中期的に,国による保護と機会へのアクセス 国家的なサービスへの包摂:国の制度を通じて,教育,医療,および を提供する革新的な地位を制定する. 社会のサービスを提供する. 移民のスキルに対して需要がない場合(適合度が低い,移住は恐怖が動機ではない) 移民の本国 移民の通過国 移民の行き先国 苦難の中での移動の必要性を削減する 移民の行き先国と協力する 移民の尊厳を尊重する 強靭性:社会的保護を強化する.国際的な移 協力: 移民を吸収する,あるいは人々を人道 尊重:すべての移民を人道的に処遇する. 住に対する国内の代替手段を作り出す. (最 補完的な保護:リスクに晒されていて,かつ難 的に帰国させるために行き先国と協働する . 教育:人々がより多くの選択肢を持つことがで 後の通過国について) 民ではない人を保護する現行の制度の首尾一 きるようになるスキルを構築する. 貫性を強化する. 包摂: 包摂的でグリーンな開発を促進する. 合法的な経路:低スキルの労働者を含め,需 気候変動への適用を育む. 要のある労働者のための合法的な経路を確立 することによって移民の動機を変える. 強化:必要な帰国を人道的に管理する.密入 国支援業者や搾取的な雇用者を取り締まる. 入国を処理するために制度的な能力を強化す る. 移民政策を変更する データとエビデンス 財政面での手段 新しい意見 調和:データの収集方法を調和させる. 新しいあるいは拡張された手段:難民を受け入 影響を受ける国民:共通の挑戦課題に直面す エビデンスの確立: 政策策定に情報を提供す れる国を支援するために中期的な手段を策定 る国の間で提携を構築する. るために新しい種類の調査に投資する. する.適合度が低い移民を受け入れている低・ 国内の利害関係者:意思決定プロセスに広範 中所得国に対して外部的な支援を提供する. な利害関係者が参加することを保証する. データの開放:データを広範に入手できるよう にし,同時に移民や難民のプライバシーを尊 既存の手段の利用を強化する:民間部門の関 移民および難民の意見:移民や難民の意見を 重することによって,研究を促進する. 与を奨励する.開発に向けて移住を活用するこ まとめるために,意見の代表と説明責任の制 とにおいて移民の本国を支援する.二国間お 度を策定する. よび地域的な協力を奨励する. 出所:WDR 2023 チーム. 16 世界開発報告 2023 配されている中で,この報告書は次のような 1 つの異なる質問に答えようとしている:どのようにすれば 移住はグローバルな開発にとってよりうまく機能しうるだろうか? それに答えるためには,人々が国境を 越える際に出現する,経済的,社会的,および人道的な面での,潜在的な利益と挑戦課題の両方を認識する ことが必要である.移住は普遍的に良いものでも,普遍的に悪いものでもない.それは複雑で,必要なこと であり, (詳細は表 O.1 と第 9 章を参照) より適切に管理される必要がある .いつでもあらゆる場所において, 適切に管理されていれば,移住はすべての人,すなわち経済移民,難民,および後に残る者,そしてさらに 移住者の出身社会と移住先社会にとって利益をもたらす繁栄に向かう強力な力になる. 注 1. Armitage et al. (2011); Beyer et al. (2021). 32. Auspurg, Schneck, and Hinz (2019); Baldini and Federici 2. 詳細は第 2 章を参照. (2011); Baptista and Marlier (2019); Bosch, Carnero, and Farré (2010); Fonseca, McGarrigle, and Esteves (2010). 3. 詳細は第 4 – 6 章を参照. 33. Clemens (2021). 4. 詳細は第 3 章も参照. 34. Bossavie and Özden (2022); Dustmann and Görlach 5. Black, Kniveton, and Schmidt-Verkerk (2011); Black et al. (2016); OECD (2008). (2011); McLeman (2016). 35. 移住コストの詳細は第 5 章を参照. 6. Global Internal Displacement Database, Internal Displacement Monitoring Centre, Geneva, https://www. 36. Graham and Jordan (2011); Mazzucato et al. (2015); internal-displacement.org/database/displacement- Parreñas (2001). data. 37. Cortés (2015); Jaupart (2019). 7. 詳細は第 3 章を参照. 38. ILO (2019). 8. IPCC (2022). 39. Naidu, Nyarko, and Wang (2016); Pan (2012). 9. Cissé et al. (2022); IPCC (2022, chap. 7). 40. Damelang, Ebensperger, and Stumpf (2020); Duleep 10. Clement et al. (2021); Rigaud et al. (2018). (2015). 11. 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Lafortune, Socha-Dietrich, and Vickstrom (2019). ない. 24. 詳細は第 6 章を参照. 52. Devictor and Do (2017). 2020 年のデータについて 25. 詳細は第 6 章を参照. は次を参照:Refugee Data Finder (searchable data 26. 詳細は第 6 章とスポットライト 6 を参照. sets), Statistics and Demographics Section, Global 27. 移住の社会的・文化的なインパクトの議論は第 6 章を Data Service, United Nations High Commissioner 参照. for Refugees, Copenhagen, https://www.unhcr.org/ refugee-statistics/download/?url=2bxU2f. 28. StatCan (2013). 53. Porter and Haslam (2005). 29. Morris-Suzuki (1995). 54. Hussam et al. (2022). 30. Dustmann, Glitz, and Frattini (2008). 55. Rossiasco et al. (2023). 31. Chin, Daysal, and Imberman (2012); Frattini and Meschi (2019). 56. IDA (2021, 162). 概観 17 57. EWSI (2022). 64. Government of Jordan (2016). 58. Tumen (2023). 65. EUTF for Africa (2018). 59. IDA (2021, 9). 66. IGAD (2022). 60. 詳細は第 7 章を参照. 67. 詳細は第 8 章のボックス 8.4 を参照. 61. 2022 年末時点において,受け入れ難民数でみて難民受 68. IOM (2020). け入れが上位の 12 カ国は次の通りである:トルコ,コ 69. 詳細は第 8 章のボックス 8.1 を参照. ロンビア,ドイツ,パキスタン,ウガンダ,ロシア, 70. Infante et al. (2012). ポーランド,スーダン,バングラデシュ,エチオピア, 71. Paoletti (2023). イラン,レバノン.次を参照:Refugee Data Finder (dashboard), United Nations High Commissioner for 72. 詳細は第 8 章を参照. Refugees, Geneva, https://popstats.unhcr.org/refugee- 73. United Nations Network on Migration (2022). statistics/download/. 74. OECD (2018). 62. これは EU,ドイツ,およびアメリカである(OECD 75. Clemens (2015). 2021). 76. 詳細は第 8 章を参照. 63. これはカナダ,ドイツ,スウェーデン,およびアメリ カである(OECD 2021). 参考文献 Ang, Alvin, and Erwin R. Tiongson. 2023. “Philippine paper prepared for World Development Report 2023, Migration Journey: Processes and Programs in the World Bank, Washington, DC. Migration Life Cycle.” Background paper prepared for Bossavie, Laurent Loic Yves, and Çağlar Özden. 2022. World Development Report 2023, World Bank, Wash- “Impacts of Temporary Migration on Development ington, DC. in Origin Countries.” Policy Research Working Paper Armitage, Simon J., Sabah A. Jasim, Anthony E. Marks, 9996, World Bank, Washington, DC. Adrian G. Parker, Vitaly I. 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Washington, DC: World Bank. 1 21 適合度と動機の マトリックス 重要なメッセージ  本報告書は,移住者 をその地位や動機とは無関係に,市民権を有する国の外に住んでいる人々とし (移民) て定義している.実用的な目的のために,移住者(移民)という言葉が本報告書全体を通じて,経済的移住 者や難民にグループとして言及する際に使われている.  「適合度と動機のマトリックス (行列)」は労働経済学と国際法に依拠して,誰がどのような状況下で移動し ているかに基づく 4 種類の移動に対して,優先的な政策を特定する統一的な枠組みを展開する(図 1.1).  移住者が のどこに該当するのかは,部分的には移民の行き先国の政策に依 「適合度と動機のマトリックス」 存する.長期的には,挑戦課題は,全ての移民のスキルや属性と行き先国との適合度を高めることによっ て,そして,難民でもなく,スキルや属性が移住先社会と高い適合度を示してもいない移民による,いわ ゆる困窮[苦難の中での]移動の必要性を削減することによって,移住の成果を向上させることにある. 図 1.1 移民グループの種類が異なれば,必要とされる政策対応は異なる すべての人を 対象に利益を 最大化する すべての 移民について 適合度を 高い 高める 大勢の 行先国で需要のある 経済移民 スキルを有する 難民 利益がコストを上回る すべての 移民について 適合度を 高める 適合度 コストが利益を上回る 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 持続可能性を 確保し,コストを 低い 分担 移住の必要度を 移住先国 本国における 動機 下げる,難民を受け における機会 恐怖 入れる,人道的に 帰国させる 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 22 世界開発報告 2023 人間を中心に据えたアプローチ  移住というのは人々にかかわるものである.それは国境を越えて移動する人,後に留まる人,移動する人 を受け入れる人にかかわることである.人々が新しい国に移動する場合,その決定は,当人自身,当人の本 国[出身国] [受け入れ国] のコミュニティ,そして行き先国 のコミュニティに対して,経済的および社会的な 影響を与える.  移住に向けた人間を中心に据えたアプローチは次のことを認識している.すなわち,移民や難民はしばし ば困難な選択をしており,公正かつ適切(ディーセント)に対処するに値する人たちである.それらの人々は アイデンティティ,スキル,文化,そして好みを持っている.同様に,移住先国は,多様で時として対立す る有権者,利益,そして意思決定プロセスが伴う複雑な社会である.主権国家および国際社会のメンバーと [受け入れ] して,移民の行き先 国は自己の利益をより多くするために政策を設計している.人々が国境を越 えて移動することを決定する際,その人の移動は,当人の本国と行き先国の社会の両方の開発と繁栄に影響 を与える.  移住は開発にとって強力な力になることが判明しており,世界全体にわたる数億人もの移民,その家族, およびコミュニティの生活を改善している.しかし移住には,移民や難民,それらの人が扶養する人たち, そして,さまざまな問題や脆弱性を克服しつつあり,そうするためには開発支援を必要とする可能性のある, 移住先社会の多くの人々も伴っている.長期にわたって移動に作用している動因の一部は,強まりつつあり, そして,この先の数十年において強度が増すと予想されている.同時に,多くの受け入れ国では移民や難民 を受け入れることの費用と利益に関する激しい公開討論が行われている.  越境移動にかかわる挑戦課題と緊張が発生するのは,利害関係者の選択や選好が多くの場合に一致してい ないからである.選択や選好は越境移動する人々と移住先国市民との間で,移民どうしの間で,さらには移 民の本国と移住先国の両方の社会の有権者の間で異なっている.しかし,これらの競合する利害を調和させ るために必要な市場の体系はしばしば欠如している.例えば,高い需要のある労働者の一部のカテゴリーに ついては,市場の力は移住者の本国の社会の立場からは行き過ぎた移住につながるかもしれない(頭脳流出). [受け入れ] 逆に,他のカテゴリーの場合,移民の流入は移住先 社会にとって最適な規模を上回るかもしれな い.開発面での強固な成果を得るためには,移民の出身国と移住先国の両方の社会において,そのようなミ スマッチに対処し,そして全ての人にとって経済的および社会的に改善された成果を確保することに向けた 政策が必要である. 外国籍の人に注目する  本報告書では移住者をその地位や動機にかかわらず,市民権がある国の外に住んでいる人々として定義し ている.移住者が直面する明確な挑戦課題は移住先国における市民権――およびそれと関連のある市民的, 政治的,および経済的な権利――の欠如から生じる.移民が市民権を欠いていることに対応して,受け入れ [移住先]国は移民の地位,移民が享受可能な権利,および移民がアクセス可能な機会を定義することに特化 された政策を採用しなければならない.本書の視点からは,市民権のある国へ帰国する,あるいは移住先国 (ボックス 1.1) で帰化すると,その人は移民ではなくなる .  本レポートは特に国際的な移住を検討している.国内的および国際的な移動は同じ経済的・社会的な力の 一部への対応である.実際,グローバルには,国内移住者の数は国際的な移住者の数をはるかに上回っている. しかし,国際的な国境を越えた人々は移動先の国で市民権を欠いていることから,そのような人たちは国内 移住者とは根本的に異なる状況にあることを知る.国内的および国際的な移動に対応した政府の政策,政府 が直面するトレードオフ,移動を規制する政府の能力,政府が採用する必要のある措置などは著しく異なっ ている.  移住政策を巡る論議は,国内の少数派をどのように統合するかという問題とは別問題でもある.帰化した 1 適合度と動機のマトリックス 23 ボックス 1.1 外国人か,それとも外国生まれか?  多くの統計データベースや調査研究は移住者 [移民] を (migrant) (foreign-born) 「外国生まれ」 の人々として 定義している.というのは,ほとんどの国勢調査や,人口台帳,各種調査には出生地に関する質問が含まれ ているからだ.それとは対照的に,市民権に関する情報は体系的に収集されてはおらず,場合によっては回 (undocumented) 答者は,仮に例えば,当人が正式な書類を持っていない 場合には,自分自身の法的地位に 関する情報を共有することを躊躇するかもしれない.一部の諸国では,国勢調査当局は市民権の状態に関し て質問することを禁じられさえしている a. 「外国生まれ」  しかしながら,移民を (foreign national) として定義することは,移民を外国籍の人 として定 「外国生まれ」 義することと同じではない. は次のことを意味する.すなわち,移民であることは生涯にわた る地位であり,決して変わることはなく,たとえ帰化する,あるいは文化的にも政治的にも完全に統合され る,場合でさえ変わらない.またそれは,暗黙裡に,個人的な履歴に基づいて,市民の間での区別も確立する. (migrant) 移民 (alien) と異邦人 いう用語が同義とされている諸国では,差別は永続化ないし補強される可能 (foreign nationality) 性がある.対照的に,外国籍 に焦点を合わせることは市民権の欠如に由来する特定の挑 戦課題をより適切に切り離すことを可能にする. 「外国生まれ」  実際にも, という定義を使うことは大勢の人々を移民として分類することに帰結しており, このことは次には移住先国における受け止め,政治,および政策策定に影響を与える.例えば,たとえ相対 「外国生まれ」 的に大きな数の移民が最終的に帰化しても, (帰化した) という定義の下では,その 人たちは依 然として移民に数えられる.アメリカでは,外国生まれの移民の 54%は帰化市民であり,OECD に加盟して (図 B1.1.1) いる高所得国の多くでもこの比率は高い .外国生まれの人の数と外国籍の人の数の間の大きな不 一致は,国境が変わることによっても生じる.例えば,ソビエト連邦やユーゴスラビアの崩壊をに続いて, かつては統一されていた国で生まれた人々の一部は,統一されていた国が独立した時にその国の別の部分に 「外国生まれ」 住むことになった場合には, として数えられることになる.古い世代に関しては,イギリス領 「外国生まれ」 インドの分割は大規模な人口の移動を引き起こし,依然として の人が 200 万人存在している.  たまたま外国で生まれ,そして,そうであっても祖国の著名な市民でもある多くの政治指導者のことを考 「外国生まれ」 える時, という移民の定義の限界は明白である.スペインの元国王フアン・カルロス,アルジェ リアの元大統領アブデルアズィーズ・ブーテフリカ,ボツワナの元大統領イアン・カーマ,エストニアの元 大統領トーマス・イルヴェス,オーストラリアの元首相トニー・アボット,フランスの元首相マニュエル・ヴァ ルス,インドの元首相マンモハン・シン,イスラエルの元首相シモン・ペレス,イギリスの元首相ボリス・ジョ ンソン,バヌアツの元首相モアナ・カルカセス・カロシルなどがそのような人の例であり,これはそのよう な人のごく一部である. 移住者は市民権を得た新しい国で,人種主義や差別を含む,多くの挑戦課題に直面するかもしれない.しか し,そういった問題は帰化した移民の移動やその人が市民権を欠いていることとは関係がない.そうではな く,それは,市民の特定のグループが社会の他のグループによってどのように見られ,そして扱われている かや,国内少数派が直面している包摂という挑戦課題と関係がある.このような観察を認識することは,移 住の文化的なインパクトなどのような一部の対応に注意を要する問題を見直すことに役立ちうる.帰化した 市民は,たとえ明確な民族集団に属していても,ないしは少数派の宗教を信奉していても,現地で生まれた 市民と同じくらいに社会の一部であり,当該国の文化を部分的に定義し,そして形成している. 2 つの視点:労働経済学と国際法  労働経済学と国際法が移住に関する政策立案に知識を提供している.それらの視点は明確な知的および学 術的な伝統から生じてきており,国境を越える移動に関する異なる側面に焦点を合わせている.その結果, 24 世界開発報告 2023 (続き) ボックス O.1 外国人か,それとも外国生まれか?  図 B1.1.1 OECD に加盟している高所得国の多くでは,外国生まれの人の半数以上が帰化している オーストラリア オーストリア ベルギー カナダ 20% 28% 37% 34% 44% 44% 63% 28% 80% 22% フランス ドイツ イタリア オランダ 19% 22% 23% 27% 25% 29% 33% 37% 56% 36% 49% 44% ニュージーランド ノルウェー ポルトガル スペイン 16% 17% 20% 27% 37% 43% 63% 57% 67% 54% スウェーデン スイス イギリス アメリカ 22% 26% 31% 40% 46% 54% 60% 69% 52% 帰化している 帰化していない EU 内移民 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 注:外国生まれの割合の計算において,難民は「帰化していない」に含まれている.EU =欧州連合,OECD =経済協力開 発機構. a. 例えば,アメリカの最高裁判所は訴訟 v. New York, 139 S. Ct. 2551; 204 L. Ed. 2d 978 (2019) において,2020 年の国勢調査に おいて市民権の状態に関して質問を行うというトランプ政権の意図を阻止する裁定を下した.市民権に関する質問はアメリカ の国勢調査では 1950 年以降排除されてきている. 1 適合度と動機のマトリックス 25 それぞれが重要な洞察を提供している.そうではあるものの,今日に至るまでそれらを 1 つの一貫した全 体に統合する簡潔な枠組みは存在していない. [受け入れ]  労働経済学と国際法の両方が,移住先 国の政策が移住のパターン,およびその効果を形成する ことにおいて主要な役割を果たしていることを認めている.受け入れ国側が,不完全ではあるが,誰が自国 の国境を越えるのか,誰がどのような条件で合法的に滞在することを許可されるのか,そして越境した人々 にはどのような権利が与えられるのか,などについて定義し,そして規制している.このような政策は移動 を開始する前,移動中,そして目的地に到着した後における移民のインセンティブや決定に多大な影響を与 え,世界全体の移動のあらゆる側面を形成している.対照的に,移民の出身国のほとんどは,移動を規制す ることについてわずかな影響力しか持っていない.  移住先 国が自国の移住政策を策定する際, [受け入れ] 当該国は主に自国の福利を重視する.受け入れ国は, その政治的プロセスを通じて,移住が自国の労働市場に及ぼす影響と(それは労働市場だけに関わるもので はないことから)移住が自国社会に及ぼす広範な影響の両方を考慮する.もっと著しく限定的な程度におい てのみ,移住者自身と移民の出身国に対する影響を考慮する. 労働経済学と費用便益計算 [出身国]  労働経済学では移住を,本国 におけるよりも自己の労働がより生産的に活用されうる国へ向かう 労働者の国境を越える移動としてみている.市場諸力が国境を越える生産要素――資本と労働――の移動と その配分を引き起こす.このような視点からは,人々の自由な移動は世界経済が効率的に機能することの鍵 となる要素であり,労働は国境や他の政策的な制限による摩擦の導入を伴わずに,最も生産的な場所へ移動 することが許容されるべきである.移住から悪影響を受ける受け入れ国の国民――労働市場で移住者と競合 する労働者など――に対しては,分配政策を通じて支援をすることが可能である.  労働経済学は,移民が移住先国に持ち込むスキル,資格,それに専門家としての経験,およびそれらが生 産的に利用されうる程度に焦点を合わせている.一部の移民は,労働市場においてすでに入手可能になって いるスキルを補完するスキルを持ち込む.このような補完性は生産性を向上させ,移住先国経済の全体にわ たる相当な利益を伴っている.他の職業では,移民労働者は代替要員となる.移民が加わることは労働供給 を増加させ,このことによって賃金と全体的な生産コストは低下する.消費者と雇用者(および資本の所有者) は利益を得る.しかし,一部の既存の労働者は賃金低下と,おそらくは失業を経験する.補完的スキルと代 替的スキルの間の区別は,スキルのレベルではなく,それが労働市場のニーズにどの程度合致しているかに 基づいている.高いスキルと低いスキルの両方が補完,あるいは代替になりうる.  次のことを示す十分な実証的証拠がある.移民のスキルが移住先国の労働市場のニーズに適合している場 合には,移民自身も利益を得て,移住者の出身国も同じように利益を得る 1.移民は出身国におけるよりも 生産的に雇用されうることから,より高い賃金を稼得する.移民の出身国は金融移転(送金)と知識移転の両 方から利益を得る.しかし,代価も伴っている.それは例えば,稀少なスキルを持つ大勢の人が出国移住す る(頭脳流出)場合である.しかし,代価の規模は小さい傾向にある.  この視点は,移民はスキルだけでなく,個人的な履歴や文化的な嗜好を含めて,さまざまな他の属性も持 ち込むという点を認識することによってさらに発展させられている.移民のスキルと移住先国経済のニーズ との適合度が労働市場に対する影響を大まかに決定する.しかし,移民の統合は労働市場の枠を超えている. 移民の家族が教育や医療サービスを必要とする場合などのように,それには金融面でのコストが伴うことも ある.移民の仕事や,年齢,家族状況などに応じて,そのコストは,移民に課される税金によって完全に賄 われることもあれば,そうでないこともある.移民の社会的な統合のような,非金銭的なコストを含め,他 のコストも発生するかもしれない.  適合度が高いと考えられるものは,移民の特性と受け入れる社会の優先事項の両方に依存する.しかし, このような特性や優先事項は経時的に,例えば経済成長が加速している,あるいは減速している時には,変 化する.移住先社会の中で異なる考えを持つ各集団は,移民の統合,特に社会的包摂に関連したコストに関 26 世界開発報告 2023 図 1.2 移民の適合度が高い場合,その貢献度は融合のコストを して,相異なる意見を抱いているかもしれない.にも 上回る かかわらず,懐疑派と支持派の双方が,一部の移民の スキルや属性は他よりも受け入れ社会のニーズにより 労働による 貢献は融合がもたらす 良く適合しているという点に同意している.論議は適 コストを上回る 合度の高い構成要素と低い構成要素は何かに関するも のである.この問題は典型的には政治的なプロセスを 通じて調停されており,望ましい結果と考えられるも のは時とともに変化する. 高い 利益がコストを  全体として,多くの受け入れ[移民の移住先]国は自 上回る らの移住政策を費用便益計算から導出している.移民 のプロフィールが受け入れ社会のニーズに適合してい る場合は,移民の貢献度は移民の統合に関わるコスト 適合度 を上回る(図 1.2).このような状況においては,受け 入れ社会は利益を得る――ほとんどの状況において, 労働による 移民と移民の出身国も同様に利益を得る.また,受け コストが利益を 貢献は融合がもたらす 上回る 入れ側の社会はそのような移動を許可する,ないし コストを下回る は奨励さえする傾向にある.対照的に,移住者のプロ 低い フィールが受け入れ側の社会のニーズに合致しない場 合,コストは労働に対する移民の貢献からの利益を上 出所:WDR 2023 チーム. 回るかもしれない.移民自身は利益を得るかもしれな 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満 いが,受け入れ国は正味では損失を経験し,それ故, たす度合いを指す. 受け入れ国はこのような移動を止めることに務める. 国際法,および保護の義務  国際法の下では,国家の領域に入るのを認められる人を選択することは主権にかかわる事項である.各国 は誰をどのような地位の下で入国させるかを決定する.このような決定は一方的に,あるいは,国際的な条 約,地域的な自由移動協定,ないしは二国間労働協約などの国家間の個別の協定を通じて行われうる.この 規範は,領事保護や外交的保護,国家責任法,国際的な人権法,国際難民法,労働に関する国際的な法律や 基準など,さまざまな情報源や法律分野から引き出されている.規範は,明確に区別される個々の移民グルー プに異なる仕方で適用され 2,また,国レベルでの実施状況は一様ではない.  人間の尊厳と権利が,1948 年の世界人権宣言,1951 年の難民の地位に関する条約,1967 年の難民の 地位に関する議定書(1951 年難民条約),ならびに,さまざまな補完的な法律文書などの国際法の核にある. 「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパク また,人間の尊厳と権利は鍵となる,2018 年の ト」,2018 年の「難民に関するグローバル・コンパクト」「労働における基本的原則及び権利に関する ILO , 宣言」「開発のための 2030 アジェンダ」 , と「誰一人取り残さない」というその持続可能な開発目標(SDG)の 中心的な約束を含む,国際的規範を支えている.移民を人として認めるというのは次のことを意味している. すなわち,このような規範は,移民が移動中であるのか,国境地帯にいるのか,あるいは移住先国にいるの かにかかわらず,移民に対して完全に適用される.ある一部の状況下にある女性や少女,LGBTQ+ の人た ち,同伴者のいない子供,そして人種主義・外国人嫌悪・その他の形態の差別の犠牲者などの,気を挫くよ うな挑戦課題に直面している人たちに対しては特に注意を払うべきである.  主権国家という世界では,すべての人々は市民権のある国の保護下にある.住んでいる所とは無関係に, そのような保護の下にある人の権利は市民権のある国によって,ないし市民権のある国と居住国の間の協定 を通じて保証されている.国家による保護は,政治哲学者のハンナ・アーレントによるよく知られている 1948 年の宣言のように,「権利を持つ権利」を保証している.しかし,例えば紛争や迫害の故に,ある一国 1 適合度と動機のマトリックス 27 が自国の市民の一部の権利を保護すること 図 1.3 本国[出身国]に帰国すると危害を受ける「十分に理由のある恐怖」があ る場合,移住先国はそのような人を受け入れる義務がある に消極的ないし保護することができない状 況が生じうる.  国際法はそのような人々を「難民」として 定義している.難民とは, [出身国] 仮に本国 移民: 国際的な保護の に戻ることになった場合に,危害を被ると 必要性は低い 移民の 移民の いう「十分に理由のある恐怖」を証明するこ 移住先国: 移住先国: とができる人たちのことである 3.難民の 移民を受け入 難民を受け れるか否かを 入れる義務が 地位は,1951 年の難民条約にならんで, 難民: 選択 ある 国際的な保護の 地域の難民法に関する文書によって保護さ 必要性は高い れている.社会経済的な脆弱性はこの難民 の定義には含まれていない.一部の難民は 裕福ではあるが,多くの場合,難民である 移住先国 本国における 動機 ことは経済的窮乏につながる.逆に,脆弱 における機会 恐怖 な状況にある大勢の人々は,物質的な援助 出所:WDR 2023 チーム. を必要としているかもしれないが,国際的 注:動機は当人が移住するに至った状況を指す――機会を求めて移動するのか,ある いは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十分に理由の な保護は必要としていない. ある恐怖」の故に移動するのか.  国際的な保護の核にあるのはノン・ル フールマンの原則である 4:難民を出身国ないし危害を被るリスクが有る別の国 [生命や自由が脅威にさら されるおそれのある国]に送還してはならない(図 1.3).この原則は受け入れ国にとってのコストとは無関 受け入れられている国で難民が享受できる一連の特別な権利を含んでいる. 係に適用される.国際的保護も, その権利は,本国 ないし別の国から市民または永住者として完全な保護を取り戻すまで維持される. [出身国] 適合度と動機のマトリックス  労働経済学と国際的保護の視点はまだ調和されてはいない.労働経済学は移住の経済学に関して洞察を提 示するものの,強制避難などのような,労働市場の諸力に従っていない移動を説明することに苦闘している. 一方,法的な保護が説くことは,難民の生活と尊厳を守ることに焦点を合わせており,難民の保護を継続し て支援するための有用な方法を扱っている.そして,受け入れ国における経済的および社会的な影響には十 分には取り組んでいない.  「適合度と動機のマトリックス 」 (行列)は,労働経済学が行う区別――受け入れ[移民の移住先]国に正味の 利益をもたらす移動と正味の損失をもたらす移動の間の区別――と国際法が行う区別――移民の行き先国が 移民を受け入れるか否かの裁量を有する状況と,移住先国に難民を収容する義務がある状況の間の区別―― を重ね合わせて統一的な枠組みを提示する. 4 種類の移動   は 4 種類の移動を以下の通り区分けしている 「適合度と動機のマトリックス」 (図 1.4):  移住先国で機会を求めており,当人のスキルや属性が移住先社会のニーズに高度に適合している人々―― 図 1.4 の上方左側象限.大幅に最も規模の大きいこのカテゴリーには,ほとんどの経済的移民とその家 族が含まれる.この移民のスキルはあらゆる水準でありうる――カリフォルニアのシリコン・バレーで働 いているインド人エンジニアもいれば,湾岸協力会議(GCC)加盟諸国で雇用されている南アジア人の建 設労働者もいる.このような移民には書類のない大勢の移民も含まれている.彼らはたとえ移住先国で法 的地位を持っていない場合でも,その人のスキルや属性は移住先国の労働市場の欠陥部分を埋めている. 28 世界開発報告 2023 図 1.4 「適合度と動機のマトリックス」は労働経済学と国際法の各視点を組み合わせて 4 種類の移動を区別 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い トルコに滞在している シリア人企業家の 行先国で需要のある 難民 大勢の 経済移民 スキルを有する 利益がコストを上回る 難民 適合度 エチオピアに 滞在している同伴者の いない未成年 コストが利益を上回る 難民 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 バングラデシュで 低い 働くことが許されていない ロヒンギャ(強制的に 故国を追われた アメリカの南部 ミャンマー人) 国境に滞在している 移住先国 本国における 動機 一部の低スキルの における機会 恐怖 移民 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. このような移住のすべてについて,労働経済学は,移民本人,移住者の本国,および移住先国に対して, 移住は正味で利益をもたらすことを示唆している.  出身国における迫害や深刻な危害の恐れから逃れようとしており,当人のスキルや属性が移住先社会の ニーズと高度に適合する人々――図 1.4 の上方右側象限.このグループは主に,移住先国で需要のあるス キルを有する難民で構成されている.理論物理学者のアルベルト・アインシュタインが代表例である.ア 第 2 次世界大戦中にヨーロッパから逃れる必要があり, インシュタインは, そして難民となった.今日では, パキスタンのアフガン人トラック運転手,あるいは東アフリカのソマリア人貿易業者に加えて,シリア, ベネズエラ,ないし,より最近ではウクライナを離れた大勢の専門職に就いている人がこのグループに属 する.国際法の下では,移住先国にはこのような人々を受け入れる義務があるが,これら諸国側もそのよ うな移民の存在から利益を得る.  本国における迫害や深刻な危害の恐怖から逃れつつあるものの,当人のスキルや属性と移住先社会のニー ズとの適合度が低い人々――図 1.4 の下方右側象限.紛争や迫害から逃れつつあるほとんどの人がこのグ ループに属する.公式な難民の地位を与えられる人もいれば,バングラデシュにいる強制退去させられた ミャンマー国民のようにそうではない人もいる.適合度が低いことは,同伴者がいない未成年者で,働く には若すぎる一方で支援を必要としている人のように,個人的な特徴を反映したものであろう.あるいは, 例えば,一部の人々に対して働くこと,したがって貢献することを許可しないというような政府政策の結 果かもしれない.このような人々に国際的な保護を提供することは重要であると同時に国際法の元での義 1 適合度と動機のマトリックス 29 図 1.5 移民が「適合度と動機のマトリックス」のどこに当てはまるかは,移住先国の政策が部分的に決定する 適合度の 高さは移住先国の 政策に依存 高い 行先国で需要のある 大勢の スキルを有する 経済移民 難民 適合度の 利益がコストを上回る 高さは移住先国の 政策に依存 適合度 コストが利益を上回る 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 国際的 低い 保護の程度は 移住先国の政策に 依存 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 務でもある.しかし,それは受け入れ国に正味の損失をもたらす.政策面での挑戦課題は,このコストを 管理することである.  移住先国で機会を求めているものの,当人のスキルや属性と移住先社会のニーズとの適合度が低い人々 ――図 1.4 の下方左側象限.このグループは典型的には,しばしば重大なリスクと苦難を伴う,困難な状 況での非正規な移動に従事している移民で構成されている.これには低・中所得の受け入れ国に加えて, アメリカの南部国境ないし地中海北部沿岸に到着している人々の一部が含まれている.彼らの存在は移住 先国に正味でコストを課し, 受け入れるか帰国させるかを決める裁量がある.このグルー 受け入れ国側に, プは政策面で最も複雑なトレードオフの一部を提起する. 移動の種類の間での流動性  移民が のどこに該当するかは,部分的には移住先国の政策によって左右され 「適合度と動機のマリックス」 る(図 1.5).例えば,移住先社会に貢献する移民の能力と,それに対応する適合度の高さは,移住先国の労 働市場における需要に加えて,移民のスキルや属性に依存している.しかし,それは移民が自分の資格に応 じた水準で働くことが許可されているかどうかにも左右される.例えば,自分の専門分野で働くことを認め られていない医学博士は――当人の資格が承認されていない,あるいはフォーマルな部門で働くことを完全 に禁止されているか,のいずれかによって――,医師として働ける場合に比べて貢献度が少なくなるであろ う.適合度の高さは移住先国における労働のニーズの変化や社会的な動態に基づいて経時的にも変移しうる.  同様に,移民が受ける国際的な保護の――および移民の存在がもたらす経済的利益にかかわりなく受け入 れられる――程度は,移住先国の政策に依存している.国際法の下での受け入れ国の義務を超えて,多くの 諸国は,人道的な理由から,入国あるいは領土内での滞在が許可されている特定グループに対して保護を提 30 世界開発報告 2023 図 1.6 「適合度と動機のマトリックス」は明確に区別される移民の各グループに対する政策の優先順位を 特定することに役立つ すべての人を 対象に利益を 最大化 高い 行先国で需要のある 大勢の スキルを有する 経済移民 難民 利益がコストを上回る 適合度 コストが利益を上回る 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 持続可能性の確保, 低い コストの分担 移動の 必要性を削減, 移民を受け入れ, 移住先国 本国における 動機 あるいは人道的に における機会 恐怖 帰国させる 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 供するための法的な枠組みを整備してきている. 政策の優先順位  移住政策は,個々の状況の細部に合わせて調整されたアプローチを採用することによって,移民,移民の 出身国,および移住先国にとっての国境を越える移動の成果を改善することに役立ちうる.労働経済学と国 際法から得られる洞察に基づいて,「適合度と動機のマトリックス」はすべての関係者グループに対して政策 の優先順位を特定する(図 1.6):  スキルや属性が移住先社会のニーズと高度に適合する人々:移民の出身国と移住先国の利益を最大化す る.移民や難民が移住先国で需要のあるスキルを持ち込む場合,移民の地位――書類があるか否か――に かかわらず,移住先国,移民の出身国,そして移民や難民自身にとって利益がコストを上回る.このことは, 動機についても,その種類――移民は機会を求めて到着したのか,あるいは迫害や暴力から逃げてきた難 民として到着したのか――に関係なく真である.移民の出身国と行き先国の双方にとっての挑戦課題は, 移住の利益をより一層増加させ,同時に移住のマイナス面に効果的に対処する措置を設計し,実施するこ とである.  迫害あるいは紛争という から逃れてきたものの,当人のスキルや属性の移住先社 「十分に理由のある恐怖」 会のニーズとの適合度が低い人々:持続可能性を確保しコストを分担する.そのような移民のスキルや属 1 適合度と動機のマトリックス 31 図 1.7 各国にとっての挑戦課題は,移民の適合度を改善し苦難の中での移動を削減することである 高い 行先国で需要のある 大勢の スキルを有する 経済移民 難民 適合度 適合度を 適合度を 高める 高める 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 保護を拡大 する 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.下方左象限の垂直点線は困窮移民のうち国際的な保護を必要としている人とそ うでない人の区別を強調している. 性の適合度が低い場合,受け入れ国にとって,社会経済的なコストは利益を上回るかもしれない.そうで はあるものの,難民を受け入れる義務が存在する.受け入れ国にとっての挑戦課題は,コストの削減を可 能にする政策を採用することである.国際社会にとっての挑戦課題は,難民保護はグローバルな責任であ ることから,十分な責任の共有を確保することである.  移住先国において機会を求めているものの,移住先国のニーズに対する当人のスキルや属性の適合度が低 い人たち:受け入れるか,あるいは困窮移民を人道的に帰国させる.移住先国においてスキルの適合度が 低く,難民としての保護を受ける権利がない人々については,移住先国は困難なトレードオフに直面する. これらの移民を受け入れることは経済的および社会的な負担を伴っており,しかし,そのような人たち [そのような移民の] の入国を拒否することはそれらの人々の基本的な人権を危険にさらす可能性がある. 移住先国は,そのような移民を当人の本国へ送り返すことを決断することもある.しかし,移住先国とし ては,このような移民のなかには保護を必要としている者もいる――例えば,仮にギャングの暴行から 逃れている場合――ということを認識し,そしてそのような移民に,状況に応じて対処するべきでもある. いずれにしても,そのような移民たちは人道的に処遇されるべきである. 移住を改善する  経時的には,挑戦課題は,すべて――移住先[受け入れ]社会,移民の出身社会,そして移民自身――が利 益を得ることができるように,移住の開発成果を強化することである.あらゆる所得水準の諸国において, 移住がますます必要になっている世界の中で,移住を改善することは,次の 2 つの補完的な側面で進展し 続けることを必要としている(図 1.7). 32 世界開発報告 2023  すべての移民のスキルや属性と移住先社会のニーズとの適合度を高める.移住の利益――移民にとってだ けでなく,移民の出身社会と移住先社会の双方にとって――は,移民が移住先社会により多くの貢献をす ることが可能であり,移民がより高い賃金を稼得することができ,そしてより多くの送金(及び知識移転) を移住者の出身国に対して行うことができる場合に,著しくより大きくなる.これらのすべては,要求に 見合うスキル――すべての水準で――と属性を有する移民の入国のための合法的な経路を提供すること と,そのような移民の公式な労働市場への従事を可能にすることの両方を必要とする.それは,世界と国 内の両方の労働市場の必要を満たすために移民の本国において,および高いスキルを有する人の移住(頭 脳流出)の悪影響を緩和することに向けた過程において,スキルを構築することによって補完できるかも しれない.これらは,国際的な支援を必要とすることもあるだろう.スキルの適合度の改善を達成するこ とは,多くの場合に,受け入れ国と移民の出身国の間の協調を必要とする.  苦難の中での移動の必要性を削減する.そのような移動はしばしば,移民自身にとっての相当な苦難を 伴っている.非正規な移動はトラウマ的な苦しい体験に転換しうる.到着するとすぐに,移民は労働力 への参加について難題に直面する.というのは,そのような移民のスキルは移住先社会のニーズに合致し ておらず,多くの場合に深刻な脆弱性を伴う立場にあるからだ.多くの国において,困窮[困難な状況で の]移動は移住に関する論議を分極化してきている.そのような移動の必要性を削減することは,移民の 本国において人々の強靭性を強化すること,移住先の労働市場における需要との適合度を改善できるよう に移民のスキルを向上させること,それに,そのような移民の一部は補完的な様式の保護を必要としてい ることを認識すること,を要請する. 注 1. World Bank (2018). 通過国,および移住先国の出入国を統治している国際 2. 正規の移住は移民の出身国,通過国,および移住先国 的な協定の枠外で行われる人の移動である. の法律を順守して行われる人の移動である.非正規な 3. OHCHR (1951, art. 1). (irregular)移住は,法律,規則,あるいは移民の本国, 4. OHCHR (1951, art. 33). 参考文献 OHCHR (Office of the United Nations High Commis- .ohchr.org/en/instruments-mechanisms/instruments sioner for Human Rights). 1951. “Convention Relating /convention-relating-status-refugees. to the Status of Refugees.” Adopted July 28, 1951, by World Bank. 2018. Moving for Prosperity: Global Migration the United Nations Conference of Plenipotentiaries on and Labor Markets. Policy Research Report. Washing- the Status of Refugees and Stateless Persons Convened ton, DC: World Bank. under General Assembly Resolution 429 (V) of Decem- ber 14, 1950. OHCHR, Geneva. https://www 25 39 57 14 33 スポットライト1 歴史 33 82 76 46  移動性の歴史は人類の物語である――多様な集団がアフリカの揺籃の地を出て,徐々に大陸全体に拡がっ ていった 1.それは諸集団の間での接触と交流の,そして住民の分裂と融合の物語であり,そのようなことが, 明確に異なる民族性,言葉,および文化の出現に帰結し 2,今日の世界を形成した.移動性は多くの場合に, 経済的および社会的な進歩を牽引してきている――例えば,考えや技術の伝達を可能にすることによって 3. しかし時には,多大な苦しみももたらしている.このような移動の主な要因は日々のニュースに触れている 人や歴史を学んでいる学生によく知られていることである:より良い生活に向けた欲望や,迫害ないし危害 に対する恐怖.  今日における,国境を越えて移動できるという人々の能力は,どのようなパスポートを持っているかや, どのようなスキルを持っているかに応じて著しく異なる.移動は一部の人々(高所得国の市民や高いスキル を持つ労働者など)にとっては容易になりつつあるが,他の人々(低所得国からの移民や非正規の移民など) にとっては制限が厳しくなりつつある 4.移住に関わる論議の分極化は,グローバル化に対する広範な反動 の一部である.同様の傾向は 19 世紀末に向けて西側世界で広まり,第 1 次世界大戦の前段階において,同 じような反グローバル化の感情と,国境をまたぐ移動や貿易に対する障壁の強化につながった 5.にもかか わらず,しばしば「正常な」状況と思われているもの――越境的な移動性とその管理方法に関する現行の理解 ――は歴史のなかではほんの一瞬でしかない. 適合:経済的および政治的な考察  記録されている歴史上のほとんどにおいて,移住は許されていただけでなく,多くの場合に奨励されてい た 6.支配者の力はしばしば臣民の人数で測られた.しかし,臣民を引き付けることは難題であった.1453 [オスマントルコ帝国の第 7 代スルタン] 年にコンスタンティノープルを占拠した後,メフメト 2 世 は,帝国 全体から人々を引き寄せ,市内で捕われていた囚人を釈放することによって,人口の増加に努めた 7.その 息子のバヤズイト 2 世は,1492 年のアルハンブラ法令の後,スペインから追放されたセファルディムの ユダヤ人を招き,定住させた.1857 年になってから,オスマントルコのスルタンは,臣下になり,そして オスマン帝国の法律を順守することに同意する者は誰でも移入を許可する,という政令を発布した.この政 令はヨーロッパの新聞に広く発表され,支配者は,市民権,宗教の自由,税の譲許,牛・農地区画の無償供 与,一時的な財政援助の保証によって新来者を誘惑した 8.  国民国家の発展に伴って,越境移動を規制するために制度が整備されていった.その取り決めは,有力な 支配者あるいは民主的多数派の利害を反映しており,経済,社会,および文化に関する考慮を混交したもの に基づいていた 9.このような制度は,地域や国について横断的には非常に多様であったことと,状況の変 化に合わせて常に調整されていた点で,際立っていた 10.  一部の諸国は外国のあらゆる影響から自国を遮断し,移住や短期訪問でさえ制限した.移住に対するこ –  のようなアプローチは,1630  1850 年にかけて日本において徳川将軍の鎖国政策の下で支配的であった. そして,この政策は日本の文化と歴史に永続的な影響をもたらした 11.同様に,李氏朝鮮の下で朝鮮人は, 中国ないし日本を外交使節として訪問する場合を除き海外旅行が禁止されていた.中国と日本を相手とする 34 世界開発報告 2023 若干の貿易は認められていたが,同国はそれ以外の部外者には閉じられていた 12. アメリカのような諸国は昔から長きにわたって自らを移民の国と規定している.  他の地域では, ニューヨー 「疲れ果て,貧しさにあ ク港にある自由の女神像の台座に貼り付けられた板には次のように刻まれている: えぎ,自由の息吹を求める群衆を,私に与えたまえ.人生の高波に揉まれ,拒まれ続ける哀れな人々を…」. にもかかわらず,開放のレベルは経済状況と国民ないし人種主義の偏見の両方を反映して,時とともに大き く変動してきている.アメリカでは,初期の移民流入は一握りのヨーロッパ諸国からであった.それは典型 的には民間企業を通じて行われ,政府の介入はほとんどなかった.19 世紀になってアメリカが拡大するの に伴って,労働の必要性と利用可能な機会が劇的に増加し,一方で,ヨーロッパの一部では政治,経済,そ –  して社会が混乱状態に陥った.1820  50 年の間にアメリカへの移住が 200 倍に激増した.当初の移住者 の出身国は主にアイルランドとドイツであり,後にはイタリアや,中欧,東欧,北欧の出身者が移住した. しかし,このような流入に関しては論争がなかったわけではなく,19 世紀と 20 世紀初期を通じて,先住 民保護主義[排外主義]運動が興った 13.それに対応して,アメリカの連邦政府は流れを制限することに努め た.1882 年に中国人排斥法が制定されたのを受けて,アジア人の移住が減らされた.1917 年には特にヨー ロッパからの移民に対して,低スキル移民を抑制するためにリテラシーに関する要件が導入された 14.次い で 1924 年に,移民法を通じて政府は国別割当を課した 15.1965 年ハート = セラー法の制定によってア メリカは,[国別割当を撤廃し,]大規模な移住に対応した.この法律は,公民権運動の副産物であり,また リンドン・B・ジョンソン大統領の「偉大な社会」というプログラムの不可欠な部分であった.人種に基づく 割当は,家族関係やスキルに基づく優遇カテゴリーによって置き換えられた.次第に,アジア,ラテンアメ リカ,そしてアフリカからの移民がより一般的になった.今日,中央および南アメリカからの,低スキルで, ほとんどが書類をもたない移民を巡る政治的な論争が非正規移民の抑制を目指す政策の継続につながってい ることから,激しい状態で論議が続いている.  多くのヨーロッパ諸国は,同様の相対的な開放と制限の時期を経験してきている.近代以前のヨーロッパ では,国境や入国移民の管理は通例ではなく,むしろ例外であった.イギリスは移民を制限する外国人法を 導入した――1793 年に――最初の国であった 16.そうではあったが,移動性は,大陸全体でほとんど妨 げがない状態が続き,1914 年までは,人々は比較的容易に国境を越えて移動し,そして定住することがで きた 17.管理を行う制度は第 1 次世界大戦の発生によって初めて導入された――最初は国家安全保障の配 慮から,後には大恐慌時代における保護主義的な努力の一環として,さらにその後になると,第 2 次世界 大戦の期間,および大戦後における難民の大規模な移動に対処するためであった.このような歴史がヨーロッ パ大陸の人間の地理を作り変えた 18.西ヨーロッパの復興に向けた努力と,それに続くほぼ 30 年間にわた る急速な経済の成長は,労働に対する需要の急増につながった.ヨーロッパ内外から人々を引き付けるため に,当初は一時的という条件でいくつかの [外国人労働者] 「ゲスト・ワーカー」 プログラムが整備された.同 時期に,政治情勢――冷戦と脱植民地化プロセス――が退去させられた人たちの流入を生み出し,そのよう –  な人たちは受け入れ国によって急速に吸収された.しかし,このような開放的な政策は 1973  74 年の石 油ショックとそれに伴う経済不況によって終わりを迎えた 19.  今日,ヨーロッパ内では,新規の移民の約半数は就労ビザで入国しており,残りの半数はその家族,学 生,あるいは亡命希望者である――そしてその中には,書類を持っていない人もいる 20.そのような人た ちの統合は一様ではなく,特に経済が停滞し,政治が分極化している国においては,ますます議論の余地 のあるものとなっている.EU の領域の外からの移住は削減されたが,領域の内側での移動は奨励されてお り,1985 年のシェンゲン協定と EU の拡大を受けて,急速に増加している 21.このパターン――促進さ れている移動もあれば,制限されている移動もある――は,移住政策の策定において作用している 2 つの力, すなわち経済諸力と政治的考慮を例示している.  ペルシャ湾岸諸国では大きく異なるパターンが広範にみられる.湾岸協力会議(GCC)に加盟している石 油産出国においては,移民は 1960 年における 24 万 1,000 人から 2020 年には 3,000 万人強へと劇的 に増加した 22.ペルシャ湾の沿岸には永続する交易所の長い歴史があり,そして,イギリスの植民地支配 歴史 35 下で南アジア人の少しずつの動きがあったものの,主に石油ブームとそれに伴う投資の拡大を理由として, 移住は 1970 年代以降加速した.湾岸諸国政府は大勢の移民労働者を臨時という条件で引き付けるために, –  さまざまな移民出身国と契約取り決めを整備している.わずか 20  30 年の間に,湾岸地域は転換され,移 民は経済にとって不可欠となった 23.2020 年までに,移民はこの地域全体の総人口の約半分を占めるよ うになり,その割合は,カタールでは 80%強,そして UAE では 90%強となっている 24.  移住のパターンは世界の他の地域,特に低所得国では異なっている.しかし,そのような国々は,経済的 および政治的な考慮事項の組み合わさりから依然として大きな影響を受けている 25.一部の南々移民[開発 ハ ブ 途上国から開発途上国への移住]はより良い仕事を見付けることを期待して地域経済の中心地――アンゴラ や,ブラジル,チリ,マレーシア,メキシコ,南アフリカ,タイなど――に移住している 26.このような 移動は臨時的でも恒久的でもありうる.民族あるいは文化の相違ではなく,アフリカにおけるように植民地 時代の行政区画という遺産に対応した境界を越える,他の形式の移動も生じている.南アフリカなどの一部 の状況では,移住は社会的な緊張,排斥,そして暴行事件などにさえつながってきている 27.他の諸国で は移民の入国が奨励されている.例えば,旧ソ連の住民は現ロシア連邦への移住を奨励されている 28.こ こでも再び,移住のパターンは経済諸力と政治的考慮事項の組み合わせを反映している. 動機:国際的な難民保護という考え  第 1 次世界大戦まで,戦争や迫害から逃れようとしている人々は,国際的に関心を持つべき問題とは考 えられていなかった.そうではなく,そのような人たちは一般的には,問題が生じた時に影響を受ける諸国 とその同盟国によって,その場しのぎ的に対処されていた 29.伝統的には国家が国際法の唯一の対象者で あることから,個人は他の国との関係で自分を「保護する」ためには――例えば,海外旅行のための書類や, 外国との紛争における代弁,その他の形態の外交的な保護などを通じて――自らの国籍のある国を頼りにす る必要があった.しかし,本国から追放された,ないし退去させられた,法律上あるいは事実上という意味 で国籍を失っている個人は,出身国が諸外国との関係で自国の保護義務を果たすことに頼ることはできな かった.このような人たちは代わりになる主体からの保護を必要とした 30.  国際的な保護に向けた最初の法的枠組みはロシア革命後の余波の中でフリチョフ・ナンセンによって策定 された.有名な北極探検家で外交官だったナンセン –  (1861  1930 年)は,1921 年に,国際連盟の難民高 等弁務官に任命された.その使命は約 200 万人のロシア人難民の再定住を確保することであった.避難し た国で法的な地位を持っていないことから,難民は他国へ行くことができなかった.というのは,それらの 人々はソビエト連邦から旅行書類を入手することができなかったからだ.このことに対応して,ナンセンは 後に「ナンセン・パスポート」として知られることになる国際的旅行書類の制度を考案した.それはやがて, ギリシャや,ブルガリア,トルコ,アルメニアの難民を含む,「国際的な懸念事項」と考えられる危機から逃 れている人から成る他のグループに拡張された 31.ナンセン・パスポートはその所有者に法的地位と一種 の国際的保護の両方を提供し,その所有者が仕事を求めて越境することを可能にした.それは約 45 万人の 難民に対して発行され,50 カ国以上の政府によって承認された.  このアプローチは第 2 次世界大戦後,避難の新しいパターンに合わせて調整するために変更された.国 際連合難民高等弁務官事務所が,国際的な保護と難民問題の解決という二重の任務を担って創設された.そ 「1951 年難民の地位に関する条約」 して国際的な基準が, 及び「1967 年難民の地位に関する議定書」の中で 成文化された 32.このような法律文書の下で,難民は,迫害を受ける恐れがあるという,十分に理由のあ る恐怖 33 に対して,当人の国籍国が保護を提供できない,ないしその意志がないことを理由として自分の 国籍がある国の外にいる人々として定義されている.このような個人に与えられている国際的な難民保護に は,調印国が提供を公約している個別の権利のリストが含まれている.そのなかにはノン・ルフールマンの 原則があり,次のように述べている.各国は難民ないし亡命希望者を,人種,宗教,国籍,特定社会集団の 構成員であること,あるいは政治的意見などを理由として生命または自由が脅威にさらされるおそれのある 36 世界開発報告 2023 国ないし領域に強制的に送還ないし追放してはならない 34.難民保護体制は国際的な責任の共有という考 えに基づいている.たとえそうであっても,集団行動に向けた義務的な仕組みは存在しない――それは今日 の多くの挑戦課題の根源にある 1 つの欠陥である.  難民にかかわる国際的な構成は状況の変化――植民地独立化の余波から冷戦の終焉を経て,脆弱性の新た な形態の出現に至るまで――に適応し続けてきている.難民の定義はアフリカ(1969 年の「アフリカにおけ (OAU) る難民問題の特殊な側面を規律するアフリカ統一機構 難民条約」) (1984 年の やラテンアメリカ 「カ ルタヘナ難民宣言」)において,これらの 2 つの地域に固有な状況を反映させるために,地域的な法律文書 を通じて拡大されてきている.EU やアメリカなどの他の地域や諸国は,伝統的な難民の基準を満たさない 特定の集団や個人に対して,保護の補完的な形式を提供する取り決めを開発してきている.ベネズエラから の脱出という最近の人々の移動は,誰が「難民」としての資格を持っているのか,ないしは「国際的な保護の 必要がある」のかに関して,新たな疑問を提起している.誰が国際的な保護を与えられる――そして社会の 労働需要とは無関係に受け入れられる――べきかは絶え間なく変化する問題であり,多くの国で公開討論を 引き起こしている. 注 1. 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Eurostat (2022). いた国に帰ることができない者またはそのような恐怖 21. Castles (1986); Kennedy (2022); Stalker (2002); Van Mol を有するために当該常居所を有していた国に帰るこ and de Valk (2016). とを 望まない者. [出典:https://www.unhcr.org/jp/ 22. 1960–2000 data: DataBank: Global Bilateral Migration, treaty_1951]」(OHCHR 1951, articles 1.A and 1.A.2). World Bank, Washington, DC, https://databank. 34. OHCHR (1951, article 33). worldbank.org/databases/migration; 2010–20 data: International Migrant Stock (dashboard), Population 歴史 37 参考文献 Aleinikoff, T. Alexander, and Leah Zamore. 2019. The Economy, edited by Claudia Goldin and Gary D. Libe- Arc of Protection: Reforming the International Refugee cap, 223–58. National Bureau of Economic Research Regime. Stanford Briefs Series. Stanford, CA: Stanford Project Report Series. Cambridge, MA: National University Press. Bureau of Economic Research; Chicago: University of Armitage, Simon J., Sabah A. Jasim, Anthony E. Marks, Chicago Press. Adrian G. Parker, Vitaly I. 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Press. 39 あらゆる所得水準の諸国にとって 移住はより一層必要になりつつある  パート 1 は,越境移動が起きており,そして移住政策が設計および実施されている状況についての概観 である.人々は文化が生じたもっとも初期の頃から,さまざまな場所へ移動してきている.このような移住 は今後数十年間にわたって続くと予想されている.  第 2 章は,移動に関する鍵となる数字とパターンの総合的な視点を提供している.越境移動は,各国間 における所得や福祉の大規模な格差のようなグローバルな不均衡や,紛争などのショックに対する対応であ る.この章ではグローバルおよび地域の両方のレベルでの現在のトレンドを検討し,多くの経済的移住者と 難民が低・中所得国で生活していることを指摘する.また,経済的な切望によって引き起こされている移動 と,移民の本国における当人の生命に対する恐怖を動機とする移動という両方の越境移動に関するいくつか の鍵となる特性についての証拠も検討する.  第 3 章では,先行きについて考える.特に,移動の動因を劇的に変える可能性のある 2 つの極めて重要 な問題を取り上げる.第 1 に,人口構成の変化――中・高所得国の両方における急速な高齢化を含む―― はグローバルな労働市場において大きなミスマッチを生み出しつつあり,移住はこの問題への取り組みを支 援することができる.第 2 に,気候変動が移動の追加的な動因として重要になりつつある.これまでのところ, 気候関連災害の結果としての状況から逃れるために,人々は主に国内で移動している.しかし,仮に気候に 関する行動が緊急に取られないならば,その結果として,続いて無秩序な国際的移動が発生する可能性があ る.  2 つのスポットライトが,この背景となる議論を補完している.スポットライト 2 では,入手可能なデー タの挑戦課題と限界,およびこの分野における取り組みを劇的に増やす必要があることが検討されている. スポットライト 3 では越境移動が移民,難民,および移民の出身国と移住先の社会に及ぼす影響を明らか にする際に研究者や実務家が直面する方法論上の挑戦課題の一部が提示される.  全体として,移住を巡る論議は文脈のなかで行われるべきであり,そして今日の世界を形作っている不均 衡とそれが辿る可能性のある進展の仕方を認めるべきである.そのことに対応して生じる圧力の一部を削減 するのを支援するために各国が移住を可能にするのか否かが,あらゆる所得水準の国において,経済的およ び社会的な軌道を大体において決定するであろう. 2 41 数字 誰が,どこへ,なぜ移動するのかを 理解する 重要なメッセージ  移住というのは福利における相違などの長期にわたるグローバルな不均衡に対応する過程にある人や,紛 争などのショックに適応する過程にある人によって使われる行動体系である.  約 1 億 8,400 万人が自らの国籍国の外側に住んでおり,その約 20%は難民である.移動パターンは移 民の動機に基づいて異なる(図 2.1).  移民と難民はあらゆる所得水準の諸国に住んでいる:43%は低・中所得国,40%は OECD に加盟して いる高所得国,17%は湾岸協力会議 加盟国に住んでいる. (GCC)  移民の出身国と移住先国の間を分ける単純な二分法はない.あらゆる所得水準において多くの諸国が同時 に移民の出身国でもあり,移住先国でもある. 図 2.1 移動のパターンは明確に区別される適合と動機を反映している 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い トルコに滞在している シリア人企業家の 行先国で需要のある 難民 大勢の 経済移民 スキルを有する 利益がコストを上回る 難民 適合度 エチオピアに 滞在している同伴者の いない未成年 コストが利益を上回る 難民 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 バングラデシュで 低い 働くことが許されていない ロヒンギャ(強制的に 故国を追われた アメリカの南部 ミャンマー人) 国境に滞在している 移住先国 本国における 動機 一部の低スキルの における機会 恐怖 移民 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 42 世界開発報告 2023 現在のトレンド  本報告書は,より良い経済機会を探して移動した,あるいは紛争ないし迫害によって退去を強いられたこ とによって自分の国籍国の外側で生活している人々に焦点を合わせている.そういった人々が世界全体では 約 1 億 8,400 万人存在し,世界人口の 2.3%を占めている.そして,そのうちの 3,700 万人が難民である. そのような人たちが住んでいる諸国は,所得水準別グループのすべてにわたっている(図 2.2).  低・中所得国.このような諸国に住んでいる 図 2.2 移民および難民の大きな割合が低・中所得国に 居住している 移民と難民は合計で約 7,900 万人であり, その中の一部は,仕事の機会,家族,あるい は,書類のない状況を含む,さまざまな状況 17% 民, 下で,その他の理由で移動した(しかし,多 移 経 済 済 経 くの国において詳細なデータは存在しない). 移 GCC 民 また,これには約 2,700 万人の難民も含ま ,2 加盟国, 17% 8% れている 1.ほとんどの低・中所得国では移 民が人口に占める割合は比較的小さいが,コ 低所得および ロンビアや,コートジボワール,ジブチ,ガ 中所得国, 43% ボン,ヨルダン,レバノンなどのような例外 高所得国, もある.移民のなかには移住先国で最終的に 40% 経済 市民権を獲得する者もいる. 5%  高所得の OECD 加盟国. このような諸国に 難 民 ,1 % ,3 民 難 5 住んでいる合計で 7,400 万人の移民および , 難民には,書類のない移民に加えて,高いス 難民 5% キルを持つ労働者,低いスキルを持つ労働者, そして学生ビザの移民が含まれている.配偶 出 所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, 者,両親,あるいは子供などの家族との再会 DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. が正規移民の大きな割合を占めており,EU (湾岸協力会議) 注:高所得国は GCC 諸国を除く. 内におけるその値は約 35%である 2.この ような移民のなかには,他の EU 加盟国に住 (EU national) んでいる 1,100 万人の EU 加盟国人 やアメリカに住んでいる 1,360 万人のグリーン・カー ド保有者のように,広範な居住権を持っている人もいる.さらに,このような人々のなかで,1,000 万 人は国際的な保護を受けている難民である.高所得の OECD 加盟国に移住した移民の一部は一時的な滞 在であり,定住を意図している人もいる.多くの人は最終的には帰化している――OECD に加盟してい (本報告書では,このような人たちは移民とは る高所得国の全体では,約 6,200 万人が帰化市民である 考えられていない).  GCC 諸国.GCC 諸国に住んでいるおよそ 3,100 万人の移民のなかで,ほぼ全員が一時的な地位であり, 典型的には更新可能な複数年就労ビザを持っている.高スキル労働者と低スキル労働者の両方が含まれて いる.家族を同伴できるのは高いスキルを有する移民だけである.GCC 諸国は大勢の難民を受け入れて はいない.全体として,移民は GCC 人口の約半分を構成している――サウジアラビアを除けば,その値 は約 79%に達する . (ボックス 2.1)  移民に関して,移民の出身国と移住先国の間には明確な区別はない.実際に,ほとんどの諸国は,同時 に,両方である.例えば,イギリスは 350 万人の入国移民にとっての本国 [現在住んでいるところ] (home) であり 3,しかし,470 万人の出国移民の出身国 (origin)でもある.所得水準がより低い国として,ナイ 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 43 ジェリアは約 130 万人の入国移民にとっての本国(home)であると同時に,170 万人の出国移民の出身国 でもある.トルコ人の多くがヨーロッパに離散している経済移民であり,しかし,350 万人のシリア難民 と 200 万人を超えるその他の移民を受け入れている.このような社会の各々は,入国してくる人々と出国 して行く人々の両方の状態に対処するための最適な政策の組み合わせを必要としている. ボックス 2.1 本報告書における移住のデータ  本報告書のデータや数字は,特記がない場合は,WDR2023 Migration Database に基づいている a.このデー タベースは各々の移住先国の国勢調査によって作成された二国間移住データから構築されている.COVID-19 に伴う制限によって,ほんの一握りの高所得国のみが,2020 年に 10 年毎の国勢調査ないし全国調査を何と かして実施した b.ノルウェー,スイス,およびイギリスに加えて,EU 加盟国のデータは EU の労働力調査 に基づいている c. (UN DESA) 他のすべての諸国のデータは国際連合経済社会局 「国際移民ストック」 人口部の の推定値から得ている d.このようなデータのほとんどは出生国とは違う国に住んでいる人を移民と見なす という定義に基づいている.本報告書の目的のために,そのようなデータはさまざまな情報源や推定値から 入手した市民権のデータを用いて補正されている e.難民のデータは UNHCR の難民人口統計データベース (Refugee Population Statistics Database)に基づいており,2022 年の年央時点の難民,亡命希望者,および 国際的な保護の必要があるとして UNHCR によって定義されたその他の人を含んでいる f. a. WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. b. オーストラリア,カナダ,チリ,およびアメリカが含まれる. c. “European Union Labour Force Survey (EU-LFS),” Eurostat, European Commission, Luxembourg, https://ec.europa. /­ eu​ eurostat/web/microdata/european-union-labour-force-survey. International Migrant Stock (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United d.  Nations, New York, https://www.un.org/development/desa/pd/content/international-migrant-stock. WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. e.  f. Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. unhcr.org/refugee-statistics/. 経時的な変化  移住のパターンに関する歴史的なデータは入手不可能である.わかっているのは,外国生まれの人々(移 民と帰化市民の両方) –  の割合は 1960 年以降,世界人口の 2.7  3.5%の間で変動してきているということで ある 4.しかし,この数字の外見上の安定性はいくらか誤解を招きやすい.というのは,世界全体では,人 –  口の増加は 1960 年以降,非常に不均一であるからだ.世界の総人口は 1960  2020 年の間に約 156%増 加したが,高所得国の伸びはわずか 58%であり,一方で中所得国では 177%,低所得国では 383%増加し た 5.その結果,移住のトレンドは所得による国のグループごとに相当に異なっている . (図 2.3 および 2.4)  所得水準や人口構成が辿る軌道が時間の経過とともに変化するのに伴って,移住の流れの方向も変化する. 移民の重要な出身地となる,あるいは受け入れ地となる国または地域もあれば,重要ではなくなる国あるい は地域もある.例えば,1 世紀前のヨーロッパからラテンアメリカへの大規模な移動は今日ではもはや起き ていない.GCC 諸国への移住は 60 年前にはほとんど存在していなかったが,今日,これら諸国はいくつ かの最大の移住回廊の行き先になっている.一方,かつて移民の出身国であったアイルランドとイタリアは 移民受け入れ国になっている.  越境移動は相当な数の回廊にわたってより一層分散されつつある.1970 年には,わずか 150 の回廊 が――移民の出身国と移住先国の可能な 4 万個のペアの中で――,世界全体の移住の 65%を占めていた. 2020 年までに,この割合は 50%に低下した.現在の主要な回廊に含まれているのは,メキシコからアメ リカへ;インドから UAE とサウジアラビアへ;インドと中国からアメリカへ;カザフスタンからロシアへと, 44 世界開発報告 2023 図 2.3 1960 年以降,低所得国の人口に占める出国 図 2.4 1960 年以降,高所得国の人口に占める入国移 移民の割合はほぼ倍増した 民および帰化市民の割合は 3 倍に増加した 出国移民が総人口に占める割合;所得による国のグルー 外国生まれの人が総人口に占める割合;所得による国のグ プ別,1960, 1990, 2020 年 ループ別,1960, 1990, 2020 年 6 15 出国移民が人口に占める割合 入国移民が人口に占める割合 4 10 2 5 (%) (%) 0 0 低所得国 中所得国 高所得国 低所得国 中所得国 高所得国 1960 1990 2020 1960 1990 2020 出 所:WDR2023 Migration Database, World Bank, 出 所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023​ / Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023​ / data; population, 1960–2020: Population Estimates and data; population, 1960–2020: Population Estimates and Projections (database), World Bank, Washington, DC, https:// Projections (database), World Bank, Washington, DC, https:// datacatalog.worldbank.org/dataset/population​ -estimates- datacatalog.worldbank.org/dataset/population​ -estimates- and-projections. and-projections. 注:1960 年と 1990 年のデータについては世界銀行の 2020 注:1960 年と 1990 年のデータについては世界銀行の 2020 年の所得水準別の国のグループを利用 (Serajuddin and 年の所得水準別の国のグループを利用 (Serajuddin and Hamadeh 2020). Hamadeh 2020). ロシアからカザフスタンへ;バングラデシュからインドへ;そしてフィリピンからアメリカへ向かう,とい う回廊である.追加的に大きな回廊は,それぞれ,シリアとトルコ,ベネズエラとコロンビア,ウクライナ とポーランドの間におけるような主要な強制退去にかかわる状況と関連がある. 移民の出身(origin)国  出国移民(emigrant)について最大の割合 6 を占めているのは中所得国である.このような[中所得国か らの]移民は典型的には本国において最貧層にも最富裕層にも属しておらず,移動の費用を負担する経済力 があり,そして移動する動機がある.紛争や迫害という状況にある場合でも,グループ全体が暴力の標的に なっている場合などの例外はあるものの,より多くの資力を持つ人が最初に離国する傾向がある.  出国移民が人口の大きな割合を占めている国もある.多くの小島嶼開発途上国では,出国移民が当該国の 人口の 25%を大きく上回っている.多数の中央・東ヨーロッパ諸国も出国移民の割合が比較的高く,典型 的には 15%を超えている(それら諸国の市民が西ヨーロッパ諸国へアクセスするのは容易である).アフガ ニスタン,中央アフリカ共和国,ソマリア,南スーダン,シリア,ウクライナ,およびベネズエラでは,難 民が[難民の]本国の総人口に占める割合も高い(地図 2.1).全諸国を含めると,人口に占める出国移住者の 割合の中央値は 7%である. (destination) 移民の行き先 国  すべての所得レベルの国において,入国移民 7 は世界全体にわたって分散している. (immigrant) (移住 者の数で)主要な移住先国としては,アメリカ,サウジアラビア,アラブ首長国連邦,ドイツ,そしてフラ ンスがある.オーストラリアや,カナダ,イギリスなどの他の諸国では,経時的にみると大勢の移民が帰化 してきている. (地図 2.2)  入国移民が受け入れ国の人口に占める割合はさまざまである .割合が最も高いのは GCC 諸国 である――UAE では 88%.また,OECD に加盟している高所得国の多くにおいても,その値は著しく高 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 45 地図 2.1 ほとんどの国において,他国に移住した人が人口に占める割合はごく小さい 出身国の総人口に占める海外在住者の割合;2020 年 割合(%) 100 30 20 10 5 1 0 データ無し IBRD 47145 | MARCH 2023 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 地図 2.2 入国移民は,あらゆる所得水準の国で,世界全体にわたって存在している 移住先国の総人口に占める入国移民の割合;2020 年 割合(%) 100 30 20 10 5 1 0 データ無し IBRD 47144 | MARCH 2023 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 46 世界開発報告 2023 く, –  典型的には 5  15%である.移住の一部は地域内で生じており,コスタリカ,コートジボワール,ガボン, カザフスタン,マレーシア,あるいはシンガポールなど,当人の近隣国より相対的に裕福な国に向かってい る.入国移民の割合は, ジブチ, ベリーズや, セイシェルなどの人口が少ない諸国の一部でも大きい.最後に, 難民が受け入れ国の人口に占める割合は典型的には 1%未満で小さいものの,これには例外もある.例えば, 2022 年半ば時点で,レバノンでは 6 人に 1 人,ヨルダンでは 16 人に 1 人,コロンビアでは 21 人に 1 人が難民であった 8. 地域的な観点 (図 2.5)  移動のパターンは地域ごとに大きく異なっている :  東アジア・大平洋地域では,入国移民はオーストラリアやニュージーランドなどの高所得国を除いて,限 定的な状態が続いている.この地域の出国移民は,この地域内と,北アメリカや GCC 諸国などの域外の 両方を含め,さまざまな移住先国に向かっている.  高所得のヨーロッパ諸国は,約 4,300 万人の移民にとっての本国 [その時点で住んでいるところ] (home) であり,そのなかの 800 万人は難民である.そのような移民は圧倒的に他のヨーロッパ諸国からの移民 である(56%) (13%) .他の地域からの移民は少なく,主に中東・北アフリカ ,ラテンアメリカ(9%), サハラ以南アフリカ(8%)から移住している.出国移民は主に他の高所得のヨーロッパ諸国と北アメリカ に向かっている.  他のヨーロッパと中央アジアの諸国では,移動は主に域内で生じており,合計では約 1,400 万人の入国 移民が存在している.このような移動は少数の回廊が中心となっており,それには旧ソ連の一部であった 諸国とつながっている回廊も含まれている.この地域から移動する人の一部は高所得のヨーロッパ諸国に (約 1,100 万人) も移住している .  ラテンアメリカ・カリブでは,次の 2 つの主要なトレンドが明白である.第 1 に,比較的大規模な移動 がこの地域内で発生しており(約 1,070 万人),これにはベネズエラを離れた 440 万人が含まれている. 第 2 に,この地域を出身地とする大勢の人が,主に北アメリカ(約 60%) (約 ,そしてずっと少ないが EU 10%)に移住してきている.  中東・北アフリカでは,3 つの明確に区別されるパターンが存在する.第 1 に,GCC 諸国は大勢の入国 移民を受け入れている.主に南アジアからの移民であり(60%),しかしその地域に限定されているわけ ではない.第 2 に,この地域の GCC 以外の諸国は,主に高所得のヨーロッパ諸国(800 万人)と GCC 諸国(600 万人)に向かう比較的大きな出国移民の流れの源泉となっている.そして第 3 に,シリア危機 やイラクで継続している政情不安も大規模な難民を生み出しており,このような移民はこの域内で受け入 れられている(約 350 万人).  北アメリカでは,入国移民の数は出国移民の数の約 6 倍である.この地域に来る人の多くはラテンアメ リカ・カリブ(約 43%)の出身である.入国移民の大きな源となっている他の地域として,東アジア・大 平洋(21%),ヨーロッパ・中央アジア(16%),南アジア(9%)があり,中東・北アフリカからの移民は 比較的少数である.アメリカとカナダの入国移民の多くは最終的に帰化している.  南アジアでは,この地域の人口規模を考えると,移住は相対的に限定的である.3 つの主要な傾向がみら れる. 約 1,900 万人が GCC 諸国に出国移住している. 第 1 に, 第 2 に,追加的に 1,500 万人が他の地域, 主に北アメリカと高所得のヨーロッパ諸国,に出国移住している.そして第 3 に,アフガニスタンから パキスタンへ,およびミャンマーからバングラデシュへ向かう強制退去が追加的な移動の一部を占めてい る.  サハラ以南アフリカでは,ほとんどの移動は域内で行われている.出身国以外の国で生活している約 2,200 万人の中で,約 35%は難民である.このような移動は,ブルキナファソからコートジボワールへ, あるいは,ブルキナファソからナイジェリアないしは南アフリカなどの地域経済の中心地に向かう経路の 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 47 ような一部の回廊に沿って特に活発である.さらに,例えば南スーダンや,コンゴ民主共和国,スーダン, ソマリア,中央アフリカ共和国などから出国する大規模な難民の移動も存在している.他国への出国移住 (約 1,030 万人)は,主に EU や,イギリス,アメリカに向かっている. 動機とパターン  人々はさまざまな理由で移動する.移動する人の動機が移住の社会経済的な成果や国際的な保護の必要性 を部分的に決定する.移動のパターンは,移住先国で経済的機会を探求する人々と,迫害や紛争について「十 の故に移動する人々との間では異なっている. 分に理由のある恐怖」 一部の状況では,この区別は曖昧になる. というのは,機会と安全の両方を探求している人もいるからだ.  移住の決定は複雑であり,人々は,留まる,自国内で移動する,あるいは外国に移住する,という自分が 持っている選択肢を比較考量することを強いられる.自分自身で移動を決断する人もいれば,グループ全体 ――家族ないしコミュニティ――からの要請と支援を受けてそうする人もいる.そのような決定を下すにこ とにおいては,多くの要因が作用し,要因には経済的な考慮と個人的な考慮の両方が含まれている.経済理 論は次のように示唆している.移住する可能性のある人たちはさまざまな状況下で予想される自らの福利と それに対応して生じる移動のコスト――金融的なものと金融とは関連のないものの両方――を比較する.最 終的には,経済的展望,社会的および心理的な安寧,あるいは安全性という点で,自らの目的が達成される 可能性が最も高い選択肢に落ち着く. より良い暮らしへの切望  移民の大多数――80%超――は移住先国における機会を求めて移動する.そういった移動は通常は漸進的 であり,中期的な経済や人口構成のパターンを反映して予測可能なトレンドを示す.このような移民の移動 は主に,より高い賃金とより良いサービスへのアクセスを得られる可能性が動因となっている 9. (地図 2.3) このような人々は難民ではないものの,なかには個人的な身の安全の改善,より強固な法の支配,そしてよ り改善された個人の自由の拡大などを見付けるために移動する人もいる.  2020 年時点で,移民(および帰化市民)の大多数(約 84%)が,所得が当人の出身国よりも高い国に住ん でいた.しかし,移住のレベルは福利の格差が最大の回廊で最も高いわけではない.人々がどこから来てい るか がそれらの人々の行き先を大まかに決定する.移動は主に行き先国の労働市場における (移民の出身国) スキル需要,歴史的および地理的な結び付き,そして移住のコストなどによって決定される.低所得国出身 の移民はほとんどが他の低所得国ないし中所得国に移住している.というのは,多くの場合に高所得国への 移住のコストがひどく高いからだ.中所得国出身の移民は高所得国に移住することが多い.同じく,高所得 (図 2.6) 国出身の移民は他の高所得国に移住している .  全体として,移住はほとんどの移住者が直面する以下のような挑戦課題と障壁によって制約されている:  不確実性.移住は本来的にリスクを伴っている.リスクには, 失業の可能性,社会的孤立,心理的ストレス, あるいは移動中の負傷や死亡をも含む,予想外で不確実な状況に対処することが含まれる.機会を求め て移住する人々は,当人の出身コミュニティの他の人々と比べて,より進んでリスクをとる傾向にある. また,そのような人は,自らのスキル水準あるいは社会経済的な背景にかかわりなく,新しい環境や状況 への順応性が高い傾向にもある 10.  不慣れ.馴染みのない環境への移動は金銭的なコストと非金銭的なコストの両方を伴う.成功するために は,移民は移住先社会の言語や,社会規範,文化などに自らを馴染ませなければならない 11.一部の人々 にとっては,当人の本国と移住先国の間での社会的および文化的な相違は正に移住を動機付けているも のであるが,自らを馴染ませることは難しく,時間がかかるかもしれない.実例として,一部の女性や, 民族的,性的,および政治的な面での少数派の人々がいる 12.インターネットや新技術は,諸情報への 48 世界開発報告 2023 図 2.5 越境移動は地域ごとに大きく異なる K74% 1,000 万人 20 万人の が他国から 難民を含む SA 最大で 600 万人 NA EAP (その他) が他国へ ECA (HIC) ECA (HIC) EAP (その他) その他 (HIC) 高所得国 その他 EAP (HIC) 最大で EAP (HIC) 東アジア・太平洋 3,500 万人 900 万人が 30 万人の GCC 諸国(EAP) が他国へ 他国から 難民を含む NA SA その他 EAP (HIC) EAP (HIC) その他 ECA (HIC) EAP (その他) SA その他 EAP (その他) 4,300 万人 800 万人の その他 が他国から 難民を含む 最大で NA LAC 3,700 万人 EAP (HIC) SA が他国へ LAC EAP (その他) ECA (その他) MENA (その他) MENA (その他) その他 (HIC) 高所得国 SSA ECA (その他) ECA (HIC) ECA (HIC) ヨーロッパ 最大で 1,400 万人 570 万人の 中央アジア 3,700 万人 が他国から 難民を含む 諸国(ECA) が他国へ NA その他 EAP (その他) ECA (HIC) MENA (その他) その他 MENA (その他) ECA (HIC) その他 ECA (その他) ECA (その他) 最大で 1,400 万人 680 万人の 4,100 万人 NA が他国から 難民を含む が他国へ ECA (HIC) ラテン EAP (HIC) NA EAP (その他) アメリカ・ ECA (HIC) その他 カリブ その他 諸国(LAC) LAC LAC 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 49 図 2.5 越境移動は地域ごとに大きく異なる(続き) 3,100 万人 10 万人未 が他国から 満の難民を 含む SA 最大で 100 万人 EAP (その他) GCC が他国へ その他全て MENA (その他) 中東・ GCC SSA その他 北アフリカ 最大で GCC 1,200 万人 350 万人の (MENA) 諸国 2,800 万人 が他国から 難民を含む が他国へ GCC SA その他 NA SSA ECA (HIC) その他 ECA (その他) MENA (その他) その他 MENA (その他) 2,400 万人 190 万人の が他国から 難民を含む LAC 最大で SA 400 万人 ECA (HIC) EAP (その他) が他国へ LAC MENA (その他) その他 北アメリカ EAP (HIC) NA ECA (HIC) (NA) SSA ECA (その他) GCC NA 最大で 4,200 万人 600 万人が 280 万人の が他国へ 他国から 難民を含む GCC EAP (その他) 南アジア NA その他 (SA) 諸国 EAP (HIC) ECA (HIC) SA MENA (その他) EAP (その他) その他 SA 最大で GCC 2,200 万人 770 万人の 3,000 万人 NA が他国から 難民を含む が他国へ ECA (HIC) その他全て サハラ以南 MENA (その他) アフリカ SSA 諸国(SSA) SSA 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 注:入手可能なデータの制約から,各地域における入国移民の数には外国籍の全ての人が含まれ, 出国移民の数には外国生まれの人 (帰 化した人を含む) が含まれる.EAP =東アジア・大平洋,ECA =ヨーロッパ・中央アジア(西ヨーロッパも含む),GCC =湾岸協力会議(加 盟国),HIC =高所得国,LAC =ラテンアメリカ・カリブ,MENA =中東・北アフリカ,NA =北アメリカ,SA= 南アジア,SSA =サ ハラ以南アフリカ. 50 世界開発報告 2023 地図 2.3 移住を引き起こしているグローバルな不均衡の一部は人間開発指数に反映されている 人間開発指数 最も高い 非常に高い 高い 中程度 低い データ無し IBRD 47141 | MARCH 2023 出所:Heat map based on 2021 data, Human Development Insights (table), United Nations Development Programme (UNDP), New York, https://hdr.undp.org/data-center/country-insights#/ranks. 注:国連開発計画(UNDP) によると人間開発指数は 「長期にわたる健康な生活,知ることができること,そして適切な生活水準を維持すること,と いう人間開発の鍵となる側面における平均的な達成度に関する要約指標」 である.その指数の値の範囲は 0 – 1 である.地図上のカテゴリーは以 下のように定義されている:低い (0.55 未満),中程度(0.55 – 0.70),高い(0.70 – 0.80),非常に高い(0.80 – 0.90),最も高い(0.90 超)[UNDP . の「人間開発報告書 2021/2022」によれば,人間開発指数は 「健康長寿,知識へのアクセス,人間らしい生活水準という,人間開発の 3 つの基礎 次元における長期的な前進を評価する総合指数」 であり,2021 年の時点で日本の値は 0.925 であり,191 の国と地域の中で 19 位と,人間開発 最高位グループに属していた.出典:2021/2022 年版人間開発報告書に関する国別ブリーフィング・ノート. ] 図 2.6 移民がどこへ行くかは,大まかには移民の出身国によって左右される 低所得国 低所得国 中所得国 中所得国 高所得国 高所得国 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 注:矢印の太さと濃さは対応する移動の規模を反映している. 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 51 アクセスを向上させ,移住に関して新たな抱負,および生じる可能性のあるリスクと便益についてのより 確かな知識の両方を生み出してきている 13.  求職.新しい国で仕事を見付けることは難題でありうる.ある国で取得したスキル,資格,あるいは卒業 証書などは他の国への移転が容易ではないこともある.多くの移民は低スキルの職業へ「格下げ」すること になり, につながっている 14.一部の移民はディーセントな仕事を見付けるために,友人や家 「頭脳浪費」 族の非公式なネットワークを通じて得られる情報を頼りにしている.そのような移民は,自分と同じ国籍 を有する他の移民にとってすでに本国 [その時点で住んでいるところ] (home) になっている地域に移動す る傾向がある――これは南アジアから GCC 諸国へ移動する移民に典型的にみられる.ただし,このよう な仲介のコストは高くつく.  資金調達.移住に先立って発生するコストは相当な額になりうる.そのようなコストには,典型的には, 仕事を見つけること,あるいは移動の手配のための仲介手数料に加えて,旅行と転居,ビザ,および処理 に関する費用が含まれている.そのようなコストは,各移動回廊の相互の間で大幅に異なっている.例え ば,低スキルの移民については,中央アメリカからメキシコへ移動するコストは 100 ドル程の低い値に なる可能性があり,一方で,パキスタンからサウジアラビアへ移動するためのコストは,4,000 ドル以 上になる可能性がある 15.非正規の移住は,多くの場合に高価な密入国業者の手数料を必要とする.例 –  えば,アメリカの南部国境を非正規に通過するコストは,移民の出身場所に応じて 2,000  10,000 ド ルと推定されている 16.  スキルの水準に応じて,このような制約は異なる仕方で課され,このことが低スキル移民と高スキル移民 が異なる移住先を目指す理由を大まかに説明している.低スキルの移民の大きな割合が同じ地域内で移動し ている.2020 年の時点で,低スキルの移民の全体の約半数は近隣国に滞在していた 17.より遠くに移動 する場合には,より馴染みのある場所を目指している.すなわち,それは,当人が移住先の支配的な言葉を 話している地域,あるいは当人の民族性,コミュニティ,ないしは国籍などに基づく社会的ネットワークへ のアクセスを得ている地域である 18.それ故,資金調達の制約が大きい,あるいは仕事を見付けるのがよ り困難であるなど,低スキルの移民は,より遠い,あるいはより馴染みの程度の低い移住先を避けている. 対照的に,高いスキルを有する個人は高所得国へ移住する可能性がより高く,そして,このトレンドは経時 的に強まってきている.高いスキルを有する個人は多くの場合に,自らのスキルに対するより強い需要や, より友好的な移住規則から恩恵を得ている 19.一部の国では,そのような移民は居住権や市民権を獲得す るルートへのより容易なアクセスを有してもいる.  このような背景の下で,移住は恒久的ないし一時的のいずれにもなりうる.オーストラリアに在住してい る多数の高スキル移民など,一部の人々は,移住先国で永続的に生活するという意図を抱いて移動している. 永住を意図している人々の間では,家族と一緒に移動する人もいれば,家族を後で移動させることを計画し ている人もいる.しかし,永住を意図していない他の人にとっては,移住は一時的なものにすぎない.その ような人は,後に本国に戻るという意図を持って,勉強や仕事のために一定期間だけ移住する.このような 戦略が,GCC 諸国や,韓国,マレーシアへの移住のほとんどを占めている.しかし一時的な滞在者と恒久 –  的な滞在者の間の区別は曖昧である.というのは,当初はわずか 2  3 年の滞在を意図していた多くの人が 滞在を数十年間に,そして時には生涯にわたる期間に延長しているからだ.一時的移住および恒久的移住の インパクト――そのような移住がもたらす利益,そのような移住が提起する挑戦課題,およびそのような移 住が要求する政策対応など――は著しく明確に異なっている. 出身国における恐怖  強制避難というパターンは,移動の集中,移動する人たちの脆弱性,移動する人たちが選ぶ行き先,そし てそのような人たちの移動が生じる際の突然さと進行の速さという点で,経済的な移住とは異なっている.  幅広い範囲の諸国から移動している経済移民とは異なり,ほとんどの難民は限られた数の国からの移動で 52 世界開発報告 2023 図 2.7 ほとんどの移民は限られた数の国から移住している――そしてその傾向は強まりつつある 12 100 90 10 80 70 8 難民の割合 60 国の数 6 50 (%) 40 4 30 20 2 10 0 0 05 15 07 17 01 09 11 19 21 00 03 10 13 20 02 08 12 18 22 06 16 04 14 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 出身国である難民が 50 万人以上の国 大規模な危機(50 万人以上が避難)から逃れている難民の割合 出所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www.unhcr.org/refugee-statistics/. ある――この傾向は強まりつつある(図 2.7).世界のほぼ全ての国から難民が生じているものの,次の 6 カ 国における危機が国際的な保護を必要としている人々(難民)の全体の 76%を生み出している:ウクライナ ,シリア (2023 年 2 月時点で 800 万人) (680 万人),ベネズエラ ,アフガニスタン (560 万人) , (280 万人) 南スーダン(240 万人),ミャンマー 20. (120 万人のロヒンギャ)  難民の流れには,主に生産年齢の成人から成る経済移民とは異なり,大勢の脆弱な人々――家族やコミュ ニティは,その人が危険から逃れることを願っている――が含まれている.実際,難民の 41%は子供であ り 21,その一部には同伴者がいない.例えば,2023 年時点で,ウガンダには同伴者がいない,あるいは 家族と離れ離れになった 7 万人以上の子供がいる 22.出身国における状態とは無関係に,多くの難民は行 き先国に貧困状態でたどり着いている.資産は出身国に残しており,貯蓄をわずか,あるいはまったく持た ずに到着している 23.一部の人は,経済的および社会的な包摂を困難にしうるようなトラウマ的な試練を 経験している 24.  難民と経済移民とでは行き先の選び方が異なっている.経済移民は典型的には,出身国からの距離とは無 関係に,自分のスキルに対して需要があると信じる場所に移動する 25.対照的に,難民は,労働市場の考 慮よりも,安全と安心を優先しており,したがって出身国と国境を接する安全な国へ移動する傾向にある.  全体として,難民全体の半数以上はわずか 10 カ国 26 で受け入れられており,それらの国は典型的には 難民の出身国と国境を接している(地図 2.4 および 2.5)27.2022 年半ば時点で,南スーダンからの難民の 99%は近隣諸国に収容されていた.また,同じように,ミャンマーからの難民の 86%,シリアからの難民 の 78%,アフガニスタンからの難民の 77%が,近隣国に受け入れられていた.難民は同じ地域内の他の 諸国へ移動する事例もあるが――ウクライナやベネズエラを離れた人々など――,非常に集中した状態が続 いている.全体では,難民の 74%は低・中所得国に住み,26%は高所得国,特に OECD 加盟の高所得国, に住んでいる 28.  近隣諸国を越えて移動する難民は,より遠くの,多数の移住先国へ移動するようになりつつある 29.そ のような難民は,近隣諸国に避難している難民と比べると,典型的には,所得,資産,教育,スキル,そし て移住ネットワークへのアクセスの点でより良い状況にある 30.そのような難民の移動はしばしばより良 い経済的利益,家族の結び付き,および政治的自由などにかかわる機会から影響を受けている 31.  難民の移動は,多くの場合,その突然さや移動の早急さによって特徴付けられる.一部の難民危機は徐々 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 53 地図 2.4 ほとんどの難民は近隣諸国に避難している ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 難民の出身国 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● アフガニスタン ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● コンゴ民主共和国 ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ミャンマー ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 南スーダン ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● スーダン ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● シリア ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ウクライナ ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ベネズエラ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 難民の数 ● ● ● ● ● ● ● ● 1,000,000 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 500,000 ● ● ● ● ● ● ● 100,000 ● ● ● ● ● ● IBRD 47151 | MARCH 2023 出 所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. unhcr.org/refugee-statistics/. 注:難民の人数を示す円は各受け入れ国の中心に位置しており,難民が受け入れられている特定の下位地域を対象にしているわけではない. 地図 2.5 10 カ国で難民全体の半数以上を受け入れている ロシア ポーランド ドイツ トルコ パキスタン バングラデシュ スーダン コロンビア ウガンダ 難民受け入れ国 ペルー 難民の数 2,000,000 1,000,000 IBRD 47161 | MARCH 2023 出 所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. unhcr.org/refugee-statistics/. 注:難民の人数を示す円は各受け入れ国の中心に位置しており,難民が受け入れられている特定の下位地域を対象にしているわけではない. 54 世界開発報告 2023 図 2.8 難民の流れは危機の発生直後に急増し,時ととも に強まり,このことは移住先国や国際社会に対して準備をする に鈍化する 時間を与えている.しかし,多くは突如発生し 32,このことが, 60 強制避難者や受け入れる側のコミュニティに,十分な援助を提 50 供するという挑戦課題にさらに加わっている.特定の紛争から 避難する難民の数は,暴力の強度や地理的な広がりが変化する 40 難民の割合 ことから,上下変動があるかもしれない.そして,このことは 連続的な移動の波を生じさせている.しかし,平均すれば,所 30 与の状況下にある難民の 40%以上は,暴力が発生してから 1 (%) 20 年以内に避難している(図 2.8)33.この数が大きい時には,受 け入れ国は著しいショックを経験する.その強度と人的被害の 10 故に,このような急増は,しばしば政策論議やニュースの見出 0 しで優位を占めている.そうではあるものの,難民が全移民に 0 1 2 3 4 5 6 占める割合は小さい. 危機発生からの経過年数  過去 10 年の間に難民移動の特質は変化し始めている.ただ 出所:以下に基づく WDR 2023 チームの試算:October 2022 し,それが長期的なトレンドの一部であるのかを評価するのは data from Forced Displacement Flow Dataset (dashboard), Refugee Data Finder, Statistics and Demographics Section, 難しい.特に難民の出身国は変化してきている.難民の出身国 Global Data Service, United Nations High Commissioner for を主に占めていたのは,2014 年までは低所得で受容能力が低 Refugees (UNHCR), Copenhagen, https://www.unhcr.org/ refugee-statistics​ /insights/explainers/forcibly-displaced-flow- い国であったが,今では中所得国が増えてきている(図 2.9). data.html. この変化は難民の流れの鍵となっている特徴の一部を変化させ 注:上図は 1991 – 2017 年の期間に始まった難民「状況」に関す つつある.中所得国を出身国とする難民は典型的には低所得国 る平均フローを描いている.難民の流れが 2.5 万人を超えると 「状況」が始まる.影付き部分は 95%の信頼区間を示す. 「難民」 を離れる難民よりも高いレベルのスキルを持ち,そのような難 のカテゴリーには,難民,亡命希望者,UNHCR によって決定 民のスキルや属性は移住先国のニーズとのより高度な適合に有 される国際的な保護の必要性があるその他の人々が含まれる. 利に働く可能性がある. 図 2.9 中所得国出身の難民が徐々に増えてきている 必要とされる保護の連続性 70  移動のパターンが複雑化して難民と経済移民の区別が曖昧に 60 なっている.一部のルート,特に高所得国に向かうルートは, 中所得国出身の難民の割合 経済移民と難民の両方によって利用されている.両者の行程は 50 互いに並走しているが,そうであっても,その動機や,展望, 40 保護の必要性などは明確に異なる.にもかかわらず,行き先国 30 側にとっては,そのような「混在した状態の移動」は特殊な挑戦 課題を提起し,誰が入国を許可されるべきか,そしてどのよう 20 な状況下にあるのかを決定するためには相当な資源を必要とす (%) 10 る.個人レベルでさえ,移動は安全性に対する脅威とその他の 考慮事項の組み合わせによって決定されるかもしれない.必ず 0 しも難民の移動の直接的な原因ではないものの,気候変動や, 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20 22 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 環境の悪化,自然災害もそのような移動の動因とますます相互 出所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics 作用しつつある 34. Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www.unhcr.org/refugee-statistics/.  次のような認識が高まりつつある.すなわち,機会を求めて 移動し,かつ市民権のある国からの継続的な保護を受けること ができる人々と,国際法の下で難民として認定されている人々 の間には,国際的な保護の必要性について連続性がある.一部 の人々は,仮に出身国に戻るならば,危害を受けるリスクがあ る.そのリスクが,難民の地位が与えられるのに必要な最低基 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 55 準を満たしていない場合でさえ,そういうことがありうる.それは例えば,出身国が深刻な政治的危機に陥っ ている,あるいは広範囲にわたる犯罪的な暴力にさらされている場合である.受け入れ国と国際社会の両方 にとっての挑戦課題は,国際的な保護を必要としているすべての人がそれにアクセスすることができること, そして国際的な枠組みが,新たな保護のニーズの出現に沿って変化することを確保することである. 注 1. 本報告書では,他に記述がない限り,難民という用語は, (2021a, 2021b) を参照.GCC 諸国やマレーシアに 難民と国際的な保護の必要があるその他の人々を指す. 向かう南アジアの移民については,移住のコストは 2. データにはすべての正当な許可証が含まれている. 600 – 4,400 ドルの範囲であり,これは移住者の所得の 2021 年にデータが入手可能な全ての EU 加盟国を示す. 2 – 10 カ月分に相当する.この回廊での移住のコストの Eurostat (2022) を参照. 大きな割合が高価な仲介手数料に帰せられる可能性が ある (Bossavie 2023). 3. Sturge (2022, 25). 16. 次を参照:Migrant Smuggling (dashboard), United 4. WDR2023 Migration Database, World Bank, Nations Office on Drugs and Crime, Vienna, https:// Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/ www.unodc​ .org/unodc/en/human-trafficking/migrant- data; World Development Indicators (dashboard), smuggling​/m­ igrant-smuggling.html. World Bank, Washington, DC, https://datatopics. worldbank​.org/world-development-indicators/. 17. World Bank (2018). 5. World Development Indicators (dashboard), 18. McKenzie and Rapoport (2010). World Bank, Washington, DC, https://datatopics. 19. Clemens (2013); de Haas, Natter, and Vezzoli (2016). .org/world-development-indicators/. worldbank​ 20. UNHCR (2022b). 6. 出国移民 は,当人の本国 (emigrant) (country of origin) 21. 難民に関するデータは次に基づく:Refugee Population から出発して移民になった人として定義されている. Statistics Database, United Nations High Commissioner 7. 入国移民 は,行き先国に到着している移民 (immigrant) for Refugees, Geneva, https://www.unhcr.org/refugee- として定義されている. statistics/. 8. このような数字は,UNHCR (2022b) に基づいており, 22. Refugee Population Statistics Database, United Nations パレスチナ難民は含まれていない.レバノン在住の難 High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. 民の数に関する政府の推定値は,パレスチナ難民も含 unhcr.org/refugee-statistics/. めて,150 万人以上である.ヨルダン在住の難民の数 23. World Bank (2017, 80–81). に関する政府の推定値は,パレスチナ難民も含めて, 24. Fazel, Wheeler, and Danesh (2005); Porter and Haslam 200 万人以上である. (2005); Steel et al. (2009). 9. Beine, Machado, and Ruyssen (2020); Czaika and 25. Moore and Shellman (2007). Reinprecht (2020). 26. Devictor, Do, and Levchenko (2021); UNHCR (2022b). 10. Bütikofer and Peri (2021); Gibson and McKenzie (2012); 27. Devictor, Do, and Levchenko (2021); UNHCR (2022b). Jaeger et al. (2010). 28. 外国市民と外国生まれ人口の数字は次に基づく:2020 「馴染み」 11. 特に にかかわる障壁を強調した移住障壁に関す data of WDR2023 Migration Database, World Bank, る最近のレビューについては,Mckenzie (2022) を参照. Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/ 12. 例えば,受け入れ国において女性のエンパワメントが data.しかし,難民に関するデータは 2022 年以降のも 高いことは――The Global Gender Gap Report 2020 のであり,ロシアのウクライナ侵攻に起因する難民の (WEF 2019) の政治的エンパワメントの下位指数で測 移動を含む. 定――,入国移民に占める女性の割合が高いことと 29. Devictor, Do, and Levchenko (2021). 相関関係を有する.逆に,移民出身国において女性 のエンパワメントが高いことは,出国移民に占める 30. Aksoy and Poutvaara (2021). 女性の割合が低いことと相関関係を有する.相関関係 31. Moore and Shellman (2007); Neumayer (2004). は,低所得国からの移民の場合にずっと強くなってい 32. UNHCR (2022a). る.アメリカでは迫害の恐怖を理由に亡命を申請した 33. この結果は Melander and Öberg (2006) の発見と整合す 人の 1.2 – 1.7%は,亡命申請の面接で性自認 (gender る.この文献は,強制避難 (難民と国内で避難させられ identity)に言及した. た人の両方を含む) の割合は時とともに加速することな 13. Bah et al. (2022). く,むしろ減速していることを示している. 14. Mattoo, Neagu, and Özden (2008). 34. United Nations (2018, 4). 15. ミクロデータ・セットに関しては KNOMAD and ILO 56 世界開発報告 2023 参考文献 Aksoy, Cevat Giray, and Panu Poutvaara. 2021. “Refugees’ and set, version May 24, 2021, World Bank, Washington, DC. 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[受け取り]  移民の出身国においては,政策担当者が関心を抱いているのは, 送金はどのようにして貧困削 減に貢献しうるか――どのような移住者が最大の貢献をして,それにはどのような傾向が伴っているか― ―,送金を受け取っているコミュニティ内のさまざまな世帯の間で,送金の流れはどのように影響を及ぼ しているか,そして個別の政策措置はどのようにしてその効果を高めることができるか,を測ることであ る.他の政策担当者は出国移住の次のようなマイナス面を懸念している.すなわち,後に残された家族員 にはどのようなことが起こるか,また,どのようにすれば残された家族が直面している問題を最もうまく 軽減できるか,所与の状況下において頭脳流出の実際の影響はどのようなものか,どの職業が最も大きな 影響を受けるか,個別の緩和措置の効果はどのようなものか.さらには,出国移住――海外に散在する在 (diaspora) 住者 とその帰国を含む――が国の開発に及ぼすインパクトに注目している政策担当者もいる. [受け入れ国]  移民の行き先国 では,一部の政策担当者は経済面での影響,すなわち,移民のスキルと属性, 移民の労働市場への参加,移民の生産性への影響,自国民の各種グループに対する影響,包摂的政策の インパクトについて懸念している.社会面での影響,すなわち,移民が移住先に結び付く能力と移民が それを行う速さ,公共サービスの提供への影響,このプロセスを管理するためのさまざまな政策アプロー チがもたらすインパクトの差異に関心を持っている政策担当者もいる.このような論議にとっては,移住 者の下位国家レベルでの分布状況に関する情報は極めて重要なものになりうる.  強制避難,通過,書類のない移民の移住,それに「苦難の中での」移住などの傾向に関する追加的なデータ も,直接的な関連を有する国にとっては重要である. データ 59 定義  定義の一貫性――一国内において,各国横断的に,そして経時的に――が移住に関する,および強制的な 退去に関するデータの効果的な利用にとって不可欠である.しかし,強固な統計制度を有する高所得国も含 めて,大きな相違がある.例えば,ノルウェー当局と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は,2013 年末 の時点について報告されたノルウェー内の難民の数に大差が生じていることに注目している――それぞれ, Eurostat は 18,734 人,UNHCR は 46,033 人,ノルウェー統計局は 132,203 人と発表している.こ れは定義,時間枠,および統計手法などの差異を反映している 2.同様に,各国の国勢調査における移住者 (migrant)の定義も各国の間で異なっている.移住者の定義は,出生地,市民権,到着時期,あるいは民 族性ないし人種にさえ基づいている可能性がある(図 S2.1).各国,同じ国の中の複数の政府機関,そして 研究者たちはこのような定義のうちのどれか 1 つを使ってデータを収集しており,このことは比較と分析 を難しくしている. 図 S2.1 多くの国勢調査は移住に関して基本的な一貫したデータを収集していない 35 33 30 30 30 25 24 22 国勢調査の数 20 15 10 10 5 0 アフリカ アジア ヨーロッパ 北アメリカ オセアニア 南アメリカ データベースに記録されている国の数 質問事項に,生まれた国と市民権のある国が含まれている国の数 質問事項に,生まれた国,市民権のある国,および現在住んでいる国に 到着してからの経過年数が含まれている国の数 出所:Juran and Snow 2018.国際連合経済社会局 (UN DESA) からの 149 カ国のデータに基づく. 注:国勢調査の数は 2010 年次に実施された国勢調査で,質問事項に出生国,市民権のある国,滞在中の国に到着した年に 関する2つあるいは3つのコアな質問を含む調査の数を示している. データ源  複数のデータ源が政策立案に情報を提供することができ,それぞれに長所と限界がある.それぞれのデー タのセットは移住に関連するデータが持つ問題に全面的に取り組むには不十分である.しかし,それぞれは 越境移動の特定の側面に関する証拠を提供することに役立ちうる.実効性のある政策の策定は,地理的,学 際的,および制度的な境界を横断する複数のデータ源を用いることを必要とする.さまざまなデータ源は相 互に補完し合うことができ,時間の経過とともに包括的な様相が得られる.  国勢調査(population censuse)が引き続き,グローバルな移住に関する第一のデータ源となっている. 一方で,その広範囲にわたるカバー率と木目細かさは,移住者の長期間にわたる移動を測定することを 60 世界開発報告 2023 可能にしている.また,国勢調査はあらゆる所得水準のほぼすべての諸国で実施されてもいるため,各 国および各時期の間でのある程度の相互比較が可能となっている.他方で,国勢調査の時宜性とアクセ ス可能性に関連する挑戦課題もある.国勢調査は 10 年毎に実施されることが最も多く,したがって移住 パターンの急激な変化を把握することはできない.移民の行き先国側では,国勢調査は,書類を持たない 移民のような特定の部分母集団や,難民などの調査の実施が困難な人々を過少に数える傾向にある 3.調 査のカバー率に制約がない場合でさえ,市民権に関する情報はほとんど収集されておらず,それ故,外 国生まれの人々の市民権は不明のままとなり,このことは非市民(noncitizen)に関する統計を作成する ことを不可能にしている 4.移民の出身国では,国勢調査は,世帯全体が本国を離れた場合には,出国移 民を把握することはできない 5.調査票で扱われるこのような問題は,副標本グループに対しては拡張さ れた質問票が使われる場合でさえ,コストと質に関連した問題によって必然的に制約を受ける.最後に, 一部の国では,政治的な考慮と財政面の制約が国勢調査データへのアクセスを制限している.  人口台帳(population register)がグローバルな移住に関するもう 1 つの主要なデータ源である.国勢調 査と同様に,それは一国の人口の大部分を含んでおり,長い期間にわたるデータセットを提供している. しかし,これは大体において高所得国に限定されている 6.人口台帳は書類を持たない移民や,登録する 意図をほとんど持たないその他の社会的に疎外された人たちを完全に考慮することはできない.移民や難 民の数は,もし出国する際に登録を抹消していなければ,過大に推定されるかもしれない.例えば,登録 が給付金の受け取りと結び付いている場合,抹消が行われていないかもしれない.人口台帳は多くの場合, 国の統計制度にとってはあまり重要ではない担当省庁によって管理されており,このような要素がアクセ スペイン, スしやすさを制限している.カナダや, それに北欧諸国は人口台帳をさまざまな行政データベー スと接続する初期段階にある 7.  行政データは,なかでも,移住に関する研究や政策策定のための,最も有望であるが,十分に活用されて いないデータ源である.一方では,ほとんどすべての諸国が行政データを収集しているが,収集はそれぞ れ違ったシステムを通じて行われている.データは,さまざまなものがある中で,自国の国境を越えた人, 課税,社会福祉プログラム,年金,医療,教育,その他公共サービスに関して収集されている.他方で, 政府の省庁や機関は,国家の安全保障,プライバシー,あるいは官僚的な利害関係を理由に,自己のデー タ源を共有,調和,あるいは統合する動機をほとんど持っていない.OECD は加盟国や世界の他の地域 におけるこのような問題の一部に取り組む努力を主導している 8.しかし,このようなデータの真の価値 は,データ・プライバシーの十分な水準を確保しつつ,国民識別番号を通じることなどによってデータ源 が統合されることによって,初めて実現するだろう.  家計調査および労働力調査は,各個人の動因や,社会経済的な特性,労働市場へのインパクトなど,移住 の異なる側面に関して豊富な情報を捉えている.移住先国における調査は,移民が移動によって直接的 に得た利益の程度に関する証拠を提供する 9.移民の出身国における調査は,移住の開発へのインパクト, 特に出国移民の家族やコミュニティに対するインパクトに光を当てることに役立つ.しかし,このような 調査は実施の頻度が不十分であり,移民に関して意味のある情報を把握できるほど十分に大きな標本で 実施されることは稀である.調査に含まれる対象の範囲を拡大することは非常にコスト高であり,カバー 率を高めて,同一の個人に関するデータが複数期間にわたって収集されるようにする場合には,より一 層費用がかかる 10.短期的には,既存の一般的な調査プログラムを,移住関連の質問事項をより多く含 むように調整することが,データの入手可能性を改善するためのより費用効果的な選択肢かもしれない. (インパクト評価など) 実験的なアプローチ も残されている挑戦課題の多くを解決できる公算があろう.  インパクト評価のための調査は特定の政策がさまざまな集団――移住者,難民,あるいは自国民など―― に与える影響を評価して,政策の設計と実施を微調整することに役立つ 11.一方で,そのような調査は 政策立案のために利用可能なより直接的な証拠を提供する.他方で,対応するデータを収集することは多 くの場合にコストがかかり――行政データに直接的に依存しない場合には――,カバー率という問題が 伴っている可能性もある. データ 61  新しいデータ源が従来のデータ源が持つ多くの制約に対する解決策であると予想されている.携帯電話呼 出記録,位置情報付きのソーシャルメディア・データ,インターネット通信量,IP アドレスなどが,強 制避難の追跡,移住のトレンドの予測,送金の分析などのために使われている 12.しかし,このような データ源は,その実験的な特性,統計的な厳密性の低さ,標本作成における偏りなどの問題を抱えている. そのようなデータへの学術的,および政策的な研究を目的とするアクセスは,プライバシーに関連する問 題を提起する可能性もある 13. 追加的な挑戦課題  難民やその他の社会的に疎外された移住者に関するデータ収集は特殊な挑戦課題に直面している 14.こ のような移動の唐突であるという性格と,それが多くの場合にアクセスの困難な,ないしは行政能力が低い 場所で発生しているという事実は,課題への取り組みを相当に複雑化している.時には,安全性や政治的な 考慮がデータの収集に向けた努力を阻害してもいる 15.  強制避難させられた人々を国の統計制度から排除することは,そのような人たちの社会的セーフティネッ トや,公共サービス,雇用機会などへのアクセスをいっそう社会的に疎外する 16.チャドなどの一部の諸国は, このような人々を既存の国のデータ収集に向けた取り組みのなかに組み込んでいる 17.チャドの 「難民及び 受け入れコミュニティ家計調査」は,政府,西アフリカ経済通貨同盟(WAEMU),および開発パートナーの 間での難民に関する政策対話の不可欠な部分として,同国の国家的な家計調査のなかに完全に統合されてい る 18.  難民や避難民に関するデータの入手可能性と質を改善する事に向けたグローバルな取り組みは,過去 「強制移動に関する世界銀行  10 年間で若干の改善につながってきている. UNHCR 共同データセンター –      (JDC)」などの構想に加えて,UNHCR による難民に関するグローバルな調査プログラムは,統合されたデー 「難 タ収集に向けた取り組みの実行可能性と利益を例証してきている.国連によって 2016 年に創設された 民,国内避難民 ,及び無国籍統計に関する専門家グループ」(EGRISS) は,各国が国レベルのデータ (IDP) 収集に向けた取り組みを強化するために実施するべき方法論の勧告に関する 2 つのセット――難民統計と IDP 統計にかかわるもの――を策定した 19. プライバシー データの機密性  新技術の出現に加えて,より信頼性の高い統計や包括的でタイムリーなデータの必要性の高まりによって 特徴付けられている世界において,データ保護がますます実際的な重要性を増しつつある.移民は,居住して いる国において市民に与えられている法的保護を欠いていることが多く,そのような移民に関するデータを収 集することは,プライバシーに関わる多くの懸念を提起している.このことは,移民が必要書類を持っていな いという地位にある場合にはより一層あてはまる 20.このような懸念は対処される必要がある.データの収集, 共有,および処理は――たとえそれが政策の立案に情報を提供することに役立ちうるとしても――,データ窃 盗や,データ喪失,個人データの未認可使用などを含め,プライバシー上のリスクを提起する 21.難民状態や, 子供の移住,人身売買,移民の密入国などの,一部の取り扱いに注意を要する状況下では,個人データの秘 匿性は特に重要である.というのは,データ主体の特定は生命を脅かすリスクをもたらす可能性があるから だ 22.  政府やその他の公的当局は,データ主体の基本的なプライバシーの権利や安全性を確保すると同時に,移 住や強制避難に関するデータを収集する際には,利用可能な最善のデータ源を用いることによってこのような 懸念に対処することを目指すべきである.また,確保されるべきこととして,適用可能なデータ保護とプライ バシー法が非市民の住民を十分に適用範囲に含めていること;それらが,非市民の住民を含めて,効果的に執 行されること;安全なデータ取り扱い手続きが,匿名化の手続きを通じることを含め,第三者が潜在的に有害 62 世界開発報告 2023 なデータにアクセスするのを阻止するために策定されていること;および,移民が自分の権利を知っており, データ収集の目的とデータ共有のリスクや緩和措置について情報が提供されていること,がある 23.同様に, 新技術を利用する場合には,政府は,移民に関する決定を行うためにデータがどのように使われているかに ついて透明であることを確保するべきである. 先行きの展望  政府が移住をよりうまく管理し,健全で有効な政策の策定に情報を提供するためには,移住に関する良い データが不可欠である.にもかかわらず,重大なデータのギャップが存在しており,タイムリーかつ木目細 かなデータを一貫した方法で収集するためには,大掛かりな努力が必要とされる.このことは,より多くの 金融資源――長期にわたるデータ収集のための資金調達を含む――と,低所得国も含めて,各国の統計機関 の技術的な能力を強化するための支援を必要とするだろう 24.世界銀行のグローバル・データ・ファシリティ などの専用のデータ・ファイナンス手段は,移住データへの投資において一層の一貫性を促進しつつ,既存 の資金調達におけるギャップへの取り組みを支援することができるだろう 25.  このような背景のなかで,政策立案に情報を提供しうるデータの入手可能性と質を高めるための優先事項 には以下が含まれる:  調和.定義の一貫性を改善する,あるいは少なくとも各国が異なる定義を使っている場合でも比較を可 能にしうるデータを収集するために努力する必要がある.例えば,国勢調査は少なくとも次の 4 つのコ アな質問を含むべきである:出生国,市民権のある国,以前の居所があった国,到着年.国連統計委員 会や OECD が遂行している調和に向けた取り組みは極めて重要である.政府に加えて,多くの国際的お よび地域的な組織が,特に難民に関してなど,政府データが欠如していることがある領域において,デー タを収集している.さまざまな活動主体の間での調和が,重複を阻止し,相乗効果を積極的に追求し,さ まざまな調査で使われている方法論における一貫性を全体を通じて確保し,それによって比較可能性を確 保するために必要とされている.  革新的な調査.伝統的なデータ源の枠を越えて,インパクト評価や,さまざまな種類の移動の動因とそれ がもたらす影響に関する調査を含め,政策策定に情報を提供するために追加的な調査を実施することが可 能である.例えば,長期にわたる研究は,移民が及ぼす影響と経時的な統合のプロセスを理解するため に移民の越境移動を長期的に追跡している 26.有名な実例として,メキシコの家庭生活調査 27 や,ニュー ジーランドのトンガ人移民に関する移住調査の長期的インパクト 28,がある.移民の出身国,移住先国, そして通過国の担当機関の間での横断的な協定が,メキシコの「移住プロジェクト」のように,必要なこ ともある 29.同様に,通過国で見られるような短期間のみ続く移動を含め,既存の統計制度を活用する, 急速で短期の移動を分析するための調査手段が必要とされている.  データのアクセスしやすさと機密性.秘匿性を確保しつつデータへのアクセスを円滑化することは,多く の場合,複数の措置を組み合わせることを必要とする.そのような措置に含まれるのは,データ交換を規 定する法的手段および規定手段の強化;行政データ制度の強化 30;私的に所有されているデータの交換 を円滑化するための,法的ルール,データ使用許諾契約,および共有されたセキュア・アーキテクチャー の確立 31;そしてデータの所有者と,学術研究や政策策定のコミュニティのメンバーなどのデータ利用 者の間における標準的なデータ・アクセス契約書の作成,などである. データ 63 注 1 United Nations (2019, 6). (2021); UNHCR (2021). 2 World Bank (2017).UNHCR の推定値は,過去 10 年間 13 Bloemraad and Menjívar (2022). に亡命申請に関して肯定的決定が与えられた亡命希望 14 Cirillo et al. (2022); King, Skeldon, and Vullnetari (2008). 者の総数に基づく.Eurostat の推定値は,難民の地位 15 Sarzin (2017). が付与された人に発効された正当な居住許可証ないし 16 Baal (2021). 補完的保護に基づく.3つめの,ノルウェー統計局の 推定値は, 「主要申請者」 の数に基づく.難民との家族関 17 Nguyen, Savadogo, and Tanaka (2021). 係の故に居住許可を付与されていた人を含める場合に 18 Nguyen, Savadogo, and Tanaka (2021). は,その数は 179,534 人となる. 19 Baal (2021); EGRIS (2018, 2020). 3 Johnson (2022). 20 Verhulst and Young (2018). 4 Artuc et al. (2015). 21 GMDAC (2022). 5 正に,人口統計分析や (人口調査の) 事後調査を通じて 22 Ganslmeier (2019). 過少集計の全体的な程度を評価することは,移住者ス 23 Migrants (dashboard), Privacy International, London, トックを測定するための国勢調査の信頼性と有用性を https://privacyinternational.org/learn/migrants. 決定する鍵である (Kennel and Jensen 2022). 24 GMG (2017). 6 利用可能な人口台帳 (population register)のリストにつ 25 Global Data Facility (dashboard), World Bank, いては Poulain and Herm (2013) を参照. Wash­ington, DC, https://www.worldbank.org/en/ 7 Careja and Bevelander (2018). programs​ ­ lobal-data-facility. /g 8 OECD (2022). 26 UNECE (2020). 9 Bilsborrow (2017); Fawcett and Arnold (1987). 27 Rubalcava et al. (2008). 10 Bossavie and Wang (2022). 28 Gibson et al. (2018). 11 Bilsborrow (2016); Bilsborrow et al. (1997); Borjas (1987); 29 Durand and Massey (2006). de Brauw and Carletto (2012); Eckman and Himelein 30 World Bank (2021). (2022); Heckathorn (2002); Kish (1965); McKenzie (2012); McKenzie and Mistiaen (2007); McKenzie, Stillman, and 31 Verhulst and Young (2018). 次も参照:Development Gibson (2010); McKenzie and Yang (2010). Data Partnership (dashboard), World Bank, Washington, DC, https://datapartnership.org/. 12 Aiken et al. (2021); Hughes et al. (2016); Kim et al. (2020); Laczko and Rango (2014); Sîrbu et al. (2021); Tjaden 参考文献 Aiken, Emily L., Suzanne Bellue, Dean S. Karlan, Chris- Bilsborrow, Richard E., Graeme Hugo, Amarjit S. Oberai, topher R. 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(2022) において,所得別 の国のグループに適用されている. 37%減少すると見込まれている 9.現在の人口構成上のトレン ドと,その結果として生じる労働供給の不足は,多くの日本企 図 3.4 所得が高い国は急速に高齢化している一方で, 業が自社の事業活動を制限するのを強要する値にまで労働コス 所得が低い国は若さを維持している トを上昇させている.破産の宣言をした企業さえある 10. 子供(5 歳未満)に対する高齢者(65 歳以上)の割合;所得による  高齢化は公的財政に前例のないストレスを与えている.生産 国のグループ別 年齢の成人は高齢者を支えるのに必要な財源を生み出している 7 が,その人数は減少しつつある.OECD に加盟している高所 6 得国では,生産年齢 –  (20  64 歳)の成人数の高齢者(65 歳以上) 子供一人あたりの高齢者の数 5 数に対する比率は,1950 年における 7.1 から 2022 年には 4 2.9 に低下した.2050 年までには 2.0 未満に低下すると予想 されている 11.にもかかわらず,これら諸国は,自国 (図 3.6) 3 の高齢化しつつある住民の年金 12,医療,および長期介護 13 2 などのコストを賄うために,2060 年までに公共支出は GDP 1 の 7.6%にまで増加すると予測されている.大規模な政策改革 0 1950 1975 2000 2025 2050 がなければ,高齢化は G20 グループ内の高所得国の公的債務 低所得国 下位中所得国 負担を 2050 年までに GDP の平均の 180%にまで引き上げ 上位中所得国 高所得国 る可能性がある 14.アメリカなどの一部の諸国は財政的余裕 を持っているが,ヨーロッパの数カ国――オーストリアや,ベ 出所:以下に基づく WDR 2023 チームによる計算―― the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 ルギー,フランス,ギリシャ,イタリア,スペイン,スカンジ (dashboard), Population Division, Department of Economic and ナビア諸国 15――では,年金制度の持続可能性はこの先の 10 Social Affairs, United Nations, New York, https://population. 年間で早くもリスクにさらされるであろう. un.org/wpp/.これは,Hamadeh et al. (2022) において,所得別 の国のグループに適用されている. 中所得国では転換が加速している  ほとんどの中所得国でも人口構成の変化はかなり進展してい る.最大の人口を擁する中国では,その人口は減少し始めて いる.世界第 2 位の人口を抱えるインドでは今世紀半ば以降, 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 71 人口の減少が始まると予測されている.広範囲にわたる中所得 図 3.5 高所得国では高齢者の数は増加している一方で, 生産年齢の人の数は減少している 国で出生率は急落しつつある.現時点で,置換率を下回ってい る諸国もある(図 3.7).このようは変化は過去よりもはるかに 800 速いペースで起こりつつある.イギリスでは,出生率は 1800 700 年における女性 1 人当たり 5.5 人から,1975 年には 2.0 人 600 へと低下し,その期間は 175 年間であった.しかし,インド 500 総人口 の出生率(女性 1 人当たりの子供数)が 1964 年における 6.0 ( 億人) 400 人から 2022 年における 2.01 人に低下するまでの期間は 60 10 年より短かった.同じ期間内に,チュニジアでは 7.0 人から 300 2.06 人に低下し,マレーシアでは 6.0 人から 1.8 人に低下し 200 た. 100  多くの上位中所得国は豊かになる前に老いてしまうかもし 0 れない 16.上位中所得国の人口に占める高齢者の割合 (図 3.8) 2022 2050 2022 2050 高齢者人口 生産年齢人口 は,2050 年までに 2 倍になると予想されている 17.上位中 (65 歳以上) (20 – 64 歳) 所得国では,生産年齢人口 –  (20  64 歳)の割合は 2014 年に ピークに達し,それ以降は減少してきている.下位中所得国で 出所:以下に基づく WDR 2023 チームによる計算―― the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 は 2050 年までにピークに達すると予測されている.依然と (dashboard), Population Division, Department of Economic and して中所得水準である一方で,労働力の減少を埋め合わせて, Social Affairs, United Nations, New York, https://population. 高齢人口の退職や介護に資金を融通することに努めている諸国 un.org/wpp/.これは,Hamadeh et al. (2022) において,所得 別の国のグループに適用されている. には相当な政策課題が立ちはだかっている.G20 グループに 属する新興国の間では,政策改革が行われなければ,高齢化は 図 3.6 2050 年までに高所得の OECD 加盟国では高齢者 2050 年までに公的債務負担を,平均では GDP の 130%押 1 人を支える生産年齢の人の数は 2 人未満になるだろう し上げることになるだろう 18. 高齢者(65 歳以上)に対する生産年齢者(20 – 64 歳以上)の割合 8 低所得国における急速な人口増加 高齢者数に対する生産年齢者数の割合 7  低所得国は継続する人口の爆発的増加という苦悩のなかにあ 6 る.ナイジェリアの人口は 1960 年における 300 万人から, 5 2020 年には 2,400 万人にまで増加した 19.同じ期間に,イ 4 エメンの人口は 500 万人から 3,000 万人に増加した 20.例 えばナイジェリアでは,出生率の水準が非常に高い状態が続い 3 ており,女性 1 人当たりの子供の数は 6 人以上である 21.先 2 行きを展望すると,サハラ以南アフリカ――ほとんどの低所得 1 国が位置している地域――は,2050 年以降も人口が増加を続 0 1950 1975 2000 2025 2050 ける唯一の地域であると予測されており,一方で,世界の他の 出所:以下に基づく WDR 2023 チームによる計算―― the 地域では人口は逓減するであろう(図 3.9).サハラ以南アフリ medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 カは今世紀半ばまで,5 歳未満の子供の人数が高齢者(65 歳以 (dashboard), Population Division, Department of Economic and 上)の人数を上回る唯一の地域であると予測されている. Social Affairs, United Nations, New York, https://population. un.org/wpp/.これは,Hamadeh et al. (2022) において,所得  移住がなければ,低所得国および下位中所得国は 2050 年 別の国のグループに適用されている. までに,これら諸国の生産年齢人口に 10 億 5,000 万人が加 注:OECD = 経済開発協力機構. わると予想されている 22.このような諸国の多くは,若くて 増加を続けている人口を吸収するのに必要な仕事を生み出すの に十分な速さでは成長しないであろう 23.これら諸国は,労 働市場に対する圧力を緩和し,若者に発展の機会を提供するた めの,追加的な仕組みが必要になるであろう. 72 世界開発報告 2023 図 3.7 中所得国において,女性 1 人が産む子供の数は急減しつつある 8 7 総出生率 6 (女性1人当たりの子供数) 5 4 3 置換率 2 1 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 ブラジル エジプト インド インドネシア マレーシア メキシコ 南アフリカ チュニジア トルコ 出所:以下に基づく WDR2023 チームの計算――medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/. 図 3.8 多くの上位中所得国で,高齢者の割合は高所得国で通常みられる水準に達しつつある 16 14 人口に占める高齢者の割合 12 10 8 6 4 (%) 2 0 上位 中国 モルドバ タイ ロシア アルバニア 高所得国 中所得国 出所 : 以下に基づく WDR2023 チームの計算――the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/, applied to country income groups in Hamadeh et al. (2022). 注:高齢者は 65 歳以上と定義されている. 発展,繁栄,そして移住の必要性  人口構成上の変化が労働者を求めるグローバルな競争に急速につながりつつある.高および中所得国では, 労働の必要性はかなりの規模となっている.低所得国は失業状態あるいは不完全雇用状態にある多くの若者 を抱えているが,グローバルな労働市場で需要のあるスキルを持っているのはそのうちのわずかである.各 国の間での労働の需給において生じている可能性のあるミスマッチは相当な規模である.発展ないし繁栄を 継続しようとするならば,ほとんどの国が難しい現実に直面しなければならない.  技術変化,労働力参加の増大,ナタリスト(産児増加)政策,そして年金改革などは,高および中所得国の 労働ニーズを満たすのに役立ちうるが,多くの場合,これらでは十分ではないだろう: 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 73  技術変化.オートメーションや技術革新は労働者の生産性 図 3.9 2050 年までに,サハラ以南アフリカは人口が 増加している唯一の地域になるであろう を改善し,したがって減少しつつある人数を埋め合わせる 8 ことができる.そのような変化は世界経済の大きな部分を 7 著しく変化させつつあるが,相当なニーズが依然として残 6 るであろう(ボックス 3.1). 総人口 5  労働力参加の増大.一部の諸国では,特に参加率が低く高 10 4 ( 億人) 齢化が進展している中所得国の女性に関して,労働力参加 3 を増加させることが可能である.例えば,イタリアや,ギ 2 リシャ,韓国は,自国の労働市場において女性の参加を増 1 やすことができる公算があろう.そうではあるものの,そ 0 1950 1975 2000 2025 2050 2075 2100 ういった変化の余地は,労働力参加率がすでに高い多くの 高所得国ではいくらか限定的であろう 24. サハラ以南アフリカ 世界のその他地域  ナタリスト(産児増加)政策.ナタリスト政策のインパクト 出所:以下を世界銀行の地域部ループに適用した WDR2023 は各国の間でさまざまであり,そして限定的である 25.人 チームの計算――the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, 口減少はすでにかなり進展していることから,逆転は,仮 Department of Economic and Social Affairs, United Nations, にできるとしても,すぐに生じる可能性は低い.例えば, .un.org/wpp/. New York, https://population​ イタリアには 9 歳未満の少女が 240 万人いる.このよう な少女の各々が両親と同じくらいの規模の世代を築くこと になるには,3.3 人の子供を持つ必要があるだろう――これは現在の 1.3 人という出生率からは劇的な 増加である.同様に,出生率はタイでは 1.34 から 3.17 へ,韓国では 0.89 から 4.7 に上昇する必要が あるだろう.  年金改革.いくつかの国は退職年齢をすでに引き上げている,ないしは退職年齢の引き上げを検討してい (20  る.OECD に加盟している高所得国では,生産年齢人口 – 64 歳)の高齢人口に対する比率は 2022 年の時点で 2.9 であり,この値は 2050 年までに 1.85 にまで低下しそうである.2050 年時点でほぼ 同じ比率を維持しているためには,退職年齢は平均で 7 年引き上げる必要が生じるだろう.多くの西ヨー ロッパ諸国における退職年齢や福祉プログラムに関する改革案に対する現行の国民の反対は,それが容易 なプロセスではないことを示唆している 26.  多くの高所得国において,入国移住の増加は,人口構成での変化への対応策の一部でなければならないだ ろう.ドイツ政府の高官は繰り返し次のように述べている.ドイツ経済は多様なスキルを持つ 40 万人の外 国人労働者が毎年流入する必要がある 27.2019 年半ばから始まる 5 年間に 34 万 5,000 人の外国人労働 者を受け入れるという日本の決定も同じく,この国の切迫した労働ニーズを反映している.  移民のニーズは中所得国でも増大している.中所得国の多くはかつては移民の供給源であったが,出生率 の低下と急速な住民の高齢化によって,これらの国は外国人労働が必要になるだろう――仮に中所得国の国 民の一部が高所得国に出国移住し続けるとすると,なおさらそうなるであろう.例えば,マレーシア,メキ シコ,そしてトルコは移民の行き先国になりつつあり,移住しているのは,典型的には同じ地域内の所得が より低い諸国出身の移住者である.政策は,このような変化しつつある状況に適合する必要があるだろう. そのためには政策担当者と社会一般の視点がともに全体として変わる必要がある.  しかし,労働市場のニーズを満たすためには,移民は移住先社会の需要に適合するために必要とされるス キルや属性を持っていなければならない.このことは状況次第では取り組むべき課題であることが判明して いる.例えば,韓国は移民労働者を一時的に受け入れるプログラム――雇用許可制度――を立ち上げたが, 南および東南アジアからの申し込みは過剰供給であるにもかかわらず,2015 年には,埋めることができた のは,提示された求人数の半分のみであった 28.移住の機会は今後さらに増えるかもしれないが,移住先 国において需要のあるスキルを獲得することができるのは,移住を志望している人の中で限られた範囲の人 74 世界開発報告 2023 ボックス 3.1 技術は各国の間での労働市場のミスマッチを解決できるか?  オートメーションや技術革新は労働に対する需 要を転換させており,その過程は雇用の分極化に 図 B3.1.1 アメリカの雇用増加は若くて教育程度 の高くない労働者が従事している職業について多 つながっている a.オートメーションは体系化 [成 くなると予想されている 文化]やプログラム化が容易なルーチン業務にお 4.0 いて雇用されている労働をほぼ置き換えている. 3.5 (テラー) このような展開は銀行の窓口係 などのよ (2020― 年、百万人) うな一部の中程度のスキルを有する労働者に対す 3.0 予想される新規の雇用 る需要を削減している. 2.5  しかし,そのような展開は,機械では処理でき 30 2.0 ない業務を遂行するエンジニアや建設労働者な 1.5 ど,相対的に高スキルを有する労働者と低スキル 1.0 を有する労働者の両方に対する需要を増加させて いる.典型的には,非ルーチンの業務というのは, 0.5 分析的,創造的,対人的,あるいは肉体的な作業 0 である. い い い い 低 高 低 高 が が が が  技術の採用は,例えば農業や製造業における移 度 度 度 度 程 程 程 程 民労働の利用可能性にも左右されている.安価な 育 育 育 育 教 教 教 教 移民労働は企業が生産プロセスを自動化するイン センティブを低める.中国やアメリカでは,移民 40 歳未満 40 歳以上 労働の利用がより容易になると,企業はオート 出 所: 以 下 か ら の デ ー タ に 基 づ く WDR 2023 チ ー メーションの利用を減らして,労働集約的な生産 ム の 試 算 ――Employment Projections (dashboard), に切り替える.逆に,移民労働が稀少であること Bureau of Labor Statistics, US Department of Labor, Washington, DC, https://www.bls.gov/emp/, and 2019 は,企業のオートメーション化を誘発する.アメ one-year estimates from American Community Survey リカとメキシコの間の農業移住を取り決めたブラ (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https:// セロ・プログラムが 1964 年に打ち切られた際, www.census​ .gov/programs-surveys/acs. アメリカ企業は,それまでは移民労働に依存して 注: 新規の雇用の数は 800 種以上の職業において,各 人口統計値のカテゴリーに属する労働者が占めている いたトマトや綿花などの一部の作物の生産につい 現在の比率(百分率)に基づいて計算されている.また, て,機械化を増やす方針に切り替えた b. 計算においては,各々の職業の割合は一定に保たれて いると仮定している.  特に人工知能やロボット工学の分野における急 速な技術進歩は,自動化可能なものに関する最先 端を絶えず変化させている.今日において,大勢 の人を雇用しているいくつかの職業は今後の数十年間に自動化される可能性があろう.自動化は労働に対す る需要を転換させ,人々を自動化できない業務にさらに押しやるであろう――そのような業務の一部はまだ 存在していないかもしれない c.  しかし,自動化や技術革新は,高齢化が進行している諸国における,労働者に対する需要の増加を完全に 相殺することはできそうにない.住人の高齢化は,現時点では自動化が困難な対人サービスに対する需要を 生み出している.例えば,2020 年から 2030 年の間にアメリカで正味の増加が予想されている仕事の 3 分の 1 を占めている上位の 9 種類の職業はすべて食事サービス,医療,運送,あるいはソフトウェア開発に属し ており,このような仕事は容易には自動化されえない d.このような職業の多くは若くて,教育程度の高く (図 B3.1.1) ない労働者を必要とする .COVID-19 のパンデミックの期間にヨーロッパ委員会によってエッセン シャルであると特定された職業の多くも,移民労働に大きく依存している e.  COVID-19 のパンデミックはこの状況をどの程度変化させるだろうか? このことについて語るのは時期 (ボックス:次ページへ続く) 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 75 ボックス 3.1 技術は各国間の労働市場ミスマッチを解決できるか?(続き) 尚早かもしれない.パンデミックの期間に,多くの会社はテレワークに切り替え,そして必要とされるデジ タル・インフラへ相当な投資を行った.推定で,ヨーロッパの労働者の 30%,アメリカの労働者の 62%が 究極的にはリモートで行うことが可能な仕事に就いている.技術的な障壁が低くなることは,企業が低賃金 「テレ移民」 諸国でより多くの を採用することにつながる可能性があり,このことは,そうでなければ移住し ていたであろう人々に機会を提供することができよう.しかし,この可能性が,入国移民が従事しており, そして医療サービスや運送業などの物理的な存在が必要とされる多くの職業に対しては大きなインパクトを 与えることはなさそうである f. a. 技術変化が雇用や賃金の分極化に及ぼすインパクトに関する証拠については次を参照:utor, Levy, and Murnane (2003); Goos, Manning, and Salomons (2014); Michaels, Natraj, and Van Reenen (2014).レビューと総評については 次を参照:Autor (2015); World Bank (2012, 2016b). b. Clemens, Lewis, and Postel (2018). c. 例えば次を参照:Acemoglu and Restrepo (2020); Brynjolfsson and McAfee (2014); Graetz and Michaels (2018). d. 以下に基づく:2022 data of Occupational Outlook Handbook (portal), Office of Occupational Statistics and Employment Projections, Bureau of Labor Statistics, US Department of Labor, Washington, DC, https://www.bls. gov/ooh/. e. Fasani and Mazza (2020). f. Brenan (2020); Dingel and Neiman (2020); ILO (2020); Ottaviano, Peri, and Wright (2013). のみである.特に低所得国を中心に,各国は,移転可能で市場性のあるスキル開発を緊急に行う必要がある だろう. 気候変動:苦難の中での移動の新たなリスク  気候変動は人間社会に対して脅威を与えている.それは前例のないものであり,高まり続けている.地 球温暖化はすでに産業革命以前の水準を約 1℃上回る状態に達している.現行のペースが持続すると, 2030  – 50 年の間に 1.5℃高い水準に達するであろう 29.世界的な気温の上昇は,熱波や,旱魃,大雨,洪水, 嵐等を含む,世界全体でのより頻繁かつより厳しい異常気象の発生の一因になってきている.そのような災 害は数十年間にわたる開発の進展を逆転させる可能性がある.気候変動は,気温や降水のパターンの変化, 海水面の上昇,そして海洋の温暖化などのような徐々に生じる影響においても明白である 30.このような インパクトは健康や,所得,食料安全保障,水の供給,全体的な人間の安全保障などの広範な成果について, 開発面で影響を与えていることが示されている 31.世界人口の約 40%――約 35 億人――がすでに気候変 動に非常に脆弱な場所に住んでいる 32.  気候変動は移動性の増大しつつある動因として顕在化してきている(図 3.10).気候のインパクトは,一 部の地域の居住適性そのものや所得生産性に影響を与える.しかし,気候がもたらす影響は,貧困,人口構 成,政治的不安定性などの,移動性の他の要因から切り離せることは稀である.多くの人々は,気候変動だ けではなく,気候の影響が悪化させている諸要因の組み合わせを理由として移住している.気候のインパク トは多くの場合に,循環的移動や,季節的移動,農村部から都市部への移動などの既存の移動のパターンを 強めている 33.  気候変動はすでに突発的に,およびゆっくりと生じる影響の両方を通じて国内移住を加速しつつある.こ のような影響は時間の経過とともに増大すると予想されている 34.突発的に生じる極端な気象現象は過去 15 年間の間に 3 億人以上を国内で強制避難させている 35.2022 年にはアジアで最近において繰り返し生 76 世界開発報告 2023 図 3.10 気候変動は所得と居住適性を通じて移住に影響を及ぼす 所得の減少 国内移動 気温上昇 既存の圧力の 海面上昇 増大 降水 居住適性へ 越境移動 極端な事象 の脅威 出所:WDR 2023 チーム. じている退去が記録された.熱帯性サイクロンや,モンスーン雨,洪水などが,何百万人もの人々の居所となっ ている無防備の地帯に打撃を与えている 36.ゆっくりと生じる気候の影響も,大規模な移動の引き金となって おり,なかでも特に水ストレスや海面上昇を理由として,一国内で人々が住む場所が再形成されつつある 37. 途上国全体における気候関連の国内移住に関する 2050 年の予測では,気候,人口構成,および開発に関す るさまざまなシナリオの下で移住をする人の数の範囲は 4,400 万人から 2 億 1,600 万人に達する 38.  気候変動は移住者の特徴,スキル,そして人的資本などにも影響を与える.例えば,気候変動は困窮[苦 難の中での]移動の増加につながりうる 39.また,気候は男性と女性に対して異なる影響を与え,したがっ てその影響は移動性にも及ぶ 40.しかし,一部の人々は移動をする資力を欠いていることが理由で,移動 できないかもしれない.そしてさらに,気候変動は実際に,移動できない人たち,特に危険にさらされてい る地帯に住んでいる貧しい世帯をより一層貧しくし 42,その場所に閉じ込めてしまうこともあるかもしれ ない 41.最後に,例えば,水不足という事態を相次いで経験している農村地帯出身の移民は,他の移民と 比べて持っているスキルが低い.特にブラジルや,インドネシア,メキシコなど,移住が頼れる最後の選択 肢になる傾向がある国ではそうである 43.  これまでのところ,気候関連の越境移動は,国内移動よりも小さな規模で発生している 44.越境移動は, (ディア 発生する場合,典型的には近隣諸国の間で,ないしは,労働移住にかかわる協定がある,海外在住者 の間に強固なネットワークがある,あるいは長年にわたる経済的および文化的な結び付きがある諸国 スポラ) の間で生じている 45.例えば,中央アメリカないしカリブからアメリカ合衆国への移住は気候災害の後,特 にアメリカ合衆国の入国移民が多い国からの移住が増加している 46.出身国において気候変動にうまく適応 することができない場合,一部の人は困窮状態の下で出身国を離れなければならない 47. (ボックス 3.2) 農村部における生産性と所得の低下  気温の上昇と降水の予測不可能性の高まりは生産性や農村所得の持続可能性,したがって移住のパターン に影響を及ぼしている 48.例えば, 降雨のない時期が繰り返し生じることは農業の生産と所得に影響を与え, 貧困の増加につながる.時間の経過とともに,同じ場所で適応する,あるいは国内で移動する,という選択 肢が使いつくされてしまい,一部の人たちは国境をまたいで移住することを選択している 49.そのような パターンは,複合的な気候の影響にさらされており,さらに所得が気候パターンに大きく依存し,適応能力 が限定的な諸国ではとりわけ目立っている 50.例えば,パナマからメキシコ南部にかけて広がってる 「中米 乾燥回廊」では,降雨が減少し,雨期が変化したことによって,1950 年代以降,特に小規模農家にとっては, 天水による自給自足農業や,所得,食料安全保障が徐々に制約されてきている 51.他の選択肢が利用可能 でない場合には,一部の世帯はいくつかのリスク管理戦略の 1 つとしてアメリカへの移住を使ってきてい る 52.  たとえ適応策をとったとしても,特定の地域は,[温室効果ガスの]排出が多い状態が続くというシナリオ の下では最終的に食料生産に適さなくなる可能性がある 53.事実,一部の雨林,沿岸湿地帯,そして亜寒 帯や山岳の生態系などを含め,一部の自然のシステムはすでに限界に達している.このことには,生存や, 資源,所得などのためにそのような地域の生態系に依存してきた人々にとって劇的な結末を伴っている 54. 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 77 ボックス 3.2 サハラ以南アフリカにおける移住の複合的な動因  移住のさまざまな動因を独立的に分析すること はできない.貧困,国家の脆弱性,人口の増加, 図 B3.2.1 移動の動因の絡み合い そして気候変動は多くの場合に互いを強め合って (図 B3.2.1) いる. .もし気候がたもたらす影響が 天然資源を枯渇させれば,貧困が増加する.仮に 貧困 人口が急増しているならば,貧困の状況は一層悪 化する a.加えて,さまざまな集団が少なくなり つつある資源を巡って競争しなければならないか もしれず,このことは社会的な緊張や暴力を助長 気候変動 人口増加 し,貧困をいっそう悪化させうる.諸要因のこの ような組み合わせは,人々により良い場所を求め て,国内的に,あるいは必要な資源を動因できる 国の脆弱性 場合には国際的に,移動することを強いる可能性 がある.諸動因とその相互作用の両方が,結果と しての状況を決定する. 出所:WDR 2023 チーム.  サハラ以南アフリカは,各側面に加わる圧力の (地図 B3.2.1) すべてに同時に直面している .当地域は 1 人当たり GDP の平均が世界で最も低く,人口の増加 が最も速く,脆弱で紛争の影響を受けている国の数が最も多く,そして気候変動に対して脆弱である.人口 は現在における 12 億人から,2050 年には 25 億人へと増加すると予想されている b.1961 年以降,気候変 動はそれだけで農業生産性の成長における 34%もの低下につながっており c,このことには食料の安全保障 に関する深刻な結末が伴っている d.全諸国のほぼ半数が紛争あるいは制度的な脆弱性から影響を受けてい る.その結果,サハラ以南アフリカは,この先の数十年間にわたって出国移住が継続しそうであり,そして, その一部は苦難の中での移動となるだろう.  サヘル地域は取り組むべき課題を例証している.ブルキナファソ,チャド,マリ,モーリタニア,そして ニジェールは世界でも最も貧しい諸国の部類に属している.これらの国の出生率は世界全体で最も高い部類 に含まれ――2020 年時点で女性 1 人につき約 6 人の出生――,人口は 22 年毎に倍増している.このことと (ボックス:次ページへ続く) 居住適性に対する脅威  2050 年までには沿岸気候がもたらす影響を受けるリスクのある低地の都市や開拓地に,10 億人以上が 住んでいる 55.世界の海水面は 1900 年以降,すでに 0.20 メートル上昇しており,上昇の速さは 1960 年代後半以降は加速している 56.海岸侵食,沿岸陸地の浸水,沿岸の生息地や生態系の損失,そして塩化 などは,高潮や,洪水,その他の異常気象事象によって増強されており,ますます大勢の人々をリスクにさ らしつつある.グローバルには,温暖化の程度や社会経済的な発展の軌道に依存して,沿岸インフラ資産の 7  – 14 兆ドル相当が 2100 年までにリスクにさらされる可能性がある 57.都市部と農村部の両方における 人口密度の高い地域を含め,南アジアおよび東南アジアに広がる広大な沿岸地帯はすでにリスクにさらされ ている 58.  高度に危険にさらされている沿岸地域から離れる計画的な移転プログラムを実施し始めた政府もあり,そ ういった対応策がとられる頻度は高まりつつある 59.  小島嶼開発途上国は最も脅かされている地域に含まれている.このような諸国では,海面は最悪のシナリ オでは 2050 年までに 0.15  – 0.40 メートル上昇し 60,インド洋や太平洋の島々の多くでは洪水の頻度が 倍増し,淡水の供給不足が悪化すると予測されている.一部の低地の太平洋環礁は 1.5℃の温暖化でさえ, 78 世界開発報告 2023 (続き) ボックス 3.2 サハラ以南アフリカにおける移住の複合的な動因 地図 B3.2.1 サハラ以南アフリカは複合的な脆弱性にさらされている a. 1 人当たり GCP b. 総出生率 国際的ドル 女性 1 人当たり (2017 年 PPP) 子供数(予測) 705 6.95 115,684 IBRD 46668 | 1.11 IBRD 46666 | データ無し APRIL 2023 データ無し APRIL 2023 c. 国家の脆弱性 d. 気候に対する脆弱性 NG-GAIN エクス ポージャー点数 (高得点=高エクス ポージャー) 0.72 脆弱な紛争 影響地域 紛争強度高い 紛争強度中程度 IBRD 46669 | 0.24 IBRD 46667 | 高い制度的社会的脆弱性 APRIL 2023 データ無し APRIL 2023 出所:パネル a:World Bank 2019.パネル b:projections for 2015–20, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population /wpp/.パネル c:World Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org​ Bank 2022.パネル d:2020 data of University of Notre Dame Global Adaptation Initiative (dashboard), University of Notre Dame, Notre Dame, IN, https://gain.nd.edu/our-work/country-index/. 注:GDP = 国民総生産;ND-GAIN = ノートルダム世界適応イニシアチブ;PPP = 購買力平価. 同時に,この地域の気候に対する永続的な脆弱性は気温の上昇によって悪化してきている.気候変動は移牧ルートを混乱さ せており e,牧畜民と農民の衝突につながってきている f.チャドやニジェールにおける暴力に加えて,マリやブルキナファ この地域は深刻な脆弱性の時期を経験している. ソでは紛争が発生しており, マリでは 2020 年と 21 年にクーデターが起こり, ブルキナファソは 2022 年だけでそれを 2 回経験した.数百万人が避難を強いられ,その中の約 100 万人はこの地域内の難 民であり,300 万人超は国内で避難を強いられた人たちである g.その他の多くは対処戦略として,この地域内,あるいは EU へ向かうかのいずれかで,非正規の,そして時には苦難の中での移動を始めている.今後,移住を管理することになる場 合には,この地域の多くの脆弱性は,開発に向けた包括的な努力を通じて取り組まれる必要がある. a. World Bank (2010). b. World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/. c. WMO (2022). d. IPC Mapping Tool, Integrated Food Security Phase Classification, Rome, https://www.ipcinfo.org/. Liehr, Drees, and Hummel (2016). e.  f. Benjaminsen (2012); Benjaminsen and Ba (2009); Heinrigs (2010); McGuirk and Nunn (2020); Rigaud et al. (2021); Werz and Conley (2012). g. R4Sahel Coordination Platform for Forced Displacements in Sahel, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https:// data.unhcr.org/en/situations/sahelcrisis. 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 79 地図 3.1 人々が屋外で働ける地域は縮小しつつある 2050 年までに熱指数(HI)が 35℃を超える日数の変化 a. 楽観的シナリオ b. 危険なシナリオ 一年間で HI > 35℃となる日数 一年間で HI > 35℃となる日数 0 25 50 75 100 125 150 0 25 50 75 100 125 150 .­ 出所:2022 data, Climate Change Knowledge Portal, World Bank, Washington, DC, https://climateknowledgeportal​worldbank.org/. 注:地図は,気候変動に関する政府間パネルによる 2 つの気候シナリオ (IPCC 2021, 2022a)の下で,今世紀半ばまでに熱指数 (HI) が 35℃を 超える日数の変化 (1995 – 2014 年の基準期間との対比)を示す.パネル a はパリ協定の目標が達成されるシナリオ (Shared Socioeconomic Pathway 1-1-9)に対応し,パネル b は排出が 2100 年までに現行の水準の約 2 倍になるシナリオ (Shared Socioeconomic Pathway 3-7-0)に対 応している. 部分的ないしは完全に浸水してしまう可能性がある 61.キリバスでは,12 万の人口の半分が,気温上昇に伴っ て水没するリスクがあるタラワ島に居住している.気候変動は漁業や観光業などの基幹経済部門の重要な支 えである陸上生態系や海洋生態系にもストレスを与え続けている 62.  沿岸や標高の低い地域の枠を越えて,気候変動はアフリカや,アジア,ラテンアメリカの全体における広 大な地域の居住適性に影響を与えてもいる.何百万人という人々がすでに深刻な食料供給不安や水の安全保 障の低下にさらされている 63.人間の罹病率と死亡率は,猛暑の発生,都市における大気汚染の悪化,気 候感応型の疾病――食品媒介,水媒介,あるいは病原体媒介のいずれかによる――の発生率の増加などの結 果として上昇しつつある 64.低・中所得国の全体を通じて大勢の人々が都市部に移動しつつあるまさにそ の時期に 66,一部の都市ではすでに水不足に直面している 65. 南アジアや,熱帯性サハラ以南アフリカ, ラテンアメリカの一部の地域では,気候変動は人々が屋外で働く能力を低めると予想されており,経済・社 会的に大きなインパクトをもたらすであろう (地図 3.1)67. リスク  気候変動は苦難の中での大規模な越境移動につながる可能性がある.これが発生する程度は大体において グローバルおよび各国の両方のレベルで今日において採択され,そして実施されている政策に依存すること になるであろう.  気候緩和.世界は,パリ協定の 2℃という目標を達成する軌道に乗ってはいない.依然として今世紀末ま でに 2.8℃の温暖化が生じるという方向に向かっている 68.将来における気候変動インパクトの厳しさは, 短期の間に国際的な集団的措置が地球温暖化をどの程度抑制できるか次第である 69.自然や人間のシス テムがさらされるリスクは,温暖化が進行する毎に著しく増加する 70.さらに,気候変動の過去のパター ンは将来的なインパクトを十分には予測しないかもしれない.地球温暖化が特定のレベルを超えた先には 転換点があり,そこでは,これまでに経験したことのない暴走的な影響が生じる 71.  気候適応.脆弱な諸国が強靭性を構築し,気候変動に適応できる程度は,大体において適切なファイナン ス手段の利用可能性に依存している.豊富な資源を有する沿岸地帯にある都市地域の一部は,工学的な 80 世界開発報告 2023 プロジェクトを実施し,そして海面上昇などの事態に対して自らを守る必要があろう.対照的に,貧しい 農村部にとっては適応はより困難かもしれず,退去や移住を行う可能性はより高くなるだろう 72.2022 年に開催された国連気候変動枠組み条約第 27 回締約国会議は,気候変動の悪影響に関連した損失と損害 のためのグローバルな基金に関して歴史的な合意に達した.これは各国が適応能力を高めるのを助けるた めの集団的行動の有望な実例である.  移住と保護の政策.移住は気候変動に対する幅広い対応の極めて重要な一部になりうる.しかし,それは 移住先国側の移住政策に依存することになるだろう 73.最もむずかしい問題は,気候変動が移動の他の 動因に及ぼしている影響の強まりによって移住が部分的に促されている人たちの一部がある種の国際的 [移民が] な保護を受けるべきか否かにある.これは, 持ち込むスキルや属性が移住先国の需要に適合して いる程度が低い移民にとっては,特に直接的な関連がある.この問題に包括的に取り組んでいる国際的な 法的枠組みは存在しない.そのような人は,迫害あるいは紛争から逃れる過程にある難民のための国際 的な保護というすでに拡大解釈されている制度の適用対象には含まれていない.一部の移住先[受け入れ] 国は,1998 年のハリケーン・ミッチの後にアメリカがホンジュラスに対して提供した保護のように,臨 時の保護を採用ないし適用している 74.小島嶼開発途上国の状況も国際的な対応を求めているかもしれ ない.このような移住の一部について,必要性と困難な状況下にあるという両方の特質を反映させている 包括的なアプローチが緊急に必要とされている. 注 1. Morland (2019, chap. 2). いは確定拠出型なのか,自動調整の仕組みを採用して 2. World Population Prospects 2022 (dashboard), いるか). Population Division, Department of Economic and 13. OECD (2019, figure 2.3); Rouzet et al. (2019). Social Affairs, United Nations, New York, https:// 14. Rouzet et al. (2019). population​ .un.org/wpp/. 15. この計算は,Heer, Polito, and Wickens (2020) の 3. UN DESA (2022). calibrated overlapping generation life-cycle model に準 4. UN DESA (2019). 拠している.以下も参照:Naumann (2014). 5. World Population Prospects 2022 (dashboard), 16. Johnston (2021); World Bank (2016a). Population Division, Department of Economic and 17. World Population Prospects 2022 (dashboard), Social Affairs, United Nations, New York, https:// Population Division, Department of Economic and population​ .un.org/wpp/. Social Affairs, United Nations, New York, https:// 6. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 18. Rouzet et al. (2019). Social Affairs, United Nations, New York, https:// 19. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 7. World Population Prospects 2022 (dashboard), Social Affairs, United Nations, New York, https:// Population Division, Department of Economic and population​ .un.org/wpp/. Social Affairs, United Nations, New York, https:// 20. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 8. Michel and Ecarnot (2020). Social Affairs, United Nations, New York, https:// 9. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 21. “Fertility Rate, Total (Births per Woman): Niger,” Social Affairs, United Nations, New York, https:// World Bank, Washington, DC, https://data.worldbank. population​ .un.org/wpp/. /­ org​ indicator/SP.DYN.TFRT.IN?locations=NE. 10. See Jones and Seitani (2019). 22. 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(2019); Hoffmann et al. (2020); Šedová, Čizmaziová, and Cook (2021). 29. IPCC (2018). 51. 次を参照:Hannah et al. (2017).乾燥回廊は気候関連 30. IPCC (2018, 4); WMO (2022, 32). の移住や退去の影響を受けやすい地帯 [回廊] の 1 つで 31. Clement et al. (2021, 2); Hallegatte, Rentschler, and ある.近年は,社会や,政治,紛争,暴力,経済など Rozenberg (2020); IPCC (2022b). による動因と相互作用している旱魃や,熱帯性の嵐や 32. Global Internal Displacement Database, Internal ハリケーン,大雨や洪水の組み合わさりが理由で,そ Displacement Monitoring Centre, Geneva, https:// のような移住や退去は増加してきている.次を参照 www​ .internal-displacement.org/database/ Bouroncle et al. (2017); Castellanos et al. (2022); Donatti displacement​ -data. et al. (2019). 33. Black, Kniveton, and Schmidt-Verkerk (2011); Black et 52. Bermeo and Leblang (2021); Bouroncle et al. (2017); al. (2011); McLeman (2016). Donatti et al. (2019); Gray and Bilsborrow (2013); Koubi 34. IDMC (2021, 88); Rigaud et al. (2018, 1). et al. (2016); Milan and Ruano (2014); Nawrotzki et al. 35. 2008 – 21 年における新たな退去者である 4 億 5,360 (2016); Thiede, Gray, and Mueller (2016). 万人の中で,3 億 4,230 万人は災害が理由であり,ま 53. Bezner Kerr et al. (2022, 725). た,1 億 1,130 万人は紛争や暴力が理由であった.災 54. IPCC (2019, 235) を参照.いくつかの環礁島は海面上昇, 害によって退去した人の中で 3 億 560 万人は気候関連 およびこのことに乾燥度の上昇と 1.5℃の温暖化に伴う の災害が理由であった.気候関連災害に含まれるのは 淡水入手可能性の低下が組み合わさって居住に適さな 異常気温,洪水,嵐,野火,旱魃,そして地滑りなど くなる可能性がある. である.国内避難は居住している国内での人々の強制 55. Dodman et al. (2022). 移動を指す.国内避難は所与の期間 (報告年) 全体にお 56. IPCC (2021, 291). ける国内避難者数の推定値を指す.このデータは一度 以上避難させられている人を含んでいる場合もある. 57. Dodman et al. (2022). 次を参照:Global Internal Displacement Database, 58. Lincke and Hinkel (2021). Internal Displacement Monitoring Centre, Geneva, 59. Cissé et al. (2022); IPCC (2022a, 1117; 2022b, 25). https://www​ .internal-displacement.org/database/ 60. Mycoo et al. (2022). displacement​ -data. 61. IPCC (2018). 36. IDMC (2022, 27). 62. Clement et al. (2021, 228). 37. Clement et al. (2021, xxiv); Rigaud et al. (2018, chap. 4). 63. IPCC (2022a). 38. Clement et al. (2021, xxvii). 64. IPCC (2022b, 11). 39. Hornbeck (2020). 65. Tuholske et al. (2021). 40. 詳細はスポットライト 4 を参照.以下も参照:Gray 66. Dodman et al. (2022). and Bilsborrow (2013); Holland et al. (2017); Lama, Hamza, and Wester (2021); Miletto et al. (2017); Rigaud 67. Bezner Kerr et al. (2022, 797); de Lima et al. (2021); et al. (2018, 36); Šedová, Čizmaziová, and Cook (2021). Foster et al. (2021). 41. Cattaneo et al. (2019); Hoffmann et al. (2020); Šedová, 68. UNEP (2022, xvi). Čizmaziová, and Cook (2021). 69. IPCC (2022c, 17). 42. Leichenko and Silva (2014). 70. IPCC (2018, chap. 3; 2022b, 14). 43. Barrios Puente, Perez, and Gitter (2016); Riosmena, 71. Hoffmann et al. (2020); Šedová, Čizmaziová, and Cook Nawrotzki, and Hunter (2018); Zaveri et al. (2021). (2021). 44. Cissé et al. (2022, 1080). 72. Glavovic et al. (2022). 45. Cissé et al. (2022, 1080). 73. Benveniste, Oppenheimer, and Fleurbaey (2020); 46. Andrade Afonso (2011); Mahajan and Yang (2020); McLeman (2019); Obokata, Veronis, and McLeman Spencer and Urquhart (2018). (2014). 47. Cattaneo and Peri (2016); IPCC (2022a, 1053); McLeman 74. Paoletti (2023). 82 世界開発報告 2023 参考文献 Abel, Guy J., Raya Muttarak, and Fabian Stephany. 2022. Bouroncle, Claudia, Pablo Imbach, Beatriz Rodríguez- “Climatic Shocks and Internal Migration: Evidence from 442 Sánchez, Claudia Medellín, Armando Martinez-Valle, and Million Personal Records in 64 Countries.” Water Global Peter Läderach. 2017. “Mapping Climate Change Adaptive Practice, World Bank, Washington, DC. Capacity and Vulnerability of Smallholder Agricultural Acemoglu, Daron, and Pascual Restrepo. 2020. “Robots and Livelihoods in Central America: Ranking and Descriptive Jobs: Evidence from US Labor Markets.” Journal of Political Approaches to Support Adaptation Strategies.” Climatic Economy 128 (6): 2188–2244. Change 141 (1): 123–37. 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[無作為抽選の場合,]移住(ビザを取得)し た人たちの平均的な特徴はそうしなかった人たちと似ている.したがって,数年後の貧困水準など,それ ぞれの 状況の相違は移住の影響に帰することができる.このようなア [移住に関わる選択の結果としての] プローチが以下のような移住に関する研究のために利用された:トンガからニュージーランドへの恒久的 な移住 2;バングラデシュからマレーシアへの一時的な労働移住 3;湾岸協会議 (GCC)加盟国における接 客業に興味のあるインド人労働者を対象とするランダム化比較試験におけるスキル訓練と就職斡旋 4.  移住者と非移住者の間での比較可能な結果における差異を測定.例えば,韓国は韓国語テストの得点が ある一定の閾値を上回った移住者にビザを交付した 5.閾値をわずかに上回った――そして移住した―― 人は,点数が閾値をわずかに下回った人とほぼ同等であり,比較可能であった.2 つのグループを比較 することによって,移住の影響を評価するための適切なベンチマークが得られる.同様のアプローチが, 移住先[受け入れ]国の政策の変更 6 あるいは送金の交換レートにおける変動 7 などに由来する,移住の機 会の予期されていなかった変更に適用された.そのような場合,影響の小さかった人は,影響の大きかっ た人のベンチマークとして機能しうる.  移住の影響をその他の要因の影響から切り離すために,移住者と非移住者の特性に関する入手可能なデー タを利用.例えば,教育,年齢,出生地,家族構成,およびデータが入手可能なその他の特徴が同じ個 人――移住者と非移住者の両方――は,比較が可能である.しかし,そのような比較の解釈は困難である. というのは,一部の重要な要因――動機あるいは企業家的な精神など――は観察や定量化が難しいから だ.それ故,結果を解釈する際には,生じる可能性のあるバイアスを考慮に入れなければならない 8. 社会  移民の出身社会と移住先社会の両方に対する移住のインパクトを検証する場合にも同じ困難さが当てはま る.疑問は次の通り同様である:特定の影響のどの程度が移住に帰せられるのか? 例えば,大勢の移民を 受け入れている地域が他地域よりも経済的に好調な場合,それは移住者の貢献が理由だろうか? あるいは それは逆かもしれない――移住者はすでに景気がよくなっている地域に主に向かった.  原則として,そのような疑問には,移住先(ないし移住者の出身)コミュニティにおける結果としての状況 を移住の影響を受けていない同じようなコミュニティと比較することによって対処することができるだろ う.しかし,そのような同じようなコミュニティが存在することは稀である.移民を受け入れる社会ないし コミュニティは,受け入れていない社会やコミュニティと比較して,移民(ないし移民の出身コミュニティ) と強固な社会文化的あるいは歴史的な絆を持っている,または景気が上向いている状態の経済を有している 移民の出身元のコミュニティは, かもしれない.同じく, 経済状況や移住先となる可能性のある地域のコミュ ニティとのネットワークという点で,他のコミュニティとは違っているかもしれない.その移民の出身地, あるいはその移民の移住先にしている要因そのものが,移民がかかわっているコミュニティを他のコミュニ ティとは違うものにしている.  移住の影響を評価することが可能なベンチマークを構築するために,研究者はさまざまなアプローチを 使ってきている.そのアプローチとして以下があるが,これが全てではない.  移民や難民を領域内のさまざまな地域に無作為に定住させるという分散政策を実施した諸国から教訓を 導き出す.割り当てはランダムであったことから, 移住先コミュニティは,移民受け入れの候補地ではあっ たが結果的には割り当てられた移民はいなかった,あるいはごく少数であった他のコミュニティと比較す ることができる.デンマークやスウェーデンで採用された無作為分散政策は,入国移住のインパクトに関 88 世界開発報告 2023 する複合的な研究につながった 9.  突然の政策変更 ,経済的なショック,あるいは破滅的な気象事象など,特定の地 (例えば突然の帰化推進) 「自然実験」 域への移住を促進すると考えられる を頼りにする.影響力のあった初期の研究は賃金に対する –  入国移住の影響に関するものであり,それは 1980 年 4  10 月の期間におけるマイアミへのキューバ人 難民の突然の到着に基づいていた.その当時,キューバ政府は,国を離れることを望む人は誰でもそれを 行えるようにした (いわゆるマリエル難民事件)10.同種の研究が 1970 年代と 80 年代におけるユダヤ人 のソ連からイスラエルへの移住に関しても実施された.  一部の少数民族グループによる既存の定住パターンがある地域とそれがない地域とを比較する 11.入国 移民は同じ民族の世帯がすでに定住している地域に移住することがより多いようである.実際,この比 較研究は正確に実施される際には 12,移住がなければ経済面では類似していたであろうが,従来から存 在する[移民の]移住地の存在が理由で移民の異なる流入が生じている地域の間の比較を可能にする.こ –  のようなアプローチを適用したものとして,1910  30 年におけるアメリカ都市部へのヨーロッパ人の 移住がもたらした影響の評価や,シリア人難民の移住がトルコの労働市場へ与えた影響に関する研究が ある 13.  状況を経時的に追跡し,移民の多い地域が,移民がわずか,あるいは移民が存在しない地域とは異なる仕 方で推移しているか否かを評価する.より多くの移民を抱える地域は,データが入手可能な特性 (経済規 が類似している地域とも比較されるべきである.しかし, 模や,人口,主要な貿易センターとの距離など) 他の特性(統治の質や地理など)が,移住とは無関係に,状況や開発軌道における相違を部分的に説明でき る可能性も依然としてある.したがって,解釈をするに際してはそのような生じる可能性のある歪みを考 慮に入れるべきである. 注 1. 方法論に関するレビューについては McKenzie and and Hunt (2019) は Card (1990) と Borjas (2017) の発見 Yang (2022) を参照. における乖離に関して説明を提示している. Card (1990) 2. Gibson, McKenzie, and Stillman (2011). についてのさらなる議論は Angrist and Krueger (1999) と Peri and Yasenov (2019) にある 3. Mobarak, Sharif, and Shrestha (2021). 11. しばしば「シフト・シェア法」といわれているこのアイ 4. Gaikwad, Hanson, and Tóth (2021). デアの先駆的な応用に関しては Altonji and Card (1991) 5. Clemens and Tiongson (2017). を参照. 6. Clemens (2019); Dinkelman and Mariotti (2016). 12. このようなアプローチの方法論的な挑戦課題に関する 7. Yang (2008). 議論に関しては Goldsmith-Pinkham, Sorkin, and Swift 8. Clemens and Hunt (2019). (2020) および Jaeger, Ruist, and Stuhler (2018) を参照. 9. 例えば次を参照:Dahlberg, Edmark, and Lundqvist 13. 次を参照:Altındağ, Bakış, and Rozo (2020); Del Carpio (2012); Dustmann, Vasiljeva, and Damm (2019). and Wagner (2015); Tabellini (2020). 10. Card (1990).Borjas (2017) は Card の発見を修正した. Dustmann, Schönberg, and Stuhler (2016) と Clemens 方法論の考察 89 参考文献 Altındağ, Onur, Ozan Bakış, and Sandra Viviana Rozo. 2020. Dustmann, Christian, Uta Schönberg, and Jan Stuhler. 2016. “Blessing or Burden? 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Communities of Origin.” American Economic Journal: Applied Economics 8 (4): 1–35. 91 適合度が高い場合には 得られる利益は多くなる  移住先国で需要のあるスキルや属性を持ち込む場合,人々はその国の労働市場におけるギャップを埋める ことになり,移住先国の経済,移住者自身,および移住者の出身国に利益をもたらす.このような利益は, 移民の移動の動機,スキル水準,あるいは法的地位にかかわらず実現する.社会および経済の両面でコスト も発生するが,典型的にはそのようなコストは利益よりもずっと小さい.移民の出身国と移住先国の両方が, 利益をさらに増やし,マイナス面に対処する政策を設計および実施することができる.  このパート 2 では,経済移民や難民のスキルや属性が移住先国経済の労働ニーズに適合している場合, そのような移民や難民が移住先国の経済に与える影響に関する証拠を概観する.また,政策策定に有益な情 報を提供しうる各国の経験から得られた教訓も導き出す.  第 4 章では,移住を移民の視点からみる.移住は機会の拡大,賃金の上昇,そしてより良いサービスへ のアクセスといった仕方によって貧困を削減する強い力であることが示されている.移民が出身国に戻る場 合,多くの移民は同等の比較可能な非移民よりも良い生活を送っている.しかし,家族と離れていることや, 場合によっては社会的な孤立によって引き起こされる諸問題を含め,そこには取り組むべき挑戦課題もある. 一部の移民は自らが困窮状態や搾取される立場に陥っていることに気付く.移民の出身国による政策と移住 先国の政策の両方が利益を増やし,マイナス面を削減することに役立ちうる.  第 5 章では,移住が移民の出身国に及ぼすインパクトに注目する.実施された経済的な調査における鍵と なる発見は,移民が移住先国で成功する場合――移民が移住先国で需要のあるスキルや属性を持っている場合 ――,移民の出身国も利益を得るということである.多くの諸国において,出国移住は,送金や知識移転を通 じる場合を含め,貧困の削減や開発に貢献している.しかし場合によっては,特に小規模で貧しい国の場合に 高スキル者の出国移住――しばしば おいては, と言われている――はマイナスの影響を与えている. 「頭脳流出」 したがって,移民の出身国は開発面の効果を最大化するために移住を積極的に管理するべきである.  第 6 章では,移民の行き先[受け入れ]国から得られた発見や教訓を提示する.移住者は移住先国経済の 効率性と成長に,特に長期的には貢献し,著しい利益を生み出す.移民の移住先国の政策――どの移民に入 国を許可するか,そしてどのような地位を移民に与えるのか,の両方の決定――がこのような利益の規模を 大まかに決めることになる.しかし,移住者は単なる労働者ではなく,移住者の社会的統合という問題は時 には公開討論の鍵を握る部分になる.ここでも,成功は概して移住先国の政策次第である.  パート 2 には 3 つのスポットライトが含まれており,特に越境移動の全体的な影響に寄与する重要な問 題を取り上げている.スポットライト 4 は,ジェンダーにかかわる規範や,経済的参加,ジェンダーに基 づく暴力へのエクスポージャーを含め,越境移動のジェンダーにかかわる側面の一部に光を当てている.ス ポットライト 5 では,送金を推定することにおける挑戦課題を検討して,既存データを改善する必要があ ることを強調している.最後のスポットライト 6 では,人種主義や外国人嫌悪が移住の成果に及ぼす影響 を改めて検討している.  全体として,移住の潜在的な利益――移民の出身社会と移住先社会に加えて,移住者たち自身にとって― ―は,人々が需要のあるスキルや属性を持ち込む場合には相当に大きくなる.その利益は移民の本国と移住 先国の両方における熟考した政策策定によってさらに増大させることができる.それがこのパート 2 の鍵 となるメッセージである. 4 93 移民 繁栄をもたらす――権利を伴っていれば 効果はより一層高まる 重要なメッセージ  国際的な移住は,低・中所得国の人々にとって,貧困削減の強力な原動力であることが判明している. [受け入れ]  移民のスキルや属性が移住先 社会のニーズに高度に適合している場合,移住者は著しい利益を 得る(図 4.1).多くの移民は移住先国では出身国よりも高い賃金を稼得し,より良い公共サービスを享受 している.  労働市場への公式なアクセス――登録のある適法な地位,働く権利と雇用者を変更する権利,専門職の免 許や資格の承認,などを伴う――は移民にとってより良い成果につながる.  移住は多くの場合に,一方通行ではない.帰国移住は重要な現象である.自発的に帰国する移民は典型的 には出国移住する以前――および移住をしなかった人――よりもずっと良い生活を送る. 図 4.1 移民のスキルや属性が移住先社会のニーズに適合している場合,利益は大きい 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い 大勢の 行先国で需要のある 経済移民 スキルを有する 難民 適合度 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 94 世界開発報告 2023 より高い賃金を得ている  移住は移住者が持っているスキルや属性が移住先社会のニーズに高度に適合している人々のほとんどに とっては,大幅な賃金上昇につながる.このような利益はしばしば出身国で達成できたであろう利益を,さ (図 4.2) らに,相対的により裕福な場所へ国内で移住する場合に得られる利益さえも上回る .利益は相当に 大きく,出身国で働いているある国の平均的な低スキル労働者が高所得国に移住することによって築く所得 を稼得にするには,現状の経済成長率では数十年間を要するであろう(図 4.3).そして,このような利益は 送金を通じて移住者の出身国の家族やコミュニティと共有される.大勢の移民とその家族にとって,所得の 増加は,生活条件の改善,貯蓄能力の高まり,それに,ビジネス,住居,教育,あるいは医療などへの投資 能力の高まりを意味する.  移住先国と移民の出身国の間における賃金のギャップが経済的移住の鍵となる原動力である.生活費の相 違を調整した後でさえ,カナダのトラック運転手はメキシコのトラック運転手の 5 倍以上を稼いでいる 1. ドイツの看護師はフィリピンの看護師よりも 7 倍近く多い所得を得ている 2.カナダの医師はザンビアの医 師より 20 倍,コートジボワールあるいはマラウイの医師より約 10 倍,南アフリカの医師より約 4 倍多い 稼ぎを得ている 3.実現する可能性のある所得の増加が最も大きいのは,低所得国から高所得国へ移住する 人たちである.  移住先における労働需要も成果を方向付ける 4.利益は移民のスキル,性別,年齢,および言語能力など に左右される.絶対的な増加は高スキル労働者の方が低スキル労働者よりも大きいものの,低スキル労働 者も所得の数倍の増加を経験する(図 4.4 のパネル 図 4.3 高所得国に移住した移住者と同じ経済的利 a).例えば,アメリカに移住する低スキルのイエ 益を移住していない人が本国において達成するに メン人やナイジェリア人の所得は約 15 倍増加する は,数十年間にわたる経済成長が必要 高所得国への移住者の経済的利益に一致するのに必要 とされる移住者の出身国の経済成長の持続年数 図 4.2 バングラデシュ,ガーナ,およびインドでは, 国際移住による所得の増加は国内移住の場合の数倍に 80 相当する 70 移住者の出身国で所得面で同等の 220 利益を得るために必要な年数 200 60 180 50 160 所得の増加 140 40 120 30 100 (%) 80 20 60 10 40 20 0 0 バングラデ ガーナ インド フィリピン バングラデシュ ガーナ インド シュ 国内移住 国際移住 出所 :WDR 2023 チームの試算.国際移住からの利益 出 所: 以 下 に 基 づ く WDR 2023 チ ー ム の 試 算 ――Akram, ――Clemens and Tiongson (2017); Gaikwad, Hanson, Chowdhury, and Mobarak (2017); Dercon, Krishnan, and and Tóth (2023); Gibson and McKenzie (2012); Mobarak, Krutikova (2013); Gaikwad, Hanson, and Tóth (2023); Gibson Sharif, and Shrestha (2021) .1 人当たり GDP――World and McKenzie (2012); Lagakos et al. (2020); Mobarak, Sharif, Development Indicators (dashboard), World Bank, and Shrestha (2021). Washington, DC, https://datatopics.worldbank.org/ 注:国際移住による所得増加は,ガーナからさまざまな諸 world​-development-indicators/. 国に向かった高スキル移民に関する調査に加えて,低スキ 注:成長の年数は,国際移住から得られる所得の増加を ル労働者のバングラデシュからマレーシア,およびインド (不変の国際的ドル 2002 – 21 年における 1 人当たり GDP から湾岸協力会議(GCC)諸国への移住から得られた実験的 に基づく) の年当たり増加の平均で割り算して算出され な証拠に基づく. ている. 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 95 図 4.4 低スキル移民にとっては,所得は移住先で著しく増加する a. 低スキル労働者の所得増加;移住回廊別 298 300 263 248 210 200 所得の増加 118 (%) 100 0 バングラデシュ — インド — インド — フィリピン — トンガ — マレーシア GCC アラブ首長国連邦 韓国 ニュージーランド 移住回廊 b. アメリカに移住する低スキル労働者の所得増加;移住者の出身国別 1,750 1,500 1,250 所得の増加 1,000 750 (%) 500 250 0 マ リ ク ュ ジ ト ア イ コ グ ラ ウ ンビイ オ イ キ エラ エ グ ア ニ ラジア ア ン ル ア シ ガシア ナ エジ ア イ リア コ トルナ カ レ ナ 共 コ ス コ ア ベ リカ 南 タン グ キ カ パ テマコ ン ペ カ エ デシン パ ズ カ ン イ ン ネ ド カ ト ン ボ ム ン ウ ルー ボ イチ ガ 和国 ン ズ カ ル ィ マ ハ ダ ス パール ベ ラ ル ル ネ イ プ ャ チ ド ン カ ッ メ リ タ ロ ア チ ア メ ア イ ブ ピ バ ヨ ビ ジ チ ア シ グ ピ ベ ー ン グ ダ ネ ン エ ー ゼ ー ン ナ メ オ フ パナ ネ ド ェ タ フ ニ ロ ラ イ リ ス リ ア エ ル リ ガ リ ラ ミ モ ラ ル ラ ジ イ ド 移住者の出身国 出所:パネル a:バングラデシュ –マレーシア:Mobarak, Sharif, and Shrestha (2021);インド –湾岸協力会議 (GCC) 加盟国: Gaikwad, Hanson, and Tóth (2023);インド –アラブ首長国連邦(UAE) :Clemens (2019);フィリピン – 韓国:Clemens and Tiongson (2017);トンガ –ニュージーランド:McKenzie, Stillman, and Gibson (2010).パネル b:Clemens, Montenegro, and Pritchett (2019). 注:パネル a では,所得の増加は実験的研究から得られている.所得の増加率[百分率]は国内通貨建ての比較を示している. 所得は典型的には PPP に関する調整は行われていない.というのは,ほとんどの支出は送金を通じて移住者の出身国で発生 し続け,場合によっては移住先国における必要経費は契約協定で賄われるからだ.インド – UAE 回廊についてのそのような 推定値は,UAE に滞在しているインド人移民労働者の所得の 85%はインドで支出されていることを示唆している.パネル b では,増加率は観察可能な特性について同等な低スキル男性労働者についての実質所得の増加として算定されている.た だし,観察不能な特性によって生じる可能性のある差異は調整されている. 96 世界開発報告 2023 5.低スキル労働者が達成する利益の増加は社会経済的な不平等が大きい社会からその (図 4.4 のパネル b) ような不平等が小さい社会や,低スキル労働者と高スキル労働者の間の賃金格差が小さい国へ移動した場合 の方が大きくなる 6. 金融面のコスト  所得の増加は時として移動の金融面のコストによって,特に低スキル者にとっては,部分的に相殺されて しまう 7.移民は出国前に,仲介業者に支払う求人情報やジョブ・マッチングの手数料から,規制遵守ない し書類作成(ビザ / 保証人,身体検査,機密情報取扱い適性検査など)にかかわる手数料,交通費,移民が支 出する必要がある出国前研修費にいたるまでのさまざまな必要経費を負担する.スキルが低い人の移住にお いては,このようなコストは労働者自身が負担し,したがって公正な採用の原則に違反している 8.このよ うなコストは契約の有効期間に応じて増加する傾向にあり,そのようなコストによって,多くの低スキル労 働者が移住機会から利益を得る能力が制限されている.信用面で制約のある若者や低スキル労働者は特に影 響を受けている.例えば,バングラデシュでは,移住のコストを半減すると,このような労働者の移住比率 は 29%上昇する 9.パキスタンでは,採用に関わる費用の 1%の増加は,送金額の 0.15%の減少に帰結し た 10.  移住のコストは一部の回廊に沿う場合は特に高い.なかでも,一部の GCC 加盟国に向かう南アジアの低 [その回廊に沿う移住のコストは] スキル労働者にとっては とりわけ高い.このようなコストは予測される所 得の 10 カ月分に相当する額にまで達することもありうる.ただし,このようなコストは回廊毎に大幅に異 なってもいる(図 4.5).移民の世帯はこのようなコストに充てる資金を資産の売却,あるいは非公式な貸し 手からの市場金利よりも高い金利での借り入れによって調達する傾向にある.それ故,このことによって移 民自身と移民の家族にとっての移住の経済的利益は著しく減少する.  一部の GCC 諸国に移住する低スキル移民が負担する高いコストは,直接的なコストだけでなく,移住者 を雇用者に結び付ける仲介業者への支払いも反映している.対照的に,東南アジアから韓国へ移住する際の コストは大幅に低い――低スキル労働者について予測される所得の約 1 カ月分であり,これは二国間の労 図 4.5 GCC 諸国に移住する南アジア人労働者は移住にかかわる最も高いコストの1つに直面する 12 10 (稼ぐのに要する月数) 8 コスト 6 4 2 0 ュ イ ア ア ア ン ド ン ド カ ン コ ム ム ル ル 出身国 シ リ ン ン ッ タ タ タ シ ピ ピ ン ナ ナ ド ー イ イ ガ ロ デ ス ス リ ア ラ ト ト オ ネ パ ィ リ ラ ク ル ベ ベ モ キ キ チ ド ネ フ ス エ グ ン ブ パ パ エ ン イ バ サウジ カタール クェート UAE スペイン 韓国 マレーシア 行き先国 アラビア 出 所: 以 下 に 基 づ く WDR 2023 チ ー ム の 試 算 ――World Bank KNOMAD migration cost database, https://www.knomad. /­ org​ data/recruitment-costs. 注:クウェート在住の調査対象となったスリランカ人労働者はすべて家事補助サービスに従事している女性であった.UAE = アラブ首長国連邦. 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 97 働協定,および採用の手数料を削減する政府主導の仕事斡旋[ジョブ・マッチング]サービスのおかげである. フィリピンなど一部の移民出身国は,移民は採用コストを自己負担しないということを指示しているが,そ の取り決めを執行する能力は限定されており,一部の移民労働者は給与の減額を通じて支払わされている. 人的資本の重要性  多くの移民は,自分のスキルや属性が移住先社会のニーズに適合している場合でさえ,所得の増加をすぐ には実現していない 11.移住する人々はしばしば,スキル,およびリスク許容度や,野心,企業家的な精 神などの個人的な特性という点で,出身国と移住先国における平均的な労働者とは異なっている.しかし, 移住者は,移住先の労働市場に平均的な賃金水準で参入するために必要とされる専門職認定資格,言語スキ ル,あるいは社会資本を欠いているかもしれない.その結果,多くの移民は少なくとも最初は,同じような 教育や専門的特性を有する移住先の国籍を持つ労働者よりも稼ぎが少なくなる 12.さまざまな高所得国に おいて,場所基盤型[配達員のように特定の場所で仕事を行う]のギグ・エコノミーでは移民が大きな割合を 占めている.場所基盤型のギグ・エコノミーには到着してすぐに容易に参入できるが 13,給与は低く,昇 進の見込みも限定的である 14.  一部の移民は職業ないしい専門性に関して格下げに直面する――すなわち,移住先国の外で授与された卒 業証書や資格証明書に相応な職業で働くことができない.相応の仕事で働けないというこのような状況は, 典型的には移民のスキルや属性と移住先の経済のニーズとの一致度を低める.このような「頭脳浪費」の程度 は,移民が受けた教育の質,および移民が取得した資格の転用可能性に依存する 15.一方で,移民が自身 のスキル水準以下の職業で働く期間が長くなると,スキルの損失はより大きくなり,追い付く際に直面する 困難はより一層大きくなる.移住や移民の労働市場へのアクセスを制限する政策を要因とする中断は,移住 者の人的資本をさらに減少させる.  しかし,時間の経過とともに,移民が仕事の内外で人的資本を取得することから,また,移住者のスキル や属性と移住先経済のニーズとの一致度が高まるにつれて,利益は次第に増加する 16.出国前に適切な準 備を行った移民は,このようなより多くの利益をより速く獲得する.アメリカでは,比較的低いレベルから 移住先での生活が始まる人たち――特に低所得国出身の人たち――は,アメリカ国民や高所得国出身の移 民との比較で,より速い賃金上昇と職業面での条件の改善を享受する 17.移民は労働力への参加を通じて, 新しいスキルを修得し,社会的ネットワークを構築する.そしてこのようなことは,所得を増やし,専門職 として昇進する門戸を開く.多くの移民は,特に当人の本国から授与された資格証明が十分には承認されな い,あるいは直接的な関連を持たない場合には,雇用されながら正式な訓練への投資を増やすであろう 18. このような機会は高いスキルを有する人が高所得国に移住する追加的な動機である 19.  移民の特定のニーズに適合させられている専用の政策は,移住者の労働市場への包摂を加速するのに役立 つ 20.移民のスキルや経験の承認,および認証は,移住者がどれだけ早く仕事を見付けるかや,経験する スキルの格下げの程度に影響を及ぼす.訓練は,特に仕事の明確な展望や,他の障害に的を絞った介入策と 組み合わさっている場合には,長期的にプラスの影響をもたらす 21.高所得国では,カウンセリングや賃 金補助金が有効であることが示されている 22. 権利の重要性  移住者が法的な権利や社会経済的な権利を持っている場合,当人の賃金や,雇用水準,仕事の質はより速 く上昇し,移住先国の国民と同じ状態に徐々に近づく 23.移民の利益――および貢献する能力――は,労 働市場の状況,および移民のスキルや属性の移住先経済に対する適合度の高さだけでなく,労働市場へのア クセスという点での,移住者に与えられる権利にも依存する 24.  滞在の確実な見通し,公式な仕事へのアクセス,および補完的な法的権利は,より良い労働市場の成果に とって極めて重要である.成功するために,移住者は,新しい言葉の学習,社会的および職業上のつながり の確立,あるいは実際的な価値のあるスキルの修得など,移住先国に固有な特定の投資を行う必要があるこ 98 世界開発報告 2023 とが多い.滞在の確実な見通しと雇用にかかわる法的な権利は,そういった投資への移住者のインセンティ ブを高める 25. 経済的な成果の一層の改善と密接な関連を有する 26. 帰化することは, 帰化することによって, (行政事務や資格を必要とするプロフェッション) 労働市場におけるより幅広い一連の職業 へアクセスするこ とが可能になり,さらに,帰化することには雇用者に対する肯定的なシグナル効果もある.加えて,帰化の 機会を与えられる人は,多くの場合に最も成功している移民グループの一員である.移住先経済に最善の寄 与をするためには,移民は,国内全体を移動する権利,銀行で口座を開設し,そして融資を得る権利,ある いは会社を設立する権利など,さまざまな補完的な権利を利用できる必要もある.移住者が法的地位や労働 市場へのアクセスをより早く取得するほど,労働市場における成果はより一層改善する 27.  書類のない移民は,たとえ当人のスキルや属性が移住先国で必要とされている場合でも,労働市場におい て他の移民よりも相当に悪い条件を経験する(図 4.6).そのような移民は,ほとんどの公式職にアクセスで きない.それは,書類を有していないことに気付かれることへの恐れ,あるいは必要とされる免許や資格証 非公式部門への格下げは賃金の低下や昇進の機会の減少を意味する. 明を有していないかのいずれかによる. 書類のない移民は,虐待を警察に通報する,あるいは法廷制度を利用する,ことを容易にはできないことか ら,搾取や不当な低給与支払いの対象になりやすい.出身国に帰国する際,書類のない移民は,書類を有し ていた移民との比較で,特に強制送還された場合には,状況は悪くなる 28.  書類のない移民はそれでも,本国に留まっていた場合に得たと予想される所得よりも高い所得を得るかも しれない.しかし,書類を有する移民の場合よりも増加幅は狭い.書類のない移民のための合法化プログラ ムは,アメリカとヨーロッパ諸国では,特に教育程度の高い人たちに対しては,賃金に対するプラス効果を 示している 29.コロンビアでは,2018 年におけるベネズエラ国籍の人の合法化は,移住者の所得の平均 で 35%の上昇,および公式雇用の平均で 10%の増加につながった 30.  移民の権利に関して盛んに論じられている側面は,雇用者を変更できる移民の権利である.一部の移民の 労働許可証は移民の方からは変更できない雇用者に結び付けられている.実例として,GCC 諸国における後 (カファラ) 援 制度がある.このような制度は,そのような雇用者に不釣り合いに大きな権力を与えており,そ 図 4.6 アメリカでは,移民の賃金はアメリカ国籍を有する人に近い――移民が書類を持っている場合 年齢別の収入;法的な状態別 3.1 2.9 時間当たり賃金 2.7 2.5 (対数) 2.3 2.1 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 年齢(年) アメリカ国籍を有する人 書類のある入国移民 書類のない入国移民 出 所:American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs- surveys/acs のデータを使った Borjas (2017) に基づく WDR 2023 チームの試算. 注:所得のプロフィールは,各年齢について,各法的地位を有している労働者の時間当たり賃金の平均を計算することによっ て作成されている.書類のない入国移民は Borjas (2017) で概要が示されている方法論に基づいて特定されている. 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 99 れが次には移民の賃金を押し下げ 31,そして他の虐待ないし 図 4.7 UAE では,移民労働者が雇用者を変更することを 可能にする改革の後には,契約更新の際に受け取る利益が 搾取的な労働条件につながる可能性もある 32. 増加するようになった  2020 年 の カ タ ー ル や 21 年 の サ ウ ジ ア ラ ビ ア な ど, 5 GCC 諸国の一部は,後援制度を緩和し始めている.このこ 改革発表日 契約に基づく利益の変化 とによって,移民の当初の契約の有効期限がひとたび切れた 際には,移民労働者は他の雇用者を探すことが可能になった. 0 そして,労働市場の柔軟性が高まり,労働者の福利が改善さ れた 33.一部の労働者が雇用者を変更することを可能にした UAE のかつての改革(2011 年)は,そのような変更のイン ‒5 パクトを明らかにした.改革が行われる以前には,当初の契 (%) 約を更新する労働者は賃金の 5%の削減を強制されていた. 改革が行われて以降は,更新前と同じか,それよりもやや ‒10 高い賃金で契約を更新することが可能となった 34 (図 4.7). 1 1 1 1 1 :M :M :M :M :M 09 10 11 12 13 追加的な改革が進展中であり,2021 年にはカタールにおい 20 20 20 20 20 契約更新日 て最低賃金制の導入が,22 年には UAE において移民労働 者のための失業保険制度の導入が行われた 35.ただし,この 出所:Naidu, Nyarko, and Wang 2016. ような新しい規則を完全に施行し,家事労働者を含め,全経 注:垂直線は改革の発表日を示す.契約による利益には契約で定 義されている所得と付加給付の両方が含まれている.M1= 第 1 月. 済部門を対象に含めるためには,行うべき多くのことが残っ ている.  移民の権利に関する問題はより幅広い移住の目的と区別して対処することはできない.移住政策と移住者 に付与される権利が既存の移民の成果を決定する.しかし,そのような政策や権利は,それは誰が,どこへ, どれくらい長く移住するかも大体において決定する 36.例えば,一部の移住先国の政策は,滞在し,そし て統合する意図を持って移住する高スキル者の移住を,直接的に,あるいは間接的に奨励している 37.他に, 低スキル労働者の一時的な移住を奨励している政策もある.さらに他の政策は事実上,労働者が非正規な経 路を通じて入国する不正なインセンティブを生み出している.それは,例えば,移住者の労働に対して需要 があるものの,正規のルートが存在しないという場合である.より広範な社会規範も役割を果たしうる(ボッ クス 4.1).移住先[受け入れ]国にとっての挑戦課題は,すでに国内に滞在している移民の地位を規制する 方法としてだけでなく,自国のニーズにより高度に適合する移動を奨励する手段として,移住政策に注目す ることであろう. 改善されたサービスへのアクセス 教育  世界全体では 600 万人以上の外国人留学生がいる.上位の行き先国はアメリカ,イギリス,そしてオー ストラリアであるが,それ以外の国で,フランスや,南アフリカ,UAE も特定地域出身の学生にとっての 重要な行き先国になっている(図 4.8).勉強をするために移住することによって,人々は出身国よりも多く の人的資本を修得することができる.  学生の移住はいくつかの仕方で移住する学生本人と移住先国の双方にとって有益でありうる.多くの諸国 が就労ビザへの容易なアクセスを提供し,卒業生に卒業後に就職先を見付けるための時間を与えていること から,一部の学生は学業を終えた後も滞在する.学生の移住先国の雇用者は,その国で授与されている高等 学位には馴染みがあるので,そのような学位を授与された留学生は同じ資格を有する移住先国の国民と同じ ような賃金を稼得できる 38.出身国に帰国した際には,海外へ留学した学生は出身国と留学先国との間の 経済的ないしその他の関係を促進するだけでなく,割増賃金を受け取ることもある 39.  多くの移民は,教育や医療に関わるより良い機会を含め,家族により良い将来を提供するために移住して 100 世界開発報告 2023 ボックス 4.1 より包摂的なジェンダー規範を求めて移住する:高度な教育を受けた女性の事例  働くため,あるいはより高度な教育を受けるために自らの意思で移住する,高等教育を受けた女性の移住 が増加しつつある.そのような女性は,ジェンダー間の格差が小さく,ジェンダー間の差別が少ない移住先 を好む傾向にある a.移住によって,このような女性は出身国における労働市場の障害を回避することが可 能になる.  高等教育を受けた女性が移住する傾向は,ジェンダー間の差別が中程度の諸国――移住の可能性と動機の (図 B4.1.1) 両方を持つ女性が所在している国――の出身者の間で最も高くなっている .対照的に,当人の本 国におけるジェンダー間の差別の水準にかかわらず,教育程度の低い女性が自ら移住する頻度はより低い. い 図 B4.1.1 高いスキルを有する女性の出国移住率はジェンダーに基づく差別が中程度の諸国で最も高い 60 50 高等教育を受けた女性に占める出国移民の割合 40 30 20 10 0 (%) ‒10 ‒20 20 40 60 80 100 「女性・ビジネス・法律」指数の得点 出所:World Bank (2022) and WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www. worldbank.org/wdr2023/data 基づく WDR 2023 チームの試算. 注:世界銀行の 「女性・ビジネス・法律」 (Women, Business and the Law)という指数は,女性のキャリアのさ まざまな局面の全体での経済機会へのアクセスに関する男女の間の法的な差異を測定したものである.得点 (1 – 100)は次の 8 つの指標に関する二者択一問題の集合に基づく:移動性,職場,給与,結婚,親子関係,企 業家的活動,資産,年金.図中の円の大きさは,各国において同じ指数値を有する高スキルの女性の出国移民 の総数に比例している.影付きの部分は 95%の信頼区間を示す.点線は高等教育を受けた女性の出国移住率が 0%である場合を示している. a. Ferrant and Tuccio (2015); Ruyssen and Salomone (2018). 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 101 いる 40.確かに,子供は移住から親よりも多くの利益を得る 図 4.8 留学生の行き先になっている国は世界のさまざま な地域から外国人留学生を引き付けている かもしれない 41.OECD に加盟しているヨーロッパ諸国では, 調査対象の行き先国における留学生の割合;出身国の地域別 親が海外生まれの子供は,平均で学校教育の年数が親よりも 1.3 年長い 42.アメリカでは,低所得の入国移民の子供たちは, オーストラリア フランス 同じ所得水準のアメリカ生まれの両親の子供たちよりも裕福に なっている可能性が高いようである 43.EU では,他の EU 諸 国生まれの両親の子供たちの上方への経済的流動性は,親が生 徒と同じ国の生まれである場合よりも同様により高い.ただし, 親が EU 圏外生まれの場合は,経済的流動性の上昇の程度はよ り低くなる 44.  教育政策は重要である.学校制度が,世代間の経済的および 社会的な移動性を促進し,異なる文化的および言語的な背景を 南アフリカ アラブ首長国連邦 持つ児童を受け入れ,そしてそのような児童に追加的な支援を 提供している場合,成果はより良くなる.移民の子供は,移住 先国の国籍を持つ子供が通っている学校と同質の学校を利用す ることもできるべきである 45.到着時点における子供の年齢 や新しい環境へ適応する能力も重要な役割を果たす.到着時点 での移民の子供がより若く,そして移住先国の環境が出身国に より近いほど,子供たちにとっては順応がより容易になる 46.  書類のない移民の子供たちは特殊な挑戦課題に直面する.そ イギリス アメリカ のような課題として,教育を利用することができない,ないし は質の低い教育しか利用できないといったことがある.アメリ カで移民法の施行が強化された際,書類のない移民の子供たち の間では,留年者や退学者の数が増加した 47.両親は書類を 持たない状態で滞在していることが発見されるのを恐れている ことから,このような子供たちが自身の英語のスキルを発達さ せることができる幼稚園に通う可能性は低いであろう 48.し かし,両親の地位がひとたび公認されれば,書類のない両親の 東アジア・太平洋 子供たちでも教育成果を改善することが可能となる 49. ヨーロッパ・北アメリカ ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 医療 南アジア  移民の健康の状態は,当人の労働や生活の条件,および医療 サハラ以南アフリカ ケアサービスへのアクセスに依存する.経済移民は比較的良い 出所:UIS.Stat (dashboard), Institute for Statistics, United Nations 健康状態で移住先国に到着する傾向にある 50.しかし,移住 Educational, Scientific, and Cultural Organization, Montreal, 者が貧弱な状況で生活する,あるいは医療サービスへのアクセ .unesco.org/ に基づく WDR 2023 チームの試算. http://data.uis​ スをほとんど持っていないならば,あるいは業務で負傷する公 算が大きい仕事に就いているならば,移民の健康と福利は時間 の経過とともに悪化に向かう 51.例えばヨーロッパでは,多くの移民は質が低い住居や公共サービスが不 十分な地域に住んでいる 52.イタリアやギリシャでは,移民の 3 人に 1 人以上が過密な住居で暮らしてい ると報告している.生活条件は一時的な移民にとっても挑戦課題である.GCC 諸国に滞在している多くの 労働者は,移住先の国籍を持つ人たちの居所からは遠く離れた,混み合った住宅地で生活している 53.  COVID-19 のパンデミックは医療制度へのアクセスの重要性を強調した.一部の移民の健康は,過密な 居住空間,ゴミ処理設備の利用が制限されていること,そして貧弱な衛生状態等の生活環境が要因で損なわ れた.そしてこのことは,世間の注目を集めることとなった 54.他の事例では,対面接触を必要とするエッ 102 世界開発報告 2023 センシャルな仕事に従事していたことが理由で,移民の健康が損なわれた 55.時として,COVID-19 の症 状を伴っていた移民は,財政的な制約,あるいは医療サービスへのアクセスを欠いていたことが理由で,医 療ケアを求めなかった 56.  家族と一緒に移住している移民にとって,より良い医療サービスにアクセスできることは,特に幼い子供 にとっては,移住による利益の重要な部分を占めている.入国移住の時点で子供が幼いほど,また,移住の 旅程が安全で迅速なほど,健康面で恩恵が得られる可能性はより高くなる 57.1991 年にイスラエルに空 輸されたエチオピアのユダヤ人の間では,母親たちは移住先国で出産前ケアを早期に利用できたことから利 益を得た.そのようなケアは移住者の出身国では利用することができなかった.そして,そのような親の子 供は,後の人生で教育や労働市場といった側面でより良い成果を上げた 58.  医療ケアへのアクセスは移民の法的地位と移住先国の規則に依存していることから,書類を持たない移民 は著しく不利な立場に置かれる.実際,そのような移民は,教育サービス以上に,医療サービスへのアクセ スを有する可能性は低いようである 59.また,書類を持っていないことが明らかになるのを恐れて,子供 が公的な健康保険の適用範囲に含まれている場合でさえ,そのような移住者が子供のために医療サービスを 利用する公算も低い 60.移民世帯の子供の健康状態は,法的地位が確実になると,改善する.例えば,イ タリアに滞在している書類を持たない移民に対する恩赦によって,そのような移民の子供たちの間での低出 生体重の発生件数は減少した 61. 社会的コストへの対処  移住者が外国の社会環境の下で,そして家族や社会的ネットワークから遠く離れている状況で直面する多 数の挑戦課題の1つは孤立である.移住して配偶者と一緒になるために移動する女性も,人々との交流を持 てる仕事に就けない,あるいは同じ国籍の人から成る社会的ネットワークへのアクセスを持たない場合には, やはり影響を受ける.  差別的な政策や態度はこのような状況をより一層困難にしうる.一部の諸国では,肌の色が濃いことや, 氏名が外国語のように聞こえることは,その移民が労働市場に参入する能力や 62,住居,教育,医療,社会サー ビスなどにアクセスする能力に影響を及ぼし 63,このことは,そのような人たちの福利に対する著しいマ イナスの効果を伴っている 64.差別は,移民労働者の人的資本獲得だけでなく,パフォーマンスも低下さ せる可能性がある 65.  書類を持たない移民は,強制送還や愛する人との離別に対する恐怖が常にあることから,特殊な挑戦課題 に直面している.そのような移民は虐待を通報することができず,このことが,犠牲になる公算を高めてい る 66.このような制約は移民とその子供たちの心と体の健康を害する 67.  家族の離散は,予想ないし計画されている場合でさえ,しばしば困難である.移住先国の政策――家族が 同伴すること,あるいは家族を定期的に訪問することを移民に許可しているか否かなど――が,福利の代価 を大まかに決定する.書類のない移民は特に影響を受ける.というのは,当人の出身国に留まっている家族 を訪問した場合,移住先国へ再入国することは容易ではないからだ.これとは対照的に,移住者に,家族を 伴って移動すること,後の段階で家族と再開すること,あるいは少なくとも定期的に家族を訪問することを 許可している政策は,移民の福利にとって重要であることが示されてきている.  社会的包摂や社会的支援のプログラムは,社会的孤立のリスクを削減することに役立つ.移住先社会にお (co-national) ける,国籍が同じ 移住者との間だけでなく,移住先社会の市民との間での社会的ネットワーク 移民が所属感を発展させることに役立ち, の形成は, 労働市場参入や社会的統合を促進する.移住先 同時に, [受 国は,移住者が現地の言葉や文化を学ぶこと,および居住場所を選定することを奨励するあるいは可 け入れ] 能にする政策を採用することによって,そのようなネットワークの形成を促進することができる 68.  出身国に残された家族も,両親,配偶者,あるいは子供の不在によって,特に離れた状態での生活が長期 化する場合には,苦境を経験する 69.移住した人が不在であることは,たとえ離れて生活している家族が 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 103 移住先の家族による送金から利益を享受している場合でさえ,マイナス効果を持ちうる 70.例えば,移住 者である両親が不在であることは,残されている子供たちにみられるさまざまな問題と関連がある.そのよ うな問題として,アルバニアにおける学校の出席率の低下 71,アルバニアとエクアドルの両国における不 十分な心理的な福利 72,タイにおける行為障害の発症,それにインドネシアにおける敵対的な精神症状の 発症 73,などがある.  移住者の出身国において,移住者の家族のために公式および非公式の両方の社会的支援システムを創設 することは極めて重要である.移民世帯のネットワークは非公式な社会的サービスを提供することができ る.その実例として,フィリピンの船乗り移民世帯のネットワークや,インドネシアのデスミグラティフ (Desmigratif)という村レベルの支援プログラム,モザンビークにおける移民支援ネットワークなどがあ る.他の親類が介護者として介入する場合や,送金額によって家族が有料の介護サービスを探すことができ る場合にも,移民家族の福利に対するリスクを減らすことができる. 帰国  世界全体で,推定で全移民の 40%は最終的には出身国に戻っている.しかし,この値は移住先国につい て横断的にみると,国毎に大きく異なっている 74.GCC 諸国へ移住した人はほぼ全員が最終的には出身国 に帰っている.というのは,これら諸国への移住のすべてが一時的であることが意図されているからだ 75. –  OECD 諸国では,移住者の 20  –  50%は到着後 5  10 年の間に,出身国に戻る,あるいは第三の国へ移動 するために,移住先国を離れる.しかし,例えば,アメリカと西ヨーロッパの間には著しい相違がある(図 4.9 76. および 4.10)  帰国するつもりである移民は永住を意図している移民とは違った行動をとる.後者は,言葉の学習を含め, 移住先国に固有な人的および社会的な資本に投資するより強い動機を持っている.対照的に,帰国を計画し ている移民は,そのような中期的な投資をすることに,たとえ低賃金で働くということを意味する場合でさ え,消極的な傾向にある.帰国を計画している移民は,貯蓄率や送金比率がより高い 77.  滞在するか,あるいは帰国するかという意図は時とともに変化するかもしれない.帰国の決定は,当人の 出身国と移住先国の両方の社会における社会経済的な状況によって左右される.トルコ人移民のドイツから トルコへの帰国は,ドイツで経験する経済的な困窮や外国人嫌悪に加えて,滞在中における母国コミュニティ とのかかわり具合に影響されてきている 78.同じく,モロッコ人移民にとっては,モロッコに投資機会や 社会的な結び付きがあることが,帰国の決断にとって鍵を握る役割を果たしてきている 79.もし移住先国 を去れば再び戻ることはできないかもしれないということを認識することは,本国に戻ることに対する移民 のインセンティブを低下させる 80.逆に,移民に移住先国に再び戻るという選択肢がある場合,そして特 に市民権を取得している場合には,そのような移民,特に教育水準が相対的に低い移民は,出身国と移住先 国の間の循環的な移住により頻繁に従事する 81.  大勢の移民が自発的に出身国に戻っている.そのような移民は,法的には滞在することができるものの, 例えば,意図した資源を貯蓄したことなどが理由で,帰国を選択している.オランダでは,貯蓄目標を達成 した移民は出身国に戻る可能性が高いようであり,自発的に出身国に戻る公算が最も大きいのは,最高のス キルを有する移民とスキルが最も低い移民の両方である 82.バングラデシュとフィリピンでは,十分な資 産を蓄積することができた移民は,一時的な移住を数回にわたって行った後,出身国内の労働市場に復帰す る傾向にある 83.  時として,突然の経済ショック,家族からの圧力,その他の社会的要因が,さらに長く滞在できる法的権 利がある場合でさえ,帰国の決断を突然に引き起こすことがある.COVID-19 のパンデミックの期間には, 多くの移民労働者,特に仮契約の労働者は,仕事を失ったことや,移住先国が強制的に送還を行ったことが 理由で,出身国への帰国を強制された 84.  海外での成功裡の滞在の後に自発的に帰国する一時的な移民は,多くの場合,出国前よりも結果として裕 104 世界開発報告 2023 図 4.9 アメリカに移住した人のごく少数のみが出身国に戻り,それは主に他の高所得 OECD 諸国出身者である アメリカを離れた移民の割合(%);ジェンダー別,出身地域別 50 40 アメリカを離れた 移民の割合 30 (%) 20 10 0 アフリカ アジア 中央および ラテンアメリカ 西ヨーロッパ / 東ヨーロッパ カナダ / オース トラリア / ニュージーランド 男性 女性 出所:American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs- surveys/acs からのデータに基づく Bossavie and Özden 2022. 注:OECD = 経済開発協力機構. 図 4.10 西ヨーロッパへ移住した人の多くは出身国に戻るが,東ヨーロッパ諸国から移住した女性合はそうではない 西ヨーロッパを離れた移民の割合(%);ジェンダー別,出身地域別 80 70 西ヨーロッパを離れた 60 移民の割合 50 40 (%) 30 20 10 0 アフリカ アジア 中央および ラテンアメリカ その他 東ヨーロッパ 男性 女性 出所:Employment and Unemployment (LFS): Overview (European Union Labour Force Survey, Overview) (dashboard), /web/lfs からのデータに基づく Bossavie and Eurostat, European Commission, Luxembourg, https://ec.europa.eu/eurostat​ Özden 2022. 福になる 85.そのような移民は,帰国と同時に,特により高いスキルを有している場合には,通常は賃金 プレミアムから利益を得る 86.このプレミアムは,移住先国で得た仕事上の経験や人的資本に対する需要 が出身国にあるか否か,移住先国の開発水準,および海外における滞在期間の長さなどに依存する.成功し ている移民は,出身国を離れる以前よりも資本へのより多くのアクセスを有し,移民を経験していない人た ちよりも住宅やその他の資産への投資を行うことや,企業家になる可能性がより高いようである 87.貯蓄 が多いことや海外滞在が長いことは,帰国後の企業家的活動と正の相関関係を有する 88.  しかし,自分が望んでいても法的に滞在できない移民もいる.ビザの有効期限が切れているのかもしれず, 亡命の申請が却下されたのかもしれず,あるいは最初から滞在する法的権利を有していなかったのかもしれ 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 105 ない.そのような移民は,自発的に帰国する,帰国に関して支援を受ける,あるいは強制送還される.強制 的に帰国させられる(帰国を促される,ないしは国外送還される)人の数は自発的に帰国する人の数を大幅に 下回っている.平均すると,アメリカや,カナダ,EU,日本,韓国から強制的に帰国させられている人は毎年, 移民総数の 2%未満である 89.  しかし,強制的に送還された人たちの社会経済的状況は,帰国後はより悪くなる 90.そのような移民は 帰国の準備をしていた公算は低く,多くの場合に貯蓄や,社会的および人的な資本を十分に蓄えられるほど 長期には滞在していない.書類を持たない移民も同様に,成功裡に帰国するのに必要な金銭的,人的,およ び社会的な資本を蓄積できる公算は低いであろう.その結果,書類を持たない移民は,書類を有する移民や 移住しなかった人々と比べて帰国後に賃金ペナルティを受ける.それはエジプトの事例で立証されていると おりである 91.  移民の行き先[受け入れ]国にとっては,政策課題は二重である.第 1 に,受け入れ国は自主的に帰国す る人たちを支援することができる.それは例えば,移民が貯蓄をするのを可能にする労働市場政策を採用す る,あるいは,特に当人が移住先国経済のニーズに適合するスキルや属性を持っている場合に,移民が移住 先国と出身国の間を往復することを可能にすることによる.第 2 に,受け入れ国は強制送還される移民を 人道的に処遇しなければならない.場合によっては,一部の帰国移民が出身国で再統合するのを支援するこ とができる 92. 時には,失敗する  当人の持っているスキルや属性が移住先社会のニーズに高度に適合している場合でさえ,移動中,ないし は目的地で直面する状況によって,移住が期待通りにならない移民もいる.  スキルと属性が移住先国のニーズに高度に適合している移民にとってさえ,そして,書類を持たない移民 にとっては特に,移動は危険――時には命にかかわる危険――を伴うことがある.イタリアでは,書類のな い移民の 45%は,移動でアフリカ諸国を通過する際に肉体的な暴力を経験したと申告している 93.移動中に, 移民は無給で働かなければならなかったり,当局あるいは犯罪組織に拘留されたりした.アデン湾とイエメ ンを経由してサウジアラビアへ到達することを試みる人たちに加えて,中央アメリカからアメリカに向かう 途上の書類を持たない大勢の移民は,誘拐や,犯罪組織およびその他の活動組織による強奪や他の形態の暴 行を経験している 94.事前に全旅程を賄う支払いをすることができない移民は特にリスクが大きい.女性 や思春期の少女は性的な暴力や搾取に直面する 95.  ひとたび移住先に着いても,一部の移民は搾取的な労働条件に直面する.書類を持っている場合でさえ, 移民は市民あるいは永住者に与えられている労働保護から常に利益を得られるわけではない.移民は常に最 低賃金法の対象に含まれている,あるいは労働組合への加入や団体交渉への参加が認められているわけでは ない 96.また,移民労働者は多くの場合に,自分の権利に関する十分な情報を欠いており,それらを請求 するために必要な社会的ネットワークや言語スキルを持っていないかもしれない.正式な書類を欠いている こと,非倫理的な採用が行われていること,そして移民の権利の保護ないしは執行が行われていないことが, リスクをいっそう高めている.  長時間労働や労働災害の発生頻度が高いことは,移民の間ではより一般的である 97.こういった状況は, 労働と居住の許可が特定の雇用者に結び付いており,仕事を変えることに関する移民の選択肢が制限されて いる場合には発生しうる.雇用者の支配的な立場は,移民の賃金を削減するだけでなく 98,違法な強制労 働の利用につながるかもしれない 99.GCC 諸国に移住した低スキル移民にとっては,賃金の不足,労働時 間の超過,および労働安全衛生問題などに起因する総損失額は,平均すると,推定で,実際の賃金総額の 27%に達している 100.一部の移民は,他の選択肢を持っておらず,そして移住のコストを返済し,期待さ れている出身国への送金を行う必要があることから,貧弱な労働条件を受け入れるという圧力に直面してい る.詐欺の犠牲になり,結果として補償がほとんど,あるいはまったくない強制労働をさせられている移民 106 世界開発報告 2023 もいる.  一部の極端な状況下では,移民は虐待的な雇用者や,人身売買業者,採用代理人などによる犯罪,暴力, それに搾取などにさらされている 101.移民はパスポートを没収されているかもしれず,移民は警察へ通報 すると脅かされているかもしれない.あるいは,債務という束縛に拘束されてローン返済を強制されている かもしれない.その結果,現地の市民との比較で,特に建設と家事労働の部門では 103,移民が強制労働― ―近代的な奴隷制の一種と言われている――を経験する可能性は 3 倍の高さとなっている 102.家事労働者 は,多くの場合に孤立化しており,労働法による保護が不十分であることから,特別なリスクにさらされて いる 104.人身売買業者の検挙は.犠牲者が保護されておらず,売買業者を報告した後には移住先での滞在 が許されなくなる場合には,阻害される 105.  外国人に対する暴力の突発的な発生は世界中の移民を脅かしている.多くの移民は,なかでも地位や,肌 の色,宗教などを理由に侮辱されたり脅されたりしている.一部の事例では,移民の店舗や,自宅,集団 宿泊所などが群衆によって攻撃され,移民は肉体的に負傷したり死んだりしている 106.ドイツでは,外国 人は 2015 年と 16 年に難民の流入が最も多かった際に,5,000 件以上の政治的な動機の犯罪を経験した. 2021 年には 2,000 件以上の同種の犯罪を経験した 107.南アフリカでは,外国籍の人(ほとんどが他のア や,そのような人たちの企業に対する攻撃に加えて,外国人に対する暴動が 2008 年以降, フリカ諸国出身) 数回にわたる波となって発生している 108.アメリカでは,2001 年 9 月 11 日のテロリストによる攻撃以降, 反イスラム感情やヘイト・クライムの著しい増加がみられている 109.  移住先[受け入れ]国は,国際基準に沿って移民が公正な採用やディーセント・ワークへのアクセスを有す ることを保証することによって,このようなマイナスのインパクトの一部を削減することができる.また, 移住先 国は,強制労働や搾取を阻止することを含め,自国の法規制の執行について責任を負って [受け入れ] もいる.一部の諸国では,移民の安心と安全を保証する取り組みに加えて,強力な反差別の新たな試みが必 要とされている.全体として,移民は――失敗した時でさえ――人道的に処遇されなければならない. 注 1. Occupational Wages around the World (dashboard), ぎが少ないかもしれないからだ.図 4.4 は,移住先国に World Bank, Washington, DC, https://datacatalog?. おける移民の所得増加を,出身国に留まっている人々 worldbank.org/search/dataset/0041465. の賃金と比較しており,より正確な推定値を示してい 2. Occupational Wages around the World (dashboard), る.この図は単に,移民と,移住をしなかったものの World Bank, Washington, DC, https://datacatalog?. 移住者と同じような観察可能な特性と観察不可能な特 worldbank.org/search/dataset/0041465. 性を持っている人――例えば移民がくじ引きで選定さ れる場合など――を比較している.あるいは同じよう 3. Vujicic et al. (2004). な観察可能な特性を持った人どうしを比較しており, 4. Åslund and Rooth (2007); Azlor, Damm, and Schultz- 比較不能な特性の潜在的な相違に対しては調整を行っ Nielsen (2020); Barth, Bratsberg, and Raaum (2004); ている (Clemens, Montenegro, and Pritchett 2019). Braun and Dwenger (2020); Fasani, Frattini, and Minale 12. Amo-Agyei (2020). (2021); Godøy (2017). 13. Jeon, Liu, and Ostrovsky (2021); Madariaga et al. 5. 図 4.4 のパネル a に引用されている研究においては,移 (2019); McDonald et al. (2020); Urzi Brancati, Pesole, 民は申請者の間で無作為に選定されている. and Férnandéz-Macías (2020); 以下に基づく WDR 6. Borjas (1987). 2023 チーム―― Current Population Survey, May 7. Ahmed and Bossavie (2022); KNOMAD and ILO (2021a, 2017: Contingent Worker Supplement (dashboard), 2021b). Bureau of the Census and Bureau of Labor Statistics, 8. ILO (2019). US Department of Labor, Washington, DC, ICPSR 9. Bossavie et al. (2021). 37191, Inter-university Consortium for Political and Social Research, 2021-04-29, https://doi.org/10.3886?/- 10. Ahmed and Bossavie (2022). ICPSR37191.v2.ギグ・エコノミーの中で,一部のギグ 11. 職業による賃金の相違は移住を通じた潜在的な所得の [インターネットなどを通じて受注する単発の仕事.元 増加と同じではない.というのは,移住をする人は出 の意味は,音楽業界のアーティストが行う単発のライ 身国に留まる人と同じではなく(選択効果),そして移 ブ] は,デジタル・プラットフォーム経由で仲介されて 民は,少なくとも短期的には,移住先の国民よりも稼 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 107 いるものの,仕事自体は特定の場所で遂行されている. 27. Aksoy, Poutvaara, and Schikora (2020); Azlor, Damm, そのような仕事は,相対的に多くの移民労働者を引き and Schultz-Nielsen (2020); Bansak et al. (2018); Bertoli, 付けている.そのような仕事の特徴として,移民が容 Özden, and Packard (2021); Fasani, Frattini, and Minale 易に契約できる,新来者に対する差別が少ない,必要 (2021); Ginn et al. (2022); Hainmueller, Hangartner, な社会的あるいは金銭的な資本が比較的少ない,言語 and Lawrence (2016); Marbach, Hainmueller, and は大きな障害とはならない,公式雇用の可能性を制限 Hangartner (2018); Martén, Hainmueller, and している移住規則は適用方式がさまざまである,など Hangartner (2019); Müller, Pannatier, and Viarengo がある (van Doorn, Ferrari, and Graham 2022). 最近,一 (2022); Zetter and Ruaudel (2016). 部の諸国はギグ・エコノミー (における雇用) の規模 28. Beauchemin et al. (2022). に関する定量的なデータを収集し始めている (OECD 29. Baker (2015); Orrenius and Zavodny (2014); Pan (2012); 2019). しかし,ギグ ・ エコノミーの拡大を考えると, デー Pinotti (2017). タ収集に向けた取り組みは強化され,そしてより一層 30. Ibáñez et al. (2022). 2021 年における規則化の第 2 波で 統一されるべきである. 所得は 3 分の 1 増加した (JDC 2023). 14. van Doorn, Ferrari, and Graham (2022). 31. 実例には,アメリカにおける HIB ビザ (Kim and Pei 15. Damelang, Ebensperger, and Stumpf (2020); Duleep 2022),および UAE の労働許可証 (Naidu, Nyarko, and (2015); Mattoo, Neagu, and Özden (2008). Wang 2016) の影響が含まれている. 16. Duleep (2015). 32. ILO (2017). 17. Mattoo, Neagu, and Özden (2012). 33. Kagan and Cholewinski (2022). 18. Duleep (2015). 34. Naidu, Nyarko, and Wang (2016). 19. Astor et al. (2005); Luboga et al. (2011). 35. ILO (2021); UAE (2023). 20. 以下による文献のレビューを参照:Butschek and 36. Abramitzky and Boustan (2017); Aksoy and Poutvaara Walter (2014); Schuettler and Caron (2020). (2021); Lazear (2021). 21. Card, Kluve, and Weber (2018); Clausen et al. (2009); 37. Abramitzky and Boustan (2017); Czaika and Parsons Foged et al. (2022); Lochmann, Rapoport, and Speciale (2017); Lazear (2021). (2019). 38. Mattoo, Neagu, and Özden (2008). 22. Battisti, Giesing, and Laurentsyeva (2019); Butschek and 39. Bound et al. (2015); World Bank (2018b). Walter (2014); Card, Kluve, and Weber (2018); Clausen et al. (2009); Foged, Hasager, and Peri (2022); Foged, 40. 移住者の出身国に残された子供に対する影響は第 5 章 Kreuder, and Peri (2022); Joona and Nekby (2012); で検討されている. Sarvimäki and Hämäläinen (2016). 41. Nakamura, Sigurdsson, and Steinsson (2022). 23. データの入手可能性が低いことから,証拠は高所得 42. OECD (2017). 国に基づく.難民に関しては Dustmann et al. (2017); 43. Abramitzky and Boustan (2022); Abramitzky et al. Fasani, Frattini, and Minale (2021) を参照.カナダに (2021). ついては Aydemir (2011).EU 内の行先国については 44. OECD (2017). 以下を参照:ベルギーについては Dries, Ive, and Vujić 45. Alesina et al. (2018). (2019),フィンランドについては Sarvimäki (2017),イ タリアについては Ortensi and Ambrosetti (2022),オ 46. Kırdar, Koç, and Dayıoğlu Tayfur (2021). ランダについては Bakker, Dagevos, and Engbersen 47. Amuedo-Dorantes and Lopez (2015); Arenas-Arroyo (2017),スウェーデンについては Åslund, Forslund, and and Schmidpeter (2022). Liljeberg (2017); Baum, Lööf, and Stephan (2018); Baum 48. Arenas-Arroyo and Schmidpeter (2022); Santillano, et al. (2020), スイスについては Spadarotto et al. (2014). Potochnick, and Jenkins (2020). イギリスについては Ruiz and Vargas-Silva (2018).イ 49. Felfe, Rainer, and Saurer (2020); Orrenius and Zavodny ギリスに在住する東アフリカ系アジア人については (2014). Anders, Burgess, and Portes (2018).アメリカについて 50. 経済移民は,移住先に到着した時点で移住先国の人と は Connor (2010); Cortes (2004); Evans and Fitzgerald 比べてより健康である傾向にある一方で,難民は結果 (2017).移民に関しては,オーストラリア,ヨーロッパ として健康状態は悪い傾向にある.難民とその他の 諸国,イスラエル,ニュージーランド,およびアメリ 移民との違いは,明示的な政策に加えて,選択の理 カを含む高所得の行先国を対象に含む Duleep (2015) に 由,および紛争や強制退去の影響に起因する (Chin and よる文献のレビューを参照.アラブ首長国連邦に在住 Cortes 2015; Giuntella and Mazzonna 2015; Giuntella et する移民については Joseph, Nyarko, and Wang (2018) al. 2018; McDonald and Kennedy 2004). を参照. 51. Garcés, Scarinci, and Harrison (2006); Giuntella and 24. Dustmann (2000); Dustmann and Görlach (2016); Mazzonna (2015); Grove and Zwi (2006); Hacker et al. Slotwinski, Stutzer, and Uhlig (2019). (2015); Hasager and Jørgensen (2021); Nwadiuko et al. 25. Dustmann (2000); Dustmann et al. (2017). (2021); Orrenius and Zavodny (2009); Pega, Govindaraj, 26. Bakker, Dagevos, and Engbersen (2014); Bevelander and Tran (2021). and Pendakur (2014); Bevelander and Veenman (2006); 52. Baptista and Marlier (2019); Fonseca, McGarrigle, and Helgertz, Bevelander, and Tegunimataka (2014); OECD Esteves (2010). (2011); Peters, Schmeets, and Vink (2020); Steinhardt 53. Asi (2020). (2012). 54. Testaverde and Pavilon (2022). 108 世界開発報告 2023 55. Testaverde and Pavilon (2022). 78. Tezcan (2018). 56. WHO (2022). 79. de Haas, Fokkema, and Fihri (2015). 57. Alacevich and Tarozzi (2017); van den Berg et al. (2014). 80. Czaika and de Haas (2017); Flahaux (2017). 58. Lavy, Schlosser, and Shany (2021). 81. Constant and Zimmermann (2011). 59. 以下のデータに基づく WDR 2023 チームの試算: 82. Bijwaard and Wahba (2014). MIPEX (Migrant Integration Policy Index 2020) 83. Dustmann and Görlach (2016). (dashboard), Migration Policy Group and Barcelona 84. Testaverde and Pavilon (2022). Centre for International Affairs, Barcelona, https:// 85. Beauchemin et al. (2022); David (2017); Gubert and www.mipex?.eu/. MIPEX は以下を含む 56 カ国におけ Nordman (2008); Mezger Kveder and Flahaux (2013). る移民を統合する政策を測定――全 EU 加盟国,その 他ヨーロッパ諸国 (アルバニア,アイスランド,モルド 86. Wahba (2015). バ,北マケドニア,ノルウェー,セルビア,スイス, 87. Bossavie and Özden (2022). ロシア,トルコ,ウクライナ,およびイギリス) ,アジ 88. Bossavie et al. (2021). ア諸国 (中国,インド,インドネシア,イスラエル,日 89. 下記からのデータに基づく WDR 2023 チームの試算 本,ヨルダン,韓国,サウジアラビア,および UAE) , ―― Office of the Auditor General of Canada, Canada 北アメリカ諸国 (カナダ,メキシコ,およびアメリカ) , Border Services Agency, Eurostat, Immigration 南アメリカ諸国 (アルゼンチン, ブラジル, およびチリ) , Services Agency of Japan, Korean Ministry of Justice 南アフリカ,オセアニア (オーストラリアおよびニュー Immigration Service, and US Department of Homeland ジーランド) . Security. 60. Hacker et al. (2015); Watson (2014); WHO (2022). 90. David (2017); Gubert and Nordman (2008); Mezger 61. Salmasi and Pieroni (2015). Kveder and Flahaux (2013). 62. Abel (2017); Adida, Laitin, and Valfort (2010); Carlsson 91. Elmallakh and Wahba (2021). (2010); Dávila, Mora, and Stockly (2011); Duguet et al. 92. 詳細は第 8 章参照. (2010); Hersch (2008); Oreopoulos (2011); Quillian and 93. World Bank (2018a). Midtbøen (2021); Quillian et al. (2019); Weichselbaumer (2020). 94. Albuja (2014); DRC and RMMS (2012); HRW (2014). 63. Auspurg, Schneck, and Hinz (2019); Baldini and Federici 95. WHO (2022). (2011); Bosch, Carnero, and Farré (2010). 96. Amo-Agyei (2020); Faraday (2022); KNOMAD (2022). 最 64. de Coulon, Radu, and Steinhardt (2016); Gould and Klor 低賃金制はカタールでは 2021 年 3 月に整備された. (2016); Pascoe and Richman (2009); Steinhardt (2018); 2022 年に UAE は移民労働者のための失業保険を導入 Suleman, Garber, and Rutkow (2018); Weichselbaumer した (ILO 2021; UAE 2023). (2020); WHO (2022). 97. Aleksynska, Kazi Aoul, and Petrencu (2017); Hargreaves 65. Bertrand and Duflo (2016); Glover, Pallais, and Parienté et al. (2019); Moyce and Schenker (2018). (2017). 98. 実例には以下のインパクトが含まれる――アメリカの 66. Juárez et al. (2019); Martinez et al. (2015); Wang and H1B ビザ (Kim and Pei 2022) および UAE の労働許可証 Kaushal (2019). (Naidu, Nyarko, and Wang 2016). 67. Giuntella and Lonsky (2020); Giuntella et al. (2021); 99. ILO (2017). Hainmueller et al. (2017); Ibáñez et al. (2022); Aleksynska, Kazi Aoul, and Petrencu (2017). 100. Venkataramani et al. (2017). ILO, Walk Free, and IOM (2022); WHO (2022). 101. 68. Bailey et al. (2022). David, Bryant, and Joudo Larsen (2019). 102. 69. Parreñas (2001). ILO, Walk Free, and IOM (2022). 103. 70. Ivlevs, Nikolova, and Graham (2019). ILO (2016); UNDP (2020). 104. 71. Giannelli and Mangiavacchi (2010). UNODC (2008). 105. 72. Cortina (2014); Giannelli and Mangiavacchi (2010). Benček and Strasheim (2016); HRW (2020); Steinhardt 106. 73. Graham and Jordan (2011). (2018). 74. Chen et al. (2022). BKA (2021). 107. 75. Bossavie and Özden (2022). Xenowatch Dashboard: Incidents of Xenophobic 108. 76. Bossavie and Özden (2022); Dustmann and Görlach Discrimination in South Africa, 1994?29 January (2016); OECD (2008). 2023, Xenowatch, University of the Witwatersrand, Johannesburg, https://www.xenowatch.ac.za/ 77. 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WDR2023 Migration Database, World (図 S4.1) た女性の間では 163%増加した .この割合は,ス 2 023/ Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr​ data. キルが低い女性移民における増加(39%)だけでなく,高等 (138%) 教育を修了した男性移民における増加 も上回ってい る 13.単身でアメリカに移住する大学を卒業した女性の比率 このことは, は着実に増えており, とりわけ南アジアと中東・北アフリカの特定の諸国の出身者にあてはまる. それは障害にもなりうる 14.例えば,  制限的なジェンダー規範は移住をする動機になりうるものの, イラク, ヨルダン,スーダン,そしてシリアでは,女性は男性と同じ条件で自国外を旅行することはできない 15.他 の諸国では,社会的な期待が女性にとってより大きな負担となっている.それは例えば,家族に対する責務 を果たす,あるいは独立して決断を下すといったことである.このような負担は移住に向けた女性の選択肢 を制限するかもしれない. 行き先国における労働市場へのアクセス  大勢の移民女性は行き先国の労働市場へのアクセスにおいて挑戦課題に直面している.入国移住した女性 のなかには非公式なサービス部門以外では労働市場機会がほとんどない人もいる.それ故,そのような女性 は多くの場合に不安定な条件で家事ないし介護の労働者として働いている 16.例えばコロンビアでは,ベ ネズエラ人女性は男性よりも非公式部門で働いている可能性が高い.また,最近の女性移民が失業している 割合は,同じ教育水準の男性の 2 倍である.さらに,移民女性は,より高い教育程度を有している場合で さえ,教育程度が相対的に低い男性よりも稼ぎは少ない 17.女性の経済的な潜在力を活用し,ジェンダー や労働差別という問題に取り組むための,対象を絞った政策が必要とされている.  家族と再統合するために移住する女性の多くは――ヨーロッパでは移民女性の約 3 分の1を占めている 18 ――,労働市場へアクセスするために支援を必要としている.この支援に含まれるのは,保育や,スキルのマッ チング,言語習得,職業訓練などである.ドイツのいくつかの地方自治体は「ママはドイツ語を学んでいる」 という新たな試みを実施している.これは移民女性にドイツ語の課程と授業中の保育サービスを提供してい る 19.イタリアのトリノ市は,北アフリカ出身の教育程度が低く,アラビア語を話す女性に,言語や,算数, 市民教育,移民の権利などの課程を提供してきている.そのような女性は,仕事や社会的ネットワークを欠 ジェンダー 119 いていることから,孤立して生活していることが多い 20.確かに,女性や少女にとっては,働くことがで きるということは社会的孤立を低下させ,社会的統合の見通しを改善することに役立つ.  女性難民は追加的な挑戦課題に直面することが多い.強制的な退去の場合,家族はしばしば無理に離散さ せられ,多くの場合に保育の全責任が女性に委ねられることになる.支援のネットワークや保育を利用でき ない場合,女性は労働力へのアクセスにおいて極度に困難な状況に直面する.フルタイム雇用を探す際には 差別にも遭遇するかもしれない.例えば,あるシリア人の難民女性は主な,ないし唯一の稼ぎ手としての役 割を果たすために,仕事,保育,それに家事をかけもちしなければならない 21.  政策や支援プログラムは,移民女性にとっての労働市場へのアクセスにおけるジェンダー間の差別に対処 することに役立ちうる.市民社会組織や地方政府は,さまざまな新規の構想を開発してきており,さらに追 加的な取り組みが国レベルで準備中である.例えば,ポルトガルは地方自治レベルで,ブラジルやカーボベ ルデから移住してきた女性に対してスキルや職業の訓練を提供するイニシアティブを実施している 22.ヨ ルダンでは,最近行われた労働規則の変更によって在宅ベースのビジネスを登録することが可能になった. この新しい政策は,シリア人難民女性と,育児の責任のために自宅外で働く能力が制限されているヨルダ ン人女性の双方にとって有益であることが期待されている 23.並行して,フィリピンなどの移民出身国は, 移住先国における移民の家事労働者――ほとんどが女性――の権利を保護するために,一連の要件を設定し ている 24.しかし,そのような保護的な措置は,移民が仕事や機会を拒否されることがないように,他の 経済的な考慮事項と調整されなければならない 25.  移住先国における教育は出身国では入手可能ではなかったキャリアに女性がアクセスする一助になりう る.それは少女にとっては一層重要である.OECD 諸国の移民少女は,あらゆる教育レベルにおいて少年 よりも成績が良く 26,このことは移住した少女への教育投資には高い収益率が期待できることを示唆して いる.教育と労働市場アクセスの規模を拡大するための 1 つの重要な構成要素は,言語課程の利用可能性 である. ジェンダーに基づく暴力  女性や少女の一部は,難民と難民とは認定されていない移民の両方について,出身国における性的および (GBV) 「ジェンダーに基づく暴力」 から逃れるために移住している.女性や少女は,特に武力衝突という状 況の中で GBV から影響を受けている.例えばコンゴ民主共和国では,女性と少女は驚く程の規模で強姦さ れてきている 27.国際救済委員会(IRC) –  はコンゴ民主共和国について 2003  06 年に4万件の GBV を登 録した 28.実際に,2005  – 07 年の間に南キブ(South Kivu)州だけでも武力紛争に関連する 3 万 2,000 件以上の性的暴力が登録された.実際の数字はさらに多いと考えられている 29.紛争,強制退去,そして 早婚を含め,人道的危機といった状況下では,他の形態の GBV も広くみられる 30.  女性はしばしば,紛争に関連のある状況と,より安全な状況の両方において,親密なパートナーの暴力に さらされている.そのような事態であっても,トラウマや,報復に対する恐れ,問題に対処する法律の欠如 などが理由で,そのような暴力は多くの場合に通報されていない 31.アフガニスタンや,ギニア,ハイチ, リビア,スーダン,シリアなどの,脆弱性,紛争,あるいは暴力の影響を受けている数カ国には,家庭内暴 力を取り扱っている具体的な法律はない 32.  女性や少女は,移住のあらゆる段階で,性的およびジェンダー的なマイノリティと同じく,GBV の大き なリスクにさらされる.移民は一般に――しかし,女性や,少女,性的およびジェンダー的なマイノリティ は特に――,移住のルートに沿って性やジェンダーに基づく暴力について非常に高いリスクに直面する.強 制された移民や密入国者は特に影響を受けている 33.被害者が地方当局に犯罪を通報する能力が制約され ている場合――正当な書類を持っていない場合など――,リスクはさらに大きくなる 34.女性が性的暴力 にさらされる公算は地中海西部および中部ルートに沿った場所では男性の約 3 倍の高さである 35.同伴者 のいない女性や少女は,同伴者のいる女性と比べると,人身売買 36 や,性的搾取,虐待の犠牲者になる確 120 世界開発報告 2023 率が 71%高い.  ジェンダーに基づく暴力は,このことに特化した総合的な政策を緊急に必要としている.移住者の出身国 と行き先国がこの問題に対処し始めている.例えば,スロベニアは GBV リスクを緩和するために難民収容 施設に専門スタッフを配置している.スウェーデンでは,受付センターのスタッフは亡命申請を処理するあ らゆる段階で GBV の被害を受けている可能性のある人を識別できるよう訓練されている 37.2019 年以降, ベトナム政府は大使館や領事館のスタッフに GBV,労働移住,および人身売買に関する情報を定期的に報 告し,直接的なサービス提供や委託を通じて GBV に対処するよう指示している 38.しかし,女性グループ に対する資金供与や投資の拡大,遺族向けに維持されているサービスへのアクセスの拡大,強制退去という 状況における GBV を阻止する取り組みへの投資,そしてより良いデータを通じた局所的な状況の理解の改 善を含め,より多くのことがなされる必要がある 39. エンパワメントへ向かう道  人々はより良い生活を求めて母国を去る.このことは,女性と少女,そして性およびジェンダーのマイノ リティにとっては,地元のジェンダー規範がそのような人たちの移動性や,司法の利用,安全性,それに労 働市場への公正なアクセスなどを阻害している場合には,特に重要な選択肢である.移住はエンパワメント, 金融面での独立,教育のより改善された機会,安全性,家族再統合,そして雇用につながりうる.しかし, そのような課題は既存の脆弱性を増大させうる. 移住は追加的な挑戦課題をもたらし, 女性とその家族にとっ ての移住の利益を最大化するためには,女性や子供の教育機会へのアクセスを増大させ,労働市場における 差別と戦い,GBV を防止およびそれに対処し,そして社会的統合に向けて取り組むことによって,差別に 対処するべきである.政策策定により良い情報を提供するために,ジェンダーや移住に関するさらに多くの ――分解された詳しい――データが必要である. 注 1. 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UNHCR (United Nations High Commissioner for Refugees) and Blumont. 2019. “First Syrian Refugee-Owned 5 123 移民の出身国 開発に向けて移住を管理する 重要なメッセージ  移民のスキルや属性が移住先国のニーズに高度に適合する場合,移住者の出身国も利益を享受する.利益 には送金や,知識移転,労働市場に対するプラス効果などが含まれる.このような利益は正規の移民と非 正規の移民の両方に生じる.ただし,移民の利益,およびその利益を移民の出身国に滞在している家族と 共有できる程度は,当該移民が正規の地位を有している場合の方が大きい.  しかし,移住した人が不在であることは,その家族,および高いスキルを有する労働者が出国移住する際 の頭脳流出の影響を含めて,移民の出身国にとってはマイナスの面もある.コストは利益よりも小さい傾 向にはあるものの,一部の国では,代価は相当な大きさになる.  移民の出身国は労働での出国移住を自国の開発戦略の不可欠な部分にしている場合に,享受する利益が最 も多くなる.そうすることによって,移民の出身国は貧困削減に対する移住の正味の効果を増大させるた めに,政策を採用し,そして移住先国との二国間協調関係に関与することが可能となる(図 5.1). 図 5.1 移民の出身国の政策は貧困削減に対する移住のインパクトを最大化できる 移民の出身国: 送金と知識移転の円滑化, スキルの構築と頭脳流失の緩和, 海外に在住する自国民の保護 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する 難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を最大化 最大化する する 適合度 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 持続可能性を 移動の必要性を削減, 確保,コストを 移民を受け入れ,あるいは 低い 分担 人道的に帰国 行き先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 124 世界開発報告 2023 送金がもたらす開発面の利益の全てを獲得する  低・中所得国向けの送金は過去 20 年間に劇的に増加してきている.2021 年には,その額は 6,050 億 ドルであったと推定されている 1.ただし,その測定は技術的な困難を生じさせている(スポットライト 5). 2021 年には,インド,メキシコ,中国,フィリピン,およびエジプトが,この順で,主要な受領国であった. (図 5.2) 送金総額は,低・中所得国への記録されている資本流入総額の約 3 分の 1 を占めている .送金は, 中央アメリカおよび中央アジアの数カ国や,規模の小さい低所得国,それにレバノンのような多くの海外離 散者がいる諸国においては,GDP のなかでも大きな割合を占めている(図 5.3).  家族宛てに送金できるということが,多くの場合に,移住する人の主要な動機である 2.多くの家庭が最 適な移住戦略――誰が,どこへ,どれだけの期間移住して,そして受取送金をどのように使うかなど――を 一緒に決定している 3.特にコミュニティが必要に迫られている場合には,幅広くコミュニティ宛に送金す る移民もいる.  送金の流入の規模は移民の特性次第である.大勢の低スキル労働者は,単身で移住し,そして本国に残っ ている家族を支えるために所得の大きな割合を定期的に送金している 4.例えば,GCC 諸国に滞在してい るインド人移民は,平均すると,所得の約 70%を家族に送っている 5.低スキル移民の間では,女性はよ り多額を送っていることが多いようである.対照的に,高スキル移民は,裕福な家庭の出身で,近親者と一 緒に移住し,そして永住する可能性がより高い.高いスキルを有する移民はより多額を送金しているかもし れないが,送金は散発的になる傾向がある 6.  送金のフローは,移民が移住先国でどの程度成功しているか,仕事に就いているか,そしてどの程度稼い でいるか,にも左右される.送金額は,移民のスキルや属性が移住先社会のニーズにより高度に適合してい るほど,より大きくなる――これが,移民の出身国がこのような移住からより多くの利益を得る理由である. 送金は,移民が正式書類を伴う地位を有する場合,より多くなる.非正規の移民は雇用不安や所得変動を経 図 5.2 低・中所得国への外部からの融資金のフローのなかで送金は大きな割合を占めていると同時に, 増加しつつある 800 700 600 資金の流れ 500 400 ( 億ドル) 10 300 200 100 0 ‒100 19 0 19 1 19 2 19 3 19 4 19 5 19 6 19 7 19 8 99 20 0 20 1 20 2 20 3 20 4 20 5 20 6 20 7 20 8 09 20 0 20 1 20 2 20 3 20 4 20 5 20 6 20 7 20 8 20 2 19 20 1 (推 20 20 2 (予定) (予 ) ) 23 測 測 9 9 9 9 9 9 9 9 9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 19 20 20 2 0 2 FDI 送金 証券(債券・株式)投資の流れ ODA 出所:World Bank 2022a. 注:上図の対象になっているのは,世界銀行の分類による低・中所得国である.2021 年に関するデータは推定値であり, 22 年と 23 年に関するデータは予測値である.証券投資の流れ(ポートフォリオ・フロー)は債券と株式の両方への投資を含む. 中国を除けば,過去 5 年間には,送金フローが FDI フローを上回る傾向が示されるだろう.FDI =外国直接投資;ODA =政 府開発援助. 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 125 図 5.3 送金が国民所得の 5 分の 1 以上を占めている国もある 60 GDPに対する送金の割合 50 50 40 38 34 32 31 28 27 30 24 22 22 20 (%) 10 0 ア ア ン ン ス ス チ ガ ル ル ノ タ ラ モ ビ イ ギ ン ド ー ュ バ ス ト バ ン サ ハ ル パ ジ キ レ ガ ル キ ネ ン ジ サ ホ タ ル エ 出 所: 送 金 ――KNOMAD Remittances Data (dashboard), Global Knowledge Partnership on Migration and Development, World Bank, Washington, DC, https://www.knomad.org/data/remittances; World Bank 2022a.GDP( 現 行 米 ド ル )―― World Economic Outlook Databases (dashboard), International Monetary Fund, Washington, DC, https://www.imf.org/en/ Publications/SPROLLS/world-economic-outlook-databases#sort=%40imfdate%20descending. 注:送金の対 GDP 比は 2022 年の推定値に基づく. 験する可能性がより高く,したがって,規則的かつ予測可能な仕方で送金できる可能性は低い 7. 貧困削減に対する効果  送金は,移民の出身国における貧困を削減するための強力な手段であることが判明している.ネパールで は,GCC 諸国とマレーシアからの送金が 2001  – 11 年における貧困率の低下の 40%を占めた 8. (図 5.4) 2018 年にキルギスでは,送金は貧困世帯の割合を 30.6%から 22.4%に低下させたことが見出された 9. –  中央アメリカとカリブでは,1970  2000 年に,移民が所得分布で最低位 40% に属する層の出身である 地域において,貧困の大幅な削減を経験した 10.貧困削減に対する同じようなプラスの効果は,インドネ シアやフィリピンでも発見されている 11. [受け取り]   送金は以下の通り,さまざまな側面の全体にわたって貧困削減に貢献している:  送金は世帯所得を増加させる.例えばバングラデシュでは,スキルの低い移民からの送金は,移民の家族 の所得を倍増させている 12.アルバニアでは,送金は所得分布上で低位の第 30 百分位層に属する世帯の 1 人当たり所得をほぼ倍増させている 13.一部の家計では送金は,ソマリアなどの特に紛争影響諸国では, 生命線として機能している.国内で退去させられ,定住圏外に住んでいる人たちは,国際送金で年当たり 平均で 876 ドル――1 人当たり GDP のほぼ 2 倍の水準――を受領している 14.  送金は消費を増やし,食料安全保障を向上させる.例えば,送金を受領しているインドネシアの世帯は, 送金がない場合に想定される支出と比べて約 16%多く食料に支出している 15.エチオピアでは,送金を受 け取っている農場世帯は十分な食料の調達に対する心配の程度が低く,栄養不良に陥るリスクも低い 16.  送金は世帯が教育や医療への支出を増やすことを可能にする――すなわち,人的資本投資を可能にし,こ れには長期にわたる重要な利益が伴っている.例えばコロンビアでは,送金を受け取っている世帯は教育 に対して 10%多く支出している 17.マラウイでは,南アフリカへの移住は農村コミュニティにおける子 供の教育達成度を向上させている 18.その他の多くの諸国でも,送金を受領している世帯の子供は就学 期間が長く 19,教育レベルと生涯所得がより高い水準に達する傾向にある 20.  送金は一部の家族員が労働時間を削減することを可能にする 21.ネパールの農村部では,送金のおかげ 126 世界開発報告 2023 図 5.4 ネパールでは 2001 – 11 年の間に,出国移住率が多い村で貧困水準が低下した 20 0 貧困率の変化 ‒20 (%ポイント) ‒40 ‒60 0 10 20 30 40 GCC 諸国およびマレーシアへ向かう出国移住率の変化(%ポイント) 出所:Shrestha 2017. 注:上図はネパールの 2001 年と 2011 年に関する Housing and Population Census のデータを使って作成されている.村は 最初に GCC 加盟諸国とマレーシアに向かう移民の割合の変化に基づいて分類された.次に,村は,それぞれが人口の 1%を 含む 100 個のビンにグループ分けされた.上図の各点は各ビンについて,移住率の変化の平均 (水平軸)と貧困率の変化の平 均(垂直軸) を示している. で女性は農業や非公式な仕事に費やす時間を削減することが可能になっている 22.一部のラテンアメリ カ諸国では,送金のおかげで,農村領域の女性家族員は非公式な無給の仕事に費やす時間数を削減するこ とが可能となった.しかし,男性の世帯員は同じような影響は受けなかった 23.ただし,影響は一様で はない.ナイジェリア 24 とメキシコ 25 では,家族が企業を運営している場合のように,家族の構成員の 一人は,出国移住した人の労働と所得の後継者になる必要があった.  送金はいくつかのジェンダー間格差を埋めることに役立つ.パキスタンなどの一部の諸国では,送金は初 等教育におけるジェンダー間格差を埋めることに貢献している 26.モロッコでは,教育水準が低い両親は, 送金を受領している世帯の場合,学校により長い期間にわたって滞在できるように,娘が労働市場へ参入 する時期を先延ばししている 27.しかし,社会規範が鍵となる役割を果たしている.例えば,タジキス タンの農村部では,送金の主な受益者は少年である.というのは,労働市場では少年の方が少女よりも生 産的であるからだ 28.  利用可能な所得に対する即時的な効果に加えて,送金は以下のようなさまざまな経路を通じて貧困削減に 寄与している:  送金は家計をショックから保護する.送金は家族が経済不況に直面する際には増加し,特に公式の金融市 場へのアクセスが限定的な家族にとっては,消費の変動を抑える.フィリピンでは,台風やその他の自然 災害によって失われた世帯所得の平均で 60%を送金が埋め合わせた 29.エチオピアでは,送金を受け取っ ている世帯は家畜を売却する代わりに,現金準備を使って旱魃に対処している 30.永住移民は頻繁に送 金しているわけではないものの,そのような移民は出身国の家族が経済的に悪いショックに直面した際に は送金を増額する傾向にある 31.危機の時期には,コミュニティ全体に向けて送金を行うことも可能で ある.例えば,ニュージーランドに在住する太平洋諸島出身の移民は,2016 年にサイクロンのウィンス 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 127 トンがそのような移民の出身地域を襲った際,村の生計とより広範なコミュニティを再建するために非政 府組織を経由して物資や支援金を送った 32.  送金は金融面の制約を緩和することによって企業家的な活動を促進できる.モロッコとチュニジア 33 お よびサヘル地帯 34 では,送金を受領している世帯は(自給自足農業ではなく)商業的農業に従事して,近 代的な農業機械を購入する公算が大きい.ナイジェリアでは,送金を受領している世帯は農薬や植え付け 物資により多く投資しており,したがってより多くの収穫を得ている 35.エクアドルでは,送金は男性 の間では自営業者になる確率を,女性の間では零細企業のオーナーになる確率を高めている 36.  送金はそれを受領していない世帯においてさえ貧困を削減している.送金を受領している世帯は支出を増 やし,このことは地元の経済活動とコミュニティ内の他の世帯の所得を押し上げる 37.送金からの支出 は建設業などの非貿易部門における現地の仕事を作り出す 38.アルバニアでは,国際的な移民は自分の 故郷の村ではなく,首都のティラナで事業や住宅に投資する傾向があり,それが都市部の雇用創出や国内 移住を活性化している 39.1997  – 98 年におけるアジア金融危機の最中には,フィリピンの一部地域で は送金の受け取りが増加し,送金はその地域が不況に陥るのを防いだ 40.開発面のインパクトは,これ ら地域では,主に教育への投資の拡大を通じて,長期間にわたって持続した 41.  利益があるにもかかわらず,送金が不平等に及ぼす影響はさまざまである 42.モロッコなど一部の諸国 においては,送金は貧困層の経済的および社会的な移動性を高める 43.しかし,このような動きは複雑に なりうる.不平等に対する送金の影響はどの世帯がどれだけの額を受領しているかに依存する 44.例えば, 送金はコソボでは不平等を拡大させたが,メキシコとパキスタンでは縮小させたことが見出された 45.送 金は最初は不平等を拡大させる可能性がある.というのは,富裕層には移民を海外に送り出す十分な余裕が あり,それ故,より多くの送金を受け取るからだ.しかし,移住が移民ネットワークを通じて容易になり, そしてコストが低下する際には,不平等は時とともに縮小する.このことによって,富裕層ではない世帯も 利益を得ることができるようになる.さらに,送金は――送金を受領して相対的に富裕になる世帯と,同じ コミュニティのなかでそうはならない世帯,の間で――新たな不平等も生み出すかもしれない.  貧困削減に対する送金のインパクトを一層大きくしている政策もある.例えば,移民の出身国において移 民とその家族が送金に結び付けられている貯蓄口座を開設しやすくすることは,そのような人たちが資産を 貯蓄するのを容易にする 46.一部の諸国は,出国する前の移民やその家族に対して,金融リテラシーの研 修も提供しており,このことは貯蓄率の上昇,債務水準の低下,所有資産の増加などにつながっている 47. メキシコでは,女性による土地の所有を可能にする規制改革は,農村部で送金を受け取っている世帯の女性 の構成員の起業家的な活動を活性化してきている 48.移住の開発面での効果を高めていることが示されて いる他の介入策としては,受け取り送金を教育目的に充当するよう世帯を奨励するマッチング補助金制度が (ワシントン DC のエルサルバドル移民を対象にした EduRemesa (2011  ある.2 つの実験的な活動 – 12 年 )49 およびローマのフィリピン移民を対象とした EduPay (2012  – 13 年 )50 は,他の支出カテゴリーを 締め出すことなく教育支出を増加させた. マクロ経済的な安定性  送金は外国為替の安定源であり,それがマクロ経済の安定性を支える.政府開発援助(ODA)のフロー― ―政府対政府――,ないし利潤追求型の外国直接投資(FDI)や他の資本フローとは異なり,送金は家族関係 に基づく私的な個人の間での移転である.外国為替流入に対する寄与においては,送金は輸入品の支払いや 外部に対する債務の返済に利用可能な外国為替準備を増加させる 51.フィリピンでは,送金は最大の外部 金融源であり,貿易赤字をまかない,経常勘定収支を黒字に維持している 52.  送金は,ほとんどが世帯の消費を賄うために使われることから,FDI や他の資本フローよりも変動がよ –  り少ない傾向にある.1980  2015 年の間には,公的資本フローの変動性は送金の 2 倍であり,民間資本 のフローは送金の 3 倍以上の変動を示した(図 5.5)53.送金は危機の時期においてさえ強靭である傾向にあ 128 世界開発報告 2023 図 5.5 1980 – 2015 年において,送金の変動性は他の資本 –  る.例えば,2008  10 年のグローバル金融危機の際に,他 流入よりも低かった の資本流入は突然停止した一方で,送金は相対的に安定した 5 状態を維持した 54.COVID-19 のパンデミックの期間には, 4.2 発生当初における減少の後,移民の移住先国で財政刺激パッ 4 ケージが採用されたことに続いて,送金は急速に回復した 55. 変動性 送金とそれの相対的な安定性が提供する巨額の外国為替の利 3 用可能性は,市場の信頼を繋ぎ留め,政府や企業の借入コス (標準偏差) 2 1.9 トを抑制することに役立つ 56. 1.4  移民が送金を行うことができる能力は移民の出身国におけ 1 0.7 る景気の変動によって影響を受けることはなく,このことは そのような変動を均すことに役立ちうる.例えば,送金の流 0 入は自然災害の後には増えている.ラテンアメリカ・カリブ 送金受領額が大きい諸国 ではハリケーンや他の自然災害の後では,送金は GDP の 4% 送金 ODA FDI 流入総額 から 4.6%に増加し 57,エルサルバドルへの送金は農業が過 出所:De et al. 2019. 酷な状況を経験した後には増加したことが見出された 58. 注:資金フローは各国の GDP に対して相対的に測定されてい  しかし,送金フローは移住先国の景気の変動から影響を る.その変動性は,1980 – 2015 年における平均からの乖離で 受ける可能性がある.例えば,2015 年と 20 年には,石油 測定されている.もし年次フローが平均に非常に近い値を維持 するならば――すなわち,年毎の変化が大きくなければ――変 価格の軟調は,石油輸出に依存している諸国において経済 動性は低い.しかし,各年のフローの変化が大幅であれば,そ 活動と移民労働者の雇用を減少させ,そのことは送金の流 の分散と変動性は大きくなる. 「送金受領額が大きい諸国」 とは, 2003 – 12 年の期間において送金受領額が GDP の 1%よりも大 出に影響を及ぼした.そうではあるものの,マクロ経済変 きかった諸国を指す. FDI =外国直接投資;ODA =政府開発援助. 動の平滑化をうまく管理している諸国では,低下はさほど 顕著ではなかった.例えば,ロシアからの外部への送金は サウジアラビアからの外部への送金よりもより大幅な減少 を示した(図 5.6)59.  多様な移住先諸国から送金を受領している諸国は,それら諸国の景気の変動から影響を受ける度合いが小 さい 60.これは 2008  – 10 年のグローバル金融危機後におけるフィリピンとメキシコの異なる方向に進ん だ経験で例証されている.フィリピン人移民は,グローバルに拡散しており,医療や製造業,建設業,海運 業などのさまざまな部門にわたって働いている.世界的な金融危機が頂点に達した際に,フィリピン人移民 の送金は 5.6%の増加を示した.対照的にメキシコ人移民はアメリカに集中しており,さらに,金融危機の 際には深刻な落ち込みを経験した建設部門とサービス部門で主に働いている 61.金融危機の際,メキシコ 向けの送金は 16%減少した. 仕向送金のコスト  国境を越える仕向送金は,技術の進歩にもかかわらず,高価な状態が続いている.送金のコストは, 2022 年の第 2 四半期においては平均で(送金額の)6%であり,国連の持続可能な開発目標(SDG)のター ゲットである 3%の 2 倍であった.コストには送る側と受け取る側の両方の国における各種手数料と外国 為替マージンが含まれている 62.送金のコストはサハラ以南アフリカへの送金が最も高く,2022 年第 2 四半期の時点で 8.8%であった.  送金は,アフリカ,中東,南アジアの諸国の一部で利用されているハワラ(hawala)という非公式制度に 加えて,一連の事業者――銀行,資金振替事業者,郵便局,それに移動体通信事業者など――を通じて行わ れている.平均では,銀行の手数料は比較的高く,他の転送手段よりも送金に長い時間がかかる傾向にある. 郵便局は,取扱量と需要は多くの場合に少ないものの,比較的高価ではない 63.ウェスタン・ユニオンな いしマネーグラムなどの送金事業者は,コストの高さという点では第 3 位である.M- ペサ(ケニアからタ ンザニアとウガンダへ,ルワンダからケニアへ,タンザニアからケニアへ)やオレンジ・マネー(フランス 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 129 図 5.6 2007 – 20 年において,ロシアからの外部への送金の流れはサウジアラビアと比べて石油価格との相関関 係が強かった 12 14 0 石油価格 10 12 0 10 0 送金額 (1バレル当たり米ドル) 8 80 ( 億ドル) 10 6 60 4 40 2 20 0 0 1 4 3 2 1 4 3 2 1 4 3 2 1 4 3 2 1 4 3 :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q 07 08 09 15 16 07 10 10 11 12 13 13 14 16 17 18 19 19 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 外部向け送金(ロシア) 外部向け送金(サウジアラビア) ブレント原油(1バレル当たり米ドル) 出所:World Bank 2021b. 注:Q =四半期. からコートジボワールとマリへ,セネガルからマリへ)などの移動体通信事業者の送金システムが最安値の 経路であり,そのコストは SDG の目標値に近い(図 5.7).典型的には,非公式送金は携帯電話による支払 いサービスよりも高い 64.  送金のコストには多種多様な要因が反映されている.送金の流入額が大きいインドやフィリピンなどの諸 国は,総じて低い送金コストを享受している――特定の回廊や取引金額については「手数料なし」のことさえ ある.しかし低所得国が直面している選択できる送金手段は,特に小額で不規則な額を受領している貧しい 世帯にとっては,より高価である.手数料が高い回廊は,仕向国あるいは被仕向国のいずれかにおいて,競 争が制限されている傾向にある 65.そのような国では,移民が少なく 66,やはり,仕向国と被仕向国の両 方において金融機関へのアクセスがより困難である 67.  携帯電話を介するデジタル・マネーは事業者にかかわらずコストを低下させつつある.しかし,その潜在 的な成長性と利用可能性は資金洗浄やテロリズムの資金調達を標的にした規則によって制約を受けている. このような事業者は,国際的な送金ネットワークと提携することや,国内の支払いシステムにアクセスする ことにおいて,厳格な審査に直面している 68.  送金コストを引き下げるには,送金の仕向国と被仕向国の両方が競争を増やし,そして移民やその家族が 自分にとって利用可能な全ての経路のコストを比較できるようにすることが必要である 69.携帯電話によ る支払いサービスの利用を拡大することも,十分な規制が行われている市場という状況でコストを低下させ (G20) ることに役立つであろう.20 カ国グループ はそのような効果を引き起こすことに向けたロード・マッ プを開発してきている.それは次のことを要請している:(1) 官民両部門による共同ビジョンの公約;(2) 規制・ 監督・監視の枠組みの調整;(3) 越境支払いの要件を支援することを目的とした既存の支払いインフラや取 り決めの改善;(4) データの質の改善とデータ交換の標準化;(5) 新しい支払いインフラや取り決め 70.一 部の諸国では,金融部門の強化を目的とする改革も,送金者に公式の金融チャネルを通じて送金することを 促すことができる. 130 世界開発報告 2023 図 5.7 移動体通信事業者経由の送金は他の経路を通じるよりも安価 200 ドルを一回送金する際のコストの平均;2011 – 22 年 14 コストの平均 12 10 (送金額に対する割合、%) 8 6 4 2 0 3 3 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 2 4 :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q 12 13 13 14 14 15 15 16 16 17 17 18 18 19 19 20 20 21 22 21 11 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 銀行 送金事業者 郵便局 移動体通信事業者 出所:Remittance Prices Worldwide (portal), World Bank, Washington, DC, https://remittanceprices.worldbank.org のデータ に基づく WDR 2023 チームの試算. 注:Q =四半期. 知識移転の活用 (diaspora)  移住は散在する海外在住者 や帰国移民からの知識移転を通じて移民の出身国に利益をもたら す.この効果は,移住者が行き先国で成功裡に雇用されている場合に――すなわち,移住者のスキルや属性 が移住先国の経済のニーズに高度に適合している場合に――より大きくなる.知識移転には移住者の出身国 への制度的な規範や社会的な規範の移転が含まれることもある(ボックス 5.1).  移住は移住者の出身国をグローバルなネットワークに統合することに貢献する.一部の移民は,移住者 の出身国と移住先国の間の国際貿易を増やす触媒として機能してきている 71.そのような人たちは法律や, 規則,市場,製品に関する情報を提供し,そしてこれら諸国で横断的に売り手と買い手を結び付けてきてい る.移住者の出身国で生産された財・サービスに対する需要の増加もそれら諸国出身の移民とつながりがあ る 72.移住は,移民の移住先国から移民の出身国への FDI フローの増加 73 や対応する取引コストの削減と も連動してきている.  移民は――特に教育程度が高く,高いスキルを要する職業に就いているなら――知識を移転し,革新を育む ことによって,移民の出身国における産業を発展させることにも役立ってきている 74.例えば,カリフォル ニアのシリコン・バレーに在住するインド人移民は,インドで大規模な情報技術関連企業を創設している 75. 2006 年時点で,帰国者が創設した企業は,バンガロールのソフトウェア・テクノロジー・パークに所在す る企業のほぼ 90%を占めていた 76.特許申請の引用は,民族的なネットワークは知識移転を促進し,移民 の出身国に所在する製造業の労働生産性を引き上げていることを明らかにしている 77.散在する海外在住 者の一部は経済政策策定に関する国家的な討論に貢献している.例えば,ベトナム 78 や韓国は,自国の経 済開発計画の策定に海外在住者の参加を招聘するプログラムを実施している.  一部の一時的な移民は,海外でスキルを修得し,そしてスキルと資産をより高度に身に付けて帰国してい る 79.そのような人たちは,特に高等教育を受けた人については,同程度の教育水準を有する非移民の労 働者よりも高い賃金を享受している 80.また,そのような人たちは,移民でない人たちよりも自営業や起 業家的活動に従事することも多いようである.それは特に,移民のリスク許容度は相対的に高く,企業家的 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 131 ボックス 5.1 移民は当人の出身国に制度的および社会的な規範を移転できる  移民は当人の出身国における制度的な変化の動因になりうる.移住先国での滞在が短いほど――すなわち 出身国との結び付きが強いほど――,移住先国から出身国への思想の伝播はより大きくなる a. 「社会的送金」 という移転は大まかには以下の 3 つの分野で起こっている. 制度の質.高いスキルを有する個人の移住は,移住者の出身国が散在する海外在住の関係者や帰国移民が社 会的および経済的な活動へ参加することを可能にする政策を採用している場合には,制度の質にプラス効果 をもたらす.そのような状況下では,制度の質は,移住先国で修得された知識や経験から利益を享受できる. しかし,大規模な出国移住が地方の政府や政党における有能な専門家の不足につながるときには,そのよう な効果は弱まり,このことは政治的および社会的な変化を遅らせる b. 説明責任の要求.移民世帯は政治的により活動的である傾向があり,カーボベルデやフィリピンでみられる ように,移民の出身国のコミュニティにおいて,より多くの政治的説明の義務を要求する公算が大きい.フィ リピン人移民からの送金は,地方レベルでの政府の有効性と正の相関関係を有する c.  送金のおかげで教育水準が上昇することから,住民は政治的な説明責任をより一層要求し,そして地方政府 においてレント・シーキング活動が行われる可能性は低下した.移民を移民が出身した村落と繋ぐネットワー クはモザンビークなどの諸国において,政治姿勢を形成し,そして村の住民をエンパワメントしてきている. ジェンダーに関する規範.移住はジェンダーに関する規範の発展に影響を与えるが,その過程はさまざまであ る.例えば,ヨーロッパに移住したモロッコ人やトルコ人は,出身国のコミュニティにジェンダー別の役割に 対するリベラルな見方をもたらしており,子供の数は少ない傾向にある.対照的に,ヨルダンやエジプトなど それを伝えている d. から GCC 諸国に移住した移民はジェンダーに関してより保守的な規範を採用して, さらに, 移民のいない同等の比較対象となる世帯と比べて子供の数は多い傾向にある e.女性の政治的なエンパワメ ントが定着している諸国への移住は,移民の出身国における女性の議会参加率の高さと相関関係がある. a. Docquier et al. (2016); Levitt (1998); Tran, Cameron, and Poot (2017). b. Anelli and Peri (2017); Horvat (2004). c. Tusalem (2018). d. Chattopadhyay, White, and Debpuur (2006); Ferrant and Tuccio (2015); 南 々 移 住 を 研 究 し て い る Hadi (2001); Sakka, Dikaiou, and Kiosseoglou (1999); Tuccio and Wahba (2018). e. Hadi (2001); Sakka, Dikaiou, and Kiosseoglou (1999); Tuccio and Wahba (2018). な精神が旺盛であることによる 81.例えばバングラデシュでは,帰国した一時的移民の 3 分の 2 以上が帰 国後に何らかの形態の企業家ないし自営業者としての活動に従事している.これに対して,同程度の教育を 受けた非移民の場合,その割合はわずか 3 分の 1 である(図 5.8)82.  知識移転は移住者の出身国における政府の政策によって支援することができる.移転の程度は,政治的安 定性,制度の質,投資環境,人的資本,そして輸出能力などに依存する.一部の諸国は,研究開発における 散在する海外在住者の関与を促進する措置も採用している 83.フィリピンのように, 協業を育むことを含め, 一時的な移民に企業家研修を提供している国もある.これは,そのような移民の国内労働力への復帰を容易 にし,国家開発に寄与できる可能性を改善するためである 84. 労働市場に対する影響の管理 雇用と賃金  大勢の労働者の出国移住は,移住者の出身国における労働力の規模を縮小する.フィリピンの場合,約 200 万人の労働者(労働力の約 5%)が,海外での一時的な仕事――平均すると 7 年間――を求めて毎年出 132 世界開発報告 2023 図 5.8 バングラデシュでは,帰国した移民は非移民と比べて自営業者ないし企業家になることが多い 自営業あるいは起業家的活動に従事している人の割合;年齢別,および移住の状態別 80 60 人口に占めるの割合 40 (%) 20 0 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 年齢(年) 非移民 移民(移住を行う前) 移民(移住を行った後) 出所:Bossavie et al. 2021. 国している.タジキスタンでは,労働力の約半分が季節的という条件で海外,主にロシアで働いている.こ のような外部へ向かう移住は,特に若年層の人口が多い低所得国において,失業や不完全雇用の圧力を軽減 する 85.しかし,この効果は移民が帰国して国内の労働力に再参加する場合には部分的に弱まる. 移住が労働力に及ぼす影響は地域について横断的にみると不均等である.というのは,  移民の出身国では, メキシコにおけるように,移民の出身地域は一部の地域に大きく偏っているからだ(地図 5.1).フィリピン の一部地域では,出国移民の割合が全国平均の 2 倍の高さとなっている.バングラデシュでは, 地図 5.1 メキシコから出国する移民の割合は地域ごとに不均等 出国移民の割合が労働力の 10%に達する地域も 出国移民がいる世帯の割合;地方自治体別 ある.労働市場への影響は流出の規模が大きい 地域ほど大きくなる 86.  時には,出国移住は労働市場を逼迫させ,続い て国内での労働者の移動を発生させる.例えばイ ンドでは,ケララ州からの出国移住はコルカタ市 出身の労働者が転居をする機会を生み出した 87. 割合(%) バングラデシュでは,そういった国内における労 10 働の再配置を促進するために,政府は国内での移 8 6 動の交通費を補助してきている 88. 5 4  移住が国内賃金に与える影響は多くの場合によ 3 2 り複雑である――そして,それは概して,誰が移 1 0 IBRD 47153 | 住するか次第である.もし移民が移住前に失業し APRIL 2023 ていたのであれば,移住は賃金を大幅に変化させ 出所:Censo de Población y Vivienda 2020 (dashboard), Instituto Nacional de ることなく労働力参加率を押し上げる 89.他方, Estadística y Geografía, Aguascalientes, Mexico, https://www.inegi もし移民が移住前に働いていたのであれば,そ .org.mx/programas/ccpv/2020/ のデータに基づく WDR 2023 チームの試算. の移民の出国は同じようなスキルを持ち,かつ 注:上図は各地方自治体において 2014 – 19 年に少なくとも家族員の 1 人が出 国移住した世帯の割合を示している. 本国に留まっている労働者の賃金を上昇させる 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 133 かもしれない.例えば,2000 年代の初め,パキスタンとフィリピンでは,若い低スキル労働者の流出は, 他の低スキル労働者の賃金を上昇させた 90.しかし移住は,持っているスキルが移民のスキルに対して補 足的であるような労働者の賃金を低下させる可能性もある.例えば,移住によって不在になる高所得の顧客 に相当な数のサービス産業がサービスを提供している場合,高スキル労働者の出国移住は低スキル労働者の 賃金を低下させる 91. 頭脳流出  スキルと属性が移住先国の経済のニーズに高度に適合している移民は,移民の出身国においても極めて重 要な労働者である可能性がある.したがって,そのような人の出国移住は,移民の出身国と行き先国の利害 が一致しないという状況を生み出す可能性がある.  低所得国からの高スキル者の出国移住はしばしば「頭脳流出」と言われている.質の高い労働者を失うこと から生じる移住者の出身国にとっての損害が,そのような労働者がもたらす送金と知識波及から得られる利 益を上回る場合,それは開発にとって障害になる.このような悪影響は,労働者が医療など,移住者の出身 国の社会にとって不可欠であるとみられる職業に就いている場合には特に実際的な重要性を持つ.  高スキル労働者の出国移住はグローバルな現象である.その割合は高所得の OECD 加盟国では高いスキ ルを有する人の約 4%,中所得国では 10%をわずかに上回る程度,そして低所得国では約 20%となって いる 92.高い水準のスキルは多くの [移民の]行き先国でより多くの需要がある傾向にあり,そのような移 民は外国での雇用機会へのより良いアクセスを有している.したがって,低・中所得国出身の出国移住者の 間では,高等教育修了者の存在が大きな比率を占める傾向にある 93.高等教育修了の資格を持つ個 (図 5.9) 人の出国移住率は,初等教育のみ修了者の 7.3 倍であり,中等教育まで修了した人の 3.5 倍となっている. (25 歳以上) 例えば,高等教育を修了したカンボジア人 の 25.6%は海外在住であり,それと比較して,初 等ないし中等教育まで修了した人たちの間では,その比率は 6.7%である 94.  スキルと教育のレベルが高い労働者の出国移住率は,低所得国や小国でとりわけ高い.サハラ以南アフリ カ,それにカリブや太平洋の小島嶼開発途上国では,出国移住する高等教育修了者の割合は,教育程度が高 等教育未満の人の 30 倍の高さとなっている 95.小島嶼開発途上国生まれで高等教育を修了した人の全体の 40%以上が別の国へ移住している.高等教育を修了したカーボベルデ人の約 70%が海外に住んでいる 96. 2018 年の時点で,サハラ以南アフリカで訓練を受けた医師について,2 万 5,000 人――アフリカ全体に おける医師総数のほぼ 4 分の 1――は OECD 諸国で働いていた 97.  移民の出身国にとって,頭脳流出は 2 つの政策課題を提起する.第 1 に,頭脳流出の影響,特に医療な どの部門に対する影響をどのようにして緩和するか? 第 2 に,移住者の出身国の損失が移住先国の利益 [当該移民の] に転換されている場合,移住先国から 出身国へ利益の一部を再配分する仕組みを確立すること は可能か? この問いは出国移民の教育の資金が,全体あるいは一部のどちらであっても,公的に賄われて いる場合にはとりわけ実際的な重要性を持つ.  高いスキルを有する人の出国移住は,当人の出身国における経済的な限界や,資源制約に起因しているこ とが多い.高いスキルを有する労働者の一部は国内では当人の生産能力を完全に発揮させるようには雇用さ れていない 98.例えば,一部の諸国では基本的な医療ケア・サービスの提供における挑戦課題は,医療専 門家の不在だけではなく,医療ケア制度における資金や,医薬品,施設などの不足からも発生している.ベ ニンや,コートジボワール,マリ,セネガルなどでは,一部の不足は医師が農村部を犠牲にして 99,都市 部で働くことを選好することから生じている.時には,移住の決断は,所得だけでなく,専門家としての昇 進の見通しや,施設の良さ,家族の安全などとも結び付いている 100.  多くの小国では,一部の産業にとっては,国内市場は利益を出すにはあまりに狭すぎる.移住するよりも, むしろ留まる動機を高スキルの専門家に与えることを追求して,一部の諸国はグローバル市場にも役立ちう るニッチな活動に特化してきている.例えば,医療ツーリズムは,医療ケア部門において追加的な収入源と しての役割を果たすだけでなく,医療従事者に,国内需要に対応することに加えて,国内に留まる機会を提 134 世界開発報告 2023 図 5.9 平均的には,移民は出身国の労働力よりも教育程度が高い 出国移民および移民の出身国の労働力に高等教育修了者が占める割合;2020 年 70 60 高等教育修了者が出国移民に占める割合 50 PHL GBR CHN DEU 40 VNM IND VE N UK R POL RUS EGY CO L 30 PAK ITA ROM KAZ TUR 20 MAR MEX IDN (%) BGD 10 AFG 0 10 20 30 40 50 60 当該移民の出身国の労働力の間で高等教育修了者(完了)が占める割合(%) 出所:WDR 2023 チームによる編集. WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank. org/wdr2023/data. 人口のスキル構成に関するデータ:census data, 2014–20; updated Barro and Lee (2013); Data (portal), Wittgenstein Centre for Demography and Global Human Capital, Vienna, https://www.wittgensteincentre.org/en/data.htm. 注:円の大きさは当該国からの出国移民数に比例している.対角線は,出国移民と移民出身国の労働力の間で高等教育修了者 (ISO) の割合が等しいことを示す.国の略号については,以下の国際標準化機構 を参照:https://www.iso.org/obp/ui/#search. 供することができる 101.小国にとっては,地域的な協力も,国内市場を拡大し,そうしなければおそらく 存続不可能な特化した活動を維持することを可能にするであろう.そうすることによって,高いスキルを有 する専門家が海外移住する動機は低下する.  頭脳流出の影響を小さくするために,移民の出身国は高スキル労働者を訓練する自国の能力を拡充する必 要がある.能力を拡充することは,たとえ[高いスキルを獲得した]一部の人は移住するとしても,十分な人 数の高スキル労働者が国内にとどまる可能性を高める.しかし,挑戦課題は,そのような拡充の資金をどの ようにして賄うかである.  出身国を離れる高スキル労働者が出身国からの公的資金で教育されている時には,そのような人の出国移 (典型的には低所得) 住は事実上の,移住者の出身国 から移住先国(典型的には高所得)への助成金になる.し かし,大学教育を受けた出国移民のほぼ 3 分の 1 は移住後に教育を受けている――移住後の教育の費用は 当人の出身国の負担ではない.それは,そのような移民の出身国のコストにはならない 102.この割合は一 部の移民グループの間ではとりわけ高い.例えば,アメリカに住んでいる大学教育を受けたジャマイカ人の 50% 以上がアメリカで教育を受けている(図 5.10).高等教育を修了しているミクロネシア人の 90%,そ してトンガ人の 95%は海外で学位を取得した 103.  一部諸国では,私教育が公的な取り組みを補完することが可能である.例えば,移住先国における看護師に 対する需要の高まりに対応して,フィリピンは私立機関における看護教育プログラムを速やかに拡大した 104. 看護師が新たに外国へ移住する毎に,新たに 9 人に看護師免許が交付され,最終的には国内の看護師の人 数が増加した 105. 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 135 図 5.10 ラテンアメリカ・カリブやサハラ以南アフリカからアメリカに移住した多くの高スキル移民はアメリカ で高等教育を受けている アメリカで高等教育の学位を修得した,アメリカ在住の高スキル移民の割合 a. ラテンアメリカ・カリブ b. サハラ以南アフリカ からの移住 からの移住 80 80 60 60 移民の割合 移民の割合 40 40 (%) (%) 20 20 0 0 ラ ニ グア ア ア ア ア ナ カ チ ズ ゴ ル 国 デ ル リ イ マ ビ ビ ニ イ ー ー バ ド ル 和 ガ ベ ド カラ リ バ マ テ ン ン エ ・ト ハ ギ ガ ネ ベ 共 リ ベ ャ ア ザ ガ ル セ カ ボ ニ ジ ド グ サ ー ー ル ミ カ ダ ニ リ ト 移民の出身国 移民の出身国 出所:以下に基づく WDR 2023 チームの試算――2019 five-year estimates of American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs-surveys/acs.  国際協力は,頭脳流出の悪影響の一部を削減すると同時に,労働者のスキルおよび属性と,移住先国の経 済のニーズとの間の適合性を高めることができる.例えば,グローバル・スキルズ・パートナーシップ(GSP) や,その他の,移民出身国と移住先国との間での二国間および地域的な協定は,訓練の拡充を促進する 106. GSP では,移住先国は,移住先国の労働市場で必要とされている資格を移民が取得できるように,移住す る可能性のある人の訓練を――政府部門か民間部門のどちらかが――引き受けている.この訓練は移住に先 立って,移民の出身国で実施される.それは国内にとどまり国内の労働市場に参入する予定の学生にとって も利益がある.  しかし,効果的であるためには,そのような制度は民間部門の相当な関与を伴う市場主導型でなければ ならない.オーストラリア太平洋訓練連合(APTC)はこの教訓を学んだ.APTC は,5 つの大平洋諸島国 に技術職業訓練キャンパスを創設し,2019 年までに 1 万 5,000 人以上の卒業生を輩出した 107.しかし, その大半は仕事をするためにオーストラリアないしニュージーランドに移住することを希望しているにもか かわらず,そうしたのはほんのわずかの学生のみであった.この結果は,可能性のある雇用者とのつながり が弱いこと,そして移住者の出身国で取得したスキルや経験を認証する仕組みが不十分であることに由来し ていた 108.  医療などの極めて重要な部門においてエッセンシャルな労働者を保持するために必要とされる追加的措置 は,移住者の出身国と移住先国の間での協力を必要とするであろう.例えば,移民の出身国の一部はエッセ ンシャルな労働者に最低限の期間にわたって国内で勤務することを義務付けることを検討している.市場諸 力に反するそのような制度の執行は,挑戦的であり,移住者の出身国と移住先国の両サイドによって支援さ れる場合に成功する可能性が高まる――例えばそれは,移住先国が二国間労働協定全体のより広範な文脈内 で,ビザ受領の条件として最低限の期間の勤務を義務化するといった場合である 109.しかし,そのような 136 世界開発報告 2023 ボックス 5.2 フィリピン:移民の出身国が移住から利益を得ることができる方法についての事例 研究  フィリピンは移住に関して進取的かつ統合的な政策アプローチの教訓的な実例を提示している.フィリピ ンの移住制度は 1970 年代から移住サイクルの全体――事前準備から最終的な帰国と再統合まで――にわた る現行の構造へと変移してきている.その要素には以下が含まれている:  二国間労働協定.フィリピンは出国移民のためにより良い条件を提供することを目的として 54 の二国間 (BLA) 労働協定 を締結している.例えば,家事サービス労働者に関するサウジアラビアや他の GCC 諸国 との BLA は,移住コストを削減するために斡旋手数料を廃止し,特定の権利と保護を規定しているモデ ル契約を含んでいる.また,最低賃金の設定を可能にしている.BLA は労働者に技術的なスキルや知識を より適切に身に付けさせるための,広範な改革も同時に実施している.このような協定の執行には移住先 国とフィリピンの両方による継続的な努力が必要とされる a.  移民の準備.政府は,グローバルな市場における需要に沿って移民になる可能性のある人のスキルを開発 (TESDA) するためのプログラムを整備している.技術教育技能開発庁 は年当たり 80 万人以上の大学卒業 生に訓練を行っている.看護など,世界的に多くの需要があるとして選ばれた職業における教育は,拡充 されてきてもいる.このアプローチは国内労働市場にもプラスの効果を及ぼしている.というのも,この プログラムの卒業生の一部は移住しないからだ.並行して,政府は,移住先国に特化した情報に加えて, 移住のリスクと利益,および労働者の権利と安全性にかかわる措置等に関する情報を移民に提供するため に出国前のオリエンテーション・プログラムを実施している.最近,フィリピン政府は海外で働くことを 考えている全ての人に対して,金融リテラシー研修の受講を要請することを始めた.最近になって,この 試験的な金融リテラシーのクラスをオリエンテーション・プログラムに組み込んだことによって,一部の 移住者の間で銀行口座を保有する可能性が高まった b.このような試験的な取り組みから得られた教訓は 実験段階の枠を超えて,より広範な取り組みのなかに反映される必要があるだろう.  移民の保護.フィリピンは,移民労働者が海外に滞在している間には, (POLO) フィリピン海外労働事務所 を通じて移民と接触することを目指している.POLO は,労働保護や,職業訓練,支援一般などを援助し 「到着後オリエンテーション・セミナー」 ている.加えて,フィリピンは を設定している.このセミナー [保護を] は移住先国についての情報を伝えており,一部の例外的な状況下では, 必要としている女性の移 [不測の事態で頼みの綱となる] 民労働者のためのシェルターとして機能することができるリソース セン ターを提供している.労働者とその世帯の保護を強化するために,政府は保険加入を要請している.これ は一般的には雇用者ないし就職斡旋人の責任ではあるが,COVID-19 のパンデミック期に露呈したように, そういった健康保険の適用範囲にはギャップがある c.  送金のコスト.送金は,フィリピンでは特に子供のための,健康や教育への投資の重要な決定要因である. 同じ地域内の他国からフィリピンへ送金を行う際のコストは世界全体において最安の部類に入る.これ は,政府と民間部門がデジタル・プラットフォームを開発し,そして送金サービスに関する情報を拡充す るために努力したことによる.教育への投資も,貸し手が送金を特定の目的のために設計することを可能 にした民間部門の革新によって増加している.そうではあるものの,送金の開発面での相当なインパクト にもかかわらず,特に親ないし保護者が海外に在住している子供たちにとっては,依然としてギャップが 残っている.また,送金に依存している世帯はパンデミックのような,海外からもたらされる,保険が適 用されていないショックに見舞われるかもしれない d.  帰国する移民への支援.帰国する移民の経済的な潜在力を最大化するために,政府は帰国移民の労働市場 への再統合を支援するためのプログラムを実施しており,そのようなものとして,帰国や,海外滞在中に スキルを身に付ける機会に関する情報の提供がある.また,政府は企業家的な活動のためのビジネス研修 や,ローンないし補助金の提供も行っている.しかし,このような支援的な取り組みの利用は低調である ――帰国者のわずか 4%にとどまっている.帰国移民の 70%が,依然として満足できる仕事の発見に苦 (ボックス:次ページへ続く) 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 137 ボックス 5.2 フィリピン:移民の出身国が移住から利益を得ることができる方法についての事例 (続き) 研究 労していると報告している.政府は,COVID-19 のパンデミックの期間には特に,このような努力の拡充 を引き続き図っている e. 「フィリピン開発計画 2017 – 2022」  制度的な取り決め. は移住を主流に組み込み,一時的な移動を促進し, そして移民の帰国を支援することを目指している f.新しい (2023 – 2028) 「フィリピン開発計画」 は帰国移 民の経済への再参入,それに移民の子供に対する健康および心理面の社会サービスの提供を通じるものを 含め,社会的な影響の管理に焦点を合わせている.すべての介入策の間での統一性を確保することを目的 として,内閣レベルで移民労働者に関する省を創設するために,政府はいくつかの機関を統合した.その 省は移民とその家族を出国前,海外滞在中,そして帰国時に,支援することを目的としている g.加えて, 最近になって政府は,上院議員と政党名簿代議員に対して海外在住移民が投票を行う権利を,移民の意見 を聞く方法として復活させた. 出所:Ang and Tiongson (2023). Arriola (2022); Chilton and Woda (2021); ILO (2019); Rivera, Serrano, and Tullao (2013); Ruhunage (2014); a. Wickramasekara (2015); Yagi et al. (2014). Abarcar and Theoharides (2021); Barsbai et al. (2022); Cabanda (2017); OECD (2017, 105) . 以 下 に お け る フ ィ b. リ ピ ン に 関 す る さ ま ざ ま な 言 及 も 参 照:Good Practices Database: Labour Migration Policies and Programmes, International Labour Organization, Geneva, https://www.ilo.org/dyn/migpractice/migmain.home. c. Ang and Tiongson (2023); DOLE (2015). d. Asis (2006); Clemens and Tiongson (2017); Cortes (2015); De Arcangelis et al. (2015); Dominguez and Hall (2022); Edillon (2008); NEDA (2021); Pajaron, Latinazo, and Trinidad (2020); World Bank (2022b); Yang (2008). e. Ang and Tiongson (2023); Asis (2020); OECD (2017, 83). f. NEDA (2021). g. “About DMW,” Department of Migrant Workers, Mandaluyong City, the Philippines, https://www.dmw.gov.ph/ about-dmw. 措置は,対象の労働者にとって国内労働市場を魅力的にするようなその他の政策に代替するものではなく, 単に補完策になれるだけである 110. 戦略的アプローチを採用  スキルや属性が移住先国の経済に高度に適合している労働者の移住は,移住者の出身国における貧困削 減の強力な原動力になりうる.フィリピンなど,移民の出身国の一部は,開発戦略の不可欠な一部としてそ のような移住を管理しており,注目すべき結果を残している(ボックス 5.2).  貧困削減を目的として出国移住を管理するために,各国は様々な領域で措置を採用してきており,それら は多くの場合に互いに強め会っている.そのような領域として,以下がある:  送金コスト.送金コストを引き下げ,そのような取引を公式な金融部門を経由して行うことを移民に奨励 する.例えば,メキシコは一定金額 (約 3 万ドル)未満の送金受取に対しては所得税を課していない 111. ベトナムとタジキスタンも流入送金に対する課税を廃止し,結果として流入が増加している 112.この ような取り組みは移住先国との協力によって補完することができる.例えば,トンガ開発銀行は‘Ave Pa’anga Pau という新たな構想を開始した.これはデジタルサービスであり,ニュージーランドとオー ストラリアから受領する送金を約 4.5%の手数料で支援している 113. 138 世界開発報告 2023  知識移転.知識移転の効果を最大化することを目的として,ビジネス環境を強化し,知識フローをより一 層促進するために,散在する海外在住者と連携する.例えば,韓国やベトナムには,自国の経済開発計画 の策定に参画するために,海外在住者を招くプログラムがある.  帰国の支援.マレーシアにおけるように,帰国移民が国内労働市場に再参入するに際して,そのような 移民を支援する.移民労働者の帰国を誘発するために,マレーシアは,5 年間にわたる 15%の一律所得税, 外国籍の配偶者および子供に対する永住権資格,そしてさまざまな免税,を含む便益を提供している.  スキル構築.国内市場と潜在的な移住先国の両方のニーズに高度に適合するスキルを労働者に提供し,特 定のスキル・セットへの特化も行う.これは,ドイツとのトリプル・ウィン・プログラムというプログラ ムのなかで,ボスニア・ヘルツェゴビナや,フィリピン,チュニジア,インドネシア,インドにおいて行 われている.このプログラムはドイツへの移住を円滑化することが企図されている.このプログラムの行 程は,外国の資格認証プロセス,言語および専門課程,就職の斡旋で構成されている.その後,受益者に は居住許可証が与えられる.  海外に在住する自国民を支援.海外に滞在中の移住者を支援するために,支援の領事サービスを強化する. この措置はフィリピンによって行われ,この措置によって,フィリピンの移民は虐待や搾取からより確実 に保護されるようになった.  このような努力が,国レベルで,および二国間協力を通じて,一部の国では制度化されてきている.移住 者の出身国の多くが出国移民に関連のある政策を設計および実施し,そして他の政府部局と調整を行うため の専門機関を設置している.バングラデシュや,パキスタン,フィリピンなどの一部諸国は,効果的な調整 のための専門の省庁を創設している.並行して,双方が利益を得るような仕方で労働移住を規制および運営 するための方法として,移民の出身国の一部は,正式な二国間労働協定を移住先国と締結している. 注 1. World Bank (2022b). (2014). 2. 移民が送金を行う理由は移民の出身国の状況と移住の 5. 以下による:KNOMAD–International Labour 形態に依存している.一方では,送金の反景気循環性 Organization (ILO) migration cost survey (KNOMAD and は移民の利他主義を示唆している――つまり,移住者 ILO 2021a, 2021b). は自分の家族の福利を改善するために送金している 6. World Bank (2018, chap. 5). (Frankel 2011; Lucas and Stark 1985; Osili 2004). 他方で 7. 送金のプラスの影響は,難民の家族にとってはもっと は,送金の行為は相続遺産につながる確率を高めるた 小さいかもしれない.難民自身が受け入れ国で仕事を め (Hoddinott 1994; Osili 2004),あるいは出身国の資産 見付けることは時間を要し,所得を得て母国の家族に に投資するため (Garip 2012) など,移民の自己利益が 送金できる能力は家族との結び付きが間延びするにし 動機となっている可能性がある.動機が何であれ,利 たがって低下するかもしれない.送金を行うことも, 他主義か自己利益かを検証するのはむずかしい.とい 制裁や紛争が出身国の金融システムに及ぼす影響に うのは,送金は多様な要因と理由――移民の子供の世 よって複雑化しているかもしれない. 話をしている家族員を報いるなど――を反映している 8. Shrestha (2017). からだ (Cox 1987). あるいはおそらく,利他主義と利己 心が共存している.Lucas and Stark (1985, 904) は次の 9. Bossavie and Garrote-Sánchez (2022, 24). ように主張している. 「結局,本当の動機が気遣いの 1 10. Acosta et al. (2008). つなのか,あるいは気遣いと感じられることによって 11. インドネシアについては Cuecuecha and Adams (2016), 威信を高めようという利己的なものかを詮索すること フィリピンについては Ducanes (2015) を参照. はできない」 . 12. Mobarak, Sharif, and Shrestha (2021). 3. Adams (2009); Fischer, Martin, and Straubhaar (1997); 13. Frasheri and Dushku (2021). Stark and Bloom (1985). 所得の一部を送金している場 14. World Bank (2019, 123). 合,移民は,例えば家族員からの送金を要請する圧力 を回避するために,真の所得を本国の家族員から隠し 15. Cuecuecha and Adams (2016). ているかもしれない.次を参照:McKenzie, Gibson, 16. Abadi et al. (2018). and Stillman (2013); Seshan and Zubrickas (2017). 17. Medina and Cardona-Sosa (2010). 4. Brown and Poirine (2005); Delpierre and Verheyden 18. Dinkelman and Mariotti (2016). 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 139 19. McKenzie and Rapoport (2011) は,このことがメキシ 51. Hosny (2020); Le Dé et al. (2015). コでは,特に思春期の若者 (13 – 15 歳)の間で,真実で 52. IMF (2017),および 4 条協議(Article IV Consultations) あることを発見している. に関する他のさまざまな報告書. 20. Bansak, Chezum, and Giri (2015). 53. Chami et al. (2008). 21. Chami et al. (2018).この文献は,1991 – 2015 年につい 54. Le Dé et al. (2015). て集計レベルで 177 カ国全体を比較したデータを使っ 55. Kpodar et al. (2021); Quayyum and Kpodar (2020); ている.留保賃金 (reservation wage)という用語はある World Bank (2021a). 人が特定の地位や雇用形態で働くのを受け入れるであ 56. Ahsan, Kellett, and Karuppannan (2014). ろう最低限の金額を指す. 57. Beaton et al. (2017). 22. Lokshin and Glinskaya (2009). 58. Halliday (2006). 23. エルサルバドルについては Acosta (2006) を参照.メキ シコについては Amuedo-Dorantes and Pozo (2006) を 59. ロシアは,キルギスやタジキスタンなどの中央アジア 参照. 諸国出身の低スキル移民にとっての重要な行き先国で ある.一方,サウジアラビアをはじめとする湾岸協力 24. Urama et al. (2017). 会議諸国は,南アジア諸国や,エジプト,インドネシア, 25. Cox-Edwards and Rodríguez-Oreggia (2006). フィリピンなどから大勢の低スキル移民を引き付けて 26. Mansuri (2006). いる. 27. Bouoiyour and Miftah (2015). 60. Barajas et al. (2012). 28. Jaupart (2019). 61. Villareal (2010). 29. Yang and Choi (2007). 62. 受取人の銀行が電信振替による自国通貨建て送金に 30. Mohapatra, Joseph, and Ratha (2009). 対して課する取引手数料は,しばしばリフティング・ 31. Taylor et al. (2005). 移民の海外での滞在期間が長くなる チャージと称されている. ほど,出身国とのつながりは弱くなり,送金の頻度も 63. World Bank (2021b). 世界銀行の Remittance Prices 低下する . Worldwide (RPW) は送金人が主要な送金回廊を通じて 32. Pairama and Le Dé (2018). 送金する場合に負担するコストを監視している.RPW はグローバルなコスト削減目的に向けた進展を測定す 33. de Haas (2001). るための基準として使われている.そのような目標と 34. Konseiga (2004). して,SDG 10. C [2030 年までに,移住労働者が,自分 35. Iheke (2014). の国にお金を送る時にかかる費用が 「送る金額の 3%」 よ 36. Acosta, Fajnzylber, and López (2007). り低くなるようにし, 「送る金額の 5%」 を超えるような 37. 送金と全体的な貧困の間の関係を適切に測定すること 費用がかかる送金方法をなくす.出典:ユニセフ] ,お は実証的には単純ではない.というのはそれらは相互 よび送金のコストのグローバルな平均を 5%にまで引き に強め合うからだ.例えば,貧困の増加は,移民が送 下げるという G20 の公約がある.RPW は 2016 年第 2 金を増やすのを誘発するかもしれない. 四半期以降,世界全体で 367 本の国際的な回廊につい て,仕向送金を行う 48 カ国と,送金を受け取る 105 カ 38. Chami et al. (2018). 国を追跡してきている.RPW は,主要な 4 種類の送金 39. Chami et al. (2018); Gedeshi and Jorgoni (2012). サービス提供者である, 銀行, 送金サービス事業者 (MTO 40. Yang and Martínez (2006). : Money Transfer Operator),郵便局,および移動体通 41. Khanna et al. (2022). 信事業者について,送金コストを追跡している.MTO 42. プラスの影響については次を参照:Acosta et al. (2008); には伝統的な提供者と革新的 / フィンテック事業者の Gubert, Lassourd, and Mesplé-Somps (2010); Margolis 両方が含まれる.1 つの回廊当たり,平均で 15 – 17 の et al. (2013); Mughal and Anwar (2012); Taylor and Dyer サービスが四半期毎に追跡されている. (2009).マイナスの影響については以下を参照:Adams 64. 例えば次を参照:Munyegera and Matsumoto (2016, (2006); Möllers and Meyer (2014).影響がないというこ 2018). とに関しては以下を参照:Yang and Martínez (2006). 65. Beck, Janfils, and Kpodar (2022). 43. de Haas (2009). 66. Beck and Martínez Pería (2011). 44. Koczan et al. (2021). 67. Beck, Janfils, and Kpodar (2022). 45. Koczan et al. (2021, 21). 68. UNCTAD (2014). 46. Chin, Karkoviata, and Wilcox (2015). アルバニアについ 69. Smart Remitter Target (SmaRT) という世界銀行の指 ては Piracha and Vadean (2010) を参照.エジプトに 標は,より安価な利用可能な選択肢を顧客に知らせる ついては Mahé (2022); McCormick and Wahba (2001); ために,各回廊においてコストが低いという点で上 Wahba and Zenou (2012) を参照.キルギスについては 位 3 つの送金サービス提供業者の平均を評価している Brück, Mahé, and Naudé (2018) を参照.ドイツからト (World Bank 2016). ルコへの帰国者については Dustmann and Kirchkamp 70. FSB (2020). (2002) を参照. 71. Lucas (2014). 47. McKenzie and Yang (2014). 72. Fagiolo and Mastrorillo (2014); Felbermayr and Jung 48. IOM (2015). (2009); Genç (2014). 49. Ambler, Aycinena, and Yang (2015). 73. Javorcik et al. (2011); Mayda et al. (2022); Parsons and 50. De Arcangelis et al. (2015). Vézina (2018). 140 世界開発報告 2023 74. Docquier and Rapoport (2012); Kerr (2008). Database, World Bank, Washington, DC, https://www. 75. Chanda and Sreenivasan (2006). worldbank.org/wdr2023/data. 76. Chanda and Sreenivasan (2006). 95. Pekkala Kerr et al. (2017). 77. Kerr (2008). 96. Batista, Lacuesta, and Vicente (2012); Kone and Özden (2017). 78. “Decree No. 74-CP on the 30th of July, 1994 of the Government on the Tasks, Authority and Organization 97. Socha-Dietrich and Dumont (2021). of the Apparatus of the Committee for Overseas 98. Pekkala Kerr et al. (2017). Vietnamese,” Legal Normative Documents (database), 99. Joint Learning Initiative-World Health Organization の Government of Vietnam, Hanoi, https://vbpl.vn/TW/ 評価では,そのような不足を,住民 1,000 人当たりで Pages/vbpqen-toanvan.aspx?ItemID=2831. 医療従事者 (医師, 看護師, および助産婦を含む) が 2.28 79. Gaillard and Gaillard (1998); Johnson and Regets (1998). 人の場合として定義している. 80. Wahba (2015). Clemens (2009). 100. 81. OECD (2008). Chanda (2015); Stephany et al. (2021). 101. 82. Bossavie et al. (2021). Beine, Docquier, and Rapoport (2008). 102. 83. Gamlen, Cummings, and Vaaler (2019); Newland (2010); Gibson and McKenzie (2011). 103. Tabar (2020). Abarcar and Theoharides (2021). 104. 84. Ang and Tiongson (2023). Abarcar and Theoharides (2021). 105. 85. OECD (2016). Clemens (2015); OECD (2018). 106. 86. 地域的な集中は,社会的ネットワークが移住の決定に Curtain and Howes (2021a). 107. 影響を及ぼしているということを強調している.一等 Curtain and Howes (2021b). 108. 親家族員や,親戚,友人などの広範なネットワークが, Clemens (2015); OECD (2018). 109. さもなければ残留するであろう人々に移住を促してい る.Giulietti, Wahba, and Zenou (2018) の推定では, 移住を制限することは,人的資本に投資して,それを 110. ある人との結び付きが弱い人の 50%が既に移住してい 蓄積する個人の動機を低下させる可能性がある (World る場合,その人も移住する確率は,結び付きが強い人 Bank 2019).労働者の流出に対する制限は多くの場合 が移住していないときとの比較で,結び付きが強い人 に短期間しか続かないが,労働者には害をもたらしう が移住していることによって,155% 高まる. る.Clemens (2015) は次のように主張している.スキ ルを有する労働者の流出を妨げることは,労働者自身 87. Viswanathan and Kumar (2014). にとって有害であり,その稼得力を大幅に低下させる. 88. See Bryan, Chowdhury, and Mobarak (2014). 例えば,教授,エンジニア,あるいは医師にとっては, 89. Lucas (2004). 低下幅は 60 – 90%に達する. 90. Gazdar (2003); Majid (2000); World Bank (2005). GPFI (2021). 111. 91. Docquier, Özden, and Peri (2014). Mohapatra, Moreno-Dodson, and Ratha (2012). 112. 92. Artuc et al. (2015). GSMA (2021); TDB (2012). 113. 93. Dao et al. (2018). 94. 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(図 S5.1) 送金を約 40%上回っていた .このような不一 (ボック 致は二国間の送金データで観察されることもある ス S5.1). 他の経済指標との矛盾  送金の測定において観察されるギャップは次のような疑問を提起する:大幅な不一致があるなかで,どの 推定値がより信頼できるのか――送金受領者から得られる流入に関するデータか,あるいは仕向送金を行う 国からの流出に関するデータか? この疑問に取り組むための 1 つの方法は,送金の流出入に関するトレ ンドを基礎的な経済のファンダメンタルズと比較することである 4.  経済のファンダメンタルズは送金を牽引する次のような主要な要因の変化に基づいている:(1) 移民労働 148 世界開発報告 2023 ボックス S5.1 国レベルで流出入のギャップを検証する  最も一般的に利用されている送金のデータベースである Bilateral Remittance Matrix には a,回廊別の二国 間フローの推定値に加えて,送金の流出入に関するデータが含まれている b.しかし,推定金額は完全に首 (BoP) 尾一貫しているわけではない.国際収支 報告書における流入額と流出額の間にギャップがあることが その理由である.例えば,ある国によって BoP において報告される流出総額は原則として,同国を源とする (図 SB5.1.1) すべての二国間流出額の総計と等しくなるべきであるが,多くの場合にそうなっていない .その 相違はプラスのこともあればマイナスのこともあり,明確なパターンはない.このような不一致の多くは通 常の推定誤差に帰することができるものの,大きなギャップ――ルクセンブルクやスイスに加えて,イギリ スペイン, スや, カナダにおけるように――はもっと広範な問題の存在を示唆している.アメリカに関しては, ギャップは BoP における送金流出の過少報告が膨大な 1,250 億ドルに達していることを示唆している. 図 SB5.1.1 送金の推定額におけるギャップは多くの諸国で相当な大きさとなっている 150 報告された流出額の間の相違 125 帰属計算された流出額と 100 75 50 ( 億ドル) 10 25 0 -25 ス ク ス ク イ ネシト ー イ ロ ア ア ア ア ト ア デ ウェア チ ア ラ ア ア ナ イ リカ ス リス カ ン ウ イ ス コ ニ スウルト カ ア ー ン ゼ ンド メ チン マ コ カ ターン ル ン ノ ーシド コ ク ラ ド ス ト ツ マ イ ー オ ンマ ー ー ド ダ フ 港 ク 本 ー ー ル フ ル 国 国 ン ェ 邦 ポ タル ン ダ 国 ド ー リ ジ タリ リ レ ン ー ー ル オラン ル リ ェ イ ベ タ 南 ライ イ シ ビ ナ ス イ ン オ シ ジ デ セ ン ル ウ 日 ギ ザ ー エ 香 ュ ェ ガ 長 韓 ク 連 中 ト ラ メ ポ フ ル ラ ギ ス ラ ラ ブ ペ キ ン ウ ア ル カ ス 首 イ ブ オ サ ラ ア 出所:Balance of Payments and International Investment Position Statistics (dashboard), International Monetary Fund, Washington, DC, https://data.imf.org/?sk=7A51304B-6426-40C0-83DD-CA473CA1FD52; KNOMAD Remittances Data (dashboard), Global Knowledge Partnership on Migration and Development, World Bank, Washington, DC, https://www.knomad.org/data/remittances. 注:帰属計算された流出額は,Bilateral Remittance Matrix に基づく,ある一国を源とするすべての二国間流出 額の総計を示している.報告された流出額は,国際収支 (BoP) データに基づいている.記録された流出額ないし は帰属計算された流出額が 30 億ドル以上の諸国のみが含まれている. a. KNOMAD Remittances Data (dashboard), Global Knowledge Partnership on Migration and Development, World Bank, Washington, DC, https://www.knomad.org/data/remittances. (あ b. Ratha and Shaw (2007).二国間回廊への分解は,ある所与の国が受領する送金総額,各移住先の労働者にその る所与の) 国出身の労働者が占める割合,そして移民の出身国と移住先国の間の 1 人当たり GDP の差異に基づいて いる. 送金の測定 149 者の数,(2) 移民労働者の平均所得,および (3)[移 図 S5.2 グローバル・レベルでは流出送金の報告は,流入送金の 報告よりも,経済ファンダメンタルズに近い 民が]出身国に送金している金額が所得に占める割合. –  移民による送金が所得に占める割合が 2000  20 年 300 に一定であったと仮定すると,経済ファンダメンタル 正規化された値 ズの推定値はその期間内に 84%増加する.一方で, 250 報告された流出額は 96%の増加,報告された流入額 は 177%の増加であった(図 S5.2).換言すれば,グ 200 ローバルなレベルでは,経済ファンダメンタルズは報 (2000年 = 100) 告された送金流出額において観察されている増加と整 150 合的であるが,報告された流入額の増加を説明するこ 100 とはできない.  しかし,世界全体でのトレンドは国毎の顕著な相違 50 を覆い隠している.流出入の両方が経済ファンダメ ンタルズと一致しておらず,劇的に変動している(図 0 S5.3).例えば,グアテマラでは,報告されている送 2000 2005 2010 2015 2020 金流入は経済ファンダメンタルズから示唆される値の 流入額(インフレ調整済み) 4 倍以上の速さで増加した.ナイジェリアでは,経済 流出額(インフレ調整済み) ファンダメンタルズは一定の割合で増加するはずであ 経済ファンダメンタルズ ることを示唆しているにも関わらず,送金流入はある 出 所:Balance of Payments and International Investment Position 年にほぼ 10 倍に急増し,その後には減少した.中国 Statistics (dashboard), International Monetary Fund, Washington, DC, からの仕向送金は全体としては経済ファンダメンタル https://data.imf.org/?sk=7A51304B-6426-40C0-83DD-CA473CA1FD52; KNOMAD Remittances Data (dashboard), Global Knowledge Partnership ズに沿っているものの,年単位では大きく変動してい on Migration and Development, World Bank, Washington, DC, https:// る.ユーロ地域からの送金流出も経済ファンダメンタ www.knomad.org/data/remittances; World Development Indicators ルズよりも大幅に速く増加し,その後は減少した.や (dashboard), World Bank, Washington, DC, https://datatopics.worldbank .org/world-development-indicators/; WDR2023 Migration Database, World はり測定に問題があることを示唆している. Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 注:IMF の Balance of Payments and International Investment Position Manual, 6th edition (IMF 2009a) に 従 っ て, 個 人 送 金 は, 流 入 と 流 出 根底にある挑戦課題 の両方について,個人的な移転と従業員給与の標準的な部分のみを含 む.ベトナムと UAE の欠測データは以下からの推定値によって置換さ  送金に関する推定値にみられるギャップは,多様な れ て い る:NOMAD Data, Global Knowledge Partnership on Migration and Development, World Bank, Washington, DC, https://www 情報源から得られるデータを編集することにおいて多 .knomad.org/data.経済ファンダメンタルズは次の要因に基づいて推定 くの諸国が直面している挑戦課題を反映している. されている:(1) グローバルな移民数;(2) 各国在住の移民数で加重され たグローバルな 1 人当たり GDP によって代理される移民の所得;(3) 送 金が所得に占める安定的割合.2001 – 09 年については 2000 年のウェイ  非 公 式 フ ロ ー の 測 定. 巨 額 の 送 金 が ハ ワ ラ ト, 2011 – 19 年については 2020 年のウェイトをそれぞれ使用している. (hawala)などの非公式な経路を介して実行されて いる 5.あるいは,典型的には手数料が安い,為替 相場が有利,ないしはアクセスが容易などの理由で,国境越しに手渡しで行われている.ほとんどの諸国 は,そのような移転を推定するために調査やモデルを使っているものの,それを正確に行うことは難題で あるとして悪名が高い.非公式から公式な経路へ(あるいは逆方向への)大規模な量のシフトが起こると, 移転される実際の金額は同程度に大きく変化したわけではないにもかかわらず,報告されているフローに おいて,時として大きな変動が生じる.例えば,COVID-19 のパンデミックの際,ロックダウンやアメ リカとメキシコの間の国境閉鎖は,非公式経路の送金コストを途方もなく高く押し上げた.そのため,一 部の移民は, 銀行や移動体通信事業者などの公式のチャネルに移った.このことによっ 非公式な経路から, て,公式統計として把握することが容易になった 6.このようなシフトは,次には経済の減速にもかかわ らず公式な送金の増加につながった. 150 世界開発報告 2023 図 S5.3 国レベルでは,送金の流出入に関する報告は経済ファンダメンタルズと矛盾しうる a. 流入 グアテマラ ナイジェリア 1,000 1,000 900 900 (正規化、2000年=100) (正規化、2000年=100) 800 800 700 700 600 送金の増加 600 送金の増加 500 500 400 400 300 300 200 200 100 100 0 0 2000 2005 2010 2015 2020 2000 2005 2010 2015 2020 流入(インフレ調整済み) 経済ファンダメンタルズ b. 流出 中国 ユーロ地域 1,200 300 1,100 (正規化、2000年=100) (正規化、2000年=100) 1,000 250 900 800 200 送金の増加 送金の増加 700 600 150 500 400 100 300 200 50 100 0 0 2000 2005 2010 2015 2020 2000 2005 2010 2015 2020 流出(インフレ調整済み) 経済ファンダメンタルズ 出 所:Balance of Payments and International Investment Position Statistics (dashboard), International Monetary Fund, Washington, DC, https://data.imf.org/?sk=7A51304B-6426-40C0-83DD-CA473CA1FD52; KNOMAD Remittances Data (dashboard), Global Knowledge Partnership on Migration and Development, World Bank, Washington, DC, https://www. knomad.org/data/remittances; World Development Indicators (dashboard), World Bank, Washington, DC, https://datatopics. worldbank.org/world-development-indicators/. 注:IMF の Balance of Payments and International Investment Position Manual, 6th edition (IMF 2009a) に従って,個人送金は 流出と流入の両方について,個人的な移転と従業員給与の標準的な部分のみを含む.経済ファンダメンタルズは,1 人当た り実質 GDP(不変ドル建て) と移民総数の積である.グアテマラとナイジェリア (流入) については,経済ファンダメンタルズ は,出国移民総数に,移住先国の 1 人当たり実質 GDP を移民シェアで加重した複合指標を掛けた値である.中国とユーロ 地域(流出) については,経済ファンダメンタルズは,入国移民総数に,移住先国の 1 人当たり実質 GDP を掛けた値である. 個人的な移転に関するデータは,ユーロ地域の 2008 – 12 年についての国際収支統計では入手不可能である. 送金の測定 151  推定方法の不一致.多くの諸国は送金を推定するために,金融機関の報告書や,家計調査,計量経済モデ ルなどを含む,諸手段を組み合わせて利用している.例えば,メキシコの中央銀行は,送金企業による月 例報告書やアメリカ国境でのメキシコ人入国者に関する調査を頼りにしている.同様に,フィリピンの中 央銀行は,銀行部門を経由して移転される金額を追跡し,非公式経路を通じる移転を推定するためには調 査を利用している.対照的に,アメリカ政府は他国向けに行われる送金額を評価するに際しては経済モデ ルを頼りにしている.このモデルは,外国生まれの住民の数,その人たちの所得,送金される所得の割合 などに関するデータ 7,およびその他の人口構成に関する指標を使っている.このようなアプローチは類 似の原則に基づいているものの,頼りにしている手段が異なっており,完全には一致しない結果を生み出 している.  分類問題.IMF の指針に従って,個人送金には流出入の両方に関して個人的な移転と従業員報酬の標準 的な部分のみが含まれている 8.しかし,一部の小規模な越境取引は,それが財あるいはサービスの国際 貿易にかかわる支払い,あるいは本国への貯蓄の送金である可能性があるにも拘わらず,BoP ではしば しば送金として分類されている 9.例えば,ドバイ在住のパキスタン人移民が 2008  – 09 年の大不況の 発生において貯蓄を本国に送金した際,このようなフローは送金として算入された 10.  行政能力.一部の低・中所得国では,統計局の行政能力は限定的であり,このことが送金推定にかかわる 問題を複雑にしている.銀行や移動体通信事業者からの財務報告の質も国毎にさまざまである.家計や企 業の調査ないし行政データなどの補完的な情報源は高価になりうることから,多くの諸国はそれを体系的 には利用していない.このような慣行が,精緻な推定法の普遍的な適用性を制限している.  先行きを展望すると,送金フローの測定を改善することは,移住者の出身国と移住先国の両方が送金フロー をマクロ経済およびミクロ経済の両レベルで管理できるようにするために極めて重要である.現在の各国相 互間における不一致や首尾一貫性の欠如は,送金データの正確性や比較可能性を改善するために相当な努力 が必要であることを示唆している. IMF が提示している共有指針の実施の強化 11, この取り組みは, 行政デー タに加えて家計や企業の調査などの補完的な情報源の両方を幅広く利用することの奨励,そして低・中所得 国を含め,必要とされているところでの統計能力の強化 12,などを要求するであろう.そのような努力は 緊急を要する.というのは,新しい送金事業者の出現と個人間取引が行われる方法の多様化が,移民労働者 が送金を実施する方法を変革させつつあるからだ. 注 1. IMF の第 6 版の Balance of Payments and International 送金人によって送金国の仲介者に対してなされる.仲 Investment Position Manual (BPM6) とその 介者は送金の被仕向国にいるパートナーに,受益者へ 「“International Transactions in Remittances: Guide for の現地通貨での支払いを手配するよう依頼する.パー Compilers and Users,” 」――ともに 2009 年公表――, トナー相互間の債務は他の仕組みを通じて,その後に および 2014 年に公表された BPM6 Compilation Guide 清算される(Afram 2012). は,個人送金の構成要素を記録および編集するために 6. Dinarte-Diaz et al. (2022). 必要とされる統計の枠組み,方法論,および実用的指 7. GAO (2006). 針を提示している (IMF 2009a, 2009b, 2014). 8. IMF (2009a). 2. IMF (2009a). 9. Amjad, Irfan, and Arif (2013). 3. 各々の越境的な金融取引は,送金受け取り国の BoP に 10. Amjad, Irfan, and Arif (2013). おける流入と,仕向送金を行う国の BoP における流出 の両方として記録されるべきである. 11. MF (2009a, 2009b, 2014). 4. Clemens and McKenzie (2018). 12. 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Ratha, Dilip, and William Shaw. 2007. “South-South Migration and Remittances.” Working Paper 102, World Bank, Washington, DC. 6 153 移民の行き先国 経済および社会政策を通じて 利益を最大化する 重要なメッセージ  移住先国[受け入れ国]はスキルや属性が自国のニーズに高度に適合している移民の貢献から著しい利益 を得る.それは移民の法的地位や動機とは無関係である.  利益は,移民による財政面での貢献に加えて,労働市場における貢献や,一部の財やサービスにかかわる 生産性の上昇,入手しやすさの向上,そして価格の低下などに対する貢献から生じている.このような利 益は,移民が当人の持っている資格に見合ったレベルで公式に働くことが許容され,そしてそれが可能で あるならば,より大きくなる.  コストは,公共サービスの利用に加えて,一部の自国民(典型的には低スキルの人たち)に対する賃金や雇 用の面でのマイナス効果と関連がある.社会的統合もコストを伴うが,議論は状況に照らして行われるべ きである.すなわち,移住先社会は同一ではなく,文化的には一様ではなく,あるいは静態的ではない.  移民の移住先国は,参入のための適切な法的経路の創設,および経済的・社会的な包摂の促進によって, 移民のスキルや属性が自国のニーズに適合する――および,それ故に自国に利益をもたらす――程度を改 善する政策を採用することができる(図 6.1). 図 6.1 移民のスキルや属性が移住先国のニーズに高度に適合している場合,移民の行き先国[受け入れ国]は 利益を享受し,さらに政策措置を通じて自国の利益を増加させることができる 移民の行先国: 移民に権利と労働市場への アクセスを提供,包摂の促進, 需要のあるスキルを誘致,影響を 受ける自国民の支援 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を最大化 最大化する する 適合度 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 移民の受け入れ, 確保,コストを あるいは 低い 分担 人道的に帰国 行き先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 154 世界開発報告 2023 移民の労働から得られる利益  オーストラリアの人口の約 30%は他の国からの移住者であり,その 3 分の 2 は今や市民になっている. オーストラリアには市場主導型の入国移住政策があり,雇用者からの情報に基づいて,需要が多い一連のス キルと職業を優先している.また,家族の再会や,高等(中等後)教育を受けている留学生,投資家などを対 象にしたプログラムもある.このアプローチは,多くの諸国から資格を持つ個人を引き付けてきており,そ の結果として,成人移民の 55%は高等教育修了者である 1.オーストラリアは農業労働者を対象としたも のなどの,一時的な移住プログラムも拡充してきている.このプログラムによって,移民は長期滞在の地位 に,場合によっては市民権取得に,転向することが可能になっている 2.このような政策は経済移民のスキ ルや属性が労働市場のニーズに高度に適合していることを確保し,そうすることで労働生産性を改善し,特 定の地域や産業のニーズに対応することを目的としている.  EU では,EU 加盟国の全国民は市民と同じ社会経済的な権利を伴って,あらゆる加盟国に入国して居住 する権利を有している 3.ブロック内での一部の移動は,学生向けのエラスムス+など,ヨーロッパ委員会 によって支援されているプログラムを通じて奨励されてさえいる 4.EU 市民の約 3%は自国以外の EU 加 盟国に居住しており,その比率は若者層や高学歴層の市民の間ではより高くなっている 5.確かに,自由移 動はヨーロッパ建設の礎石であり, 「収斂機構」である 6.それはヨーロッパ経済を変革し,生産性を改善し てきている.さらに,すべての地域ブロック,特に新しい加盟国の間で所得水準を急速に高めることを可能 にしてきている 7.  湾岸協力会議(GCC)諸国を含め,他の諸国は自国の労働ニーズを充足するために,一時的な移住を頼り にしている.世界中から数百万人もの移民労働者が,建設,工業,銀行,医療,およびその他の低・中・高 スキルを要するほぼ全ての職業で雇用されている.事実,GCC 加盟国は他の高所得国と比べて相当に多く の低スキル労働者を受け入れている.ただし,彼らの処遇に関しては広範にわたって批判が存在してきてい る 8.今日では,バーレーン,オマーン,およびサウジアラビアでは,労働力の約 3 分の 2 が,そしてクウェー –  ト,カタール,それに UAE では,労働力の 80  90%が,一時的な移民で構成されており,そのような移 –  民の滞在期間は 2  3 カ月から数十年間という範囲にわたっている.移民のこのような移住先国にとっては, 移民の貢献は必要不可欠であり,大体がこの地域の近代化の後ろ盾になってきている.  多くの中および上位中所得国も,特に近隣諸国や低所得国出身の比較的低スキルの移民にとっては,重要 な移住先国である.マレーシアでは,労働力の 11.9%は移民で構成されており,その大半は,インドネシア, フィリピン,およびタイの出身である 9.マレーシアでは過去 30 年の間に市民の教育と所得の水準が上昇 したことから,建設業,農業,ローテク製造業,およびサービス業における労働需要は,それら諸国出身の 低スキル移民によって充足されており,マレーシアのさらなる発展を支援し,そして可能にしている.  高所得国の経験は次の 2 つの理由から,開発に関する論議と直接的な関連を有する.第 1 に,高所得の 移住先国社会における移民の成功は,移民の出身国における開発の成果の一因となっており,それ故に,こ れら諸国における開発に向けた取り組みにとっては関心事である.  第 2 に,データと調査は主に高所得国に焦点を合わせていることから,それらは移住の短期的および長 期的の両方の経済的効果にかかわる見識を提供している(ボックス 6.1).そのような見識は,大勢の移民を 受け入れている中・低所得国の政策担当者にとっては有益であろう. 移住先国におけるスキルと労働に対する需要  今日においては,産業全体が移民労働に依存している.すなわち,アメリカにおける建設やハイテク,中 東における石油とエネルギー,南アフリカにおける鉱業,マレーシアにおけるプランテーション,シンガポー ルにおける保育,イギリスにおける金融,ドイツにおける運輸,そしてほぼ全ての高所得国における農業が 移民の労働に依存している.多くの諸国で,移民は高スキルと低スキルの両方の職業にとって,労働力への 重要な追加になっている. 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 155 ボックス 6.1 移住の長期的な経済効果 「適合が強固」  長期にわたるデータは な入国移住がもたらす総合的な経済的利益を強調している.アルゼン (1850 – 1914 年) チンでは,大量移住の時代 により大きな割合の移民を受け入れた州ほど,1 世紀後により高 い 1 人当たり GDP を実現した.例えば,入国移民の割合を 1914 年に 20%から 25%に引き上げた州では,1 人当たり GDP が 21 世紀初頭には約 40%増加していた a.1850 年におけるブラジルの隣国への大量の移民 の流入も同じようなインパクトを与えた.大きな割合の移民を受け入れた地方自治体は国の平均よりも高い 1 人当たり所得とより高い学校教育水準を経験した.そしてこの成果は,移住から 100 年間にわたって持続 していた b.大量移住の時代におけるアメリカへの人口流入 は,所得の増加,貧困と失業の (1850 – 1920 年) 減少,都市化の急速な進展,教育達成度の向上など,現在でも続いているこれらを通じて,全体的な繁栄を 押し上げた.より多くの移民を受け入れた諸国が享受した経済的利益は,受け入れた移民数がより少なかっ た近隣諸国の犠牲によって得られたわけではなかった c.  人々が移住を強制されていた場合でも,長期的な利益は大きなものでありうる.インドでは,1947 年の分 離独立の時期に強制退去させられた大勢の人々を受け入れた県は,その後の数十年間に新しい農業技術の採 用をより積極的に行ったようであり,そのような県は国内の他の地域よりも著しく高い農業収穫を経験した d. 同様に,ギリシャでは,1919 – 22 年のギリシャ・トルコ戦争で強制的に退去させられた大勢の人々を受け入 れた地方自治体は,特に繊維生産と商業的農業において,新しい技術から利益を享受した.70 年後,そういっ た自治体は依然として国内の他の地域よりもより多くの製造業部門とより高い平均所得を経験していた e.し かし,新来者が個別の村に分離された地域では,経済的な利益はより小さく,このことは社会的統合の重要 性を例証している f. a. Droller (2018). b. Rocha, Ferraz, and Soares (2017). c. Sequeira, Nunn, and Qian (2020); Tabellini (2020). d. Bharadwaj and Ali Mirza (2019). e. Murard and Sakalli (2020). f. Murard and Sakalli (2020).  高所得国では,移民労働者は通常は教育水準の分布の両端――高度な教育を受けた人たちと,初等以下の 教育しか受けていない人たち――に集中しており,これは労働市場の需要を反映している.対照的に,中間 レベルの教育――高校(後期中等)教育と中等後教育――を受けた移民および帰化市民の割合はずっと低い (図 6.2).中程度のスキルを要する仕事に就いている自国民は,高レベルおよび低レベルの両方の移民労働 者の補完として活動しており,その存在は有益である.  移民の行き先国になっている低・中所得国における移民のスキル補完性に関しては,利用可能なデータが ほとんどない.ほとんどの移民は主に低スキル労働者であり,そのような移民のスキルと労働市場にすでに 参入している人たちのスキルとの補完性は高所得国におけるよりもおそらく低い可能性があろう.多くの低・ 中所得国には比較的大きな規模で非公式経済が存在してきている.非公式部門では,移民は,スキルとは関 係なく,典型的には他の非公式労働者にとっての競争相手として活動している 10.公式部門に従事できる 場合には,移民は他の労働者にとっての補完になりうる公算は大きくなる 11.  スキルの補完性は,移民の資格だけでなく,移住先国民の反応も反映している.例えば,低スキルの入国 受け入れ国の若い国民の高スキルを修得することに対する動機は高まる.これは, 移民が到着するときには, –  1996  2010 年にかけての西ヨーロッパにおいて例証されている.労働力に参加して間もない,あるいは 間もなく参加する受け入れ国の若い人たちは,より抽象的な思考とコミュニケーション能力が要求され,同 時により高い賃金を得られる仕事を行うことを可能にする追加的な教育に投資を行った 12.同様に,デンマー –  クでは 1986  98 年にかけての低スキル難民を各自治体に分散して定住させるプログラムは,若者や教育 156 世界開発報告 2023 図 6.2 アメリカと西ヨーロッパでは,移民と帰化市民は教育水準の範囲の両端に集中 移民および帰化市民の割合と,当該国生まれ市民の割合の間の差異;教育水準別 a. アメリカ 6 4 2 割合 0 (%) -2 -4 -6 -8 育 等 等 等 後 号 等 等 等 教 初 中 中 等 士 同 同 同 無 期 期 中 学 ・ ・ ・ 前 後 准 号 号 号 士 士 士 学 修 博 b. 西ヨーロッパ 6 4 2 割合 0 (%) -2 -4 -6 -8 育 等 等 等 後 号 等 等 等 教 初 中 中 等 士 同 同 同 無 期 期 中 学 ・ ・ ・ 前 後 准 号 号 号 士 士 士 学 修 博 出 所:American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs- surveys/acs; European Union Labour Force Survey (database), Eurostat, European Commission, Luxembourg, https:// _force_survey からの教育データに基づき WDR 2023 チー ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php/EU_labour​ ムが編集. 注:中等後教育には正規学位を取得することなく 1 年以上の大学教育を修了した人々が含まれる.西ヨーロッパは以下の諸 国で構成されている―― オーストリア,ベルギー,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,アイルランド,イタリア, ルクセンブルク,オランダ,ノルウェー,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,イギリス.データには 15 歳以上の全労 働者が含まれている. 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 157 程度の低い国民が当人のスキルを強化することを促した.このことによって,若者や教育レベルの低い国民 は,肉体労働の集約度が低く,さらに,賃金,雇用の見通し,および仕事の移動性についてより良い条件が 提示される職業を追求することが可能となった 13. 幅広い経済的効果:生産性の上昇,消費者物価の低下,そしてビジネス連携の強まり  移住の経済効果は,移民のスキルの,移住先国労働者のスキルに対する補完性に起因している.移民のス キルが労働市場の既存者のスキルを補完する場合,生産性が上昇し,相当な利益が移住先国経済全体にわたっ て広まる.  高いスキルを有する移民は,生産性の向上と波及効果を生み出し,スキルの低い労働者――移民と受け入 れ国の国民の両方――にとっての機会を創出する 14.OECD に加盟している 18 カ国の全体では,2018 年においては,外国生まれの人は,医師の 27%,看護師の 16%を占めた 15.アメリカでは,現行の研修 医の 3 分の 1 以上が海外で医学の学位を修得した.また,アメリカ人のノーベル賞受賞者のほぼ 3 分の 2 は外国生まれである 16. カリフォルニアのシリコン スキル補完性が高いことは, ・バレーにおける技術部門や, ロンドン,ニューヨーク,そしてシンガポールにおける金融など,多くの部門で,集積の経済と地理的な集 中に帰結している 17.  低スキルの職業に就いている移民も補完的なスキルを提供することができる.多くの高,および上位中所 得国において教育水準が上昇し,労働力が急速に高齢化してきていることから,高校卒業の学位を持たない 自国の労働者の割合は縮小してきている.入国移住は,雇用者が自らのビジネスの存続可能性を維持するた に必要な低スキル労働者を採用することを可能にしている.移民労働者は,EU 全体の農業労働者の 12%, スペインでは農業労働者の 40%以上を占めている 18.移民労働者は,アメリカでは農業労働者の 64%を 占めている 19.同様に,GCC 諸国の建設労働者やマレーシアのプランテーション労働者の大多数も移民で ある 20.  低スキル労働者の存在は追加的な影響ももたらしている.高所得国では入国移民が家事や保育を行う場合 には,家事サービスのコストは低下する.そうなると,家事や保育などの仕事から解放された移民受け入れ 国の女性――特に高スキルの既婚女性――のより多くが労働力に加わることができるようになり,全体的な 経済的利益につながっている.このようなパターンは,ドイツ,香港,イタリア,スペイン,スイス,イギ リス,それにアメリカなど,広範囲にわたる諸国で観察されている 21.  移民は移民の出身国と移住先国の間の貿易や,投資,その他の経済的フローも円滑化する 22.移民は, 当人の出身国の言語や,規則,市場機会,制度などに関する知識とともに,社会資本やビジネス・ネットワー クを移住先国に持ち込み,このことによって移民の出身国に貿易と投資の機会がもたらされ,それに対応す る取引コストを低下させる.例えば,アメリカは 1970 年代に大勢のベトナム人難民を受け入れ,彼らは 国全体に広まって定住した.29 年後にアメリカとベトナムの間での貿易制限が廃止された際,ベトナムへ の輸出の最も顕著な増加を経験したのはベトナム人の人口が多い諸州であった 23.ボスニアの難民のドイ ツからの帰国は,ボスニア・ヘルツェゴビナの難民の割合が以前に高かった産業部門におけるドイツからボ スニア・ヘルツェゴビナへの輸出の高まりにも帰結した 24.歴史的な移住パターンを通じて確立された中 国人の民族的なネットワークは,東南アジアにおける外国直接投資(FDI)を促進した 25.  移住がもたらす利益を移民の行き先の社会のなかでどのように共有するかは,国や活動をしている部門に よってさまざまである.移民本人に加えて,次の 2 つのグループが移民労働から利益を得る可能性がある. 消費者は,仮に移民の貢献が国内で生産される一部の財やサービスの入手可能性の高まりと価格の低下に帰 結するならば,利益を得るだろう.雇用者ないし資本家は,仮に移民の貢献が利潤の増大に反映されるなら ば,利益を得るだろう.  移民の移住先社会が行う政策選択――市場の競争性の程度を含む――が結果を左右するであろう.2014 年に関するある研究は,イギリスでは入国移住は貿易可能財の価格に対しては何の影響も与えなかったが, 建設や,レストラン,美容室などの非貿易サービスの価格の低下に確かに帰結したことを示している 26. 158 世界開発報告 2023 アメリカでは,労働力のなかで低スキルの入国移民の割合が 10%増加したことは,家事や建設などの一部 のサービス業の価格を 2%低下させた 27.同様に,1990 年代に旧ソ連からイスラエルへ向かう大勢の入国 移民が到着した後,ある地域において,入国移民が人口に占める比率が 1%ポイント上昇したことは,消費 財バスケットの価格の 0.5%ポイントの低下と関連があった 28. 賃金と雇用への影響はさまざまである  経済全体にわたる利益にもかかわらず,移住は,移民のスキルや属性が移住先経済のニーズに強固に適合 している場合でさえ,地方レベルでは一部の集団に破壊的な影響を与える可能性がある.インパクトは多く の場合に移民が集中している地理的地域や職業で感じられている.経済的な調整は受け入れ国の国民の賃金 や雇用の水準に少なくとも短期的には影響を及ぼすことがある.それは,一部の集団――典型的には移民 のスキルと同じようなスキルを持つ人たち 29――にマイナスの影響を与える.一方で,補完的な労働者に は利益をもたらす 30.各国の間に見られる相違は,移住先国の経済の状態や,労働力に占める移民の割合, 移民と移住先国の国民の間におけるスキルの補完性などのさまざまな要因を反映している.  他のショックと同様に,市場は最終的には資本の再配分,それに労働者の他の職業や,部門,地域への移 動を通じて順応する.移住の悪影響は,特に製品および労働の市場が柔軟で 31,社会的保護の仕組みが有 効な場合には,時とともに低下する傾向にある.それでも,一部の労働者とその家族にとっては,調整のコ ストは甚大になる可能性がある.多くの現地人労働者にとって,入国移民労働者の存在に順応するために, 仕事,会社,あるいは地理的な場所を変更するのは困難であろう 32. (ないし減少)  既存の労働者が経験する賃金の増加 という点に関しては,29 カ国における 111 件の研究は, (図 6.3) 移民によって労働力が 1% ポイント増加した場合についてのさまざまな結果を示している .賃金 が受ける影響の範囲は,コロンビアの低スキル労働者にとっての 6%の減少から,トルコの高スキル労働者 にとっての約 5%の増加にまで及ぶ 33.  賃金が比較的硬直的な場合,移住の短期的な影響には,局所的なレベルでの移民の移住先国[受け入れ国] の国民にとっての失業増加が含まれるかもしれない 34.例えば,1990 年代の初期には,ドイツは旧ソ連圏(旧 東ドイツは除く)から約 280 万人の民族ドイツ人を受け入れて,国全体に無作為に分散させて定住させた. 賃金はほぼ安定を維持したものの,特定の地域では新規労働者が 10 人到着する毎に,3 人の現地ドイツ人 労働者が失職した.同様に,1990 年の政策は,チェコ出身の労働者にドイツの国境地帯の地方自治体にお いて雇用される権利――居住の権利ではなく――を与えた.1993 年までに,賃金の低下は 0.13%のみで あったが,チェコ人労働者の流入は当該地域のドイツ人にとってはほとんど 1 対 1 の失職につながった 35. 影響を受けた一部の労働者は,労働力から撤退する,ないしは他の地域に移転することを選択した 36.南 アフリカでは,移民労働者の到着は賃金の低下につながり,そして移住先国の国民の雇用見通しがより良い 地域への転居を促進した 37.ヨーロッパでは,移住先国[受け入れ国]の国民の間における入国移民に関連 する失職は,採用コストが低い,賃金の硬直性が低い,そして事業参入コストが低い労働市場では少なかっ た 38.  要するに,低スキル労働者は高スキル労働者と比べて,入国移住の影響をより多く――かつより大きく― ―マイナスの方向に受ける傾向にある.というのは,そのような労働者のスキルは移民により近い傾向にあ るからだ 39.例えばコロンビアでは,低スキルの労働者と高スキルの労働者はともにマイナスの影響を受 けたものの,低スキルの労働者の影響度はより大きかった.ドイツ,オランダ,トルコ,およびイギリスで は,低スキル労働者は賃金の低下を経験した一方で,高スキル労働者は上昇を経験した.コロンビアとトル コでは,労働市場への難民の参入は,非公式労働者にはマイナスの影響を及ぼし,公式労働者にはプラスの 影響を及ぼした 40.低・中所得国への移住は,それが低スキル労働者の類似した代替であり,かつ高スキ ル労働者にとっては強固な補完である場合には,やはり低スキルの人たち,したがって低所得の人に不釣り 合いに大きな影響を及ぼす 41.  多くの諸国において,過去に流入が増加した際に入国した移民が新規の移民流入から最大の影響を受けて 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 159 図 6.3 入国移住が賃金に与えるインパクトは国によって異なる a. 低スキル労働者が受ける影響 3 2 1 賃金への影響の平均 0 0 0 0 0 (%の変化) ‒1 ‒2 ‒3 ‒4 ‒5 ‒6 ‒7 ノ チリ ク ク ア ン ア ア ス ン ス ア コ イ カ イ リス ポ ンス コ オ ツ ー ダ フ ル ル リ リ ー ル リ リ イ ェ ビ イ ロ ン ル エ ガ ト ラ ト メ ウ ギ ラ ラ マ ス ブ ト ン ド ル キプ ト ラ ス ル ト ル ル ロ ス ス ー エ セ デ コ ー オ プ ク オ b. 高スキル労働者が受ける影響 5 賃金への影響の平均 4 (%の変化) 3 2 1 0 0 ‒1 ‒2 ア コ ス カ コ ー ツ ダ リ リ リ ェ ビ イ ン ル ト メ ウ ギ ラ ト ン ド ル ア ル イ オ ロ エ ノ コ プ 出所:29 カ国における 111 件の研究にかかわるレビューに基づく WDR 2023 チームの試算. 注:賃金に対する影響の平均は,入国移住によって現地の労働力が 1%増加した場合に,既存の労働者が経験する百分率で 示した賃金の増加あるいは減少を示している. いる.これは新規の移民が持ち込んでくるスキルが以前の移民のスキルと類似しているからだ.アメリカで は, –  1990  2006 年における新規の移民は過去の移民労働者のコホートの賃金を 7.6%低下させた.一方で, 受け入れ国の国民に対するインパクトは 0.6%の微増であった 42.このパターンはマレーシアでも同様で あり,マレーシアでは移民の数の 10%の増加は,既存の移民の賃金を約 3.9%低下させ,これにはマレー シア国民の賃金に対する観測可能なインパクトは伴っていなかった 43. 財政面での貢献  移住の財政面でのインパクトは通常はプラスである.OECD 諸国では,移民の財政面での正味の貢献― ―税収と移民から収集された社会保障拠出金の合計から,移民が受け取る社会移転を引いた値として測定 される 44――はしばしば移住先国[受け入れ国]の国民による財政面での正味の貢献を上回ってさえいる(図 45.財政面での正味の貢献は,移民が移住先国のニーズに強固に適合しているスキルや属性を身に付 6.4) けて到着する場合にはより大きくなる.しかし,移民が労働市場で差別に直面する,ないしはスキルや資格 に見合ったレベルの仕事ができず,それ故に同等の移住先国民よりも稼ぎが少ない場合には,貢献度は小さ くなりうる.  受け入れ国の市民と比較した,移民および帰化市民の年齢構成の相違が,財政面での正味の貢献度の大部 160 世界開発報告 2023 図 6.4 平均すると,OECD 諸国においては移民や帰化市民の財政面での正味の貢献は受け入れ国生まれの市民 による貢献を上回っている 個人レベルでみた(1 人当たりの)政府の歳出に対する歳入の割合;2006 – 18 年平均 3.0 2.5 (歳出に対する歳入の) 2.0 1.5 財政比率 1.0 0.5 0 ク ア ベ ア ア ド ス ド ン ン ス ス カ ー ツ ー ダ ダ ル 均 リ リ リ ー ン ン リ リ イ イ ェ ナ ン イ ン デ ギ ガ 平 ト ラ タ メ ラ ラ ウ ギ ラ マ ラ ス ペ カ ド ト ー ル ス ト イ ア ン ル ル イ フ オ ル ン ェ ス ス ー ィ イ ノ ウ デ ポ ー フ オ ア ス オ 移民および帰化市民 移住先国[受け入れ国]生まれの市民 出所:Damas de Matos 2021. 注:データは個人レベルの政府歳出と歳入のみを含む.歳出は医療,教育,および社会的保護にかかわる.歳入は社会保障 拠出金に加えて直接税および間接税を含む.国防などの純粋な公共財への支出は除外されている. 分――OECD 諸国については 70%――を説明している (図 6.5)46.この発見は次の事実に由来する.すな わち,入国移民においては働き盛り[プライム・エイジ]の個人――貢献度が高く,貢献と比較して給付が少 ない年齢層――の割合が大きく,子供や高齢者――教育,医療,それに老齢給付のほとんどを費消し,一方 で貢献がほとんどない年齢層――の割合が小さい 47.ほとんどの移民は教育を修了してから受け入れ国に 入国する 48. –  1995  ヨーロッパからの入国移民はスキルや訓練の成果をイギリスに持ち込んだ. 2011 年に, 仮にそのような成果がイギリスの教育制度を通じて達成されたならば,そのコストはほぼ 170 億ドルになっ ただろう 49.そのような人たちが労働力に加わるので,働き盛りの入国移民による貢献は,政府が彼らの ために行う支出の 3 倍となる 50.全体として,最近のアメリカへの教育達成度が高校未満の平均的な入国 移民は,雇用期間にわたって,正味現在価値での推定で 12 万 8,000 ドルの貢献をする――これは年収水 準の中央値のほぼ 2 倍に相当する 51.  他の要因も重要である.一時的な移住と恒久的な移住の財政効果は異なる.一時的な労働者は典型的には 老齢に関連する公共支出――医療と年金――が必要になる前に出身国に戻る.多くは家族を同伴せずに移住 し,それ故,教育制度は利用しない.対照的に,恒久的移民は,医療,教育,および年金への完全なアクセ スを必要とし,典型的には移住先国に対して生み出す財政的な利益はより少ない 52.教育やスキルの水準も, 移民の財政面での正味の貢献に影響する.移民向けの個々の政府支出は教育水準にかかわらずほぼ同じであ るが 53,移民の財政面での寄与度はそうではない.すなわち,高スキルの移民は低スキルの移民よりもよ り多くの貢献をする.  移民の法的地位と公式な雇用が,移民の財政面での純貢献に関わる単独の最も重要な決定要因である 54. すべての移民が――正当な書類があるか否かにかかわらず――消費税や付加価値税を支払う一方で,所得税 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 161 図 6.5 移民の財政面での貢献は,移民が生産年齢である場合にはより大きい 相対的財政比率 と 15 – 64 歳人口の相対的比率の間の相関関係;2006 – 2018 年, (自国生まれに対する外国生まれの比率) 平均 1.7 相対的財政比率 PRT 1.5 ITA (自国生まれに対する外国生まれの比率) 1.3 LUX GBR GRC IRL AUS CHE USA 1.1 CZE ESP SVN NOR NLD DNK LTU AUT 0.9 DEU FRA FIN CAN SWE LVA BEL 0.7 EST 0.5 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 生産年齢(15 – 64 歳)の個人の相対的割合 出所:OECD 2021. 注:国の略号については,以下の国際標準化機構(ISO)を参照:https://www.iso.org/obp/ui/#search. や社会保障税を払うのは正当な書類を持っている移民だけである.働く権利を有していることから,正規の (書類のある)移民はより高い賃金を稼ぐことが可能となり,このことは,次にはそのような移民の財政面で の貢献を高める 55.コロンビアでは 2018 年に,大規模な恩赦プログラムによって約 50 万人のベネズエ ラ人移民に労働許可証が与えられた.このプログラムは,公式化比率を 10%ポイント増加させ,このよう な移民の多くは今では税金を納めている 56.  入国移住の財政面での総合的なインパクトには,間接的な貢献も含まれている.間接的な長期にわたる財 政面での影響は,一般的に定量化がむずかしい.それは,経済における生産性,成長,資本配分,およびそ の他の調整の仕組みに関する前提に基づいている.しかし,次の点は明確である.すなわち,移民の労働は 移民を雇用している企業の売上や利益を,したがってそれら企業が支払う必要のある税金を増加させる.ア メリカでは,そういった税金は移民がもたらす直接的な(正味の)財政面で効果の 3 倍以上に達している 57. 経済的利益を最大化する  移住先 国の政策が大体において当該国の経済的利益の大きさを決定する.政策には,移民の滞 [受け入れ] 在に影響を及ぼす政策――移民が享受できる権利とアクセス可能な機会を決定――に加えて,入国に影響を 及ぼす政策――誰が入国を許されるかを決定――が含まれる.移民の貢献度は,移住政策が全てのスキル水 準にわたって,移民と自国民の間での高い補完性を保証している諸国ではより大きくなる.特にそれがあて はまるのは移民が公式に,かつその資格に応じたレベルで働くことが可能であり,そしてビジネス環境が資 本と労働が地域や経済部門の全体にわたって速やかに配分されることを可能にしている諸国である. 162 世界開発報告 2023 入国政策  ほとんどの国は,自国の経済的ニーズに応えるために,恒久的移住と一時的移住の両方を含め,複数の合 法的な移住経路(チャンネル)を必要としている.例えば,アメリカには 185 種類のビザがある.そのよう なビザの中には,高スキル労働者や,農業の季節労働者,家族の再会向け,人道的見地による一時的滞在の ためのもの,などがある.同様に,多数の基準が,家族のつながりや,雇用,難民の地位,虐待ないし人身 売買からの保護など,グリーン・カード (永住権)を取得するための前提を提供している 58.経路が複数あ ることは煩雑な制度を作り出しているが,広範にわたる状況やニーズに対して微妙な相違にも包括的に対応 することを可能にしてもいる.  入国政策は市場諸力を認識している必要がある.需要がある場合,入国移民の労働に対する制限は,経済 的なコストを押し上げ,書類のない移住の増加と,産出や生産性の低下などの悪影響をもたらす 59.例え ば,アメリカのブラセロ(Bracero)計画はメキシコ人農場労働者に対して一時的な労働許可証を付与した. 1964 年にこのプログラムが終了したことによって,約 50 万人の臨時労働者にとっての雇用への合法的な (legal)経路が閉鎖された. 国内労働者に利益をもたらすことを意図していた. プログラムの終了は, しかし, 雇用者は移民労働を機械で置換した.あるいは,書類のない移民を採用した.そのような労働者が,単に合 法的な移民にとってかわった.より最近では,GCC に加盟している石油が豊富な数カ国は,民間部門にお ける自国民の雇用を促進するために,入国移民に関して採用割当を課した.サウジアラビアでは,自国民の 雇用は増加したが,影響を受けた企業において,輸出できる確率の 7%ポイントの低下,輸出金額の 14% の減少,そして市場退出の可能性の 1.5%ポイントの増加が生じたようである 60.政府による制限に対す る反応のなかで,非正規市場が出現した.そして,そのような市場では,移民はビザの申請時の保証人では なく,むしろ雇用者のために非正規に働いている 61.  非正規移住を阻止するための措置は意図しない結果をもたらす可能性がある.例えば,アメリカで –  2008  「安全なコミュニティ」 13 年に実施された プログラムは,1 人を強制送還することによって,1 人の非 正規移民を阻止した 62.しかし,この政策はアメリカ市民にとってはマイナスの結果をもたらした.低スキ ル労働者の雇用と賃金が減少した 63.これは現地の消費が減少し,労働コストが上昇して雇用創出が縮小し たことが要因であった.また,特に女性を中心に,高いスキルを有する市民の労働力参加率も低下した 64.  合法的な経路の有効性と持続可能性を確保するために,一部の国は雇用者,労働組合,およびその他利害 関係者と協議を行うするプロセスを創設してきている.例えばイギリスでは,移住諮問委員会は,いくつか の選択された部門における労働のニーズへの対応として,入国移民を活用することの可能性について政府に 助言を行うために,そのようなニーズを調査している 65.類似の制度が,特にオーストラリアとシンガポー ルでも創設されている.一部の諸国は,移住の目的に関するコンセンサスを形成および強化するために,地 方自治体ないし市民社会と話し合いを行っている.このようなプロセスは,流入してくる移民の潜在的なプー ルと移住先国の労働市場のニーズとのより良いマッチングを確保することを目標としている. 恒久的な制度  永続的な移住の経路を設計する際,一部の受け入れ国は統合に向けた移民の潜在力に焦点を合わせている. カナダとニュージーランドは,ポイント制を用いた自国用の永続的な移住経路を組織化している.申請者は スキルや,言葉,人口構成などの一連の基準に基づいて採点され,十分な数のポイントを獲得した人は,入 国して典型的には帰化につながる経路に沿って進むことが許容される.カナダのポイント制は成功につなが る移民の潜在力に基づいており,一方で,ニュージーランドはほとんどの場合,高いスキルを有する移民を 選好している 66.オーストラリアもポイントに基づく制度を実施している.1990 年代半ばまでは,その 制度はスキルを有する移民に対して永続的な移住の機会を提供していたが,強固な雇用見込みを持っている 人を重視するように変移してきている 67.オーストリアや,ドイツ,ポルトガル,スウェーデン,UAE な どは,仕事を探すためのビザの制度も創設している.この制度では,特定の基準を満たす外国人労働者は, 就労先を見付けるという目的で入国することが許可されている. 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 163 図 6.6 多くの移住先国では高等教育を修了した移民・帰化市民の割合は労働力の平均を上回っている 70 60 CAN 高等教育修了者が入国移民に占める割合 ARE 50 GBR AUS USA 40 CHE KAZ RUS 30 FRA ESP UKR DEU 20 TUR (%) ITA SAU JOR KWT OMN 10 IND MYS THA CIV PAK IRN 0 10 20 30 40 50 高等教育修了者が移住先国[移民受け入れ国]の国民に占める割合(%) 出 所:DataBank: Global Bilateral Migration, World Bank, Washington, DC, https://databank.worldbank.org/source/global- bilateral-migration; data on skill structure of the population from census data (2014–20); updated Barro and Lee (2013); and Data (portal), Wittgenstein Centre for Demography and Global Human Capital, Vienna, https://www.wittgensteincentre.org/ en/data.htm からの 2020 年の移住データに基づき WDR 2023 チームが編集. 注:円の大きさは当該国における移民と帰化市民の人数に比例している.国の略号については,以下の国際標準化機構(ISO) を参照:https://www.iso.org/obp/ui/#search.  事実,移民の移住先国のほとんどは高いスキルを持つ移民を引き付けることを目的とする政策を採用して いる.このような政策には,スキルの低い移民よりも家族を伴う移住をより容易に行うことができることに 加えて,移住先国の国民と同じような雇用の権利や居住の特権が含まれている 68.したがって,多くの移 住先国では,高等教育修了者が移民や帰化市民に占める割合は,移住先国の国民に高等教育修了者が占める (図 6.6) 割合よりも高くなっている .  高等教育修了済みの移民のほぼ半分が次のわずか 4 つの移住先国に居住している:アメリカ,イギリス, カナダ,およびオーストラリア 69.例えば,アメリカとカナダにおける科学・技術・工学・数学(STEM) の博士課程に在籍している全学生のほぼ半数は他の諸国の出身であり,それらの学生の大きな割合が卒業後 も滞在している 70.全体として,高所得の OECD 諸国が,高等教育を修了している全移民のほぼ 75%を 受け入れている.  一部の合法的な(legal)入国の経路は,移民の移住先国の経済的および社会的な目的を反映させて設計さ れてきている.例えばアメリカでは,いくつかの経路は,一定数のグリーン・カード(永住権)を毎年行うく じ引き制を通じて割り当てることで自国の多様性を鮮明にすることを目指している.このくじ引き制では, 移民の出身国の中で十分に代表されていない国が出身国である移民が優先される 71.他の合法的経路も長 期的な統合を奨励し,そして促進している.例えば,家族の再会を理由とする入国許可は OECD 諸国への 移住にとって最大の経路となっている 72. 164 世界開発報告 2023 図 6.7 カナダでは今では短期的な移住が永続的な移住を上回っている 400 350 300 250 移民数 200 (千人) 150 100 50 0 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 永続就労移民 短期就労移民 出所:Open Government (dashboard), Strategic Communications and Ministerial Affairs, Treasury Board of Canada Secretariat, Ottawa, https://open.canada.ca/en からのデータに基づく WDR 2023 チームの試算. 注:短期就労移民に含まれているのは,短期外国人労働者プログラム(TFWP)および国際移動性プログラム(IMP)を通じてカ ナダに入国した人である.永続就労移民は,入国移民という経済的階級の下での永住者である. 一時的な経路  一時的な移住の経路はさまざまな移住先国によって使われている.GCC 諸国,マレーシア,およびシン ガポールでは,この経路がほぼすべての移民を占めている.また,EU 諸国ではスキルの範囲のすべてにわ たって労働需要を満たすためにこの経路が使われている 73.この経路は韓国でも導入されており,韓国は 中小企業の労働需要に対処するために 2003 年に雇用許可制を設立した.  OECD 加盟国の中の数カ国は,永続的な移住へ向かう第一段階としての移住を含め,一時的な形態の移 住に転向しつつある 74.例えば,オーストラリアでは,1990 年代半ばまでは,入国を許された外国人労 働者のほぼすべてが永住者として到着していた.今日では,移民の 4 分の 3 は短期就労ビザで入国してい る 75.このビザは移民が恒久的な地位を申請する前の 「試用期間」として機能している 76.カナダでも,一 時的移住が永続的移住を上回っている(図 6.7).同じく,ドイツは一時的な移民のための永住への経路を徐々 に開拓してきている 77.韓国は低スキルの外国人労働者が当人のビザの種類を準スキル(semiskill)に変更 するのを認めており,スキルの資格テストに合格することがその条件とされている.今までのところ,準ス キルおよび高スキルのビザを保有する移民の 4 分の 1 が,そのような変更から利益を得ており,場合によっ ては,そのようなビザは居住権や家族との再会の経路を提供している 78.  多くの諸国は特定の部門における労働不足を埋めるために季節的な移住プログラムを活用している.この アプローチは多くの状況で,移民自身,移民の出身国,そして移民の移住先国の相互にとって有益であるこ とが判明している 79.例えば,スペインとモロッコは 2001 年に二国間協定を締結し,この協定によって, モロッコ人が年当たり 9 カ月間までスペインの農業部門で働くことが可能になった 80.スペインはホンジュ ラスや,コロンビア,エクアドルなどのラテンアメリカ諸国と類似のプログラムを運営している 81.ポー ランドは農業および観光業の部門の雇用者の要請に応じて,最長 9 カ月間までの季節的労働許可証を発行 している 82.類似の季節労働者プログラムはオーストラリア,カナダ,ニュージーランド,そしてアメリカ などで普及している.カナダでは,季節的農業労働者プログラムは,メキシコ,およびそのプログラムに参加 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 165 8 カ月の期間にわたり受け入れている 83.季 しているカリブ諸国から,年当たり 2 万人の労働者を 6 週間 –  節労働者が当人のビザを超えて滞在しないことを確実にするために,一部の諸国は,当人が規定されている 復帰ルールを順守している場合には,次の季節に戻ってくることを許している.このような規定の順守の比 率の水準は,カナダや,ニュージェーランド,スペインでは高い 84.  一時的な移住は確かに,一時的な労働ニーズに対処するための適切な経路である.移民の移住先国にとっ て,一時的移住は労働ニーズを満たすと同時に,中期的な社会的インパクトを削減する.例えば,そのよう なプログラムの下では,移民は典型的には家族を同伴することは許されていない.換言すると,このような 取り決めは移民による労働を,長期にわたる包摂をより複雑にする可能性のある他の特性や特徴から切り離 している.  しかし,一時的な移住は長期にわたる労働ニーズに取り組むにはあまり適していない.短期労働許可証が 長期間にわたって延長ないし更新される場合,統合にかかわる挑戦課題は困難になるかもしれない.短期ビ ザは,言葉を修得し,国固有の人的資本や社会的ネットワークに投資することに向けたインセンティブを 低下させる 85.また通常は,受け入れ国は統合を支援するための措置は実施していない 86.例えば,1960 年代のヨーロッパでは,外国人労働者――ドイツの Gastarbeiter(ゲスト労働者) –  など――は 2  3 年のみ 滞在することが期待されていたが,多くはその後,一度も離国しなかった. 滞在政策 スキル承認とスキル構築  学位の承認やスキル認証は労働移住を最大限に活用するために重要である.そうするためには,移住先[受 け入れ]国は移民の出身国の各スキルについての基準が自国の基準と同等か否かを決定する仕組みを開発し なければならない 87.国際基準はそのような評価を円滑化することに役立つかもしれないが 88,導入は困 地域的な協力や, 難であることが判明している. 地域的な資格の枠組みの開発が有望である. ヨー 実例として, ロッパ資格枠組みと ASEAN 資格参照枠組みがある 89.認証に関わるそのような取り組みは極めて技術的 で時間を要するものの,移民と受け入れ国の双方にとって,国境を越える労働移動の利益を最大化するため には極めて重要である 90.  現地の言葉をうまく使えることや現地語の研修プログラムも,移民の生産性や労働力参加率の上昇と関係が あり 91,それが次には,受け入れ国の社会に経済的に利益をもたらす.語学研修やいくつかの統合支援を利 用することは,デンマークや,フランス,ドイツなどの高所得国においてプラスの効果をもたらしている 92.  学生ビザは,移民が移住先の労働市場で必要とされているスキルを修得するための代替的なルートを提供 している.学生の移民を受け入れることによって,当該国は自国の雇用者によって容易に認知されるであろ う資格をそのような移民に与えることができる.これは他地域で取得された学位や経験の事後的な認証より も多くの場合に有効である.学生として移民を受け入れることは,そのような移民に現地の言語の学習に投 資し,移住先国に固有なその他の形態の社会資本を蓄積する機会とインセンティブを与えることになり,こ のことによって,社会的統合が円滑化される.  グローバル・スキルズ・パートナーシップはもう 1 つのモデルである.パートナーシップという手段に よって,受け入れ国は,移住する可能性のある人が出身国で受ける訓練に資金提供し,卒業と同時に入国許 可を付与している.このアプローチは潜在的な移民のスキルや属性が移住先国の労働のニーズに適合し,頭 脳流出というマイナスの影響を減らすことを目指している.というのは,プログラム参加者の一部は最終的 に移住しないことを選択するからだ.試験的なプログラムが,ベルギーとモロッコによって情報通信技術部 門において,そしてドイツとチュニジアによって介護部門において立ち上げられているが 93,このアプロー チの規模はまだ拡大されてはいない.早期の教訓が強調しているのは,訓練プログラムの設計への雇用者の 積極的な参加を確保することの必要性,このようなプログラムの移民の出身国における社会的な受容を確保 することの重要性,そして移住先国の雇用者に加えて,移民の出身国と移住先国の双方における訓練機関と 公的当局を含む多角的パートナーシップの複雑性である. 166 世界開発報告 2023 法的地位と労働権  移民に確実な法的地位と公式の就労権を与えることは,移民の労働市場への包摂を円滑化し,移民が当人 の有するスキルや資格に見合うレベルで公式な活動に従事することを可能にする.確実な法的地位を持つこ とは――その地位が有効な就労ビザ,亡命ないし在留の資格,あるいは市民権などのいずれを含むかにかか わらず――,滞在,法の支配という保護,およびその他の法的権利に関して予測可能な見通しがあることを 意味する 94.これを受けて,移民は自身の移住先社会,職場,あるいは国に投資する,より強い動機を持 つことになり,そして新しい言葉を学び,企業家的な活動に従事し,教育面で追加的な学位を修得し,そし て社会的ネットワークの一部になる 95.確実な法的地位を持つことで,移民は経済および社会のなかでよ り自由に移動し,所得や人とのつながりを増やし,社会的および経済的にいっそう融合されることが可能に なる. 影響を受ける国民に向けた支援  移民のスキルと類似したスキルを持ち,賃金ないし雇用の減少によって悪影響を受ける受け入れ国の国民 を支援することにとっては,労働市場の柔軟性が鍵となる.柔軟性によって,補完的な[移民を補完するよ うな]労働者や資本は移民が参入する地域や部門へ移動することが可能となり,さらに,同じようなスキル を持つ労働者が他の地域,部門,あるいは職業に移動することが可能となる 96.同じく,柔軟な資本市場 はある部門への新規企業の参入,または既存企業の拡大を円滑化することができ,この両方が労働需要を増 やし,移住が賃金や雇用に与えるマイナスの影響を削減する 97.対照的に,資本あるいは労働の市場の調 整を阻害する市場の硬直性は,入国移住の悪影響を増幅する.そのような制限は低・中所得国において特に 広まっている.そのような諸国では,移民は非公式経済に集中しており,国民の移動性が低く,そして企業 の拡大能力は限定的である.それは,金融市場へのアクセスが欠如していることや,生産性が低いことが要 因であり 98,コロンビア 99 や,エクアドル 100,ペルー 101 において立証されている.  失職や移動に要するコストに直面している労働者は他の地域ないし部門での雇用を探しており,それ故, そのような労働者も支援を必要としているかもしれない.社会的保護プログラムや積極的労働市場政策は移 住の悪影響を削減する.移住から得られる総合的な利益が必要な財源を生み出している高所得国では,失職 から一時的に影響を受ける人々を支援することが可能である.しかし例えば,仮に人々が新しい地域ないし 仕事に移る意思を持っていない,あるいは移ることができない場合については,貿易の自由化に向けた調整 による経験は,そのような取り組みは複雑であることを示している.低・中所得の移民受け入れ国は,自国 民と移民のスキルの類似性がより高く,さらに財政資源がより限定的であり,そのような社会的保護プログ ラムの実施はより困難な課題かもしれない. 社会的包摂を促進する  多くの諸国で,移住に関する政治論議は,経済から移民の社会的包摂に関連のある挑戦課題に移ってきて いる.移民が拡張された期間にわたって――ないし永続的に――滞在する場合,移民の統合という問題が議 論の中心になる.統合の成果に関する発見は主に高所得国に限定されている.しかし,そのような発見は, 各国の状況に順応させることができ,一方で,低・中所得国の両方を含む他の受け入れ国における移住政策 に有用な情報を提供することに役立ちうる.  統合が成功裡に行われることは,移民自身と移住先社会の両方に利益をもたらす.移民は,社会への強固 な関与に加えて,労働市場における良い成果を通じて著しい利益を得る 102.受け入れ国は,移民の力強い 経済的貢献を通じて 103,また,周縁化された人々の出現を回避することによって利益を得る.ある社会内 において,諸グループ間の信頼と連帯は経済成長の高まりと相関関係を有する 104.しかし,社会的緊張が 特に高い場合には,民族性,人種,宗教,あるいは国籍などの境界線に沿った分裂が,労働者間の協調を低 めることによって,生産性を低下させる可能性がある 105. 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 167 居住の分離  移民とその家族は,移住先国で特定の地域,地方自治体,あるいは当人の出身国の出身者から成るコミュ ニティの近隣に定住する傾向がある.そうすることは,求職や新しい社会的・文化的な環境に馴染むことに 役立ちうる(地図 6.1 および 6.2)106.例えば,アメリカへ移住した英語の能力が限定的なメキシコ人移民は, メキシコ人移民の集中度が高いコミュニティに居住する傾向にある 107.デンマークでは,難民は多くの場 合に自身の出身国から移住した移民の割合が高い地域に住むことを好む 108.このような選好は,フランス で立証されているように,一部の地域で差別が移民の住宅市場へのアクセス能力に影響を及ぼしている場合 には,強化されるかもしれない 109.居住の分離が要因で,移民はある一部の地域において,全国平均では その移民の割合は低い場合でさえ,住人の大きな割合を占めているかもしれない.  移民の集中は,移民の移住先国の国民が,例えば,民族性ないし宗教が自分たちとは異なる人々との公共 スペースの共有を回避するために転居する場合には悪化している公算がある.この現象は「ネイティブ・フ ライト」と呼ばれている 110.そのような転居は,他の国民にとっての近隣地区の望ましい条件に影響を与 える.このような影響は状況によっては顕著になりうる.例えばランスでは,新たに難民センターを開設し –  た地方自治体では,開設から 2 年以内に到着した難民 1 人当たりについて,平均で,既存の住民が 3  6人 転出するという事態を経験した 111.  居住の分離は住宅価格に影響を与える.ほとんどの高所得国では,移住者の流入は漸進的で,現地の経済 機会に対応しており,住宅市場は――ゾーニング法の制約がない限り――おのずと調整されている 112.カ ナダやアメリカでは,都市人口の 1%の移民流入は家賃を押し上げるが,新規の建設が行われることから, 上昇率は1%未満である 113.  一部の状況では,「ネイティブ・フライト」が移民の割合が大きい地区の近隣における住宅価格の下落の要 –  因になっている.イタリアでは,最大級の 20 の都市において,2000  10 年に,入国移民人口の 10%の 増加は,現地の人が転出したことから,当該都市内の他の地域との対比で,住宅価格が 2%下落した 114. 同様の影響がアメリカ,イギリス,そしてドイツでも立証されている 115.ベルリンに難民シェルターが開 –  設された際,難民シェルターの近隣の新規賃貸の目録掲載価格は 3  4%下落し,同近隣地区の快適性に対 する満足度は低下した 116. 「ネイティブ・フライト」は移民の割合が低い地域の近隣における住宅価格にも 影響を及ぼす.例えばアメリカでは,アメリカ国民が転入してきている地域では,住宅の需要と価格が上昇 している 117.  住居の分離は公共投資の減少と関連を有する傾向があり,このことが状況をさらに悪化させている.移民 コミュニティのニーズに応えることに公的当局が付与する優先度は,移民の投票権次第かもしれない 118. 当該国の国民は再分配を重視しない政策を支持することによって,移民の到着に反応する公算があろう 119. 20 世紀初めの数十年間には,大勢の入国移民を受け入れたアメリカの諸地域では 1 人当たりの公共支出が 減少した 120.しかし,この影響は,当該国の社会経済的な状況 121,あるいは移民の法的地位 122 に左右さ れるかもしれない. 教育と医療  教育制度に対する入国移民の影響は,移民人口の規模,構成,および集中度に左右される.インフラや,教員, 資源への投資が時宜に適った仕方で調整されない場合,あるいは移民が居住する近隣地区が優先されない場 合,人数が多いほどより大きな悪影響につながる 123.スペインでは,移民の割合が大きい州では生徒対教 師比率が高い(図 6.8)124.  受け入れ国側の国民にとっての教育の成果もピア効果を反映しており,それには,なかでも特に,社会的 相互作用やグループ学習が含まれる 125.状況によっては,教室における移民児童の存在は平均的な学習や 試験の点数にマイナスの影響をもたらす.しかし,教室における移民児童の数は,移民の児童の両親の教育 程度や,児童本人が現地語を使いこなす能力の程度によって,大きな相違を生み出しうる 126.そのような マイナス効果はコロンビアやウガンダなどの低所得国でも観察されてきている 127.オランダでは,そのよ 168 世界開発報告 2023 地図 6.1 アメリカでは,入国移民世帯は主として南部国境に沿った地域と主要な大都市圏に集中している 家族員に外国生まれの人が 1 人以上含まれている世帯の割合(%) 割合(%) > 40% 35% – 40% 30% – 35% 25% –30% 20% – 25% 15% – 20% 10% – 15% 5% – 10% 0% – 5% IBRD 47137 | MARCH 2023 出所:2019 five-year estimates of American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www. census.gov/programs-surveys/acs に基づく WDR 2023 チームの試算. 地図 6.2 ニューヨーク都市圏では,移民は特定の近隣地区に集中している 家族員に外国生まれの人が 1 人以上含まれている世帯の割合(%) 割合(%) > 70% 65% – 70% 60% – 65% 55% –60% 50% – 55% 45% – 50% 40% – 45% 30% – 40% < 30% IBRD 47138 | MARCH 2023 出所:2019 five-year estimates of American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs-surveys/acs に基づく WDR 2023 チームの試算. 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 169 図 6.8 スペインでは生徒対教師比率は移民生徒の割合が大きいほど高い 0 Comunitat ‒5 Valenciana Cataluña Aragón Comunidad de Madrid Comunidad Foral ‒10 de Navarra 生徒対教師比率の変化 La Rioja País Vasco Canarias ‒15 Asturias, Principado de Balears, Illes (%) ‒20 Andalucía Galicia Castilla y León Extremadura ‒25 Cantabria Castilla-La Mancha Región de Murcia ‒30 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 移民・帰化市民が人口に占める割合の変化率(%ポイント) 出所:Tanaka, Farré, and Ortega 2018. 注:上図はスペインの 17 の州の 2000 – 10 年における生徒対教師比率の変化を示す.回帰線は各州の人口で加重されている. うな効果は,移民児童の到着が最近である場合において,最も大きい.このことが示唆しているのは,統合 の水準が高まることは,マイナス効果を小さくする,ということである 128.しかしながら,クラスの規模 やコミュニティの文化的背景などの他の多くの要因も,学習の成果を説明する論拠となっている 129.  「ネイティブ・フライト」が多くのコミュニティで状況を悪化させている.大勢の移民流入に対応して学校 区を変更する家庭が存在するという証拠が数カ国で裏付けられている.例えば,アメリカでは,生徒が比較 的に同質的な小学校から,混在の度合いがより高い高校に進学しなければならない場合に,そのような状況 が見られている 130.同様に,スペインやトルコでは,公立学校における入国移民児童の増加に反応して, 受け入れ国生まれの児童,特に高所得世帯の出身の児童の私立学校への就学が増加傾向にある 131, 132.そ のような増加傾向は,公立校における移民と受け入れ国の国民の比率を上昇させており,マイナスの受け止 め方を増幅させている.さらに,このことは,不利な状況にある公立校に対する支援の削減につながる可能 性もある 133.  移住は,特に公的財源の乏しいコミュニティにおいて,医療へのアクセスやその提供に類似の悪影響を もたらす.一部の諸国では移民が医療従事者の比較的な大きな割合を占めており,このことによって当該 国民に追加的な医療サービスが提供されている.移民が医療サービスを利用することが当該国民に与える 影響は,移民の地理的な集中度,年齢特性と健康状態,そして専門的サービスを必要とする患者の割合, 次第である.イギリスでは移民が大量に流入した不利な状況にある地域では,医療ケアでの待ちの時間が 長くなっている.しかし,移民が医療サービスを利用する性向は,移住先の国民よりも低い.これは部分 的には,移民がより若くてより健康であること 134,また部分的には,医療へのアクセスに際して差別や障 170 世界開発報告 2023 壁に直面することが要因である 135. 犯罪と危険  入国移住と犯罪の間の関係は激しい公開討論の主題である.ほとんどの OECD 諸国では,外国人が収監 人口に占める割合は,総人口に占める割合を多くの場合に相当な程度で上回っている 136.そうではあるも のの,入国移住と犯罪のつながりに関する実証的な調査は,大部分が結論を得ていない.イタリアにおける ように,入国移住は全体的な犯罪率に著しい影響を及ぼしてはいないことを見出している研究もある 137. 他の研究は,マレーシアにおけるように,移民の間では罪が犯される傾向は低いことを立証している 138. 他方,アメリカで得られているように,金銭的な利益を動機とする犯罪を増加させる影響を及ぼしているこ とを見出している研究もある 139.犯罪率は受け入れ国の国民の反応も反映している.例えば,入国移民の 存在が不安感を引き起こしている場合には,受け入れ国の国民は転居する,あるいは先制的に安全対策に投 資するかもしれない 140.  犯罪的な行為は移民が移住先国で生活し,働き,また他人と相互交流する条件から主に発生してきている. 人のあらゆる集団において,失業していることは,社会的周縁化と同じく,罪を犯す可能性を高める 141.多 くの国で,移民は社会の貧しく,そして排斥されている地域――すなわち,犯罪行為がより広範にみられる 地域――において大きな比率を占めている.経済的および社会的な包摂は移民が犯罪を行うリスクを下げる ことに効果がある.非正規移民や亡命希望者のために雇用にかかわる障壁を撤廃することは,犯罪の発生率 を低下させる 142.イタリアでは,公式労働市場へのアクセスを可能にする法的地位を非正規移民が有して いる場合には,そのような移民が犯罪を行う可能性は低下している 143.アメリカで 1986 年に約 300 万 人の入国移民が合法化されたことは,犯罪の 3  – 5%の減少につながった 144.  一部の国では,移民の存在は国家的な安全性にかかわる懸念を高めてもいる.この懸念はスパイ行為から テロリズムに至るまでさまざまな問題にわたっている.典型的にはこれらに関与している個人は少数である が,幅広く恐れられている.テロ事件が発生すると 145,恐怖がマイナスの感情をコミュニティ全体に引き 起こす 146.1990 年代にイスラム・テロリズムが生起して以降,イスラム・コミュニティの人々はそのよ うな状況を経験した 147. 包摂という枠を超えて:社会的統合  社会的統合という概念は,それぞれの社会によって著しく異なる.一部の移住先国の社会では,人口の大 部分にとっての文化的遺産を速やかに受け入れることを移民は期待されているが,他の諸国では移民が自ら の文化的選好に長期にわたって執着することに対してより寛容である.移民に起因する「文化的」とされてい る問題の一部は,実際には,国内の少数派――および特に帰化した移民の子孫――の包摂に向けた進展の欠 如を反映している.このような態度は帰化のために使われている基準に反映されている.その基準の範囲は 広く,2000 年までドイツで用いられていたような血統から,フランスにおけるように,支配的な言語に堪 能であること,そしてアメリカにおけるように,憲法や政府機関の知識にまで及ぶ.自らを多民族国家ない し多宗教国家と定義している,または考えている諸国は,多くの場合に,より高い程度で文化的な多様性を 容認している.  ほとんどの移住先国[移民受け入れ国] (ボックス 6.2) の社会や文化は同質的でも静態的でもない .アル ジェリアとカナダには2つの公式言語があり,ベルギーには 3 つ,スイスには 4 つ,南アフリカには 11 個ある.一部の諸国は正式に追加的な言語を承認しており,それは,スウェーデンの 4 つの少数言語,イ ンドの 22 個の指定言語,そしてメキシコや,ナイジェリア,ロシアなどの多様な諸国におけるさまざまな 先住民の言語である.西ヨーロッパの数カ国を含む一部の諸国では,地域的な政治運動が独立,ないしはよ り高度な自治を求めており,統一的な国民文化という語りに異議を唱えている.サハラ以南アフリカを含む 世界中のさまざまな地域で,政治的な国境は常に言語や文化の境界に対応しているわけではなく,「自国」の 文化と 「外国」 (一部の) の文化の区分は曖昧になっている.すべての国で,部分的に重複し,不断に変化して 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 171 ボックス 6.2 深刻な文化的変化が生じている  社会的統合の分野では,移住は社会を急速に作り変えつつある多くの諸力の 1 つにすぎない.多くの諸力 は移住とはほとんど無関係である:  高齢化.多くの社会は急速に高齢化している.65 歳以上の人が住民に占める割合は 1950 – 2022 年に 7.9% から 20.1%へと上昇した.この動向は,高齢者の介護や年金制度という点を含めて,社会契約に脅威をも たらしており,非常に破滅的でありうる.  都市化.都市に住んでいる人の世界人口に占める割合は過去 50 年間に 37%から 56%へと上昇し,このこ とは人々が互いに結び付く方法や,人々の考え方と期待を転換している a.  技術.インターネットの台頭は――それ以前のテレビのように――,価値観や,社会的交流,娯楽,ビジ ネス慣行などを含め,生活のほぼすべての側面を転換している b.2020 年時点で,アメリカの人々は平均 で 1,300 時間をソーシャル・メディアで費消していた――1 日当たりほぼ 4 時間に相当する c.2022 年に 関する調査は,イギリスの成人の間における,画面を見て過ごす時間の平均は,スクリーンを見ることに 関わりのある仕事に加えて,ほぼ一日 5 時間であることを見出している.若年層の間ではより高い利用率 が観察された.  教育水準.フランスでは, (バカロレア) 高校卒業資格 を持っている人の割合は,1985 年における 29%から, 2020 年には 80%にまで増加し,このことは文化と社会の双方を転換してきている.アメリカでは修士号 を修得した人の数は 2000 – 18 年の間に 2,100 万人へと倍増した f.  ジェンダーにかかわる関係.避妊手段の利用がジェンダーの関係を深いレベルで変化させており,妊娠や, 専門職への女性のかかわり,同棲の形態などに影響を及ぼしている g.アメリカでは,博士号修得者数は 2008/09 学年度以降一貫して女性の方が多い h.また,コロンビアでは年齢 25 – 29 歳で同棲している女性 の割合は,1973 年における約 20%から 93 年には約 50%,そして 2005 年には 65%を超えた i.  家族構成.既婚成人の割合は広範な諸国にわたって激減してきている.韓国では,人口 1,000 人当たりの 婚姻件数は 1970 年における 9.2 件から 2018 年には 5.2 件へと減少した.また,同期間中にアルゼンチン では 7.5 件から 2.7 件に減少した j.アメリカでは, 核家族――初婚における 2 人の既婚である 「伝統的な」 異性の両親――で生活している子供の割合は,1960 年における 73%から半数以下に減少し,2022 年には 46%であった.2020 年時点で,約 40%の子供は非嫡出であり,この値は 1960 年における 5%からの上 昇である k.チリでは,離婚は 2014 年になって初めて合法化された.チリでこの年に生まれた子供の約 70% は非嫡出であり,これは 1964 年におけるほぼゼロからの増加である l.  宗教的実践.フランス・カトリックを自己申告している人の割合は 1981 年における 70%から,2018 年 には 32% へと低下した.他方,いかなる宗教にも属して (このうちの 6.6% がカトリックを実践している) いないことを表明した人は同期間中に 26%から 58%に増加した m.  新しい働き方.社会的距離をとることやリモート・ 人々 ワークへの移行を伴った COVID-19 パンデミックは, の仕事との関係や社会的関係を変化させた n.アメリカでは,パンデミック以前にはリモート・ワークに 従事していたのは労働力のわずか 10%未満であった.それが 2022 年 6 月時点では,80%がフルタイムな いしパートタームでリモート・ワークを行っていた g. a. Data: Rural Population (% of Total Population) Christensen (2012); Goldin and Katz (2002); Marcén (dashboard), World Bank, Washington, DC, https:// (2021); Miller (2011). data.worldbank.org/indicator/SP.RUR.TOTL.ZS. h. Perry (2021). b. Castells (2002); DiMaggio et al. (2001); Gauntlett and i. Esteve et al. (2016). Hill (1999); La Ferrara, Chong, and Duryea (2012); j. Ortiz-Ospina and Roser (2020). Olken (2009). k. Livingston (2014); Pew Research Center (2015). c. Suciu (2021). l. Chamie (2017). d. Hiley (2022). m. Fourquet and Jardon (2021). e. INSEE (2021). n. Hayes et al. (2021); Irawanto, Novianti, and Roz (2021); f. America Counts Staff (2019). McDermott and Hansen (2021). g. Bailey (2006); Bailey, Hershbein, and Miller (2012); o. Paulise (2022). 172 世界開発報告 2023 いる,さまざまな集団にわたる緊張,競争,そして協調は常に存在してきている.  統合は移民と受け入れ国の国民の両方による,ある程度の変化を要請する 148.全米アカデミーズ (科学・ 技術・医学の各アカデミーなどで構成されている上部組織)は [の過程] 「統合」 を次のように定義している― ―「入国移民集団と受け入れ社会のそれぞれのメンバーが互いに似て来る過程である.…統合は二重の過程 である:それが生じるのは,ひとたび到着すると移民は変化を経験する,そして,受け入れ国生まれの人(各 個人)は…入国移民への対応において変化する,ということの両方の故である」149.  具体的には以下の通りである:  移民とその子孫は移住先社会の文化に向かって収斂し,移住先社会の一員であるとより一層自認するよう になる 150.アメリカでは,離婚や女性が仕事をすることに対する移民の態度は,家族構成や親類に関す る態度 151,あるいは再分配や,社会的扶助,政治的信条,性道徳,宗教などに対する態度よりも速く収 斂する傾向にある 152.しかし,統合への道は,必ずしも移民が移住先社会に溶け込むために自らの出身 国の文化の全要素を放棄しなければならないというものではない.実際,状況次第では,移民に自らの文 化的な諸要素の放棄を強制することはマイナス効果を及ぼす 153.  現地の文化も移民の遺産や価値観の要素の一部を取り込んでいる.現在のアメリカにおける政治イデオロ 20 世紀初めの期間に移民が ギーや再分配に対する選好は,歴史的にはヨーロッパの価値観や 19 世紀 –  持ち込んだ福祉国家の思想から影響を受けている 154.より最近では,ヒスパニック・コミュニティの影 響はアメリカの全体にわたってみられており,法律や各種の申請書をスペイン語に翻訳する州がますます 増えている.今日,運転免許の試験は 5 州を除く全ての州においてスペイン語でも行われている 155.  統合を阻止する具体的な措置が取られない限り,それは進展するだろう.かつては削減できない相違であ るとされた大勢の移民とその子孫――アメリカに入国移住したアイルランド人移民,あるいはフランスのイ タリア人やポーランド人の移民など――は,今では疑いもなく主流の一部となっている.取り組むべき課題 は統合がより迅速に,そして全ての人にとってプラスの成果に帰結するような仕方で行われることである.  社会的統合の成否は,性格や,経歴,スキル水準,期待などの移民個人にかかわること,移住先社会の社 会契約,規範,そして市民であるために必要なことの理解,および政府の政策などのような,それぞれの状 況に固有なさまざま要因に依存している 156. (図 6.9)  全体として,以下のような諸要因が社会的統合に関する移民の展望に影響を及ぼす:  移民の人数と集中度.社会的統合は,移民の人数が国ないし地方のレベルで多いほど,より一層挑戦的に なる 157.移住先国の国民のなかには,大勢の移民の存在を国家意識または社会における相対的な地位に 対する脅威であると感じる人もいる 158.一方で,移民は,同じ国籍の人から成る大きなコミュニティを 頼りにすることができる場合,自分たちの集団の外部とのつながりを確立することに対するインセンティ ブはほとんど持たない.デンマークや,スウェーデン,アメリカにおいてみられるように,そのようなコ ミュニティは実効的なネットワークを提供し,そして就職先を見付けることや移民が直面する他の挑戦課 題に対処するのを支援している.  経済的な条件.社会的統合は経済が成長過程にあり, 失業率が低い時期には相対的に容易である.対照的に, 経済ショックは不安感を生み出し,このことは影響を受けた人々が安定性と関連のある価値観や伝統と強 く共感するのを促すかもしれない 159.そのような時期にあっては,受け入れ国の国民の一部は自らの文化 的集団への所属という意識を強め,そしてより一層,移民や帰化市民を部外者とみなすようになる 160.ヨー ロッパでは,入国移民に対する態度は成長している職業部門の労働者の間で最も前向きであり,入国移民 数の増加は,経済パフォーマンスが良好な時には,移民に対する態度には何の影響も及ぼさない 161.  言語,および文化面での馴染み.移住先国の言語や文化に馴染みがあることは,移民の社会的統合を円滑 化することができる――しかし,すべての状況において当てはまるわけではない.他の事情を同等とすれ 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 173 図 6.9 社会的統合の決定要因 った政策 を絞 対象     的包摂 経済   差 偏 見 別       経 済  成長 移民 国民   言語と文化  人数 度 と集 集中    に 対する 中 と     度 数 馴染み 人 関連地域の開発     反 差別政策 出所:WDR2023 チーム. ば,移民は文化的に,あるいは少なくとも言語の面で,より馴染みのある諸国への移動を好む傾向にあ る 162.にもかかわらず,たとえ移民が民族性,人種,あるいは文化を移住先国生まれの人のほとんどと 共有している場合でさえ,社会的統合は挑戦的でありうる 163.例えば,コートジボワールへ移住したブ ルキナファソ人移民や南アフリカへ移住したジンバブエ人移民は差別を受けてきている 164.  受け止め方と偏見.移民が移住先国で支配的となっている文化面での期待を共有していない,あるいは 社会規範を完全には採用していない場合,そのような移民の存在は反感を生み出すかもしれない 165.人 種,文化,あるいは社会面での相違は,通念の固定化や誤った受け止めに帰結する可能性があり 166,メ ディアの対象になること 167,政治的な談話や枠付け 168,ないしはソーシャル・メディア 169 などによっ て増幅されうる.移民の存在は,移住先国民のアイデンティティの,社会階級から離れて,そして文化 的ないし人種的な線に沿うという仕方での,再編成につながることさえあろう 170.この影響は当該国な いし当該地域社会の文化次第かもしれない 171.例えば,デンマークでは,移民に対する反対は農村部の 自治体では高まったが,ほとんどの都市部自治体ではそうはならなかった 172.これは農村部地域におい ては,集団のアイデンティティがより重視されることを反映した傾向である 173.一部の状況では移民は, アメリカや,カナダ,ヨーロッパ 174 でみられるように,自分の子供たちに [移住先国で生まれた 「現地人 人]らしく聞こえる」名前を付ける,あるいはアフリカ西部におけるように 175,移住先地域の言葉ないし 「非同 服装を採用することによって,調整を行っている.しかし差別は,それが難民を移住先国の文化と 一化する」,さらに文化的束縛から自由になるよう導くことによって自己強化されることもある.そして このことは次には,周辺化や差別を強めることになる 176.  政府による政策は移民の社会的統合を支援することができる(ボックス 6.3).必要とされていることは各 国固有の状況に左右されるが,多くの場合に,以下のようないくつかの要素が含まれている:  経済的包摂.多くの場合に,移民の経済的な包摂はその社会的統合の導入部分――そして前提条件―― である.経済面での包摂は移民が移住先社会で安定的に定住することを可能にする金銭的資源と,移住 先の労働者とのつながりを含め,ネットワークへのアクセスを移民に提供する.そして次には,社会的 統合によって,経済的包摂が容易になる.それでも労働市場の包摂を促進することを目的とする政策は, 社会的統合というアジェンダの決定的に重要な要素として理解されるべきである.そういった政策には, 174 世界開発報告 2023 ボックス 6.3 ドイツから得られた教訓:亡命希望者や難民を成功裡に統合  2015 年 7 月 – 16 年 2 月の間に,100 万人近くのシリア人難民やその他の亡命希望者が国際的保護を求め てドイツに入国し,このことによって政府や市民社会組織の能力は限界に達した.感情の高まりが生じた. 「われわれはできる」 社会の大部分はアンゲラ・メルケル首相の というスローガンの下で集結して,開かれた 歓迎する国としてのドイツという概念を受け入れた.しかし,大勢の新来者の到着で疎外感を抱く人もいた. 中期的には,新たに入国した人たちを社会に統合することに向けた国の取り組みは,挑戦課題がなかったわ けではないものの,大体において成功した. 労働市場における統合 (55%)  ドイツに入国した亡命希望者や難民はすぐに労働市場に統合され,入国から 5 年以内に半数以上 が 雇用された.具体的には,最初の 2 年間には 9%が雇用され,その翌年には 22% に上昇し,その後の各年で 32%,46%へと上昇した.決定的な要因は以下であった:  確実な滞在条件.保護が与えられた移民は確実な居住資格も与えられた.  非集中化.各連邦州は自らの環境や制約に適合させた労働市場統合政策を実施することが許容された.  企業構成.経済において活動的な中規模企業が普及していたことは,主要な大都市圏ハブ以外での労働市 「われわれは一緒 場統合を円滑化した.例えば, 」 (Wir zusammen)というネットワークは,230 社以上の個 別企業を取りまとめて,33,000 人以上の亡命希望者や難民の就業を後押しした.  スキル構築制度.ドイツの適切に確立された職業訓練制度は,新来者が労働市場への参入に必要とされる スキルを修得することを可能にした.国全体を通じて,ドイツ語や統合のための課程に大規模な投資が行 われた.  しかし,挑戦課題はまだ残っている.雇用条件については著しいジェンダー格差が執拗に持続している. その一因は,教育や職業経験の水準が低いこと,統合プログラムへの参加が少ない,あるいは遅いこと,そ して女性の労働市場参入に関する文化的規範などにある.COVID-19 のパンデミックの期間には,亡命希望 者や難民の失業率も 4%ポイント上昇した――それはドイツ人市民や永住移民の 1.1%ポイントという上昇率 を大幅に上回った.また,学校教育や職業訓練に加えて,言語や統合に関する措置は,やはりほとんどが中 断されたか,あるいは遅らされた. 宿泊,教育,および医療  労働市場以外で,他の分野でもいくつかの教訓が得られている:  分散化が新来者の受け入れや統合において鍵となる役割を果たした.著しいストレス下にありながらも, 下位国家政府は,新たな課題に対処することにおいて最適な立場にあり a,そして亡命希望者のための暫 定的な住宅の配置から影響を受ける地方コミュニティの懸念に対処することにおいてより有効であること が判明した.  言語習得への投資は,教育の全段階を通じて,また,労働市場への参入という点で,成功要因であった b. しかし,ドイツ語のスキルを欠いている十代の難民を別個のクラスに入れることは,長期的には逆効果で あることが判明している c.  一部の連邦州や個別の県において亡命希望者に対して電子健康保険証を導入したことは,医療へのアクセ スをより容易にし,大きな欠陥やコストの上昇を伴うこともなく,健康面で有益な成果に帰結している d.  教育と医療の両方の提供については,突然で急速な移民の流入は,いくつかの長期にわたっている短所を 露呈し,このことは,データ収集を改善し,そして亡命希望者固有のニーズに関する知識を収集すること, (ボックス:次ページへ続く) 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 175 (続き) ボックス 6.3 ドイツから得られた教訓:亡命希望者や難民を成功裡に統合 また,対象を絞ったサービス提供におけるギャップを特定し,それに取り組む方法を発見すること,に向 けた新たな努力のきっかけとなった.連邦移民難民局はデータ収集に向けた努力を改善し,そしてデータ 管理システムを改善し,作業プロセスをデジタル化する協調的な取り組みを開始した. 反感と新たな制限的な政策措置  難民の流入が始まって以降,政府は相対的に開放的な姿勢といくつかの制限的な政策措置の間でバランス をとっていた.制限的な措置に含まれていたのは,亡命手続き中は指定された州内にとどまることを難民に 要請する,亡命希望者に提供される社会的給付金を削減する,補完的保護の受益者に対して家族再会オプショ ンを制限する e,そして法的地位を持たない人たちを対象とする帰国に向けた取り組みを強化する,などで (legal) あった.新来者の処理に関して国内的に作業を行う一方で,政府は,EU – トルコ合意を含め,合法的 入国の経路を削減する EU の政策の支持も行った f. 学んだ全体的な教訓  ドイツの経験からは,以下のような包括的な教訓を導くことができる:  政治的なリーダーシップと意思疎通.明確で,情報に富み,そして解決指向型のコミュニケーションに加 えて,政治的なリーダーシップが鍵となる役割を果たした.これらは人々を団結させ,支持を動員するた めには極めて重要であることが判明した.国家機関に対する信頼を維持するには,短期的なマイナス効果 を認識することや,持続可能な長期的な解決策を実施するために取る各段階を説明することを含め,誠実 さが非常に重要である.  包括的な対応.あらゆる政策分野は,例外なく連動しており,大勢の亡命希望者を短期間内に成功裡に統 合するためには統合的なアプローチが必要である.労働市場での統合は言葉と職業の訓練,およびスキル の承認だけでなく,保育や,教員研修,確実な居住資格の付与などともつながっている.このような分野 の一部は法律の改正を通じて対処可能であるものの,資金調達や複数レベルの政府間での適切な負担共有 取り決めが必要とされるものもある.  市民社会の関与.市民社会は難民の短期,中期,および長期にわたる統合にとって,極めて重要な資源で ある.このような取り組みは市民社会と国家当局の間の信頼に基づく協調を通じることで,維持されるだ けでなく,金銭的に支援されることも可能となる. 出所:Koch et al. (2023) 基づく. a. Thränhardt (2020). b. Brücker, Rother, and Schupp (2016). c. Morris-Lange (2018). d. Lindner (2022). e. 補完的保護は,難民の資格を持たない亡命希望者に対する国際的な保護. f. European Council (2016). 法的地位と確かな滞在条件の提供が含まれるべきである.そしてこのことは,移民が移住先社会で言語の 習得や,文化への慣れ親しみ,そして当人とは異なる国籍の人との社会的な繋がりの確立などに投資する ことを可能にし,動機付けする.  分散政策.一部の諸国は,過度の集中から生じる困難を緩和するために,新規に到着した移民を領域全 体にわたって分散することを試みてきている.しかし,そのような政策の結果はさまざまである.例え ばスウェーデンでは,あまり活動的ではない地域に定住させられた移民や難民はアクセスできる仕事が –  少なく,このことは社会的統合への移民の展望にマイナスの影響を与えた.同様に,2015  16 年にお 176 世界開発報告 2023 いて亡命希望者をドイツ全域にわたって分散させたことは,彼らのスキルや抱負と,定住地の訓練や雇 用の見通しとの合致を考慮に入れていなかった.このアプローチは不本意な結果につながった 177.対照 的に,アメリカなど他の諸国における統合モデルは,強固な民族コミュニティの形成を可能にしている. 政策は各国の固有の社会的な力学を反映しているべきであり,しかし同時に,集中と分散の間で適切なバ ランスを見出すために,市場の諸力に対抗するのではなく,それに合わせるべきである.  関連のある地域の開発.移民が高度に集中している地域では,追加的なサービスを提供し,そして貧困 「ネイティブ・ の小規模な集団の出現を防ぐために,多くの場合に官民の投資が必要とされている.また, フライト」を防止ないし軽減し,住宅や,公共輸送,教育,医療サービスなどへの投資を通じることを含め, そのような地域の受け入れる側の人たちを支援することも重要である.  反差別に向けた努力.差別は移民にマイナスの影響を与え,移民の最終的な統合を阻害もする.受け入れ 国の国民の移民に対する受け止めに影響を与える――広報を通じるなどによって――ことは,特定の状 況ではいくらかの成功を収めてきているが 178,他の事例では成果はさまざまである 179.移民と移住先 国の国民の相互交流は考えの固定化を減らし,人々のお互いに対する態度に影響を与えることができる. 例えば,オーストリアでは,難民が定住せずに通過した自治体ではより制限的な移民政策を促進している 政党の支持が上昇したが,移民が定住して現地人と相互交流する機会のある自治体では,そのような政党 の支持率は低下した 180.反差別に向けた取り組みについては政治的な指導力が極めて重要である.  対象を絞った統合政策.人的および社会的な資本の開発を促進する政策は,統合を奨励し可能にすること において成功してきているが,移民に当人たちの文化的なアイデンティティの放棄を要請する政策は通常 は効果がないことが判明している 181.さらに,特定のグループに対象を絞った政策は,それがグループ の境界を強調し,それ故に文化的および社会的な相違を軽減するのではなく,むしろ強調する場合には効 果が曖昧になりうる 182.統合政策は意図していない結果を回避するために,慎重に設計し,そして実施 されるべきである. 注 1. WDR2023 Migration Database, World Bank, 13. Foged and Peri (2016). Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/ 14. Borjas (2014). data. 15. OECD (2019). 2. Doan et al. (2023). 16. Pekkala Kerr et al. (2016). 3. EU (2008). 17. Kerr (2018). 4. Erasmus+: EU Programme for Education, Training, 18. European Union Labour Force Survey (database), Youth and Sport (dashboard), Directorate-General Eurostat, European Commission, Luxembourg, https:// for Education, Youth, Sport and Culture, European ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php/ Commission, Brussels, https://erasmus-plus.ec.europa. EU_labour_force_survey. eu/. 19. National Agricultural Workers Survey (dashboard), 5. EU-LFS (European Union Labour Force Survey) Employment and Training Administration, US (database), Eurostat, European Commission, Department of Labor, Washington, DC, https://www. Luxembourg, https://ec.europa.eu/eurostat/statistics- dol.gov/agencies/eta/national-agricultural-workers- explained/index.php/EU_labour_force_survey. survey. 6. Gill and Raiser (2012). 20. Testaverde et al. (2017). 7. Gill and Raiser (2012). 21. 次を参照:Cortés and Tessada (2011); Freire (2011); and 8. HRW (2015); ILO (2017). Hiller and Rodríguez Chatruc (2020). 9. Testaverde et al. (2017). 22. Bahar, Ibáñez, and Rozo (2021); Burchardi, Chaney, and 10. Fallah, Krafft, and Wahba (2019). Hassan (2018); Cohen, Gurun, and Malloy (2017); Foley 11. Del Carpio et al. (2015); Hiller and Rodríguez Chatruc and Kerr (2013); Gould (1994); Javorcik et al. (2011); (2020). Kugler, Levintal, and Rapoport (2018); Kugler and Rapoport (2007); Mayda, Peri, and Steingress (2022); 12. D’Amuri and Peri (2014). Ottaviano, Peri, and Wright (2018); Parsons and Vézina 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 177 (2018); Rauch (1999); Rauch and Trindade (2002) らに 57. Clemens (2022a). よって提供されている例を参照 . 58. Green Card Eligibility Categories (dashboard), US 23. Parsons and Vézina (2018). Citizenship and Immigration Services, US Department 24. Bahar, Ibáñez, and Rozo (2021). of Homeland Security, Camp Springs, MD, https://www. uscis.gov/green-card/green-card-eligibility-categories. 25. Tong (2005). 59. Benhabib and Jovanovic (2012); Bradford (2012); 26. Frattini (2014). Clemens and Pritchett (2016); di Giovanni, Ortega, and 27. Cortés (2008). Levchenko (2015); Kennan (2013). 28. Lach (2007). 60. Cortés, Kasoolu, and Pan (2021). 29. Dustmann, Glitz, and Frattini (2008). 61. Shah (2009, 12). 30. Altonji and Card (2001). 62. Medina-Cortina (2023). 31. Angrist and Kugler (2003). 63. East et al. (2022). 32. Longhi, Nijkamp, and Poot (2010). 64. East and Velásquez (2018). 33. Banerjee and Duflo (2019, 267); NASEM (2017); National 65. Migration Advisory Committee (dashboard), Research Council (1997).入国移住のインパクトに MAC, London, https://www.gov.uk/government/ 関する調査のコンセンサスを統合して,the National organisations/migration-advisory-committee. Academies of Sciences, Engineering, and Medicine 66. IOM (2002). (NASEM 2017, 267) は次のように結論付けている: 「最 近の数十年間における実証的調査は,発見されたこと 67. Crock and Parsons (2023). は概して The New Americans (National Research Council 68. World Bank (2018). 1997) における発見と整合的であり続けていることを示 69. WDR2023 Migration Database, World Bank, 唆している.その研究では,10 年以上の期間にわたり Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/ 測定すると,入国移住が現地人の賃金の全体に与える data. 影響は非常に小さいことを示している. 」 70. 次を参照:Survey of Earned Doctorates (dashboard), 34. D’Amuri and Peri (2014). National Science Foundation, Alexandria, VA, https:// 35. Dustmann, Schönberg, and Stuhler (2017). www.nsf.gov/statistics/srvydoctorates/. 36. Glitz (2012). 71. Diversity Immigrant Visa Program (Green Card Lottery) 37. Biavaschi et al. (2018). (dashboard), USA.gov, https://www.usa.gov/green- cards#item-34962. 38. Angrist and Kugler (2003). 72. OECD (2017). 39. 以下の諸国についてはそれぞれ次の文献を参照―コロ ンビアに関しては Caruso, Canon, and Mueller (2021); 73. IOM (2002); Triandafyllidou, Bartolini, and Guidi (2019). Lebow (2022),ドイツに関しては Brücker and Jahn 74. IOM (2002). (2011),オランダとイギリスに関しては Zorlu and 75. Gregory (2015). Hartog (2005),トルコに関しては Altındağ, Bakış, and 76. Crock and Parsons (2023). Rozo (2020); Del Carpio and Wagner (2015). . 77. Finotelli and Kolb (2017); Laubenthal (2014); Schneider 40. Altındağ and Kaushal (2021); Del Carpio and Wagner (2023). (2015); Lombardo et al. (2021). 78. Cho et al. (2018). 41. Lombardo et al. (2021). 79. Gibson and McKenzie (2014). 42. Ottaviano and Peri (2012). 80. AEBOE (2021); EU (2014). 43. Özden and Wagner (2014). 81. AEBOE (2001a, 2001b, 2023). 44. 直接的な正味の財政移転は防衛や環境などの公共財向 82. EMNPL (2020). けの経費は除かれている.その移転には,福祉給付な どの直接的な個人を対象とする支払いのみが含まれて 83. “Hire a Temporary Worker through the Seasonal いる. Agricultural Worker Program,” Employment and Social Development Canada, Ottawa, Canada, https://www. 45. Damas de Matos (2021). canada.ca/en/employment-social-development/ 46. Damas de Matos (2021). services/foreign-workers/agricultural/seasonal- 47. Lee and Miller (2000). agricultural.html. 48. Damas de Matos (2021). 84. Gibson and McKenzie (2014); González Enríquez and 49. Dustmann and Frattini (2014). Reynés Ramón (2011); Newland, Agunias, and Terrazas 50. Damas de Matos (2021). (2008). 51. Clemens (2022b). 85. Dustmann (2000); Görlach and Kuske (2022). 52. OECD (2013). 86. Dustmann (2000). 53. Damas de Matos (2021). 87. Nielson (2004). 54. NASEM (2017). 88. Correia de Brito, Kauffmann, and Pelkmans (2016). 55. OECD (2013). 89. Cedefop (2019).EU は各国の資格についての理解をよ り容易にし,そして比較可能性を高めるために,翻訳 56. Ibáñez et al. (2022). 手段として European Qualifications Framework (EQF) 178 世界開発報告 2023 を開発した.EQF はヨーロッパ全体を通じて学習者 Akbari and Aydede (2012); Saiz (2007). 113. や労働者の越境移動を支援し,生涯学習や専門的能 Accetturo et al. (2014). 114. 力の開発を促進することに努めている.以下を参照 Lastrapes and Lebesmuehlbacher (2020); Sá (2015); 115. ――European Qualifications Framework (dashboard), Saiz and Wachter (2011). Europass, Directorate-General for Education, Youth, Hennig (2019). 116. Sport and Culture, European Commission, Brussels, https://europa.eu/europass/en/europass-tools/ Mussa, Nwaogu, and Pozo (2017). 117. european-qualifications-framework#:~:text=The%20 Ferwerda (2021). 118. EU%20developed%20the%20European,and%20 Alesina, Miano, and Stantcheva (2018). 119. professional%20development%20across%20Europe. Tabellini (2020). 120. ASEAN Qualifications Reference Framework (AQRF) は Banting and Soroka (2020); Wilkes, Guppy, and Farris 121. 共通の参照枠組みであり,参加している ASEAN 加盟 (2008). 国相互間での,教育に関する資格の比較を可能にして いる.次を参照――ASEAN Qualifications Reference Bloemraad, Silva, and Voss (2016); Voss, Silva, and 122. Framework (dashboard), Secretariat, Association of Bloemraad (2020). Southeast Asian Nations, Jakarta, Indonesia, https:// Assaad, Ginn, and Saleh (2018); Bilgili et al. (2019); 123. asean.org/our-communities/economic-community/ Kebede and Özden (2021); Morales (2022). services/aqrf/. Tanaka, Farré, and Ortega (2018). 124. 90. グローバル・スキルズ・パートナーシップ(第5章)の Sacerdote (2011). 125. 文脈におけるスキル承認に関するより詳細な議論を参 Bossavie (2020); Chin, Daysal, and Imberman (2012); 126. 照. Frattini and Meschi (2019); Tonello (2016). 91. Bleakley and Chin (2004); Chiswick and Miller (2010); コロンビアについては Namen et al. (2021),ウガンダ 127. Foged et al. (2022); Lochmann, Rapoport, and Speciale については Sakaue and Wokadala (2022) を参照. (2019). Bossavie (2020). 128. 92. Bailey et al. (2022); Foged et al. (2022); Lochmann, Ammermueller and Pischke (2009); Angrist and Lavy 129. Rapoport, and Speciale (2019). (1999); Frattini and Meschi (2019). 93. Maunganidze and Abebe (2020). Betts and Fairlie (2003). 130. 94. Borjas (2014); Trachtman (2009). 「ネイ Farré, Ortega, and Tanaka (2018); Tumen (2019). 131. 95. Amuedo-Dorantes and Bansak (2011). ティブ・フライト」 のさらなる事例は Farré and Tanaka 96. Altonji and Card (2001); Borjas (2014); Card (2001); (2016) で示されている. Ottaviano and Peri (2012). Betts and Fairlie (2003); Farré, Ortega, and Tanaka 132. 97. Ottaviano and Peri (2008). (2018). 98. Altındağ, Bakış, and Rozo (2020); Bahar, Ibáñez, and Alesina, Miano, and Stantcheva (2018); Tabellini (2020). 133. Rozo (2021); Ibáñez et al. (2022); Rozo and Winkler Giuntella, Nicodemo, and Vargas-Silva (2018). 134. (2019). Gelatt (2016); Omenka, Watson, and Hendrie (2020). 135. 99. Caruso, Canon, and Mueller (2021). “Highest to Lowest: Foreign Prisoners (Percentage 136. Olivieri et al. (2022). 100. of Prison Population),” World Prison Brief, Institute Morales and Pierola (2020). 101. for Crime and Justice Policy Research, School of Law, Bleakley and Chin (2004); Chiswick and Miller (2010); 102. 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Couttenier et al. (2019); Dunaway, Branton, and Schiantarelli (2019); Manning and Roy (2010). Abrajano (2010); Kerevel (2011). Blau, Kahn, and Papps (2011); Giavazzi, Petkov, and 151. Bloemraad, Silva, and Voss (2016); Bursztyn, Egorov, 168. Schiantarelli (2019). and Fiorin (2020); Gaucher et al. (2018); Whitaker and Giersch (2015). Giavazzi, Petkov, and Schiantarelli (2019).以下に関連 152. する態度の執着において文化的遺産が果たしている役 Allcott et al. (2020); Halberstam and Knight (2016); 169. 割については,多くの実証研究が例証している――居 Müller and Schwarz (2022); Zhuravskaya, Petrova, and 住形態 (Giuliano 2007) ,ジェンダー規範と妊娠につ Enikolopov (2020). いて (Alesina, Giuliano, and Nunn 2013; Antecol 2000; Bonomi, Gennaioli, and Tabellini (2021); Shayo (2020). 170. Fernández 2007; Fernández and Fogli 2006, 2009) ,信 Enke (2020). 171. 頼 (Algan and Cahuc 2010; Butler, Giuliano, and Guiso Dustmann, Vasiljeva, and Damm (2019). 172. 2016) ,再分配の選好 (Luttmer and Singhal 2011) ,汚 Enke (2020). 173. 職 (Fisman and Miguel 2007) ,攻撃 (Miguel, Saiegh, and Satyanath 2011) ,宗教 (Bisin, Topa, and Verdier Abramitzky, Boustan, and Eriksson (2020); Algan et al. 174. 2004; Bisin and Verdier 2000). (2022); Arai and Skogman Thoursie (2009); Biavaschi, Giulietti, and Siddique (2017); Carneiro, Lee, and Reis Berry (2005); Fouka (2020); Nguyen and Benet-Martínez 153. (2020). (2013). Adida (2014). 175. Giuliano and Tabellini (2020). 154. Jaschke, Sardoschau, and Tabellini (2022); Jasinskaja- 176. 例外である 5 つの州は次の通り 155. :アラスカ,ルイジアナ, Lahti, Liebkind, and Solheim (2009). オクラホマ,ユタ,およびワイオミング . BAMF (2022). 177. 社会的統合という問題に関するより詳しい議論に関し 156. ては次を参照――Bloemraad et al. (2023). Facchini, Margalit, and Nakata (2022); Grigorieff, Roth, 178. and Ubfal (2020); Haaland and Roth (2023); Rodríguez Bonomi, Gennaioli, and Tabellini (2021); Shayo (2020). 157. Chatruc and Rozo (2021). Ceobanu and Escandell (2010). 158. Adida, Lo, and Platas (2018); Alesina et al. (2018); 179. Rodrik (2021). 159. Hopkins, Sides, and Citrin (2019); Lergetporer, Bonomi, Gennaioli, and Tabellini (2021); Guriev and 160. Piopiunik, and Simon (2018); Shayo (2020); Sides and Papaioannou (2022); Rodrik (2021). Citrin (2007); Williamson (2020). Dancygier and Donnelly (2013). 161. Steinmayr (2021). 180. Belot and Ederveen (2012); Bredtmann, Nowotny, and 162. Fouka (2020); Lleras-Muney and Shertzer (2015). 181. Otten (2020); Lanati and Venturini (2021). Lehmann and Masterson (2020); Valli, Peterman, and 182. Adida (2014); Gagnon and Khoudour-Castéras (2011); 163. Hidrobo (2019); Zhou (2019). Zhou (2021). 参考文献 Abrajano, Marisa A., and Simran Singh. 2009. “Examining Adida, Claire L. 2014. 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We’re Full’: Individual Characteristics, National Context, 190 25 39 57 14 スポットライト6 ゼ ノ フ ォ ビ ア 人種主義,外国人嫌悪,および差別 33 82 76 46  越境移動の全段階――移動の動因としての規範的な枠組みにおいて,入国の明示的および暗黙的な基準に おいて,そして移住先国での処遇においてなど――における個人やコミュニティの経験を人種や民族性がど のようにして形作っているかを認識することなしには,移住政策やそのインパクトを完全に理解することは できない.差別を引き起こす要因には人種主義,外国人嫌悪,民族間の敵意,そして宗教上の偏見などが含 まれる 1.これらは,あらゆる所得水準の国で起きており,人間の苦境を悪化させ,不公平な機会と成果に 帰結している. 規範的な枠組みと政策  国際的な人権法は人種,国籍,民族的出身に基づく差別を禁止しているにもかかわらず,一部の移住政策 は人種に関連する明示的な意図をもって設計されてきている 2.例えば,1882 年中国人排斥法と 1924 年 移民法の可決によって,アメリカは非ヨーロッパ系の入国移民を制限ないし禁止することを目指した 3.同 「白豪主義」 様に,オーストラリアの 政策は人種的な同質性の維持を目指したものであり,1973 年まで廃止 されなかった 4.  一部の移住制度は特定の人種的な背景を有する人々――典型的には非白人――を排除する試みに関してさ ほど明示的ではないが,同様のことを意図している.例えば,1908 年にカナダは,ほとんどが日本人とイ ンド人から成るアジア人労働者の流入に対応して,「継続渡航規則」を制定した.この規則はカナダに移住す るすべての人に対して,市民権を有している国からの継続的な旅を義務付けた.しかし,日本あるいはイン ドからの直行ルートは存在していなかった.それ故,カナダ政府は人種,国籍,あるいは民族的出身などに 基づく排除を明示することなく,これら諸国からの移住を制限することができた 5.  血統に基づいて優遇ビザを交付する入国移住措置は,意図的ではないかもしれないが,人種差別的な影響 をもたらしている.例えば,イギリスでは祖父母がイギリス人である,場合によってはイギリス生まれの曽 祖父母がいる,南アフリカ人に対しては祖先ビザが交付されている.そして,このビザの所有者には,市民 権を取得する経路を伴う 5 年間の労働許可が付与される 6.このビザには主に白人南アフリカ人に入国を許 可する効果があり,同じ国籍の黒人は利用できない.  国際的な難民制度も長期にわたって人種差別的な仕方で適用されている.1951 年のジュネーブ条約(難 民条約)は難民の定義を,1951 年以前にヨーロッパにおける事態から脱出した人たちに限定し,1947 年 –  のイギリス領インドの分割の余波の中で強制退去させられた 1,400  1,800 万人や,1950 年代初めにお ける朝鮮戦争から逃れた 500 万人を難民とはみなさなかった 7.この条約にかかわる 1967 年の議定書は このような制限を廃止し,国際法における難民の「ヨーロッパ中心主義的な」定義をいくらか緩和した.それ でも,ベトナムでは戦争が激しさを増し,そしてバングラデシュ独立戦争では数千万人が強制退去させられ たにもかかわらず,難民として認定される非ヨーロッパ人の数は 1960 年代と 70 代初期を通じて低水準 にとどまった.1970 年代半ば以降になって,初めて国際的な制度がヨーロッパ以外の大勢の難民を認定し 始めた 8. 人種主義,外国人嫌悪,および差別 191  多くの諸国において,移住者という定義そのものに排他的な潜在的要素がある.本報告書とは異なり,移 住に関する多くのデータ源は移住者を外国籍の人(foreign national)ではなく,外国生まれの人(foreign -born indivitual)として定義している.この定義は,もはや異邦人とみなされなくなるためには統合や同 化では不十分であることを示唆している:移住者というのは一生涯にわたる地位である.ほとんどの移住者 「第二世代の が,移住先国の大多数の人口とは異なる人種的ないし民族的な背景を持っている国では, (入国) 移民」というような表現は市民の間での区別をさらに持続させ,他の形態の差別を増強しうる. 出身国からの移動に至らせる要因  出身国社会における人種,民族性,あるいは宗教などを背景とする差別が,誰が移住ないし逃避するかを 決めている.それが多くの無国籍状態を作り出している基盤でもある.特定の集団が人種,民族,あるい は宗教などの故に暴力ないし迫害の対象になる場合,差別は最も深刻になる.第 2 次世界大戦中にナチス・ ドイツやその他の被占領国から避難することを余儀なくされたユダヤ人の経験は,そのような状態を例証し ている.後に,さほど極端ではない状況下ではあったが,不釣り合いに多くの少数派のユダヤ人がソ連やそ の他の諸国から逃避した.1970 年代初め,ウガンダでは南アジア系の人々は市民権を剥奪され,さらに迫 害を受けた.そしてそれは,大規模な脱出につながった 9.より最近では,ミャンマーのイスラム教徒であ るロヒンギャ族やアフガニスタンのシーア派ハザラ人は,暴力の標的になったため国を離れなければならな くなった.1987 年に生じた体制の変更後におけるフィジーの南アジア系の人々の経験のように,差別は特 定の集団が当人の出身地において経済的機会にもはやアクセスできなくなった場合には,移住に拍車をかけ ることがあろう 10.このような集団に属する人たちは,必要な資金を持っている場合には,多くの場合に よりオープンな環境の国々に移住する. 移住先国社会での受け止め  特に人種が移住先国の国家的なアイデンティティの鍵となる部分であるとみなされている場合には,人 種主義やその他の偏見は,移住先社会における移民や難民に対する受け止めにおいて中心的な役割を果た す 11.北アメリカとヨーロッパでは,入国移住に関する大勢の市民の立場は移住者の人種ないし民族に依 存している 12.例えば,イギリスとアメリカの両国における世論調査は,これらの国の市民は暴力を逃れ ようとしているウクライナ人を,シリア人あるいはアフガン人などの他の国の人々よりも歓迎していること を示している 13.ロシアでは,南コーカサスや中央アジアからの移住者に対する態度は,他の白人が支配 的な旧ソ連から成る地域からの移住者に対する態度よりも否定的である 14.  政治指導者は国民に広く普及している不安を映し出す,あるいはさらに煽るかもしれない.2018 年 1 月, 「肥溜めのような国」 アメリカのドナルド・トランプ大統領は, ――伝えられるところでは,アフリカ諸国を 指している――からより多くの人がアメリカへ入国することが許されるべきとされている理由を問うた.さ らに,代わりに,アメリカはノルウェーのような諸国からより多くの人が入国できるようにするべきである とも指摘した.2022 年 7 月,ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は,非ヨーロッパ人の移住に関 「これがわれわれが常に戦ってきた理由だ:われわれは喜んで相互交流す して次のような懸念を表明した. るが,混血した民族にはなりたくない」15.  民族の相違も移住先社会における移民や難民に対する受け止め方に影響を及ぼす.例えば,南アフリカで は,態度に関する調査は,ある程度の外国人嫌悪が存在することを示唆している(図 S6.1).ソマリアやジ ンバブエからの移民と難民は,外国人嫌悪を要因とする暴力的な攻撃にさらされてきている 16.外国人や 外国人の企業に対するそのような攻撃は,主に特定の人たちの居住区や非公式な定住地で発生しており,そ れは周縁化された南アフリカ人が稀少な雇用機会やより良い質の生活を求めて,移民と競争をしていると感 じているような地域である. 192 世界開発報告 2023 図 S6.1 南アフリカでは移民に対しては,肯定的な態度よりも否定的な態度のほうが多い 「越境移民に関する次の記述に同意 / 反対ですか?」 2019 年に行われた調査における という質問に対する回答の比率;% われわれの 仕事を奪う 不誠実 暴力的 自分とは異なる 善良である 0 25 50 75 100 % 強く同意 少し同意 同意でも反対でもない,あるいはわからない 少し反対 強く反対 出所:Economist 2022b から許可を得て翻案.  宗教や文化の背景が異なることも偏見を正当化するためにしばしば引き合いに出される.宗教的実践が 低調なヨーロッパ諸国でさえ,市民は通常は伝統的にキリスト教国出身の移民に対しては選好を表明し 17, イスラム教の背景を有する移民に対しては歓迎の程度は低い 18.かつて市民権の申請が住民投票で決定さ れていたスイスのいくつかの地方自治体では,出身国が極めて重要な決定要因であった.トルコ人の応募者 は,言語の能力や,年齢,教育,滞在年数などの他の要素は同じである場合でさえ,北ないし西ヨーロッパ 出身の応募者と比べて, 「否」を受け取る割合が高いことを認識していた 19. 移住政策への影響  移民に対する受け止め方や態度は移民が入国できる条件に影響を与える.例えば,アメリカでは,そ の多くがラテンアメリカ出身者である,書類を持たない入国移民は,過去において同じ罪――非認可 (unauthorized)入国――を犯した白人のヨーロッパ人よりもずっと厳しい結果に直面する 20.難民や亡命 希望者については,特定の民族に対する人種主義と偏見が,亡命制度が人種や民族に基づく迫害に直面して いる人たちを保護することを明示的に意図している場合でさえ,時には,誰に地位を与えるべきかを決める 要因となる 21.例えば 2022 年には,ウクライナに住んでいた大勢のアフリカ人移民は,戦争から逃れよ うとしていた際に差別を経験した 22.  受け止め方や態度は,移住先国で移民や難民がどのように処遇されるかにも影響を与える 23.肌の色が 黒いことは,ヨーロッパと北アメリカの少なくとも計 9 カ国では,面接のための返信率が低いことと相関 関係がある 24.トルコ人の名前の女性は,それ以外ではドイツ人の名前の女性と内容的に同じ履歴書を持っ ていても,ドイツでは,特にヘッドスカーフをしている場合には,就職面接に呼ばれる公算は低い 25.ウ ガンダの雇用者も自国民よりも難民を採用する可能性は低い 26.また,難民が難民キャンプを離れること を許可していたエチオピアの政策は,最初はエリトリア人難民に限定されていた.一部の諸国では移民や 難民は,社会サービスへのアクセスだけでなく,職場や住宅市場において民族に関連する差別を受けてい る 27.移民や難民は,嫌がらせを受けており,極端な場合には,人種的な動機によるヘイト・クライムに さらされている 28. 人種主義,外国人嫌悪,および差別 193  人種や民族に基づく差別は移民の経済的成果に影響を与え,受け入れ国にもたらされる利益を損ねてい る 29.アメリカでは肌の色が濃いことは,入国移民の間での経済的な成果の悪さと相関関係がある 30.差 別は,仕事を得ることを一層難しくするだけでなく,人的資本の取得に加えて,移民労働者の実際のパフォー マンスを低下させうる 31.採用で差別に直面した移民は,住居から離れた場所の仕事を探すので,南アフ リカで経験されているように,交通費の上昇が移民の所得を減少させている 32.  差別は移民の社会的統合や全体的な福利にも影響を与える 33.反移民の態度や差別を受けているという 受け止めは移民の精神面での健康の悪化と密接な関係がある 34.社会的統合は受け入れ側のコミュニティ の受け止め方や態度によって阻害される,あるいは促進される 35.ドイツでは,入国移民に対する態度は, 難民の統合における成果を形成することにおいて,関連のある地域の失業率と同じ程度に重要である 36. 移民に対するオープンさは,受け入れ側と社会的なつながりを構築する移民の能力に影響を与え,このこと は統合にとって重要である. * * *  移民には,移民の人種,民族,宗教,あるいは文化とは関係なく,公正でディーセントな処遇を受ける権 利がある.この原則は,あらゆる政策策定の中心にあるべきである.それが示唆しているのは,各国は人種 やその他の形態のあらゆる差別と戦うことを「明示的」に目指す政策を採択する必要があるということであ る.グローバルな規範的な枠組みも,人種主義やその他の形態の差別が政策策定に否定的な影響を与えない ことを保証することに役立ちうる. 注 1. 性やジェンダー面での少数派に加えて,女性や少女に 10. Chand and Clemens (2019). 対する差別に関する議論についてはスポットライト 4 11. Devos and Banaji (2005); Devos and Heng (2009). を参照. 12. Card, Dustmann, and Preston (2005); Valentino et al. 2. 次を参照:UNHRC (2018); United Nations (1965). (2019). 3. “Chinese Exclusion Act (1882),” National Archives and 13. Economist (2022a); Kirk (2022). Records Administration, Washington, DC, https:// 14. Yuri Levada Analytical Center (2017). www.archives.gov/milestone-documents/chinese- 15. Embassy of Hungary (2022). exclusion-act#:~:text=That%20any%20person%20 who%20shall,be%20deemed%20guilty%20of%20 16. Charman and Piper (2012); Crush et al. (2017). a; Immigration Act of 1924, United States Statutes at 17. Adida, Lo, and Platas (2019); Bansak, Hainmueller, and Large (68th Cong., Sess. I, Chap. 190, pp. 153–169), Hangartner (2016). https://loveman.sdsu.edu/docs/1924ImmigrationAct. 18. Heath and Richards (2016). pdf. 19. Hainmueller and Hangartner (2013). 4. 次を参照:Immigration Restriction Act 1901, 20. Ngai (2014). 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Yuri Levada Analytical Center. 2017. “Attitudes toward Migrants.” Press release, May 29, 2017. https://www .levada.ru/en/2017/05/29/attitudes-toward-migrant. 197 適合度が低い場合,コストは 多国間で分担―― そして削減 ――  される必要がある  移住先 国で需要のないスキルや属性が持ち込まれる場合,受け入れ国にとってのコストはしば [受け入れ] しば移住がもたらす利益を上回る.さらに,受け入れ国が自国のコストを削減し,そして管理できない限 り,移民およびその出身国が享受する利益は維持不可能である.政策の挑戦課題は,難民と他の移民とでは 異なる.難民は,国際法の下で難民の行き先国によって受け入れられなければならない.本パートでは,そ のような移動がもたらす影響を概観する.また,政策担当者のための教訓を導き出すために,各国の経験の レビューも行う.  第 7 章では難民に焦点を合わせる.国際法に基づき,移住先[受け入れ]国は,コストにかかわりなく, 「十分に理由のある恐怖」 出身国での迫害や暴力に関して がある人々を受け入れる義務がある.しかし,難民 状態は単なる人道的な緊急事態ではなく,中期的な挑戦課題として管理されるべきである.というのは,そ ういった状態は長期化する傾向にあるからだ.難民と受け入れコミュニティの双方にとっての経済的な成果 は,責任を公平に共有する国際社会の能力に加えて,受け入れ国の政策によって大体が決定される.  第 8 章では,難民ではない移住者が移住先国経済におけるニーズとの適合度が低いスキルや属性のみを 持ち込むという状況を検討する.そのような移動――本報告書では困窮移住と称する――は往々にして非正 規で悲惨であり,移住先国に対して政策的にむずかしい挑戦課題を提起する.そういった移動の影響は,通 過国との協調を含め,移住先国の対応によってほぼ決定付けられる.全体として,人間の尊厳が移住政策の 基準でなければならない.長期的には,主要な挑戦課題はそのような移動の必要性を削減することにある. 移民の出身国における開発が非常に重要な役割を果たす可能性がある.  以上の議論は 2 つのスポットライトで補完されている.スポットライト 7 では国内避難民(IDP)――紛 争や暴力から逃れているが自国内に留まっている人々――と無国籍者の両方を検討する.スポットライト 8 では,人数,および移民の行き先となるさまざまな所得レベルの国の両方について,開発が越境移動に与え るインパクトに関する証拠を検証する.  全体として,強制退去や困窮移住の潜在的なコスト――受け入れ国だけでなく移民自身にとっても――は, 実効性のある政策策定と国際協調を通じて管理することが可能である.それが本パートの重要なメッセージ である. 7 199 難民 中期的な視点から管理 重要なメッセージ  難民は安全性を求めて移動する.それ故,自分のスキルに対して需要がある行き先に常にたどり着けると は限らない.国際的な保護の提供は,受け入れ国にとっては多くの場合にコストになる.そうではあるも のの,国際法の下では義務である.  このようなコストを管理することにとっては,責任の共有が鍵であり,グローバルな取り組みを地域的な 措置で補完することが必要になるであろう.  受け入れ国の政策も,高度な保護基準を維持しながら,コストの削減に資することができる.難民状態は 何年も続く傾向にあり,緊急の人道主義的プログラムだけによって難民の状態を管理することは効果的 ではない.政策は,国内での移動性,自助の後援,および国家的なサービスへの包摂などの手段によって, 財務的および社会的な持続可能性を目指すべきである(図 7.1).  法律と開発の視点を組み合わせることによって恒久的な解決策を実現するのを促進するためには,革新的 なアプローチも必要とされている. 図 7.1 難民状態は各国間でコストを分担しながら,中期的な視点によって最も適切に管理される 多くの経済移民 行先国で需要のある スキルを有する難民 高い すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 適合度 大部分が非正規 多くの難民 移住先国: である困窮移民 国内移動を円滑化, 難民の労働を許可, 国が提供する制度に 移動の必要性を削減, 持続可能性を 難民を包摂 吸収,あるいは 確保,コスト 人道的に帰国 低い を分担 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 200 世界開発報告 2023 開発に関わる挑戦課題を認識する  国際法の下では,国境を越える人々が迫害,武力紛争,あるいはその他の形態の暴力の結果として,生 活,身体的インテグリティ,あるいは自由に対する「十分に理由のある恐怖の故に出生国に戻れない,ある いは戻る意思がない」,つまり,彼らが難民である場合には国際的保護が義務付けられている 1.この定義は, 1951 年難民の地位に関する条約,1967 年難民の地位に関する議定書 2,およびそれ以降の国際的な難民 法において成文化されている.2022 年の時点で,149 カ国が条約ないし議定書,あるいはその両方の締 約国になっている.ただし,それらの国の半数はいくつかの個別条項について適用を留保している.  難民条約の中心に位置しているのはノン・ルフールマン原則――つまり,出身国あるいは「生命または自 由が脅威にさらされるおそれのある」場所への難民の送還を禁止する――という拘束力のある法的規範であ る 3.この条約は難民が再起するために不可欠である特定の社会経済的な権利も提供している.実施は国毎 に異なっているものの,この制度は過去数十年間に数千万人もの命を救ったことで賞賛されてきている 4. 高まりつつある危機  難民の数は過去 10 年間で倍以上になってきている 5. (図 7.2) 2022 年半ばの時点で,世界全体では 3,780 (および難民に類似した状態にある人々) 万人の難民が存在していた.その中の 2,670 万人の難民 は国連難 民高等弁務官事務所(UNHCR)の統治下,580 万人のパレスチナ難民は国連パレスチナ難民救済事業機関 (UNRWA)の統治下にそれぞれあり,それ以外に 530 万人が国際的保護を必要としていた.追加的に 490 万人(亡命希望者)が亡命を申請しており,難民の地位が授与されるか否かの裁定を待っている.このような 数はそれ以降増加しており,それには 2023 年 2 月現在で 800 万人超のウクライナ避難民が含まれている 図 7.2 難民の数は過去 10 年間で 2 倍以上になっている 45 40 強制的に退去させられた人の数 35 30 25 20 15 (百万人) 10 5 0 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 難民 亡命希望者 合計 出 所:WDR 2023 チ ー ム.Refugee Data Finder (dashboard), United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://popstats.unhcr.org/refugee-statistics/download/ からの 2022 年に関するデータに基づく. 注:難民には,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)および国連パレスチナ難民救済事業機関 (UNRWA)の統治下にある人々, そしてそれ以外に国際的保護を必要としている全ての人が含まれる.2022 年のデータは 2022 年半ば時点のものであり,こ れは最新のデータが入手可能な時点である. 7 難民:中期的な視点から管理 201 6. (ボックス 7.1)  難民状態――伝統的には人道上の非常事態とみられている――はますます長期化しつつもある(図 7.3)7. というのは,紛争が長引くことが多く,耐久性のある解決策が欠如しているからだ.冷戦が終焉して以降の 大規模な難民危機のうち,1 つだけ――1999 年のコソボ危機――は数週間以内で解決された.それ以外の 危機では,難民は長期にわたる対処できない不確実な状態に陥っている 8.例えば,1979 年のソ連の侵攻 を受けて自国を去ったアフガン人の多くは,依然として国外にとどまっており,現在のアフガン難民の多く は実際には当初の避難者の孫である.2021 年末の時点で,51 件の長期化した難民状態が存在しており 9, そのような難民の数は 1,590 万人,あるいは難民総数の 40%強を占めている 10. 難民に固有の脆弱性  難民の苦境は,極度の貧困を根絶し,共有される繁栄を押し上げ,そして国連の持続可能な開発目標の達 成を目指す開発努力に対して挑戦課題を突き付けている 11.極度の貧困国は世界全体としては減少傾向に あるなかで,それは難民を含め,脆弱な集団の間にますます集中してきている 12.  多くの難民は固有の脆弱性を抱えている.そして,それが難民の他の貧困層との違いを生み出しており, 難民に特化した支援が必要とされている 13.多くの難民は資産を失い,トラウマ的な苦難を経験してきて いる 14.難民が直面している挑戦課題は多くの場合に難民に対して,限られた権利,機会への限定的なア クセス,そして将来の見通しが短期的であるという状況をもたらしている地位によって,より一層困難になっ ている 15.その結果,不釣り合いに多くの難民が貧困状態に陥っている.例えばウガンダでは,進歩的な 難民政策にもかかわらず,2018 年の時点で,難民の 46%が貧困状態に陥っていた.これに対して,受け 入れ国全体としての貧困率は 17%であった 16.保護の必要度がより高い難民もいる(ボックス 7.2).その 例は同伴者不在の未成年者であり,2020 年に EU で亡命を求めていた人の約 15%を占めていた 17.  難民は安全と安心を必要としているだけでなく,国外において恒久的な解決策を期待するなかで,自分の 生活を再建する機会も必要としている.このことは,難民がコミュニティの他のメンバーと同じ競争条件に 立つことができるように難民固有の脆弱性に取り組むことを必要としている.1951 年の難民条約と 1967 年のこの条約の議定書の下では,国際的な難民保護は難民が暴力や危害にさらされることを阻止する暫定的 な法的地位を付与することに限定されてはいない.また,それには,受け入れ国内の自由な移動や,就業, 公共サービスへのアクセスの権利を含め,難民が回復して,受け入れ社会に対して貢献することを可能にす る権利を与えることも伴っている 18.実際に難民は,ひとたび安全な状況にたどりつくと,受け入れ社会 の他の人々と同じく,その多くは仕事や公共サービスへのアクセスを,少なくともそうすることが許容され ているところでは,求める. 受け入れコミュニティの発展に向けた環境の転換  新しい挑戦課題と新しい機会を作り出すことによって,難民の存在は,受け入れコミュニティが自らの開 発に向けた努力を遂行している環境を変化させる 19.難民の存在が生み出す利益を有利に活用する一方で, 難民の受け入れに伴うマイナスの影響を軽減するためには,政策措置と投資を組み合わせることが必要であ る.  大勢の移民の到着は受け入れ側のコミュニティにとっては多くの場合に混乱をもたらす打撃となる.この ショックの結末は大体において,既存の状況,新来者の人数と構成,そして政策対応に左右される.難民の 存在は失業,ないしは不十分なサービスなど,一部の既存の挑戦課題を悪化させるかもしれない,あるいは 天然資源を巡る競争を激化させるかもしれない 20.また,難民の存在は,難民と類似の資格を持っている, あるいは支出パターンが難民と同じで,難民と競合することになる人たちを含む,難民を受け入れる社会内 の一部の集団に不釣り合いな影響を及ぼすこともあり得よう 21.  この影響は重大なものになる公算もあり,それは初期条件,および政府や国際社会が大規模に対応できる 能力次第である.例えば,タンザニアでは,1994 年のルワンダ虐殺における 50 万人の生存者の到着を受 202 世界開発報告 2023 ボックス 7.1 ウクライナ難民の危機  ロシアのウクライナ侵略は第 2 次世界大戦以降のヨーロッパにおける最大の人道および強制退去にかかわ る危機の引き金を引いた.戦争前のウクライナの人口の 3 分 1 近くが 2023 年 2 月下旬までに退去を余儀な くされた a.それには,ヨーロッパ全体の各国で登録された 800 万人超の難民と b,国内で内部的に退去さ せられた 540 万人の難民が含まれている c. (ポーランド,スロバキア,ハンガリー,ルーマニア,および  ほとんどのウクライナ難民は当初は近隣諸国 モルドバ)に避難し,その後に EU 内の高所得国に移動した.2023 年の時点で,ポーランドとドイツは最も (それぞれ 160 万人と 100 万人) 多くのウクライナ難民を受け入れている .一方で,チェコ,エストニア,ラ (地図 B7.1.1) トビア,およびリトアニアは人口に占める比率という点では最も多くの難民を受け入れている 地図 B7.1.1 ウクライナ難民は EU 全体および近隣諸国で受け入れられている ウクライナから到着したと 記録されている難民の数 アイスランド ≤100,000 100,001‒300,000 ノルウェー 300,001 ‒500,000 フィンランド 500,001 ‒1,000,000 スウェーデン >1,000,000 エストニア ロシア ラトビア デンマーク アイルランド イギリス Fed. リ ロシア トアニア Neth. オランダ ベラルーシ Belgium ドイツ ポーランド カザフスタン ベルギー ルクセンブルク Luxembourg チェコ ウクライナ Liechtenstein リヒテンシュタイン フランス スロバキア Switzerland スイス オーストリア モルドバ ハンガリー スロベニア ルーマニア クロアチア イタリア ボスニア セルビア ジョージア アゼル Andorra アンドラ ヘルツェゴビナ バイジャン モナコ ブルガリア アルメニア ポルトガル バチカン モンテネグロ コソボ スペイン トルコ 北マケドニア サン・マリノ ギリシャ キプロス IBRD 47142 | マルタ MARCH 2023 出所:Ukraine Refugee Situation (dashboard), Operational Data Portal, data version of February 22, 2023, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://data.unhcr.org/en/situations/ukraine. (ボックス:次ページへ続く) 7 難民:中期的な視点から管理 203 (続き) ボックス 7.1 ウクライナ難民の危機  女性と子供がウクライナ難民の 86%を占めており,男性がウクライナを離れることが制限されていること が主因で,難民の 78%は近親者と離れ離れになっている e.最近の調査は次のことを見出している.難民の 40%はすでに雇用先を見付けたか,あるいは自営業に従事している.ただし,ほぼ半数は依然として社会的 (あるいはその両方) 保護ないし現金給付 に依存している.  難民受け入れ国は速やかに臨時の保護体制を確立し,今では 480 万人以上のウクライナ難民を適用対象に 含めている.この体制は,EU 全域とモルドバにおいて,難民が働き,そしてサービスを利用するための法的 基盤を提供している.難民に保護や援助を提供するために,国家および地方の政府当局は,国や地方の非政 府組織,市民社会団体,ボランティア,在外ウクライナ人コミュニティ,それに難民主導の組織なども参加 して,現地対応策を全般的に取りまとめている.  ウクライナ政府は,特にウクライナへ最終的に帰国するのを難民に準備させるために,このような努力を 支援している.難民の少なくとも 80%は,ウクライナで敵対行為が収まり,状況が改善するまでは現在の受 け入れ国にとどまることを計画している f.難民にとってはウクライナの平和が帰国の主たる条件であるが, ウクライナにおける電気と水,医療サービス,住宅,および生活手段への十分なアクセスも帰国の意図に大 きく影響している g. a. 2022 年 1 月 1 日の時点で,ウクライナの人口は 4,330 万人であった. b. 2023 年 2 月 21 日の時点で,ヨーロッパ全域では 8,087,952 人のウクライナ出身の難民が記録されていた.そのな かの 4,863,513 人はヨーロッパにおいて臨時の保護ないし類似の各国の保護制度の対象者として登録されていた.次 を参照:for temporary protection or similar national protection schemes in Europe. See Ukraine Refugee Situation (dashboard), Operational Data Portal, data version of February 22, 2023, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://data.unhcr.org/en/situations/ukraine. c. Ukraine Refugee Situation (dashboard), Operational Data Portal, data version of February 22, 2023, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://data.unhcr.org/en/situations/ukraine. d. UNHCR (2023b). UNHCR (2023c). e.  f. UNHCR (2023c). g. UNHCR (2023a). けて,1 年以上経過した時点で,近隣コミュニティにおいては健康への悪影響が明らかであった.そのよう な影響として,子供の身長,体重,ボディマス(体格)指数,およびその他の人体測定学上の指標の悪化や, 感染症罹患率の上昇(15  – 20%ポイント) ,5 歳未満児の死亡率上昇(7%ポイント)などがあった 22.この ようなインパクトは,部分的には,病原体媒介感染症の拡散に,衛生インフラおよび医療ケア施設の過密が 組み合わさったことが要因であった.  そうではあっても,難民の存在は受け入れ側のコミュニティに利益ももたらしうる.例えば,タンザニア –  では,豊富な難民労働によって,受け入れ側のコミュニティの農民は,1993  96 年の間に耕作地を 2 倍 に拡大することが可能となった 23.トルコにおいてみられるように,一部の難民は自分の資産を活用して 企業と雇用を創出している 24.また,これまで公共サービスが十分に行き届いていなかった地域では,外 部からの援助の流入が,経済の変革をもたらす可能性もある.ケニアの北東部では,ダダーブ難民キャンプ 周辺地域の賃金は国内の比較可能な他の地域よりも 60%も高かったと伝えられている.これは外部からの 援助によってキャンプ内で経済活動がより一層活発化したことが要因であった 25. 受け入れのコストは管理される必要がある  難民は安全性を求めて移動することから,行き先で需要のあるスキルを常に持ち込むとは限らない.ほと んどの経済移民は自分が行う仕事に対して需要がある場所を探し求めるが,強制避難の場合には移動の論理 204 世界開発報告 2023 図 7.3 状態が長期化している難民数は過去 10 年間で 2 倍以上に増加している 18 16 14 12 移民の数 10 (百万人) 8 6 4 2 0 91 01 11 21 99 09 19 93 03 13 98 00 08 10 18 20 92 02 12 22 96 06 16 94 04 14 95 05 15 97 07 17 19 20 20 20 19 20 20 19 20 20 20 20 19 20 20 20 19 20 20 20 19 20 20 19 20 20 19 20 20 19 20 20 国外での滞在期間: 6 年以上 11 年以上 21 年以上 31 年以上 出所:Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. unhcr.org/refugee-statistics/.Devictor and Do (2017) に概要が示されている方法に基づく. 注:2022 年のデータは最新のデータが入手可能な 2022 年半ば現在のもの. は異なる.すなわち,人々は安全な場所に避難し,多くの場合に労働市場に関する問題を考慮してはいない. 仮に難民が受け入れ国経済で需要のあるスキルを持っているならば――そして仮に働くことが許されてい るとすれば――,そのような難民の存在は正規の労働移民がもたらす利益と同じような利益をもたらし 26, そのような難民を受け入れることは,受け入れ国にとって有益である.しかし,多くの難民はそのようなス キルを持ち合わせていないか,ないしは,子供,障がい者,あるいはトラウマで苦しんでいる人などのよう に,単に働くことができないか,である.加えて,難民の多くが行きつく場所は仕事の機会が限定的であり, 通常は低・中所得国の国境に近い経済的に後れを取っている地域である.一部の事例では,難民はイエメン へ向かったソマリア難民のように,他の紛争影響国への避難を余儀なくされることさえある.難民は多くの 受け入れ国では働く権利が否定されている.というのは,このような諸国は,労働市場へのアクセスを自国 民について優先する,ないしはさらなる難民の受け入れを阻止したいと考えているからだ.このような状況 下では,労働移動性の利益は実現し得ない.このように,受け入れる側の社会は,自国経済に容易には貢献 できない人の大きな集団を,一時的にせよ吸収する必要がある.  したがって, 国際法の下では義務であるにもかかわらず, 難民の受け入れは, 多くの場合にコストがかかる. 受け入れ国にとっての難題は,そのようなコストを管理することである.それは以下のような取り組みの組 み合わせを通じて達成可能である:(1) 実効性のある責任共有取り決めを使ってコストを国際社会全体で分 担する,(2) 緊急対応という枠を越えた適切な政策を採用および実施することによって(高水準の保護を維 持すると同時に)コストを削減する,(3) 難民が既に保護を必要としていない時には,法的地位と機会への アクセスの両方を組み合わせた革新的な制度を探求することを含め,恒久的な解決策に向けて進展を図る.  そういった措置は,脆弱性の動因の軽減,および強制退去の根本要因への取り組みを支援するために,移 民の出身国における国際的な措置によって補完されるべきである.国際的な措置には,自発的な帰国や再統 合などのような恒久的な解決を支援することに加えて,平和,人権,および法の支配などを支援することが 含まれる. 7 難民:中期的な視点から管理 205 ボックス 7.2 難民のなかにはより高い水準の保護を必要としている人もいる (girls)  女性や少女 (boys) は男性や少年 とは異なる仕方で強制移動を経験しており,特殊な挑戦課題にしば しば直面している.退去させられた人々の大きな割合が女性と子供であり,女性が世帯主である世帯が広く みられる a.一部の状況下,例えばジェンダー規範が行き先国では出身国よりも進歩的である場合や,労働 「前向きな」 の伝統的な分業が女性にとって有利な仕方で崩壊されている場合では,強制移住が女性にとって 変化やエンパワメントの余地を提供していることが示唆されている b.しかし,教育や適切な医療サービス だけでなく,労働市場への女性のアクセスは,常に保証されているわけではない.例えば,最近の研究によっ て次のことが見いだされた.エチオピア,ナイジェリア,ソマリア,南スーダン,およびスーダンでは,退 去を余儀なくされた男性の就業率は退去を余儀なくされた女性を少なくとも 90%上回っていた c.  女性や少女は,強制退去の全サイクル――逃亡の間,通過地で,亡命先で――を通じて,しばしば強姦, 性的虐待,およびその他の形態のジェンダーに基づく暴力に遭遇するリスクが高い d.早期の結婚,性的搾取, あるいは家族を養うための生存を目的とする性行為への従事などは,強制退去という状態の多くで一般的に 生じている.  他のグループ――宗教的な少数派に加えて LGBTQ+ や先住民など――も,しばしば特別な保護を必要とし ている.少数派の一員であることは一部の国では迫害や傷害にさらされる主な理由の 1 つになっており,結 果として国際的な保護を求めることを余儀なくされている.例えば,同性愛はイランや,ケニア,パキスタ ン,サウジアラビア,ウガンダなどの諸国では有罪とみなされることから,避難を余儀なくされる人もいる. LGBTQ+ の難民も受け入れ国では法的に,ないしは事実上差別を受ける公算がある.先住民や宗教的な少数 派など他のグループも同じく本国で迫害に,そして移住先国で差別に直面するかもしれない.政策策定に際 しては,このような集団の特別な状況と保護の必要性を考慮すべきである. a. UNHCR and World Bank (2019); World Bank (2018a, 2018b). b. Fiddian-Qasmiyeh (2014); Fincham (2022); Habash and Omata (2022); Tumen (2023); World Bank (2013). c. GIWPS and PRIO (2021). d. Klugman (2021); Vu et al. (2014). 地域的な連帯を通じて責任の共有を強化  難民の受け入れに伴うコスト――および潜在的な利益――は,経済と財政の両方にかかわる 27.受け入 れのコストには,典型的には,難民という状態が長期化している人たちを受け入れていることに関連する中 期的なコストに加えて,人々の大規模な流入を要因とするショックの吸収に関連する短期的なコストがある. 経済的コストは大勢の難民が受け入れ国の経済に参加できない場合,例えば,難民の大きな割合が子供であ る場合,難民のスキルが労働市場のニーズと合致していない場合,あるいは難民が働くことを認められてい ない場合に発生する.財政面でのコスト――税金ないし海外からの援助で賄われなければならない政府支出 ――は,難民が自らは寄与していない公共サービスから利益を享受する場合に発生する.経済的なコストと 財政的なコストの両方が受け入れ政策と密接に連動している.  このようなコストは受け入れ国だけで負担されるべきではない.1951 年難民条約の前文は次のことを認 識している.すなわち,「難民に対する庇護の付与が特定の国にとって不当に重い負担となる可能性のある」 こと,そして難民問題の「国際的な広がり及び国際的な性格」の故に,「国際協力なしには」解決不可能であろ う 28.それは,次のことを奨励している. 「これらの難民が庇護と第三国定住の可能性を見付けることがで きるよう各国政府は…真の国際協力の精神に基づいて連携して行動する」29.この拘束力のない枠組みは国 家間の協力を「義務化」してはいないものの,責任の共有がなければその目的は達成不可能である.  責任の共有という挑戦課題に取り組むことは,2018 年の (GCR) 「難民に関するグローバル・コンパクト」 206 世界開発報告 2023 の中核に位置している.GCR は,国家やその他の利害関係者の間での, 図 7.4 世界全体の難民の半分以 上は中所得国に受け入れられてい 「予測可能で公平な負担及び責任の共有のための基盤を提供する」こと る を目指している 30.国家は難民の受け入れに対する責任を共有する 受け入れられている難民の割合;所 義務を果たすべきであるが,その際の対処方法を定義している明示的 得による国のグループ別 に法的拘束力のあるルールは存在しない.そしてこのことは,グロー バルな公共財が十分に提供されうる方法について不確実性を生み出し ている 31.国際的な難民保護制度の中心に,この問題がある. 低所得国 高所得国 22% 26% 責任の共有に関する現行の限界  責任の共有という挑戦課題は切実である.というのは,ほとんどの 中所得国 難民が少数の諸国――典型的には難民の出身国と国境を接する低・中 52% 所得国――に受け入れられているからだ.2022 年半ばの時点で,世 界全体の難民および国際的保護を必要としているその他の人々の約 52%は中所得国,22%は低所得国にそれぞれ受け入れられている(図 出所:UNHCR 2022b. 32.長期化するという強制避難の危機の特質の故に,受け入れ側 7.4) の大国の多くは期間を延長して難民を受け入れてきている――イラン やパキスタンなど一部の諸国は 40 年以上に及んでいる.  難民を受け入れている低・中所得国を高所得国が支援するための外部からの援助に関する精緻な制度が, 長年にわたって発展させられてきている.しかし,難民の数が増加していることから,この制度は,以下の ような複合的な活動分野で難題を抱えている:  財源の入手可能性.難民とそれを受け入れるコミュニティを支援する国際的な融資は,2018 年と 19 年 には,二国間の政府開発援助(ODA)の 12.3%,国際開発金融機関(MDB)による融資の 3.2%,合計で は 467 億ドルに達したと推定されている 33.外部への融資のニーズには競合する需要があることを考え ると――気候変動,食料安全保障,およびその他の開発にかかわるニーズなどといった問題において――, このような金額が劇的に増加される公算は低い.  ドナー基盤が狭い.外部からの援助は少数のドナーを頼りにしている――3 カ所 (EU 機関,ドイツ,お よびアメリカ) が全体のほぼ 3 分の 2 を占めている 34. (図 7.5)  有効性.国際社会にとっては,低・中所得国での難民の受け入れを支援するコストは,――低・中所得 国が直接支出している額に加えて――平均すると難民 1 人当たり 1 年間で約 585 ドルである.これは 2019 年における低所得国の 1 人当たり年間平均所得が 743 ドル,中所得国では 5,499 ドルであるこ とを考えると,相当に大きな額である 35.  国家横断的な配分. 外部からの援助は,難民の状態について全体では不均等に配分されている 36. –  2018  19 年には,このような財源の約 43%は,高所得のドナー諸国において難民を受け入れるために 使われた.残額のほぼすべてが,そのほぼ半数は中東地域である,特定の国ないし地域に充当された.コ ロンビアや,イラン,パキスタン,スーダンなどの一部の受け入れ国は「責任共有のギャップ」に直面して いた.  緊急性重視.外部的な融資の約 71%は,典型的には緊急需要への短期的な対応として,そして多くの場 合に年間予算のサイクルを通じて,2019 年には人道的な融資を通じて供与された 37.このアプローチ はニーズ――中期的で,かつ予測可能な財源の流れが必要とされている――と利用可能な資金調達額の間 にミスマッチを生み出している.ロシアによる侵攻を受けて行われた,ウクライナ難民を収容するための 計画策定の変動しやすさを示す一例である.そしてこのことは, 2022 年における財源の配分の見直しは, 難民の状態の改善に向けた中期的な公約をすることに対して,多くのホスト諸国に曖昧な態度をとらせた ままにしている. 7 難民:中期的な視点から管理 207 図 7.5 3 つのドナーが難民向けの二 図 7.6 4 カ国で,第三国定住をした難民の 4 分の 3 を受け 国間 ODA のほぼ 3 分の 2 を拠出 入れている 29% 37% 29% 71% 15% 63% 14% 13% アメリカ,ドイツ,および EU 機関 他の諸国 アメリカ カナダ 他の全諸国 ドイツ スウェーデン 出所:OECD 2021. 出所:OECD 2021. 注:EU =ヨーロッパ連合;ODA =政府開 発援助.  他の伝統的な形態の責任共有である再定住[第三国での定住]は,たとえ政治的には重要であっても,件 数としてはわずかなままである 38.難民が「再定住される」のは,低・中所得国から高所得国に移動する機 会が提供され, 高所得国で統合されることになる場合である 39.このようなプログラムは難民に [移動先の] [第三国定住] 対して否定の余地なくプラスの成果をもたらしているが,難民の再定住 に関与しているのは 非常に少数の諸国のみである.実際,再定住活動の全体のほぼ 4 分の 3 は,カナダ,ドイツ,スウェーデ ン,およびアメリカというわずか 4 カ国のみで行われている 40.UNHCR によれば,2021 年に (図 7.6) はわずか 57,500 人の難民のみが再定住し,一方で,140 万人以上の難民が再定住を必要としている 41. 2021 年の数字が低かったのは COVID-19 のパンデミックへの対応において国境や旅行が制限されたこと も一因であるが,各国によって提供される再定住という選択肢そのものが減少傾向にあることも一因である. グローバル・アプローチの枠を越えて  先行きを展望すると,優先課題は援助の有効性を強化することである.というのは,難民関連プログラム に利用可能な ODA の割合が劇的に増加する可能性は低いからだ.この取り組みは多くの強制避難状態の長 期化するという特質に合わせて,中期にわたって財源を提供できる手段を開発することを必要とする(ボッ クス 7.3).それは,融資の流れを追跡するという継続中の取り組みの上に構築することができるであろう. それは OECD の開発援助委員会(DAC)を通じて行われているものであり,そのことによって,支出が再 検討され,長期にわたって各国間で情報に基づく資金配分が促進される.この取り組みは十分な国際的保護 そうするための中期的なコストの削減も目指すべきである. を提供する受け入れ政策を支援するだけでなく,  一方,難民や受け入れ側のコミュニティに対する支援の基盤が拡大されなければならない.難民に関する (GCR) グローバル・コンパクト の枠組みの下では,責任の共有はさまざまな仕方で実施可能である.それ に含まれるのは,強制避難の根底にある原因に取り組む,難民の再定住[第三国定住]を可能にする,難民や 亡命希望者の自給自足に向かうための経路を創出する,援助や国際的保護プログラムへ資金を提供する,受 け入れ国における技術援助や能力構築に投資する,難民や亡命希望者を受け入れる,そして国内的および地 域的な移住政策を改善する,などである 42.GCR は開発組織や,地方自治体,民間部門,市民社会を含め, 関与するパートナーの幅を拡大することも目指している 43.例えば,対象を絞った民間部門による介入と いう形式での難民受け入れ地域における支援のための新規の財源を活用することは,ODA を補完すること 208 世界開発報告 2023 ボックス 7.3 開発金融の実例:IDA の 難民・受入コミュニティ向けウィンドウ (IDA)  2017 年以降,世界銀行グループ内の低所得国向けのファイナンス部門である国際開発協会 は,難民 を受け入れている低所得国に当該国の割当額に加えて開発財源を提供してきている.総額 60 億ドルに達す るこのような財源は次の 3 点において難民受け入れ国を支援している:(1) 難民の流入に由来するショック を緩和し,難民と受け入れコミュニティのために社会的および経済的な発展の機会を作り出す;(2) 受け入れ 国における持続可能な社会経済的な包摂,あるいは難民の出身国への帰国を通じることを含め,長引いてい る難民状態に対する持続可能な解決策を促進する;(3) 難民の流入の増加ないし新規の流入に対する国として の備えを強化する.この財源は,難民を受け入れている 17 カ国以上の低所得国に地域社会の開発や,教育, 医療,社会的保護などの多様な部門にわたって,効果的に配置されてきている. 「難民・受入コミュニティ向けウィンドウ」  IDA の は,健全な受け入れ政策を支援することに焦点を (WHR) 合わせて,複数に及ぶ期間にわたって予測可能な財源を提供している.WHR は国際的保護の指針と密接に関 連している.この資金の受領に関して適格であるためには,難民受け入れ国は十分な保護の枠組みを維持し ていなければならず,それは国連難民高等弁務官事務所と協働で評価されている.WHR は当局に難民状態に 取り組むための戦略を策定するよう要請することによって,政府の指導者を支援し,そしてインセンティブ を作り出すことも目指している. 難民専門機関という枠を超えて, WHR は数カ国では, 医療あるいは教育など, 「難民政策レビュー枠組み」 さまざまな部門別省庁にまで政策対話を拡大することに役立ってきている.また, も導入してきている.これは,鍵となる難民関連の政策を再検討して,政策改革における調整のため (RPRF) の基盤を提供している. 出所:IDA 2022. ができよう.特に COVID-19 のパンデミックがもたらした混乱を考えると,そのような取り決めがどの程 度成功するかを評価するのは時期尚早であろう.しかし,2021 年後半に発行された最初の GCR の「指標 レポート」の指摘によれば,進展は遅く,国際社会における現行の亀裂によって進展の遅れはさらに悪化す るかもしれない 44. (キ  地域的なレベルにおける補完的な形式の協力は,より有望である.ほとんどのラテンアメリカ諸国が, ト・プロセスという状況における場合を含め)協働してきている.ベネズエラ危機に直面するなかで,国際 的な対応の全体を通じて首尾一貫性を提供することが可能な地域全体的なアプローチを開発することが協働 の目的である 45.このアプローチは,特にコロンビアのような最前線諸国にかかる圧力を軽減することに 役立っている.同様のアプローチがウクライナ出身の難民のために EU によって採用されており,モルドバ や,ポーランド,ルーマニアなどといった諸国に対する重荷を削減することに役立っている 46.地域的な 取り組みは中所得ないし高所得の諸国にかかわる状況に限られているわけではない.アフリカでは,政府間 開発機構(IGAD)が,広範な「アフリカの角」における難民状態の管理を漸進的に改善するために,地域的な ピア・ツー・ピアのプロセスの策定を支援してきている 47.  責任の共有は,貿易の利用に関する交渉のように,幅広い二国間ないし多国間交渉を通じても推進される ことが可能である 48.ヨルダンでは,政府は 20 万人以上のシリア難民に労働許可証の付与という形式での 労働機会へのアクセスを提供し,公教育を利用する権利を与えることに同意している.責任共有計画――ヨ ルダン・コンパクト――の一環として,EU は,ヨルダンに補助金およびローンを提供し,さらに労働者の 15%以上がシリア難民であるヨルダン企業からの特定の製品にかかわる特恵的貿易と投資に関する協定を 結んだ.しかし,現実の新規投資額や提供された労働許可の実際の件数は期待をやや下回った.事務的な交 付の仕組みを増強する必要があったことが一因である.例えば,シリア難民は労働許可証なしですでに働い ていた.また,難民が公式に働くことが許されたのは,指定された低スキル部門内だけに限定されていたこ 7 難民:中期的な視点から管理 209 とも一因であった 49.ヨルダン・コンパクトの後には,エチオピアで類似の制度が導入された.エチオピアは, 難民もアクセス可能な仕事を創出する取り組みの一貫として新たな工業地帯を開発するために外部から巨額 の融資を受けた 50.そのような新たな構想は難民保護のための社会的および政治的な環境を改善するのを 支援することができよう. 緊急対応という枠を超えて  難民という状態はほとんど常に何年も続くことから,「受け入れ政策」は財務的にも社会的にも持続可能で あるべきである.難民危機の発生時点に行われる決定――難民をどこに収容するかや,どのような地位を与 えるかなど――は,多くの場合に,依存性を有する経路を設定する.すなわち,そのような決定は,難民と 受け入れコミュニティの双方にとって長期的な意味を持つ可能性がある.タンザニアは極端な事例である. 1970 年代に生じた,大勢のブルンジ難民を受け入れるための初期の殺到の中で,タンザニアは水源から 数マイル離れた場所に難民キャンプを設置した.その結果,水はほぼ 40 年間にわたって相当なコストをか けてトラック輸送されなければならなかった 51.中期的な計画期間を考慮に入れた受け入れ政策の採用が, 滞在を延長するインセンティブを難民に生み出すことを示す証拠は存在しない.実際には,そのような政策 は難民状態が長引く場合には,コストを最小化するための方法を提供する.  難民の流入に成功裡に対応した場合には,難民が仕事を発見し,公共サービスを享受できるようにするこ とが可能となる.主要な社会的緊張に加えて,受け入れ国の中期的な金融支援の必要性を削減した対応の事 例として,トルコによるシリア難民の受け入れ 52,コロンビアおよび他のラテンアメリカ諸国による大勢 のベネズエラ人の前向きな受け入れ 53,数百万人ものウクライナ人の脱出に対処することに向けた EU の 努力などがある 54. (図 7.7)  このような対応には 3 つの主要な要素がある :(1) 受け入れ地域への圧力を減らし,自立を促進 するために,難民に対して国内移動を許可する(難民が分散しているほど,最初の到着地のコミュニティが 受ける影響は小さくなる),(2)「強制された無為」の財政的および社会的なコストを削減するために,自立 や労働市場へのアクセスを支援する(働ける難民が多いほど,難民が必要とする援助の必要性が減り,コス 55,(3) コストを最小化すると同時に トが低下する) (並列的な構造は典型的には国家による単一的な構造よ りもコスト高になる),難民の福利,および難民と自国民の間での公正な処遇を確保するために,国の制度 (医療や教育) を通じて公共サービス を提供する.  そのような中期的なアプローチがより多く採用されていないのはどのような理由によるのであろうか?  問題はインセンティブの欠如と短期偏重にあるのかもしれない.ほとんどの国際援助は,人道的援助という 形式で提供されており,それは計画と提供に関して視野が短期である.しかし,中期的なアプローチは多く の場合に,特に難民を国の医療および教育の制度のなかに組み込むために,ドナーや受け入れコミュニティ からの中期にわたる財政面での公約を必要とする.したがって,長期的な展望の全体にわたって予測可能な 財源を提供できる融資手段が極めて重要である 56.  制度面の計画も重要である.例えば,国際的パートナーの要請で設置され,国の保安機構に付属させられ た自律的な「難民機関」は,法律と安全への配慮を中心とする短期的な視野を採用することに強い関心を持つ であろう 57.対照的に,部門別の各省庁の全体にわたって実施されている包括的な社会経済的アプローチ を促進するために,小規模の調整構造を創設した諸国もある.例えば,そのアプローチはコロンビアの国境 管理局によって使われており,国境管理局は教育や医療など,各省庁の所轄範囲内でサービスを難民に提供 するために,担当省庁と協働している.制度の配置は,受け入れ国の行政能力全体を考慮することも含めて, 各国の状況に適応させる必要がある.状況次第では,制度面の取り決めに事前準備の要素を含ませることも できる . (ボックス 7.4) 210 世界開発報告 2023 図 7.7 難民の流入への対応において,受け入れ国は中期的な持続可能性――財政と社会の両面で――を目指す べきである ほとんどの難民において,その状態は長期化している 持続可能な対応の必要性: ・財政的に(国内の財源/外部からの援助) ・社会的に(受け入れ側の負担の削減;難民と自国民の間の公正性を確保) 中期的融資 国内の移動 (vs 移動制限) 自立 国の制度への包摂 (vs 援助依存) (vs 並列的な構造) 制度的な主流化 出所:WDR 2023 チーム. 国内の移動性  1951 年の難民条約において移動の自由が規定されているにもかかわらず,難民の 3 分の 1 は受け入れ 国内を自由に移動することができない 58.約 22%はキャンプに住んでおり,そこでは,キャンプを離れる ことは禁止されている,あるいは離れるためには事務的に申請書を提出する必要があるなど,難民は移動に 関してかなりの制限に従っている 59.難民がキャンプ外に住んでいる場合でさえ,例えば,それが遠隔地 域ならば,難民の移動は制限されうる.  そのような移動性の制限は難民と受け入れコミュニティにとって同じように有害である.難民にとっては, 機会のある場所に行けるということは仕事を見付けるためには決定的に重要である.デンマーク,スウェーデ ン,およびその他ヨーロッパ諸国は,難民や亡命希望者を経済的機会が少ない地域に配置することや,他の地 域へ転居する能力を制限することは,雇用面での成果を削減するということを学んだ 60.難民が住んでいる 地域に経済的な機会が存在しないことは,自立を達成困難な目標にしてしまう.そして,難民の大部分が受け 入れ国政府やドナー社会にとって高水準のコストで外部からの援助に依存するという状態を持続させる.  [難民を]受け入れるコミュニティも悪影響を受ける.移動制限は難民を比較的小さな地域内に集中させ, そのような地域では難民が典型的には住人のなかで大きな割合を占めることになる.そのような配置は受け 7 難民:中期的な視点から管理 211 ボックス 7.4 難民状況が予測可能ないしは慢性的な場合は準備がきわめて重要である  難民の移動は常に予測不可能な危機であるとは限らない.一部の諸国では,難民の流入は残念ながらよく ある出来事となっている.例えば,過去 30 年間のうちの 23 の年に,チャドは近隣諸国から新しい難民を受 け入れてきている.エチオピアとウガンダも同じく,大規模な流入という事態を頻繁に経験している.また, パキスタンやイランは,1979 年以降,部分的な帰国やアフガン移民の新規の到着が次々に生じるのを目にし てきている.ベネズエラのような他の諸国では,避難を発生させる危機がゆっくりと積み上がっており,そ の影響も同様の状況にある.  そういった状況下では,中期的な計画を策定することは,ショックをよりうまく吸収するための制度的お よび財政的な計画を整備することによって,各国が難民移動の可能性に十分な備えをするのを支援すること ができる.例えば,各国は緊急対応計画を策定しておくことによって,難民危機が発生した場合には影響を 受ける地域に公務員や医療スタッフを配置することができる.そのような計画によって,たとえ難民状態が 継続することになっても,長期にわたる財務的および社会的なインパクトを最小化するような仕方で大勢の 人々を収容できる場所や解決策を特定することができる.さらに,それによって,影響を受けている地方自 治体に向けて追加的な財源を移転するために,危機の際に有効にできる事前の備えとしての仕組みを考慮し ておくこともできる. 制度的な取り決め,  他の危機の管理における経験は次のことを示している.準備しておくこと――計画策定, 資源の事前配置など――は想定を上回る利益を生み出すことができる.その実例として,メキシコや日本の 地震の影響を軽減するための計画 a や,エチオピアの旱魃に対応するための拡張可能なセーフティ・ネット b などがある.事前準備という指針は,難民移動という状況に関しては他と比較して開発が進んでいないとい う事態が続いているものの,ウガンダなど,一部の国は今後ありうる難民の移動に対してより適切に計画を 立てて対応するために取ることができる措置を検討し始めている. a. Takemoto, Shibuya, and Sakoda (2021). b. Productive Safety Net Programme in Ethiopia (dashboard), Capacity4dev, European Commission, Brussels, https:// europa.eu/capacity4dev/project_psnp_ethiopia. 入れ側のコミュニティに対するインパクトを増幅し,政府や外部からの援助の必要性を大幅に高める.例え ( ば,バングラデシュのロヒャンギ族「強制退去させられたミャンマー国民」として言及されている)が同国の 人口に占める割合は 0.6%以下であるが,ロヒャンギ族が受け入れられているコックス・バザール地区にお いては,総人口の約 3 分の 1 を占めている 61.  そのような現実に直面して,一部の国は国内移動性を許容する「受け入れモデル」を導入しており,有望な 成果を上げている.例えば,エチオピアは最近,状態が長期化している難民の移動を許可および促進するこ とを意図した「キャンプから外出する 」 (out of camp) 政策を採択した.最近における大規模な難民の流入 の多くが同じような方針に沿って管理されている.トルコでは,シリア難民は国内の大部分にわたって自由 に移動する権利を与えられており,シリア難民は,自らが最低限の援助で自活でき,地元経済に貢献するこ とが可能な経済的に堅調な地域に移動している(地図 7.1).場合によっては,移動は地域全体にわたって許 されている.例えば,ベネズエラ難民はラテンアメリカ全諸国にわたって 62,また,より最近ではウクラ イナ難民は EU 全域にわたって 63,移動を許可されている.  国内の移動には,難民危機の管理方法を劇的に変える潜在力がある.それは,難民が持ち込むスキルと労 働市場の需要とのミスマッチを,難民がより多くの機会へアクセスできるようにすることによって削減する. また,国内移動は,難民が現地経済により大きな貢献をすることを可能にする.一方でそれは,難民が最初 に到着した地域のコミュニティの人口に占める難民の割合を減らすことによって,その地域のコミュニティ に対する悪影響――雇用や,物価,公共サービス,インフラ 64,および社会的一体感などの面で―――を 212 世界開発報告 2023 地図 7.1 難民にトルコ国内の自由移動を許可することによって,政府は,難民が最初に到着したシリア国境に 沿う地域のコミュニティが受ける影響を削減した 国民に対する難民の比率;地域別 a. 2013 年 b. 2018 年 割合(%) 20.0 10.0 20.0 5.0 10.0 2.0 5.0 1.0 2.0 0.5 1.0 0.2 0.5 0 0.2 0 IBRD 47152 | MARCH 2023 出所:Tumen 2023. 劇的に減らす 65.  国内の移動が可能であることは国際的な支援が提供される方法に対しても含意がある.外部からの融資は 引き続き必要であるが,多くの場合に,それは投資プロジェクトというよりも政策支援という形態になるで あろう.というのは,難民は広い地域にわたって散在しているからだ 66.時として, 「受け入れコミュニティ」 という定義そのものが再検討される必要がある.典型的には,難民がコミュニティの人口の大きな割合を占 めている農村部から,人口のわずかなシェアしか占めていない都市部の近隣地区への変更である.受け入れ 国の領域の全体にわたって難民が居住している際に難民に法的保護を提供することは,法的保護の提供を実 施するための国家機関の能力が極めて重要になることから,行政府と司法府の能力を強化することも要請す るかもしれない. [自己依存] 自立 と労働市場へのアクセス  難民の自立と労働市場へのアクセスは,財政面と社会面の両方で,持続可能性の極めて重要な要素である. 難民が援助プログラムに依存する状態が続いている場合には,支援が受け入れ国の政府によって賄われてい るか,あるいは外国のドナーによって賄われているかとは無関係に,援助,社会的緊張,および威厳などの 面で高いコストが生じる.そこで,一部の受け入れ国は,自活できるようになることを難民に促してきてい る.例えばウガンダでは,農業の経歴を有する難民世帯は 1 区画の可耕地を与えられている.ただし,こ の区画の規模は難民数が経時的に増加していることから,小さくなってきている.  難民に対する中期的な経済的成果は,到着後に難民がどれだけ速やかに法的地位を授与されるか次第であ る.数多くの受け入れ国に,新規の難民申請に対処し,難民の地位を与えられるべき人とそうでない人を決 7 難民:中期的な視点から管理 213 「一見で」 定する手続きがある.ある状況では,難民の地位が ――すなわち個人的な事情とは無関係に特定 の出身国から移住した全ての人に――直ちに授与される.しかし,他の多くの状況においては,難民申請者 は難民として認定される,あるいは認定されないまでに数年間にわたる長いプロセスを通過しなければなら ない.この待機は開発成果に悪影響をもたらす.それどころか,失業を強いられる期間が引き伸ばされるこ とは難民の労働市場への統合をより時間のかかるものにする 67.例えば,スイスでは 1994  – 2004 年の期 間において待機期間の 1 年の追加は,難民のそれ以降の就業率を平均との比較で 16  – 23%低下させた 68. 難民が労働市場に非常に早期の段階から――難民認定の申請中でさえ――参加できるようにすることは,プ ラスの長期的な結果を生み出すことができる 69.  難民の地位を与えられた人たちにとっては,この地位が持続する期間は重要である.滞在条件が確実で予 (self-reliance) 測可能であることは,難民の自立 への道を加速させる.そのような滞在条件は,仕事を得 るのを円滑化するある程度の安定性をもたらし,そして――新しい言語の学習や新規企業の創設などに―― 投資を行うよう移民を動機付ける.そしてこのことは,受け入れコミュニティの利益にもなる 70.例えば コロンビアでは,2018 年に大規模な恩赦のプログラムは,正当な書類を持たない約 50 万人のベネズエラ 人に,雇用許可の取得を含め,法的地位を与えた.このプログラムは,彼らの所得を 31%,消費を 60%, そして労働の公式化率を 10%ポイント増加させると同時に 71,コロンビア人労働者の公式雇用に与えた影 響は最小であった(本章の最後に掲載されているボックス 7.6 も参照)72.対照的に,パキスタンでは,ア フガン難民は登録カード証明(難民資格認定証)を毎年更新する必要があり,このことは不確実性を生み出し ている 73.  働く権利は必要である――しかし往々にして不十分である.1951 年の難民条約は他の外国人と同じ条件 で難民に働く権利を与えることの重要性を支持しているものの,無条件でこの権利を与えているのは,145 カ国の締約国のなかで 75 カ国である 74.その場合でさえ,難民は多くの諸国で,労働許可の必要性 75 や, 外国人労働者の比率についての上限規制,一部の部門からの外国人の排斥,待機時間,金融サービスの利用 制限などの,行政的ないし実務的な障壁に直面する可能性がある.その結果,難民の 55%以上が働く権利 が制限されている国に住んでおり 76,多くが非公式な仕事に対してのみアクセスできる 77.  難民に「仕事をする」権利を与えている諸国は,典型的には「仕事における」権利も付与しており,それには 最低限の基準と条件が含まれている 78.にもかかわらず,難民はしばしば法的地位が不確実であり,そし て現地の規則に関する知識や言語スキルを持っていないことから,職場で依然として搾取,嫌がらせ,虐待, あるいは過少給与などにさらされることもある.それ故,難民が経済的機会にアクセスするための補完的な 措置が必要であろう.なかでも特に,個人的な身元証明書類へのアクセス,銀行口座の開設,運転免許証の 保持,あるいは携帯電話サービスの購入など 79 が可能であることが,労働市場への参加にとって極めて重 要である.直接的なジョブ・マッチング,公的な職業安定組織によるカウンセリング,言語指導,ソフト・ スキルの修得,あるいは技術訓練などのような難民の経済的包摂を支援するための専用のプログラムを整備 している諸国もある 80.  しかし,難民が仕事をすることを許されているところでさえ,経済移民だけでなく現地人との雇用や賃金 における格差を難民が縮小するには何年もかかる 81.難民は多くの場合に,雇用の条件や賃金の面で経済 移民に後れを取った状態で仕事を始めている 82.難民は安全性を最優先にして移動していることから,多 くは当人のスキルや属性と労働ニーズとの適合度が低い地域で受け入れられている.一部の難民は出身国や 移動の過程で経験したトラウマを克服する必要もある.そのようなトラウマは,労働市場でうまくやってい く難民の能力に悪影響を及ぼしている 83.したがって,エチオピアや,ヨルダン,ウガンダなどといった 受け入れ国でみられるように,難民はより不安定な条件の下で働く傾向にあり,公的移転や送金といった形 (図 7.8) 態の不労所得へより大きく依存する傾向にある .  民間部門には,難民と受け入れコミュニティのために,雇用や他の所得創出活動を生み出す潜在力がある. しかし,多種多様な民間主体には難民受け入れという事情に関して独特なインセンティブや,能力,限界な どがある.例えば,大手の多国籍企業は,大規模な投資を遂行できるが,インフラや健全なビジネス環境も 214 世界開発報告 2023 図 7.8 難民は受け入れ国の国民よりも給付への依存度が高く,より不安定な条件の下で働いている 難民と現地人[受け入れ地域の住人]の主要所得源の比較 (都市部) a. コロンビア (ジジガ,農村部) b. エチオピア 現地人 難民 現地人 難民 7 5 14 17 21 8 14 32 42 14 46 29 20 38 10 1 40 26 0 16 (都市部) c. ヨルダン (ナキバレ,農村部) d. ウガンダ 現地人 難民 現地人 難民 3 1 11 11 22 30 34 14 1 1 50 5 37 71 2 9 71 1 20 6 賃金労働 臨時,不安定な仕事 自営業 送金 援助,その他公的給付 出所:von der Goltz and Schuettler 2022; World Bank 2023. 注:上図では難民と現地人 の主要所得源を比較している.コロンビアについて示されているのはベネズ [受け入れ地域の住人] エラから退去させられた難民に関するデータであり,ヨルダンについて示されているのはシリア難民に関するデータである. 必要とする.大規模な財源を投資することが可能であろう国営企業は,典型的にはすでに進出済みか,ある いは成長の潜在性が証明されている地域に集中する.対照的に,中小規模の企業は多くの場合に,より機敏 で,難民を受け入れる環境に順応することができるものの,融資の利用がしばしば困難である.したがって, 難民が置かれている環境への民間部門の関与に対する支援は,おのおのの状況の詳細に応じて調整される必 要がある.  全体として,多くの諸国では民間部門の関与は依然として初期段階にある 84.難民の受け入れが後れて いる地域への大規模な投資は,いまだに実現していない.多くの場合に,このような地域にはインフラ,エ ネルギーへのアクセス,あるいは市場ががほとんどない.民間部門の潜在力が大きいのは,コロンビアやポー ランドなどの,ビジネス環境が強固で,難民が移動することができ,妨げられることなく仕事へアクセスす ることができる諸国である.ケニアの銀行をカクマ難民キャンプやその近隣の町に誘致する 85,あるいは「卒 業」という零細金融のプログラムに難民を登録させる,などといった対象を絞った介入策は,依然として規 模の拡大が必要とされている.追加的な財源を誘致するためには,難民受け入れ地域への投資を儲かるもの にすることを目的として,リスク分担ファシリティ向けのブレンド・ファイナンス,実績に基づくインセン ティブ,ないしその他のリスクの低減を図る手段といった形態での支援が必要かもしれない. 公共サービスに包摂  COVID-19 のパンデミックは難民が社会的サービスにアクセスできることの重要性を証明した 86.それ は特に,難民が予防や治療のために十分な医療サービスにアクセスできるよう確保することの公衆衛生上の 利益に光を当てた 87.過密な難民定住地における感染症の広まりは,それどころか受け入れ国の人々の健 7 難民:中期的な視点から管理 215 康を害する可能性もある 88.  パンデミックは,学校教育の中断が,特に脆弱な人たちのグループについて,学習に与える影響を明ら かにした――そのような影響は,多くの難民の子供たちにとっては,長きにわたって現実となっている 89. 実際に,子供は難民全体のほぼ半数を占めているものの,小学校に就学している子供はわずか 77%,中学 後者は世界全体で平均水準を大幅に下回っている 90. 校に就学している子供はわずか 31%であり, その結果, 難民の子供における読み書きの能力と学習成果は低い傾向にある 91.次のようなリスクがある.すなわち, 大勢の子供が「失われた世代」の一部になってしまい,これには難民の出身国あるいは受け入れ国に不安定化 をもたらす可能性のある影響が伴っている.  全体として,多くの難民は極めて脆弱であり,より長期間にわたって社会的援助を必要としている 92. 例えば,トルコのスルタンベイリに滞在しているシリア難民の 4 人に 1 人は障がいを抱えており,世帯の 60% には障がいを抱えている人が少なくとも 1 人はいる 93.労働市場へのアクセスを有している場合でさ え,これらの難民が短期から中期の間に完全に自立(自己依存)できるようになる公算は小さい.そのような 難民,および,付き添い人がおらず離れ離れになった子供たちや,人身売買の犠牲者,ジェンダーに基づく 暴力の経験者などの他の非常に脆弱な集団を支援するためには,財政資源と専用の制度的な構造が必要であ る.支援は財政的に持続可能な仕方で提供される必要があるが,難民と,同じような脆弱性を抱える現地人 との間で,処遇が不公正にならないことを確保することを考慮する必要もある.  難民に対するサービス提供の様式は各受け入れ国の間で著しく異なっている――国による単一制度,並 行的な構造,あるいは両方の組み合わせなど,さまざまである.イランや,南アフリカ,スウェーデン, ウガンダなどの一部の諸国では,難民は受け入れ国の国民と同じ条件下で国による医療制度と医療サービ スにアクセスできる.他の諸国では難民は,並行する医療制度を通じて基本的な医療サービスを得ており, このサービスは慈善団体,非政府組織(NGO),それに UNHCR や国際移住機関(IOM)といった国際機関 などの外部主体によって資金の提供と運営が行われている 94.同じく,教育部門におけるサービスあるい は社会支援を,最も脆弱な難民に提供している各国のモデルも異なっている.このようなサービスは国の 組織の一部ではない,外部によって資金提供されている制度を通じて――典型的には NGO を通じて―― 提供されている.  難民を一国の機能している制度に統合することによって――教育,医療,およびお社会的保護について― ―,財政的な持続可能性,および受け入れ国の国民とのアクセスや質における公正性を改善することができ る.一部の諸国,典型的には低所得国では,外部によって資金提供されている難民向けサービスは,コスト は高いが,受け入れ国の国民がアクセスできるサービスよりも優れているかもしれない.その他の諸国では 難民がアクセス可能なのは劣悪な制度だけである 95.そのような相違は不公平な成果に帰結しており,そ のような結果は,難民と受け入れ国の国民の間に緊張を生むかもしれない.外部的な融資への依存は,そう いったアプローチの持続可能性に関する懸念をもたらしてもいる.外部からの資金提供は典型的には 1 年 間という期限を伴う緊急援助を介して提供されており,新たな緊急事態が発生すれば取り消されることもあ る.より持続可能なアプローチは,国のサービス提供制度のなかに難民を取り込むことを含むものである. 加えて,そのような制度を強化し,トラウマからの回復あるいは言語習得など,サービスが必要とされてい る分野では専用のプログラムを創設することも必要である 96.このようなアプローチは,EU に加えて 99, コロンビア 97 やトルコ 98 で採用されている.  国による制度への包摂は,受け入れ国にとっての中期的な公約を意味する.それには鍵となる 2 つの要 件がある.それは,予測可能な資金調達と制度的な取り決めの主流化である.政府は,財源が短期という枠 を越えて入手可能である,というある程度の予測可能性と自信を提供する資金調達取り決めにアクセスでき る必要がある.難民を受け入れている地域,特に自国民向けのサービス提供がすでに逼迫している諸国にお いては,国の制度の規模を拡大し,それを維持するには巨額の外部からの資金調達が必要かもしれない 100. しかし,このような金額は,特に社会面および経済面で得られる可能性のある利益と比較するときには,手 が届かないわけではない.例えば,最近の報告書は,難民の子供たちを国の教育制度に含めることに要する 216 世界開発報告 2023 グローバルなコストは年当たりで 49 億ドルであると推定している 101.加えて,難民の支援において直接的 な関連を有する省庁――教育,医療,および社会的保護――の関与を可能にするためには制度的な取り決め が必要である.しかし,そのような取り決めは多くの場合に整備するのは容易ではない.特に,そのような 取り決めに国家安全保障機構とつながりのある専門機関に属する責任や権能を部門別省庁に移譲することが 伴っている場合にはそうである. 法的地位と機会へのアクセスを組み合わせることによって恒久的解決策に向けて進展を図る  国際支援の究極の目的は,国際的保護を難民が必要とする状態を終わらせる恒久的解決を難民が見出すの を手助けすることである.難民受け入れ国の多くは進んで国際的な保護を提供しているが,その保護には時 間制限があることを理解している.このような理由から,難民受け入れ国の政治的指導者はしばしば,大規 模で恒久的な解決策の必要性を強調している.また,強制退去に対する恒久的な解決策についてのあらゆる 論議は受け入れ国の懸念事項を考慮するべきである. 恒久的な解決策の欠如  恒久的な解決策――国際的な保護がもはや必要でなくなる状態――は,多くの場合に法的な視点から定義 されている.簡単に言えば,難民は典型的には紛争や迫害が要因で市民権のある国による保護に頼ることが できないことから,国際的な保護を受ける権利がある.それらの人々は国家による持続可能な長期にわたる 保護の保証を取り戻すことができるまでは難民である.この国家というのは次の 3 つのうちのいずれかで ありうる:(1) 出身国 (voluntary repatriation) (帰国あるいは自発的帰還 と再統合);(2) 避難している 国(現地での統合,そして場合によっては帰化) (再定住) ;(3) 第三国 .国際法に従うために,このような解 決策のおのおのは,帰国も含め,人権に関する規範に沿って自発的であることを基盤として達成される必要 がある 102. –   近年において恒久的な解決を達成した難民の割合は極めて低い.2012  22 年の期間についてみると,そ の割合は平均では難民総数の 2%であり,4%を超えることは一度もなかった.2021 年には,COVID-19 (図 7.9) に関連する制限を一因として,その割合の平均は 1%にまで低下した .UNHCR が指摘している ように, 「恒久的な解決策は…より一層, 103. 少数の難民の選択肢になりつつある」 事実,2010 年以降は毎年, 新規の難民数が解決策の対象者数を上回ってきている(図 7.10)  恒久的な解決策が存在しないことは,難民数,および自らを再起する望みをほとんど持たずに亡命状態 で生活を続けなければならない年数が着実に増加していることの背後にある理由の 1 つである.またその ことは,一部の難民がリスクの伴う非正規の移動に関与するという結果につながってもいる.例えば 2017 年には,イタリアに到着した難民の 21%, 「移動中の人」 そしてギリシャに到着した難民の 25%は, (onward mover)であった.すなわち,自らの置かれている状況が解決する見込みがなく,加えて最初の受け入れ国 において機会がないことを理由に移動した人たちであった 104. 意思決定の複雑さ  恒久的な解決策の枠組みに関する概念的な単純さは,難民の生活や意思決定に関わる複雑さを完全には説 明していない.難民が置かれている状況におけるあらゆる変化が,特に新たな移動に関連している場合には, 難民にとってリスクになる可能性がある.過去の試練に関する記憶と難民の限られた財源を考えると,難民 がそのようなリスクを進んで,ないし安易に取る公算は低い 105. (ボックス 7.5)  帰国あるいは自発的帰還 ,ないしは現地での統合,という単純な概念は,強制避難のいく つかのパターンにはうまく適合しない場合もある.例えば,レバノンにおける一部のシリア人労働者のよう に,大勢の難民が,出身国で抗争が発生する以前は,受け入れ国において一時的な移民であった.紛争によっ て変化したのは難民の居場所ではなく,出身国に安全に戻ることができるという状態と,家族の到着である. 7 難民:中期的な視点から管理 217 図 7.9 過去 15 年間において,恒久的な解決策を達 図 7.10 難民になる人(認定者)の数が難民でなくな 成した難民の割合は非常に低い る人の数を上回っていることから,難民数は増加し続 けている 25 7 20 6 難民総数に占める割合 5 15 難民数 4 (百万人) 10 3 (%) 5 2 1 0 0 08 10 18 20 02 12 22 06 16 04 14 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 90 10 00 20 05 95 15 19 20 20 20 20 19 20 帰還 第三国定住 帰化 解決を達成した難民 新規の難民の数 出所 : WDR 2023 チーム.Refugee Data Finder (dashboard), の数 United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://popstats.unhcr.org/refugee-statistics/download/ か 出所 : WDR 2023 チーム.Refugee Data Finder (dashboard), らの 2022 年に関するデータに基づく. United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://popstats.unhcr.org/refugee-statistics/download/ か 注:難民には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の委任統 らの 2022 年に関するデータに基づく. 治下にある人々を含む. 注:難民には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の委任統 治下にある人々を含む. 難民の移動には,離れ離れの家族,あるいは循環的な帰国を含む複雑な世帯戦略,あるいは,一部の家族員 が出身国と他の移住地の間を行き来することが伴う,繰り返して行うや旅程のプロセスの一部であるものも ある 106.この慣行は,例えば,一部のソマリア人難民が採用している 107. トレードオフと緊張  恒久的解決策を探すなかで,多くの難民は部分的には経済的移民のように振る舞うかもしれない.難民に は国際的保護に対する独特のニーズがあり,そして特殊な脆弱性を持っているが,一般の移民と同じ欲求や より良い生活に向けた経済的ニーズも共有している.経済的な機会――仕事と公共サービス――にアクセス できることは,失った資産を再構築し,トラウマを克服し,計画の展望を修復することにとって極めて重要 である.これらのことは人々の回復にとって不可欠である.それ故,多くの難民にとって,恒久的な解決策 を利用できることは 2 つの不可欠なもの――永続性のある法的地位と経済機会への実効性のあるアクセス ボックス 7.5 帰国:帰郷か,あるいは新たな移動か? (return)  帰国 「本来いる場所から はしばしば強制退去にとって最も自然な解決策とみなされている.難民は 外れている」所にいるとみなされているので,出身国への帰国は物事の自然な秩序を回復する 1 つの道であ ると考えられている.一方で,難民は本国への送還を望んでいると想定されている a.帰国は一世代にわたっ て本国を離れている後でさえ,そして, 「祖国 当初の難民の子孫が自分の 」 (homeland)を見たことがなくても, (home) 「故郷 」へ帰るという観点から論議されている.例えば,パキスタンにいるアフガン難民の約 4 分の 3 はそこで生まれた人たちである b. (ボックス:次ページへ続く) 218 世界開発報告 2023 ボックス 7.5 帰国:帰郷か,あるいは新たな移動か?(続き) (repatriation)  本国送還 (homecoming) するという決定は,帰郷 ,あるいは既存秩序への復帰を単に考える よりも複雑である c.出身国は多くの場合に難民が出国して以降,痛みを伴う社会的,経済的,および政治 的な変革の途上にある.難民自身も変化しているかもしれない.すなわち,女性はより多くの権利を獲得し ているかもしれない,亡命先で生まれた子供たちは本国の言葉をうまく使いこなせないかもしれない,そし て若者は新たな規範や価値観を採用しているかもしれない.一部の難民にとっては,自分たちの避難を促し た紛争の記憶や,政府,隣人,そして友人が最も恐るべき敵方になった時の記憶が圧倒的なものとして残っ 「再び繋がる」 ているかもしれない.そういった状況下で, ことはしばしば複雑であり,帰国は以前の状態へ 戻ることとして,いうよりは,新たな移動として経験されるのかもしれない.帰国のなかには,帰郷よりも 新たな移動に似ているものもある.  すべての帰国が幸福な状況で完了するわけではない.帰国した大勢の難民は帰国して以降も長期にわたっ て苦闘を続けている.女性と少女は帰国において,とりわけ本国において男性と比較して,機会が少ない, 資力が少ない,地位が低い,そして権力や影響力が弱い場合には,特殊な挑戦課題に直面する d.例えばア (IDP) フガニスタンでは,帰国者の多くは国内避難民 になっている.すなわち,帰国者は出身国の自らの場 所に戻っていないだけでなく,新しい状況はあまりにも不安定であり,引き続き援助や保護を必要としてい る.2000 – 15 年の間に,大規模な帰国の 46%は,IDP の状態にある人の数の著しい増加と一致していた e. 帰国者は出身国に戻った後,難民ないしは非正規移民として,再び避難する必要さえ生じるかもしれない. 例えば,アフガニスタンや,ミャンマー,ソマリア,南スーダンなどでは,出国と入国を繰り返す複合的な 事象が観察されている f.1991 年以降にみられた帰国における 15 件の大規模な事例について,それらの約 3 分の 1 は 2 – 3 年以内に,繰り返されている紛争の新たな発生に見舞われていた g. 「成功する」  したがって,政策当局は,単に難民の帰国だけでなく,難民の帰国が 「持続可能なもの あるいは となる」ことにも焦点を合わせるべきである.すなわち,さらなる移動の必要性を生じさせないような,安 定した状況下で人々が再起できるのを確保するべきである.そのようなアプローチは難民受け入れ国の利害 にも適う.帰国した地域における安全面,法律面,および経済面の条件は重要な要素ではあるものの h,個 (自宅を再建したり,悪い展開になった場合に 人の状況もやはり非常に重要である.難民は携行可能な資産 緩衝材を提供したりするための資本)や市場性のあるスキルを持っている際には,帰国が成功する可能性が 高まる i.したがって,逃亡地での生活が資産やスキルを構築する余地を提供する程度が,成功裡に帰国する ためには極めて重要になる. 出所:World Bank (2017) から翻案. Lomax (2018). a.  Bakewell (2000); Hammond (1999, 2014). b.  Black and Koser (1999); Monsutti (2008); Omata (2013). c.  Bascom (2005); Harild, Christensen, and Zetter (2015). d.  計算は United Nations High Commissioner for Refugees (UNHCR) data for refugees and Internal Displacement Monitoring e.  Centre (IDMC) data for IDPs に基づく.次も参照 Global Internal Displacement Database, Internal Displacement Monitoring Centre, Geneva, https://www.internal-displacement.org/database/displacement-data; Refugee Data Finder (dashboard), United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://popstats.unhcr.org/refugee-statistics/download/. World Bank (2017). f.  この推定は 2014 末時点の UNHCR の帰国データに基づく.帰国後に紛争の新たな一期間が発生した事例としては g.  以下がある――アフガニスタン (2001 – 05 年の帰還) ;ブルンジ (1996 – 97 年の帰還) ;コンゴ民主共和国 (1997 – 98 年の帰還) ; イラク (2003 – 05 年の帰還) ; ソマリア (1993 – 95 年の帰還) .次を参照 : Refugee Data Finder (dashboard), United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://popstats.unhcr.org/refugee-statistics/download/. Alrababa’h et al. (2023); Beaman, Onder, and Onder (2022). h.  Omata (2013); Stepputat (2004). i.  7 難民:中期的な視点から管理 219 図 7.11 法的地位と経済機会の間にある緊張関係が,難民状態を解決することにおける困難さの根源にある 国家の保護 ほとんどの難民にとっては, 出生国においてのみ これを取り戻すことができる 難民 難民は保護と機会 の両方を探し求めている 社会経済的な機会 多くの場合に,これは 出身国では大きな規模で 利用することはできない 出所:WDR 2023 チーム. ――を保証することを意味する.これらの 2 つの要素を組み合わせることにおける難しさが,多くの強制 退去という状況を解決する際に出会う困難の根源にあるのかもしれない(図 7.11). (難民としてではない)  多くの難民にとっては,恒久的な 法的地位と経済的機会へのアクセスの両方を,同 じ国において獲得するのは困難でありうる.大きな規模での帰化ないし再定住[第三国定住]が実現しないな かで,恒久的な法的地位を取得する唯一の方法は,往々にして出身国に戻ることである.しかし,紛争ない し政治的な危機が長引いている場合,帰国は可能ではないだろう.たとえ安全な状態に落ち着いている場合 でさえ,多くの場合にそこには帰国した難民にとっての経済機会はほとんど存在しない.他方,受け入れ国 に留まるか,あるいは移動を継続する することは,難民に経済的機会を提供するかもしれな (非正規にでも) い.しかし,それは必ずしも長期にわたる公式な法的地位ではないかもしれない.  したがって,状況によっては,難民は法的観点から恒久的な解決策を達成することと,経済的機会にアク セスすることとの間で,選択をする必要があるかもしれない.少なくともある一部の場合では,経済的機会 へのアクセスを法的地位よりも優先する難民もいるかもしれない.それは大勢の非正規移民がしているのと 同じことである. 革新的なアプローチ  政策当局は中間的な解決を強調することによってこの緊張を緩和することができよう.それは,恒久的な 国家の保護(公式な選挙権,およびそれに関連する権利を伴う市民権)は含まれていないものの,経済的機会 (経済的および社会的な包摂) が存在する場所での長期にわたる居住権 を与えるという解決策である.換言す れば,一国における市民権が,中間的な解決策を形成するために,別の国における居住権と組み合わさると いうことである.この取り決めは,国家的なアイデンティティや長期滞在の政治的な含意に関する受け入れ 国の懸念の一部を軽減することができるだろう 108.  いくつかのアプローチが,継続中の長期化している状況に対処するものを含め,前進するための革新的な 方法を提示している.そうではあるものの,対応策は保護と権利へのアクセスを保証し,各々の一連の環境 と必要な場所で提供される支援に合わせられていなければならない: ・ 地域的な移動の自由.西アフリカでは,1979 年に西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が ECOWAS 220 世界開発報告 2023 諸国の市民に対して,一定の条件下で,すべての加盟国において入国し居住する権利を与える勧告を採用 した 109.その実施は,多くの制度的,政治的,経済的,および法的な挑戦課題の故に遅れているもの の 110,この取り決めは紛争や暴力を逃れた人々の一部にとっての代替策になっており,帰化することな く,かつ当人が必要だと考えるだけの長期間にわたって住居を確保することを可能にしている 111. ・ 労働移住という地位への移行.帰化には至らないものの,社会経済的な権利を予測可能な仕方で提供する, 労働移住という地位を利用する選択肢を提供することは,状況によっては進展を可能にするであろう.例 えば,アフガン人にとってはパキスタンに合法的に住むための唯一の選択肢は難民の地位であることであ る.主たる動機が経済的な人にとってさえそうである.2021 年にタリバンがアフガニスタンを支配下に 置く以前には,パキスタン政府はアフガニスタン国民が難民という地位を要請する必要がある状態の代わ りに,労働移住という地位を利用できるようにする改革の採択に向かう途上にあった 112.国際的保護を 必要としている人に対するそのような保護の提供の土台がそのような取り決めによって崩されないこと を保証するためには,外部による監視が必要となったであろう. ・ 補完的な経路.このような合法的な (legal)経路は,第三国定住という措置に向かう補完的な経路として, 難民が第三国に合法的に入国して居所を得ることを可能にするものである 113.この選択肢には,民間部 門ないしコミュニティによる後援に加えて,教育あるいは労働移動プログラムが組み込まれる公算があろ う(「シリア人留学生向けグローバル・プラットフォーム」の下でのポルトガルにおけるシリア人留学生の 114.例えば,40 年以上にわたってカナダでは,難民がカナダに定住するた ためのプログラムのように) (カナダの市民,住人,協会や法人などコミュニティの支援者などで構成される) めに,民間団体 が難民の 識別と後援を行うことを可能にしてきている 115.後援者は地元のサービス提供者と協働して,最低 12 カ月間にわたって,難民に居留地と財政支援を提供する 116.補完的経路を特定するプロセスは,難民が グローバルに移転可能なスキルを修得するのを,おそらくはグローバル・スキルズ・パートナーシップを 通じて,支援することによって加速することができるだろう.そうすることで,難民は行先国の労働のニー ズによりうまく適合することができるだろう 117. ・ 長期にわたる難民でない地位.コロンビア政府は最近,ベネズエラ国民に広範な社会経済的な権利を享 受できる 10 年間の時間枠を提供することを目的とする多くの措置を採択した 118.それにより,難民は, 長期にわたる恒久的な解決策は欠如しているにもかかわらず,ある程度の回復を達成し,そして受け入れ (ボックス 7.6) コミュニティの経済に貢献することができた . 7 難民:中期的な視点から管理 221 ボックス 7.6 統合を通じてより良い成果を生む:コロンビアからの教訓  過去 2 – 3 年の間に,コロンビアは自国を脱出したベネズエラ人にとっての第一の行き先国になってきてい (そのうちの 51%は女性) る.2022 年 8 月の時点で,推定で 280 万人のベネズエラ人 はコロンビアに居住し ている a.コロンビアに居住しているベネズエラ難民はラテンアメリカ全域にわたって受け入れられている 全ベネズエラ人の約 3 分の 1 に相当する.大規模流入に直面して,コロンビア政府はこの状況を管理するた めに,広範な措置を漸進的に実施してきている. 政府はどのように対応したか?  2015 年に 22,000 人のコロンビア人がベネズエラから追放され,そして帰国した後,政府は避難所,緊急 医療ケア,小児科診療,ワクチン接種の提供などの人道的支援を提供した.それと並行して,地方と国の介 入に関して一貫性を保証するために,制度面の計画を策定した.  2017 年以降,国境を越えるベネズエラ人の数が増加していたことから,コロンビア政府は規制にかかわる (TMF: Tarjeta de Movilidad Fronteriza 制度をいくつか導入した.国境通行証 ) [Border Mobility Card]の体系が 確立され,7 日間までの国境地帯へのアクセスが認められた.その許可証は本国で入手不可能な食料ないし 消費財を求めて国境を越えるベネズエラ人によって利用されている.コロンビアを通過してより遠隔の目的 (Ruta del Caminante) 地に行くことを求める人のために,5 つの人道援助のルート が創設された.コロンビ アに居住しているベネズエラ人に対して,暫定的な滞在許可と社会サービスへのアクセス権を与えるために, 特別な正規化制度が立ち上げられた.  2018 年の 「ベネズエラからの移民に対応するための戦略」 (CONPES 3950)b は,関連のある省庁や担当機関 の間で機関の動員や調整を改善することに対する政府の公約を確認した.取り組みを調整するために大統領 (Gerencia de Frontera) 府内に国境管理局 が創設さた.そして,地方自治体との間で円卓会議が設置された. 並行して,ベネズエラ人の両親の間でコロンビア内で生まれた子供たちには,コロンビアの市民権が与えら (この措置から恩恵を得た未成年者は れた.そのことにより,対象となる子供は無国籍にはならないであろう .コロンビア政府はベネズエラ人に対して当人の移民として 2020 年時点で 78,000 人程度と推定されている) (ICBF) の地位とは無関係に,国の医療や教育の制度へのアクセスも認め,コロンビア家族福祉協会 によって 提供されるサービスをベネズエラ人世帯にも拡大した. 「ベネズエラ人統合のための戦略」  2022 年 7 月の (CONPES 4100)は,ベネズエラ人の社会的および経済的 な統合を支援し,この先の 10 年間にわたるコロンビアの開発と繁栄に対する彼らの貢献を活用すること (ETPV : Estatuto を目的とすることによって,一歩先に前進している.例えば,政府は一時的な保護の地位 をベネズエラ難民に与えることを始めた.ETPV は移民 Temporal de Protección para Migrantes Venezolanos) の登録と正規化を加速するためのプロセスである.ETPV の地位を得ているベネズエラ人は,医療や社会保障 のサービスなどへのアクセスに関して,コロンビア人と同じ条件の下で国の補助金やサービスを利用する資 格がある.2022 年 7 月時点で,81,400 人以上のベネズエラ人がこのようなサービスを受けるために登録し ていた.このプロセスは中長期的な統合に向けて機会を平等にすることに役立ってきている.  このような政策を完全に実施するためには多くの挑戦課題が残っているものの,これらの政策はすでに肯 定的な効果を生み出している.正規化されたベネズエラ人の間での 1 人当たり消費額は非正規のベネズエラ 人よりも 31 –  60%多い.正規化がひとたび行われると,ベネズエラ人の公式部門における雇用は 10%,そ の所得は 31%増加した.一方,大規模な正規化はコロンビア人労働者の公式雇用には無視できる程度の影響 しか及ぼさなかった d. 何がうまく機能したか?  コロンビアの経験からは以下のような多くの教訓が得られてきている: (ボックス:次ページへ続く) 222 世界開発報告 2023 (続き) ボックス 7.6 統合を通じてより良い成果を生む:コロンビアからの教訓 ・ 多層的なアプローチ.異なる時間枠や目的に従う措置を並行的に執行すること――短期的な人道支援の提 供,基本的な社会サービスへのアクセスの中期的な提供,正規化と社会経済的な統合の長期的な支援―― は,政府がその限られた能力と財源の範囲内で退去させられた人々のニーズに応えることを可能にした. ・ 地位と包摂.明確な条件と手続きを使って正規移民の地位を与えることは――難民という地位,正規の移 住経路,あるいは臨時の正規化制度を通じて――,非常に重要であり,ベネズエラ人とコロンビア人の双 方にとって有益であることが判明した.同様に,ベネズエラ人を正式の労働力や公共サービス提供のため の国の制度に取り込むことも有益である. ・ 制度面の計画.体系的かつ統一的な対応を可能にする制度的,法律的,および政策的な枠組みを確立する ことは,迅速な進展を可能にしている. ・ 社会的結束に向けた積極的な支援.コミュニケーション戦略を通じて,社会的結束を促し,外国人嫌悪や 差別に取り組むことは,肯定的な結果を生み出している. ・ 責任の共有.地域的なアプローチを通じることを含め,責任の共有――特にラテンアメリカ全域にわたる ――が鍵となることが示されている. 出所:Rossiasco et al. 2023. a. Alvarez et al. (2022). b. DNP (2018). c. DNP (2022). d. Ibáñez et al., “Salir de la sombra” (2022). 注 1. UNHCR (2010, 3). WHO (2022) を参照.心理的な健康に関しては, 2. UNHCR (2011). Blackmore et al. (2020); Fazel, Wheeler, and Danesh (2005); Lindert et al. (2009); Porter and Haslam (2005) 3. United Nations (1952, 29). を参照. 4. UNHCR (2021e). 15. Becker and Ferrara (2019); Brell, Dustmann, and Preston 5. Refugee Data Finder (dashboard), United Nations High (2020); Schuettler and Caron (2020). Commissioner for Refugees, Geneva, https://popstats. 16. 次を参照:World Bank (2019). unhcr.org/refugee-statistics/download/. 17. “Share of Unaccompanied Minors in the Total 6. 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World Bank (2017). 10. UNHCR (2022b). 20. Rozo and Sviatschi (2021). 11. World Bank (2017). 21. Aksu, Erzan, and Kırdar (2022); Becker and Ferrara (2019); 12. World Bank (2017). Olivieri et al. (2022); Verme and Schuettler (2021). 13. World Bank (2017). 22. Báez (2011). 14. 身体的な健康に関しては Cuadrado, Libuy, and Moreno- 23. World Bank (2017, 49). Serra (2023); Giuntella et al. (2018); Verme et al. (2016); 24. Altındağ, Bakış, and Rozo (2020). 7 難民:中期的な視点から管理 223 25. World Bank (2017, 49). 55. Hussam et al. (2022). 26. Verme and Schuettler (2021). 56. Clarke and Dercon (2016). 27. World Bank and UNHCR (2021). 57. Kagan (2011); Naseem (2022). 28. United Nations (1952, 13). 58. UNHCR (2022a). 29. United Nations (1952, 9). 59. UNHCR (2021f). 30. United Nations (2018, 1). 60. Azlor, Damm, and Schultz-Nielsen (2020); Eckert, 31. Lutz, Stünzi, and Manser-Egli (2021). Hejlesen, and Walsh (2022); Edin, Fredriksson, and Åslund (2004); Fasani, Frattini, and Minale (2022). 32. UNHCR (2022b). 61. Bangladesh Bureau of Statistics (BBS 2022, 27) によれ 33. OECD (2021). OECD (2021) で使われているデータは公 ば, コックス ・バザール地区の人口は 2,82,265 人であり, 的に入手可能な最も包括的なものであり,開発援助委 政府と UNHCR の推定では Kutupalong と Nayapara の 員会(DAC) に加盟している 28 カ国,DAC に加盟してい 難民キャンプには,2023 年 1 月末の時点で 954,707 人 ない 4 カ国,および 4 つの国際開発金融機関を含んで のロヒャンギ難民が受け入れられていた (Government いる. of Bangladesh and UNHCR 2023). 34. OECD (2021). 62. Chaves-González and Echeverría-Estrada (2020). 35. World Development Indicators (dashboard), World 63. “Migration Management: Welcoming Refugees from Bank, Washington, DC, https://datatopics.worldbank. Ukraine,” Migration and Home Affairs, European org/world-development-indicators/. Commission, Brussels, https://home-affairs.ec.europa. 36. OECD (2021). eu/policies/migration-and-asylum/migration- 37. OECD (2021). management/migration-management-welcoming- 38. Kneebone and Macklin (2021). refugees-ukraine_en. 39. Kneebone and Macklin (2021). 64. 安全で,入手可能な価格で,かつ信頼できるエネルギー 40. UNHCR (2021h, 2022b). へのアクセスが不可欠であるものの,それは行き先国 [受け入れ国] に対して挑戦課題を提起し,現地の資源 41. UNHCR (2022b). と能力を逼迫させている.またそれは,受け入れ国に 42. United Nations (2018). とっては相当な政治的な難題を提示してもいる.以下 43. United Nations (2018). を参照:World Bank and ESMAP (2022). 44. UNHCR (2021d). 65. 詳細は第 6 章参照. 45. International Technical Meeting on Human Mobility 66. World Bank (2022b). (キト・プロセス) of Venezuelan Citizens in the Region 67. Edin, Fredriksson, and Åslund (2004); Hainmueller, は,ベネズエラの難民と移民を受け入れているラテン Hangartner, and Lawrence (2016). アメリカ・カリブ地域の諸国相互間で,意思疎通と調 68. Hainmueller, Hangartner, and Lawrence (2016). 整を促進するために 2018 年に立ち上げられた.主要 な目的の 1 つは,この地域へのベネズエラ難民と移民 69. Fasani, Frattini, and Minale (2021); Marbach, の流入に対応するために情報や善慣行を交換し,地域 Hainmueller, and Hangartner (2018); Slotwinski, Stutzer, 的な調整を明確にすることである.より詳しい情報は and Uhlig (2019). 次を参照:Proceso de Quito (dashboard), https://www. 70. Cortes (2004); Dustmann et al. (2017). procesodequito.org/en. 71. Ibáñez et al., “Life Out of the Shadows” (2022); World 46. “Migration Management: Welcoming Refugees from Bank (2023). Ukraine,” Migration and Home Affairs, European 72. Bahar, Ibáñez, and Rozo (2021). Commission, Brussels, https://home-affairs.ec.europa. 73. “Frequently Asked Questions,” Commissionerate for eu/policies/migration-and-asylum/migration- Afghan Refugees Punjab, Ministry of States and Frontier management/migration-management-welcoming- Regions, Lahore, Pakistan, https://car.punjab.gov.pk/ refugees-ukraine_en. faqs. 47. UNHCR (2021d). 74. Zetter and Ruaudel (2016b). 48. Barbelet, Hagen-Zanker, and Mansour-Ille (2018); Ginn 75. Ginn et al. (2022); Zetter and Ruaudel (2016a, 2016b). et al. (2022); Gray Meral (2020). 76. Ginn et al. (2022). 49. Gray Meral (2020). 77. Zetter and Ruaudel (2016a). 50. EU (2023). 78. Ginn et al. (2022); UNHCR (2021g). 51. UNHCR (2017). 79. Ginn et al. (2022). 52. Tumen (2023). 80. Arendt (2022); Battisti, Giesing, and Laurentsyeva (2019); 53. 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Burgess, and Portes (2018) を参照.アメリカに関して は Connor (2010); Cortes (2004); Evans and Fitzgerald UNHCR Master Glossary of Terms (dashboard), United 102. (2017) を参照. Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www.unhcr.org/glossary/. 82. Brell, Dustmann, and Preston (2020); Fasani, Frattini, and Minale (2022); Schuettler and Caron (2020). UNHCR (2022b, 9). 103. 83. Brell, Dustmann, and Preston (2020); Schuettler and Do World Bank (2018a, 38). 104. (2023). Hammond (2014). 105. 84. Bridgespan Group and IFC (2019); Wang, Cakmak, and Black and Koser (1999); Vancluysen (2022). 106. Hagemann (2021). Lindley (2013). 107. 85. IFC (2018). Alrababa’h et al. (2023); Beaman, Onder, and Onder 108. 86. UNHCR (2021a, 2021b, 2021c, 2022a). See also (2022); Hannafi and Marouani (2022). Atamanov et al. (2021); World Bank (2022a). ECOWAS (1979). 109. 87. Testaverde and Pavilon (2022). Adepoju, Boulton, and Levin (2010). 110. 88. Ibáñez, Rozo, and Urbina (2021). 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IDP のなかには短期間のみ自宅を離れる人もいるが,数年にわたって避難している人もいる.例えばシ リアでは,推定で,強制避難させられた 5 世帯の 4 世帯が 5 年以上にわたって強制避難の状態にあり,スー ダンでは推定で 56%の IDP が,10 年以上にわたって避難させられている 5.他の状況下では避難は繰り 返し,ないしは循環的でさえあり,影響を受ける人々や家計に対して甚大なインパクトを与えている.多く の IDP はトラウマや,難民と類似の損失を経験している(ボックス S7.1)6.国内避難には,貧困や脆弱性 の増加を含め,長期にわたって継続する経済的な影響が伴っている 7. 地図 S7.1 国内避難は世界全体で起こっている 紛争ないし暴力に よる国内避難民の 人数 > 600 万 5 – 600 万 4 – 500 万 3 – 400 万 2 – 300 万 1 – 200 万 500,000 – 100 万 250,000 – 500,000 100,000 – 250,000 50,000 – 100,000 1 – 50,000 無し 災害による国内 避難民の人数 1,000,000 500,000 100,000 IBRD 47136 | 10,000 MARCH 2023 出 所:Global Internal Displacement Database (GIDD), Internal Displacement Monitoring Centre, Geneva, https://www. internal-displacement.org/database/displacement-data. 国内避難と無国籍 231 ボックス S7.1 IDP と難民を比較する (IDP)  国内避難民 「国内難民」 は時に と言われることがあるものの,難民と IDP の間には重要な区別がある. 難民は出身国の保護を享受してはいない.難民は国際的保護を必要としており,それに対しては世界全体に 責任がある.対照的に,ほとんどの IDP は自国の名目的な保護下にある市民である.国際法の下では,国家 は IDP の権利を保護する責任を負っている.  大勢の IDP が最終的には国境を越えて難民になるという証拠はない a.人々は,移動の実行可能性や,紛 争の動態 b,ネットワークや情報へのアクセスなどを含む広範な考慮に基づいて,国内や海外のさまざまな 行き先に避難する.しかし,新しい場所にひとたび落ち着くと,大多数はそこに滞在する傾向にある.国内 (コロンビアにおけるように) 避難が長引く場合でさえ ,多くの場合に大規模な難民流出に帰結することはな い. World Bank (2017). a.  b. Turkoglu (2022).  難民と同じように,国内避難民は多くの場合に,特定の地理的な領域に集中している.そして,このよう な国内避難民を受け入れているコミュニティは実質的な影響を受けている 8.多くの国内避難民は,特に低・ 中所得国では,農村地域から都市地域へ移動している.ほとんどの国内避難民は都市や町に住んでおり,多 くの場合,他の貧しい都市居住者と一緒に非公式の居住地に住んでいる 9. 規範的枠組みと類型学の必要性  1998 年の「国内避難民に関する指針」が IDP に関する主要な規範的枠組みである.ただし,この指導原 則には法的拘束力はない 10.それは,人権法と国際人道法に基づいて,IDP を,人権を授与され,強制移 動の故に,特別な注視を必要としている人として認識している 11.それは,保護や「恒久的解決」という考 えも含めて,国際難民法にも依拠している.この指導原則は,数カ国における法律や規則に加えて,2009 年の (カンパラ条約) 「アフリカにおける国内避難民の保護及び援助のためのアフリカ連合条約」 を含め,さま ざまな法的拘束力のある法律文書の土台になっている 12.  にもかかわらず,IDP の定義は国毎に著しく異なっている.IDP 固有の法的枠組みのある 72 カ国のな かで,21 カ国のみが,指導原則の定義を使っている 13.より多くの枠組みでは,IDP の定義は特定のグルー プ,地理的な地域,あるいは強制避難の原因に限定されている 14.例えば,ボスニア・ヘルツェゴビナは 特定の期間内に避難させられた人々だけを IDP として考えており,イラクのクルディスタン地域は,避難 を特定の紛争事象に結び付けている.ジョージアとウクライナはさまざまな時期に,IDP を市民と少数の 他の選定された集団に限定している.また,コンセンサスが得られていないこととして,国内で避難してい るとみなされるためにはどの程度遠くまで避難していなければならないか,どれくらいの長期間にわたって いなければならないのか(自然災害の場合は短期でありうる),遊牧民に対してはそれはどのような意味を持 つか,アゼルバイジャンやコロンビアの例でみられるように,退去中に IDP に生まれた子ども自身も IDP か, などがある 15.  国内避難は,メイン州において洪水の影響を受けたアメリカの農民,ロシアの侵攻で自国からの避難を余 儀なくされたウクライナ人,帰国してカブールの郊外に定住したアフガン人の避難民,農産物加工業プロジェ クトに向けて場所を空けるためにエチオピアの自宅から退去させられた村人など,比較がむずかしい広範囲 にわたる状況を含んでいる.そのような各状況の全体では,必要な対応は相当大きく異なっている.国内避 難の多様な種類を識別することが,対応する挑戦課題に効果的に対処することにおいて鍵となる. 232 世界開発報告 2023 解決という難問  何が国内避難の満足できる最終段階を構成するかを定義することが極めて重要である.IDP に対する支 援の目的は,避難している状況にある避難民が生き残るのを助けるだけでなく,IDP が,社会に貢献する 一員として自らの生活を再建し,専用の支援をこれ以上は必要としない段階に達することができるようにす ることである.つまり,IDP の支援は単なる一時的な救援ではない.それは恒久的な解決策の達成を促進 するような仕方で,避難の全サイクルを通じて設計され実施される必要がある.  何が IDP という状態に対する耐久的な解決策を構成するのかを明確にするのは容易ではない.一部の論 議では,恒久的な解決は難民に関する概念的枠組みの上に作られている.この場合,恒久的解決は難民に 関する経験から得られた解決策に対する 3 つの可能性,すなわち,避難前にいた場所への帰還,避難先地 域での融合,あるいは自国内の他所での統合,に焦点を合わせている 16.しかし,避難が長引くにつれて, 恒久的解決策と考えられるものの定義は次第に曖昧になる.例えば,都市部の IDP(農村部に戻る可能性は 低い)はどの段階で IDP ともはやみなされなくなるべきか? また,持続可能な統合が達成されたか否かを どのようにして判断するのか?  機関間常設委員会(IASC)は社会経済的な脆弱性に焦点を合わせて,このような定義を詳しく述べている. 恒久的な解決策が達成されたと考えられるのは,一連の基準に基づいて,IDP に強制避難から生じるニー ズがそれ以降は不要となる時である 17.しかし,実際には,このような基準の一部は,退去させられたわ けではない世帯でさえ,差し迫った開発の挑戦課題に直面している国や地域では,達成は困難である.その 結果,多くの人々が期待できる解決策のない IDP と見なされ続けており,このことがグローバルな IDP の 人数が一定の割合で増加している一因である. 「難民,IDP,及び無国籍者の統計に関する専門家グループ」  国連統計員会の傘下にある (EGRISS)は,前 進するための実際的な方法を提案している 18.EGRISS は,IDP の間での退去に関連する脆弱性が持続し ていることを評価するために,グローバルな基準ではなく,むしろ一般住民との比較を用いることを勧告し ている.EGRISS は,IDP は固有の脆弱性を持っており,他の同国人には入手可能な経済的機会をつかみ 取ることができないという限りにおいて,明確に区別される懸念されるべき人々であると主張している.こ それらの人々は, のアプローチの下では, 強制退去させられていない人々と競争条件が平等である状態に戻っ た時にもはや IDP ではなくなる. 国内避難と脆弱性  多くの人たちが紛争や災害から影響を受けるが,国内で避難している人たちは特別な関心の対象になって いる.なぜか? 多くの状況下で,国内避難は,特殊な形式の援助から利益を得るべき人を特定するための (ボックス S7.2) 代理の尺度になっている .  そのような援助の性質は国や背景について横断的にみるとさまざまである.例えば,国内避難は,暴力あ るいは虐待に対する脆弱性の,そして,ウクライナにおけるように,そのような害に対する保護の必要性の 代理の尺度になっている.また,ソマリアやイエメンにおけるように,それは戦争が誘発した困窮や人道面 での援助の必要性にかかわる代理の尺度にもなりうる.さらには,紛争状態の厳しさを評価し,それを伝え るためにも使うことができ,稀少な援助資源の各国間での配分を調整することにも役立ちうる.  IDP を注視することはもっと政治的な根拠に基づいている可能性もある.例えば,コーカサス地方では, IDP には避難前にいた場所に戻る権利があるという主張は――事実上,たとえ他国の支配下にある場合で さえ――,領土権の主張を目指す政治的議論の重要な一部である.他の状況では,例えばコロンビアにおけ るように,IDP の地位は戦争犠牲者のための将来的な補償手続きにかかわる期待と結び付いている.  国内避難には,脆弱性に関するより幅広い議論という背景の中で着手するべきである.紛争,迫害,ある いは自然災害という文脈においては,IDP は多くの場合に唯一の高度に脆弱な集団ではない.例えば,戦 争ないし災害によって寡婦や寡夫となった人たちも,明確な国際的枠組みの対象ではないものの,非常に脆 弱かもしれない. 国内避難と無国籍 233 ボックス S7.2 国内避難と援助の対象の絞り込み  援助の対象を絞ることは資源に制約がある状況においては開発プログラムの有効性にとって極めて重要で ある a.対象の絞り込みを行う体系は,特別なプログラムないし政策の対象として優先されるべき人を識別 するための手段を提供する.最も支援を必要としている人の特定は,典型的には,妥当な低いコストで収集 することができ,かつプログラムの目的と密接な関連を有するさまざまな代理指標に基づく.例えば,所得 水準あるいは資産所有が,貧困の排除に向けた戦略の下で支援を最も必要としている人を特定するための代 理の尺度として使われている.  国内避難は,ある一部の状況においてはそのような代理指標になってきている.指標は,特定の形態の支 援を必要としている人を決定し,利益を得る個人や世帯を特定するために使われている.紛争という状況に おけるように,脆弱性に関する代替指標のデータを収集することにおいて,その遂行が困難な課題である場 合には,IDP に関する統計は,稀少な財源について順位を付けるための目に見える指標になるかもしれない. しかし,このアプローチは次の 2 つの疑問を提起する.第 1 に,所与の状況において IDP というカテゴリー が対象の絞り込みに役立つのはどの特定のプログラムないし政策か? 第 2 に,IDP であることは,この具 体的なプログラムないし政策の対象になるべき人を定義するための最善の代理指標か? データと証拠の 入手可能性が,そのような疑問に対する回答に情報を提供し,資源の最適利用を決定することにとって鍵と なる. a. Brown, Ravallion, and van de Walle (2018); Coady, Grosh, and Hoddinott (2004); Grosh et al. (2008); Lindert et al. (2020).  IDP を他の市民グループよりも優先して取り組む対象にすることは,特に資源制約がある環境下では, 政策の枠組みの策定ないし援助の提供の常に有効な方法であるとは限らないかもしれない 19.場合によっ ては,所得,世帯構成,あるいは特定の社会的グループへの所属など,脆弱性にかかわる他の指標が,限り ある支援を援助を最も必要としている人に重点的に割り当てるためのより適切な尺度かもしれない.例えば ジョージアでは,首都のトビリシに住んでいる IDP は,農村部の IDP でない人たちよりも貧しい状態にあ る可能性は低い.サヘル地帯では一部の民族グループは武装集団によって意図的に攻撃対象にされていたた め,退去させられているか否かは関係なく,保護を必要としている.  いずれにせよ,IDP の地位はそれ自体の資質で脆弱性の原因になるべきではない.このことは,IDP と いうカテゴリーを単に使っただけで一種の差別が生じる場合に起こる.それは例えば,特に IDP の状態が 長引いている IDP が特定の定住地に居住する,あるいは子供を IDP 専用の学校に就学させることが義務化 されている場合である 20. 介入のための重要な原則  政府としては介入に向けて,いくつかの鍵となる原則を考えることができる:   政府が主導者となる. 中央政府は人権に関する国際的義務に沿って,IDP が無国籍である場合を含め, 自らの領域内の IDP に関して,主要な責任を保持している.IDP,および IDP を受け入れるコミュニティ の状況の持続可能な改善は,IPD が属する国の政府が採用する政策次第であることが多い.  政治経済学.政府の決定は,多くの場合に退去させられた人々の利害の枠を越えた政治的な配慮から影響 を受ける.例えば,紛争という状況では,政府は国内避難が紛争の動態や将来的な騒動の潜在的な動因にど のように影響を及ぼすかに焦点を合わせるかもしれない.政府は IDP を,IDP のニーズのみを重視する代 わりに,全国に広がっている社会的な緊張や暴力の削減を目指すという観点から管理する.IDP が政府自 身によって扇動された暴力を逃れている場合,あるいは IDP の忠誠心が疑わしい場合,政治はより大きな 234 世界開発報告 2023 役割を果たす.自然災害の場合でさえ,政府の決定は,例えば,IDP の人たちの民族性や認識されている 政治的な所属感に基づく政治的な配慮によって主導されるかもしれない 21.政治的な配慮は極めて重要で あることから,また各 IDP の状況は幅広く多様であることから――戦争で荒廃した地域,安定した中程度 の所得がある環境,あるいは自然災害の影響を受けた場所などを含め――,政府による,および国際社会に よる対応は各国の状況に合わせて調整されなければならない.  全体論的な視点と包摂.IDP はひとたび安全な場所に到着すると,その多くは他の国内の(自発的な)移 住者と同じように振る舞い,そして自らの福利を改善するために機会を探求する.もしうまく管理されるな らば,国内避難問題の解決は経済的な動員に関していくつかのプラスの効果を生み出すことができよう.こ れは IDP 自身に加えて,国内の他の場所にも利益をもたらすことができる.IDP 自身の自立の改善,およ び国の医療や教育の制度への IDP の取り込みを含め,IDP の経済的および社会的な包摂を促進することは 極めて重要である 22.IDP が社会経済的な機会を発見できる地域への IDP の移動を促進することも,彼ら の回復を容易にし,受け入れコミュニティに対する悪影響を少なくするだろう. 無国籍 あるいは国籍未定である 23.  95 カ国の少なくとも 430 万人は無国籍, 国際法の下では,国家が国籍の取得, 変更,および撤回についてルールを制定する.無国籍の人は,あらゆる国家によっても自国民であるとは考 えられていない人として定義される 24.  データが公に入手可能な人々の間では,無国籍の人ないし国籍が決まっていない人は,現時点で主に,コー (約 93 万人) トジボワール , (約 92 万人) バングラデシュが受け入れている強制退去させられたミャンマー人 , (ラカイン州の約 60 万人のロヒャンギ族) ミャンマー ,タイ (約 56 万人) , (約 16 万人) シリア , (約 マレーシア 10 万人) ,クウェート (約 9.2 万人) ,そしてカンボジア 25 でみられる. (ベトナム少数民族に属する約 7.5 万人) (ミャ  無国籍はさまざまな理由から発生しており,それは,特定の民族ないし宗教団体に対するする差別 ンマーのロヒャンギ族に対するもの)ないしジェンダーに基づく差別,国家の出現ないし分裂(旧ユーゴスラ ビアの崩壊に続いて一部のロマ少数民族を無国籍にした事態),あるいは国籍に関する法律の不備ないし国 籍に関する法律間の齟齬など(例えば,子供が親の国籍ないし出生国の国籍を獲得できない場合であり,こ のような事態は強制退去や非正規移住の場合には発生しうる)などである.他に,法律的には無国籍ではな いものの,当人の国籍を証明することになる書類を入手できない人もいる.あらゆる実際上の目的について, これらの人々は無国籍者と同様の状態に置かれている 26.  その要因にかかわらず,無国籍は当人の発展にマイナスの結果をもたらす.無国籍者は多くの場合に,労 働市場への参入,公共サービスへのアクセス,不動産の所有,単なる国内移動などのようなさまざまな社会 経済的な権利を否定される.これらは正式な法的禁止あるいは克服不能な行政上の障害の両方でありうる. 例えばそれは,子供の就学を登録するために家族員が身分証書ないし出生証明書を提示しなければならない 場合である 27.無国籍者は,たとえ保護される地位を与えられている場合でさえ,自分自身や自分の子供 たちのために国籍を取得する明確な経路を持っていない.無国籍の人が置かれている状況に関する詳細な データは欠如していることが多い.さらに,ほとんどの無国籍者は高度の脆弱性を伴って社会の周縁で生活 している. –   過去 20  30 年間にわたって,無国籍の主要な状態を解決するために,一部の国は段階的に措置を取ってき ている.スリランカは 2003 年に,約 20 万人の高地タミル人が国籍を取得するのを可能にする法律を制定 した.バングラデシュは 2008 年に, 「ウルドゥー語を話す人」 ないし の市民権を承認した 28.ロ 「ビハール人」 –  シアは 2003  65 万人の旧ソ連の国民を帰化させた.そして 2017 年には, 12 年の間に, ケニアは約 6,000 人のマコンデ少数民族――1930 年代に到着したモザンビーク人移民の子孫――に市民権を与えた.  無国籍の解決は国連の持続可能な開発目標の達成の一環である.一部の状況は政治的に困難かもしれない. しかし,法律的な矛盾から発生しているものもあり,そのような状況は,修正をするインセンティブがある 国内避難と無国籍 235 場合には,多と比べて政治的なコストをほとんどかけずに是正することができるだろう.例えばそれは,無 国籍の子供が生まれないことを確保し,普遍的な出生登録方式を採用する;国籍に関する法律からからジェ ンダーにかかわる差別を取り除く;差別の根拠となっている国籍の否定,喪失,あるいは剥奪を禁止する; 国籍に対して権利のある人々に向けて国籍にかかわる書類を発行する 29,といったことであろう. 注 1. World Bank (2021). 16. 機関間常設委員会 (IASC)の「IDP のための恒久的な解決 2. Global Internal Displacement Database (GIDD), Internal の枠組み」 が 2010 年に導入されて以降 (IASC 2010),恒 Displacement Monitoring Centre, Geneva, https://www. 久的解決という難民に関するパラダイムから,国内避 internal-displacement.org/database/displacement- 難の終了に関する IASC (2020, A) の定義 (「IDP が退去と data. 結び付いた固有のあらゆる援助や保護の必要性がもは やなく,退去に起因する差別を伴うことなく人権を享 3. IDMC (2022). 受できる時」 )に向けた漸進的な移行が生じている.し 4. その 10 カ国は次の通り――シリア (IDP670 万人),コ たがって,国内における出生地 (避難前にいた場所) /避 ンゴ民主共和国 (530 万人) ,コロンビア (520 万人),ア 難地 / 他の場所との (再) 統合が恒久的解決に向けて漸 フガニスタン (430 万人) ,イエメン (430 万人) ,エチオ 進的に進む経路である.議論は IASC の定義や恒久的解 ピア(360 万人) ,ナイジェリア (320 万人) ,スーダン (20 決の評価基準を運用可能にする方法に移ってきている. 万人),ソマリア (300 万人) ,ブルキナファソ (160 万人). 17. IASC の「IDP のための耐久性解決の枠組み」 は,恒久的 人数は IDMC (2022) に基づく. 解決が達成されているか否を決定するために,以下の 8 5. IDMC (2022). つの基準を提案している:(1) 安全と安心――移動の自 6. 難民と IDP の両方について,精神的な健康の問題を抱 由を含む;(2) 十分な生活水準――不可欠な食料と水, えている人の割合は避難を強いられていない人たちよ 基本的な住居,不可欠な医療ケア,基礎教育などへの りも高い (Porter and Haslam 2005; Steel et al. 2009). アクセスを含む;(3) 雇用と生計手段へのアクセス;(4) 一方で,罹患率はいくつかの状況下では IDP の方が難 住居・土地・財産の返還;(5) 証拠書類へのアクセス; 民および帰国した難民よりも高い (Al Ibraheem et al. (6) 家族再会;(7) 公務への参加;(8) 実効性のある救済 2017; Mels et al. 2010; Tekeli-Yesil et al. 2018). コロンビ 策や司法へのアクセス (IASC 2010). アでは,IDP のトラウマ的な経験の心理的な影響がリス 18. EGRIS (2020). EGRIS は無国籍を含めるため,最近にお ク回避や絶望につながり,そしてこのことは経済上の いて EGRISS―― 「難民,IDP,及び無国籍に関する統計 決定に影響を与え,脆弱性の一因になっていることが の専門家グループ」 ――へと名称変更された. 示されている (Moya 2018; Moya and Carter 2019). 19. Grosh et al. (2022). 7. Gimenez-Nadal, Molina, and Silva-Quintero (2019); 20. Kazimzade (2013). Ivlevs and Veliziotis (2018); Kondylis (2010); Torosyan, Pignatti, and Obrizan (2018). 21. Sobel and Leeson (2006). 8. Alix-Garcia, Bartlett, and Saah (2012, 2013); Bohnet, 22. World Bank (2011, 2013, 2019). Cottier, and Hug (2018); Bozzoli, Brück, and Wald (2013); 23. UNHCR (2022a). Calderón-Mejía and Ibáñez (2016); Depetris-Chauvin 「無国籍者の地位に関する 1954 年条約」 24. は,無国籍者 and Santos (2018); Morales (2018). のための国際的保護体制の礎石である (OHCHR 1954). 9. World Bank (2017). 「無国籍の削減に関する 1961 年条約」は無国籍を防止 10. OCHA (2004). および削減するための具体的な義務を制定している (OHCHR 1961). 11. OCHA (2004). 25. UNHCR (2022a, 2022b). 12. African Union (2012); UNHCR and Global Protection Cluster (2022). 26. UNHCR (2014, 2017). 13. EGRIS (2020). 27. UNHCR (2014). 14. Adeola and Orchard (2020). 28. Wijetunga (2004). 15. EGRIS (2020). 29. UNHCR (2014). 236 世界開発報告 2023 参考文献 Adeola, Romola, and Phil Orchard. 2020. “The Role of Law and Grosh, Margaret E., Phillippe George Leite, Matthew Wai-Poi, Policy in Fostering Responsibility and Accountability of and Emil D. Tesliuc, eds. 2022. Revisiting Targeting in Social Governments towards Internally Displaced Persons.” Refugee Assistance: A New Look at Old Dilemmas. 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状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 240 世界開発報告 2023 政策のトレードオフを認識する  移住政策についての最も困難な挑戦課題のいくつかが発生するのは,移民が行き先国のニーズに適合する スキルや属性を持ち込まない場合や,あるいは移民が難民として国際的保護を受ける権利を持っていない場 合である.一例は,命が危険にさらされているわけではない低所得国を離れ,しかし中ないし高所得国の経 済に貢献することを可能にする基本的なリテラシーのスキルを有していない人である.このような場合,彼 らを受け入れるコストは多くの場合に受け入れ国にとっての利益を上回る.国際法は,彼らを自国領土内に 収容するか否かについて,このような受け入れ国に大きな裁量権を与えている.  大勢のこのような移民の移動は非正規で悲惨であることから,そのような移動は本書では「困窮移住[苦 」 難の中での移住](distress migration)と表記する.確かに,多くの困窮移民は非常に脆弱であり,通過 国でも行き先国でも周縁化されるリスクがある.したがって彼らは,「持続可能な開発のためのアジェンダ 2030」,および,その中心的な誓約である「誰一人取り残さない」という文脈を含めて,重要な開発問題を 提起している.  そのような移動は中・高所得国においても政治的論争を引き起こしている.国境を越えて移動する人に困 窮移民が占める割合は小さいものの,困窮移民は比較的目につきやすい.一部の移民は移住制度を乱用して 「コントロールを失っている」 いる,あるいは,当局は といった懸念を含め,そのような移民は行き先国での 受け止め (懸念)を形成する一因になっている 1.このような受け止め方は,次には,外国人嫌悪的な行為や 差別的な慣行につながることもある 2.場合によっては,そのような考えは健全な移住管理の体制全体の土 台を崩し,それ故,互いに有益な移動という開発面での利益を減らしてしまう可能性がある. 国境での難しいトレードオフ  多くの困窮移住の根源には移民の出身国と行き先になる可能性がある国との間における膨大な経済格差が ある.このような相違――およびそれに対応する移住の動因――が深刻である場合,一部の人は,高いリス クに直面するとしても,移住を試みる 3.  多くの移住先国[受け入れ国]は,困窮移民の入国を許可していない.そのような国は,自国の[入国]移民 政策を策定する際には自国の利益を優先し,そして移住が広範に社会に与える影響に加えて,労働市場が受 ける影響を考慮する.それらの国は典型的には,自国のニーズに適合するスキルや属性をもつ移民を優遇し ている 4.  一方における移動を求める高い圧力と,他方における厳しい入国制限との間の対立は,密入国や非正規な 移動のための違法な市場の出現につながっている.最も目立つのは,例えば,米国南部の国境,地中海の北岸, あるいは,ハイチとドミニカ共和国の国境などである. しかし多くの国では,非正規移民の大多数は,合 法的(legal)に入国し,その後,ビザを超過して滞在している人たちである 5.アメリカでは,2000  – 16 年の期間において,非正規 (irregular)に越境した人の 2 倍の数の人がビザを超過して滞在していた 6.同 (illegal) 様に,イギリスでは,ビザを超過して滞在している人の数は違法 入国者数を上回っている.英仏 海峡を横断する移民の非正規な流入が史上最高だった 2021 年においてさえ,そうであった 7.  適法な経路が存在しない状況下で,一部の困窮移民は行き先国に到着すると直ぐに,避難を申請している ――つまり,難民として 「十分に理由のある恐怖」 (出身国において迫害あるいは暴力に対する がある人に与 えられる地位に)認定されることを要請する.この要請があると,一般的にはそのような移民の即時の本国 への送還は阻止される.というのは,国際的な保護を適用するに値するかを評価するプロセスが開始される からだ.こういった申請の大きな割合は拒否されているが,裁定手続きには時間がかかる.そして,このこ とは,困窮移民の一部が社会の周辺部に消え去ってしまうことを可能にしており 8,そのような移民を特定 して強制送還することができなくなっている.それどころか,亡命や移民の受け入れに関する制度は,大勢 の人を処理するには不十分である 9.遅延は大量の残務を生み出し,結果として待ち時間を長引かせている. 例えば,EU では 2022 年 11 月末時点で,95 万件以上の避難申請が未決となっていた 10.そのような遅 8 困窮移民:尊厳の維持 241 延は不確実性を長引かせており,最終的に難民認定を受ける人を含め,すべての避難申請者がそういう状態 の下で暮らしている.したがって,避難申請者が脆弱な状態に置かれている期間も長期化している 11.  このようなことを背景に,移民の行き先国の多くが,自国の国境を有効に維持することにおいて難しい挑 戦課題に直面している.困窮移住を阻止するために,一部の諸国は,潜在的な移民にとって移動を魅力的で はないものにすることを目指すアプローチを採択してきている.そのような政策には,違法(unlawful)な 入国や滞在をする意図をなくさせるような状況――通過国と行き先国の両方における――を容認することに 加えて,意図的な政策措置が含まれる.しかし,人道的な困窮が移住の流れを変えるものになっている場合 には,多くの行き先国は以下のように,移住の目的と移民の人権を尊重するという自らの公約との間におけ る困難なトレードオフを反映させた政策を採用してきている:  多くの行き先国[受け入れ国]は非正規移住,特に行き先国の労働市場のニーズに合致するスキルや属性を 持ち込まない移民の移住を阻止する措置を取ってきている 12.そのような措置には罰金や拘束などの処 罰が含まれている 13.マレーシアやシンガポールにおける鞭打ちの刑などのような体罰を含む規定を法 律上で維持している諸国もある 14.2018 年にアメリカ政府はメキシコとの国境において,非正規移動 を阻止する明示的な取り組みのなかで,入国した両親ないし保護者から子供や幼児を引き離すプログラム を実施した.近年,高所得の行き先国の数カ国が国境管理を「外面化」する取り決めを第三国と締結してい る(ボックス 8.1)15.  困窮移民が何とかして入国した場合,ほとんどの行き先国は,そのような移動をするインセンティブを 削減するための明示的な努力の一環として,そのような移住にはいかなる地位も与えていない.その結果, 困窮移民は虐待や周縁化を経験するより高いリスクにさらされている.移民が強制労働という状態で働い ている割合は,特に建設や家事などの部門においては 17 市民の 3 倍の高さであり 16,それは特に困窮移 民に当てはまる.正式な書類を持っていない困窮移民は典型的にはそういった状況においても頼る先を持 たない,あるいは頼る先は限定されている.加えて,一部の国では,書類がないという地位の移民は教育 や医療ケアへのアクセスが制限されている 18.  場合によっては,行き先国は移民の困窮を悪化させ,そして移動の意欲をなくさせるような状態を容認 している.2014 年以降,5 万人近い移民が移動中に死亡している.その半数は地中海の横断を試みてい る時に死亡した 19.他のルートでの死者数も増加しつつある 20.困窮移民はますます危険なルー (図 8.2) トを取るようになっており,誘拐や,人身売買,性的暴力,搾取などの犠牲になっている人もいる 21. 2018 年にイタリアに到着した困窮移民の約 45%は,アフリカ諸国を通過中に,肉体的な暴力を経験し たと報告している 22.無給で働いた人や,犯罪組織に捕虜にされた人もいた 23.中央アメリカを通過し てアメリカの国境に向かう途中で,書類を持たない移民の多くが,犯罪組織による同様のリスクに直面し ている 24.  移民に対する厳しい政策は,非正規移住を効果的に阻止するかもしれないが,そのような政策は,すべて の移民は公正で人間的な処遇を受けるに値するという基本的な原則の土台を崩してもいる.挑戦課題は,地 [移民の行き先国] 理的に低・中所得の移民出身国の直ぐ近辺に位置する高所得の受け入れ国 ――アメリカ や南部 EU 諸国など――にとっては特に切迫している.オーストラリアやカナダなど,遠く離れた移民の行 き先国では,人数が大幅に少ないことから,緊急性は低い. 通過国という独特の状況 –   困窮移民の一部は,行き先国に到着するまでに数カ国を通過している.ある場合には,移民は 2  3 日な –  いし 2  3 週かけて単に通過するだけである.旅程の次の段階の費用を賄うのに必要な所得を稼ぐための時 間など,さまざまな理由から, –  より長期にわたって――2  –  3 カ月から 2  3 年の間――滞在する場合もある. さらに違うケースでは,移民は定住を試み,それがうまくいかない場合に限って更なる移動に従事する 25. 242 世界開発報告 2023 ボックス 8.1 移住政策の外面化  非正規移住の圧力への対応として,高所得の行き先国の数カ国は,国境管理や,避難民を管理する機能を 自国の物理的な国境から離して他へ移すために,他の諸国――典型的には低ないし中所得国――と協定を結 んでいる a.このような国境管理の外面化は,以下の事例で述べられているように多種多様な形態をとって いる b:  イタリアはリビアと一連の二国間協定を結んだ.その目的は,沿岸警備隊のパトロールについて協力し, 地中海とリビア国内における非正規移住を取り締まるために開発資金や,技術的および物質的な支援を供 与することであった c. これらの国はオー  オーストラリアはパプアニューギニアおよびナウルと協定を結んだ.その協定において, ストラリアで亡命を希望している人々の申請を処理して,申請が認められている人については,定住させ ることとなった (パプアニューギニアとの協定は 2021 年末で終了した)d.この協定の下で,オーストラリ アは を提供した e. 「援助,および他の二国間協力のパッケージ」  トルコと EU はトルコからギリシャの島々に渡っていた非正規移民を帰国させることに関して合意した. 一方で,EU は次のことを公約した:(1) 一部のシリア難民を第三国定住させる;(2) トルコに滞在している [短期訪問ビザ] シリア難民に対して金融支援を供与する;(3) トルコ市民に対するシェンゲン・ビザ の発 給を円滑化する f.  アメリカとメキシコは 2019 年に取り決めを締結した.この取り決めにおいて,メキシコは,非正規移住 「前例のない段階的措置」 を抑制することを目的として国境のコントロールを強化するために をとることと なった.さらにメキシコは,メキシコ側から国境を越えた避難希望者を,難民申請がアメリカで審査され ている期間中は拘束することとなった g.  イギリスはルワンダと共にパートナーシップを創設した.これによって,イギリスに非正規に到着した亡 命希望者はルワンダに送還され,そこで亡命申請を行うことになる.この取り決めにはルワンダの開発を 支援するための財政面での公約も含まれている h.このパートナーシップは現在,法的な検討下にある.  以上のような取り決めは賛否両論の状態となっている.十分な保護措置がない中で,それらの取り決めの (ノン・ルフールマン原則) 実施は,亡命希望者の適正な処理や非罰則化 ,および人権に関連する各国の法的 義務と矛盾する可能性がある.例えば,イタリアのリビアとの取り決めは 2012 年にヨーロッパ人権裁判所 によって非難され i,国連の によって,困窮移民を死や,拷問,性的およ 「移住者の人権に関する特別報告者」 びジェンダーに基づく暴力,労働の搾取,他の形態の現代的な奴隷にさらすとして糾弾された j.  同様に,2016 年にパプアニューギニア最高裁判所は,オーストラリアから移管された移民や亡命希望者の 引き留めはパプアニューギニアの憲法に違反していることを見出した k.なかでも,イギリスとアメリカで 継続中の議論は未だ解決していない. a. FitzGerald (2019); Gammeltoft-Hansen (2011); Longo e. 例 え ば 以 下 を 参 照,the 2013 Australia–Papua New (2018); Sandven (2022); Shachar (2019, 2020). Guinea Memorandum of Understanding (DFAT 2013). b. Hatton (2017); Kaufmann (2021); Lutz, Kaufmann, and f. EC (2015); European Council (2016). Stünzi (2020); UNHCR (2021). g. US State Department (2019). c. 例えば以下を参照, the Treaty of Friendship, Partnership, h. Home Office (2022). and Cooperation between the Italian Republic and the i. Hirsi Jamaa and Others v. Italy, Application 27765/09 Great Socialist People’s Libyan Arab Jamahiriya, 2008 ( Judgment, European Court of Human Rights, (MPISOC 2014); Memorandum of Understanding on November 16, 2016). See also Haitian Centre for Cooperation in the Fields of Development, the Fight Human Rights et al. v. United States, Case 10.675 against Illegal Immigration, Human Trafficking and Fuel (Inter-American Commission on Human Rights, Report Smuggling and on Reinforcing the Security of Borders 51/96, March 13, 1997). between the State of Libya and the Italian Republic, j. OHCHR (2017). 2017 (Odysseus Network 2017). k. Namah v. Pato, SCA 84 (Supreme Court of Justice of d. Andrews (2021). Papua New Guinea, 2013). 8 困窮移民:尊厳の維持 243 通過国は,このようにはっきりと異なる状況に応じて,多様な対応策をとることを要請されている.  ほとんどの通過国はより広範な回廊の一部であり,最も長い回廊は高所得国へつながっている(地図 8.1). このようなルートは,非常に動的であり,通過国や行き先国による法的制限や国境管理に反応して変化して いる.このような回廊には,特に以下が含まれる:  ラテンアメリカからダリエン地峡と中央アメリカを通ってアメリカの南部国境に至る回廊 26.この回廊 は,ラテンアメリカ以外の世界の各地域から来る困窮移民の数が増加しつつあるものの,主にラテンアメ リカを出身地とする非正規移民によって利用されている 27.この回廊に沿う移動における子供や同伴者 のいない未成年者の割合は,書類を持っていない移民世帯に影響を及ぼしているアメリカの政策に応じて 変動している 28.  サハラ以南アフリカから EU につながっている回廊 29.この回廊は,西アフリカや東アフリカを出発して, サハラと地中海を横断する一連の明確に異なるルートで構成されている.このようなルートの利用も,移 民の出身国の状況や行き先国によって採用される制限措置などに応じて変動している.モロッコやアルジェ リアを通過する西部地中海ルートでの非正規の横断は 2018 年にピークに達し,今では減少しつつある. しかし,中部地中海ルート経由の非正規の横断は減少期を経て,2019 年以降は増加してきている 30.  南アジアと中東からトルコを通って EU につながっている回廊.このルートは 2010 年代半ばに,難民 や困窮移民よって幅広く使われた.しかし,今ではさほど顕著ではなくなっている. 高所得国へ向かう複数の経路が絡み合った回廊がある.  追加的な回廊として, その 1 つは 2016 年に 5,000 人以上の移民が使用した北極ルートであり,その移民にはロシアを通過してノルウェーとの国境を越えた人 も含まれている 31.あまり目立っていない,南アフリカやタイなどの中所得の行き先国につながっている回 廊もある.ある事例では,通過国は,移民が自国領域内に来て,そしてそこを通過して,自国と関係が薄い –  行き先国に向けて移動していくのを積極的に勧奨している.例えば 2021  22 年に,ベラルーシはポーラン 図 8.2 毎年数千人の移民が移動中に死亡している 死亡ないし行方不明となった移民の数;出身地域別 9,000 死亡した移民数と行方不明となった移民数の合計 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 アフリカ アメリカ ヨーロッパおよび地中海 南および東南アジア 西アジア 出所:Missing Migrants Project (dashboard), International Organization for Migration, Geneva, https://missingmigrants.iom. int/. 244 世界開発報告 2023 地図 8.1 移動の主要な通過ルート 主要な通過国 中央アメリカ・ルート アフリカ・ルート 中東ルート IBRD 47175 | MARCH 2023 出所:Conant (2015) and World Bank (2018b) に基づく WDR2023 チームの計算. ドとの国境において,移住の 「道具化」 ないし として言及される状況において危機を演出した 32. 「武器化」  一部の通過国――魅力的な高所得の行き先国の国境と接している最後の通過国――は特殊な挑戦課題に直 面している.高所得の行き先国が自国領土への進入を制限した場合,一部の困窮移民は通過の際に「最後の 国境(と接している)」国で立ち往生の状態になる.出身国に自発的に戻ることを選択する,あるいは当人の 出身国へ強制送還される人もいれば,留まる人もいる.留まる目的は,次善の行き先国で身を立てる,ある いはより一般的には,国境通過を再度試みることにある 33.そのような滞在は何年も続きうる.  最後の国境と接している通過国にとって,困窮移民という多くの場合に脆弱な人たちを収容することはコ ストがかかる.困窮移民のスキルや属性は意図している行き先国のニーズと強固には合致していない.しか し,さらに,彼らのスキルや属性は,最後の国境と接している通過国の労働市場ニーズとも合わない公算が あろう.最後の国境に接している通過国から旅程を続けることを意図している困窮移民の,通過国の経済や 一般社会に融合する動機は限定的でもある.加えて,密入国業者のサービスに対するそのような移民の需要 は,犯罪のネットワークや組織を扇動し,これには,移民にとってのリスクの高まりや,社会の安定性に対 するマイナスの影響が伴っている.  最後の国境と接している通過国と意図されている行き先国が直面する挑戦課題は不分離に結び付いてい る.最後の国境と接している通過国の状況は,意図されている行き先国によって採用される制限的な政策の 結果である.しかし,このような制限的な政策の有効性は,最後の国境と接している通過国が自国領土を横 断する困窮移民を管理する能力に依存している.  したがって,困窮移民の管理は, [受け入れ] 移民の行き先 国による片側だけのアプローチでは解決できず, 協力することが必要とされている.最も急を要するのはそれぞれの国の入国と避難に関する政策,およびそ の実施,が首尾一貫している(必ずしも同じである必要はない)ことを確保するために,移民が入国を意図し ている行き先国と,最後の国境と接している通過国,の間で二国間協力を行うことである.そのような協調 政策は,国際人権法の中心的な信条に根差しており,全ての移民の本来的な尊厳を認めていなければならな い.状況によっては,協力は高所得国が実施する政策が生み出し,通過国が負担することになるコストが適 切に分担されるのを確保する取り決めも伴っているかもしれない.  しかし,意図されている行き先国と,最後の国境と接している通過国が協調して移住地域を創設する場合 8 困窮移民:尊厳の維持 245 図 8.3 移民の出身国と行き先国における協調的な政策措置は,困窮下での移住を削減することができる 高い 行先国で 開発を通 多くの 需要のあるスキルを じてスキル,および 経済移民 有する難民 ショックに対する 強靭性を高める 適合度 需要のある スキルを有する人の ために合法的経路を 大部分が 通じて移住の動機を 多くの難民 非正規である 変える 困窮移民 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 困窮移住の 必要性を減らすために 保護を拡大 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.下方左象限の垂直点線は困窮移民のうち国際的な保護を必要としている人とそ うでない人の区別を強調している. には何が起こるだろうか? その時には,この移住地域の国境が最後の国境となり,別のもう 1 つの国は困っ た状況に陥る.そこで,最終的には,そういったアプローチがその意図を完全に成就するためには,広範囲 にわたる一連の多国籍的な協力の取り決めが移住回廊全体に沿って採択されなければならない. トレードオフを超えて  苦難の中での移住には,そのような移動を遂行する人にとって,――通過国と行き先国の両方において― ―しばしば多くの苦しみが伴っている.このことは,国境管理と人権尊重の間での難しいトレードオフにつ ながり,それは多くの場合に満足のいく仕方では解決されていない.したがって,そのような移動の必要性 を削減することが極めて重要である.進展に必要とされているのは,保護を非正規移民のなかで最もリスク が高い人々にまで拡大する,移民の動機を変更することが可能な合法的な入国経路を開発する,そして越境 移動の代替策を提供し,移民のスキルや属性と行き先国経済のニーズとの適合を強化するために開発を活用 する,ことを目的とする短期的な措置である(図 8.3). 国際的な保護を拡大する  一部の困窮移民は,出身国に帰国する――ないしは強制送還される――場合,高いリスクに直面する.例 えば,そのような困窮移民は,犯罪組織の暴力,深刻な経済的収奪,あるいは他の形態の被害から脱するた めに移動しているのかもしれない.難民と非・難民という単純な二分法は,実際には国際的な保護のニーズ が連続的なものであることを覆い隠している .国際法は難民 (図 8.4) (国際的保護とそれに関連する権利を とそれ以外の移民 受ける資格がある人) (各国の法制が提供するであろうものの枠を越えるいかなる特定の権 246 世界開発報告 2023 図 8.4 国際的な保護の下にあるニーズは連続的である 保護の 保護の 自発的な さまざまな保護を 必要性が 難民 必要性が 移民 必要とする人々 最も低い 最も高い 本国 * は保護を提供する意志が 特定の目的の 本国 * は保護を提供する意志 あり,保護を提供できる ための手段 がない,あるいは保護を提供 ➡ 本国の責任 (保護の補完的な形態) できない   ➡ 集団的な措置 出所 WDR2023 チーム . [*:その時点で居住している国(home country).] 利や地位を受ける資格はない人)を区別している 34.しかし,人々が自身の出身国に帰国する――あるいは 送り返される――場合にさらされるであろう危害の程度は,多様な深刻さのレベルを伴う起こりうるさまざ まな脅威に応じて異なる(図 8.4).  この文脈で,一部の困窮移民は国際的な保護を必要としているものの,保護の必要性は難民として認定さ れるほどのレベルではない.国境を越えるために自ら進んで困窮移民がとるリスクは,ある程度の絶望を露 呈しており,出身国における彼らの状況は脱出するために命を懸けるに値するということを示唆している. このような移民は何らかの形態の保護を必要としているかもしないが,その理由は人道上の重大な危機のよ うな 1951 年難民条約の枠外にある.1951 年難民条約や,その他の適用可能な法的文書が異なる仕方で 解釈されていることから,国際的な難民保護を受けていない人もいる 35. (ボックス 8.2)  しかし,国際的な保護制度の隙間に落ちてしまう人をどのように正確に特定ないし定義するかに関しては コンセンサスがない.法的地位を決定するものではないものの,学術や,制度,唱導,統計などの分野に関 わる多様な目的に適うために,いくつかの条件や概念が出現してきている.法的保護のニーズに基づく分類 もある(ある人が帰国した場合に深刻な危害にさらされるリスクがあるかどうか,および当人の本国がその .このアプローチは国 ようなリスクを軽減することを進んで行う,あるいは行うことができるか,による) 連難民高等弁務官事務所によって使われている「国際的保護の必要がある人々」という用語が良い例となって いる 36.他の分類は特定の状況下にある移民の脆弱性に焦点を合わせている.それは例えば,「安全で秩序 ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」における「脆弱性という状態に直面している移民」への言 「行方不明の移民」 及や,国際移住機関および他の国際機関によって使われている 「脆弱な状況下にあ ないし る移民」という概念である 37.さらに,他の分類は移動の動機を反映しており,気候(変動)難民 38,サバイ バル移民 39,あるいは必要に迫られた逃亡者 40 などの用語を提案している. [受け入れ国]  緊急を要する状況の中で,移民の行き先国 のいくつかは,一部の困窮移民は難民ではないも のの,たとえコストがかかるとしても,依然としてある種の国際的保護を必要としていることを認めてきて いる.それらの諸国は,そのような人々に対して補充的な保護を供与し 41,そしてその国への入国ないし 滞在を正規化するための手段を開発してきている 42.このような手段は国内ないし地域の法制によって規 定されており,人道的な原則ないし国益に基づいて,さまざまな権利や,法的地位,適用の範囲を含んでいる. また,そのような手段は,補充的保護,あるいは一時的保護の措置など,多様な形態をとっている(図 8.5). これらの措置は柔軟性も提供しており,国際的保護が避難の制度に追加的な圧力を与えることなく,速やか に供与されることを可能にしている.例えば,アメリカは 1999 年にはハリケーン・ミッチの余波の中で, ホンジュラス国民に補完的な保護を提供し 43,また,2010 年に発生した地震の直後の余波の中で,ハイ チ国民にそのような保護を提供した 44.そのような補充的な形態の保護を受けている人のグローバルな割 8 困窮移民:尊厳の維持 247 ボックス 8.2 難民の定義の変遷  1951 年の難民条約は国際的な難民保護に関して包括的な枠組みを提示しているものの,対応する原則の実 施方法には実質的な相違がある:  国際的な難民法の枠組みでは,国家が,難民申請の処理や裁定を自国がどのように行うかに関して裁量権 を行使する.ある 1 つの行き先国で国際的保護の要請が認められた人が別の国では認められないというこ とがあるかもしれない.これは 2021 年におけるアフガン人の亡命希望者の EU 各加盟国における承認率 (図 B8.2.1) が大幅に異なっていることによって証拠付けられている .相違の一部はそのような比率の算定 法に起因しているものの,相違はこれら諸国における法律文書や,解釈,優先事項が異なっていることに も由来している. の定義も歴史的な事情や強制退去危機のさまざまな特質を反映して,地域ごとに多様である.例え 「難民」  「アフリカにおける難民問題の特殊な側面を規定するアフリカ統一機構 ば,1969 年の (OAU)条約」は,難 「外部からの侵略,占領,外国支配,あるいは公序をひどく動揺させる事態」 民の定義を, のゆえに避難す る人々を含めるために拡大された a.この定義が起草されたのは 1951 年の難民条約にかかわる個人化され た,迫害に基づく難民の定義 b の対象に含まれていないアフリカの人々を保護することに加えて,難民問 題が国家間摩擦の原因にならないことや,植民地やアパルトヘイトのルールから逃れようとしている人々 が難民としての保護を享受できることを確保するためであった c.同様に,ラテンアメリカでは,1984 年 「難民に関するカルタヘナ宣言」 の は国際的保護の対象をいくつかのグループが含まれるように拡大され 「生命,安全性,あるいは自由が,一般化された暴力,外国からの た.対象に含まれるようになったのは, 侵略,国内紛争,人権の大規模な侵害,あるいは公序をひどく動揺させている他の状況によって脅かされ ていることを理由として」 逃れようとしている人たちである e. [そのような状況から] 図 B8.2. アフガン人の亡命申請者の承認率は EU 加盟国相互間で大幅に異なっている(2021 年) 100 90 80 70 認定率 60 50 (%) 40 30 20 10 0 ン ク ク ロ ャ ラ ア ル ア オ ア ア ウ キア イ ン ル コ フ ド ス ン ス ノ ンド ベ ド ハ デン ポ ェー ス ー ギ ツ ン ー ス ル ダ ス シ リ リ ン ン ー フ ブル ア チェ イ セ イ デ リ ポ ビ ニ ン イ ン ギ ガ ト タ リ ラ ラ ラ ウ ガ ラ ト ラ マ ト ク ス ペ ド ト バ ー ル ー ス ル ン ェ ー ィ エ イ オ ス ル 出所 :Refugee Data Finder (dashboard), United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://popstats .unhcr.org/refugee-statistics/download/. 注:上図ではアフガニスタン出身の亡命希望者からの申請をわずかしか受け取っていない一部の EU 加盟国は除か れている. (ボックス:次ページへ続く) 248 世界開発報告 2023 (続き) ボックス 8.2 難民の定義の変遷  このような状況の数が増えている中で,受け入れ国は,紛争や暴力から逃れている人々を,難民として認 定するよりも,それらの人々に対して補完的ないし補充的な保護を提供することを選択している.例えば, 最近の危機から避難した人々――ミャンマー,ベネズエラ,南スーダン,シリア,そしてウクライナなどか らの総計約 2,000 万人――を最も多く受け入れた諸国は,そのような避難民に何らかの一時的ないし暫定的 な保護を供与している.難民という地位ではなくそのような保護手段を使う理由はさまざまである.その理 由の範囲は,移民の出身国に関する政治的な配慮から,多量の難民申請を処理することの実用性,先例を作 ることについての懸念,受け入れ国側の義務を最小化する試みにまで及ぶ f. a. United Nations (1976, 47). b. Okoth-Obbo (2001). c. Sharpe (2013). d. Reed-Hurtado (2013). e. Cartagena Declaration on Refugees, Conclusion 3 (UNHCR 1984, 36). f. このような取り決めには以下がある:(1)EU の 「一時的保護指令」 .この取り決めによって,ウクライナ人は難民地 位の裁定を経験せずに EU 諸国で居住と労働をすることが可能になった;(2) トルコに滞在するシリア人を一時的に 保護する体制.この体制は最終的にはトルコにおける 2014 年の 「外国人及び国際的保護に関する法律」 の一部とし て成文化された;(3)「コロンビアに滞在するベネズエラ人移民に対する保護に関する時限立法」 .この成文法は 10 年間有効な居住権,労働許可証,およびその他の権利を保証した.(1) については以下を参照:EU (2001); Ukraine Refugee Situation (dashboard), Operational Data Portal, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://data.unhcr.org/en/situations/ukraine; UNHCR (2022). (2) については以下を参照:T.C. Resmî Gazete (2013). (3) については以下を参照:MRE (2021); Venezuela Refugee Situation (dashboard), Operational Data Portal, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://data.unhcr.org/en/situations/vensit. 合は,特に 2011 年以降,時とともに上昇してきている.  しかし,そのような場当たり的な制度は,人道的および政治的な危機になってきている問題に対処するた めには不十分であることが判明している.補足的保護措置は単純な行政上の決定を通じて撤回されることが ありうる.そのようなことが 2018 年にエルサルバドル人の保護に関してアメリカで起こった.一部の受 け入れ国には,はある程度の国際保護を必要としている人々が入国できる合法的ルートが単に存在しない. 補完的保護の体制は受け入れ諸国の間でも整合性を欠いており,補完的保護で誰が利益を得るのか,そして どのような地位が与えられるのかという点で幅広い差異がある.このような差異のいくつかは国,あるいは 地域の状況を反映しているものの,それは,影響を受ける個人にとって有害な結果となる矛盾につながって もおり,責任の共有という有効な制度の潜在力を低下させている.  協調的で柔軟な国際的な対応に基づく先見的なアプローチが必要である.苦難の中での国境を越える移動 を生じさせる危機や,紛争,自然災害,その他の事態の件数が,今後において大幅に減少するだろうと信じ られる理由はまったくない.実際には,気候変動の加速化は並外れた措置が必要になるかもしれないことを 示唆している(ボックス 8.3).  したがって,何らかの種類の国際保護を素早く効率的にそれを必要とする人々に提供する,より首尾一貫 している,かつ予測可能なアプローチを採用するためには,行き先諸国の間における調整が必要である.こ のアプローチには,個人の難民の地位を決定するという手続きを経る代わりに, 「一応の 特定の集団に (prima facie)」保護を提供する――すなわち,特定の移民出身国の市民ないし少数派のメンバーなどの集団の全員 に保護を与える――ということが含まれる可能性がある.また,特定の危機の際には補完的な保護の仕組み を適合化ないし拡大し,人々が出身国からの安全で合法的な経路を確保できるのを保証することも含まれう る.加えて,このアプローチは,時宜を得た保護資格の透明性のある裁定や,適正な手続きに従って申請が ひとたび否認されたことによって出身国に戻らなければならない人の人権を守ることに必要とされる制度的 な能力を構築することを要請するだろう. 8 困窮移民:尊厳の維持 249 図 8.5 補足的保護は錯綜している 亡命希望者? (請求申請により法的地位を 妥当性に基づいて 自発的帰還 得ることが可能) 否認,あるいは 受け入れ不可 強制送還 (出身国ないし 強制退去 安全な第三国) 国際的保護 (個別の RSD/ 亡命裁定 地位の ないし一応の認定, 裁定 を通じて) 恒久的解決策 到着,入国, 1. 統合 国際的な 2. 帰国 処理 難民保護 3. 第三国定住 4. 補完的経路 人道的ビザ / 暫定的保護 / 国内法の 入国 / 仮釈放 滞在 下での難民 (例えばイタリア,ドイツ) 迅速な 手続き? 補足的保護 出所 WDR2023 チーム . 注:RSD =難民地位認定. ボックス 8.3 小島嶼開発途上国における気候関連の移動  一部の諸国は気候変動を要因とする高度なリスクに直面している.例えば,もし気候変動が小島嶼開発途 上国や,沿岸低地定住地帯の適応や居住性を危険にさらすならば,そしてその時には,そういった地域の住 民は何らかの計画された移住や,管理された避難を必要とするかもしれない a. 「安全で秩序ある正規の移住 のためのグローバル・コンパクト」には,このような移動の対象に含まれる,あるいはこのような移動から 影響を受ける人たちの保護を改善する事に対する具体的な公約が盛り込まれている b.  多くの小島嶼開発途上国は気候変動関連の移動を国の政策枠組みのなかに事前対策的に統合してきてい る.その目的は,実行可能ならその場所に人々が留まるのを支援し,そして,移動することを選択する人々 「気候変動及び がそうする機会を持つことを保証することにある.例えば,2018 年に採択されたバヌアツの には,帰国と再統合,地元での統合,計画された移住などに関 災害が引き起こす強制移動に関する国家政策」 する措置が含まれている.また,移動を開発計画のなかに組み込んでいる c.フィジーの 「強制退去指針」は 環境変化, および移動性の間の相互関連性を強調している d.カリブ地域では, 人権, (CARICOM) カリブ共同体 (OECS) と東カリブ諸国機構 による 2 つの自由移動にかかわる協定が,破滅的なハリケーンによって退去させ られたカリブ諸国の国民に,他の島に入国する権利や,労働許可要件の免除,スキルの相互承認 e を含め, 保護を提供している.  気候がもたらす影響の大きさ次第では,移住は小島嶼開発途上国にとって不可避となるかもしれない.し たがって,計画的な移転が最後の手段としての選択肢かもしれない.移住に向けた計画は,自分で決断を下 せるよう人々をエンパワメントする必要がある.移住を可能にするための一種の国際的保護ないし類似の地 位を開発することを含め,国際的な支援が必要とされるだろう f. Cissé et al. (2022). a.  Martin et al. (2018). b.  NDMO (2018). c.  Ministry of Economy, Fiji (2019). d.  Francis (2019). e.  UNHCR, Brookings Institution, and Georgetown University (2015); UNHCR, Georgetown University, and IOM (2017). f.  250 世界開発報告 2023 合法的経路を通じて移民が移動する動機を変える  あらゆる水準のスキルについて,人々が行き先国に入国して公式部門で働く――そして,それを大きな規 模で行う――ための合法的な経路を確立することは,困窮移動をする動機を削減することに役立ちうる.そ のような経路の確立は困窮移動を,相互にとって有益な移住に転換することも可能である.そのような移住 では,移民は行き先国の労働市場で需要のあるスキルや属性を持ち込む.そのような合法的な経路に一時的 ないし季節的な取り決めを含めることも可能である. [受け入れ国]  合法的な経路を提供することによって,行き先国 は,そうでなければ非正規のルートを通 じて高いリスクを伴う移動に関与したであろう人たちを含め,潜在的な移民の動機を変えることになる 45. 例えば,特定の資格を持っている人たちに適法な入国経路を提供することによって,行き先国は,移住希望 者――およびそのような人の移動の資金調達をしばしば支援しているコミュニティ――を,新しい国で貢献 するのに必要とされるスキルやその他の属性を修得するよう勧奨することができる.このプロセスは移民の 移動の構成――誰がどのような状況の下で移動するか――を,行き先国のニーズや好みによりよく一致して いるような状態に向けて変えることに役立ちうる.加えて,適法な経路が利用可能であることは,すでに行 き先国内にいる移民がビザの期限を超えて滞在し,非正規の状態を長引かせる動機を削減する.  合法的な経路の設計においては,行き先国は自国の労働市場のニーズを緊密に反映させる必要がある.多 くの諸国において,合法的な入国経路は主に高いスキルを持つ移民にとっては利用可能である.しかし,移 民の行き先国の多くは低いスキルを有する労働者も必要としている.自国の労働市場における未充足のニー ズを認識および承認し,――農業,建設業,あるいは家事サービス業などのスキルが比較的低い仕事に対す るものを含めて――対応するスキルを持っている移民に合法的な入国経路を提供することによって,行き先 国は潜在的な移民の動機を変え,困窮移動をすることへの圧力を削減できる.このような取り組みはどのよ うなスキルに需要があるのかを決定するために,雇用者,労働組合,およびその他の利害関係者と関わり合 うことを必要とするだろう.  並行的に,一部の受け入れ国は,――例えばグローバル・スキルズ・パートナーシップを通じて――需要 のあるスキルを発展させ,そして双方に有益な移動を促進するために,移民の出身国との協力を強化してき ている 46.このアプローチの下では, 潜在的な移民の本国での訓練の資金を行き先国 が提供し, [受け入れ国] 卒業と同時に入国許可を与える.このようなプログラムも,移住を志望している人,およびそのような人が 需要のあるスキルを身に着けるのを支援しているコミュニティに対してインセンティブを変化させることが 可能である.これまでのところ,そのようなプログラムは大体において比較的高いスキルの職業に焦点を合 わせてきているが,低水準の資格を持つ労働者を対象に含めるために拡大することができるだろう.  入国への合法的な経路を策定することに加えて――また,その持続可能性を保証するために――,受け入 れ国は非正規の入国を思いとどまらせることを目的とした既存の法律および規制の執行を確実に行う必要が ある.執行のためには以下のように,いくつかの方面での措置が必要とされる:  密入国との戦い.密入国の実施はさまざまな形態を取っており (ボックス 8.4),ますます専門化された形 態をとるようになりつつある.一部の密輸業者は実業家のように行動している.そして,サービスを保証 し,移民が最終的な行き先国に到着した後に支払いが行われることに同意している 47.優しさにまった く欠ける仕方で行われる密輸もあり,その場合,移民は移動を通じてトラウマ的な試練を経験する.行 き先国は,法の執行,教育プログラム,密輸される人の権利を保護するためのその他の努力などを通じて, 密入国と戦うための広範囲に及ぶプログラムを立ち上げている 48.そのプログラムは回廊全体に沿って 効果的な国際協力に依存している必要がある.  非正規労働市場の取り締まり.非正規ルートの魅力は,雇用者からの非正規な労働に対する需要があるか 否か次第である.困窮移民――そのスキルは行き先国のニーズに強固には適合していない――にとって, そのような非正規労働は往々にして搾取的である.そうであるものの,移民の出身国と行き先国の間の福 8 困窮移民:尊厳の維持 251 ボックス 8.4 密入国業者と人身売買業者 (UNODC)  密入国産業は複雑かつ動的であり,常に変化している.国連薬物犯罪事務所 の推定によると,最 低 250 万人の移民が 2016 年に 55 – 70 億ドルの経済的収益のために密入国させられ,密入国は違法経済の重 要な一部となっている.この金額はアメリカないし EU における同年の人道的援助の予算にほぼ等しかった a.  密入国を操作する組織とその規模はさまざまである. 1 カ国, 密入国業者は, あるいは 2 カ国内の小さいネッ トワークの中で,あるいは,大規模で,複雑かつ多国籍の犯罪組織の一部として,ほぼ独立して機能してい る.また,タクシー輸送などの適法サービスを提供している,あるいは洗練された多国籍的な犯罪ネットワー クの一部であることもある.時として,密入国の施行は社会的ネットワーク経由で緩やかに結び付いている, あるいはデジタル技術を経由して意思疎通を図っている独立した行為者を基盤としており,このことは密入 国という現象を取り締まることに向けた取り組みを複雑にしている.民族誌学の研究は,密入国業者を犯罪 者として,そして移民を被害者として描くことは,複雑でしばしば共生的な関係を単純化し過ぎている可能 性があることを示唆している b. 「密入国取引」   (移民を行き先に連れて行くことによって支払を受ける密入国業者の仲介による移民の自発 と 的移動) (恐喝,搾取,あるいは強制などの要素を含む移動) 「人身売買取引」 の間を分ける線は多くの場合に あいまいである.正当な書類を持っていない移民は人身売買被害者の中で大きな割合を占めており,その割 合は,西および南ヨーロッパでは 65%,中東では 60%,東アジア・大平洋地域では 55%,中央および南東ヨー ロッパでは 50%,北アメリカでは 25% c などとなっている.2014 年に,国際労働機関 (ILO)は,人身売買 と強制労働による利益は年当たり 1,500 億ドルであると推計した d.その金額の 3 分の 2 は商業ベースの性 的搾取に,そして残りは強制的な経済的搾取である. McAuliffe and Laczko (2016); UNODC (2018). a.  Achilli (2018); Campana (2018); Maher (2018); Majidi (2018); McAuliffe and Laczko (2016); UNODC (2018). b.  Koser (2010); McAuliffe and Laczko (2016); Nicot and Kopp (2018); Triandafyllidou (2018a, 2018b); UNODC (2018). c.  ILO (2014). d.  利格差があまりにも大きく,人々を移動に向けて動かす,手に負えない市場諸力を生み出す.困窮移住を 抑制することに向けた努力は,仮に雇用者にこのような移民を採用する意図があり,そしてそれが可能で あるならば,成功し得ない.ほとんどの諸国にはそのような非正規の――そして往々にして搾取的な―― 雇用を禁止する法律や規制があるが,執行されている場合でも,その執行は不均等である.非正規の労働 市場を取り締まり――そして,そのような法律を順守するコストを削減すること――が極めて重要であ る.非正規状態にある多くの移民を抱えている諸国にとって,正規の地位へ移行させるには政策が必要で あり,多くの場合にこのような政策には移民と雇用者に対する何らかの恩赦が含まれている.  移民を人道的に帰国させる.行き先国は,当人が出身国においてリスクに直面しない困窮移民の一部を強 制送還することを選択するかもしれない.本国送還は関係当事者にとってはいつでも悲劇ではあるが,移 住制度の持続可能性を確保するためには必要かもしれない.というのは,それは市民と移住希望者の両方 に対してルールの執行を例証できるからだ.しかし,送還の執行は,人権侵害の可能性を含め,リスクを 孕んでいる 49.そこで, は,持続可能な再 「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」 統合に加えて,移民のための安全で尊厳のある帰国と再入国を円滑化するのに際して,各国間の協力を要 請している 50.実際に,仮に移民の出身国が協力しないならば,強制送還は極めて困難である.したがっ て,持続可能であるためには,そのような合意は,移民の行き先国と移民の出身国の両方の利害を反映し 51,可能ならば二国間移住協定という幅広い背景のなかで枠組みが作られるべきである.行き先国の一部 は非自発的な帰国に対して,出身国での再統合に向けた支援を伴わせることを試みているが,成果はまち まちである. 252 世界開発報告 2023  一部の行き先国では,人々が亡命を希望している場合を含め,入国を処理する制度の能力を強化するため の努力も必要とされている.例えば,2015 年夏に大勢の移民と難民が到着したのに続いて,ドイツの連邦 移民難民局(BAMF)は,近代化とデジタル化に向けた取り組みを行い,その取り組みは避難要請を処理す る能力を劇的に向上させた 52.避難ないしビザの申請を迅速に処理することは,困窮移民が入国のために 非正規経路を使う動機を低めることができる. 開発を通じて,移民のスキルや属性の適合度を高める  長期的には,開発によって困窮移住の必要性は減少する.国が発展するのに伴って,国民の教育の水準が 高まり,国民のスキルは,自国およびグローバルな労働市場のニーズにより高度に適合するようになる.国 国内における代替手段は苦難の中での越境移動の必要性を減らす. 民はショックに対してより強靭にもなり,  経済開発が出国移住する傾向に及ぼす影響は複雑である.既存の証拠に対する評価は,いくつかのパター ンがあることを示唆している 53.中所得国の場合,開発の進展に伴って,移住は着実に増加し,移住はよ り一層高所得国に向かうようになる.対照的に,低所得国では,開発が中所得国のレベルに到達するまで, 開発に伴って最初は出国移住は減少する.このような影響は一国の人口規模に著しく依存している.すなわ ち,移住に対する開発の影響は,小規模で人口が少ない国では(国の数では世界全体の半分を占めるが,世 界全体の人口数ではわずか 3.5%を占めるにすぎない)重要であるものの,大きな諸国ではもっと大幅に小 さい.平均すると,中所得国出身の移民は低所得国出身の移民と比較する場合にはより多くのスキルを身に 付けており,魅力的な行き先国へより容易にアクセスしている 54.  開発の仕方も重要である.開発の利益は典型的には一国内で一律には配分されない.開発や所得増加が住 民のなかの特定部分に不釣り合いに利益をもたらしている場合,移住パターンは影響を受けるだろう.例え ば,国内の所得増加が相対的に裕福で高学歴の人たち――および高所得国を行き先として移住する可能性が 高い人たち――だけに生じているときには,低所得国へ向かう移住が不変にとどまっている場合でさえ,高 所得国を行き先とする移住は増加するかもしれない.他方で,開発がもたらす国内所得の増加が低所得国の (これには多くのコストがかかる) 最貧層に生じる場合には,高所得国への移住 の増加を伴うことなく,低所 得国や近隣諸国への移住は減少するかもしれない.  外国からの援助が出国移住に与える影響に関する議論は 55,一部のドナーが自らの援助を移住――特に 困窮移住――の「根本原因」に取り組むために使うことを意図している,という文脈でなされている 56.開 発に向けた多くの活動と同じく,インパクトは各国や各部門毎に異なり,プログラムは各々の状況に合わせ て調整される必要がある.例えば,一部の諸国においては,統治を改善するための支援は,政府の能力を改 善し不満の原因を削減することによって,出国移住を抑えてきている 57.インフラにかかわるプロジェク トは市場の統合を推進し,現地の所得を増加させることができる 58.長期的にみると,開発援助は移民の 本国の社会の転換を支援し,それは移住のパターンに甚大な結果をもたらす.  開発は典型的には制度面の能力の改善と関連している.国が裕福になるのに伴って,当該国は諸外国との 協力を通じることに加えて,自国の目的のために移住を管理する体制をより一層強化する.開発は人口構成 の変化――出生率の低下と寿命の延び――とも関連がある.そのような変化は,次には社会的な動態,潜在 的な移民集団の規模,越境移動の代替策を提供できる国内労働市場における機会に影響を及ぼす. スキルの一致の改善  経済開発にはほぼ常に教育やスキルなどの人的資本の改善が伴っている.人や国は裕福になるにしたがっ て,より一層教育に投資し,その見返りとして,教育程度がより高い労働力は経済的な開発と成長の原動力 –  になる.例えば,バングラデシュの 1 人当たり GDP が 1960  2015 年の間に 2 倍になった際には,成人 が受けた学校教育の平均年数は 1.0 年から 6.9 年へと劇的に増加し,さらに何らかの高等教育を受けた成 人の割合は 0.33%から 8.6%に上昇した 59.この経験は経済成長を経験したほぼすべての低・中所得国の 8 困窮移民:尊厳の維持 253 図 8.6 経済開発は移住の流れの構成を変化させる : 国の開発の進展に伴って出国移民の教育水準は向上する 出国移民の教育水準;出身国の 1 人当たり GDP 成長率別 ベースライン 34 35 31 移民の出身国の一人当たりGDP成長率 (ベースラインとの比較、%) 非常に遅い(0 – 50) 25 41 34 遅い(50 – 100) 24 37 39 中程度(100 – 200) 18 39 43 速い(200 – 500) 12 37 51 非常に速い(500 +) 12 36 52 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 % 低レベル教育(初等教育以下) 中レベル教育(何らかの中等教育) 高レベル教育(何らかの高等教育) 出所:Shrestha (2023) の図 9 からの翻案. 注:上図は移民の出身国が発展することによる低・中所得国からアメリカへ向かう移民の教育水準の構成の変化を図示して いる.垂直軸は出身国の 1 人当たり GDP の基準年に相対的な成長を示している.基準年は 1960 年以降で各国の 1 人当た り GDP の値(購買力平価でみた 2017 年の不変米ドル (2017 PPP$))が最低水準に達した年として各国毎に定義されている. 観察値は成長度でグループ分けされ,棒グラフの長さは各グループにおける割合の平均を示している.低・中所得国は 1 人 当たり GDP(2017 PPP$)でみて,1960 年頃には全諸国の低い方の 3 分の 2 を占めていた.推定において,出国移住率とい う点で外れ値になっている次の諸国は排除されている (アンティグア・バーブーダ,ボスニア・ヘルツェゴビナ,ドミニカ, グレナダ,セントクリストファー・ネービス,およびヨルダン川西岸・ガザ) . 経験と一致している.  教育達成度の上昇は移住の傾向を,より高度な教育を受け,そしてより高度なスキルを持つ労働者へ変化 させる.移民の出身国が発展するのにしがたって,その国の出国移民のスキル構成は変化する.教育程度の 低い労働者はより有用な言語や職業を身に着け,そしてより優れた資格を持つようになり,大きな割合の移 民が高等教育を受けるようになる(図 8.6).開発が進んでいる国からの出国移民は,行き先国の労働市場の ニーズにより強固に適合する傾向にある.このことは,介護や接客などのサービス業において需要が徐々に 高まっていることと並行して,低スキル労働者に対する期待――例えば意思疎通,対人スキル,そして自律 的に働くことができる能力などの点で――が高まっている地域では特に当てはまる 60. 強靭性の強化  移民の出身国が発展するのに伴って,政府は,不況や自然災害などがもたらすショックに対する強靭性を 市民が強化するのをより一層支援できるようになる 61.社会的保護制度は,貧困層や脆弱層にとって,また, 病気や事故などの個人的な事情のために一時的な苦難に直面している人々にとって,セーフティ・ネットと 「生産的セーフティネット・プログラム」 して機能している.例えば,エチオピアでは, が適合的な仕方で公 共事業を通じて援助を提供している.すなわち,ショックや危機が実際に発生した場合には,そのプログラ ムは拡大される 62.そのようなプログラムの国際的な移住に対する影響に関する証拠は少ないが,そのよ うなプログラムは国内移動の必要性を減らしている.その一例は,インドにおける場所に基づく公共事業プ ログラムである 63.このようなプログラムは困難な時期を過ごしている人々に対して,より多くの選択肢 254 世界開発報告 2023 を提供している.  開発は,特に相対的に大きな国では,地元での経済的な選択肢も増やす.低所得所国では,開発が進展す るのに伴って,経済活動と人々は,その多くが農村部における自給自足農業から,都市部における製造業や サービス活動に移行する 64.確かに,低・中所得国における都市部人口の割合は 1960 年における 23%から 2020 年における 51%へと着実に上昇している 65.国内移住は,出身地域よりもより高い所得を提供し,典 型的には移住に伴う費用やリスクは,国際的な移住よりも低い.実際に,それは国際移住,特に困窮移住にとっ ての代替策として機能しうる.包摂的な開発,地元におけるディーセントな仕事の入手可能性,および万人に とってそのような仕事の入手が容易であることは選択肢の範囲を広げることから,移住は,仮にそれが発生す る時には,より狭くではなく,むしろより広くなった機会の選択肢のなかからの選択の結果になる.  最後に,開発は国や,コミュニティ,世帯が気候変動の影響に適応することを可能にする.気候変動に対 する国内的な強靭性を構築することは,人々が,実現可能な場合には住んでいる場所に適応する,あるいは より良い状況下で移住するのを可能にすることを意味し,さらに移民を受け入れる地域に準備をさせること になる 66.多くの領域において,国内移動のための鍵を握る行き先として機能するであろう都市は,気候 変動に対して強靭な住宅やインフラへの投資,ネットワークへの接続性,社会サービス,それに雇用機会な どの形態を含め,都市計画や土地利用管理において気候リスクを考慮に入れる必要があるだろう 67.  そうすることで,国際的移住は,それが発生する場合には,より良い状況下で発生することが可能になる. 行き先国に非正規に入国することを試みると同時に,自らの命をリスクにさらしている人のほとんどは,低 所得国,ないしは所得が比較的低い国の出身者である.中所得ないし上位中所得の国が出身国である移民の 旅程はそれほど危険ではない.そのような人の移動は,さほど厳しくない制約下でなされた選択であり,典 型的には,自らの立場にはそれほど苦しんではおらず,行き先国における政策のジレンマも耐えられないほ 「誰一人取り残さない」 どではない. ――「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」の土台となっている 原則――は,移住を,移民にとってより苦難の少ないものにし,移民の出身国と移住先国にとって移住をよ り有益なものにすることを意味している. 注 1. Azevedo et al. (2021); Boomgaarden and Vliegenthart は EU 加盟 28 カ国 + について入手可能である.また, (2009); Heidenreich et al. (2020); Innes (2010); Madrigal データがない国については,10 月の数値が用いられた. and Soroka (2023); Průchová Hrůzová (2021); Slovic et EU+ は EU,スイス,およびノルウェーを指す. al. (2017). 11. Bertoli, Brücker, and Fernández-Huertas Moraga (2022); 2. Hatton (2017); Lutz, Kaufmann, and Stünzi (2020); McAuliffe and Laczko (2016). Pereira, Vala, and Costa-Lopes (2010); Poynting and 12. Harris and Todaro (1970). Briskman (2020); Průchová Hrůzová (2021); Ravn et al. 13. Gibney (2008); Global Detention Project (dashboard), (2020). Global Detention Project, Geneva, https://www. 3. Harris and Todaro (1970). globaldetentionproject.org/; Könönen (2022); Majcher, 4. IOM (2002); Triandafyllidou, Bartolini, and Guidi (2019). Flynn, and Grange (2020). 5. Irregular Migration and Return (dashboard), 14. See Commissioner of Law Revision, Malaysia (2006); Directorate-General for Migration and Home Affairs, Singapore Statutes Online (2021). European Commission, Brussels, https://home-affairs. 15. Burnett (2018); Rosenberg (2018). ec.europa.eu/irregular-migration-return_en. 16. 強制労働 (forced or compulsory labor) とは「処罰の脅威 6. Warren (2019). によって強制され,また,自らが任意に申し出たもの 7. Walsh (2020). でないすべての労働 [出典:国際労働基準 ILO 条約・ 8. Bertoli, Brücker, and Fernández-Huertas Moraga (2022); 勧告の手引き (ILO 駐日事務所) ]」 である.次を参照:強 McAuliffe and Laczko (2016). 制労働条約 (第 29 号:1930 年 6 月 28 日の第 14 回国 際労働会議で採択) の第 2 条,NORMLEX, International 9. Hatton (2009); Himmelreich (2019); Kaufmann (2021); Labour Organization, Geneva, https://www.ilo.org/ Lutz, Kaufmann, and Stünzi (2020). dyn/normlex/en/f?p=1000:12100:0::NO::P12100_ILO_ 10. EUAA (2022). 2022 年 11 月時点で,すべての事例にお CODE:C029. いて未決になっているものに関する Eurostat のデータ 8 困窮移民:尊厳の維持 255 17. ILO, Walk Free, and IOM (2022). 45. Auriol, Mesnard, and Perrault (2021); Czaika and de 18. Klugman and Pereira (2009); Migrant Integration Policy Haas (2013, 2017); Czaika and Hobolth (2016). Index 2020 (dashboard), Migration Policy Group and 46. 詳細は第 5 章参照. Barcelona Centre for International Affairs, Barcelona, 47. Martin (2000). https://www.mipex.eu/; Ravn et al. (2020). 48. Martin (2000). 19. GMDAC (2020). 49. 一部の諸国は強制送還がその対象となった移民に及ぼ 20. Black and Sigman (2022). すインパクトを和らげるための動機付けやプログラム 21. Bossard (2009); Busetta et al. (2021); Cornelius (2001); を整備している.そのような制度は典型的には帰国を Gathmann (2008); IOM (2021); Jacobsen, Ayoub, and 強制されている人たちの出身国への帰国と再入国を円 Johnson (2014); Koser (2000); Leyva-Flores et al. (2019); 滑化することを目指している.そのような制度に支援 OHCHR (2016); Reques et al. (2020); Vogt (2018); WHO やカウンセリング (OECD 2020) ,あるいは金融面での (2022); World Bank (2018a). インセンティブ (Black, Collyer, and Somerville 2011) 22. World Bank (2018a). が含まれていることもある.しかし,この制度の利用 率は比較的低く,実際の効果は不明瞭である (OECD 23. World Bank (2018a). 2020). 24. Albuja (2014); Infante et al. (2012). 50. United Nations (2019). 25. Allie et al. (2021). 51. Newland and Salant (2018). 26. Vogt (2018). 52. Koch et al. (2023). 27. Solomon (2019). 53. スポットライト 8 を参照. 28. 2023 年 1 月 4 日時点での US Border Patrol (USBP) 54. 例えば,ビザのコストは低所得国から高所得国へ移動 and Office of Field Operations (OFO) official year- する移民にとってはより高い.Ortega and Peri (2013) end reporting for fiscal 2020 to fiscal 2022 and fiscal は,OECD 諸国を行き先とする移住フローは移住政策 2023. 2020 年 3 月以降については,US Border に対して非常に感応的であることも見出している. Patrol Encounters statistics include both Title 8 Apprehensions and Title 42 Expulsions. 検挙はアメリ 55. Clemens and Postel (2018). カに不法 (not lawfully) に滞在している人の身柄拘束な 56. Bermeo and Leblang (2015); see also NSC (2021). いし一時的拘留を指す. それは, 逮捕に帰結することも, 57. Dustmann and Okatenko (2014); Gamso and Yuldashev しないこともある.2008 年以降アメリカの南部国境で (2018). 逮捕される同伴者のいない子供の数が著増している. 58. Morten and Oliveira (2023). 当初はメキシコ人の子供が大半を占めていたが,2012 59. Barro-Lee Estimates of Educational Attainment in the 年時点では,中央アメリカ出身の子供の数の方が多く World (Barro and Lee 2013); Feenstra, Inklaar, and なっていた. Timmer (2015); Penn World Table (database version 29. Düvell (2012); Nonnenmacher and Yonemura (2018); 10.0), Groningen Growth and Development Centre, Wajsberg (2020); World Bank (2018a). Faculty of Economics and Business, University of 30. Frontex (2023). Groningen, Groningen, the Netherlands, https://www. 31. Reuters (2016). rug.nl/ggdc/productivity/pwt/. 32. Łubiński (2022). 60. アメリカ労働統計局によると,2030 年までにアメリ 33. Kuschminder and Waidler (2020); Sačer et al. (2017); カで雇用数が大きな増加を示す上位 3 種類の職業は Wajsberg (2020). 在宅医療,対人ケア補佐,調理人,そしてファースト フード関連の労働者である.このような職種で大卒 34. Bakewell (2021); Crawley and Skleparis (2018); Erdal 資格を有する労働者は 20%未満である.次を参照: and Oeppen (2018). Occupational Outlook Handbook (portal), Office of 35. Türk and Dowd (2014). Occupational Statistics and Employment Projections, 36. UNHCR Master Glossary of Terms (dashboard), United Bureau of Labor Statistics, US Department of Labor, Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, Washington, DC, https://www.bls.gov/ooh/. https://www.unhcr.org/glossary/. 61. 例えば,OECD 諸国は,平均で,GDP の 12%を世帯 37. UNHCR Master Glossary of Terms (dashboard), United 向けの社会的給付として支出している.世界銀行の Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, データは,低・中所得国は GDP の 1.5%を社会的扶 https://www.unhcr.org/glossary/. 助に支出しており,低所得国は中所得国に後れを取っ 38. Apap (2021). ていることを示している.次を参照:ASPIRE (Atlas of 39. Betts (2013). Social Protection Indicators of Resilience and Equity) (dashboard), World Bank, Washington, DC, https:// 40. Aleinikoff and Zamore (2019). www.worldbank.org/en/data/datatopics/aspire; Social 41. 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Washington, DC. 262 25 39 57 14 スポットライト8 「根本原因」と開発 33 82 76 46  過去 10 年間に,移民の行き先になっている多くの高所得国は,移住,特に非正規で高いリスクを伴う移 住の「根本原因」に取り組むことを目指すプログラムを開発してきている 1.このような新たな構想は,移民 の出身国における開発は出国移民の人数を削減することに役立つだろうという概念を前提にしている.しか し,このような考えは議論されてきており,開発は実際には出国移民の数を増加させるだろうと指摘してい る評論家もいる. 開発と移住性向  移住の傾向は多くの要因によって左右される.次の 2 つが移民の出身国における開発と密接に関係して いる:(1) 行き先になりうる国との所得格差;(2) 移住を志望している人がそのような移住先国に移動する ための財源の入手可能性.もし移民の出身国が十分に速く成長し,そして行き先になりうる国との所得格差 が縮小するならば,人々は生活を改善するための国内的な代替策を持つようになるだろう.そしてこのこと は,出国移住の魅力を低めるだろう.しかし,より多くの財源を持つことにもなり,このことは移住をより 賄いやすくするであろう 2.このような諸力はお互いに反対の方向に作用する.移住に対する開発の総合的 な影響はどの力が支配的であるかによって左右される 3.  経済的な発展は移民の行き先も変化させる.経済の発展に伴って,人々が持つ自らの移住を賄うための財 源は増加し,それ故,選択肢に含まれる行き先国の幅は広がる.人々が持つスキルのレベルが高くなる傾向 もあり,そのような人は多くの場合に行き先国でより良い処遇を受ける.他方で,開発は利益が限定的な行 き先国へ移住する動機を低下させる――例えばそれは,低所得国の出身者が他の低所得国に移動するような 場合である. 経験から得られた傾向 移住の「ハンプ(移住が多い 1 人当たり GDP の範囲)」 (図 S8.1)  人口に対する出国移民数の比率が最も高いのは上位中所得国である .2020 年の時点で,海外 在住者が人口に占める割合は,日本や,カタール,アメリカなどの高所得国に加えて,エチオピアや,マダ ガスカル,タンザニアなどの低所得および下位中所得国では 1% 未満であった.対照的に,アルバニアや ドミニカ共和国などの,所得の水準が中程度の諸国で,出国移民の割合が最も高い.  この傾向は,モビリティ移行 4,出国移住ライフ・サイクル 5,移住のハンプ [こぶ]6 など,さまざまな 呼び方がされてきている.このパターンは,開発が出国移住の傾向に影響を与える経路と整合的である.中 所得国出身者は移動の動機――それは典型的には高所得国出身者よりも大きい――とそうするための財力― ―低所得国の人の多くとは異なる――の両方を持っている. 「根本原因」と開発 263 図 S8.1 出国移住をする傾向は中所得国で最も高い 30 人口に占める出国移民の割合 20 10 (%) 0 1,000 2,000 5,000 10,000 20,000 50,000 100,000 (2017 年 PPP 米ドル) 1 人当たり GDP 全諸国 出 所: 出 国 民 数:International Migrant Stock (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://www.un.org/development/desa/pd/content/international-migrant-stock.GDP:Feenstra, Inklaar, and Timmer (2015), based on Penn World Table 10.0, Groningen Growth and Development Centre, Faculty of Economics and Business, University of Groningen, Groningen, the Netherlands, https://www.rug.nl/ggdc/productivity/pwt/ . 注:上図は 2020 年における出国移民の総数 (移民を送り出した国の総人口に占める割合として表示) と同年の 1 人当たり (2017 年の不変ドルでの購買力平価に基づく) GDP との関係を描いている.2020 年の GDP は 2019 – 20 年の自国通貨建ての 実質 GDP 成長率を Penn World Table 10.0 から得られる 2019 年 GDP に適用することによって算出されている.1 人当たり GDP は上図では 84,000 ドルが上限とされている. 移民の出身国の規模 (図 S8.2)  しかし,移住の割合が最も多い部分は,移民の出身国の規模と密接なつながりがある .人口の 少ない諸国(世界全体の国の約半数が該当し,それら諸国の人口の合計は世界人口の 3.5%)では[出国移民 が人口に占める割合と 1 人当たり GDP との関係は]非常に顕著である.しかし,より人口が多い諸国(該当 する国の人口の合計は世界人口の 96.5%を占める)では,より控え目である.それは上位中所得国の水準 に達するまでであり,その水準からは,出国移住率は低下する.例えば,相対的に人口が少ないガンビアの 出国移住率は,相対的に人口の多い近隣のギニアないしセネガルより 60%も高い.上位中所得国のなかでは, 相対的に人口の少ないウルグアイの出国移住率は,人口が相対的に多いアルゼンチンの約 4 倍の高さである.  この場合も,パターンは開発が出国移住の傾向に影響を与える経路と整合的である.越境移住に対する国 内の代替策があることは,越境移住の動機を低下させる.規模の大きな国が発展すると,例えば,より繫栄 している州 / 省や急成長している都市の中心部に向かう国内移住を含め,新たな機会が出現する.そのよう な機会は小規模国の経済には存在していない公算がある. 中所得国を出身国とする移住の傾向は高まりつつある [こぶ]  移住のパターンに見られるハンプ は,固定的な視点を示している.この視点は,今日における,さ まざまな所得レベルの国について横断的に,移住の傾向を比較している.しかし,国が,例えば低所得から 中所得に発展する場合,その国の出国移住のパターンは必ずしもそれにしたがって調整されるとは限らない. したがって,開発や移住の根本原因に関する議論に情報を提供するためには,国の所得レベルが上昇する際 にその国の中で何が起きているかを見る追加的な視点が必要である 7.  1960 年に中所得国であった諸国における出国移住の傾向に関するレビューから,次の鍵を握るパターン 264 世界開発報告 2023 図 S8.2 移住のハンプ[こぶ]は小規模国では顕著であり,大規模国では抑えられている 30 人口に占める出国移民の割合 20 10 (%) 0 1,000 2,000 5,000 10,000 20,000 50,000 100,000 (2017 年 PPP 米ドル) 1 人当たり GDP 全諸国 小規模国 大規模国 出所:出国民数:International Migrant Stock (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://www.un.org/development/desa/pd/content/international-migrant-stock.GDP: Feenstra, Inklaar, and Timmer (2015), based on Penn World Table 10.0, Groningen Growth and Development Centre, Faculty of Economics and Business, University of Groningen, Groningen, the Netherlands, https://www.rug.nl/ggdc/productivity/ pwt/ . 注:上図は 2020 年における出国移民の総数 (移民を送り出した国の総人口に占める割合として表示) と同年の 1 人当たり (2017 年の不変ドルでの購買力平価に基づく) GDP との関係を描いている.2020 年の GDP は 2019 – 20 年の自国通貨建ての 実質 GDP 成長率を Penn World Table 10.0 から得られる 2019 年 GDP に適用することによって算出されている.1 人当たり GDP は上図では 84,000 ドルが上限とされている.小国は人口が中央値未満の諸国 (2020 年における人口が 930 万人のイス ラエルなど) .大国は人口が中央値以上の諸国. が見えてくる:  中所得国が発展するのに伴って,出国移住は着実に増加した.このトレンドは所得が上位中所得水準―― PPP で調整して約 13,000 ドル――に到達するまで続く 8.しかし,これら諸国の (図 S8.3 のパネル a) 多くでは,開発には出生率の低下が伴っており,このことは開発が実際の出国移住の流れに与える影響を 弱めた.  国の規模に基づく各国相互間の相違は維持された.出国移住する人の割合について,大規模の中所得国は, 小規模の中所得国と比較して,より小幅な上昇を経験した.  中所得国を出身国とする移住は,ますます高所得の行き先国に向かうようになり,それが出国移住の傾向 (図 S8.3 のパネル b) に見られる上昇のほとんどを占めた .対照的に,他の行き先国――近隣諸国ないし 低所得国――へ向かう出国移住の傾向はほぼ不変であった.この効果は人口規模の大きな国よりも,小規 模の国でより明らかであった. 低所得国を出身国とする移住の傾向は低下しつつある  1960 年における所得分布で低い方の領域に含まれる諸国の経験に関する同様のレビューは,異なるパ ターンに光を当てている:  1960 年頃には低所得であった諸国が発展するのに伴って,1 人当たり所得が 3 倍になるまでは,出国 移住は最初は減少した 9. (図 S8.4 のパネル a) そうなるまでに,平均では約 40 年を要した.出国移住率は, 「根本原因」と開発 265 図 S8.3 中所得国が発展すると,その国の出国移住は増加し,主に高所得の行き先国に向かう a. 出国移住は増加し b. 増加分は主に 最高値に達した後に減少 高所得国に向かう移住が占めている 9 8 8 (ベースラインと比較した (ベースラインと比較した 7 6 %ポイントの変化) %ポイントの変化) 6 出国移民の割合 出国移民の割合 5 4 4 3 2 2 1 0 0 ‒2 0 50 100 200 300 500 0 50 100 200 500 1 人当たり GDP 1 人当たり GDP (ベースラインと比較した (ベースラインと比較した %ポイント変化) の%ポイント変化) 全諸国 高所得国へ向かう出国移民 小規模国 近隣諸国あるいは低所得国へ向かう 大規模国 出国移民 出所:Shrestha 2023. 注:上図において,実線は中所得国について,所得の増加と出国移住率 [出国移民が出身国の人口に占める割合] の変化の間 の平滑化された関係を示しており,所得と出国移住率は基準年におけるそれぞれの値と比較されている.変化は基準年との 比較である.基準年は 1 人当たり GDP(2017 年不変米ドルで調整された購買力平価で評価) が 1960 年以降で最低水準に達 した年として定義されている.低所得国は 1960 年頃には 1 人当たり GDP でみて最低位の 3 分の 1 の層,中所得国は中間 の 3 分の 1 の層に属していた国である.パネル a で, 点線と破線はそれぞれ小規模国と大規模国における関係を示している. 小規模国は 1960 年における人口について中央値 (340 万人)未満の国,大規模国は中央値を上回っていた国である.推定値 は GDP 成長率の高さに加えて,出国移住率という点で外れ値を示していた国を除外している (アンティグア・バーブーダ, ボスニア・ヘルツェゴビナ,ドミニカ,グレナダ,セントクリストファー・ネイビス,ヨルダン川西岸・ガザ) .パネル b で, 紫色の線は,所得増加と近隣ないし低所得の行き先国への出国移住の平滑化された関係を示し,青色の線は所得増加と高所 得の行き先国へ向かう移住の平滑化された関係を示している. その後は中所得国でみられたパターンをたどり,上位中所得国の水準に到達するまで着実に上昇した.仮 –  に低所得および下位中所得の諸国――現在の世界全体の人口の約 27%を占める――が 2000  20 年にお ける成長と同じ割合で,今日においても成長するならば,出国移住率が最高値に達する程度の平均所得水 準に至るには,さらに 32 年間を要するであろう.  低所得国の間でも,影響は人口の少ない諸国において著しく大きく,人口の多い国ではより限定的であっ た.  出国移住率の低下は,大まかには他の低所得国へ向かう出国移住の減少によって引き起こされた(図 S8.4 のパネル b).当該国が中所得のレベルに到達するまでは,高所得国へ向かう移住は低水準で安定 していた.中所得のレベルに達した時点で,移住のトレンドは他の中所得国と同じになった.低所得国の 高所得国に向かう出国移住率は 0.7%ポイント上昇しただけであった. 所得が 3 倍になるまでの期間には, 266 世界開発報告 2023 図 S8.4 低所得国が発展するのに伴って,移住,特に低所得の行き先国に向かう移住の傾向は低下 a. 出国移住は最初は減少し b. 減少は特に低所得の行き先国に その後は着実に増加 影響を及ぼす 15 4 (ベースラインと比較した (ベースラインと比較した 10 2 の%ポイント変化) %ポイント変化) 出国移民の割合 出国移民の割合 5 0 0 -2 -5 -4 0 50 100 200 500 1,000 0 50 100 200 500 1 人当たり GDP 1 人当たり GDP (ベースラインと比較した (ベースラインと比較した %ポイントの変化) %ポイントの変化) 全諸国 高所得国へ向かう出国移民 小規模国 近隣諸国あるいは低所得国へ向かう 大規模国 出国移民 出所:Shrestha 2023. 注:上図は,低所得国が発展するのに伴って,高所得国,および近隣ないし低所得国への出国移住がどのように変化するか を示している.変化は基準年との比較で示されている.基準年は 1 人当たり GDP(2017 年不変米ドルで調整された購買力 平価による)が 1960 年以降で最低水準に達した年として各国毎に定義されている.パネル a において,点線と破線はそれ ぞれ小規模国と大規模国に関する関係を示している.小規模国は 1960 年の人口という点で中央値 (340 万人)未満の国,大 規模国は中央値を上回っていた国である.推定値は,高い GDP 成長率に加えて,出国移住率について外れ値を示した国 (ア ンティグア・バーブーダ,ボスニア・ヘルツェゴビナ,ドミニカ,グレナダ,セントクリストファー・ネイビス,ヨルダン 川西岸・ガザ)を除外している.パネル b において,紫色の線は所得増加と近隣ないし低所得の行き先国への移住の平滑化 された関係を示しており,青色の線は所得増加と高所得の行き先国への移住の平滑化された関係を示している. 注 1. Improved Migration Management (dashboard), EU 5. Clemens (2020); Hatton and Williamson (1994). Emergency Trust Fund for Africa, European Commission, 6. Clemens (2014); Dao et al. (2018); Djajić, Kirdar, and Brussels, https://ec.europa.eu/trustfundforafrica/ Vinogradova (2016); Martin and Taylor (1996). thematic/improved-migration-management. 7. Clemens (2020). 長期間にわたるトレンドの解釈も挑戦 2. 例えば,低所得国ではビザのコストは高所得国に向か 課題を提起している.というのは,地政学的な変化 (冷 う旅行者の方が高い.Ortega and Peri (2013) によれば, 戦の終焉など) や技術進歩 (移住のコストが減少)が,世 OECD 加盟国に向かう移住の流れは移住政策の影響を非 界全体にわたって移住の動態を転換してきているから 常に受けやすい. だ. 3. 文献における強固な証拠は,資金調達の制約の削減は 8. 各国の基準年は 1 人当たり GDP (2017 年不変米ドルで 移住を促進することを明らかにしている.Angelucci 調整された購買力平価による) が 1960 – 2020 年に最低 (2016) and Gazeaud, Mvukiyehe, and Sterck (2023) は, 水準に達した年である.中所得国については,指定さ メキシコやコモロにおける現金給付プログラムは国際 れた諸国の 1 人当たり GDP の平均は当初は 3,353 ドル 的な移住を増やしたことを見出している.また,Bazzi (2017 年 PPP ベース)であった. (2017) and Shrestha (2017) は,降雨量の増加は,農業 9. 低所得国については,指定された諸国の 1 人当たり 所得を増加させ,そしてインドネシアやネパールから GDP の平均は当初は 1,165 ドル(2017 年 PPP ベース)で の国際移住を増加させることを見出している. あった. 4. Zelinsky (1971). 「根本原因」と開発 267 参考文献 Angelucci, Manuela. 2016. “Migration and Financial Con- a Randomized Controlled Trial.” Review of Economics and straints: Evidence from Mexico.” Review of Economics and Statistics 105 (1): 143–57. Statistics 97 (1): 224–28. Hatton, Timothy J., and Jeffery G. Williamson. 1994. “Inter- Bazzi, Samuel. 2017. “Wealth Heterogeneity and the Income national Migration and World Development: A Historical Elasticity of Migration.” American Economic Journal: Applied Perspective.” In Economic Aspects of International Migra- Economics 9 (2): 219–55. tion, edited by Herbert Giersch, 3–56. Publications of the Clemens, Michael A. 2014. “Does Development Reduce Migra- Egon-Sohmen-Foundation Series. Berlin: Springer. tion?” In International Handbook on Migration and Economic Martin, Philip L., and J. 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Gazeaud, Jules, Eric Mvukiyehe, and Olivier Sterck. 2023. “Cash Transfers and Migration: Theory and Evidence from 269 移住をより良く機能させるには やり方を変える必要がある  本報告書から生じてくる中心的なメッセージは次の通りである.すなわち,移住がそれの開発に関わる利 益を完全に生み出すようにするためには,移住は移民の出身国と行き先国の両方によって戦略的に管理され る必要がある.グローバルな不均衡や,世界各地での局所的なショック,そして社会のニーズが変化してい ることは,越境移動を生み出し続けるであろう.にもかかわらず,現行の移住管理方法は,移民の出身国と 移住先国の両方を通じて,多くの移民や各国の国民を失望させ,数千万人もの人々に多大な苦痛を経験させ, 政治を分極化させ,そして大きな非効率性と経済的損失を生み出している.  挑戦課題は,越境移動を,移民の出身国の社会と行き先国の社会に加えて,移民と難民にも利益をもたら すような仕方で管理することである.究極の目的は次の 3 つである:(1) 移民のスキルや属性が行き先国の 社会のニーズに高度に適合する場合には,移民と移民の出身国社会の双方にとって利益が最大になる,(2) 中期的な開発が難民と受け入れ社会両方に,および国際社会内における十分な責任共有に与える効果を考慮 しつつ,難民状態を持続可能な仕方で管理する,(3) 困窮移住に人道的に対応し,経時的にそのような移動 の必要性を削減する.  第 9 章では,国際社会に加えて,移民の出身国,通過国,および受け入れ国に向けた政策勧告を概観する. 本章は,ここまでの各章における主要な発見を要約しており,経済的移住や強制避難の管理を向上させるこ とを意図した政策事例を提示している.そして最後に,本章は,越境移動に関してはすべての諸国が果たす べき役割を有していることを強調している.役割を果たすことによって,各国は 2018 年に採択された次 の 2 つのグローバル・コンパクト,すなわち「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」 および「難民に関するグローバル・ のより幅広い背景の中で,開発に十分に貢献することになる. コンパクト」  現在は移住の改革にとっては難しい時期である.政治的な議論は,あらゆる所得水準に属する諸国の間で 分極化しており,グローバルな緊張が状況をいっそう複雑にしている.他方で,気候変動に関連するものも 含め,新たなリスクの兆しが見え始めている.移住の改革が緊急に必要とされている.困難な論争が前途に 待ち受けているが,避けて通る,あるいは大幅に先送りすることはできない. 9 271 勧告 移住をより良く機能させる 重要なメッセージ  移民の出身国,通過国,そして行き先国が越境移動を戦略的に管理し,そうすることでコストを軽減しつ (図 9.1) つも利益を最大化できる大きな余地がある .どのような状態にある国も,移住が自国の社会に及 ぼす開発効果を高める政策を採用することができる(表 9.1).  ほとんどの場合,越境移動の利益は国際協力を通じて増加させる(コストは軽減する)ことができる.二国 間および多国間アプローチが必要である.  移住にかかわる政策を策定することは多くの場合に政治的に慎重を要するものの,証拠に基づくアプロー チを策定するために,他国から教訓を導くことができる.  挑戦課題は,する必要があるのは何かだけでなく,どのようにしてそれを完遂するかも決定することであ る.このことを行うためには,十分に取り上げられてこなかった意見を議論に持ち込むための方法に加え て,データの改善や目的に適った資金提供手段も必要となるだろう. 図 9.1 戦略的に管理すれば,移住はコストを軽減しつつ利益を最大化することができる すべての人を 対象に利益を 最大化 高い 行先国で需要のある 大勢の スキルを有する 経済移民 難民 利益がコストを上回る 適合度 コストが利益を上回る 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 持続可能性の確保, 低い コストの分担 移動の 必要性を削減, 移民を受け入れ, 移住先国 本国における 動機 あるいは人道的に における機会 恐怖 帰国させる 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 272 世界開発報告 2023 表 9.1 主要な政策提言 (強固な適合) 移民や難民のスキルに需要がある 移民の本国[出身国] 移民の行き先国 二国間協約 貧困の削減に向けて移住を管理する 利益を最大化し,コストを削減する 適合を強化する 戦略:移住を開発戦略の一部にする. 戦略:労働のニーズを認知する.移住の役割 二国間労働協約:両者が利益を得る移住を構 送金: 貧困削減に向けて送金を活用し,さら についてコンセンサスを確立する.政策の首 築し,促進する.送金のコストを削減する. に送金のコストを引き下げる. 尾一貫性を確保する. スキル開発:自国のおよびグローバルな労働 知識:知識移転を促進し,グローバル経済へ 入国と地位:より強固な一致を伴う入国移住を 市場の両方で需要のあるスキルの開発に資金 の統合を強化するために各国に散在する移民 奨励する.移民が正式な地位と権利を持つこと 提供をするためにペアを組む. や帰国民と協働する. を保証する. スキル開発と頭脳流出の緩和:自国内およびグ 経済的包摂:労働市場における包摂を促進す ローバルな労働市場において需要のあるスキ る.移民が有する資格の承認を強化する.搾 ルの教育と訓練を拡大する. 取を取り締まり,ディーセント・ワークを促進 する. 保護: 市民全体に保護を提供する.取り残さ れている脆弱な家族員を支援する. 社会的包摂:分断化を防ぎ,サービスの利用 を促進する.差別と戦う. 自国民に対する支援:雇用の成果および公共 サービスという点でマイナスの影響を受ける市 民を,社会的保護と公共投資を通じて支援す る. 難民のスキルに対して需要がない場合(適合度が低い,恐怖を動機とする移動) 受け入れ国 国際的なコミュニティ 中期的な視点で管理を行い,適合を強化する 受け入れ国とコストを分担する 制度と手段:関連省庁を通じて難民支援を主流化する.持続可能な資 責任の共有:難民が避難をする要因となった状況を防ぐ,あるいは解 金提供枠組みを策定する. 決する.十分な額の中期的な融資を提供する.定住の選択肢を増やす. 国内移動:機会に向けて難民が移動するのを促進および奨励する. 現行の主要な拠出者の枠を超えて,支援の基盤を拡大する.地域的な アプローチを策定する. 自己依存[自立]:公式な労働市場において難民が仕事にアクセスでき るようにする. 解決策「恒久的な解決策」 : (自発的な帰国,現地での統合あるいは定住) に向けてより一層努める.中期的に,国による保護と機会へのアクセス 国家的なサービスへの包摂:国の制度を通じて,教育,医療,および を提供する革新的な地位を制定する. 社会のサービスを提供する. 移民のスキルに対して需要がない場合(適合度が低い,移住は恐怖が動機ではない) 移民の本国 移民の通過国 移民の行き先国 苦難の中での移動の必要性を削減する 移民の行き先国と協力する 移民の尊厳を尊重する 強靭性:社会的保護を強化する.国際的な移 協力: 移民を吸収する,あるいは人々を人道 尊重:すべての移民を人道的に処遇する. 住に対する国内の代替手段を作り出す. (最 補完的な保護:リスクに晒されていて,かつ難 的に帰国させるために行き先国と協働する . 教育:人々がより多くの選択肢を持つことがで 後の通過国について) 民ではない人を保護する現行の制度の首尾一 きるようになるスキルを構築する. 貫性を強化する. 包摂: 包摂的でグリーンな開発を促進する. 合法的な経路:低スキルの労働者を含め,需 気候変動への適用を育む. 要のある労働者のための合法的な経路を確立 することによって移民の動機を変える. 強化:必要な帰国を人道的に管理する.密入 国支援業者や搾取的な雇用者を取り締まる. 入国を処理するために制度的な能力を強化す る. 移民政策を変更する データとエビデンス 財政面での手段 新しい意見 調和:データの収集方法を調和させる. 新しいあるいは拡張された手段:難民を受け入 影響を受ける国民:共通の挑戦課題に直面す エビデンスの確立: 政策策定に情報を提供す れる国を支援するために中期的な手段を策定 る国の間で提携を構築する. るために新しい種類の調査に投資する. する.適合度が低い移民を受け入れている低・ 国内の利害関係者:意思決定プロセスに広範 中所得国に対して外部的な支援を提供する. な利害関係者が参加することを保証する. データの開放:データを広範に入手できるよう にし,同時に移民や難民のプライバシーを尊 既存の手段の利用を強化する:民間部門の関 移民および難民の意見:移民や難民の意見を 重することによって,研究を促進する. 与を奨励する.開発に向けて移住を活用するこ まとめるために,意見の代表と説明責任の制 とにおいて移民の本国を支援する.二国間お 度を策定する. よび地域的な協力を奨励する. 出所:WDR2023 チーム. 9 勧告:移住をより良く機能させる 273 はじめに  本章では,この報告書で提示されている分析から生じた重要な政策勧告を要約する.この要約はこれまで の各章において展開された基礎をなす証拠に依拠しており,可能なアプローチや経験を網羅的に微妙な差異 も考慮して集めたものではなく,政策が向かうべき重要な方向の体系的な概要を提示している.  また,多様な諸国によって採択された政策の事例も含めている.成功した政策もあれば,部分的にのみ成 功した政策もある.その多くは賛否両論である.これらの政策のいくつかを評価することは,方法論的な課 題を提起している 1.しかし,政策が不完全であるにもかかわらず,それらの事例は,政策担当者が学ぶこ とができる豊富な経験をもたらす.ここで念頭に置くべきことは,模範となるアプローチはないということ である.政策策定は状況毎の詳細に合わせて調整される必要がある.  本章は「適合度と動機のマトリックス 」 (行列)にしたがって系統立てられており,越境移動の各種類に対し て固有の勧告を提示している.越境移動の状況として,移民ないし難民が行き先国のニーズに高度に適合す るスキルや属性を持ち込む状況;そのようなスキルを持ち込むことはないが,当人の出身国における恐怖の 故に移動する状況(難民);移民が需要されているスキルも国際的な保護のニーズも持っていない状況(困窮 移民),がある.本章では改革の実現に役立ちうる不可欠の要素のいくつかについても検討している.  各種の越境移動に関する議論に続いて,移民の出身国,移民の行き先国,移住者の通過国,および難民受 け入れ国にかかわるセクション(節)がある.しかし,これら諸国は多くの場合に明確に区別されるものでは なく,4 つのすべてのカテゴリーに当てはまる国も少なくないだろう.そこで,勧告は国の特定のグループ 「機能」 ではなく,むしろ各社会の固有の に向けられている. 強固に適合:全ての人を対象に利益を最大化する  人々が行き先国で需要のあるスキルや属性を持ち込む場合,出身国と行き先国の両方に加えて,当人自身 にとっても純利益がある.このような利益は,移民の動機,スキル水準,あるいは法的地位にかかわらず実 現する.移民の出身国は自国社会における貧困削減のための力として,出国移住を事前対策的に管理するこ とができる.移民の行き先国も,自国の労働ニーズを満たし,社会に貢献するよう入国移住を利用すること ができる.二国間協力はこのような移動にかかわるお互いの利益を高めることに役立ちうる. 移民の出身国:貧困削減のために出国移住を管理  越境移動は,移民の出身国における貧困削減のための強い力になりうる.開発にとっての利益が,送金, 知識や技術のフロー,人的資本の蓄積に向けたより高度なインセンティブや機会,労働のより効率的な分配 から生じる.しかし,高いスキルを持つ専門家を含め,成人人口の大きな割合が,特に小規模で貧しい諸国 から,出国移住するする場合には,経済的,社会的,および人的なコストが発生する.出国移住が移民の出 身国に及ぼすインパクト――プラスとマイナスの両方について――は,移民の出身社会の内部においても, それらの相互間においても,あらかじめ決まってはおらず,一律でもない.移民の出身国は,自国の開発の (図 9.2) ために,これらの影響を方向付けることができる . 戦略.出国移住を開発戦略の一部にする.比較的大勢の現行の,あるいは将来的になる可能性のある労働出 国移民がいる諸国では,経済・開発戦略には貧困削減に対する出国移住の潜在的な貢献の重要性が反映され るべきである.このような戦略は,もたらされる利益を最大化すると同時に,マイナスの影響を軽減するた めに政府が採用することを意図している具体的な措置の概要を示すべきである.自らの戦略の準備において, 政府は民間部門,労働組合,現時点で移民である人たちや移民になることを志望している人たち,および海 外に散在する移民からもたらされる情報や考えから利益を得るだろう.場合によっては,このような戦略の 実施を確保するためには専用の機関が必要となる. 274 世界開発報告 2023 図 9.2 移民の出身国は貧困削減に向けて出国移住を管理できる スキルを 送金を 拡充し「頭脳 円滑化 流出」を 削減 国外に 移住を開発 知識の流れ 在住している 戦略に を促進 自国民を保護 組み込む 多くの経済移民 行先国で需要のある スキルを有する難民 高い すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 適合度 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コスト 人道的に帰国 を分担 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. フィリピンでは,政府は継続して労働移住を国家開発戦略の不可欠な部分にしてきている.そのよう な取り組みの重点は政治的な優先課題とともに変化してきているが,出国移住がもたらす複雑な影響 「フィリピン開発計画 2017  を活用ないし軽減するという決意は存続している. – 2022」は出国移住の 主流化,一時的な移動の円滑化,および移民の帰国の支援などを意図している 2. 「フィリピン開発計画 –  2023  2028」は帰国した出国移民の経済への再参入の支援と,移民とその子供たちに医療および社会 心理面でのサービスを提供することによるものを含め,出国移住の社会的インパクトの管理を指向して いる.並行的に,政府は移住にかかわる政策や規制を管理するために,フィリピン海外雇用庁と海外労 働者福祉庁という 2 つの機関を創設した.最近,両機関は単一の移民労働者省に統合された 3. 「外国居住者福利厚生・海外雇用省」 バングラデシュ政府は 2001 年に, を設置した.ここが正規および 一時的な労働移住を支援するために戦略的な企画とプログラムの作成を担当している 4.政府は将来的 に移民になる可能性のある人たちに,情報や啓蒙運動など(採用機関や安全性に関することも含む)の サービスとスキル訓練の提供も行っている.移民はひとたび海外に行くと,大勢の移民が滞在している 行き先国の大使館や領事館に設置されている移住担当随行員室にアクセスできる.しかし,このサービ スの完全な活用を確保することが挑戦課題として残っている 5. 9 勧告:移住をより良く機能させる 275 送金.送金を活用し,そのコストを削減する.送金は,医療,教育,および企業家的活動への投資を可能に する;所得の急変に対処する保険を提供する;そして送金受領世帯の公式な金融市場へのアクセスを増加さ せることによって(移民の出身国の) (被仕向 貧困を削減する. [受け取り])送金が所得の比較的な大きな割合 を占めている諸国では,送金はマクロ経済の安定に寄与し,上下変動を減少させている.送金手数料を引き 下げることと,公式経路を通じた送金を可能にすることが,国連の持続可能な開発目標で明示されているよ うに,決定的に重要である.送金コストを削減する政策には金融分野での競争の促進,新しい金融商品の導 入,特に農村部や貧困コミュ二ティにおける金融へのアクセスの拡充,それにデジタル支払技術の採用など が含まれる.これらの政策は,移民の行き先国との協力によって支援されることができる. 送金のフローを円滑化するために,20 カ国グループ(G20)は官民両部門間の調整と技術的なインフラ の改善に向けて指針(「G20 の送金フロー円滑化計画」)を作成してきている 6.指針には次のような取 り組みが含まれている:(1) 支払いの手段やシステムの提供を推進する,(2) 効率的でより安価な支払 いシステムを開発するために技術を活用する,(3) アクセスの容易性と透明性を高める 7.2021 年の 時点で,送金のコストの世界全体での平均を 10%から 5%に引き下げるという 2014 年の目標は依然 として未達成である(G20 での平均コストは 8.12%). メキシコからの移民は比較的安価な送金手数料を享受している 8.アメリカとメキシコの間の回廊が大 規模であること,および送金手数料についての競争が激しいことがその理由である.送金コストの一層 の削減を可能にする一連のより広範な金融部門改革の一環として,メキシコは 2018 年に金融技術法 を導入した.この法律は,国内の金融技術(フィンテック)サービス提供者を認定および統治し,この部 門における革新を可能にしている 9.政府はまた,メキシコとアメリカの間におけるデジタル支払いの ために,Directo a Mexico というデジタル支払いの新たな構想も導入した.また,メキシコのいく つかの銀行はオンライン・サービスを通じて移民が口座を開設し 10,このフローを容易にするために 送るお金を米ドルで預金することを可能にした 11.農村部における金融へのアクセスを改善するために, メキシコ政府は La Red de la Gente (People’s Network) program のなかで,銀行と調整を図っ てきている 12. 知識.出国移民のコミュニティを関与させて知識移転やグローバルな統合を促進する.海外に散在する自国 民の数が比較的多い国,あるいは帰国者の規則的な流れがある国では,知識の移転は国内経済を活性化する ことができる.移民や海外在住者はグローバル経済の中で自身の出身国の統合化をさらに推進することに貢 献し,貿易や外国直接投資の流れを促進することができる.大勢の帰国移民が,当人の正式な教育水準にか かわりなく,より進歩したスキルや,資産,知識を持ち帰る.このような貢献のほとんどは個人あるいは民 間グループの進取的精神に由来しており,政府がすべきことはほとんどないかもしれない.場合によっては, 政策的な介入は市場体系を混乱させる可能性がある.それでも,政府はそのような進取的な取り組みを,好 意的なビジネス環境や強固な公式金融部門への容易なアクセスを維持することや,移民を創業・新事業創出 支援に従事している利害関係者に結び付けることによって,促進することができる. ベトナムは自国の経済開発計画への貢献に海外在住者を関与させる体系を創設している 13.在外ベト ナム人問題国家委員会は,経済,科学,技術,教育・訓練,それに文化などの分野において海外在住者 との関係を活用することを任務としている.この委員会は 2021 年に,一連の法律や行政手続きの見 直しに情報を提供するために,海外在住者の意見を集める包括的な調査を開始した 14. 2020 年にモルドバは「経済に送金を引き付けるためのプログラム」 (PARE 1+1)を創設した 15.この プログラムの下で,帰国者は企業新設に際して,企業家的活動,事業開発の研修,助言や相談のサー 276 世界開発報告 2023 ビス,それに財源のマッチング(ある一定の水準までは「一対一」)など,事業の創設に向けた支援を受 ける 16.2023 年の時点で,700 人を超える帰国者がこのプログラムから恩恵を得た:1,900 件の融 (2,170 億ドル) 資契約が締結されており,3 億 9,700 万レイ が配分され,自国の経済での投資におい て 1 兆 1,530 億レイ が生み出されている 17. (6,280 万ドル) 頭脳流出.頭脳流出の影響を軽減することを含め,グローバルに移転可能なスキルの教育と訓練を拡充 18. 出国移住をする可能性のある人が行き先国で需要のあるスキルを修得する場合には,そのような人は行き先 国のニーズとのより高度な適合を経験する.より高いスキルを有する移民は,しばしば,より多くの正規の 入国経路へアクセスすることができ,行き先国の労働市場により強固な立場で参入することができ,そして より高い所得を得る.しかし,高度なスキルを持つ専門職従事者の出国移住は,特に当人が医療ケアなどの エッセンシャル・サービスの提供に極めて重要な場合には,経済的および社会的に悪影響を及ぼしうる.こ のような影響は低所得国や経済規模の小さい国にとってはとりわけ顕著である.解決策の 1 つは,該当分 野における教育や訓練を拡充することである.たとえ高いスキルを持つ労働者の一部が離国しても,残留す る人も存在し,移民を送り出す国にとってはその人数で十分であろう.挑戦課題が 2 つある.第 1 に,ス キル構築の新たな取り組みが市場主導型である――例えば,移民の出身国と行き先国の両方における民間の 雇用者との協議を通じる――ことを確保する.第 2 に,民間部門の関与を促進する,あるいは公的に資金 提供された教育や訓練を受けた移民に対してそれの部分的な返済を要請する,などによることを含め,十分 な金融資源を確保する.一部の政府は修了直後の出国移住を減らすような,公共サービスへの従事の義務化 を検討しているが,執行は多くの場合に困難である.そういった要請は,長期的には他の措置(例えば,一 部の職業における将来的な昇進や昇給の見込みに関して)を補完することによって,高いスキルを有する専 門家にかかわる国内の条件を改善できるだろう. –  2000  07 年の期間にアメリカにおいて医療従事者の需要が高まったことに対応して,フィリピンは 自国の看護教育プログラムを拡充した 19.アメリカが 2000 年に外国人の看護師とその家族向けのビ ザの入手可能性を速やかに拡大した際,フィリピンの看護プログラムにおける入学と卒業は著しい増加 を経験した 20.中等教育終了後の教育機関に在籍していた学生の一部は,看護学を学ぶために他の学 習分野から転向した.このような反応のほとんどは私立学校によって推進され,看護プログラムを新規 に開設したり,既存のものを拡充したりした.このような増進はアメリカが 2007 年以降に 2000 年 以前の水準に戻すまで続き,この期間中に,移民看護師が 1 人誕生する毎に,9 名が看護師免許の交 付を受けた. 保護.滞在している場所にかかわらず,自国民とのつながりを維持し,そして保護する.移住には,金銭的 コスト,言葉の違い,外国の文化や法制度に対する馴染みのなさ,そして時には差別や虐待など,チャレン ジとリスクが伴っている.移民はこのような課題を克服するために,友人や,家族,散在する海外在住者, 市民社会,行き先国の諸機関などの多重的な支援の手段を頼みにしている.移民の出身国の政府はそのよう な保護を,斡旋業者や他の仲介者の活動を規制することに加えて,適切な訓練を受けたスタッフを伴う利用 しやすい領事館サービスを移民に提供することによって強化することができる 21.この両方が海外在住の 自国民との絆を維持することに役立ち,このことは,外国に滞在する移民によって促進される,送金および 知識移転や,ビジネス連携,貿易と投資のフローを強化することができる. 2017 年にインドネシア政府は,労働者の保護の強化に向けて,出国移住を統治している法律を改正し た 22.新法の下では,地方政府が――民間企業の代わりに――出国前の職業訓練の提供や労働者の就 民間の斡旋業者の活動を抑制することにあった.民間の斡旋業者は, 職を監督する.この変更の目的は, 移民にかなりの手数料を課し,債務を返済するまで労働者を拘束していた 23.移民労働者の搾取を阻 9 勧告:移住をより良く機能させる 277 止するには多くの挑戦課題が残っているものの,この新法は総じてより良い保護に向かう重要な一歩で あると認められた 24. 「太平洋労働移動制度」 パプアニューギニア政府は連絡担当者の機能を, の一部に統合化することに努め ている.この制度は,オーストラリアへの労働移住を円滑化している.担当者の役割は,移民の苦情に 関する情報を収集して,それを是正のために該当主体に届けることにある. [受け入れ国] 移民の行き先国 :利益を最大化し,コストを削減する  入国移民のスキルや属性が受け入れ国のニーズに適合している場合,受け入れ国と移民自身の双方にとっ て純利益がある.受け入れ国にとっては,政策面での挑戦課題は,経済的および社会的な統合という多面的 な指針を通じて,さらに,移住からマイナスの影響を受ける自国民を支援することによって,利益を最大化 すると同時に,そのような移民を受け入れるコストを削減することにある(図 9.3).この課題は,当人のス キルや属性が行き先国のニーズに高度に適合している限り,全ての移民と国際保護を必要としている人々(難 民)に適用される. 図 9.3 移民を受け入れる国は自国の利益のために移住を管理することができる 移住を経済 労働市場の 戦略に組み込む, 包摂を促進 政策の一貫性を 確保 より高度な適合 社会的包摂を を伴う移住を奨励, マイナスの 支援,隔離を防止, 移民が正式な地位を 影響を受ける 差別を取り締まる 持つことを 自国民を支援 確保 多くの経済移民 行先国で需要のある スキルを有する難民 高い すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 適合度 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コスト 人道的に帰国させる を分担 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国 (出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる 「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.点線は,5 つの政策勧告が,マトリックスの上段の 2 つの要素の両方に適用さ れることを示している. 278 世界開発報告 2023 戦略.労働ニーズを特定および認識し,政策の一貫性を確保する.移民の行き先国の多くは,すでに高齢化 が進展しつつある(先進国),あるいは高齢化が生じ始めている(中所得国)ことから,人口構成に関する課題 に直面しており,そして労働需要の増大を経験している.ほとんどの場合,オートメーションや,出産奨励 主義的政策,教育・年金・医療ケア提供の分野における政策改革は,労働不足に取り組むには十分ではなく, ある程度の労働移住が必要になるであろう.各社会は自国の繁栄を維持できる措置の最適な組み合わせを自 移民の入国や滞在の条件にかかわること含めて移住政策が一貫していることは, ら特定しなければならない. 多くの場合に多重的な諸機関の相互間で調整が行われることを必要とする. カナダは入国移住のニーズを管理するために,事前対策的なアプローチを採用している.現在,このア プローチは「2023  – 2025 年移民受け入れ計画」の中に反映されている 25.この計画は労働ニーズの特 定に基づいている.それは医療や,専門職,製造業,技術などの主要な部門において必要とされている スキルを誘致する戦略として入国移住をとらえている.その計画は,受け入れる永住者の数について, 2023 年に 46.5 万人,2024 年に 48.5 万人,そして 2025 年に 50 万人という目標を設定している. それは,小さな町や農村コミュニティを含め,国内のさまざまな地域へ新来者を誘致することを特に重 視している. 移住政策の一貫性を慣行化し,そして移民の統合を促進するために,ポルトガルは移民に関する問題に ついて 1 カ所ですべてが済む (Centro Nacional de Apoio à Integração 「国家移民支援センター」 de Migrantes)を創設した 26.この中央機関は,入国移住に関連する広範囲にわたる政府や支援のサー ビスを,入国移民の法的地位に関係なく,1 つの機関内に持ち込んでいる.さらに,家族の再会や,法 的助言,雇用などに関する事務所の支援など,ポルトガルに在住している移民向けに,その他の関連の あるサービスの提供も行っている 27. 入国.スキルや属性が受け入れ国の固有の労働ニーズに強固に適合している労働者による入国移住に対して インセンティブを創設する.多くの諸国は,正味の貢献者になる可能性がある人を優遇するという考えを持っ て,移民が自国領土内に立ち入るのを規制する制度を確立している.しかし,このような制度の成功の程度 はさまざまである.例えば,高等教育を受けた入国移民の半数以上は,オーストラリア,カナダ,イギリス, およびアメリカというわずか 4 カ国に在住している.加えて,移民の行き先国の多くは,低スキル労働者 に対するニーズが満たされていない.可能な政策措置としては,雇用者やその他利害関係者との協議の中で, 労働ニーズを特定するための包括的なプロセスを整備することや,特殊な労働ニーズに対応した合法的な入 国経路を確立すること,などがある. アメリカには一時的なものと恒久的なものの両方を含めて,185 種類ものビザのカテゴリーがある. さまざまなものがある中で,それには特に恒久的な高スキル労働者,季節的な農業労働者,家族再会, そして人道的根拠による一時的滞在のためのビザが含まれている.労働市場のニーズを満たすために, (H1B) 高度に専門的な分野で雇用される人のためのビザ ,特定の分野において並外れた才能を持って (EB1) いる人のためのビザ (EB5) や潜在的な投資家のためのビザ ,そして社内のマネジャーないし役 員(L1)のためのビザなどがある.しかし,さらに,低スキル労働者(EW3)のためのビザもある.この 制度は面倒ではあるものの,広範囲にわたる多様な状況やニーズに対して,微妙な相違にも包括的に対 応することを可能にしている. 移民を選定および許可するオーストラリアの制度は,雇用者との協議に依存している 28.その制度は, 変化し続けるニーズや挑戦課題に対応するために定期的に調整されている 29.オーストラリアは「技術 独立 」 (Skilled Independent)というルートによって高いスキルを有する移民を引き付けるために,ポ 9 勧告:移住をより良く機能させる 279 イント・ベースの制度を早期に採用した国の 1 つであった 30.このシステムの運用が開始されて以降 の最初の数年間においては,オーストラリアにおけるポイント制の検査を受けた移民についての雇用の 成果はプラスであったが,最近の移民労働者については低下がみられている.これはポイント制が経済 のニーズの変化に十分に速やかには調整されなかったからであった 31.このことに対応して,政府は, 特に低スキルの移民について,滞在のより恒久的な形式のビザを発給する前に移民のスキルや属性が労 働市場のニーズに適合していることを検証および確保するための手段として,短期滞在ビザの発行数を 拡大した.雇用先を発見し,そして統合することができる短期滞在の移民に対しては永住ビザが交付さ れる.他方で,一部の政策担当者は最近になって,この制度を改善するために,さらなる改革を要請し ている 32. 地位.スキルや属性が行き先国のニーズに強固に適合する移民に正式な地位を与える.関連する権利と確実 な滞在条件を伴う正規の法的な地位は,移住先国において,短期である場合でさえ,移民が統合するための 前提条件である.そのような地位を――待機時間を延長することなく――与えることは,移民に,社会的に 統合するだけでなく,必要なスキルと現地の言葉を学習する動機を与える.そのようなアプローチは移民本 人だけでなく,受け入れ社会にとっても利益になる.移住先の国民の権利と同じで,かつ国際労働機関(ILO) の (に関する宣言) 「労働における基本的原則及び権利」 に沿った労働権は,移民の福利,および行き先国経済 に対する移民の貢献の両方を最大化するための鍵である 33.雇用者に結び付けられていない地位は,企業 間の移動を可能にする.さらに,それは,受け入れ国経済にとってより効率的であり,搾取的な労働条件の リスクを削減する 34.移民の福利と包摂の一定部分は,彼らが自活できることを証明したときに家族と再 会できるかどうかにもかかっている. 2004 年に韓国は雇用許可制を創設した.それは低スキル労働者が韓国に合法的に入国し,そして働く ことを可能にする 35.2022 年の時点で 26 万 4,000 人以上の移民が,そのようなビザで韓国で働い ていた 36.このシステムが導入されて以降,外国人労働者を採用するコストが大幅に低下し,同時に, 移民世帯は貯蓄に加えて,教育と医療への支出を大幅に増やしている 37. UAE での経験は,移民は単に地位だけでなく,一連の労働権も必要としていることに光を当てた. 2022 年に,UAE は労働法制を改訂した.今では,移民が雇用者ないし保証人を変更した場合でさえ, 労働法制は移民に自らの法的地位を維持する権利を与え,さらに労働契約失効後の 180 日間について は,仕事を探すために国内に滞在することを許可している.労働条件の改善に向けて行うべき多くのこ とが残されているものの,改定された法制によって,労働者は契約更新をよりうまく交渉し,より高い 賃金を得ることが可能となった 38. 経済的包摂.経済と労働市場の包摂を促進する.ディーセントな仕事へのアクセスは,移住がもたらす移民 と行き先国経済の中期的な利益にとって極めて重要である.労働市場の包摂は,受け入れ国の社会の経済条 件,および需給に速やかに適合する労働市場の柔軟性に主に依存している.それはまた,移民のスキルと移 住先国ですでに入手可能なスキルとの補完性にも依存している.高いスキルを有する労働移民は,典型的に は,当人の教育の程度や専門的な資格が承認されるための支援を必要とする.低スキルの移民,特に低所得 や下位中所得の諸国に移動する移民は,とりわけ,仕事が存在する国内の場所に自由に移動する,銀行口座 を開設する,運転免許証を取得する,そして会社を設立する,ことを可能にするような労働権やさまざまな 付随的な権利を必要とする.移民を可能性のある雇用者に引き合わせる,あるいは言語習得を促進する,な どの支援プログラムも移民の生産性を向上させる. ドイツはスキルの一致を改善し,外国で承認された資格を持つ入国移民が直面している不利を削減する 280 世界開発報告 2023 ために,外国資格承認制度を実施してきている.外国職業資格認可に関するドイツの連邦法の下で,見 自国で取得済みの自分の資格を評価してもらうことができる. 込みのある移民はドイツに到着する前に, 認定されてから 3 年後,資格が認定された移民はそのような資格を持っていない他の移民と比較して, 給与は 19.8%多く,そして雇用される機会は 24.5%ポイント多くなっている 39. アメリカでは,数州が入国移民の経済的包摂を促進するための政策を採用している 40.例えば,コロ ラド州とペンシルベニア州 41 は,移民労働者に対して,コロラド州では特に農業労働者に対して 42, 不公正な労働慣行を排除するなど,安全基準と保護措置を制定している. 社会的包摂.隔離を防止し,サービスへのアクセスと包摂を促進する.社会的包摂は,移住の特性――永続 的かあるいは短期的か,家族を伴っているか否か――と,行き先国における社会契約の性質によって,さま ざまな形態をとりうる.往々にして,労働市場への包摂と差別をなくすことに向けた取り組みは社会的包摂 に向けて大きな役割を果たす.包摂に向けた他の手段として,好ましさの劣る近隣地区に大勢の移民を隔離 することの防止や,日常の市民生活において移民と受け入れ地域の住民が相互に関与する機会の拡大などが ある.教育や医療ケアなどの公共サービスへのアクセスを移民に提供することは包摂を促進し,周縁化のリ スクを削減する.質を維持しながらサービス提供能力を拡大するためには,多くの場合に専用の財源が必要 になる.並行して,多くの移民が,公然と,あるいは間接的に,人種主義,外国人嫌悪,あるいはその他の 形態の差別に由来する挑戦課題に直面している.移住問題に関して建設的な話し合いを築くための政治的指 導力が鍵であり,差別を取り締まるプログラムは,各々の背景や一連の状況に合わせて調整される必要があ ろう. ドイツでは,2015 年にシリア難民や他の亡命希望者が到着したことの結果として,政府は社会的包摂 を支援するためにさまざまな措置を採択した.経済的包摂はそのような広範な社会的包摂にとって決定 的に重要な要素としてみられているが,それは,語学研修コースや,医療および教育制度への速やかな 受け入れなどのさまざまな政策やプログラムによって補完されてきてもいる.このような取り組みにお いては,分権化が重要な役割を果たしてきている.相当な圧力の下にあるにもかかわらず,地方[下位 国家]政府は,現地のコミュニティの懸念事項を含め,出現してくる挑戦課題に取り組むことにおいて 最適な立場にあることが判明している.政治的なリーダーシップと透明な意思疎通,政策分野の全体に わたる総合的な対応策,そして市民社会の関与も成功にとって役に立った 43. コロンビアでは,政府はベネズエラ移民に関する否定的な見方に先手を打ち,そして対抗するために, 2021 年に全体的かつ統一された意思疎通戦略を採用した 44.この戦略は,さまざまな手段の中で, 政府や同盟パートナー,ソーシャル・メディアによる運動,インフレエンサーや著名人を通じたアウト リーチ,それに多様な主体との公開討論によって使われる,さらに文化的なイベントや食通イベントに おいても使われる,移民に関する物語を頼りにしていた. 影響を受ける自国民に対する支援.移住からマイナスの影響を受ける自国民を支援する.移住は移民の移住 先国の一部の市民の雇用や賃金に悪影響を及ぼしうる.移民のスキルと類似しているスキルを持つ人たち, 比較的低レベルのスキルを有する人たち,あるいは移動が容易にできない人たちなどが特に弱い立場にあり, 一部の人は,仕事を失う,あるいは受け取る賃金が減るかもしれない.労働市場が柔軟であれば,人々は他 の仕事,職業,産業,あるいは地域にうまく移動することができ,悪影響はより速やかになくなる.失業保 険や,訓練補助金,雇用支援プログラムなどの社会的保護制度も助けになる.しかし,影響を受ける自国民 は典型的には移民の集中度が高い地域の近隣で生活してもいる.移民が利用する公共サービス――学校や医 療施設など――はしばしば圧力に直面し,その圧力は質に影響を及ぼしうる.そのような状況下で,自国民 9 勧告:移住をより良く機能させる 281 に対するマイナスの影響を防ぐためには,事前対策的な公共投資政策が必要である. 多くの OECD 加盟国において,政府は市民がショックに対処するのを支援するための多様な手段を用 いている 45.積極的労働市場政策 (ALMP)を含め,多くのプログラムは , 可能なところでは,雇用を 促進することを意図して設計されている 46.強固な社会的保護制度は個人が物理的および人的な資本 へ投資するのを可能にすることによって,経済的な生産性を押し上げることができ,そして,そのよう な制度は特定のグループを対象にすることが可能である 47.またそれは,経済活動を支援することによっ て,需要を増やし,地方経済を刺激することもできる 48.にもかかわらず,激しさを増す国際競争か ら影響を受ける労働者に向けて金銭や訓練の支援を提供する貿易調整支援プログラムからはいくつかの 教訓を学ぶことができる.すなわち,多くの場合に調整は難しく,何年も要するかもしれない 49. 低所得の地域は,多くの場合に大きな割合の移民を含んでおり,そのような地域への公共投資を支援す るために,フランスは対象を絞った 「都市政策」 (Politique de la Ville)プログラムを実施している 50. このプログラムには,例えば,公営住宅や公共輸送などに対するインフラ投資が含まれている.また, 「優先的教育地帯」に配属された教員に対する賃金プレミアムを通じることを含め,公教育を改善するた めの専用の取り組みが並行的に行われている.会計検査院による最近の評価は,ある程度の進展は指摘 しているものの,さらに取り組む必要のある分野も強調された 51. 二国間協力:移民のスキルや属性の適合を強化する  国際的移動性には少なくとも 2 つの国が関与することから,二国間協力はそれを有効に管理することに 役立つであろう(図 9.4).労働移住は多くの場合に組織立っておらず,個々人の選択,非経済的な要因,そ れに労働市場のニーズではなく積極的に働きかけるブローカーが薦める行き先の選択などに基づいている. 特定の部門やスキル群が余剰となっている国と不足している国が組み合わさる場合には,大きな利益となる だろう.しかし,EU 内における域内自由移動制度などの注目を集めている例外はあるものの,移住政策は 通常は受け入れ国によって一方的に設計され,そして実施されている.互恵的な移動の体制を構成するため に共同で政策を設計および実施することは,実質的な利益を生み出すことができる. 二国間労働協定.互恵的な移動を促進する.移民の出身国と行き先国の間の協力は二国間協定を通じて公式 化できる.各国は典型的には二国間労働協定を一時的な移住制度という背景で考えている.承認の複雑性と コストを削減するために移民が入国を許可される条件を具体的に示す,虐待や搾取に対抗する法的保証と保 護を提供する,そして行き先国におけるさまざまなサービスの利用を規定することによって,そのような協 定は両当事国――および移民本人――にとって移住の利益を増やす.二国間協定は国際労働基準に沿って是 正や検査の仕組みを含んでいるべきである.適切であれば,それは,他にも目的がある中で,仲介に際して 政府を関与させる 52,あるいは斡旋業者間での透明性や競争を奨励することによって,採用コストを削減 するためにも利用することができよう.移民の出身国によるさまざまな補完的な取り組み,例えば,自国民 に保護を提供するために在外大使館に労働担当官を配置することや,離国前に人々が移住の準備をするのを 支援するための研修プログラムを開発することなど,によって二国間労働協定を支援することができる 53. 移民の受け入れ国の一部は,非正規な移民の強制的な帰国を受け入れることに関して,正規移民のための合 法的経路の創設を,移民の出身国による協力に結び付けることを追求してきている. カナダの季節的農業労働者プログラムは,6 週間から 8 カ月にわたってカナダの農場での仕事に毎年 2 万人の労働者を動員している.このプログラムによって,アンギラ,バルバドス,ジャマイカ,トリニダー (OECS) ドトバゴ,そしてメキシコに加えて,東カリブ諸国機構 の加盟国は労働契約条件を毎年交渉 することが可能となっている 54.労働者には最低賃金ないしそれ以上の賃金が支払われる.また,労 282 世界開発報告 2023 図 9.4 二国間協力は移民のスキルや属性と受け入れ国のニーズとの一致度を改善できる 二国間 労働協定を通じて 互恵的な移住体制を 構築する 多くの経済移民 行先国で需要のある スキルを有する難民 高い すべての人を すべての人を スキル承認と 対象に利益を 対象に利益を スキル開発を通じて 最大化する 最大化する スキルの適合度を 向上させる 適合度 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コスト 人道的に帰還 を分担 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 働者は健康保険,年金プラン,およびその他の付加給付への加入について適格となり,納税を行う 55. 仮に政府機関や労働団体の注意を引く問題を起こすことがあれば,労働者と雇用者双方が将来的にプロ グラムへの参加が禁止される可能性がある 56.しかし,本制度は,移民の特定のスキルの認定に関す る規定が無い,および労働者の権利保護に関する協力が無い,という点で批判されてきてもいる 57. マレーシアとバングラデシュは 2012 年に了解覚書に調印した.これはバングラデシュ労働者がパー ム油部門で働くために,マレーシアに合法的に移住するのを円滑化している外国人労働者プログラムを 調整するものであった.このプログラムは 2013 年初めに開始され,マレーシア側によって 2018 年 に終結させられた 58.本プログラムの恩恵を受けた労働者は 1 万人以下であったものの,プログラム 参加者は所得が 3 倍になり,1 人当たり消費は 22%増加した 59. スキルに関する提携. グローバル グローバルに需要のあるスキルを構築するために協力する. ・スキルズ・パー トナーシップ(GSP)に関するいくつかの試験的な制度が開発されており,これによって,移民の行き先と なっている高所得国の政府ないし民間部門は,プログラムの修了者には労働ビザを取得する機会が提供され るという相互理解を得て,移民の出身国におけるスキル構築プログラムに資金提供を行っている 60.この –  プログラム修了者の一部は,本国にとどまる,あるいは 2  3 年間移住した後に出身国に帰国することを選 択している.このことは,移民の出身国の経済に貢献するとともに,起こりうる頭脳流出に対する懸念を軽 減している.このようなプログラムは高スキル労働の各国間移動や労働市場への円滑な包摂を促進している. 9 勧告:移住をより良く機能させる 283 しかし,このプログラムが需要および市場駆動型であり続けることを確保するためには,民間部門が関与す る必要がある.移民のスキル水準に見合った雇用を円滑化する,地域を基盤とする資格認定の枠組みを通じ るなど,地域的なレベルで補完的な措置を取ることが可能である. カリブ共同体(CARICOM) (CSME) に加盟している 15 カ国は,カリコム単一市場・経済 という構想 の下で,スキルの相互承認の制度を策定している 61.この制度においては,一連の承認されているカ テゴリー 62 に当てはまり,かつ SCME に参加している他の加盟国で働くことに努めているカリコム 「カリブ共同体スキル資格承認証書」 加盟国の国民は, (スキル証書)を申請できる. ドイツとエチオピアの間での試験的なプログラムにおいて,ノルトライン=ヴェストファーレン州の建 設会社の上部組織である Bauverbände NRW は,ドイツの職業・訓練制度にエチオピアの若年失業 者を受け入れるために,エチオピアにある現地のパートナーのネットワークと提携している 63.見込 みのある研修生にはドイツ語や文化の授業が提供される.修了と同時に,参加者はビザ,交通費,そし て健康保険を受け取り,そのことによって,ドイツで職業訓練を完了させ,ドイツで雇用者を探すこと ができるようになる 適合の程度が低く,恐怖が移動の動機である場合:責任の共有を通じることを含め, 難民受け入れの持続可能性を確保する  人々が行き先国で需要のあるスキルや属性を持ち込まない場合,受け入れ国が負担するコストは多くの場 合に利益を上回る.しかし,国際法の下では,移民の行き先国は,コストにかかわらず,移民の出身国にお いて迫害や暴力という「十分に理由のある恐怖」を経験している人々――難民――を受け入れる義務がある. したがって,取り組むべき課題は,そのコストの管理をすることである.難民という状態は数年間,あるい は数十年間にもわたって続く傾向があることから,政策立案を慎重に行うに際しては,財政的にも社会的に も,長期間にわたって維持可能な国際的保護を供与することに向けたアプローチを採用する必要がある.難 民とそれを受け入れるコミュニティの両方にとっての経済的成果は,責任の公平な共有における国際社会の 実効性に加えて,大まかには受け入れ国の政策によって決まる. 受け入れ国:中期的視点をもって難民状態を管理する –   ほとんどの難民は安全を求めて避難していることから,国境を 1 つ越えるだけである.その結果,2  3 カ国――典型的には移民の出身国の近隣に位置する低・中所得国――が国際的な保護を必要としている人々 の不釣り合いに大きな割合を受け入れている.そのような難民受け入れ国にとって,挑戦課題は何年も続き うる状態を管理することにある――すなわち,国際的保護を提供することに加えて,難民固有の脆弱性への 取り組みと,自国の開発に向けた取り組みの中で受け入れコミュニティに対する支援も行うことにある(図 9.5).難民受け入れ国は危機が発生した時点から,制度の仕組みや,資金面の準備を含め,中期的な開発 の視点を取る必要がある.また,難民のスキルや属性と自国の労働市場のニーズとの一致度を高めることも 目指すべきである.そのためには国内の自由移動を許容し,労働市場へのアクセスや自立を支援し,国のサー ビス提供システムへの難民の包摂を促進することが必要である. 制度と手段.制度の仕組みや資金提供手段が中期的な枠組みを支援することを確保する.受け入れ国にとっ て,制度の適切な配置が中期的視点で難民状態を管理するためには不可欠である.一部の諸国は,しばしば 海外からの支援を受けて,難民キャンプを管理し,援助を提供し,そして教育や医療のサービスを提供する 特別な機関を創設している. 関係する部門別省庁を通じて, 他の諸国は, このような機能を主流化しつつある. その際には,幅広い戦略的アプローチを背景としてそのような明確に異なるプログラムの一貫性を確保する 284 世界開発報告 2023 図 9.5 難民受け入れ国は危機の発生時点から中期的な視点を採択するべきである 多くの経済移民 行先国で需要のある スキルを有する難民 高い すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 制度の配置 に向けたものを含め, 中期的な視点で 管理 適合度 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 国内の移動を 持続可能性を 円滑化 移動の必要性を削減, 受け入れ,あるいは 確保,コスト 人道的に帰還 を分担 低い 難民が 働くことを可能にし, 移住先国 本国に 自立を支援 動機 における機会 おける 恐怖 (教育や医療などの) 国のサービスに 難民を包摂 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. ために比較的小規模な調整機構を用いている.そういったモデルは長期的な取り組みの持続可能性にとって 典型的にはより助けになる.場合によっては,それには事前準備の要素を含めることもできる.例えばそれ は,難民危機が発生しそうな場合や慢性的になりそうな場合である.しかし,そのようなモデルは,外部か らの資金提供を含め,中期的な融資手段を通じて支援される必要がある. コロンビアはベネズエラの移民危機に対応するために中期的な戦略を実施している.政府は 2018 年 に (COBPES 3950) 「ベネズエラ出身の移民に対応するための戦略」 を採択した.この戦略は,サービ スの提供という重要な分野において制度面の調整を改善することに対する政府の公約を確認している. 政府は対応策を調整し,ベネズエラ移民の地位と市場やサービスへのアクセスを合法化するために,国 境管理局(Gerencia de Frontera)も創設した 64.2021 年 3 月に,政府は自らの戦略において新し い段階に着手した.その段階においては,コロンビアに滞在するベネズエラ難民に,10 年間にわたる (Estatuto Temporal de Protección para Migrantes Venezolanos, ETPV) 一時的保護の地位 を 提供することを含め,彼らを長期的にはコンロンビアに統合化することに焦点を合わせている. –  ウガンダは,2016  –  20 年,および 2021  25 年「国家開発計画」の下で,難民を国家の開発計画のな かに組み込んだ最初の国の 1 つである 65.政府は,難民と受け入れコミュニティのための統合された 開発ソリューションを提供するために,政府の省庁,部局,および関連機関を関与させる政府全体とし てのアプローチを採用した.国家開発計画は人口全体――ウガンダ国民と難民の両方――に対応するた めに,地区レベルの介入策を想定している.また,ウガンダは事前準備の取り組みの一環として,住人 の新たな流入を吸収する能力の強化に向けて努力することにおいて先駆者にもなっている. 9 勧告:移住をより良く機能させる 285 国内移動性.経済的機会に向けた難民の移動を円滑化し,奨励する.難民を国境地帯――経済的に後れてい ることが多い――に留め置くことは,受け入れ国の人々が受ける圧力をしばしば高めており,資金調達の必 要性や社会的緊張を増大させている.対照的に,国内移動性(「ホスト国内における移動の自由」とも言われる) を許可することは,難民状態の管理とその成果を転換する可能性がある.難民が仕事を見付けられる可能性 のある場所に自由に行くことができる場合には,難民のスキルや属性は,難民の行き先の社会のニーズによ り密接に適合し,難民が最初に到着した地域のコミュニティが受ける圧力は劇的に下がり,そして難民支援 の財政的なコストは減少する.しかし,難民が国全体に分散される場合,国内移動性を認めることは,国際 的保護を提供する方法や,難民を支援する方法の再検討が必要になる可能性がある.このような再検討は, 典型的には,政策や国の制度をより一層重視して行われる必要がある. コロンビアは戦略の一環として,ベネズエラ難民に国内で自由に移動し,そして仕事をする権利を与え ている.このような権利によって,ベネズエラ人は,自分のスキルや属性が労働市場の需要に一致し, したがって地元経済に貢献し,自給自足できる場所で自身を確立することが可能となる.国際通貨基金 (IMF)の推定では,この政策は,コロンビアの GDP を 2030 年までに 4.5%ポイントまで押し上げる 可能性がある 66. トルコでは,シリアの難民のほとんどが,危機の初期段階ではトルコとシリアの国境に沿って建設され た大規模な一時的な収容センターに居住していた.難民の数が増加し続けたことから,トルコ政府は収 容政策を アプローチに変更した.このことによって,難民はトルコのほとんどの地域を自 「キャンプ外」 由に移動することが可能となった.そして,難民は経済的なインセンティブや場所の好みに基づいて転 居を開始した.これを受けて,国境地帯から難民が自己のスキルをよりうまく活用できる,より活動的 な地域(大体が西部地域と大都市圏)に向かう大規模な移動が発生した 67.このような移動を管理する ために,政府は各地域に住むことができる外国人の割合について 20%の上限を設定した.そのような 制限にもかかわらず,国内移動性は難民の経済状態を大幅に改善し,その結果として,トルコ政府に対 する財政面のインパクトが削減された. 自立 .難民の仕事へのアクセスを促進する.難民の自立は,財政援助の必要性を低下させ (Self-Reliance) る.またそれは,難民が尊厳のある生活を送り,恒久的な解決に向けて準備をすることを可能にする.自立 は次のような法的および規定上の諸措置を頼りにすることになる.それは,難民が将来に向けて計画を立て, そして投資を行うことができるように,難民に予測可能で確実な滞在の条件を提供する;労働市場への妨げ のないアクセスとともに,難民にできるだけ早期に労働の権利を与える;そして銀行口座の開設や運転免許 証の取得を可能にすることなどによって,難民が労働市場に効果的に参加できるようにする,などである. しかし,このような権利はもし奨励策が整備されていなければ,十分でないかもしれない.難民は働くこと を奨励されるべきであり,人道的援助は働くことができない人々に焦点を合わせて行われるべきである.民 間部門を対象にした補完的な奨励策は,難民が仕事を見付けられる環境を改善することに資するであろう. ウガンダは長期にわたって,農業経験のある難民世帯に農業用の土地区画を提供することによって,難 民の自立を奨励してきている 68.この政策は受け入れコミュニティの支援や,受け入れコミュニティ は当該地域への公共投資から利益を享受できるという理解と共に実施されてきている.その政策は,難 民の外部からの援助への依存度を減らすことに役立っている.そうではあるものの,貧困率の高い状 態は続いており――そしてその割合は自国民よりも高い 69.難民の貧困率が高いことは,部分的には, 社会的および言語的な障壁に加えて,難民が受け入れられている領域が遠隔地であることや,多くの世 帯における人口動態的な構成 (生産年齢男子の多くは母国に留まっている)と関連がある 70. 286 世界開発報告 2023 2022 年にロシアがウクライナに侵攻した後,ポーランドに移動したウクライナ人は,ポーランドでの 最低 18 カ月間の滞在が保証された.そして,公式部門での雇用,事業の開始,そして訓練サービスや 就職斡旋支援を受けることが可能となった.また,医療ケアを含め,選ばれたいくつかの社会的保護プ ログラムを利用することが可能となった 71.2022 年 6 月の時点で,この政策の下で,18 万 5,000 人のウクライナ難民が仕事を見付けることができた 72.ただし,難民が保育や学校教育を利用し,そ してスキルのミスマッチと言語の障壁の組み合わせを克服するのを支援するために,追加的な取り組み が必要とされている 73. 国によるサービスへの包摂.国の制度を通じて教育,医療,および社会のサービスを提供する.自国民との 公平性を確保し,社会的緊張が生じるのを防ぐために,難民は教育,医療,および社会のサービスの提供に 向けて,可能なところでは国の制度に組み込まれるべきである.これは,並行的なサービス提供制度を創設 することとは対照的である.国の制度に組み込むというアプローチは,一部の国では国のそのような制度を 強化する必要が生じるであろうが,それらのサービスの提供にかかわるコストを大幅に引き下げることがで きる.十分な制度的能力を持っている諸国では,最も脆弱な難民を対象にした支援でさえも,並行的な人道 的資金提供を通じてではなく,通常の社会的保護制度を通じて供与することができる. 「難民宣言」 エチオピアでは,2019 年の は,自国民と同等の公教育へのアクセスを難民に対して提供し 「教育部門開発計画」 ている.第 6 次 –  (ESDP Ⅵ , 2020  25) 難民の教育が含められている. には初めて, エチオピアは,難民の教員に対する労働許可証の発行,難民収容地域におけるエッセンシャル・サービ スの構築と改善,そして教育制度の全てのレベルにおける難民の子供たちの在籍者数の拡大,について も誓約している 74.付け加えると,2022 年 6 月の時点で,国全体では,約 1,500 名の難民が 40 校 の公立大学に入学していた 75. ポーランドでは,働く権利が与えられることに加えて,ウクライナ人は,無料の医療ケアを含め,公共 サービスを利用する権利や,子供を就学させる権利が与えられている.2022 年 9 月の時点で,ウク ライナ難民の約 18 万 5,000 人の子供たちがポーランドの学校に登録されていた 76.このような学校 の一部は,ウクライナ人生徒のために別のクラスを開設する,あるいはウクライナ語を話し,追加的な 助けを必要としている子供たちと一緒に学習できるアシスタントを雇う,などを行っている. 多国間での協力:責任の共有  難民の受け入れに向けた努力の持続可能性を確保するためには,相互の説明責任と協力の枠組みが極めて 重要である(図 9.6).難民が避難する原因となった状態――典型的には紛争――を解消し,難民が出身国に 帰ることができる条件を回復するためには,多くの場合に国際的な努力が必要とされる.規範を強化し―― それが経済面と開発面の考慮事項を反映していることを確保し――,そして共通の目標について合意するた めに,並行的な努力が必要とされている.そのような取り組みは,改革の推進力と持続可能性を国レベルと 国際的レベルの両方で強化することができる.焦点を合わせるべき 2 つの重要な分野は,責任の共有―― 受け入れ諸国に十分な支援を提供するための――,および解決策――難民状態を満足できる形で解消するこ とに役立つような――である. 責任の共有.大規模な難民フローを管理し,受け入れに関わるコストを共有するために力を合わせる.責任 を共有するには,難民を受け入れている国々,そのうちの特に低・中所得国に,資金,およびその他の資源 を提供する必要がある.それは,スキルや属性が受け入れ国の経済のニーズとうまく一致しないであろう難 民を受け入れることにかかわるコストを管理するためである.難民にとっての当初の行き先ではなかった諸 国は,主要な受け入れ国のコストの削減を支援するために,自らが受け入れる難民の人数を増やす必要があ 9 勧告:移住をより良く機能させる 287 図 9.6 難民の受け入れに向けた努力の持続可能性にとっては多国間での協力が鍵となる 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 適合度 多くが非正規である 多くの難民 移動先での定住, 困窮移民 資金提供,および 地域的調整を通じた 責任共有の強化 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コスト 人道的に帰還 を分担 国家保護と 低い 機会へのアクセスの 両方を提供する 解決策を支援 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. る.国際社会のなかにはさまざまな緊張関係が存在するという状況下では,グローバルな措置は地域的な新 たな構想によって補完される必要がある.成功した新しい試みが共通して重視しているのは,集団的に管理 できる一連の具体的な問題,広い範囲にわたって類似する挑戦課題や視点を共有し,かつ協働した歴史があ る諸国の支持層,そして,実際的で行動指向型のアジェンダである.協力および相互説明責任のための二国 「難民に関するグローバル・ 間ないし多国間の枠組みについて,追加的な形式が出現してきている.例えば, コンパクト」は特定の難民状態について志を同じくする利害関係者を動員するために,地域的な支援のプラッ トフォームを設立した. グローバルなレベルでは,「難民に関するグローバル・コンパクト」はさまざまアプローチを用いて責任 の共有を強化するよう要請してきている 77.しかし,貢献国の基盤を拡大することを含め,行うべき 多くのことが残っている.二国間援助の全体のほぼ 3 分の 2 は,3 つのドナー(EU 機関,ドイツ,お よびアメリカ)が占めている 78.また,行き先国での定住[第三国定住]については,全体のほぼ 4 分の 3 は,4 カ国(カナダ,ドイツ,スウェーデン,およびアメリカ)が占めている. キト・プロセス(Quito Process)の下で,ラテンアメリカ諸国のグループは 2018 年 11 月に,情報 交換と地域的な政策調整に基づく,ベネズエラ移民危機に対処するための地域的な移動性制度について 合意した 79.このキト宣言に署名したのは次の 11 カ国である:アルゼンチン,ブラジル,チリ,コロ ンビア,コスタリカ,エクアドル,メキシコ,パナマ,パラグアイ,ペルー,およびおウルグアイ.こ の宣言によって,各国のアプローチについて,ある程度の一貫性を達成することや,大規模なベネズエ ラ移民が最初に到着する国の枠を越えて,受け入れに関する責任を共有することが可能になった.ベネ ズエラ移民は,コロンビアや他の近隣諸国を越えて,この地域全体にわたる他の行き先国へ移動してい る. 288 世界開発報告 2023 解決策.国家的な保護と機会へのアクセスを組み合わせる.解決策は典型的には,自発的な帰国と再統合, [第三国定住] 現地での統合,および移動先での定住 などに焦点を合わせて,保護の厳密な条件の中で立案さ れている.しかし多くの場合,そのような解決は達成が困難であり,常に難民の経済的ニーズや切望が考慮 に入れられているわけではない.状況が許すときには,難民の避難を促した状況がひとたび解消された場合 には自発的に帰国することを含め,難民受け入れ社会は,難民が恒久的な解決策を達成するのを支援するた めに,移民の出身国や国際社会と協働することが可能である.革新的なアプローチも成果の改善に役立ちう (政治的および社会経済的な権利) る.そのようなアプローチとして,市民権や居住権 にかかわるもつれを解 決する,あるいは,例えばグローバル・スキルズ・パートナーシップを通じて,難民のスキルや属性を強化 する,などがある. (プライベート・スポンサーシップ) 1979 年に採択されたカナダの民間難民受け入れ プログラムは,カ ナダの難民・人道的プログラムの下で,難民として認定される特定の個人ないしその家族をカナダ国民 が定住させるのを可能にするものである.政府によるプログラムの下で定住した人たちに加えて,民間 の後援を得た難民もカナダによって受け入れられている.支援グループは,難民に定住援助と,後援期 間――通常はカナダに到着してから 1 年間――にわたって必要とされる物的および金銭的な支援を提 供することに責任を負っている 80. (ECOWAS) 1979 年に西アフリカ諸国経済共同体 はこの共同体の加盟諸国の全体にわたる移動と諸国 内での定住の自由を円滑化する協定を正式に採択した 81.この協定とそれに続く議定は,ECOWAS 市 (非差別の原則に加えて,営利企業や会社の設立 民に,他のあらゆる ECOWAS 加盟国に居住する権利 を持って入国する権利を与えている.国連難民高等弁務官事務所と および経営が可能であることを含む) ECOWAS は,この協定は難民にも適用されると述べている 82.一部の加盟国は,ECOWAS 市民であ る難民が滞在するのを正規化することに消極的であった一方で 83,コートジボワールや,リベリア,シ エラレオネ,トーゴからの多くの難民は出身国に帰国せずに,他の ECOWAS 加盟国にとどまることを 選択している 84.この協定の実施は行政能力や他の挑戦課題が理由で遅れているものの,このような法 的枠組みは,状況次第では長期にわたる難民の地位に対する代替策を提供する可能性がある 85. 適合度は低いが恐怖が動機ではない場合:尊厳を尊重し困窮移動の必要性を削減する  人々が行き先国で需要されているスキルや属性を持ち込まない場合,受け入れ国のコストは多くの場合に 利益を超過する.加えて,そのような人たちが出身国における暴力や迫害に関する十分な理由のある恐怖の 故に移動しているわけではない場合には,国際法の下ではそのような人の行き先国に自国領土内に彼らを受 け入れる義務はない.そのような困窮[苦難の中での]移動は当事者の苦難と関連しているため,移民の行き 先国に,政策にかかわる難しい挑戦課題を提起する.困窮移住の途上にある人たちは人道的に扱われるに値 する.究極的には,挑戦課題は,移民のスキルや属性と行き先国側のニーズとの一致を強化することによる 場合を含め,そのような移動の必要性を削減することである.このことは,移民の出身国,移民の行き先国, そして通過国による諸措置の組み合わせを必要とする. 移民の出身国:開発を活用して困窮移動を削減する  移民の出身国にとって困窮移住は総合的に何の利益ももたらさず,そしてそれは高いリスクを取り,最終 的に搾取的な状況に陥る可能性のある多くの移民にとって有害である.経時的には,開発は困窮移動の必要 性を削減する.それが可能となるのは,強靭性を強化し,そのことによって高いリスクの国際的な移住に関 与する必要性を生じさせずにショックを吸収する能力を高めること;移住する可能性のある人たちのスキル を向上させ,そうすることによって行き先国の経済のニーズに対する移民の適合度を改善すること;そして, 9 勧告:移住をより良く機能させる 289 図 9.7 開発の進展は苦難の中での国境を越える移動の必要性を減らす 多くの経済移民 行先国で需要のある スキルを有する難民 高い すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 社会的保護や 国内移住の機会を 適合度 通じて強靭性を 高める 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 スキルの構築, 移動の必要性を削減, 持続可能性を および向上 受け入れ,あるいは 確保,コスト 低い 人道的に帰還 を分担 包摂的で グリーンな開発を 移住先国 本国における 動機 促進 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 移民の本国の経済状況を改善し,そうすることで絶望的な移動に乗り出す必要性を削減すること, (図 による 9.7). 強靭性.社会的保護を強化し,国際的移住に対する国内の代替策を創出する.すべての所得水準にわたって, 多くの諸国が社会的保護制度を発展させてきている.このような制度は,高いリスクの移住に従事するよう 人々に加わる圧力を削減することに重要な役割を果たしており,より一層強化することが可能である.その ような移動は,自然災害,ある季節における凶作,家族の感染症罹患,あるいは事故などの突然のショック に対する絶望的な反応として生じる.経済開発は国内移住のための追加的な選択肢を生み出すことができ, そのことによって,人々は高いリスクの国際的移住に関与する必要がなくなる.例えば,多くの低所得国で は,労働者や世帯は,より良い仕事や公共サービスを求めて,農村部から都市部へ,あるいは不況地域から 好況地域へと移動している.そのような移動は,もし成功すれば,困窮移住の必要性を減らすことができる. そのような移動の成果は,大体において,移民の行き先である地域の統治や制度に加えて,インフラや,住 宅,サービス提供などの面で,その地域が大規模で連続する人々の流れを収容できるか否かに依存している. 成功する国内移住のための選択肢を作ることが,サハラ以南アフリカなど,人口の規模が最も大きく,都市 部の成長が最も速いと予想されている世界の一部地域ではとりわけ重要である. エチオピアの「生産的セーフティネット・プログラム」は毎年,約 900 万人に提供されている.このプ ログラムは,道路や,水供給システム,社会インフラの構築など,生産年齢の若者のための公共事業雇 用と,高齢者ないしその他の理由で働けない人がいる世帯のための無条件現金給付の両方を通じて,資 産のレベルを安定化させることを意図して設計されている.このプログラムによって,資産の蓄積に対 する効果はより控えめであるものの,受益者は強靭性を高め,食料安全保障と栄養を改善することが可 能になった 86. 290 世界開発報告 2023 バングラデシュでの経験は,農村部の世帯の強靭性を高めることについて国内移住が持つ可能性を証明 している.一部の地域では,農村部の世帯は作付けから収穫までの収穫のない時期における高頻度での 貧困の発生に直面していた.非政府組織が実施した実験プログラムの下で,農村部の村民は近くの都 市部への往復に必要な交通費に対して補助金が支給された 87.22%の世帯がこの機会を有利に活用し, 季節移民を送り出した.このことは,家計消費の著しい増加に帰結した.季節移民を送り出して利益を 得た世帯は,奨励策が廃止されて以降も,その後の数年において,都市部に季節移民を送り出す可能性 が高かった. 教育.開発を通じてスキルの適合度を向上させる.経済開発にはほとんど常に,教育やスキルなどの人的資 本の改善が伴っている.国がより豊かになると,人々や政府は教育への投資を増やす.次には,高学歴の労 働力が経済開発や成長の原動力になる.教育の達成レベルが高まることは,移住の傾向を高学歴や高スキル の労働者へ変化させる.したがって,より発展が進んだ諸国からの出国移民は,行き先国における経済の労 働市場のニーズにより高度に適合する傾向がある.この要素は,困窮移動を減らし,互恵的な成果に向けて 移住を変化させることに役立ちうる. –  バングラデシュの 1 人当たり GDP が 19960  2015 年の期間に 2 倍以上になったことに伴って,成 人人口の学校教育年数は――1.0 年から 6.9 年へと――劇的に増加し,そして何らかの高等教育を受 けた成人の割合は――0.33%から 8.6%へと――増加した 88.この経験は,経済成長をこれまでに経 験してきているほほすべての低・中所得国の経験と一致している.特に重要なのは,より高いレベルの 教育の機会である.低・中所得国に住んでいる中等後教育を受けた若者は,中等ないし初等の教育しか 受けていない若者と比べて,ディーセントな仕事を見付ける確率がはるかに高い 89. ルワンダは開発に伴って同じような進展をたどった.小学校の在籍率は就学年齢児童の 95%以上に上 昇した.高等教育の在籍率は,2000 年における約 1.3%から 21 年には 7.6%に上昇した 90.並行し て,政府は長期的な経済変革に向けてルワンダの労働力をスキルアップするために,「職能開発基金」と いう専門機関を創設した.さらに,なかでも接客業から,建設業,鉱業,そして情報通信技術産業まで の多様な部門全体にわたって訓練プログラムを提供することによって,労働市場において多くの需要が あるスキルの供給を増やすことを支援している 91. 包摂.包摂的でグリーンな開発を促進する.すべての開発軌道が移住に対して同じインパクトを及ぼすわけ ではない.全ての人に機会を提供することを目ざす包摂的な開発は,社会の中の全てのグループの境遇を向 上させ,最貧層ないし辺縁化されたコミュニティの間で経験されている高いリスクを伴う移住につながる圧 力を減らし,自発的移住という選択肢を改善することに役立ちうる.対照的に,資源を少数の人の管理の下 で集中させる不均等な開発は,より一層混沌とした移動に帰結するかもしれない.一方,一部の諸国は気候 関連のリスクに高度にさらされており,そのような国は,例えば,洪水や海面上昇などの壊滅的な影響を回 避し,高いリスクを伴う移動の必要性を減らすために,気候への適応に投資をする必要がある.水没のリス クがある小島嶼開発途上国では特別な新たな構想が必要かもしれない.これらは比較的少数の人々が関係す る極端な事例であるものの,そのような人たちが直面している挑戦課題の管理には計画性が必要とされるだ ろう 気候に関連する高いリスクに直面する中で,バヌアツは事前対策的に,国の政策枠組みに,気候変動に 関連する移動を組み込んだ.2018 年には,バヌアツは「気候変動及び災害が引き起こす強制移動に関 する国家政策」を採択した.これには,帰国と再統合,現地における統合,そして事前に計画された転 居に取り組む,包括的な一連の措置が含まれている 92. 9 勧告:移住をより良く機能させる 291 図 9.8 人間の尊厳が移住政策の基準であり続けるべきである 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 移民の 適合度 尊厳を尊重 大部分が非正規 多くの難民 である 困窮移民 補完的 保護の仕組みを 移動の必要性を削減, 持続可能性を 拡張 受け入れ,あるいは 確保,コスト 低い 人道的に帰国 を分担 需要のある スキルを持っている 移住先国 本国における 人のために合法的な 動機 における機会 恐怖 経路を通じて動機を 変える 移住に関連するルールを 執行:人道的な帰国, 密入国業者や搾取的雇用者の 取り締まり 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. サントメ・プリンシペでは,政府は海岸侵食や洪水の脅威に直接的にさらされている 10 カ所の沿岸コ ミュニティで,海岸線に沿って居住している人々の強靭性の強化を目指すプログラムを実施している. このプログラムは「多部門投資計画」の一部であり,この計画自体には,沿岸地帯の持続可能で適応的な 災害リスク管理のための新しい制度的な枠組み, 管理に向けた政策改革, そして沿岸保護に向けたコミュ ニティの強固な関与などが含まれている. 移民の行き先国:移民の尊厳を尊重しながら困窮移動を削減する  スキルや属性が行き先の社会のニーズを満たさない人や,難民としての国際的保護を受ける資格がない人 を含め,すべての移民は公正で人間らしい処遇を受けるに値する.移民の行き先国のほとんどはそのような 移民に合法的(legal)な入国を認めることに消極的であり,多くの困窮移民は非正規の経路や,成長しつつ ある密入国産業に向かっている.そして,そのことが搾取的な労働市場を養っている.挑戦課題は,そのよ うな移動に向かう動機を削減すると同時に,全ての移民の尊厳を保持することである(図 9.8). 尊重.移民や難民の尊厳を尊重する.移民の移住先国の多くは,スキルや属性が自国のニーズに一致してい ない移民の入国を制限することに関して,政策面で難しい挑戦課題に直面している.移民の出身国において 経済的およびその他の圧力が強い場合には,人々は困窮移住への関与に押しやられる.そして,受け入れ国 側では,入国政策を執行すると同時に,移民の尊厳を尊重するという難しいトレードオフが発生しうる.各 国はそのような状況に多様な方法で取り組んでいるが,各国の対応策は適用可能な国際的な法律や規範の下 で移民の基本的な権利を尊重するべきである. 292 世界開発報告 2023 国際労働機関(ILO)は,移民労働者の尊厳と権利を保護するために重要な国際的な労働基準を長年にわ たって採択してきている.このような基準に含まれているのは,1998 年の「労働における基本的な原 則と権利に関する ILO 宣言」の中で特定されている 8 つの基本的権利に関する ILO 条約,労働監督や, 雇用政策,三者協議に関する統治の条約に加えて,賃金や労働安全衛生の保護などの一般的に適用され 「民間職業仲介業者に関する条約」 ている基準,1997 年の (第 181 号)などの移民労働者に関する固有 の規定を含む法律文書,2011 年の (第 189 号) 「家事労働者条約」 ,そして社会保障に関わる法律文書 などである. 司法は,移民の権利が尊重されていることを確保することにおいて決定的な役割を果たすことができる. 例えば,2016 年にパプアニューギニア最高裁判所は,オーストラリアから移管されたマヌス島の移民 や亡命希望者の勾留はパプアニューギニアの憲法に違反していることを発見した 93.裁判所は,亡命 希望者や難民の監禁はそのような人たちの個人的自由の侵害であると裁定し,パプアニューギニアと オーストラリアの両方の政府に対して直ちに人々を監禁から開放する手配をするよう命じた.その当時, 島の勾留センターには約 850 人が勾留されており,そのうち約半分は難民と認定されていた 94. 補完的保護.保護のための暫定的な対策という現行制度の一貫性を強化する.一部の困窮移民は難民の資格 を得るレベルではないものの,国際的な保護を必要としている.このような移民は,1951 年難民条約の規 定外の理由,例えば深刻な人道上の危機から逃れようとしている場合など,の故に,何らかの形態の保護を 必要としているかもしれない.人道的および政治的な危機が生じている状況下で,数カ国は,出身国に安全 に帰国させることができない困窮移民に対する一時的ないしは補助的な保護を提供するために,暫定的な法 的手段を策定している.しかしそのような補完的保護制度は,部分的で,暫定的であり,そしてしばしば首 尾一貫性が無いままとなっている.それは理路整然と拡充されるべきである.亡命希望者に行き先国に合法 的に入国する経路が提供されるべきでもある. 「一時的保護資格」 1998 年にアメリカは,ハリケーン・ミッチの通過後にホンジュラス国民に向けて を初めて与えた.TPS は外国生まれの有資格者に与えられ,有資格となるのは,帰国を適切に処 (TPS) 理することを阻害するような条件ないし環境に母国が置かれているが故に,母国に安全に帰国できない 人である.2023 年の時点で,8 万人超のホンジュラス人が TPS を与えられており,雇用と移動の両 方の許可を取得する資格を得ている 95.そのような人の約 85%がアメリカの労働力に加わっており 96, 年あたりの GDP に対して,10 億ドル以上の寄与をしている 97. (エストニア,ラ 2021 年に EU 加盟国相互間で観測されたアフガン亡命希望者認定率の大幅な相違は トビア,ポルトガル,およびスペインにおける 100%から,デンマークでの約 20%にまでの範囲に及 ぶ 98),さまざまな法律文書や難民法の解釈の全体にわたって,一貫性と整合性を改善する必要がある ことを示唆している 99. 合法的な入国経路.スキルの低い人を対象とする場合を含め,需要のあるスキルのための合法的な経路を開 発することを通じて,移民の動機を変える.スキルのレベルが低い労働者に対しては,例えば農業や,在宅 介護,食事準備,建設業などの部門では,移民の行き先国の労働市場の多くにおいて大きな需要がある.多 くの OECD 加盟国には,そのような個人については非常に限定的な合法的入国経路(パスウェー)があり, それが,非正規移住を増やしている一因でもある.合法的な経路を創設することは,入国の対処と監視を改 善し,そうでなければ高いリスクを伴う移動に関わるであろう人たちのインセンティブを変え,そして自国 の国境管理が失われることを恐れている自国民の懸念に対処するのに役立つ.そのような合法的経路を設計 するに際しては,移民の行き先国は労働市場のニーズを細かく反映させる必要がある.一時的な移住はしば 9 勧告:移住をより良く機能させる 293 しば可能な経路の1つではあるが,それが適切であるのは主に,仕事に固有な人的資本が必要とされていな いような分野での一時的ないし季節的な仕事である. 1960 年代におけるアメリカのブラセロ・プログラム(Bracero Program)での経験は,合法的な経路 の閉鎖がもたらす落とし穴に光を当てた.1942 年に開始されたこのプログラムの下で,農業,および 鉄道に従事するメキシコからの季節移民は一時的労働者の地位を与えられた.このプログラムは 1964 年に,アメリカ国民の間での雇用を増やす取り組みの一環として停止された.しかし,ブラセロ労働者 を使っていた農場では利益が減少し 100,そしてアメリカ人労働者が利益を享受したという証拠はほと んどなかった 101.加えて,本プログラムの停止は合法的な地位を持たない移民の増加という結果もも たらした 102. スペインとモロッコは,繰り返し行われる農業のための季節的移住を円滑化するために,2001 年に労 働移住に関して協定を結んだ.この協定の実施における漸進的な進展は,スペイン南部の季節性移民労 働者に対する需要と,追加的な収入源を求めている低スキルのモロッコ人労働者(しばしば女性)の関心 の両方を高めた 103.2006  – 08 年の間に毎年 21,000 人以上の労働者がプログラムに参加した.季節 的移住は 2008 年の経済危機以降は減少に向かった.それは,農業の仕事が増加しつつある失業して いるスペイン人とスペイン内に定住している移民にとって望ましいものになったからであった.2013 年にはより幅広い移動性パートナーシップ協定が EU に加盟する数カ国(特に,ベルギー,フランス, ドイツ,イタリア,オランダ,スペイン,ポルトガル,スウェーデン,およびイギリス)とモロッコの 間で締結され,そして低スキルのモロッコ移民はスペインを含む締約国における機会にアクセスするこ とが可能となった 104. 執行.非自発的な帰国を人道的に管理し,密入国業者や搾取的な雇用者を罰する.入国のための合法的な経 路を開発すること――およびその持続可能性を保証すること――に加えて,受け入れ国は非正規の入国を思 いとどまらせることを目指している既存の法律や規制を執行する必要がある.この取り組みは多くの場合に すでに存在しているルールや規則を執行することによって,密入国や搾取的雇用を取り締まることを含むべ きである.場合によっては,受け入れ国はルールが執行されていることを国民と,移住を志望している人た ちの両方に示す証拠として,出身国でリスクに直面していない一部の困窮移民を帰国させることを選択する かもしれない.そのような強制的な帰国は人道的に処理されるべきであり,そのような帰国は,仮に移民の 行き先国と出身国の双方が互恵的な移住取り決めという背景の中で協力するならば,容易になるであろう. 一部の受け入れ国は,非自発的な帰国に再統合支援を付随させることを試みてもいる.その成果はさまざま である. 人間の密入国や売買取引と戦うために,国連薬物犯罪事務所(UNODC)は需要と供給の両方の要素に 焦点を合わせた,移民の出身国,通過国,および行き先国において多種多様な介入策を組み入れる長期 にわたる努力の重要性を強調してきている 105.需要側では,可能な措置に含まれるのは,合法的移住 に対する選択肢の拡大や渡航書類取得手続きの簡素化である.供給側では,各国は密入国業者を利用し た移民を非犯罪化することに加えて,移民の密入国業者を罰し,そして裁判にかけ,その業者が違法に 取得した資産を押収すべきである 106.国境管理の手続きと能力,および情報共有システムの改善が, このような努力における鍵である. 最近において,ドイツは法的地位を有していないガンビアからの移民を強制送還してきている.ドイ ツは,自発的な帰国を奨励し,非正規移住の動機を低めるために,ガンビアにおいて訓練や再統合の 機会を支援してきている.しかし,結果は限定的である 107.強制送還というリスクがあるにもかかわ 294 世界開発報告 2023 図 9.9 行き先国と「最後の国境と接する通過国」の間での協力が必要とされている 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 適合度 移民の 大部分が非正規である 多くの難民 行き先国とともに 困窮移民 共同の移住管理 アプローチを 策定 持続可能性を 移動の必要性を削減, 受け入れ,あるいは 確保,コスト 低い 人道的に帰国 を分担 通過国における 安全性と基本的な 移住先国 本国における サービスの入手可能性を 動機 における機会 恐怖 保証 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. らず,多くのガンビア移民は依然として帰国するよりもドイツに滞在する方が暮らし向きが良いと感 じている 108.移民の出身国との協力は重要であると同時に,困難であることも判明している.例えば, 2021 年には,約 2,000 人のガンビア人帰国者がガンビアの政府によって,帰国が与える経済的およ び社会的な影響の可能性が理由で,入国を拒否された 109. 通過国:移民の尊厳を尊重しながら困窮移動を削減する –   一部の困窮移民は行き先国に到着する前に,移動の行程で数カ国を通過している.場合によっては,2  3 –  日間ないし 2  3 週間をかけて,単に通過する.移動の行程の次の段階への支払に必要な財源を稼得するた –  めに,より長期にわたって――2  –  3 カ月間ないし 2  3 年間――滞在するする場合もある.さらに別の事例 では,移民は定住を試み,それに失敗した場合にのみ,さらなる移動に関わる.このような多様な状況は, 通過国がさまざまな対策を講じることを要請している(図 9.9). 二国間協力.困窮移動を管理するために受け入れ国と協働する.受け入れ国による制限的な入国政策は,移 住回廊において「最後の国境に接している通過国」にとって,困難な挑戦課題を提起することがある.大勢の 困窮移民はこのような諸国で立ち往生しており,時にはその期間は数年間にも及ぶ.最後の国境と接する通 過国は脆弱であることが多い人々を収容しなければならないという事態に直面しており,それにはコストが 発生する.最後の国境と接する通過国と,移民が意図している行き先国が直面する課題は密接につながって おり,そのような課題は片方だけで単独で解決することはできない.統合された仕方で困窮移民の移動を管 理し,行き先国,および最後の国境と接している国のそれぞれの入国と避難にかかわる政策――およびその 実施――が首尾一貫している(ただし必ずしも同一である必要はない)ことを確保するためには協力が必要と される.そのような協力については 2,3 の実例しかなく,しかもそれは不完全であり,かつ賛否両論である. 9 勧告:移住をより良く機能させる 295 移住問題はメキシコとアメリカの間の交渉において首尾一貫した部分であり,協調的なアプローチを発 展させることを目指している.移住に関連する問題は典型的には,経済協力や,貿易・投資,組織犯 罪との戦いなど,利害を共有しているより広範な諸分野の一部として議論されてきている.2023 年 1 月の北アメリカ首脳会談では,議論は,移民が北方向に移動する際に,密入国業者を使うのではなく合 法的な地位を申請するよう勧奨するための段階的措置が焦点となった.そういった措置には,民間部門 による資金提供によって支えられるメキシコ南部における新しい法律センターに加えて,移民に「合法 的経路への簡素化されたアクセス」を提供するためのオンライン・プラットフォームの創設 110 が含め られた. 2016 年にトルコと EU は,トルコの国境を越えてギリシャの島々に侵入し,かつ避難申請が承認不可 と裁定された非正規移民を本国へ送還するという協定を結んだ.この協力の一部として,EU は,正規 経路を通じて処理された同数のシリア人難民を行き先に定住させる,トルコにおけるシリア難民の受け 入れのために財政支援を供与する,そしてトルコ市民に対するシェンゲン・ビザ[短期訪問ビザ]の発行 を円滑化する,などの措置を公約した 111. 改革に向けて欠くことのできない事項  移住および強制避難に関する国際的な法律の構成は,移動の傾向の変化を反映させるために過去数十年間 にわたって定期的に調整されてきている.2018 年に国連によって採択された「難民に関するグローバル・ コンパクト」, 「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル および ・コンパクト」は,実施が進行中であり, その一環としてさらに進化する状況にある 112.このようなグローバル・コンパクトの下で,フォーラムが 開催され,そして国家の公約や,生じてきている基準にかかわる問題が議論されている.開発に関連する考 慮事項もこのようなグローバルな対話の不可欠な一部でなければならない 113.  国レベルでは,移住に関する改革は多くの場合,困難な決断を下すことが必要とされる,複雑な試みであ る.改革は,公開討論および政策立案の両方に有益な情報を提供することに役立ちうるデータや証拠,短期 的ないし中期的に発生するコストの軽減に役立つ金融支援,および国内と国外の両方の舞台において,より 広い範囲にわたって意見が聴収され,そして政策に関する議論に貢献することが可能となる全利害関係者に よる関与の向上,によって後押しすることができる.このような努力は議論が高度に分極化している場合や 多くの競合する優先事項――なかでも気候変動や,食料供給,継続中のグローバルな経済鈍化など――があ る場合には特に重要である. データと証拠を改善  情報に基づいて意思決定を行うことは,移民,および移民が出身国と行き先国の社会に与える影響に関す 「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コ る体系的で包括的なデータ収集と分析を必要とする. ンパクト」の第 1 の目的は,証拠に基づく政策策定のためのデータの収集と利用を改善することにある.し かし,データの収集,処理,普及,および分析に関するいくつかの重要な側面は,優先度の高い分野におけ るエビデンスの構築を強化するために改善を必要としている(ボックス 9.1). 調和.データの収集方法を調和させる 114.国勢調査や,専門化された調査,行政データなどが移住に関連 するデータの構成要素に含まれている.そうではあるものの,方法論やデータベースは国毎に一貫しておら ず,このことによって,集計,統合,および国別の相互比較,あるいは産業別の相互比較でさえ,不可能と 国際機関や行政機関組織などの複数の主体が大きなコストをかけて, なっている.難民という状態の中では, 一貫性と比較可能性がほとんどないさまざまなデータを収集している.定義,質問事項,標本抽出,あるい は事後調査などにおいてデータ収集システムを調和し,国家統計局の能力を必要とされているところで強化 296 世界開発報告 2023 ボックス 9.1 今後の研究にとっての優先事項  本報告書でなされた分析に沿って,および越境移動の開発面での効果を高めることに役立ちうる先見的な 指針の設計と実施を支援するために,以下を含むいくつかの政策分野について証拠が必要とされている:  非経済的な要因,強まりつつある気候変動の影響,および困窮移動の必要性を削減できる開発軌道の性質 に関する理解を深めることを含む,移動の動因と動因の変遷.  生じつつある人口構成の不均衡を管理するために,すべての所得水準の諸国による可能な対応と適応戦 略.  スキルの補完性,および移民の行き先国になっている低・中所得国へ労働移住がもたらす影響.  労働移住および困窮移住の両方が移民の行き先国に与える社会的インパクト,および所得水準が異なる諸 国相互間での社会的インパクトの相違.  越境移動のジェンダーにかかわる側面と,ジェンダーに関連する影響.  移民の出身国における知識移転や頭脳流出の軽減に向けた支援;移民の行き先国や難民受け入れ国におけ る経済的包摂,社会的包摂,およびマイナスの影響を受ける国民の支援;難民の状態に対する恒久的な解 (革新的アプローチを含む) 決策 ;困窮移民という状況における通過国と受け入れ国の間での越境協力,合 (移民, 法的入国経路の確立,補完的な保護の体系,および人道的な帰国,などの分野における政策の評価 . 難民,あるいは国の経時的な人口,に関する長期にわたる調査を活用することを含む) するためには,さらなる技術的な取り組みが必要である.特に難民という状況においては,生体認証データ 収集の倫理に対しては特別な注意を払うべきである. 「難民, 国連統計委員会の下に設置された IDP, (EGRISS) および無国籍の統計に関する専門家グループ」 は強制的に避難させられた人に関するデータの収集における定義と方法論を調和するために,一連の勧 告を公表している 115.この取り組みは,世界銀行と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の共同デー タセンターを通じるものを含め,関連する統計局の能力を強化することを目指した一連の新たな構想に よって下支えされている. 国際労働機関(ILO) 「国際労働移動の統計に関 は移住関連のデータを収集してきている.2018 年には, する指針」 その目的は各国が国際労働移動に関する比較可能な統計値を収集することによっ を採択した. て,自国の国家的な統計制度を開発するのを支援することにある 116.このような努力は 「国際労働移 (ILMS) 動統計」 に関する ILOSTAT データベースの構築で頂点に達した.このデータベースは,国際 的移民労働者の人数とプロフィールや,そのような労働者の労働市場における状況や雇用の傾向,その ような労働者の主要な出身国と行き先国,移民の入国および出国の流れの規模を記述している指標を集 めたものである 117. エビデンスの構築.新種の調査に投資する.現行のデータ収集の実施は不完全な状況が続いている.移住を 十分理解し,そして可能な対応策に有益な情報を提供するには,追加的な種類の調査が必要である.例えば, 継続中の努力の多くは,ある特定の時点における移住状況の姿を把握することに向けられている.そのよう な努力は有用ではあるが,他にも極めて重大な政策問題が数あるなかで,移民の包摂,あるいは移民とその コミュニティの間で社会的な絆が長期的に発展していく仕方に特定の規制措置が与える影響を評価すること には役立たない.そのような影響は実現されるまでには時間がかかることがその理由である.エビデンスを 構築し,そして何が機能するかを判断するためには,長期にわたる調査――所与の個人,世帯,あるいはコ 9 勧告:移住をより良く機能させる 297 ミュニティを経時的に追跡する調査――が極めて重要である.同様に,ほとんどの公的統計は,書類のない 移民や,小規模ないし辺縁化された集団など,調査の手が届きにくい人々に関するデータを把握しておらず, それ故,新しい専用の取り組みが必要である.最後に,すべての移住関連データが現状では移民の出身国あ るいは行き先国のどちらかで収集されていることから,国境を越える個人を追跡することや,移動の動因や 影響を完全に調査することは不可能である.このようなことは,データを収集する努力において,移民の本 国と行き先国の両国の間でよりうまく調整が行われることを必要としている. 「難民及び受け入れコミュニティ家計調査」 チャドでは, が,政府,西アフリカ経済通貨同盟(WAEMU), および開発パートナーの間における難民政策対話に付属する部分として,国の世帯調査に完全に統合さ れている 118. メキシコ移民に関する長期的な研究は移住や統合プロセスの影響に関する理解を深めることに役立って いる 119.例えば, 「メキシコ家庭生活調査」は移民を経時的に追跡しており 120, 「メキシコ移住プロジェ クト」は国境を越える移民を追跡している 121. オープン・データ.データを入手可能にすることによって研究を促進する.データ収集は第 1 歩でしかな い――有効な政策改革のためのエビデンスを構築することにとっては,分析が真に重要である.開発の他の 分野における経験は,データベースと未加工のデータを,機密保持の適切な保護を伴って,全ての人,特に 研究者と政策担当者が公に入手可能にすることの重要性を示している.にもかかわらず,移住に関するデー タの多くはアクセスが難しいままであり,国境を越える移動の管理において何が最適に機能するかを決定す ることに向けた取り組みを阻害している.個人の秘密やプライバシーを保護するための十分な措置がとられ ている限り,オープン・データには,一部の状況では,移住に関する研究や政策を転換する潜在力がある. 各国は,利用者が利用しやすい仕方で既存のデータセットもアップロードするべきである. 2010 年 4 月に立ち上げられた世界銀行の「オープンデータ・イニシアティブ」は,政策担当者や,研 究者,市民社会が開発問題に対する解決策を見出すために結果を測定し,知識を増やし,そして協働す ることができるように,それらにとってデータを入手可能にすることが持つ可能性を示している.この イニシアティブには,世界銀行のプロジェクトや融資に関する豊富な情報に加えて,7,000 種類以上 の開発指標へ無償でアクセスすることを可能にするさまざまな改革が含まれている.これは開発プロセ スにとっては透明性と説明責任が必要不可欠であるという認識が前提となっている 122. は,国際的な開発において第三者によるデータの効率的で責任ある利 「開発データ・パートナーシップ」 用を促進するための国際機関と技術系会社との間での共同事業である.これには,私的に所有されてい るデータの交換を円滑化するための一連のルール,データ・ライセンス契約,およびセキュリティ構成 の共有が含まれている 123. 金融手段を拡充  専用の中期的な開発融資が移住の管理を改善するために必要とされている(図 9.10).そのような融資に は,グローバルな挑戦課題やグローバルな公共財にかかわる融資に関連する議論という幅広い背景のなかで, 着手することが可能であろう.多くの場合に,追加的な財源の流れ――通常の国家的なプログラムを通じて 入手可能なものに加えて――が必要である. 新しい――ないし拡充された――金融手段.経済移民あるいは難民のいずれであっても,非市民(noncitizen) を受け入れている低・中所得国に中期的な支援を提供する.中期的な視点で難民状態を管理するためには, 298 世界開発報告 2023 図 9.10 新しい金融手段と開発資源利用の拡充が移住の管理を改善するために必要とされている 貧困の削減に 向けて移住を活用する 民間部門の ために移民の出身国を 関与を支援 支援 低・中所得所国の 非市民を支援するための 中期的手段 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 二国間協力を 支援 適合度 人道的援助を 大部分が非正規である 多くの難民 補完するための 困窮移民 中期的な手段 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コスト 低い 人道的に帰国 を分担 移民の出身国の 開発を支援 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 地域的協力を 支援 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 受け入れ国は長期的に維持可能なさまざまな政策を実施すべきである――受け入れ国の多くは,そのような 公約をするには外部からの予測可能で,持続的な資金調達が必要である 124.同じく,融資は,サービス提 供やインフラなどのさまざまな活動のために経済移民を受け入れている低・中所得国でも必要とされる.長 期的には,移民の経済面での貢献が必要な財源を提供するようになるものの,短中期的には資金調達のギャッ プが,特に,移民が主に非公式部門で働いている場合,あるいは移民のスキルや属性が労働市場で強く需要 されていない場合には発生しうる.移民や難民を受け入れている諸国にとっては,中期的な資金調達手段が 必要である.そのような手段の条件は,(1) 合法的な国際的保護の指針(難民の場合)や人間の尊厳に対する 尊重(移民の場合)に根差している,(2) 健全な政府政策の枠組みによって下支えされている,(3) 移民や難 民に加えて影響を受ける自国民も対象に含む,そして (4) そのような資源は概して非自国民に利益をもた らすことから,高度な譲許性を伴って中期的に予測可能である,べきである. 国際開発協会(IDA) 「難民・受入コミュニティ向けウィンドウ」 の内部における (WHR)は,著しく大勢 の難民を受け入れている諸国における中期的な開発活動に資金を提供するための手段の実例である 125. それは,融資に値する受け入れ諸国が,難民,および難民を受け入れる自国民のための,意味のある中 長期的な開発機会と持続可能な解決策を生み出すのを支援することを目指している.WHR からの支援 9 勧告:移住をより良く機能させる 299 に適格であるためには,IDA 諸国は難民の保護に関して十分な枠組みを順守し,加えて,難民と受け 入れ国の社会の双方に利益をもたらす長期的な解決に向けた可能な政策改革を含め,具体的な措置を伴 う行動計画ないし戦略を持っていなければならない 126.現在までのところ,17 カ国が WHR から利 益を得ている 127. 「国際譲許的融資制度」 同様に,世界銀行が管理している は,難民危機の影響を受けた中所得国に (GCFF) 対して譲許的条件で開発支援を供与している.GCFF は,ドナーからの財源を,贈与的要素を提供する ことに向けている.この贈与的要素は,難民を受け入れるコミュニティと難民にとって有益なプロジェク ト向けの開発融資の条件を改善するものである.受益国――現状ではコロンビア,エクアドル,ヨルダン, レバノン,およびモルドバ――は自国の開発指針の一環として,難民とその受け入れコミュニティを支 援しなければならない.現在までのところ,7 億 2,500 万ドルの助成金が承認済みとなっている 128. 既存手段の利用の拡大.越境移動がもたらす開発面でのインパクトを最大化するために開発資源を使う.い くつかの面で努力が必要とされている.第 1 に,開発資源を,民間部門の関与のためのインセンティブを 創出し,民間部門の関与を開発を促進するために使うことができる.必要な支援には,保護と尊厳という指 針との強固な結び付きを維持することを条件として,主に難民あるいは移民を利することになるプロジェク ト向けの保証と譲許的ローンのミックスが含まれるかもしれない.低所得国では,あるいは経済的に後れ (SME) ている地域に移民や難民が住んでいる場合には,中小企業 のための適合化された支援も必要である. 第 2 に,開発資源は移民の出身国が貧困削減のために移住をよりうまく活用するのを支援することができる. それは例えば,送金を行う際のコストを引き下げるために金融部門の改革を支援することによって,スキル の構築を行うことによって,あるいは,知識移転を円滑化するために中小企業を支援することによって,可 能であろう.このような形式の支援を開発資源は補完することが可能であり,それは,高いリスクを伴う移 住への圧力を,社会的保護や,都市化,気候適応,包摂的な開発プログラムなどの点から下げることに役立 最後に, ちうるような開発資源である. 開発資源は地域的な協力を奨励することができる.金融支援の手配は, 融資による利益の起こりうる配分状態に従って,具体的な状況や活動に合わせて調整されるべきである.例 えば,二国間労働協定あるいはグローバル・スキルズ・パートナーシップについて,スキルが改善された労 働者から利益を享受する移民受け入れ国は,そのような移民の出身国における対応する[労働者の能力構築] 活動に資金を提供するという点で,もしこのような資金提供が必要とされているならば,最適な立場にある. しかし,それ以外の場合,例えば移民の出身国相互間での地域的な協力を支援する,あるいは各国間の関係 を公式化するためのインセンティブとして機能する,という場合には,地域的な融資手段は重要である. [IDA-only country:一般に,平均所得が非常に低く,民間金融へのアクセスが IDA は IDA 借入国 無い諸国]において民間部門投資に変化を引き起こすために,「民間セクター・ウィンドウ」を創設した. 焦点を合わせているのは,難民を受け入れているという状況を含め,脆弱で,紛争から影響を受けてい る国である.このウィンドウは,民間部門は開発面でもたらされる成果を実現することについて中心に 位置しているという認識に基づいている.しかし同時に,民間部門がそのような困難な環境で大規模に 関与するに際しては,さまざまな不確実性やリスクが軽減される必要があるという認識にも基づいてい る 129. 新しい意見を取り入れる  移住と同程度に意見が分かれている分野では多くの場合に,政治経済学的な考慮事項が,改革の実行可能 性の程度を決定する. 現在の環境では改革は困難である. 多くの諸国では, 移住は公開討論でますます際立っ たテーマになっており,意見とその支持層の分極化が進行しつつある.最も極端な事例では,優勢な政治的 論説において外国人嫌悪の――あるいは人種主義的でさえある――罵倒が広範にみられている.一部の政治 300 世界開発報告 2023 勢力は移住に対する制限を明示的に唱道している.越境移動の自由化を求めている意見はわずかである.多 くの政治指導者は,典型的には人道的な配慮と強固な国境管理の要請の間でバランスをとるという中間的な 立場を探求している.  変化を起こすためには新しい意見が出てこなければならない(図 9.11).社会の変化や改革がデータや証 拠の単なる提示を通じて起こることは稀である.新しい利害関係者グループが前面に出て自論を展開する時 に,議論の在り方が変化する.このことは,気候変動についてあてはまるだけでなく,多くの諸国で賛否両 論となっている多様な社会問題についてもあてはまっている.単純化すれば,新たな当事者が議論に参加し ない限り,移住に関する議論の焦点と論調は変化しそうにない.以下に示す 3 組の問題に向けられた新しい, そしてより強固な意見が必要とされている. 影響を受ける国.連合を通じて交渉における立場を高める.移住や強制避難の効果的な管理は国際的な交渉 ――例えば,基準を定める枠組みや二国間取り決めに関する多国的な議論――を必要とする.開発途上国, 特に低所得の国は相対的に弱い立場で交渉のテーブルにつくことが多く,このことは自国の利益を保護する 開発途上国の能力を傷つけている.時には自国に影響を与える議論において受動的な証人にとどまるよう制 約されている,あるいは,主に移民の行き先国を利する政策の実施を支援するよう圧力を受けている.しか し,低・中所得国は――移民の出身国,行き先国,および難民受け入れ国として――移住の管理を改善する ことにおいて果たすべき鍵となる役割を担っている.連合を結成することは,グローバルな,地域的な,あ るいは二国間の,そのいずれであろうが,論議に影響を与えるそれら諸国の能力を強化し,国際的な議論に おいて自国の意見に耳を傾けさせることに役立ちうる.そのようなグループ,すなわち特定の行き先に向か う移民の主要な出身国から成るグループを結成することは,最も適切に自国のニーズが反映されており,そ して海外に滞在している自国民の利益を保護するような二国間労働協定をそれら諸国が交渉するのを容易に するであろう. 30 万人以上の難民を受け入れている難民受け入れ国は最近になってジュネーブに非公式グループ―― 議長は持ち回り――を結成した.この k  「300  + グループ」は強制避難に関する国際的な議論において, 難民を受け入れている大国の影響力を高めるために,それら諸国の立場を調整して,ドナー諸国やその 他の鍵を握る利害関係者との対話を形成することを目指している. 政府間開発機構(IGAD)は加盟国(ジブチ,エチオピア,ケニア,ソマリア,南スーダン,スーダン, およびウガンダ)と,国際的な負担と責任のより公平な共有を唱道することに加えて,地域における強 制避難の根本原因に取り組み,その管理を強化することに関して緊密に協働している 130.2019 年に 行われた第 1 回グローバル難民フォーラムにおいて,IGAD 支援プラットフォームが,2017 年にお ける IGAD の「ソマリア難民のための恒久的な解決とソマリアにおける帰国者の再統合に関するナイロ ビ宣言」,およびそれ以降の,教育(「2017 年ジブチ宣言」)や仕事(「仕事に関する 2019 年カンパラ宣 言」)に関する宣言や行動計画などの実施に向けた動きを維持し,追加的な支持を促進する体系として立 ち上げられた. 国内利害関係者.意思決定プロセスに広範囲にわたる国内利害関係者が参加することを確保する.政策策定 は,同時に多くの視点を盛り込み,円滑な実施を可能にするある程度の社会的コンセンサスを達成すること によって強化される.その 2 つはともに,その過程において広い範囲にわたる利害関係者が関与すること を必要とする.移民の行き先国において,ある程度は移民の出身国においても,移住は,単に国境管理機構 だけでなく政府全体を含めることによって管理されるべきである.このことに加えて移住は,中期的な労働 ニーズを評価し,それを満たす方策を特定するために民間部門やその他の社会的パートナーを関与させるこ とによって,さらに,多くの場合に対応策や統合に向けた挑戦課題に対処することにおいて最前線にいる地 9 勧告:移住をより良く機能させる 301 図 9.11 移住に関する論議を転換するためには新たな意見が必要とされている 移民の行き先国と 政策策定に 交渉するために,移民の 民間部門,市民社会, 出身国の間で および地方当局が 連合を形成 参加することを確保 多くの経済移民 行先国で需要 のあるスキルを マッチ強 有する難民 すべての人を すべての人を対象に 対象に利益を 利益を最大化 最大化する する 難民を代表する 制度の策定 難民受け入れ 諸国の間で連合を 一致度 形成 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コスト マッチ弱 人道的に帰国 を分担 難民を代表する 制度の策定 行き先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 方当局を支援することによって,管理されるべきである.十分に代表されていない大勢の利害関係者にとっ ての挑戦課題は,自らの声が届くようにするために,自らを組織化することである.このことは,直接的な 関連を有する利害関係者の全体を完全には代表していない支持層の懸念や,世界観,提案によって議論が支 配されている場合には,特に重要である.その場合の結果としての成果は,十分に代表されていないグルー プと,さらに社会全体にとっては有害なものかもしれない.利害関係者の関与は複合的な形態をとる可能性 があり,その形態は各国の状況や,各支持者に適合化されている必要がある. イギリスは 2007 年に,いくつかの選ばれた部門における労働ニーズを調査し,そのようなニーズへ の対応として入国移住を活用する可能性について政府に助言を行うために,移住諮問委員会(MAC)を 創設した 131.例えば,MAC の (SOL) 「不足職業リスト」 という 2023 年における調査の一環として, 委員会は,移民労働者の役割と給与,および可能性のある政策変更が持つ意味についての意見を求める ために,専門機関に働きかけている.これは,(1)SOL に含まれている職業に対する給与要件は改訂さ れるべきか否か,(2) 現行の SOL にあげられている職業のどれが引き続き含められ,そしてどれが削 除されるべきか,そして (3) どのような職業が,もしあるならば,SOL に追加されるべきかに関して 勧告を行うためであった 132. 自国の労働力政策を策定するにあたって,シンガポールは「三者構成の原則」を通じて,利害関係者を継 続的に関与させている.この原則は,雇用,企業の成長,および賃金の上昇を維持することにおける, 政府,雇用者,および労働組合の間での協力を強調している.シンガポールは,専門職,管理職,お 302 世界開発報告 2023 よび役員にとっての労働市場政策面での懸念事項を調べるために,労働組合と,雇用者のための 2 つ の主要な団体である全国労働組合会議およびシンガポール国家経営者連盟によって構成されるタスク フォースを創設した.このタスクフォースは 1 万人以上と協議を行い,労働市場政策の改革に向けた 9 つの勧告を提出した 133. 移民と難民の声.移民と難民の声が反映されるようにするために代表と説明責任の制度を策定する.外国籍 の人には,典型的には,選挙で選ばれた政治家が市民を代表する,あるいは国内労働市場において労働組合 が労働者を代表するのと同じ方法で,政策議論に彼らの複合的な意見が代表されるのを可能にするような調 整の体系がない.移民や難民が自分たちの意見を述べるフォーラムを有していることはめったにない.移民 の出身国と行き先国の両方の数カ国は,自国の意思決定プロセスは,移民の代表者の言説を聞くことによっ て,たとえ最終的には他の関心事や意見が優勢になるとしても,強化されることを認めている.挑戦課題は, そういった「代表者」が,当人が代表になっている人々を真に代表し,そのような人々に対する説明責任を果 たすのを可能にするような仕方で選ばれるのを確実にすることである.しかし,そういった体系は多くの場 合に存在していない. 1970 年代に西ドイツの数か所の地方自治体は,外国籍市民諮問評議会(FCACs, Ausländerbeiräte) を導入した.外国パスポートを所持している住民は,特に外国籍の人にかかわる問題に関して自治体 に助言する委員を自分たちの組織メンバーから選出する権利が与えられた.現在,16 の連邦州の中の 12 州において約 400 の FCAC が存在している.しかし,FCAC の選挙に立候補する人の数は最近の 2, 3 年間で減少してきている.これは,特に 1992 年以降に現地で意見表明を行う資格が与えられて    いる EU 市民や,増加しつつある帰化市民にとって,政治参加の機会が増えてきていることによる.移 民の間では社会,民族,および国について相違が大きいことも,代表性の達成をより困難にしている. 1997 年にドミニカ共和国は,海外在住の国民がその時点で住んでいる国で出身国の総選挙に投票でき るようにするために,憲法を改正した.外国に滞在している国民を代表する上院議員と代議員の議席も 設定した 134.この取り決めの下で,ドミニカ市民は大統領,副大統領,および国外に滞在している支 持層を代表する 7 名の国会議員に対して投票をすることが可能となっている 135.2020 年の総選挙で は,国外に滞在している登録されているドミニカの有権者の数は 60 万人近くに達していた 136. 注 1. スポットライト 3 を参照. 13. Government of Vietnam, Decree No. 74-CP on the 30th 2. NEDA (2021). of July, 1994 of the Government on the Tasks, Authority and Organization of the Apparatus of the Committee 3. Ang and Tiongson (2023). for Overseas Vietnamese. 4. IOM (2020). 14. VNA (2021). 5. IOM (2020). 15. “The Programme for Attracting Remittances 6. FSB (2020). into Economy (PARE 1+1),” Organization for the 7. DWG (2021). Development of Entrepreneurship (Organizația pentru 8. “Sending Money from United States to Mexico,” Dezvoltarea Antreprenoriatului), Chişinău, Moldova, Remittance Prices Worldwide (dashboard), World Bank, https://www.odimm.md/en/the-programme-for- Washington, DC, https://remittanceprices.worldbank. attracting-remittances-into-economy. org/corridor/United-States/Mexico. 16. ETF (2021). 9. GPFI (2021). 17. “The Programme for Attracting Remittances 10. Méndez Maddaleno (2021). into Economy (PARE 1+1),” Organization for the 11. GPFI (2021). Development of Entrepreneurship (Organizația pentru Dezvoltarea Antreprenoriatului), Chişinău, Moldova, 12. GPFI (2021). 9 勧告:移住をより良く機能させる 303 https://www.odimm.md/en/the-programme-for- rights, and, in connection therewith, making an attracting-remittances-into-economy. appropriation. 18. Abarcar and Theoharides (2021); Chand and Clemens 43. Koch et al. (2023). (2008); Shrestha (2011). 44. Rossiasco et al. (2023). 19. Abarcar and Theoharides (2021). 45. OECD (2018). 20. Cortés and Pan (2015). 46. Tesliuc (2006). 21. Fernando and Lodermeier (2021). 47. OECD (2019). 22. インドネシアは Law No. 39/2004 on the Placement 48. DFAT (2014). and Protection of Indonesian Workers Overseas を Law 49. Park (2012); Schochet et al. (2012). No. 18/2017 on the Protection of Indonesian Migrant 50. Politique de la Ville (dashboard), Agence nationale Workers で差し替えた. de la cohésion des territoires, Paris, https://agence- 23. Missbach and Palmer (2018). cohesion-territoires.gouv.fr/politique-de-la-ville-97. 24. UN Women (2019). 51. Cour des Comptes (2020). 25. IRCC (2022). 52. 例えば,バングラデシュ政府が 2013 年にマレーシア 26. 次を参照:Centro Nacional de Apoio à Integração で働く移民労働者を直接採用することを試験的に行っ de Migrantes, National Immigrant Support Center た際,移住コストを市場水準の 6 分の 1 に引き下げる (website), CNAI, Lisbon, https://www.acm.gov.pt/-/ ことができた (Mobarak, Sharif, and Shrestha 2023). cnai-lisboa. Lisbon support center の詳細は次で見るこ 53. Sáez (2013). とができる:Centros Nacionais de Apoio à Integração 54. See Canada.ca (2023). de Migrantes, National Immigrant Support Centers (website), CNAIM, Lisbon, https://lisboaacolhe.pt/ 55. Canada.ca (2023); IOM (2008). apoio-ao-a-imigrante/centros-nacionais-de-apoio-a- 56. Rural Migration News (2019). integracao-de-migrantes-cnaim/. 57. Hennebry and Preibisch (2012). 27. “One-Stop-Shop / National Immigrant Support Centres 58. Malaysia-Bangladesh G2G Program (dashboard), Global (CNAI),” European Website on Integration, European Skill Partnerships, Center for Global Development, Commission, Brussels, https://ec.europa.eu/migrant- Washington, DC, https://gsp.cgdev.org/legalpathway/ integration/integration-practice/one-stop-shop- malaysia-bangladesh-g2g-program/. national-immigrant-support-centres-cnai_en. 59. Shrestha (2019). 28. Crock and Parsons (2023). 60. Clemens (2015). 29. Crock and Parsons (2023). 61. CARICOM (2017). 30. Department of Home Affairs (2023). 62. 改正チャグアラマ条約の 46 条によれば,以下のカテゴ 31. Crock and Parsons (2023). リーの CARICOM 国民には,CSME に加盟している国の 32. Haydar (2023). 全てにおいて求職する権利がある : 大学卒業者, 芸術家, 33. ILO (2022). 音楽家, メディア関係者, 運動選手, 看護師, 教員,職人, 準学士号取得者, 家事労働者, 農業労働者,民間警備員. 34. これは湾岸協力会議 (GCC)加盟国という文脈で広く議 次を参照:CARICOM (2001). 論されてきている.例えば,UAE (2011 年) ,カタール (2020 年),サンジアラビア (2021 年)は kafala という 63. エチオピアの労働市場では労働者の供給過剰が生じて 移民労働者を監視する体系を緩和し,今では移民は当 いる.しかし,恒久的なポジションはわずかである. 初の契約がひとたび失効した際には,他の雇用者を探 そこで大勢の失業中の土木建設業者はドイツの建設業 すことが可能となっている. 部門において技術的な訓練を受け,そこでスペシャリ ストとして働くことに興味を抱いている. 35. Employment Permit System (dashboard), Global Skill Partnerships, Center for Global Development, 64. Rossiasco et al. (2023). Washington, DC, https://gsp.cgdev.org/legalpathway/ 65. Government of Uganda (2020). employment-permit-system-eps/; Park (2017). 66. Alvarez et al. (2022). 36. Employment Permit System (dashboard), Global 67. Tumen (2023). Skill Partnerships, Center for Global Development, 68. Momodu (2019). Washington, DC, https://gsp.cgdev.org/legalpathway/ 69. Betts et al. (2019). employment-permit-system-eps/; MOEL (2022). 70. UNHCR (2021b). 37. Clemens and Tiongson (2017). 71. Government of Poland, Amendment to the law on 38. HRW (2014). assistance to Ukrainian citizens in connection with the 39. Brücker et al. (2021). armed conflict on the territory of the country, March 40. Figueroa and Hinh (2022). 26, 2022. 41. Pennsylvania Labor Relations Act として知られていた 72. EC (2022). 1937 年 6 月 1 日の法律 (P.L. 1168, No. 294)を改訂した 73. Jacoby (2022). 法律. 74. Bengtsson (2018). 42. Colorado General Assembly, SB21-087, Agricultural 75. UNHCR (2022). Workers’ Rights: Concerning agricultural workers’ 304 世界開発報告 2023 76. Maza (2023). Clemens, Lewis, and Postel (2018). 101. 77. United Nations (2018). Meissner (2004). 102. 78. OECD (2021). Triandafyllidou, Bartolini, and Guidi (2019). 103. 79. MREMH (2018). Triandafyllidou, Bartolini, and Guidi (2019). 104. 80. UNHCR (2021a). UNODC (2018). 105. 81. 人の移動,居住,および設立の自由という面で関連の IOM (2017). 106. ある,その 1979 Protocol A/P.1/5/79 の下で.人々の自 Dreyer and Scheibach (2020); Hunt (2020). 107. 由な移動という点で,設立条約の第 27 (1) 条は自由移 Hunt (2020). 108. 動地帯を確立するという目的を,以下のように詳細に African Courier (2021); Mefo Takambou (2021). 109. 述べている:「加盟国の国民は共同体の市民とみなされ るのは当然であり,したがって加盟国は,共同体内で Shear, Sullivan, and Jordan (2023). 110. のそのような市民の移動と住居の自由に対するあらゆ EC (2015); European Council (2016). 111. る障害物の廃止を行う」 . United Nations (2018, 2019). 112. 82. 例えば次を参照:final report of the meeting of the Global Compact for Safe, Orderly and Regular Migration 113. ECOWAS Trade, Customs and Free Movement of の下で,最初の International Migration Review Forum Persons Committee in Accra, Ghana, September 25–27, が 2022 年に広範囲にわたる利害関係者の参加を伴っ 2007. これは,難民という地位にあることと ECOWAS て開催された.今後は 4 年毎に開催される.Global の住居が両立しないという見方を是認しており, Compact on Refugees の下で,最初の Global Refugee ECOWAS 加盟国に対して難民となっている国民に渡航 Forum が 2019 年に開催され,今後はやはり 4 年毎に 書類を発行することを要請している.また,受け入れ 開催される. 国は難民になっている ECOWAS 市民に対して正式に居 Molnar (2020). 114. 住権を与えること,およびこの居住権の有効期間は 3 次を参照 “About,” Expert Group on Refugee, IDP and 115. 年であり,かつ更新可能であることも是認している (パ Statelessness Statistics, EGRISS, UN City, Copenhagen, ラグラフ 21 – 23) .ECOWASS (2007a, 2007b) も参照. http://egrisstats.org/about/. 83. Adepoju, Boulton, and Levin (2010). ILO (2018). 116. 84. ECOWAS (2007b). International Labour Migration Statistics (database), 117. 85. Jegen and Zanker (2020). ILOSTAT, International Labour Organization, Geneva, 86. Abay et al. (2023); Berhane et al. 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アフガン人の亡命希望者の承認率の加 政府間開発機構 (IGAD) 208 高度な教育を受けた女性 100 盟国間での相違 247, 292 アフリカにおける国内避難民の保護及び援助 国内賃金に与える影響 132 移住・移民 34, 42 のためのアフリカ連合条約(カンパラ コス ト 9, 96 一時的保護指令 248 条約) 231 雇用と賃金への影響 131 ウクライナ難民 202, 208, 209, 211 アフリカにおける難民問題の特殊な側面を規 資金調達 51 加盟国の間での移住 154 定するアフリカ統一機構(OAU)条約 失敗 105 難民申請 240 36, 247 社会的および文化的な影響 7 アメリカ 社会に与えるイ ンパクトの検証 87 FDI フロー 124, 130, 157 ――に移住した人の帰国 104 主要な回廊 43 移住との連動 130 ――への移住 34 スキル水準の格下げ 97 「安全なコミュニティ」 162 戦略的に管理 13 G20 移民の国 34 男性と女性のパターンの違い 116 高齢化 70, 71 雇用数が大きな増加を示す上位 3 種類 長期的な利益 7 送金コストの引き下げ 129 の職業 255 賃金上昇 94 送金フロー円滑化計画 275 多様なビザのカテゴリー 278 低スキル労働者の所得増加 95 GBV →「ジェンダーに基づく暴力」 入国移民世帯の集中 168 データ 43, 58 ブラセロ・プログラム 162, 293 動機 47 GCC 諸国 1, 7, 34, 42 – 44, 46, 49, 103, 126, ホンジュラス国民のための一時的保護 人間を中心に据えたアプローチ 22 131 資格 292 残されている家族への影響 102 移住のコス ト 96 予想される新規の雇用 74 残されている子供への影響 103 カファラ制度 98, 303 アルゼンチン 155 制限 140 採用割当 162 家族構成 171 流れの女性化 116 低スキル労働者の受け入れ 154 アーレント,ハンナ 26 パターン 35 入国移民 7, 34, 154 パターンの経時的な変化 43 IDA →「国際開発協会」 安全で秩序ある正規の移住のためのグロー パターンの地域ごとの相違 46, 48 IDA 借入国 299 バル・コンパク ト 246, 249, 251, 295 パターンのハンプ (コブ) 262 第一の目的 58 IDP →「国内避難民」 ポイ ン ト制を用いた径路 162, 279 IGAD →「政府間開発機構」 メキシコとアメ リカの協調的なアプローチ 行き先[移住先, 受け入れ] (destination) 295 IGAD 支援プラットフォーム 300 国 / 社会 xv, 277 利益 9 IGAD プロセス 305 移民が人口に占める割合 44 歴史 33 混在した状態の移動 54 労働市場に対する影響 131 kafala →カファラ 政策担当者の関心 58 移住および強制避難に関する国際的な法律 イギリス 34, 42, 101, 190, 240, 242 295 索 引 311 移住経路 162 社会的包摂 166 政策選択 157 移住者(移民) 23 住宅価格への影響 167 受け入れ政策 与えられる権利 97 集中 167 コスト 205, 207 対応における基本的な原則 241 就労権 166 中期的な計画期間 209 分析の方法論 86 出身(origin)国 44 移住政策 出身国における産業を発展させる 130 エチオピア 116, 125, 283 移民に対する態度からの影響 192 出身国の政策担当者の関心 58 2019 年の 「難民宣言」 286 一貫性 278 出身国の総人口に占める割合 45 「キャンプから外出する (out of 外面化 242 スキルが移住先国の労働市場のニーズ camp) 」政策 211 人種に関連する明示的な意図 190 に適合している場合 25 生産的セーフティネッ ト・プログラム 最も困難な挑戦課題 240 制度的および社会的な規範の移転 131 253, 289 世帯のネッ トワーク 103 移住性向 262 送金受領世帯 125, 126 説明責任の要求 131 イタリア 102, 105, 118 第6次 「教育部門開発計画」 (ESDP 送金を行う理由 138 人口 2, 68, 69, 73 Ⅵ , 2020   25) 286 –   存在の国家的な安全性 170 入国移民の影響 167, 170 ドイツとの試験的なプログラム 283 高いスキルを有する―― 7 リビアとの二国間協定 292 難民 213, 214 地位 279 「一応の(prima facie)」保護を提供 248 難民の教育 286 賃金プレミ アム 104 難民もアクセス可能な仕事を創出する取 一時的な移住労働者 160 低・中所得国 42 り組み 209 一時的保護資格 292 適合度の高さ 29 労働者の供給過剰 303 一時的保護指令 248 統合 166 ユダヤ人 102 移動(移住)→「越境移動」 も参照 67 統合における市民社会の関与 175 越境移動 48 ――に至らせる要因 191 統合における対象を絞った政策 176 気候変動による 76 新しいデータ源 61 当人たちの文化的なアイデンティ ティの 先例のない要因 67 危険性 105 放棄を要請する政策 176 開発面でのインパク トを最大化 299 長期にわたる研究 62 人数と集中度 1, 172 開発面での効果を高めるための研究に 定義の一貫性 59 反差別に向けた取り組み 176 おける優先事項 296 データ源 59 分散化 174 法的地位 166 エッセンシャルな労働者の保持 135 移民(移住者) (migrant) xvi, 1, 23 移民諮問委員会(MAC) 301 エッセンシャル部門 9, 276 ――に起因する 「文化的」 とされている 移民と難民 エビデンスの構築 295, 296 問題 170 ――に対する受け止め方と態度 192 ――の意見を取り入れる 302 援助の対象の絞り込み 233 ――に対する受け止め方と偏見 173 ――の尊厳の尊重 291 ――に対する厳しい政策 241 医療 101 オーストラリア 164, 242 ――の代表者の言説を聞く 302 医療制度へのアクセスの重要性 101 技術独立 (Skilled Independent) ――への対応における基本的な原則 医療ツーリズム 133 278 241 市場主導型の入国移住政策 154 インターネットの普及 171 ――を受け入れている低 ・中所得国へ 白豪主義 190 インド 23 の中期的な支援 297 ポイント・ベースの制度 162, 278 移住の経済効果 155 ――を分散させる政策 175 留学生の行き先 101 国際移住による所得の増加 94, 95 GCC 諸国 42 オーストラ リア太平洋訓練連合(APTC) 出生率 71 行き先国 44 135 情報技術関連企業 9, 130 行き先の選び方 52 オートメーションが労働に対する需要へ及ぼ 場所に基づく公共事業プログラム 253 移住先国社会での受け止め 191 す影響 74 移住先国の総人口に占める割合 45 インドネシア 125 出国移住を統治している法律の改正 オープン・データ 297 移住先の労働環境 105 276 オープンデータ・イニシアティブ(世界銀行) 移動のパターン 41 インパクト評価のための調査 60 297 移動のパターンが複雑化 54 教育制度への影響 167 強制労働を経験する可能性 106 ■か行 ウガンダ 居住の分離 167 国家開発計画 284 外国生まれ (の人) (foreign-born 健康状態 101, 107 難民の自立を奨励 285 (indivitual)) 23, 191 現在のト レンド 42 難民を国家の開発計画に組み込む 284 外国生まれの人の数と外国籍の人の数の間 権利 99 ウクライナ出身の難民 28, 53, 116, 200, 202, の大きな不一致 23 高所得国における成功 154 203, 208, 211, 248, 286 外国からの援助が出国移住に与える影響 高所得の OECD 加盟国 42 受け入れ 202, 206 252 高等教育修了済み 163 外国資格承認制度 280 受け入れ(host)国 / 社会(→「行き先国」 国際的な保護の程度 29 も参照) xv, 44 外国人及び国際的保護に関する法律 248 雇用者を変更できる権利 98 ――における移動の自由 285 外国人嫌悪 4, 191 孤立 102 ――による制限的な入国政策 294 外国人に対する暴力 106 搾取的な労働 105 ――による連合の結成 300 占める女性の割合 116 外国人留学生 99 312 世界開発報告 2023 外国籍市民諮問評議会 (FCACs, 移住と保護の政策 80 Ausländerbeiräte) 302 移動の動因 75 苦難の中での移動→困窮移動 外国籍の人(foreign national) 191 居住適性への影響 77, 79 国によるサービスへの包摂 15, 214, 215, 改正チャグアラマ条約 303 強制避難 75 272, 283, 286 小島嶼開発途上国 77 外的妥当性の評価 86 グリーン・カード(永住権) 162 女性への影響 116 開発の移住性向への影響 262 グローバル・スキルズ・パートナーシップ 気候変動及び災害によって引き起こされた強 開発金融 208 (GSP) 135, 165, 282 制移動に関する国家政策 249 開発資源 299 グローバルに移転可能なスキルの教育と訓 帰国 103 開発データ・パートナーシップ 297 練 276 アメ リカに移住した人 104 回廊 95, 243 強制的送還 105 越境移動の主要な―― 43 自発的 103 経済移民 1, 8, 42, 101 コス ト 96 賃金プレミアム 104 行き先国 52 送金手数料 129, 139 突然の決断 103 適合度の高い―― 5 学生の移住 99 難民 217 経済開発が移住の流れにおよぼす影響 252, 学生ビザ 165 西ヨーロッパへ移住した人 104 253 家計調査 60 帰国するつもりの移民の永住移民との違い 経済的移住者 [経済的移民](economic 103 (→ migrant) 「経済移民」も参照) 家事労働者 119 技術革新 73 xv 孤立化 106 労働に対する需要への影響 74 経済的包摂 15, 173, 213, 272, 279, 280 家族構成 171 季節的な移住プログラム 164 経済のファンダメンタルズ 147, 150 家族の離散 102 季節的労働許可証 164 継続渡航規則 190 学校制度(→「教育」も参照) 101 季節労働者プログラム 164 携帯電話を介するデジタル・マネー 129 カナダ 7, 163 「2023   –   2025 年移民受け入れ計画」 キト宣言 287 ゲスト・ワーカー(外国人労働者)プログラ 278 キト・プロセス(Quito Process) 223, ム 34 季節的農業労働者プログラム 281 287 血統に基づいて優遇ビザを交付する入国移 事前対策的なアプローチ 278 求職 51 住措置 190 短期的な移住 164 教育 99, 290 権利 26, 27, 279, 292 入国移住のニーズの管理 278 移住先国における―― 119 「仕事における」 ―― 213 ポイ ン ト制 162, 279 達成度の上昇 253 移住者に与えられる―― 97 – 99 民間難民受け入れ (プライベート・ス ネイティ ブ・フライトの影響 169 難民 216 ポンサーシップ) プログラム 220, ピア効果 167 働く―― 213 288 教育政策 101 カファラ制度 98, 303 後援制度→「カファラ制度」 教育水準 156, 171 カリブ共同体(CARICOM) 249, 283 ――が低い移民 103 恒久的解決 216 スキル資格承認証書 283 高所得国の移民労働者 155 国内避難民 232, 235 カリブ共同体(CARICOM) 単一市場・経 出国移民 253 達成した難民 216 済(CSME) 13, 283 教育制度の移民への影響 167 難民 204, 217, 219, 285, 288 韓国 164 枠組み 235 強靭性の強化 253 高齢化 70, 73, 171 恒久的な移民 160 強制送還がその対象となった移民に及ぼすイ 雇用許可制 73, 164, 279 恒久的な制度 162 ンパクトを和らげるための動機付けや 東南アジアからの移住のコス ト 96 恒久的な法的地位を取得 219 プログラム 255 乾燥回廊 81 高所得国 強制的な帰国 293 カンパラ条約 231 高齢化 70 強制避難 (強制退去) 4, 203, 205, 207, 216, 217, 230, 249 難民を受け入れている低・中所得国を 帰化 98 移動した人に関するデータの収集 296 支援 206 帰化市民(naturalized citizen) xvi, 23 解決 219 入国移民に関する経験 154 関連するデータ 61 入国移民労働者 155 帰化のために使われている基準 170 気候変動 75 高スキル→「高いスキル」 機関間常設委員会(IASC) 232, 235 傾向 51 高度な教育を受けた女性の移住 100, 118 ギグ・エコノミー 97, 106 強制労働 (forced or compulsory 合法的な入国経路 12, 245, 250 気候関連災害 81 labor) 106, 254 困窮移民 292 気候関連の移動 249 居住適性に対する気候変動の影響 77, 79 設計 250 気候緩和 79 有効性と持続可能性 162 居住の分離 8, 167 気候適応 79 高齢化 67 – 71, 73, 74, 157, 171, 278 キルギス 125 気候変動 2, 67, 75, 116 イタリア 3, 69 金融危機の送金への影響 128 ――に関連する越境移動 76 公的財政への影響 70 ――の影響への適応 254 金融手段の拡充 297 国営企業 214 移住のパターンへの影響 76 金融面のコスト 25, 96 国際開発協会(IDA) 208 索 引 313 「難民・受入コミュニティ向けウィ ン ドウ」 社会的―― 102 困難なト レードオフを反映させた政策 (WHR)→難民・受入コミュニ 難民の受け入れ 203 – 206 241 ティ向けウィンドウ ビザ 255, 266 出身国 288 「民間セクター・ウィ ンドウ」 299 分担 10, 13 人道的に帰国させる 251 国際協力 13 国家的な安全性 170 非自発的な帰国 293 頭脳流出の悪影響の削減 135 国境管理と人権尊重の間での難しいトレード 避難を申請 240 難民問題 205 オフ 245 補完的保護 292 国際収支 (BoP : Balance of 保護の必要性のレベル 246 国境管理の「外面化」 241 Payments) 報告書 147 補充的保護 246 雇用 国際譲許的融資制度(GCFF) 299 コンゴ民主共和国 53 ウクライナ難民 203 ジェンダーに基づく暴力 119 国際的移住に対する国内の代替策の創出 搾取的―― 293 289 ジェンダー格差 174 混在した状態の移動 54 国際的(な) 保護 (international 増加すると予想される職業 74 protection) xvi, 4, 27, 288, 298 難民 213 ■さ行 ――に向けた最初の法的枠組み 35 入国移民の影響 131, 159, 162, 166 在外自国民の保護 276 制度の隙間に落ちてしまう人 246 分極化 74 在外ベトナム人問題国家委員会 275 対象 247 雇用許可制 73, 164, 279 最後の国境に接している通過国 244, 294 難民 35 雇用者を変更できる移民の権利 9, 98 財政 ニーズの連続性 245 孤立 102 一時的な移住と恒久的な移住の影響の 国際的な労働基準 292 家事労働者 106 相違 160 国際法 4, 26 コロンビア 高齢化の影響 70 難民の定義 27 意思疎通戦略 280 入国移住の影響 159 国際連合難民高等弁務官事務所 35, 246 一時的保護の地位 (Estatuto 採用割当 (入国移民に対する) 162 国際労働機関 (ILO) Temporal de Protección 搾取的な労働 (市場) 11, 105, 250 移住関連のデータの収集 296 para Migrantes サハラ以南アフリカ 国際的な労働基準 292 Venezolanos, ETPV) 284 EU につながる回廊 243 国際労働移動統計 (ILMS)に関する 恩赦のプログラム 161, 213 移住の複合的な動因 77 ILOSTAT データベース 296 ベネズエラ移民への対応 280 移動 46, 49 国際労働移動の統計に関する指針 296 ベネズエラからの移民に対応するため 出国移住 133, 135 の戦略 (CONPES 3950) 221, 人口 71, 73 国勢調査(population censuse) 59, 62 284 送金のコス ト 128 国内移住者(→「国内避難民」も参照) 22 ベネズエラ人統合のための戦略 国内移動性(ホス ト国内における移動の自 差別 102, 173, 190 – 193 (CONPES 4100) 221 由) 210, 285 社会的統合への影響 193 ベネズエラ難民に国内で自由に移動 国際的な支援への影響 212 ジェンダーの間 100, 119 し,そして仕事をする権利を提供 難民危機の管理方法を変える潜在力 人種や民族に基づく 193 285 211 排除に向けた取り組み 176 ベネズエラ難民の受け入れ 221 国内避難 81 差別的な政策 102 コロンビアに滞在するベネズエラ人移民に対 解決という難問 232 サント メ・プリンシペ する保護に関する時限立法 248 多様性 231 海岸線に沿って居住している人々の強 困窮移住[苦難の中での移住] (移 脆弱性や保護の必要性の尺度 232 靭性の強化 291 動)(distress migration 国内避難民 (IDP: internally displaced 多部門投資計画 291 (movement) ) 11, 240, 288 persons) xvi, 230 移動の主要な通過ルート 244 ――に関する指針 231 移民の強靭性を高める 289 ジェンダー 恒久的な解決策 232, 235 開発を活用して削減 288 ――にかかわる関係 171 対処への政府の介入の重要な原則 233 国境でのト レードオフ 240 越境移動との関係 116 地位 232 根源 240 規範 118, 131 取り組む対象にする 233 政治的論争 240 差別 100 難民との比較 231 阻止する措置 241 ジェンダーに基づく暴力 (GBV) 119 「国内避難民のための恒久的な解決の枠組 動機を削減 250 コンゴ民主共和国 119 み」 235 必要性の削減 12, 15, 32, 245, 252, 253, スウェーデン 120 国内利害関係者 300 272, 288 – 290 総合的な政策による対応 120 国連薬物犯罪事務所(UNODC) 293 抑制するこ とに向けた努力 251 ベトナム 120 コスト4 困窮[苦難の中で移動する] 移民 ジェンダー・アイデンティティ 116 移住 51, 96 (distressed migrant) xv, 6 資金調達 215 移民の受け入れに伴う 153, 277, 283, 行き先国 291 移住の―― 51 288 一時的保護 246 ミスマッチ 206 金融面 96 回廊 243 「仕事における」権利 213 仕向送金 128 – 130, 136, 137, 139, 275, 合法的な入国経路 292 仕事に関する 2019 年カンパラ宣言 300 299 合法的な入国経路を提供 250 仕事を探すためのビザ 162 314 世界開発報告 2023 市場の硬直性 166 気候変動 77 164, 293 市場の柔軟性 166 高スキル労働者の出国移住 133 スロベニア 120 思想の伝播 131 出国移民の割合 44 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ 職業による賃金の相違 106 正規移住者 (regular migrant) [移民] 254 女性 xvi 持続可能な開発目標 139, 234 移住先国における教育 119 政策提言 15, 272 送金 139 家族と再統合するために移住 118 政策の優先順位 30 高いスキルを有する 118 ジブチ宣言(2017 年) 300 生産的セーフティネット・プログラム 253, 労働市場へのアクセス 118 シフト・シェア法 88 289 女性難民 119 市民権 22 生産年齢人口 70 「女性・ビジネス・法律」指数 100 社会的孤立 102 生児出生数 68 書類のない移民 xiv, 42, 98 社会的送金 131 性自認(ジェンダー・アイデンティティ) 116 ――の子供たち 101 社会的統合 170 移動の危険性 12, 105 性的指向 116 移民の人数と集中度 172 医療制度へのアクセス 102 生徒対教師比率 167, 169 受け止め方と偏見 173 差別の犠牲 102 政府間開発機構(IGAD) 208, 300 影響を及ぼす要因 172 増加 162 世界銀行 経済的な条件 172 書類のない移民のための合法化プログラム Remittance Prices Worldwide 言語,および文化面での馴染み 172 98 139 差別の影響 193 シリコン・バレーに在住するインド人移民 Smart Remitter Target (SmaRT) 政府による政策 173 130 139 文化的変化 171 自立(Self-Reliance) 285 国際譲許的融資制度」 (GCFF) 299 社会的ネットワーク 51 「オープンデータ・イニシアティ ブ」 297 難民 209, 212, 213, 283 移住の決定への影響 140 国内避難民 234 世界人道サミット 304 移民と移住先の市民 102 自律的な「難民機関」 209 責任共有 11, 286 社会的包摂 15, 102, 166, 170, 272, 280 シンガポール 164 ――のギャ ップ 206 社会的保護制度 253, 281, 289 現行の限界 206 三者構成の原則 301 宗教的実践 171 難民および受け入れコミュニティに対す 労働市場政策面での懸念事項を調べる 住宅価格への移民の影響 167 タスクフォース 302 る支援 207 収斂機構 154 難民保護 205 人口構成 68 主権国家 26 世界全体 68 責任共有計画 (ヨルダン・コンパクト) 11, 出国移住 変化 2 208 ――から利益を得る 136 人口台帳(population register) 60 先住民保護主義運動 34 海外在住者の支援 138 人工知能 74 開発戦略の一部にする 273 送金 人種に関連する明示的な意図を含む移住政 帰国者の支援 138 外国為替の安定源 127 策 190 高スキル労働者 133 開発面の利益 124 人種や民族に基づく差別 193 戦略的アプローチ 137 経済ファンダメンタルズとの相違 150 男女の割合 117 人身売買取引 251, 293 経済ファンダメンタルズとの比較 147 労働市場への影響 132 人身売買業者 106, 251 コスト 128, 129, 137 出国移民(emigrant) xv, 46, 55, 275 人的資本 97 コストの引き下げ 129, 275 教育水準 253 改善 252 推定額におけるギャ ップ 147, 148 高等教育修了者の割合 100, 134 推定における挑戦課題 149 国内の地域における相違 132 スウェーデン 175, 207, 287 推定方法の不一致 151 人口に対する比率 44, 262 ジェンダーに基づく暴力 120 測定 147 出生率 68 スキル 測定の改善 151 出身国(origin country) xvi ――に関する提携 282 他の経済指標との矛盾 147 ――で受ける訓練に資金提供 165 格下げ 97 低 ・ 中所得国向け 124 ――における恐怖 51 構築 138, 165 データ 147 ――に残された家族 102 構築制度 174 データベース 148 ――に残された子供 103 承認 165 手数料が高い回廊 129 グローバルなネッ トワークに統合 130 補完性 155 非公式フローの測定 149 貧困削減 125, 126 出身社会(origin society) xvi 頭脳流出 9, 22, 25, 91, 133, 276 貧困削減効果を大きく している政策 ジュネーブ条約(1951 年) 190 影響を小さ くする 134 127 上位中所得国 国際協力 135 不平等に及ぼす影響 127 人口構成 68, 71, 72 政策課題 133 フロー (流れ) 124 出国移民の割合 262 頭脳浪費 51, 97 フローの円滑化 275 小島嶼開発途上国 80, 290 スペイン 33, 157 フローの変動性 127 気候関連の移動 2, 249 生徒対教師比率 167, 169 分類問題 151 気候関連のリスク 290 モロッコとの労働移住に関する協定 マクロ経済的な安定性 127 索 引 315 メキシコ出身移民のコスト 275 賃金 25, 94, 98, 99, 131 統合 7, 25, 166, 176, 275 流出入のギャップの検証 148 移住の影響 132, 133, 158, 159, 177 過程 172 流入の規模 124 出身国と移住先国のギャ ップ 94 社会的―― 170, 171, 173, 193 送金事業者 128 硬直的な場合 158 難民 213, 215, 216, 221 ソーシャル・メディア 173 亡命希望者や難民 174 ソマリア 125, 204, 217, 218, 232 通過国(transit country) xvi, 12, 241, 統合政策 176 ソマリア難民のための恒久的な解決とソマリ 294 同国人(co-national) xv アにおける帰国者の再統合に関する 最後の国境に接している 244, 294 特定の行き先に向かう移民の主要な出身国 ナイロビ宣言 300 から成るグループを結成 300 ディアスポラ (diaspora) xv [民族離散] 都市化 171 ■た行 定義の一貫性 59 突発的に生じる極端な気象現象 75 滞在政策 165 低スキルの移民 7, 34, 51, 124, 139, 154, ドミニカ共和国 第三国定住 205, 207, 217, 287 279 海外在住者が出身国の総選挙に投票で ――への補完的な経路 220 GCC 諸国への移住 105 きるように憲法を改正 302 第二世代の (入国) 移民 191 低スキルの労働者 133, 157, 278 トランプ,ドナルド 191 代表と説明責任の制度 302 移住した場合の所得増加 94  – 96 トルコ 103, 242 入国移住からの影響 158, 159 外国人及び国際的保護に関する法律 高いスキルの労働者 (移民) 51, 124, 131, 134, 135, 157, 276 低所得国 2, 72, 252, 289, 299 248 ――を引きつけるこ とを目的とした政策 移住のパターン 35, 43, 44, 47, 262, 264, 現金給付プログラム 86 163, 278 265, 266 シリア難民 211, 212, 285, 295 出国移住 (→ 「頭脳流出」 も参照) 9, 人口増加 69, 71 スルタンベイ リに滞在しているシリア難 133 頭脳流出 9, 133 民 215 賃金プレミアム 104 送金 129 難民収容政策を 「キャンプ外」 アプロー 入国移住から受ける影響 159 難民の受け入れ 206, 208 チに変更 285 不足 9 低・中所得国 2, 42, 155 難民の自由移動を許可 212 高いリスクの移住に従事するこ とへの圧力を ――への送金 124 トレードオフ 削減 289 移住の管理を改善 300 国境管理と人権尊重の間での―― 245 外部からの融資金 124 困窮移住 29, 31, 240, 291 多国間での協力 286 高所得国への移住 118 難民の支援 217 「誰 1 人取り残さない」 26, 240, 254 市場の硬直性 166 トンガ開発銀行 137 短期就労ビザ (→ 「シェンゲン・ビザ」 も参 頭脳流出 133 照) 164, 279 難民の受け入れ 206 ■な行 短期的アプローチ 12 難民の受け入れを支援するコス ト 10, ナイジェリア 42, 127, 149, 150 困窮移民 245 206 人口 2, 68, 69, 71 難民対応 10 データ 内部移動性 11 短期的移住 164, 209 改善における優先事項 62 馴染みのない環境への移動 47 タンザニア 201, 203 機密性[プライバシー] 61 M- ペサ 128 収集における挑戦課題 61 ナタリスト(産児増加)政策 73 難民キャンプの設置 209 収集方法の調和 295 ナンセン・パスポート 35 適合度 1, 5 ナンセン,フリチョフ 35 知識移転 138, 275 高い場合 7 難民(refugee) xvi, 1, 4 帰国移民からの―― 130 低い場合 10 ――がもたらす利益 203 チャド 211 適合度と動機のマ トリックス 6, 21, 27, 67, ――に対するサービス提供の様式 215 「難民及び受け入れコミュニティ家計調 273 アクセス可能な仕事を創出する取り組 査」 61, 297 4 種類の移動 27 み 209 デジタル・マネー 129 アフリカにおける難民問題の特殊な側 中期的 面を規定するアフリカ統一機構 移民を受け入れている低 ・中所得国の (OAU) 条約における定義 247 支援 297 ドイツ 意思決定の複雑さ 216 難民という状態への対応 10, 199, 283 エチオピアの研修生の支援 283 移動 52 中国人排斥法 34, 190 外国資格承認制度 280 移動性の制限 210 中所得国(→ 「上位中所得国」 「低・中取 社会的包摂の支援 280 移動の円滑化 285 得国」 も参照) 2 スキル構築制度 174 移動の特質 54 高齢化 2, 69 – 73 制限的な措置 175 受け入れ 11 人口構成の変化 70 法的地位を有していないガンビアから 受け入れ国 283 出国移住の傾向 44, 47, 252, 263, 265 の移民を強制送還 293 受け入れコミュニティへの影響 201 難民 54, 206 亡命希望者と難民の統合 174 受け入れ政策 209 中米乾燥回廊 76 連邦移民難民局 (BAMF) 252 受け入れている低・中所得国を高所得 長期にわたる調査 296 統一的な国民文化 170 国が支援する制度 206 長時間労働 105 動機 1, 5, 47 受け入れに伴うコス ト 203, 205 316 世界開発報告 2023 受け入れに伴うコス トを共有 286 中期的な経済的成果 212 入国移住 受け入れるコミュニティの支援における 長期にわたる難民でない地位 220 インパクト 177 課題 206 定義 36, 247 財政面での影響 159 受け入れるコミュニティ を支援する国際 定義の変遷 247 財政面の間接的な貢献 161 的な融資 206 データ 43 スキルによる影響の違い 158 受け入れを支援する ドナー 206 データ収集 61 男女の割合 117 解決策 (→ 「恒久的解決」 も参照) 288 適合度の高い 5 長期的な経済効果 155 数 1, 200 適合度の低い 5 賃金に与える影響  159 管理 10 流れの構成 52 犯罪との関係 170 関連プログラム 207 働く権利 213 入国移民(immigrant) xvi, 55 帰国 217 避難先 53 受け入れ国の政策選択 157 帰国が 「成功する」 あるいは 「持続可能 貧困率が高い 285 教育水準 156 なものとなる」 218 法的地位と経済機会の間にある緊張 経済的効果 157 帰国後に国内避難民 (IDP) 218 219 公式な雇用 160 国による制度への包摂 (→ 「包摂」 も参 保護に対する責任の共有 205 採用割当 162 照) 215 より高い水準の保護を必要としている スキル補完性 155 国の機能している制度に統合 215 205 賃金と雇用への影響 158 経済的機会にアクセスするための補完 流入に成功裡に対応 209 法的地位 160 的な措置 213 労働移住という地位への移行 220 入国経路 恒久的解決 204, 216, 217, 219, 285, 労働市場へのアクセス 212 一時的な―― 164 288 難民・受入コミュニティ向けウィ ンドウ くじ引き制 163 恒久的な法的地位を取得 219 (WHR) 208, 298 経済的および社会的な目的を反映 163 公共サービスへの包摂 (→ 「包摂」 も参 難民及び受け入れコミュニティ家計調査 61, 入国政策 162, 278 照) 214 297 血統に基づく 190 国際的な基準 35 難民,国内避難民 (IDP) ,及び無国 人間開発指数 50 国際的な保護 35 籍統計に関する専門家グループ」 人間の尊厳と権利 26 国際法による定義 (→この項目の 「定 (EGRISS) 61, 232, 296 義」 も参照) 27, 190 人間を中心に据えたアプローチ 22 難民条約 4, 5, 10, 26, 200, 201, 205, 210, 国内移動性を許容する 「受け入れモデ 2123, 247 ル」 211 ネイティブ ・フライト 167 難民の定義 190 国家的な保護と機会へのアクセスを組 教育への影響 169 み合わせる解決 288 難民人口統計データベース (Refugee ネパール 125, 126 固有の脆弱性 201 Population Statistics Database) 43 年金改革 73 支援基盤 11 難民政策レビュー枠組み 208 年齢分布の乖離 68 支援における革新的なアプローチ 219 支援における持続可能なアプローチ 難民に関するカルタヘナ宣言 247 215 難民に関するグローバル・コンパク ト 農村部 76, 275 支援における短期偏重 209 (GCR) 205, 207, 287, 295 移民の受け止め 173 支援における トレードオフ 217 責任の共有 207 送金の影響 125 – 127 支援を国の制度に組み込むというアプ バングラデシュ 290 難民の地位に関する条約 / 議定書 (→「難 ローチ 286 難民 214 民条約」も参照) 26, 35, 200 仕事へのアクセスの促進 285 農村部の世帯の強靭性を高めるこ とについ 状況が予測可能ないしは慢性的な場合 て国内移住が持つ可能性 290 二国間援助 287 211 ノン・ルフールマン (non-refoulement) 状態が長期化している難民の数 204 二国間協力 13, 281, 294 原則 xvi, 5, 27, 35, 200 状態の長期化 201 二国間労働協定 281 女性 119 フィリピン 136 ■は行 自立(self-reliance) 212, 213, 285 西アフリカ諸国経済共同体 (ECOWAS) 排外主義 34 申請者の待機時間 213 219, 288 白豪主義 190 申請の処理や裁定における各国間の相 共同体の加盟諸国の全体にわたる移動 違 247 と諸国内での定住の自由を円滑 場所に基づく公共事業プログラム 253 生活の再建 201 化する協定 288 働き方 171 対応における中期的な持続可能性 210 自由移動地帯 304 バヌアツ 第三国定住 (→ 「恒久的解決」 も参照) 西ドイツ 気候変動及び災害が引き起こす強制移 205, 207, 217, 287, 288 外国籍市民諮問評議会 (FCACs, 動に関する国家政策 249, 290 第三国定住への補完的な経路 220 Ausländerbeiräte) 302 パプアニューギニア 277, 292 地位(refugee status) xv 西ヨーロッパへ移住した人の帰国 104 ハワラ(hawala) 128, 149, 151 地位が持続する期間 213 日本 バングラデシュ 125, 132, 252, 274 地域的な移動の自由 219 鎖国政策 33 農村部の世帯の強靭性を高めるこ とに 中間的な解決 219 人間開発指数 50 ついて国内移住が持つ可能性 中期的視点での状態の管理 283 労働供給の不足 70 290 中期的なアプローチ 10, 209 外国居住者福利厚生 ・ 海外雇用省 索 引 317 274 ベトナム 補完的な―― xv, 175, 248, 292 外国人労働者プログラム 282 アメリカに移住 157 連続性 54 1 人当たり GDP 290 海外在住者を自国の経済開発計画に 補充的(補助的)な形態の保護 12, 246, 犯罪 251, 293, 295 関与させる 130, 138, 275 248 入国移住との関係 170 ジェンダーに基づく暴力 120 補足的保護措置 248 反差別に向けた取り組み 176 送金コスト 137 補足的保護における錯綜 249 ベネズエラ (人) 36, 46, 98, 118, 211, 213, ポルトガル 119 287 ピア効果 167 国家移民支援センター 278 コロンビアによる難民の受け入れ 221, ビザ 本国(origin country) xvi 280, 284, 285 アメ リカの多様な―― 162, 278 本国送還(repatriation) 218, 251 労働許可証の提供 161 学生ビザ 165 ベネズエラからの移民に対応するための戦略 血統に基づく 190 ■ま行 (CONPES 3950) 221 取得のコスト 255, 266 ベネズエラ危機 208 マクロ経済的な安定性 127 受領の条件 135 ベネズエラ人統合のための戦略 マレーシア 154, 282 短期就労 164 (CONPES 4100) 221 ――へ向かう出国移住 126 短期滞在 279 移住のコス ト 55 短期訪問(シェンゲン・ビザ) 242, 295 ベネズエラ難民のための一時的保護の 帰国の支援 138 超過して滞在 240 地位 (Estatuto Temporal de 出生率 71 非自国民(nonnational) xvi Protección para Migrantes 送金 125 非自発的な帰国 251, 293 Venezolanos, ETPV) 221, 284 入国移民の影響 159 非正規移民 (irregular migrant) xvi, ペルシャ湾岸諸国 34 バングラデシュとの覚書 282 240, 243 ベンチマーク化 86 プランテーション 157 阻止するための措置 162 本国へ送還する EU と トルコの協定 ポイント制を用いた移住径路 162, 279 密入国 240, 293 242, 295 包摂 219, 222, 234 ――との戦い 250 非正規な移動のための違法な市場の出現 経済的―― 15, 173, 213, 272, 279, 280 密入国業者 251 240 国にによるサービスへの―― 15, 214, 密入国取引 251 非正規労働市場の取り締まり 250 215, 272, 283, 286 南アフリカ 35 人々の自由な移動 304 社会的―― 15, 102, 166, 170, 272, 280 外国人嫌悪 106, 191, 192 貧困削減 包摂的でグリーンな開発 290 入国移民の影響 158 ――のために出国移住を管理 137, 273 包摂的な開発 290 留学生 101 出国移民による送金の効果 125, 127 包摂的なジェンダー規範 100 民間セクター・ウィンドウ 299 労働移住を戦略の一部にする 9 法的地位 166, 216 民間難民受け入れ(プライベート・スポン フィジー 191 ――と経済機会の間にある緊張 219 サーシップ)プログラム 288 強制退去指針 249 亡命希望者(asylum-seeker) xv 民間部門 フィリピン 132, 274 亡命の地位(asylum status) xv 移住する可能性のある人の訓練 135 移民の保護 119, 136, 138 ポーランド 開発資源 299 看護教育プログラム 276 ウクライナ人が公共サービスを利用する 雇用や他の所得送出活動を生み出す 帰国する移民への支援 136 権利 286 213 出国移住から利益を得る 136 ウクライナ人の受け入れ 286 スキルの構築 282 潜在的な移民のスキルを開発 136 季節的労働許可証 164 頭脳流出 276 送金の受け取り 127, 128, 131 民間部門の存在 214 送金のコス ト 136 二国間労働協定 136 補完的(国際的) な保護 難民の受け入れ 207, 213, 214 フィリピン開発計画 137, 274 (complementary 民族の相違 191 不確実性 47 (international) protection) xv, 難民 241 12, 175, 248, 292 無国籍 234 不足職業リスト(SOL) 301 保護 状態を解決 234 富裕国 2 ウクライナ難民 203 人数 234 ブラセロ・プログラム (Bracero 義務 26 発生の理由 234 Program) 74, 293 国際的な――  →「国際的な保護」 無国籍者(stateless person) xvi フランス 国内避難民 231 無国籍者の地位に関する 1954 年条約 教育水準 171 国家による―― 26 235 居住の分離 167 困窮移民 11, 12, 31, 245, 246 対象を絞った 「都市政策」 (Politique 社会的な―― 158, 166, 253, 286, 289 出国移民の―― 136, 276, 281 メキシコ 127, 128, 275 de la Ville) 281 データ 61, 297 アメリカとの国境 149, 241, 242 留学生 101 難民 35, 200, 201, 205, 217, 247, 248, アメリカへの移住 167, 295 文化的変化 171 283 移住のコス ト 51 文化面での馴染み 172 金融技術法 275 必要性 4, 6, 47, 54,205, 232, 246 分散化 174 出国移民の地域別の割合 132 318 世界開発報告 2023 人口構成 2, 68, 69 送金コスト 137, 275 労働供給の不足 70 中米乾燥回廊 76 労働経済学 4, 25 ブラセロ・プログラム→ 「ブラセロ・プ 労働災害の発生 105 ログラム」 労働市場 25 メキシコ移住プロジェクト 62, 297 ――の包摂 173, 279 メキシコ家庭生活調査 297 (移民の) 行き先国 97, 98, 118 移住の影響 131 モルドバ 275 帰国移民 135, 138 ウクライナ難民 202, 203, 208 困窮移民 241, 250, 252 「経済に送金を引き付けるためのプログ 柔軟性 166, 280 ラム」(PARE 1+1) 275 出国移住の影響 131, 132 モロッコ 103 女性 118, 119, 205 移動性パートナーシップ協定 293 統合 174 スペイ ンとの労働移住に関する協定 難民 205, 211 – 213, 285 164, 293 ニーズ 73 送金 126, 127 亡命希望者や難民の統合 174 ミスマッチ 74 ■や行 労働者を求めるグローバルな競争 72 ヨーロッパ(→ 「EU」も参照) 労働力参加率 73, 132 移民 34 移民 165 近代以前 34 労働力調査 60 ヨーロッパ資格枠組み 165 ロシア 35, 43 ヨルダン 55 ウクライナ侵攻 202, 286 労働規制の変更 119 帰化 234 ヨルダン・コンパク ト 11, 208 人種主義 191 送金 128, 129 入国移民 139 ■ら行 ロボット工学 74 ラテンアメリカ(諸国) 208 アメリカへの移住 192 カルタヘナ難民宣言 36, 247 ■わ行 気候変動 79 「われわれは一緒(Wir zusammen)」 困窮移民 243 174 送金 126 湾岸協力会議諸国→「GCC 諸国」 ベネズエラ難民 211, 221 ベネズエラ移民危機に対処するための 地域的な移動性制度 287 ラテンアメリカ・カリブ 移動の傾向 46, 48 出国移住 135 送金 128 利益 移住がもたらす―― 5 受け入れ国において最大化 161, 277 出国移民がもたらす―― 136 すべての人を対象に最大化 273 送金がもたらす開発面の―― 124 入国移民がもたらす―― 153, 154 リフティング・チャージ 139 リモート・ワーク 171 留保賃金(reservation wage) 139 ルワンダ イギリスとのパートナーシップ 242 教育達成度 290 訓練プログラムの提供 290 職能開発基金 290 送金 128 ■編著者 世界銀行 世界銀行東京事務所 〒 100 – 0011 東京都千代田区内幸町 2 – 2 – 2 富国生命ビル 14 階 TEL : 03 – 3597 – 6650(代表) / FAX : 03 – 3597 – 6695 EMAIL : ptokyo@worldbank.org URL : https://www.worldbank.org/ja/country/japan ■訳者 田村 勝省(たむら かつよし) 東京外国語大学および東京都立大学卒業. 旧東京銀行および関東学園大学教授を経て翻訳家. 世界開発報告 2023 移民・難民・社会 発 行 2024 年 4 月 29 日 編著者 世界銀行 訳 者 田村 勝省 発行者 平野 智政 発行所 株式会社 一灯舎 〒 170  0003 東京都豊島区駒込 3  –  25  –  – 1 –  Tel : 03  –  6686  –  7456 / Fax : 03  6693 –  1830 印刷所 朋栄ロジスティック 製本所 朋栄ロジスティック <検印省略>許可なしに転載,複製することを禁じます. 乱丁本,落丁本はお取り替えします. ISBN978  – 4 – 907600 – 82 – 2 C3033 https://www.ittosha.co.jp/ © 株式会社一灯舎 Printed in Japan