A World Bank Group Flagship Report World Development Report 2023 世界開発報告 Migrants, Refugees, and Societies 移民・難民・社会 This work was originally published by the World Bank in English as World Development Report 2023: Migrants, Refugees, and Societies in 2023. This Japanese translation was arranged by Ittosha Incorporated. Ittosha Incorporated is responsible for the accuracy of the translation. In case of any discrepancies, the original language will govern. 本報告書は 2023 年に世界銀行 から World Development Report 2023: Migrants, Refugees, and Societies (The World Bank) として出版された. 本書の翻訳は株式会社 一灯舎に よりまとめられた も のであ り, 翻訳の正確性については株式会社 一灯舎が責任を 負う.翻訳と原文の間になん らかの矛盾がある場合は原文に従う . この報告書の英語版のオリジナルは国際復興開発銀行 / 世界銀行のスタッフによって作成された.この報告書において示 されている発見,解釈,および結論は,必ずしも世界銀行の理事会あるいは理事会が代表する国の見解を反映するもので はない. 世界銀行は,本書に含まれているデータの正確性,完全性,あるいは最新性を保証してはいない.また,情報における誤 り,欠落,ないし矛盾,あるいは記載されている情報,方法,プロセス,ないし結論の使用または不使用に関連する責任 を負わない.本書中の地図に示されている境界線,色,表示,およびその他の情報は,世界銀行によるいかなる領域の法 的地位の判断,またはその境界線の承認または受諾を意味するものではない. Rights and Permissions The material in this work is subject to copyright. Because The World Bank encourages dissemination of its knowledge, this work may be reproduced, in whole or in part, for noncommercial purposes as long as full attribution to this work is given. All queries on rights and licenses should be addressed to World Bank Publications, The World Bank Group, 1818 H Street NW, Washington, DC 20433, USA; e-mail: pubrights@worldbank.org. 著作権と許可:本報告書に掲載されている素材は著作権の対象と なっている. 世界銀行はその知識の普及を奨励しているため, この 報告書に対する完全な帰属が与え られている限 り,この作品の全部ま たは一部を非営利目的で複製する ことがで きる. 補助的権利を含 む権利お よ びラ イ センスに関する質問は, 世界銀行グループの出版局 (1818 H Street NW, Washington, DC 20433, USA; fax: 202- 522-2625; e-mail: pubrights@worldbank.org)宛に送ってください. [日本語版の引用お よび転載については, 世界銀行東京事務所あ るいは株式会社 一灯舎へお問い合わせ く ださい (本書奥付参照) ] . World Development Report 2023: Migrants, Refugees, and Societies Copyright © 2023 by The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank 1818 H Street, N.W., Washington, D.C. 20433, U.S.A. 世界開発報告 2023 移民・難民・社会 Copyright © 2024 株式会社 一灯舎 by The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank 1818 H Street, N.W., Washington, D.C. 20433, U.S.A. カバーおよび本文デザイン:Puntoaparte Editores, Bogotá, Colombia, with input from the Design team in the Global Corporate Solutions unit of the World Bank. カバー写真クレジッ ト:一行目,左から右:KAMPUS/Shutterstock.com; BAZA Production/Shutterstock.com; Prostock-studio/Shutterstock.com; airdone/Shutterstock.com; Comaniciu Dan/Shutterstock.com; CREATISTA/ Shutterstock.com; Aila Images/Shutterstock.com; A.D.S.Portrait/Shutterstock.com; Prostock-studio/ Shutterstock.com; LSrockStudio/Shutterstock.com; AJR_photo/Shutterstock.com; SB Arts Media/Shutterstock. com; Jacob Lund/Shutterstock.com. 掲載されている全ての写真は, 撮影を行った写真家とShutterstock.com の許可を 得て使われています. 再利用に際しては, 新たに許可を得る必要があ り ます. 二行目,左から右:Krakenimages.com/Shutterstock.com; Hing Chung Chic/Shutterstock.com; binoyphoto folio/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; BAZA Production/Shutterstock.com; LightField Studios/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; Beauty Stock/Shutterstock.com; Cast Of Thousands/Shutterstock.com; AJP/Shutterstock.com; Cast Of Thousands/Shutterstock.com; PakistanZindabad/ Shutterstock.com; 15Studio/Shutterstock.com; Daxiao Productions/Shutterstock.com. 掲載されている全ての写真 は, 撮影を行った写真家とShutterstock.com の許可を得て使われています. 再利用に際しては, 新たに許可を得る必要が あ り ます. 三行目,左から右:Prostock-studio/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; Cookie Studio /Shutterstock.com; Kamira/Shutterstock.com; EJ Nickerson/Shutterstock.com; Daxiao Productions/ Shutterstock.com; Always Say YESS/Shutterstock.com; AJR_photo/Shutterstock.com; SB Arts Media/ Shutterstock.com; Ground Picture/Shutterstock.com; Heru Anggara/Shutterstock.com; BublikHaus/ Shutterstock.com; Jenson/Shutterstock.com; Krakenimages.com/Shutterstock.com; poltu shyamal/Shutterstock. com. 掲載されている全ての写真は, 撮影を行った写真家とShutterstock.com の許可を得て使われています. 再利用に際 しては, 新たに許可を得る必要があ ります.  パールシー(パーシ人)の指導者である司祭たちが,地元の支配者ジャダブ・ラー ナーの前に連れてこられた.ジャダブ・ラーナーは,周辺の地域ではこれ以上の 人が住むことはできないということを示すために,ミルクで満たされた容器を差 し出した.パールシーの主任司祭はミルクにいくらかの砂糖を混ぜることによっ て,これに応じた.それは,よそ者が地元の人を追い出すことなく,地元の社会 を豊かにする方法を示すためであった.よそ者は,砂糖がミルクに溶けるように 地元の生活に溶け込み,混乱をもたらすことなくその社会を豊かにするだろう. 地元の支配者は,説得力のあるイメージに応えた.そして,地元の習慣を尊重し, 現地の言葉であるジャラート語を習得することを条件に,追放されてきた者たち に土地を与え,妨げを受けることなく独自の宗教を実践することを許可した. ――パーシの伝説  グローバルなコミュニティとして,われわれは選択を迫られている.移住が繁 栄と国際的な連帯の源泉になることを望むのか,あるいは非人間性と社会的摩擦 の代名詞になることを望むのか? ――アントニオ・グテーレス国連事総長,2018 年 v 序文 『世界開発報告』  世界銀行によって毎年公開される (WDR)は,鍵となる開発問題についての知識とデー タに関する国際的なコミュニティの宝庫を活用して作成される主要な出版物である.本年版では世界で最 も重要かつ切迫した課題の 1 つである移住(migration)を検討している.世界全体では 1 億 8,400 万人 の移民が存在する.その中の 43%は低・中所得国に居住している.各国間および各国内において――実 質賃金,労働市場機会,人口動態のパターン,そして気候変動に関連するコストなどの点で――深刻な相 違があることから,移民問題はより広範囲にわたる差し迫ったものになりつつある.  移住は経済開発と貧困削減に本質的な貢献をするが,同時に問題やリスクを伴っている.移民はしばし ば行き先国の経済を強化するスキル,活力,それに資源をもたらす.多くの場合,移住は移民の出身国も 強化する.特に混乱期においては,移民の家族のためのライフラインとして,資金の送金によってコミュ 『世界開発報告 2023』 ニティに極めて重要な支援機構を提供する.この は,移民の行き先国,通過国,お よび出身国のそれぞれにおいて,移住をよりうまく管理するための政策を提言している.このような政策 は移民が経済機会を活用すると同時に,移民が直面している困難やリスクを軽減するのを支援することが できる.  WDR では「適合と動機の枠組み」 「適合」 を用いて移住に関連するトレードオフを検討する. の側面は労 働経済学に基づいており,移民のスキルや関連する属性が行き先国のニーズにどの程度適合しているかに 焦点を合わせている.これが,移民自身,出身国,そして行き先国が移住から得られる利益の程度を決定 「動機」 する――適合が強固であるほど,利益は大きくなる. は,機会を求めて,あるいは迫害,武力抗争, ないしは暴力という恐怖の故に,人が移住する状況を指している.後者の場合,行き先国にとっては国際 法上の義務が生じるかもしれない.具体的には,自国において害を受ける「十分な理由のある恐怖(well- founded fear)」 「適合」 を理由として移住する人は,国際的な保護を受ける権利がある. と「動機」を組み 合わせることによって,この枠組みは,出身国,通過国,および行き先国にとっての,さらに国際的なコ ミュニティにとっての,政策の優先順位を特定する.また,どのようにすれば二国間,複数国間,あるい は多数国間のイニシアティブや手段を通じて政策対応が改善されうるかについても検討されている.政策 が設計され,そして実施されるその方法は,移民がより良い機会や改善された適合に向けて前進するのを 支援することができ,そのことによって,万人にとって移住の利益が増加する.  移民の出身国は,例えば,送金の実行や受領のコストを引き下げることで,送金の流入を円滑化する方 法を提供することによって,自国社会に対する労働移住の開発に関わる効果を最大化することができる. 出身国は,言語のスキルを含め,しばしば行き先国と協働して教育機会を改善することも可能である.さ らに出身国は,海外に散在する移民に投資を奨励することや,帰国移民が労働市場に再参入するのを支援 することもできる.  移民の行き先国[受け入れ国]は,特に高齢化の進展あるいは特定のスキル不足が引き金となっている労 働力不足に対応するという,長期的な労働市場のニーズを満たすために移住の潜在力を活用することがで きる.行き先国は,移民を人道的に処遇し,自国民への移民の社会的および経済的なインパクトに対処す ることに向けた努力を改善することができる.通過国は出身国と調整して,苦難の中での移住[困窮移住] に対処する必要がある.難民の受け入れにかかわるコストの分担に関しては,国際的な協力が決定的に重 要である.  移住に関する挑戦課題と複雑性を認識しながら,今回の WDR は,トレードオフについてのデータ主 vi 世界開発報告 2023 導型かつ証拠に基づく実例と評価を提示している.そして,移住が開発のためにどのように役割を果たす かを示している.この報告書は移住に関する理解を深めることに貢献するだろう.そして,政策策定者や その他の利害関係者が地域社会や個々人にとってのより良い成果に寄与するような知識に基づく選択を行 い,有効な戦略を策定するに際し,政策策定者やその他の利害関係者にとって有用な参照先を提供するは ずである. デイビッド・R・マルパス 世界銀行グループ総裁 vii 謝辞  『世界開発報告(WDR)2023』は Xavier Devictor, Quy-Toan Do, および Çağlar Özden が率いる世 界銀行チームによって作成された.Joyce Antone Ibrahim がタスク・チーム・リーダーを務めた.全体 的なガイダンスを提供したのは Carmen Reinhart (2022 年 6 月まで )――前 Senior Vice President and Chief Economist――,Indermit Gill (2022 年 9 月 時 点 )――Senior Vice President and Chief Economist――, お よ び Aart Kraay――Director of Development Policy, Development Economics, and Deputy Chief Economics―― で あ る. 本 報 告 書 は Development Economics Vice Presidency の後援を受けた.  コアな執筆者チームは,調査アナリストである Laura Caron, Narcisse Cha’ngom, Jessica Dodo Buchler, Sameeksha Khare, Matthew Martin, Elham Shabahat, Samikshya Siwakoti, お よ び Adesola Sunmoni に加えて,次の人たちによって構成された:Paige Casaly, Viviane Clement, Vikram Raghavan, Kanta Rigaud, Sandra Rozo Villarraga, Zara Sarzin, Kirsten Schuettler, Ganesh Seshan, Maheshwor Shrestha, Mauro Testaverde, Solomon Walelign, Christina Wieser, お よ び Soonhwa Yi.Selome Missael Paulos が Aidara Janulaityte の 補 佐 を 得 な が ら チームに対して事務的な支援を提供した.Barthelemy Bonadio, April Frake, Janis Kreuder, および Tony Zurui Su がさまざまな段階で,章の執筆者たちを支援した.Bruce Ross-Larson が報告書の起草 段階で方向性に関して指針を提示した.  拡大チームのメンバーとして参加したのは,Caroline Sergeant と Thamesha Tennakoon であ る.Erhan Artuc は本報告書における二国間の移住マトリックスを構築するために用いられた方法論を 開発した.Gero Carletto はスポットライト 2 においてデータに関して貢献し,Lucia Hanmer, Laura Montes, および Laura Rawlings はジェンダーに関してスポットライト 4 に貢献した.また,Anne Koch, Nadine Biehler, Nadine Knapp, および David Kipp は,ドイツから得た教訓に関するボッ ク ス 6.3 を 執 筆 し た.Irene Bloemraad, Victoria Esses, Connie Eysenck, William Kymlicka, Rachel McColgan, および Yang-Yang Zhou は,第 6 章の行き先国に関するセクションに貢献した. Paulo Bastos, Irina Galimova, Rebeca Gravatá, Alreem Kamal, お よ び He Wang が 翻 訳 の レ ビュー作業を支援した.   コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と エ ン ゲ ー ジ メ ン ト に 関 す る 戦 略 は,Chisako Fukuda, Karolina Ordon, Anugraha Palan, Elizabeth Price, Joe Rebello, Shane Romig, および Mariana Teixeira によっ て構成されるチームが主導した.Paul Blake がビデオ制作を主導し,そして調整を行った.Kristen Milhollin, Mikael Reventar, および Roula Yazigi がウェブやオンラインのサービス,およびそれらに 関連のあるガイダンスを提供した.  特別な謝意を,本報告書の正式な制作作業を調整および監督した Stephen D. Pazdan と,Cindy Fisher と Patricia Katayama を含む世界銀行の Formal Publishing Program に対して申しあげる. Mary C. Fisk は,「概観」と「主要なメッセージ」の Translations and Interpretation チームによる多 数の言語への翻訳を促進し,この作業は,Bouchra Belfqih によって調整が行われた.Deb Barker と Yaneisy Martinez が,本レポートの印刷と電子版への変換,および多数の関連する制作物の管理を行った. コンセプト・ノートは Anne Koch によって編集された.報告書全体の編集は Sabra Ledent と Nancy Morrison が行い,校正は Gwenda Larsen と Catherine Farley が担当した.Robert Zimmermann は本報告書の広範囲にわたる引用を検証した.Critical Stages(ウェブ批評誌)の Bill Pragluski に加 えて,Reyes Work が,本報告書の図やインフォグラフィックスの一部をデザインした.Puntoaparte viii 世界開発報告 2023 Editores が主任グラフィック・デザイナーであり,BMWW と Datapage が組版サービスを提供した.  Van Thi Hong Do, Dayana Leguizamon, Monique Pelloux Patron, お よ び Ghulam Ahmad Yahyaie が,WDR チームに資源管理の支援を供与した.Rolf Parta がチーム全体としての研修やその他 の会議を円滑化した.WDR チームは,チームメンバーの使節団の後方支援業務と利害関係者の関与を支援 してくれた世界銀行のさまざまな国の事務所の同僚にも感謝を申し上げる.特に,調整とハイレベルのエン ゲージメント戦略に支援をしてくださったことに関して,Maria Alyanak, Gabriela Calderon Motta, Maria del Camino Hurtado, Grace Soko, および Sebastian Stolorz にお礼を申し上げる.  WDR チームは以下の方々をメンバーとする内部諮問委員会から頂いた指針や意見に準拠して執筆を行っ た:Dina Abu-Ghaida, Loli Arribas-Banos, Caroline Bahnson, Michel Botzung, Gero Carletto, Ximena del Carpio, Stephane Hallegatte, David McKenzie, Pia Peeters, お よ び Dilip Ratha. また,当チームは世界銀行グループ内の他の同僚,特に以下の方々からいただいた指針,意見,および 情 報 に も 感 謝 し て い る:IMF の Multilateral Investment Guarantee Agency and the Balance of Payments Division に 加 え て,Development Economics Vice Presidency; Economics and Private Sector Development Vice Presidency (International Finance Corporation); Legal Vice Presidency; Environment, Natural Resources, and Blue Economy Global Practice; Finance, Competitiveness, and Innovation Global Practice; Poverty and Equity Global Practice; Social Protection and Jobs Global Practice; Social Sustainability and Inclusion Global Practice; Climate Change Group; Fragility, Conflict, and Violence Group.さらに,当チームは正式な銀行 全体によるレビュー行程の期間に文書でコメントを提供してくださった多数の世界銀行の同僚にもお礼を申 し上げたい.そのコメントは報告書の作成における重要な段階で貴重な指針となった.  また,WDR チームは次の方々をメンバーとするハイレベル諮問パネルから受け取った提案や指針に深く 感謝している:Nasser Alkahtani, Executive Director, Arab Gulf Programme for Development, Saudi Arabia; Davinia Esther Anyakun, Minister of State for Relief, Disaster Preparedness and Refugees, Uganda; Alejandra Botero Barco, former Director-General, National Planning Department, Colombia; Karl Chua, former Secretary of Socioeconomic Planning, National Economic and Development Authority, the Philippines; Reha Denemeç, former Deputy Minister of National Education, Turkey; Tiébilé Dramé, former Minister of Foreign Affairs and former Member of Parliament, Mali; Filippo Grandi, High Commissioner, United Nations High Commissioner for Refugees (UNHCR); Carlos Gutierrez, former Secretary of Commerce, United States; Gilbert F. Houngbo, Director-General, International Labour Organization (ILO) (as of October 2022); Mary Kawar, former Minister of Planning and International Cooperation, Jordan; Yuba Raj Khatiwada, former Minister of Finance, former Minister of Planning, and former Central Bank Governor, Nepal; Janez Lenar čič, Commissioner for Crisis Management, European Commission; David Miliband, President and CEO, International Rescue Committee; Guy Ryder, former Director-General, ILO (through September 2022); Asif Saleh, Executive Director, BRAC Bangladesh; お よ び António Vitorino, Director-General, International Organization for Migration.Volker Türk も 2022 年 9 月まで,自身の能力の範囲で, そのパネルのメンバーの 1 人として貢献した.  WDR チームは以下の方々をメンバーとする学術諮問委員会からも提案や意見を受け取った:Ran Abramitzky (Stanford University), Emmanuelle Auriol (Toulouse School of Econ-omics), Alexander Betts (University of Oxford), Michael Clemens (Center for Global Development), Alexander de Sherbinin (Columbia University Climate School), Frédéric Docquier (Catholic University of Louvain/ Luxembourg Institute of Socio-Economic Research), Esther Duflo (Massachusetts Institute of 謝辞 ix Technology), Filiz Garip (Princeton University), Guy Goodwin-Gill (University of Oxford), Jennifer Hunt (Rutgers University), Ana María Ibáñez (Inter-American Development Bank/Universidad de los Andes), Susan Martin (Georgetown University), Anna Maria Mayda (Georgetown University), Edward Miguel (University of California, Berkeley), Mushfiq Mobarak (Yale University), Giovanni Peri (University of California, Davis), Lant Pritchett (University of Oxford), Jaya Ramji- Nogales (Beasley School of Law, Temple University), Hillel Rapoport (University of Paris 1 Pantheon-Sorbonne/Paris School of Economics), および Jackie Wahba (University of Southampton).  また,WDR チームは以下を含む政府や開発パートナーと,一連の二者協議や諸国の訪問を行った:アル メニア,アゼルバイジャン,バングラデシュ,カメルーン,中央アフリカ共和国,コロンビア,コートジボ ワール,デンマーク,エストニア,エチオピア,フィンランド,フランス,ジョージア,ドイツ,グアテマ ラ,インドネシア,イタリア,日本,ヨルダン,クウェート,ラトビア,リトアニア,メキシコ,モロッコ, オランダ,ペルー,フィリピン,ポルトガル,サウジアラビア,スウェーデン,スイス,チュニジア,イギ リス,アメリカに加えて,ヨーロッパ委員会の気候行動,国際パートナーシップ,移民・内務,近隣・拡大 交渉を担当する各総局;ヨーロッパ対外行動局;統合・移民専門家会議(ドイツ);バチカン市国.  本チームは以下の国際機関や地域機関とも協議を行った:アジア開発銀行 (ADB),カリブ共同体 (CARICOM),国際労働機関(ILO),米州開発銀行 ,政府間開発機構 (IDB:移民ユニット) ,赤十 (IAD) 字国際委員会(ICRC), (IOM) 国際移住機関 ,経済協力開発機構(OECD),国際連合経済社会局(UNDESA, 人口部),国際連合アフリカ経済委員会(ECA),国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR),国連事務総長 の国内避難民に関する高級レベル・パネル.  当チームとしては,学者や非政府組織の参加を得て行われた一連の円卓会議やセミナーを企画および主催 した以下の団体に感謝している:コロンビア大学,コーネル大学,インターアクション(NGO の国際組織), International Council of Voluntary Aggencies, 日本国際協力機構(JICA),海外開発研究所(ODI), ピーターソン国際経済研究所(PIIE),難民インターナショナル.  以下を含むシンクタンクや調査機関から提供された情報は有益であった:世界開発センター(CGD),王 立国際問題研究所(Chatham House(RIIA)),フリーダム・ハウス,ドイツ国際安全保障研究所(SWP), 国際欧州問題研究所(IIEA),日本貿易振興機構・アジア経済研究所 ,JICA 緒方研究所 (JRTRO-IDE) (JICA-RI) (MPI) ,移住政策研究所 ,イタリア学術会議(CNR).   加 え て, チ ー ム に と っ て, 以 下 を 含 む 多 く の 市 民 社 会 組 織 か ら 得 ら れ た 諸 情 報 も 有 益 で あ っ た: ActionAid Bangladesh; Adventist Development and Relief Agency; Agency for Migration and Adaptation; Ain O Salish Kendra; Aligarh Muslim University; All for Integral Development; Alliance for Peacebuilding; American University of Beirut; AMIGA z.s.; Angels Refugee Support Foundation; Arab Renaissance for Democracy and Development; Asia Displacement Solutions Platform; Association of Rehabilitation Nurses; Bangladesh Nari Sramik Kendra; Bangladeshi Ovhibashi Mohila Sramik Association; Basmeh and Zeitooneh; Bill & Melinda Gates Foundation; Bond; Bordeaux-Montaigne University; BRAC; British International Investments; Business Fights Poverty; CARE International; CARE International Jordan; CARE International UK; Catholic Agency for Overseas Development; Catholic Relief Services; Center for Disaster Philanthropy; Center for Global Development; Center for Intercultural Dialogue; Center for Peace and Advocacy; Centre for Policy Development; Centre for Policy Dialogue; Church World Service; CLEAR Global; Columbia Global Centers; Congolese Banyamulenge community; Cordaid International; Cultuur in Harmonie; Danish Refugee Council; Delegation of the European Union to Bangladesh; Dilla University; Durrat AlManal for Development and Training; Economic, Social and Environmental Council; Embassy of Denmark; Encuentros SJM; x 世界開発報告 2023 European External Action Service; Films 4 Peace Foundation; Fondazione Compagnia di San Paolo; Food for the Hungry; Foreign, Commonwealth and Development Office, UK; German Centre for Integration and Migration Research; Global Campaign for Equal Nationality Rights; Global Recordings Network USA; Global Research Forum on Diaspora and Transnationalism; Good Neighbors; GRACE; Grassroot Leadership Organizations; Grupo Equilibrium; Guilford College; HasNa; Hebrew Immigrant Aid Society; Helvetas International; Hope of Children and Women Victims of Violence; Hungarian Migrant Women’s Association (she4she); IHH Humanitarian Relief Foundation; ILO; Independent Living Institute; Institute for Government; Institute of International and European Affairs; InterAction; Internal Displacement Monitoring Centre; International Centre for Migration Policy Development; International Committee of the Red Cross; International Council of Voluntary Agencies; International Independent Hockey League; International Institute for Strategic Studies; INTERSOS; IOM; Islamic Relief USA; Islamic Relief Worldwide; ITASTRA; Jeronimo Martins; Jesuit Refugee Service; Jordanian Hashemite Fund for Human Development; Justus Liebig University Giessen; Kakuma Vocational Center; Kids in Need of Defense; Kivu Kwetu Développement; Living Water Community; Lutheran World Federation; Manusher Jonno Foundation; McGill University; Medecins du Monde Japon; MedGlobal; Me For You Organization; Mercy Corps; Mercy Corps Jordan; Middle East and North Africa Civil Society Network for Displacement; MiGreat; MISEREOR; Moltivolti; National Agency for the Promotion of Employment and Competencies; National Human Rights Council of Morocco; Netherlands Refugee Foundation; Newcomers with Disabilities in Sweden; New School for Social Research; New Sorbonne University; New York University; Norwegian Refugee Council; Norwegian Refugee Council Jordan; Norwegian Refugee Council USA; Norwegian University of Science and Technology; Ocasiven; OECD; Osun Rise Regenerative Experiences; Overseas Development Institute; Ovibashi Karmi Unnayan Program; Oxfam IBIS; Oxfam International; Oxfam Jordan; Oxfam Novib; Oxfam UK; Pan American Development Foundation; Pasos Firmes; Permanent Mission of the Republic of Kenya to the United Nations; Permanent Representation of the Kingdom of the Netherlands to the European Union; Plan International; Plan International Jordan; Policy Center for the New South; RA Studio; Refugee and Migratory Movements Research Unit; Refugee Company; Refugee Consortium of Kenya; Refugee Council; Refugee Integration via Internet-Based Revitalization of Rural Europe; Refugee Investment Fund; Refugee Investment Network; Refugee Self-Reliance Initiative; Refugees International; Regional Durable Solutions Secretariat; Relief International; RW Welfare Society; Samuel Hall; Save the Children; Sawiyan; SEEK Feminist Research Network; SEP Jordan; 17 Ventures; Soccer Without Borders Uganda; Society for Human Rights and Prisoners’Aid-Pakistan; Solidarity Center; Souq Fann; Stand for the Refugee Africa SRA; Swiss Agency for Development and Cooperation; Syria Justice and Accountability Centre; Tamkeen; Tent Partnership for Refugees; UMI; UNHCR; UNHCR Global Youth Advisory Council; UNHCR Representation in the Netherlands; United Nations Office on Drugs and Crime; United Nations Resident Coordinator Office; United Nations Women; United States Refugee Advisory Board; University of Oxford; University of Virginia; WARBE Development Foundation; War Child Canada; Wilton Park; Winrock International; Women’s Refugee Commission; World Bank Group Geneva; World Refugee and Migration Council; World Vision; World Vision 謝辞 xi International; Youth Cooperation for Ideas; および Youth Up Foundation.  当チームは協議をさせていただいた多くの移民や難民が主導する団体に対して特に感謝している.この ことによってチームは移民や難民の声を聞くことが可能となった.それに含まれるのは以下の団体である: Afghan Refugees Solidarity Association, Africa Refugee-Led Network RELON, ARCI Porco Rosso, Asylum Access, ChangeMakers Resettlement Forum, Darfur Refugees Association in Uganda, European Coalition of Migrants and Refugees, Global Refugee-Led Network, Hope for Refugees in Action, International Rescue Committee, Irish Refugee Advisory Board, Mediterranean Hope, Migrants’Rights Network, Mosaico, New Women Connectors, Organization for Children’s Harmony, People for Peace and Defense of Rights, PLACE Network, Plethora Social Initiative, PPDR Uganda, Refugee Advisory Group, Refugee Advisory Network of Canada, Refugee-Led Organization Network (RELON) Uganda, SITTI Soap, Umoja Refugee, および Youth Social Advocacy Team.  加えて,本チームは以下の学者とも協議を行った:Tendayi Achiume (University of California, Los Angeles), T. Alexander Aleinikoff (The New School), Mustapha Azaitraoui (University of Sultan Moulay Slimane, Beni Mellal, Faculty of Khouribga), Massimo Livi Bacci (University of Florence), Kaushik Basu (Cornell University), Bernd Beber (WZB), Irene Bloemraad (University of California, Berkeley), Chad Bown (Peterson Institute for International Economics), Nancy Chau (Cornell University), Huiyi Chen (Cornell University), Vincent Chetail (Geneva Graduate Institute), Cathryn Costello (Hertie School), Jishnu Das (Georgetown University), Glen Denning (Columbia University), Shanta Devarajan (Georgetown University), Jasmin Diab (Lebanese American University), Mamadou Diouf (Columbia University), Ángel A. Escamilla García (Cornell University), Victoria Esses (University of Western Ontario), Ama R. Francis (Columbia University), Feline Freier (Universidad del Pacífico, Peru), Filiz Garip (Princeton University), Shannon Gleeson (Cornell University), Guy Grossman (University of Pennsylvania), Yuki Higuchi (Sophia University), Walter Kälin (member, Expert Advisory Group for the United Nations Secretary-General’s High-Level Panel on Internal Displacement and University of Bern), Ravi Kanbur (Cornell University), Neeraj Kaushal (Columbia University), Will Kymlicka (Queen’s University), Jane McAdam (University of New South Wales, Sydney), Gustavo Meireles (Kanda University of International Studies), Pierluigi Montalbano (La Sapienza University), Yuko Nakano (University of Tsukuba), Daniel Naujoks (Columbia University), Izumi Ohno (National Graduate Institute for Policy Studies), Obiora Chinedu Okafor (Johns Hopkins University School of Advanced International Studies), Brian Park (Cornell University), Eleanor Paynter (Cornell University), Paolo Pinotti (Bocconi University), Adam Posen (Peterson Institute for International Economics), Furio Rosati (University of Tor Vergata), Yasuyuki Sawada (University of Tokyo), Alexandra Scacco (WZB), Mai Seki (Ritsumeikan University), Akira Shibanuma (University of Tokyo), Dana Smith (Cornell University), Aya Suzuki (University of Tokyo), Jan Svejnar (Columbia University), Saburo Takizawa (Touyo Eiwa University), Joel Trachtman (Tufts University, Fletcher School of Law and Diplomacy), Carlos Vargas-Silva (University of Oxford), Nicolas Veron (Peterson Institute for International Economics), Tatsufumi Yamagata (Ritsumeikan Asia Pacific University), Keiichi Yamazaki (Yokohama National University), および Yang-Yang Zhou (University of British Columbia).  背景論文は,利害関係者の参画や広報活動とともに,「強制避難にかかわるマルチ・ドナー信託基金」から xii 世界開発報告 2023 寛大な支援を受けた.  最後に,当チームとしては,当方の不注意によって以上の謝辞に含められなかったすべての人や組織に対 してお詫びを申し上げる.ここに名前が出ていない方々を含め,本報告書の作成に貢献して下さったすべて の方々からの支援に謝意を表する.WDR チームのメンバーは,本レポートの出版に向けた準備期間を通じ て提供された関係者の家族による支援に対して,謝意を表する. xiii 本報告書で示される重要な事項  本報告書は,国際移住,およびそれがすべての諸国における成長と繁栄の共有に向けた原動力になる可能 性に関する包括的な分析を提示している.  この報告書は,居住している国で市民権を持っていない人々に焦点を合わせている:その数は世界全体 で 1 億 8,400 万人に達し,それには 3,700 万人の難民が含まれている.そのような人の約 43%は低・ 「外国生まれ」 中所得国に居住している.移住者は時には として定義されている.しかし,本報告書では 違った見方をしている.というのは,帰化した人は他のすべての市民と同じ権利を享受できるからであ る.  人口構成の急速な変化は,あらゆる所得レベルの諸国にとって,移住をますます必要にしつつある.高 所得国では速い速度で高齢化が進んでいる.中所得国も同じであり,これらの国は豊かになる前に高齢 化が進展している.低所得国の人口は膨張しつつあるが,若者はグローバルな労働市場で必要とされる スキルを持たずに労働市場に参入している.このようなトレンドは,労働者を求めるグローバルな競争 を引き起こすだろう.  本報告書は政策策定の指針となる強固な枠組みを提示している.その枠組みは移住者のスキルや関連す る属性が行き先国のニーズにどの程度うまく適合しているか,および移民の移動の動機に基づいている. 適合度は,移住者,移住者の出身国,および移住先国のそれぞれが移住から得る利益の程度を決める. 動機は,行き先国に対して国際法上の義務を生み出すかもしれない.すなわち,本国における危害ない し迫害の「十分に理由のある恐怖」が要因で移住する人たち――定義により難民である――は国際的な保 護を受ける権利がある.  適合と動機の枠組みは,政策当局が適切に対応することを可能にする.そして,本報告書は必要とされ る政策を特定している. ● 移住者の適合度が高い場合,移住者本人にとって,そして出身国(本国)と移住先国にとって,利益 はより多くなる.これは大多数の移民に当てはまり,当人のスキルが高いか,あるいは低いか,ま た正規か,あるいは非正規かとは無関係である.政策の目的は,万人にとって利益が最大になるこ とであるべきだ. ● 難民にとっては,適合度が低い場合,コストは多国間で分担――および削減――される必要がある. 難民の状態は数年間にわたって継続しうる.政策の目的は,受け入れコストを低下させると同時に, 国際的保護について適切な基準を維持することであるべきだ. ● 適合の程度が低く,かつ移住する人が難民ではない場合,難しい問題が発生する.移住者が非正規 で困難を抱えている場合は特にそうである.このような移住者の入国の規制は行き先国[受け入れ 国]の特権である.しかし,国外追放や入国拒否は非人道的な処遇につながる可能性がある.行き 先国における制限的な政策の採用は,一部の通過国にコストを課する可能性もある.政策目標は, 苦難の中での移住の必要性を減らすことであるべきだ.この点において開発は極めて重要な役割を 果たすことができる. xiv 世界開発報告 2023  移民の出身国は開発のために移住を積極的に管理すべきである.移民の出身国は労働移住を自国の開発 戦略の明示的な一部にすべきである.そのような諸国は,送金コストを引き下げ,散在する自国の海外 「頭脳流出」 在住者からの知識移転を促進し,世界的に需要が多いスキルを構築し, の悪影響を緩和し, 海外の自国民を保護し,彼らの帰国を支援すべきである.  移民の行き先国[受け入れ国]は移住をより戦略的に管理することもできる.移住先国は自国の労働ニー 「適合度の高い」 ズを満たすために 移住を活用し,移住者の包摂を促進すると同時に,自国民の間で懸念 を生じさせる社会的な影響に対処すべきである.移住先国は,難民を(国内で)移動させ,就職させ,そ して利用可能な場合にはいつでも公共サービスにアクセスさせるべきである.また,移住先国は,苦難 の中での高いリスクを伴う移動を人道的な仕方で削減すべきである.  国際的な協力が,移住を開発のための力強い原動力に転換するためには不可欠である.二国間協は,行 き先の国ニーズに対する移住者の適合度を強化することができる.難民を受け入れる際のコストを分担 し,困難を抱える移住に取り組むためには,多国間での取り組みが必要とされている.各国が非市民を 予測可能な仕方で世話するのを支援するために,新たな資金提供手段を開発すべきである.途上国,民 間部門やその他利害関係者,そして移民や難民自身を含め,移住に関する論議において軽視されている 声に耳を傾けなければならない. xv 用語集  以下の用語の一覧は,この報告書でよく使われている用語の,厳格な法律上の定義ではなく,一般的な説 明を提供している.しかし,以下の説明文には,このような用語が実際にどのように理解され適用されてい るかということと直接的な関連を有する法的および政策的な要素も含まれている. 亡命(asylum)あるいは難民(refugee)の地位(status) ある一国が自国の領域内の難民に対して付与する 司法上ないし行政上の手続きから生じる法的な地位.この地位は難民の本国送還を阻止し(ノン・ルフール マンの原則(the hprinciple of non-refoulement)に沿って),自国領域内での滞在を合法化し,滞在中 に一定の権利を供与することによって,国際的な難民保護を難民に対して与える. 亡命希望者(asylum-seeker) 本国外に存在しており,亡命を希望している人.統計上の目的では,亡命 の申請をしているもののまだ最終決定を受領していない人. 補完的(国際的)な保護(complementary (international) protection) 難民ではないものの,国際的な保 護を必要としている可能性のある人々に対して,国ないし地域によって提供される国際的な保護の形態.各 (ノン・ルフールマ 国はそのような人々の入国ないし滞在を合法化する,あるいは本国への送還を阻止する ンの原則に沿って)ために,多種多様な法的および政策的な仕組みを活用している. 同国人(co-national) 他人と同じ市民権を有する人. [移住先,受け入れ] 行き先 (destination country/society) 国 / 社会  移民が移動する際の行き先の国ないし [本文では distination という言葉を文脈に応じて, 社会. 「受け入れ」 「行き先」 などと訳している. 「移住先」 ] ディアスポラ (diaspora) [民族離散]  本国[出身国]の地理的な場所から離れた諸国や諸地域にわたって離 [最も一般的には単に海外在住の自国民. 散している,ある一国の人々. ] 困窮移民(distressed migrant) 苦難を伴う状況の中で他国へ移動するが,難民の地位に適用される基準を 満たしていない人.そのような人たちの移動は多くの場合に非正規で危険である. 経済的移住者 (economic migrant) [経済的移民]  迫害や深刻な危害ないし死亡の可能性によるのではな く,働きによって,あるいは海外在住の家族と再会することによって生活条件を改善するなどの他の理由を 動機として国境を越えて移動する移住者 .この用語は, (移民) 主に他国で働くために移住する労働移住者(移 民)ないし移住労働者を含む. 出国移民(emigrant) (出  他国に居住するために,自らの常居所の国を離れる人.この用語は当該人の本国 身国)の視点から使われる. 受け入れ国 / 社会(host country/society) 一時的ないし永続的のいずれかで移動する移民の行き先の国な いし社会. xvi 世界開発報告 2023 入国移民(immigrant) 常居所を構えるためにある国へ移動する人.この用語は当該人の行き先(移住先) 国の視点から使われる. 国内避難民(IDP: internally displaced persons) 武力抗争,暴力が一般化している状況,人権の侵害,あ るいは自然ないし人的な災害を通じるものを含め,迫害,重大な危害,ないし死亡を回避するために国境の 内側で退去させられている人々. 国際的保護(international protection) 各国によって,当該国の領域に滞在する難民ないしその他の退去 者に与えられる法的保護.保護の対象になるのは,本国では身の危険があることや,本国が当人を保護する ことができない,あるいは進んで保護しようとしないことが理由で,本国に帰国できない人たちである.国 際的な保護は,法的な地位という形態をとり,最低限として,本国への送還を阻止し(ノン・ルフールマン ,領域内の滞在を合法化する. の原則に沿って) 非正規移民(irregular migrant) ある一国への入国,あるいはある一国での滞在が法的には承認されてい ない移民(書類のない移民(undocumented migrant)とも呼ばれる)[このような人たちは . 「犯罪」を犯し 「不法」 た人たちではないことから,このような人たちを と呼ぶのは不正確である.] 移民 (migrant) (移住者)  この報告書では,常居所の国を変更し,かつ[新]居所の国の市民ではない人々の ことを指す.国のそのような変更には,レクリエーション,仕事,治療,あるいは宗教的巡礼などを目的と する短期的な移住は含まれていない. 帰化市民(naturalized citizen) 行き先国で市民権を取得した移住者. 非自国民(nonnational) 当人が居住する国の市民権を持っていない人. (non-refoulement) ノン・ルフールマン  迫害,拷問,あるいはその他の深刻な危害を受けるリスクのあ る場所に人々を送還することを各国に禁じている法的な原則. 出身国 (origin country/society) [本国]/ 出身社会  移民ないし難民が移動する元の国 (出 (出身国)/ 社会 身社会)[本文では origin という言葉を文脈に応じて, . (国) 「本」 や「出身」などと訳している.原文では home country という言葉も使われている.] 難民(refugee) 出身国における迫害の恐れ,武力抗争,暴力,あるいは深刻な治安の乱れの故に,難民保 護国によって国際的保護が与えられている人々.各国によって難民に対して与えられるこの国際的な保護 は,法的地位という形態をとり(「亡命」あるいは「難民の地位」を参照),難民の送還を阻止し(ノン・ルフー ルマンの原則に沿って), 国領域内での滞在を合法化し,滞在中に一定の権利を与える.これは, [受け入れ] 1951 年難民の地位に関する条約,および 1967 年難民の地位に関する議定書,あるいは国際的,地域的, ないし各国の法律文書の下で行われる. 正規移住者(regular migrant) ある一国への入国ないしある一国での滞在が法的に許可されている移住者. 無国籍者(stateless person) あらゆる国の市民でない人. 通過国(transit country) 移住者が行き先国に到着する過程で通過する国. xvii 略号 APTC オーストラリア太平洋地域技術カレッジ ASEAN 東南アジア諸国連合 BAMF (ドイツ) 連邦移民難民局 BLA 二国間労働協約 BoP 国際収支 CARICOM カリブ共同体 COVID-19 新型コロナウイルス感染症 CSME CARICOM 単一市場・経済 DAC (OECD) 開発援助委員会 ECOWAS 西アフリカ諸国経済共同体 EGRISS 難民・国内避難民・無国籍者統計に関する専門家グループ (旧 EGRIS: 難民・国内避難民・無国籍者統計に関する専門家グループ) ETPV ベネズエラ避難民のための一時的保護地位 EU ヨーロッパ連合 FDI 外国直接投資 GBV ジェンダーに基づく暴力 GCC 湾岸協力会議 GCR 難民グローバル・コンパクト GDP 国内総生産 GSP グローバル・スキル・パートナーシップ G20 20 カ国・地域グループ IASC 機関間常設委員会 IDA 国際開発協会 IDMC 国内避難民監視センター IDP 国内避難民 IGAD 政府間開発機構 ILO 国際労働機関 IMF 国際通貨基金 JDC 強制退去に関する共同データセンター KNOMAD 移民と開発に関するグローバル・ナレッジ・パートナーシップ LGBTQ+ レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア / クエスチョニング・プ (その他) ラス MTO 国際送金事業者 NGO 非政府組織 ODA 政府開発援助 OECD 経済協力開発機構 PPP 購買力平価 xviii 世界開発報告 2023 RPRF 難民政策評価枠組み RPW 世界送金価格 SAR 特別行政区 SDG 持続可能な開発目標 STEM 科学・技術・工学・数学 TMF (コロンビア) 国境通過カード UN (国連) 国際連合 UN DESA 国際連合経済社会局 UNHCR 国際連合難民高等弁務官事務所 UNRWA 国際連合パレスチナ難民救済事業機関 WAEMU 西アフリカ経済通貨同盟 WDI 世界開発指標 WDR 『世界開発報告』 WHR 難民・受入コミュニティ向けウィンドウ 凡例: 訳者による注および補足説明は大括弧( )で記載した. [ ] 「アメリカ」は,特記のない限り「アメリカ合衆国」 を意味する.「途上国」は,特記のないかぎり開発途上国および新興(emerging)国を含む.すべてのドル金額 は特記なき限り米ドルによる金額である. 翻訳の際に生じる語順の入れ替わりのために,注番号の順番が入れ替わっている箇所がある. xix 目 次 序文  v 謝辞  vii 本報告書で示される重要な事項  xiii 用語集  xv 略号  xvii 概観 1 移住はすべての国にとって必要である  2 政策担当者にとっての実践的な枠組み:「適合と動機のマトリックス」  4 適合度が高い場合には,大きな利益が得られる  7 適合度が低い場合,コストは複数国間で分担――かつ削減――される必要がある  10 移住をうまく機能させることは,物事のやり方を変えることを要請する  12 希望のメッセージ  14 注  16 参考文献  17 Chapter 1 適合度と動機のマトリックス 21 重要なメッセージ  21 人間を中心に据えたアプローチ  22 外国籍の人に注目する  22 2 つの視点:労働経済学と国際法  23 適合度と動機のマトリックス  27 政策の優先順位  30 注  32 参考文献  32 スポットライト 1 歴史 33 Part 1 あらゆる所得水準の諸国にとって移住は より一層必要になりつつある 39 Chapter 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 41 重要なメッセージ  41 現在のトレンド  42 動機とパターン  47 注  55 参考文献  56 スポットライト 2 データ 58 Chapter 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 67 重要なメッセージ  67 人口構成:今後に生じる労働者を求める競争  68 気候変動:苦難の中での移動の新たなリスク  75 注  80 参考文献  82 スポットライト 3 方法論の考察 86 xx 世界開発報告 2023 Part 2 適合度が高い場合には得られる利益は多くなる 91 Chapter 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 93 重要なメッセージ  93 より高い賃金を得ている  94 改善されたサービスへのアクセス  99 社会的コストへの対処  102 帰国  103 時には,失敗する  105 注  106 参考文献  109 スポットライト 4 ジェンダー 116 Chapter 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 123 重要なメッセージ  123 送金がもたらす開発面の利益の全てを獲得する  124 知識移転の活用  130 労働市場に対する影響の管理  131 戦略的アプローチを採用  137 注  138 参考文献  140 スポットライト 5 送金の測定 147 Chapter 6 移民の行き先国:経済および社会政策を通じて利益を最大化する 153 重要なメッセージ  153 移民の労働から得られる利益  154 経済的利益を最大化する  161 社会的包摂を促進する  166 注  176 参考文献  179 スポットライト 6 人種主義,外国人嫌悪,および差別 190 Part 3 適合度が低い場合,コストは多国間で分担 ――そして削減――される必要がある 197 Chapter 7 難民:中期的な視点から管理 199 重要なメッセージ  199 開発に関わる挑戦課題を認識する  200 地域的な連帯を通じて責任の共有を強化  205 緊急対応という枠を超えて  209 法的地位と機会へのアクセスを組み合わせることによって恒久的解決策に向けて進展を図る  216 注  222 参考文献  224 スポットライト 7 国内避難と無国籍 230 Chapter 8 困窮移民:尊厳の維持 239 重要なメッセージ  239 政策のトレードオフを認識する  240 国際的な保護を拡大する  245 合法的経路を通じて移民が移動する動機を変える  250 開発を通じて,移民のスキルや属性の適合度を高める  252 注  254 参考文献  256 「根本原因」と開発 スポットライト 8  262 目 次 xxi Part 4 移住をより良く機能させるにはやり方を変える必要がある 269 Chapter 9 勧告:移住をより良く機能させる 271 重要なメッセージ  271 はじめに  273 強固に適合:全ての人を対象に利益を最大化する  273 適合の程度が低く,恐怖が移動の動機である場合:責任の共有を通じることを含め, 難民受け入れの持続可能性を確保する  283 適合度は低いが恐怖が動機ではない場合:尊厳を尊重し困窮移動の必要性を削減する  288 改革に向けて欠くことのできない事項  295 注  302 参考文献  305 索引 310 ボックス O.1 どれくらいの数の移民が存在するのか, 7.1 ウクライナ難民の危機… …………………………… 202 ………………………… 1 またどこに住んでいるのか?… 7.2 難民のなかにはより高い水準の保護を 1.1 外国人か,それとも外国生まれか?… ……………… 23 必要としている人もいる… ………………………… 205 2.1 本報告書における移住のデータ… …………………… 43 7.3 開発金融の実例:IDA の 難民・ 3.1 技術は各国の間での労働市場の 受入コミュニティ向けウィン …………………… 208 ドウ… ミスマッチを解決できるか?…………………………… 74 7.4 難民状況が予測可能ないしは慢性的な場合は 3.2 サハラ以南アフリカにおける移住の複合的な動因… … 77 準備がきわめて重要である… ……………………… 211 4.1 より包摂的なジェンダー規範を求めて移住する: 7.5 帰国:帰郷か,あるいは新たな移動か?… ……… 217 高度な教育を受けた女性の事例…………………… 100 7.6 統合を通じてより良い成果を生む: 5.1 移民は当人の出身国に制度的および コロンビアからの教訓… …………………………… 221 社会的な規範を移転できる… ……………………… 131 S7.1 IDP と難民を比較する……………………………… 231 5.2 フィリピン:移民の出身国が移住から S7.2 国内避難と援助の対象の絞り込み… ……………… 233 利益を得ることができる方法についての 8.1 ………………………………… 242 移住政策の外面化… 事例研究……………………………………………… 136 8.2 ………………………………… 247 難民の定義の変遷… S5.1 国レベルで流出入のギャップを検証する…………… 148 8.3 小島嶼開発途上国における気候関連の移動… …… 249 6.1 移住の長期的な経済効果…………………………… 155 8.4 密入国業者と人身売買業者………………………… 251 6.2 深刻な文化的変化が生じている… ………………… 171 9.1 今後の研究にとっての優先事項… ………………… 296 6.3 ドイツから得られた教訓:亡命希望者や 難民を成功裡に統合………………………………… 174 図 O.1 イタリア,メキシコ,およびナイジェリアでは 1.1 移民グループの種類が異なれば, 人口構成に関わる大幅に異なる要因が 必要とされる政策対応は異なる… …………………… 21 作用している… ………………………………………… 3 B1.1.1 OECD に加盟している高所得国の多くでは, O.2 国境を越える移住に関する 2 つの視点… …………… 5 外国生まれの人の半数以上が帰化している… ……… 24 O.3 「適合度」が移民受け入れの純利益を決定し, 1.2 移民の適合度が高い場合,その貢献度は 「動機」がその国際的保護の必要性を決定する… … 6 融合のコストを上回る… ……………………………… 26 O.4 適合度が高い場合,移住先国および移民の 1.3 本国[出身国]に帰国すると危害を受ける 出身国の両方の政策は移住の利益を 「十分に理由のある恐怖」がある場合, 最大化することができる… …………………………… 8 移住先国はそのような人を受け入れる義務がある…… 27 O.5 適合度が低い場合,政策策定には, 1.4 「適合度と動機のマトリックス」は労働経済学と 経済的利益と移民の尊厳の間で生じる 国際法の各視点を組み合わせて 4 種類の 移住先国にとってのトレードオフが含まれる………… 10 移動を区別……………………………………………… 28 O.6 移民の本国と移住先国の双方における政策措置は 1.5 移民が「適合度と動機のマトリックス」の 困窮移住を削減するこ …………………… 13 とができる… どこに当てはまるかは,移住先国の政策が O.7 移住の種類に応じて,必要とされる国際的協力の 部分的に決定する……………………………………… 29 形態は明確に異なる…………………………………… 14 xxii 世界開発報告 2023 1.6 「適合度と動機のマトリックス」は明確に 4.4 低スキル移民にとっては,所得は移住先で 区別される移民の各グループに対する政策の 著しく増加する… ……………………………………… 95 優先順位を特定するこ とに役立つ… ………………… 30 4.5 GCC 諸国に移住する南アジア人労働者は 1.7 各国にとっての挑戦課題は,移民の適合度を 移住にかかわる最も高いコス トの1つに直面する… … 96 改善し苦難の中での移動を削減することである……… 31 4.6 アメリカでは,移民の賃金はアメリカ国籍を 2.1 移動のパターンは明確に区別される適合と 有する人に近い――移民が書類を持っている場合… 98 動機を反映している… ………………………………… 41 4.7 UAE では,移民労働者が雇用者を変更することを 2.2 移民および難民の大きな割合が低・中所得国に 可能にする改革の後には,契約更新の際に 居住している… ………………………………………… 42 受け取る利益が増加するようになった………………… 99 2.3 1960 年以降,低所得国の人口に占める B4.1.1 高いスキルを有する女性の出国移住率は 出国移民の割合はほぼ倍増した… …………………… 44 ジェンダーに基づく差別が中程度の諸国で 2.4 1960 年以降,高所得国の人口に占める入国移民 最も高い……………………………………………… 100 および帰化市民の割合は 3 倍に増加した… ………… 44 4.8 留学生の行き先になっている国は世界のさまざまな 2.5 越境移動は地域ごとに大きく異なる…………………… 48 地域から外国人留学生を引き付けている… ……… 101 2.6 移民がどこへ行くかは,大まかには移民の 4.9 アメリカに移住した人のごく少数のみが 出身国によって左右される… ………………………… 50 出身国に戻り,それは主に他の 高所得 OECD 諸国出身者である… ……………… 104 2.7 ほとんどの移民は限られた数の国から移住している ――そしてその傾向は強まりつつある………………… 52 4.10 西ヨーロッパに移住した人の多くは出身国に戻るが, 東ヨーロッパ諸国から移住した女性合は 2.8 難民の流れは危機の発生直後に急増し, そうではない… ……………………………………… 104 時とともに鈍化する… ………………………………… 54 S4.1 高等教育を修了した女性が移住する割合は, 2.9 中所得国出身の難民が徐々に増えてきている… …… 54 高等教育を修了した男性やスキルの低い S2.1 多くの国勢調査は移住に関して基本的な 女性よりも速く増加している………………………… 118 …………………… 59 一貫したデータを収集していない… 5.1 移民の出身国の政策は貧困削減に対する 3.1 人口構成と気候の変化が移住の傾向を 移住のインパクトを最大化できる…………………… 123 転換させつつある… …………………………………… 67 5.2 低・中所得国への外部からの融資金の 3.2 イタリア,メキシコ,およびナイジェリアでは フローのなかで送金は大きな割合を 人口構成に関わる大幅に異なる要因が …………… 124 占めていると同時に,増加しつつある… 作用している… ………………………………………… 69 5.3 送金が国民所得の 5 分の 1 以上を 3.3 人口は所得が低い国では急増している一方で, 占めている国もある… ……………………………… 125 所得が高い国では間もなく減少し始めるだろう……… 70 5.4 –  ネパールでは 2001  11 年の間に, 3.4 所得が高い国は急速に高齢化している一方で, 出国移住率が多い村で貧困水準が低下した……… 126 所得が低い国は若さを維持している… ……………… 70 5.5 –  1980  2015 年において,送金の変動性は 3.5 高所得国では高齢者の数は増加している一方で, 他の資本流入よりも低かった… …………………… 128 生産年齢の人の数は減少している… ………………… 71 5.6 –  2007  20 年において,ロシアからの外部への 3.6 2050 年までに高所得の OECD 加盟国では 送金の流れはサウジアラビアと比べて 高齢者 1 人を支える生産年齢の人の数は 石油価格との相関関係が強かった… ……………… 129 2 人未満になるだろう… ……………………………… 71 5.7 移動体通信事業者経由の送金は 3.7 中所得国において,女性 1 人が産む子供の数は 他の経路を通じるよりも安価… …………………… 130 急減しつつある… ……………………………………… 72 5.8 バングラデシュでは,帰国した移民は 3.8 多くの上位中所得国で,高齢者の割合は 非移民と比べて自営業者ないし企業家になる ……… 72 高所得国で通常みられる水準に達しつつある… ことが多い…………………………………………… 132 3.9 2050 年までに,サハラ以南アフリカは 5.9 平均的には,移民は出身国の労働力よりも 人口が増加している唯一の地域になるであろう……… 73 …………………………………… 134 教育程度が高い… B3.1.1 アメリカの雇用増加は若く て教育程度の高くない 5.10 ラテンアメリカ・カリブやサハラ以南アフリカから 労働者が従事している職業について多く なると アメリカに移住した多くの高スキル移民は 予想されている… ……………………………………… 74 アメリカで高等教育を受けている…………………… 135 3.10 気候変動は所得と居住適性を通じて S5.1 2020 年時点における,送金の流入額と流出額の 移住に影響を及ぼす…………………………………… 76 グローバルな推定値の間のギャ ップは B3.2.1 移動の動因の絡み合い………………………………… 77 40%に達した………………………………………… 147 4.1 移民のスキルや属性が移住先社会のニーズに SB5.1.1 送金の推定額におけるギャ ップは多くの諸国で 適合している場合,利益は大きい… ………………… 93 相当な大きさとなっている…………………………… 148 4.2 バングラデシュ,ガーナ,およびインドでは, S5.2 グローバル・レベルでは流出送金の報告は, 国際移住による所得の増加は国内移住の場合の 流入送金の報告よりも,経済ファンダメンタルズに 数倍に相当する………………………………………… 94 ………………………………………………… 149 近い… 4.3 高所得国に移住した移住者と同じ経済的利益を S5.3 国レベルでは,送金の流出入に関する報告は 移住していない人が本国において達成するには, 経済ファンダメンタルズと矛盾し ……………… 150 うる… 数十年間にわたる経済成長が必要…………………… 94 目 次 xxiii 6.1 移民のスキルや属性が移住先国のニーズに高度に 8.1 政策の挑戦課題は困窮移動を削減すると同時に, 適合している場合,移民の行き先国 [受け入れ国]は 移動者を人道的に処遇するこ …………… 239 とである… 利益を享受し,さらに政策措置を通じて自国の 8.2 毎年数千人の移民が移動中に死亡している… …… 243 利益を増加させることができる……………………… 153 8.3 移民の出身国と行き先国における協調的な 6.2 アメリカと西ヨーロッパでは,移民と帰化市民は 政策措置は,困窮下での移住を削減するこ とが 教育水準の範囲の両端に集中……………………… 156 できる………………………………………………… 245 6.3 入国移住が賃金に与えるイ ンパクトは 8.4 国際的な保護の下にあるニーズは連続的である… 246 国によって異なる… ………………………………… 159 B8.2. アフガン人の亡命申請者の承認率は 6.4 平均すると,OECD 諸国においては EU 加盟国相互間で大幅に異なっている 移民や帰化市民の財政面での正味の貢献は (2021 年)………………………………………… 247 受け入れ国生まれの市民による貢献を 8.5 補足的保護は錯綜している… ……………………… 249 上回っている… ……………………………………… 160 8.6 経済開発は移住の流れの構成を変化させる : 6.5 移民の財政面での貢献は,移民が生産年齢である 国の開発の進展に伴って出国移民の教育水準は 場合にはより大きい… ……………………………… 161 向上する……………………………………………… 253 6.6 多くの移住先国では高等教育を修了した移民・ S8.1 出国移住をする傾向は中所得国で最も高い… …… 263 帰化市民の割合は労働力の平均を上回っている… 163 S8.2 移住のハンプ[こぶ]は小規模国では顕著であり, 6.7 カナダでは今では短期的な移住が永続的な移住を 大規模国では抑えられている… …………………… 264 上回っている… ……………………………………… 164 S8.3 中所得国が発展すると,その国の出国移住は 6.8 スペインでは生徒対教師比率は移民生徒の割合が 増加し,主に高所得の行き先国に向かう… ……… 265 大きいほど高い……………………………………… 169 S8.4 低所得国が発展するのに伴って,移住,特に 6.9 …………………………… 173 社会的統合の決定要因… 低所得の行き先国に向かう移住の傾向は低下… … 266 S6.1 南アフリカでは移民に対しては,肯定的な 9.1 戦略的に管理すれば,移住はコス トを軽減しつつ 態度よりも否定的な態度のほうが多い… ………… 192 利益を最大化するこ …………………… 271 とができる… 7.1 難民状態は各国間でコストを分担しながら, 9.2 移民の出身国は貧困削減に向けて出国移住を 中期的な視点によって最も適切に管理される……… 199 管理できる…………………………………………… 274 7.2 難民の数は過去 10 年間で 2 倍以上に 9.3 移民を受け入れる国は自国の利益のために移住を なっている… ………………………………………… 200 管理することができる… …………………………… 277 7.3 状態が長期化している難民数は過去 10 年間で 9.4 二国間協力は移民のスキルや属性と受け入れ国の 2 倍以上に増加している… ………………………… 204 ニーズとの一致度を改善できる… ………………… 282 7.4 世界全体の難民の半分以上は中所得国に 9.5 難民受け入れ国は危機の発生時点から 受け入れられている… ……………………………… 206 中期的な視点を採択するべきである… …………… 284 7.5 3 つのドナーが難民向けの二国間 ODA の 9.6 難民の受け入れに向けた努力の持続可能性に ほぼ 3 分の 2 を拠出… …………………………… 207 とっては多国間での協力が鍵となる……………… 287 7.6 4 カ国で,第三国定住をした難民の 4 分の 3 を 9.7 開発の進展は苦難の中での国境を越える移動の 受け入れている……………………………………… 207 必要性を減らす……………………………………… 289 7.7 難民の流入への対応において,受け入れ国は 9.8 人間の尊厳が移住政策の基準であり続ける 中期的な持続可能性――財政と社会の両面で―― べきである…………………………………………… 291 を目指すべきである… ……………………………… 210 9.9 行き先国と「最後の国境と接する通過国」の間での 7.8 難民は受け入れ国の国民よりも給付への依存度が 協力が必要とされている… ………………………… 294 ……… 214 高く,より不安定な条件の下で働いている… 9.10 新しい金融手段と開発資源利用の拡充が 7.9 過去 15 年間において,恒久的な解決策を 移住の管理を改善するために必要とされている…… 298 達成した難民の割合は非常に低い… ……………… 217 9.11 移住に関する論議を転換するためには 7.10 難民になる人(認定者) の数が難民でなくなる 新たな意見が必要とされている… ………………… 301 人の数を上回っているこ とから,難民数は 増加し続けている… ………………………………… 217 7.11 法的地位と経済機会の間にある緊張関係が, 難民状態を解決することにおける困難さの 根源にある…………………………………………… 219 xxiv 世界開発報告 2023 地図 2.1 ほとんどの国において,他国に移住した人が 5.1 メキシコから出国する移民の割合は 人口に占める割合はごく小さい… …………………… 45 地域ごとに不均等… ………………………………… 132 2.2 入国移民は,あらゆる所得水準の国で, 6.1 アメリカでは,入国移民世帯は大体が 世界全体にわたって存在している… ………………… 45 南部国境に沿った地域と主要な大都市圏に 2.3 移住を引き起こしているグローバルな 集中している… ……………………………………… 168 不均衡の一部は人間開発指数に 6.2 ニューヨーク都市圏では,移民は特定の 反映されている… ……………………………………… 50 近隣地区に集中している… ………………………… 168 2.4 ………… 53 ほとんどの難民は近隣諸国に避難している… B7.1.1 ウクライナ難民は EU 全体および近隣諸国で 2.5 10 カ国で難民全体の半数以上を受け入れている… … 53 受け入れられている… ……………………………… 202 B3.2.1 サハラ以南アフリカは複合的な脆弱性に 7.1 難民にトルコ国内の自由移動を許可する さらされている… ……………………………………… 78 ことによって,政府は,難民が最初に到着した シリア国境に沿う地域のコミュニティが受ける 3.1 人々が屋外で働ける地域は縮小しつつある… ……… 79 影響を削減した……………………………………… 212 S4.1 出国移住者の数について,女性の方が多い S7.1 国内避難は世界全体で起こっている… …………… 230 国もあれば,男性の方が多い国もある… ………… 117 8.1 移動の主要な通過ルート… ………………………… 244 S4.2 入国移住者の数について,女性の方が多い 国もあれば,男性の方が多い国もある… ………… 117 表 O.1 主要な政策提言………………………………………… 15 9.1 主要な政策提言……………………………………… 272 1 概観  移住は文明の最も初期から人間が経験することの 1 つになってきている.ホモ・サピエンスは約 20 万年 前にアフリカのオモ渓谷を離れた.それ以降,人類は移動を決して止めることはなく,はっきりと相異なる 文化,言語,そして民族性を生み出してきている 1.移住は開発にとって強力な推進力であることが判明し ており,世界全体にわたって何億という移住者とその家族,およびそれらが暮らしている社会を改善してき ている.しかし,移住者 本人,本国 (移民) ,移住先国 (出身国) (行き先国)にとって挑戦課題もある.  本報告書は当人の国籍国の外で生活している人々を移民として定義し(ボックス O.1),より良い経済機 会を追求して移住したのか,ないしは紛争や迫害によって退去を余儀なくされたのか(難民)は問わない.居 住国に帰化している人については,そのような人を移民とはみなさない.移住者と政策当局に対して明確な 挑戦課題を提起するのは市民権――およびそれと関連する市民的,政治的,および経済的な権利――の欠如 であり,人々が人生のある時点で移動したという事実ではない.  本報告書は移住の経済的,社会的,および人道的な影響を最適に管理するための枠組みを提案する.労働 経済学と国際法から得られる洞察を組み合わせることによって,移民のスキルと属性が移住先国で需要され る度合い(適合度)と,移民は移住先国で機会を求めているのか,それとも本国(出身国)で身の危険を感じて いるのか(動機)に注目している.そうすることによって,4 種類の移動を区別し,あらゆる状況において開 発がもたらす利益を完全に実現するための優先的な政策と介入策を特定する.変化を起こすためには国際協 力が決定的に重要である――そして,現行の論議の特質や傾向を変えることができる新たな意見をエンパワ メントすることも同じく大切である. ボックス O.1 どれくらいの数の移民が存在するのか,またどこに住んでいるのか?  国境を越える現代の移動は,その多様性が特徴である.典型的な移住者は存在せず,移住者の典型的な 本国[出身国]あるは行き先国もない.移住者は,移動する理由,修得しているスキルや人口構成上の特性, 法的な地位,当人の状況や展望などによってさまざまである.あらゆる所得水準で移民の出身国と移動先 国の双方があり,実際に,メキシコや,ナイジェリア,イギリスなど,多くの諸国が移民の出身国である と同時に受け入れ[移民の行き先]国でもある. (世界人口の約 2.3%)  本報告書の定義によれば,世界全体では約 1 億 8,400 万人 の移民が存在し,そのう ちの 3,700 万人が難民である:  約 40%(6,400 万人の経済移民と 1,000 万人の難民)が OECD に加盟している高所得国に住んでいる a. これは書類のない移民や国際的な保護を求めている人々だけでなく,高スキルおよび低スキルの労働者 とその家族,定住する意図を持った人々,一時的な移民,学生などである.この数字には,広範な居住 権を持ち,他の EU 諸国に住んでいる 1,100 万人の EU 市民が含まれている.  約 17% は湾岸協力会議 (3,100 万人の経済移民) 諸国に居住している.ほぼ全員が更新可能な就労 (GCC) 臨時労働者である. ビザを持つ, GCC 諸国全体の人口の約半分に相当する. そのような移民は平均すると, (ボックス:次ページへ続く) 2 世界開発報告 2023 ボックス O.1 どれくらいの数の移民が存在するのか,またどこに住んでいるのか?(続き)  約 43% は低・中所得国に居住している b.このような人たち (5,200 万人の経済移民と 2,700 万人の難民) は主に仕事あるいは家族との再会のために,ないしは国際的な保護を求めて移動した.  世界人口に占める移住者の割合は 1960 年以降,比較的安定した状態が維持されている.しかし,この明 白な安定は誤解に導く.というのは,人口の増加は世界全体では不均等であるからだ.世界全体での移民人 高所得国における人口増加の 3 倍の速さで増えている. 口は, 低所得国における人口増加の速さとの比較では, 世界全体の移民の増加の速さはその半分である. 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. a. この推定値には,約 6,100 万人の外国生まれで帰化した市民は含まれていない. b. この推定値には,約 3,100 万人の外国生まれで帰化した市民は含まれていない. 移住はすべての国にとって必要である  移住は,ショックや,各国間における所得や幸福度にかかわる大規模な格差などの世界的な不均衡への対 応である.経済的移住はより高い賃金や改善されたサービスへのアクセスにかかわる期待によって引き起こ される 2.2020 年の時点で,移住者の約 84%はかつての本国よりも豊かな国に住んでいる.そうではあ るものの,移住にはほとんどの貧困者が負担できない費用がかかる.  人口構成上の変化は,労働者や人材の世界的な競争の激化を引き起こしている.次の 3 カ国を考えてみ よう.イタリアの人口は 5,900 万人であり,2100 年までにはほぼ半減して 3,200 万人となり,人口に占 める 65 歳以上の割合は 24%から 38%に上昇すると予測されている.メキシコは伝統的には移民が出国 する国であったが,今や出生率は低下し,かろうじて人口置換の水準となっている.対照的に,ナイジェリ アでは世紀末までには,2 億 1,300 万人の人口は 7 億 9,100 万人に増加し,インドに次いで世界第 2 位 (図 O.1) の人口大国になると予想されている .  このようなトレンドはすでに深遠なインパクトを与えつつあり,労働者が必要とされている場所と労働者 を発見できる場所を変化させている 3.政治情勢に関係なく,富裕国は,自国経済を維持し,そして高齢市 民に対する社会的な公約を守るために,外国人労働者を必要とするであろう.多くの中所得国は,伝統的に は移民の主要な供給源であり,外国人労働者を求めて競争する必要がまもなく生じることになるだろう.そ して中所得国の多くはまだその準備ができていない.低所得国は大勢の失業していて,不完全雇用の状態に ある若者を抱えているが,その多くはグローバルな労働市場で需要されているスキルをまだ身に付けていな い 4.  気候変動が移住の経済的な動因を強めている 5.世界人口の約 40%――35 億人――は,水不足,旱魃, 熱ストレス,海面上昇,そして洪水や熱帯性サイクロンなどの極端な気象現象といった,気候変動の影響 に高度にさらされている場所に居住している 6.被害を受けた地域では経済的機会が減少し,このことは脆 弱性を高めると同時に,移住への圧力を高める 7.気候のインパクトはサヘル(アフリカの半乾燥地帯),バ ングラデシュの低地,メコン・デルタなど多様な地域全体で,居住可能性を脅かしつつある 8.一部の小島 嶼開発途上国(SIDS)では,このようなインパクトによって,指導者は計画的な移転を熟考せざるをえなく なっている 9.気候変動に起因する移動のほとんどは,これまでのところ短距離で主に国境内にとどまって いる 10.しかし,これは変わるかもしれない.今後数十年間で,気候変動が国際的な移動を増やすのか否か, また,どの程度増やすのかは,現在において採用され,そして実施されている緩和と適応に向けたグローバ ル,および各国の政策に依存している. 概観 3 図 O.1 イタリア,メキシコ,およびナイジェリアでは人口構成に関わる大幅に異なる要因が作用している a. イタリアの人口は高齢化しており,人口構成は逆ピラミッド型になりつつある 1950 2022 2050 100+ 90‒94 80‒84 70‒74 60‒64 年齢 50‒54 (年) 40‒44 30‒34 20‒24 10‒14 0 ‒4 3 2 1 0 1 2 3 3 2 1 0 1 2 3 3 2 1 0 1 2 3 人口(100 万人) 人口(100 万人) 人口(100 万人) b. メキシコでは人口構成の転換がかなり進行しており,加速すると予想されている 1950 2022 2050 100+ 90‒94 80‒84 70‒74 60‒64 年齢 50‒54 (年) 40‒44 30‒34 20‒24 10‒14 0 ‒4 6 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 6 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 6 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 人口(100 万人) 人口(100 万人) 人口(100 万人) c. ナイジェリアは今世紀半ばを通じて,住人の年齢は若い状態が維持されるだろう 1950 2022 2050 100+ 90 ‒94 80‒84 70‒74 60‒64 年齢 50‒54 (年) 40‒44 30‒34 20‒24 10‒14 0 ‒4 20 15 10 5 0 5 10 15 20 20 15 10 5 0 5 10 15 20 20 15 10 5 0 5 10 15 20 人口(100 万人) 人口(100 万人) 人口(100 万人) 男性 女性 出 所:2022 年 の デ ー タ (中間シナリオ) :World Population Prospects (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/. 4 世界開発報告 2023  他方で,紛争や,暴力,迫害が大勢の人々を当人の本国から外部への移動を引き起こし続けている.難民 の数は過去 10 年間で 2 倍以上増加した 11.強制避難と経済的移住のパターンははっきりと異なる.難民の 移動は多くの場合に突然かつ急速である 12.難民は最も近い安全な行き先を目指すことから,少数の近隣の 受け入れ国に集中する.難民には大勢の脆弱な人々も含まれている――子供が全体の 41%を占めている 13.  このような情勢に直面するなかで,移住は開発がもたらす利益が十分に実現されうるように管理される必 要がある.現行のアプローチは移民と自国民の両者をしばしば失望させている.移民の移住先国と出身国の 両方で大きな非効率性と機会の喪失を生み出している 14.時には人間の苦しみにつながっている.所得水 準にかかわらず,すべての諸国において,社会の幅広い層が,グローバル化に反対する広範な論議の一環と して移住に異議を唱えつつある 15. 政策担当者にとっての実践的な枠組み:「適合と動機のマトリックス」  移住には利益とコストの両方が伴っている――移民,移民の出身国,そして移住先国にとって.すべてに とって,好ましい結果というのは,移民の個人的な特性,移住にかかわる状況,移民が経験する政策によっ て左右される.そうではあるものの,各国は,そのような政策策定においてそれぞれ相異なる役割を担って いる.ほとんどの移民出身国は移動を規制することにおいてはわずかな影響力しか持っていない.対照的に, 移住先国 は,誰が当該国の国境を越えるのか,どの人が滞在を法的に許されるのか,どのよう [受け入れ国] な権利を持つか,などを定義および規制している.奨励する移動もあれば,奨励しない移動もある.移住先 国の政策が国境を越える移動のインパクトを大体において方向付ける 16.  労働経済学と国際法が,移住のパターンを理解し,適切な移住政策を設計するための主要な2枚のレンズ を提供する.これらの 2 つの視点は個別の知的,および学術的な伝統から生じており,国境をまたぐ移動 の異なる側面に焦点を合わせている.その結果,それぞれは重要な洞察を提示している.しかしながら,今 日に至るまでそれらを首尾一貫した全体に統合する簡明な枠組み存在していない.  労働経済学は,移民のスキルおよびその関連する属性と,移住先国のニーズとの「適合度」に焦点を合わせ ている(図 O.2 のパネル a).多くの移住先国における移住政策の出発点は,次の 1 つの単純な疑問である: 移住はコストを上回る利益を生み出すか? 移民はスキルをもたらし,それに対するさまざまな需要の水準 が存在する.移民のスキルが移住先国労働市場のニーズに適合しているほど,移住先国の経済と移民自身に とっての利益は大きくなる――さらには,多くの場合に,移民の本国にとっても大きな利益になる(送金や 17.これはスキルの水準や法的地位に関係なく当てはまる.しかし,移民も公共サー 知識の移転を通じて) ビスを利用し,馴染みのない可能性のある社会に融合されなければならない.その両方に,少なくとも短期 的には費用がかかる.したがって,差し引きでの利益はプラスとマイナスのいずれにもなりうる.  国際法の下では,移住者の動機が移住先国の責務を決定付ける.各国は,国家主権として,どの移民をど のような地位で入国させるかを決定する .そうであっても,人々が迫害,紛争,ある (図 O.2 のパネル b) 「十分に理由のある恐怖」 いは暴力にかかわる のために本国から避難した場合――そして危害を受けるリスク を伴わずに帰国することはできない場合――,そのような人々は 1951 年難民条約に基づいて国際的な保 護を受ける権利があり,移住先国による費用便益計算はもはや適用されない.国際法の下では,そういった 人々は,難民であり,そのような人を受け入れるコストにかかわりなく,当人の本国に送還されることはな い 18.他に,一部の女性や子供(特に少女),LGBTQ+ の人たち,それに人種主義・外国人嫌悪・その他の 形の差別の被害者などの非常に困難な問題に直面していることから特別な支援を必要としている移民もい る.実際に,一部の人々は諸理由の組み合わせを理由として移住することから,難民と経済移民の間の厳密 な区別は曖昧になっている.国際的保護の必要性が第 2 のレンズを提供し,移住政策は,設計される際に, そのレンズを通して考案されるべきである.  本報告書では,――動機に加えて適合度という――両方の側面を合体させた 1 つの分析枠組みを提示する. その枠組は 4 種類の移住を区別し,そして個々の状況について政策の優先課題を特定している(図 O.3)19: 概観 5 図 O.2 国境を越える移住に関する 2 つの視点 a. 労働経済学:移民のスキルや移民の属性 b. 国際法:もし移民が当人の本国における が高度に適合する場合には労働の貢献度は 危害を恐れているなら,移住先国はそのよう 融合のコストを上回る な移住者を受け入れる義務がある 労働の貢献度 移民: 難民: が融合のコス トを 国際的保護の 国際的保護の 上回る 必要性は低い 必要性は高い 高い 利益がコストを 上回る 移住先国: 移住先国: 移民を受け入れ 難民を受け入れ るか否かを選択 ることを義務化 適合度 されている コストが利益を 上回る 低い 移住先国に 本国における 動機 おける機会 恐怖 労働の 貢献度が融合の コストを下回る 出所:WDR 2023 チーム. 注:パネル a:適合度は,移民のスキルおよび移民の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.利益に含まれ るのは,経済産出の増加,税基盤の拡大,一部の財・サービスにかかわる入手可能性と金銭的な負担可能性の増大などであ る.コストには経済的および社会的な融合のコストに加えて,公共サービスに対する需要の増加,競合する労働者に対する 影響などが含まれる.パネル b:動機は当人が移住するに至った状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは当人 の本国における迫害・武力抗争・暴力にかかわる「十分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.1951 年の難民条約の下では, そのような恐怖を経験している人々は難民の地位を与えられる権利があり,国際的な保護が与えられなければならない.そ のような人たちを当人の本国,あるいは非人道的または屈辱的な処遇,あるいはその他の取返し不能な危害に当人が直面す る国に送還することはできない (ノン・ルフールマン原則). (上方左象限)  適合度の高い経済移民 .ほとんどの移民はより良い機会を求めて移住し,適合度が高いと 思われる移住先国を選択する 20.そのような移民の移動は,法的な地位にかかわらず,移民の本国(出身 国)に加えて,移民自身と移住先国に相当な開発利益をもたらす.コストも発生するが,典型的には相対 的に少ない.このような移住については,関係当事者全員の利害は総じて一致している.政策目標は利益 をより一層増加させ,コストを一層減らすことであるべきだ. (上方右象限)  適合度の高い難民 .一部の難民は,たとえ機会を求めてではなく恐怖から逃れるために移 移住先国のニーズに適合するスキルと属性を持っている.そのような人の移動は, 動している場合でさえ, 移住先社会に,自発的な移民と同様の開発利益をもたらす.政策目標は,正味の利益をより一層増やすこ とであるべきだ.  適合度の低い難民(下方右象限).多くの難民は,移住先社会のニーズとの適合度が低いスキルや属性を持 ち込む.このような人たちは労働市場の考慮ではなく,安全性にかかわる当座のニーズに基づいて移住先 国を選んでいる.しかしながら,国際法の下では,それらの人たちは,コストにかかわらず収容されなけ 6 世界開発報告 2023 図 O.3 「適合度」 「動機」 が移民受け入れの純利益を決定し, がその国際的保護の必要性を決定する 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い トルコに滞在している シリア人企業家の 行先国で需要のある 難民 大勢の 経済移民 スキルを有する 利益がコストを上回る 難民 適合度 エチオピアに 滞在している同伴者の いない未成年 コストが利益を上回る 難民 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 バングラデシュで 低い 働くことが許されていない ロヒンギャ(強制的に 故国を追われた アメリカの南部 ミャンマー人) 国境に滞在している 移住先国 本国における 動機 一部の低スキルの における機会 恐怖 移民 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. ればならない.受け入れ 国にとっての政策目標は,コストを削減すると同時に,それを国 (移民の移住先) 際的に分担することであるべきだ.  困窮[苦難の中で移動する]移民(下方左象限).難民としての資格がなく,かつ移住先国との適合度が低 いその他の移民.そのような移民の総数は多くはないが,そのような人の移動は多くの場合に非正規かつ 安全ではなく,受け入れ国にとって重大な挑戦課題を提起する.本レポートでは,そのような人たちは困 窮移民(distress migrant)という言葉で呼ばれている.この言葉は,そのような人たちが移動する状況 を認識したものであり,標準的なカテゴリーではない.このような困窮移民の一部は,難民ではないもの の,人道的な見地,あるいはその他に基づく保護を依然として必要としているかもしれない.当人の本国 に戻される人もいるかもしれない――しかし人道的に処遇されなければならない.  移住者が「適合度と動機のマトリックス 」 (行列)のどこに位置するかは,部分的には移住先国[受け入れ国] の政策によって決まる.例えば,移民のスキルおよび属性と移住先国のニーズとの適合は,移民が当人の資 格のレベルで働く権利を有しているか否かに依存する.適合度は,移住先国における労働に対するニーズ, 経済規制,社会規範の変化に基づいて,時間の経過とともに変化しうる.同様に,誰が国際的な保護を受け るべきかに関する決定も,国際法の幅広い要素の中で国ごとに大幅に異なる.  究極的には,各国政府の政策は,移住の――移民,移民の出身国社会,および移住先国社会にとっての― ―開発利益を最大化すると同時に,難民に十分な国際的保護を提供することを目指すべきである.長期的に 概観 7 は,利益のより一層の増加が可能となるように,全ての移民のスキルと属性の,受け入れ国社会のニーズと の適合度を高めることを目的とするべきである.同時に,しばしば相当な苦難を伴っている困難な状況での 移動の必要性を下げることも目指すべきである. 適合度が高い場合には,大きな利益が得られる  移民が移住先国で需要があるスキルや属性を持ち込む場合には,典型的には動機,スキル水準,あるいは 法的地位などにかかわらず,利益がコストを上回る.このような移民は,移住先国の労働市場の間隙を埋め ることになり,これには移住者自身と当人の出身国に加えて,移住先国にとっての利益も伴っている.社会 面および経済面の両方にかかわるコストも生じるが,それは典型的には利益よりもずっと小さい.移住先国 と移民の出身国の両者が利益をさらに増加させ,かつその欠点に取り組むような政策を設計および実施する ことができる(図 O.4). 移民の行き先国は社会的および文化的な論議が移住の経済的利益に暗雲を投げかけることがな いようにするべきである  移民は,特に長期的には,移住先国経済の効率性と成長に多くの貢献をすることができる.低スキルの 移民は,移住先国の国民が従事することに消極的な仕事,あるいは消費者が進んで支払う水準を超過する 賃金を移住先国の国民が要求する多くの仕事を行っている 21.高いスキルを有する移民――看護師や,エ ンジニア,科学者など――は,一国の経済の多くの部門にわたって生産性を改善する.そうではあるもの の,4 カ国――オーストラリア,カナダ,イギリス,およびアメリカ――のみで,高等教育を受けた全移民 の半数以上を受け入れている 22.医療従事者について,アメリカでは約 17%,イギリスでは 12%,湾岸 協力会議(GCC)諸国では 79%が,外国生まれである 23.消費者は,生産コストの低下や,一部の財・サー ビスの価格の低下から利益を得る 24.移住の長期的な利益に含まれるのは,企業家的な活動や革新の増大, 国際的な貿易や投資との結び付きの強まり,そして教育や医療などのサービスの提供の改善などである 25. 移民の貢献度は,当人の資格や経験のレベルで働くことが公式に許容され,そして働くことができる場合に より大きくなる.  しかし,多くの国では,論議は経済に関してではなく,移住の社会的および文化的な影響に関して行われ ている.移民が期間を延長して――ないしは永続的に――滞在する場合,その統合という問題が中心となる. 社会文化的なインパクトは,移民に対する市民の受け止め方――および時には人種的な偏見――に加えて, 移民集団の規模,その起源,およびその社会経済的な地位などによって変化する 26.社会文化的なインパ クトは,各国のアイデンティティに関わる感覚や社会契約によっても左右される 27.カナダなどのような 一部の諸国は,自らを移民とその子孫で形成されている社会として定義している 28.一方で,日本などの ような他の諸国は,自国民の古い起源を強調している 29.  このような論議は社会や文化は同質的でも静態的でもないという文脈で展開している.戻るべき「移住以 前」の調和は存在しない.すべての社会において,緊張や,競争,協力は,多種多様な集団にわたって常に 存在しており,そのような集団は,部分的に重なり,そして常に変化している.このような緊張の一部は社 会経済的な分断を反映している:分断は移住にかかわるものではなく,貧困や経済的機会にかかわるもので ある――そして,大勢の移民がたまたま貧しい状況に置かれているのである.移住者ないしその子孫の多く は帰化していることから,移住に起因する文化的な問題の一部は実際には,国内少数派の包摂にかかわるも のである.移住は,数あるトレンドの中で特に近代化,世俗化,技術進歩,ジェンダーの役割や家族構成 の変化,新たな規範や価値観の出現などと並んで,変化が急速な時代において,社会を転換する原動力の 1 つにすぎない.統合は最終的には実現し,それは経済的な包摂と差別を排除する政策によって促進される.  移住先国は移住の実際のマイナス面に積極的に取り組むべきである.移民のスキルや属性が移住先国の労 働市場のニーズにより密接に適合しているほど,移住先国の国民の賃金に対する影響は小さくなる.しかし 8 世界開発報告 2023 図 O.4 適合度が高い場合,移住先国および移民の出身国の両方の政策は移住の利益を最大化することができる 移民の出身国: 移民の行先国: 送金と知識移転の円滑化, 移民に権利と労働市場へのアクセスを スキルの構築と頭脳流失の緩和, 提供,包摂の促進,需要のある 海外に在住する スキルを誘致,影響を受ける 自国民の保護 自国民の支援 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を最大化 最大化する する 適合度 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 受け入れ,あるいは 確保,コストを 人間的に帰国 分担 低い 行き先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. ながら,たとえ平均的な影響は限定的であっても,受け入れ国の一部の労働者――スキルが移民と類似して いる労働者――は,賃金あるいは仕事さえ失うかもしれず,支援される必要がある 30.移民の行き先国が 大勢の外国人児童を収容しなければならない場合,特にそのような児童が移住先国の言語を流暢に扱えない 場合には,教育の質を維持するために追加的な資源が必要となる 31.貧困や差別を削減するために,移民 が居住している地域における公共投資を増やすべきである.それが行われない場合には,貧困や差別は,フ ランスやスウェーデンが経験したような,居住の分離や広範な社会悪につながる可能性がある 32.ほとん どの諸国では,移住は納税する労働力を拡大することによって歳入を増やしており,必要とされる支出のた めの余裕を生み出している 33. ほとんどの移民は多くの利益を得ている――移住先国でさまざまな権利を持っている場合には なおさらそうである  ほとんどの経済的移民は――低いスキルを持つ移民と高いスキルを持つ移民の双方について――,仮に本 国に留まっていた場合と比べて,移住先国においてずっと良い暮らしをしている.移民は移動による利益を 最大化することを目指していることから,自分のスキルに需要がある移住先国を意図的に選択している.移 住者は,本国では持つことが出来なかったであろう機会を見付けて,高い賃金を稼得し,しばしばより良い サービスを利用している.このような利益は,特に行き先国の経済が成長しており,そして労働市場がうま く機能している場合には,時間の経過とともに相当に増加する.出身国に戻る移民――OECD 加盟の高所 得国における全移民の 20%  – 50%――は,出国以前よりも暮らし向きは良くなっている 34. 概観 9  移民は難題にも直面する.移住のコストは状況によっては非常に高くなることもあり,移民はそれを返済 するために長期にわたって働かなければならない 35.数千万人もの移民が家族と離れており,その多くが 不慣れな環境の中で社会的に孤立するリスクがある 36.親が不在であることは家庭に,長期にわたって影 響を及ぼす可能性のある難題――子供の教育など――を引き起こす 37.  移住の利益は,移民が国際労働基準に沿って,法的地位と正式な雇用の権利を有している場合にはより大 きくなる.その例は,ディーセント・ワーク,公正な採用 38,そして新たな機会が生じた際に雇用者を変 更できる権利である 39.そのような権利をひとたび手に入れれば,書類のない(undocumented)場合と比 べて,移民の賃金や仕事の質は移住先国の国民の水準に大幅に早く収斂する.また,自らのスキルが正当化 する仕事よりも低いスキルかつ低い賃金の仕事に就くことへの移民が受ける圧力は低下する 40.そのよう な[権利を有する]移民は,遠方あるいは外国への移動を容易に行うことができ,その結果として,本国に残っ ている家族との絆をうまく維持することができる.また,不当な扱いや差別に対する脆弱性も低下する.そ れとは対照的に,法的保護が不十分,あるいは情報や言葉の壁が理由で法的な保護へのアクセスが不可能な 移住先国においては,移民が搾取されるリスクは高まる 41. 移民の出身国(本国)は開発利益のために移住を積極的に管理すべきである  移民の出身国では,海外移住は――特にうまく管理される場合には――貧困削減や開発を支援することが できる 42. (被仕向)送金は移民の家族にとっての安定した所得源であり,子供の教育,医療,住居,企業家 的な活動などへの投資を支援する.このような利益は送金コストを低下させることによって増幅させること ができるだろう 43.多くの場合,移民や,帰国者,海外離散者のコミュニティはアイデア,知識,そして 技術などを移転し,このことは移民の本国における雇用創出や近代化に拍車をかける.それはアメリカのシ リコン・バレーに在住していた移民が,インドの情報技術産業の育成を支援したのと同じである 44.この ようなプロセスは移民の出身国に良好なビジネス環境,効率的な労働市場政策,強固な制度,そして起業家 が利用することができるビジネス・エコシステムなどを育む健全な経済政策がある場合には,より容易にな るであろう.  高いスキルを持つ人の低所得国からの出国移住――いわゆる頭脳流出――は,損失をもたらし,開発に関 連する課題を生み出す.サハラ以南アフリカ,カリブ,および太平洋地域では,高等教育を修了した人が海 外に移住する確率は,それより教育程度の低い人よりも 30 倍高い 45.このような海外移住は,移民の本国 において,医療などのエッセンシャルなサービスを提供する高スキル労働者の不足を悪化させうる.政府と しては人々の出国を阻止することはできないことから,そのようなスキルのための訓練を行う能力を拡大す る必要がある.そのような取り組みは,高等教育や訓練プログラムへの資金提供を含め,移住先国との協調 を通じて支援されうるだろう 46.医療などのエッセンシャル部門では,移住先国との二国間労働協約を通 じて施行される必要最低限のサービス提供の要請のような,追加的な措置が必要とされるかもしれない 47. 高いスキルを有する労働者が自国において魅力的な展望を持ち,全能力を発揮できる仕事に就けることを確 保するためには,経済と社会の並行的な改革が必要である.  移民の出身国は,労働移住を貧困削減戦略の明示的な一環にしている場合に,労働移住から最も多くの利 益を得る.政府は,移住先国との労働協約,労働市場情報システムの改善,公正な採用プロセス,海外在住 者に対する領事支援などの措置を通じて秩序立った移住を促進することができる.政府は,送金や移住のコ ストの引き下げや,戻ってきた移民の労働市場や社会への再参入を支援することに向けて機能することもで きる.また政府は,グローバルに需要がある低水準のスキルや高水準のスキルを修得するために,教育制度 を調整することもできる.そうすることで海外に移住した際に,自国民(移住者)はより良い職に就くことが でき,それ故に送金や知識移転を介して出身国により一層貢献することになる.そのような構想は,依然と して行うべき多くのことが残っているものの,バングラデシュやフィリピンなどの数カ国において,実り多 いことが証明されている 48. 10 世界開発報告 2023 図 O.5 適合度が低い場合,政策策定には,経済的利益と移民の尊厳の間で生じる移住先国にとってのトレードオフが含 まれる 多くの経済移民 移住先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を 最大化する 最大化する 適合度 移住先国: 大部分が非正規 多くの難民 国内移動を円滑化, である困窮 難民の労働を許可, 移民 国が提供する制度に 移動の必要性を削減, 持続可能性を 難民を包摂 移民の出身国: 移民を受け入れ,あるいは 確保,コスト 苦難の中での移住の 低い 人道的に帰国 を分担 必要性を開発に よって削減 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 移民の行先国: 移民を尊厳をもって 処遇,補完的な方式の 保護を提供 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 適合度が低い場合,コストは複数国間で分担――かつ削減――される必要がある  移民が移住先国で需要されているスキルや属性を持ち込まない場合,移住先国にとってのコストは利益を 上回る.仮に移民自身と移民の本国にとっては利益がある場合でも,そのような利益は,移住先国が自国の コストを削減および管理するための措置を取らない限り,持続可能ではない(図 O.5).政策の挑戦課題は, 国際法に基づいて移住先国によって受け入れられる必要のある難民と,苦難の中で移動するその他の移民と では異なっている. 難民という状態は,単なる人道上の非常事態としてだけではなく,中期的な開発の挑戦課題と して管理されるべきである  連続する緊急対応を通じて難民受け入れ国を支援することはコスト高であり,かつ有効性を欠く.平均す ると,受け入れ国政府が負担する支出に加えて,国際社会は低・中所得国に受け入れられている難民 1 人 について年当たり 585 ドルを支出している 49.国際的な支援が提供される際の方法は,多くの場合に,短 期的なアプローチを採用する動機を生み出す 50.しかし,現行の難民は平均で 13 年間にわたって追放され ており 51,その中の数百万人は,数十年間にわたって不確実な状態にある 52.例えば,1979 年にソ連が 侵攻した後に出国した多くのアフガニスタン人は今日でも依然として追放されており,その人たちの子供や 孫も同じ状態にある.当座のニーズを満たすことに向けた人道支援が極めて重要である.しかし,政策立案 としては,危機発生の当初から,財政面と社会面の両面で長期的に維持可能な対応を目指すべきである.  中期的なアプローチを採用することは,受け入れコストを削減すると同時に,難民が自分の生活を再建で きるようにすることができる.1951 年の難民条約は各国に対して,難民に安全性に加えて,仕事とエッセ 概観 11 ンシャル・サービスへのアクセスも提供することを義務付けている.紛争や迫害を逃れてきた人々は,多く の場合,資産の喪失やトラウマ的な経験を含め,深刻な脆弱性を抱えており,脆弱性は不確実な地位によっ て一層悪化しうる 53.しかし,子ども,あるいは障がいないしは背後にトラウマを抱えた人など,多くの人 機会が与えられれば, は働くことができない.そうではあるものの, 他の種類の移民が行っ ほとんどの難民は, ているのとほとんど同じ仕方で,生活を改善するための方法を探し,受け入れ国の経済に貢献する 54.この ような努力は,海外からの十分な支援を得て,難民に働く権利を提供し,難民が仕事にアクセスするのを支 援し,そして受け入れ国が提供する教育や医療制度に難民を取り込むことによって,最良の支援を受けるこ とができる.このアプローチは,なかでもコロンビア 55 や,ニジェール 56,ポーランド 57,トルコ 58,ウ ガンダ 59 などの多様な諸国によって採用されてきている.  内部移動性――難民を移住先国内で職やサービスのある場所に移動させること――は,難民という境遇へ の対応をさらに転換することができる.多くの難民は開発の遅れた国境地帯で受け入れられており,そのよ うな地域は雇用機会が少なく,難民が人口の大きな割合を占めている.そのような難民の存在は受け入れて いる地域社会に重大な負担を強いることになりうる.しかし,例えば,退去させられたベネズエラ人やウク 他のアプローチも可能である. ライナ人に対して一部の諸国が提供した支援によって例証されているように, そのような状況においては,難民は受け入れ国内の全域にわたって,さらには地域的なブロックの内部で移 動が許容され,そして奨励さえされる.このような自由度は,より多くの機会に難民がアクセスできるよう にし,それ故,受け入れ国社会のニーズとの難民の適合を強化することができる.また,難民が住民の全体 にわたってより均等に分散することから,受け入れるコミュニティの負担も軽減する.そういったアプロー チは,予測可能な中期的な資金提供手法の採用,政策支援の策定,そして国際的保護を提供するための国家 機関の強化などに向かうよう援助の供与方法が変更されることを要請する 60.  難民を受け入れることはグローバルな公益に貢献する.したがって,すべての諸国が,受け入れのコスト を吸収するのを支援するべきである.しかし,多くの国はそうしていない.難民の大多数は,わずか十数 カ国に居住しており,それは典型的には,移住者の出身国に隣接している低・中所得国である 61.例えば, ヨルダンやレバノンでは,難民が総人口の大きな割合を占めている.グローバルにみると,3 カ国のドナー が,難民の援助のための二国間資金のほぼ 3 分の 2 を提供している 62.そして,4 カ国が移住先での定住 の全体のほぼ 4 分の 3 を引き受けている 63.このような狭い支援基盤は,開発機関や,地方公共団体(local authority),民間部門,市民社会組織などを含む新たな後援者を関与させることによって拡張されるべき である.責任の共有も,ヨルダン・コンパクトに基づく貿易アクセス 64 やエチオピアのジョブ・コンパク トに基づく投資 65 などのような,広範な二国間交渉の一部になりうるであろう.それは,所得が低いとい う状況を含め,地域的なイニシアティブによって補完されることもできるだろう. 「アフリカの角」 例えば, (半 島) (IGAD) 地域では,政府間開発機構 は,難民状態の管理を漸進的に改善するための地域的なピア・ツー・ ピア・プロセスの開発を支援してきている 66. 困窮[苦難の中での]移住は人々の尊厳を尊重しながら削減する必要がある  政策面での最も困難な難題は,移民が難民でなく,かつ移住先の社会のニーズとの適合度が低い場合に生 じる.このような移民の多くは非正規な経路,そして拡大している密入国産業やそのような産業が受け入れ 国で養っている搾取的な労働市場に向かっている 67.このような移住には多くの場合に苦難が伴っている. 2014 年以降,移住を試みている状況下で 5 万人近くが死に至った 68.多くの人が地中海の横断を試みて いる際に死亡し,他のルートでの死者数も増加しつつある.人のこのような移動は国境を越える移動の管理 に関して喪失感も生み出しており,正規の移民や難民の対処にかかわる壊れやすいコンセンサスの土台を崩 している.そのような移住を防ぐために,一部の政府は厳しい政策を実施してきている.2018 年のアメリ カ南部国境における家族の分離や,人権問題の実績が疑わしい第三国に対する国境管理の外面化などがその 実例である 69.このような対応のすべてに,移民や移住志望者の尊厳と人権の著しい犠牲が伴っている.  一部の困窮移民は,難民ではないものの,保護を必要としている.そのような人たちは,命を脅かす危険 12 世界開発報告 2023 を冒している.これは,そのような移民は当人の本国では他の実行可能な代替手段がない,あるいは移動中 に人身売買の犠牲者になることを示唆している.例えば,書類のない移民はアメリカ南部の国境に向かう途 中で,犯罪集団による誘拐や,恐喝,性的暴力やその他の形態の暴力に直面している 70.一連の人的および 政治的な危機となっている事態に直面して,数カ国は,難民として認められておらず,しかし当人の本国に 安全に帰国させることができない人に対して保護の一形態を提供するために,特別な法的手段を制定した 71. このアプローチは補完的ないし補助的な保護と呼ばれることがある.そのような制度は首尾一貫した仕方で 拡充されるべきであり,保護にアクセスするために安全かつ合法的なルートが確立されるべきである.  移住先 国は他の種類の困窮移民を当人の出身国に帰すことを選択するかもしれない.その場合 [受け入れ] でも,人間の尊厳が移住政策の基準として維持されなければならない.本国への送還は当事者個人にとって は悲劇である.そうではあるものの,それでも移住制度の持続可能性を確保するためには,本国への送還は 必要かもしれない.というのは,それは自国民と移住志望者の双方に向けて,ルールは履行されるというこ とを例証するからだ.不本意な帰国は,人権条約を順守し,かつ人道的な仕方で実施されるべきである.そ のような対処には,並行して行われる,密入国者と,移住先国で非正規移民を雇用する人の両方を取り締る 取り組みが伴うべきである.  移住先国が制限的な政策を採用する場合には,その近隣諸国,特に移民が通過する諸国も影響を受ける可 能性がある.障壁によって移民が先に進めなくなった場合,通過国が代わりの行き先目標国になる.困窮移 民は数カ月間,時には数年間にわたり,最終地になることを望んでいなかった,そして多くの場合に脆弱な 立場に置かれる諸国に滞在する.このような状況はメキシコやモロッコなどの通過国に対して,単独では対 処できない難しい政策問題を提起する.行き先国と通過国の両方が,困窮移民を受け入れる,あるいは人道 的に本国に帰すために協働するべきである(ただし,本国への送還は,1951 年の難民条約が適用される難 民には適用されるべきではない).このような協調に含まれるのは,誰がどちらの国――移住先国ないし通 過国――に受け入れられるべきか,そして誰が送還されるべきかを決定する体系の設計,さらに,このよう なことを効果的に行うための対応するプロセスと財政取り決めに関する合意である.そのような取り決めは, 移民が単に通過するだけの諸国におけるサービスや安全性を拡充する努力によって補完されることもある.  全体としては,主要な取り組むべき課題は,そのような移住の必要性を削減することである(図 O.6).そ のような側面において,開発は,誰がどのような状況で移住するかを変えることによって,決定的に重要な 役割を果たす 72.各国が発展するのに伴って,人々が受ける教育は向上し,教育を受けた人のスキルは国 内および世界の労働市場におけるニーズにより高度に適合するようになる.また,そのような人たちはショッ クに対してより強靭になり,ディーセント・ワークや国内移住という代替手段が利用可能になることは,苦 難の中での国境を越える移住の必要性を低下させる.しかし,開発には時間がかかり,より短期的な対応策 も必要である.受け入れ国は,低スキルの労働者を含め,スキルや属性が移住先国のニーズに適合している 人々による移住を可能にする,ないし奨励さえするために,移民の本国と協力し,そして合法的な入国経路 を拡充することができる.そのプロセスにおいて,受け入れ国は移住志望者と,そのような人を特定のスキ ルの修得などのために支援するコミュニティに関わる奨励策を創設する. 移住をうまく機能させることは,物事のやり方を変えることを要請する  移住の改革にとって,今は難しい時期である.政治論議は,所得レベルの全てにおいて,多くの諸国で分 極化している.2022 年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて,国際社会のなかにおける緊張が高まった. 世界的な経済の見通しは不確実な状況が続いている.そうではあるものの,改革が緊急に行われる必要があ る.難しい論議がこの先に待ち受けているが,移住からの利益を実現するためには,回避すること,ないし 遅らせることはできない. 概観 13 図 O.6 移民の本国と移住先国の双方における政策措置は困窮移住を削減することができる 高い 行先国で 多くの 移民の本国: 需要のあるスキルを 経済移民 有する難民 開発を通じて,スキルや ショックに対する 強靭性を強化 適合度 行先国: 需要のあるスキルを 持つ人たちのために 合法的経路を通じて 大部分が非正規 多くの難民 インセンティブを である困窮移民 変える 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 移民の行先国: 保護の補完的な 形態を拡大する 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.下方左象限の垂直点線は困窮移民のうち国際的な保護を必要としている人とそ うでない人の区別を強調している. 国際協力の一層の強化が不可欠である:二国間による移民の適合度の向上,および多国間による 恐怖によって引き起こされる移動への対応  移民の本国[出身国]と移住先国の双方が移住を戦略的に管理する必要がある.本国にとっては,挑戦課題 は,労働移住の自国の社会に対する開発面の影響を最大化することである.受け入れ国にとっての挑戦課題 は,全ての移民を人道的に処遇し,自国民の間に懸念を引き起こす社会的な影響に取り組みながら,移民が 自国の長期的な労働のニーズを満たす可能性を認識し,それを活用することである. 移民の本国と受け入れ国の両国は協働する必要がある  移住から派生する利益を増やすためには, (図 O.7). 太平洋諸島諸国とオーストラリアの間でみられたように 74,協力は,スキルの適合の改善を促進し,そし て移住者に法的な地位を与える二国間労働協定を通じて正式なものにすることができる 73.二国間協力は, グローバル・スキルズ・パートナーシップを通じることなどによって,移民の出身国においてグローバルに 移転可能なスキルを構築するのを支援することができる 75.二国間協力は不本意な帰国を人道的に処理す るためにも極めて重要である 76.また,そのような協力は,地域的なイニシアティブによっても補完する ことができる. 移民の本国と移住先国の両方で構成される地域的グループ全体での労働のニー それは例えば, ズに関する議論や,カリブ共同体(CARICOM) (CSME) による単一市場・経済 の構想のような,資格を認 定するための地域的な制度の創設などである.  恐怖に動機付けられている移住に取り組むために,また,グローバルな規範を強化すると同時に,難民を 受け入れるコストを分担するために,多角的な取り組みも必要とされている.移住と強制避難のための―― さらに国際的な保護を受けるべき人を定義するための――国際的な法律の構成が,移住の傾向における変化 を反映させるために過去数十年間にわたって発展してきている.今後も継続する可能性が高く,そのような 14 世界開発報告 2023 図 O.7 移住の種類に応じて,必要とされる国際的協力の形態は明確に異なる 多くの経済移民 移住先国で需要のある 高い スキルを有する難民 すべての人を すべての人を 二国間協力: 対象に利益を 対象に利益を ◦ 二国間労働協約 最大化する 最大化する ◦ グローバル・スキルズ・ パートナーシップ 多角的協力: 適合度 ◦ 難民に対する責任の 共有 大部分が非正規 多くの難民 ◦ 規範設定 である困窮 移民 移動の必要性を削減, 持続可能性を 移民を受け入れる, 確保,コスト あるいは人道的に を分担 低い 帰国させる 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った状況を指 す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十分に理由のある恐怖」 の故に移動するのか. 法的構成は確固とした開発の視点を含むべきであろう.しかし,国際社会において緊張が再び生じている時 期にあっては,進展は緩慢なものにとどまるかもしれない.ラテンアメリカ諸国がベネズエラ人がこの地域 全体にわたって移動できるようにすることによって行ったように,グローバルな行動は,特に難民や他の強 制的に退去させられた人たちの受け入れに対する責任の共有については,地域的な努力によって補完される べきである. 変化を引き起こすためには十分に代表されていない声に耳を傾けなければならない  移住の改革は政治的なプロセスである.改革が成功するためにはデータと証拠が不可欠ではあるが,それ 新しい利害関係者グループが自分たちの意見を聞いてもらうことを必要としている. だけでは十分ではない. これは,議論が高度に分極化し,そして複数の競合する優先課題――なかでも,気候変動,食料安全保障, そして継続中の世界的な経済の減速など――が存在する場合には特に重要である.  移民の出身国と受け入れ国の両方において,論議にはエリート団体を超えて,社会の幅広い階層が関与す るべきである.このような努力は,治安当局の枠を越えて政府一体のアプローチをとることによって,中期 的な労働のニーズとそれを満たす方法を評価するために民間部門や労働組合を招くことによって,そして, 多くの場合に対応と統合という挑戦課題の最前線に位置している地方自治体を関与させることによって追求 することができる.移民や難民の声も聞くべきであり,このことは,代表性と説明責任を確保するような仕 方で彼らの声を伝えるシステムを開発することを必要とする.低・中所得国――経済移民の出身国と難民を 受け入れる国が含まれる――も自国の意見がより聞かれるようにし,そして自分たちの利益を守るために, 建設的な連合を結成することができる. 希望のメッセージ  本報告書は希望のメッセージを伝えている.移住の善悪に関するイデオロギー的な主張によって議論が支 概観 15 表 O.1 主要な政策提言 (強固な適合) 移民や難民のスキルに需要がある 移民の本国[出身国] 移民の行き先国 二国間協約 貧困の削減に向けて移住を管理する 利益を最大化し,コストを削減する 適合を強化する 戦略:移住を開発戦略の一部にする. 戦略:労働のニーズを認知する.移住の役割 二国間労働協約:両者が利益を得る移住を構 送金: 貧困削減に向けて送金を活用し,さら についてコンセンサスを確立する.政策の首 築し,促進する.送金のコストを削減する. に送金のコストを引き下げる. 尾一貫性を確保する. スキル開発:自国のおよびグローバルな労働 知識:知識移転を促進し,グローバル経済へ 入国と地位:より強固な一致を伴う入国移住を 市場の両方で需要のあるスキルの開発に資金 の統合を強化するために各国に散在する移民 奨励する.移民が正式な地位と権利を持つこと 提供をするためにペアを組む. や帰国民と協働する. を保証する. スキル開発と頭脳流出の緩和:自国内およびグ 経済的包摂:労働市場における包摂を促進す ローバルな労働市場において需要のあるスキ る.移民が有する資格の承認を強化する.搾 ルの教育と訓練を拡大する. 取を取り締まり,ディーセント・ワークを促進 する. 保護: 市民全体に保護を提供する.取り残さ れている脆弱な家族員を支援する. 社会的包摂:分断化を防ぎ,サービスの利用 を促進する.差別と戦う. 自国民に対する支援: 雇用の成果および公共 サービスという点でマイナスの影響を受ける市 民を,社会的保護と公共投資を通じて支援す る. 難民のスキルに対して需要がない場合(適合度が低い,恐怖を動機とする移動) 受け入れ国 国際的なコミュニティ 中期的な視点で管理を行い,適合を強化する 受け入れ国とコストを分担する 制度と手段:関連省庁を通じて難民支援を主流化する.持続可能な資 責任の共有:難民が避難をする要因となった状況を防ぐ,あるいは解 金提供枠組みを策定する. 決する.十分な額の中期的な融資を提供する.定住の選択肢を増やす. 国内移動:機会に向けて難民が移動するのを促進および奨励する. 現行の主要な拠出者の枠を超えて,支援の基盤を拡大する.地域的な アプローチを策定する. 自己依存[自立]:公式な労働市場において難民が仕事にアクセスでき るようにする. 解決策: (自発的な帰国, 「恒久的な解決策」 現地での統合あるいは定住) に向けてより一層努める.中期的に,国による保護と機会へのアクセス 国家的なサービスへの包摂:国の制度を通じて,教育,医療,および を提供する革新的な地位を制定する. 社会のサービスを提供する. 移民のスキルに対して需要がない場合(適合度が低い,移住は恐怖が動機ではない) 移民の本国 移民の通過国 移民の行き先国 苦難の中での移動の必要性を削減する 移民の行き先国と協力する 移民の尊厳を尊重する 強靭性:社会的保護を強化する.国際的な移 協力: 移民を吸収する,あるいは人々を人道 尊重:すべての移民を人道的に処遇する. 住に対する国内の代替手段を作り出す. (最 補完的な保護:リスクに晒されていて,かつ難 的に帰国させるために行き先国と協働する . 教育:人々がより多くの選択肢を持つことがで 後の通過国について) 民ではない人を保護する現行の制度の首尾一 きるようになるスキルを構築する. 貫性を強化する. 包摂: 包摂的でグリーンな開発を促進する. 合法的な経路:低スキルの労働者を含め,需 気候変動への適用を育む. 要のある労働者のための合法的な経路を確立 することによって移民の動機を変える. 強化:必要な帰国を人道的に管理する.密入 国支援業者や搾取的な雇用者を取り締まる. 入国を処理するために制度的な能力を強化す る. 移民政策を変更する データとエビデンス 財政面での手段 新しい意見 調和:データの収集方法を調和させる. 新しいあるいは拡張された手段:難民を受け入 影響を受ける国民:共通の挑戦課題に直面す エビデンスの確立: 政策策定に情報を提供す れる国を支援するために中期的な手段を策定 る国の間で提携を構築する. るために新しい種類の調査に投資する. する.適合度が低い移民を受け入れている低・ 国内の利害関係者:意思決定プロセスに広範 中所得国に対して外部的な支援を提供する. な利害関係者が参加することを保証する. データの開放:データを広範に入手できるよう にし,同時に移民や難民のプライバシーを尊 既存の手段の利用を強化する:民間部門の関 移民および難民の意見:移民や難民の意見を 重することによって,研究を促進する. 与を奨励する.開発に向けて移住を活用するこ まとめるために,意見の代表と説明責任の制 とにおいて移民の本国を支援する.二国間お 度を策定する. よび地域的な協力を奨励する. 出所:WDR 2023 チーム. 16 世界開発報告 2023 配されている中で,この報告書は次のような 1 つの異なる質問に答えようとしている:どのようにすれば 移住はグローバルな開発にとってよりうまく機能しうるだろうか? それに答えるためには,人々が国境を 越える際に出現する,経済的,社会的,および人道的な面での,潜在的な利益と挑戦課題の両方を認識する ことが必要である.移住は普遍的に良いものでも,普遍的に悪いものでもない.それは複雑で,必要なこと であり, (詳細は表 O.1 と第 9 章を参照) より適切に管理される必要がある .いつでもあらゆる場所において, 適切に管理されていれば,移住はすべての人,すなわち経済移民,難民,および後に残る者,そしてさらに 移住者の出身社会と移住先社会にとって利益をもたらす繁栄に向かう強力な力になる. 注 1. Armitage et al. (2011); Beyer et al. (2021). 32. Auspurg, Schneck, and Hinz (2019); Baldini and Federici 2. 詳細は第 2 章を参照. (2011); Baptista and Marlier (2019); Bosch, Carnero, and Farré (2010); Fonseca, McGarrigle, and Esteves (2010). 3. 詳細は第 4 – 6 章を参照. 33. Clemens (2021). 4. 詳細は第 3 章も参照. 34. Bossavie and Özden (2022); Dustmann and Görlach 5. Black, Kniveton, and Schmidt-Verkerk (2011); Black et al. (2016); OECD (2008). (2011); McLeman (2016). 35. 移住コストの詳細は第 5 章を参照. 6. Global Internal Displacement Database, Internal Displacement Monitoring Centre, Geneva, https://www. 36. Graham and Jordan (2011); Mazzucato et al. (2015); internal-displacement.org/database/displacement- Parreñas (2001). data. 37. Cortés (2015); Jaupart (2019). 7. 詳細は第 3 章を参照. 38. ILO (2019). 8. IPCC (2022). 39. Naidu, Nyarko, and Wang (2016); Pan (2012). 9. Cissé et al. (2022); IPCC (2022, chap. 7). 40. Damelang, Ebensperger, and Stumpf (2020); Duleep 10. Clement et al. (2021); Rigaud et al. (2018). (2015). 11. 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Lafortune, Socha-Dietrich, and Vickstrom (2019). ない. 24. 詳細は第 6 章を参照. 52. Devictor and Do (2017). 2020 年のデータについて 25. 詳細は第 6 章を参照. は次を参照:Refugee Data Finder (searchable data 26. 詳細は第 6 章とスポットライト 6 を参照. sets), Statistics and Demographics Section, Global 27. 移住の社会的・文化的なインパクトの議論は第 6 章を Data Service, United Nations High Commissioner 参照. for Refugees, Copenhagen, https://www.unhcr.org/ refugee-statistics/download/?url=2bxU2f. 28. StatCan (2013). 53. Porter and Haslam (2005). 29. Morris-Suzuki (1995). 54. Hussam et al. (2022). 30. Dustmann, Glitz, and Frattini (2008). 55. Rossiasco et al. (2023). 31. Chin, Daysal, and Imberman (2012); Frattini and Meschi (2019). 56. IDA (2021, 162). 概観 17 57. EWSI (2022). 64. Government of Jordan (2016). 58. Tumen (2023). 65. EUTF for Africa (2018). 59. IDA (2021, 9). 66. IGAD (2022). 60. 詳細は第 7 章を参照. 67. 詳細は第 8 章のボックス 8.4 を参照. 61. 2022 年末時点において,受け入れ難民数でみて難民受 68. IOM (2020). け入れが上位の 12 カ国は次の通りである:トルコ,コ 69. 詳細は第 8 章のボックス 8.1 を参照. ロンビア,ドイツ,パキスタン,ウガンダ,ロシア, 70. Infante et al. (2012). ポーランド,スーダン,バングラデシュ,エチオピア, 71. Paoletti (2023). イラン,レバノン.次を参照:Refugee Data Finder (dashboard), United Nations High Commissioner for 72. 詳細は第 8 章を参照. Refugees, Geneva, https://popstats.unhcr.org/refugee- 73. United Nations Network on Migration (2022). statistics/download/. 74. OECD (2018). 62. これは EU,ドイツ,およびアメリカである(OECD 75. Clemens (2015). 2021). 76. 詳細は第 8 章を参照. 63. これはカナダ,ドイツ,スウェーデン,およびアメリ カである(OECD 2021). 参考文献 Ang, Alvin, and Erwin R. Tiongson. 2023. “Philippine paper prepared for World Development Report 2023, Migration Journey: Processes and Programs in the World Bank, Washington, DC. Migration Life Cycle.” Background paper prepared for Bossavie, Laurent Loic Yves, and Çağlar Özden. 2022. World Development Report 2023, World Bank, Wash- “Impacts of Temporary Migration on Development ington, DC. in Origin Countries.” Policy Research Working Paper Armitage, Simon J., Sabah A. Jasim, Anthony E. Marks, 9996, World Bank, Washington, DC. Adrian G. Parker, Vitaly I. 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Washington, DC: World Bank. 1 21 適合度と動機の マトリックス 重要なメッセージ  本報告書は,移住者 をその地位や動機とは無関係に,市民権を有する国の外に住んでいる人々とし (移民) て定義している.実用的な目的のために,移住者(移民)という言葉が本報告書全体を通じて,経済的移住 者や難民にグループとして言及する際に使われている.  「適合度と動機のマトリックス (行列)」は労働経済学と国際法に依拠して,誰がどのような状況下で移動し ているかに基づく 4 種類の移動に対して,優先的な政策を特定する統一的な枠組みを展開する(図 1.1).  移住者が のどこに該当するのかは,部分的には移民の行き先国の政策に依 「適合度と動機のマトリックス」 存する.長期的には,挑戦課題は,全ての移民のスキルや属性と行き先国との適合度を高めることによっ て,そして,難民でもなく,スキルや属性が移住先社会と高い適合度を示してもいない移民による,いわ ゆる困窮[苦難の中での]移動の必要性を削減することによって,移住の成果を向上させることにある. 図 1.1 移民グループの種類が異なれば,必要とされる政策対応は異なる すべての人を 対象に利益を 最大化する すべての 移民について 適合度を 高い 高める 大勢の 行先国で需要のある 経済移民 スキルを有する 難民 利益がコストを上回る すべての 移民について 適合度を 高める 適合度 コストが利益を上回る 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 持続可能性を 確保し,コストを 低い 分担 移住の必要度を 移住先国 本国における 動機 下げる,難民を受け における機会 恐怖 入れる,人道的に 帰国させる 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 22 世界開発報告 2023 人間を中心に据えたアプローチ  移住というのは人々にかかわるものである.それは国境を越えて移動する人,後に留まる人,移動する人 を受け入れる人にかかわることである.人々が新しい国に移動する場合,その決定は,当人自身,当人の本 国[出身国] [受け入れ国] のコミュニティ,そして行き先国 のコミュニティに対して,経済的および社会的な 影響を与える.  移住に向けた人間を中心に据えたアプローチは次のことを認識している.すなわち,移民や難民はしばし ば困難な選択をしており,公正かつ適切(ディーセント)に対処するに値する人たちである.それらの人々は アイデンティティ,スキル,文化,そして好みを持っている.同様に,移住先国は,多様で時として対立す る有権者,利益,そして意思決定プロセスが伴う複雑な社会である.主権国家および国際社会のメンバーと [受け入れ] して,移民の行き先 国は自己の利益をより多くするために政策を設計している.人々が国境を越 えて移動することを決定する際,その人の移動は,当人の本国と行き先国の社会の両方の開発と繁栄に影響 を与える.  移住は開発にとって強力な力になることが判明しており,世界全体にわたる数億人もの移民,その家族, およびコミュニティの生活を改善している.しかし移住には,移民や難民,それらの人が扶養する人たち, そして,さまざまな問題や脆弱性を克服しつつあり,そうするためには開発支援を必要とする可能性のある, 移住先社会の多くの人々も伴っている.長期にわたって移動に作用している動因の一部は,強まりつつあり, そして,この先の数十年において強度が増すと予想されている.同時に,多くの受け入れ国では移民や難民 を受け入れることの費用と利益に関する激しい公開討論が行われている.  越境移動にかかわる挑戦課題と緊張が発生するのは,利害関係者の選択や選好が多くの場合に一致してい ないからである.選択や選好は越境移動する人々と移住先国市民との間で,移民どうしの間で,さらには移 民の本国と移住先国の両方の社会の有権者の間で異なっている.しかし,これらの競合する利害を調和させ るために必要な市場の体系はしばしば欠如している.例えば,高い需要のある労働者の一部のカテゴリーに ついては,市場の力は移住者の本国の社会の立場からは行き過ぎた移住につながるかもしれない(頭脳流出). [受け入れ] 逆に,他のカテゴリーの場合,移民の流入は移住先 社会にとって最適な規模を上回るかもしれな い.開発面での強固な成果を得るためには,移民の出身国と移住先国の両方の社会において,そのようなミ スマッチに対処し,そして全ての人にとって経済的および社会的に改善された成果を確保することに向けた 政策が必要である. 外国籍の人に注目する  本報告書では移住者をその地位や動機にかかわらず,市民権がある国の外に住んでいる人々として定義し ている.移住者が直面する明確な挑戦課題は移住先国における市民権――およびそれと関連のある市民的, 政治的,および経済的な権利――の欠如から生じる.移民が市民権を欠いていることに対応して,受け入れ [移住先]国は移民の地位,移民が享受可能な権利,および移民がアクセス可能な機会を定義することに特化 された政策を採用しなければならない.本書の視点からは,市民権のある国へ帰国する,あるいは移住先国 (ボックス 1.1) で帰化すると,その人は移民ではなくなる .  本レポートは特に国際的な移住を検討している.国内的および国際的な移動は同じ経済的・社会的な力の 一部への対応である.実際,グローバルには,国内移住者の数は国際的な移住者の数をはるかに上回っている. しかし,国際的な国境を越えた人々は移動先の国で市民権を欠いていることから,そのような人たちは国内 移住者とは根本的に異なる状況にあることを知る.国内的および国際的な移動に対応した政府の政策,政府 が直面するトレードオフ,移動を規制する政府の能力,政府が採用する必要のある措置などは著しく異なっ ている.  移住政策を巡る論議は,国内の少数派をどのように統合するかという問題とは別問題でもある.帰化した 1 適合度と動機のマトリックス 23 ボックス 1.1 外国人か,それとも外国生まれか?  多くの統計データベースや調査研究は移住者 [移民] を (migrant) (foreign-born) 「外国生まれ」 の人々として 定義している.というのは,ほとんどの国勢調査や,人口台帳,各種調査には出生地に関する質問が含まれ ているからだ.それとは対照的に,市民権に関する情報は体系的に収集されてはおらず,場合によっては回 (undocumented) 答者は,仮に例えば,当人が正式な書類を持っていない 場合には,自分自身の法的地位に 関する情報を共有することを躊躇するかもしれない.一部の諸国では,国勢調査当局は市民権の状態に関し て質問することを禁じられさえしている a. 「外国生まれ」  しかしながら,移民を (foreign national) として定義することは,移民を外国籍の人 として定 「外国生まれ」 義することと同じではない. は次のことを意味する.すなわち,移民であることは生涯にわた る地位であり,決して変わることはなく,たとえ帰化する,あるいは文化的にも政治的にも完全に統合され る,場合でさえ変わらない.またそれは,暗黙裡に,個人的な履歴に基づいて,市民の間での区別も確立する. (migrant) 移民 (alien) と異邦人 いう用語が同義とされている諸国では,差別は永続化ないし補強される可能 (foreign nationality) 性がある.対照的に,外国籍 に焦点を合わせることは市民権の欠如に由来する特定の挑 戦課題をより適切に切り離すことを可能にする. 「外国生まれ」  実際にも, という定義を使うことは大勢の人々を移民として分類することに帰結しており, このことは次には移住先国における受け止め,政治,および政策策定に影響を与える.例えば,たとえ相対 「外国生まれ」 的に大きな数の移民が最終的に帰化しても, (帰化した) という定義の下では,その 人たちは依 然として移民に数えられる.アメリカでは,外国生まれの移民の 54%は帰化市民であり,OECD に加盟して (図 B1.1.1) いる高所得国の多くでもこの比率は高い .外国生まれの人の数と外国籍の人の数の間の大きな不 一致は,国境が変わることによっても生じる.例えば,ソビエト連邦やユーゴスラビアの崩壊をに続いて, かつては統一されていた国で生まれた人々の一部は,統一されていた国が独立した時にその国の別の部分に 「外国生まれ」 住むことになった場合には, として数えられることになる.古い世代に関しては,イギリス領 「外国生まれ」 インドの分割は大規模な人口の移動を引き起こし,依然として の人が 200 万人存在している.  たまたま外国で生まれ,そして,そうであっても祖国の著名な市民でもある多くの政治指導者のことを考 「外国生まれ」 える時, という移民の定義の限界は明白である.スペインの元国王フアン・カルロス,アルジェ リアの元大統領アブデルアズィーズ・ブーテフリカ,ボツワナの元大統領イアン・カーマ,エストニアの元 大統領トーマス・イルヴェス,オーストラリアの元首相トニー・アボット,フランスの元首相マニュエル・ヴァ ルス,インドの元首相マンモハン・シン,イスラエルの元首相シモン・ペレス,イギリスの元首相ボリス・ジョ ンソン,バヌアツの元首相モアナ・カルカセス・カロシルなどがそのような人の例であり,これはそのよう な人のごく一部である. 移住者は市民権を得た新しい国で,人種主義や差別を含む,多くの挑戦課題に直面するかもしれない.しか し,そういった問題は帰化した移民の移動やその人が市民権を欠いていることとは関係がない.そうではな く,それは,市民の特定のグループが社会の他のグループによってどのように見られ,そして扱われている かや,国内少数派が直面している包摂という挑戦課題と関係がある.このような観察を認識することは,移 住の文化的なインパクトなどのような一部の対応に注意を要する問題を見直すことに役立ちうる.帰化した 市民は,たとえ明確な民族集団に属していても,ないしは少数派の宗教を信奉していても,現地で生まれた 市民と同じくらいに社会の一部であり,当該国の文化を部分的に定義し,そして形成している. 2 つの視点:労働経済学と国際法  労働経済学と国際法が移住に関する政策立案に知識を提供している.それらの視点は明確な知的および学 術的な伝統から生じてきており,国境を越える移動に関する異なる側面に焦点を合わせている.その結果, 24 世界開発報告 2023 (続き) ボックス O.1 外国人か,それとも外国生まれか?  図 B1.1.1 OECD に加盟している高所得国の多くでは,外国生まれの人の半数以上が帰化している オーストラリア オーストリア ベルギー カナダ 20% 28% 37% 34% 44% 44% 63% 28% 80% 22% フランス ドイツ イタリア オランダ 19% 22% 23% 27% 25% 29% 33% 37% 56% 36% 49% 44% ニュージーランド ノルウェー ポルトガル スペイン 16% 17% 20% 27% 37% 43% 63% 57% 67% 54% スウェーデン スイス イギリス アメリカ 22% 26% 31% 40% 46% 54% 60% 69% 52% 帰化している 帰化していない EU 内移民 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 注:外国生まれの割合の計算において,難民は「帰化していない」に含まれている.EU =欧州連合,OECD =経済協力開 発機構. a. 例えば,アメリカの最高裁判所は訴訟 v. New York, 139 S. Ct. 2551; 204 L. Ed. 2d 978 (2019) において,2020 年の国勢調査に おいて市民権の状態に関して質問を行うというトランプ政権の意図を阻止する裁定を下した.市民権に関する質問はアメリカ の国勢調査では 1950 年以降排除されてきている. 1 適合度と動機のマトリックス 25 それぞれが重要な洞察を提供している.そうではあるものの,今日に至るまでそれらを 1 つの一貫した全 体に統合する簡潔な枠組みは存在していない. [受け入れ]  労働経済学と国際法の両方が,移住先 国の政策が移住のパターン,およびその効果を形成する ことにおいて主要な役割を果たしていることを認めている.受け入れ国側が,不完全ではあるが,誰が自国 の国境を越えるのか,誰がどのような条件で合法的に滞在することを許可されるのか,そして越境した人々 にはどのような権利が与えられるのか,などについて定義し,そして規制している.このような政策は移動 を開始する前,移動中,そして目的地に到着した後における移民のインセンティブや決定に多大な影響を与 え,世界全体の移動のあらゆる側面を形成している.対照的に,移民の出身国のほとんどは,移動を規制す ることについてわずかな影響力しか持っていない.  移住先 国が自国の移住政策を策定する際, [受け入れ] 当該国は主に自国の福利を重視する.受け入れ国は, その政治的プロセスを通じて,移住が自国の労働市場に及ぼす影響と(それは労働市場だけに関わるもので はないことから)移住が自国社会に及ぼす広範な影響の両方を考慮する.もっと著しく限定的な程度におい てのみ,移住者自身と移民の出身国に対する影響を考慮する. 労働経済学と費用便益計算 [出身国]  労働経済学では移住を,本国 におけるよりも自己の労働がより生産的に活用されうる国へ向かう 労働者の国境を越える移動としてみている.市場諸力が国境を越える生産要素――資本と労働――の移動と その配分を引き起こす.このような視点からは,人々の自由な移動は世界経済が効率的に機能することの鍵 となる要素であり,労働は国境や他の政策的な制限による摩擦の導入を伴わずに,最も生産的な場所へ移動 することが許容されるべきである.移住から悪影響を受ける受け入れ国の国民――労働市場で移住者と競合 する労働者など――に対しては,分配政策を通じて支援をすることが可能である.  労働経済学は,移民が移住先国に持ち込むスキル,資格,それに専門家としての経験,およびそれらが生 産的に利用されうる程度に焦点を合わせている.一部の移民は,労働市場においてすでに入手可能になって いるスキルを補完するスキルを持ち込む.このような補完性は生産性を向上させ,移住先国経済の全体にわ たる相当な利益を伴っている.他の職業では,移民労働者は代替要員となる.移民が加わることは労働供給 を増加させ,このことによって賃金と全体的な生産コストは低下する.消費者と雇用者(および資本の所有者) は利益を得る.しかし,一部の既存の労働者は賃金低下と,おそらくは失業を経験する.補完的スキルと代 替的スキルの間の区別は,スキルのレベルではなく,それが労働市場のニーズにどの程度合致しているかに 基づいている.高いスキルと低いスキルの両方が補完,あるいは代替になりうる.  次のことを示す十分な実証的証拠がある.移民のスキルが移住先国の労働市場のニーズに適合している場 合には,移民自身も利益を得て,移住者の出身国も同じように利益を得る 1.移民は出身国におけるよりも 生産的に雇用されうることから,より高い賃金を稼得する.移民の出身国は金融移転(送金)と知識移転の両 方から利益を得る.しかし,代価も伴っている.それは例えば,稀少なスキルを持つ大勢の人が出国移住す る(頭脳流出)場合である.しかし,代価の規模は小さい傾向にある.  この視点は,移民はスキルだけでなく,個人的な履歴や文化的な嗜好を含めて,さまざまな他の属性も持 ち込むという点を認識することによってさらに発展させられている.移民のスキルと移住先国経済のニーズ との適合度が労働市場に対する影響を大まかに決定する.しかし,移民の統合は労働市場の枠を超えている. 移民の家族が教育や医療サービスを必要とする場合などのように,それには金融面でのコストが伴うことも ある.移民の仕事や,年齢,家族状況などに応じて,そのコストは,移民に課される税金によって完全に賄 われることもあれば,そうでないこともある.移民の社会的な統合のような,非金銭的なコストを含め,他 のコストも発生するかもしれない.  適合度が高いと考えられるものは,移民の特性と受け入れる社会の優先事項の両方に依存する.しかし, このような特性や優先事項は経時的に,例えば経済成長が加速している,あるいは減速している時には,変 化する.移住先社会の中で異なる考えを持つ各集団は,移民の統合,特に社会的包摂に関連したコストに関 26 世界開発報告 2023 図 1.2 移民の適合度が高い場合,その貢献度は融合のコストを して,相異なる意見を抱いているかもしれない.にも 上回る かかわらず,懐疑派と支持派の双方が,一部の移民の スキルや属性は他よりも受け入れ社会のニーズにより 労働による 貢献は融合がもたらす 良く適合しているという点に同意している.論議は適 コストを上回る 合度の高い構成要素と低い構成要素は何かに関するも のである.この問題は典型的には政治的なプロセスを 通じて調停されており,望ましい結果と考えられるも のは時とともに変化する. 高い 利益がコストを  全体として,多くの受け入れ[移民の移住先]国は自 上回る らの移住政策を費用便益計算から導出している.移民 のプロフィールが受け入れ社会のニーズに適合してい る場合は,移民の貢献度は移民の統合に関わるコスト 適合度 を上回る(図 1.2).このような状況においては,受け 入れ社会は利益を得る――ほとんどの状況において, 労働による 移民と移民の出身国も同様に利益を得る.また,受け コストが利益を 貢献は融合がもたらす 上回る 入れ側の社会はそのような移動を許可する,ないし コストを下回る は奨励さえする傾向にある.対照的に,移住者のプロ 低い フィールが受け入れ側の社会のニーズに合致しない場 合,コストは労働に対する移民の貢献からの利益を上 出所:WDR 2023 チーム. 回るかもしれない.移民自身は利益を得るかもしれな 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満 いが,受け入れ国は正味では損失を経験し,それ故, たす度合いを指す. 受け入れ国はこのような移動を止めることに務める. 国際法,および保護の義務  国際法の下では,国家の領域に入るのを認められる人を選択することは主権にかかわる事項である.各国 は誰をどのような地位の下で入国させるかを決定する.このような決定は一方的に,あるいは,国際的な条 約,地域的な自由移動協定,ないしは二国間労働協約などの国家間の個別の協定を通じて行われうる.この 規範は,領事保護や外交的保護,国家責任法,国際的な人権法,国際難民法,労働に関する国際的な法律や 基準など,さまざまな情報源や法律分野から引き出されている.規範は,明確に区別される個々の移民グルー プに異なる仕方で適用され 2,また,国レベルでの実施状況は一様ではない.  人間の尊厳と権利が,1948 年の世界人権宣言,1951 年の難民の地位に関する条約,1967 年の難民の 地位に関する議定書(1951 年難民条約),ならびに,さまざまな補完的な法律文書などの国際法の核にある. 「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパク また,人間の尊厳と権利は鍵となる,2018 年の ト」,2018 年の「難民に関するグローバル・コンパクト」「労働における基本的原則及び権利に関する ILO , 宣言」「開発のための 2030 アジェンダ」 , と「誰一人取り残さない」というその持続可能な開発目標(SDG)の 中心的な約束を含む,国際的規範を支えている.移民を人として認めるというのは次のことを意味している. すなわち,このような規範は,移民が移動中であるのか,国境地帯にいるのか,あるいは移住先国にいるの かにかかわらず,移民に対して完全に適用される.ある一部の状況下にある女性や少女,LGBTQ+ の人た ち,同伴者のいない子供,そして人種主義・外国人嫌悪・その他の形態の差別の犠牲者などの,気を挫くよ うな挑戦課題に直面している人たちに対しては特に注意を払うべきである.  主権国家という世界では,すべての人々は市民権のある国の保護下にある.住んでいる所とは無関係に, そのような保護の下にある人の権利は市民権のある国によって,ないし市民権のある国と居住国の間の協定 を通じて保証されている.国家による保護は,政治哲学者のハンナ・アーレントによるよく知られている 1948 年の宣言のように,「権利を持つ権利」を保証している.しかし,例えば紛争や迫害の故に,ある一国 1 適合度と動機のマトリックス 27 が自国の市民の一部の権利を保護すること 図 1.3 本国[出身国]に帰国すると危害を受ける「十分に理由のある恐怖」があ る場合,移住先国はそのような人を受け入れる義務がある に消極的ないし保護することができない状 況が生じうる.  国際法はそのような人々を「難民」として 定義している.難民とは, [出身国] 仮に本国 移民: 国際的な保護の に戻ることになった場合に,危害を被ると 必要性は低い 移民の 移民の いう「十分に理由のある恐怖」を証明するこ 移住先国: 移住先国: とができる人たちのことである 3.難民の 移民を受け入 難民を受け れるか否かを 入れる義務が 地位は,1951 年の難民条約にならんで, 難民: 選択 ある 国際的な保護の 地域の難民法に関する文書によって保護さ 必要性は高い れている.社会経済的な脆弱性はこの難民 の定義には含まれていない.一部の難民は 裕福ではあるが,多くの場合,難民である 移住先国 本国における 動機 ことは経済的窮乏につながる.逆に,脆弱 における機会 恐怖 な状況にある大勢の人々は,物質的な援助 出所:WDR 2023 チーム. を必要としているかもしれないが,国際的 注:動機は当人が移住するに至った状況を指す――機会を求めて移動するのか,ある いは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十分に理由の な保護は必要としていない. ある恐怖」の故に移動するのか.  国際的な保護の核にあるのはノン・ル フールマンの原則である 4:難民を出身国ないし危害を被るリスクが有る別の国 [生命や自由が脅威にさら されるおそれのある国]に送還してはならない(図 1.3).この原則は受け入れ国にとってのコストとは無関 受け入れられている国で難民が享受できる一連の特別な権利を含んでいる. 係に適用される.国際的保護も, その権利は,本国 ないし別の国から市民または永住者として完全な保護を取り戻すまで維持される. [出身国] 適合度と動機のマトリックス  労働経済学と国際的保護の視点はまだ調和されてはいない.労働経済学は移住の経済学に関して洞察を提 示するものの,強制避難などのような,労働市場の諸力に従っていない移動を説明することに苦闘している. 一方,法的な保護が説くことは,難民の生活と尊厳を守ることに焦点を合わせており,難民の保護を継続し て支援するための有用な方法を扱っている.そして,受け入れ国における経済的および社会的な影響には十 分には取り組んでいない.  「適合度と動機のマトリックス 」 (行列)は,労働経済学が行う区別――受け入れ[移民の移住先]国に正味の 利益をもたらす移動と正味の損失をもたらす移動の間の区別――と国際法が行う区別――移民の行き先国が 移民を受け入れるか否かの裁量を有する状況と,移住先国に難民を収容する義務がある状況の間の区別―― を重ね合わせて統一的な枠組みを提示する. 4 種類の移動   は 4 種類の移動を以下の通り区分けしている 「適合度と動機のマトリックス」 (図 1.4):  移住先国で機会を求めており,当人のスキルや属性が移住先社会のニーズに高度に適合している人々―― 図 1.4 の上方左側象限.大幅に最も規模の大きいこのカテゴリーには,ほとんどの経済的移民とその家 族が含まれる.この移民のスキルはあらゆる水準でありうる――カリフォルニアのシリコン・バレーで働 いているインド人エンジニアもいれば,湾岸協力会議(GCC)加盟諸国で雇用されている南アジア人の建 設労働者もいる.このような移民には書類のない大勢の移民も含まれている.彼らはたとえ移住先国で法 的地位を持っていない場合でも,その人のスキルや属性は移住先国の労働市場の欠陥部分を埋めている. 28 世界開発報告 2023 図 1.4 「適合度と動機のマトリックス」は労働経済学と国際法の各視点を組み合わせて 4 種類の移動を区別 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い トルコに滞在している シリア人企業家の 行先国で需要のある 難民 大勢の 経済移民 スキルを有する 利益がコストを上回る 難民 適合度 エチオピアに 滞在している同伴者の いない未成年 コストが利益を上回る 難民 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 バングラデシュで 低い 働くことが許されていない ロヒンギャ(強制的に 故国を追われた アメリカの南部 ミャンマー人) 国境に滞在している 移住先国 本国における 動機 一部の低スキルの における機会 恐怖 移民 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. このような移住のすべてについて,労働経済学は,移民本人,移住者の本国,および移住先国に対して, 移住は正味で利益をもたらすことを示唆している.  出身国における迫害や深刻な危害の恐れから逃れようとしており,当人のスキルや属性が移住先社会の ニーズと高度に適合する人々――図 1.4 の上方右側象限.このグループは主に,移住先国で需要のあるス キルを有する難民で構成されている.理論物理学者のアルベルト・アインシュタインが代表例である.ア 第 2 次世界大戦中にヨーロッパから逃れる必要があり, インシュタインは, そして難民となった.今日では, パキスタンのアフガン人トラック運転手,あるいは東アフリカのソマリア人貿易業者に加えて,シリア, ベネズエラ,ないし,より最近ではウクライナを離れた大勢の専門職に就いている人がこのグループに属 する.国際法の下では,移住先国にはこのような人々を受け入れる義務があるが,これら諸国側もそのよ うな移民の存在から利益を得る.  本国における迫害や深刻な危害の恐怖から逃れつつあるものの,当人のスキルや属性と移住先社会のニー ズとの適合度が低い人々――図 1.4 の下方右側象限.紛争や迫害から逃れつつあるほとんどの人がこのグ ループに属する.公式な難民の地位を与えられる人もいれば,バングラデシュにいる強制退去させられた ミャンマー国民のようにそうではない人もいる.適合度が低いことは,同伴者がいない未成年者で,働く には若すぎる一方で支援を必要としている人のように,個人的な特徴を反映したものであろう.あるいは, 例えば,一部の人々に対して働くこと,したがって貢献することを許可しないというような政府政策の結 果かもしれない.このような人々に国際的な保護を提供することは重要であると同時に国際法の元での義 1 適合度と動機のマトリックス 29 図 1.5 移民が「適合度と動機のマトリックス」のどこに当てはまるかは,移住先国の政策が部分的に決定する 適合度の 高さは移住先国の 政策に依存 高い 行先国で需要のある 大勢の スキルを有する 経済移民 難民 適合度の 利益がコストを上回る 高さは移住先国の 政策に依存 適合度 コストが利益を上回る 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 国際的 低い 保護の程度は 移住先国の政策に 依存 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 務でもある.しかし,それは受け入れ国に正味の損失をもたらす.政策面での挑戦課題は,このコストを 管理することである.  移住先国で機会を求めているものの,当人のスキルや属性と移住先社会のニーズとの適合度が低い人々 ――図 1.4 の下方左側象限.このグループは典型的には,しばしば重大なリスクと苦難を伴う,困難な状 況での非正規な移動に従事している移民で構成されている.これには低・中所得の受け入れ国に加えて, アメリカの南部国境ないし地中海北部沿岸に到着している人々の一部が含まれている.彼らの存在は移住 先国に正味でコストを課し, 受け入れるか帰国させるかを決める裁量がある.このグルー 受け入れ国側に, プは政策面で最も複雑なトレードオフの一部を提起する. 移動の種類の間での流動性  移民が のどこに該当するかは,部分的には移住先国の政策によって左右され 「適合度と動機のマリックス」 る(図 1.5).例えば,移住先社会に貢献する移民の能力と,それに対応する適合度の高さは,移住先国の労 働市場における需要に加えて,移民のスキルや属性に依存している.しかし,それは移民が自分の資格に応 じた水準で働くことが許可されているかどうかにも左右される.例えば,自分の専門分野で働くことを認め られていない医学博士は――当人の資格が承認されていない,あるいはフォーマルな部門で働くことを完全 に禁止されているか,のいずれかによって――,医師として働ける場合に比べて貢献度が少なくなるであろ う.適合度の高さは移住先国における労働のニーズの変化や社会的な動態に基づいて経時的にも変移しうる.  同様に,移民が受ける国際的な保護の――および移民の存在がもたらす経済的利益にかかわりなく受け入 れられる――程度は,移住先国の政策に依存している.国際法の下での受け入れ国の義務を超えて,多くの 諸国は,人道的な理由から,入国あるいは領土内での滞在が許可されている特定グループに対して保護を提 30 世界開発報告 2023 図 1.6 「適合度と動機のマトリックス」は明確に区別される移民の各グループに対する政策の優先順位を 特定することに役立つ すべての人を 対象に利益を 最大化 高い 行先国で需要のある 大勢の スキルを有する 経済移民 難民 利益がコストを上回る 適合度 コストが利益を上回る 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 持続可能性の確保, 低い コストの分担 移動の 必要性を削減, 移民を受け入れ, 移住先国 本国における 動機 あるいは人道的に における機会 恐怖 帰国させる 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 供するための法的な枠組みを整備してきている. 政策の優先順位  移住政策は,個々の状況の細部に合わせて調整されたアプローチを採用することによって,移民,移民の 出身国,および移住先国にとっての国境を越える移動の成果を改善することに役立ちうる.労働経済学と国 際法から得られる洞察に基づいて,「適合度と動機のマトリックス」はすべての関係者グループに対して政策 の優先順位を特定する(図 1.6):  スキルや属性が移住先社会のニーズと高度に適合する人々:移民の出身国と移住先国の利益を最大化す る.移民や難民が移住先国で需要のあるスキルを持ち込む場合,移民の地位――書類があるか否か――に かかわらず,移住先国,移民の出身国,そして移民や難民自身にとって利益がコストを上回る.このことは, 動機についても,その種類――移民は機会を求めて到着したのか,あるいは迫害や暴力から逃げてきた難 民として到着したのか――に関係なく真である.移民の出身国と行き先国の双方にとっての挑戦課題は, 移住の利益をより一層増加させ,同時に移住のマイナス面に効果的に対処する措置を設計し,実施するこ とである.  迫害あるいは紛争という から逃れてきたものの,当人のスキルや属性の移住先社 「十分に理由のある恐怖」 会のニーズとの適合度が低い人々:持続可能性を確保しコストを分担する.そのような移民のスキルや属 1 適合度と動機のマトリックス 31 図 1.7 各国にとっての挑戦課題は,移民の適合度を改善し苦難の中での移動を削減することである 高い 行先国で需要のある 大勢の スキルを有する 経済移民 難民 適合度 適合度を 適合度を 高める 高める 大部分が非正規 多くの難民 である困窮移民 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 保護を拡大 する 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか.下方左象限の垂直点線は困窮移民のうち国際的な保護を必要としている人とそ うでない人の区別を強調している. 性の適合度が低い場合,受け入れ国にとって,社会経済的なコストは利益を上回るかもしれない.そうで はあるものの,難民を受け入れる義務が存在する.受け入れ国にとっての挑戦課題は,コストの削減を可 能にする政策を採用することである.国際社会にとっての挑戦課題は,難民保護はグローバルな責任であ ることから,十分な責任の共有を確保することである.  移住先国において機会を求めているものの,移住先国のニーズに対する当人のスキルや属性の適合度が低 い人たち:受け入れるか,あるいは困窮移民を人道的に帰国させる.移住先国においてスキルの適合度が 低く,難民としての保護を受ける権利がない人々については,移住先国は困難なトレードオフに直面する. これらの移民を受け入れることは経済的および社会的な負担を伴っており,しかし,そのような人たち [そのような移民の] の入国を拒否することはそれらの人々の基本的な人権を危険にさらす可能性がある. 移住先国は,そのような移民を当人の本国へ送り返すことを決断することもある.しかし,移住先国とし ては,このような移民のなかには保護を必要としている者もいる――例えば,仮にギャングの暴行から 逃れている場合――ということを認識し,そしてそのような移民に,状況に応じて対処するべきでもある. いずれにしても,そのような移民たちは人道的に処遇されるべきである. 移住を改善する  経時的には,挑戦課題は,すべて――移住先[受け入れ]社会,移民の出身社会,そして移民自身――が利 益を得ることができるように,移住の開発成果を強化することである.あらゆる所得水準の諸国において, 移住がますます必要になっている世界の中で,移住を改善することは,次の 2 つの補完的な側面で進展し 続けることを必要としている(図 1.7). 32 世界開発報告 2023  すべての移民のスキルや属性と移住先社会のニーズとの適合度を高める.移住の利益――移民にとってだ けでなく,移民の出身社会と移住先社会の双方にとって――は,移民が移住先社会により多くの貢献をす ることが可能であり,移民がより高い賃金を稼得することができ,そしてより多くの送金(及び知識移転) を移住者の出身国に対して行うことができる場合に,著しくより大きくなる.これらのすべては,要求に 見合うスキル――すべての水準で――と属性を有する移民の入国のための合法的な経路を提供すること と,そのような移民の公式な労働市場への従事を可能にすることの両方を必要とする.それは,世界と国 内の両方の労働市場の必要を満たすために移民の本国において,および高いスキルを有する人の移住(頭 脳流出)の悪影響を緩和することに向けた過程において,スキルを構築することによって補完できるかも しれない.これらは,国際的な支援を必要とすることもあるだろう.スキルの適合度の改善を達成するこ とは,多くの場合に,受け入れ国と移民の出身国の間の協調を必要とする.  苦難の中での移動の必要性を削減する.そのような移動はしばしば,移民自身にとっての相当な苦難を 伴っている.非正規な移動はトラウマ的な苦しい体験に転換しうる.到着するとすぐに,移民は労働力 への参加について難題に直面する.というのは,そのような移民のスキルは移住先社会のニーズに合致し ておらず,多くの場合に深刻な脆弱性を伴う立場にあるからだ.多くの国において,困窮[困難な状況で の]移動は移住に関する論議を分極化してきている.そのような移動の必要性を削減することは,移民の 本国において人々の強靭性を強化すること,移住先の労働市場における需要との適合度を改善できるよう に移民のスキルを向上させること,それに,そのような移民の一部は補完的な様式の保護を必要としてい ることを認識すること,を要請する. 注 1. World Bank (2018). 通過国,および移住先国の出入国を統治している国際 2. 正規の移住は移民の出身国,通過国,および移住先国 的な協定の枠外で行われる人の移動である. の法律を順守して行われる人の移動である.非正規な 3. OHCHR (1951, art. 1). (irregular)移住は,法律,規則,あるいは移民の本国, 4. OHCHR (1951, art. 33). 参考文献 OHCHR (Office of the United Nations High Commis- .ohchr.org/en/instruments-mechanisms/instruments sioner for Human Rights). 1951. “Convention Relating /convention-relating-status-refugees. to the Status of Refugees.” Adopted July 28, 1951, by World Bank. 2018. Moving for Prosperity: Global Migration the United Nations Conference of Plenipotentiaries on and Labor Markets. Policy Research Report. Washing- the Status of Refugees and Stateless Persons Convened ton, DC: World Bank. under General Assembly Resolution 429 (V) of Decem- ber 14, 1950. OHCHR, Geneva. https://www 25 39 57 14 33 スポットライト1 歴史 33 82 76 46  移動性の歴史は人類の物語である――多様な集団がアフリカの揺籃の地を出て,徐々に大陸全体に拡がっ ていった 1.それは諸集団の間での接触と交流の,そして住民の分裂と融合の物語であり,そのようなことが, 明確に異なる民族性,言葉,および文化の出現に帰結し 2,今日の世界を形成した.移動性は多くの場合に, 経済的および社会的な進歩を牽引してきている――例えば,考えや技術の伝達を可能にすることによって 3. しかし時には,多大な苦しみももたらしている.このような移動の主な要因は日々のニュースに触れている 人や歴史を学んでいる学生によく知られていることである:より良い生活に向けた欲望や,迫害ないし危害 に対する恐怖.  今日における,国境を越えて移動できるという人々の能力は,どのようなパスポートを持っているかや, どのようなスキルを持っているかに応じて著しく異なる.移動は一部の人々(高所得国の市民や高いスキル を持つ労働者など)にとっては容易になりつつあるが,他の人々(低所得国からの移民や非正規の移民など) にとっては制限が厳しくなりつつある 4.移住に関わる論議の分極化は,グローバル化に対する広範な反動 の一部である.同様の傾向は 19 世紀末に向けて西側世界で広まり,第 1 次世界大戦の前段階において,同 じような反グローバル化の感情と,国境をまたぐ移動や貿易に対する障壁の強化につながった 5.にもかか わらず,しばしば「正常な」状況と思われているもの――越境的な移動性とその管理方法に関する現行の理解 ――は歴史のなかではほんの一瞬でしかない. 適合:経済的および政治的な考察  記録されている歴史上のほとんどにおいて,移住は許されていただけでなく,多くの場合に奨励されてい た 6.支配者の力はしばしば臣民の人数で測られた.しかし,臣民を引き付けることは難題であった.1453 [オスマントルコ帝国の第 7 代スルタン] 年にコンスタンティノープルを占拠した後,メフメト 2 世 は,帝国 全体から人々を引き寄せ,市内で捕われていた囚人を釈放することによって,人口の増加に努めた 7.その 息子のバヤズイト 2 世は,1492 年のアルハンブラ法令の後,スペインから追放されたセファルディムの ユダヤ人を招き,定住させた.1857 年になってから,オスマントルコのスルタンは,臣下になり,そして オスマン帝国の法律を順守することに同意する者は誰でも移入を許可する,という政令を発布した.この政 令はヨーロッパの新聞に広く発表され,支配者は,市民権,宗教の自由,税の譲許,牛・農地区画の無償供 与,一時的な財政援助の保証によって新来者を誘惑した 8.  国民国家の発展に伴って,越境移動を規制するために制度が整備されていった.その取り決めは,有力な 支配者あるいは民主的多数派の利害を反映しており,経済,社会,および文化に関する考慮を混交したもの に基づいていた 9.このような制度は,地域や国について横断的には非常に多様であったことと,状況の変 化に合わせて常に調整されていた点で,際立っていた 10.  一部の諸国は外国のあらゆる影響から自国を遮断し,移住や短期訪問でさえ制限した.移住に対するこ –  のようなアプローチは,1630  1850 年にかけて日本において徳川将軍の鎖国政策の下で支配的であった. そして,この政策は日本の文化と歴史に永続的な影響をもたらした 11.同様に,李氏朝鮮の下で朝鮮人は, 中国ないし日本を外交使節として訪問する場合を除き海外旅行が禁止されていた.中国と日本を相手とする 34 世界開発報告 2023 若干の貿易は認められていたが,同国はそれ以外の部外者には閉じられていた 12. アメリカのような諸国は昔から長きにわたって自らを移民の国と規定している.  他の地域では, ニューヨー 「疲れ果て,貧しさにあ ク港にある自由の女神像の台座に貼り付けられた板には次のように刻まれている: えぎ,自由の息吹を求める群衆を,私に与えたまえ.人生の高波に揉まれ,拒まれ続ける哀れな人々を…」. にもかかわらず,開放のレベルは経済状況と国民ないし人種主義の偏見の両方を反映して,時とともに大き く変動してきている.アメリカでは,初期の移民流入は一握りのヨーロッパ諸国からであった.それは典型 的には民間企業を通じて行われ,政府の介入はほとんどなかった.19 世紀になってアメリカが拡大するの に伴って,労働の必要性と利用可能な機会が劇的に増加し,一方で,ヨーロッパの一部では政治,経済,そ –  して社会が混乱状態に陥った.1820  50 年の間にアメリカへの移住が 200 倍に激増した.当初の移住者 の出身国は主にアイルランドとドイツであり,後にはイタリアや,中欧,東欧,北欧の出身者が移住した. しかし,このような流入に関しては論争がなかったわけではなく,19 世紀と 20 世紀初期を通じて,先住 民保護主義[排外主義]運動が興った 13.それに対応して,アメリカの連邦政府は流れを制限することに努め た.1882 年に中国人排斥法が制定されたのを受けて,アジア人の移住が減らされた.1917 年には特にヨー ロッパからの移民に対して,低スキル移民を抑制するためにリテラシーに関する要件が導入された 14.次い で 1924 年に,移民法を通じて政府は国別割当を課した 15.1965 年ハート = セラー法の制定によってア メリカは,[国別割当を撤廃し,]大規模な移住に対応した.この法律は,公民権運動の副産物であり,また リンドン・B・ジョンソン大統領の「偉大な社会」というプログラムの不可欠な部分であった.人種に基づく 割当は,家族関係やスキルに基づく優遇カテゴリーによって置き換えられた.次第に,アジア,ラテンアメ リカ,そしてアフリカからの移民がより一般的になった.今日,中央および南アメリカからの,低スキルで, ほとんどが書類をもたない移民を巡る政治的な論争が非正規移民の抑制を目指す政策の継続につながってい ることから,激しい状態で論議が続いている.  多くのヨーロッパ諸国は,同様の相対的な開放と制限の時期を経験してきている.近代以前のヨーロッパ では,国境や入国移民の管理は通例ではなく,むしろ例外であった.イギリスは移民を制限する外国人法を 導入した――1793 年に――最初の国であった 16.そうではあったが,移動性は,大陸全体でほとんど妨 げがない状態が続き,1914 年までは,人々は比較的容易に国境を越えて移動し,そして定住することがで きた 17.管理を行う制度は第 1 次世界大戦の発生によって初めて導入された――最初は国家安全保障の配 慮から,後には大恐慌時代における保護主義的な努力の一環として,さらにその後になると,第 2 次世界 大戦の期間,および大戦後における難民の大規模な移動に対処するためであった.このような歴史がヨーロッ パ大陸の人間の地理を作り変えた 18.西ヨーロッパの復興に向けた努力と,それに続くほぼ 30 年間にわた る急速な経済の成長は,労働に対する需要の急増につながった.ヨーロッパ内外から人々を引き付けるため に,当初は一時的という条件でいくつかの [外国人労働者] 「ゲスト・ワーカー」 プログラムが整備された.同 時期に,政治情勢――冷戦と脱植民地化プロセス――が退去させられた人たちの流入を生み出し,そのよう –  な人たちは受け入れ国によって急速に吸収された.しかし,このような開放的な政策は 1973  74 年の石 油ショックとそれに伴う経済不況によって終わりを迎えた 19.  今日,ヨーロッパ内では,新規の移民の約半数は就労ビザで入国しており,残りの半数はその家族,学 生,あるいは亡命希望者である――そしてその中には,書類を持っていない人もいる 20.そのような人た ちの統合は一様ではなく,特に経済が停滞し,政治が分極化している国においては,ますます議論の余地 のあるものとなっている.EU の領域の外からの移住は削減されたが,領域の内側での移動は奨励されてお り,1985 年のシェンゲン協定と EU の拡大を受けて,急速に増加している 21.このパターン――促進さ れている移動もあれば,制限されている移動もある――は,移住政策の策定において作用している 2 つの力, すなわち経済諸力と政治的考慮を例示している.  ペルシャ湾岸諸国では大きく異なるパターンが広範にみられる.湾岸協力会議(GCC)に加盟している石 油産出国においては,移民は 1960 年における 24 万 1,000 人から 2020 年には 3,000 万人強へと劇的 に増加した 22.ペルシャ湾の沿岸には永続する交易所の長い歴史があり,そして,イギリスの植民地支配 歴史 35 下で南アジア人の少しずつの動きがあったものの,主に石油ブームとそれに伴う投資の拡大を理由として, 移住は 1970 年代以降加速した.湾岸諸国政府は大勢の移民労働者を臨時という条件で引き付けるために, –  さまざまな移民出身国と契約取り決めを整備している.わずか 20  30 年の間に,湾岸地域は転換され,移 民は経済にとって不可欠となった 23.2020 年までに,移民はこの地域全体の総人口の約半分を占めるよ うになり,その割合は,カタールでは 80%強,そして UAE では 90%強となっている 24.  移住のパターンは世界の他の地域,特に低所得国では異なっている.しかし,そのような国々は,経済的 および政治的な考慮事項の組み合わさりから依然として大きな影響を受けている 25.一部の南々移民[開発 ハ ブ 途上国から開発途上国への移住]はより良い仕事を見付けることを期待して地域経済の中心地――アンゴラ や,ブラジル,チリ,マレーシア,メキシコ,南アフリカ,タイなど――に移住している 26.このような 移動は臨時的でも恒久的でもありうる.民族あるいは文化の相違ではなく,アフリカにおけるように植民地 時代の行政区画という遺産に対応した境界を越える,他の形式の移動も生じている.南アフリカなどの一部 の状況では,移住は社会的な緊張,排斥,そして暴行事件などにさえつながってきている 27.他の諸国で は移民の入国が奨励されている.例えば,旧ソ連の住民は現ロシア連邦への移住を奨励されている 28.こ こでも再び,移住のパターンは経済諸力と政治的考慮事項の組み合わせを反映している. 動機:国際的な難民保護という考え  第 1 次世界大戦まで,戦争や迫害から逃れようとしている人々は,国際的に関心を持つべき問題とは考 えられていなかった.そうではなく,そのような人たちは一般的には,問題が生じた時に影響を受ける諸国 とその同盟国によって,その場しのぎ的に対処されていた 29.伝統的には国家が国際法の唯一の対象者で あることから,個人は他の国との関係で自分を「保護する」ためには――例えば,海外旅行のための書類や, 外国との紛争における代弁,その他の形態の外交的な保護などを通じて――自らの国籍のある国を頼りにす る必要があった.しかし,本国から追放された,ないし退去させられた,法律上あるいは事実上という意味 で国籍を失っている個人は,出身国が諸外国との関係で自国の保護義務を果たすことに頼ることはできな かった.このような人たちは代わりになる主体からの保護を必要とした 30.  国際的な保護に向けた最初の法的枠組みはロシア革命後の余波の中でフリチョフ・ナンセンによって策定 された.有名な北極探検家で外交官だったナンセン –  (1861  1930 年)は,1921 年に,国際連盟の難民高 等弁務官に任命された.その使命は約 200 万人のロシア人難民の再定住を確保することであった.避難し た国で法的な地位を持っていないことから,難民は他国へ行くことができなかった.というのは,それらの 人々はソビエト連邦から旅行書類を入手することができなかったからだ.このことに対応して,ナンセンは 後に「ナンセン・パスポート」として知られることになる国際的旅行書類の制度を考案した.それはやがて, ギリシャや,ブルガリア,トルコ,アルメニアの難民を含む,「国際的な懸念事項」と考えられる危機から逃 れている人から成る他のグループに拡張された 31.ナンセン・パスポートはその所有者に法的地位と一種 の国際的保護の両方を提供し,その所有者が仕事を求めて越境することを可能にした.それは約 45 万人の 難民に対して発行され,50 カ国以上の政府によって承認された.  このアプローチは第 2 次世界大戦後,避難の新しいパターンに合わせて調整するために変更された.国 際連合難民高等弁務官事務所が,国際的な保護と難民問題の解決という二重の任務を担って創設された.そ 「1951 年難民の地位に関する条約」 して国際的な基準が, 及び「1967 年難民の地位に関する議定書」の中で 成文化された 32.このような法律文書の下で,難民は,迫害を受ける恐れがあるという,十分に理由のあ る恐怖 33 に対して,当人の国籍国が保護を提供できない,ないしその意志がないことを理由として自分の 国籍がある国の外にいる人々として定義されている.このような個人に与えられている国際的な難民保護に は,調印国が提供を公約している個別の権利のリストが含まれている.そのなかにはノン・ルフールマンの 原則があり,次のように述べている.各国は難民ないし亡命希望者を,人種,宗教,国籍,特定社会集団の 構成員であること,あるいは政治的意見などを理由として生命または自由が脅威にさらされるおそれのある 36 世界開発報告 2023 国ないし領域に強制的に送還ないし追放してはならない 34.難民保護体制は国際的な責任の共有という考 えに基づいている.たとえそうであっても,集団行動に向けた義務的な仕組みは存在しない――それは今日 の多くの挑戦課題の根源にある 1 つの欠陥である.  難民にかかわる国際的な構成は状況の変化――植民地独立化の余波から冷戦の終焉を経て,脆弱性の新た な形態の出現に至るまで――に適応し続けてきている.難民の定義はアフリカ(1969 年の「アフリカにおけ (OAU) る難民問題の特殊な側面を規律するアフリカ統一機構 難民条約」) (1984 年の やラテンアメリカ 「カ ルタヘナ難民宣言」)において,これらの 2 つの地域に固有な状況を反映させるために,地域的な法律文書 を通じて拡大されてきている.EU やアメリカなどの他の地域や諸国は,伝統的な難民の基準を満たさない 特定の集団や個人に対して,保護の補完的な形式を提供する取り決めを開発してきている.ベネズエラから の脱出という最近の人々の移動は,誰が「難民」としての資格を持っているのか,ないしは「国際的な保護の 必要がある」のかに関して,新たな疑問を提起している.誰が国際的な保護を与えられる――そして社会の 労働需要とは無関係に受け入れられる――べきかは絶え間なく変化する問題であり,多くの国で公開討論を 引き起こしている. 注 1. 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Eurostat (2022). いた国に帰ることができない者またはそのような恐怖 21. Castles (1986); Kennedy (2022); Stalker (2002); Van Mol を有するために当該常居所を有していた国に帰るこ and de Valk (2016). とを 望まない者. [出典:https://www.unhcr.org/jp/ 22. 1960–2000 data: DataBank: Global Bilateral Migration, treaty_1951]」(OHCHR 1951, articles 1.A and 1.A.2). World Bank, Washington, DC, https://databank. 34. OHCHR (1951, article 33). worldbank.org/databases/migration; 2010–20 data: International Migrant Stock (dashboard), Population 歴史 37 参考文献 Aleinikoff, T. Alexander, and Leah Zamore. 2019. The Economy, edited by Claudia Goldin and Gary D. Libe- Arc of Protection: Reforming the International Refugee cap, 223–58. National Bureau of Economic Research Regime. Stanford Briefs Series. Stanford, CA: Stanford Project Report Series. Cambridge, MA: National University Press. Bureau of Economic Research; Chicago: University of Armitage, Simon J., Sabah A. Jasim, Anthony E. Marks, Chicago Press. Adrian G. Parker, Vitaly I. 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Press. 39 あらゆる所得水準の諸国にとって 移住はより一層必要になりつつある  パート 1 は,越境移動が起きており,そして移住政策が設計および実施されている状況についての概観 である.人々は文化が生じたもっとも初期の頃から,さまざまな場所へ移動してきている.このような移住 は今後数十年間にわたって続くと予想されている.  第 2 章は,移動に関する鍵となる数字とパターンの総合的な視点を提供している.越境移動は,各国間 における所得や福祉の大規模な格差のようなグローバルな不均衡や,紛争などのショックに対する対応であ る.この章ではグローバルおよび地域の両方のレベルでの現在のトレンドを検討し,多くの経済的移住者と 難民が低・中所得国で生活していることを指摘する.また,経済的な切望によって引き起こされている移動 と,移民の本国における当人の生命に対する恐怖を動機とする移動という両方の越境移動に関するいくつか の鍵となる特性についての証拠も検討する.  第 3 章では,先行きについて考える.特に,移動の動因を劇的に変える可能性のある 2 つの極めて重要 な問題を取り上げる.第 1 に,人口構成の変化――中・高所得国の両方における急速な高齢化を含む―― はグローバルな労働市場において大きなミスマッチを生み出しつつあり,移住はこの問題への取り組みを支 援することができる.第 2 に,気候変動が移動の追加的な動因として重要になりつつある.これまでのところ, 気候関連災害の結果としての状況から逃れるために,人々は主に国内で移動している.しかし,仮に気候に 関する行動が緊急に取られないならば,その結果として,続いて無秩序な国際的移動が発生する可能性があ る.  2 つのスポットライトが,この背景となる議論を補完している.スポットライト 2 では,入手可能なデー タの挑戦課題と限界,およびこの分野における取り組みを劇的に増やす必要があることが検討されている. スポットライト 3 では越境移動が移民,難民,および移民の出身国と移住先の社会に及ぼす影響を明らか にする際に研究者や実務家が直面する方法論上の挑戦課題の一部が提示される.  全体として,移住を巡る論議は文脈のなかで行われるべきであり,そして今日の世界を形作っている不均 衡とそれが辿る可能性のある進展の仕方を認めるべきである.そのことに対応して生じる圧力の一部を削減 するのを支援するために各国が移住を可能にするのか否かが,あらゆる所得水準の国において,経済的およ び社会的な軌道を大体において決定するであろう. 2 41 数字 誰が,どこへ,なぜ移動するのかを 理解する 重要なメッセージ  移住というのは福利における相違などの長期にわたるグローバルな不均衡に対応する過程にある人や,紛 争などのショックに適応する過程にある人によって使われる行動体系である.  約 1 億 8,400 万人が自らの国籍国の外側に住んでおり,その約 20%は難民である.移動パターンは移 民の動機に基づいて異なる(図 2.1).  移民と難民はあらゆる所得水準の諸国に住んでいる:43%は低・中所得国,40%は OECD に加盟して いる高所得国,17%は湾岸協力会議 加盟国に住んでいる. (GCC)  移民の出身国と移住先国の間を分ける単純な二分法はない.あらゆる所得水準において多くの諸国が同時 に移民の出身国でもあり,移住先国でもある. 図 2.1 移動のパターンは明確に区別される適合と動機を反映している 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い トルコに滞在している シリア人企業家の 行先国で需要のある 難民 大勢の 経済移民 スキルを有する 利益がコストを上回る 難民 適合度 エチオピアに 滞在している同伴者の いない未成年 コストが利益を上回る 難民 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 バングラデシュで 低い 働くことが許されていない ロヒンギャ(強制的に 故国を追われた アメリカの南部 ミャンマー人) 国境に滞在している 移住先国 本国における 動機 一部の低スキルの における機会 恐怖 移民 受け入れるか 受け入れることは 否かを選択 義務 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 42 世界開発報告 2023 現在のトレンド  本報告書は,より良い経済機会を探して移動した,あるいは紛争ないし迫害によって退去を強いられたこ とによって自分の国籍国の外側で生活している人々に焦点を合わせている.そういった人々が世界全体では 約 1 億 8,400 万人存在し,世界人口の 2.3%を占めている.そして,そのうちの 3,700 万人が難民である. そのような人たちが住んでいる諸国は,所得水準別グループのすべてにわたっている(図 2.2).  低・中所得国.このような諸国に住んでいる 図 2.2 移民および難民の大きな割合が低・中所得国に 居住している 移民と難民は合計で約 7,900 万人であり, その中の一部は,仕事の機会,家族,あるい は,書類のない状況を含む,さまざまな状況 17% 民, 下で,その他の理由で移動した(しかし,多 移 経 済 済 経 くの国において詳細なデータは存在しない). 移 GCC 民 また,これには約 2,700 万人の難民も含ま ,2 加盟国, 17% 8% れている 1.ほとんどの低・中所得国では移 民が人口に占める割合は比較的小さいが,コ 低所得および ロンビアや,コートジボワール,ジブチ,ガ 中所得国, 43% ボン,ヨルダン,レバノンなどのような例外 高所得国, もある.移民のなかには移住先国で最終的に 40% 経済 市民権を獲得する者もいる. 5%  高所得の OECD 加盟国. このような諸国に 難 民 ,1 % ,3 民 難 5 住んでいる合計で 7,400 万人の移民および , 難民には,書類のない移民に加えて,高いス 難民 5% キルを持つ労働者,低いスキルを持つ労働者, そして学生ビザの移民が含まれている.配偶 出 所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, 者,両親,あるいは子供などの家族との再会 DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. が正規移民の大きな割合を占めており,EU (湾岸協力会議) 注:高所得国は GCC 諸国を除く. 内におけるその値は約 35%である 2.この ような移民のなかには,他の EU 加盟国に住 (EU national) んでいる 1,100 万人の EU 加盟国人 やアメリカに住んでいる 1,360 万人のグリーン・カー ド保有者のように,広範な居住権を持っている人もいる.さらに,このような人々のなかで,1,000 万 人は国際的な保護を受けている難民である.高所得の OECD 加盟国に移住した移民の一部は一時的な滞 在であり,定住を意図している人もいる.多くの人は最終的には帰化している――OECD に加盟してい (本報告書では,このような人たちは移民とは る高所得国の全体では,約 6,200 万人が帰化市民である 考えられていない).  GCC 諸国.GCC 諸国に住んでいるおよそ 3,100 万人の移民のなかで,ほぼ全員が一時的な地位であり, 典型的には更新可能な複数年就労ビザを持っている.高スキル労働者と低スキル労働者の両方が含まれて いる.家族を同伴できるのは高いスキルを有する移民だけである.GCC 諸国は大勢の難民を受け入れて はいない.全体として,移民は GCC 人口の約半分を構成している――サウジアラビアを除けば,その値 は約 79%に達する . (ボックス 2.1)  移民に関して,移民の出身国と移住先国の間には明確な区別はない.実際に,ほとんどの諸国は,同時 に,両方である.例えば,イギリスは 350 万人の入国移民にとっての本国 [現在住んでいるところ] (home) であり 3,しかし,470 万人の出国移民の出身国 (origin)でもある.所得水準がより低い国として,ナイ 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 43 ジェリアは約 130 万人の入国移民にとっての本国(home)であると同時に,170 万人の出国移民の出身国 でもある.トルコ人の多くがヨーロッパに離散している経済移民であり,しかし,350 万人のシリア難民 と 200 万人を超えるその他の移民を受け入れている.このような社会の各々は,入国してくる人々と出国 して行く人々の両方の状態に対処するための最適な政策の組み合わせを必要としている. ボックス 2.1 本報告書における移住のデータ  本報告書のデータや数字は,特記がない場合は,WDR2023 Migration Database に基づいている a.このデー タベースは各々の移住先国の国勢調査によって作成された二国間移住データから構築されている.COVID-19 に伴う制限によって,ほんの一握りの高所得国のみが,2020 年に 10 年毎の国勢調査ないし全国調査を何と かして実施した b.ノルウェー,スイス,およびイギリスに加えて,EU 加盟国のデータは EU の労働力調査 に基づいている c. (UN DESA) 他のすべての諸国のデータは国際連合経済社会局 「国際移民ストック」 人口部の の推定値から得ている d.このようなデータのほとんどは出生国とは違う国に住んでいる人を移民と見なす という定義に基づいている.本報告書の目的のために,そのようなデータはさまざまな情報源や推定値から 入手した市民権のデータを用いて補正されている e.難民のデータは UNHCR の難民人口統計データベース (Refugee Population Statistics Database)に基づいており,2022 年の年央時点の難民,亡命希望者,および 国際的な保護の必要があるとして UNHCR によって定義されたその他の人を含んでいる f. a. WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. b. オーストラリア,カナダ,チリ,およびアメリカが含まれる. c. “European Union Labour Force Survey (EU-LFS),” Eurostat, European Commission, Luxembourg, https://ec.europa. /­ eu​ eurostat/web/microdata/european-union-labour-force-survey. International Migrant Stock (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United d.  Nations, New York, https://www.un.org/development/desa/pd/content/international-migrant-stock. WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. e.  f. Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. unhcr.org/refugee-statistics/. 経時的な変化  移住のパターンに関する歴史的なデータは入手不可能である.わかっているのは,外国生まれの人々(移 民と帰化市民の両方) –  の割合は 1960 年以降,世界人口の 2.7  3.5%の間で変動してきているということで ある 4.しかし,この数字の外見上の安定性はいくらか誤解を招きやすい.というのは,世界全体では,人 –  口の増加は 1960 年以降,非常に不均一であるからだ.世界の総人口は 1960  2020 年の間に約 156%増 加したが,高所得国の伸びはわずか 58%であり,一方で中所得国では 177%,低所得国では 383%増加し た 5.その結果,移住のトレンドは所得による国のグループごとに相当に異なっている . (図 2.3 および 2.4)  所得水準や人口構成が辿る軌道が時間の経過とともに変化するのに伴って,移住の流れの方向も変化する. 移民の重要な出身地となる,あるいは受け入れ地となる国または地域もあれば,重要ではなくなる国あるい は地域もある.例えば,1 世紀前のヨーロッパからラテンアメリカへの大規模な移動は今日ではもはや起き ていない.GCC 諸国への移住は 60 年前にはほとんど存在していなかったが,今日,これら諸国はいくつ かの最大の移住回廊の行き先になっている.一方,かつて移民の出身国であったアイルランドとイタリアは 移民受け入れ国になっている.  越境移動は相当な数の回廊にわたってより一層分散されつつある.1970 年には,わずか 150 の回廊 が――移民の出身国と移住先国の可能な 4 万個のペアの中で――,世界全体の移住の 65%を占めていた. 2020 年までに,この割合は 50%に低下した.現在の主要な回廊に含まれているのは,メキシコからアメ リカへ;インドから UAE とサウジアラビアへ;インドと中国からアメリカへ;カザフスタンからロシアへと, 44 世界開発報告 2023 図 2.3 1960 年以降,低所得国の人口に占める出国 図 2.4 1960 年以降,高所得国の人口に占める入国移 移民の割合はほぼ倍増した 民および帰化市民の割合は 3 倍に増加した 出国移民が総人口に占める割合;所得による国のグルー 外国生まれの人が総人口に占める割合;所得による国のグ プ別,1960, 1990, 2020 年 ループ別,1960, 1990, 2020 年 6 15 出国移民が人口に占める割合 入国移民が人口に占める割合 4 10 2 5 (%) (%) 0 0 低所得国 中所得国 高所得国 低所得国 中所得国 高所得国 1960 1990 2020 1960 1990 2020 出 所:WDR2023 Migration Database, World Bank, 出 所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023​ / Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023​ / data; population, 1960–2020: Population Estimates and data; population, 1960–2020: Population Estimates and Projections (database), World Bank, Washington, DC, https:// Projections (database), World Bank, Washington, DC, https:// datacatalog.worldbank.org/dataset/population​ -estimates- datacatalog.worldbank.org/dataset/population​ -estimates- and-projections. and-projections. 注:1960 年と 1990 年のデータについては世界銀行の 2020 注:1960 年と 1990 年のデータについては世界銀行の 2020 年の所得水準別の国のグループを利用 (Serajuddin and 年の所得水準別の国のグループを利用 (Serajuddin and Hamadeh 2020). Hamadeh 2020). ロシアからカザフスタンへ;バングラデシュからインドへ;そしてフィリピンからアメリカへ向かう,とい う回廊である.追加的に大きな回廊は,それぞれ,シリアとトルコ,ベネズエラとコロンビア,ウクライナ とポーランドの間におけるような主要な強制退去にかかわる状況と関連がある. 移民の出身(origin)国  出国移民(emigrant)について最大の割合 6 を占めているのは中所得国である.このような[中所得国か らの]移民は典型的には本国において最貧層にも最富裕層にも属しておらず,移動の費用を負担する経済力 があり,そして移動する動機がある.紛争や迫害という状況にある場合でも,グループ全体が暴力の標的に なっている場合などの例外はあるものの,より多くの資力を持つ人が最初に離国する傾向がある.  出国移民が人口の大きな割合を占めている国もある.多くの小島嶼開発途上国では,出国移民が当該国の 人口の 25%を大きく上回っている.多数の中央・東ヨーロッパ諸国も出国移民の割合が比較的高く,典型 的には 15%を超えている(それら諸国の市民が西ヨーロッパ諸国へアクセスするのは容易である).アフガ ニスタン,中央アフリカ共和国,ソマリア,南スーダン,シリア,ウクライナ,およびベネズエラでは,難 民が[難民の]本国の総人口に占める割合も高い(地図 2.1).全諸国を含めると,人口に占める出国移住者の 割合の中央値は 7%である. (destination) 移民の行き先 国  すべての所得レベルの国において,入国移民 7 は世界全体にわたって分散している. (immigrant) (移住 者の数で)主要な移住先国としては,アメリカ,サウジアラビア,アラブ首長国連邦,ドイツ,そしてフラ ンスがある.オーストラリアや,カナダ,イギリスなどの他の諸国では,経時的にみると大勢の移民が帰化 してきている. (地図 2.2)  入国移民が受け入れ国の人口に占める割合はさまざまである .割合が最も高いのは GCC 諸国 である――UAE では 88%.また,OECD に加盟している高所得国の多くにおいても,その値は著しく高 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 45 地図 2.1 ほとんどの国において,他国に移住した人が人口に占める割合はごく小さい 出身国の総人口に占める海外在住者の割合;2020 年 割合(%) 100 30 20 10 5 1 0 データ無し IBRD 47145 | MARCH 2023 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 地図 2.2 入国移民は,あらゆる所得水準の国で,世界全体にわたって存在している 移住先国の総人口に占める入国移民の割合;2020 年 割合(%) 100 30 20 10 5 1 0 データ無し IBRD 47144 | MARCH 2023 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 46 世界開発報告 2023 く, –  典型的には 5  15%である.移住の一部は地域内で生じており,コスタリカ,コートジボワール,ガボン, カザフスタン,マレーシア,あるいはシンガポールなど,当人の近隣国より相対的に裕福な国に向かってい る.入国移民の割合は, ジブチ, ベリーズや, セイシェルなどの人口が少ない諸国の一部でも大きい.最後に, 難民が受け入れ国の人口に占める割合は典型的には 1%未満で小さいものの,これには例外もある.例えば, 2022 年半ば時点で,レバノンでは 6 人に 1 人,ヨルダンでは 16 人に 1 人,コロンビアでは 21 人に 1 人が難民であった 8. 地域的な観点 (図 2.5)  移動のパターンは地域ごとに大きく異なっている :  東アジア・大平洋地域では,入国移民はオーストラリアやニュージーランドなどの高所得国を除いて,限 定的な状態が続いている.この地域の出国移民は,この地域内と,北アメリカや GCC 諸国などの域外の 両方を含め,さまざまな移住先国に向かっている.  高所得のヨーロッパ諸国は,約 4,300 万人の移民にとっての本国 [その時点で住んでいるところ] (home) であり,そのなかの 800 万人は難民である.そのような移民は圧倒的に他のヨーロッパ諸国からの移民 である(56%) (13%) .他の地域からの移民は少なく,主に中東・北アフリカ ,ラテンアメリカ(9%), サハラ以南アフリカ(8%)から移住している.出国移民は主に他の高所得のヨーロッパ諸国と北アメリカ に向かっている.  他のヨーロッパと中央アジアの諸国では,移動は主に域内で生じており,合計では約 1,400 万人の入国 移民が存在している.このような移動は少数の回廊が中心となっており,それには旧ソ連の一部であった 諸国とつながっている回廊も含まれている.この地域から移動する人の一部は高所得のヨーロッパ諸国に (約 1,100 万人) も移住している .  ラテンアメリカ・カリブでは,次の 2 つの主要なトレンドが明白である.第 1 に,比較的大規模な移動 がこの地域内で発生しており(約 1,070 万人),これにはベネズエラを離れた 440 万人が含まれている. 第 2 に,この地域を出身地とする大勢の人が,主に北アメリカ(約 60%) (約 ,そしてずっと少ないが EU 10%)に移住してきている.  中東・北アフリカでは,3 つの明確に区別されるパターンが存在する.第 1 に,GCC 諸国は大勢の入国 移民を受け入れている.主に南アジアからの移民であり(60%),しかしその地域に限定されているわけ ではない.第 2 に,この地域の GCC 以外の諸国は,主に高所得のヨーロッパ諸国(800 万人)と GCC 諸国(600 万人)に向かう比較的大きな出国移民の流れの源泉となっている.そして第 3 に,シリア危機 やイラクで継続している政情不安も大規模な難民を生み出しており,このような移民はこの域内で受け入 れられている(約 350 万人).  北アメリカでは,入国移民の数は出国移民の数の約 6 倍である.この地域に来る人の多くはラテンアメ リカ・カリブ(約 43%)の出身である.入国移民の大きな源となっている他の地域として,東アジア・大 平洋(21%),ヨーロッパ・中央アジア(16%),南アジア(9%)があり,中東・北アフリカからの移民は 比較的少数である.アメリカとカナダの入国移民の多くは最終的に帰化している.  南アジアでは,この地域の人口規模を考えると,移住は相対的に限定的である.3 つの主要な傾向がみら れる. 約 1,900 万人が GCC 諸国に出国移住している. 第 1 に, 第 2 に,追加的に 1,500 万人が他の地域, 主に北アメリカと高所得のヨーロッパ諸国,に出国移住している.そして第 3 に,アフガニスタンから パキスタンへ,およびミャンマーからバングラデシュへ向かう強制退去が追加的な移動の一部を占めてい る.  サハラ以南アフリカでは,ほとんどの移動は域内で行われている.出身国以外の国で生活している約 2,200 万人の中で,約 35%は難民である.このような移動は,ブルキナファソからコートジボワールへ, あるいは,ブルキナファソからナイジェリアないしは南アフリカなどの地域経済の中心地に向かう経路の 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 47 ような一部の回廊に沿って特に活発である.さらに,例えば南スーダンや,コンゴ民主共和国,スーダン, ソマリア,中央アフリカ共和国などから出国する大規模な難民の移動も存在している.他国への出国移住 (約 1,030 万人)は,主に EU や,イギリス,アメリカに向かっている. 動機とパターン  人々はさまざまな理由で移動する.移動する人の動機が移住の社会経済的な成果や国際的な保護の必要性 を部分的に決定する.移動のパターンは,移住先国で経済的機会を探求する人々と,迫害や紛争について「十 の故に移動する人々との間では異なっている. 分に理由のある恐怖」 一部の状況では,この区別は曖昧になる. というのは,機会と安全の両方を探求している人もいるからだ.  移住の決定は複雑であり,人々は,留まる,自国内で移動する,あるいは外国に移住する,という自分が 持っている選択肢を比較考量することを強いられる.自分自身で移動を決断する人もいれば,グループ全体 ――家族ないしコミュニティ――からの要請と支援を受けてそうする人もいる.そのような決定を下すにこ とにおいては,多くの要因が作用し,要因には経済的な考慮と個人的な考慮の両方が含まれている.経済理 論は次のように示唆している.移住する可能性のある人たちはさまざまな状況下で予想される自らの福利と それに対応して生じる移動のコスト――金融的なものと金融とは関連のないものの両方――を比較する.最 終的には,経済的展望,社会的および心理的な安寧,あるいは安全性という点で,自らの目的が達成される 可能性が最も高い選択肢に落ち着く. より良い暮らしへの切望  移民の大多数――80%超――は移住先国における機会を求めて移動する.そういった移動は通常は漸進的 であり,中期的な経済や人口構成のパターンを反映して予測可能なトレンドを示す.このような移民の移動 は主に,より高い賃金とより良いサービスへのアクセスを得られる可能性が動因となっている 9. (地図 2.3) このような人々は難民ではないものの,なかには個人的な身の安全の改善,より強固な法の支配,そしてよ り改善された個人の自由の拡大などを見付けるために移動する人もいる.  2020 年時点で,移民(および帰化市民)の大多数(約 84%)が,所得が当人の出身国よりも高い国に住ん でいた.しかし,移住のレベルは福利の格差が最大の回廊で最も高いわけではない.人々がどこから来てい るか がそれらの人々の行き先を大まかに決定する.移動は主に行き先国の労働市場における (移民の出身国) スキル需要,歴史的および地理的な結び付き,そして移住のコストなどによって決定される.低所得国出身 の移民はほとんどが他の低所得国ないし中所得国に移住している.というのは,多くの場合に高所得国への 移住のコストがひどく高いからだ.中所得国出身の移民は高所得国に移住することが多い.同じく,高所得 (図 2.6) 国出身の移民は他の高所得国に移住している .  全体として,移住はほとんどの移住者が直面する以下のような挑戦課題と障壁によって制約されている:  不確実性.移住は本来的にリスクを伴っている.リスクには, 失業の可能性,社会的孤立,心理的ストレス, あるいは移動中の負傷や死亡をも含む,予想外で不確実な状況に対処することが含まれる.機会を求め て移住する人々は,当人の出身コミュニティの他の人々と比べて,より進んでリスクをとる傾向にある. また,そのような人は,自らのスキル水準あるいは社会経済的な背景にかかわりなく,新しい環境や状況 への順応性が高い傾向にもある 10.  不慣れ.馴染みのない環境への移動は金銭的なコストと非金銭的なコストの両方を伴う.成功するために は,移民は移住先社会の言語や,社会規範,文化などに自らを馴染ませなければならない 11.一部の人々 にとっては,当人の本国と移住先国の間での社会的および文化的な相違は正に移住を動機付けているも のであるが,自らを馴染ませることは難しく,時間がかかるかもしれない.実例として,一部の女性や, 民族的,性的,および政治的な面での少数派の人々がいる 12.インターネットや新技術は,諸情報への 48 世界開発報告 2023 図 2.5 越境移動は地域ごとに大きく異なる K74% 1,000 万人 20 万人の が他国から 難民を含む SA 最大で 600 万人 NA EAP (その他) が他国へ ECA (HIC) ECA (HIC) EAP (その他) その他 (HIC) 高所得国 その他 EAP (HIC) 最大で EAP (HIC) 東アジア・太平洋 3,500 万人 900 万人が 30 万人の GCC 諸国(EAP) が他国へ 他国から 難民を含む NA SA その他 EAP (HIC) EAP (HIC) その他 ECA (HIC) EAP (その他) SA その他 EAP (その他) 4,300 万人 800 万人の その他 が他国から 難民を含む 最大で NA LAC 3,700 万人 EAP (HIC) SA が他国へ LAC EAP (その他) ECA (その他) MENA (その他) MENA (その他) その他 (HIC) 高所得国 SSA ECA (その他) ECA (HIC) ECA (HIC) ヨーロッパ 最大で 1,400 万人 570 万人の 中央アジア 3,700 万人 が他国から 難民を含む 諸国(ECA) が他国へ NA その他 EAP (その他) ECA (HIC) MENA (その他) その他 MENA (その他) ECA (HIC) その他 ECA (その他) ECA (その他) 最大で 1,400 万人 680 万人の 4,100 万人 NA が他国から 難民を含む が他国へ ECA (HIC) ラテン EAP (HIC) NA EAP (その他) アメリカ・ ECA (HIC) その他 カリブ その他 諸国(LAC) LAC LAC 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 49 図 2.5 越境移動は地域ごとに大きく異なる(続き) 3,100 万人 10 万人未 が他国から 満の難民を 含む SA 最大で 100 万人 EAP (その他) GCC が他国へ その他全て MENA (その他) 中東・ GCC SSA その他 北アフリカ 最大で GCC 1,200 万人 350 万人の (MENA) 諸国 2,800 万人 が他国から 難民を含む が他国へ GCC SA その他 NA SSA ECA (HIC) その他 ECA (その他) MENA (その他) その他 MENA (その他) 2,400 万人 190 万人の が他国から 難民を含む LAC 最大で SA 400 万人 ECA (HIC) EAP (その他) が他国へ LAC MENA (その他) その他 北アメリカ EAP (HIC) NA ECA (HIC) (NA) SSA ECA (その他) GCC NA 最大で 4,200 万人 600 万人が 280 万人の が他国へ 他国から 難民を含む GCC EAP (その他) 南アジア NA その他 (SA) 諸国 EAP (HIC) ECA (HIC) SA MENA (その他) EAP (その他) その他 SA 最大で GCC 2,200 万人 770 万人の 3,000 万人 NA が他国から 難民を含む が他国へ ECA (HIC) その他全て サハラ以南 MENA (その他) アフリカ SSA 諸国(SSA) SSA 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 注:入手可能なデータの制約から,各地域における入国移民の数には外国籍の全ての人が含まれ, 出国移民の数には外国生まれの人 (帰 化した人を含む) が含まれる.EAP =東アジア・大平洋,ECA =ヨーロッパ・中央アジア(西ヨーロッパも含む),GCC =湾岸協力会議(加 盟国),HIC =高所得国,LAC =ラテンアメリカ・カリブ,MENA =中東・北アフリカ,NA =北アメリカ,SA= 南アジア,SSA =サ ハラ以南アフリカ. 50 世界開発報告 2023 地図 2.3 移住を引き起こしているグローバルな不均衡の一部は人間開発指数に反映されている 人間開発指数 最も高い 非常に高い 高い 中程度 低い データ無し IBRD 47141 | MARCH 2023 出所:Heat map based on 2021 data, Human Development Insights (table), United Nations Development Programme (UNDP), New York, https://hdr.undp.org/data-center/country-insights#/ranks. 注:国連開発計画(UNDP) によると人間開発指数は 「長期にわたる健康な生活,知ることができること,そして適切な生活水準を維持すること,と いう人間開発の鍵となる側面における平均的な達成度に関する要約指標」 である.その指数の値の範囲は 0 – 1 である.地図上のカテゴリーは以 下のように定義されている:低い (0.55 未満),中程度(0.55 – 0.70),高い(0.70 – 0.80),非常に高い(0.80 – 0.90),最も高い(0.90 超)[UNDP . の「人間開発報告書 2021/2022」によれば,人間開発指数は 「健康長寿,知識へのアクセス,人間らしい生活水準という,人間開発の 3 つの基礎 次元における長期的な前進を評価する総合指数」 であり,2021 年の時点で日本の値は 0.925 であり,191 の国と地域の中で 19 位と,人間開発 最高位グループに属していた.出典:2021/2022 年版人間開発報告書に関する国別ブリーフィング・ノート. ] 図 2.6 移民がどこへ行くかは,大まかには移民の出身国によって左右される 低所得国 低所得国 中所得国 中所得国 高所得国 高所得国 出所:WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/data. 注:矢印の太さと濃さは対応する移動の規模を反映している. 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 51 アクセスを向上させ,移住に関して新たな抱負,および生じる可能性のあるリスクと便益についてのより 確かな知識の両方を生み出してきている 13.  求職.新しい国で仕事を見付けることは難題でありうる.ある国で取得したスキル,資格,あるいは卒業 証書などは他の国への移転が容易ではないこともある.多くの移民は低スキルの職業へ「格下げ」すること になり, につながっている 14.一部の移民はディーセントな仕事を見付けるために,友人や家 「頭脳浪費」 族の非公式なネットワークを通じて得られる情報を頼りにしている.そのような移民は,自分と同じ国籍 を有する他の移民にとってすでに本国 [その時点で住んでいるところ] (home) になっている地域に移動す る傾向がある――これは南アジアから GCC 諸国へ移動する移民に典型的にみられる.ただし,このよう な仲介のコストは高くつく.  資金調達.移住に先立って発生するコストは相当な額になりうる.そのようなコストには,典型的には, 仕事を見つけること,あるいは移動の手配のための仲介手数料に加えて,旅行と転居,ビザ,および処理 に関する費用が含まれている.そのようなコストは,各移動回廊の相互の間で大幅に異なっている.例え ば,低スキルの移民については,中央アメリカからメキシコへ移動するコストは 100 ドル程の低い値に なる可能性があり,一方で,パキスタンからサウジアラビアへ移動するためのコストは,4,000 ドル以 上になる可能性がある 15.非正規の移住は,多くの場合に高価な密入国業者の手数料を必要とする.例 –  えば,アメリカの南部国境を非正規に通過するコストは,移民の出身場所に応じて 2,000  10,000 ド ルと推定されている 16.  スキルの水準に応じて,このような制約は異なる仕方で課され,このことが低スキル移民と高スキル移民 が異なる移住先を目指す理由を大まかに説明している.低スキルの移民の大きな割合が同じ地域内で移動し ている.2020 年の時点で,低スキルの移民の全体の約半数は近隣国に滞在していた 17.より遠くに移動 する場合には,より馴染みのある場所を目指している.すなわち,それは,当人が移住先の支配的な言葉を 話している地域,あるいは当人の民族性,コミュニティ,ないしは国籍などに基づく社会的ネットワークへ のアクセスを得ている地域である 18.それ故,資金調達の制約が大きい,あるいは仕事を見付けるのがよ り困難であるなど,低スキルの移民は,より遠い,あるいはより馴染みの程度の低い移住先を避けている. 対照的に,高いスキルを有する個人は高所得国へ移住する可能性がより高く,そして,このトレンドは経時 的に強まってきている.高いスキルを有する個人は多くの場合に,自らのスキルに対するより強い需要や, より友好的な移住規則から恩恵を得ている 19.一部の国では,そのような移民は居住権や市民権を獲得す るルートへのより容易なアクセスを有してもいる.  このような背景の下で,移住は恒久的ないし一時的のいずれにもなりうる.オーストラリアに在住してい る多数の高スキル移民など,一部の人々は,移住先国で永続的に生活するという意図を抱いて移動している. 永住を意図している人々の間では,家族と一緒に移動する人もいれば,家族を後で移動させることを計画し ている人もいる.しかし,永住を意図していない他の人にとっては,移住は一時的なものにすぎない.その ような人は,後に本国に戻るという意図を持って,勉強や仕事のために一定期間だけ移住する.このような 戦略が,GCC 諸国や,韓国,マレーシアへの移住のほとんどを占めている.しかし一時的な滞在者と恒久 –  的な滞在者の間の区別は曖昧である.というのは,当初はわずか 2  3 年の滞在を意図していた多くの人が 滞在を数十年間に,そして時には生涯にわたる期間に延長しているからだ.一時的移住および恒久的移住の インパクト――そのような移住がもたらす利益,そのような移住が提起する挑戦課題,およびそのような移 住が要求する政策対応など――は著しく明確に異なっている. 出身国における恐怖  強制避難というパターンは,移動の集中,移動する人たちの脆弱性,移動する人たちが選ぶ行き先,そし てそのような人たちの移動が生じる際の突然さと進行の速さという点で,経済的な移住とは異なっている.  幅広い範囲の諸国から移動している経済移民とは異なり,ほとんどの難民は限られた数の国からの移動で 52 世界開発報告 2023 図 2.7 ほとんどの移民は限られた数の国から移住している――そしてその傾向は強まりつつある 12 100 90 10 80 70 8 難民の割合 60 国の数 6 50 (%) 40 4 30 20 2 10 0 0 05 15 07 17 01 09 11 19 21 00 03 10 13 20 02 08 12 18 22 06 16 04 14 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 出身国である難民が 50 万人以上の国 大規模な危機(50 万人以上が避難)から逃れている難民の割合 出所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www.unhcr.org/refugee-statistics/. ある――この傾向は強まりつつある(図 2.7).世界のほぼ全ての国から難民が生じているものの,次の 6 カ 国における危機が国際的な保護を必要としている人々(難民)の全体の 76%を生み出している:ウクライナ ,シリア (2023 年 2 月時点で 800 万人) (680 万人),ベネズエラ ,アフガニスタン (560 万人) , (280 万人) 南スーダン(240 万人),ミャンマー 20. (120 万人のロヒンギャ)  難民の流れには,主に生産年齢の成人から成る経済移民とは異なり,大勢の脆弱な人々――家族やコミュ ニティは,その人が危険から逃れることを願っている――が含まれている.実際,難民の 41%は子供であ り 21,その一部には同伴者がいない.例えば,2023 年時点で,ウガンダには同伴者がいない,あるいは 家族と離れ離れになった 7 万人以上の子供がいる 22.出身国における状態とは無関係に,多くの難民は行 き先国に貧困状態でたどり着いている.資産は出身国に残しており,貯蓄をわずか,あるいはまったく持た ずに到着している 23.一部の人は,経済的および社会的な包摂を困難にしうるようなトラウマ的な試練を 経験している 24.  難民と経済移民とでは行き先の選び方が異なっている.経済移民は典型的には,出身国からの距離とは無 関係に,自分のスキルに対して需要があると信じる場所に移動する 25.対照的に,難民は,労働市場の考 慮よりも,安全と安心を優先しており,したがって出身国と国境を接する安全な国へ移動する傾向にある.  全体として,難民全体の半数以上はわずか 10 カ国 26 で受け入れられており,それらの国は典型的には 難民の出身国と国境を接している(地図 2.4 および 2.5)27.2022 年半ば時点で,南スーダンからの難民の 99%は近隣諸国に収容されていた.また,同じように,ミャンマーからの難民の 86%,シリアからの難民 の 78%,アフガニスタンからの難民の 77%が,近隣国に受け入れられていた.難民は同じ地域内の他の 諸国へ移動する事例もあるが――ウクライナやベネズエラを離れた人々など――,非常に集中した状態が続 いている.全体では,難民の 74%は低・中所得国に住み,26%は高所得国,特に OECD 加盟の高所得国, に住んでいる 28.  近隣諸国を越えて移動する難民は,より遠くの,多数の移住先国へ移動するようになりつつある 29.そ のような難民は,近隣諸国に避難している難民と比べると,典型的には,所得,資産,教育,スキル,そし て移住ネットワークへのアクセスの点でより良い状況にある 30.そのような難民の移動はしばしばより良 い経済的利益,家族の結び付き,および政治的自由などにかかわる機会から影響を受けている 31.  難民の移動は,多くの場合,その突然さや移動の早急さによって特徴付けられる.一部の難民危機は徐々 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 53 地図 2.4 ほとんどの難民は近隣諸国に避難している ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 難民の出身国 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● アフガニスタン ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● コンゴ民主共和国 ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ミャンマー ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 南スーダン ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● スーダン ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● シリア ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ウクライナ ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ベネズエラ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 難民の数 ● ● ● ● ● ● ● ● 1,000,000 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 500,000 ● ● ● ● ● ● ● 100,000 ● ● ● ● ● ● IBRD 47151 | MARCH 2023 出 所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. unhcr.org/refugee-statistics/. 注:難民の人数を示す円は各受け入れ国の中心に位置しており,難民が受け入れられている特定の下位地域を対象にしているわけではない. 地図 2.5 10 カ国で難民全体の半数以上を受け入れている ロシア ポーランド ドイツ トルコ パキスタン バングラデシュ スーダン コロンビア ウガンダ 難民受け入れ国 ペルー 難民の数 2,000,000 1,000,000 IBRD 47161 | MARCH 2023 出 所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. unhcr.org/refugee-statistics/. 注:難民の人数を示す円は各受け入れ国の中心に位置しており,難民が受け入れられている特定の下位地域を対象にしているわけではない. 54 世界開発報告 2023 図 2.8 難民の流れは危機の発生直後に急増し,時ととも に強まり,このことは移住先国や国際社会に対して準備をする に鈍化する 時間を与えている.しかし,多くは突如発生し 32,このことが, 60 強制避難者や受け入れる側のコミュニティに,十分な援助を提 50 供するという挑戦課題にさらに加わっている.特定の紛争から 避難する難民の数は,暴力の強度や地理的な広がりが変化する 40 難民の割合 ことから,上下変動があるかもしれない.そして,このことは 連続的な移動の波を生じさせている.しかし,平均すれば,所 30 与の状況下にある難民の 40%以上は,暴力が発生してから 1 (%) 20 年以内に避難している(図 2.8)33.この数が大きい時には,受 け入れ国は著しいショックを経験する.その強度と人的被害の 10 故に,このような急増は,しばしば政策論議やニュースの見出 0 しで優位を占めている.そうではあるものの,難民が全移民に 0 1 2 3 4 5 6 占める割合は小さい. 危機発生からの経過年数  過去 10 年の間に難民移動の特質は変化し始めている.ただ 出所:以下に基づく WDR 2023 チームの試算:October 2022 し,それが長期的なトレンドの一部であるのかを評価するのは data from Forced Displacement Flow Dataset (dashboard), Refugee Data Finder, Statistics and Demographics Section, 難しい.特に難民の出身国は変化してきている.難民の出身国 Global Data Service, United Nations High Commissioner for を主に占めていたのは,2014 年までは低所得で受容能力が低 Refugees (UNHCR), Copenhagen, https://www.unhcr.org/ refugee-statistics​ /insights/explainers/forcibly-displaced-flow- い国であったが,今では中所得国が増えてきている(図 2.9). data.html. この変化は難民の流れの鍵となっている特徴の一部を変化させ 注:上図は 1991 – 2017 年の期間に始まった難民「状況」に関す つつある.中所得国を出身国とする難民は典型的には低所得国 る平均フローを描いている.難民の流れが 2.5 万人を超えると 「状況」が始まる.影付き部分は 95%の信頼区間を示す. 「難民」 を離れる難民よりも高いレベルのスキルを持ち,そのような難 のカテゴリーには,難民,亡命希望者,UNHCR によって決定 民のスキルや属性は移住先国のニーズとのより高度な適合に有 される国際的な保護の必要性があるその他の人々が含まれる. 利に働く可能性がある. 図 2.9 中所得国出身の難民が徐々に増えてきている 必要とされる保護の連続性 70  移動のパターンが複雑化して難民と経済移民の区別が曖昧に 60 なっている.一部のルート,特に高所得国に向かうルートは, 中所得国出身の難民の割合 経済移民と難民の両方によって利用されている.両者の行程は 50 互いに並走しているが,そうであっても,その動機や,展望, 40 保護の必要性などは明確に異なる.にもかかわらず,行き先国 30 側にとっては,そのような「混在した状態の移動」は特殊な挑戦 課題を提起し,誰が入国を許可されるべきか,そしてどのよう 20 な状況下にあるのかを決定するためには相当な資源を必要とす (%) 10 る.個人レベルでさえ,移動は安全性に対する脅威とその他の 考慮事項の組み合わせによって決定されるかもしれない.必ず 0 しも難民の移動の直接的な原因ではないものの,気候変動や, 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20 22 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 環境の悪化,自然災害もそのような移動の動因とますます相互 出所:Midyear 2022 data, Refugee Population Statistics 作用しつつある 34. Database, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www.unhcr.org/refugee-statistics/.  次のような認識が高まりつつある.すなわち,機会を求めて 移動し,かつ市民権のある国からの継続的な保護を受けること ができる人々と,国際法の下で難民として認定されている人々 の間には,国際的な保護の必要性について連続性がある.一部 の人々は,仮に出身国に戻るならば,危害を受けるリスクがあ る.そのリスクが,難民の地位が与えられるのに必要な最低基 2 数字:誰が,どこへ,なぜ移動するのかを理解する 55 準を満たしていない場合でさえ,そういうことがありうる.それは例えば,出身国が深刻な政治的危機に陥っ ている,あるいは広範囲にわたる犯罪的な暴力にさらされている場合である.受け入れ国と国際社会の両方 にとっての挑戦課題は,国際的な保護を必要としているすべての人がそれにアクセスすることができること, そして国際的な枠組みが,新たな保護のニーズの出現に沿って変化することを確保することである. 注 1. 本報告書では,他に記述がない限り,難民という用語は, (2021a, 2021b) を参照.GCC 諸国やマレーシアに 難民と国際的な保護の必要があるその他の人々を指す. 向かう南アジアの移民については,移住のコストは 2. データにはすべての正当な許可証が含まれている. 600 – 4,400 ドルの範囲であり,これは移住者の所得の 2021 年にデータが入手可能な全ての EU 加盟国を示す. 2 – 10 カ月分に相当する.この回廊での移住のコストの Eurostat (2022) を参照. 大きな割合が高価な仲介手数料に帰せられる可能性が ある (Bossavie 2023). 3. Sturge (2022, 25). 16. 次を参照:Migrant Smuggling (dashboard), United 4. WDR2023 Migration Database, World Bank, Nations Office on Drugs and Crime, Vienna, https:// Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/ www.unodc​ .org/unodc/en/human-trafficking/migrant- data; World Development Indicators (dashboard), smuggling​/m­ igrant-smuggling.html. World Bank, Washington, DC, https://datatopics. worldbank​.org/world-development-indicators/. 17. World Bank (2018). 5. World Development Indicators (dashboard), 18. McKenzie and Rapoport (2010). World Bank, Washington, DC, https://datatopics. 19. Clemens (2013); de Haas, Natter, and Vezzoli (2016). .org/world-development-indicators/. worldbank​ 20. UNHCR (2022b). 6. 出国移民 は,当人の本国 (emigrant) (country of origin) 21. 難民に関するデータは次に基づく:Refugee Population から出発して移民になった人として定義されている. Statistics Database, United Nations High Commissioner 7. 入国移民 は,行き先国に到着している移民 (immigrant) for Refugees, Geneva, https://www.unhcr.org/refugee- として定義されている. statistics/. 8. このような数字は,UNHCR (2022b) に基づいており, 22. Refugee Population Statistics Database, United Nations パレスチナ難民は含まれていない.レバノン在住の難 High Commissioner for Refugees, Geneva, https://www. 民の数に関する政府の推定値は,パレスチナ難民も含 unhcr.org/refugee-statistics/. めて,150 万人以上である.ヨルダン在住の難民の数 23. World Bank (2017, 80–81). に関する政府の推定値は,パレスチナ難民も含めて, 24. Fazel, Wheeler, and Danesh (2005); Porter and Haslam 200 万人以上である. (2005); Steel et al. (2009). 9. Beine, Machado, and Ruyssen (2020); Czaika and 25. Moore and Shellman (2007). Reinprecht (2020). 26. Devictor, Do, and Levchenko (2021); UNHCR (2022b). 10. Bütikofer and Peri (2021); Gibson and McKenzie (2012); 27. Devictor, Do, and Levchenko (2021); UNHCR (2022b). Jaeger et al. (2010). 28. 外国市民と外国生まれ人口の数字は次に基づく:2020 「馴染み」 11. 特に にかかわる障壁を強調した移住障壁に関す data of WDR2023 Migration Database, World Bank, る最近のレビューについては,Mckenzie (2022) を参照. Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr2023/ 12. 例えば,受け入れ国において女性のエンパワメントが data.しかし,難民に関するデータは 2022 年以降のも 高いことは――The Global Gender Gap Report 2020 のであり,ロシアのウクライナ侵攻に起因する難民の (WEF 2019) の政治的エンパワメントの下位指数で測 移動を含む. 定――,入国移民に占める女性の割合が高いことと 29. Devictor, Do, and Levchenko (2021). 相関関係を有する.逆に,移民出身国において女性 のエンパワメントが高いことは,出国移民に占める 30. Aksoy and Poutvaara (2021). 女性の割合が低いことと相関関係を有する.相関関係 31. Moore and Shellman (2007); Neumayer (2004). は,低所得国からの移民の場合にずっと強くなってい 32. UNHCR (2022a). る.アメリカでは迫害の恐怖を理由に亡命を申請した 33. この結果は Melander and Öberg (2006) の発見と整合す 人の 1.2 – 1.7%は,亡命申請の面接で性自認 (gender る.この文献は,強制避難 (難民と国内で避難させられ identity)に言及した. た人の両方を含む) の割合は時とともに加速することな 13. Bah et al. (2022). く,むしろ減速していることを示している. 14. Mattoo, Neagu, and Özden (2008). 34. United Nations (2018, 4). 15. ミクロデータ・セットに関しては KNOMAD and ILO 56 世界開発報告 2023 参考文献 Aksoy, Cevat Giray, and Panu Poutvaara. 2021. “Refugees’ and set, version May 24, 2021, World Bank, Washington, DC. 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[受け取り]  移民の出身国においては,政策担当者が関心を抱いているのは, 送金はどのようにして貧困削 減に貢献しうるか――どのような移住者が最大の貢献をして,それにはどのような傾向が伴っているか― ―,送金を受け取っているコミュニティ内のさまざまな世帯の間で,送金の流れはどのように影響を及ぼ しているか,そして個別の政策措置はどのようにしてその効果を高めることができるか,を測ることであ る.他の政策担当者は出国移住の次のようなマイナス面を懸念している.すなわち,後に残された家族員 にはどのようなことが起こるか,また,どのようにすれば残された家族が直面している問題を最もうまく 軽減できるか,所与の状況下において頭脳流出の実際の影響はどのようなものか,どの職業が最も大きな 影響を受けるか,個別の緩和措置の効果はどのようなものか.さらには,出国移住――海外に散在する在 (diaspora) 住者 とその帰国を含む――が国の開発に及ぼすインパクトに注目している政策担当者もいる. [受け入れ国]  移民の行き先国 では,一部の政策担当者は経済面での影響,すなわち,移民のスキルと属性, 移民の労働市場への参加,移民の生産性への影響,自国民の各種グループに対する影響,包摂的政策の インパクトについて懸念している.社会面での影響,すなわち,移民が移住先に結び付く能力と移民が それを行う速さ,公共サービスの提供への影響,このプロセスを管理するためのさまざまな政策アプロー チがもたらすインパクトの差異に関心を持っている政策担当者もいる.このような論議にとっては,移住 者の下位国家レベルでの分布状況に関する情報は極めて重要なものになりうる.  強制避難,通過,書類のない移民の移住,それに「苦難の中での」移住などの傾向に関する追加的なデータ も,直接的な関連を有する国にとっては重要である. データ 59 定義  定義の一貫性――一国内において,各国横断的に,そして経時的に――が移住に関する,および強制的な 退去に関するデータの効果的な利用にとって不可欠である.しかし,強固な統計制度を有する高所得国も含 めて,大きな相違がある.例えば,ノルウェー当局と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は,2013 年末 の時点について報告されたノルウェー内の難民の数に大差が生じていることに注目している――それぞれ, Eurostat は 18,734 人,UNHCR は 46,033 人,ノルウェー統計局は 132,203 人と発表している.こ れは定義,時間枠,および統計手法などの差異を反映している 2.同様に,各国の国勢調査における移住者 (migrant)の定義も各国の間で異なっている.移住者の定義は,出生地,市民権,到着時期,あるいは民 族性ないし人種にさえ基づいている可能性がある(図 S2.1).各国,同じ国の中の複数の政府機関,そして 研究者たちはこのような定義のうちのどれか 1 つを使ってデータを収集しており,このことは比較と分析 を難しくしている. 図 S2.1 多くの国勢調査は移住に関して基本的な一貫したデータを収集していない 35 33 30 30 30 25 24 22 国勢調査の数 20 15 10 10 5 0 アフリカ アジア ヨーロッパ 北アメリカ オセアニア 南アメリカ データベースに記録されている国の数 質問事項に,生まれた国と市民権のある国が含まれている国の数 質問事項に,生まれた国,市民権のある国,および現在住んでいる国に 到着してからの経過年数が含まれている国の数 出所:Juran and Snow 2018.国際連合経済社会局 (UN DESA) からの 149 カ国のデータに基づく. 注:国勢調査の数は 2010 年次に実施された国勢調査で,質問事項に出生国,市民権のある国,滞在中の国に到着した年に 関する2つあるいは3つのコアな質問を含む調査の数を示している. データ源  複数のデータ源が政策立案に情報を提供することができ,それぞれに長所と限界がある.それぞれのデー タのセットは移住に関連するデータが持つ問題に全面的に取り組むには不十分である.しかし,それぞれは 越境移動の特定の側面に関する証拠を提供することに役立ちうる.実効性のある政策の策定は,地理的,学 際的,および制度的な境界を横断する複数のデータ源を用いることを必要とする.さまざまなデータ源は相 互に補完し合うことができ,時間の経過とともに包括的な様相が得られる.  国勢調査(population censuse)が引き続き,グローバルな移住に関する第一のデータ源となっている. 一方で,その広範囲にわたるカバー率と木目細かさは,移住者の長期間にわたる移動を測定することを 60 世界開発報告 2023 可能にしている.また,国勢調査はあらゆる所得水準のほぼすべての諸国で実施されてもいるため,各 国および各時期の間でのある程度の相互比較が可能となっている.他方で,国勢調査の時宜性とアクセ ス可能性に関連する挑戦課題もある.国勢調査は 10 年毎に実施されることが最も多く,したがって移住 パターンの急激な変化を把握することはできない.移民の行き先国側では,国勢調査は,書類を持たない 移民のような特定の部分母集団や,難民などの調査の実施が困難な人々を過少に数える傾向にある 3.調 査のカバー率に制約がない場合でさえ,市民権に関する情報はほとんど収集されておらず,それ故,外 国生まれの人々の市民権は不明のままとなり,このことは非市民(noncitizen)に関する統計を作成する ことを不可能にしている 4.移民の出身国では,国勢調査は,世帯全体が本国を離れた場合には,出国移 民を把握することはできない 5.調査票で扱われるこのような問題は,副標本グループに対しては拡張さ れた質問票が使われる場合でさえ,コストと質に関連した問題によって必然的に制約を受ける.最後に, 一部の国では,政治的な考慮と財政面の制約が国勢調査データへのアクセスを制限している.  人口台帳(population register)がグローバルな移住に関するもう 1 つの主要なデータ源である.国勢調 査と同様に,それは一国の人口の大部分を含んでおり,長い期間にわたるデータセットを提供している. しかし,これは大体において高所得国に限定されている 6.人口台帳は書類を持たない移民や,登録する 意図をほとんど持たないその他の社会的に疎外された人たちを完全に考慮することはできない.移民や難 民の数は,もし出国する際に登録を抹消していなければ,過大に推定されるかもしれない.例えば,登録 が給付金の受け取りと結び付いている場合,抹消が行われていないかもしれない.人口台帳は多くの場合, 国の統計制度にとってはあまり重要ではない担当省庁によって管理されており,このような要素がアクセ スペイン, スしやすさを制限している.カナダや, それに北欧諸国は人口台帳をさまざまな行政データベー スと接続する初期段階にある 7.  行政データは,なかでも,移住に関する研究や政策策定のための,最も有望であるが,十分に活用されて いないデータ源である.一方では,ほとんどすべての諸国が行政データを収集しているが,収集はそれぞ れ違ったシステムを通じて行われている.データは,さまざまなものがある中で,自国の国境を越えた人, 課税,社会福祉プログラム,年金,医療,教育,その他公共サービスに関して収集されている.他方で, 政府の省庁や機関は,国家の安全保障,プライバシー,あるいは官僚的な利害関係を理由に,自己のデー タ源を共有,調和,あるいは統合する動機をほとんど持っていない.OECD は加盟国や世界の他の地域 におけるこのような問題の一部に取り組む努力を主導している 8.しかし,このようなデータの真の価値 は,データ・プライバシーの十分な水準を確保しつつ,国民識別番号を通じることなどによってデータ源 が統合されることによって,初めて実現するだろう.  家計調査および労働力調査は,各個人の動因や,社会経済的な特性,労働市場へのインパクトなど,移住 の異なる側面に関して豊富な情報を捉えている.移住先国における調査は,移民が移動によって直接的 に得た利益の程度に関する証拠を提供する 9.移民の出身国における調査は,移住の開発へのインパクト, 特に出国移民の家族やコミュニティに対するインパクトに光を当てることに役立つ.しかし,このような 調査は実施の頻度が不十分であり,移民に関して意味のある情報を把握できるほど十分に大きな標本で 実施されることは稀である.調査に含まれる対象の範囲を拡大することは非常にコスト高であり,カバー 率を高めて,同一の個人に関するデータが複数期間にわたって収集されるようにする場合には,より一 層費用がかかる 10.短期的には,既存の一般的な調査プログラムを,移住関連の質問事項をより多く含 むように調整することが,データの入手可能性を改善するためのより費用効果的な選択肢かもしれない. (インパクト評価など) 実験的なアプローチ も残されている挑戦課題の多くを解決できる公算があろう.  インパクト評価のための調査は特定の政策がさまざまな集団――移住者,難民,あるいは自国民など―― に与える影響を評価して,政策の設計と実施を微調整することに役立つ 11.一方で,そのような調査は 政策立案のために利用可能なより直接的な証拠を提供する.他方で,対応するデータを収集することは多 くの場合にコストがかかり――行政データに直接的に依存しない場合には――,カバー率という問題が 伴っている可能性もある. データ 61  新しいデータ源が従来のデータ源が持つ多くの制約に対する解決策であると予想されている.携帯電話呼 出記録,位置情報付きのソーシャルメディア・データ,インターネット通信量,IP アドレスなどが,強 制避難の追跡,移住のトレンドの予測,送金の分析などのために使われている 12.しかし,このような データ源は,その実験的な特性,統計的な厳密性の低さ,標本作成における偏りなどの問題を抱えている. そのようなデータへの学術的,および政策的な研究を目的とするアクセスは,プライバシーに関連する問 題を提起する可能性もある 13. 追加的な挑戦課題  難民やその他の社会的に疎外された移住者に関するデータ収集は特殊な挑戦課題に直面している 14.こ のような移動の唐突であるという性格と,それが多くの場合にアクセスの困難な,ないしは行政能力が低い 場所で発生しているという事実は,課題への取り組みを相当に複雑化している.時には,安全性や政治的な 考慮がデータの収集に向けた努力を阻害してもいる 15.  強制避難させられた人々を国の統計制度から排除することは,そのような人たちの社会的セーフティネッ トや,公共サービス,雇用機会などへのアクセスをいっそう社会的に疎外する 16.チャドなどの一部の諸国は, このような人々を既存の国のデータ収集に向けた取り組みのなかに組み込んでいる 17.チャドの 「難民及び 受け入れコミュニティ家計調査」は,政府,西アフリカ経済通貨同盟(WAEMU),および開発パートナーの 間での難民に関する政策対話の不可欠な部分として,同国の国家的な家計調査のなかに完全に統合されてい る 18.  難民や避難民に関するデータの入手可能性と質を改善する事に向けたグローバルな取り組みは,過去 「強制移動に関する世界銀行  10 年間で若干の改善につながってきている. UNHCR 共同データセンター –      (JDC)」などの構想に加えて,UNHCR による難民に関するグローバルな調査プログラムは,統合されたデー 「難 タ収集に向けた取り組みの実行可能性と利益を例証してきている.国連によって 2016 年に創設された 民,国内避難民 ,及び無国籍統計に関する専門家グループ」(EGRISS) は,各国が国レベルのデータ (IDP) 収集に向けた取り組みを強化するために実施するべき方法論の勧告に関する 2 つのセット――難民統計と IDP 統計にかかわるもの――を策定した 19. プライバシー データの機密性  新技術の出現に加えて,より信頼性の高い統計や包括的でタイムリーなデータの必要性の高まりによって 特徴付けられている世界において,データ保護がますます実際的な重要性を増しつつある.移民は,居住して いる国において市民に与えられている法的保護を欠いていることが多く,そのような移民に関するデータを収 集することは,プライバシーに関わる多くの懸念を提起している.このことは,移民が必要書類を持っていな いという地位にある場合にはより一層あてはまる 20.このような懸念は対処される必要がある.データの収集, 共有,および処理は――たとえそれが政策の立案に情報を提供することに役立ちうるとしても――,データ窃 盗や,データ喪失,個人データの未認可使用などを含め,プライバシー上のリスクを提起する 21.難民状態や, 子供の移住,人身売買,移民の密入国などの,一部の取り扱いに注意を要する状況下では,個人データの秘 匿性は特に重要である.というのは,データ主体の特定は生命を脅かすリスクをもたらす可能性があるから だ 22.  政府やその他の公的当局は,データ主体の基本的なプライバシーの権利や安全性を確保すると同時に,移 住や強制避難に関するデータを収集する際には,利用可能な最善のデータ源を用いることによってこのような 懸念に対処することを目指すべきである.また,確保されるべきこととして,適用可能なデータ保護とプライ バシー法が非市民の住民を十分に適用範囲に含めていること;それらが,非市民の住民を含めて,効果的に執 行されること;安全なデータ取り扱い手続きが,匿名化の手続きを通じることを含め,第三者が潜在的に有害 62 世界開発報告 2023 なデータにアクセスするのを阻止するために策定されていること;および,移民が自分の権利を知っており, データ収集の目的とデータ共有のリスクや緩和措置について情報が提供されていること,がある 23.同様に, 新技術を利用する場合には,政府は,移民に関する決定を行うためにデータがどのように使われているかに ついて透明であることを確保するべきである. 先行きの展望  政府が移住をよりうまく管理し,健全で有効な政策の策定に情報を提供するためには,移住に関する良い データが不可欠である.にもかかわらず,重大なデータのギャップが存在しており,タイムリーかつ木目細 かなデータを一貫した方法で収集するためには,大掛かりな努力が必要とされる.このことは,より多くの 金融資源――長期にわたるデータ収集のための資金調達を含む――と,低所得国も含めて,各国の統計機関 の技術的な能力を強化するための支援を必要とするだろう 24.世界銀行のグローバル・データ・ファシリティ などの専用のデータ・ファイナンス手段は,移住データへの投資において一層の一貫性を促進しつつ,既存 の資金調達におけるギャップへの取り組みを支援することができるだろう 25.  このような背景のなかで,政策立案に情報を提供しうるデータの入手可能性と質を高めるための優先事項 には以下が含まれる:  調和.定義の一貫性を改善する,あるいは少なくとも各国が異なる定義を使っている場合でも比較を可 能にしうるデータを収集するために努力する必要がある.例えば,国勢調査は少なくとも次の 4 つのコ アな質問を含むべきである:出生国,市民権のある国,以前の居所があった国,到着年.国連統計委員 会や OECD が遂行している調和に向けた取り組みは極めて重要である.政府に加えて,多くの国際的お よび地域的な組織が,特に難民に関してなど,政府データが欠如していることがある領域において,デー タを収集している.さまざまな活動主体の間での調和が,重複を阻止し,相乗効果を積極的に追求し,さ まざまな調査で使われている方法論における一貫性を全体を通じて確保し,それによって比較可能性を確 保するために必要とされている.  革新的な調査.伝統的なデータ源の枠を越えて,インパクト評価や,さまざまな種類の移動の動因とそれ がもたらす影響に関する調査を含め,政策策定に情報を提供するために追加的な調査を実施することが可 能である.例えば,長期にわたる研究は,移民が及ぼす影響と経時的な統合のプロセスを理解するため に移民の越境移動を長期的に追跡している 26.有名な実例として,メキシコの家庭生活調査 27 や,ニュー ジーランドのトンガ人移民に関する移住調査の長期的インパクト 28,がある.移民の出身国,移住先国, そして通過国の担当機関の間での横断的な協定が,メキシコの「移住プロジェクト」のように,必要なこ ともある 29.同様に,通過国で見られるような短期間のみ続く移動を含め,既存の統計制度を活用する, 急速で短期の移動を分析するための調査手段が必要とされている.  データのアクセスしやすさと機密性.秘匿性を確保しつつデータへのアクセスを円滑化することは,多く の場合,複数の措置を組み合わせることを必要とする.そのような措置に含まれるのは,データ交換を規 定する法的手段および規定手段の強化;行政データ制度の強化 30;私的に所有されているデータの交換 を円滑化するための,法的ルール,データ使用許諾契約,および共有されたセキュア・アーキテクチャー の確立 31;そしてデータの所有者と,学術研究や政策策定のコミュニティのメンバーなどのデータ利用 者の間における標準的なデータ・アクセス契約書の作成,などである. データ 63 注 1 United Nations (2019, 6). (2021); UNHCR (2021). 2 World Bank (2017).UNHCR の推定値は,過去 10 年間 13 Bloemraad and Menjívar (2022). に亡命申請に関して肯定的決定が与えられた亡命希望 14 Cirillo et al. (2022); King, Skeldon, and Vullnetari (2008). 者の総数に基づく.Eurostat の推定値は,難民の地位 15 Sarzin (2017). が付与された人に発効された正当な居住許可証ないし 16 Baal (2021). 補完的保護に基づく.3つめの,ノルウェー統計局の 推定値は, 「主要申請者」 の数に基づく.難民との家族関 17 Nguyen, Savadogo, and Tanaka (2021). 係の故に居住許可を付与されていた人を含める場合に 18 Nguyen, Savadogo, and Tanaka (2021). は,その数は 179,534 人となる. 19 Baal (2021); EGRIS (2018, 2020). 3 Johnson (2022). 20 Verhulst and Young (2018). 4 Artuc et al. (2015). 21 GMDAC (2022). 5 正に,人口統計分析や (人口調査の) 事後調査を通じて 22 Ganslmeier (2019). 過少集計の全体的な程度を評価することは,移住者ス 23 Migrants (dashboard), Privacy International, London, トックを測定するための国勢調査の信頼性と有用性を https://privacyinternational.org/learn/migrants. 決定する鍵である (Kennel and Jensen 2022). 24 GMG (2017). 6 利用可能な人口台帳 (population register)のリストにつ 25 Global Data Facility (dashboard), World Bank, いては Poulain and Herm (2013) を参照. Wash­ington, DC, https://www.worldbank.org/en/ 7 Careja and Bevelander (2018). programs​ ­ lobal-data-facility. /g 8 OECD (2022). 26 UNECE (2020). 9 Bilsborrow (2017); Fawcett and Arnold (1987). 27 Rubalcava et al. (2008). 10 Bossavie and Wang (2022). 28 Gibson et al. (2018). 11 Bilsborrow (2016); Bilsborrow et al. (1997); Borjas (1987); 29 Durand and Massey (2006). de Brauw and Carletto (2012); Eckman and Himelein 30 World Bank (2021). (2022); Heckathorn (2002); Kish (1965); McKenzie (2012); McKenzie and Mistiaen (2007); McKenzie, Stillman, and 31 Verhulst and Young (2018). 次も参照:Development Gibson (2010); McKenzie and Yang (2010). Data Partnership (dashboard), World Bank, Washington, DC, https://datapartnership.org/. 12 Aiken et al. (2021); Hughes et al. (2016); Kim et al. (2020); Laczko and Rango (2014); Sîrbu et al. (2021); Tjaden 参考文献 Aiken, Emily L., Suzanne Bellue, Dean S. Karlan, Chris- Bilsborrow, Richard E., Graeme Hugo, Amarjit S. Oberai, topher R. 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(2022) において,所得別 の国のグループに適用されている. 37%減少すると見込まれている 9.現在の人口構成上のトレン ドと,その結果として生じる労働供給の不足は,多くの日本企 図 3.4 所得が高い国は急速に高齢化している一方で, 業が自社の事業活動を制限するのを強要する値にまで労働コス 所得が低い国は若さを維持している トを上昇させている.破産の宣言をした企業さえある 10. 子供(5 歳未満)に対する高齢者(65 歳以上)の割合;所得による  高齢化は公的財政に前例のないストレスを与えている.生産 国のグループ別 年齢の成人は高齢者を支えるのに必要な財源を生み出している 7 が,その人数は減少しつつある.OECD に加盟している高所 6 得国では,生産年齢 –  (20  64 歳)の成人数の高齢者(65 歳以上) 子供一人あたりの高齢者の数 5 数に対する比率は,1950 年における 7.1 から 2022 年には 4 2.9 に低下した.2050 年までには 2.0 未満に低下すると予想 されている 11.にもかかわらず,これら諸国は,自国 (図 3.6) 3 の高齢化しつつある住民の年金 12,医療,および長期介護 13 2 などのコストを賄うために,2060 年までに公共支出は GDP 1 の 7.6%にまで増加すると予測されている.大規模な政策改革 0 1950 1975 2000 2025 2050 がなければ,高齢化は G20 グループ内の高所得国の公的債務 低所得国 下位中所得国 負担を 2050 年までに GDP の平均の 180%にまで引き上げ 上位中所得国 高所得国 る可能性がある 14.アメリカなどの一部の諸国は財政的余裕 を持っているが,ヨーロッパの数カ国――オーストリアや,ベ 出所:以下に基づく WDR 2023 チームによる計算―― the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 ルギー,フランス,ギリシャ,イタリア,スペイン,スカンジ (dashboard), Population Division, Department of Economic and ナビア諸国 15――では,年金制度の持続可能性はこの先の 10 Social Affairs, United Nations, New York, https://population. 年間で早くもリスクにさらされるであろう. un.org/wpp/.これは,Hamadeh et al. (2022) において,所得別 の国のグループに適用されている. 中所得国では転換が加速している  ほとんどの中所得国でも人口構成の変化はかなり進展してい る.最大の人口を擁する中国では,その人口は減少し始めて いる.世界第 2 位の人口を抱えるインドでは今世紀半ば以降, 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 71 人口の減少が始まると予測されている.広範囲にわたる中所得 図 3.5 高所得国では高齢者の数は増加している一方で, 生産年齢の人の数は減少している 国で出生率は急落しつつある.現時点で,置換率を下回ってい る諸国もある(図 3.7).このようは変化は過去よりもはるかに 800 速いペースで起こりつつある.イギリスでは,出生率は 1800 700 年における女性 1 人当たり 5.5 人から,1975 年には 2.0 人 600 へと低下し,その期間は 175 年間であった.しかし,インド 500 総人口 の出生率(女性 1 人当たりの子供数)が 1964 年における 6.0 ( 億人) 400 人から 2022 年における 2.01 人に低下するまでの期間は 60 10 年より短かった.同じ期間内に,チュニジアでは 7.0 人から 300 2.06 人に低下し,マレーシアでは 6.0 人から 1.8 人に低下し 200 た. 100  多くの上位中所得国は豊かになる前に老いてしまうかもし 0 れない 16.上位中所得国の人口に占める高齢者の割合 (図 3.8) 2022 2050 2022 2050 高齢者人口 生産年齢人口 は,2050 年までに 2 倍になると予想されている 17.上位中 (65 歳以上) (20 – 64 歳) 所得国では,生産年齢人口 –  (20  64 歳)の割合は 2014 年に ピークに達し,それ以降は減少してきている.下位中所得国で 出所:以下に基づく WDR 2023 チームによる計算―― the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 は 2050 年までにピークに達すると予測されている.依然と (dashboard), Population Division, Department of Economic and して中所得水準である一方で,労働力の減少を埋め合わせて, Social Affairs, United Nations, New York, https://population. 高齢人口の退職や介護に資金を融通することに努めている諸国 un.org/wpp/.これは,Hamadeh et al. (2022) において,所得 別の国のグループに適用されている. には相当な政策課題が立ちはだかっている.G20 グループに 属する新興国の間では,政策改革が行われなければ,高齢化は 図 3.6 2050 年までに高所得の OECD 加盟国では高齢者 2050 年までに公的債務負担を,平均では GDP の 130%押 1 人を支える生産年齢の人の数は 2 人未満になるだろう し上げることになるだろう 18. 高齢者(65 歳以上)に対する生産年齢者(20 – 64 歳以上)の割合 8 低所得国における急速な人口増加 高齢者数に対する生産年齢者数の割合 7  低所得国は継続する人口の爆発的増加という苦悩のなかにあ 6 る.ナイジェリアの人口は 1960 年における 300 万人から, 5 2020 年には 2,400 万人にまで増加した 19.同じ期間に,イ 4 エメンの人口は 500 万人から 3,000 万人に増加した 20.例 えばナイジェリアでは,出生率の水準が非常に高い状態が続い 3 ており,女性 1 人当たりの子供の数は 6 人以上である 21.先 2 行きを展望すると,サハラ以南アフリカ――ほとんどの低所得 1 国が位置している地域――は,2050 年以降も人口が増加を続 0 1950 1975 2000 2025 2050 ける唯一の地域であると予測されており,一方で,世界の他の 出所:以下に基づく WDR 2023 チームによる計算―― the 地域では人口は逓減するであろう(図 3.9).サハラ以南アフリ medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 カは今世紀半ばまで,5 歳未満の子供の人数が高齢者(65 歳以 (dashboard), Population Division, Department of Economic and 上)の人数を上回る唯一の地域であると予測されている. Social Affairs, United Nations, New York, https://population. un.org/wpp/.これは,Hamadeh et al. (2022) において,所得  移住がなければ,低所得国および下位中所得国は 2050 年 別の国のグループに適用されている. までに,これら諸国の生産年齢人口に 10 億 5,000 万人が加 注:OECD = 経済開発協力機構. わると予想されている 22.このような諸国の多くは,若くて 増加を続けている人口を吸収するのに必要な仕事を生み出すの に十分な速さでは成長しないであろう 23.これら諸国は,労 働市場に対する圧力を緩和し,若者に発展の機会を提供するた めの,追加的な仕組みが必要になるであろう. 72 世界開発報告 2023 図 3.7 中所得国において,女性 1 人が産む子供の数は急減しつつある 8 7 総出生率 6 (女性1人当たりの子供数) 5 4 3 置換率 2 1 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 ブラジル エジプト インド インドネシア マレーシア メキシコ 南アフリカ チュニジア トルコ 出所:以下に基づく WDR2023 チームの計算――medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/. 図 3.8 多くの上位中所得国で,高齢者の割合は高所得国で通常みられる水準に達しつつある 16 14 人口に占める高齢者の割合 12 10 8 6 4 (%) 2 0 上位 中国 モルドバ タイ ロシア アルバニア 高所得国 中所得国 出所 : 以下に基づく WDR2023 チームの計算――the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/, applied to country income groups in Hamadeh et al. (2022). 注:高齢者は 65 歳以上と定義されている. 発展,繁栄,そして移住の必要性  人口構成上の変化が労働者を求めるグローバルな競争に急速につながりつつある.高および中所得国では, 労働の必要性はかなりの規模となっている.低所得国は失業状態あるいは不完全雇用状態にある多くの若者 を抱えているが,グローバルな労働市場で需要のあるスキルを持っているのはそのうちのわずかである.各 国の間での労働の需給において生じている可能性のあるミスマッチは相当な規模である.発展ないし繁栄を 継続しようとするならば,ほとんどの国が難しい現実に直面しなければならない.  技術変化,労働力参加の増大,ナタリスト(産児増加)政策,そして年金改革などは,高および中所得国の 労働ニーズを満たすのに役立ちうるが,多くの場合,これらでは十分ではないだろう: 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 73  技術変化.オートメーションや技術革新は労働者の生産性 図 3.9 2050 年までに,サハラ以南アフリカは人口が 増加している唯一の地域になるであろう を改善し,したがって減少しつつある人数を埋め合わせる 8 ことができる.そのような変化は世界経済の大きな部分を 7 著しく変化させつつあるが,相当なニーズが依然として残 6 るであろう(ボックス 3.1). 総人口 5  労働力参加の増大.一部の諸国では,特に参加率が低く高 10 4 ( 億人) 齢化が進展している中所得国の女性に関して,労働力参加 3 を増加させることが可能である.例えば,イタリアや,ギ 2 リシャ,韓国は,自国の労働市場において女性の参加を増 1 やすことができる公算があろう.そうではあるものの,そ 0 1950 1975 2000 2025 2050 2075 2100 ういった変化の余地は,労働力参加率がすでに高い多くの 高所得国ではいくらか限定的であろう 24. サハラ以南アフリカ 世界のその他地域  ナタリスト(産児増加)政策.ナタリスト政策のインパクト 出所:以下を世界銀行の地域部ループに適用した WDR2023 は各国の間でさまざまであり,そして限定的である 25.人 チームの計算――the medium fertility scenario, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, 口減少はすでにかなり進展していることから,逆転は,仮 Department of Economic and Social Affairs, United Nations, にできるとしても,すぐに生じる可能性は低い.例えば, .un.org/wpp/. New York, https://population​ イタリアには 9 歳未満の少女が 240 万人いる.このよう な少女の各々が両親と同じくらいの規模の世代を築くこと になるには,3.3 人の子供を持つ必要があるだろう――これは現在の 1.3 人という出生率からは劇的な 増加である.同様に,出生率はタイでは 1.34 から 3.17 へ,韓国では 0.89 から 4.7 に上昇する必要が あるだろう.  年金改革.いくつかの国は退職年齢をすでに引き上げている,ないしは退職年齢の引き上げを検討してい (20  る.OECD に加盟している高所得国では,生産年齢人口 – 64 歳)の高齢人口に対する比率は 2022 年の時点で 2.9 であり,この値は 2050 年までに 1.85 にまで低下しそうである.2050 年時点でほぼ 同じ比率を維持しているためには,退職年齢は平均で 7 年引き上げる必要が生じるだろう.多くの西ヨー ロッパ諸国における退職年齢や福祉プログラムに関する改革案に対する現行の国民の反対は,それが容易 なプロセスではないことを示唆している 26.  多くの高所得国において,入国移住の増加は,人口構成での変化への対応策の一部でなければならないだ ろう.ドイツ政府の高官は繰り返し次のように述べている.ドイツ経済は多様なスキルを持つ 40 万人の外 国人労働者が毎年流入する必要がある 27.2019 年半ばから始まる 5 年間に 34 万 5,000 人の外国人労働 者を受け入れるという日本の決定も同じく,この国の切迫した労働ニーズを反映している.  移民のニーズは中所得国でも増大している.中所得国の多くはかつては移民の供給源であったが,出生率 の低下と急速な住民の高齢化によって,これらの国は外国人労働が必要になるだろう――仮に中所得国の国 民の一部が高所得国に出国移住し続けるとすると,なおさらそうなるであろう.例えば,マレーシア,メキ シコ,そしてトルコは移民の行き先国になりつつあり,移住しているのは,典型的には同じ地域内の所得が より低い諸国出身の移住者である.政策は,このような変化しつつある状況に適合する必要があるだろう. そのためには政策担当者と社会一般の視点がともに全体として変わる必要がある.  しかし,労働市場のニーズを満たすためには,移民は移住先社会の需要に適合するために必要とされるス キルや属性を持っていなければならない.このことは状況次第では取り組むべき課題であることが判明して いる.例えば,韓国は移民労働者を一時的に受け入れるプログラム――雇用許可制度――を立ち上げたが, 南および東南アジアからの申し込みは過剰供給であるにもかかわらず,2015 年には,埋めることができた のは,提示された求人数の半分のみであった 28.移住の機会は今後さらに増えるかもしれないが,移住先 国において需要のあるスキルを獲得することができるのは,移住を志望している人の中で限られた範囲の人 74 世界開発報告 2023 ボックス 3.1 技術は各国の間での労働市場のミスマッチを解決できるか?  オートメーションや技術革新は労働に対する需 要を転換させており,その過程は雇用の分極化に 図 B3.1.1 アメリカの雇用増加は若くて教育程度 の高くない労働者が従事している職業について多 つながっている a.オートメーションは体系化 [成 くなると予想されている 文化]やプログラム化が容易なルーチン業務にお 4.0 いて雇用されている労働をほぼ置き換えている. 3.5 (テラー) このような展開は銀行の窓口係 などのよ (2020― 年、百万人) うな一部の中程度のスキルを有する労働者に対す 3.0 予想される新規の雇用 る需要を削減している. 2.5  しかし,そのような展開は,機械では処理でき 30 2.0 ない業務を遂行するエンジニアや建設労働者な 1.5 ど,相対的に高スキルを有する労働者と低スキル 1.0 を有する労働者の両方に対する需要を増加させて いる.典型的には,非ルーチンの業務というのは, 0.5 分析的,創造的,対人的,あるいは肉体的な作業 0 である. い い い い 低 高 低 高 が が が が  技術の採用は,例えば農業や製造業における移 度 度 度 度 程 程 程 程 民労働の利用可能性にも左右されている.安価な 育 育 育 育 教 教 教 教 移民労働は企業が生産プロセスを自動化するイン センティブを低める.中国やアメリカでは,移民 40 歳未満 40 歳以上 労働の利用がより容易になると,企業はオート 出 所: 以 下 か ら の デ ー タ に 基 づ く WDR 2023 チ ー メーションの利用を減らして,労働集約的な生産 ム の 試 算 ――Employment Projections (dashboard), に切り替える.逆に,移民労働が稀少であること Bureau of Labor Statistics, US Department of Labor, Washington, DC, https://www.bls.gov/emp/, and 2019 は,企業のオートメーション化を誘発する.アメ one-year estimates from American Community Survey リカとメキシコの間の農業移住を取り決めたブラ (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https:// セロ・プログラムが 1964 年に打ち切られた際, www.census​ .gov/programs-surveys/acs. アメリカ企業は,それまでは移民労働に依存して 注: 新規の雇用の数は 800 種以上の職業において,各 人口統計値のカテゴリーに属する労働者が占めている いたトマトや綿花などの一部の作物の生産につい 現在の比率(百分率)に基づいて計算されている.また, て,機械化を増やす方針に切り替えた b. 計算においては,各々の職業の割合は一定に保たれて いると仮定している.  特に人工知能やロボット工学の分野における急 速な技術進歩は,自動化可能なものに関する最先 端を絶えず変化させている.今日において,大勢 の人を雇用しているいくつかの職業は今後の数十年間に自動化される可能性があろう.自動化は労働に対す る需要を転換させ,人々を自動化できない業務にさらに押しやるであろう――そのような業務の一部はまだ 存在していないかもしれない c.  しかし,自動化や技術革新は,高齢化が進行している諸国における,労働者に対する需要の増加を完全に 相殺することはできそうにない.住人の高齢化は,現時点では自動化が困難な対人サービスに対する需要を 生み出している.例えば,2020 年から 2030 年の間にアメリカで正味の増加が予想されている仕事の 3 分の 1 を占めている上位の 9 種類の職業はすべて食事サービス,医療,運送,あるいはソフトウェア開発に属し ており,このような仕事は容易には自動化されえない d.このような職業の多くは若くて,教育程度の高く (図 B3.1.1) ない労働者を必要とする .COVID-19 のパンデミックの期間にヨーロッパ委員会によってエッセン シャルであると特定された職業の多くも,移民労働に大きく依存している e.  COVID-19 のパンデミックはこの状況をどの程度変化させるだろうか? このことについて語るのは時期 (ボックス:次ページへ続く) 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 75 ボックス 3.1 技術は各国間の労働市場ミスマッチを解決できるか?(続き) 尚早かもしれない.パンデミックの期間に,多くの会社はテレワークに切り替え,そして必要とされるデジ タル・インフラへ相当な投資を行った.推定で,ヨーロッパの労働者の 30%,アメリカの労働者の 62%が 究極的にはリモートで行うことが可能な仕事に就いている.技術的な障壁が低くなることは,企業が低賃金 「テレ移民」 諸国でより多くの を採用することにつながる可能性があり,このことは,そうでなければ移住し ていたであろう人々に機会を提供することができよう.しかし,この可能性が,入国移民が従事しており, そして医療サービスや運送業などの物理的な存在が必要とされる多くの職業に対しては大きなインパクトを 与えることはなさそうである f. a. 技術変化が雇用や賃金の分極化に及ぼすインパクトに関する証拠については次を参照:utor, Levy, and Murnane (2003); Goos, Manning, and Salomons (2014); Michaels, Natraj, and Van Reenen (2014).レビューと総評については 次を参照:Autor (2015); World Bank (2012, 2016b). b. Clemens, Lewis, and Postel (2018). c. 例えば次を参照:Acemoglu and Restrepo (2020); Brynjolfsson and McAfee (2014); Graetz and Michaels (2018). d. 以下に基づく:2022 data of Occupational Outlook Handbook (portal), Office of Occupational Statistics and Employment Projections, Bureau of Labor Statistics, US Department of Labor, Washington, DC, https://www.bls. gov/ooh/. e. Fasani and Mazza (2020). f. Brenan (2020); Dingel and Neiman (2020); ILO (2020); Ottaviano, Peri, and Wright (2013). のみである.特に低所得国を中心に,各国は,移転可能で市場性のあるスキル開発を緊急に行う必要がある だろう. 気候変動:苦難の中での移動の新たなリスク  気候変動は人間社会に対して脅威を与えている.それは前例のないものであり,高まり続けている.地 球温暖化はすでに産業革命以前の水準を約 1℃上回る状態に達している.現行のペースが持続すると, 2030  – 50 年の間に 1.5℃高い水準に達するであろう 29.世界的な気温の上昇は,熱波や,旱魃,大雨,洪水, 嵐等を含む,世界全体でのより頻繁かつより厳しい異常気象の発生の一因になってきている.そのような災 害は数十年間にわたる開発の進展を逆転させる可能性がある.気候変動は,気温や降水のパターンの変化, 海水面の上昇,そして海洋の温暖化などのような徐々に生じる影響においても明白である 30.このような インパクトは健康や,所得,食料安全保障,水の供給,全体的な人間の安全保障などの広範な成果について, 開発面で影響を与えていることが示されている 31.世界人口の約 40%――約 35 億人――がすでに気候変 動に非常に脆弱な場所に住んでいる 32.  気候変動は移動性の増大しつつある動因として顕在化してきている(図 3.10).気候のインパクトは,一 部の地域の居住適性そのものや所得生産性に影響を与える.しかし,気候がもたらす影響は,貧困,人口構 成,政治的不安定性などの,移動性の他の要因から切り離せることは稀である.多くの人々は,気候変動だ けではなく,気候の影響が悪化させている諸要因の組み合わせを理由として移住している.気候のインパク トは多くの場合に,循環的移動や,季節的移動,農村部から都市部への移動などの既存の移動のパターンを 強めている 33.  気候変動はすでに突発的に,およびゆっくりと生じる影響の両方を通じて国内移住を加速しつつある.こ のような影響は時間の経過とともに増大すると予想されている 34.突発的に生じる極端な気象現象は過去 15 年間の間に 3 億人以上を国内で強制避難させている 35.2022 年にはアジアで最近において繰り返し生 76 世界開発報告 2023 図 3.10 気候変動は所得と居住適性を通じて移住に影響を及ぼす 所得の減少 国内移動 気温上昇 既存の圧力の 海面上昇 増大 降水 居住適性へ 越境移動 極端な事象 の脅威 出所:WDR 2023 チーム. じている退去が記録された.熱帯性サイクロンや,モンスーン雨,洪水などが,何百万人もの人々の居所となっ ている無防備の地帯に打撃を与えている 36.ゆっくりと生じる気候の影響も,大規模な移動の引き金となって おり,なかでも特に水ストレスや海面上昇を理由として,一国内で人々が住む場所が再形成されつつある 37. 途上国全体における気候関連の国内移住に関する 2050 年の予測では,気候,人口構成,および開発に関す るさまざまなシナリオの下で移住をする人の数の範囲は 4,400 万人から 2 億 1,600 万人に達する 38.  気候変動は移住者の特徴,スキル,そして人的資本などにも影響を与える.例えば,気候変動は困窮[苦 難の中での]移動の増加につながりうる 39.また,気候は男性と女性に対して異なる影響を与え,したがっ てその影響は移動性にも及ぶ 40.しかし,一部の人々は移動をする資力を欠いていることが理由で,移動 できないかもしれない.そしてさらに,気候変動は実際に,移動できない人たち,特に危険にさらされてい る地帯に住んでいる貧しい世帯をより一層貧しくし 42,その場所に閉じ込めてしまうこともあるかもしれ ない 41.最後に,例えば,水不足という事態を相次いで経験している農村地帯出身の移民は,他の移民と 比べて持っているスキルが低い.特にブラジルや,インドネシア,メキシコなど,移住が頼れる最後の選択 肢になる傾向がある国ではそうである 43.  これまでのところ,気候関連の越境移動は,国内移動よりも小さな規模で発生している 44.越境移動は, (ディア 発生する場合,典型的には近隣諸国の間で,ないしは,労働移住にかかわる協定がある,海外在住者 の間に強固なネットワークがある,あるいは長年にわたる経済的および文化的な結び付きがある諸国 スポラ) の間で生じている 45.例えば,中央アメリカないしカリブからアメリカ合衆国への移住は気候災害の後,特 にアメリカ合衆国の入国移民が多い国からの移住が増加している 46.出身国において気候変動にうまく適応 することができない場合,一部の人は困窮状態の下で出身国を離れなければならない 47. (ボックス 3.2) 農村部における生産性と所得の低下  気温の上昇と降水の予測不可能性の高まりは生産性や農村所得の持続可能性,したがって移住のパターン に影響を及ぼしている 48.例えば, 降雨のない時期が繰り返し生じることは農業の生産と所得に影響を与え, 貧困の増加につながる.時間の経過とともに,同じ場所で適応する,あるいは国内で移動する,という選択 肢が使いつくされてしまい,一部の人たちは国境をまたいで移住することを選択している 49.そのような パターンは,複合的な気候の影響にさらされており,さらに所得が気候パターンに大きく依存し,適応能力 が限定的な諸国ではとりわけ目立っている 50.例えば,パナマからメキシコ南部にかけて広がってる 「中米 乾燥回廊」では,降雨が減少し,雨期が変化したことによって,1950 年代以降,特に小規模農家にとっては, 天水による自給自足農業や,所得,食料安全保障が徐々に制約されてきている 51.他の選択肢が利用可能 でない場合には,一部の世帯はいくつかのリスク管理戦略の 1 つとしてアメリカへの移住を使ってきてい る 52.  たとえ適応策をとったとしても,特定の地域は,[温室効果ガスの]排出が多い状態が続くというシナリオ の下では最終的に食料生産に適さなくなる可能性がある 53.事実,一部の雨林,沿岸湿地帯,そして亜寒 帯や山岳の生態系などを含め,一部の自然のシステムはすでに限界に達している.このことには,生存や, 資源,所得などのためにそのような地域の生態系に依存してきた人々にとって劇的な結末を伴っている 54. 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 77 ボックス 3.2 サハラ以南アフリカにおける移住の複合的な動因  移住のさまざまな動因を独立的に分析すること はできない.貧困,国家の脆弱性,人口の増加, 図 B3.2.1 移動の動因の絡み合い そして気候変動は多くの場合に互いを強め合って (図 B3.2.1) いる. .もし気候がたもたらす影響が 天然資源を枯渇させれば,貧困が増加する.仮に 貧困 人口が急増しているならば,貧困の状況は一層悪 化する a.加えて,さまざまな集団が少なくなり つつある資源を巡って競争しなければならないか もしれず,このことは社会的な緊張や暴力を助長 気候変動 人口増加 し,貧困をいっそう悪化させうる.諸要因のこの ような組み合わせは,人々により良い場所を求め て,国内的に,あるいは必要な資源を動因できる 国の脆弱性 場合には国際的に,移動することを強いる可能性 がある.諸動因とその相互作用の両方が,結果と しての状況を決定する. 出所:WDR 2023 チーム.  サハラ以南アフリカは,各側面に加わる圧力の (地図 B3.2.1) すべてに同時に直面している .当地域は 1 人当たり GDP の平均が世界で最も低く,人口の増加 が最も速く,脆弱で紛争の影響を受けている国の数が最も多く,そして気候変動に対して脆弱である.人口 は現在における 12 億人から,2050 年には 25 億人へと増加すると予想されている b.1961 年以降,気候変 動はそれだけで農業生産性の成長における 34%もの低下につながっており c,このことには食料の安全保障 に関する深刻な結末が伴っている d.全諸国のほぼ半数が紛争あるいは制度的な脆弱性から影響を受けてい る.その結果,サハラ以南アフリカは,この先の数十年間にわたって出国移住が継続しそうであり,そして, その一部は苦難の中での移動となるだろう.  サヘル地域は取り組むべき課題を例証している.ブルキナファソ,チャド,マリ,モーリタニア,そして ニジェールは世界でも最も貧しい諸国の部類に属している.これらの国の出生率は世界全体で最も高い部類 に含まれ――2020 年時点で女性 1 人につき約 6 人の出生――,人口は 22 年毎に倍増している.このことと (ボックス:次ページへ続く) 居住適性に対する脅威  2050 年までには沿岸気候がもたらす影響を受けるリスクのある低地の都市や開拓地に,10 億人以上が 住んでいる 55.世界の海水面は 1900 年以降,すでに 0.20 メートル上昇しており,上昇の速さは 1960 年代後半以降は加速している 56.海岸侵食,沿岸陸地の浸水,沿岸の生息地や生態系の損失,そして塩化 などは,高潮や,洪水,その他の異常気象事象によって増強されており,ますます大勢の人々をリスクにさ らしつつある.グローバルには,温暖化の程度や社会経済的な発展の軌道に依存して,沿岸インフラ資産の 7  – 14 兆ドル相当が 2100 年までにリスクにさらされる可能性がある 57.都市部と農村部の両方における 人口密度の高い地域を含め,南アジアおよび東南アジアに広がる広大な沿岸地帯はすでにリスクにさらされ ている 58.  高度に危険にさらされている沿岸地域から離れる計画的な移転プログラムを実施し始めた政府もあり,そ ういった対応策がとられる頻度は高まりつつある 59.  小島嶼開発途上国は最も脅かされている地域に含まれている.このような諸国では,海面は最悪のシナリ オでは 2050 年までに 0.15  – 0.40 メートル上昇し 60,インド洋や太平洋の島々の多くでは洪水の頻度が 倍増し,淡水の供給不足が悪化すると予測されている.一部の低地の太平洋環礁は 1.5℃の温暖化でさえ, 78 世界開発報告 2023 (続き) ボックス 3.2 サハラ以南アフリカにおける移住の複合的な動因 地図 B3.2.1 サハラ以南アフリカは複合的な脆弱性にさらされている a. 1 人当たり GCP b. 総出生率 国際的ドル 女性 1 人当たり (2017 年 PPP) 子供数(予測) 705 6.95 115,684 IBRD 46668 | 1.11 IBRD 46666 | データ無し APRIL 2023 データ無し APRIL 2023 c. 国家の脆弱性 d. 気候に対する脆弱性 NG-GAIN エクス ポージャー点数 (高得点=高エクス ポージャー) 0.72 脆弱な紛争 影響地域 紛争強度高い 紛争強度中程度 IBRD 46669 | 0.24 IBRD 46667 | 高い制度的社会的脆弱性 APRIL 2023 データ無し APRIL 2023 出所:パネル a:World Bank 2019.パネル b:projections for 2015–20, World Population Prospects 2022 (dashboard), Population /wpp/.パネル c:World Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org​ Bank 2022.パネル d:2020 data of University of Notre Dame Global Adaptation Initiative (dashboard), University of Notre Dame, Notre Dame, IN, https://gain.nd.edu/our-work/country-index/. 注:GDP = 国民総生産;ND-GAIN = ノートルダム世界適応イニシアチブ;PPP = 購買力平価. 同時に,この地域の気候に対する永続的な脆弱性は気温の上昇によって悪化してきている.気候変動は移牧ルートを混乱さ せており e,牧畜民と農民の衝突につながってきている f.チャドやニジェールにおける暴力に加えて,マリやブルキナファ この地域は深刻な脆弱性の時期を経験している. ソでは紛争が発生しており, マリでは 2020 年と 21 年にクーデターが起こり, ブルキナファソは 2022 年だけでそれを 2 回経験した.数百万人が避難を強いられ,その中の約 100 万人はこの地域内の難 民であり,300 万人超は国内で避難を強いられた人たちである g.その他の多くは対処戦略として,この地域内,あるいは EU へ向かうかのいずれかで,非正規の,そして時には苦難の中での移動を始めている.今後,移住を管理することになる場 合には,この地域の多くの脆弱性は,開発に向けた包括的な努力を通じて取り組まれる必要がある. a. World Bank (2010). b. World Population Prospects 2022 (dashboard), Population Division, Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York, https://population.un.org/wpp/. c. WMO (2022). d. IPC Mapping Tool, Integrated Food Security Phase Classification, Rome, https://www.ipcinfo.org/. Liehr, Drees, and Hummel (2016). e.  f. Benjaminsen (2012); Benjaminsen and Ba (2009); Heinrigs (2010); McGuirk and Nunn (2020); Rigaud et al. (2021); Werz and Conley (2012). g. R4Sahel Coordination Platform for Forced Displacements in Sahel, United Nations High Commissioner for Refugees, Geneva, https:// data.unhcr.org/en/situations/sahelcrisis. 3 展望:傾向,必要性,およびリスクは変化している 79 地図 3.1 人々が屋外で働ける地域は縮小しつつある 2050 年までに熱指数(HI)が 35℃を超える日数の変化 a. 楽観的シナリオ b. 危険なシナリオ 一年間で HI > 35℃となる日数 一年間で HI > 35℃となる日数 0 25 50 75 100 125 150 0 25 50 75 100 125 150 .­ 出所:2022 data, Climate Change Knowledge Portal, World Bank, Washington, DC, https://climateknowledgeportal​worldbank.org/. 注:地図は,気候変動に関する政府間パネルによる 2 つの気候シナリオ (IPCC 2021, 2022a)の下で,今世紀半ばまでに熱指数 (HI) が 35℃を 超える日数の変化 (1995 – 2014 年の基準期間との対比)を示す.パネル a はパリ協定の目標が達成されるシナリオ (Shared Socioeconomic Pathway 1-1-9)に対応し,パネル b は排出が 2100 年までに現行の水準の約 2 倍になるシナリオ (Shared Socioeconomic Pathway 3-7-0)に対 応している. 部分的ないしは完全に浸水してしまう可能性がある 61.キリバスでは,12 万の人口の半分が,気温上昇に伴っ て水没するリスクがあるタラワ島に居住している.気候変動は漁業や観光業などの基幹経済部門の重要な支 えである陸上生態系や海洋生態系にもストレスを与え続けている 62.  沿岸や標高の低い地域の枠を越えて,気候変動はアフリカや,アジア,ラテンアメリカの全体における広 大な地域の居住適性に影響を与えてもいる.何百万人という人々がすでに深刻な食料供給不安や水の安全保 障の低下にさらされている 63.人間の罹病率と死亡率は,猛暑の発生,都市における大気汚染の悪化,気 候感応型の疾病――食品媒介,水媒介,あるいは病原体媒介のいずれかによる――の発生率の増加などの結 果として上昇しつつある 64.低・中所得国の全体を通じて大勢の人々が都市部に移動しつつあるまさにそ の時期に 66,一部の都市ではすでに水不足に直面している 65. 南アジアや,熱帯性サハラ以南アフリカ, ラテンアメリカの一部の地域では,気候変動は人々が屋外で働く能力を低めると予想されており,経済・社 会的に大きなインパクトをもたらすであろう (地図 3.1)67. リスク  気候変動は苦難の中での大規模な越境移動につながる可能性がある.これが発生する程度は大体において グローバルおよび各国の両方のレベルで今日において採択され,そして実施されている政策に依存すること になるであろう.  気候緩和.世界は,パリ協定の 2℃という目標を達成する軌道に乗ってはいない.依然として今世紀末ま でに 2.8℃の温暖化が生じるという方向に向かっている 68.将来における気候変動インパクトの厳しさは, 短期の間に国際的な集団的措置が地球温暖化をどの程度抑制できるか次第である 69.自然や人間のシス テムがさらされるリスクは,温暖化が進行する毎に著しく増加する 70.さらに,気候変動の過去のパター ンは将来的なインパクトを十分には予測しないかもしれない.地球温暖化が特定のレベルを超えた先には 転換点があり,そこでは,これまでに経験したことのない暴走的な影響が生じる 71.  気候適応.脆弱な諸国が強靭性を構築し,気候変動に適応できる程度は,大体において適切なファイナン ス手段の利用可能性に依存している.豊富な資源を有する沿岸地帯にある都市地域の一部は,工学的な 80 世界開発報告 2023 プロジェクトを実施し,そして海面上昇などの事態に対して自らを守る必要があろう.対照的に,貧しい 農村部にとっては適応はより困難かもしれず,退去や移住を行う可能性はより高くなるだろう 72.2022 年に開催された国連気候変動枠組み条約第 27 回締約国会議は,気候変動の悪影響に関連した損失と損害 のためのグローバルな基金に関して歴史的な合意に達した.これは各国が適応能力を高めるのを助けるた めの集団的行動の有望な実例である.  移住と保護の政策.移住は気候変動に対する幅広い対応の極めて重要な一部になりうる.しかし,それは 移住先国側の移住政策に依存することになるだろう 73.最もむずかしい問題は,気候変動が移動の他の 動因に及ぼしている影響の強まりによって移住が部分的に促されている人たちの一部がある種の国際的 [移民が] な保護を受けるべきか否かにある.これは, 持ち込むスキルや属性が移住先国の需要に適合して いる程度が低い移民にとっては,特に直接的な関連がある.この問題に包括的に取り組んでいる国際的な 法的枠組みは存在しない.そのような人は,迫害あるいは紛争から逃れる過程にある難民のための国際 的な保護というすでに拡大解釈されている制度の適用対象には含まれていない.一部の移住先[受け入れ] 国は,1998 年のハリケーン・ミッチの後にアメリカがホンジュラスに対して提供した保護のように,臨 時の保護を採用ないし適用している 74.小島嶼開発途上国の状況も国際的な対応を求めているかもしれ ない.このような移住の一部について,必要性と困難な状況下にあるという両方の特質を反映させている 包括的なアプローチが緊急に必要とされている. 注 1. Morland (2019, chap. 2). いは確定拠出型なのか,自動調整の仕組みを採用して 2. World Population Prospects 2022 (dashboard), いるか). Population Division, Department of Economic and 13. OECD (2019, figure 2.3); Rouzet et al. (2019). Social Affairs, United Nations, New York, https:// 14. Rouzet et al. (2019). population​ .un.org/wpp/. 15. この計算は,Heer, Polito, and Wickens (2020) の 3. UN DESA (2022). calibrated overlapping generation life-cycle model に準 4. UN DESA (2019). 拠している.以下も参照:Naumann (2014). 5. World Population Prospects 2022 (dashboard), 16. Johnston (2021); World Bank (2016a). Population Division, Department of Economic and 17. World Population Prospects 2022 (dashboard), Social Affairs, United Nations, New York, https:// Population Division, Department of Economic and population​ .un.org/wpp/. Social Affairs, United Nations, New York, https:// 6. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 18. Rouzet et al. (2019). Social Affairs, United Nations, New York, https:// 19. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 7. World Population Prospects 2022 (dashboard), Social Affairs, United Nations, New York, https:// Population Division, Department of Economic and population​ .un.org/wpp/. Social Affairs, United Nations, New York, https:// 20. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 8. Michel and Ecarnot (2020). Social Affairs, United Nations, New York, https:// 9. World Population Prospects 2022 (dashboard), population​ .un.org/wpp/. Population Division, Department of Economic and 21. “Fertility Rate, Total (Births per Woman): Niger,” Social Affairs, United Nations, New York, https:// World Bank, Washington, DC, https://data.worldbank. population​ .un.org/wpp/. /­ org​ indicator/SP.DYN.TFRT.IN?locations=NE. 10. See Jones and Seitani (2019). 22. 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(2019); Hoffmann et al. (2020); Šedová, Čizmaziová, and Cook (2021). 29. IPCC (2018). 51. 次を参照:Hannah et al. (2017).乾燥回廊は気候関連 30. IPCC (2018, 4); WMO (2022, 32). の移住や退去の影響を受けやすい地帯 [回廊] の 1 つで 31. Clement et al. (2021, 2); Hallegatte, Rentschler, and ある.近年は,社会や,政治,紛争,暴力,経済など Rozenberg (2020); IPCC (2022b). による動因と相互作用している旱魃や,熱帯性の嵐や 32. Global Internal Displacement Database, Internal ハリケーン,大雨や洪水の組み合わさりが理由で,そ Displacement Monitoring Centre, Geneva, https:// のような移住や退去は増加してきている.次を参照 www​ .internal-displacement.org/database/ Bouroncle et al. (2017); Castellanos et al. (2022); Donatti displacement​ -data. et al. (2019). 33. Black, Kniveton, and Schmidt-Verkerk (2011); Black et 52. Bermeo and Leblang (2021); Bouroncle et al. (2017); al. (2011); McLeman (2016). Donatti et al. (2019); Gray and Bilsborrow (2013); Koubi 34. IDMC (2021, 88); Rigaud et al. (2018, 1). et al. (2016); Milan and Ruano (2014); Nawrotzki et al. 35. 2008 – 21 年における新たな退去者である 4 億 5,360 (2016); Thiede, Gray, and Mueller (2016). 万人の中で,3 億 4,230 万人は災害が理由であり,ま 53. Bezner Kerr et al. (2022, 725). た,1 億 1,130 万人は紛争や暴力が理由であった.災 54. IPCC (2019, 235) を参照.いくつかの環礁島は海面上昇, 害によって退去した人の中で 3 億 560 万人は気候関連 およびこのことに乾燥度の上昇と 1.5℃の温暖化に伴う の災害が理由であった.気候関連災害に含まれるのは 淡水入手可能性の低下が組み合わさって居住に適さな 異常気温,洪水,嵐,野火,旱魃,そして地滑りなど くなる可能性がある. である.国内避難は居住している国内での人々の強制 55. Dodman et al. (2022). 移動を指す.国内避難は所与の期間 (報告年) 全体にお 56. IPCC (2021, 291). ける国内避難者数の推定値を指す.このデータは一度 以上避難させられている人を含んでいる場合もある. 57. Dodman et al. (2022). 次を参照:Global Internal Displacement Database, 58. Lincke and Hinkel (2021). Internal Displacement Monitoring Centre, Geneva, 59. Cissé et al. (2022); IPCC (2022a, 1117; 2022b, 25). https://www​ .internal-displacement.org/database/ 60. Mycoo et al. (2022). displacement​ -data. 61. IPCC (2018). 36. IDMC (2022, 27). 62. Clement et al. (2021, 228). 37. Clement et al. (2021, xxiv); Rigaud et al. (2018, chap. 4). 63. IPCC (2022a). 38. Clement et al. (2021, xxvii). 64. IPCC (2022b, 11). 39. Hornbeck (2020). 65. Tuholske et al. (2021). 40. 詳細はスポットライト 4 を参照.以下も参照:Gray 66. Dodman et al. (2022). and Bilsborrow (2013); Holland et al. (2017); Lama, Hamza, and Wester (2021); Miletto et al. (2017); Rigaud 67. Bezner Kerr et al. (2022, 797); de Lima et al. (2021); et al. (2018, 36); Šedová, Čizmaziová, and Cook (2021). Foster et al. (2021). 41. Cattaneo et al. (2019); Hoffmann et al. (2020); Šedová, 68. UNEP (2022, xvi). Čizmaziová, and Cook (2021). 69. IPCC (2022c, 17). 42. Leichenko and Silva (2014). 70. IPCC (2018, chap. 3; 2022b, 14). 43. Barrios Puente, Perez, and Gitter (2016); Riosmena, 71. Hoffmann et al. (2020); Šedová, Čizmaziová, and Cook Nawrotzki, and Hunter (2018); Zaveri et al. (2021). (2021). 44. Cissé et al. (2022, 1080). 72. Glavovic et al. (2022). 45. Cissé et al. (2022, 1080). 73. Benveniste, Oppenheimer, and Fleurbaey (2020); 46. Andrade Afonso (2011); Mahajan and Yang (2020); McLeman (2019); Obokata, Veronis, and McLeman Spencer and Urquhart (2018). (2014). 47. Cattaneo and Peri (2016); IPCC (2022a, 1053); McLeman 74. Paoletti (2023). 82 世界開発報告 2023 参考文献 Abel, Guy J., Raya Muttarak, and Fabian Stephany. 2022. Bouroncle, Claudia, Pablo Imbach, Beatriz Rodríguez- “Climatic Shocks and Internal Migration: Evidence from 442 Sánchez, Claudia Medellín, Armando Martinez-Valle, and Million Personal Records in 64 Countries.” Water Global Peter Läderach. 2017. “Mapping Climate Change Adaptive Practice, World Bank, Washington, DC. Capacity and Vulnerability of Smallholder Agricultural Acemoglu, Daron, and Pascual Restrepo. 2020. “Robots and Livelihoods in Central America: Ranking and Descriptive Jobs: Evidence from US Labor Markets.” Journal of Political Approaches to Support Adaptation Strategies.” Climatic Economy 128 (6): 2188–2244. Change 141 (1): 123–37. 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[無作為抽選の場合,]移住(ビザを取得)し た人たちの平均的な特徴はそうしなかった人たちと似ている.したがって,数年後の貧困水準など,それ ぞれの 状況の相違は移住の影響に帰することができる.このようなア [移住に関わる選択の結果としての] プローチが以下のような移住に関する研究のために利用された:トンガからニュージーランドへの恒久的 な移住 2;バングラデシュからマレーシアへの一時的な労働移住 3;湾岸協会議 (GCC)加盟国における接 客業に興味のあるインド人労働者を対象とするランダム化比較試験におけるスキル訓練と就職斡旋 4.  移住者と非移住者の間での比較可能な結果における差異を測定.例えば,韓国は韓国語テストの得点が ある一定の閾値を上回った移住者にビザを交付した 5.閾値をわずかに上回った――そして移住した―― 人は,点数が閾値をわずかに下回った人とほぼ同等であり,比較可能であった.2 つのグループを比較 することによって,移住の影響を評価するための適切なベンチマークが得られる.同様のアプローチが, 移住先[受け入れ]国の政策の変更 6 あるいは送金の交換レートにおける変動 7 などに由来する,移住の機 会の予期されていなかった変更に適用された.そのような場合,影響の小さかった人は,影響の大きかっ た人のベンチマークとして機能しうる.  移住の影響をその他の要因の影響から切り離すために,移住者と非移住者の特性に関する入手可能なデー タを利用.例えば,教育,年齢,出生地,家族構成,およびデータが入手可能なその他の特徴が同じ個 人――移住者と非移住者の両方――は,比較が可能である.しかし,そのような比較の解釈は困難である. というのは,一部の重要な要因――動機あるいは企業家的な精神など――は観察や定量化が難しいから だ.それ故,結果を解釈する際には,生じる可能性のあるバイアスを考慮に入れなければならない 8. 社会  移民の出身社会と移住先社会の両方に対する移住のインパクトを検証する場合にも同じ困難さが当てはま る.疑問は次の通り同様である:特定の影響のどの程度が移住に帰せられるのか? 例えば,大勢の移民を 受け入れている地域が他地域よりも経済的に好調な場合,それは移住者の貢献が理由だろうか? あるいは それは逆かもしれない――移住者はすでに景気がよくなっている地域に主に向かった.  原則として,そのような疑問には,移住先(ないし移住者の出身)コミュニティにおける結果としての状況 を移住の影響を受けていない同じようなコミュニティと比較することによって対処することができるだろ う.しかし,そのような同じようなコミュニティが存在することは稀である.移民を受け入れる社会ないし コミュニティは,受け入れていない社会やコミュニティと比較して,移民(ないし移民の出身コミュニティ) と強固な社会文化的あるいは歴史的な絆を持っている,または景気が上向いている状態の経済を有している 移民の出身元のコミュニティは, かもしれない.同じく, 経済状況や移住先となる可能性のある地域のコミュ ニティとのネットワークという点で,他のコミュニティとは違っているかもしれない.その移民の出身地, あるいはその移民の移住先にしている要因そのものが,移民がかかわっているコミュニティを他のコミュニ ティとは違うものにしている.  移住の影響を評価することが可能なベンチマークを構築するために,研究者はさまざまなアプローチを 使ってきている.そのアプローチとして以下があるが,これが全てではない.  移民や難民を領域内のさまざまな地域に無作為に定住させるという分散政策を実施した諸国から教訓を 導き出す.割り当てはランダムであったことから, 移住先コミュニティは,移民受け入れの候補地ではあっ たが結果的には割り当てられた移民はいなかった,あるいはごく少数であった他のコミュニティと比較す ることができる.デンマークやスウェーデンで採用された無作為分散政策は,入国移住のインパクトに関 88 世界開発報告 2023 する複合的な研究につながった 9.  突然の政策変更 ,経済的なショック,あるいは破滅的な気象事象など,特定の地 (例えば突然の帰化推進) 「自然実験」 域への移住を促進すると考えられる を頼りにする.影響力のあった初期の研究は賃金に対する –  入国移住の影響に関するものであり,それは 1980 年 4  10 月の期間におけるマイアミへのキューバ人 難民の突然の到着に基づいていた.その当時,キューバ政府は,国を離れることを望む人は誰でもそれを 行えるようにした (いわゆるマリエル難民事件)10.同種の研究が 1970 年代と 80 年代におけるユダヤ人 のソ連からイスラエルへの移住に関しても実施された.  一部の少数民族グループによる既存の定住パターンがある地域とそれがない地域とを比較する 11.入国 移民は同じ民族の世帯がすでに定住している地域に移住することがより多いようである.実際,この比 較研究は正確に実施される際には 12,移住がなければ経済面では類似していたであろうが,従来から存 在する[移民の]移住地の存在が理由で移民の異なる流入が生じている地域の間の比較を可能にする.こ –  のようなアプローチを適用したものとして,1910  30 年におけるアメリカ都市部へのヨーロッパ人の 移住がもたらした影響の評価や,シリア人難民の移住がトルコの労働市場へ与えた影響に関する研究が ある 13.  状況を経時的に追跡し,移民の多い地域が,移民がわずか,あるいは移民が存在しない地域とは異なる仕 方で推移しているか否かを評価する.より多くの移民を抱える地域は,データが入手可能な特性 (経済規 が類似している地域とも比較されるべきである.しかし, 模や,人口,主要な貿易センターとの距離など) 他の特性(統治の質や地理など)が,移住とは無関係に,状況や開発軌道における相違を部分的に説明でき る可能性も依然としてある.したがって,解釈をするに際してはそのような生じる可能性のある歪みを考 慮に入れるべきである. 注 1. 方法論に関するレビューについては McKenzie and and Hunt (2019) は Card (1990) と Borjas (2017) の発見 Yang (2022) を参照. における乖離に関して説明を提示している. Card (1990) 2. Gibson, McKenzie, and Stillman (2011). についてのさらなる議論は Angrist and Krueger (1999) と Peri and Yasenov (2019) にある 3. Mobarak, Sharif, and Shrestha (2021). 11. しばしば「シフト・シェア法」といわれているこのアイ 4. Gaikwad, Hanson, and Tóth (2021). デアの先駆的な応用に関しては Altonji and Card (1991) 5. Clemens and Tiongson (2017). を参照. 6. Clemens (2019); Dinkelman and Mariotti (2016). 12. このようなアプローチの方法論的な挑戦課題に関する 7. Yang (2008). 議論に関しては Goldsmith-Pinkham, Sorkin, and Swift 8. Clemens and Hunt (2019). (2020) および Jaeger, Ruist, and Stuhler (2018) を参照. 9. 例えば次を参照:Dahlberg, Edmark, and Lundqvist 13. 次を参照:Altındağ, Bakış, and Rozo (2020); Del Carpio (2012); Dustmann, Vasiljeva, and Damm (2019). and Wagner (2015); Tabellini (2020). 10. Card (1990).Borjas (2017) は Card の発見を修正した. Dustmann, Schönberg, and Stuhler (2016) と Clemens 方法論の考察 89 参考文献 Altındağ, Onur, Ozan Bakış, and Sandra Viviana Rozo. 2020. Dustmann, Christian, Uta Schönberg, and Jan Stuhler. 2016. “Blessing or Burden? 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Communities of Origin.” American Economic Journal: Applied Economics 8 (4): 1–35. 91 適合度が高い場合には 得られる利益は多くなる  移住先国で需要のあるスキルや属性を持ち込む場合,人々はその国の労働市場におけるギャップを埋める ことになり,移住先国の経済,移住者自身,および移住者の出身国に利益をもたらす.このような利益は, 移民の移動の動機,スキル水準,あるいは法的地位にかかわらず実現する.社会および経済の両面でコスト も発生するが,典型的にはそのようなコストは利益よりもずっと小さい.移民の出身国と移住先国の両方が, 利益をさらに増やし,マイナス面に対処する政策を設計および実施することができる.  このパート 2 では,経済移民や難民のスキルや属性が移住先国経済の労働ニーズに適合している場合, そのような移民や難民が移住先国の経済に与える影響に関する証拠を概観する.また,政策策定に有益な情 報を提供しうる各国の経験から得られた教訓も導き出す.  第 4 章では,移住を移民の視点からみる.移住は機会の拡大,賃金の上昇,そしてより良いサービスへ のアクセスといった仕方によって貧困を削減する強い力であることが示されている.移民が出身国に戻る場 合,多くの移民は同等の比較可能な非移民よりも良い生活を送っている.しかし,家族と離れていることや, 場合によっては社会的な孤立によって引き起こされる諸問題を含め,そこには取り組むべき挑戦課題もある. 一部の移民は自らが困窮状態や搾取される立場に陥っていることに気付く.移民の出身国による政策と移住 先国の政策の両方が利益を増やし,マイナス面を削減することに役立ちうる.  第 5 章では,移住が移民の出身国に及ぼすインパクトに注目する.実施された経済的な調査における鍵と なる発見は,移民が移住先国で成功する場合――移民が移住先国で需要のあるスキルや属性を持っている場合 ――,移民の出身国も利益を得るということである.多くの諸国において,出国移住は,送金や知識移転を通 じる場合を含め,貧困の削減や開発に貢献している.しかし場合によっては,特に小規模で貧しい国の場合に 高スキル者の出国移住――しばしば おいては, と言われている――はマイナスの影響を与えている. 「頭脳流出」 したがって,移民の出身国は開発面の効果を最大化するために移住を積極的に管理するべきである.  第 6 章では,移民の行き先[受け入れ]国から得られた発見や教訓を提示する.移住者は移住先国経済の 効率性と成長に,特に長期的には貢献し,著しい利益を生み出す.移民の移住先国の政策――どの移民に入 国を許可するか,そしてどのような地位を移民に与えるのか,の両方の決定――がこのような利益の規模を 大まかに決めることになる.しかし,移住者は単なる労働者ではなく,移住者の社会的統合という問題は時 には公開討論の鍵を握る部分になる.ここでも,成功は概して移住先国の政策次第である.  パート 2 には 3 つのスポットライトが含まれており,特に越境移動の全体的な影響に寄与する重要な問 題を取り上げている.スポットライト 4 は,ジェンダーにかかわる規範や,経済的参加,ジェンダーに基 づく暴力へのエクスポージャーを含め,越境移動のジェンダーにかかわる側面の一部に光を当てている.ス ポットライト 5 では,送金を推定することにおける挑戦課題を検討して,既存データを改善する必要があ ることを強調している.最後のスポットライト 6 では,人種主義や外国人嫌悪が移住の成果に及ぼす影響 を改めて検討している.  全体として,移住の潜在的な利益――移民の出身社会と移住先社会に加えて,移住者たち自身にとって― ―は,人々が需要のあるスキルや属性を持ち込む場合には相当に大きくなる.その利益は移民の本国と移住 先国の両方における熟考した政策策定によってさらに増大させることができる.それがこのパート 2 の鍵 となるメッセージである. 4 93 移民 繁栄をもたらす――権利を伴っていれば 効果はより一層高まる 重要なメッセージ  国際的な移住は,低・中所得国の人々にとって,貧困削減の強力な原動力であることが判明している. [受け入れ]  移民のスキルや属性が移住先 社会のニーズに高度に適合している場合,移住者は著しい利益を 得る(図 4.1).多くの移民は移住先国では出身国よりも高い賃金を稼得し,より良い公共サービスを享受 している.  労働市場への公式なアクセス――登録のある適法な地位,働く権利と雇用者を変更する権利,専門職の免 許や資格の承認,などを伴う――は移民にとってより良い成果につながる.  移住は多くの場合に,一方通行ではない.帰国移住は重要な現象である.自発的に帰国する移民は典型的 には出国移住する以前――および移住をしなかった人――よりもずっと良い生活を送る. 図 4.1 移民のスキルや属性が移住先社会のニーズに適合している場合,利益は大きい 高齢の アラブ イタリア人を介護している 首長国連邦に滞在して 書類のないアルバニア人 いるバングラデシュ人 シリコンバレーの 移民 労働者 インド人 エンジニア 高い 大勢の 行先国で需要のある 経済移民 スキルを有する 難民 適合度 大部分が非正規 である困窮移民 多くの難民 低い 移住先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 94 世界開発報告 2023 より高い賃金を得ている  移住は移住者が持っているスキルや属性が移住先社会のニーズに高度に適合している人々のほとんどに とっては,大幅な賃金上昇につながる.このような利益はしばしば出身国で達成できたであろう利益を,さ (図 4.2) らに,相対的により裕福な場所へ国内で移住する場合に得られる利益さえも上回る .利益は相当に 大きく,出身国で働いているある国の平均的な低スキル労働者が高所得国に移住することによって築く所得 を稼得にするには,現状の経済成長率では数十年間を要するであろう(図 4.3).そして,このような利益は 送金を通じて移住者の出身国の家族やコミュニティと共有される.大勢の移民とその家族にとって,所得の 増加は,生活条件の改善,貯蓄能力の高まり,それに,ビジネス,住居,教育,あるいは医療などへの投資 能力の高まりを意味する.  移住先国と移民の出身国の間における賃金のギャップが経済的移住の鍵となる原動力である.生活費の相 違を調整した後でさえ,カナダのトラック運転手はメキシコのトラック運転手の 5 倍以上を稼いでいる 1. ドイツの看護師はフィリピンの看護師よりも 7 倍近く多い所得を得ている 2.カナダの医師はザンビアの医 師より 20 倍,コートジボワールあるいはマラウイの医師より約 10 倍,南アフリカの医師より約 4 倍多い 稼ぎを得ている 3.実現する可能性のある所得の増加が最も大きいのは,低所得国から高所得国へ移住する 人たちである.  移住先における労働需要も成果を方向付ける 4.利益は移民のスキル,性別,年齢,および言語能力など に左右される.絶対的な増加は高スキル労働者の方が低スキル労働者よりも大きいものの,低スキル労働 者も所得の数倍の増加を経験する(図 4.4 のパネル 図 4.3 高所得国に移住した移住者と同じ経済的利 a).例えば,アメリカに移住する低スキルのイエ 益を移住していない人が本国において達成するに メン人やナイジェリア人の所得は約 15 倍増加する は,数十年間にわたる経済成長が必要 高所得国への移住者の経済的利益に一致するのに必要 とされる移住者の出身国の経済成長の持続年数 図 4.2 バングラデシュ,ガーナ,およびインドでは, 国際移住による所得の増加は国内移住の場合の数倍に 80 相当する 70 移住者の出身国で所得面で同等の 220 利益を得るために必要な年数 200 60 180 50 160 所得の増加 140 40 120 30 100 (%) 80 20 60 10 40 20 0 0 バングラデ ガーナ インド フィリピン バングラデシュ ガーナ インド シュ 国内移住 国際移住 出所 :WDR 2023 チームの試算.国際移住からの利益 出 所: 以 下 に 基 づ く WDR 2023 チ ー ム の 試 算 ――Akram, ――Clemens and Tiongson (2017); Gaikwad, Hanson, Chowdhury, and Mobarak (2017); Dercon, Krishnan, and and Tóth (2023); Gibson and McKenzie (2012); Mobarak, Krutikova (2013); Gaikwad, Hanson, and Tóth (2023); Gibson Sharif, and Shrestha (2021) .1 人当たり GDP――World and McKenzie (2012); Lagakos et al. (2020); Mobarak, Sharif, Development Indicators (dashboard), World Bank, and Shrestha (2021). Washington, DC, https://datatopics.worldbank.org/ 注:国際移住による所得増加は,ガーナからさまざまな諸 world​-development-indicators/. 国に向かった高スキル移民に関する調査に加えて,低スキ 注:成長の年数は,国際移住から得られる所得の増加を ル労働者のバングラデシュからマレーシア,およびインド (不変の国際的ドル 2002 – 21 年における 1 人当たり GDP から湾岸協力会議(GCC)諸国への移住から得られた実験的 に基づく) の年当たり増加の平均で割り算して算出され な証拠に基づく. ている. 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 95 図 4.4 低スキル移民にとっては,所得は移住先で著しく増加する a. 低スキル労働者の所得増加;移住回廊別 298 300 263 248 210 200 所得の増加 118 (%) 100 0 バングラデシュ — インド — インド — フィリピン — トンガ — マレーシア GCC アラブ首長国連邦 韓国 ニュージーランド 移住回廊 b. アメリカに移住する低スキル労働者の所得増加;移住者の出身国別 1,750 1,500 1,250 所得の増加 1,000 750 (%) 500 250 0 マ リ ク ュ ジ ト ア イ コ グ ラ ウ ンビイ オ イ キ エラ エ グ ア ニ ラジア ア ン ル ア シ ガシア ナ エジ ア イ リア コ トルナ カ レ ナ 共 コ ス コ ア ベ リカ 南 タン グ キ カ パ テマコ ン ペ カ エ デシン パ ズ カ ン イ ン ネ ド カ ト ン ボ ム ン ウ ルー ボ イチ ガ 和国 ン ズ カ ル ィ マ ハ ダ ス パール ベ ラ ル ル ネ イ プ ャ チ ド ン カ ッ メ リ タ ロ ア チ ア メ ア イ ブ ピ バ ヨ ビ ジ チ ア シ グ ピ ベ ー ン グ ダ ネ ン エ ー ゼ ー ン ナ メ オ フ パナ ネ ド ェ タ フ ニ ロ ラ イ リ ス リ ア エ ル リ ガ リ ラ ミ モ ラ ル ラ ジ イ ド 移住者の出身国 出所:パネル a:バングラデシュ –マレーシア:Mobarak, Sharif, and Shrestha (2021);インド –湾岸協力会議 (GCC) 加盟国: Gaikwad, Hanson, and Tóth (2023);インド –アラブ首長国連邦(UAE) :Clemens (2019);フィリピン – 韓国:Clemens and Tiongson (2017);トンガ –ニュージーランド:McKenzie, Stillman, and Gibson (2010).パネル b:Clemens, Montenegro, and Pritchett (2019). 注:パネル a では,所得の増加は実験的研究から得られている.所得の増加率[百分率]は国内通貨建ての比較を示している. 所得は典型的には PPP に関する調整は行われていない.というのは,ほとんどの支出は送金を通じて移住者の出身国で発生 し続け,場合によっては移住先国における必要経費は契約協定で賄われるからだ.インド – UAE 回廊についてのそのような 推定値は,UAE に滞在しているインド人移民労働者の所得の 85%はインドで支出されていることを示唆している.パネル b では,増加率は観察可能な特性について同等な低スキル男性労働者についての実質所得の増加として算定されている.た だし,観察不能な特性によって生じる可能性のある差異は調整されている. 96 世界開発報告 2023 5.低スキル労働者が達成する利益の増加は社会経済的な不平等が大きい社会からその (図 4.4 のパネル b) ような不平等が小さい社会や,低スキル労働者と高スキル労働者の間の賃金格差が小さい国へ移動した場合 の方が大きくなる 6. 金融面のコスト  所得の増加は時として移動の金融面のコストによって,特に低スキル者にとっては,部分的に相殺されて しまう 7.移民は出国前に,仲介業者に支払う求人情報やジョブ・マッチングの手数料から,規制遵守ない し書類作成(ビザ / 保証人,身体検査,機密情報取扱い適性検査など)にかかわる手数料,交通費,移民が支 出する必要がある出国前研修費にいたるまでのさまざまな必要経費を負担する.スキルが低い人の移住にお いては,このようなコストは労働者自身が負担し,したがって公正な採用の原則に違反している 8.このよ うなコストは契約の有効期間に応じて増加する傾向にあり,そのようなコストによって,多くの低スキル労 働者が移住機会から利益を得る能力が制限されている.信用面で制約のある若者や低スキル労働者は特に影 響を受けている.例えば,バングラデシュでは,移住のコストを半減すると,このような労働者の移住比率 は 29%上昇する 9.パキスタンでは,採用に関わる費用の 1%の増加は,送金額の 0.15%の減少に帰結し た 10.  移住のコストは一部の回廊に沿う場合は特に高い.なかでも,一部の GCC 加盟国に向かう南アジアの低 [その回廊に沿う移住のコストは] スキル労働者にとっては とりわけ高い.このようなコストは予測される所 得の 10 カ月分に相当する額にまで達することもありうる.ただし,このようなコストは回廊毎に大幅に異 なってもいる(図 4.5).移民の世帯はこのようなコストに充てる資金を資産の売却,あるいは非公式な貸し 手からの市場金利よりも高い金利での借り入れによって調達する傾向にある.それ故,このことによって移 民自身と移民の家族にとっての移住の経済的利益は著しく減少する.  一部の GCC 諸国に移住する低スキル移民が負担する高いコストは,直接的なコストだけでなく,移住者 を雇用者に結び付ける仲介業者への支払いも反映している.対照的に,東南アジアから韓国へ移住する際の コストは大幅に低い――低スキル労働者について予測される所得の約 1 カ月分であり,これは二国間の労 図 4.5 GCC 諸国に移住する南アジア人労働者は移住にかかわる最も高いコストの1つに直面する 12 10 (稼ぐのに要する月数) 8 コスト 6 4 2 0 ュ イ ア ア ア ン ド ン ド カ ン コ ム ム ル ル 出身国 シ リ ン ン ッ タ タ タ シ ピ ピ ン ナ ナ ド ー イ イ ガ ロ デ ス ス リ ア ラ ト ト オ ネ パ ィ リ ラ ク ル ベ ベ モ キ キ チ ド ネ フ ス エ グ ン ブ パ パ エ ン イ バ サウジ カタール クェート UAE スペイン 韓国 マレーシア 行き先国 アラビア 出 所: 以 下 に 基 づ く WDR 2023 チ ー ム の 試 算 ――World Bank KNOMAD migration cost database, https://www.knomad. /­ org​ data/recruitment-costs. 注:クウェート在住の調査対象となったスリランカ人労働者はすべて家事補助サービスに従事している女性であった.UAE = アラブ首長国連邦. 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 97 働協定,および採用の手数料を削減する政府主導の仕事斡旋[ジョブ・マッチング]サービスのおかげである. フィリピンなど一部の移民出身国は,移民は採用コストを自己負担しないということを指示しているが,そ の取り決めを執行する能力は限定されており,一部の移民労働者は給与の減額を通じて支払わされている. 人的資本の重要性  多くの移民は,自分のスキルや属性が移住先社会のニーズに適合している場合でさえ,所得の増加をすぐ には実現していない 11.移住する人々はしばしば,スキル,およびリスク許容度や,野心,企業家的な精 神などの個人的な特性という点で,出身国と移住先国における平均的な労働者とは異なっている.しかし, 移住者は,移住先の労働市場に平均的な賃金水準で参入するために必要とされる専門職認定資格,言語スキ ル,あるいは社会資本を欠いているかもしれない.その結果,多くの移民は少なくとも最初は,同じような 教育や専門的特性を有する移住先の国籍を持つ労働者よりも稼ぎが少なくなる 12.さまざまな高所得国に おいて,場所基盤型[配達員のように特定の場所で仕事を行う]のギグ・エコノミーでは移民が大きな割合を 占めている.場所基盤型のギグ・エコノミーには到着してすぐに容易に参入できるが 13,給与は低く,昇 進の見込みも限定的である 14.  一部の移民は職業ないしい専門性に関して格下げに直面する――すなわち,移住先国の外で授与された卒 業証書や資格証明書に相応な職業で働くことができない.相応の仕事で働けないというこのような状況は, 典型的には移民のスキルや属性と移住先の経済のニーズとの一致度を低める.このような「頭脳浪費」の程度 は,移民が受けた教育の質,および移民が取得した資格の転用可能性に依存する 15.一方で,移民が自身 のスキル水準以下の職業で働く期間が長くなると,スキルの損失はより大きくなり,追い付く際に直面する 困難はより一層大きくなる.移住や移民の労働市場へのアクセスを制限する政策を要因とする中断は,移住 者の人的資本をさらに減少させる.  しかし,時間の経過とともに,移民が仕事の内外で人的資本を取得することから,また,移住者のスキル や属性と移住先経済のニーズとの一致度が高まるにつれて,利益は次第に増加する 16.出国前に適切な準 備を行った移民は,このようなより多くの利益をより速く獲得する.アメリカでは,比較的低いレベルから 移住先での生活が始まる人たち――特に低所得国出身の人たち――は,アメリカ国民や高所得国出身の移 民との比較で,より速い賃金上昇と職業面での条件の改善を享受する 17.移民は労働力への参加を通じて, 新しいスキルを修得し,社会的ネットワークを構築する.そしてこのようなことは,所得を増やし,専門職 として昇進する門戸を開く.多くの移民は,特に当人の本国から授与された資格証明が十分には承認されな い,あるいは直接的な関連を持たない場合には,雇用されながら正式な訓練への投資を増やすであろう 18. このような機会は高いスキルを有する人が高所得国に移住する追加的な動機である 19.  移民の特定のニーズに適合させられている専用の政策は,移住者の労働市場への包摂を加速するのに役立 つ 20.移民のスキルや経験の承認,および認証は,移住者がどれだけ早く仕事を見付けるかや,経験する スキルの格下げの程度に影響を及ぼす.訓練は,特に仕事の明確な展望や,他の障害に的を絞った介入策と 組み合わさっている場合には,長期的にプラスの影響をもたらす 21.高所得国では,カウンセリングや賃 金補助金が有効であることが示されている 22. 権利の重要性  移住者が法的な権利や社会経済的な権利を持っている場合,当人の賃金や,雇用水準,仕事の質はより速 く上昇し,移住先国の国民と同じ状態に徐々に近づく 23.移民の利益――および貢献する能力――は,労 働市場の状況,および移民のスキルや属性の移住先経済に対する適合度の高さだけでなく,労働市場へのア クセスという点での,移住者に与えられる権利にも依存する 24.  滞在の確実な見通し,公式な仕事へのアクセス,および補完的な法的権利は,より良い労働市場の成果に とって極めて重要である.成功するために,移住者は,新しい言葉の学習,社会的および職業上のつながり の確立,あるいは実際的な価値のあるスキルの修得など,移住先国に固有な特定の投資を行う必要があるこ 98 世界開発報告 2023 とが多い.滞在の確実な見通しと雇用にかかわる法的な権利は,そういった投資への移住者のインセンティ ブを高める 25. 経済的な成果の一層の改善と密接な関連を有する 26. 帰化することは, 帰化することによって, (行政事務や資格を必要とするプロフェッション) 労働市場におけるより幅広い一連の職業 へアクセスするこ とが可能になり,さらに,帰化することには雇用者に対する肯定的なシグナル効果もある.加えて,帰化の 機会を与えられる人は,多くの場合に最も成功している移民グループの一員である.移住先経済に最善の寄 与をするためには,移民は,国内全体を移動する権利,銀行で口座を開設し,そして融資を得る権利,ある いは会社を設立する権利など,さまざまな補完的な権利を利用できる必要もある.移住者が法的地位や労働 市場へのアクセスをより早く取得するほど,労働市場における成果はより一層改善する 27.  書類のない移民は,たとえ当人のスキルや属性が移住先国で必要とされている場合でも,労働市場におい て他の移民よりも相当に悪い条件を経験する(図 4.6).そのような移民は,ほとんどの公式職にアクセスで きない.それは,書類を有していないことに気付かれることへの恐れ,あるいは必要とされる免許や資格証 非公式部門への格下げは賃金の低下や昇進の機会の減少を意味する. 明を有していないかのいずれかによる. 書類のない移民は,虐待を警察に通報する,あるいは法廷制度を利用する,ことを容易にはできないことか ら,搾取や不当な低給与支払いの対象になりやすい.出身国に帰国する際,書類のない移民は,書類を有し ていた移民との比較で,特に強制送還された場合には,状況は悪くなる 28.  書類のない移民はそれでも,本国に留まっていた場合に得たと予想される所得よりも高い所得を得るかも しれない.しかし,書類を有する移民の場合よりも増加幅は狭い.書類のない移民のための合法化プログラ ムは,アメリカとヨーロッパ諸国では,特に教育程度の高い人たちに対しては,賃金に対するプラス効果を 示している 29.コロンビアでは,2018 年におけるベネズエラ国籍の人の合法化は,移住者の所得の平均 で 35%の上昇,および公式雇用の平均で 10%の増加につながった 30.  移民の権利に関して盛んに論じられている側面は,雇用者を変更できる移民の権利である.一部の移民の 労働許可証は移民の方からは変更できない雇用者に結び付けられている.実例として,GCC 諸国における後 (カファラ) 援 制度がある.このような制度は,そのような雇用者に不釣り合いに大きな権力を与えており,そ 図 4.6 アメリカでは,移民の賃金はアメリカ国籍を有する人に近い――移民が書類を持っている場合 年齢別の収入;法的な状態別 3.1 2.9 時間当たり賃金 2.7 2.5 (対数) 2.3 2.1 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 年齢(年) アメリカ国籍を有する人 書類のある入国移民 書類のない入国移民 出 所:American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs- surveys/acs のデータを使った Borjas (2017) に基づく WDR 2023 チームの試算. 注:所得のプロフィールは,各年齢について,各法的地位を有している労働者の時間当たり賃金の平均を計算することによっ て作成されている.書類のない入国移民は Borjas (2017) で概要が示されている方法論に基づいて特定されている. 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 99 れが次には移民の賃金を押し下げ 31,そして他の虐待ないし 図 4.7 UAE では,移民労働者が雇用者を変更することを 可能にする改革の後には,契約更新の際に受け取る利益が 搾取的な労働条件につながる可能性もある 32. 増加するようになった  2020 年 の カ タ ー ル や 21 年 の サ ウ ジ ア ラ ビ ア な ど, 5 GCC 諸国の一部は,後援制度を緩和し始めている.このこ 改革発表日 契約に基づく利益の変化 とによって,移民の当初の契約の有効期限がひとたび切れた 際には,移民労働者は他の雇用者を探すことが可能になった. 0 そして,労働市場の柔軟性が高まり,労働者の福利が改善さ れた 33.一部の労働者が雇用者を変更することを可能にした UAE のかつての改革(2011 年)は,そのような変更のイン ‒5 パクトを明らかにした.改革が行われる以前には,当初の契 (%) 約を更新する労働者は賃金の 5%の削減を強制されていた. 改革が行われて以降は,更新前と同じか,それよりもやや ‒10 高い賃金で契約を更新することが可能となった 34 (図 4.7). 1 1 1 1 1 :M :M :M :M :M 09 10 11 12 13 追加的な改革が進展中であり,2021 年にはカタールにおい 20 20 20 20 20 契約更新日 て最低賃金制の導入が,22 年には UAE において移民労働 者のための失業保険制度の導入が行われた 35.ただし,この 出所:Naidu, Nyarko, and Wang 2016. ような新しい規則を完全に施行し,家事労働者を含め,全経 注:垂直線は改革の発表日を示す.契約による利益には契約で定 義されている所得と付加給付の両方が含まれている.M1= 第 1 月. 済部門を対象に含めるためには,行うべき多くのことが残っ ている.  移民の権利に関する問題はより幅広い移住の目的と区別して対処することはできない.移住政策と移住者 に付与される権利が既存の移民の成果を決定する.しかし,そのような政策や権利は,それは誰が,どこへ, どれくらい長く移住するかも大体において決定する 36.例えば,一部の移住先国の政策は,滞在し,そし て統合する意図を持って移住する高スキル者の移住を,直接的に,あるいは間接的に奨励している 37.他に, 低スキル労働者の一時的な移住を奨励している政策もある.さらに他の政策は事実上,労働者が非正規な経 路を通じて入国する不正なインセンティブを生み出している.それは,例えば,移住者の労働に対して需要 があるものの,正規のルートが存在しないという場合である.より広範な社会規範も役割を果たしうる(ボッ クス 4.1).移住先[受け入れ]国にとっての挑戦課題は,すでに国内に滞在している移民の地位を規制する 方法としてだけでなく,自国のニーズにより高度に適合する移動を奨励する手段として,移住政策に注目す ることであろう. 改善されたサービスへのアクセス 教育  世界全体では 600 万人以上の外国人留学生がいる.上位の行き先国はアメリカ,イギリス,そしてオー ストラリアであるが,それ以外の国で,フランスや,南アフリカ,UAE も特定地域出身の学生にとっての 重要な行き先国になっている(図 4.8).勉強をするために移住することによって,人々は出身国よりも多く の人的資本を修得することができる.  学生の移住はいくつかの仕方で移住する学生本人と移住先国の双方にとって有益でありうる.多くの諸国 が就労ビザへの容易なアクセスを提供し,卒業生に卒業後に就職先を見付けるための時間を与えていること から,一部の学生は学業を終えた後も滞在する.学生の移住先国の雇用者は,その国で授与されている高等 学位には馴染みがあるので,そのような学位を授与された留学生は同じ資格を有する移住先国の国民と同じ ような賃金を稼得できる 38.出身国に帰国した際には,海外へ留学した学生は出身国と留学先国との間の 経済的ないしその他の関係を促進するだけでなく,割増賃金を受け取ることもある 39.  多くの移民は,教育や医療に関わるより良い機会を含め,家族により良い将来を提供するために移住して 100 世界開発報告 2023 ボックス 4.1 より包摂的なジェンダー規範を求めて移住する:高度な教育を受けた女性の事例  働くため,あるいはより高度な教育を受けるために自らの意思で移住する,高等教育を受けた女性の移住 が増加しつつある.そのような女性は,ジェンダー間の格差が小さく,ジェンダー間の差別が少ない移住先 を好む傾向にある a.移住によって,このような女性は出身国における労働市場の障害を回避することが可 能になる.  高等教育を受けた女性が移住する傾向は,ジェンダー間の差別が中程度の諸国――移住の可能性と動機の (図 B4.1.1) 両方を持つ女性が所在している国――の出身者の間で最も高くなっている .対照的に,当人の本 国におけるジェンダー間の差別の水準にかかわらず,教育程度の低い女性が自ら移住する頻度はより低い. い 図 B4.1.1 高いスキルを有する女性の出国移住率はジェンダーに基づく差別が中程度の諸国で最も高い 60 50 高等教育を受けた女性に占める出国移民の割合 40 30 20 10 0 (%) ‒10 ‒20 20 40 60 80 100 「女性・ビジネス・法律」指数の得点 出所:World Bank (2022) and WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www. worldbank.org/wdr2023/data 基づく WDR 2023 チームの試算. 注:世界銀行の 「女性・ビジネス・法律」 (Women, Business and the Law)という指数は,女性のキャリアのさ まざまな局面の全体での経済機会へのアクセスに関する男女の間の法的な差異を測定したものである.得点 (1 – 100)は次の 8 つの指標に関する二者択一問題の集合に基づく:移動性,職場,給与,結婚,親子関係,企 業家的活動,資産,年金.図中の円の大きさは,各国において同じ指数値を有する高スキルの女性の出国移民 の総数に比例している.影付きの部分は 95%の信頼区間を示す.点線は高等教育を受けた女性の出国移住率が 0%である場合を示している. a. Ferrant and Tuccio (2015); Ruyssen and Salomone (2018). 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 101 いる 40.確かに,子供は移住から親よりも多くの利益を得る 図 4.8 留学生の行き先になっている国は世界のさまざま な地域から外国人留学生を引き付けている かもしれない 41.OECD に加盟しているヨーロッパ諸国では, 調査対象の行き先国における留学生の割合;出身国の地域別 親が海外生まれの子供は,平均で学校教育の年数が親よりも 1.3 年長い 42.アメリカでは,低所得の入国移民の子供たちは, オーストラリア フランス 同じ所得水準のアメリカ生まれの両親の子供たちよりも裕福に なっている可能性が高いようである 43.EU では,他の EU 諸 国生まれの両親の子供たちの上方への経済的流動性は,親が生 徒と同じ国の生まれである場合よりも同様により高い.ただし, 親が EU 圏外生まれの場合は,経済的流動性の上昇の程度はよ り低くなる 44.  教育政策は重要である.学校制度が,世代間の経済的および 社会的な移動性を促進し,異なる文化的および言語的な背景を 南アフリカ アラブ首長国連邦 持つ児童を受け入れ,そしてそのような児童に追加的な支援を 提供している場合,成果はより良くなる.移民の子供は,移住 先国の国籍を持つ子供が通っている学校と同質の学校を利用す ることもできるべきである 45.到着時点における子供の年齢 や新しい環境へ適応する能力も重要な役割を果たす.到着時点 での移民の子供がより若く,そして移住先国の環境が出身国に より近いほど,子供たちにとっては順応がより容易になる 46.  書類のない移民の子供たちは特殊な挑戦課題に直面する.そ イギリス アメリカ のような課題として,教育を利用することができない,ないし は質の低い教育しか利用できないといったことがある.アメリ カで移民法の施行が強化された際,書類のない移民の子供たち の間では,留年者や退学者の数が増加した 47.両親は書類を 持たない状態で滞在していることが発見されるのを恐れている ことから,このような子供たちが自身の英語のスキルを発達さ せることができる幼稚園に通う可能性は低いであろう 48.し かし,両親の地位がひとたび公認されれば,書類のない両親の 東アジア・太平洋 子供たちでも教育成果を改善することが可能となる 49. ヨーロッパ・北アメリカ ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 医療 南アジア  移民の健康の状態は,当人の労働や生活の条件,および医療 サハラ以南アフリカ ケアサービスへのアクセスに依存する.経済移民は比較的良い 出所:UIS.Stat (dashboard), Institute for Statistics, United Nations 健康状態で移住先国に到着する傾向にある 50.しかし,移住 Educational, Scientific, and Cultural Organization, Montreal, 者が貧弱な状況で生活する,あるいは医療サービスへのアクセ .unesco.org/ に基づく WDR 2023 チームの試算. http://data.uis​ スをほとんど持っていないならば,あるいは業務で負傷する公 算が大きい仕事に就いているならば,移民の健康と福利は時間 の経過とともに悪化に向かう 51.例えばヨーロッパでは,多くの移民は質が低い住居や公共サービスが不 十分な地域に住んでいる 52.イタリアやギリシャでは,移民の 3 人に 1 人以上が過密な住居で暮らしてい ると報告している.生活条件は一時的な移民にとっても挑戦課題である.GCC 諸国に滞在している多くの 労働者は,移住先の国籍を持つ人たちの居所からは遠く離れた,混み合った住宅地で生活している 53.  COVID-19 のパンデミックは医療制度へのアクセスの重要性を強調した.一部の移民の健康は,過密な 居住空間,ゴミ処理設備の利用が制限されていること,そして貧弱な衛生状態等の生活環境が要因で損なわ れた.そしてこのことは,世間の注目を集めることとなった 54.他の事例では,対面接触を必要とするエッ 102 世界開発報告 2023 センシャルな仕事に従事していたことが理由で,移民の健康が損なわれた 55.時として,COVID-19 の症 状を伴っていた移民は,財政的な制約,あるいは医療サービスへのアクセスを欠いていたことが理由で,医 療ケアを求めなかった 56.  家族と一緒に移住している移民にとって,より良い医療サービスにアクセスできることは,特に幼い子供 にとっては,移住による利益の重要な部分を占めている.入国移住の時点で子供が幼いほど,また,移住の 旅程が安全で迅速なほど,健康面で恩恵が得られる可能性はより高くなる 57.1991 年にイスラエルに空 輸されたエチオピアのユダヤ人の間では,母親たちは移住先国で出産前ケアを早期に利用できたことから利 益を得た.そのようなケアは移住者の出身国では利用することができなかった.そして,そのような親の子 供は,後の人生で教育や労働市場といった側面でより良い成果を上げた 58.  医療ケアへのアクセスは移民の法的地位と移住先国の規則に依存していることから,書類を持たない移民 は著しく不利な立場に置かれる.実際,そのような移民は,教育サービス以上に,医療サービスへのアクセ スを有する可能性は低いようである 59.また,書類を持っていないことが明らかになるのを恐れて,子供 が公的な健康保険の適用範囲に含まれている場合でさえ,そのような移住者が子供のために医療サービスを 利用する公算も低い 60.移民世帯の子供の健康状態は,法的地位が確実になると,改善する.例えば,イ タリアに滞在している書類を持たない移民に対する恩赦によって,そのような移民の子供たちの間での低出 生体重の発生件数は減少した 61. 社会的コストへの対処  移住者が外国の社会環境の下で,そして家族や社会的ネットワークから遠く離れている状況で直面する多 数の挑戦課題の1つは孤立である.移住して配偶者と一緒になるために移動する女性も,人々との交流を持 てる仕事に就けない,あるいは同じ国籍の人から成る社会的ネットワークへのアクセスを持たない場合には, やはり影響を受ける.  差別的な政策や態度はこのような状況をより一層困難にしうる.一部の諸国では,肌の色が濃いことや, 氏名が外国語のように聞こえることは,その移民が労働市場に参入する能力や 62,住居,教育,医療,社会サー ビスなどにアクセスする能力に影響を及ぼし 63,このことは,そのような人たちの福利に対する著しいマ イナスの効果を伴っている 64.差別は,移民労働者の人的資本獲得だけでなく,パフォーマンスも低下さ せる可能性がある 65.  書類を持たない移民は,強制送還や愛する人との離別に対する恐怖が常にあることから,特殊な挑戦課題 に直面している.そのような移民は虐待を通報することができず,このことが,犠牲になる公算を高めてい る 66.このような制約は移民とその子供たちの心と体の健康を害する 67.  家族の離散は,予想ないし計画されている場合でさえ,しばしば困難である.移住先国の政策――家族が 同伴すること,あるいは家族を定期的に訪問することを移民に許可しているか否かなど――が,福利の代価 を大まかに決定する.書類のない移民は特に影響を受ける.というのは,当人の出身国に留まっている家族 を訪問した場合,移住先国へ再入国することは容易ではないからだ.これとは対照的に,移住者に,家族を 伴って移動すること,後の段階で家族と再開すること,あるいは少なくとも定期的に家族を訪問することを 許可している政策は,移民の福利にとって重要であることが示されてきている.  社会的包摂や社会的支援のプログラムは,社会的孤立のリスクを削減することに役立つ.移住先社会にお (co-national) ける,国籍が同じ 移住者との間だけでなく,移住先社会の市民との間での社会的ネットワーク 移民が所属感を発展させることに役立ち, の形成は, 労働市場参入や社会的統合を促進する.移住先 同時に, [受 国は,移住者が現地の言葉や文化を学ぶこと,および居住場所を選定することを奨励するあるいは可 け入れ] 能にする政策を採用することによって,そのようなネットワークの形成を促進することができる 68.  出身国に残された家族も,両親,配偶者,あるいは子供の不在によって,特に離れた状態での生活が長期 化する場合には,苦境を経験する 69.移住した人が不在であることは,たとえ離れて生活している家族が 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 103 移住先の家族による送金から利益を享受している場合でさえ,マイナス効果を持ちうる 70.例えば,移住 者である両親が不在であることは,残されている子供たちにみられるさまざまな問題と関連がある.そのよ うな問題として,アルバニアにおける学校の出席率の低下 71,アルバニアとエクアドルの両国における不 十分な心理的な福利 72,タイにおける行為障害の発症,それにインドネシアにおける敵対的な精神症状の 発症 73,などがある.  移住者の出身国において,移住者の家族のために公式および非公式の両方の社会的支援システムを創設 することは極めて重要である.移民世帯のネットワークは非公式な社会的サービスを提供することができ る.その実例として,フィリピンの船乗り移民世帯のネットワークや,インドネシアのデスミグラティフ (Desmigratif)という村レベルの支援プログラム,モザンビークにおける移民支援ネットワークなどがあ る.他の親類が介護者として介入する場合や,送金額によって家族が有料の介護サービスを探すことができ る場合にも,移民家族の福利に対するリスクを減らすことができる. 帰国  世界全体で,推定で全移民の 40%は最終的には出身国に戻っている.しかし,この値は移住先国につい て横断的にみると,国毎に大きく異なっている 74.GCC 諸国へ移住した人はほぼ全員が最終的には出身国 に帰っている.というのは,これら諸国への移住のすべてが一時的であることが意図されているからだ 75. –  OECD 諸国では,移住者の 20  –  50%は到着後 5  10 年の間に,出身国に戻る,あるいは第三の国へ移動 するために,移住先国を離れる.しかし,例えば,アメリカと西ヨーロッパの間には著しい相違がある(図 4.9 76. および 4.10)  帰国するつもりである移民は永住を意図している移民とは違った行動をとる.後者は,言葉の学習を含め, 移住先国に固有な人的および社会的な資本に投資するより強い動機を持っている.対照的に,帰国を計画し ている移民は,そのような中期的な投資をすることに,たとえ低賃金で働くということを意味する場合でさ え,消極的な傾向にある.帰国を計画している移民は,貯蓄率や送金比率がより高い 77.  滞在するか,あるいは帰国するかという意図は時とともに変化するかもしれない.帰国の決定は,当人の 出身国と移住先国の両方の社会における社会経済的な状況によって左右される.トルコ人移民のドイツから トルコへの帰国は,ドイツで経験する経済的な困窮や外国人嫌悪に加えて,滞在中における母国コミュニティ とのかかわり具合に影響されてきている 78.同じく,モロッコ人移民にとっては,モロッコに投資機会や 社会的な結び付きがあることが,帰国の決断にとって鍵を握る役割を果たしてきている 79.もし移住先国 を去れば再び戻ることはできないかもしれないということを認識することは,本国に戻ることに対する移民 のインセンティブを低下させる 80.逆に,移民に移住先国に再び戻るという選択肢がある場合,そして特 に市民権を取得している場合には,そのような移民,特に教育水準が相対的に低い移民は,出身国と移住先 国の間の循環的な移住により頻繁に従事する 81.  大勢の移民が自発的に出身国に戻っている.そのような移民は,法的には滞在することができるものの, 例えば,意図した資源を貯蓄したことなどが理由で,帰国を選択している.オランダでは,貯蓄目標を達成 した移民は出身国に戻る可能性が高いようであり,自発的に出身国に戻る公算が最も大きいのは,最高のス キルを有する移民とスキルが最も低い移民の両方である 82.バングラデシュとフィリピンでは,十分な資 産を蓄積することができた移民は,一時的な移住を数回にわたって行った後,出身国内の労働市場に復帰す る傾向にある 83.  時として,突然の経済ショック,家族からの圧力,その他の社会的要因が,さらに長く滞在できる法的権 利がある場合でさえ,帰国の決断を突然に引き起こすことがある.COVID-19 のパンデミックの期間には, 多くの移民労働者,特に仮契約の労働者は,仕事を失ったことや,移住先国が強制的に送還を行ったことが 理由で,出身国への帰国を強制された 84.  海外での成功裡の滞在の後に自発的に帰国する一時的な移民は,多くの場合,出国前よりも結果として裕 104 世界開発報告 2023 図 4.9 アメリカに移住した人のごく少数のみが出身国に戻り,それは主に他の高所得 OECD 諸国出身者である アメリカを離れた移民の割合(%);ジェンダー別,出身地域別 50 40 アメリカを離れた 移民の割合 30 (%) 20 10 0 アフリカ アジア 中央および ラテンアメリカ 西ヨーロッパ / 東ヨーロッパ カナダ / オース トラリア / ニュージーランド 男性 女性 出所:American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs- surveys/acs からのデータに基づく Bossavie and Özden 2022. 注:OECD = 経済開発協力機構. 図 4.10 西ヨーロッパへ移住した人の多くは出身国に戻るが,東ヨーロッパ諸国から移住した女性合はそうではない 西ヨーロッパを離れた移民の割合(%);ジェンダー別,出身地域別 80 70 西ヨーロッパを離れた 60 移民の割合 50 40 (%) 30 20 10 0 アフリカ アジア 中央および ラテンアメリカ その他 東ヨーロッパ 男性 女性 出所:Employment and Unemployment (LFS): Overview (European Union Labour Force Survey, Overview) (dashboard), /web/lfs からのデータに基づく Bossavie and Eurostat, European Commission, Luxembourg, https://ec.europa.eu/eurostat​ Özden 2022. 福になる 85.そのような移民は,帰国と同時に,特により高いスキルを有している場合には,通常は賃金 プレミアムから利益を得る 86.このプレミアムは,移住先国で得た仕事上の経験や人的資本に対する需要 が出身国にあるか否か,移住先国の開発水準,および海外における滞在期間の長さなどに依存する.成功し ている移民は,出身国を離れる以前よりも資本へのより多くのアクセスを有し,移民を経験していない人た ちよりも住宅やその他の資産への投資を行うことや,企業家になる可能性がより高いようである 87.貯蓄 が多いことや海外滞在が長いことは,帰国後の企業家的活動と正の相関関係を有する 88.  しかし,自分が望んでいても法的に滞在できない移民もいる.ビザの有効期限が切れているのかもしれず, 亡命の申請が却下されたのかもしれず,あるいは最初から滞在する法的権利を有していなかったのかもしれ 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 105 ない.そのような移民は,自発的に帰国する,帰国に関して支援を受ける,あるいは強制送還される.強制 的に帰国させられる(帰国を促される,ないしは国外送還される)人の数は自発的に帰国する人の数を大幅に 下回っている.平均すると,アメリカや,カナダ,EU,日本,韓国から強制的に帰国させられている人は毎年, 移民総数の 2%未満である 89.  しかし,強制的に送還された人たちの社会経済的状況は,帰国後はより悪くなる 90.そのような移民は 帰国の準備をしていた公算は低く,多くの場合に貯蓄や,社会的および人的な資本を十分に蓄えられるほど 長期には滞在していない.書類を持たない移民も同様に,成功裡に帰国するのに必要な金銭的,人的,およ び社会的な資本を蓄積できる公算は低いであろう.その結果,書類を持たない移民は,書類を有する移民や 移住しなかった人々と比べて帰国後に賃金ペナルティを受ける.それはエジプトの事例で立証されていると おりである 91.  移民の行き先[受け入れ]国にとっては,政策課題は二重である.第 1 に,受け入れ国は自主的に帰国す る人たちを支援することができる.それは例えば,移民が貯蓄をするのを可能にする労働市場政策を採用す る,あるいは,特に当人が移住先国経済のニーズに適合するスキルや属性を持っている場合に,移民が移住 先国と出身国の間を往復することを可能にすることによる.第 2 に,受け入れ国は強制送還される移民を 人道的に処遇しなければならない.場合によっては,一部の帰国移民が出身国で再統合するのを支援するこ とができる 92. 時には,失敗する  当人の持っているスキルや属性が移住先社会のニーズに高度に適合している場合でさえ,移動中,ないし は目的地で直面する状況によって,移住が期待通りにならない移民もいる.  スキルと属性が移住先国のニーズに高度に適合している移民にとってさえ,そして,書類を持たない移民 にとっては特に,移動は危険――時には命にかかわる危険――を伴うことがある.イタリアでは,書類のな い移民の 45%は,移動でアフリカ諸国を通過する際に肉体的な暴力を経験したと申告している 93.移動中に, 移民は無給で働かなければならなかったり,当局あるいは犯罪組織に拘留されたりした.アデン湾とイエメ ンを経由してサウジアラビアへ到達することを試みる人たちに加えて,中央アメリカからアメリカに向かう 途上の書類を持たない大勢の移民は,誘拐や,犯罪組織およびその他の活動組織による強奪や他の形態の暴 行を経験している 94.事前に全旅程を賄う支払いをすることができない移民は特にリスクが大きい.女性 や思春期の少女は性的な暴力や搾取に直面する 95.  ひとたび移住先に着いても,一部の移民は搾取的な労働条件に直面する.書類を持っている場合でさえ, 移民は市民あるいは永住者に与えられている労働保護から常に利益を得られるわけではない.移民は常に最 低賃金法の対象に含まれている,あるいは労働組合への加入や団体交渉への参加が認められているわけでは ない 96.また,移民労働者は多くの場合に,自分の権利に関する十分な情報を欠いており,それらを請求 するために必要な社会的ネットワークや言語スキルを持っていないかもしれない.正式な書類を欠いている こと,非倫理的な採用が行われていること,そして移民の権利の保護ないしは執行が行われていないことが, リスクをいっそう高めている.  長時間労働や労働災害の発生頻度が高いことは,移民の間ではより一般的である 97.こういった状況は, 労働と居住の許可が特定の雇用者に結び付いており,仕事を変えることに関する移民の選択肢が制限されて いる場合には発生しうる.雇用者の支配的な立場は,移民の賃金を削減するだけでなく 98,違法な強制労 働の利用につながるかもしれない 99.GCC 諸国に移住した低スキル移民にとっては,賃金の不足,労働時 間の超過,および労働安全衛生問題などに起因する総損失額は,平均すると,推定で,実際の賃金総額の 27%に達している 100.一部の移民は,他の選択肢を持っておらず,そして移住のコストを返済し,期待さ れている出身国への送金を行う必要があることから,貧弱な労働条件を受け入れるという圧力に直面してい る.詐欺の犠牲になり,結果として補償がほとんど,あるいはまったくない強制労働をさせられている移民 106 世界開発報告 2023 もいる.  一部の極端な状況下では,移民は虐待的な雇用者や,人身売買業者,採用代理人などによる犯罪,暴力, それに搾取などにさらされている 101.移民はパスポートを没収されているかもしれず,移民は警察へ通報 すると脅かされているかもしれない.あるいは,債務という束縛に拘束されてローン返済を強制されている かもしれない.その結果,現地の市民との比較で,特に建設と家事労働の部門では 103,移民が強制労働― ―近代的な奴隷制の一種と言われている――を経験する可能性は 3 倍の高さとなっている 102.家事労働者 は,多くの場合に孤立化しており,労働法による保護が不十分であることから,特別なリスクにさらされて いる 104.人身売買業者の検挙は.犠牲者が保護されておらず,売買業者を報告した後には移住先での滞在 が許されなくなる場合には,阻害される 105.  外国人に対する暴力の突発的な発生は世界中の移民を脅かしている.多くの移民は,なかでも地位や,肌 の色,宗教などを理由に侮辱されたり脅されたりしている.一部の事例では,移民の店舗や,自宅,集団 宿泊所などが群衆によって攻撃され,移民は肉体的に負傷したり死んだりしている 106.ドイツでは,外国 人は 2015 年と 16 年に難民の流入が最も多かった際に,5,000 件以上の政治的な動機の犯罪を経験した. 2021 年には 2,000 件以上の同種の犯罪を経験した 107.南アフリカでは,外国籍の人(ほとんどが他のア や,そのような人たちの企業に対する攻撃に加えて,外国人に対する暴動が 2008 年以降, フリカ諸国出身) 数回にわたる波となって発生している 108.アメリカでは,2001 年 9 月 11 日のテロリストによる攻撃以降, 反イスラム感情やヘイト・クライムの著しい増加がみられている 109.  移住先[受け入れ]国は,国際基準に沿って移民が公正な採用やディーセント・ワークへのアクセスを有す ることを保証することによって,このようなマイナスのインパクトの一部を削減することができる.また, 移住先 国は,強制労働や搾取を阻止することを含め,自国の法規制の執行について責任を負って [受け入れ] もいる.一部の諸国では,移民の安心と安全を保証する取り組みに加えて,強力な反差別の新たな試みが必 要とされている.全体として,移民は――失敗した時でさえ――人道的に処遇されなければならない. 注 1. Occupational Wages around the World (dashboard), ぎが少ないかもしれないからだ.図 4.4 は,移住先国に World Bank, Washington, DC, https://datacatalog?. おける移民の所得増加を,出身国に留まっている人々 worldbank.org/search/dataset/0041465. の賃金と比較しており,より正確な推定値を示してい 2. Occupational Wages around the World (dashboard), る.この図は単に,移民と,移住をしなかったものの World Bank, Washington, DC, https://datacatalog?. 移住者と同じような観察可能な特性と観察不可能な特 worldbank.org/search/dataset/0041465. 性を持っている人――例えば移民がくじ引きで選定さ れる場合など――を比較している.あるいは同じよう 3. Vujicic et al. (2004). な観察可能な特性を持った人どうしを比較しており, 4. Åslund and Rooth (2007); Azlor, Damm, and Schultz- 比較不能な特性の潜在的な相違に対しては調整を行っ Nielsen (2020); Barth, Bratsberg, and Raaum (2004); ている (Clemens, Montenegro, and Pritchett 2019). Braun and Dwenger (2020); Fasani, Frattini, and Minale 12. Amo-Agyei (2020). (2021); Godøy (2017). 13. Jeon, Liu, and Ostrovsky (2021); Madariaga et al. 5. 図 4.4 のパネル a に引用されている研究においては,移 (2019); McDonald et al. (2020); Urzi Brancati, Pesole, 民は申請者の間で無作為に選定されている. and Férnandéz-Macías (2020); 以下に基づく WDR 6. Borjas (1987). 2023 チーム―― Current Population Survey, May 7. Ahmed and Bossavie (2022); KNOMAD and ILO (2021a, 2017: Contingent Worker Supplement (dashboard), 2021b). Bureau of the Census and Bureau of Labor Statistics, 8. ILO (2019). US Department of Labor, Washington, DC, ICPSR 9. Bossavie et al. (2021). 37191, Inter-university Consortium for Political and Social Research, 2021-04-29, https://doi.org/10.3886?/- 10. Ahmed and Bossavie (2022). ICPSR37191.v2.ギグ・エコノミーの中で,一部のギグ 11. 職業による賃金の相違は移住を通じた潜在的な所得の [インターネットなどを通じて受注する単発の仕事.元 増加と同じではない.というのは,移住をする人は出 の意味は,音楽業界のアーティストが行う単発のライ 身国に留まる人と同じではなく(選択効果),そして移 ブ] は,デジタル・プラットフォーム経由で仲介されて 民は,少なくとも短期的には,移住先の国民よりも稼 4 移民:繁栄をもたらす――権利を伴っていれば効果はより一層高まる 107 いるものの,仕事自体は特定の場所で遂行されている. 27. Aksoy, Poutvaara, and Schikora (2020); Azlor, Damm, そのような仕事は,相対的に多くの移民労働者を引き and Schultz-Nielsen (2020); Bansak et al. (2018); Bertoli, 付けている.そのような仕事の特徴として,移民が容 Özden, and Packard (2021); Fasani, Frattini, and Minale 易に契約できる,新来者に対する差別が少ない,必要 (2021); Ginn et al. (2022); Hainmueller, Hangartner, な社会的あるいは金銭的な資本が比較的少ない,言語 and Lawrence (2016); Marbach, Hainmueller, and は大きな障害とはならない,公式雇用の可能性を制限 Hangartner (2018); Martén, Hainmueller, and している移住規則は適用方式がさまざまである,など Hangartner (2019); Müller, Pannatier, and Viarengo がある (van Doorn, Ferrari, and Graham 2022). 最近,一 (2022); Zetter and Ruaudel (2016). 部の諸国はギグ・エコノミー (における雇用) の規模 28. Beauchemin et al. (2022). に関する定量的なデータを収集し始めている (OECD 29. Baker (2015); Orrenius and Zavodny (2014); Pan (2012); 2019). しかし,ギグ ・ エコノミーの拡大を考えると, デー Pinotti (2017). タ収集に向けた取り組みは強化され,そしてより一層 30. Ibáñez et al. (2022). 2021 年における規則化の第 2 波で 統一されるべきである. 所得は 3 分の 1 増加した (JDC 2023). 14. van Doorn, Ferrari, and Graham (2022). 31. 実例には,アメリカにおける HIB ビザ (Kim and Pei 15. Damelang, Ebensperger, and Stumpf (2020); Duleep 2022),および UAE の労働許可証 (Naidu, Nyarko, and (2015); Mattoo, Neagu, and Özden (2008). Wang 2016) の影響が含まれている. 16. Duleep (2015). 32. ILO (2017). 17. Mattoo, Neagu, and Özden (2012). 33. Kagan and Cholewinski (2022). 18. Duleep (2015). 34. Naidu, Nyarko, and Wang (2016). 19. Astor et al. (2005); Luboga et al. (2011). 35. ILO (2021); UAE (2023). 20. 以下による文献のレビューを参照:Butschek and 36. Abramitzky and Boustan (2017); Aksoy and Poutvaara Walter (2014); Schuettler and Caron (2020). (2021); Lazear (2021). 21. Card, Kluve, and Weber (2018); Clausen et al. (2009); 37. Abramitzky and Boustan (2017); Czaika and Parsons Foged et al. (2022); Lochmann, Rapoport, and Speciale (2017); Lazear (2021). (2019). 38. Mattoo, Neagu, and Özden (2008). 22. Battisti, Giesing, and Laurentsyeva (2019); Butschek and 39. Bound et al. (2015); World Bank (2018b). Walter (2014); Card, Kluve, and Weber (2018); Clausen et al. (2009); Foged, Hasager, and Peri (2022); Foged, 40. 移住者の出身国に残された子供に対する影響は第 5 章 Kreuder, and Peri (2022); Joona and Nekby (2012); で検討されている. Sarvimäki and Hämäläinen (2016). 41. Nakamura, Sigurdsson, and Steinsson (2022). 23. データの入手可能性が低いことから,証拠は高所得 42. OECD (2017). 国に基づく.難民に関しては Dustmann et al. (2017); 43. Abramitzky and Boustan (2022); Abramitzky et al. Fasani, Frattini, and Minale (2021) を参照.カナダに (2021). ついては Aydemir (2011).EU 内の行先国については 44. OECD (2017). 以下を参照:ベルギーについては Dries, Ive, and Vujić 45. Alesina et al. (2018). (2019),フィンランドについては Sarvimäki (2017),イ タリアについては Ortensi and Ambrosetti (2022),オ 46. Kırdar, Koç, and Dayıoğlu Tayfur (2021). ランダについては Bakker, Dagevos, and Engbersen 47. Amuedo-Dorantes and Lopez (2015); Arenas-Arroyo (2017),スウェーデンについては Åslund, Forslund, and and Schmidpeter (2022). Liljeberg (2017); Baum, Lööf, and Stephan (2018); Baum 48. Arenas-Arroyo and Schmidpeter (2022); Santillano, et al. (2020), スイスについては Spadarotto et al. (2014). Potochnick, and Jenkins (2020). イギリスについては Ruiz and Vargas-Silva (2018).イ 49. Felfe, Rainer, and Saurer (2020); Orrenius and Zavodny ギリスに在住する東アフリカ系アジア人については (2014). Anders, Burgess, and Portes (2018).アメリカについて 50. 経済移民は,移住先に到着した時点で移住先国の人と は Connor (2010); Cortes (2004); Evans and Fitzgerald 比べてより健康である傾向にある一方で,難民は結果 (2017).移民に関しては,オーストラリア,ヨーロッパ として健康状態は悪い傾向にある.難民とその他の 諸国,イスラエル,ニュージーランド,およびアメリ 移民との違いは,明示的な政策に加えて,選択の理 カを含む高所得の行先国を対象に含む Duleep (2015) に 由,および紛争や強制退去の影響に起因する (Chin and よる文献のレビューを参照.アラブ首長国連邦に在住 Cortes 2015; Giuntella and Mazzonna 2015; Giuntella et する移民については Joseph, Nyarko, and Wang (2018) al. 2018; McDonald and Kennedy 2004). を参照. 51. Garcés, Scarinci, and Harrison (2006); Giuntella and 24. Dustmann (2000); Dustmann and Görlach (2016); Mazzonna (2015); Grove and Zwi (2006); Hacker et al. Slotwinski, Stutzer, and Uhlig (2019). (2015); Hasager and Jørgensen (2021); Nwadiuko et al. 25. Dustmann (2000); Dustmann et al. (2017). (2021); Orrenius and Zavodny (2009); Pega, Govindaraj, 26. Bakker, Dagevos, and Engbersen (2014); Bevelander and Tran (2021). and Pendakur (2014); Bevelander and Veenman (2006); 52. Baptista and Marlier (2019); Fonseca, McGarrigle, and Helgertz, Bevelander, and Tegunimataka (2014); OECD Esteves (2010). (2011); Peters, Schmeets, and Vink (2020); Steinhardt 53. Asi (2020). (2012). 54. Testaverde and Pavilon (2022). 108 世界開発報告 2023 55. Testaverde and Pavilon (2022). 78. Tezcan (2018). 56. WHO (2022). 79. de Haas, Fokkema, and Fihri (2015). 57. Alacevich and Tarozzi (2017); van den Berg et al. (2014). 80. Czaika and de Haas (2017); Flahaux (2017). 58. Lavy, Schlosser, and Shany (2021). 81. Constant and Zimmermann (2011). 59. 以下のデータに基づく WDR 2023 チームの試算: 82. Bijwaard and Wahba (2014). MIPEX (Migrant Integration Policy Index 2020) 83. Dustmann and Görlach (2016). (dashboard), Migration Policy Group and Barcelona 84. Testaverde and Pavilon (2022). Centre for International Affairs, Barcelona, https:// 85. Beauchemin et al. (2022); David (2017); Gubert and www.mipex?.eu/. MIPEX は以下を含む 56 カ国におけ Nordman (2008); Mezger Kveder and Flahaux (2013). る移民を統合する政策を測定――全 EU 加盟国,その 他ヨーロッパ諸国 (アルバニア,アイスランド,モルド 86. Wahba (2015). バ,北マケドニア,ノルウェー,セルビア,スイス, 87. Bossavie and Özden (2022). ロシア,トルコ,ウクライナ,およびイギリス) ,アジ 88. Bossavie et al. (2021). ア諸国 (中国,インド,インドネシア,イスラエル,日 89. 下記からのデータに基づく WDR 2023 チームの試算 本,ヨルダン,韓国,サウジアラビア,および UAE) , ―― Office of the Auditor General of Canada, Canada 北アメリカ諸国 (カナダ,メキシコ,およびアメリカ) , Border Services Agency, Eurostat, Immigration 南アメリカ諸国 (アルゼンチン, ブラジル, およびチリ) , Services Agency of Japan, Korean Ministry of Justice 南アフリカ,オセアニア (オーストラリアおよびニュー Immigration Service, and US Department of Homeland ジーランド) . Security. 60. Hacker et al. (2015); Watson (2014); WHO (2022). 90. David (2017); Gubert and Nordman (2008); Mezger 61. Salmasi and Pieroni (2015). Kveder and Flahaux (2013). 62. Abel (2017); Adida, Laitin, and Valfort (2010); Carlsson 91. Elmallakh and Wahba (2021). (2010); Dávila, Mora, and Stockly (2011); Duguet et al. 92. 詳細は第 8 章参照. (2010); Hersch (2008); Oreopoulos (2011); Quillian and 93. World Bank (2018a). Midtbøen (2021); Quillian et al. (2019); Weichselbaumer (2020). 94. Albuja (2014); DRC and RMMS (2012); HRW (2014). 63. Auspurg, Schneck, and Hinz (2019); Baldini and Federici 95. WHO (2022). (2011); Bosch, Carnero, and Farré (2010). 96. Amo-Agyei (2020); Faraday (2022); KNOMAD (2022). 最 64. de Coulon, Radu, and Steinhardt (2016); Gould and Klor 低賃金制はカタールでは 2021 年 3 月に整備された. (2016); Pascoe and Richman (2009); Steinhardt (2018); 2022 年に UAE は移民労働者のための失業保険を導入 Suleman, Garber, and Rutkow (2018); Weichselbaumer した (ILO 2021; UAE 2023). (2020); WHO (2022). 97. Aleksynska, Kazi Aoul, and Petrencu (2017); Hargreaves 65. Bertrand and Duflo (2016); Glover, Pallais, and Parienté et al. (2019); Moyce and Schenker (2018). (2017). 98. 実例には以下のインパクトが含まれる――アメリカの 66. Juárez et al. (2019); Martinez et al. (2015); Wang and H1B ビザ (Kim and Pei 2022) および UAE の労働許可証 Kaushal (2019). (Naidu, Nyarko, and Wang 2016). 67. Giuntella and Lonsky (2020); Giuntella et al. (2021); 99. ILO (2017). Hainmueller et al. (2017); Ibáñez et al. (2022); Aleksynska, Kazi Aoul, and Petrencu (2017). 100. Venkataramani et al. (2017). ILO, Walk Free, and IOM (2022); WHO (2022). 101. 68. Bailey et al. (2022). David, Bryant, and Joudo Larsen (2019). 102. 69. Parreñas (2001). ILO, Walk Free, and IOM (2022). 103. 70. Ivlevs, Nikolova, and Graham (2019). ILO (2016); UNDP (2020). 104. 71. Giannelli and Mangiavacchi (2010). UNODC (2008). 105. 72. Cortina (2014); Giannelli and Mangiavacchi (2010). Benček and Strasheim (2016); HRW (2020); Steinhardt 106. 73. Graham and Jordan (2011). (2018). 74. Chen et al. (2022). BKA (2021). 107. 75. Bossavie and Özden (2022). Xenowatch Dashboard: Incidents of Xenophobic 108. 76. Bossavie and Özden (2022); Dustmann and Görlach Discrimination in South Africa, 1994?29 January (2016); OECD (2008). 2023, Xenowatch, University of the Witwatersrand, Johannesburg, https://www.xenowatch.ac.za/ 77. 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WDR2023 Migration Database, World (図 S4.1) た女性の間では 163%増加した .この割合は,ス 2 023/ Bank, Washington, DC, https://www.worldbank.org/wdr​ data. キルが低い女性移民における増加(39%)だけでなく,高等 (138%) 教育を修了した男性移民における増加 も上回ってい る 13.単身でアメリカに移住する大学を卒業した女性の比率 このことは, は着実に増えており, とりわけ南アジアと中東・北アフリカの特定の諸国の出身者にあてはまる. それは障害にもなりうる 14.例えば,  制限的なジェンダー規範は移住をする動機になりうるものの, イラク, ヨルダン,スーダン,そしてシリアでは,女性は男性と同じ条件で自国外を旅行することはできない 15.他 の諸国では,社会的な期待が女性にとってより大きな負担となっている.それは例えば,家族に対する責務 を果たす,あるいは独立して決断を下すといったことである.このような負担は移住に向けた女性の選択肢 を制限するかもしれない. 行き先国における労働市場へのアクセス  大勢の移民女性は行き先国の労働市場へのアクセスにおいて挑戦課題に直面している.入国移住した女性 のなかには非公式なサービス部門以外では労働市場機会がほとんどない人もいる.それ故,そのような女性 は多くの場合に不安定な条件で家事ないし介護の労働者として働いている 16.例えばコロンビアでは,ベ ネズエラ人女性は男性よりも非公式部門で働いている可能性が高い.また,最近の女性移民が失業している 割合は,同じ教育水準の男性の 2 倍である.さらに,移民女性は,より高い教育程度を有している場合で さえ,教育程度が相対的に低い男性よりも稼ぎは少ない 17.女性の経済的な潜在力を活用し,ジェンダー や労働差別という問題に取り組むための,対象を絞った政策が必要とされている.  家族と再統合するために移住する女性の多くは――ヨーロッパでは移民女性の約 3 分の1を占めている 18 ――,労働市場へアクセスするために支援を必要としている.この支援に含まれるのは,保育や,スキルのマッ チング,言語習得,職業訓練などである.ドイツのいくつかの地方自治体は「ママはドイツ語を学んでいる」 という新たな試みを実施している.これは移民女性にドイツ語の課程と授業中の保育サービスを提供してい る 19.イタリアのトリノ市は,北アフリカ出身の教育程度が低く,アラビア語を話す女性に,言語や,算数, 市民教育,移民の権利などの課程を提供してきている.そのような女性は,仕事や社会的ネットワークを欠 ジェンダー 119 いていることから,孤立して生活していることが多い 20.確かに,女性や少女にとっては,働くことがで きるということは社会的孤立を低下させ,社会的統合の見通しを改善することに役立つ.  女性難民は追加的な挑戦課題に直面することが多い.強制的な退去の場合,家族はしばしば無理に離散さ せられ,多くの場合に保育の全責任が女性に委ねられることになる.支援のネットワークや保育を利用でき ない場合,女性は労働力へのアクセスにおいて極度に困難な状況に直面する.フルタイム雇用を探す際には 差別にも遭遇するかもしれない.例えば,あるシリア人の難民女性は主な,ないし唯一の稼ぎ手としての役 割を果たすために,仕事,保育,それに家事をかけもちしなければならない 21.  政策や支援プログラムは,移民女性にとっての労働市場へのアクセスにおけるジェンダー間の差別に対処 することに役立ちうる.市民社会組織や地方政府は,さまざまな新規の構想を開発してきており,さらに追 加的な取り組みが国レベルで準備中である.例えば,ポルトガルは地方自治レベルで,ブラジルやカーボベ ルデから移住してきた女性に対してスキルや職業の訓練を提供するイニシアティブを実施している 22.ヨ ルダンでは,最近行われた労働規則の変更によって在宅ベースのビジネスを登録することが可能になった. この新しい政策は,シリア人難民女性と,育児の責任のために自宅外で働く能力が制限されているヨルダ ン人女性の双方にとって有益であることが期待されている 23.並行して,フィリピンなどの移民出身国は, 移住先国における移民の家事労働者――ほとんどが女性――の権利を保護するために,一連の要件を設定し ている 24.しかし,そのような保護的な措置は,移民が仕事や機会を拒否されることがないように,他の 経済的な考慮事項と調整されなければならない 25.  移住先国における教育は出身国では入手可能ではなかったキャリアに女性がアクセスする一助になりう る.それは少女にとっては一層重要である.OECD 諸国の移民少女は,あらゆる教育レベルにおいて少年 よりも成績が良く 26,このことは移住した少女への教育投資には高い収益率が期待できることを示唆して いる.教育と労働市場アクセスの規模を拡大するための 1 つの重要な構成要素は,言語課程の利用可能性 である. ジェンダーに基づく暴力  女性や少女の一部は,難民と難民とは認定されていない移民の両方について,出身国における性的および (GBV) 「ジェンダーに基づく暴力」 から逃れるために移住している.女性や少女は,特に武力衝突という状 況の中で GBV から影響を受けている.例えばコンゴ民主共和国では,女性と少女は驚く程の規模で強姦さ れてきている 27.国際救済委員会(IRC) –  はコンゴ民主共和国について 2003  06 年に4万件の GBV を登 録した 28.実際に,2005  – 07 年の間に南キブ(South Kivu)州だけでも武力紛争に関連する 3 万 2,000 件以上の性的暴力が登録された.実際の数字はさらに多いと考えられている 29.紛争,強制退去,そして 早婚を含め,人道的危機といった状況下では,他の形態の GBV も広くみられる 30.  女性はしばしば,紛争に関連のある状況と,より安全な状況の両方において,親密なパートナーの暴力に さらされている.そのような事態であっても,トラウマや,報復に対する恐れ,問題に対処する法律の欠如 などが理由で,そのような暴力は多くの場合に通報されていない 31.アフガニスタンや,ギニア,ハイチ, リビア,スーダン,シリアなどの,脆弱性,紛争,あるいは暴力の影響を受けている数カ国には,家庭内暴 力を取り扱っている具体的な法律はない 32.  女性や少女は,移住のあらゆる段階で,性的およびジェンダー的なマイノリティと同じく,GBV の大き なリスクにさらされる.移民は一般に――しかし,女性や,少女,性的およびジェンダー的なマイノリティ は特に――,移住のルートに沿って性やジェンダーに基づく暴力について非常に高いリスクに直面する.強 制された移民や密入国者は特に影響を受けている 33.被害者が地方当局に犯罪を通報する能力が制約され ている場合――正当な書類を持っていない場合など――,リスクはさらに大きくなる 34.女性が性的暴力 にさらされる公算は地中海西部および中部ルートに沿った場所では男性の約 3 倍の高さである 35.同伴者 のいない女性や少女は,同伴者のいる女性と比べると,人身売買 36 や,性的搾取,虐待の犠牲者になる確 120 世界開発報告 2023 率が 71%高い.  ジェンダーに基づく暴力は,このことに特化した総合的な政策を緊急に必要としている.移住者の出身国 と行き先国がこの問題に対処し始めている.例えば,スロベニアは GBV リスクを緩和するために難民収容 施設に専門スタッフを配置している.スウェーデンでは,受付センターのスタッフは亡命申請を処理するあ らゆる段階で GBV の被害を受けている可能性のある人を識別できるよう訓練されている 37.2019 年以降, ベトナム政府は大使館や領事館のスタッフに GBV,労働移住,および人身売買に関する情報を定期的に報 告し,直接的なサービス提供や委託を通じて GBV に対処するよう指示している 38.しかし,女性グループ に対する資金供与や投資の拡大,遺族向けに維持されているサービスへのアクセスの拡大,強制退去という 状況における GBV を阻止する取り組みへの投資,そしてより良いデータを通じた局所的な状況の理解の改 善を含め,より多くのことがなされる必要がある 39. エンパワメントへ向かう道  人々はより良い生活を求めて母国を去る.このことは,女性と少女,そして性およびジェンダーのマイノ リティにとっては,地元のジェンダー規範がそのような人たちの移動性や,司法の利用,安全性,それに労 働市場への公正なアクセスなどを阻害している場合には,特に重要な選択肢である.移住はエンパワメント, 金融面での独立,教育のより改善された機会,安全性,家族再統合,そして雇用につながりうる.しかし, そのような課題は既存の脆弱性を増大させうる. 移住は追加的な挑戦課題をもたらし, 女性とその家族にとっ ての移住の利益を最大化するためには,女性や子供の教育機会へのアクセスを増大させ,労働市場における 差別と戦い,GBV を防止およびそれに対処し,そして社会的統合に向けて取り組むことによって,差別に 対処するべきである.政策策定により良い情報を提供するために,ジェンダーや移住に関するさらに多くの ――分解された詳しい――データが必要である. 注 1. 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UNHCR (United Nations High Commissioner for Refugees) and Blumont. 2019. “First Syrian Refugee-Owned 5 123 移民の出身国 開発に向けて移住を管理する 重要なメッセージ  移民のスキルや属性が移住先国のニーズに高度に適合する場合,移住者の出身国も利益を享受する.利益 には送金や,知識移転,労働市場に対するプラス効果などが含まれる.このような利益は正規の移民と非 正規の移民の両方に生じる.ただし,移民の利益,およびその利益を移民の出身国に滞在している家族と 共有できる程度は,当該移民が正規の地位を有している場合の方が大きい.  しかし,移住した人が不在であることは,その家族,および高いスキルを有する労働者が出国移住する際 の頭脳流出の影響を含めて,移民の出身国にとってはマイナスの面もある.コストは利益よりも小さい傾 向にはあるものの,一部の国では,代価は相当な大きさになる.  移民の出身国は労働での出国移住を自国の開発戦略の不可欠な部分にしている場合に,享受する利益が最 も多くなる.そうすることによって,移民の出身国は貧困削減に対する移住の正味の効果を増大させるた めに,政策を採用し,そして移住先国との二国間協調関係に関与することが可能となる(図 5.1). 図 5.1 移民の出身国の政策は貧困削減に対する移住のインパクトを最大化できる 移民の出身国: 送金と知識移転の円滑化, スキルの構築と頭脳流失の緩和, 海外に在住する自国民の保護 多くの経済移民 行先国で需要のある 高い スキルを有する 難民 すべての人を すべての人を 対象に利益を 対象に利益を最大化 最大化する する 適合度 大部分が非正規である 多くの難民 困窮移民 持続可能性を 移動の必要性を削減, 確保,コストを 移民を受け入れ,あるいは 低い 分担 人道的に帰国 行き先国 本国における 動機 における機会 恐怖 出所:WDR 2023 チーム. 注:適合度は移民のスキルと当人の関連する属性が移住先国の需要を満たす度合いを指す.動機は当人が移住するに至った 状況を指す――機会を求めて移動するのか,あるいは本国(出身国)における迫害,武力抗争,ないしは暴力にかかわる「十 分に理由のある恐怖」の故に移動するのか. 124 世界開発報告 2023 送金がもたらす開発面の利益の全てを獲得する  低・中所得国向けの送金は過去 20 年間に劇的に増加してきている.2021 年には,その額は 6,050 億 ドルであったと推定されている 1.ただし,その測定は技術的な困難を生じさせている(スポットライト 5). 2021 年には,インド,メキシコ,中国,フィリピン,およびエジプトが,この順で,主要な受領国であった. (図 5.2) 送金総額は,低・中所得国への記録されている資本流入総額の約 3 分の 1 を占めている .送金は, 中央アメリカおよび中央アジアの数カ国や,規模の小さい低所得国,それにレバノンのような多くの海外離 散者がいる諸国においては,GDP のなかでも大きな割合を占めている(図 5.3).  家族宛てに送金できるということが,多くの場合に,移住する人の主要な動機である 2.多くの家庭が最 適な移住戦略――誰が,どこへ,どれだけの期間移住して,そして受取送金をどのように使うかなど――を 一緒に決定している 3.特にコミュニティが必要に迫られている場合には,幅広くコミュニティ宛に送金す る移民もいる.  送金の流入の規模は移民の特性次第である.大勢の低スキル労働者は,単身で移住し,そして本国に残っ ている家族を支えるために所得の大きな割合を定期的に送金している 4.例えば,GCC 諸国に滞在してい るインド人移民は,平均すると,所得の約 70%を家族に送っている 5.低スキル移民の間では,女性はよ り多額を送っていることが多いようである.対照的に,高スキル移民は,裕福な家庭の出身で,近親者と一 緒に移住し,そして永住する可能性がより高い.高いスキルを有する移民はより多額を送金しているかもし れないが,送金は散発的になる傾向がある 6.  送金のフローは,移民が移住先国でどの程度成功しているか,仕事に就いているか,そしてどの程度稼い でいるか,にも左右される.送金額は,移民のスキルや属性が移住先社会のニーズにより高度に適合してい るほど,より大きくなる――これが,移民の出身国がこのような移住からより多くの利益を得る理由である. 送金は,移民が正式書類を伴う地位を有する場合,より多くなる.非正規の移民は雇用不安や所得変動を経 図 5.2 低・中所得国への外部からの融資金のフローのなかで送金は大きな割合を占めていると同時に, 増加しつつある 800 700 600 資金の流れ 500 400 ( 億ドル) 10 300 200 100 0 ‒100 19 0 19 1 19 2 19 3 19 4 19 5 19 6 19 7 19 8 99 20 0 20 1 20 2 20 3 20 4 20 5 20 6 20 7 20 8 09 20 0 20 1 20 2 20 3 20 4 20 5 20 6 20 7 20 8 20 2 19 20 1 (推 20 20 2 (予定) (予 ) ) 23 測 測 9 9 9 9 9 9 9 9 9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 19 20 20 2 0 2 FDI 送金 証券(債券・株式)投資の流れ ODA 出所:World Bank 2022a. 注:上図の対象になっているのは,世界銀行の分類による低・中所得国である.2021 年に関するデータは推定値であり, 22 年と 23 年に関するデータは予測値である.証券投資の流れ(ポートフォリオ・フロー)は債券と株式の両方への投資を含む. 中国を除けば,過去 5 年間には,送金フローが FDI フローを上回る傾向が示されるだろう.FDI =外国直接投資;ODA =政 府開発援助. 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 125 図 5.3 送金が国民所得の 5 分の 1 以上を占めている国もある 60 GDPに対する送金の割合 50 50 40 38 34 32 31 28 27 30 24 22 22 20 (%) 10 0 ア ア ン ン ス ス チ ガ ル ル ノ タ ラ モ ビ イ ギ ン ド ー ュ バ ス ト バ ン サ ハ ル パ ジ キ レ ガ ル キ ネ ン ジ サ ホ タ ル エ 出 所: 送 金 ――KNOMAD Remittances Data (dashboard), Global Knowledge Partnership on Migration and Development, World Bank, Washington, DC, https://www.knomad.org/data/remittances; World Bank 2022a.GDP( 現 行 米 ド ル )―― World Economic Outlook Databases (dashboard), International Monetary Fund, Washington, DC, https://www.imf.org/en/ Publications/SPROLLS/world-economic-outlook-databases#sort=%40imfdate%20descending. 注:送金の対 GDP 比は 2022 年の推定値に基づく. 験する可能性がより高く,したがって,規則的かつ予測可能な仕方で送金できる可能性は低い 7. 貧困削減に対する効果  送金は,移民の出身国における貧困を削減するための強力な手段であることが判明している.ネパールで は,GCC 諸国とマレーシアからの送金が 2001  – 11 年における貧困率の低下の 40%を占めた 8. (図 5.4) 2018 年にキルギスでは,送金は貧困世帯の割合を 30.6%から 22.4%に低下させたことが見出された 9. –  中央アメリカとカリブでは,1970  2000 年に,移民が所得分布で最低位 40% に属する層の出身である 地域において,貧困の大幅な削減を経験した 10.貧困削減に対する同じようなプラスの効果は,インドネ シアやフィリピンでも発見されている 11. [受け取り]   送金は以下の通り,さまざまな側面の全体にわたって貧困削減に貢献している:  送金は世帯所得を増加させる.例えばバングラデシュでは,スキルの低い移民からの送金は,移民の家族 の所得を倍増させている 12.アルバニアでは,送金は所得分布上で低位の第 30 百分位層に属する世帯の 1 人当たり所得をほぼ倍増させている 13.一部の家計では送金は,ソマリアなどの特に紛争影響諸国では, 生命線として機能している.国内で退去させられ,定住圏外に住んでいる人たちは,国際送金で年当たり 平均で 876 ドル――1 人当たり GDP のほぼ 2 倍の水準――を受領している 14.  送金は消費を増やし,食料安全保障を向上させる.例えば,送金を受領しているインドネシアの世帯は, 送金がない場合に想定される支出と比べて約 16%多く食料に支出している 15.エチオピアでは,送金を受 け取っている農場世帯は十分な食料の調達に対する心配の程度が低く,栄養不良に陥るリスクも低い 16.  送金は世帯が教育や医療への支出を増やすことを可能にする――すなわち,人的資本投資を可能にし,こ れには長期にわたる重要な利益が伴っている.例えばコロンビアでは,送金を受け取っている世帯は教育 に対して 10%多く支出している 17.マラウイでは,南アフリカへの移住は農村コミュニティにおける子 供の教育達成度を向上させている 18.その他の多くの諸国でも,送金を受領している世帯の子供は就学 期間が長く 19,教育レベルと生涯所得がより高い水準に達する傾向にある 20.  送金は一部の家族員が労働時間を削減することを可能にする 21.ネパールの農村部では,送金のおかげ 126 世界開発報告 2023 図 5.4 ネパールでは 2001 – 11 年の間に,出国移住率が多い村で貧困水準が低下した 20 0 貧困率の変化 ‒20 (%ポイント) ‒40 ‒60 0 10 20 30 40 GCC 諸国およびマレーシアへ向かう出国移住率の変化(%ポイント) 出所:Shrestha 2017. 注:上図はネパールの 2001 年と 2011 年に関する Housing and Population Census のデータを使って作成されている.村は 最初に GCC 加盟諸国とマレーシアに向かう移民の割合の変化に基づいて分類された.次に,村は,それぞれが人口の 1%を 含む 100 個のビンにグループ分けされた.上図の各点は各ビンについて,移住率の変化の平均 (水平軸)と貧困率の変化の平 均(垂直軸) を示している. で女性は農業や非公式な仕事に費やす時間を削減することが可能になっている 22.一部のラテンアメリ カ諸国では,送金のおかげで,農村領域の女性家族員は非公式な無給の仕事に費やす時間数を削減するこ とが可能となった.しかし,男性の世帯員は同じような影響は受けなかった 23.ただし,影響は一様で はない.ナイジェリア 24 とメキシコ 25 では,家族が企業を運営している場合のように,家族の構成員の 一人は,出国移住した人の労働と所得の後継者になる必要があった.  送金はいくつかのジェンダー間格差を埋めることに役立つ.パキスタンなどの一部の諸国では,送金は初 等教育におけるジェンダー間格差を埋めることに貢献している 26.モロッコでは,教育水準が低い両親は, 送金を受領している世帯の場合,学校により長い期間にわたって滞在できるように,娘が労働市場へ参入 する時期を先延ばししている 27.しかし,社会規範が鍵となる役割を果たしている.例えば,タジキス タンの農村部では,送金の主な受益者は少年である.というのは,労働市場では少年の方が少女よりも生 産的であるからだ 28.  利用可能な所得に対する即時的な効果に加えて,送金は以下のようなさまざまな経路を通じて貧困削減に 寄与している:  送金は家計をショックから保護する.送金は家族が経済不況に直面する際には増加し,特に公式の金融市 場へのアクセスが限定的な家族にとっては,消費の変動を抑える.フィリピンでは,台風やその他の自然 災害によって失われた世帯所得の平均で 60%を送金が埋め合わせた 29.エチオピアでは,送金を受け取っ ている世帯は家畜を売却する代わりに,現金準備を使って旱魃に対処している 30.永住移民は頻繁に送 金しているわけではないものの,そのような移民は出身国の家族が経済的に悪いショックに直面した際に は送金を増額する傾向にある 31.危機の時期には,コミュニティ全体に向けて送金を行うことも可能で ある.例えば,ニュージーランドに在住する太平洋諸島出身の移民は,2016 年にサイクロンのウィンス 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 127 トンがそのような移民の出身地域を襲った際,村の生計とより広範なコミュニティを再建するために非政 府組織を経由して物資や支援金を送った 32.  送金は金融面の制約を緩和することによって企業家的な活動を促進できる.モロッコとチュニジア 33 お よびサヘル地帯 34 では,送金を受領している世帯は(自給自足農業ではなく)商業的農業に従事して,近 代的な農業機械を購入する公算が大きい.ナイジェリアでは,送金を受領している世帯は農薬や植え付け 物資により多く投資しており,したがってより多くの収穫を得ている 35.エクアドルでは,送金は男性 の間では自営業者になる確率を,女性の間では零細企業のオーナーになる確率を高めている 36.  送金はそれを受領していない世帯においてさえ貧困を削減している.送金を受領している世帯は支出を増 やし,このことは地元の経済活動とコミュニティ内の他の世帯の所得を押し上げる 37.送金からの支出 は建設業などの非貿易部門における現地の仕事を作り出す 38.アルバニアでは,国際的な移民は自分の 故郷の村ではなく,首都のティラナで事業や住宅に投資する傾向があり,それが都市部の雇用創出や国内 移住を活性化している 39.1997  – 98 年におけるアジア金融危機の最中には,フィリピンの一部地域で は送金の受け取りが増加し,送金はその地域が不況に陥るのを防いだ 40.開発面のインパクトは,これ ら地域では,主に教育への投資の拡大を通じて,長期間にわたって持続した 41.  利益があるにもかかわらず,送金が不平等に及ぼす影響はさまざまである 42.モロッコなど一部の諸国 においては,送金は貧困層の経済的および社会的な移動性を高める 43.しかし,このような動きは複雑に なりうる.不平等に対する送金の影響はどの世帯がどれだけの額を受領しているかに依存する 44.例えば, 送金はコソボでは不平等を拡大させたが,メキシコとパキスタンでは縮小させたことが見出された 45.送 金は最初は不平等を拡大させる可能性がある.というのは,富裕層には移民を海外に送り出す十分な余裕が あり,それ故,より多くの送金を受け取るからだ.しかし,移住が移民ネットワークを通じて容易になり, そしてコストが低下する際には,不平等は時とともに縮小する.このことによって,富裕層ではない世帯も 利益を得ることができるようになる.さらに,送金は――送金を受領して相対的に富裕になる世帯と,同じ コミュニティのなかでそうはならない世帯,の間で――新たな不平等も生み出すかもしれない.  貧困削減に対する送金のインパクトを一層大きくしている政策もある.例えば,移民の出身国において移 民とその家族が送金に結び付けられている貯蓄口座を開設しやすくすることは,そのような人たちが資産を 貯蓄するのを容易にする 46.一部の諸国は,出国する前の移民やその家族に対して,金融リテラシーの研 修も提供しており,このことは貯蓄率の上昇,債務水準の低下,所有資産の増加などにつながっている 47. メキシコでは,女性による土地の所有を可能にする規制改革は,農村部で送金を受け取っている世帯の女性 の構成員の起業家的な活動を活性化してきている 48.移住の開発面での効果を高めていることが示されて いる他の介入策としては,受け取り送金を教育目的に充当するよう世帯を奨励するマッチング補助金制度が (ワシントン DC のエルサルバドル移民を対象にした EduRemesa (2011  ある.2 つの実験的な活動 – 12 年 )49 およびローマのフィリピン移民を対象とした EduPay (2012  – 13 年 )50 は,他の支出カテゴリーを 締め出すことなく教育支出を増加させた. マクロ経済的な安定性  送金は外国為替の安定源であり,それがマクロ経済の安定性を支える.政府開発援助(ODA)のフロー― ―政府対政府――,ないし利潤追求型の外国直接投資(FDI)や他の資本フローとは異なり,送金は家族関係 に基づく私的な個人の間での移転である.外国為替流入に対する寄与においては,送金は輸入品の支払いや 外部に対する債務の返済に利用可能な外国為替準備を増加させる 51.フィリピンでは,送金は最大の外部 金融源であり,貿易赤字をまかない,経常勘定収支を黒字に維持している 52.  送金は,ほとんどが世帯の消費を賄うために使われることから,FDI や他の資本フローよりも変動がよ –  り少ない傾向にある.1980  2015 年の間には,公的資本フローの変動性は送金の 2 倍であり,民間資本 のフローは送金の 3 倍以上の変動を示した(図 5.5)53.送金は危機の時期においてさえ強靭である傾向にあ 128 世界開発報告 2023 図 5.5 1980 – 2015 年において,送金の変動性は他の資本 –  る.例えば,2008  10 年のグローバル金融危機の際に,他 流入よりも低かった の資本流入は突然停止した一方で,送金は相対的に安定した 5 状態を維持した 54.COVID-19 のパンデミックの期間には, 4.2 発生当初における減少の後,移民の移住先国で財政刺激パッ 4 ケージが採用されたことに続いて,送金は急速に回復した 55. 変動性 送金とそれの相対的な安定性が提供する巨額の外国為替の利 3 用可能性は,市場の信頼を繋ぎ留め,政府や企業の借入コス (標準偏差) 2 1.9 トを抑制することに役立つ 56. 1.4  移民が送金を行うことができる能力は移民の出身国におけ 1 0.7 る景気の変動によって影響を受けることはなく,このことは そのような変動を均すことに役立ちうる.例えば,送金の流 0 入は自然災害の後には増えている.ラテンアメリカ・カリブ 送金受領額が大きい諸国 ではハリケーンや他の自然災害の後では,送金は GDP の 4% 送金 ODA FDI 流入総額 から 4.6%に増加し 57,エルサルバドルへの送金は農業が過 出所:De et al. 2019. 酷な状況を経験した後には増加したことが見出された 58. 注:資金フローは各国の GDP に対して相対的に測定されてい  しかし,送金フローは移住先国の景気の変動から影響を る.その変動性は,1980 – 2015 年における平均からの乖離で 受ける可能性がある.例えば,2015 年と 20 年には,石油 測定されている.もし年次フローが平均に非常に近い値を維持 するならば――すなわち,年毎の変化が大きくなければ――変 価格の軟調は,石油輸出に依存している諸国において経済 動性は低い.しかし,各年のフローの変化が大幅であれば,そ 活動と移民労働者の雇用を減少させ,そのことは送金の流 の分散と変動性は大きくなる. 「送金受領額が大きい諸国」 とは, 2003 – 12 年の期間において送金受領額が GDP の 1%よりも大 出に影響を及ぼした.そうではあるものの,マクロ経済変 きかった諸国を指す. FDI =外国直接投資;ODA =政府開発援助. 動の平滑化をうまく管理している諸国では,低下はさほど 顕著ではなかった.例えば,ロシアからの外部への送金は サウジアラビアからの外部への送金よりもより大幅な減少 を示した(図 5.6)59.  多様な移住先諸国から送金を受領している諸国は,それら諸国の景気の変動から影響を受ける度合いが小 さい 60.これは 2008  – 10 年のグローバル金融危機後におけるフィリピンとメキシコの異なる方向に進ん だ経験で例証されている.フィリピン人移民は,グローバルに拡散しており,医療や製造業,建設業,海運 業などのさまざまな部門にわたって働いている.世界的な金融危機が頂点に達した際に,フィリピン人移民 の送金は 5.6%の増加を示した.対照的にメキシコ人移民はアメリカに集中しており,さらに,金融危機の 際には深刻な落ち込みを経験した建設部門とサービス部門で主に働いている 61.金融危機の際,メキシコ 向けの送金は 16%減少した. 仕向送金のコスト  国境を越える仕向送金は,技術の進歩にもかかわらず,高価な状態が続いている.送金のコストは, 2022 年の第 2 四半期においては平均で(送金額の)6%であり,国連の持続可能な開発目標(SDG)のター ゲットである 3%の 2 倍であった.コストには送る側と受け取る側の両方の国における各種手数料と外国 為替マージンが含まれている 62.送金のコストはサハラ以南アフリカへの送金が最も高く,2022 年第 2 四半期の時点で 8.8%であった.  送金は,アフリカ,中東,南アジアの諸国の一部で利用されているハワラ(hawala)という非公式制度に 加えて,一連の事業者――銀行,資金振替事業者,郵便局,それに移動体通信事業者など――を通じて行わ れている.平均では,銀行の手数料は比較的高く,他の転送手段よりも送金に長い時間がかかる傾向にある. 郵便局は,取扱量と需要は多くの場合に少ないものの,比較的高価ではない 63.ウェスタン・ユニオンな いしマネーグラムなどの送金事業者は,コストの高さという点では第 3 位である.M- ペサ(ケニアからタ ンザニアとウガンダへ,ルワンダからケニアへ,タンザニアからケニアへ)やオレンジ・マネー(フランス 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 129 図 5.6 2007 – 20 年において,ロシアからの外部への送金の流れはサウジアラビアと比べて石油価格との相関関 係が強かった 12 14 0 石油価格 10 12 0 10 0 送金額 (1バレル当たり米ドル) 8 80 ( 億ドル) 10 6 60 4 40 2 20 0 0 1 4 3 2 1 4 3 2 1 4 3 2 1 4 3 2 1 4 3 :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q 07 08 09 15 16 07 10 10 11 12 13 13 14 16 17 18 19 19 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 外部向け送金(ロシア) 外部向け送金(サウジアラビア) ブレント原油(1バレル当たり米ドル) 出所:World Bank 2021b. 注:Q =四半期. からコートジボワールとマリへ,セネガルからマリへ)などの移動体通信事業者の送金システムが最安値の 経路であり,そのコストは SDG の目標値に近い(図 5.7).典型的には,非公式送金は携帯電話による支払 いサービスよりも高い 64.  送金のコストには多種多様な要因が反映されている.送金の流入額が大きいインドやフィリピンなどの諸 国は,総じて低い送金コストを享受している――特定の回廊や取引金額については「手数料なし」のことさえ ある.しかし低所得国が直面している選択できる送金手段は,特に小額で不規則な額を受領している貧しい 世帯にとっては,より高価である.手数料が高い回廊は,仕向国あるいは被仕向国のいずれかにおいて,競 争が制限されている傾向にある 65.そのような国では,移民が少なく 66,やはり,仕向国と被仕向国の両 方において金融機関へのアクセスがより困難である 67.  携帯電話を介するデジタル・マネーは事業者にかかわらずコストを低下させつつある.しかし,その潜在 的な成長性と利用可能性は資金洗浄やテロリズムの資金調達を標的にした規則によって制約を受けている. このような事業者は,国際的な送金ネットワークと提携することや,国内の支払いシステムにアクセスする ことにおいて,厳格な審査に直面している 68.  送金コストを引き下げるには,送金の仕向国と被仕向国の両方が競争を増やし,そして移民やその家族が 自分にとって利用可能な全ての経路のコストを比較できるようにすることが必要である 69.携帯電話によ る支払いサービスの利用を拡大することも,十分な規制が行われている市場という状況でコストを低下させ (G20) ることに役立つであろう.20 カ国グループ はそのような効果を引き起こすことに向けたロード・マッ プを開発してきている.それは次のことを要請している:(1) 官民両部門による共同ビジョンの公約;(2) 規制・ 監督・監視の枠組みの調整;(3) 越境支払いの要件を支援することを目的とした既存の支払いインフラや取 り決めの改善;(4) データの質の改善とデータ交換の標準化;(5) 新しい支払いインフラや取り決め 70.一 部の諸国では,金融部門の強化を目的とする改革も,送金者に公式の金融チャネルを通じて送金することを 促すことができる. 130 世界開発報告 2023 図 5.7 移動体通信事業者経由の送金は他の経路を通じるよりも安価 200 ドルを一回送金する際のコストの平均;2011 – 22 年 14 コストの平均 12 10 (送金額に対する割合、%) 8 6 4 2 0 3 3 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 2 4 :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q :Q 12 13 13 14 14 15 15 16 16 17 17 18 18 19 19 20 20 21 22 21 11 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 銀行 送金事業者 郵便局 移動体通信事業者 出所:Remittance Prices Worldwide (portal), World Bank, Washington, DC, https://remittanceprices.worldbank.org のデータ に基づく WDR 2023 チームの試算. 注:Q =四半期. 知識移転の活用 (diaspora)  移住は散在する海外在住者 や帰国移民からの知識移転を通じて移民の出身国に利益をもたら す.この効果は,移住者が行き先国で成功裡に雇用されている場合に――すなわち,移住者のスキルや属性 が移住先国の経済のニーズに高度に適合している場合に――より大きくなる.知識移転には移住者の出身国 への制度的な規範や社会的な規範の移転が含まれることもある(ボックス 5.1).  移住は移住者の出身国をグローバルなネットワークに統合することに貢献する.一部の移民は,移住者 の出身国と移住先国の間の国際貿易を増やす触媒として機能してきている 71.そのような人たちは法律や, 規則,市場,製品に関する情報を提供し,そしてこれら諸国で横断的に売り手と買い手を結び付けてきてい る.移住者の出身国で生産された財・サービスに対する需要の増加もそれら諸国出身の移民とつながりがあ る 72.移住は,移民の移住先国から移民の出身国への FDI フローの増加 73 や対応する取引コストの削減と も連動してきている.  移民は――特に教育程度が高く,高いスキルを要する職業に就いているなら――知識を移転し,革新を育む ことによって,移民の出身国における産業を発展させることにも役立ってきている 74.例えば,カリフォル ニアのシリコン・バレーに在住するインド人移民は,インドで大規模な情報技術関連企業を創設している 75. 2006 年時点で,帰国者が創設した企業は,バンガロールのソフトウェア・テクノロジー・パークに所在す る企業のほぼ 90%を占めていた 76.特許申請の引用は,民族的なネットワークは知識移転を促進し,移民 の出身国に所在する製造業の労働生産性を引き上げていることを明らかにしている 77.散在する海外在住 者の一部は経済政策策定に関する国家的な討論に貢献している.例えば,ベトナム 78 や韓国は,自国の経 済開発計画の策定に海外在住者の参加を招聘するプログラムを実施している.  一部の一時的な移民は,海外でスキルを修得し,そしてスキルと資産をより高度に身に付けて帰国してい る 79.そのような人たちは,特に高等教育を受けた人については,同程度の教育水準を有する非移民の労 働者よりも高い賃金を享受している 80.また,そのような人たちは,移民でない人たちよりも自営業や起 業家的活動に従事することも多いようである.それは特に,移民のリスク許容度は相対的に高く,企業家的 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 131 ボックス 5.1 移民は当人の出身国に制度的および社会的な規範を移転できる  移民は当人の出身国における制度的な変化の動因になりうる.移住先国での滞在が短いほど――すなわち 出身国との結び付きが強いほど――,移住先国から出身国への思想の伝播はより大きくなる a. 「社会的送金」 という移転は大まかには以下の 3 つの分野で起こっている. 制度の質.高いスキルを有する個人の移住は,移住者の出身国が散在する海外在住の関係者や帰国移民が社 会的および経済的な活動へ参加することを可能にする政策を採用している場合には,制度の質にプラス効果 をもたらす.そのような状況下では,制度の質は,移住先国で修得された知識や経験から利益を享受できる. しかし,大規模な出国移住が地方の政府や政党における有能な専門家の不足につながるときには,そのよう な効果は弱まり,このことは政治的および社会的な変化を遅らせる b. 説明責任の要求.移民世帯は政治的により活動的である傾向があり,カーボベルデやフィリピンでみられる ように,移民の出身国のコミュニティにおいて,より多くの政治的説明の義務を要求する公算が大きい.フィ リピン人移民からの送金は,地方レベルでの政府の有効性と正の相関関係を有する c.  送金のおかげで教育水準が上昇することから,住民は政治的な説明責任をより一層要求し,そして地方政府 においてレント・シーキング活動が行われる可能性は低下した.移民を移民が出身した村落と繋ぐネットワー クはモザンビークなどの諸国において,政治姿勢を形成し,そして村の住民をエンパワメントしてきている. ジェンダーに関する規範.移住はジェンダーに関する規範の発展に影響を与えるが,その過程はさまざまであ る.例えば,ヨーロッパに移住したモロッコ人やトルコ人は,出身国のコミュニティにジェンダー別の役割に 対するリベラルな見方をもたらしており,子供の数は少ない傾向にある.対照的に,ヨルダンやエジプトなど それを伝えている d. から GCC 諸国に移住した移民はジェンダーに関してより保守的な規範を採用して, さらに, 移民のいない同等の比較対象となる世帯と比べて子供の数は多い傾向にある e.女性の政治的なエンパワメ ントが定着している諸国への移住は,移民の出身国における女性の議会参加率の高さと相関関係がある. a. Docquier et al. (2016); Levitt (1998); Tran, Cameron, and Poot (2017). b. Anelli and Peri (2017); Horvat (2004). c. Tusalem (2018). d. Chattopadhyay, White, and Debpuur (2006); Ferrant and Tuccio (2015); 南 々 移 住 を 研 究 し て い る Hadi (2001); Sakka, Dikaiou, and Kiosseoglou (1999); Tuccio and Wahba (2018). e. Hadi (2001); Sakka, Dikaiou, and Kiosseoglou (1999); Tuccio and Wahba (2018). な精神が旺盛であることによる 81.例えばバングラデシュでは,帰国した一時的移民の 3 分の 2 以上が帰 国後に何らかの形態の企業家ないし自営業者としての活動に従事している.これに対して,同程度の教育を 受けた非移民の場合,その割合はわずか 3 分の 1 である(図 5.8)82.  知識移転は移住者の出身国における政府の政策によって支援することができる.移転の程度は,政治的安 定性,制度の質,投資環境,人的資本,そして輸出能力などに依存する.一部の諸国は,研究開発における 散在する海外在住者の関与を促進する措置も採用している 83.フィリピンのように, 協業を育むことを含め, 一時的な移民に企業家研修を提供している国もある.これは,そのような移民の国内労働力への復帰を容易 にし,国家開発に寄与できる可能性を改善するためである 84. 労働市場に対する影響の管理 雇用と賃金  大勢の労働者の出国移住は,移住者の出身国における労働力の規模を縮小する.フィリピンの場合,約 200 万人の労働者(労働力の約 5%)が,海外での一時的な仕事――平均すると 7 年間――を求めて毎年出 132 世界開発報告 2023 図 5.8 バングラデシュでは,帰国した移民は非移民と比べて自営業者ないし企業家になることが多い 自営業あるいは起業家的活動に従事している人の割合;年齢別,および移住の状態別 80 60 人口に占めるの割合 40 (%) 20 0 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 年齢(年) 非移民 移民(移住を行う前) 移民(移住を行った後) 出所:Bossavie et al. 2021. 国している.タジキスタンでは,労働力の約半分が季節的という条件で海外,主にロシアで働いている.こ のような外部へ向かう移住は,特に若年層の人口が多い低所得国において,失業や不完全雇用の圧力を軽減 する 85.しかし,この効果は移民が帰国して国内の労働力に再参加する場合には部分的に弱まる. 移住が労働力に及ぼす影響は地域について横断的にみると不均等である.というのは,  移民の出身国では, メキシコにおけるように,移民の出身地域は一部の地域に大きく偏っているからだ(地図 5.1).フィリピン の一部地域では,出国移民の割合が全国平均の 2 倍の高さとなっている.バングラデシュでは, 地図 5.1 メキシコから出国する移民の割合は地域ごとに不均等 出国移民の割合が労働力の 10%に達する地域も 出国移民がいる世帯の割合;地方自治体別 ある.労働市場への影響は流出の規模が大きい 地域ほど大きくなる 86.  時には,出国移住は労働市場を逼迫させ,続い て国内での労働者の移動を発生させる.例えばイ ンドでは,ケララ州からの出国移住はコルカタ市 出身の労働者が転居をする機会を生み出した 87. 割合(%) バングラデシュでは,そういった国内における労 10 働の再配置を促進するために,政府は国内での移 8 6 動の交通費を補助してきている 88. 5 4  移住が国内賃金に与える影響は多くの場合によ 3 2 り複雑である――そして,それは概して,誰が移 1 0 IBRD 47153 | 住するか次第である.もし移民が移住前に失業し APRIL 2023 ていたのであれば,移住は賃金を大幅に変化させ 出所:Censo de Población y Vivienda 2020 (dashboard), Instituto Nacional de ることなく労働力参加率を押し上げる 89.他方, Estadística y Geografía, Aguascalientes, Mexico, https://www.inegi もし移民が移住前に働いていたのであれば,そ .org.mx/programas/ccpv/2020/ のデータに基づく WDR 2023 チームの試算. の移民の出国は同じようなスキルを持ち,かつ 注:上図は各地方自治体において 2014 – 19 年に少なくとも家族員の 1 人が出 国移住した世帯の割合を示している. 本国に留まっている労働者の賃金を上昇させる 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 133 かもしれない.例えば,2000 年代の初め,パキスタンとフィリピンでは,若い低スキル労働者の流出は, 他の低スキル労働者の賃金を上昇させた 90.しかし移住は,持っているスキルが移民のスキルに対して補 足的であるような労働者の賃金を低下させる可能性もある.例えば,移住によって不在になる高所得の顧客 に相当な数のサービス産業がサービスを提供している場合,高スキル労働者の出国移住は低スキル労働者の 賃金を低下させる 91. 頭脳流出  スキルと属性が移住先国の経済のニーズに高度に適合している移民は,移民の出身国においても極めて重 要な労働者である可能性がある.したがって,そのような人の出国移住は,移民の出身国と行き先国の利害 が一致しないという状況を生み出す可能性がある.  低所得国からの高スキル者の出国移住はしばしば「頭脳流出」と言われている.質の高い労働者を失うこと から生じる移住者の出身国にとっての損害が,そのような労働者がもたらす送金と知識波及から得られる利 益を上回る場合,それは開発にとって障害になる.このような悪影響は,労働者が医療など,移住者の出身 国の社会にとって不可欠であるとみられる職業に就いている場合には特に実際的な重要性を持つ.  高スキル労働者の出国移住はグローバルな現象である.その割合は高所得の OECD 加盟国では高いスキ ルを有する人の約 4%,中所得国では 10%をわずかに上回る程度,そして低所得国では約 20%となって いる 92.高い水準のスキルは多くの [移民の]行き先国でより多くの需要がある傾向にあり,そのような移 民は外国での雇用機会へのより良いアクセスを有している.したがって,低・中所得国出身の出国移住者の 間では,高等教育修了者の存在が大きな比率を占める傾向にある 93.高等教育修了の資格を持つ個 (図 5.9) 人の出国移住率は,初等教育のみ修了者の 7.3 倍であり,中等教育まで修了した人の 3.5 倍となっている. (25 歳以上) 例えば,高等教育を修了したカンボジア人 の 25.6%は海外在住であり,それと比較して,初 等ないし中等教育まで修了した人たちの間では,その比率は 6.7%である 94.  スキルと教育のレベルが高い労働者の出国移住率は,低所得国や小国でとりわけ高い.サハラ以南アフリ カ,それにカリブや太平洋の小島嶼開発途上国では,出国移住する高等教育修了者の割合は,教育程度が高 等教育未満の人の 30 倍の高さとなっている 95.小島嶼開発途上国生まれで高等教育を修了した人の全体の 40%以上が別の国へ移住している.高等教育を修了したカーボベルデ人の約 70%が海外に住んでいる 96. 2018 年の時点で,サハラ以南アフリカで訓練を受けた医師について,2 万 5,000 人――アフリカ全体に おける医師総数のほぼ 4 分の 1――は OECD 諸国で働いていた 97.  移民の出身国にとって,頭脳流出は 2 つの政策課題を提起する.第 1 に,頭脳流出の影響,特に医療な どの部門に対する影響をどのようにして緩和するか? 第 2 に,移住者の出身国の損失が移住先国の利益 [当該移民の] に転換されている場合,移住先国から 出身国へ利益の一部を再配分する仕組みを確立すること は可能か? この問いは出国移民の教育の資金が,全体あるいは一部のどちらであっても,公的に賄われて いる場合にはとりわけ実際的な重要性を持つ.  高いスキルを有する人の出国移住は,当人の出身国における経済的な限界や,資源制約に起因しているこ とが多い.高いスキルを有する労働者の一部は国内では当人の生産能力を完全に発揮させるようには雇用さ れていない 98.例えば,一部の諸国では基本的な医療ケア・サービスの提供における挑戦課題は,医療専 門家の不在だけではなく,医療ケア制度における資金や,医薬品,施設などの不足からも発生している.ベ ニンや,コートジボワール,マリ,セネガルなどでは,一部の不足は医師が農村部を犠牲にして 99,都市 部で働くことを選好することから生じている.時には,移住の決断は,所得だけでなく,専門家としての昇 進の見通しや,施設の良さ,家族の安全などとも結び付いている 100.  多くの小国では,一部の産業にとっては,国内市場は利益を出すにはあまりに狭すぎる.移住するよりも, むしろ留まる動機を高スキルの専門家に与えることを追求して,一部の諸国はグローバル市場にも役立ちう るニッチな活動に特化してきている.例えば,医療ツーリズムは,医療ケア部門において追加的な収入源と しての役割を果たすだけでなく,医療従事者に,国内需要に対応することに加えて,国内に留まる機会を提 134 世界開発報告 2023 図 5.9 平均的には,移民は出身国の労働力よりも教育程度が高い 出国移民および移民の出身国の労働力に高等教育修了者が占める割合;2020 年 70 60 高等教育修了者が出国移民に占める割合 50 PHL GBR CHN DEU 40 VNM IND VE N UK R POL RUS EGY CO L 30 PAK ITA ROM KAZ TUR 20 MAR MEX IDN (%) BGD 10 AFG 0 10 20 30 40 50 60 当該移民の出身国の労働力の間で高等教育修了者(完了)が占める割合(%) 出所:WDR 2023 チームによる編集. WDR2023 Migration Database, World Bank, Washington, DC, https://www.worldbank. org/wdr2023/data. 人口のスキル構成に関するデータ:census data, 2014–20; updated Barro and Lee (2013); Data (portal), Wittgenstein Centre for Demography and Global Human Capital, Vienna, https://www.wittgensteincentre.org/en/data.htm. 注:円の大きさは当該国からの出国移民数に比例している.対角線は,出国移民と移民出身国の労働力の間で高等教育修了者 (ISO) の割合が等しいことを示す.国の略号については,以下の国際標準化機構 を参照:https://www.iso.org/obp/ui/#search. 供することができる 101.小国にとっては,地域的な協力も,国内市場を拡大し,そうしなければおそらく 存続不可能な特化した活動を維持することを可能にするであろう.そうすることによって,高いスキルを有 する専門家が海外移住する動機は低下する.  頭脳流出の影響を小さくするために,移民の出身国は高スキル労働者を訓練する自国の能力を拡充する必 要がある.能力を拡充することは,たとえ[高いスキルを獲得した]一部の人は移住するとしても,十分な人 数の高スキル労働者が国内にとどまる可能性を高める.しかし,挑戦課題は,そのような拡充の資金をどの ようにして賄うかである.  出身国を離れる高スキル労働者が出身国からの公的資金で教育されている時には,そのような人の出国移 (典型的には低所得) 住は事実上の,移住者の出身国 から移住先国(典型的には高所得)への助成金になる.し かし,大学教育を受けた出国移民のほぼ 3 分の 1 は移住後に教育を受けている――移住後の教育の費用は 当人の出身国の負担ではない.それは,そのような移民の出身国のコストにはならない 102.この割合は一 部の移民グループの間ではとりわけ高い.例えば,アメリカに住んでいる大学教育を受けたジャマイカ人の 50% 以上がアメリカで教育を受けている(図 5.10).高等教育を修了しているミクロネシア人の 90%,そ してトンガ人の 95%は海外で学位を取得した 103.  一部諸国では,私教育が公的な取り組みを補完することが可能である.例えば,移住先国における看護師に 対する需要の高まりに対応して,フィリピンは私立機関における看護教育プログラムを速やかに拡大した 104. 看護師が新たに外国へ移住する毎に,新たに 9 人に看護師免許が交付され,最終的には国内の看護師の人 数が増加した 105. 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 135 図 5.10 ラテンアメリカ・カリブやサハラ以南アフリカからアメリカに移住した多くの高スキル移民はアメリカ で高等教育を受けている アメリカで高等教育の学位を修得した,アメリカ在住の高スキル移民の割合 a. ラテンアメリカ・カリブ b. サハラ以南アフリカ からの移住 からの移住 80 80 60 60 移民の割合 移民の割合 40 40 (%) (%) 20 20 0 0 ラ ニ グア ア ア ア ア ナ カ チ ズ ゴ ル 国 デ ル リ イ マ ビ ビ ニ イ ー ー バ ド ル 和 ガ ベ ド カラ リ バ マ テ ン ン エ ・ト ハ ギ ガ ネ ベ 共 リ ベ ャ ア ザ ガ ル セ カ ボ ニ ジ ド グ サ ー ー ル ミ カ ダ ニ リ ト 移民の出身国 移民の出身国 出所:以下に基づく WDR 2023 チームの試算――2019 five-year estimates of American Community Survey (dashboard), US Census Bureau, Suitland, MD, https://www.census.gov/programs-surveys/acs.  国際協力は,頭脳流出の悪影響の一部を削減すると同時に,労働者のスキルおよび属性と,移住先国の経 済のニーズとの間の適合性を高めることができる.例えば,グローバル・スキルズ・パートナーシップ(GSP) や,その他の,移民出身国と移住先国との間での二国間および地域的な協定は,訓練の拡充を促進する 106. GSP では,移住先国は,移住先国の労働市場で必要とされている資格を移民が取得できるように,移住す る可能性のある人の訓練を――政府部門か民間部門のどちらかが――引き受けている.この訓練は移住に先 立って,移民の出身国で実施される.それは国内にとどまり国内の労働市場に参入する予定の学生にとって も利益がある.  しかし,効果的であるためには,そのような制度は民間部門の相当な関与を伴う市場主導型でなければ ならない.オーストラリア太平洋訓練連合(APTC)はこの教訓を学んだ.APTC は,5 つの大平洋諸島国 に技術職業訓練キャンパスを創設し,2019 年までに 1 万 5,000 人以上の卒業生を輩出した 107.しかし, その大半は仕事をするためにオーストラリアないしニュージーランドに移住することを希望しているにもか かわらず,そうしたのはほんのわずかの学生のみであった.この結果は,可能性のある雇用者とのつながり が弱いこと,そして移住者の出身国で取得したスキルや経験を認証する仕組みが不十分であることに由来し ていた 108.  医療などの極めて重要な部門においてエッセンシャルな労働者を保持するために必要とされる追加的措置 は,移住者の出身国と移住先国の間での協力を必要とするであろう.例えば,移民の出身国の一部はエッセ ンシャルな労働者に最低限の期間にわたって国内で勤務することを義務付けることを検討している.市場諸 力に反するそのような制度の執行は,挑戦的であり,移住者の出身国と移住先国の両サイドによって支援さ れる場合に成功する可能性が高まる――例えばそれは,移住先国が二国間労働協定全体のより広範な文脈内 で,ビザ受領の条件として最低限の期間の勤務を義務化するといった場合である 109.しかし,そのような 136 世界開発報告 2023 ボックス 5.2 フィリピン:移民の出身国が移住から利益を得ることができる方法についての事例 研究  フィリピンは移住に関して進取的かつ統合的な政策アプローチの教訓的な実例を提示している.フィリピ ンの移住制度は 1970 年代から移住サイクルの全体――事前準備から最終的な帰国と再統合まで――にわた る現行の構造へと変移してきている.その要素には以下が含まれている:  二国間労働協定.フィリピンは出国移民のためにより良い条件を提供することを目的として 54 の二国間 (BLA) 労働協定 を締結している.例えば,家事サービス労働者に関するサウジアラビアや他の GCC 諸国 との BLA は,移住コストを削減するために斡旋手数料を廃止し,特定の権利と保護を規定しているモデ ル契約を含んでいる.また,最低賃金の設定を可能にしている.BLA は労働者に技術的なスキルや知識を より適切に身に付けさせるための,広範な改革も同時に実施している.このような協定の執行には移住先 国とフィリピンの両方による継続的な努力が必要とされる a.  移民の準備.政府は,グローバルな市場における需要に沿って移民になる可能性のある人のスキルを開発 (TESDA) するためのプログラムを整備している.技術教育技能開発庁 は年当たり 80 万人以上の大学卒業 生に訓練を行っている.看護など,世界的に多くの需要があるとして選ばれた職業における教育は,拡充 されてきてもいる.このアプローチは国内労働市場にもプラスの効果を及ぼしている.というのも,この プログラムの卒業生の一部は移住しないからだ.並行して,政府は,移住先国に特化した情報に加えて, 移住のリスクと利益,および労働者の権利と安全性にかかわる措置等に関する情報を移民に提供するため に出国前のオリエンテーション・プログラムを実施している.最近,フィリピン政府は海外で働くことを 考えている全ての人に対して,金融リテラシー研修の受講を要請することを始めた.最近になって,この 試験的な金融リテラシーのクラスをオリエンテーション・プログラムに組み込んだことによって,一部の 移住者の間で銀行口座を保有する可能性が高まった b.このような試験的な取り組みから得られた教訓は 実験段階の枠を超えて,より広範な取り組みのなかに反映される必要があるだろう.  移民の保護.フィリピンは,移民労働者が海外に滞在している間には, (POLO) フィリピン海外労働事務所 を通じて移民と接触することを目指している.POLO は,労働保護や,職業訓練,支援一般などを援助し 「到着後オリエンテーション・セミナー」 ている.加えて,フィリピンは を設定している.このセミナー [保護を] は移住先国についての情報を伝えており,一部の例外的な状況下では, 必要としている女性の移 [不測の事態で頼みの綱となる] 民労働者のためのシェルターとして機能することができるリソース セン ターを提供している.労働者とその世帯の保護を強化するために,政府は保険加入を要請している.これ は一般的には雇用者ないし就職斡旋人の責任ではあるが,COVID-19 のパンデミック期に露呈したように, そういった健康保険の適用範囲にはギャップがある c.  送金のコスト.送金は,フィリピンでは特に子供のための,健康や教育への投資の重要な決定要因である. 同じ地域内の他国からフィリピンへ送金を行う際のコストは世界全体において最安の部類に入る.これ は,政府と民間部門がデジタル・プラットフォームを開発し,そして送金サービスに関する情報を拡充す るために努力したことによる.教育への投資も,貸し手が送金を特定の目的のために設計することを可能 にした民間部門の革新によって増加している.そうではあるものの,送金の開発面での相当なインパクト にもかかわらず,特に親ないし保護者が海外に在住している子供たちにとっては,依然としてギャップが 残っている.また,送金に依存している世帯はパンデミックのような,海外からもたらされる,保険が適 用されていないショックに見舞われるかもしれない d.  帰国する移民への支援.帰国する移民の経済的な潜在力を最大化するために,政府は帰国移民の労働市場 への再統合を支援するためのプログラムを実施しており,そのようなものとして,帰国や,海外滞在中に スキルを身に付ける機会に関する情報の提供がある.また,政府は企業家的な活動のためのビジネス研修 や,ローンないし補助金の提供も行っている.しかし,このような支援的な取り組みの利用は低調である ――帰国者のわずか 4%にとどまっている.帰国移民の 70%が,依然として満足できる仕事の発見に苦 (ボックス:次ページへ続く) 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 137 ボックス 5.2 フィリピン:移民の出身国が移住から利益を得ることができる方法についての事例 (続き) 研究 労していると報告している.政府は,COVID-19 のパンデミックの期間には特に,このような努力の拡充 を引き続き図っている e. 「フィリピン開発計画 2017 – 2022」  制度的な取り決め. は移住を主流に組み込み,一時的な移動を促進し, そして移民の帰国を支援することを目指している f.新しい (2023 – 2028) 「フィリピン開発計画」 は帰国移 民の経済への再参入,それに移民の子供に対する健康および心理面の社会サービスの提供を通じるものを 含め,社会的な影響の管理に焦点を合わせている.すべての介入策の間での統一性を確保することを目的 として,内閣レベルで移民労働者に関する省を創設するために,政府はいくつかの機関を統合した.その 省は移民とその家族を出国前,海外滞在中,そして帰国時に,支援することを目的としている g.加えて, 最近になって政府は,上院議員と政党名簿代議員に対して海外在住移民が投票を行う権利を,移民の意見 を聞く方法として復活させた. 出所:Ang and Tiongson (2023). Arriola (2022); Chilton and Woda (2021); ILO (2019); Rivera, Serrano, and Tullao (2013); Ruhunage (2014); a. Wickramasekara (2015); Yagi et al. (2014). Abarcar and Theoharides (2021); Barsbai et al. (2022); Cabanda (2017); OECD (2017, 105) . 以 下 に お け る フ ィ b. リ ピ ン に 関 す る さ ま ざ ま な 言 及 も 参 照:Good Practices Database: Labour Migration Policies and Programmes, International Labour Organization, Geneva, https://www.ilo.org/dyn/migpractice/migmain.home. c. Ang and Tiongson (2023); DOLE (2015). d. Asis (2006); Clemens and Tiongson (2017); Cortes (2015); De Arcangelis et al. (2015); Dominguez and Hall (2022); Edillon (2008); NEDA (2021); Pajaron, Latinazo, and Trinidad (2020); World Bank (2022b); Yang (2008). e. Ang and Tiongson (2023); Asis (2020); OECD (2017, 83). f. NEDA (2021). g. “About DMW,” Department of Migrant Workers, Mandaluyong City, the Philippines, https://www.dmw.gov.ph/ about-dmw. 措置は,対象の労働者にとって国内労働市場を魅力的にするようなその他の政策に代替するものではなく, 単に補完策になれるだけである 110. 戦略的アプローチを採用  スキルや属性が移住先国の経済に高度に適合している労働者の移住は,移住者の出身国における貧困削 減の強力な原動力になりうる.フィリピンなど,移民の出身国の一部は,開発戦略の不可欠な一部としてそ のような移住を管理しており,注目すべき結果を残している(ボックス 5.2).  貧困削減を目的として出国移住を管理するために,各国は様々な領域で措置を採用してきており,それら は多くの場合に互いに強め会っている.そのような領域として,以下がある:  送金コスト.送金コストを引き下げ,そのような取引を公式な金融部門を経由して行うことを移民に奨励 する.例えば,メキシコは一定金額 (約 3 万ドル)未満の送金受取に対しては所得税を課していない 111. ベトナムとタジキスタンも流入送金に対する課税を廃止し,結果として流入が増加している 112.この ような取り組みは移住先国との協力によって補完することができる.例えば,トンガ開発銀行は‘Ave Pa’anga Pau という新たな構想を開始した.これはデジタルサービスであり,ニュージーランドとオー ストラリアから受領する送金を約 4.5%の手数料で支援している 113. 138 世界開発報告 2023  知識移転.知識移転の効果を最大化することを目的として,ビジネス環境を強化し,知識フローをより一 層促進するために,散在する海外在住者と連携する.例えば,韓国やベトナムには,自国の経済開発計画 の策定に参画するために,海外在住者を招くプログラムがある.  帰国の支援.マレーシアにおけるように,帰国移民が国内労働市場に再参入するに際して,そのような 移民を支援する.移民労働者の帰国を誘発するために,マレーシアは,5 年間にわたる 15%の一律所得税, 外国籍の配偶者および子供に対する永住権資格,そしてさまざまな免税,を含む便益を提供している.  スキル構築.国内市場と潜在的な移住先国の両方のニーズに高度に適合するスキルを労働者に提供し,特 定のスキル・セットへの特化も行う.これは,ドイツとのトリプル・ウィン・プログラムというプログラ ムのなかで,ボスニア・ヘルツェゴビナや,フィリピン,チュニジア,インドネシア,インドにおいて行 われている.このプログラムはドイツへの移住を円滑化することが企図されている.このプログラムの行 程は,外国の資格認証プロセス,言語および専門課程,就職の斡旋で構成されている.その後,受益者に は居住許可証が与えられる.  海外に在住する自国民を支援.海外に滞在中の移住者を支援するために,支援の領事サービスを強化する. この措置はフィリピンによって行われ,この措置によって,フィリピンの移民は虐待や搾取からより確実 に保護されるようになった.  このような努力が,国レベルで,および二国間協力を通じて,一部の国では制度化されてきている.移住 者の出身国の多くが出国移民に関連のある政策を設計および実施し,そして他の政府部局と調整を行うため の専門機関を設置している.バングラデシュや,パキスタン,フィリピンなどの一部諸国は,効果的な調整 のための専門の省庁を創設している.並行して,双方が利益を得るような仕方で労働移住を規制および運営 するための方法として,移民の出身国の一部は,正式な二国間労働協定を移住先国と締結している. 注 1. World Bank (2022b). (2014). 2. 移民が送金を行う理由は移民の出身国の状況と移住の 5. 以下による:KNOMAD–International Labour 形態に依存している.一方では,送金の反景気循環性 Organization (ILO) migration cost survey (KNOMAD and は移民の利他主義を示唆している――つまり,移住者 ILO 2021a, 2021b). は自分の家族の福利を改善するために送金している 6. World Bank (2018, chap. 5). (Frankel 2011; Lucas and Stark 1985; Osili 2004). 他方で 7. 送金のプラスの影響は,難民の家族にとってはもっと は,送金の行為は相続遺産につながる確率を高めるた 小さいかもしれない.難民自身が受け入れ国で仕事を め (Hoddinott 1994; Osili 2004),あるいは出身国の資産 見付けることは時間を要し,所得を得て母国の家族に に投資するため (Garip 2012) など,移民の自己利益が 送金できる能力は家族との結び付きが間延びするにし 動機となっている可能性がある.動機が何であれ,利 たがって低下するかもしれない.送金を行うことも, 他主義か自己利益かを検証するのはむずかしい.とい 制裁や紛争が出身国の金融システムに及ぼす影響に うのは,送金は多様な要因と理由――移民の子供の世 よって複雑化しているかもしれない. 話をしている家族員を報いるなど――を反映している 8. Shrestha (2017). からだ (Cox 1987). あるいはおそらく,利他主義と利己 心が共存している.Lucas and Stark (1985, 904) は次の 9. Bossavie and Garrote-Sánchez (2022, 24). ように主張している. 「結局,本当の動機が気遣いの 1 10. Acosta et al. (2008). つなのか,あるいは気遣いと感じられることによって 11. インドネシアについては Cuecuecha and Adams (2016), 威信を高めようという利己的なものかを詮索すること フィリピンについては Ducanes (2015) を参照. はできない」 . 12. Mobarak, Sharif, and Shrestha (2021). 3. Adams (2009); Fischer, Martin, and Straubhaar (1997); 13. Frasheri and Dushku (2021). Stark and Bloom (1985). 所得の一部を送金している場 14. World Bank (2019, 123). 合,移民は,例えば家族員からの送金を要請する圧力 を回避するために,真の所得を本国の家族員から隠し 15. Cuecuecha and Adams (2016). ているかもしれない.次を参照:McKenzie, Gibson, 16. Abadi et al. (2018). and Stillman (2013); Seshan and Zubrickas (2017). 17. Medina and Cardona-Sosa (2010). 4. Brown and Poirine (2005); Delpierre and Verheyden 18. Dinkelman and Mariotti (2016). 5 移民の出身国:開発に向けて移住を管理する 139 19. McKenzie and Rapoport (2011) は,このことがメキシ 51. Hosny (2020); Le Dé et al. (2015). コでは,特に思春期の若者 (13 – 15 歳)の間で,真実で 52. IMF (2017),および 4 条協議(Article IV Consultations) あることを発見している. に関する他のさまざまな報告書. 20. Bansak, Chezum, and Giri (2015). 53. Chami et al. (2008). 21. Chami et al. (2018).この文献は,1991 – 2015 年につい 54. Le Dé et al. (2015). て集計レベルで 177 カ国全体を比較したデータを使っ 55. Kpodar et al. (2021); Quayyum and Kpodar (2020); ている.留保賃金 (reservation wage)という用語はある World Bank (2021a). 人が特定の地位や雇用形態で働くのを受け入れるであ 56. Ahsan, Kellett, and Karuppannan (2014). ろう最低限の金額を指す. 57. Beaton et al. (2017). 22. Lokshin and Glinskaya (2009). 58. Halliday (2006). 23. エルサルバドルについては Acosta (2006) を参照.メキ シコについては Amuedo-Dorantes and Pozo (2006) を 59. ロシアは,キルギスやタジキスタンなどの中央アジア 参照. 諸国出身の低スキル移民にとっての重要な行き先国で ある.一方,サウジアラビアをはじめとする湾岸協力 24. Urama et al. (2017). 会議諸国は,南アジア諸国や,エジプト,インドネシア, 25. Cox-Edwards and Rodríguez-Oreggia (2006). フィリピンなどから大勢の低スキル移民を引き付けて 26. Mansuri (2006). いる. 27. Bouoiyour and Miftah (2015). 60. Barajas et al. (2012). 28. Jaupart (2019). 61. Villareal (2010). 29. Yang and Choi (2007). 62. 受取人の銀行が電信振替による自国通貨建て送金に 30. Mohapatra, Joseph, and Ratha (2009). 対して課する取引手数料は,しばしばリフティング・ 31. Taylor et al. (2005). 移民の海外での滞在期間が長くなる チャージと称されている. ほど,出身国とのつながりは弱くなり,送金の頻度も 63. World Bank (2021b). 世界銀行の Remittance Prices 低下する . Worldwide (RPW) は送金人が主要な送金回廊を通じて 32. Pairama and Le Dé (2018). 送金する場合に負担するコストを監視している.RPW はグローバルなコスト削減目的に向けた進展を測定す 33. de Haas (2001). るための基準として使われている.そのような目標と 34. Konseiga (2004). して,SDG 10. C [2030 年までに,移住労働者が,自分 35. Iheke (2014). の国にお金を送る時にかかる費用が 「送る金額の 3%」 よ 36. Acosta, Fajnzylber, and López (2007). り低くなるようにし, 「送る金額の 5%」 を超えるような 37. 送金と全体的な貧困の間の関係を適切に測定すること 費用がかかる送金方法をなくす.出典:ユニセフ] ,お は実証的には単純ではない.というのはそれらは相互 よび送金のコストのグローバルな平均を 5%にまで引き に強め合うからだ.例えば,貧困の増加は,移民が送 下げるという G20 の公約がある.RPW は 2016 年第 2 金を増やすのを誘発するかもしれない. 四半期以降,世界全体で 367 本の国際的な回廊につい て,仕向送金を行う 48 カ国と,送金を受け取る 105 カ 38. Chami et al. (2018). 国を追跡してきている.RPW は,主要な 4 種類の送金 39. Chami et al. (2018); Gedeshi and Jorgoni (2012). サービス提供者である, 銀行, 送金サービス事業者 (MTO 40. Yang and Martínez (2006). : Money Transfer Operator),郵便局,および移動体通 41. Khanna et al. (2022). 信事業者について,送金コストを追跡している.MTO 42. プラスの影響については次を参照:Acosta et al. (2008); には伝統的な提供者と革新的 / フィンテック事業者の Gubert, Lassourd, and Mesplé-Somps (2010); Margolis 両方が含まれる.1 つの回廊当たり,平均で 15 – 17 の et al. (2013); Mughal and Anwar (2012); Taylor and Dyer サービスが四半期毎に追跡されている. (2009).マイナスの影響については以下を参照:Adams 64. 例えば次を参照:Munyegera and Matsumoto (2016, (2006); Möllers and Meyer (2014).影響がないというこ 2018). とに関しては以下を参照:Yang and Martínez (2006). 65. Beck, Janfils, and Kpodar (2022). 43. de Haas (2009). 66. Beck and Martínez Pería (2011). 44. Koczan et al. (2021). 67. Beck, Janfils, and Kpodar (2022). 45. Koczan et al. (2021, 21). 68. UNCTAD (2014). 46. Chin, Karkoviata, and Wilcox (2015). アルバニアについ 69. Smart Remitter Target (SmaRT) という世界銀行の指 ては Piracha and Vadean (2010) を参照.エジプトに 標は,より安価な利用可能な選択肢を顧客に知らせる ついては Mahé (2022); McCormick and Wahba (2001); ために,各回廊においてコストが低いという点で上 Wahba and Zenou (2012) を参照.キルギスについては 位 3 つの送金サービス提供業者の平均を評価している Brück, Mahé, and Naudé (2018) を参照.ドイツからト (World Bank 2016). ルコへの帰国者については Dustmann and Kirchkamp 70. FSB (2020). (2002) を参照. 71. Lucas (2014). 47. McKenzie and Yang (2014). 72. Fagiolo and Mastrorillo (2014); Felbermayr and Jung 48. IOM (2015). (2009); Genç (2014). 49. Ambler, Aycinena, and Yang (2015). 73. Javorcik et al. (2011); Mayda et al. (2022); Parsons and 50. De Arcangelis et al. (2015). Vézina (2018). 140 世界開発報告 2023 74. Docquier and Rapoport (2012); Kerr (2008). Database, World Bank, Washington, DC, https://www. 75. Chanda and Sreenivasan (2006). worldbank.org/wdr2023/data. 76. Chanda and Sreenivasan (2006). 95. Pekkala Kerr et al. (2017). 77. Kerr (2008). 96. Batista, Lacuesta, and Vicente (2012); Kone and Özden (2017). 78. “Decree No. 74-CP on the 30th of July, 1994 of the Government on the Tasks, Authority and Organization 97. Socha-Dietrich and Dumont (2021). of the Apparatus of the Committee for Overseas 98. Pekkala Kerr et al. (2017). Vietnamese,” Legal Normative Documents (database), 99. Joint Learning Initiative-World Health Organization の Government of Vietnam, Hanoi, https://vbpl.vn/TW/ 評価では,そのような不足を,住民 1,000 人当たりで Pages/vbpqen-toanvan.aspx?ItemID=2831. 医療従事者 (医師, 看護師, および助産婦を含む) が 2.28 79. Gaillard and Gaillard (1998); Johnson and Regets (1998). 人の場合として定義している. 80. Wahba (2015). Clemens (2009). 100. 81. OECD (2008). Chanda (2015); Stephany et al. (2021). 101. 82. Bossavie et al. (2021). Beine, Docquier, and Rapoport (2008). 102. 83. Gamlen, Cummings, and Vaaler (2019); Newland (2010); Gibson and McKenzie (2011). 103. Tabar (2020). Abarcar and Theoharides (2021). 104. 84. Ang and Tiongson (2023). Abarcar and Theoharides (2021). 105. 85. OECD (2016). Clemens (2015); OECD (2018). 106. 86. 地域的な集中は,社会的ネットワークが移住の決定に Curtain and Howes (2021a). 107. 影響を及ぼしているということを強調している.一等 Curtain and Howes (2021b). 108. 親家族員や,親戚,友人などの広範なネットワークが, Clemens (2015); OECD (2018). 109. さもなければ残留するであろう人々に移住を促してい る.Giulietti, Wahba, and Zenou (2018) の推定では, 移住を制限することは,人的資本に投資して,それを 110. ある人との結び付きが弱い人の 50%が既に移住してい 蓄積する個人の動機を低下させる可能性がある (World る場合,その人も移住する確率は,結び付きが強い人 Bank 2019).労働者の流出に対する制限は多くの場合 が移住していないときとの比較で,結び付きが強い人 に短期間しか続かないが,労働者には害をもたらしう が移住していることによって,155% 高まる. る.Clemens (2015) は次のように主張している.スキ ルを有する労働者の流出を妨げることは,労働者自身 87. Viswanathan and Kumar (2014). にとって有害であり,その稼得力を大幅に低下させる. 88. See Bryan, Chowdhury, and Mobarak (2014). 例えば,教授,エンジニア,あるいは医師にとっては, 89. Lucas (2004). 低下幅は 60 – 90%に達する. 90. Gazdar (2003); Majid (2000); World Bank (2005). GPFI (2021). 111. 91. Docquier, Özden, and Peri (2014). Mohapatra, Moreno-Dodson, and Ratha (2012). 112. 92. Artuc et al. (2015). GSMA (2021); TDB (2012). 113. 93. Dao et al. (2018). 94. 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