AFGHANISTAN ALBANIA ANGOLA ARGENTINA ARMENIA AZERBAIJAN BANGLADESH BELARUS BELIZE BENIN BHUTAN BOLIVIA BOSNIA AND HERZEGOVINA BOTSWANA BRAZIL BULGARIA BURKINA FASO BURUNDI CABO VERDE CAMBODIA CAMEROON CENTRAL AFRICAN REPUBLIC CHAD CHILE CHINA COLOMBIA COMOROS DEMOCRATIC REPUBLIC OF CONGO REPUBLIC OF CONGO COSTA RICA CÔTE D’IVOIRE CROATIA DJIBOUTI DOMINICA DOMINICAN REPUBLIC ECUADOR ARAB REPUBLIC OF EGYPT EL SALVADOR ESWATINI ETHIOPIA FIJI GABON THE GAMBIA GEORGIA GHANA GRENADA GUATEMALA GUINEA GUINEA-BISSAU GUYANA HAITI HONDURAS INDIA INDONESIA IRAQ JAMAICA JORDAN KAZAKHSTAN KENYA KIRIBATI KOSOVO KYRGYZ REPUBLIC LAO PEOPLE’S DEMOCRATIC REPUBLIC LEBANON LESOTHO LIBERIA MADAGASCAR MALAWI MALDIVES MALI MARSHALL ISLANDS MAURITANIA MEXICO FEDERATED STATES OF MICRONESIA MOLDOVA MONGOLIA 前例のない MONTENEGRO MOROCCO MOZAMBIQUE MYANMAR NEPAL NICARAGUA NIGER NIGERIA NORTH MACEDONIA PAKISTAN PANAMA PAPUA NEW GUINEA PARAGUAY PERU PHILIPPINES POLAND ROMANIA RUSSIAN FEDERATION 時代における RWANDA SAMOA SÃO TOMÉ AND PRÍNCIPE SENEGAL SERBIA SEYCHELLES SIERRA LEONE SOLOMON ISLANDS SOMALIA SOUTH AFRICA SOUTH SUDAN SRI LANKA ST. LUCIA ST. VINCENT AND THE GRENADINES SURINAME TAJIKISTAN 途上国支援 TANZANIA TIMOR-LESTE TOGO TONGA TUNISIA TURKEY TUVALU UGANDA UKRAINE URUGUAY UZBEKISTAN VANUATU VIETNAM REPUBLIC OF YEMEN ZAMBIA ZIMBABWE AFGHANISTAN ALBANIA ANGOLA ARGENTINA ARMENIA AZERBAIJAN BANGLADESH BELARUS BELIZE BENIN BHUTAN BOLIVIA BOSNIA AND HERZEGOVINA BOTSWANA BRAZIL BULGARIA 年次報告 2020 BURKINA FASO BURUNDI CABO VERDE CAMBODIA CAMEROON CENTRAL AFRICAN REPUBLIC CHAD CHILE CHINA COLOMBIA COMOROS DEMOCRATIC REPUBLIC OF CONGO REPUBLIC OF CONGO COSTA RICA CÔTE D’IVOIRE CROATIA DJIBOUTI DOMINICA DOMINICAN REPUBLIC ECUADOR ARAB REPUBLIC OF EGYPT EL SALVADOR ESWATINI ETHIOPIA FIJI GABON THE GAMBIA GEORGIA GHANA GRENADA GUATEMALA GUINEA GUINEA-BISSAU GUYANA HAITI HONDURAS INDIA INDONESIA IRAQ JAMAICA JORDAN KAZAKHSTAN KENYA KIRIBATI KOSOVO KYRGYZ REPUBLIC LAO PEOPLE’S DEMOCRATIC REPUBLIC LEBANON LESOTHO LIBERIA MADAGASCAR MALAWI MALDIVES MALI MARSHALL ISLANDS MAURITANIA MEXICO FEDERATED STATES OF MICRONESIA MOLDOVA MONGOLIA MONTENEGRO MOROCCO MOZAMBIQUE MYANMAR NEPAL NICARAGUA NIGER NIGERIA NORTH MACEDONIA PAKISTAN PANAMA PAPUA NEW GUINEA PARAGUAY PERU PHILIPPINES POLAND ROMANIA RUSSIAN FEDERATION RWANDA SAMOA SÃO TOMÉ AND PRÍNCIPE SENEGAL SERBIA SEYCHELLES SIERRA LEONE SOLOMON ISLANDS SOMALIA SOUTH AFRICA SOUTH SUDAN 世界銀行 SRI LANKA ST. LUCIA ST. VINCENT AND THE GRENADINES TANZANIA TIMOR-LESTE TOGO TONGA TUNISIA TURKEY SURINAME TAJIKISTAN世界銀行グループ TUVALU UGANDA UKRAINE URUGUAY UZBEKISTAN VANUATU VIETNAM REPUBLIC OF YEMEN ZAMBIA ZIMBABWE 目次 3 はじめに 4 総裁からのメッセージ 6 理事会からのメッセージ 9 新型コロナウイルス感染症対策への支援 17 地域別展望 43 経験と情報を駆使した開発成果の向上 65 開発における知識、研究、データの活用 67 資本市場を通じた途上国の開発の支援 69 開発インパクトを高めるパートナーシップ 71 開発成果向上のための業務改善 75 世界銀行グループの価値観と職員 79 世界銀行の運営体制 81 プロジェクトの監督と説明責任の確保 85 資金の戦略的活用 98 成果重視 主な図表 91 IBRD の主要財務指標、2016~20 年度 95 IDA の主要財務指標、2016~20 年度 本年次報告は、2019 年 7 月1日から2020 年 6 月30日までの活動を対象に、国際復興 開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA) (世界銀行と総称される)の理事達により、 それぞれの機関の規定に従い作成されたものです。世界銀行グループ総裁及び理事会 議長を兼務するデイビッド・マルパスは、 本年次報告、 運営予算、及び監査済み財務諸表 を総務会に提出しました。 世界銀行グループ機関である国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、 及び投資紛争解決国際センター(ICSID)の年次報告は別途刊行されます。 本年次報告において、 「世界銀行」及びその略称である「世銀」は、IBRDとIDA のみを 指しています。また、 「世界銀行グループ」及びその略称の「世銀グループ」は 5 つの グループ機関(IBRD、IDA、IFC、MIGA、ICSID)を指しています。本報告中のドル 表記は全て、特に断りがない限り、米ドルの現在価額を示しています。複数の地域に またがるプロジェクトに配分された資金は、地域別内訳を示す図表及び本文中では 援助受入国レベル、セクターやテーマ別の内訳ではプロジェクトレベルで集計されて います。年度別の承認額・実行額のデータは 2020 年度の IBRD 及び IDA の財務諸表 並びに「世界銀行マネジメントによる議論及び分析」の中で報告されている監査済み の数値に基づいています。また、四捨五入の結果、表中の数字の合計値が総計と異なる 場合や、図中のパーセンテージの合計値が 100 となるように調整している場合が あります。 新型コロナウイルス 世界銀行グループの新型コロナウイルス感染症対策への支援 世界銀行グループは、途上国が長期的な開発目標を維持しつつ、新型コロナウイルス感染症の保健、社会、経済面の影響に対応 感染症の世界的流行により、 できるように、2021年 6 月末までに最大1,600 億ドルを支援します。同支援は各国の状況に応じた調整を加えた上で、以下の枠組み 新たに約 1 億人が に沿って提供されます。このアプローチは、世界銀行グループの優位性を活かしながら、インパクトが最大化されるように支援 を拡大することを可能にし、極度の貧困撲滅と繁栄の共有促進という世界銀行グループの 2 大目標の達成にも貢献するものです。 極度の貧困に陥る 可能性があります。 緊急支援 再構築 強靱な回復 公衆衛生上の緊急事態 保健システムの再構築 感染症の世界的流行に対応できる 保健システムの構築 ・世界銀行グループが世界規模で展開 ・世界銀行グループが世界規模で展開 する緊急保健プログラム及び新規の する緊急保健プログラム及び新規の ・世界銀行グループが世界規模で展開 人的被害の緩和 世界銀行プロジェクト 世界銀行プロジェクト する緊急保健プログラム及び新規の 世界銀行プロジェクト ・既存の世界銀行プロジェクトの再編 ・民間投資の動員による保健サプライ 不足の解消 ・IFC の民間向け長期融資 社会的緊急事態 人的資本の再構築 公平性と包摂性の促進 ・現金・現物給付 ・現金・現物給付 ・現金・現物給付 貧困層・ ・コミュニティ主導型の開発 ・コミュニティ主導型の開発 ・コミュニティ主導型の開発 最脆弱層の保護 ・既存の世界銀行プロジェクトの再編 ・新規の世界銀行プロジェクト ・労働市場政策に関する助言サービス・ 分析(ASA) ・マイクロファイナンス機関(MFI) ・IFCの支援を利用したMFIの資本増強 向けの保証 ・IFC の MFI 向け融資 経済の緊急事態 企業の再建・債務解消 環境に配慮したビジネスの成長及び 雇用創出 ・新規の世界銀行プロジェクト及び ・新規の世界銀行プロジェクト 持続可能な プログラム ・新規の世界銀行プロジェクト ・IFC の支援を利用した企業の資本増強 ビジネスの成長と ・IFC の貿易・運転資金支援 ・IFC と MIGA の各種サービス ・IFC の長期融資 雇用創出の確保 ・MIGA の各種サービス ・PPP ・MIGA の各種サービス ・官民パートナーシップ(PPP)から ・PPP の資金 長期目標の堅持 政策・制度改革 強靱な回復のための投資 強靱な回復の ・財政強化やサービス提供に関する新規 ・新規の世界銀行プロジェクト ・世界銀行グループが提供する全ての ための政策、 の世界銀行プロジェクト サービス(特に PPP や民間セクター ・再構築に関するASA、共通の開発目標 組織・制度、 関連のソリューション) ・債務の持続可能性と透明性に関する の進捗状況を追跡するための ASA 投資の強化 ASA ・共通の開発目標の進捗状況を追跡する ための ASA ・中小企業・MFI 向けの保証 詳細は、以下をご参照ください。 「Saving Lives, Scaling-up Impact, and Getting Back on Track (仮題:命を救い、効果を高め、回復させる) 」 敬意 世界銀行グループの使命の中心を成す 2 つの目標: 成果 極度の貧困を撲滅 誠実 世界中で 1 日 1.90 ドル未満で生活する人々の割合を減少 チームワーク 繁栄の共有を促進 イノベーション 所得の下位 40%の人々の収入を増大 はじめに 持続可能な開発の達成に取り組む 途上国は今、経験したこと のない課題に直面しています。新型コロナウイルス感染症の世界的 流行により、人々の生命と暮らし、そして経済全体が脅かされ、数十年をかけて達成 された経済成長、貧困削減、人間開発の成果が失われつつあります。この 数十年間に、世界では極度の貧困の削減に大きな進歩が見られましたが、 2030 年までに極度の貧困を撲滅するという目標は、新型コロナウイルス感染 症の問題が浮上する前から、達成に向けて順調に進んでいるとは言えません でした。そして今回の感染拡大により、2020 年には約 1 億人が新たに極度の 貧困に陥り、2030 年には極度の貧困層の内、最大で3 分の2が、脆弱性・紛争・ 暴力(FCV)の影響下にある地域で暮らすことになると予測されています。 世界銀行は途上国と協力しながら、特に緊急性の高い地域や分野に支援を提供 しています。資金面の支援に加えて、様々な地域・セクターに関する経験や 知識を動員し、エビデンスに基づく有用な情報や政策支援を提供することで、 各国が優先度の高い開発課題に対応し、アイデアやベスト・プラクティスを 共有できるよう支援しています。世界銀行は国際開発協会(IDA)を通じて 最貧国への支援を強化しており、2019 年 12 月に妥結した最新の IDA 増資 交渉では各国政府から力強い信任を獲得し、今後 3 年間の支援の原資として 820億ドルを確保しました。物理的距離を保つことは、援助受入国やそこに暮らす 人々と共に取組みを進める上でかつてない制約とはなるものの、世界銀行が IDA 借入国や FCV 影響下の国々で展開する活動は拡大を続けています。 この前例のない時代にあっても、世界銀行は柔軟かつ革新的なソリューション の迅速な提供に力を注ぎ続けています。世界銀行グループは、新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行の結果として途上国が直面する保健、経済、 社会面のショックへの対応を支援するため、2021年 6 月までの15カ月間に最大 1,600 億ドルを提供します。融資と知識、経験、そして世界規模のパートナー シップを活用できるという独自の立場を活かし、途上国がこの危機に対応し、 長年の努力によって達成した開発成果を守り、回復のための計画を策定できる よう支援していきます。 前例のない時代における途上国支援 3 総裁からのメッセージ 2020 年は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、世界中の国々が前 例のない課題に直面し、保健医療、経済活動、生計を揺るがす深刻な混乱への対応 に追われました。世界銀行グループは、貧困の削減と繁栄の共有の促進という使命 の下、各国の対応を最前線で支え、必要な支援を迅速に提供することにより、重要 な物資の確保、人的被害や経済的困難の緩和を通じ、長年の努力の末に達成された 開発成果が失われることのないよう支援しました。こうした取組みを通じた世界銀行 グループの目標は、最貧困層・最脆弱層が置かれている状況を短期的・長期的に 改善することにあります。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まった際、世界銀行グループは直ち にファストトラック・ファシリティを立ち上げ、広範な分野で断固とした措置を講 じました。世界的流行に起因する多様なニーズに対応するため、新規プロジェクト や既存プロジェクト再編を通じて、2021 年 6 月 30 日までの 15 カ月間に最大 1,600 億ドルを支援します。この内、500 億ドル超は国際開発協会(IDA)の資金で、 グラント(無償資金)又は譲許的融資の形で提供されます。 2020 年 5 月には早くも 100 カ国で緊急保健プロジェクトが始動しました。初期 のプロジェクトでは、感染症の拡大抑制と保健サービスの能力強化に重点が置かれ ました。世界銀行グループは供給業者との代理交渉等、 調達や物流の支援を通じて、 各国が必要不可欠な医療品・医療機器を確保できるよう取り組みました。多くの 途上国は物資の確保を輸入に頼っているため、価格変動や貿易制限から大きな影響 を受ける立場にあります。国際金融公社(IFC)と多数国間投資保証機関(MIGA)は 途上国の民間セクター、特に主要産業の企業に対して、ビジネス継続に不可欠な 運転資本や貿易金融を提供し、金融セクターが有望な現地企業への融資を継続でき るよう支援しました。 3 月、世界銀行と国際通貨基金(IMF)は二国間債権国に対し、IDA 借入国の債務 の返済猶予を求めました。これを受けて G20 諸国の首脳は 4 月、二国間債務の 返済を 2020 年 5 月 1 日から同年末まで一時停止するという歴史的合意を発表し、 民間債権者にも同等の対応を呼びかけました。これは国際協力による力強い最貧国 支援の事例と言えるでしょう。 世界銀行グループは、保健上の短期的な懸念に対応するだけでなく、経済の再開、 雇用・サービスの再建、持続可能な回復に向けた取組みも支援しています。多くの 援助受入国が公的セクターの債務を積極的に開示することにより、透明性を向上 させ、投資先としての魅力を高めてきました。世界銀行は最脆弱国が債務の持続 可能性と透明性について自らのレベルを評価できるよう支援しています。いずれも 開発成果を向上させるために不可欠な要素だからです。 世界銀行グループは、社会的セーフティネットの拡大を支援しています。これは 生命に関わる重要な働きかけであり、例えば、現金を対面又は電子的な手段で給付 するプロジェクトは、政府が最脆弱層を効率的に支援できるようにするためのもの です。また、コストが高く環境に有害な燃料への補助金の撤廃又は別の補助金への 転換、食品や医療品に対する貿易障壁の削減を各国政府に呼びかけています。 2020 年度、IBRD の純承認額は前年度を上回る 280 億ドルとなり、実行額は堅調 な水準を維持しました。IDA の純承認額は前年比 39%増の 304 億ドルでした。 3 月に承認された IDA 第 19 次増資(IDA19)においては、76 の最貧国に対する 今後 3 年間の支援の原資として 820 億ドルを確保しました。この資金は、脆弱性・ 紛争・暴力(FCV)の影響下にある国々への支援を拡大し、債務の透明性と持続 可能な借入れを強化するために活用されます。 4 世界銀行 年次報告 2020 この一年間、世界銀行の職員とマネジメントは 各国のプログラムに協調的に取り組み、質の高い 知識をプロジェクトや開発政策に積極的に活用 してきました。また、現地事務所で働く職員を 増員し、 支援の現場との距離縮小を図っています。 特にアフリカ地域については、2021 年度から 2 人 の 副 総 裁 が 西・ 中 央 ア フ リ カ 地 域 総 局 と 東・南アフリカ地域総局をそれぞれ担当すること と し、 支 援 を 更 に 強 化 す る 予 定 で す。 ま た、 専務理事兼最高財務責任者 (CFO) にアンシュラ ・ カント、開発政策・パートナーシップ担当の専務 理事にマリ・パンゲストゥ、MIGA 長官に俣野弘、 そ し て ク リ ス タ リ ナ・ ゲ オ ル ギ エ バ が IMF の 専務理事に就任したことを受け、業務統括担当の専務理事にアクセル・ヴァン・ トロッツェンバーグをそれぞれ任命したことで、合計 4 名の新たなシニア・リーダー が加わりました。この 1 年間に、他にも 12 人の副総裁の就任と異動がありました。 この強力なマネジメント・チームは、 世界で最も効果的な開発機関を目指して、意欲的 かつ献身的な職員と力を合わせ、高い適応力と強靱性を備えたビジネス・モデルを 通じ、全ての国・地域が高い開発成果を達成できるよう支援しています。 10 月の年次総会では、学習貧困(簡単な物語を読解できない 10 歳児の比率)を 追跡する新たな指標が発表されました。学習貧困の削減には包括的な改革が不可欠 ですが、その結果として子供たちが可能性を十分に発揮できる大人になるための 技能を習得することは、開発にとって決定的に重要です。 世界銀行グループは、途上国の人々、特に女性や脆弱層が低コストの金融取引を 利用できるよう新しいデジタル・テクノロジーの導入も支援しています。デジ タル・テクノロジーやインターネットの普及は、女性の経済的可能性を最大限に引き 出すための重要なステップです。世界銀行グループ内に設置された女性起業家資金 イニシアティブ(We-Fi)は、各国が女性の活躍を阻んでいる規制・法律面の障害 を撤廃し、成功に必要な資金、市場、ネットワークへのアクセスを提供できるよう 支援しています。この他、コミュニティにおける女性の発言権と決定権を強化する こと、女児が学校で効果的かつ安全に学習できるようにすること、質の高い保健医療 を母子に提供することにも力を注いでいます。 世界銀行グループは、雇用創出と経済成長の要となる民間セクターの強化も支援 しています。2020 年度、IFC の長期投融資承認額は前年度を上回る 220 億ドルで した。この内、110 億ドルは自己勘定分、残る 110 億ドルは民間セクター等から 動員した資金です。この他、IFC の短期融資は 65 億ドルに上りました。MIGA の 承認額は総額 40 億ドル、平均的なプロジェクトの規模は 8,400 万ドルでした。 MIGA のサービス、職員配置、川上段階の取組みは、IDA 適格国や FCV の影響下に ある国々の小規模プロジェクトに重点を置いているなど、世界銀行グループの新型 コロナウイルス感染症対応を推進するものです。 こうした成果は職員の懸命な努力と、感染症の流行の中、円滑に進められた在宅 勤務への移行なしには実現しなかったでしょう。職員はあらゆる国やレベルでの 活動を通じて、各国の喫緊のニーズを満たすソリューションを引き続き提供してき ました。困難な状況にもかかわらず、変化に柔軟に対応し、献身的に職務に当たって いる職員に心から感謝します。 世界銀行グループは、感染症の世界的流行と深刻な景気後退に取り組む途上国の 人々が危機を乗り越え、持続可能かつ包摂的な回復を達成し、より良い未来を実現 できるように、今後も各国が必要とする支援や援助を提供してまいります。 デイビッド・マルパス 世界銀行グループ総裁兼理事会議長 総裁からのメッセージ 5 理事会からのメッセージ 我々は現在、世界銀行が設立された 1944 年以降、最も困難な局面の一つに直面 しています。新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、全ての国と社会の構成 要素に影響を与え、数百万人の命、あらゆる規模の企業、そして今日の世界経済に 深刻な影響を与えています。この状況に対応するため、世界銀行グループは一丸と なって、包括的な措置を迅速に講じました。この前例のない世界規模の保健、 社会、経済危機に立ち向かうべく、粘り強く資金動員を進めている職員に心から感謝 します。世界銀行グループは、極度の貧困撲滅と繁栄の共有促進という 2 大目標の 達成に向けて、また新型コロナウイルス感染症危機への対応戦略をまとめた 「Saving Lives, Scaling-up Impact and Getting Back on Track(仮題:命を救 い、効果を高め、回復させる) 」を指針として、15 カ月間に最大 1,600 億ドルを 投じて、各国の危機対応を支援することを表明しました。2020 年度末の時点で、 支援は既に 100 カ国以上で始まっています。この資金は、途上国の強靱性と 包摂性を高め、変革をもたらす投資を促進することにより、各国が混乱を乗り越え、 更なる強靱性を獲得する道を開くために役立つでしょう。回復と開発を再び持続 可能な形で前進させるためには、政府や官民両セクターのパートナー、広範な関係 者と協力を続けることが鍵となります。 世界銀行と国際通貨基金(IMF)は、最貧国の危機対応能力を大きく左右するこ とになると判断した上で、二国間債務の返済猶予を呼びかけたところ、2020 年 4 月、G20 諸国の財務大臣はこれを承認しました。返済が一時停止されたことで、 最貧国は返済に充てるはずだった資金を新型コロナウイルス感染症対策に振り向 け、社会、保健、経済分野への支出を拡大できるようになります。新たに承認され た「持続可能な開発金融政策(SDFP) 」も IDA 適格国に対し、透明かつ持続可能 な資金調達を促進し、債権者間の協調を強化するインセンティブを提供します。こ こで重要な役割を果たすのが、最近承認された IDA 第 19 次増資(IDA19)です。 2020 年度には増資交渉の結果、過去最大の 820 億ドルが確保されました。この 資金は 2020 年 7 月 1 日以降、IDA 借入国が短期的なニーズと長期的な経済成長に 投資し、気候変動や自然災害への強靱性を強化するための支援の原資となります。 世界銀行グループは、グループの 2 大目標と持続可能な開発目標(SDGs)に向 けた進捗を加速するため、新たに「脆弱性・紛争・暴力(FCV)戦略」を承認し 6 世界銀行 年次報告 2020 上段(左から右へ) :DJ Nordquist、米国;吉田正紀、日本;Richard Hugh Montgomery、英国; Arnaud Buissé、フランス;Juergen Karl Zattler、ドイツ;Shahid Ashraf Tarar、パキスタン; Louise Levonian、カナダ;Adrián Fernández、ウルグアイ;Kunil Hwang、韓国; 中段(左から右へ)Guenther Schoenleitner、オーストリア;Merza Hussain Hasan、クウェート (筆頭理事) ;Aparna Subramani、 イ ン ド;Jean-Claude Tchatchouang、 カ メ ル ー ン; Anne Kabagambe、ウガンダ;Elsa Agustin、フィリピン(代理) ;Kulaya Tantitemit、タイ; Yingming Yang、中国;Jorge Alejandro Chávez Presa、メキシコ; 下 段( 左 か ら 右 へ )Koen Davidse、 オ ラ ン ダ;Geir H. Haarde、 ア イ ス ラ ン ド;Patrizio Pagano、イタリア(共同筆頭理事) ;Hesham Alogeel、サウジアラビア;Roman Marshavin、 ロシア連邦;Werner Gruber、スイス;Larai Shuaibu、ナイジェリア ました。同戦略は、2016 年の中長期戦略「フォワード・ルック」と 2018 年の 資本パッケージが順調に実施されていることを踏まえたもので、社会から疎外されて いる最脆弱層を重点対象として、途上国が FCV の促進要因と影響に対応し、強靱 性を強化できるように、支援の有効性を更に高めることを目指しています。 2020 年度の理事会では、雇用と経済改革、移民、グローバル ・バリューチェーン、 デジタル・トランスフォーメーションに関する戦略・運用上の課題が議論されま した。またソマリアへの支援再開と、拡大 HIPC(重債務貧困国)イニシアティブ の変更点について協議しました。人的資本プロジェクト、 「女性・ビジネス・法律」、 ジェンダーに基づく暴力についても活動の進捗状況を確認しました。 理事会は、世界銀行グループが途上国の気候関連の取組みに資金を提供する世界 最大の国際機関となったことを歓迎し、気候変動への適応や強靱性の強化、災害 リスク管理の主流化を引き続き促進しました。 組織に関しても、いくつかの重要な事項を協議しました。例えば、途上国への 職員配置、開発成果の測定方法、独立した説明責任の仕組み、査閲パネルのツール キット(2020 年度に承認) 、IDA 投票権に関連するガバナンスの枠組み、2020 年 の投票権見直し等です。この他、2021~23 年度の世界銀行の戦略及び事業見通 し、来年度の世界銀行グループの方向性を定める 2021 年度予算についても議論し 承認しました。 理事会は、世界銀行グループの組織と支援業務における人種間の公平・平等を 徹底して重視しています。今後も多様性と包摂性に留意しながら組織を運営し、援助 受入国やコミュニティを支援していく所存です。世界銀行グループが世界中で展開 している開発業務やプログラムにおいて、人種や民族に配慮することは極めて重要 であり、職場の多様性と包摂性を高めることはグループの基本的価値観と合致して います。こうした取組みは次の 1 年間においても引き続き重点分野となります。 理事会は世界銀行グループの業務や各国のプロジェクトを議論し承認したことに 加え、プロジェクトの現場を視察し、世界銀行グループの支援モデルの有効性につ いて政府関係者、市民社会、民間セクター代表者、その他の関係者らと意見を交換 しました。2019 年 11 月と 2020 年 1 月にはバングラデシュ、ジブチ、エジプト、 ヨルダン、モルディブ、ネパール、ヨルダン川西岸地区を訪問しました。 理事会からのメッセージ 7 8 THE WORLD BANK ANNUAL REPORT 2020 新型コロナウイルス感染症対策への支援 2020 年初頭に拡大した新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、 各国の保健システムに深刻な課題を突きつけ、広範囲にわたる経済活動の停止、 学校の閉鎖や企業の休業、失業といった事態を引き起こしました。その結果、ほぼ 全ての国が過去に類を見ない規模の景気後退に直面しています。 これに対し世界銀行グループは、国際社会の中心となって対応に当たっていま す。3 月の理事会では、途上国における緊急の保健ニーズへの対応と景気回復の 促進を支援する新しいファストトラック・ファシリティが承認されました。4 月、 世界銀行は同ファシリティの下で、保健システム、疾病監視、公衆衛生に対する 支援を強化するための第 1 弾となるプロジェクトに着手しました。IFC と MIGA は、経済への打撃を和らげるため、企業が事業を継続し雇用を維持できるように、 資金の提供と資本アクセスの拡大に迅速に着手しました。 世界銀行グループは、新型コロナウイルス感染症に対する各国の対応を支援す るため、新規プロジェクトの立上げや既存プロジェクトの再構築、災害リスク繰延 引出オプション(Cat DDO)の発動、再構築と回復を促進する民間セクター の持続可能なソリューションを通じて、2021 年 6 月までの 15 カ月間に最大 1,600 億ドルの資金を支援する予定です。新型コロナウイルス感染症の世界的流行 により、2020 年には新たに約 1 億人が極度の貧困に陥る恐れがあります。FCV 関連の課題を抱えている国は、この世界的流行により保健、社会、経済面で特に 大きな影響を受けやすいとみられます。こうした国々に対する支援は、予防への 投資、危機的状況への取組みの継続、人的資本の保護、最脆弱層及び不利な立場 にある人々(避難を強いられた人々を含む)への対応に重点を置いています。 サプライチェーンの混乱と輸出制限によって食料供給が不安定になっていること から、最貧国・最脆弱国は食料不足のリスクにも直面しています。この問題に 対応するため、世界銀行は各国に食料サプライチェーンの維持と安全な運用を 求めると共に、感染症の世界的流行による食品購買力への影響を各国がモニタ リングできるよう支援しました。さらに、最貧困層・最脆弱層を対象とした強力な 社会的保護プログラムの実施を呼びかけ、生計の保護に加え、手ごろな価格での 基本的食料へのアクセスの重要性を訴えました。 世界銀行は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行がもたらした広範な影響 について、地域別の経済報告や世界規模の送金額減少に関する報告書、教育や子供 の将来に対するショックについての政策ノート等で分析を行っています。しかし、 短期的な危機が過ぎ去った後も途上国には、その影響を緩和し、長期的な成長 を加速するための支援が長期にわたって必要となります。そこで世界銀行は、 ガバナンスの強化とビジネス環境の改善、金融市場の混乱への対応、人的資本分野 の成果向上に向けた教育と保健への投資、債務の透明性向上による新規投資の 呼び込み、貧困層への現金給付によるセーフティネットの拡大、エネルギー価格 政策の見直し、世界的流行の収束後に備えて資本と労働力を迅速に調整するため の改革等、様々な政策を提言しました。 今回の緊急事態においては、民間セクターの支援も不可欠です。IFC は、世界 銀行グループによる支援の一部として 2021 年 6 月までに 470 億ドルを提供する 計画であり、まずは危機的状況にある企業が事業を継続し、雇用を維持できるよう に、80 億ドルを提供します。同パッケージは、新型コロナウイルス感染症の 世界的流行の影響を受けやすいインフラ、製造、農業、サービス業の既存顧客を 支援するだけでなく、金融機関の流動性を高めることで、輸出入企業に貿易金融 を提供し、融資枠の拡大を通じて企業が運転資金を確保できるよう支援します。 前例のない時代における途上国支援 9 IFC は第 2 段階として、既存及び新規顧客を支援する準備も進めています。 例えばグローバル・ヘルス・プラットフォームは、マスクや人工呼吸器、検査 キット、将来的にはワクチン等の重要な保健医療品へのアクセスを改善するため、 メーカーや主要原料の供給業者、サービス提供事業者に対し、途上国への製品・ サービス提供のための資金を提供します。IFC は自己勘定への 20 億ドルに加え、 民間パートナーからも 20 億ドルを動員する予定です。また、企業や金融機関が回復 軌道に乗ることができるように、事業の再編や資本構成の変更も支援する予定です。 MIGA も 65 億ドルのファストトラック・ファシリティを立ち上げ、新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行に対応している低・中所得国の民間投資家及び 金融機関を支えています。同ファシリティは、保証提供手続きの合理化と迅速化 に加えて、各国政府及び関連機関に対し、直ちに必要な医療機器や保護具、薬品、 サービスを購入するための信用補完や、経済の回復に必要な資金を提供するもの です。この他、商業銀行や金融機関向けのリスクヘッジ・ソリューション、現地 銀行向けの貿易金融支援も提供されます。 貿易金融に対する IFC と MIGA の支援は、グローバル・サプライチェーン、特 に必須医療品の生産・流通を確保するという世界銀行グループ全体の取組みを 補完するものです。世界銀行グループは、途上国政府に代わって供給業者に働き かけ、各国がこうした物資を入手できるよう迅速に行動しました。また、各国政府 には保護貿易主義の施策を控えるよう呼びかけました。こうした施策は必要な 物資の供給量を世界規模で減少させるだけでなく、価格上昇を誘発し、途上国に よる必要な物資の確保を困難にする懸念があります。 世界銀行は、IDA 借入国が感染症の流行が引き起こした課題に取り組むための 流動性を確保し、資金ニーズを把握できるよう、国際通貨基金(IMF)と共同で 二国間債務の返済猶予を呼びかけました。2020 年 4 月 15 日、G20 諸国の首脳 はこの呼びかけに応じ、5 月 1 日付けで貧困国の債務返済を一時停止するという 債務救済措置に合意しました。バーチャル形式で開催された世界銀行グループ・ IMF の春季会合では、デイビッド・マルパス総裁が開発委員会に対する声明の中 で、「債務救済は、貧困国の人々に実質的な利益をもたらし得る、強力で即効性 のある措置だ。」と述べ、この歴史的偉業をたたえました。 2020 年 6 月、理事会は新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対する対応を 詳細に記した戦略文書「Saving Lives, Scaling-up Impact, and Getting Back on 」を承認しました。同文書は、 Track(仮題:命を救い、効果を高め、回復させる) 世界銀行グループの危機対応を「緊急支援」、「再構築」、「強靱な回復」という 3 段階に分けて説明しています。まず「緊急支援」では、感染症が保健、社会、経済 にもたらした短期的な影響に対応するための支援を提供します。各国が感染症の 拡大を抑制し、経済活動の再開へと向かう「再構築」では、将来の危機に備えた 保健システムの強化、教育、雇用、保健医療へのアクセス拡大による生活と生計 の立て直し、企業と金融機関の再建が支援の重点分野となります。「強靱な回復」 では、感染症の世界的流行によって変容した世界で、各国がより持続可能かつ 包摂的で強靱性を備えた未来を構築できるよう支援します。 世界銀行グループは、この危機に徹底して対応するため、インパクトの最大化 と財務基盤の維持に注力しながら、今後も前例のない規模と速度で各国を支援し ていく予定です。グループ内の連携を強化し、感染症の世界的流行と戦うため、 引き続き官民連携の適正なバランスを探り、援助受入国やパートナーと協力して いきます。 各国で展開されていた開発援助は、過去に例のない規模の今回の危機に対応す るために軌道修正を迫られましたが、世界銀行グループの長期的な使命は変わっ ていません。極度の貧困撲滅と繁栄の共有促進という目標を持続可能な形で達成 することは今も世界銀行グループの使命であり、そのために、今後は感染症の 世界的流行からの強靱な回復と、更なる強靱性の獲得に注力していく所存です。 10 世界銀行 年次報告 2020 ナイジェリア:強靱な回復を支援する活動 の一環として、IFC を通じて国内の銀行に 5,000 万ドルを融資。中小企業が事業を 継続し、雇用を維持できるように、中小企業 への貸付枠の拡大を支援。 モンゴル:救急医療に携 わ る 医 師、 看 護 師、 医 療 従事者向けの研修、医療・ 検査用機器・消耗品の調達、 保健医療施設の修繕、国の 保健危機対応能力の強化に 対 す る 支 援 と し て、 世 界 銀行から 2,700 万ドル を提供。 キルギス共和国:医療・検査用品、集中治療室 (ICU)用機器、病院向け災害準備金等、救急チーム、 病院、検査施設の機能強化に対する支援として、世界 銀行から 1,200 万ドルを提供。 コロンビア:感染症の世界的流行により、融資 へのアクセスが制約されていることから、零細・ 中小企業が短期資金を確保できるように MIGA を 通じて 3 億 8,500 万ドルの保証を提供。 イ エ メ ン: 世 界 保 健 機 関 (WHO)と連携し、感染の拡大 抑制と感染症関連リスクの 緩和に対する支援として、世界 銀行から 2,700 万ドル を 提供。 インド:保健医療サービスの強化、中小 企業の支援、最貧困層・最脆弱層(特に女性 と移住労働者)への社会的保護の拡大に対 して、世界銀行から 28 億ドルを提供。 前例のない時代における途上国支援 11 世界銀行グループの各機関 世界銀行グループは、途上国に資金と知識を提供する世界最大規模の援助 機関であり、貧困の撲滅、繁栄の共有促進、持続可能な成長と開発の推進 という目的を共有する 5 つの機関で構成されています。 国際復興開発銀行(IBRD):中所得国及び信用力のある低所得国の政府 を対象に貸出を提供 国際開発協会(IDA):最貧国の政府を対象に極めて譲許的な条件で資金 を提供 国際金融公社(IFC):途上国の民間セクター向け投資を促進するための 融資、直接投資、助言サービスを提供 多数国間投資保証機関(MIGA) :新興国への対外直接投資(FDI)を促進 するために投資家や貸手に政治的リスク保証や信用補完を提供 投資紛争解決国際センター(ICSID) :国際投資紛争の調停と仲裁を行う 場を提供 12 世界銀行 年次報告 2020 世界銀行グループによる支援 表 1:世界銀行グループの承認額、実行額、総引受額 年度別 単位:100 万ドル 2016 2017 2018 2019 2020 世界銀行グループ 承認額a 64,185 61,783 66,868 62,341 77,078 実行額 b 49,039 43,853 45,724 49,395 54,367 IBRD 承認額c 29,729 22,611 23,002 23,191 27,976 実行額 22,532 17,861 17,389 20,182 20,238 IDA 承認額c 16,171 19,513d 24,010e 21,932e 30,365e 実行額 13,191 12,718d 14,383 17,549 21,179e IFC 承認額f 11,117 11,854 11,629 8,920 11,135 実行額 9,953 10,355 11,149 9,074 10,518 MIGA 総引受額 4,258 4,842 5,251 5,548 3,961 援助受入国実施信託基金 承認額 2,910 2,962 2,976 2,749 3,641 実行額 3,363 2,919 2,803 2,590 2,433 IBRD、IDA、IFC、援助受入国実施信託基金(RETF)の承認額、並びに MIGA の総引受額を含む。 a. RETF の承認額は、援助受入国実施グラントの全てを含んでおり、信託基金による活動の一部 のみを反映する世界銀行グループのコーポレート・スコアカード記載のコミットメント総額と は異なる。 IBRD、IDA、IFC、RETF の支援実行額を含む。 b. 同年度中に承認された契約終了・解除の全額を控除した後の金額。 c. パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5,000 万ドルの承認額・実行額を含む。 d. IFC-MIGA 民間セクター・ウィンドウ(PSW)の活動を除く承認額と実行額。 e. IFC 自己勘定の長期コミットメント。短期融資や他の投資家を通じて動員した資金を除く。 f. 前例のない時代における途上国支援 13 世界各地での活動 2020年度、世界銀行グループは、開発成果の達成、主要なパートナーの動員、そして感染症 の世界的流行と世界規模の経済課題という前例のない状況への対応を通じて、途上国を 支援しました。 ラテンアメリカ・ カリブ海地域 128 億 ドル 総額 771 億 ドル 加盟国の政府・民間企業に対する融資、グラント、直接 投資、保証等の支援総額 複数の地域にまたがるプロジェクトやグローバルなプロ ジェクトを含む。地域別内訳は世界銀行の分類による。 世界銀行グループ ヨーロッパ・中央アジア地域 92 億 ドル 東アジア・大洋州地域 105 億 ドル 48 億 ドル 中東・北アフリカ地域 144 億 ドル 南アジア地域 254 億 ドル サブサハラ・アフリカ地域 2020年度の成果概要 15 地域別展望 世界銀行は、世界各地の 145 の現地事務所を通じて業務を行っています。 現場に権限を委譲することにより、援助受入国に対する理解を深め、協力や 連携を密にし、これまで以上に迅速にパートナーにサービスを提供することが できます。現在、国別担当局長・マネージャーの 96%、職員の 46%が、6 つ の開発途上地域の国々で活躍しています。本セクションでは、世界銀行が 2020 年度に実施した主な支援活動を地域別にご紹介します。 地域別展望 17 アフリカ地域 新型コロナウイルス感染症が世界にもたらした混乱により、サブサハラ・アフリカ地域 も悪影響を被っています。保健、経済、社会面への影響によって生産量が落ち込み、 2020 年は 370 億~790 億ドルの損失が発生する見通しです。また、農業生産性の低下、 サプライチェーンの混乱、雇用見通しの悪化、送金の減少により、不確実性が高まって います。追い打ちをかけるように、過去最大規模のバッタの発生により、東アフリカ 地域の食料安全保障と人々の生計が更に脅かされています。経済成長率は 2019 年の 2.4%から2020 年はマイナス2.1~マイナス5.1%に落ち込み、同地域としては25 年ぶり に景気後退局面に入る見通しです。新型コロナウイルス感染症の世界的流行は数百万 世帯を貧困に追いやるだけでなく、アフリカ地域の農業生産高を 2.6~7%の範囲で低下 させ、食料安全保障の危機を誘発する恐れがあります。また、域内の労働者の約 90% がインフォーマル・セクターで働いていることから、世界銀行は各国に対し、こうした 労働者が必要とする支援を提供できるよう働きかけています。 世界銀行の支援 2020 年度、世界銀行はアフリカ地域の 156 件のプロ ジェクトに対し、208 億ドルの支援を承認しました。 そ の 内 訳 は、IBRD の 承 認 額 が 17 億ド ル、IDA の 2020 年度、世界銀行は 承認額が 191億ドルでした。8 カ国に提供した有償 アフリカ地域の新型コロナ 助言サービスからの収益は1,100 万ドルでした。 ウイルス感染症対策を支援する ため、世界規模の「対策準備・ アフリカ地域では、人的資本の構築と女性 対応プログラム」の下で、28 件 のエンパワーメントの促進、デジタル・テク の新規プロジェクト(総額 4 億 ノロジーを活用した貿易と政府の有効性向上、 9,300 万ドル)を承認し、27 件 公共投資の維持と重要セクターへの民間資金の の既存プロジェクト(総額 4 億 誘致、雇用創出の促進、気候変動と紛争の要因・ 7,600 万ドル)の資金を再配分 影響への対応を支援しています。 しました。 アフリカの潜在能力を引き出す人的投資 2019 年 4 月、世界銀行は対アフリカ人的資本計画を 発表し、人的資本、すなわち人々の保健、知識、スキル、強靱性を強化し、アフリカ 地域の潜在能力を引き出すための目標とコミットメントを設定しました。同計画は、子供 の死亡率と発育阻害率の引き下げ、ならびに学習成果の 20%向上を目指しています。 その他の目標としては、1,300 万人超に対する社会的保護の提供、女性のエンパワー メント、青年期女子の出産率低下、衛生的な生活習慣の促進等があります。 同計画の発表以降、女性のエンパワーメントに22億ドルが配分されるなど、世界銀行に よるアフリカ地域の人的資本成果強化のための融資承認額が倍増しました。最大規模であ るサヘル地域女性エンパワーメント人口ボーナス・プロジェクトには6 億7,500 万ドルが 提供され、対象は間もなく9カ国に広がる予定です。同プロジェクトはサヘル地域の女性・ 女児のエンパワーメントを支援するもので、教育と質の高い医療へのアクセス改善、雇用 機会の拡大、宗教・コミュニティ組織のリーダーの関与促進を通じて、開発成果の向上を 図っています。同プロジェクトにより、これまでに10万人以上の女児が学校に通うように なり、6,600人以上の助産師が研修を受け、10万人近い女性が職業訓練に参加しました。 包摂的ガバナンスと経済改革の支援 ガバナンスと包摂に関しては、公共サービスの効率的かつ包摂的な提供と、経済、 社会、環境への圧力に対する強靱性を備えた組織・制度の構築に重点を置いています。 各国が健全な投資環境を整備し、公共サービスを安定供給できるよう支援することにより、 表 2:アフリカ地域 地域への融資承認額と融資実行額— 2018~20 年度 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2018 年度 2019 年度 2020 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 IBRD 1,120 820 1,725 734 690 1,087 IDA 15,411 14,187 19,095 8,206 10,190 13,373 実行中プロジェクトのポートフォリオ:882 億ドル(2020 年 6 月 30 日現在) 18 世界銀行 年次報告 2020 持続可能な開発の進捗を加速させています。また、テクノロジーを活用して政府の活動 や市民との関わりに影響を与え、 公共サービスの透明性と効率の向上に貢献しています。 世界銀行は各種の資金源と専門知識を総動員して、 特に民間投資家の参加を促すため、 投資環境の整備を支援しています。このアプローチは、基幹インフラ強化やデジタル・ アクセス拡大、雇用創出の機会を域内各国の政府と企業にもたらすものと期待されて います。また、世界銀行は途上国と連携しながら、生産性の向上、金融包摂の促進、雇用の 創出等のメリットが期待されるデジタル・エコノミーへの速やかな移行も支援しています。 アフリカ地域は 2030 年までに、個人、企業、政府のインターネット接続の完全普及を 目指しています。 2020 年 3 月、ソマリアが拡大 HIPC(重債務貧困国)イニシアティブの下で、債務 救済を受けるための基準に到達しました。約 3 年後の HIPC 完了時点で、2018 年末 時点に 52 億ドルだったソマリアの債務は 5 億 5,700 万ドルに減額される予定です。 世界銀行は、ソマリアが今回の画期的な節目を迎える上で大きな役割を果たしました。 例えば、2019 年度には延滞債務解消に先立ち 1 億 4,000 万ドルのグラントを提供した ほか、4 億 7,500 万ドルの開発政策融資を通じて、国家の機能、財務管理、透明性の 向上を支援し、民間セクター主導の包摂的成長を促進しました。 脆弱性及び紛争への対応 アフリカ地域では、脆弱性・紛争・暴力(FCV)の問題が成長の阻害要因となって いることから、FCV への対応が対アフリカ人的資本計画の優先課題となっています。 同地域では、教育と職業訓練へのアクセスも限られており、その結果、多くの若者が 市場で通用するスキルをほとんど身に付けられずにいます。民間セクターの成長は鈍く、 雇用機会はわずかな上、安全保障上の懸念から、公共サービスは提供状況と質のどちら も十分とは言えません。 2020 年度、世界銀行は FCV の影響下にある国々に 25 億ドルの支援を行いました。 1960 年の独立以降、暴力と紛争が続いていた中央アフリカ共和国では、2019 年 2 月 の和平合意を受け、様々な金融手段を駆使してガバナンス、公共財政管理、サービス 提供の強化を支援しました。 加えて、公共サービスの拡充、社会的盟約の強化、税基盤の拡大、 税制の近代化等、 同国が包摂的成長を達成する方法をまとめた分析報告書も作成しました。 IDA 第19 次増資(IDA19)では、これまでの進捗を足がかりに、サヘル地域、チャド湖 周辺地域、 「アフリカの角」地域における域内諸国間プログラムに追加融資を行うなど、 更なる投資と質の高い支援を実施する予定です。FCV の状況下で女性と男性がそれ ぞれに直面する様々なリスクと機会に対応することも目標の一つです。 気候変動の緩和と適応の支援 気候変動から最も深刻な打撃を受けるのはアフリカの貧困層であることから、気候 変動に対する強靱性強化への財政支援は最優先課題の一つです。アフリカ地域は、20カ国 の 6,000 万ヘクタール以上の土地の総合的管理を支援し、気候変動対応型の農業を通じ て1,000 万人の農民の生計を改善し、再生可能エネルギーによる発電量を 28 ギガワット から 38 ギガワットに拡大するという新たな目標を設定しました。 2015 年に発表された対アフリカ気候変動支援計画(ACBP)と、それに続く次世代 ACBP は、気候変動対策を開発に統合するという世界銀行グループのコミットメントに 基づいて策定されたものです。2019 年 12 月現在、世界銀行は 312 件のプロジェクト に対し 300 億ドル以上の資金を提供しており、これは同計画に定められた 2020 年の 資金動員目標を上回る水準です。次世代 ACBP は、当初の ACBP の成果と教訓を踏ま え、気候変動対策を一段と拡大するための野心的なビジョンを打ち出しています。 図 1:アフリカ地域 IBRD・IDA のセクター別融資— 2020 年度 総額 208 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 6% 7% 農業・漁業・林業 運輸 3% 15% 教育 社会的保護 13% 11% エネルギー・採取産業 行政 17% 3% 金融セクター 情報通信技術 4% 産業・貿易・サービス 8% 13% 保健 地域別展望 19 域内統合に対する支援の強化 世界銀行グループは、アフリカ 54 カ国の主要な優先課題に対応するため、北アフリカ との連携強化等、域内統合に対する支援を強化しています。現在の重点領域は、運輸、 エネルギー、デジタル・テクノロジー分野のインフラ整備による接続性の強化、貿易の 支援と市場の構築、スキル習得機会の提供、女性のエンパワーメント、疾病・感染管理 による人的資本の強化、農業・畜産業、食料安全保障、気候変動、強制移動、越境水に 関する活動を通じた強靱性の構築です。また、 「アフリカの角」地域、チャド湖周辺 地域、サヘル地域の脆弱性リスクにも対応する予定です。 地域疾病サーベイランス強化(REDISSE)プログラムは、16 カ国に対して合計 6 億 2,900 万ドルを融資するもので、保健システムと国内連携の強化を通じて、感染症の 流行を検知し、対応することを目指しています。世界銀行は、エチオピア、ザンビア、 アフリカ連合が感染症の拡大抑制と、地域レベル及びアフリカ全体の公衆衛生問題への 対応を目的として運営するアフリカ疾病予防管理センター・プロジェクトにも 2 億 5,000 万ドルを提供しました。いずれのプロジェクトも、各国が検査機器を調達し、新型 コロナウイルス感染症の世界的流行に効果的に対応するための資金を調達済みです。 バッタの大量発生は、同地域の食料安全保障を脅かし、数百万人の生計に悪影響を及 ぼしています。世界銀行は各国がこの危機に対応できるよう、バッタの生息数のモニタ リング・制御を支援する5 億ドルの緊急蝗害対応プログラム(ELRP)を実施し、個人の 資産の保護や経済面の影響への対応を支援すると共に、各国がバッタによる被害への備え を強化できるよう取り組んでいます。同プログラムは、エチオピア、ケニア、ソマリア、 ウガンダによる対応に資金を提供しています。 表 3:アフリカ地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 664 868 1,106 人口増加率(年率、%) 2.7 2.8 2.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 550 1,434 1,536 (アトラス方式、 現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 0.8 2.6 (0.4) (100万人) 388b 1日1.90ドル未満で生活している人口 405 420 平均寿命、女性(歳) 52 58 63 平均寿命、男性(歳) 49 55 60 二酸化炭素排出量(100 万トン) 565 765 848 極度の貧困 (1日1.90ドル未満で生活する人口の 55.4b 46.6 42.3 割合、2011 年 PPP、%) 財及びサービスの輸出額に対する債務の割合 9 3 8 女性就業率の男性就業率に対する比率(%) 84 85 86 (モデルに基づく ILO 推定) 不安定な雇用形態(総雇用数に占める割合、%) 78 76 74 (モデルに基づく ILO 推定) 出生児 1,000 人当たりの 5 歳未満児死亡率 153 101 78 初等教育修了率 54 68 69 (修了者が該当年齢層に占める割合、%) 個人のインターネット普及率 <1 7 25 (人口に占める割合、%) 電力を利用できる人(人口に占める割合、%) 26 34 48 再生可能エネルギーの消費量 73 72 70 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) 基礎的な衛生サービスを利用できる人 23 27 31 (人口に占める割合、%) 基礎的な飲料水サービスを利用できる人 46 55 61 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~19 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照ください。 a. 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx の地域別 b. データをご参照ください。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/afr 20 世界銀行 年次報告 2020 プロジェクト紹介 ウガンダの難民と受入コミュニティの支援 ウガンダはアフリカ地域では最大、世界全体でも第 3 位の難民受入国であり、国内に 140 万人の難民を抱えています。同国は世界で最も進歩的かつ寛大な難民政策を掲げる国 の一つですが、避難が長期化していること、新たな難民の流入について見通しが立たない こと等から、難民は生計の確保や社会サービスの利用の面で現実的な課題に直面していま す。また、受入コミュニティでも地域のサービスに対する需要が逼迫し、難民受入れ以前 から十分なサービスを受けられずにいたコミュニティの負担が増大するなど、長期投資の 必要性が指摘されています。 世界銀行は、強制移動の影響に関する開発対応プロジェクト(1 億 5,000 万ドル)を通 じてウガンダを支援しています。同プロジェクトは IDA の難民・受入コミュニティ向け サブウィンドウの資金を原資として、基礎的な社会サービスへのアクセス改善、経済機会 の拡大、社会・経済インフラの強化の他、天然資源管理、環境再生を支援しています。 同プロジェクトの対象は、難民の受入人数が多い 14 の地区です。活動の中心となる 北部では、緊急対応から中期的支援への移行が焦点となっており、西部と南西部では経済 機会の拡大と、地区・国レベルのサービス提供システムの統合が活動の柱となっています。 また、強制移動危機対応メカニズムを通じて、難民が短期間に大量流入する可能性のある 貧しく脆弱なコミュニティが教育、保健、給水サービスを短期間で拡大できるよう、政府 に資金を提供しています。 ウガンダ北西部の町、コボコでは、ロブレ小学校の過密状態を緩和し、学習環境を改善 するために新しい教室の建設を進める一方、雨水貯留タンクの設置、照明の改善、排水式 トイレの設置にも取り組んでいます。近代的な備品を備えた教室、教員用住居、保健セン ター、公衆トイレ、貯水タンク、動物病院等、これまでに約 80 施設の建設を完了したほ か、100 施設近くを建設中です。同プロジェクトは、荒廃した土地の再生、水資源の持続 可能性の向上、肥沃な農地・森林の維持も支援しています。また、太陽光等の代替エネル ギーを利用した照明や揚水、質の良い家庭用コンロの設置等、改修後の施設は使い勝手に 配慮したものとなっています。 難民と受入コミュニティの両方を支援するため、付加価値の高い農業、漁業、炭・レンガ の生産等、人々が収入を得る機会の創出、拡大、改善を図る生計プログラムも進められて います。 同プロジェクトは、ジブチ、エチオピア、ケニア、ウガンダの難民受入コミュニティを 対象とした、地域レベルの支援活動の一環であり、コミュニティ主導型の開発アプローチ を採用することにより、コミュニティの緊急ニーズに対応できるサブプロジェクトの特定 と優先度の決定に市民の参加を仰ぎ、コミュニティだけでなく、草の根組織や地方公共団体 のエンパワーメントを促進しています。また、ジェンダーに基づく暴力や子供に対する暴力 といった基本的な社会リスクへの対応も図っています。プロジェクトの全体目標は、難民 と受入コミュニティの社会的結びつきの強化、社会的説明責任の改善、全ての人に利益を もたらす人道的プログラムと開発プログラムの統合にあります。 地域別展望 21 東アジア・大洋州地域 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まる前 の 2019 年、東アジア・大洋州 地域の成長率は 2018 年の 6.3%から 5.9%に低下しました。中国の成長率は 2018 年 の 6.6%から 2019 年は 6.1%に減速し、中国を除く東アジア・大洋州地域の途上国の 成長率は、2018 年の 5.2%から 2019 年には 4.7%に低下しました。世界銀行が発行 する「世界経済見通し(GEP)」の 2020 年 6 月版によると、この地域の 2020 年の 成長率は 0.5%に減速する見通しです。明らかな下振れリスクとしては、新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行が想定より長引くこと、金融市場への圧力が長期化するこ と、貿易紛争の再燃によって世界貿易が想定外に長くかつ大幅に縮小すること等が考え られます。 2019 年、中国を除く東アジア・大洋州地域の途上国の推定貧困人口(1 日 5.50 ドル 未満で生活している人々)が 2 億 7,100 万人だったのに対し、東アジア地域の途上国 の総人口の 65%を占める中国の推定貧困人口は約 2 億 2,500 万人に上りました。 2020 年は、新型コロナウイルス感染症が経済にもたらす影響により、域内の貧困人口 が大幅に増加する恐れがあります。 世界銀行の支援 2020 年度、世界銀行は東アジア・大洋州地域の 77 件のプロジェクトに対し 73 億ドルの支援を承認しま した。その内訳は、IBRD の承認額が 48 億ドル、 2020 年度、世界銀行は 東アジア・大洋州地域の新型 IDA の承認額が 25 億ドルでした。また、3 カ国 コロナウイルス感染症対策を と有償助言サービス協定を締結し、その総額 支援するため、世界規模の「対策 準備・対応プログラム」の下で、 は約 400 万ドルに上りました。 11 件の新規プロジェクト(総額 世界銀行は東アジア・大洋州地域において、 5 億ドル)を承認し、9 件の既存 人的資本と包摂、民間セクター主導の成長、強靱 プロジェクト (総額 4,200 万ドル) の資金を再配分しました。 性と持続可能性の 3 つの優先分野に取り組んでい ます。 人的資本の構築と経済的包摂の促進 インドネシアでは人的資本の強化が優先課題となっています。世界銀行はインドネシア 政府が実施するファミリー・ホープ・プログラムに 6 億ドルを提供し、社会扶助の提供 システムを強化し、最貧困コミュニティが貧困の連鎖を断ち切ることができるよう支援 しています。同プログラムは 1,000 万世帯に条件付き現金給付を提供し、行動変容を 支援することにより、子供の教育・保健成果への投資を促進しています。世界銀行はまた、 村落サービス改善のための組織・制度強化プロジェクトも支援しており、約 80 億ドル の財政移転を通じて支出を効率化し、約 7 万 5,000 の村落の約 1 億 7,600 万人に恩恵 表 4:東アジア・大洋州地域 地域への融資承認額と融資実行額— 2018~20 年度 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2018 年度 2019 年度 2020 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 IBRD 3,981 4,030 4,770 3,476 5,048 4,679 IDA 631 1,272 2,500 1,252 1,282 1,589 実行中プロジェクトのポートフォリオ:355 億ドル(2020 年 6 月 30 日現在) 22 世界銀行 年次報告 2020 をもたらすことを目指しています。新型コロナウイルス感染症の世界的流行の発生を受け、 政府はこれらの資金を原資として所得補助金、保健情報、コミュニティ支援を提供し、 危機が保健、経済、社会に与える影響の緩和に努めました。 ラオス人民民主共和国では、母子の栄養不良率の高さが人的資本を脅かしており、そ の損失額は毎年、GDP の推定 2.4%に達するとも言われています。この国で今日生ま れた子供は、十分な教育を受け、良好な健康状態で成長した場合に発揮できるはずだっ た生産性の 45%しか実現できないことになります。世界銀行は栄養不良に対するセク ター横断的な長期アプローチを支援しているほか、発育阻害率が 40%を超える州でも 取組みを続けています。 フィリピンでは、フィリピン農村開発プロジェクトに 5 億 7,000 万ドルを提供し、 農村部の所得拡大と農業・漁業生産性の向上を全国規模で支援しています。農家と市場 を結ぶ道路、灌漑、飲料水、農村プロジェクト、沿岸・海洋資源保全活動を通じて、約 32 万 3,500 人(内 46%は女性)が恩恵を享受しました。調査によると、こうした 取組みの恩恵を享受した農業・漁業世帯では収入が平均 36%増加しました。 民間セクター主導の成長の促進 東アジア・大洋州地域が持続可能な成長を実現するためには、民間セクターの機会を 拡大し、投資とイノベーションの環境を整備することが不可欠です。世界銀行は、フィジー、 インドネシア、フィリピン等で民間セクターの成長を促進する政策改革を支援している ほか、中国、マレーシア、タイ等でビジネス環境を改善するための助言サービスを提供 しています。フィリピンでは中小・零細企業を支援する政策・プログラムを通じて起業家 精神とイノベーションを促進し、ラオス人民民主共和国とミャンマーでは競争力と貿易 への投資を促進しています。各国が潜在的なリスクを管理しながら金融テクノロジー (フィンテック)を活用できるよう、バリ・フィンテック・アジェンダの実行を通じて、 金融アクセス拡大を支援しています。また、フィリピンとベトナムではフィンテック 評価を実施し、カンボジアとサモア独立国では女性の農民や中小企業が融資を利用でき るよう支援しています。 強靱性と持続可能性の構築 東アジア・大洋州地域の国々は、気候変動から大きな影響を受けやすいものの、革新 的な方法でリスク緩和を図っています。中国では二酸化炭素排出量の少ない成長を促進 するため、政府の排出量取引制度、電力セクター改革、成果連動型大気汚染管理メカ ニズムを支援しています。また、ラオス人民民主共和国とベトナムでは、環境に配慮した 成長と気候変動対策を対象とする開発政策融資を通じて政府の政策改革を支援し、タイ とベトナムでは炭素価格に関する分析・助言サービスを提供しています。 図 2:東アジア・大洋州地域 IBRD・IDA のセクター別融資— 2020 年度 総額 73 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 5% 16% 農業・漁業・林業 運輸 3% 社会的保護 13% 6% 教育 10% エネルギー・採取産業 行政 19% 10% 金融セクター 情報通信技術 3% 産業・貿易・サービス 5% 10% 保健 地域別展望 23 世界銀行は革新的な融資メカニズムを通じて、各国が気候変動対応型農業への投資に よって食料安全保障を確保し、気候変動対応型インフラへの投資によって異常な気象 現象に対処できるよう支援しています。ベトナムのメコン・デルタは、海抜が低い上に 人口密度が高いため気候変動に対する脆弱性が特に高くなっています。この地域には 2,000 万人が暮らしており、多くが稲作に生計を依存しています。気候変動強靱性・ 持続可能な生計のための総合プロジェクト(3 億 1,000 万ドル)は、同地域が農村 コミュニティの経済状態を改善しつつ、気候変動対応型の水・土地管理に移行できるよう 支援しています。また、デルタ地域全体を対象に、気候変動対応型の総合的な計画立案 プロセスを導入しています。 表 5:東アジア・大洋州地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 1,816 1,966 2,094 人口増加率(年率、%) 1.0 0.7 0.6 1 人当たり国民総所得(GNI) 911 3,759 8,299 (アトラス方式、 現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 6.4 9.0 5.2 (100万人) 550b 1日1.90ドル未満で生活している人口 219 28 平均寿命、女性(歳) 72 75 78 平均寿命、男性(歳) 68 71 73 二酸化炭素排出量(100 万トン) 4,189 10,004 11,421 極度の貧困 (1日1.90ドル未満で生活する人口の 29.7b 11.2 1.3 割合、2011 年 PPP、%) 財及びサービスの輸出額に対する債務の割合 8 2 1 女性就業率の男性就業率に対する比率(%) 82 79 78 (モデルに基づく ILO 推定) 不安定な雇用形態(総雇用数に占める割合、%) 62 54 47 (モデルに基づく ILO 推定) 出生児 1,000 人当たりの 5 歳未満児死亡率 42 23 16 初等教育修了率 92 96 98 (修了者が該当年齢層に占める割合、%) 個人のインターネット普及率 2 29 51 (人口に占める割合、%) 電力を利用できる人(人口に占める割合、%) 92 95 98 再生可能エネルギーの消費量 32 16 16 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) 基礎的な衛生サービスを利用できる人 56 72 82 (人口に占める割合、%) 基礎的な飲料水サービスを利用できる人 80 88 92 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~19 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照ください。 a. 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx の地域別 b. データをご参照ください。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/eap 24 世界銀行 年次報告 2020 プロジェクト紹介 トンガにおけるデジタル格差の解消 世界銀行の大洋州地域接続性プログラム(PRCP)は 2011 年以降、域内各国の政府と 協力して、情報通信技術(ICT)へのアクセス改善、コストの低減、安定性と質の向上を 図ってきました。トンガは南太平洋上の 70 万平方キロメートルの領海に点在する 176 の 島々で構成される国家で、既に同プログラムの最初のフェーズが大きな成果を上げてい ます。 以前のトンガには高額な衛星通信を利用する以外にインターネットに接続する方法があ りませんでした。しかも、利用できる人は人口の 2%に限られ、ブロードバンドの利用者 にいたっては、わずか 0.9%でした。一方、ビジネスや貿易、保健、教育、そして国外に 離れて暮らす家族や知人とのコミュニケーションのためにインターネット接続を必要とす る人の数は増え続けていました。 同プログラムは、インフラと技術協力に投資することにより、10 万 1,000 人超(内 2 万人弱はトンガの中心的島嶼群であるハアパイ諸島とババウ諸島の住民)に便益をもたら しました。また、国外との接続コストが削減され、通信規制の枠組みが強化された結果、 ICT 環境が改善され、健全な市場競争が生まれ、インフラと保健・行政サービスへのアク セスが向上しました。ブロードバンド・インターネット利用者が支払う平均料金は 97%、 国際電話の 1 分当たりの平均料金は 37%、それぞれ削減されました。ブロードバンドの 卸売価格も大きく低下し、利用可能な国際インターネット帯域幅は 118 倍の 4,400 メガ ビット/秒へと大幅に拡大しました。さらに同プログラムの下、トンガとフィジー、そし てトンガの主島とハアパイ諸島、ババウ諸島を結ぶ全長 1,217km の海底光ファイバー・ ケーブル網の敷設も進められました。 成果は通信分野にとどまりません。 「光ファイバー・ケーブル網が完成すれば、バイオラ 病院の医師は他の島の医療スタッフや国外の医師ともっと簡単にやり取りできるように なります。 」と、太平洋共同体公衆衛生部門責任者でトンガ唯一の眼科外科医であるパウラ・ ヴィヴィリ医師は言います。 「特にトンガのような島国にとって、ビデオ会議は大きな 可能性を秘めています。手術中でも外国の専門家からすぐに助言や意見をもらえるので、 チームの負担が軽くなるはずです。 」 さらに同プログラムの一環として、民間セクターの参加促進に向けて、同国の独占的 ケーブル事業者の株式の 16.7%を民間事業者に売却することにより一部民営化の道筋を つけました。また、2016 年に成立した通信法の策定も支援しました。 基幹インフラの整備と規制環境の強化を並行して実施するというこのアプローチは現在、 フィジー、キリバス、ミクロネシア連邦、パラオ、サモア独立国、ツバルでも導入されて います。インターネット接続が向上したことを踏まえ、行政サービスへのアクセス改善、 公共サービスへのデジタル・アクセス、効率化、セキュリティの強化を目指す新プロ ジェクト、トンガ・デジタル政府支援プロジェクトが始動しました。 地域別展望 25 ヨーロッパ・ 中央アジア地域 ヨーロッパ・中央アジア地域の 2019 年の成長率は、経済規模が最も大きいロシアと トルコの成長が鈍化していることから、2.2%に減速した模様 です。2020 年は新型 コロナウイルス感染症の世界的流行を受けて、成長率はマイナスの水準にまで落ち込む とみられています。新型コロナウイルス感染症が経済に与える影響についてはまだ確定 が困難ですが、複数のシナリオに基づくと、同地域の成長率は 2020 年にマイナス 4.7% を記録した後、政策措置の導入や世界規模での一次産品価格の上昇、貿易の回復等を 受けて、2021 年には好転が予想されています。 同地域の新興国・途上国は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まる以前か ら既に脆弱な状態にありました。世界規模の感染拡大を受けて、同地域は 2 月以降、 目の前の保健危機と長期的な課題の両方に対応するという苦しい戦いを迫られており、 域内諸国の大半が社会・経済活動と世界・地域規模のサプライチェーンの深刻な混乱、 厳しい移動制限、旅行や観光業の落ち込み、輸出需要の減退を経験しています。 世界銀行の支援 2020 年度、世界銀行はヨーロッパ・中央アジア地域 の 64 件のプロジェクトに対し 72 億ドルの支援を承認 しました。その内訳は、IBRD の承認額が 57 億ドル、 2020 年度、世界銀行は IDA の承認額が 15 億ドルでした。また、7 カ国と ヨーロッパ・中央アジア地域の 39 件の有償助言サービス協定を締結し、その 新型コロナウイルス感染症対策を 総額は 7,500 万ドルに上りました。 支援するため、世界規模の 世 界 銀 行 は、 保 健 分 野 の 成 果 向 上、 教 育 「対策準備・対応プログラム」の 制度の改善、スキル開発の促進、持続可能かつ 下で、11 件の新規プロジェクト (総額 7億 4,000 万ドル)を承認し、 強靱な成長に焦点を合わせて、各国の開発目標 9 件の既存プロジェクト(総額 を支援することを目指しています。新型コロナ 6 億 8,900 万ドル)の資金を ウイルス感染症の世界的流行への対応においては、 再配分しました。 保健セクターの機能及び有効性の強化と社会的保護を 特に重視しています。 保健分野の取組みを補完するため、 教育分野の成果向上も図っており、同地域の人々が生涯 を通じて、より良い暮らしを送ることができるよう、人的資本開発の強化を支援してい ます。また、域内諸国と連携して、各国が公正かつ持続可能な成長を達成し、気候変動 に対する強靱性を高め、気候変動の潜在的な原因を緩和できるよう支援しています。 世界銀行は資金を提供するだけでなく、政策助言を通じて各国が新型コロナウイルス 感染症の世界的流行の影響に対応できるよう支援し、 域内諸国の政府による対応の規模、 重点領域、効果に影響を与えています。 保健医療システム改革による有効性改善と人的被害の緩和 世界銀行は各国が保健医療システムを強化できるよう、システムの効率化と施設・ 設備の改修を支援しています。2020 年初頭に新型コロナウイルス感染症の世界的流行 が始まった際、犠牲者の数を最小限に抑え、保健分野の成果を高めるため、保健システム の強化が急務となりました。2020 年 4 月にはセルビアに対し、1,500 万ユーロの災害 リスク繰延引出オプション(Cat DDO)付き融資を開始し、制度的・法的枠組みを 強化し、保健上の緊急事態や自然災害がもたらす物的影響や財政面への影響を管理し、 新型コロナウイルス感染症対策の資金を迅速に調達できるよう支援しました。 表 6:ヨーロッパ・中央アジア地域 地域への融資承認額と融資実行額— 2018~20 年度 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2018 年度 2019 年度 2020 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 IBRD 3,550 3,749 5,699 4,134 2,209 3,100 IDA 957 583 1,497 298 931 365 実行中プロジェクトのポートフォリオ:298 億ドル(2020 年 6 月 30 日現在) 26 世界銀行 年次報告 2020 2020 年度は域内で初めて、タジキスタンが女性、子供、青年のためのグローバル・ ファイナンシング・ファシリティ(GFF)に参加しました。GFF はドナー間の連携を 強化し、国内外の資源の活用を効率化することで、保健・栄養問題に効果的に対応でき るようにするグローバルなプラットフォームです。 世界銀行の助言サービス・分析は、政策提言を通じて、各国政府が十分な情報を基 に、開発の重点分野を決定できるよう支援しています。2020 年 4 月版のヨーロッパ・ 中央アジア地域半期経済報告は、新型コロナウイルス感染症が同地域の経済成長に与え る影響を評価し、特に貧困層・最脆弱層を対象に保健医療システムの強化、小規模事業 の支援、セーフティネットの拡大といった政策措置の実行を提言しました。 人的資本への投資による潜在能力の向上 質の高い保健医療を確保し、適切な教育を提供することは人的資本開発の基礎であ り、変化の激しい今日の世界において、成人後に成功と繁栄を手にするために不可欠で す。人的資本指標(HCI)が示す通り、幼児期から 10 代にかけて人的資本に十分な 投資を行うことで、人々は生涯を通じて、高い水準の生産性を発揮できるようになりま す。世界銀行はパートナーと連携しながら、保健・教育分野の成果向上につながる分野 に財政支援を行い、人々が潜在能力を最大限に発揮するための成長の機会を提供してい ます。 ジョージアでは、革新・包摂・品質プロジェクト(1 億 300 万ドル)が就学前教育へ のアクセス拡大と、あらゆるレベルの教育の質及び学習環境の改善を支援しています。 同プロジェクトを通じて、ジョージア全土の 11 万 6,000 人の生徒が学習環境改善の 恩恵を享受し、1,600 人の教員と指導者が高度な研修に参加し、新たに 65 の学校が建設 される予定です。 ウズベキスタンでは、乳幼児発達促進プロジェクト(6,000 万ドル)が就学前教育 を改善し、民間セクターとのパートナーシップを促進すると共に、体系的な教育品質 評価を通じて、政策の立案と戦略の策定・モニタリングを支援しています。100 万人超の 子供(内、54 万人は女児)が、子供の使い勝手に配慮した現代的な設備、家具、教材の 恩恵を享受し、就学前教育機関で働く 2 万人以上の教職員が乳幼児の発達に関する最新 の研修に参加しています。 気候変動・自然災害に対する強靱性の強化 ヨーロッパ・中央アジア地域では過去 30 年間に約 500 回の大規模な洪水・地震が 発生し、5 万人が犠牲となり、2,500 万人が影響を受けました。域内では、地震又は洪水 によって首都が甚大な被害を受けたことのある国は 3 分の 1 近くに上り、干ばつ等の 自然災害は人々の生計に壊滅的な影響を与え続けています。こうした気象現象の影響を 最も深刻に受けているのは最貧困層・最脆弱層です。 途上国が気候変動に起因する災害の影響を緩和し、危機への備えを強化し、災害後の 復興活動を拡大できるよう支援するために複数のプロジェクトが進められています。 2020 年 3 月にクロアチアで地震が発生した際、世界銀行はどの国際金融機関よりも早 く支援を提供しました。迅速なニーズ評価を支援し、2020 年 6 月には地震復興・公衆 衛生対策緊急復興プロジェクト(2 億ドル)を承認しました。同プロジェクトは、重要 な公共サービスの復旧と住宅再建資金助成プログラムの設計を支援する予定です。 図 3:ヨーロッパ・中央アジア地域 IBRD・IDA のセクター別融資— 2020 年度 総額 72 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 6% 5% 農業・漁業・林業 運輸 6% 6% 教育 12% エネルギー・採取産業 社会的保護 15% 8% 金融セクター 行政 10% 情報通信技術 4% 産業・貿易・サービス 10% 18% 保健 地域別展望 27 トルコでは、持続可能な都市プロジェクト(1 億 3,300 万ドル)が、技術協力、実現 可能性調査、環境評価、インフラ投資を通じて、持続可能な都市開発計画を支援してい ます。また、風力発電所を送電網に接続し、風力エネルギーを全国で利用できるように するため、再生可能エネルギー統合プロジェクト(3 億 2,500 万ドル)を通じて、イン フラの整備と強化にも取り組んでいます。 北マケドニア公共セクター・エネルギー効率化プロジェクトは、エネルギー消費の 削減と持続可能な資金調達メカニズムの開発・導入支援に 2,700 万ドルを提供すること により、公共セクターのエネルギー効率を改善し、約 9 万 7,000 人に恩恵をもたらし ています。同プロジェクトにより、エネルギー・コストは年間約 400 万ドル、エネル ギー消費量は 20 年間で約 25 億メガジュール削減される見通しです。 域内協力の促進 世界銀行は地域レベルのイニシアティブを通じて、域内諸国間の協力や連携、貿易を 支援しています。例えば中央・南アジア送電・電力取引プロジェクト (5 億 9,200 万ドル) は、アフガニスタン、キルギス共和国、パキスタン、タジキスタンが持続可能な電力 取引を実施するための環境整備を支援しており、中央アジア地域水文気象近代化プロ ジェクト(3,200 万ドル)は、同地域の水文・気象サービスの精度向上を支援し、複数の フェーズから成る中央アジア地域統合プログラムでは、地域全体の接続性向上と貿易、 物流の強化、持続可能な観光業を支援しています。 表 7:ヨーロッパ・中央アジア地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 369 378 399 人口増加率(年率、%) 0.0 0.6 0.5 1 人当たり国民総所得(GNI) 1,795 7,391 8,014 (アトラス方式、 現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 8.3 5.0 1.2 (100万人) 1日1.90ドル未満で生活している人口 28 b 12 6 平均寿命、女性(歳) 73 75 78 平均寿命、男性(歳) 62 66 70 二酸化炭素排出量(100 万トン) 2,610 2,935 2,979 極度の貧困 (1日1.90ドル未満で生活する人口の 6.0b 2.5 1.2 割合、2011 年 PPP、%) 財及びサービスの輸出額に対する債務の割合 11 6 9 女性就業率の男性就業率に対する比率(%) 72 72 71 (モデルに基づく ILO 推定) 不安定な雇用形態(総雇用数に占める割合、%) 23 20 18 (モデルに基づく ILO 推定) 出生児 1,000 人当たりの 5 歳未満児死亡率 36 19 13 初等教育修了率 94 98 97 (修了者が該当年齢層に占める割合、%) 個人のインターネット普及率 2 35 73 (人口に占める割合、%) 電力を利用できる人(人口に占める割合、%) 100b 100 100 再生可能エネルギーの消費量 5 5 6 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) 基礎的な衛生サービスを利用できる人 86 91 94 (人口に占める割合、%) 基礎的な飲料水サービスを利用できる人 93 95 96 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~19 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照ください。 a. 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx の地域別 b. データをご参照ください。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/eca 28 世界銀行 年次報告 2020 プロジェクト紹介 ヨーロッパ・中央アジア地域における女性の包摂と ジェンダー平等の促進 人口の多くを経済から締め出していては、どんな国も潜在能力を発揮することはできま せん。ヨーロッパ・中央アジア地域では労働力の 50%弱を女性が占めているにもかかわ らず、女性の平均収入は男性の 30%程度にとどまっています。女性は金融アクセスが限 られ、銀行口座の開設率や金融機関の預金率、融資の獲得率も男性を下回る傾向にありま す。家庭内暴力や職場のセクシュアル・ハラスメントといったリスクにさらされている上、 就業制限もあり、発言権や決定権は限定的です。 世界銀行は域内諸国が女性の直面している経済・社会面の障壁を撤廃し、正規労働力へ の参加と生計改善を支援することで、経済成長を促進しています。また、世界銀行の支援 がジェンダー平等を効果的に促進するものとなるように、地域ジェンダー行動計画を策定 しました。同計画の 3 本の柱は (i) 途上国が主導する戦略的なジェンダー主流化、 (ii)研究、 イノベーション、データ作成、 (iii)コミュニケーション、キャパシティ・ビルディング、 報告、です。 世界銀行は 2020 年度、ヨーロッパ・中央アジア地域において 42 件のプロジェクトに 対し約 53 億ドルの融資を承認しました。いずれも、プロジェクトの設計や内容にジェン ダー格差がないかを見極め、プロジェクトの全期間を通じて、その解消に取り組むもので す。アルバニアの経済機会・ジェンダー平等プロジェクト(1,000 万ドル)は、世界銀行初 のジェンダーに特化した開発政策融資によるものであり、女性の資産所有権を認め、女性 が所得を得る機会を増やし、ジェンダーの視点を取り入れた政策立案を強化することにより、 ジェンダー平等を促進する政策を拡大できるよう支援しています。ウズベキスタンでは、 畜産セクター開発プロジェクト(1億 5,000 万ドル)を通じて、自作農が現代的なサプライ チェーンに参加できるよう支援し、女性が収入を獲得する機会を拡大しています。モルドバ の高等教育プロジェクト(3,600 万ユーロ)は、啓発活動とキャリア指導を通じて、女性 に科学、テクノロジー、工学、数学分野の高等教育課程への進学を奨励しています。これら の 活 動 は、 ア ジ ア 地 域 全 体 で コ ミ ュ ニ テ ィ、 国、 地 域 レ ベ ル の ジ ェ ン ダ ー 格 差 の 解消に貢献してきました。 地域別展望 29 ラテンアメリカ・ カリブ海地域 ラテンアメリカ・カリブ海地域はこの一年間、社会不安や国際原油価格の急落、新型 コロナウイルス感染症の世界的流行等、数多くのショックに見舞われました。同地域の GDP 成長率(十分なデータが得られないベネズエラを除く)は、2019 年の 0.8%から 2020 年はマイナス 7.2%に低下し、2021 年に 2.8%まで持ち直すとみられています。 同地域では、21 世紀の最初の 10 年間に商品市場の高騰と広範な成長によって貧困率 が 2 分の 1 に低下しました。世界銀行は、この間に達成された大きな社会的変革の成果 を維持しようと努めています。同地域では、2003 年から 2016 年の間に極度の貧困層 の割合が 24.5%から 9.9%に低下しましたが、それ以降は経済見通しが不透明になり、 多くの人が貧困状態に逆戻りすることが懸念されています。さらに新型コロナウイルス 感染症の世界的流行により、リスクは一段と高まっています。 世界銀行の支援 2020年度、世界銀行はラテンアメリカ・カリブ海地域 の 67 件のプロジェクトに対し 78 億ドルの支援を承認 2020 年度、世界銀行は しました。その内訳は、IBRD の承認額が 68 億ドル、 ラテンアメリカ・カリブ海地域の IDA の承認額が 10 億ドルでした。また、2 カ国 新型コロナウイルス感染症対策を と 6 件の有償助言サービス協定を締結し、その 支援するため、世界規模の 「対策準備・対応プログラム」の 総額は 200 万ドルに上りました。 下で、10 件の新規プロジェクト 同地域における世界銀行の活動には 3 つの柱 (総額 2 億1,500 万ドル)を承認し、 があります。第一の柱は、包摂的な成長に重点を 17 件の既存プロジェクト(総額 7 億 300 万ドル)の資金を 置き、生産性、競争力、透明性、説明責任の向上、 再配分しました。 先住民族、アフリカ系住民、農村コミュニティ等、 従来から疎外されてきた人々の支援、そして民間投資 の誘致を促進することです。第二の柱は、人的資本への 投資に注力し、人々が仕事の質の変化に伴う課題と機会に対応できるようにすること、 第三の柱は、自然災害や経済の激変、移民、犯罪と暴力、感染症といったショックに 対応できるように、各国の強靱性を強化することです。 包摂的な成長の促進 世界銀行は生産性の向上、説明責任の強化、機会の創出を通じて、同地域の経済・社会 の包摂的成長を促進することに力を注いでいます。メキシコでは、生物多様性を保全・ 保護するため、国内の複数の生物学的回廊の連結を支援しました。この取組みでは、 生物多様性に配慮した手法の導入により、8 万1,000 ヘクタールを超える土地が保全され、 1 万 3,000 人近くの生産者が恩恵を享受しました。また、42 件を超える業務提携関係 が結ばれ、生物多様性に配慮した商品の基準が策定されました。ホンジュラスでは、 農村競争力拡大プロジェクト(3,000 万ドル)の支援により、生産者同盟への参加が 促進された小規模生産者の生産性と競争力が向上しました。その結果、生産者の所得が 推定 28%増加し、農村部の 7,200 世帯が恩恵を享受しました。コロンビアでは、世界 表 8:ラテンアメリカ・カリブ海地域 地域への融資承認額と融資実行額— 2018~20 年度 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2018 年度 2019 年度 2020 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 IBRD 3,898 5,709 6,798 4,066 4,847 5,799 IDA 428 430 978 223 340 466 実行中プロジェクトのポートフォリオ:310 億ドル(2020 年 6 月 30 日現在) 30 世界銀行 年次報告 2020 銀行が支援した政策改革により、主要都市の大気汚染が 24%削減され、農村部におけ るクリーン・エネルギー生産量が増加したほか、安全な水へのアクセスが改善され、 50 万人が恩恵を享受しました。 人的資本への投資 世界銀行は、繁栄の前提条件である保健と教育に全ての人がアクセスし、包摂的な 成長がもたらす機会と、急速に変化する雇用市場を活かせるようにすることを目指して います。ハイチでは、教育・保健サービスの改善支援により、24 万人の子供が質の高い 教育を受け、120 万人超が母子保健サービスにアクセスできるようになりました。 世界銀行の支援はコレラ感染率の激減にも貢献し、2019 年1月以降、コレラの感染者は 確認されていません。ブラジルでは、条件付き現金給付プログラム「ボルサ・ファミリア」 が強化され、約 4,700 万人に恩恵をもたらしました。同プログラムは就学率の 91%上昇 にも貢献しました。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対しては、世界銀行グループのファスト トラック・ファシリティの下で、アルゼンチン、エクアドル、ハイチ、パラグアイにおける、 総額 1 億ドルの新規プロジェクトが承認されました。これらの支援は犠牲者の数を最小 限に抑え、保健システムの強化を図るものです。また、コロンビア、ドミニカ共和国、 ホンジュラス、パナマにおいて災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)が発動 されました。 強靱性の構築 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、将来の感染症の世界的流行や保健危機に 備えて、強靱性を強化する必要性を浮き彫りにしています。2020 年 5 月、世界銀行は エクアドルに対する 5 億ドルの開発政策融資を承認しました。この資金は新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行への対応、民間セクター開発の阻害要因の解消、経済復興の 支援、公共セクターの効率化と長期的な財務の持続可能性の向上に活用される予定です。 ラテンアメリカ・カリブ海地域は、世界で最も自然災害の発生率が高く、気候変動が もたらす課題に対して特に脆弱です。そのため、同地域における世界銀行の取組みは、 台風等の災害に強いインフラの構築に重点が置かれています。ドミニカ共和国では、新 しい下水道、排水処理、廃棄物処理施設への投資により衛生サービスの質が改善され、 約 14 万 3,000 人が恩恵を享受しました。ハイチでは、インフラ改善と災害への備えの 強化を支援したほか、電力アクセス拡大によって 23 万 3,000 人以上が、全天候型道路の 建設によって 200 万人以上が、それぞれ恩恵を享受しました。さらに、6 万人以上が より安全な飲料水を利用できるようになりました。 助言サービス、技術協力、動員力の活用 世界銀行は、域内諸国が開発目標を達成できるよう、融資に加えて助言サービスや 技術協力、詳細な分析サービスも提供しました。2019 年 11 月に発表した報告書は、 図 4:ラテンアメリカ・カリブ海地域 IBRD・IDA のセクター別融資— 2020 年度 総額 78 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 9% 4% 農業・漁業・林業 5% 教育 運輸 6% 3% エネルギー・採取産業 17% 金融セクター 社会的保護 18% 12% 保健 4% 産業・貿易・サービス 行政 19% 3% 情報通信技術 地域別展望 31 ベネズエラ危機により、かつてない規模の移民流入を経験している周辺諸国の課題に国際 社会の注目を集めるものでした。同報告書は、移民と受入コミュニティの両方を支援する 政策の立案に向けて、エビデンスに基づいた確かなデータを提供しました。エクアドル では国連と連携し、同国に滞在している約 40 万人のベネズエラ移民の教育・保健ニーズ に対応するためのデータを収集しました。 世界銀行は、ガバナンス、都市計画、気候変動、防災の間に関連性があることに注目し、 中米統合機構(SICA)、米航空宇宙局(NASA)、国連防災機関(UNDRR)と共同で 中央アメリカ地域の強靱性強化に取り組みました。また、米州開発銀行(IDB)と協力 して、ホンジュラスが貧困測定方法を刷新し、社会的保護プログラムの対象者を絞り 込めるよう支援しました。コロンビアでは助言サービスを通じて教育システムの管理と 保護者の参加促進に貢献しました。2020 年 2 月にコスタリカで開催した「リスク理解 のための中米会議(URCA)」には、22 カ国から 700 人を超える参加者が集まり、防災 や強靱性の分野でイノベーションを促進する方法を話し合いました。 表 9:ラテンアメリカ・カリブ海地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 493 559 614 人口増加率(年率、%) 1.5 1.1 0.9 1 人当たり国民総所得(GNI) 4,021 7,832 8,355 (アトラス方式、 現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.3 4.8 (0.1) (100万人) 1日1.90ドル未満で生活している人口 63b 36 28 平均寿命、女性(歳) 75 77 78 平均寿命、男性(歳) 68 71 72 二酸化炭素排出量(100 万トン) 1,237 1,562 1,658 極度の貧困 (1日1.90ドル未満で生活する人口の 11.9b 6.2 4.4 割合、2011 年 PPP、%) 財及びサービスの輸出額に対する債務の割合 22 7 10 女性就業率の男性就業率に対する比率(%) 60 66 68 (モデルに基づく ILO 推定) 不安定な雇用形態(総雇用数に占める割合、%) 36 33 34 (モデルに基づく ILO 推定) 出生児 1,000 人当たりの 5 歳未満児死亡率 33 25 17 初等教育修了率 98 100 99 (修了者が該当年齢層に占める割合、%) 個人のインターネット普及率 3 34 66 (人口に占める割合、%) 電力を利用できる人(人口に占める割合、%) 91 96 98 再生可能エネルギーの消費量 28 29 28 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) 基礎的な衛生サービスを利用できる人 72 81 86 (人口に占める割合、%) 基礎的な飲料水サービスを利用できる人 90 94 96 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~19 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照ください。 a. 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx の地域別 b. データをご参照ください。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/lac 32 世界銀行 年次報告 2020 プロジェクト紹介 ベネズエラの移民危機への対応 ラテンアメリカ・カリブ海地域では、ベネズエラで発生した人道的、経済的、社会的危機 により、かつてない数の難民が周辺国に流出しています。その数は、2019 年末までに 500 万人近くに達したとみられており、その内、約 80%が周辺国にとどまっています。 内訳は、コロンビアが 160 万人、ペルーが 86 万 3,300 人、エクアドルが 38 万 5,000 人 となっています。 世界銀行は難民と受入コミュニティの両方を対象に、分析活動、技術支援、資金援助を 進めています。また、国連総会に合わせて開催されたキト・プロセス会合やペルーで開催 された TEDx イベント、注目度の高いいくつかの世界銀行イベント等を通じて、この危機 についての知識を共有し、各国に協力を呼びかけています。 コロンビアでは、ベネズエラからの移民に関する同国初の影響アセスメントを実施し、 この問題への政府の政策対応や国家開発計画の策定を支援しました。2019 年 1月、コロン ビアはグローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)の適格国となりました。世界銀行は、 深刻な移民問題を抱えるコロンビアが財政の持続可能性と競争力を維持できるように 7 億 5,000 万ドルの開発政策融資を提供しています。この内、3,200 万ドルは GCFF との 協調融資です。また、1 億 5,000 万ドルの世界銀行融資と 3,800 万ドルの GCFF 融資の 組み合わせによる保健プロジェクトを通じ、コロンビアの保健医療システム強化と移民・ 難民の社会保障制度加入を支援しています。 2019 年 11 月には、ペルーでもベネズエラ移民の影響を分析する同様のアセスメント を開始しました。また、国連の諸機関と連携して、ペルーの国家統計情報庁 (INEI) が移民 ・ 難民に関する全国調査を実施するための資金を提供したほか、その他の制度・セクター 分析、定性分析を支援しました。移民・難民は新型コロナウイルス感染症の世界的流行の 影響を特に受けやすいため、政府への技術協力を含め、高まるニーズに対応するための 資源を動員しています。 ベネズエラ移民の流入が財政に与える影響の分析は、まもなくエクアドルでも完了する 予定です。受入コミュニティと移民コミュニティの分析を支援するため、世界銀行は 6 つ の国連機関と連携して、全国調査とフォーカス・グループ調査の設計・実施に取り組み、 調査に必要な資金を提供しました。2019 年にはエクアドルも GCFF の適格国となり、 2020 年 5 月に 600 万ドルの譲許的融資を得ました。 地域別展望 33 中東・北アフリカ地域 中東・北アフリカ地域の成長率は、2019 年にマイナス 0.2%に、2020 年はマイナス 4.2%になるとみられています。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は収束 していない上、感染症の拡大に伴って国際原油価格が急落し、送金額が減少するなど、 この見通しはかなり不確実であると言わざるを得ません。同地域の内、石油を輸出する 途上国の成長率はマイナス 5.0%に、湾岸協力会議(GCC)諸国ではマイナス 4.1%に なると予測されています。観光業や送金をはじめ、重要な収入源が広範囲に縮小している ため、域内の石油輸入国の成長率もマイナス 0.8%になるとみられます。 中東・北アフリカ地域では、人口の 3 分の 2 を 35 歳未満が占めていますが、新型 コロナウイルス感染症の世界的流行が始まる前から既に、若者の失業率は 25%近くの 高い水準にありました。域内人口の半数近く(42%)は 1日当たり5.50ドル未満で暮ら しています。極度の貧困層(1日当たり1.90ドル未満で暮らしている人口)の割合は、 2011 年には 2.4%でしたが、紛争や教育、基礎的インフラへのアクセス格差等が影響 し、2015 年はほぼ倍の 4.2%まで上昇しました。新型コロナウイルス感染症の世界的 流行により、極度の貧困率は一段と高くなる見通しです。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は 2019 年、同地域に GDP の約 3.7%、 金額にして 1,000 億ドルを大幅に超える甚大な打撃を与えることになるとみられます。 イエメンでは、紛争の継続によって、それでなくても脆弱な保健医療システムに一層の 負荷がかかり、貧困率も上昇しているため、緊急対応が一段と複雑さを増しています。 世界銀行の支援 2020 年度、世界銀行は中東・北アフリカ地域の 22 件のプロジェクトに対し 36 億ドルの支援を承認しま した。その内訳は、IBRD の承認額が 34 億ドル、 2020 年度、世界銀行は 中東・北アフリカ地域の IDA の承認額が 2 億 300 万ドルでした。この他、 新型コロナウイルス感染症対策を ヨ ル ダ ン 川 西 岸・ ガ ザ 地 区 を 支 援 す る プ ロ 支援するため、世界規模の ジェクトに 1 億 300 万ドルを提供しました。 「対策準備・対応プログラム」の また、140 件の助言・分析サービスを提供し、 下で、7 件の新規プロジェクト 有償助言サービスからの収益は 6,500 万ドルで (総額1億 7,700 万ドル) を承認し、 した。助言サービスは拡大され、GCC 諸国の改革 10 件の既存プロジェクト(総額 プロセスに引き続き支援を提供しています。 4 億 6,400 万ドル)の資金を 再配分しました。 中東・北アフリカ地域では、域内諸国が新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行がもたらした複数のショック、 世界の原油価格急落、国内の経済活動の減速に対応し、 経済の安定を図っています。世界銀行は成長モデルの刷新を引き続き進め、各国が構造 改革を通じて市場を開放し、同地域が擁する多くの若年人口に質の高い経済機会をより 多く創出できるよう支援しています。そのために、人的資本やデジタル・テクノロジー の活用、競争市場の創出を図っています。また、同地域の平和と安定を支えるため、 市民と政府の間の社会的盟約の強化、地域市場の拡大、紛争と気候変動の影響を予防・ 緩和するための強靱性の強化も支援しています。 社会的盟約の一新 世界銀行は民間セクターにおける雇用・経済機会の拡大、市民参加の促進、脆弱層の エンパワーメント、公共サービスの改善、ガバナンスの強化を通じて、市民と国家の絆 表 10:中東・北アフリカ地域 地域への融資承認額と融資実行額— 2018~20 年度 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2018 年度 2019 年度 2020 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 IBRD 5,945 4,872 3,419 3,281 4,790 2,415 IDA 430 611 203 569 647 151 実行中プロジェクトのポートフォリオ:201 億ドル(2020 年 6 月 30 日現在) 34 世界銀行 年次報告 2020 を強化するべく取り組んでいます。チュニジアでは、政府がデジタル・テクノロジーを 活用し、社会的保護・教育分野のサービス提供を改善できるように 1 億ドルを提供しま した。同プロジェクトの目標は、低所得層、農村部の女性、読み書きができない人、 障害者等の脆弱層がこれらのサービスに確実にアクセスできるようにすること、そして 政府システムに市民の意見を広範に取り入れ、 説明責任を強化することです。ヨルダンでは、 グローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)からの 3,700 万ドルを含む、2 億ドルの 若年層・テクノロジー・雇用プロジェクトを通じて、若年層の雇用機会へのアクセス 改善と、デジタル行政サービスの拡大を図っています。同プロジェクトは、ヨルダンに おけるデジタル・エコノミーの潜在的成長力を開花させ、経済成長と雇用創出に向けて 熟練労働者を育成しようというものです。ヨルダン川西岸・ガザ地区では、900 万ドル のプロジェクトを通じて、妊婦検診、子供の栄養と発育のモニタリング、幼児期の学習 機会を支援し、パレスチナ自治政府による乳幼児の発達に投資を行う予定です。同プロ ジェクトには、パレスチナ人の子供が幼稚園で質の高い教育を受けられるようにする 支援も含まれる予定です。 2020 年 2 月には報告書「Convergence: Five Critical Steps Toward Integrating Lagging and Leading Areas in the Middle East and North Africa(仮題:収束: 中東・北アフリカ地域の後進・先進地域の統合に向けた 5 つの重要なステップ) 」を発表 しました。同報告書は、 大都市圏から経済的に切り離された地域において機会や社会サー ビスを拡大することが、経済成長と社会的包摂を加速する鍵になると指摘しています。 域内協力の強化 中東・北アフリカ地域は今なお経済統合が世界で最も遅れており、域内貿易は貿易 全体の 10%を占めるにすぎません。世界銀行は、同地域の資源、労働力、資本を動員し、 域内市場を成長させることに注力しています。世界銀行はアラブ調整グループ等のパー トナーの協力を得ながら、地域エネルギー市場の構築を支援しており、その第1フェーズ として各国の電力網を結ぶ汎アラブ電力市場の構築に取り組んでいます。地域エネル ギー市場が完成し、域内市場が相互に接続されれば、ヨーロッパ地域に次ぐ世界第 2 位 の大規模市場となる予定です。世界銀行はまた、 「アフリカの角」イニシアティブを 通じて、域内協力の拡大と経済統合を促進しています。現在、同イニシアティブの議長 はジブチが務め、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリアが参加しています。 ショックに対する強靱性の強化 中東・北アフリカ地域は、気候変動に対する脆弱性と紛争の影響から引き続き大きな 打撃を受けており、世界銀行は域内各国がこうしたショックへの対応能力を強化できる よう支援しています。モロッコでは、2 億 7,500 万ドルのプロジェクトを通じて、自然 災害や気候関連のショックによる財務面への影響管理と、防災の制度的枠組み強化を 支援する予定です。 世界銀行は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行への対応に追われる途上国に 緊急支援を提供しています。これは各国の保健システムにおいて必要となる医療品の確保 を進めるもので、切迫した保健ニーズの充足と感染拡大の抑制に向けた融資、政策 助言、技術協力が含まれます。また、域内各国の個人、コミュニティ、企業が収入を安定 させ、経済復興を促進できるように、パートナーと共同で支援を行っています。 図 5:中東・北アフリカ地域 IBRD・IDA のセクター別融資— 2020 年度 総額 36 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 <1% <1% 農業・漁業・林業 3% 教育 <1% エネルギー・採取産業 社会的保護 31% 5% 金融セクター 17% 保健 17% 産業・貿易・サービス 行政 17% 9% 情報通信技術 地域別展望 35 復旧・復興の促進 世界銀行は、紛争によって甚大な被害を受けたコミュニティが人的被害を最小限に抑 えられるよう開発支援を進めており、イエメンで実施しているプログラムは、その一例 です。イエメンは現在も続く紛争が 2015 年初頭に始まる前から既に中東・北アフリカ 地域の最貧国であり、現在は国連が「世界最悪の人道危機」と呼ぶ状況に陥っていま す。戦闘は国の経済を壊滅させ、基幹インフラを破壊し、飢饉に匹敵する食料不足を引 き起こしました。今後の見通しは、新型コロナウイルス感染症の拡大、大規模な洪水、 バッタの大量発生によって更に悪化しており、その全てがイエメンを破滅的な状況へと 追いやりつつあります。 イエメンにおける世界銀行の活動は、生活を守り、復興を支援することに重点を置い ており、その手段として組織・制度の機能強化、サービス提供の改善、貧困層・脆弱層 への働きかけ、一時的雇用の創出、民間セクターの支援に取り組んでいます。世界銀行 は国連と共同で活動資金 18 億ドルを提供しました。 イラクでは復興活動の支援を続けており、開発プロジェクトに向けた緊急オペレー ションを通じて、400 万人が暮らすイラク第 2 の都市モスルでサービスやインフラの 再建を支援しています。その一環として 3 つの橋が再建され、150 万人が保健・教育 サービス、市場、商店や事業所へのアクセスを取り戻し、雇用機会も創出されました。 また、100 万の個人及び企業が再び電力を使用できるように、発電機やケーブルの 供給・敷設を支援しています。 表 11:中東・北アフリカ地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 279 333 389 人口増加率(年率、%) 1.8 1.8 1.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 1,568 3,993 3,861 (アトラス方式、 現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.6 3.4 1.2 (100万人) 1日1.90ドル未満で生活している人口 10 b 7 28 平均寿命、女性(歳) 71 74 76 平均寿命、男性(歳) 68 70 72 二酸化炭素排出量(100 万トン) 873 1,282 1,475 極度の貧困 (1日1.90ドル未満で生活する人口の 3.4b 2.0 7.2 割合、2011 年 PPP、%) 財及びサービスの輸出額に対する債務の割合 12 6 10 女性就業率の男性就業率に対する比率(%) 24 26 26 (モデルに基づく ILO 推定) 不安定な雇用形態(総雇用数に占める割合、%) 35 32 31 (モデルに基づく ILO 推定) 出生児 1,000 人当たりの 5 歳未満児死亡率 45 29 24 初等教育修了率 81 89 90 (修了者が該当年齢層に占める割合、%) 個人のインターネット普及率 <1 21 60 (人口に占める割合、%) 電力を利用できる人(人口に占める割合、%) 89 96 96 再生可能エネルギーの消費量 3 3 3 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) 基礎的な衛生サービスを利用できる人 82 86 89 (人口に占める割合、%) 基礎的な飲料水サービスを利用できる人 86 91 93 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~19 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照ください。 a. 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx の地域別 b. データをご参照ください。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/mena 36 世界銀行 年次報告 2020 プロジェクト紹介 エジプトにおける人的資本の需給ギャップ解消 世界銀行グループの中東・北アフリカ地域人的資本計画は、優先度の高い領域を支援す ることによる開発成果向上を目指しています。具体的には、乳幼児の健全な発育に対する 投資の拡大、学習貧困への対応、スキルの向上、非感染性疾患の影響削減、脆弱層の保護、 危機に対する強靱性の強化、男児の学習格差と女児の就労率格差の解消等です。地域レベル の同アプローチは、国別の重要課題に注目した上で世界銀行グループが支援すべき領域を 定めた国別計画によって補完されています。同アプローチを他国に先駆けて採用した エジプトの例は、どうすれば各国が保健・教育サービスの質向上と社会的セーフティネット 拡大を達成できるかを示しています。 エジプト教育改革支援プロジェクト(5 億ドル)は、学校の教育・学習環境の改善を 図ろうというもので、質の高い幼稚園教育へのアクセス改善、教員や教育界のリーダーの 能力強化、信頼できる学生評価システムの開発、教育・学習における現代的なテクノロジー やデジタル教材の利用拡大を支援しています。同プロジェクトの目標は、幼稚園の生徒数 を50 万人(内50%は貧困地区の出身者)増やすこと、教育方法を改善すること、200 万人 の学生が新しい評価システムの恩恵を享受できるようにすること、中等学校修了の制度を 改革し、スキルの習得に重点を置くことにあります。 世界銀行は、社会的セーフティネット強化プロジェクトの第 2 フェーズにも 5 億ドルの 追加融資を提供しました。同プロジェクトはエジプトが全国規模で実施している現金給付 プログラムを支えています。同プログラムは、中東・北アフリカ地域最大の現金給付プロ グラムであり、エジプトが人的資本強化のために実施している投資の中で最大規模となって います。これまでに 300 万以上の世帯(800 万人超)が支援を受け、給付金の内 67% 以上は貧困層・脆弱層に支給されました。また、給付対象カード所有者の 74%は女性です。 こうした取組みの一つである「タカフル」プログラムは、経済改革やショックがもたらす 一時的な悪影響から貧困世帯を保護するために、条件付きの世帯収入補助金を毎月支給 する一方、子供を学校に通わせ続けるよう奨励すると共に、出生前ケアや産後ケアを含む 保健医療を提供し、子供の発育状況のモニタリングを実施しています。同プログラムを 補完する「カラマ」プログラムは、貧しい高齢者、重度障害者や重病者、孤児に無条件で 毎月、補助金を給付しています。政府はまた、最新の資金調達ラウンドにおいて、8 つの 県を対象に生計向上と経済包摂促進のためのイニシアティブの準備を進めています。 上記に加え、世界銀行はエジプトがユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成 し、保健成果を向上できるように、国の健康保険制度に 4 億ドルを提供しています。同 プロジェクトは、国民皆保険制度の基盤整備と試験的運用を進めると共に、最脆弱層が新型 コロナウイルス感染症関連の出費をまかなえるよう、政府による一時金の支給を支援する 予定です。これに先立ち世界銀行は、プライマリ・ヘルスケア施設や病院のサービス改善、 家族計画の支援、コミュニティ・ヘルスワーカー・プログラムの強化、C 型肝炎や非感染 性疾患等のリスク要因のスクリーニング検査も実施しています。 2020 年 3 月、世界銀行はエジプトにおける新型コロナウイルス感染症の拡大に対する 緊急対応(感染予防対策の実施を含む)を支援するため、同プロジェクトの緊急対応コン ポーネントを発動し、800 万ドルを提供しました。この他、新型コロナウイルス感染症に 対する世界銀行グループのファストトラック・ファシリティの下で、流行の予防、検知、 対応を強化するプロジェクト(5,000 万ドル)が始動しました。 地域別展望 THE REGIONS 37 37 南アジア地域 2020 年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって世界経済が失速する中、 南アジア地域の経済は過去 40 年間で最悪の水準に陥っています。2020 年の域内成長率 は、以前の予測値である 6.3%を下回るマイナス 2.7%に落ち込むとみられます。低迷 は 2021 年も続き、成長率は 2.5%前後で推移するとみられます。 南アジア地域では、過去数年間の急成長に伴って貧困が減少し、保健及び教育の面でも 大きな進歩がありました。しかし1日1.90ドル未満で生活している人の割合は、2015 年 の段階でも12.4%に達していました。この割合は人数にすると約2億1,600万人に上り、 世界の貧困層の 3 分の 1 に相当します。新型コロナウイルス感染症がもたらした危機に より、南アジア地域では極度の貧困層が世界最大規模で増加するとみられています。 同地域は多次元貧困指数も世界平均より高く、多くの域内諸国が極端な社会的排除や 深刻なインフラ・ギャップに苦しめられています。また、流入する難民の数も近年で最も 高い水準にあり、国連の推定では 2017 年 8 月以降、74 万人を超えるロヒンギャ難民 がバングラデシュに避難しました。 世界銀行の支援 2020 年度、世界銀行は南アジア地域の 61 件のプロ ジェクトに対し 117 億ドルの支援を承認しました。 そ の 内 訳 は、IBRD の 承 認 額 が 56 億 ド ル、IDA の 2020 年度、世界銀行は 承認額が 61億ドルでした。世界銀行は8カ国に対し 南アジア地域の新型コロナ 122 件(総額 8,300 万ドル)の助言・分析サー ウイルス感染症対策を支援する ビスを提供し、エネルギーセクター改革、女性 ため、世界規模の「対策準備・ の労働参加、気候変動等の問題について専門 対応プログラム」の下で、9 件の 的助言を提供しました。 新規プロジェクト (総額17 億ドル) 世 界 銀 行 は、 持 続 可 能 か つ 包 摂 的 な 成 長 の を承認し、10 件の既存プロ 促進、 人への投資、 強靱性の強化を重視しています。 ジェクト(総額 1億 1,000 万ドル) そのため、世界銀行の支援の重点領域は、民間セク の資金を再配分しました。 ター主導の雇用創出を促進する政策改革、子供の発達 における発育阻害対策、女性の労働参画の促進、難民・ 帰還者・国内避難民の支援、災害への備えと管理を通じ た気候変動リスクへの対応となっています。 また、新型コロナウイルス感染症対策への支援として、保護具や医療品を各国が調達 できるようにすると共に、子供への学習機会の提供、最脆弱層への現金給付と食料 配給、中小企業支援、雇用創出、より強靱な回復のための組織 ・制度強化を進めています。 持続可能な成長の支援と雇用の創出 南アジア地域が復興を進めつつ高い成長率も維持するためには、投資と輸出の両方を 伸ばしていく必要があります。同地域では今後 20 年間にわたり、毎月 150 万人が雇用 市場に加わると推定されており、雇用の創出は不可欠です。ネパールでは、1 億 2,000 万ドルのプロジェクトを通じて、雇用サービスと労働市場の改善を支援し、女性を中心 に約 10 万人の若年層に恩恵をもたらす予定です。パキスタンでは、ダス水力発電プロ ジェクトに 7 億ドルの追加融資を行いました。同プロジェクトは発電コストを引き下げ ることにより、数百万人の利用者に恩恵をもたらし、より安価な電力を実現することを 目指しています。ダス水力発電所は、電力需要が最も高い夏の数カ月間を中心に電力を 供給することにより、停電の発生を防ぐ予定です。アフガニスタンでは、民間資金を エネルギー分野で活用する一方、国内での発電量を増やすため、9,900 万ドルの融資 パッケージを通じて、燃料調達から発電までを一貫して実施する 2 件のエネルギー・ 表 12:南アジア地域 地域への融資承認額と融資実行額— 2018~20 年度 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2018 年度 2019 年度 2020 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 IBRD 4,508 4,011 5,565 1,698 2,598 3,158 IDA 6,153 4,849 6,092 3,835 4,159 5,235 実行中プロジェクトのポートフォリオ:583 億ドル(2020 年 6 月 30 日現在) 38 世界銀行 年次報告 2020 プロジェクトを支援しています。同パッケージは、 IDA の保証とIDA 第18 次増資(IDA18) の民間セクター・ウィンドウ(PSW)からの資金に加え、IFC の融資と MIGA の保証 を活用しています。 インドのマハーラーシュトラ州では、2 億 1,000 万ドルのプロジェクトを通じて、 自作農が新興の国内市場及び輸出市場にアクセスできるよう支援するほか、 農業バリュー チェーンへの民間セクター投資の促進、生産性の向上、価格変動への対応、作物の強靱性 向上を目指します。同プロジェクトは同州の 36 県全てで実施され、100 万戸を超える 自作農が恩恵を享受する予定です。参加する自作農及び労働者の少なくとも 43%は 女性となる見込みです。 人的資本への投資と包摂的成長の支援 成長の原動力である人的資本を強化するために、世界銀行は南アジア地域において、 教育へのアクセスと教育の質の向上、子供の発育阻害と栄養不良への対応、保健システム 及び保健サービスの拡充、最貧困層を守るセーフティネットの拡大を進めています。 パキスタンでは、バロチスタン州、ハイバル・パフトゥンハー州、パンジャブ州の 貧困 ・脆弱世帯のための保健・教育サービス及び社会的保護を改善するプロジェクトに対し、 4 億 3,600 万ドルの融資を承認しました。これらのプロジェクトは、保健サービスの 向上と普及、幼児教育の改善、小・中学生への学習機会の提供、より効率的な経済的・ 社会的包摂プログラムの構築を促進するものです。2019 年 12 月には、パキスタンの 女児と女性により良い学習・雇用機会を提供することを目指す「女児に教育を、女性に 収入を」キャンペーンを 100 日間にわたって展開しました。 バングラデシュでは、自治体の水供給・衛生プロジェクト(1 億ドル)を通じて、少 なくとも 60 万人が安全な水源と衛生サービスにアクセスできるようにするほか、新型 コロナウイルス感染症対策の一環として、また長期的な衛生改善策として、複数の自治体 の手洗い場にも支援を提供する予定です。 紛争及び気候変動に対する強靱性の強化 南アジア地域では、紛争と脆弱性のリスク増大に伴って難民の数が増加しています。 世界銀行は複数のパートナーと協力し、難民と受入コミュニティに基礎的サービスを 提供しています。バングラデシュでは、ロヒンギャ難民と受入コミュニティのニーズに 対応するため、3 件のプロジェクト(総額 3 億 5,000 万ドル)を承認しました。この 3 件 のプロジェクトを通じて、約 400 万人に保健、栄養、家族計画サービスへのアクセス を提供するほか、予防・対応サービスを通じてジェンダーに基づく暴力に取り組む予定 です。 南アジア地域は、自然災害、海水面や気温の上昇といった気候変動の影響に対しても 極めて脆弱です。こうしたリスクに対応するには、国や自治体レベルで強靱性を構築し なければなりません。インドでは、水の管理改善と農業生産性の向上を目指す 8,000 万ドルのプロジェクトにより、ヒマーチャル・プラデシュ州の 40 万人超の自作農、 女性、牧畜コミュニティが恩恵を受ける予定です。南アジア地域では初めて提供された モルディブへの 1,000 万ドルの災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)が、新型 コロナウイルス感染症に関連するリスクと脆弱性の緩和に役立てられます。ブータンで は、1,500 万ドルの Cat DDO 付き融資が、感染症の流行を含む気候・災害リスクを 管理するための改革に充てられます。ネパールでは、地震住宅再建プロジェクトに 2 億 ドルの追加融資を行いました。同プロジェクトでは、2015 年の地震で被災した 32 郡 の約 8 万 7,000 戸を対象に、再建された住宅の耐震性を確認するためのグラントが提供 されます。インドでは、4 億ドルのプロジェクトを通じて、政府がガンジス川流域 図 6:南アジア地域 IBRD・IDA のセクター別融資— 2020 年度 総額 117 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 7% 4% 農業・漁業・林業 7% 教育 運輸 15% 8% エネルギー・採取産業 7% 金融セクター 社会的保護 15% 17% 保健 行政 7% 情報通信技術 2% 11% 産業・貿易・サービス 地域別展望 39 を管理するための制度的枠組みを構築し、流域都市部の汚染対策に投資できるよう支援 する予定です。 域内統合の推進 南アジア地域は今なお経済統合が世界で最も遅れている地域の一つであり、世界銀行 は域内諸国間の貿易、交通網やエネルギー取引、長期的な水の安全保障、環境の持続 可能性、強靱性の拡大を支援しています。バングラデシュでは、5 億ドルのプログラム を通じて 260 キロメートルの国道を延長し、域内貿易の拡大と 2,000 万人を超える 農村部住民の生計向上を図ります。この他、5,000 万ドルの地域プロジェクトを通じて、 越境水系及び地域の公海上におけるプラスチック汚染に取り組むパートナーシップを 支援する予定です。 世界銀行の報告書「Unleashing E-Commerce for South Asian Integration(仮 題:電子商取引で進む南アジアの統合) 」は、電子商取引がいかに成長と貿易を促進し 得るかを分析しています。電子商取引の利用を拡大することで、南アジア地域は競争の 促進、企業の生産性向上、市場アクセスの拡大、域内諸国間のビジネス連携の強化 を実現できる可能性があります。 表 13:南アジア地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 1,391 1,639 1,836 人口増加率(年率、%) 1.9 1.4 1.2 1 人当たり国民総所得(GNI) 446 1,153 2,019 (アトラス方式、 現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.1 6.2 3.6 (100万人) 556b 1日1.90ドル未満で生活している人口 404 275 平均寿命、女性(歳) 64 68 71 平均寿命、男性(歳) 62 66 68 二酸化炭素排出量(100 万トン) 1,181 1,978 2,737 極度の貧困 (1日1.90ドル未満で生活する人口の 38.5b 24.6 16.1 割合、2011 年 PPP、%) 財及びサービスの輸出額に対する債務の割合 15 3 5 女性就業率の男性就業率に対する比率(%) 36 33 31 (モデルに基づく ILO 推定) 不安定な雇用形態(総雇用数に占める割合、%) 80 78 70 (モデルに基づく ILO 推定) 出生児 1,000 人当たりの 5 歳未満児死亡率 94 62 42 初等教育修了率 69 87 92 (修了者が該当年齢層に占める割合、%) 個人のインターネット普及率 <1 7 30 (人口に占める割合、%) 電力を利用できる人(人口に占める割合、%) 57 73 92 再生可能エネルギーの消費量 53 42 38 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) 基礎的な衛生サービスを利用できる人 20 43 59 (人口に占める割合、%) 基礎的な飲料水サービスを利用できる人 80 87 92 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~19 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照ください。 a. 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx の地域別 b. データをご参照ください。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/sar 40 世界銀行 年次報告 2020 プロジェクト紹介 アフガニスタンにおける開発成果の維持 この 20 年間、アフガニスタンは困難な状況にあったにもかかわらず、目覚ましい開発 成果を達成しました。公共サービスの提供、乳児死亡率の削減、就学率の改善、電力アク セスの拡大は著しく進展しました。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行がも たらした打撃は深刻で、社会不安や政情不安は一段と悪化し、国際援助の流入額も減少す るとみられます。2020 年の経済成長率は大幅に低下する見通しであり、感染症の世界的 流行が所得と雇用に与えた深刻な影響により、人口の大部分が貧困ラインを下回る生活を 余儀なくされるとみられています。 アフガニスタンの復興を支援し、これまでに達成された開発成果を守るためには、国際 援助を継続することが不可欠です。世界銀行は主たる開発パートナーとして、最貧困層 向けの支援を提供すると共に、政府が強力な組織・制度を構築できるよう取り組んでいます。 また、34 のドナーが参加するアフガニスタン復興信託基金の管理も担っています。 新型コロナウイルス感染症の流行が始まった際、世界銀行は直ちに保健、社会、経済面 の影響を緩和するための資金を提供しました。1 億ドルの緊急保健プロジェクトは、保健 サービスの提供を効率化し、個人防護具や医薬品を医療従事者や患者に提供しています。 また IDA とアフガニスタン復興信託基金の協調融資による 2 億ドルの緊急プロジェクト は、迅速な復興と水、電力、通信等の基幹インフラの安定した稼働を支えています。 新型コロナウイルス感染症以外の分野では、アフニガスタン復興信託基金との協調融資 によるプロジェクトを通じて、保健・教育成果の向上と生計の維持を支援しています。 アフガニスタン質の高い教育改革(EQRA)プロジェクトは、主に女児を対象に初等・中等 教育へのアクセスを改善します。また、高等教育の質を改善し、社会のニーズとの適合性を 高めるプロジェクトも進行中です。こうした取り組みの結果、この国では 2015~20 年 の間に、経済学部や法学部等、主要な高等教育学部への入学者が 6 万 4,200 人から 8 万 1,900 人に増加しました。保健セクターでは保健、栄養、家族計画サービスの活用拡大と 質の向上に取り組んでいます。農業分野のプロジェクトに対する支援では、200 近くの 灌漑施設が修復され、42 万 5,000 世帯の農家が恩恵を享受したほか、34 州に新たに 3 万 5,500 ヘクタールを超えるピスタチオ農園や果樹園が作られ、3 万 2,000 ヘクタールの 既存農園が再建され、14 万 3,000 件の小規模菜園プログラムが策定されました。 とは言え、アフガニスタンの開発はまだ道半ばです。基礎的サービスの提供を担う公共 機関の機能を強化するには、今後の数年が極めて重要となります。世界銀行グループが アフガニスタン復興信託基金を通じて、 ドナー国と共同で実施している活動は、アフガニスタン の開発成果を守る上で今後も重要な役割を果たすでしょう。 地域別展望 41 42 42 世界銀行 年次報告 THE WORLD 2020 BANK ANNUAL REPORT 2020 経験と情報を駆使した開発成果の向上 世界銀行は各セクターに関する専門知識や、喫緊の開発課題を解決するための 知識・研究プログラムを通じて、 その存在観 を一段と高めています。世界銀行の グローバル・プラクティスは、現地の職員やパートナー、他の世界銀行グループ機関 と協力しながら、資金、プロジェクト支援、助言、招集力を組み合わせた包括的な 支援を提供しています。世界銀行は様々な地域・セクターで蓄積した経験と専門 知識を動員して、援助受入国と意見やベスト・プラクティスを交換し、主要な開発 課題について、独自の国際的かつ分野横断的な視点を提供しています。 例えば、各種刊行物や特定のテーマに関する詳細な分析報告書、開発データの 公開等を通じて、研究成果を広く共有しています。特に主要報告書は、政府や市民 社会組織、パートナー、民間セクターの間で広く参照され、様々な課題に関して グローバル、地域、国の各レベルで活発な議論を引き出しています。援助受入国や 開発パートナーが重視している特定のテーマについての分析報告書を作成すること もあります。世界銀行は広範なデータや有用な情報へのアクセスを促進することに より、プロジェクトを実施する途上国が進捗状況をモニタリングし、十分な情報に 基づいて意思決定を下せるよう支援しています。 各セクターに関する専門知識は、新型コロナウイルス感染症に対応中の途上国を 支援する広範かつ迅速な措置にも活用されています。また、過去の自然災害や感染 症の流行、経済的ショック等の危機的状況において、途上国を支援してきた経験も 活かされています。感染症の世界的流行の中、世界銀行は途上国への支援を通じ て、保健医療、教育、社会的保護、衛生、デジタル・サービス、食料安全保障等の 課題に対し、各国がそれぞれのニーズに合った包括的な対応を設計できるようにな ることを目指しています。世界銀行は、途上国が長年の努力によって達成した開発 成果を守り、この前例のない危機からの回復期にも高い開発成果を達成し、国民に 恩恵をもたらすことができるよう支援を提供していきます。 世界規模の危機の中での貧困削減 この数十年間に貧困削減は大きく前進したとは言え、そもそも新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行が始まる以前から、2030 年までに極度の貧困を撲滅 するという目標が達成の軌道に乗っているとは言えませんでした。世界銀行の 試算では、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、約 1 億人が新たに 極度の貧困に陥る恐れがあります。その大部分は、既に高い貧困率にあえぐ国 に集中するとみられますが、中所得国も大きな影響を受けることになります。 世界銀行は途上国がこの危機の影響から国民や企業を守り、強靱性を構築でき るよう、データ、政策助言、資金を提供しています。 極度の貧困を世界規模で緩和するには、特に最貧国と脆弱性・紛争の影響下 にある国々に関するデータを量・質の両面で高める必要があります。IDA 第19 次 増資(IDA19)では、これまでの取組みを土台に、途上国がデータの収集を 一層拡充できるよう、支援が提供されます。世界銀行グループの「データ・ フォー・ポリシー」は、公共政策や公共プログラムのモニタリング・評価に欠 かせない経済、社会、持続可能性に関する精度の高い統計データの活用を促進 するイニシアティブであり、IDA 借入国の政策立案を支援するために、男女別 の統計の入手可能性と質を改善することを目指しています。 経験と情報を駆使した開発成果の向上 43 債務の持続可能性と透明性の確保 借入れによる資金調達は開発に不可欠であり、効果的に活用すれば、主要プロ ジェクトの原資として、持続的かつ包摂的な成長に役立てることができます。公的 債務に関しては、債務の透明性向上、債務・財務リスクの管理、債務の脆弱性への 対応が主な支援対象です。 新型コロナウイルス感染症が拡大する以前から、多くの新興国・途上国では債務 の増大がリスクとして表面化しつつありました。世界銀行グループは新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行がもたらした新たな脆弱性を管理するだけでなく、引き 続き国際通貨基金(IMF)や援助受入国と連携しつつ、債務持続可能性枠組みを通 じた債務水準の分析と評価に取り組んでいます。 IDA 借入国が、今回の感染症がもたらした課題に取り組むための流動性を確保 し、自国の資金ニーズを評価できるように、世界銀行グループは 2020 年 4 月、 IMF と共同で二国間債務の返済猶予を呼びかけました。G20 諸国の首脳は 2020 年 5 月 1 日から貧困国の二国間債務の返済を一時停止するという債務返済猶予イニ シアティブを承認しました。2020 年 6 月、世界銀行は同イニシアティブの緊急 支援の対象となる 73 カ国の全てについて、債権国別に最新の年間債務返済予想額 をオンライン・ポータルで開示し、国別の予定節減額をドル建て及び対 GDP 比で 掲載しました。 2020 年度には、途上国の債務水準を測定し、解決策を提案する2 つの重要な分析 報告書を発表しました。その内、2019 年 12 月に発表した「Global Waves of Debt(仮題:債務のグローバルなうねり) 」は、途上国の累積債務が 2010 年以降、 急速かつ広範に上昇している点に注目し、危機が発生するリスクを低減し、仮に 危機が発生した場合にその影響を緩和するための政策オプションを提示しています。 また、2020 年 2 月に IMF と共同で発表した「The Evolution of Public Debt Vulnerabilities in Lower-Income Economies(仮題:低所得国における公的 債務をめぐる脆弱性の高まり) 」は、2017 年以降に低所得国で浮上した債務問題 を評価し、主なリスクを特定しています。また、新型コロナウイルス感染症の世界 的流行の影響を受けている途上国に対し、公的債務管理と国債市場に関する支援を 提供する危機対応政策枠組みも策定しました。 途上国の開発ニーズを満たすためには、 国内から資金を調達する必要があります。 しかし世界の最貧国の 3 分の 1 以上で、税収の対 GDP 比が、国家が基本的な機能 を果たすために必要とされる 15%を下回っています。世界銀行は税基盤の拡大・ 安定化により、途上国が国内資金を動員できるよう支援しています。国内資金を動員 できれば、国際援助、開発援助、対外債務といった外部資金源への依存を減らすこと ができるだけでなく、政府の説明責任や対応力、組織・制度の面でも多様な改善が 期待できます。 継続的な支援によって脆弱国の徴税能力が向上した例としては、ソマリアがあり ます。世界銀行グループは 2015 年以降、ソマリアの税務政策管理と納税者教育を 支援し、納税意識の向上を図ってきました。その結果、ソマリアの徴税能力は大幅 に高まり、税収は 2013 年の 7,600 万ドルから2018 年は目標を上回る1億 8,300 万 ドルに増加しました。2020 年 3 月、世界銀行グループと IMF はソマリアが拡大 HIPC(重債務貧困国)イニシアティブの債務救済対象となる要件を満たしたと判断 しました。ソマリアは、 「HIPC 決定時点」と呼ばれるこの段階に到達した 37 番目 の国です。 汚職対策とグッド・ガバナンスの促進 世界銀行は途上国と共に、各国のガバナンスや組織・制度の強化、構造的な汚職 の撲滅に取り組んでいます。また、各国政府が公共財政管理の強化、司法サービス の改善、公務員の能力向上、財務情報システムへの投資、情報公開、賄賂等の汚職 の機会削減を推進できるよう支援し、違法な資金の流れを国・地域レベルでモニタ リング・測定するための新しいツールの開発を進めています。さらに、新型コロナ ウイルス感染症の危機によって公共セクター強化の重要性が一段と高まったことを 受け、政策ノートと追跡ポータルを作成し、途上国が感染症対策の一環としてガバ ナンスや組織・制度の強靱性を強化できるよう支援しました。 44 世界銀行 年次報告 2020 途上国では、政府の能力が限定的なため、財政余地の縮小、非効率な調達、不 十分なサービスといった問題が生じ、汚職リスクが上昇することがあります。しか しテクノロジーを活用すれば、政府の効率、透明性、適応力を高め、市民との信頼 関係を強化できる可能性もあります。世界銀行の GovTech グローバル・パートナー シップと、オーストリアや韓国の支援を得て設置された GovTech マルチドナー信託 基金は、テクノロジーを駆使して政府の業務、サービス提供、市民参加の強化を 図るものです。こうした取組みは、世界銀行による世界規模での支援活動強化、 行政機関の近代化促進、全ての市民が利用できるシンプルで効率的な政府の実現と いう IDA の重点支援項目に資するものです。いずれも新型コロナウイルス感染症 の拡大によってその重要性はこれまで以上に高まっています。 世界銀行はまた、 汚職対策の強化・拡大にも取り組んでいます。 新型コロナウイルス 感染症への対応では、途上国支援のため、短期間で多額の資金が提供されましたが、 こうした状況の中では途上国の汚職リスクが高まる可能性もあり、ひいては政府の 感染症対策に対する市民の信頼が損なわれかねません。世界銀行は汚職撲滅への コミットメントを再確認し、徹底した対策を推進するために、途上国の汚職対策強化 を図る新たなイニシアティブと行動計画を策定しました。こうした取組みは、各国 政府が汚職対策を進める中で直面する課題、効果が期待できる汚職防止手段、各国 の進捗状況を評価するために役立っています。 健全な形での公的調達は、公共支出の公正性と効率を高めます。世界銀行は各国 政府に対し、受託者としての監督と支援に加え、プロジェクトの準備・実施に貢献 するほか、調達システムを強化するための政策・業務改革に関する助言も提供して います。また、関係機関と世界規模で連携することにより、近代的にして効率的かつ 包摂的で持続可能な調達を速やかに実現するための新たなアセスメント手法を実践 しています。2020年度はバングラデシュ、ブルキナファソ、中国、コンゴ民主共和国、 ジブチ、エチオピア、ガボン、インド、カザフスタン、レバノン、マラウイ、モルドバ、 モザンビーク、ルワンダ、チュニジア、ザンビアにおいて計 16 件のアセスメント を実施しました。この他にも電子調達の導入や、人工知能、データ分析等の新たな イニシアティブにも支援を提供しています。IDA19 では、IDA 借入国の少なくと も半数を対象に、電子調達システムの構築、詳細な調達データ分析、公共支出の 効率性・透明性・公正性の向上を支援する予定です。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まった際、途上国を支援するため に、直ちに供給業者と協力して世界規模の需要予測を立て、医療品や医療機器を速 やかに調達するための手続を策定しました。また、緊急ファストトラック調達を 実施し、医療品や医療機器のサプライチェーンの制約に対応したほか、緊急でない 調達や契約の締結についても、新型コロナウイルス感染症の影響のリスク管理を 行いました。 女性の経済力の向上 男女間の格差は初等教育や保健といった分野では縮まりつつあるものの、その他 の分野では依然として深刻です。 女性が男性と同等の生涯所得を得ることができれば、 世界の富は 172 兆ドル増えるとする試算もあります。しかし、差別的な法律や政策、 女性の役割や責任を規定するジェンダー観や社会的規範により、重要な開発課題 も、少年と少女、男性と女性に対してそれぞれに異なる影響を与えています。 世界銀行グループはこれまでの成果を踏まえ、2016~23 年を対象期間とする ジェンダー戦略を策定しました。同戦略には、グローバル環境の変化が加味されて いるほか、保健、教育、社会的保護、雇用、資産、発言権、決定権における男女 格差の解消にとって有効であると確認された措置が反映されています。IDA19では、 土地に対する権利、インフラ・セクターにおける生産性の高い雇用、デジタル雇用、 金融サービス、ジェンダーに基づく暴力の阻止・対応策といった分野で支援が加速 される予定です。 ジェンダー格差の解消と女性のエンパワーメントは、途上国が経済の多様化、 生産性の向上、 将来見通しの改善を持続可能な形で推進する助けとなります。 南アジア 地域では、電力セクター女性専門家ネットワーク(WePower)が、エネルギー・ セクターにおける労働者の女性比率向上に取り組んでいます。ガーナでは、例えば ICTプラットフォームのアップグレード等を通じてデジタル金融サービスを支援し、 経験と情報を駆使した開発成果の向上 45 十分なサービスを受けていない人々にサービスを提供することにより、金融サービス へのアクセスにおけるジェンダー格差の解消を図っています。中央アフリカ共和国 では、保健システム支援・強化プロジェクトを通じて、基礎的保健サービスの質を 高めると共に、ジェンダーに基づく暴力の被害者に臨床サービス、避難場所、精神 衛生や社会経済面の支援を提供しています。 世界銀行内に設置された女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)も、途上国の 女性経営者に対して事業のために必要な資金、市場、ネットワークへのアクセスを 提供し、女性起業家の成功を阻む規制・法律面の障害の削減に取り組んでいます。 世界銀行は We-Fi の実施パートナーであり、7,500 万ドル(内、2,600 万ドルは 世界銀行、4,900 万ドルは IFC の資金)のプログラムを通じて、24 カ国で 27 件の プロジェクトを実施しています。パキスタンでは起業エコシステムの強化に取り組 み、女性起業家に質の高いプログラムと研修を提供するため、現地の起業支援機関 のキャパシティ・ビルディングを促進しています。 中東・北アフリカ地域では、UPS とのパートナーシップを通じて、約 750 人の 女性経営者に電子商取引プラットフォーム、学習機会、目的別の支援・コーチング へのアクセスを提供し、事業の国際化を促進する予定です。バングラデシュでは、 100人を超える女性起業家に研修を受ける機会を提供しました。また、15社が女性の 経営する中小企業をサプライチェーンに組み込むため取引を開始すると表明しました。 世界銀行グループのジェンダー・データ・ポータルでは、人口統計、教育、保健、 経済機会へのアクセス、公共セクター、意思決定等の分野を網羅した 600 以上の 指標について、男女別のデータが公開されています。5 つの開発途上地域に設置 されたジェンダー・イノベーション・ラボは、ジェンダー平等の促進要因に関する エビデンスを収集し、ジェンダー格差を解消するための革新的な方法について厳密 なインパクト評価を実施しています。また、事業登記データを利用し、52 カ国の 企業経営者、取締役、個人事業主の女性比率を追跡しています。 しかし、これまでに達成された成果は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行 によって失われる恐れがあります。女性は不安定な雇用形態で働いていることが多 く、家庭内では子育てや介護の大半を担う傾向にあります。危機が発生すると、 女性はジェンダーに基づく暴力の標的となり、性と生殖に関する保健リスクにもさ らされます。また、女性が経営する企業の大部分はインフォーマル・セクターに 属し、資金調達手段や運転資本へのアクセスを持たないため、新型コロナウイルス 感染症がもたらした需給面の打撃の影響を受けやすい傾向があります。 世界銀行は途上国と協力し、対応策や復旧・復興活動の設計に当たって、感染症 の世界的流行が及ぼす影響の性別による違いが配慮されるようにしています。 「Women, Business and the Law 2020(仮題:女性・ビジ ネス・法律 2020) 」 報告書「女性・ビジネス・法律(仮題) 」の 第 6 回目となる最新版は、190 カ国を対象 に、女性の経済的包摂に影響を与える法規 制を分析しています。分析に当たっては、 女性がキャリアのスタートから引退までの 間に法律の制約を受ける 8 つの分野を網羅 した「女性・ビジネス・法律指標」に照らし、 人生の様々な局面での経済的判断を左右す る各種の法律を検証しています。同報告書 のデータはいずれも、2019 年 9 月時点の 最 新 版 で あ り、 法 的 な ジ ェ ン ダ ー 平 等 と 女性の経済的包摂の関連性についてのエビ デンスを示しています。 46 世界銀行 年次報告 2020 ソロモン諸島では、コミュニティ・アクセスと都市サービス強化プロジェクトを通 じて、女性や若者、都市貧困層、主たる収入源を失った可能性のあるインフォー マル・セクターの労働者等の脆弱層向けの短期雇用や職業訓練の拡大を支援して います。ウガンダでは、強制移動の影響を軽減する開発プロジェクトを通じ、 ジェンダーに基づく暴力や子供への暴力に関する情報をモニタリングし、関係機関 と連携しながら、迅速かつ効果的な対応を進めています。 雇用創出と経済改革の支援 雇用の質と量の向上による貧困緩和と機会の拡大 良い仕事に就くことは、貧困から脱するための最も確実な方法であると同時に、 公正かつ豊かな社会を実現する鍵でもあります。この 10 年間に世界で達成された 貧困削減の約 40%は労働所得の伸びによるものでした。しかし雇用に関しては、 ほとんどの途上国が今も差し迫った大きな課題に直面しています。2018 年末時点 で、世界の失業者は 1 億 7,300 万人を超え、その多くが若者でした。また、労働 年齢の成人の内、20 億人は依然として労働市場に参加できておらず、そのほとん どが女性です。今後 10 年間で求職者は約 6 億人に上るとみられています。労働者 の 65%に当たる約 20 億人は、生産性の低いインフォーマル・セクターで働いてお り、貧困から脱することができるだけの所得を得ていません。こうした傾向は、 新型コロナウイルス感染症の経済的影響によって更に強まり、多くの国で失業率は さらに上昇すると考えられます。 世界銀行グループは、途上国が雇用危機を乗り越えられるように、総合的かつ セクター横断的な雇用戦略の策定・実施を支援すると共に、グローバルな知識を動員 して、各国が雇用の質と量を向上させることができるよう取り組んでいます。ま た、雇用診断を実施し、途上国がマクロ・レベル、企業レベル、世帯レベルで主要 な課題を特定できるよう支援しています。グローバルな知識を動員し、雇用に関す る共通の課題の特定にも取り組んでおり、報告書「Pathways to Better Jobs (仮題:より良い仕事への道) 」の最新版では、生産性の高い仕事に就くための条件を 分析しました。世界銀行グループは、各国が雇用の質の向上と経済改革促進に向け た戦略を実施できるよう支援しており、特に重点を置いているのは生産性と収入を 高めるための物理的・人的資本への投資、そして競争力と貿易の促進を通じて市場 との連携を強化し需要を喚起する政策です。その他、各プロジェクトが雇用面での 成果を測定する際の方法を標準化するモニタリング・評価ツールも設計しています。 IDA は今年度もこうした活動に最前線で取り組みました。IDA19 では、820 億 ドルの支援パッケージを通じて、雇用創出と経済改革に対する支援を強化し、誰も が利用できる質の高いインフラへの投資をはじめ、雇用創出につながる民間投資を 促進する予定です。労働者や起業家にも多くの機会を提供し、能力を強化し仕事に 就けるよう支援します。IDA19 では人的資本指数が最も低い、少なくとも 12 の IDA 借入国において、男女別での制約要因の違いを踏まえながら、若者の技能向上 と雇用機会の拡大を促進するプログラムや政策を支援します。IDA19 が支援する デジタル・スキル開発関連プロジェクトの少なくとも 60%は、女性が生産性の高 い仕事(オンラインの仕事を含む)にアクセスできるようにすることで、女性の 経済的エンパワーメントを阻んでいる障壁の撤廃を目指しています。 世界銀行は雇用面における成果向上のために、 いくつかの重要なパートナーシップを 結んでいます。例えば、 民間セクターの積極的な参加を得て複数のステークホルダー と共同で推進する「若年層雇用ソリューション」や、 特に貧しい世帯やコミュニティ が持続可能な形で所得を増やせるよう支援する「経済的包摂のためのパートナー シップ」等があります。また、 「移民と開発に関するグローバル知識パートナー シップ(KNOMAD) 」を通じて、移民の流れや送金の状況をモニタリングしてい ます。KNOMAD の最新の報告書は、新型コロナウイルス感染症により起きた 経済危機が原因で、途上国の重要な収入源である国際送金が 2020 年は近年で最も 大幅な約 20%もの減少率を記録すると予測しています。世界銀行は KNOMAD と 協力して送金経路の確保に取り組み、最貧困コミュニティが基礎的ニーズを充足で きるよう支援しています。 経験と情報を駆使した開発成果の向上 47 テクノロジーを駆使した金融サービスと支払いシステムへのアクセス拡大 貧困の削減、所得格差の縮小、経済成長の促進のためには、手頃な価格で利用で きる金融サービスが不可欠です。途上国では、成人人口の 65%が決済に必要とな る基本的な取引口座を持っていません。事業の拡大やリスクの緩和、将来への備え に役立つ貯蓄、保険、信用サービスを利用できる人となると、更に限定的です。 デジタル金融サービスは規模の経済を最大化し、取引の速度、安全性、透明性を 高めることでコスト削減に貢献するだけでなく、貧困層のニーズを満たす金融サー ビスの提供にも役立ちます。世界銀行は 50 カ国以上で、官民セクターと連携しな がらデジタル金融サービスへのアクセス拡大を支援しており、モバイル・ブロード バンド等のインフラに投資し、デジタル金融サービスの成長を促進する法規制枠組み について助言を提供しています。 ニジェールでは、マイクロ・ファイナンス機関の監督強化、郵便網や携帯電話を 利用したアクセス・ポイントの拡大、電子マネー用アプリへの貯蓄商品の追加、 公的援助の支払い方法の変更(現金から電子媒体へ)において政府を支援しました。 メキシコでは、金融工学に関する法律の制定、世帯・中小企業の金融包摂を促進す る規制の導入について政府に助言を提供しました。 世界銀行は政府・個人間支払いイニシアティブを開始し、現金給付や社会的扶助 の支払いをデジタル化することで、受取り・支払い方法の選択肢の拡大、金融包摂 や女性の経済的エンパワーメントの促進を目指す途上国にガイダンスを提供してい ます。現在、世界各国の政府が社会的扶助を拡大し、個人に直接資金を送金する 方法を模索しています。新型コロナウイルス感染症に対応するために、数十カ国が 従来の社会的保護メカニズムにとらわれず、世帯や小規模事業に直接資金を給付する ことを検討しています。極度の貧困層にとって、迅速な現金給付は命綱となる場合 もあります。また、効率的な送金システムは復興と生活再建を支え、将来の課題に 備えるために役立つ可能性があります。世界銀行は途上国と共に支払いエコシステム の近代化を進め、支援を必要とする人々に迅速かつ効率的に恩恵がもたらされる よう取り組んでいます。 経済成長のための貿易振興 貿易は成長の重要な原動力であり、雇用創出、貧困削減、経済機会の創出につな がります。自由貿易は世界の成長を促進し、1990 年以降、10 億人超が貧困から 脱出することができました。貿易の急速な拡大を支えたのはグローバル・バリュー チェーンであり、今では貿易のほぼ半分を占めるに至っています。しかし 2008 年 の世界金融危機以降、貿易の伸びは鈍化し、バリューチェーンの拡大にもブレーキ がかかりました。世界銀行の報告書「2020 World Development Report, Trading for Development in the Age of Global Value Chains(仮題:世界開発報告 2020:グローバル・バリューチェーン時代の貿易による開発促進) 」は、バリュー チェーンが途上国にどういった機会をもたらすかを分析した上で、新しいテクノロ ジーは長期的には生産地と消費地を近づけるため労働力需要を低下させる可能性が あるものの、技術革新は弊害よりも恩恵をもたらすと結論付けています。 Doing Business 2020: Comparing Business Regulation in 190 Economies (仮題:ビジネス環境の現状 2020: 190 の国・地域のビジネス分野の規制 を比較する) 「ビジネス環境の現状」は世界銀行が毎年発表して いる主要報告書の一つです。第 17 回目となる最新版では、ビジネス活動を促進 又は制約している規制を分析し、190 の国・地域のビジネス環境について、12 の分野で定量的指標を提供しています。2020 年版は、政府がビジネス活動に対 する健全な規制政策を設計し、企業の規制環境の重要な側面に関する研究を 促進できるよう客観的なデータを提供しています。 48 世界銀行 年次報告 2020 World Development Report 2020: Trading for Development in the Age of Global Value Chains(仮 題:世界開発報告 2020:グローバル・ バリューチェーン時代の貿易による開 発促進) 世界銀行グループの主要報告書である「世界開発報告」の 2020 年版は、 グローバル・バリューチェーン(GVC)が成長の促進、質の高い雇用の創出、貧困 の削減につながる可能性はあるものの、途上国が根本的な改革を実施し、先進国 が開放的かつ予測可能な政策を推進することが条件になると指摘しています。 これまでの経験から、技術変革は貿易と GVC に害よりも恩恵をもたらす可能性 が高いことが分かっています。GVC に参加するメリットを多くの国が持続可能 な形で享受するためには、全ての国が社会的保護と環境保護を強化する必要が あります。 全ての人々が貿易の恩恵を受けられるように、世界銀行グループは各国と連携して 輸出入に要する時間の短縮と手続の簡素化に取り組み、各国が貿易の制約とボトル ネックを解消し、輸送時間の予測可能性を高め、国際基準に沿ったシステムや手続 を構築できるよう支援しています。2020 年 6 月の時点で、世界銀行が貿易振興策 を支援する国は 68 カ国に上りました。例えばグアテマラとホンジュラスでは、 オンライン・ツールを導入することで重複した通関手続や国境での書類作成が不要と なり、貿易業者が国境を通過するための所要時間が 10 時間から 7 分に短縮されま した。シエラレオネでは、フリータウン港の通関システムを、世界的に高い評価を 得ている電子通関システム「通関データのための自動化システム(ASYCUDA) 」に アップグレードできるよう支援しました。システムのアップグレードにより、貿易 手数料が 10%削減され、通関手続が簡素化・合理化されると期待されています。 新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威をふるう中、生活に不可欠な食料や 医療品へのアクセスを確保し、雇用や貧困に対する悪影響を抑制するには、貿易の 流れを維持することが不可欠です。世界銀行は途上国が物資の安全かつ自由な流通を 促進できるようガイダンスや技術協力を提供しています。また、 医療品が不足する中、 輸出禁止等の保護主義的な措置を控えるよう各国政府に呼びかけました。こうした 措置は物資の値上がりを誘発し、基本的な医療品を輸入に頼ることの多い途上国に とって必要な物資の確保を困難にする恐れがあります。 人的資本面の成果向上を支援 人的資本とは、人が生涯を通じて蓄積する健康や知識、能力、技能、強靱性のこ とです。人的資本は、人々が潜在能力を発揮し、社会の生産的な構成員となるため に不可欠であり、経済成長、貧困削減、繁栄の共有の重要な促進要因でもありま す。途上国は人的資本の構築、保護、展開に効率的かつ公正な投資を行うことによ り、認知技能が高く評価されるグローバル経済にふさわしい競争力を育てることが できます。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、危機的状況下で人的資本を保護する ことの重要性を浮き彫りにしました。世界銀行は政策ノート「Protecting People and Economies: Integrated Policy Responses to COVID-19(仮題:人々と 経済を守る:新型コロナウイルス感染症に対する総合的な対応) 」の中で 3 つの 提言を行っています。すなわち、 (i) 感染者の特定、追跡、隔離、検疫等の措置を 組み合わせて感染症を封じ込め、世界的流行を食い止めること、 (ii)雇用、持続可能 なビジネスの成長と雇用創出、世帯所得と食料安全保障、脆弱層のためのサービス ・ アクセス確保のための措置を講じること、 (iii)マクロ経済の長期的安定の維持、 信頼の構築、明確なコミュケーション、そして政策を見直すことにより、以前より も強力なシステムへと再構築を図り、人と経済に恩恵をもたらすこと、の 3 つです。 経験と情報を駆使した開発成果の向上 49 新型コロナウイルスによる危機がもたらした影響は甚大であり、ユニバーサル・ ヘルス・カバレッジの達成、安定した教育システムの確立、社会的保護の対象範囲 の拡大、適応性のあるプログラムや政策の推進により、各国がショックの悪影響を 緩和し、将来的な強靱性の基礎を固めることが急務となっています。 人的資本プロジェクトの実施 人的資本プロジェクトは、人への投資を質と量の両面から促進することにより、 公平性と経済成長の拡大を目指す国際的な取組みです。2020 年度末現在、同プロ ジェクトには地域や所得水準の異なる 77 カ国が参加しています。これは人的資本 が経済成長、貧困削減、繁栄の共有の重要な促進要因であることが広く認知されて いることの証です。同プロジェクトはパートナーと連携しながら、人的資本面の 成果の向上に取り組んでおり、男女を問わず、全ての子供が良好な栄養状態を維持 しながら成長し、就学準備を整え、学校教育を通じてしかるべき知識を身に付け、技能 を備えた健康かつ生産性の高い大人として雇用市場に参入できるようにすることを 目指しています。 世界銀行グループは、助言、分析、業務、研究サービスを通じて、途上国が人的 資本を強化できるよう支援しています。新型コロナウイルス感染症対策では、緊急 支援の一環として、人材や必須物資の動員・展開、公衆衛生や栄養、セーフティ ネット、基礎的サービスへの資金提供を通じて、主に高齢者等の脆弱層や医療従事者、 生計を失った人々への支援を強化しています。この他、各国が人的資本面の成果を 向上させ、進捗を加速できるように、次の分野で取組みを継続しています。 ・マダガスカル、パキスタン、ペルー、ルワンダ等において、政策や組織・制度上 の障壁を取り除くことにより、人的資本の強化に重点を置いた、一連の新しい セクター横断的な開発政策プロジェクトを実施。 ・学習貧困(短い文章を読んで理解することのできない 10 歳児の比率)への対応 を強化すると共に、感染対策で学校が閉鎖されている状況を踏まえ、学習機会が 失われたことに対応するための措置を実行。 ・2023 年までに新たに 10 億人にプライマリケアを提供することを重点目標とし て、誰もが質の高いサービス(新型コロナウイルス感染症対応を含む)を手頃な 価格で利用できるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を拡大。 ・女性と女児に焦点を合わせ、教育、保健サービス、経済機会、エンパワーメント へのアクセスを改善。 ・幼児期の子供の発達に対する基礎的な投資を優先課題と位置付け、良好な健康、 適切な栄養、幼児期の刺激と教育、きめ細かなケア、安全・安心が子供の生涯に 及ぼす影響を拡大。 ・人的資本への投資が生計の安定、雇用の質と量の改善につながるように投資を 加速し、経済的変革を促進。 ・政府が限られた財政の中で支出に優先順位を付け、測定(主要な人的資本投資と その成果の追跡を含む)を強化できるよう分析面で支援。 加えて、人的資本指標(HCI)のアップデートにも取り組んでおり、2018 年版 の HCI には含まれていなかった 17 カ国のデータやジェンダー別データ、10 年間 の人的資本の推移等に関する最新のデータを追加することにより、各国の政策立案 を支援しています。 人的資本プロジェクトでは、協調と知識共有を促進するパートナーシップも重要 な役割を果たしています。例えばフォーカル・ポイント・ネットワークは、各国の 政府関係者が新型コロナウイルス感染症対策やその他の課題に関する経験、革新的 なソリューション、教訓を共有する場となっています。プロジェクトの世界的な 推進機関やその他の主要ステークホルダーとは、国連総会や世界銀行・IMF春季会合、 年次総会等の主要イベントでも意見を交換しています。世界規模の学習危機に対す る取組みでは、UK Aid、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、国連教育科学文化機関 (UNESCO) 、国連児童基金(UNICEF)等のパートナーを動員しました。この他、 人的資本面の成果向上の加速を図るイニシアティブのためにマルチドナー型の資金 調達メカニズム「成果拡大に向けた人的資本の構築」も設立しました。 50 世界銀行 年次報告 2020 世界規模の学習危機への対応 学習危機は世界中で起きており、新型コロナウイルス感染症の危機が始まる以前 から、学校に通っていない児童・若者は 2 億 6,000 万人近くに達していました。 学校に通っている生徒も、指導の質が低いがためにわずかな知識しか習得できてい ません。特に厳しい環境で暮らす児童や若者は、学校教育へのアクセス率が最も低 いばかりか、中退率は最も高く、学習到達度もとりわけ低くなっています。 世界銀行グループは 2019 年 9 月の国連総会において「学習貧困」という新たな 概念を発表しました。これは世界銀行グループが UNESCO 統計研究所と緊密に連携 しながら策定したものです。世界銀行グループによる調査の結果、低・中所得国では 学習貧困率が 53%に達することが明らかになりました。これは10 歳児の半数以上が 簡単な物語さえ読めないことを意味します。教育分野の目標達成に向けた行動を 喚起し、この危機に取り組むため、 世界銀行は2019 年の年次総会において、2030 年 までに学習貧困率を少なくとも半減させるという新たなグローバル目標を掲げました。 世界銀行は途上国の教育に対する世界最大の外部資金提供機関であり、80 カ国 以上で支援を行っています。融資と分析・助言サービスを通じて、途上国が児童や 若者、技能の習得を必要としている成人に学習機会を提供する仕組みを整備・拡大 できるよう支援しており、現在は乳幼児期の発達、基礎・中等教育、技能開発、 高等教育等、様々な分野で 145 件の教育プログラムに資金を提供しています。 新型コロナウイルス感染症対策の支援に当たっては、感染症の流行がもたらした 被害の緩和に加え、危機対応の一環として実施された遠隔学習への投資を基に、 生徒のニーズに柔軟に対応できる、強靱で公平な教育制度の実現を加速させるよう 取り組んでいます。学校の閉鎖中は、印刷物やラジオ、テレビ、モバイル・テクノ ロジー等を効果的に活用して、遠隔学習システムの構築・改善を迅速に支援しました。 給食を利用できなくなった子供に栄養面の支援も提供しています。また、学校の スムーズな再開を図り、中退する生徒を極力少なく抑えるため、保健習慣や衛生的な 慣行の導入、再入学の促進と早い時点で体系的に兆候を察知することによる中退の 阻止、学校給食の提供、テクノロジーを活用した対面学習と遠隔学習の統合、学習 機会の喪失を見極め改善するための教員研修の実施等、 生徒が学習の遅れを取り戻し、 安全に学ぶための環境づくりを促進しています。 学校再開後の対応として、学習の質を高め学習を促進するため、学校以外の学習 の場の確保、データを利用した学校の公平性向上、様々な学習ニーズへの対応、 親、教員、生徒向け支援(社会情緒的支援を含む)の強化を通じて、各国が強靱な 教育制度を構築できるよう取り組んでいます。 こうした取組みは、UNICEF、UNESCO、ハーバード大学教育大学院、経済協力 開発機構(OECD)等のパートナーとの緊密な連携の下で進められています。 世界銀行は約 60 カ国でプロジェクトの再編、追加融資、新規プロジェクトを実施 し、教育分野の新型コロナウイルス感染症対策に対して 25 億ドル超を動員しまし た。以下はその一例です。 ・トルコ:1 億 6,000 万ドルの緊急プロジェクトを通じて、政府がテレビやオン ライン媒体向けのデジタル・コンテンツ、補習講座、対面とオンラインの混合型 の教育・学習プログラムを作成できるよう支援。聴覚・視覚障害のある生徒の ために、全てのテレビ教材に手話通訳、字幕、音声文字転換ツールを用意。既存 のオンライン教育システムの強化、 精神衛生関連のカウンセリングにも資金を提供。 ・パキスタン:遠隔学習に参加する機会を全生徒に提供するため、高等教育省が 生徒全員分のデバイスを調達し、配布できるよう支援。 ・ルワンダ:生徒の 60%が利用することを想定した双方向での教育プログラムに 加えて、教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)の融資を受けた 1,000 万ドルのプロジェクトを通じ、テレビ、YouTube、政府の e- ラーニング・ プラットフォームを利用した遠隔学習を支援。学校再開時には、同プロジェクト を通じて補習プログラムを支援(中退リスクが高い生徒を対象に含む) 。 ・ナイジェリア:既存のプロジェクトを再編し、32 万 5,000 人の生徒に双方向で のラジオ講座、デジタル自習活動、読み物、モバイル端末を利用した双方向での 小テストを提供。クラス単位で作成された WhatsApp グループを活用した、 教員による学習支援。自宅学習の補助として、保護者向けにデジタル ・レッスン・ ガイドを提供。 経験と情報を駆使した開発成果の向上 51 誰もが利用できる質の高い保健医療の確保 2020 年 3 月、世界銀行グループは途上国の感染症対策を支援するため、 「新型 コロナウイルス感染症対応のためのファストトラック・ファシリティ」を発表しま した。早期対応のための同ファシリティは、保健システムの強化、感染拡大の 抑制、疾病監視の強化、ワクチンと治療方法の研究開発促進等、迅速な対応が必要 な保健ニーズに重点を置いています。また、 途上国に代わって供給業者に働きかけ、 各国が必要不可欠な医療品を入手できるよう支援しています。 2020 年度、世界銀行は100 以上の途上国を対象に、新型コロナウイルス感染症 対策を支援する保健プロジェクトを迅速に承認しました。この支援は、途上国がそれ ぞれの国の保健ニーズに対応し、景気回復を促進できるように、2021年 6 月までの 15カ月間に最大1,600億ドルを支援するという世界銀行グループの計画の一環です。 世界銀行の支援は、主要な国際パートナーと連携することで更に強化されてい ます。2020 年 2 月には、世界保健機関(WHO)やその他の国際機関と連携し、 グローバル及び国レベルの新型コロナウイルス感染症対策における準備・対応計画 を策定しました。また、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)の受託者と して、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発と開発されたワクチンの公平な 分配を支援するため、複数のステークホルダーで構成されるタスクフォースを立ち 上げました。 世界銀行は、新型コロナウイルス感染症が拡大する以前から、途上国が感染症の 流行への備えを強化できるよう支援してきました。西・中央アフリカ地域の 16 カ国 で実施されている地域疾病サーベイランス強化プログラムは、セクター横断的な共同 疾病管理・準備の実施能力を国・地域規模で強化するものです。2014~15 年に 西アフリカでエボラ危機が発生した際は、アフリカ疾病予防管理センターに加えて、 国レベルで数多くの公衆衛生機関の設立を支援しました。コンゴ民主共和国で 2018 年 8 月に第 10 次エボラ流行が発生した際は、IDA が 2 億 8,600 万ドルを提供 しました。また、東アフリカ公衆衛生検査機関ネットワーキング・プロジェクト にも支援を提供しました。同プロジェクトの下、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、 タンザニア、ウガンダにおいて、十分な設備、適切な訓練を受けた職員、高度な 診断・監視能力を備えた 40 の公衆衛生検査機関によるネットワークが構築され、 現在、新型コロナウイルス感染症対応に活用されています。 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成は、世界銀行の目標である と同時に、人的資本の構築にとっても不可欠です。世界銀行はプライマリ・ヘルス ケア・システムの強化、健康障害に起因する財政リスクの低減、公平性の向上によ り、支払い能力を問わず、全ての人が質の高い保健サービスを手頃な価格で利用で きるよう支援しています。 WHO と 世 界 銀 行 が 発 表 し た「2019 Universal Health Coverage Global Monitoring Report(仮題:2019 年ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) グローバル・モニタリング報告書) 」は、世界全体で見ると保健分野の成果は大幅 に向上しているものの、依然として大きな課題が残っていると指摘しています。 途上国の人々が保健医療に支払う金額は、年間 5,000 億ドルを超えると推定され ています。その結果、9 億 2,500 万人超が経済的に困窮し、9,000 万人近くが極度 の貧困に陥るリスクにさらされています。世界銀行は 2019 年 9 月に開催された ユニバーサル・ヘルスケアに関する初の国連ハイレベル会合において、この分野の 進捗を加速させるという決意を改めて表明しました。 「全ての人に健康な生活と福祉 を保証するための世界行動計画」の12の共同署名機関の一つとして、途上国が効率化 を進め、国際的な保健コミットメントを実現できるよう引き続き支援していきます。 世界銀行はまた、高齢化に直面している国や非感染性疾患の増加に苦しんでいる 国にも支援を行っています。こうした疾患は世界の死因の 70%を占め、そのほと んどが低・中所得国に集中しています。プライマリ・ヘルスケア・サービスは疾病 の予防や早期検知、管理だけでなく、健康の増進にも不可欠です。ブルンジ、ケニア、 ルワンダ、タンザニア、ウガンダでは、地域がん登録プログラムを通じて保健省の 機能を強化し、がんの予防、検知、治療を支援しています。 新型コロナウイルス感染症は、基礎的保健サービスへのアクセスを大きく混乱さ せました。その結果、女性と子供の命がリスクにさらされ、過去数年間に世界規模 で低下した母子死亡率は再び上昇に転じる恐れがあります。世界銀行が事務局機能 を担う各国主導型のパートナーシップ「グローバル・ファイナンシング・ファシリ 52 世界銀行 年次報告 2020 健康の公平性と経済的保護指標 このデータベースは、主要な保健セクター指標の 進捗を追跡するためのグローバルな情報源であり、 あらゆる所得レベルの国を網羅しています。最初の データセットは 2000 年に公開されました。2019 年 に公開された最新バージョンには、1,204 件の調査 に基づく、196 カ国の保健サービスの範囲と保健面 の成果に関するデータが含まれています。この他に も 646 件の調査に基づく、149 カ国の財務保護に 関するデータが含まれ、歳入の 10%超を保健医療に 支出している国の割合や、保健医療費の支払いのため に貧困に陥っている人々の対人口比等を確認する ことができます。 ティ (GFF)」は、女性と女児のための安全かつ公平な保健・栄養サービスを維持・ 促進し、より強靱な保健システムを構築するために、資金面及び技術面で触媒的な 支援を提供しています。GFF は世界で最も母子死亡率の高い 36 の低所得国・低中 所得国における活動を通じて、各国政府が新型コロナウイルス感染症の流行中も 基礎的保健サービスの提供を継続できるように、サービスに優先順位を付け、適切 な支援計画を策定し、サービス提供の現場を強化し、性と生殖に関する健康をはじめ 生死に関わるサービスの提供を阻む要因に対応できるよう支援しています。ザンビア では現在、政府が女性と子供のための基礎的保健サービスとジェンダーに基づく暴力 への対応を組み合わせ、国レベルの新型コロナウイルス感染症対応計画の立案に取り 組んでいます。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が起きるまで、GFFの支援を受けた途上国 では女性と子供の保健は改善傾向にありました。 リベリアでは2017~19年の間に、 1 歳未満の子供の予防接種率が 52%改善し、介助者立会いの下で出産した女性の 割合は48%増加しました。エチオピアでは2016~19 年の間に、熟練した医療従事者 の立会いの下での出産が 28%から 50%に、栄養支援を受けている 2 歳未満の子供 の割合は 27%から 44%に上昇しました。 社会的保護を通じた貧困層・脆弱層の保護 社会的保護プログラムは、生命と生計の保護、人的資本の構築と維持を支援する と共に、人々のエンパワーメントを進め、家族単位で貧困から抜け出せるように することで、より公正かつ公平で包摂的な社会の実現に貢献しています。しかし、 世界銀行の「Atlas of Social Protection Indicators of Resilience and Equity (仮題:強靱性と公平性の社会的保護指標アトラス) 」によると、何らかの形で社会 的保護を受けている人は世界人口の 45%に過ぎず、最貧国では社会的セーフティ ネットにアクセスできる人は 5 人に 1 人にすぎません。 危機の時代には、社会的保護を効果的に提供する仕組みが特に重要となります。 こうした仕組みは人々がリスクを管理し、ショックに対応する助けとなるからです。 「Sourcebook on the Foundations of Social Protection Delivery Systems (仮題:社会的保護の提供システム基盤に関する資料集) 」は、適切な仕組みを構築 することはプログラム間の連携を強化し、 支援を適切な人々に確実に届け、 インパクト を最大化するために役立つと指摘しています。新型コロナウイルス感染症の危機を 受け、世界銀行グループは各国の既存の社会的保護制度を用いて、世帯や企業が 所得を回復し、生計を維持できるよう迅速に行動しました。現在は現金給付への 投資を強化しており、その額は 15 カ月間に 100 億ドルに達する見込みです。この 他、各国が将来の危機に備えて社会的保護システムを強化し、強靱性を構築する ための取組みも支援しました。 アフリカ諸国や中東諸国を脅かしているバッタの大量発生に対しては、5 億ドルの 緊急蝗害対応プログラム(ELRP)を立ち上げ、的を絞った社会的セーフティネット を通じて、影響を受けた世帯が立ち直り、生活を再建できるよう支援しています。 経験と情報を駆使した開発成果の向上 53 同プログラムには現金給付、キャッシュ・フォー・ワーク(労働対価による支援) 、 緊急食料配給の他、農家の収穫量回復及び畜産飼料用の種子・飼料パッケージが 含まれています。 一連の危機は、危機が起きれば対象を速やかに拡大し、被害を受けた人々を迅速 に支援できる適応型社会的保護システムが重要になることを浮き彫りにしました。 こうしたプログラムは、貧困世帯・脆弱世帯が気候関連のリスクや脆弱性・紛争の 影響等のショックへの対処・適応能力を強化し、各世帯の強靱性を高める上でも有効 です。インドでは、首相貧困層福利計画(PMGKY)を通じて 8 億人に現金と食料 を提供する予定です。同計画は、新型コロナウイルス感染症対策において社会の 維持に必要不可欠な活動に従事している労働者に手厚い社会的保護を提供する ほか、移民やインフォーマル・セクターの労働者を含む脆弱層にも緊急支援を提供 します。 世界銀行は現金給付、公共事業、学校給食等のセーフティネット・プログラムを 支援することで、途上国が 2030 年までに受益者を大幅に拡大できるよう支援して います。例えばフィリピンでは、条件付き現金給付(CCT)プログラムを通じて、 400 万戸超の世帯を支援していますが、これは過去 7 年間に達成された貧困削減の 4 分の 1 に相当します。ケニアでは、国家セーフティネット・プログラムの現金 給付の受給者が 2013 年の 170 万人から、2019 年は 500 万人(内、230 万人は 女性)へと大幅に拡大されました。 社会的保護の対象をインフォーマル・セクターの労働者にも拡大することは、 依然として困難な課題です。途上国では、労働者の最大 80%がインフォーマル経済 に参加することで生計を立てており、高所得国でも十分な保護を受けていない労働 者は増加傾向にあります。世界銀行の報告書「Protecting All: Risk-Sharing for a Diverse and Diversifying World of Work(仮題:全ての人を保護する:多様化 する仕事とリスク共有) 」は、仕事の性質の変化を踏まえ、その多様化と流動性の 上昇に合わせて、 労働者に適切な保護と社会保障を提供する方法を提案すると共に、 各国政府にセクターを問わず、全ての労働者に社会的保護を提供するよう呼びかけ ています。新型コロナウイルス感染症の世界的流行が貧困層、特にインフォーマル 経済で働く貧困層に壊滅的な影響を与えていることを考慮すると、同報告書が提案 している労働者保護モデルの必要性はかつてないほど高まっています。 持続可能なインフラ投資 貧困を削減し、繁栄を共有するためにはインフラの整備が不可欠です。世界銀行 は途上国と共に、人々を機会と結びつけ、経済成長を促進し、開発成果の向上を 実現する持続可能なインフラの構築に取り組んでいます。世界銀行の支援は、政策・ 規制関連の助言から、民間セクターの参加促進、金融ソリューションの活用、政府 によるプロジェクトの準備や実施の支援まで、インフラ開発のあらゆる側面を網羅 しています。また、物的インフラ整備の基礎となるガバナンスや財政の持続可能 性、ベスト・プラクティスの強化も重視しています。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行はインフラに甚大な混乱をもたらしてい ます。世界銀行は、各国政府がプロジェクトや契約を見直し、新たな優先順位に基 づいて準備中のプロジェクトに優先度を付け、自然災害や気候変動、感染症の世界 的流行といった将来的なショックに備えて強靱性を構築できるよう支援すると共 に、各国の政府機関が感染症の流行がもたらす課題への対応において得た経験や 提言の共有を図っています。 持続可能な輸送を通じた機会の提供 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、人の移動と物資の輸送に深刻な影響 を与えています。中でも大きな影響を受けているのが、長い、又は脆弱なサプライ チェーンや地域の中心である主要な港湾を擁し、多数の都市住民の通勤や物資の 輸送を公共交通手段に頼っている国々です。途上国が感染症の拡大に歯止めをかけ、 輸送事業労働者の健康と、社会生活の維持に不可欠な仕事に従事する人々の移動や 必要物資の運搬といったサービスを維持し、経済活動を復活させるためには、移動 の問題に向き合うことが不可欠です。各国が感染者の隔離から感染症流行の管理へ と対応の軸足を移す中、世界銀行は人と物資の輸送・移動ニーズを満たせるよう力 54 世界銀行 年次報告 2020 インフラへの民間セクターの参加促進 途上国の大半は、官民を問わず貯蓄率が低く、国内の資本市場は整備が進ん でおらず、インフラ整備に長期資金を提供できる国内資金源がほとんどありま せん。こうした要因に加え、既に認識されている政治・商業面のリスクが障害 となり、途上国は国際資本市場を十分に活用できず、インフラ投資に占める 民間投資の割合は 9~13%にとどまっています。世界銀行グループは、グループ 機関である世界銀行、IFC、MIGA が提供する金融商品やサービスを組み合わせる ことで、こうしたインフラ・ギャップの解消に努めています。アフガニスタン では、国内発電量を最大 30%増やすことを目指すエネルギー・プロジェクトが 初の長期民間投資を獲得できるよう支援しました。また、同国が輸入電力への 依存度を減らしつつ、高まるエネルギー需要を充足できるよう支援しています。 マザーリシャリーフにあるガス火力発電所は、IFC やその他のパートナーからの 融資、IDA の保証、MIGA の政治的リスク保証を活用しています。 モロッコでは、世界銀行グループの支援の下、農村道路の改修とカサブランカ の路面電車網の拡張が進められています。支援には IFC からの 1 億ドルの融資 (北アフリカ初の政府保証のない融資)に加え、環境・社会面のガバナンスに関 する専門知識とガイダンスを提供する助言プログラムが含まれています。これ は、世界銀行グループがモロッコの地域開発促進に向けた改革と投資に対して 行っている広範な支援の一環です。 ヨルダン川西岸地区・ガザ地区ではエネルギーが不足しているため、西岸地区 の 500 の学校の屋根に太陽光電池パネルを敷設する先駆的なプロジェクトを 通じて 1 万 6,000 世帯にクリーンな電力を供給する予定です。同プロジェクトの 原資は IFC とパートナーからの融資、世界銀行の投資協調融資ファシリティから のグラント等です。同プロジェクトは、ヨルダン川西岸地区・ガザ地区の電力供給 を改善するために世界銀行グループが進めている大規模な取組みの一部です。 エチオピアでは、健全な政策、法律、組織・制度、規制枠組みの整備を促進 することで、国が民間投資を誘致できるよう支援しています。新たな法律や独立 規制機関の設置を通じて、通信市場に競争を導入するための技術協力も提供し ました。この他、IFC が政府による通信市場の自由化を支援しています。 を注いでいます。ボスニア・ヘルツェゴビナでは鉄道職員用に防護具の調達資金を 提供し、インドネシアでは政府が安全・安心と危機への備えを強化できるようにし、 長期的な復興を目指すカザフスタンでは、農村道路工事を通じて政府が雇用機会を 創出できるよう支援しています。 持続可能な輸送は今も、世界の開発課題の多くを解決する鍵です。アフリカでは、 全天候型道路にアクセスできないがゆえに 5 億人が貧困から抜け出せずにいます。 世界全体では女性の推定 6 人に1人が通勤中のハラスメントを恐れて仕事に就こう としていません。交通事故の死者は1日当たり3,700 人、重傷者は 5 万人を上回っ ています。また、世界の温室効果ガス排出量の16%は運輸セクターによるものであ り、 都市部の交通渋滞によって生じるコストは1日当たり数百万ドルに達しています。 世界銀行は各国が移動のあり方を改善し、地球環境に負荷をかけることなく、誰 もが安全に利用できる効率的かつ持続可能な輸送を実現できるよう支援していま す。例えば、アフリカ地域では、医薬品等の重要な物資を辺鄙な村に届けるために ドローンの活用を支援しています。パキスタンでは、道路を容易に利用できれば妊婦 が健診を受ける可能性が 2 倍に高まることから、女性の道路へのアクセス拡大に取 り組んでいます。シエラレオネのフリータウンでは、若者がクラウド・ソーシング を活用して、 ミニバスを市内の貧困地域にも走らせるためのデータを収集しています。 バンガロールではインド初の最先端技術を用いた公共交通機関と公共バイク共有 システムを支援し、新たな都市型移動モデルの構築を図っています。コロンビアの ボゴタとペルーのリマでは、 地下鉄の整備により数千台の自動車が不要になると共に、 1 時間以内で通勤できる地域に数千人分の雇用が創出される予定です。 モザンビークでは、2019 年に発生したサイクロン「イダイ」と「ケネス」によ る壊滅的な被害からの復興を促進するため、総合農村道路開発プロジェクトを通じ て、農家と消費者をつなぐ重要な道路を再建し、人々が教育・保健サービスの利用 経験と情報を駆使した開発成果の向上 55 を再開できるよう支援しました。さらに、ブルームバーグ・フィランソロピーズと の長年にわたるパートナーシップを通じて、グローバル道路安全ファシリティ (GRSF)も支援しています。同ファシリティの下での調査と道路整備により、2030 年 までに 5 カ国の 10 都市で死亡者が約 7,000 人減少するものと期待されています。 2020 年度、GRSF と世界銀行は「万人のための持続可能なモビリティ」コンソー シアム(SuM4All)を立ち上げ、途上国の道路の安全性や移動全般をめぐる課題を 分析した国別診断報告書を当該国に提供し、各国が国際的なベスト・プラクティス を取り入れながら、自国のニーズに合った政策対応を準備できるよう支援しました。 2019 年 10 月、SuM4All は 183 カ国を網羅した「持続可能なモビリティに向けた グローバル・アクション・ロードマップ(GRA) 」を発表し、まずはエチオピアと 南アフリカが同ロードマップに基づくプログラムを導入しました。 デジタル・ディバイドの解消 デジタル・テクノロジーは開発の重要な構成要素であり、経済成長を加速させる 貴重な機会を途上国にもたらしています。しかし、2019 年末の時点においても、 途上国を中心に世界人口の半数は依然としてインターネットにアクセスを持ってい ませんでした。なかなか解消しないデジタル・ディバイドは社会の格差を広げ、 新たに 「デジタル貧困」 層を生み出す恐れがあります。世界銀行は各国政府と連携し、 手頃な価格で利用できる安定した高速インターネットの普及と、サービスの提供や ガバナンス、社会的説明責任を改善するオンライン・プラットフォームの構築を 図っています。また、ブロードバンド・アクセスの普及活動を強化し、人々が デジタル・エコノミーに本格参入するための技能と資源を獲得できるよう支援して います。デジタル開発パートナーシップ(DDP)も、 ドナー国政府やテクノロジー 分野のグローバル組織と連携して、各国がデジタル戦略を立て実行できるよう支援 しています。 アフリカ地域では、ブロードバンドにアクセスできる人が人口の 3 分の 1 を下 回っている中、誰もが手頃な価格で質の高いインターネット・アクセスを確保でき るようにするには1,000 億ドルの投資が必要と推測されています。世界銀行グループ は 2019 年、この目標の達成に向けて「アフリカのためのデジタル・エコノミー」 を立ち上げました。アフリカ連合の「デジタル変革戦略」を促進するこの取組みは、 2030 年までにアフリカの全ての個人、企業、政府をデジタル・テクノロジーに よって接続するという意欲的な目標を掲げています。世界銀行はその一環として、 将来の成長の課題や機会を探るために各国のデジタル経済の状況を診断しており、 2020 年度の診断件数は 25 件に上りました。 世界銀行はデジタル・テクノロジーを活用して、様々な開発課題に対応しています。 人口の半数がモバイル・ブロードバンドを利用できない環境にあるニジェールでは、 農村成長スマート・ビレッジ・デジタル包摂プロジェクトを通じて、デジタル・ テクノロジーやインターネットの普及率を高め、サービスが行き届いていない地域に デジタル金融サービスを提供することを目指しています。バングラデシュでは同国 初の国立データ・センター、サイバー・セキュリティ・センター、エンタープライス・ アーキテクチャ等を立ち上げ、デジタル政府の基礎を構築しました。同プロジェクト を通じて 3 万 5,000 人の若年層(内 3 分の 1 超は女性)が仕事に就き、IT 産業の 売上高が 160%増加しました。女性の 3 人に 2 人が身近なパートナーからの暴力を 経験しているペルーでは、国家緊急対応システム・プロジェクト(3,600 万ドル) の下、テクノロジーを駆使してジェンダーに基づく暴力の防止と対応に取り組んで います。 公的身分証明書を持たず、 そのためにサービスや機会を十分に利用できない人は、 世界全体で約10 億人に上ります。開発のための身分証明(ID4D)イニシアティブ は、 信頼できる包摂的な身分証明システムの構築において途上国を支援しています。 対象は、デジタル身分証明システムや市民登録システムの設計・導入に取り組む 40 カ国以上です。 デジタル・テクノロジーはまた、途上国が新型コロナウイルス感染症の世界的流行 がもたらした混乱に対応し、社会・経済活動を維持する上で重要な役割を果たすこ とができます。デジタル・プラットフォームは遠隔学習やリモートワークを実現し、 都市封鎖の期間には電子商取引が生活を支えるライフラインになる可能性がありま す。サービスを維持するために、あるいは陽性者と接触した人々を追跡し感染の 56 世界銀行 年次報告 2020 拡大を食い止めるために、デジタル・テクノロジーを活用している政府もあります。 しかし、多くの貧困国はこうした措置を実行するために必要なインフラが整ってい ません。2020 年 4 月、世界銀行は国際電気通信連合(ITU)、国際的なモバイル 通信事業者団体である GSM アソシエーション(GSMA) 、世界経済フォーラムと 共同で、バーチャル形式のハイレベル円卓会議を開催しました。会議には各国の 省庁、ICT 規制当局、テクノロジー企業が参加し、新型コロナウイルス感染症の 世界的流行下において途上国がデジタル・テクノロジーやインフラの有効活用に向 けて迅速に実行するための行動計画を策定しました。 エネルギー・採取産業における持続可能なソリューションの活用 電力アクセスは基礎的サービスを支え、コミュニティの安全性を高め、人と物資 の移動を促進し、経済成長を牽引する投資と産業を活性化します。しかし、世界で は今も 8 億 4,000 万人近くが電力のない生活を送っており、そのほとんどがアフ リカ地域と南アジア地域に集中しています。また、電力を安定的に利用できない人 も数百万人に上ります。 世界銀行は、 途上国が持続可能なエネルギー供給を手頃な価格で安定的に確保し、 経済成長と貧困削減に資する形で天然資源を管理できるよう支援しています。世界 銀行の支援により、途上国では 2017 年以降、新たに 3,000 万人超が電力網と 接続されました。世界銀行はこの 2 年間に、ミニグリッドや独立型オフグリッド・ システムに約 10 億ドルを提供することを表明しており、内 80%超はサブサハラ・ アフリカ地域のシステムです。 開発や気候変動対策においては、再生可能エネルギーやエネルギー効率が極めて 重要な役割を果たします。この認識に基づき、世界銀行は過去 5 年間に途上国の 関連セクターのプロジェクトに 94 億ドルを投じました。 世界銀行は気候投資基金(CIF)とエネルギー・セクター管理支援プログラム (ESMAP)の持続可能な再生可能エネルギー・リスク緩和イニシアティブを通じ て、西アフリカ・サヘル地域のオフグリッド電化推進プロジェクト等の活動を支援 しています。同プロジェクトは電力アクセスの提供やサービスの改善により、約 200 万人に恩恵をもたらす見込みです。 世界では今も 30 億人が、調理の際に空気を汚染する燃料を使用しており、保健、 開発、気候面に深刻な悪影響が生じています。この問題に対応するため、世界銀行は 2019 年 9 月にクリーン調理基金(CCF)を立ち上げ、環境に負荷をかけない調理 方法の迅速な普及を支援しています。 ルワンダでは、政策策定を通じて電力普及率を 2009 年のわずか 6%から 2024 年にはほぼ 100%まで引き上げ、エネルギー効率を改善し、エネルギー構成に占 める太陽光・水力発電の割合を拡大できるよう支援しています。ガンビアでは、世界 銀行の支援により、1 日当たりの電力使用可能時間が 2017 年の 3 時間から 2020 年には 24 時間に拡大されました。また、2025 年までに電力を完全普及させるた めの基盤を整備し、クリーンで安価なエネルギーがエネルギー全体に占める割合を 拡大できるよう支援しました。 また、最貧国・最脆弱国を中心に採取産業の透明性とガバナンスの改善に取り組む 採取産業グローバル・プログラマティック支援 (EGPS)信託基金の第 2 次フェーズ に対し、3,600 万ドルの資金を確保しました。 気候変動対策、災害に対する強靱性、適応策の促進 世界各国が新型コロナウイルス感染症の世界的流行への対応に追われる中、世界 銀行グループは気候変動・防災等の分野で蓄積してきた豊富な経験を活かし、各国 が目の前の危機に対応しつつ、より強靱で持続可能な未来を構築できるよう支援し ています。例えば過去の災害対応プログラムでは、支援対象者の増加に合わせて 迅速に拡大できる適応型社会的保護システムの重要性が大きな教訓として示されました。 現在、同システムはパキスタンや南スーダンのプロジェクトにも応用されています。 途上国が混乱を乗り越え、更なる強靱性を獲得できるように、世界銀行は短期的・ 長期的な問題を考慮するよう政策立案者に働きかけており、持続可能性に関する チェックリストを作成し、政府の景気刺激策が雇用の創出や経済活動に対応し、適時 性を満たし、リスクを管理しているか、人的資源、天然資源、物理的資源、強靱性、 経験と情報を駆使した開発成果の向上 57 脱炭素化に対する長期的影響を考慮しているかを確認しています。 世界銀行は途上国と連携しながら、各国が適応計画に含まれるプロジェクトを 実行しパリ協定で策定された国別排出削減目標を達成できるよう支援しています。 その多くは、新型コロナウイルス感染症の世界的流行から回復するための景気刺激 策にも盛り込まれる可能性があります。世界銀行グループは気候変動対策のための 財務大臣連合の事務局として、大気汚染の緩和、温室効果ガスの排出量削減、気候 変動の影響への対応を促進する投資に重点を置くことを奨励しています。気候変動 への対応は、近年の世界銀行グループの資本増強や IDA19 の政策面の柱でもあり ます。世界銀行は、独自に設定した気候分野の支援目標を上回り続けており、2020 年度は気候関連のプロジェクトに 172 億ドルの投資を表明しました。 世界銀行は、途上国の政策立案者が将来の低炭素社会に備えるに当たり参照できる よう分析報告書を作成しています。2020 年 3 月に発表した「Technology Transfer and Innovation for Low-Carbon Development(仮題:低炭素型開発のための 技術移転とイノベーション) 」は、低炭素テクノロジーを途上国に移転するための 政策として、補助金、人的資本への投資、貿易制限の緩和、外国直接投資に関する 規制の撤廃等を提案しています。 世界銀行は途上国が自国の危険度を評価し、極端な気象現象や地質学的な災害、 感染症の世界的流行がもたらす災害リスクに対応できるよう技術面及び資金面の 援助も提供しています。危機への準備・対応を担当する省庁等、様々な専門機関を 支援し、包括的アプローチを通じて幅広いセクターやコミュニティ(特に脆弱層) の防災と強靱性の主流化を促進しています。また、15 カ国の新型コロナウイルス 感染症対策を支援するため、 2020 年 2 月以降、 災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)を通じて 17 億ドル近くを迅速に提供しました。世界銀行は現在、全ての プロジェクトについて気候や災害のリスクの有無をチェックし、現地の人々の強靱 性を構築するプロジェクトとなっているか否かを確認しています。 持続可能かつ包摂的な都市の構築 現在、世界人口の半数以上が都市で暮らしています。2050 年には 10 人に 7 人 が都市に住み、将来の都市化の 90%近くは途上国、特にアジアとアフリカの途上 国に集中すると予測されています。世界銀行は、途上国の都市が国家の成長と貧困 の緩和に貢献できるように、都市の活力、住みやすさ、気候変動への適応力、強靱 性、包摂性、競争力の向上を支援しています。4 つの重点課題として、計画と実施 能力の開き、低所得国の急速な都市化がもたらす調達資金の不足、地域間・都市内 の空間的・地域的不平等の拡大、都市部への人と資産の集中がもたらすハザード・ リスク拡大を掲げ、年間平均 50~60 億ドルを投じて、途上国の政策改革を進めて います。 世界銀行は、各国政府が都市開発計画を策定・実施し、インフラや基礎的サー ビス(固形廃棄物処理、住宅、都市交通、水・衛生システム等)へのアクセスを 改善できるよう支援しています。モロッコではスラムの改善、建築基準や借家法の 近代化等の住宅バリューチェーン改革を支援した結果、インフォーマル・セクター で働く 10 万以上の世帯が住宅ローンを活用できるようになりました。世界銀行が 今年発表した報告書「Hidden Wealth of Cities(仮題:都市の隠れた富)」は、 公共スペースを活用して、都市の住みやすさ、強靱性、競争力を強化する戦略を 提案しています。 強靱な都市インフラの整備に必要な投資は、世界全体で年間 4 兆 5,000 億~5 兆 4,000 億ドルに上ります。その大半は途上国の資金ニーズですが、その額は政府 開発援助(ODA)で対応できる規模をはるかに超えています。そのため世界銀行は、 都市が複数の資金源を活用できるように、歳入の創出、政府間財政移転の改革、 土地価格の把握による民間資金や商業金融へのアクセス改善等を進めています。 世界銀行の都市信用力イニシアティブは、自治体の財政を強化し、国の保証なしに 国内や地域の資本市場を活用できるよう支援するもので、2014 年以降、26 カ国 250 都市の自治体職員が関連分野の研修を受けました。エチオピアでは、都市組織 ・ 制度・インフラ整備プログラム(6 億ドル)を通じて、117 の都市政府の組織・制度、 自治体インフラ、地域経済開発を支援し、900 万人超が恩恵を享受しています。 世界銀行は地域間及び都市内の空間的不平等の削減にも取り組んでいます。地方 レベルでは、地域の潜在能力を引き出すための投資と政府戦略を支援し、例えば 58 世界銀行 年次報告 2020 ケニアの北東部では10億ドルのセクター横断型イニシアティブが進められています。 自治体レベルでは、アルゼンチンのブエノスアイレスやインドネシアの各地で、 インフォーマルな居住地の改善を進め、都市インフラやサービスへのアクセス向上 を図っています。2020 年 2 月に発表した報告書「Convergence(仮題:収束)」 は、中東・北アフリカ地域の空間的不平等悪化の要因を分析したもので、物資と人 の移動制限、一極集中型の非効率なサービス提供、都市圏の土地市場の規制による 軋轢がいかに域内格差を拡大しているかを明らかにしています。 世界銀行は、気候変動に対する強靱性を備え、低炭素型開発に移行しつつある 途上国の都市にも支援を提供しています。都市気候対策資金調達ギャップ基金は、 戦略の策定や主要な取組みの分析に必要な資金を提供することにより、都市が気候 への影響の少ないプロジェクトを特定し、準備を加速させることができるよう支援 しています。都市強靱性プログラムは、都市の強靱性に対する融資の拡大を目指す マルチドナー型イニシアティブです。これは世界銀行と世界銀行防災グローバル・ ファシリティ(GFDRR)のパートナーシップであり、2017年の設置以来、50カ国以上 で90を超える都市が災害や気候変動に備え、その悪影響を緩和し、強靱なインフラ の整備に必要な資金を動員できるよう支援しています。セネガルのダカールでは、 自治体が新しい埋立て処分場の建設・運営費用の調達に民間資金を動員できるよう 支援しています。 都市は、公衆衛生や防災の担当省庁と連携しながら、新型コロナウイルス感染症 の世界的流行に最前線で対応しています。しかし途上国の都市の多くは、ウイルス の拡大を封じ込めるための機能を持ち合わせていません。特に、人との距離を保 ち、衛生習慣を維持することが難しいスラム住民やその他の脆弱層はなおさらです。 世界銀行は広範な活動を通じて、都市がコミュニティ内での感染拡大を防ぎ、基礎的 な公共サービスを提供し、都市の貧困層を守り、土地の区分や利用を改善し、財務 の持続可能性を強化できるよう支援しています。 持続可能な資源管理 食料安全保障と持続可能な食料システムの確保 2015 年以降、世界の栄養不良人口は毎年増え続けています。気候変動や紛争、 病害虫がもたらすショック、新型コロナウイルス感染症の世界的流行による所得 喪失を受け、多くの国で食料・栄養面の不安が高まっています。こうした要因は食料 生産を脅かし、サプライチェーンを混乱させ、栄養価の高い食品の購買力を低下 させます。世界銀行は各国政府やパートナーと協力しながら、食料価格とサプライ チェーンを世界及び国レベルで注意深くモニタリングしています。現在は各国に対 し、食料サプライチェーンの維持、サプライチェーンへの保健・安全対策の導入、 最脆弱層向けセーフティネット・プログラムの強化を目的とした政策対応の導入を 呼びかけています。 世界銀行は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まる前から、途上国に おける食料安全保障の改善に取り組んできました。2019 年 8 月にはアフリカ食料 安全保障リーダーシップ対話の開催を支援しました。これは、 アフリカ連合委員会、 アフリカ開発銀行、国連食糧農業機関(FAO) 、国際農業開発基金(IFAD)の共同 イニシアティブであり、アフリカ地域における食料安全保障の悪化に対応するため の措置や資金調達の促進を目指しています。2020 年 5 月、世界銀行は過去最悪の バッタの大量発生に対応するための緊急支援を提供しました。バッタの被害は気候 変動や一部の国における脆弱なガバナンスによって更に拡大しており、今回の支援 では、バッタが穀物と牧草に与える影響を緩和し、住民の生計を回復し、 「アフリカ の角」等における予防・管理システムを強化することを目指しています。 現代の食料システムは環境と保健に多大な負荷をかけており、その軽減が急務と なっています。例えばコロンビアでは、2 万 3,000 ヘクタールの土地を樹木ベース の家畜管理システムに転換することで牛乳の生産量と所得の向上を支援し、生態系 の回復、気候変動に対する強靱性の強化、生物多様性の保護に貢献しました。成人 の約 40%が農業セクターで働き、5 歳未満児の約 40%が発育阻害の状態にある インドのパンジャブ州では、食料システムの改革を支援し、栄養、生計、強靱性の 向上を図っています。 経験と情報を駆使した開発成果の向上 59 50 X 2030 イニシアティブ 開発援助機関、政府、ドナーが参加する50 X 2030イニシアティブは、データ を駆使した「スマート農業」を10年以内に実現することを目指し、50の低所得国・ 低中所得国が自国の農業データ・システムを強化し、農業や農村に関する調査データ を適時に活用できるよう支援しています。農作業に統計を取り入れ、エビデンスを 基に判断する農家が増えれば、途上国は飢餓の撲滅、世界規模の食料安全保障、 栄養の改善、農業の持続可能性向上において進歩が可能です。世界銀行が管理 する信託基金には、複数の開発パートナーが既に計 2 億ドルの拠出を約束して います。他にも IDA による支援や民間セクター等からの補完的な資金源を通じ て、3~5 億ドルを確保できる予定であり、持続可能性の強化やスマート農業の 促進に更に多くの国内資金源を動員できる見込みです。 世界銀行は各国と連携しながら、新型コロナウイルス感染症をはじめとする新た な感染症の根本原因に取り組んでいます。例えば、環境が急速に変化する中で管理 が十分ではない動物由来の感染リスクもそのひとつです。食料システムが生産量と 消費量の著しい増加によって疲弊し、移動や貿易の拡大によって病原体が運ばれや すくなることで、こうしたリスクは更に上昇しています。一連の変化は、環境と動物 と人間の健康を一体として捉えることの重要性を浮き彫りにしました。食料システム の安全性、持続可能性、強靱性の向上に投資することで、大きな代償を伴う感染症 の大流行発生を防止し、生計を維持し、安価な食品への安定したアクセスを確保 できるよう支援することが可能になります。 長期的成長のための生態系と生物多様性の支援 世界銀行は途上国と共同で大気・土壌汚染の削減に取り組むことで、保健面の 成果の向上に貢献しています。大気汚染は年間 700 万人超が寿命を全うできずに 死亡する原因となっており、世界銀行は汚染管理・環境衛生プログラムを通じて知識 成果物や技術協力を提供することで、途上国が大気・土壌汚染をより効果的に管理 できるよう支援しています。中国の河北省では、世界銀行の支援によって微粒子物質の 濃度が年間約41%削減されました。バングラデシュでは、レンガ製造窯にクリーン・ テクノロジーを取り入れることで汚染物質の排出量が減少しました。エジプトでは 大気管理・廃棄物処理に関する投資プロジェクトの準備を分析面で支援しました。 途上国では、多くの住民が食料、燃料、所得の相当部分を森林や湖、河川、海洋 から得ています。しかし、こうした自然資産の多くは、魚の乱獲、森林伐採、野生動物 の違法取引といった人間の行為によって枯渇しつつあります。新型コロナウイルス 感染症の危機は、人間と地球の健康、環境破壊の間に強い関連性があることをこれま で以上に浮き彫りにしました。例えば、森林の破壊・消失によって自然界のバランス が崩れ、人畜共通感染症のリスクが高まっています。世界銀行グループは森林行動 計画のコミットメントに基づき、広範な関係者・パートナーと連携しながら、森林 への投資に必要な情報や支援を 10 カ国超に提供し、開発政策ノートの作成を支援 する予定です。2019 年 10 月に発表した報告書「Illegal Logging, Fishing, and Wildlife Trade(仮題:違法な伐採、漁業、野生動物の取引) 」は、違法行為の 根本原因に対応するための行程表を世界中の政策立案者に提供しました。 世界銀行は各国が環境リスクのバランスを保ち、コミュニティの強靱性を高めな がら、自然資産の管理と保全を強化し、生産性、成長、雇用を改善できるよう支援 しています。 「持続可能性に関するグローバル・プログラム」では 20 カ国超と 協力し、各国が自然資産をより効果的に管理できるように、森林、土地、水資源を 含む生物多様性の経済価値を評価・測定しています。エチオピアでは、強靱な景観・ 生計プロジェクト(1 億ドル)を通じて、気候変動に対する強靱性、土地生産性、 炭素の貯蔵、土壌・水管理、流域の生計の多様化を支援しています。 世界銀行は開発政策融資を通じて、環境・経済の持続可能性を促進する政府改革 の支援を続けています。環境・経済の持続可能性の重要性はますます高まってお り、新型コロナウイルス感染症の危機から立ち直るために、多くの国が環境や海洋 に配慮した、気候変動対応型のアプローチを採用しています。コスタリカでは、 60 世界銀行 年次報告 2020 第 1 次財政・脱炭素化プロジェクト(3 億ドル)を通じて、環境に配慮した成長と 二酸化炭素排出量の少ない開発を促進し、持続可能な復興の基礎を構築できるよう 支援しています。新たなマルチドナー信託基金であるプログリーンは、途上国が 生計の改善を進める一方で、生物多様性の減少や砂漠化の進行、森林の喪失、土壌 の劣化、その他のリスク増大(大規模な森林火災等)に対応できるよう支援してい ます。世界銀行のブルー・エコノミー・プログラム及びプロブルー・マルチドナー 信託基金は、途上国における水産漁業管理の改善、沿岸・海洋保護区域の設置、 オフショア風力発電・輸送等による海洋セクターにおける持続可能性の向上、自然を 生かしたコミュニティの災害リスク低減策の策定を支援しています。 世界銀行はまた、 プラスチック汚染がもたらす脅威にも対応しています。インドネシアでは、都市住民 向けの固形廃棄物処理サービスの改善、海洋ごみの削減、海洋堆積物やプラスチック ごみへの対応に 1 億ドルの支援を提供することを表明しました。南アジアでは、 南アジア地域プラスチック・フリー河川・海洋プロジェクト(3,700 万ドル)を 通じて、域内諸国が海洋プラスチック汚染を食い止め、プラスチックの利用と生産 に関する革新的なソリューションを開発できるよう支援しています。 持続可能な水・衛生管理の促進 給水・衛生アクセスにおける格差、急速な都市化と人口増加、汚染、気候変動の 影響、水を大量に消費する成長パターン等が水をめぐる懸念を高め、経済発展、 貧困緩和、持続可能な開発に対する脅威となっています。 「世界の水の安全保障」を 実現するため、世界銀行は援助受入国やパートナーと共に資源管理の改善、給水・ 衛生施設の完全普及、農業における水の最適利用に取り組んでいます。こうした 取組みは、極端な気候現象に耐え得るシステムを通じた強靱性の構築、水不足の国々 の脆弱性への対応にも役立っています。 途上国における水・衛生サービスの安定的な提供を支援することは、新型コロナ ウイルス感染症の封じ込め、短・長期的な影響の緩和、将来の感染症流行に備えた 強靱性の構築に役立ちます。スリランカでは、新型コロナウイルス感染症緊急 対応・保健システム支援プロジェクトを通じて、新型コロナウイルス感染症の予防、 検知、対応と、国レベルの公衆衛生対策強化を支援しています。また、手洗いに対 する意識を喚起し、衛生習慣の重要性を伝えると共に、情報を周知するために複数 の言語で情報を発信しているほか、文化的な違いに配慮し、読み書きができない人 や障害者にも働きかけています。エチオピアでは、感染症の世界的流行に対応する ために第 2 次都市水供給・衛生プロジェクトを立ち上げ、速やかに資金を動員しま した。また、保健省やアディスアベバ上下水道局と密接に連携することにより、 全ての保健医療施設及び隔離センターが常時水を利用できるようにしました。同 プロジェクトはアディスアベバの給水ポンプや深井戸の交換・改修にも取り組み、 人口密度の高い都市部住民が水へのアクセスを確保できるよう支援しています。 水分野における世界銀行の活動は、 世界銀行自身のプロジェクトにとどまりません。 2017 年に設置されたマルチドナー信託基金「水の安全保障と衛生のグローバル・ パートナーシップ」は、キャパシティ・ビルディングと同時に、現在及び将来の 世代に十分な水、食料、エネルギーを供給するために必要な組織・制度、インフラを 途上国が強化できるよう支援しています。また、官民両セクターと市民社会による パートナーシップである2030 水資源グループは、長期的な開発と経済成長のため、 政府が水資源の持続可能な管理を目的とした改革を加速できるよう取り組んでいます。 脆弱性・紛争・暴力への対応 2030 年には極度の貧困層の最大 3 分の 2 が、脆弱性・紛争・暴力(FCV)の 影響下にある地域で暮らすようになるとみられています。暴力的な紛争は過去 30 年間で最悪の水準に達し、強制移動の危機もかつてないほど高まっており、7,900 万 人超が紛争と暴力から逃れるために母国を離れました。気候変動、 人口動態の変化、 デジタル・トランスフォーメーション、暴力的な過激主義、新型コロナウイルス 感染症等の世界的流行といったリスクにより、事態は更に悪化しています。世界銀行 が 2020 年 2 月に発表した報告書「Fragility and Conflict: On the Front Lines of the Fight against Poverty(仮題:脆弱性と紛争:貧困との戦いの最前線) 」は、 脆弱性・紛争の問題が慢性化している国では、貧困率が過去 10 年間に 40%を超え 経験と情報を駆使した開発成果の向上 61 続けているのに対し、こうした状況から脱した国では、貧困率が半分以下に低下 していることを明らかにしています。今日、脆弱性・紛争の問題が慢性化している 国の住民は、過去 20 年間に紛争状態にない国又は脆弱性の影響を受けていない国 の住民と比べて、貧困状態にある傾向が 10 倍も強くなっています。FCV の問題は 複雑化かつ長期化していることから、人的資本を守り、持続可能な平和の基礎を 築き、繁栄の共有を促進するためには各国の開発を支援することが不可欠です。 2020 年 2 月には、世界銀行グループにとって初の 5 カ年 FCV 戦略を発表しまし た。同戦略は、途上国が FCV の原因と影響に対応し、強靱性を強化できるように、 特に社会から阻害されている脆弱層を重点対象として、支援の有効性向上を目指し ています。世界銀行グループは数十年間にわたって FCV 諸国を支援してきました。 この経験に基づき、同戦略は多様な FCV 課題の影響を受けている国々に対し、各国 の状況に合わせた支援を提供する方法を明確に示すと共に、最も厳しい状況にある 国々では状況に合わせて支援業務を調整するよう提案しています。同戦略には、 各国政府や国際機関、市民社会組織、民間セクターの代表等、95の国と地域の2,000 人を超える関係者とのコンサルテーションやフィードバックが反映されています。 IDA 第 18 次増資(IDA18)では、FCV の影響下にある国々への支援が大幅に 拡大され、支援額は 140 億ドルに倍増しました。2020 年度、世界銀行は FCV の 影響下にある国々* に対し、IDA18 から総額 100 億ドルの支援を承認しました。 2019 年 12 月には IDA19 増資交渉が妥結し、FCV の影響下にある国々が、様々な リスクに対応するための融資や目的に合わせた支援が強化される予定です。こうし た支援は、脆弱性の根本原因に対応し、紛争予防に尽力し、紛争中の国や危機的 状況にある国の開発を進め、途上国が脆弱な状況から脱するために必要な組織・ 制度の構築を進めるために不可欠な役割を果たすことになります。IDA19 には、 IDA18 を上回る 22 億ドルの難民・受入コミュニティ向けウィンドウの他、FCV 諸国等において民間セクター投資や雇用創出を促す 25 億ドルの民間セクター・ ウィンドウ(PSW)が含まれています。予防への転換の一環として、IDA19 では 引き続きサヘル地域、チャド湖地域、 「アフリカの角」等において、地域レベルの アプローチを強化し、 脆弱性に対応していく予定です。この他の重点分野としては、 国別アプローチにおける紛争への配慮の強化、不安定な地域におけるキャパシティ ・ ビルディングとプロジェクト実施の支援、食料安全保障と感染症の世界的流行に 対応するための危機への備えと対応への支援が挙げられます。 現在、世界には 2,600 万人近い難民がいます。難民の大半は途上国に避難して おり、内4 分の3は避難期間が 5年を超えています。2020年度、IDA18の難民・受入 コミュニティ向けサブウィンドウは9カ国の16 件のプロジェクトに対し9 億 2,300 万 ドルを融資しました。エチオピアでは、政府が 3 万人の難民及び 4 万 5,000 人の エチオピア国民に経済機会を創出できるよう 2 億 200 万ドルを提供したほか、難民 が法的文書にアクセスし、社会サービスを受け、自由に移動するための改革を実行 しました。IDA18 の危機対応ウィンドウも、機会を創出することで最貧国が危機 に対応し、難民の大量流入がもたらすリスクを緩和できるよう支援しています。 同ウィンドウは、強制移動の影響を強く受けているサヘル地域、チャド湖地域、 「アフリカの角」等において地域レベルのアプローチを用いています。 世界銀行は援助受入国への支援がより大きなインパクトをもたらすよう、人道支援 組織や開発援助機関、平和構築や安全保障の専門機関、民間セクター組織との協力や 相補的なパートナーシップを深めています。南スーダンでは、 国連児童基金(UNICEF) や赤十字国際委員会(ICRC)と連携して、紛争の影響下にある地域で社会から阻害 されている脆弱コミュニティに基礎的な保健サービスを提供しています。世界規模 では、難民投資マッチメイキング・プラットフォームを通じて、企業や基金、開発 コミュニティを動員し、難民と受入コミュニティのための経済機会を創出しています。 世界銀行はコミュニティ主導型のアプローチを用いて、僻地や紛争地域に対する 支援を速やかに拡大しました。 「アフリカの角」では、 「強制移動の影響に係る開発 対応プロジェクト」を通じて基礎的社会サービスへのアクセス改善、経済機会の 拡大、難民受入コミュニティの環境管理の強化を促進しました。 グローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)は、多数の難民を受け入れている 中所得国に譲許的融資を提供しています。2016 年以降、GCFF は 6 億ドル超の *  CV の影響下にある国々とは、 F 「紛争の影響下にある脆弱国リスト」に掲載されている国及び IDA18 のリスク軽減制度の恩恵を享受している国。 62 世界銀行 年次報告 2020 グラントを提供し、35 億ドル超の譲許的融資を行っています。こうした支援は、 ヨルダンとレバノンがシリア難民の流入に対応する際に助けとなっているほか、 コロンビアとエクアドルが100万人を超えるベネズエラ避難民と受入コミュニティ のニーズに対応できるよう役立てられています。GCFFは、国際開発金融機関、国連、 参加国間の調整プラットフォームとしても機能しています。 コミュニティの包摂とエンパワーメントの支援 世界銀行は途上国と共に、結束力のある強靱な社会の実現、社会から阻害さ れている人々が直面している深刻なアクセス格差の解消、全ての人の発言権と 決定権の拡大に取り組んでいます。世界銀行は、開発成果を高めるためには インフォーマル組織やコミュニティの価値観が重要な役割を果たすという認識 に基づき、人を中心に据えた参加型アプローチによって開発を進めてきました。 現在の活動は、これまでの数十年間に及ぶ経験に基づいています。世界銀行は、 計画の決定や投資資金の管理をコミュニティと地方政府に委ねるというコミュ ニティ主導型の多様な開発プロジェクトを支援しており、同アプローチは強靱 性や包括性、社会的説明責任の強化に貢献しています。世界銀行の環境・社会 フレームワーク(ESF)では、関係者の関与や市民参加が受益者の発言権と決定 権を確保する重要な手段となっています。 世界銀行の社会開発活動は、安全な水へのアクセス、農村道路、学校・保健 医療施設、母子の栄養、生計支援、零細企業支援等、様々なニーズに対応して いますが、特に女性の支援に重点を置いています。インドネシアでは 4 億ドルの プログラムを通じて、コミュニティ保健従事者が脆弱世帯のサービス・アクセスを モニタリングできるようにし、栄養支援、子育て研修、幼児向けプログラム、 妊婦・乳幼児教育等を実施しました。こうしたプログラムは危機対応能力の 向上に目覚ましい成果を上げたため、現在は他の国々にも展開され、感染予防、 公衆衛生に関する情報の発信、頻繁なモニタリング、脆弱世帯への緊急支援等 を通じて、新型コロナウイルス感染症への早期対応に役立てられています。 FCV の影響下にある国では、モニタリング、参加型のサービス提供、平和 構築と和解プロセス、対人暴力の削減に関する取組みを支援しています。世界 銀行はこの数年間に、様々な支援・分析活動や他の国際機関・現地関係者との パートナーシップを通じて、ジェンダーに基づく暴力(GBV)に関する活動に 一層の力を注いできました。現在、GBV への対応を目的としたプロジェクトの 他、運輸、教育、社会的保護、強制移動等の分野に GBV 要素を組み込んだプロ ジェクトに対する支援は合計 3 億ドルを超えています。 社会的包摂に関する支援では、ジェンダー、性的指向・性自認(SOGI) 、 障害者、 先住民族に関する研究や活動が重点分野となっています。セルビアでは、 SOGI に基づく差別が社会と経済に与える影響に注目した、エビデンスに基づく 研究を発表しました。また、様々なセクターの世界銀行プロジェクトに障害者の 包摂を重要な課題として組み込み、IDA19 では障害者を開発に組み入れ、全ての プロジェクトの設計と実施に障害者の利益を反映させるための 6 つのコミット メントを定めました。その他、先住民族の問題に詳しい職員のネットワークを 地域やグローバル・レベルで構築し、先住民族の意見が世界銀行の体系的国別 診断(SCD) や国別パートナーシップ枠組み(CPF)、国レベルの政策対話や公共 投資に確実に反映されるよう努めています。パナマの先住民族コミュニティを 支援するコミュニティ主導型のプロジェクトは、先住民族との関係を深めること が、彼らの重視する開発課題の効果的な解決につながることを示しています。 世界銀行は人種・民族的マイノリティの発言力を強化し、基礎的サービスや 雇用へのアクセスを確保するための活動にも取り組んでおり、例えばラテン アメリカ地域では、アフリカ系住民の経済機会を拡大し、デジタル・アクセス 面の格差を解消する活動を展開しています。ルーマニアでは、ロマの市民社会 組織が政策対話に対する懸念を表明するためのプラットフォームを整備し、 ベトナムでは少数民族の経済参加を促進し、グアテマラでは先住民族の子供の 栄養状態を改善する取組みを支援しています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/topics 経験と情報を駆使した開発成果の向上 63 64 THE WORLD BANK ANNUAL REPORT 2020 開発における知識、研究、データの活用 世界銀行の知識成果物、調査報告書、多様なテーマに関するデータ は、重要な 分析や有用な情報を提供し、価値ある地球公共財となっています。こうしたデータ は、世界銀行のプロジェクトに活用されるだけでなく、途上国の意思決定やグロー バルな開発アジェンダの進展にも役立てられています。 Global Economic Prospects: Slow growth, policy challenges (仮題:世界経済見通し:低迷する成長、政策の課題) 「世界経済見通し」は、毎年 1 月と 6 月に発表される世界銀行の主要報告書であ り、世界経済の情勢、展望、政策について、新興国・途上国に重点を置いて調査し ています。同報告書の 2020 年 6 月版は、これまでも低迷していた世界経済が新型 コロナウイルス感染症の世界的流行による深刻な打撃を受けており、第 2 次世界 大戦以降最悪の不況に入る可能性が高いと結論付けています。各国が今回の感染症 拡大を抑え込むことができなければ、 あるいは財政圧迫が債務不履行を引き起こし、 世帯や企業への影響が長期化すれば、世界的景気後退は更に悪化する恐れがあり ます。特に深刻かつ長期的な混乱が懸念されるのが新興国・途上国であり、感染者 が多く医療システムが脆弱な国、貿易や観光業、一次産品・金融市場を通じて国際 情勢の影響を受けやすい国、マクロ経済の枠組みが脆弱な国、インフォーマル・ セクターの割合や貧困率の高い国は大きな影響を受けると考えられます。新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行は、消費意欲や投資家の信頼を損ない、人的資本を 減少させ、グローバル・バリューチェーンを断ち切るなど、世界経済に大きな爪痕 を残すことになるでしょう。エネルギー需要の世界規模での落ち込みにより原油価格 が低迷していますが、それが近い将来に世界経済の成長率を大きく引き上げる要因 になる可能性は低いでしょう。政策担当者の喫緊の優先課題は、今回の保健危機に 対応し、短期的な経済損失を緩和することですが、長期的には、危機が収束した 時点で、経済成長の根本的な促進要因の強化に向けた包括的な改革を実施する必要 があります。 データの提供による開発知識の強化 世界銀行は、データの作成から整理・分析まで、データ・バリューチェーン全体 から情報を収集しています。途上国は、正確なデータを容易に入手できれば、 サービスの提供を強化し、説明責任を果たし、開発目標の達成状況をモニタリング することが可能になります。しかし、最貧国の多くは、データを収集し利用しよう にも、資金が足りない、意思決定者が統計的根拠を十分に活用していない、データ が公開されていないといった課題を抱えています。世界銀行は、最貧国が組織・ 制度面の機能を強化し、政策の立案や改革の根拠となる重要なデータを入手できる よう支援しています。2021 年初頭に発表予定の世界開発報告「Data for Better Lives(仮題:より良い生活のためのデータ) 」は、データが途上国の貧困層の生活 向上にどのように貢献できるかを探るため、現在のデータの活用状況、データの 有効活用と悪用防止のための環境について分析するものとなります。 PovcalNet は、世界の貧困の推移を追跡するオンライン分析ツールです。世界 銀行が発表する貧困推定値を入手できるほか、前提となる仮定を変えて貧困率を 算定したり、異なる国家を組み合わせて推定値を割り出したりすることも可能です。 2020 年 3 月、世界銀行は 1981~2015 年の世界貧困率の修正値を発表し、一部 の地域については 2018 年の貧困推定値を追加しました。貧困推定値は 164 カ国 で実施された 1,900 以上の家計調査データを基に算出されています。調査の結果、 新型コロナウイルス感染症は新たに約 1 億人を極度の貧困に追いやる可能性があ り、最も深刻な打撃を受けるのはサブサハラ・アフリカ地域になるとみられます。 開発における知識、研究、データの活用 65 国際比較プログラム(ICP)は、国連統計委員会の下で世界銀行が主導する世界 最大規模の統計プログラムであり、現在は176カ国が参加しています。ICPは、地域、 国家、世界の各レベルの様々な機関の協力を得て、価格やGDP支出に関するデータの 収集・比較を行い、3 年ごとに各国の購買力平価(PPP)を算定しています。 2020 年 5 月には、国による生活費の違いを反映した 2017 年の PPP に加えて、前回 の基準年(2011 年)の結果の修正版と、2012~16 年の各年の PPP 推計値を発表 しました。PPP は、貧困と競争力を分析し、 「持続可能な開発目標(SDGs) 」に 向けた進捗をモニタリングするための重要な指標となっています。 開発データパートナーシップは、国際機関と企業が協力し、公共サービスや公共 インフラの改善に役立つ情報やツールを共同で作成することにより、開発における 深刻なデータ格差の解消に努めています。同パートナーシップは、データ共有に伴 う処理コストの削減だけでなく、公共財分析の透明性を高め、説明責任を強化して います。同パートナーシップには国際通貨基金(IMF)と米州開発銀行(IDB)が 参加し、50 件を超える世界銀行プロジェクトが支援を受けています。世界銀行は 同パートナーシップを通じ、フリータウン(シエラレオネ)の運輸網設計、ナイロビ (ケニア)の道路安全性リスクの特定、ダッカ(バングラデシュ)の雇用アクセス 分析、新興国の中小企業における男女間の賃金格差の調査を実施しました。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 data.worldbank.org データを利用した 新型コロナウイルス感染症対策 の支援 世界銀行は、新型コロナウイルス感染症 の世界的流行に世界規模で対応するため、 データツール開発を迅速に進め、今回の 流行について理解し途上国への影響を把握 するための研究を実施しました。新型コロナ ウイルス感染症に関し位置情報を活用して 分析を行うタスクフォースが立ち上げら れ、モバイル・ネットワーク集約事業者、 スマートフォン・アプリの開発事業者、 データ集約事業者の協力を得て、位置情報を 活用した分析データを途上国に提供し、各国 が効果的な感染抑制策を立案できるよう 支援しています。コロナウイルス・オープン データ・ウェブサイトは、今回の感染症に関するデータに誰もが容易にアクセス できるようにしたもので、ダッシュボード・ツールを使い、世界各国のリアル タイム・データと関連する指標(例:保健システムの機能、基礎的な手洗い施設 へのアクセス)を組み合わせて分析することが可能です。 情報公開 に対する 世界銀行のコミットメントを反映し、ユーザー(開発者を含む)は API を通じて データにアクセスすることができます。また、国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR)と連携し、「人道的データの交換」 プラットフォームにもデータを 提供しています。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行がビジネスと政策対応に与える影響 を把握するため、新型コロナウイルス感染症ビジネス動向調査も開発しました。 2020 年度末の時点で、6 地域の 33 カ国でデータ収集を計画又は実施中であり、 収集したデータは世界銀行の新型コロナウイルス感染症対策の設計に活用され ます。 66 世界銀行 年次報告 2020 資本市場を通じた途上国の開発の支援 IBRD と IDA は、世界の資本市場を通じ、援助受入国のための開発資金を調達し ています。2020 年度は新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対して大規模な 支援を展開するため、多額の資金を調達し、リスク管理に取り組んだほか、援助 受入国に対して、各種助言サービスも引き続き提供しました。緊急プロジェクトの ために融資とグラントを迅速に実行し、各国が新型コロナウイルス感染症の世界的 流行による保健や経済、社会への影響に対応できるよう支援しました。また、今回 の混乱の中にあっても、各国の開発課題に対する支援業務に支障が出ないよう、 資金調達の継続に向けて万全の体制を構築しました。 世界銀行財務局は、IBRDとIDA の活動に必要な資金を調達するだけでなく、IBRD、 IDA、 MIGA、 及び 76のクライアント(中央銀行、公的年金基金、政府系投資ファンド、 国際金融機関等)の 1,840 億ドルを超える資産を管理しています。1 年間に取り 扱った資金の累計額は 138 カ国の 125 通貨で 7 兆 6,000 億ドル超に上っています。 資本市場と持続可能な資金調達による途上国支援 IBRD は 70 年以上にわたり、援助受入国への融資資金を債券(世銀債)の発行 によって調達(借入)しており、1947 年の初の世銀債発行以降、累積発行額は 1 兆ドル近くに上ります。2020 年度、IBRD はトリプル A の格付けと有力債券発行 体としての確固たる地位を活かして 750 億ドルを調達しました。この資金は、 世界銀行の使命遂行と、援助受入国のリスク管理及び財務体質の強化も支援してい ます。2020 年 4 月、IBRD は途上国の新型コロナウイルス感染症対策に対する世界 銀行の支援を強化するため、サステナブル・ディベロップメント・ボンドを通じて 3 日間で計 150 億ドルを調達しました。これには国際機関債としては過去最大の 80 億ドルの世銀債(償還期間 5 年)が含まれます。 IDA が支援する最貧国の多くは、新型コロナウイルス感染症がもたらした深刻な 課題に直面しています。2020 年度、IDA は債券(IDA 債)の発行を通じて 50 億 ドルを調達したほか、新たに英国ポンド、ユーロ、スウェーデン・クローナ等の 通貨建てでも IDA 債を発行しました。IDA も IBRD と同じくトリプル A の格付けを 受けており、新たな市場の創造を続けています。 サステナブル・ディベロップメント・ボンドと 技術協力による開発インパクトの向上 世界銀行は、市場を拡大し世界でも特に困難な開発課題に取り組むための資金を 確保するべく、革新的な金融ツールの開発を進めています。サステナブル・ディベ ロップメント・ボンドの発行により、極度の貧困の撲滅と繁栄の共有促進という世界 銀行の使命達成に向けた様々な優先課題に対応するための資金を調達しています。 サステナブル・ディベロップメント・ボンドはまた、途上国の国内資本市場の発展 にも寄与しています。2020 年 1 月、IBRD は初のルワンダ・フラン建て債を発行し、 同通貨への投資を通じ、成長を続けるルワンダ経済への投資機会を世界の投資家に 提供しました。 サブサハラ・アフリカ地域の通貨建てのIBRD 債は、これで 7 例目です。 サステナブル・ディベロップメント・ボンドは投資家にとって、金融リターンを 得る機会であると同時に、世界にプラスの影響を与え、持続可能な投資の優先項目 を明らかにし、世界規模の開発目標を支援する機会でもあります。世界銀行は 2020 年 5 月に初の「サステナブル・ディベロップメント・ボンド・インパクト レポート」 を発表しました。全ての IBRD 債を網羅した同レポートは、透明性と情報 開示の厳格な基準を遵守しつつ、市場参加者に対して世界銀行による融資の成果の 説明を強化するという、世界銀行の取組みにおいて重要な役割を担っています。 2020 年 4 月、IBRD は途上国の保健プログラムと各国の新型コロナウイルス 感染症対策に対する世界銀行の支援への関心を高めるため、グローバル市場で115 億 スウェーデン・クローナのベンチマーク債(償還期間 2 年)と、15 億英国ポンド のベンチマーク債(償還期間 3 年)を発行しました。 新型コロナウイルス感染症により、地球規模の課題である食料問題は更に悪化し ています。こうした状況に先駆け、2019 年 9 月には IBRD はインフラ強化、市場 資本市場を通じた途上国の開発の支援 67 アクセスと物流の拡大、廃棄物処理の改善等を通じた食品ロス・廃棄問題対策(総額 46 億ドル)を含めたプロジェクトへの融資資金を調達するため、計 5 億ドルの 債券を発行しました。IBRD は途上国における食品ロス問題解決の重要性を提起す べく、具体的なプロジェクト事例を世銀債の発行に併せて紹介しており、食品ロス 問題に関連した 2020 年度の世銀債の発行額は、17 億ドルに達しました。 IBRDはグリーンボンドの最大の発行体の一つであり、気候変動対策プロジェクトを 支援する一方で、投資家には、グリーンボンドへの投資を通じて気候変動問題対策を 支えてもらうという枠組みを提供しています。また、各国がグリーンボンド市場を 構築し、持続可能性の確保と気候変動対策においてリーダーシップを発揮できるよう 支援しています。2008 年に初のグリーンボンドを発行して以降、22 の通貨で 165 銘柄以上を発行し、累計発行額は140 億ドルに達しています。2019 年11月には償還 期間20 年、30 億デンマーク・クローネ(DKK) 建てのグリーンボンドを発行しました。 これは初のDKK 建てグリーンボンドであると同時に、国、国際機関、政府機関がデン マーク市場で発行したグリーンボンドとして、最長の償還期間であることが特徴です。 世界銀行は、コロンビア、インドネシア、ケニア、マレーシア等、新興国の地方 債や国債の発行体に対する技術支援を行っています。また、新興国の持続可能な 資金調達を促進するために「Guide on Developing a National Green Taxonomy (仮題:国家グリーン・タクソノミー開発ガイド) 」を発行したほか、発行体と投資 家を対象に環境、社会、ガバナンスの問題に関する調査を実施し、政府又は政府系 機関の発行体と投資家の対話を促進するワークショップを開催しました。また、 金融当局が環境に配慮した金融システム実現に必要な改革を実行できるように、 銀行セクターの気候変動ストレス・テストや、機関投資家のための環境、社会、 ガバナンスに関する開示・報告枠組みの構築等を支援しています。 世界銀行グループは、共同資本市場プログラム(J-CAP)等のイニシアティブを 通じて新興国・途上国に技術協力を提供し、各国が国内資本市場を発展させ、民間 資本を現地通貨で動員してインフラ、住居、農業、中小企業等の戦略的セクターへ の資金提供を強化できるよう支援しています。 世界の資本市場を利用した災害リスクの管理 世界銀行の災害リスク保険プラットフォームは、保険と資本市場取引を通じて、 加盟国が感染症の流行を含む自然災害リスクに対応できるよう支援する枠組みで す。2019 年 11 月には、地震と熱帯性サイクロンに対する保険として期間 3 年で、 最大 2 億 2,500 万ドルの保険金を支払うフィリピン向けキャット・ボンド(大災 害債券)を発行しました。これはアジアの国がスポンサーとなり、かつアジアの 証券取引所に上場された初のキャット・ボンドとなりました。また、シンガポール の証券取引所に上場された初の世銀債となりました。 世界銀行は、2005 年に始まったメキシコのキャット・ボンド・プログラムも 支援しています。2020 年 3 月にはメキシコの自然災害基金のために、世界銀行は 4 銘柄のキャット・ボンドを発行し、世界各地の 38 の投資家が購入しました。同 キャット・ボンドは地震やハリケーンの災害に対して、期間 4 年間で最大 4 億 8,500 万ドルの災害保険を提供します。これは、メキシコの大災害リスクを対象 としたキャット・ボンドとしては過去最大額かつ償還期間の最も長いものとなり、 世界銀行が手がけた加盟国の災害リスクに備えるためのキャット・ボンド発行累計 額は約 50 億ドルに達しました。 公共セクターの資産管理における人材の育成 世界銀行財務局の RAMP(外貨準備資産管理助言パートナーシップ)は、公的 部門の資産管理担当者に、実務に即したキャパシティ・ビルディングや資産管理 サービスを提供しています。RAMPは助言ミッションや専門性の高いワークショップ、 国際会議を通じて、中央銀行、年金基金、政府系投資ファンドの人材育成と業務 内容の高度化を支援しています。 RAMP の需要は高まり続けており、現在は低所得国の 9 機関と脆弱・紛争国の 7 機関を含む、75 機関が参加しています。2020 年度、RAMP は中央銀行の準備金 管理実務に関する第 2 回半期調査の結果を発表し、中央銀行のガバナンスとリスク 管理の改善状況を報告しました。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 treasury.worldbank.org 68 世界銀行 年次報告 2020 開発インパクトを高めるパートナーシップ 世界銀行は、様々な関係者と関係を築きパートナーシップを結ぶことで、開発の ための対話や行動をあらゆるレベルで前進させ、途上国が開発課題に対応できるよ う支援しています。パートナーとの共同作業は、人的資本、脆弱性、ジェンダー、 持続可能性等、極めて重要な課題に対する取組みを前進させるに当たり、大きな役割 を果たしました。新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、世界銀行は主要 な開発パートナーを招集し、情報共有を促進し、この課題に協調的に取り組むため の方法を見極めました。 多国間問題・国際的な問題:世界銀行は、出資国や国際パートナーと緊密に連携し ながら、開発成果の向上を可能にする環境の構築に取り組んできました。2020 年度 はIDA 第19 次増資(IDA19)交渉を通じ、今後の支援の原資として、前回のIDA18 と比べ実質ベースで 3%増となる820 億ドルを確保しました。また、フランスが議長 国を務めるG7 等の様々な多国間プラットフォームに参加し、IDA19 の優先課題、例 えば、サヘル諸国を中心に脆弱性・紛争・暴力(FCV)の影響下にある国々におけ る取組みの強化、債務脆弱性への対応、女性のエンパワーメント、気候変動対策等 に対し、ハイレベルの支持を取り付けました。2020年初頭には、新型コロナウイルス 感染症への対応を世界規模で支援するため、米国が議長国を務める G7、サウジ アラビアが議長国を務めるG20、他の国際開発金融機関(MDB) 、国連と緊密に連携 しました。その一環として 2020 年 4 月、最貧国が新型コロナウイルス感染症の世界 的流行の影響への対応に必要な流動性を確保できるように、国際通貨基金(IMF)と 共同で二国間債務の返済猶予を債権国に呼びかけました。これを受けて、G20 諸国 の財務大臣による承認を受けた債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)が 2020 年 5 月 1日付けで発効しました。世界銀行はまたDSSIに対する取組みに当たっても、9つの MDBとの対応の調整において主導的な役割を果たしました。途上国が新型コロナ ウイルス感染症対策に集中できるように、 各国に流入する純資本の拡大に努めました。 2020年度は欧州連合とも連携し、 効率的かつ包括的な金融システムの構築、デジタル ・ トランスフォーメーションの促進、 不平等の解消、開発資金の動員を推進しました。 市民社会:世界銀行グループは、パートナーシップとアウトリーチ、アドボカシー とキャンペーン、政策協議、業務上の連携、情報の共有を通じて、世界中の市民 社会組織(CSO)と交流しています。現在、CSO との協議は環境・社会フレーム ワーク(ESF)と市民エンゲージメント・フレームワーク(CEF)に基づいて世界 銀行のプロジェクト・サイクルに組み込まれ、CSO から定期的に知見の提供を受 ける機会となっています。2019 年 10 月の年次総会会期中に開催された市民社会 政策フォーラムには、75 カ国から 800 人を超える CSO 代表者が参加しました。 IDA を強力に支持する CSO は、2020 年度の IDA19 交渉の成功を支えました。 宗教団体:世界銀行グループは、世界銀行と共通の使命を掲げ、開発成果の向上に 貢献した実績を持つ宗教関係者と、アドボカシー、関係構築、エビデンス構築、 業務等の面で協力しています。2020 年度は世界銀行の新たな FCV 戦略を推進する 上で、宗教関係者との協議が重要な役割を果たしました(62 ページを参照) 。宗教 団体との広範な協議は、コンゴ民主共和国の国別パートナーシップ枠組み(CPF) の策定にも貢献しました。 国会議員:世界銀行は独立組織である国会議員ネットワークを通じて、加盟国の 1,500 人 を 超 え る 国 会 議 員 と 連 携 し て い ま す。2019 年、 各 国 の 国 会 議 員 は IDA19 増資への貢献を自国の政府に呼びかけ、国会においてジェンダー平等の 実現を訴えました。2019 年の年次総会に際して開催された世界国会議員ワーク ショップには、35 カ国から 60 人を超える国会議員が参加し、不平等の解消に対す る各国のオーナーシップとリーダーシップを強化する方法を検証しました。 開発インパクトを高めるパートナーシップ 69 慈善団体と民間セクター:財団や慈善団体、インパクト投資家、社会起業家、民間 セクターとのパートナーシップは、新しいアイデアや資金源を動員し、世界銀行の 開発使命に対する広範な支持を獲得するために重要な役割を果たします。2020 年 度は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団との長年にわたるパートナーシップを通じて、 人的資本の強化、デジタル金融サービスの拡大、プライマリ・ヘルスケア・システム のモニタリング改善、国別データ分析の強化、サービス提供モデルの向上に尽力 しました。新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まった際、診断や治療法、 ワクチンの調達・展開の面でも緊密に連携したほか、世界的流行の経済的影響に各国 が対応できるように、例えばデジタル・プラットフォームを用いた社会的保護給付 の提供等に共同で取り組みました。2019 年のパートナーシップ・フォーラムには、 民間セクターや慈善団体から 17 人の最高経営責任者(CEO)と上級幹部、30 人 を超える専門家が集まり、女性が経営する企業の成長支援策を議論しました。 地元コミュニティ:世界銀行グループの 「つながりキャンペーン」 は、社会貢献活動、 ボランティア活動、物資の寄付、地元高校生向けのインターンシップ・プログラム 等を通じて、世界銀行グループの価値観に沿った行動をコミュニティで実践する 機会を職員に提供しています。こうした活動は、職員の意欲や思いやりの力を、 ワシントンを含む米国の大都市圏や世界銀行が活動している世界中のコミュニティ の改善へとつなげるために役立っています。2020 年度、世界銀行グループは地元 コミュニティの非政府組織に 900 万ドルを超える寄付を行い、内 400 万ドル以上 は職員からの寄付でした。新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対しては、 世界銀行内部で災害募金キャンペーンを実施し、DC セントラル・キッチン等の コミュニティ組織や、UNICEF、国際救済委員会(IRC)等の国際パートナー組織 への寄付金として100 万ドルを調達しました。また、2020 年度は人種間の平等促進 に取り組むワシントンの組織にも 19 万ドル超を提供しました。2020 年 6 月には 「つながりキャンペーン」による人種差別撲滅を支援するために、追加で 10 万ドル のグラントを提供することを表明しました。同キャンペーンは、職場で寄付の対象 となる慈善活動を拡大することにより、職員や組織が人種差別の撤廃や黒人、先住 民族、有色人種のための経済機会拡大を積極的に支援できるようにするものです。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/en/about/partners 70 世界銀行 年次報告 2020 開発成果向上のための業務改善 世界銀行は援助受入国やパートナーの期待により一層応えるため、プロジェクト や政策、プロセスの継続的改善、組織の有効性と効率性の向上、開発効果の最大化 に努めています。 世界銀行の環境・社会フレームワーク 2018 年 10 月 1 日、世界銀行の新たな環境・社会フレームワーク(ESF)が発効 しました。ESFは同日以降にコンセプト・ノートを議論する会議が開催される、新規 の投資プロジェクト融資(IPF)業務の全てに適用されています。ESF は、環境・ 社会リスクを広範かつ系統的に網羅しており、透明性、差別禁止、国民参加、脆弱層 や不利な立場にある人々の保護、関係者の参加、説明責任(申立て対応メカニズム を含む)等の分野で、重要な改善を促進します。 プロジェクトを ESF に沿ったものとすることで、世界銀行の機能と職員のスキル の向上、業務体制の充実、プロセスの改善、借入国のリスク管理能力強化が促進さ れます。差別禁止と障害、性的搾取、虐待、セクシュアル・ハラスメントの防止、 警備員採用、道路の安全性、第三者モニタリング等、主要なテーマに関するガイ ダンス資料やテンプレート等の資料も作成されました。また、ESF の導入を機に 新しい要件や明確化された要件に関する借入国との対話が促進され、刷新された プロジェクト・プロセスやプロジェクト文書は、透明性の向上、説明責任の強化、 関係者の参加促進につながりました。 基準の多くについては、契約事業者も適用を義務付けられることから、世界銀行 は ESF を調達プロセスにも組み込みました。プロジェクト契約書には現在、児童 労働・強制労働の防止、コミュニティと職場の安全衛生、サプライチェーンと調査 の管理、性的搾取、性的虐待、セクシュアル・ハラスメントへの対応に関する条件 が盛り込まれています。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対する緊急対応においては、途上国と 世界銀行のチームが、世界銀行の厳格な環境・社会政策及びリスク管理基準に従っ て、緊急プロジェクトを立ち上げました。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/esf 調達フレームワーク 世界銀行の調達フレームワークは、投資プロジェクトの特徴に合わせた調達を 促進しています。同フレームワークは、プロジェクトを通じて新たなニーズに迅速に 」を見極めることができるよう 対応し、援助受入国が「価格に見合った価値(VfM) 支援し、プロジェクト期間全体にわたって質の高い成果と持続可能性を確保できる ようにしています。世界銀行は、市場調査、ニーズ分析、プロジェクト固有のリスク (環境・社会問題を含む)に重点を置くことで、途上国が自国のニーズや状況に 見合った調達戦略・計画を策定し、プロジェクトを円滑に実施できるよう支援して います。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対する緊急対応では、同フレームワーク を用いることで、受託者としての監督機能を果たしながら、必要な物資を迅速に 調達するための柔軟な措置を導入しました。新型コロナウイルス感染症が、物資の 値上がり、納期の長期化、サプライチェーンの混乱、透明性と誠実性に対するリスク の上昇を引き起こした中、世界銀行は援助受入国からの要請を受け、発注までの 手続きの簡素化により必須医療品・医療機器の迅速な調達を可能にする措置を速やか に導入しました。このアプローチは、途上国が候補となる供給業者を特定し、価格 開発成果向上のための業務改善 71 や条件を交渉し、外注により物流を管理する助けとなっており、製造業者、納入業者、 政府の全てから歓迎されています。このアプローチを用いた場合も、契約の署名・ 実施責任は途上国にあります。2020 年 7 月現在、27 件の契約(計 1 億 500 万ドル 相当)が同アプローチの下で締結された、又は締結される予定です。 世界銀行は、援助受入国が効果的な調達プロセスを導入できるよう支援する 「ハンズオン型の拡大実施支援(HEIS) 」の対象を拡大し、新型コロナウイルス 感染症の影響に対応するためのプロジェクトも対象に含めました。2020 年度は 70 件のプロジェクトが HEIS の支援を受けました。 「調達に関する代替的なアレンジ(APA) 」は、他の国際開発金融機関(MDB) や国連機関、世界銀行の融資を受けたプロジェクトにおいて世界銀行が承認した 行政機関等、他組織による調達を認めるものです。南スーダンやイエメン等、脆弱 性・紛争・暴力の影響下にある状況では、こうした国連機関との取決めに基づき 支援を展開しました。2020 年度は 19 件のプロジェクトにおいて、国連機関や他の MDB との APA が活用されました。 環境・社会フレームワーク(ESF)の導入後、世界銀行は、融資プロジェクトに おいて雇用する全ての契約事業者が、環境・社会リスクを適切に管理し、人と環境 を保護できるように、全ての標準調達文書(SPD)を改訂しました。また、脆弱 コミュニティを保護し、世界銀行の融資を受けたプロジェクトにおける性的搾取や 性的虐待、セクシュアル・ハラスメントに対応するための広範かつ協調的な措置の 一環として、関連する SPD とプロセスを強化し、リスクの予防、緩和、管理を支援 しました。2020年度は契約事業者のパフォーマンスと説明責任を一段と強化するため の措置を最終決定したほか、新型コロナウイルス感染症に関するファストトラック ・ プロジェクトを支援するため、緊急時用の簡略版 SPD を迅速に策定しました。 調達フレームワークは、コンセプト・ノートの日付が 2016 年 7 月 1 日以降の プロジェクトに適用されるため、現在実施されている世界銀行プロジェクトの全て に適用されるわけではありません。世界銀行は、同フレームワークの適用状況を プロジェクト、国、地域、グローバルの各レベルにおいて慎重なモニタリング・評価 を進めています。2020 年度は世界銀行の投資プロジェクト全体の 44%(ドル額 ベースでは 36%)が、同フレームワークの「IPF(投資プロジェクト融資)借入者 向け調達規則」を遵守しました。調達計画・モニタリングのオンライン・ツールに 苦情申立てモジュールを組み込むことにより、 調達関連の申立てを効果的に追跡できる ようになりました。これにより、初年度は申立ての登録件数が 52%増加しました。 しかし解決された申立ての内、申立て側の主張が認められた割合は 18%にとどま り、世界銀行のプロセスにおいて公平性と透明性が確保されていることが示されま した。 2020 年度、世界銀行は2,072 件(約74 億ドル)の契約を審査し、約1万8,800 人 のプロジェクト・スタッフ及び政府職員にキャパシティ・ビルディングと知識共有 のために 890 日分の研修を提供しました。 世界銀行の融資を受けたプロジェクトが提供する調達機会に多くの人がアクセス できるよう、世界銀行はプロジェクトの調達通知書や契約決定通知を配信する自由 登録型のアラート配信サービスを開始しました。 72 世界銀行 年次報告 2020 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/procurement 効率と監督を改善するための信託基金改革 信託基金は、資金の提供と開発知識への貢献を通じて IBRD と IDA を補完してい ます。また、気候変動、脆弱性、強制移動、感染症の世界的流行等の主要な開発課題 に関する地球公共財アジェンダを支持し、世界銀行が新たな資金源を呼び込みし、 革新的な金融ソリューションを促進し、世界規模の動員力を発揮できるよう支援 しています。 2020 年度末の時点で、世界銀行が保有する信託基金は122 億ドル、金融仲介基金 (FIF)は 242 億ドルでした。世界銀行の信託基金は、世界銀行の助言サービス・ 分析の約 3 分の 2 に資金を提供しており、2016~20 年度は信託基金の総実行額の 約74% (141億ドル) が援助受入国に提供されました。内116 億ドル超はIDA 借入国 及び IBRD・IDA からの混合融資適格国(ブレンド国)が対象でした。FIF に対する 拠出額は年間平均 79 億ドルでした。受託者に対する現金移転はほぼ一定の水準に あり、過去 5 年間の平均は年間 62 億ドルです。 世界銀行は現在、信託基金改革を進めており、援 助 受 入 国 の 抱 え る 課 題 に ソリューションを示しつつ、ドナー国に最大限の価値を提供するため、世界銀行の 戦略とポートフォリオの整合性の向上、効率性の改善、監督の強化に重点を置いて います。そのための重要な措置として、ポートフォリオの細分化を緩和する「アン ブレラ 2.0」プログラムが導入されました。2020 年度、世界銀行のグローバル・ プラクティスと地域総局は、526 の信託基金全体を見直し、ポートフォリオ統合 に取り組みました。 「アンブレラ 2.0」プログラムに対する 70 件の提案は、将来の 資金調達活動の大部分を支えるものとなる予定です。また、協調的取組みに対する 世界規模の要請に応えるための選択肢を導入することで、FIF 管理フレームワーク を強化し、将来の選択性を強化しました。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/dfi 申立て対応サービス(GRS) 申立て対応サービス(GRS)は、世界銀行が支援するプロジェクトか ら悪影響を受けた、 又は受ける可能性が高いと考える個人やコミュニティ が、世界銀行に直接申立てを行うメカニズムです。GRS は、独立評価 グループがセーフガード政策を評価した際の提言に基づき、2015 年に設置 されました。GRS はプロジェクト・レベルの申立て対応メカニズムを 補完するもので、対話の促進や適切な紛争解決ツールを活用することに より、組織レベルで受けた申立てに迅速かつ積極的に対応します。 GRS の認知度が高まるにつれて、申立ての件数も増加し、2015 年度 の 4 件から 2020 年度は 225 件になりました。申立ての内容は住民の 生計に対する悪影響から、環境破壊、労働安全衛生上の懸念まで、多岐に わたります。この 5 年間の対応実績と内外からのフィードバックを基に、 GRSのプロセスと機能の利点と改善すべき点が明らかになったことを受け、 現在、政策の策定、システムとプロセスの改善、啓発活動の拡大等を通 じて、GRS の強化が進められています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。  www.worldbank.org/grs 開発成果向上のための業務改善 73 74 THE WORLD BANK ANNUAL REPORT 2020 世界銀行グループの価値観と職員 世界銀行グループの活動の軸となっているのは、職員、援助受入国、パートナー、 そして地球に対する敬意です。世界銀行グループが、プロジェクトや内部業務にお いて持続可能性にどのように配慮しているかは、グローバル・リポーティング・ イニシアティブ(GRI)指数で示されています。同指数には世界銀行年次報告の サイトからアクセスが可能です。 世界銀行グループの価値観 世界銀行グループの基本的価値観は「敬意」 「成果」 「チームワーク」 「誠実」 「イノ ベーション」です。世界銀行グループはこれらの価値観を組織の文化と業務に一層 深く根付かせるため、倫理行動規範を改訂しました。倫理行動規範には、職員が 倫理面でのジレンマに直面した際に正しい行動をとるための指針となる原則がまと められており、不正行為を防ぐための規制や政策はこれまで同様、職員規定に定め られています。 多様性と包摂性の促進:2020 年度、世界銀行はジェンダーの多様性を組織全体 で強化するため、複数の新しい指標を導入しました。無意識の偏見の解消や性的 指向・性自認に関する意識啓発のためにバーチャル・リアリティを用いた学習プロ グラムを導入したところ、高い成果が見られたことから、新たに障害者の包摂に焦点 を合わせたプログラムを開発しました。また、職場におけるジェンダー格差を解消 する取組みが評価され、 「ジェンダー平等の経済的配当(EDGE) 」プログラムの 認証を受けました。 セクシュアル・ハラスメントの防止と対応に関する行動計画:世界銀行グループ は、セクシュアル・ハラスメントや不正行為に組織として取り組んでいます。 2020 年度は、2019~21 年行動計画に定められたセクシュアル・ハラスメント 防止・対応策の大部分を実行したほか、ハラスメント対策コーディネーターを採用 しました。ハラスメント対策コーディネーターは、不正行為のレベルには達してい ないハラスメント及びセクシュアル・ハラスメントの申立てに対処するほか、不適切 な行為を指摘された職員や管理職に警告を行うことができます。また、倫理・ 業務規範(EBC)局も大規模な研修を通じて、セクシュアル・ハラスメントを含む ハラスメント全般の防止に貢献しました。 現地事務所の開設と困難な環境下での勤務:世界銀行は援助受入国における活動 を積極的に拡大しており、2020 年代半ばには、米国以外の拠点で任務に当たる 職員の割合が 55%となる予定です。このようにして、援助受入国、特に FCV の 影響下にある国々の近辺で働く職員を増やし、現場のチームの権限を強化していく 計画です。2020 年度は FCV の影響下にある低所得国に新たに150 人の職員を配置 し、援助受入国でのプレゼンスを拡大するという IDA18 の政策コミットメントを 達成しました。世界銀行の新しい FCV 戦略や、FCV 諸国における活動を更に拡大 するという IDA19 のコミットメントに従って、FCV 諸国で勤務する職員 100 人の 採用活動にも着手しました。また、より多くの職員が地域、国、プロジェクトの枠 を超えて働けるように異動制度を見直しており、その一環として異動手当に関する 新たな枠組みを策定中です。 世界銀行グループの職員 世界が直面している喫緊の開発課題を解決するため、2020 年度は約1万 2,300 人 の正規職員に適切な技能を習得する機会を提供し、適材適所の配置を実現するため の 3 カ年戦略を策定しました。同戦略の下、援助受入国に最大限の価値を提供し、 世界銀行が開発に携わる人にとって最高の職場となるよう取り組んでいきます。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、本部や現地事務所の職員が在宅 勤務への切り替えを急きょ余儀なくされました。そこで、職員のニーズを満たすた 世界銀行グループの価値観と職員 75 め、様々な支援を提供してきました(77 ページの囲み「新型コロナウイルス感染 症の世界的流行下における職員支援」を参照) 。こうした支援は世界銀行が業務を 継続し、援助受入国への支援を滞らせないための助けとなっています。職員への アンケートの結果、職員の 90%が在宅勤務に問題なく、又はほぼ問題なく適応 できたと回答し、88%が在宅勤務期間にも高い、又は極めて高い生産性を発揮 できたと回答しました。 この 1 年間に、世界では人種間の不平等や構造的な人種差別に対する意識が高ま りました。これを受け、世界銀行内でも組織の多様性、尊厳、敬意、包摂性への意識 を高める必要性について活発な議論が展開され、2020 年 6 月にはデイビッド・ マルパス総裁が世界銀行グループ人種差別対策タスクフォースの設置を発表しまし た。同タスクフォースは、人種差別に立ち向かうためにどういった分野で行動が求 められているかを明らかにし、具体的な対応策を提言すると共に、職員が問題や懸念 を安心して表明できる場を提供していく予定です。世界銀行グループのマネジメント ・ チームは全職員と緊密に連携しながら、あらゆる措置を講じて、組織、プログラム、 コミュニティにおける人種差別を撲滅していくと表明しています。 職員の健康と安全の保証:世界銀行グループは、職員の健康と安全を促進し保護 するため、健康と福祉、労働安全衛生、精神衛生に重点を置いたプログラムやサー ビスを提供しています。2020 年度後半からは、新型コロナウイルス感染症への 対応が優先分野となりました(77 ページの囲み 「新型コロナウイルス感染症の世界 的流行下における職員支援」を参照) 。 継続的な学習・技能開発の支援: 世界銀行グループのオープン・ラーニング・ キャンパス(OLC)は、職員が業務のかたわら、オンライン講座やディスカッション、 実地研修等、様々な方法で学習を継続する機会を提供しています。2020 年度は 30 の部局がこの取組みに参加しました。管理職用ダッシュボードを用意し、職員 の学習状況を簡単に確認できるようにしたほか、メンタリングや実務を通じた学習 の評価を強化しました。また、職員が自らのニーズに合わせて OLC を活用できる ように、多彩な学習プログラムを用意しました。 知識管理行動計画の実施:業務の効率性と有効性を高めるため、職員の専門性を より正確に把握し、外部コンサルタントの採用を促進する仕組みを強化しました。 また、コンテンツの管理方法を見直し、知識管理に関する広範な課題に対応するた めの包括的な分析を実施しました。さらに、実務家の活発なコミュニティを築くため、 表 14:世界銀行(IBRD/IDA)職員のデータ、2018~20 年度 指標 2018 年度 2019 年度 2020 年度 関連指標 正規職員総数 12,216 12,283 12,394 GRI 401; SDG 8 米国以外の配属(%) 42.6 43.2 53 (FTE) 短期コンサルタント/臨時職員 4,810 5,097 5,521 職員満足度(%) — 79 77 多様性指数 0.86 0.88 0.89 ジェンダーバランス:50/50 * からの偏差(目標:2%未満) 事務職員・サポートスタッフ(%) 17.3 17.5 17.4 エントリー及び 2.0 2.8 2.7 ジュニア・レベルの専門職(%) シニア・レベルの専門職(%) 7.3 6.8 6.5 管理職(%) 6.6 3.9 2.8 本部での職員 1 人当たり研修日数 5.1 5.1 3.6 GRI 404; SDG 8 現地事務所での職員1人当たり研修日数 4.4 4.7 3.2 —=入手不能;FTE =のべ人数(職員) 注: ;GRI =グローバル・リポーティング・イニシアティブ。2018 年度は職員満足度調査は実施されず;* 「ジェンダーバランス」の定義は男性 50%、女性 50%(許容 誤差 +/ - 2%)。 76 世界銀行 年次報告 2020 新型コロナウイルス感染症の世界的流行下における 職員支援 世界銀行は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、脆弱な地域で働く 職員とその扶養家族を中心に、世界各地の職員を守るため、健康・安全面の支援、 経済的援助、柔軟な在宅勤務制度等の措置を実施しました。以下は、その具体例 です。 ・職員が新型コロナウイルス感染症の世界的流行に関する最新情報やガイダン ス(現地事務所向けの情報を含む)にアクセスできるウェブサイトを開設。 ・健康や安全に関する助言へのアクセスを提供(感染者及び感染者と接触した 可能性のある人の追跡・カウンセリング、オンライン上でのサポート、外部 業者によるサービス等)。 ・症状のある本部職員については外部業者による検査を実施。 ・治療や受診が必要な職員・コンサルタントへの資金援助(費用の立替、職員 向け緊急融資プログラム等)。 ・新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響を受けている職員については、 現地事務所と適宜連携して事例把握、リスク評価、専門家の指導・助言を実施。 ・職員のストレスや不安を緩和するため、オンライン・セミナー、カウンセリング・ セッション、サポート・グループ等、様々な心理社会的支援を提供。 ・現地事務所の職員に 80 万枚以上のマスクやその他の個人防護具を提供し、 処方薬の入手が難しい職員を支援。 ・家庭内暴力のリスクをモニタリングし、危険な状況にある職員やその家族に 対応するための資源を強化。 ・人間工学に基づいたホーム・オフィスの構築を遠隔支援。 関連機関と緊密に連携し、 ・ 国連の救急搬送イニシアティブへのアクセスを確保。 世界銀行は、現地事務所のためにプロセスに関する事前準備計画とリスク管理 のためのガイダンス(現地事務所の安全な再開のためのガイダンスを含む)を 策定しました。スタッフ・アソシエーションも支援が必要な加入者を資金面で 援助し、経済的ショックに起因する経済的負担を軽減できるようにしました。OLC は、援助受入国が保健、社会的保護、雇用、経済成長に関する研修をインター ネット上でも受講できるようにしたほか、在宅勤務に切り替えた職員のために オンラインで完結できる研修コースを用意しました。 世界銀行は受託者責任に基づき、商業・リスク管理上の健全な判断を通じて 調達と取引業者の管理に当たっており、新型コロナウイルス感染症の世界的 流行を受け、サプライチェーンの継続と取引業者の公平な取扱いを確実に行う ための特別措置を実施しました。 また、職員の在宅勤務を推進する 一方で、 契約職員については支払い を継続することで収入を支援し、 状況が落ち着いた段階で元の業務 に復帰できるようにしました。 現 在 は、 各 国 の 状 況 や ガ イ ド ラインを考慮し、適切な保健措置 やセーフガードを導入した上で、 本部と現地事務所の職員がそれぞ れの状況に合わせて、安全かつ 段階的に職場に復帰するための 計画を策定中です。 世界銀行グループの価値観と職員 77 研修や助言、目的に合わせた専門的援助を通じて、関係者間の協働を促進するネット ワークを構築しました。 職員の懸念と対立への対応:職員から不正な行為について申立てがあった場合は 倫理行動局(EBC)が対応し、調査を実施します。EBC は、世界銀行内部におけ るあらゆる種類のハラスメントの防止と対応を担当するハラスメント対策コーディ ネーターのポストを新たに設けました。2020 年度は 1,291 件の問い合わせに回答 し、回答までに要した時間は平均 8 営業時間未満でした。また、職員が対立解消の ための助言や指導、情報を入手できるように、内部公正制度を通じて、オンブズ マン・サービス、 「敬意ある職場づくり」アドバイザー、調停、ピア・レビュー・ サービス、パフォーマンス管理審査等を提供しています。これらのサービスは、互 いへの敬意、組織の価値観、倫理に根差した職場文化の醸成を促し、2020 年度は 約 1,750 人の職員が活用しました。 職員の意見の尊重:スタッフ・アソシエーションは、職員とコンサルタントの権利 と利益を代表する組織であり、加入者の意見をシニア・マネジメントや理事会に 伝えています。2020 年度は組織改革、報酬制度改正に伴う問題、健康保険の補償 内容、労働衛生上の問題に関する懸念を上層部に伝えたほか、本部の臨時職員や 短期コンサルタントの保険補償範囲に関するウェブサイトを作り、障害を持つ職員 や環境の持続可能性に関するワーキング・グループを立ち上げました。また、現地 事務所間のネットワークを強化するため、2019 年10 月に 80 カ国超の代表者が参加 するフォーラムを開催しました。 世界銀行の施設 業務における環境へのコミットメントの強化:世界銀行グループは、現地事務所 を置いている地域の生態系、コミュニティ、経済にプラスとなるよう、グループの 内部業務が環境、社会、経済に与える影響を管理しています。その一環として、関連 施設、主要な会合、出張に起因して排出される温室効果ガスの測定、削減、相殺、 報告に取り組んでいます。2020 年度は「クール・フード・プレッジ」に参加し、 本部のカフェテリア、コーヒー・スタンド、ケータリング・サービスが排出する食料 関連の温室効果ガスを2030 年までに25%削減することを表明しました。2019 年度 に本部全体に導入された廃棄物システムにより、各ビルにおける廃棄物転換率が大幅 に上昇しました。世界銀行グループは関連施設から排出される温室効果ガスを 2026 年までに 28%削減することを目指しています。また、施設の運営効率を最大 限に高めるため、本部の建物(水、廃棄物、エネルギー関連施設を含む)や現地 事務所の詳細な評価を外部の組織に依頼しました。まずはインドのチェンナイと ケニアのナイロビにある 2 つの大規模な現地事務所が評価を受ける予定です。削減 しきれなかった二酸化炭素排出量は、 排出削減ポートフォリオを通じて相殺されます。 世界銀行はまた、本部が使用する電力の 100%相当についてグリーン電力証書を 購入しています。詳細はカーボン・ディスクロージャー・プロジェクトの開示報告書 をご覧ください。 世界銀行のサプライチェーン 持続可能なサプライチェーンの構築: 世界銀行グループは「持続可能な調達 フレームワーク」に従い、 組織全体で持続可能性に配慮した調達を実践しています。 同フレームワークは、調達活動が環境、社会、経済に与える影響に対応すると共に、 組織の支出をジェンダー、気候変動、FCV への対応といった業務上の優先課題と 一致させることを目指しています。また、2020 年度も女性が経営する企業からの 調達拡大に取り組みました。世界銀行は 2023 年までに女性が経営する企業からの 調達を倍増させ、総調達額に占める割合を 7%まで引き上げることを目指していま す。2020 年度の実績は 4%でした。この他、「マイノリティ・ビジネス・エンター プライズ(MBE) 」プログラムを立ち上げ、少数派の人々が経営する現地企業への 支援を拡大し、現地コミュニティとの関係を強化しています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/corporateresponsibility 78 世界銀行 年次報告 2020 世界銀行の運営体制 世界銀行の一切の権限 は、国際復興開発銀行協定により、世界銀行の最高意思 決定機関である総務会に付与されています。各加盟国は、総務 1 名と総務代理 1 名 を任命します。 総務会は、IBRD 及び IDA の理事会を構成する 25 名の理事に大半の権限を委任 しています。加盟 189 カ国を代表する理事会は、世界銀行の業務全般に責任を 負い、職務を遂行しています。総裁は理事会が選任し、理事会議長を兼任します。 現在の理事の任期は 2018 年 11 月から 2020 年 10 月までです。 理事会は、世界銀行の業務全般、及び戦略的方向性を導く上で重要な役割を果た し、世界銀行の役割についての加盟国の見解を代弁します。また、総裁が提出する IBRD 及び IDA の貸出・融資・グラント・保証、政策、運営予算、その他の業務上 や財務上の問題についてのプロポーザルを審議し、決定を下します。さらに、世界 銀行グループと援助受入国との関係や開発プログラムの支柱である国別パートナー シップ枠組みについても、世界銀行マネジメントや理事会が協議します。また、 財務諸表、運営予算、及び年度ごとの成果を示した世界銀行年次報告を総務会に 提出する責任も負っています。筆頭理事は、任期が最長の理事が務め、総裁の職務、 理事会倫理委員会の委員選任、理事会の対外業務の調整等、理事会内で役割を担っ ています。 理事会には5つの常任委員会と1つの特別委員会があります。これらの委員会は、 政策や実務についての綿密な検討を通じ、理事会の監督責任の履行を補佐してお り、各理事は 1 つ又は複数の委員会に属しています。全理事が所属する理事会運営 委員会は隔月で開催され、理事会の戦略的作業計画に関する協議を行います。理事 会は、委員会を通じて、マネジメント、並びに理事会直属の独立した組織である 査閲パネル及び独立評価グループに協力を仰ぎながら、世界銀行グループの活動の 有効性を定期的に検証しています。 図 7:理事会の委員会 世界銀行グループ理事会運営委員会 監査委員会 予算委員会 開発効果委員会 財務、会計、リスク管理、 予算承認において 開発効果の評価、 内部統制、組織倫理を監督 理事会を補佐 戦略的方向性への指針、 プロジェクトの質・成果の監視 ガバナンス・運営委員会 人事委員会 倫理委員会 ガバナンス、理事会の有効性、 人事関係の戦略・政策と 理事の行動規範の解釈や 理事会の任務に適用する 実務を統括し、世界銀行の 適用の検討を目的として 運営政策の主導 業務上のニーズを 2003 年に臨時に設置 満たしたものとなるよう 確認 世界銀行の運営体制 79 80 THE WORLD BANK ANNUAL REPORT 2020 プロジェクトの監督と説明責任の確保 世界銀行は、組織内のメカニズムと組織から独立したメカニズムの両方を通じ て、業務のモニタリング、組織・制度面のリスク管理、懸念や申立てへの対応、 業務の透明性確保に取り組み、説明責任を果たしています。これらのメカニズムは いずれも、開発効果を最大化し、最高水準の説明責任を果たすためのガイダンスと 提言を提供しています。 独立評価グループ 独立評価グループ(IEG)の目標は、支援の成果と実績を評価し、改善点を提案 することにより、世界銀行グループの開発効果を向上させることです。IEG が提供 する情報は、世界銀行グループの方向性、政策と手続き、プログラムにも活用され ています。2020 年度は動員力、都市の強靱性、社会的盟約に関する評価が完了し ました。その結果、テーマ、セクター、業務プロセスの面でプロジェクトを強化す るための教訓が明らかになりました。 2020 年度は、IEG の重要性と価値を一段と高めるための改革が実施され、脆弱 性・紛争・暴力、ジェンダー、開発資金の動員等、世界銀行グループの戦略的優先 課題に合わせて IEG の活動が見直されました。その結果、評価の順序と活動計画の 柔軟性が新たな重点分野となり、IEG には報告書を適時に提供し、重要な意思決定 を支援することが求められるようになりました。例えばフィリピンのプログラムの 評価は、新たな国別パートナーシップ枠組み(CPF)の設計やジェンダー戦略の 中間審査と同じタイミングで実施されました。 IEG の 主 要 報 告 書 で あ る「Results and Performance of the World Bank Group(仮題:世界銀行グループの成果と業績) 」も刷新され、主要目標の達成状況 をグループ機関別に俯瞰したデータや、国別プログラムやプロジェクトの成果を 裏付ける詳細な情報が掲載されるようになりました。 詳細及び IEG の年次報告書は、以下のリンクをご参照ください。 ieg.worldbankgroup.org 査閲パネル 世界銀行理事会によって設立された査閲パネルは、 世界銀行が支援するプロジェクト から影響を被ったと考える人が懸念を表明し、 支援を要請できる独立した機関です。 2020年度、査閲パネルは13件の申立てを受理しました。 理事会は、査閲パネルが提出 したウガンダの2件の生物多様性オフセット関連プロジェクトに関する調査報告書を 審査しました。 査閲パネルはこの他、 インドのプロジェクトに関する調査報告書を 理事会に提出し、 ブラジルのプロジェクトに関する調査報告書も間もなく完成予定です。 理事会は 2020 年度に完了した協議に基づき、独立した説明責任メカニズムを 一段と拡大することを決定しました。新たなメカニズムは、世界銀行の政策や手続き の遵守状況を審査する査閲パネルと、新設される紛争解決ユニットで構成される 予定です。また、理事会は(i) 査閲パネルへの調査請求の提出期限をプロジェクト の完了から 15 カ月間に延長すること、 (ii)理事会が承認した場合には、パネルの 指摘事項に基づいて策定された管理行動計画 (MAP)の実施状況を、独立した立場 からリスクに基づいて適切に検証することを承認しました。理事会は過去の協議で パネルの助言機能を正式に認め、MAP を策定するための意見聴取の前に、パネル の調査報告書に目を通す機会を調査請求者に提供することに同意しました。 詳細及び査閲パネルの年次報告書は、以下のリンクをご参照ください。 www.inspectionpanel.org プロジェクトの監督と説明責任の確保 81 組織公正総局 組織公正総局(INT)は、汚職と戦い予防するという世界銀行グループのコミット メントに従い、世界銀行グループの融資を受けたプロジェクトや、世界銀行グループ の職員・調達先が関係するプロジェクトにおける不正・汚職の申立てを調査してい ます。INT は世界銀行内に設置された独立した部局であり、世界銀行グループが 開発資源に対する受託者責任を果たす上で重要な役割を担っています。INT は、外部 の企業や個人に制裁を科すほか、不正や汚職等、処罰の対象となる行為に従事した ことが判明した職員に懲戒処分を行います。制裁の判断が下ると、規範遵守局 (ICO)が制裁の対象となった企業や個人に働きかけ、制裁解除の条件を満たすた めの活動に取り組むよう手配します。INT はプロジェクト担当チームとも緊密に 連携し、将来のプロジェクトで発生する可能性のある不正リスクを特定し、効果的に 緩和するための教訓を過去のプロジェクトから導き出しています。今年度は 53 カ国 の 14 セクターで不正リスクの特定と緩和に貢献しました。 2020 年度、世界銀行グループは取引資格停止局長による明確な判断、制裁委員 会の決定、和解合意を通じて 49 の企業と個人に制裁を科しました。また、他の 国際開発金融機関(MDB)による 72 件の取引資格停止について同一処分を科す 共同措置を発動しました。世界銀行グループによる取引資格停止の内、他の MDB による共同措置の発動対象になったものは38 件でした。合意の条件を満たした18 社 については、制裁を解除しました。 世界銀行グループは、各国の新型コロナウイルス感染症対策を支援するため、 短期間に多くのプロジェクトを立ち上げました。INT は関連するセクターの不正 リスクを特定し、当該リスクの軽減措置をプロジェクトの設計に盛り込むための ガイダンスを提供することにより、この取組みを支えました。また、更なる不正 リスク対策として、新型コロナウイルス感染症関連プロジェクト全体の不正リスク をモニタリングするデジタル・ツールや、申立ての速やかな通告のためのシステム も開発しました。 詳細及び世界銀行グループの制裁制度の年次報告書は、 以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/integrity 世界銀行グループの融資を受けたプロジェクトにおける不正又は汚職の疑いは、 以下のリンクから報告できます。 www.worldbank.org/fraudandcorruption グループ内部監査局 グループ内部監査局(GIA)は、世界銀行グループが援助受入国を効果的に支援 できるように、リスク管理やガバナンスを担当するマネジメントや、監督・説明 責任を担当する部局と連携して、有益な保証、助言、情報を提供しています。また、 リスク管理のプロセス及び全体的なガバナンスが適切に設計され、効果的に機能して いることについて一定の理解が得られるレベルでの保証を、シニア・マネジメントと 理事会に提供しています。この他、戦略業務、財務、コーポレート機能(ITシステム や IT プロセスを含む)等、組織の重要な領域全てを対象とした監査や、保証と 助言のレビューも実施しています。GIA の業務は、内部監査人協会の「専門職的 実施の国際フレームワーク」に従って遂行されています。 GIA は組織と関係者にとっての優先事項及び重大なリスクに重点を置き、保証と 助言の両方を対象とするレビューを年間約 25 件実施しています。2020 年度の主 なテーマは、環境・社会リスクの管理、プロジェクトの調達リスクと法的リスク、 取引相手の誠実性の精査、知識管理、職員の安全・安心、グローバル・ペイメント・ プログラム、融資金利設定、モバイル・テクノロジー、サイバー・セキュリティ でした。 82 世界銀行 年次報告 2020 新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対する世界銀行グループの対応を踏ま え、GIA は遠隔監査を実施すると共に、支援の範囲や優先事項、時期を適宜調整し ています。GIA はマネジメントに早い段階でフィードバックを提供し、事業の継続 性について助言するため、 「新型コロナウイルス感染症対応のためのファスト トラック・ファシリティ」 を構成するプロジェクトも精査しています。GIA はまた、 世界銀行グループが援助受入国にプログラムを迅速に提供できるように、マネジ メントやリスク対応部局と協力して、有益な保証、助言、情報を提供しています。 詳細及び GIA の年次・四半期報告書は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/internalaudit 世界銀行の情報公開政策 世界銀行の情報公開政策は、世界銀行を透明性において世界を牽引する組織 として決定付けただけでなく、世界銀行における情報公開のあり方を大きく変 えました。現在では準備中又は実施中のプロジェクトの詳細、分析・助言活動 の成果物、理事会の議事録等、かつてないほど多くの情報が公開されています。 2020 年度、世界銀行は 589 件の情報公開請求を受理し、機密扱いとなってい た 15 万 3,264 ページの記録資料を公開しました。また、9 万 8,880 ページの 記録資料をデジタル化し、世界銀行のプロジェクト・データベースと世界銀行 グループの「アーカイブ」を通じて公開しました。 情報公開請求が棄却された場合は、情報公開政策又は公益、あるいはこの 両方への違反を申し立てることができます。全ての申立ては、第 1 段階として 世界銀行内に設置された 「情報公開委員会」 で検討されます。公益を根拠とした 申立ての場合は、同委員会の決定が最終となります。情報公開政策違反の 申立てに関しては、第 2 段階の検討は独立した外部の不服審査会に委ねられ、 同審査会の決定が最終となります。2020 年度の情報公開委員会の取扱件数は 1 件、不服審査会に委ねられた申立ては 1 件でした。 詳細及び世界銀行への情報公開請求は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/en/access-to-information プロジェクトの監督と説明責任の確保 83 84 THE WORLD BANK ANNUAL REPORT 2020 資金の戦略的活用 新型コロナウイルス感染症危機への対応を支援 世界銀行グループは、財務基盤、地球規模のパートナーシップ、動員力を活か し、途上国が新型コロナウイルス感染症の世界的流行と戦い、より短い期間で経済 と社会の回復を果たせるよう支援しています。世界銀行グループは危機に力強く 対応するため、 最近実施された IBRD と IFC の資本増強と IDA 第 19 次増資(IDA19) を原資として、2021年 6 月までの 15 カ月間に 1,600 億ドルを提供するという計画 を策定しました。 2020 年度、IBRD と IDA は新型コロナウイルス感染症対策支援のためのファスト トラック・ファシリティを通じて、合計 76 件 (総額 38 億ドル)の保健プロジェクト を承認しました。いずれも、同ファシリティの下で 2020 年 4 月から世界各地で 展開されている 60 億ドルの「保健対策準備・対応プログラム」の一環です。世界 銀行グループは広範かつ迅速な支援を通じて、途上国が緊急の保健ニーズに対応 し、景気回復を促進できるよう支援しており、例えばプログラム的多面アプローチ (MPA) を初めて世界規模で採用することで、途上国向け緊急支援の準備期間を短縮 しました。また、各国政府と連携し、緊急時の柔軟なプロジェクト運営のための緊急 時用コンポーネント等の手段を用いて、63 カ国の既存プロジェクトから 25 億ドル を感染症対策に移転できるよう提供しました。コロンビア、モロッコ、サモア独立国 等、災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)付き開発政策プロジェクトが 実施されている国では、迅速な資金調達が各国の感染症対策を支えました。 世界銀行グループは各国政府に対し、感染症の世界的流行が保健、経済、社会面 にもたらす影響に政策レベルで対応するよう働きかけました。途上国では経済活動 の停滞により税収が落ち込む一方で、貧困層・脆弱層の保護、失業者の支援、教育 等の行政サービスの維持のための支出が増え、 資金ニーズが急速に高まっています。 世界銀行グループ全体で戦略的支援を展開 世界銀行(IBRD と IDA)は、グループ機関である IFC や MIGA と緊密に連携す ることで、世界銀行グループとしての強みを発揮しています。世界銀行グループの 優位性は、各国との深い関わりと世界規模のネットワーク、官民両セクターとの関係、 セクター横断的な知識、資金動員力を効果的に組み合わせ、援助受入国の開発課題 を支援できる点にあります。グループ内の連携は年々強化され、セクター、テーマ、 国、地域、グローバル等、あらゆるレベルで活用されています。 世界銀行グループは、援助受入国が制度・組織を強化し、政策・制度改革の効果 をプロジェクトの枠にとどまらず、広くもたらすことができるよう支援しています。 また、強固な成果枠組みを導入すると共に、世界銀行グループとしての重点課題に ついての開発成果の報告を通じ、開発の有効性をモニタリングしています。世界 銀行グループは、エビデンスと結果から学ぶことにより、途上国への支援を継続して 改善し、各国が大きな開発成果を達成できるよう取り組んでいます。 世界銀行グループは、援助受入国との長期的な関係、各国に関する豊富な知識、 革新的なプロジェクト、厳格な基準の遵守、現場での強固な存在感を通じて、援助 受入国の信頼できるアドバイザー、公正な仲介者となってきました。世界銀行 グループは、紛争の影響下にある脆弱・紛争国や最貧国等、世界でも特に困難な状況 にある国々で活動するに当たり、プロジェクト全体の質の維持に努めています。 資金の戦略的活用 85 パートナーシップは世界の開発課題の特定と対応に役立っています。例えば新型 コロナウイルス感染症対策では、開発パートナーや政府と連携することで、緊急性 が特に高い分野に資金を集中させることができました。世界銀行グループはまた、 各国が重要な医療機器や医療品を確保するための調達プラットフォームの役割も果 たしました。この他、災害保険や Cat DDO 等、不測の事態に対応するための手段 を積極的に活用し、各国が危機対応能力と強靱性を強化できるよう支援しています。 援助受入国との関わりを定義 世界銀行グループは、援助受入国のオーナーシップと開発成果の向上に重点を置 き、エビデンスに基づく体系化されたモデルを通じて、資金、分析、助言サービス を提供しています。国別パートナーシップ枠組み(CPF)は、各国に対する 4~6 年間の戦略目標を定めたもので、新型コロナウイルス感染症の世界的流行のように 国内外の状況が急変した場合に備えて、一定の柔軟性も確保しています。CPF は、 世界銀行のマネジメントと理事会が国別プログラムを評価し、指針を提供する際の 中心となるもので、以下の方法により、世界銀行、IFC、MIGA が共同で作成して います。 ・援助受入国の開発ビジョンを考慮に入れる ・職員が援助受入国の政府当局や民間セクター等との緊密な協議に基づいて作成し た体系的国別診断(SCD)の分析結果と重点課題を活用する ・世界銀行グループの比較優位性を考慮する ・世界銀行グループの開発目標との整合性を図る CPF には、実施中又は計画中の活動に関する合意済みの目標や、今後の活動で 期待される成果の枠組みが記載されており、その内容は援助受入国のニーズの変化 や国内外のショックに合わせて調整が可能です。 こ の プ ロ セ ス は 2014 年 7 月 に 導 入 さ れ、2020 年 度、 世 界 銀 行 グ ル ー プ は 11 カ国の SCD を作成したほか、11 カ国について新たな CPF を作成しました。 世界銀行グループは、各国が開発目標を効果的に達成できるように様々な手段や アプローチを提供しています。具体的には、物理的インフラと社会インフラの構築 と組織・制度面の能力構築を対象とする投資プロジェクト融資、借入国が政策措置 や組織・制度改革を実行できるよう保証等を提供する開発政策融資、援助受入国の プログラムを支援し、融資の実行と所定の成果の達成を紐付ける成果連動型プロ グラム融資等があります。 2018 年度に導入されたプログラム的多面アプローチ(MPA)は、特定の国又 は複数の国を対象とする複雑な活動を、複数のフェーズで構成される 1 つのプロ グラムとして捉え、段階的に実施するものです。各フェーズで得た教訓を基にプロ ジェクトを調整できるため、国内外の環境変化に柔軟に対応することが可能になり ます。2020 年度は脆弱性の影響下にある 25 カ国と11の小規模国を含む 75 カ国の 保健プロジェクトを対象に、MPA を初めて世界規模で適用し、各国が新型コロナ ウイルス感染症に効果的に対応できるよう支援しました。セクターや地域は違って も同じ目標を共有する複数のプロジェクトを総合的に支援し、かつ各国の状況に合 わせて支援内容を調整できるため、プロジェクトの成果を最大限に高めつつ、緊急 事態に対応することが可能です。アフリカ地域と中東地域では、数百万人の食料 安全保障と生計を脅かしているバッタの大量発生に対応するため、5 億ドルの緊急 蝗害対応プログラム(ELRP)を立ち上げました。 成果連動型プログラムは、2012 年の導入以来、高い成果を上げており、これま では IBRD・IDA が融資するプロジェクトの 15%に制限されていましたが、制限の 撤廃に伴い、2020 年度は各種の世界銀行プロジェクトに幅広く導入されました。 投資プロジェクト融資における成果連動型融資の使用についても、プロジェクトの 成果を強化するための教訓を取り入れながら、 引き続き見直しと改善を進めました。 世界銀行グループは小規模国フォーラムを通じて、小規模国が固有の開発課題に 対応できるよう支援しています。フォーラム加盟国は現在 50 カ国に上り、内 42 カ国は世界銀行が定義する小規模国、 残る 8 カ国はそれよりも人口は多いものの、 同様の課題に直面している国々です。同フォーラムは世界銀行・国際通貨基金 86 世界銀行 年次報告 2020 (IMF)の春季会合及び年次総会に合わせ、年に2回会議を開催します。2019年10月 の年次総会では、アントニオ・グテーレス国連事務総長とデイビッド・マルパス 世界銀行グループ総裁が、経済・財政の強靱性や気候変動への適応、世界銀行によ る小規模国向けの各種の支援について意見を交換しました。 専門的助言と分析を通じた開発課題への対応 助言サービス・分析(ASA)は、世界銀行が開発業務を進めるに当たって不可欠 です。途上国は、長期的な開発推進に向けて、世界銀行の分析と専門的助言を、政策 や開発戦略の改善、組織・制度の強化に活用しています。ASA の助言と分析は、 国レベルでは CPF や政府プログラム、世界銀行の融資・保証を受けたプロジェクト を支え、地域レベルやグローバル・レベルでは、公共の利益の増進や政策議論に 用いられています。 2020 年度、世界銀行は 140 カ国以上で 1,515 件の ASA を実施し、経済政策、 人間開発、社会的保護、ガバナンス、都市・農村開発、気候変動と環境等の重要な テーマに取り組みました。サヘル地域では、知識、キャパシティ・ビルディング、 適時の援助を通じて、適応型社会的保護システム及びプログラムの開発、実施、評価 を支援しました。 有償助言サービス (RAS) は、援助受入国の要請を受けて、世界銀行が有償で実施 するもので、非借入国を含め、全ての加盟国が要請することができます。2020 年 度は 27 カ国で 92 件の RAS を実施し、技術協力やキャパシティ・ビルディング、 プロジェクトの実施支援を通じて、途上国の公共財政管理、社会的保護プログラム、 質の高い教育のための国家改革、 保健セクターのための一括調達等を支援しました。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/asa 現地関係者の意見の尊重 世界銀行グループは年に 1 回、国別意識調査を実施し、借入国の数千人 の意思決定者や主要関係者の意見を確認しています。2019 年度は 40 カ国 以上の約 1 万人の識者が調査に参加しました。主な調査結果は、世界銀行 の現在の重点領域(人的資本の構築、雇用創出、汚職対策、ガバナンスの 改善等)が、各国の関係者の最優先事項と一致していることを示してい ます。 資金の戦略的活用 87 財政規律の維持による資金効率の最大化 2018 年に合意された IBRD 資本増強パッケージでは、予算の持続可能性を維持し、 組織の財政基盤を強化するため、効率性と規模の経済を継続・促進することが表明 されました。世界銀行が展開するプログラムの規模と複雑さが増すにつれて、活動 コストも上昇していますが、組織プロセスの最適化やテクノロジーの有効活用等を 通じた効率性と生産性の向上策は、コスト上昇の抑制に役立ちます。効率性と規模 の経済の改善状況や推移を年次で追跡するため、資本パッケージの下で承認された 予算の実施状況をモニタリングする総合的な枠組みも構築しました。 各国の新型コロナウイルス感染症対策を支援するため、世界銀行は大規模なプロ グラムを立ち上げ、各国が保健、社会、経済面の影響に対応し、持続可能かつ強靱 な回復を迅速に達成するための条件を整えることができるよう支援しています。 新型コロナウイルス感染症への対応は優先課題ですが、極度の貧困の撲滅と繁栄の 共有の促進という世界銀行の 2 大目標や、IBRD 資本パッケージ、IDA19、脆弱性・ 紛争・暴力(FCV)戦略の主要優先課題やコミットメントを達成するための支援 も継続していく予定であり、特に貧困国や小規模国、FCV の影響下にある国々で は、重点領域におけるプログラムが大幅に増える見込みです。この他、基幹インフラ やデジタル金融サービス、社会的保護へのアクセス拡大、人的資本の強化、民間 セクターの成長と開発の促進、ガバナンスと法の支配の促進、債務・投資の透明性、 気候変動と二酸化炭素排出量に関する目標への対応、外因性ショックに対する強靱性 の構築等の重要なテーマに対しても支援を提供していく予定です。 IBRD の貸出承認額とサービス IBRD は、 加盟 189 カ国による共同出資で成り立っている国際開発金融機関です。 世界最大の国際開発金融機関として、中所得国及び信用力のある低所得国に貸出、 保証、リスク管理商品、各種助言サービスを提供すると共に、地域や地球規模の 課題への対応を調整しています。 2020 年度の IBRD の新規貸出承認額は、152 件のプロジェクト(内、10 件は IBRD と IDA のブレンド・プロジェクト)に対する 280 億ドルでした。 融資承認に関する監視、報告、意思決定向上のため、所定の分類コードを利用し て、全ての融資プロジェクトの対象セクター及びテーマを明確化しています。セク ター・コードは、生み出される財・サービスの種類を基に経済活動を大まかに分類 したもので、世界銀行の支援が経済のどの部分を支えているかを示します。テーマ・ コードは、 世界銀行が進める活動の目標や目的を示し、 持続可能な開発目標(SDGs) に対する世界銀行の支援を把握するために使用されます。 表 15:IBRD の地域別承認額、2016~20 年度 単位:100 万ドル 地域 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 アフリカ地域 669 1,163 1,120 820 1,725 東アジア・大洋州地域 5,176 4,404 3,981 4,030 4,770 ヨーロッパ・中央アジア地域 7,039 4,569 3,550 3,749 5,699 ラテンアメリカ・カリブ海地域 8,035 5,373 3,898 5,709 6,798 中東・北アフリカ地域 5,170 4,869 5,945 4,872 3,419 南アジア地域 3,640 2,233 4,508 4,011 5,565 合計 29,729 22,611 23,002 23,191 27,976 88 世界銀行 年次報告 2020 表 16:IBRD の地域別実行額、2016~20 年度 単位:100 万ドル 地域 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 アフリカ地域 874 427 734 690 1,087 東アジア・大洋州地域 5,205 3,961 3,476 5,048 4,679 ヨーロッパ・中央アジア地域 5,167 2,799 4,134 2,209 3,100 ラテンアメリカ・カリブ海地域 5,236 3,885 4,066 4,847 5,799 中東・北アフリカ地域 4,427 5,335 3,281 4,790 2,415 南アジア地域 1,623 1,454 1,698 2,598 3,158 合計 22,532 17,861 17,389 20,182 20,238 表 17:IBRD のセクター別承認額、2016~20 年度 単位:100 万ドル セクター 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 農業・漁業・林業 561 754 2,561 1,025 1,767 教育 1,788 1,074 1,685 1,875 1,135 エネルギー・採取産業 4,599 4,434 3,084 2,847 2,053 金融セクター 2,657 1,879 764 2,299 3,702 保健 1,181 1,189 2,204 1,674 3,980 産業・貿易・サービス 3,348 2,694 3,416 2,361 2,208 情報通信技術 194 503 324 611 886 行政 5,111 4,754 2,189 5,327 4,301 社会的保護 1,393 778 2,091 2,115 4,786 運輸 4,569 2,551 2,074 1,485 1,323 水・衛生・廃棄物処理 4,192 2,000 2,610 1,571 1,834 合計 29,729 22,611 23,002 23,191 27,976 注: 四捨五入のため、合計値が総計と異なる場合がある。世界銀行グループ内のデータ再編の一環として、 2017 年度から従来の分類法に代わる新たなセクター・カテゴリーが使用されている。過去の各年度の データも新分類を反映して修正されており、過去の年次報告に記載の数値と合致しない場合もある。 変更に関する詳細は、projects.worldbank.org/sector を参照のこと。 表 18:IBRD のテーマ別承認額、2017~20 年度 単位:100 万ドル テーマ 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 経済政策 1,677 1,124 1,363 1,000 環境・天然資源管理 7,237 10,409 8,514 9,423 金融 3,330 2,501 3,546 5,304 人間開発・ジェンダー 2,687 6,641 7,227 12,799 民間セクター開発 5,741 4,945 4,438 4,936 公共セクター管理 3,516 1,353 2,912 3,206 社会開発・社会的保護 939 2,844 2,453 4,721 都市・農村開発 5,937 8,593 6,511 6,777 注: 世界銀行グループ内のデータ再編の一環として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たなテーマ・ カテゴリーが使用されている。個々のプロジェクトへの貸出承認額が複数のテーマにわたる場合、テーマ 別の数値の合計が当該年度の承認総額と一致しないことから合計値は出していない。過去の各年度のテーマ 別データは新たに集計されているが、新分類法に沿った修正は加えられていない。直接比較することは できないため、過去のデータはこの表に記載していない。変更に関する詳細は、projects.worldbank. org/theme を参照のこと。 資金の戦略的活用 89 表 19:IBRD の借入国上位 10 カ国、2020 年度 単位:100 万ドル 国 承認額 国 承認額 インド 4,580 アンゴラ 1,380 フィリピン 1,870 コロンビア 1,250 トルコ 1,855 メキシコ 1,230 インドネシア 1,660 中国 1,200 エジプト・アラブ共和国 1,450 モロッコ 1,110 IBRD の原資と金融モデル 加盟国の開発プロジェクトに資金を提供するため、IBRD は自己資本の他、世銀 債の発行を通じて資本市場から調達した資金を原資として、開発プロジェクトに 貸出を行っています。IBRD は、ムーディーズから Aaa、スタンダード&プアーズ から AAA の格付けを得ており、IBRD 債は投資家から信頼性の高い債券と評価され ています。世界規模の流動性危機と新型コロナウイルス感染症がもたらした課題を 前に、IBRD は資金の調達に当たり、最大限の長期的な価値を持続可能な形で借入国 にもたらすことを目指しています。国際資本市場からの資金調達は、IBRD の目標 を達成する上で重要な役割を果たしています。 全ての IBRD 債は持続可能な開発を支援しています。IBRD は世界中の投資家を 対象とした大型公募債に加え、特定の市場や投資家のニーズに合わせた私募債も 発行しています。IBRD 債は、資産運用会社、保険会社、年金基金、中央銀行、企業、 銀行等、世界中の機関投資家を通じて、官民両セクターと世界銀行の開発目標を結 んでいます。IBRD は、固定金利、変動金利、そして様々な通貨建てや償還期間の 世銀債を世界中の投資家の需要に応えて発行します。新興市場通貨建ての新たな 金融商品や世銀債は、国際的な機関投資家に新たな市場を開拓する機会をもたらす ことも少なくありません。IBRD の資金調達額は年によって変動します。 こうしたアプローチにより、IBRD は相対的に低い金利で資金を調達することが 可能になり、その結果、借入国も IBRD から低金利で資金を借り入れることができ ます。また、直ちに貸出に回されない資金は、必要な時にすぐに現金化できる形 で、IBRD の投資ポートフォリオで運用されています。2020 年度、IBRD は様々な 通貨建ての世銀債を発行し、750 億ドルを調達しました。 IBRD は、加盟国に対してサービスを提供する組織であり、収益の最大化ではな く、長期的な財務基盤を確保して開発活動を継続するために必要な利益の確保に努 めています。理事会は、2020 年度の当期未処分利益の内、一般準備金への 9 億 5,000 万ドルの振替(IBRD 内部留保)を承認したほか、剰余金への 4 億 3,100 万 ドルの移転を総務会に提言しました。剰余金に移転される金額の内、3 億 3,100 万 図 8:IBRD のビジネスモデル 自己資本 IDA及び信託基金 貸出 借入 収入 投資 他の開発業務 90 世界銀行 年次報告 2020 表 20:IBRD の主要財務指標、2016~20 年度 単位:100 万ドル、ただし比率は% 指標 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 貸出の概要 承認額 a 29,729 22,611 23,002 23,191 27,976 実行総額 22,532 17,861 17,389 20,182 20,238 実行純額 13,197 8,731 5,638 10,091 10,622 報告ベース 損益計算書 総務会承認済みの移転・ (705) (497) (178) (338) (340) その他の移転 純益/(純損) 495 (237) 698 505 (42) 貸借対照表 総資産額 231,408 258,648 263,800 283,031 296,804 純投資ポートフォリオ 51,760 71,667 73,492 81,127 82,485 純貸出残高 167,643 177,422 183,588 192,752 202,158 借入ポートフォリオ 178,231 207,144 213,652 228,763 237,231 配分可能な利益 配分可能な利益 593 795 1,161 1,190 1,381 配分の内訳: 一般準備金 b 96 672 913 831 950 国際開発協会 497 123 248 259 — 剰余金 — — — 100 431 利用可能資本 c, d 39,424 41,720 43,518 45,360 47,138 自己資本 資本貸出比率(%) 22.7 22.8 22.9 22.8 22.8 注: 年度別の全てのデータは、www.worldbank.org/financialresults に掲載の財務諸表を参照。 同年度中に承認された契約終了・解除の全額を控除し、保証承認額及び理事会が承認した保証ファシリ a. ティを含めた金額。 2020 年 6 月 30 日の金額は 2020 年 8 月 7 日に理事会承認を受けた、2020 年度純利益から一般準備金へ b. の振替案を示している。 非トレーディング・ポートフォリオで市場レートで計算された未実現損益に伴う額及び関係する換算調整 c. 累計純額を除く。 d.利用可能資本は提案されている一般準備金への振替を含む。 ドルは 2020 年度の配分可能な利益から IDA への移転額として、計算式ベースで 算出された金額です。この金額について、世界銀行のマネジメントと理事会は、新型 コロナウイルス感染症の危機により不確実性が高まっていることから、今後、悲観 的状況が現実化した場合に準備金の強化に活用するため剰余金として留保するよう 提案しました。IBRD は、貸出、借入、投資活動を通じて、市場リスク、金融取引 を行う相手方の信用リスク、援助受入国の信用リスク、運営上のリスクにさらされ ています。 世界銀行グループでは、 最高リスク管理責任者がリスク監視業務を主導しており、 専任のリスク委員会を通じて組織全体の意思決定プロセスを支援しています。さら に IBRD は、世界銀行のマネジメントによる監督機能を支えるため、強力なリスク 管理枠組みを導入しました。同枠組みは、IBRD が財政的に持続可能な形で目標を 達成することを可能にするものです。IBRD のリスクを総合的に把握する指標の ひとつに「資本貸出比率」があり、その値は IBRD の財務・リスク見通しに基づいて 厳密に管理されています。2020 年 6 月 30 日現在、同比率は 22.8%、IBRD の累積 授権資本は総額 2,880 億ドル、内 180 億ドルが払込資本です。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/ibrd 資金の戦略的活用 91 IDA の融資承認額とサービス 国際開発協会(IDA)は、最貧国向けの譲許的資金を提供する世界最大の国際 機関であり、開発融資、グラント、保証の提供を通じて、受益国が経済成長、貧困 削減、貧困層の生活改善を促進できるよう支援しています。 2020 年度の IDA 対象国は、ソマリアが加わり、76 カ国となりました。この他、 IDA17 期間の終了時に IDA を卒業した 3 カ国(ボリビア、スリランカ、ベトナム) が、例外的な経過措置として支援を受けました。IDA 新規承認額は 305 件のプロ ジェクト(内、10 件は IBRD と IDA のブレンド・プロジェクト)に対する 304 億 ドルでした。内訳は、クレジットが 224 億ドル、グラントが 80 億ドル、保証の ためのIDA 資金が 2,500 万ドルでした。さらに、 IDA18 のIFC-MIGA 民間セクター・ ウィンドウ(PSW)を通じて、35 件のプロジェクト及びサブ・プロジェクトに対 し総額 7 億 9,200 万ドルの支援が承認されました。 融資承認に関する監視、報告、意思決定向上のため、所定の分類コードを利用し て、全ての融資プロジェクトの対象セクター及びテーマを明確化しています。セク ター・コードは、生み出される財・サービスの種類を基に経済活動を大まかに分類 したもので、世界銀行の支援が経済のどの部分を支えているかを示します。テーマ・ コードは、 世界銀行が進める活動の目標や目的を示し、 持続可能な開発目標(SDGs) に対する世界銀行の支援を把握するために使用されます。 表 21:IDA の地域別承認額、2016~20 年度 単位:100 万ドル 地域 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 アフリカ地域 8,677 10,679 15,411 14,187 19,095 東アジア・大洋州地域 2,324 2,703 631 1,272 2,500 ヨーロッパ・中央アジア地域 233 739 957 583 1,497 ラテンアメリカ・カリブ海地域 183 503 428 430 978 中東・北アフリカ地域 31 1,011 430 611 203 南アジア地域 4,723 3,828 6,153 4,849 6,092 合計 16,171 19,463a 24,010b 21,932b 30,365b a.パンデミック緊急ファシリティのグラント 5,000 万ドルの承認を含まない。 b.IFC-MIGA PSW の活動を含まない。 表 22:IDA の地域別実行額、2016~20 年度 単位:100 万ドル 地域 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 アフリカ地域 6,813 6,623 8,206 10,190 13,373 東アジア・大洋州地域 1,204 1,145 1,252 1,282 1,589 ヨーロッパ・中央アジア地域 365 310 298 931 365 ラテンアメリカ・カリブ海地域 303 229 223 340 466 中東・北アフリカ地域 44 391 569 647 151 南アジア地域 4,462 3,970 3,835 4,159 5,235 合計 13,191 12,668a 14,383 17,549 21,179b a.パンデミック緊急ファシリティのグラント 5,000 万ドルの実行を含まない。 b.IFC-MIGA PSW の活動を含まない。 92 世界銀行 年次報告 2020 表 23:IDA のセクター別承認額、2016~20 年度 単位:100 万ドル セクター 2016 年度 2017 年度 a 2018 年度 2019 年度 2020 年度 農業・漁業・林業 1,849 2,025 1,442 2,796 1,978 教育 1,431 1,773 2,836 1,767 4,037 エネルギー・採取産業 2,814 1,891 4,028 3,468 3,218 金融セクター 443 1,227 546 870 534 保健 1,191 1,246 2,062 1,736 4,295 産業・貿易・サービス 841 1,541 1,991 1,963 2,712 情報通信技術 78 519 419 779 1,202 行政 1,500 1,954 5,013 3,109 4,252 社会的保護 2,475 1,913 2,112 2,163 4,185 運輸 2,277 3,271 1,455 1,709 2,132 水・衛生・廃棄物処理 1,271 2,102 2,105 1,572 1,820 合計 16,171 19,463 24,010 b 21,932 b 30,365b 注: 四捨五入のため、合計値が総計と異なる場合がある。世界銀行グループ内のデータ再編の一環として、 2017 年度から従来の分類法に代わる新たなセクター・カテゴリーが使用されている。過去の各年度の データも新分類を反映して修正されており、過去の年次報告に記載の数値と合致しない場合もある。 変更に関する詳細は、projects.worldbank.org/sector を参照のこと。 2017 年度の IDA のセクター別内訳は、パンデミック緊急ファシリティのグラント 5,000 万ドルを含ま a. ない。 b.IFC-MIGA PSW の活動を含まない。 表 24:IDA のテーマ別承認額、2017~20 年度 単位:100 万ドル テーマ 2017 年度 a 2018 年度 2019 年度 2020 年度 経済政策 1,791 468 1,073 1,192 環境・天然資源管理 5,766 9,491 9,680 11,141 金融 1,507 1,642 2,418 2,680 人間開発・ジェンダー 6,471 7,509 7,860 15,974 民間セクター開発 4,837 4,240 b 5,145 b 7,232b 公共セクター管理 1,936 3,827 2,513 4,158 社会開発・社会的保護 2,544 2,980 2,722 4,738 都市・農村開発 8,352 8,654 7,866 8,899 注: 世界銀行グループ内のデータ再編の一環として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たなテーマ・ カテゴリーが使用されている。個々のプロジェクトへの融資承認額が複数のテーマにわたる場合、テーマ 別の数値の合計が当該年度の承認総額と一致しないことから合計値は出していない。過去の各年度のテーマ 別データは新たに集計されているが、新分類法に沿った修正は加えられていない。直接比較することは できないため、過去のデータはこの表に記載していない。変更に関する詳細は、projects.worldbank. org/theme を参照のこと。 2017 年度の IDA のテーマ別内訳は、 a. パンデミック緊急ファシリティのグラント 5,000 万ドルを含まない。 b.IFC-MIGA PSW の活動を含まない。 資金の戦略的活用 93 表 25:IDA の借入国上位 10 カ国、2020 年度 単位:100 万ドル 国 承認額 国 承認額 ナイジェリア 2,576 タンザニア 950 バングラデシュ 2,265 ネパール 949 コンゴ民主共和国 1,642 ケニア 943 パキスタン 1,471 ソマリア 903 エチオピア 1,046 ミャンマー 900 IDA の原資と金融モデル IDA の活動資金はこれまで、高・中所得国であるドナー国からの拠出金を中心に、 世界銀行グループ内の資金移転や、過去の IDA 融資に対する借入国からの返済金等 によって賄われてきました。2018~20 年度を対象期間とする IDA18 パッケージ では、IDA パートナー国は意欲的な政策パッケージを支援するため、IDA の資金調達 モデルを変革し、IDA の強固な資本基盤を活かして、ドナー国からの拠出金と資本 市場で調達した資金を組み合わせる新たな開発資金モデルを導入することで合意し ました。同政策パッケージの重点分野は、雇用と経済的変革、気候変動、ジェンダー と開発、紛争・脆弱性・暴力、ガバナンスと組織・制度の構築です。IDA は 2016 年 に初の格付けとしてトリプル A を取得しました。IDA は、高い自己資本比率と出資 国からの支援、健全な財務方針と運用に基づいた財務力により、トリプル A の信用 格付を維持しています。 IDA18 では、開発パートナーは IDA 対象国に提供する融資、グラント、保証を 賄うため 535 億 SDR(750 億ドル相当)* の増資に合意しました。当初の計画では、 この内 635 億ドルは譲許的条件で、90 億ドルはスケールアップ・ファシリティ及 び経過措置期間に IBRD 条件で、25 億ドルは PSW に活用される予定でしたが、 各国の新型コロナウイルス感染症対策等を支援するため、 IDA18 期間中に開発パー トナーと配分の見直しについて合意し、2020 年 6 月30日現在、680 億ドルは譲許的 条件で、84 億ドルはスケールアップ・ファシリティ及び経過措置期間に IBRD 条件 で、14 億ドルは PSW にそれぞれコミットされました。IDA の管理費は主に、援助 受入国が支払う手数料や利息で賄われています。 IDA 第 18 次増資(IDA18)を支援するため、161 億 SDR(226 億ドル相当)が IDAドナー国からグラントとして提供されました。この内、9 億 SDR(12 億ドル)は 譲許的ローンのグラント・エレメント部分です。また、ドナー国は36 億 SDR(51億 * DA18 の資金枠組みの単位は特別引出権(SDR)ですが、ここに示すドル換算額は IDA18 の基準 I 為替レートを基に算定されたものです。 図 9:IDA のビジネスモデル 譲許的ローン及びグラント 自己資本 返済及び利息等 投資 借入 非譲許的ローン 94 世界銀行 年次報告 2020 ドル)を譲許的パートナーローン(CPL)として提供しており、これはグラント・ エレメントを除くと 27 億 SDR(38 億ドル)となります。さらに、多国間債務救済 イニシアティブ(MDRI)の下での債務削減として 29 億 SDR(41 億ドル)を提供 しました。2020 年 6 月 30 日現在、50 のパートナーが IDA18 の応募証書及び 譲許的融資契約を提出済みであり、IDA18 対象期間の MDRI の下での債務削減と 併せて、総額は 217 億 SDR(304 億ドル相当)に上ります。 こうした資金調達プログラムは、IDA が SDGs の達成に向けた支援を大幅に拡大 することを可能にしただけでなく、投資家に世界の開発に効率的に貢献する機会を もたらしています。IDA 資本の有効活用により、IDA18 では開発パートナーから の拠出金 1 ドルにつき 3 ドルの動員が可能となりました。2018 年 4 月 17 日、IDA は国際資本市場で初の債券を発行し、15 億ドルの資金を調達しました。初の IDA 債は市場で旺盛な需要を集め、IDA 短期債プログラムやユーロ、英国ポンド、米 ドル建てベンチマーク債の発行等、資本市場を利用した更なる資金調達に道を開き ました。IDA 短期債プログラムは、世界中から多様な投資家を呼び込むことによ り、幅広い通貨の流動性改善にも寄与しています。IDA は今後も通貨構成の多様化 を図り、資本市場における IDA の存在感を高めていきます。 表 26:IDA の主要財務指標、2016~20 年度 単位:100 万ドル、ただし比率は% 指標 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2020 年度 融資・グラント・保証 承認額 a 16,171 19,513b 24,010c 21,932c 30,365c 実行総額 13,191 12,718b 14,383 17,549 21,179c 実行純額 8,806 8,154 9,290 12,221 15,112c 貸借対照表 総資産額 167,985 173,357 184,666 188,553 199,472 純投資ポートフォリオ 29,908 29,673 33,735 32,443 35,571 純融資残高 132,825 138,351 145,656 151,921 160,961 借入ポートフォリオ 2,906 3,660 7,318 10,149 19,653 純資本額 154,700 158,476 163,945 162,982 168,171 損益計算書 借入費用控除後受取利息 1,453 1,521 1,647 1,702 1,843 関連組織等からの資金移転 990 599 203 258 252 開発グラント (1,232) (2,577) (4,969) (7,694) (1,475) 純益/(純損) 371 (2,296) (5,231) (6,650) (1,114) 調整後純利益 d 423 (158) (391) 225 724 自己資本 利用可能な戦略的資本比率 n.a. 37.2% 37.4% 35.3% 35.8% 注: n.a. =該当せず。年度別の全てのデータは、www.worldbank.org/financialresults に掲載の財務諸表 を参照。 同年度中に承認された契約終了・解除の全額を控除した金額。 a. パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5,000 万ドルの承認額・実行額を含む。 b. 承認額と実行額は IFC-MIGA PSW の活動を含まない。 c. 2019 年 6 月 30 日、IDA は IDA プロジェクトの経済的成果を反映する新たな利益基準を導入。比較のた d. め、それ以前の期間の数値も算出・表示している。 資金の戦略的活用 95 IDA 第 19 次増資(IDA19) IDA の開発パートナーは 3 年ごとに一堂に会し、IDA の政策や財務基盤を評価す ると共に、次の対象期間の資金調達額について合意を形成し、IDA の目的と開発 目標を果たすために必要な追加拠出をコミットします。2021~23 年度を対象期間 とする IDA19 の増資交渉は 2018 年 11 月に始まり、2019 年 12 月に妥結しました。 IDA19では、2020年7月1日から2023年6月30日の間に実施されるプロジェクト の原資として、 820 億ドルが確保されました。この金額は前回の IDA18 と比べると、 実質ベースで 3%の増加となります。この内、235 億ドルはドナー国からの拠出金 であり、残りは過去の IDA 融資に対する返済、世界銀行からの資金移転、資本 市場から調達した資金です。この資金を原資として、IDAは気候変動やジェンダーの 不平等、脆弱性・紛争・暴力がもたらす課題に取り組む途上国を引き続き支援する と共に、雇用創出と経済改革、組織のガバナンスや説明責任の向上に対する取組みを 強化します。IDA19 では、債務の持続可能性と透明性の強化、革新的なデジタル・ テクノロジーの活用と導入、障害者の包摂の促進、人的資本への投資等、より広範 な開発課題にも取り組む予定です。新型コロナウイルス感染症の世界的流行を封じ 込めるため、特に IDA19 の対象期間には革新的な対応が求められますが、同時に IDA は、途上国の長期的な開発課題にも引き続き注力していきます。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/ida 世界規模の不確実性がもたらすリスクの軽減 世界銀行グループの最高リスク管理責任者は、世界の政治・経済情勢をモニタ リングし、グループの財務の安定性を脅かすリスクを監視しています。新型コロナ ウイルス感染症の世界的流行は、世界各地で国際貿易、サプライチェーン、移民と 送金、国境を越えた移動、観光業に混乱をもたらしました。先進国では今年、実質 GDP 成長率がマイナス 7%になるとみられています。都市封鎖等の規制措置は内需 と労働力供給の両方に影響を及ぼしました。 経済活動の縮小によって歳入が減少し、 財政赤字と公的債務比率は急激にふくらみました。 多くの国が、経済活動の減速によって深刻な打撃を受けている人々を支援するこ とで経済活動を支えようと努力しました。2020 年 3 月と 4 月、多くの新興国で 大規模な資本流出が発生しましたが、その後、先進国の中央銀行が流動性支援を 強化したことにより回復が見られました。新型コロナウイルス感染症の世界的流行 の初期には一次産品価格、特に原油価格が急落しましたが、中国の経済活動拡大に 伴い、金属価格を中心に価格は徐々に回復しています。石油輸出国機構(OPEC) 加盟国とその他の産油国が石油の減産合意を再確認したことも原油価格の限定的な 回復につながりました。 信用力の見通しは依然として不透明であり、新型コロナウイルス感染症の世界的 流行が今後どこまで広がり、いつまで続くかに左右されることになります。公的 債務比率は多くの国で高い水準を維持する可能性が高いでしょう。金融セクターに 関しては、多くの国で政府の偶発債務が大幅に増加する恐れがあります。また、人的 資本と物理的資本の両方が長期にわたって損なわれ、各国の長期成長率に悪影響を 及ぼす可能性があります。 96 世界銀行 年次報告 2020 成果重視 世界銀行は、融資や知識の共有、官民両セクターとの協力を通じて、援助受入国 の持続可能な開発を促進しています。開発課題に取り組む国々を総合的に支援する には、成果を重視することが不可欠です。近年、世界銀行は援助受入国の開発成果 に様々な形で大きく貢献しています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/results 1 アフガニスタン:2003~18 年、 9 ジ ブ チ:2014~19 年、30 万 人 出 生 児 1,000 人 当 た り 死 亡 率 が 以上が質の高い保健医療を受け、 53 人 か ら 23 人 に 低 下 し、 利 用 子供の 85%以上が、1 歳になる前 可能な保健施設が約 500 カ所から に所定の予防接種を完了。 2,800 カ所以上に増加。 10 エ ク ア ド ル:2015 年 以 降、3 万 2 アルメニア:2013 年以降、27 万 9,000 人以上のグアヤキル市民が 人以上の農村部住民が年間を通じ 改善された衛生サービスの恩恵を て利用できる道路へのアクセスを 享受。 確保。 11 エ ジ プ ト:2014~19 年、30 万 3 アゼルバイジャン:2011~18 年、 人分以上の雇用が創出され、17 万 灌漑・排水サービスの対象地域が 5,000 人近く(内、42%が女性) 53 万 ヘ ク タ ー ル か ら 92 万 ヘ ク が起業。 タール以上に拡大。 12 ハイチ:2011~18 年、遠隔地に 4 バングラデシュ:2013~20 年、 57 の学校が建設され、学校での 低地に堤防を建設したことにより、 保健・栄養プログラムに 46 万人 洪水・高潮被害に対する強靱性が 近くの児童が参加。 強化され、 33 万 3,000 人以上(内、 16 万 6,500 人 以 上 が 女 性 ) が 13 ホンジュラス:2013~18 年、9 つ 恩恵を享受。 のコミュニティで実施された 暴力防止策により、犯罪率の低下、 5 ベナン:2012~20年、様々な支援 学校の安全性向上、司法サービス を通じて農業生産性の向上と へのアクセス拡大が促進され、3 万 輸出量の増加が達成され、100 万 人以上が恩恵を享受。 人以上(内、41%が女性)が恩恵 を享受。 14 イ ン ド:2007~19 年、 イ ン ド 南部で1万サーキット ・キロメートル 6 ブラジル:2010~18年、約4,700万 (ckm) 以 上 の 送 電 線 を 敷 設 し 人が条件付き現金給付を受領。 国 内 電 力 網 と 接 続。 イ ン ド、 ネ パ ー ル、 バ ン グ ラ デ シ ュ 間 の 7 ブルキナファソ:2014~19 年、 国際送電が実現。 57 万人以上(内、53%が女性) がセーフティネットの恩恵を享受。 15 ヨルダン:2016 年以降、廃棄物 内、3 万 4,000 人以上が食料安全 収 集、 道 路 網、 街 灯 の 改 善 等 の 保障上のショックに対応するため 自治体サービスにより、200 万人 の現金給付を受領。 以上のヨルダン人と 25 万人近く の シ リ ア 難 民( 内、45% 以 上 が 8 カンボジア:2019 年、約 290 万 女性)が恩恵を享受。 人の最貧困層が無償の外来診療を 受け、年間 16 万人が入院。 98 世界銀行 年次報告 2020 IBRD/IDAプロジェクト実行中の国 IBRD/IDAプロジェクト実行中では ない国/支援対象ではない国/ ロシア連邦 データの未整備な国 ロシア連邦 ポーランド ベラルーシ 注:2020年6月30日現在のIBRD/IDAの実行中プロジェクト 21 ウクライナ カザフスタン のデータ モルドバ 3 モンゴル ルーマニア ウズベキスタン ブルガリア キルギス共和国 28 ジョージア アゼル トルコ アルメニア バイジャン タジキスタン 26 モロッコ チュニジア アフガニスタン イラク レバノン 2 中国 1 17 16 ヨルダン エジプト・ ブータン 18 アラブ共和国 15パキスタン ネパール ジャマイカ 12 11 バングラデシュ メキシコ ハイチ カーボ モーリタニア 7 ミャンマー ラオス 14 ベリーズ 13 ベルデ チャド グアテマラ マリ ニジェール イエメン 9 インド 人民民主共和国 4 ホンジュラス セネガル 共和国 30 タイ ベトナム 27 マーシャル諸島 エルサルバドル ニカラグア ガンビア ブルキナ カンボジア ミクロネシア連邦 ギニアビサウ ギニア ファソ ナイジェリア ジブチ フィリピン 29 コスタリカ コート 中央 8 5 南 ソマリア パナマ ガイアナ シエラレオネ ジボワール アフリカ スーダン エチオピア スリランカ 20 コロンビア リベリア カメルーン 共和国 25 パラオ ガーナ モルディブ エクアドル トーゴ ガボン ウガンダ 22 ケニア キリバス べナン ナウル 赤道ギニア コンゴ ルワンダ 10 サントメ・プリンシペ 共和国 コンゴ ブルンジ セーシェル インドネシア パプア ソロモン キリバス Papua 諸島 民主共和国 タンザニア コモロ ニュー New ペルー ブラジル ギニア 23 東ティモール Guinea 24 ツバル 19 6 アンゴラ ザンビア マラウイ サモア ボリビア マダガスカル バヌアツ フィジー トンガ ボツワナ モザンビーク パラグアイ ウクライナ ルーマニア ブルガリア エスワティニ ポーランド ドミニカ共和国 21 アンティグア・ 南 レソト バーブーダ アフリカ チリ ウルグアイ セントクリストファー・ ネービス アルゼンチン ドミニカ国 クロアチア セルビア セントルシア ボスニア・ セントビンセントおよび ヘルツェゴビナ グレナディーン諸島 モンテネグロ コソボ グレナダ アルバニア 北マケドニア IBRD 43838 | 2020年10月 16 モロッコ:2010~20 年、深刻な水不足に 20 フィリピン:2014 年以降、2 万 7,000 を 24 ソロモン諸島:2010年以降、 都市部の若者 28 ウズベキスタン:2012~18 年、 30 社以上 直面している地域の 2 万 4,000 ヘクタール 超えるコミュニティ・プロジェクトを実施 と女性が 88 万 2,000 日分を超える仕事を の大規模企業でエネルギー効率が改善され、 以上の土地に改良型の灌漑サービスが提供 し、約 1 万 9,300 の村落の 500 万以上の 得て 400 万ドル以上の収入を確保。 17 万 6,000 以上の世帯の年間電力需要量 され、9,000 人以上の農民が恩恵を享受。 世帯が恩恵を享受。 に相当する 3 億 6,000 万キロワット時の 25 ソマリア:2017~18 年、76 万 7,000 人の 消費電力量を削減。 17 ネパール:2016~19 年に約 67 万人(内、 21 ポーランド:2007~20 年、新しい洪水 ソマリア人(内、42%が女性) の食料アク 30%が女性)が銀行口座を開設。 堤防、用水路、橋梁に加え、水管理への セスが改善され、77 万 7,000 人のソマリア 29 ベ ト ナ ム:2010~18 年、1 万 1,000 を 投資としてポーランド最大のラツィブシュ・ 人が改善された水アクセスの恩恵を享受。 超える小規模企業組合が設立され、 バリュー 18 パキスタン:2015~20 年、被害を防ぐ ドルニ貯水池の建設により、洪水リスク チェーンにおけるシェア拡大と 2,400 万 新たなインフラの導入と災害リスク管理 対策が強化され、250 万人以上が恩恵を 26 タジキスタン:2012~20 年、改良型の ドル分以上の商品の販売を支援。 制度・実務の強化により洪水リスク対策 享受。 灌漑サービス及び水管理が導入され、140 が強化され、約 700 万人が恩恵を享受。 万人が恩恵を享受。 30 イエメン:2017 年以降、200 万人以上が 22 ルワンダ:2008~19 年に約 2,200 件の 水・衛生、運輸、エネルギー、廃棄物処理 19 ペルー:2011~17 年、約 14 万 3,000 人 公共工事プロジェクトを実施。4,000 万 27 タイ:1994~2014 年、中小企業の生産 等の重要な都市サービスへのアクセスを を新たに電力網と接続(遠隔地の住宅に 日分を超える賃金労働が創出され、80 万 技術向上等により、年間 87 万トン相当の 回復。 設置された約 1 万 2,000 基の太陽光発電 以上の世帯が仕事を確保。 二酸化炭素排出量を削減。 システムを含む) 。 23 セーシェル:2013~19 年、全省庁・政府 機関の予算プロセスが刷新され、重点領域 への資金の優先的配分、予算の実行状況 のモニタリング、成果の重視が実現。 世界銀行年次報告 2020 財務諸表 IBRD と IDA のマネジメントによる議論及び分析、 並びに監査済み財務諸表 (以下、 「財務諸表」 ) は、本年次報告の一部を成すとみなされます。財務諸表は以下の リンクをご参照ください。 http://www.worldbank.org/financialresults  IBRD と IDA の財務、融資、組織に関する詳細情報は、以下の世界銀行年次報告 2020 のリンクをご参照ください。 http://www.worldbank.org/annualreport 世界銀行又は世界銀行の公表データや知識リソースに関する詳細は、以下のリンクを ご参照ください。 ・Finances One:https://financesapp.worldbank.org ・コーポレート・スコアカード:http://scorecard.worldbank.org ・世界銀行オープン・データ:http://data.worldbank.org ・オープン・ナレッジ・リポジトリ:http://openknowledge.worldbank.org ・組織としての責任:http://www.worldbank.org/corporateresponsibility ・情報公開:http://www.worldbank.org/en/access-to-information 「世界銀行年次報告 2020」は Jeremy Hillman の指導下で広報部門対外関係担当が製作し、Leslie Yun、 Paul McClure、及び Nicole Frost が編集コーディネータを務めました。デザイン:Naylor Design, Inc.、 組版:BMWW 写真提供 表紙:Henitsoa Rafalia/世界銀行、p.2:Vincent Tremeau/世界銀行、p.5:Simone D. McCourtie/ 世界銀行、p.6~7:Grant Ellis/ 世界銀行、p.8:Maldives National Defence Force、p.11(上から下) : Arne Hoel/ 世界銀行、Sh. Khash-Erdene/ 世界銀行、Pavel Kondrashin/ 世界銀行、Dominic Chavez/世界 銀行、Hanan Ishaq/WHO、John Isaac/ 世界銀行、p.16(上から下) :Sh. Khash-Erdene/ 世界銀行、 Mihaaru、p.21:Government of Uganda、P.25:Tom Perry、p.29:Taguhi Minasyan/ 世界銀行、 p.33:Greta Granados/ 世界銀行、p.37:Dominic Chavez/ 世界銀行、p.41:Rumi Consultancy/ 世界 銀行、p.42:John Lyimo/ 世界銀行、p.46:Graham Crouch/ 世界銀行、p.53:Henitsoa Rafalia/ 世界 銀行、p.64:Tom Perry、p.66:Henitsoa Rafalia/ 世界銀行、p.70:Brandon Payne/ 世界銀行、p.72: Pavel Kondrashin/ 世界銀行、p.74:Henitsoa Rafalia/ 世界銀行、p.80:Paul Salazar/ 世界銀行、p.83: Gerhard Jörén/ 世界銀行、p.84:John Lyimo/ 世界銀行、p.97:Paul Salazar/ 世界銀行 2020 International Bank for Reconstruction 表示―本書は次のように表示してください。World and Development / The World Bank Bank. 2020. World Bank Annual Report 2020. 1818 H Street NW, Washington, DC 20433 Washington, DC: World Bank. doi: 10.1596/978- Telephone: 202-473-1000; 1-4648-1633-8. License: Creative Commons Internet: www.worldbank.org Attribution–NonCommercial–NoDerivatives 3.0 IGO(CC BY-NC-ND 3.0 IGO) . 一部不許複製 非営利―本書を営利目的で利用することはできません。 1 2 3 4 23 22 21 20 改変禁止―本書を変更・改変・増補することはできません。 本報告は世界銀行職員により作成されたものです。 第三者のコンテンツ―世界銀行は必ずしも本書のコン 本書中の地図に示されている国境、色、名称等は、 テンツの各要素に対する所有権を保有してはいない それぞれの地域の法的地位に対する世界銀行の意見や、 ため、本書の内容の内、第三者が所有する個々の要素 こうした国境線への支持あるいは承認を示すものでは 又は部分を使用しても第三者の権利を侵害することには ありません。 ならないと保証するものではありません。もしそうした 本報告に含まれるいかなる部分も、世界銀行の特権 侵害に対して申立てが起きた場合、全責任を負う 及び免責についての制限又は放棄となるものではなく、 のは使用者となります。本書の要素の再利用を希望する そのように解釈されるべきものでもありません。全て 場合、そうした再利用に対する許可取得の必要性の の特権及び免責はここに明確に留保されます。 有無の判断、及び著作権者からの許可取得は、 再利用 権利と許可 者の責任において行うものとします。要素の例としては 本書は、クリエイティブ・コモンズ 図表や画像が挙げられますが、 これに限定されるもの 表示 - 非営利 - 改変禁止 3.0 政府間組 ではありません。 織向けライセンス(CC BY-NC-ND 権利及びライセンスに関するお問い合わせは下記に 3.0I GO)http://creativecommons.org/licenses/ お送りください。World Bank Publications, The by-nc-nd/3.0/igo でご利用いただけます。 World Bank Group, 1818 H Street NW, クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止ライ Washington, DC 20433, USA; fax: 202-522- センスに基づき、利用者は本書を下記の条件にて、 2625; e メール :pubrights@worldbank.org 非営利目的でのみ複製・配布・伝送することができ ます。 ISBN: 978-1-4648-1633-8 eISBN: 978-1-4648-1634-5 doi: 10.1596/978-1-4648-1633-8 AFGHANISTAN ALBANIA ANGOLA ARGENTINA ARMENIA AZERBAIJAN BANGLADESH BELARUS BELIZE BENIN BHUTAN BOLIVIA BOSNIA AND HERZEGOVINA BOTSWANA BRAZIL BULGARIA BURKINA FASO BURUNDI CABO VERDE CAMBODIA CAMEROON CENTRAL AFRICAN REPUBLIC CHAD CHILE CHINA COLOMBIA COMOROS DEMOCRATIC REPUBLIC OF CONGO REPUBLIC OF   CONGO COSTA RICA CÔTE D’IVOIRE CROATIA DJIBOUTI DOMINICA DOMINICAN REPUBLIC ECUADOR ARAB REPUBLIC OF EGYPT EL SALVADOR ESWATINI ETHIOPIA FIJI GABON THE GAMBIA GEORGIA GHANA GRENADA GUATEMALA GUINEA GUINEA-BISSAU GUYANA HAITI HONDURAS INDIA INDONESIA IRAQ JAMAICA JORDAN KAZAKHSTAN KENYA KIRIBATI KOSOVO KYRGYZ REPUBLIC LAO PEOPLE’S DEMOCRATIC REPUBLIC LEBANON LESOTHO LIBERIA MADAGASCAR MALAWI MALDIVES MALI MARSHALL ISLANDS MAURITANIA MEXICO FEDERATED STATES OF MICRONESIA MOLDOVA MONGOLIA MONTENEGRO MOROCCO MOZAMBIQUE MYANMAR NEPAL NICARAGUA NIGER NIGERIA NORTH MACEDONIA PAKISTAN PANAMA PAPUA NEW GUINEA PARAGUAY PERU PHILIPPINES POLAND ROMANIA RUSSIAN FEDERATION RWANDA SAMOA SÃO TOMÉ AND PRÍNCIPE SENEGAL SERBIA SEYCHELLES SIERRA LEONE SOLOMON ISLANDS SOMALIA SOUTH AFRICA SOUTH SUDAN SRI LANKA ST. LUCIA ST. VINCENT AND THE GRENADINES SURINAME TAJIKISTAN TANZANIA TIMOR-LESTE TOGO TONGA TUNISIA TURKEY TUVALU UGANDA UKRAINE URUGUAY UZBEKISTAN VANUATU VIETNAM REPUBLIC OF YEMEN ZAMBIA ZIMBABWE AFGHANISTAN ALBANIA ANGOLA ARGENTINA ARMENIA AZERBAIJAN BANGLADESH BELARUS BELIZE BENIN BHUTAN BOLIVIA BOSNIA AND HERZEGOVINA BOTSWANA BRAZIL BULGARIA BURKINA FASO BURUNDI CABO VERDE CAMBODIA CAMEROON CENTRAL AFRICAN REPUBLIC CHAD CHILE CHINA COLOMBIA COMOROS DEMOCRATIC REPUBLIC OF CONGO 世界銀行グループ REPUBLIC OF CONGO COSTA RICA CÔTE D’IVOIRE CROATIA DJIBOUTI DOMINICA DOMINICAN REPUBLIC ECUADOR ARAB REPUBLIC OF EGYPT EL SALVADOR 世界銀行 ESWATINI ETHIOPIA FIJI GABON THE GAMBIA 国際金融公社 GEORGIA GHANA 多数国間投資保証機関 GRENADA GUATEMALA GUINEA GUINEA-BISSAU GUYANA HAITI HONDURAS INDIA INDONESIA IRAQ JAMAICA JORDAN KAZAKHSTAN KENYA KIRIBATI KOSOVO KYRGYZ REPUBLIC LAO PEOPLE’S DEMOCRATIC REPUBLIC LEBANON LESOTHO LIBERIA MADAGASCAR MALAWI MALDIVES MALI MARSHALL 世界銀行は、国際復興開発銀行(IBRD)及び国際開発協会(IDA)で構成 ISLANDS MAURITANIA MEXICO FEDERATED STATES OF MICRONESIA MOLDOVA されており、極度の貧困の撲滅及び繁栄の共有の促進を持続可能な形で MONGOLIA MONTENEGRO MOROCCO MOZAMBIQUE MYANMAR NEPAL 実現することを使命としています。 NICARAGUA NIGER NIGERIA NORTH MACEDONIA PAKISTAN PANAMA PAPUA www.worldbank.org/annualreport NEW GUINEA PARAGUAY PERU PHILIPPINES POLAND ROMANIA RUSSIAN FEDERATION RWANDA SAMOA SÃO TOMÉ AND PRÍNCIPE SENEGAL SERBIA SEYCHELLES SIERRA LEONE SOLOMON ISLANDS SOMALIA SOUTH AFRICA SOUTH SUDAN SRI LANKA ST. LUCIA ST. VINCENT AND THE GRENADINES SURINAME TAJIKISTAN TANZANIA TIMOR-LESTE TOGO TONGA TUNISIA TURKEY SKU: 211634 TUVALU UGANDA UKRAINE URUGUAY UZBEKISTAN VANUATU VIETNAM REPUBLIC OF YEMEN ZAMBIA ZIMBABWE