インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 参考和訳 インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 目的 インパクトを追求する投資:インパクト投資の運 本運用原則は、企業レベル、事業部門レベル、 用原則 (以下、本運用原則)は、経済的なリタ またはファンド・レベルにおいて適用できる。マ ーンを追求すると同時に、測定可能な社会・ ネジャー(投資運用者)は、幅広い投資戦略を 環境へのプラスのインパクト実現に貢献する意 提供することがあるが、本運用原則は、その幅 図を持った企業や組織に対する投資を行うの 広いポートフォリオの中から、インパクト投資資 に際して必要となる運用管理の要件を取りまと 産を特定する際に使用できる。専らインパクト めている。本運用原則は、アセット・オーナー、 を追求する投資だけを行う投資機関およびフ アセット・マネジャー、およびアセット・アロケー ァンド・マネジャーならば、全企業レベルまた ターから成るグループによって策定されたもの は全ファンド・レベルで、本運用原則を採用で である。 きるであろう。 インパクト投資は、例えば、経済的不平等、清 本運用原則は、多種多様なインパクト・マネジ 潔な水や衛生施設へのアクセス、農業生産性 メント・システムによる実施を許容するものであ や天然資源の保護などの諸課題について、そ り、投資機関やファンドの多様な目的に合うよ の解決に向けて大きく貢献できる可能性を秘 うに設計されている。本運用原則の下では、イ めている。本運用原則は、ファンドや投資機関 ンパクト投資の様々なツール、アプローチ、測 のインパクト・マネジメント・システムを評価する 定の枠組み等を利用することができる。 際の基準となるものである。これは、インパクト 投資を行っている、様々なアセット・マネジャー、 アセット・オーナー、アセット・アロケーターおよ び開発金融機関の間での最新のベスト・プラ クティスに基づいたものであり、今後とも定期 的に改訂されていくであろう。アセット・オーナ ーにとって、本運用原則は、インパクト投資の 投資機会を選定するため、または自身のイン パクト投資ファンドの適切な運用を確認するた め、もしくはその両方の目的のために活用でき る。 インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 概要 インパクトを追求する投資:インパクト投資の運 以下の文章において、「投資」という用語には、 用原則 は、投資プロセスの全体を定義するも エクイティ、デット、信用補完、および保証など のである。投資プロセスを構成する要素は、投 が含まれる。「マネジャー(投資運用者)」という 資戦略、投資案件組成とストラクチャリング、ポ 包括的な用語は、アセット・マネジャー、ファン ートフォリオ・マネジメント、エグジット、および ドのジェネラル・パートナー、またはインパクト 独立検証である。本運用原則では、これら 5 投資の運用に責任を負う投資機関を指して用 つの主要素のそれぞれについて、まず冒頭に いられる。また、「各投資」という用語は、複数 「原則」を掲げ、それに短い「説明文」を続けて の投資を包括したプログラムも含む場合がある。 いる。5 つの主要素に関する計 9 つの原則(下 「投資対象」とは、マネジャーから資金を受領 記図 1 を参照)は、強固なインパクト・マネジメ する者を指し、例えば、企業または組織、ファ ント・システムのため必須の構成要素と考えら ンド、その他の金融仲介機関が該当する。 れる。 本運用原則の策定の基本となった 2 つの理念 とは、(1) 強固なインパクト・マネジメントシステ ムの中核的な要素を明確にすること、 (2) 本運 用原則署名機関が本原則と整合した投資活 動をしていることを明らかにすることである。 図 1 インパクトを追求する投資:インパクト投資の運用原則 組成とストラク ポートフォリオ エグジット時 戦略上の意図 チャリング マネジメント のインパクト t 戦略的なインパクト目標 インパクトの実現に対 各投資のインパクト実現 インパクトの持続性への影響を を、投資 戦略 に沿って するマネジャーの貢献 への進捗度を、予想に 考慮しながら、エグジットを実行 定義すること。 を明確にすること。 照らしてモニタリングし、 すること。 それに応じ適切な対策 を取ること。 投資の意思決定とプロセスを 戦略的インパクトは、ポ 各投資から予想される レビューし、文書化し、さらに、 ートフォリオ単位で管理 インパクトを、一貫した 実現したインパクトと得られた すること。 アプローチに基づき評 知見に基づいて、改善するこ 価すること。 と。 各投資がもたらしうる、潜在的なネガティブ・インパクトを評 価、対処、モニタリングおよび管理すること。 独立した検証 本運用原則との整合状況を開示するとともに、整合状況について、独立した検証を定期的に実施すること。 インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 原則 原則 1: 戦略的なインパクト目標を、投資戦略に沿って定義すること。 マネジャー(投資運用者)は、持続可能な開発目標( SDGs)、あるいはその他の幅広く受け入れられて いる目標に沿い、社会または環境に対する測定可能なプラスの影響を実現することを目指して、ポート フォリオまたはファンド・レベルで、戦略的なインパクト目標を定義しなければならない。インパクト投資 の意図は必ずしも投資対象と共有される必要はない。マネジャーは、インパクト目標を投資戦略に沿っ たものとし、そして、インパクト目標がそのような投資戦略を通じて達成できると信ずるに足る根拠を確 保し、さらに、意図するインパクトの範囲・深度が、投資ポートフォリオの規模に応じたものとなるように努 めなければならない。 原則 2: 戦略的インパクトは、ポートフォリオ単位で管理すること。 マネジャーは、ポートフォリオ単位でインパクトの実現を管理できるようなプロセスを導入しなければなら ない。このプロセスの目的はポートフォリオ全体のインパクトのパフォーマンスを定義し、モニタリングする ことにあるが、同じポートフォリオ内でも個別の投資ごとにインパクトが異なる場合がある。このプロセスの 一環として、マネジャーは、担当スタッフのインセンティブが、インパクトの実現度のみならず投資収益と も整合性がとれるように考慮すべきである。 原則 3: インパクトの実現に対するマネジャーの貢献を明確にすること。 マネジャーは、各投資によるインパクトの実現について、自身の貢献度を明確にし、信頼に足る記述に より、文書化するよう努めなければならない。インパクトへの貢献は、1 つ以上の金融的または非金融的 な手法による貢献の組み合わせを通じて達成されることがある。貢献度に関する記述は、明瞭に記載さ れ、可能な限り、証拠によって裏付けられなければならない。 インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 原則 4: 各投資から予想されるインパクトを、一貫したアプローチに基づき評価すること。 マネジャーは、各投資について、それがもたらす具体的かつプラスのインパクトの可能性を事前に評価 し、可能であれば定量化する。この評価は、以下のような基本的な問いへの回答を目的とした、適切な 効果測定の枠組みを用いて行わなければならない。(1) 意図しているインパクトは何か?(2) 意図してい るインパクトの裨益者は誰か?(3) 意図しているインパクトはどの程度か?また、マネジャーは、かかる投 資から予想されるインパクトの実現可能性を評価するよう努めなければならない。実現可能性を評価す るにあたり、マネジャーは、予想と実際のインパクトとの乖離を招きかねない重大なリスク要因を特定して おかなければならない。 マネジャーは、潜在的なインパクトを評価する上で、対象地域において、対応すべき課題の難易度を 評価できるような裏付けを見出す必要がある。他方、マネジャーは、投資によって得られるインパクトを さらに拡大できるような機会も見出すべきである。マネジャーの戦略上の意図から見て可能かつ適切で あれば、間接的なインパクトやシステミックなインパクトも検討するべきである。評価指標は、可能な限り、 業界基準*に合致し、ベスト・プラクティスに則ったものでなければならない。 *業界基準とは、多数ある中で特に HIPSO (https://indicators.ifipartnership.org/about/)、IRIS (iris.thegiin.org)、GIIRS (http://b-analytics. net/giirs-funds)、GRI (www.globalreporting.org/Pages/default.aspx )、SASB (www.sasb.org)を参 照。 原則 5: 各投資がもたらしうる、潜在的なネガティブ・インパクトを評価、対処、モニタリングおよ び管理すること。 マネジャーは、各投資について、体系的な文書化プロセスの一環として、環境、社会およびガバナンス (ESG)に係るリスクを特定し、回避し、回避不能な場合は軽減および管理するように努めなければなら ない。適切な場合は、マネジャーは、投資対象に働きかけ、投資対象が採用している体制、プロセス、 基準における不備を解消するような取り組みを求めなければならない。その際、業界の国際的なベスト・ プラクティス*に沿ったアプローチに依拠するものとする。ポートフォリオ・マネジメントの一環として、マネ ジャーは、投資対象の ESG に係るリスクとパフォーマンスをモニタリングし、また適切な場合は、投資対 象に働きかけ、その不備や予期せぬ事態に対処しなければならない。 *業界の国際的なベスト・プラクティスの事例としては、IFC’s Performance Standards (www.ifc.org/performancestandards)、 IFC’s Corporate Governance Methodology (www.ifc.org/cgmethodology) 、 United Nations Guiding Principles for Business and Human Rights (www.unglobalcompact.org/library/2)、OECD Guidelines for Multinational Enterprises (http://mneguidelines.oecd.org/ themes/human-rights.htm)が含まれる。 インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 原則 6: 各投資のインパクト実現への進捗度を、予想に照らしてモニタリングし、それに応じ適 切な対策を取ること。 マネジャーは、(原則 4 で言及した)効果測定の枠組みを用い、各投資から予想されるインパクトと比較 しつつ、プラスのインパクトの実現に向けた進捗をモニタリングしなければならない。モニタリングは、パ フォーマンスに関するデータを共有するために、投資対象と事前に定めたプロセスに沿って行うものと する。当該プロセスは、可能な限り、データの収集頻度、収集の方法、データのソース、収集の責任者、 データの報告方法および報告先を定めなければならない。モニタリングの結果、投資から意図していた インパクトの実現がもはや見込めない場合、マネジャーは、適切な措置を取るよう努める。また、マネジャ ーは、効果測定の枠組みを使用して、投資のアウトカムを把握するよう努めなければならない。 原則 7: インパクトの持続性への影響を考慮しながら、エグジットを実行すること。 投資からのエグジットを実行する際には、マネジャーは、誠実に、かつ受託責任を勘案しつつ、エグジッ トの時期、ストラクチャーおよびプロセスが、インパクトの持続可能性に及ぼす影響を考慮しなければな らない。 原則 8: 投資の意思決定とプロセスをレビューし、文書化し、さらに、実現したインパクトと得ら れた知見に基づいて、改善すること。 マネジャーは、各投資によるインパクトのパフォーマンスについて、レビューし、文書化し、予想されてい たインパクトと実際のインパクト、そして、その他のプラスとマイナスのインパクトとを比較検証し、これらの 検証結果を、運用および戦略的投資に関する意思決定や管理プロセスの改善に活かさなければなら ない。 インパクトを追求する投資: インパクト投資の運用原則 原則 9: 本運用原則との整合状況を開示するとともに、整合状況について、独立した検証を定 期的に実施すること。 マネジャーは、自己のインパクト・マネジメント・システムと本運用原則との整合状況を、毎年公けに開示 する。また、定期的に、整合状況に関する独立した検証を行い、検証報告書の結果も公けに開示する。 なお、開示に際しては、受託責任や法規制との兼ね合いも勘案するものとする。 免責事項: 本運用原則は、インパクト投資ファンドの運用および選定プロセスを規定する目的で策定されたものであり、 公人か私人かを問わず、いずれかの者に対して権利または能力を付与するものではない。マネジャーは、 国際金融公社、世界銀行グループ、またはその他の署名機関に依拠もしくは依存することなく、自主的に、 かつ独立して、本運用原則を採用および実施する。適用法規と本運用原則に定められた要件の間に明確 な相違がある場合は、現地の法規を優先するものとする。 本資料は参考資料としての目的で作成されています。 IFC がその正確性や完全性を保証するものではなく、更新義務を負うものではありません。 http://sample.prov.co.jp/contact/contact.php © 2019 International Finance Corporation/The World Bank